説明

キトサン−ケイ酸複合体の製造方法

【課題】 流動性を大幅に改善した粉体のキトサン組成物を製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】ケイ酸塩を含有する第1水溶液と、キトサンの酸水溶液である第2水溶液と、を混合し、第1の懸濁液を形成する第1ステップと、第1ステップにより形成された第1の懸濁液とカチオン性界面活性剤とを混合し、カチオン性界面活性剤に接触したキトサン−ケイ酸複合体を含む第2の懸濁液を形成する第2ステップと、を含んでなる、キトサン−ケイ酸複合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサン−ケイ酸複合体の製造方法に関し、より詳細には、流動性に優れた粉体のキトサン−ケイ酸複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カニの殻等を原料として製造されるキトサンは、動植物に対する生理活性、抗菌性、金属吸着能力等の様々な機能を有することから、抗菌剤、農業資材、健康食品、凝集剤等の原料として幅広く用いられている(例えば、特許文献1等)。
特許文献1には、「従来の技術では得られたキチン粉末又はキトサン粉末は毛羽立ちが激しく粉体流動性が悪く、粒子のふるい分けが非効率的である」(特許文献1、発明の詳細な説明中の段落番号0003前半部分)といったことに鑑みなされたもので、具体的には、「キチン粉末又はキトサン粉末と水分とを接触させた後、乾燥することによって、キチン粉末又はキトサン粉末の流動性が良くなり、嵩密度が大きくなり、又、安息角が小さくなる等、粉末の物性が変化する」(特許文献1、発明の詳細な説明中の段落番号0004)ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−269104号公報(例えば、要約、発明の詳細な説明中の段落番号0001〜0014等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1開示のキトサン粉末の物性改良方法は、キトサン粉末と水分とを接触させた後、乾燥することで比較的簡単に実施できるものであるが、キトサン粉体の流動性向上が必ずしも十分なものではなかった。
そこで、本発明では、流動性を大幅に改善した粉体のキトサンの組成物を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、粉体のキトサンの流動性を大幅に改善するため鋭意研究を行った結果、キトサンの酸水溶液とケイ酸塩水溶液とを混合してキトサン−ケイ酸複合体(沈殿)を水相中で生成させ(第1の懸濁液)、その後、キトサン−ケイ酸複合体を含む水相(第1の懸濁液)とカチオン性界面活性剤とを混合することでカチオン性界面活性剤により処理されたキトサン−ケイ酸複合体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。このようにして得られるカチオン性界面活性剤により処理されたキトサン−ケイ酸複合体は、その後、水相から回収されて粉体にした場合、極めて流動性が高く、搬送や移送に際して取り扱いが容易であり、利用価値が高いことを発見した。
【0006】
即ち、本発明のキトサン−ケイ酸複合体の製造方法(以下、「本方法」という。)は、ケイ酸塩を含有する第1水溶液と、キトサンの酸水溶液である第2水溶液と、を混合し、第1の懸濁液を形成する第1ステップと、第1ステップにより形成された第1の懸濁液とカチオン性界面活性剤とを混合し、カチオン性界面活性剤に接触したキトサン−ケイ酸複合体を含む第2の懸濁液を形成する第2ステップと、を含んでなる、キトサン−ケイ酸複合体の製造方法である。
本方法は、第1ステップと第2ステップとを含む。
第1ステップにおいては、ケイ酸塩を含有する第1水溶液と、キトサンの酸水溶液である第2水溶液と、を混合し、第1の懸濁液(キトサン−ケイ酸複合体が固体として析出し懸濁液となる)を形成する。
第2ステップにおいては、第1ステップにより形成された第1の懸濁液とカチオン性界面活性剤とを混合する。この第1の懸濁液とカチオン性界面活性剤との混合により、カチオン性界面活性剤に接触したキトサン−ケイ酸複合体を含む第2の懸濁液を形成する。
カチオン性界面活性剤と接触したかかるキトサン−ケイ酸複合体は、第2の懸濁液から回収され乾燥されて粉体とされた場合、該粉体の流動性がキトサン粉体に比して極めて高く利用価値が高い。このように本方法によれば、キトサンの流動性を大幅に改善することができる。
【0007】
本方法においては、第1ステップが、第1水溶液に第2水溶液を添加するものであってもよい。
本方法の第1ステップは、上述の通り、ケイ酸塩を含有する第1水溶液と、キトサンの酸水溶液である第2水溶液と、を混合し、第1の懸濁液(キトサン−ケイ酸複合体の固体が懸濁)を形成するステップであるが、第1水溶液に第2水溶液を添加することで、系内における第1水溶液の成分量に対する第2水溶液中の成分量の割合を次第に増加させるようにしてもよい。こうすることで系内のゲル化等を防止し、第1の懸濁液を円滑に調製することができる。なお、第1水溶液に第2水溶液を添加する方法は、回分式であれば第1水溶液を注入した反応槽に撹拌下で第2水溶液を徐々に加える(例えば、第2水溶液を滴下する等)ような方法を例示できる。
【0008】
本方法においては、第1ステップに先立ち、ケイ酸塩の水溶液に金属イオンを添加して第1水溶液を形成する金属イオン添加ステップをさらに含んでなるもの(以下、「金属イオン添加本方法」という。)であってもよい。
第1ステップにおいて第1水溶液と第2水溶液とを混合する際、系中に電解質の金属イオンを存在させることで金属イオンを介してシリカコロイド同士を凝集させ、キトサン−ケイ酸複合体粒子を第1の懸濁液中にうまく形成させる(電解質の効果)ことができる。このため、第1ステップに先立ち、ケイ酸塩の水溶液に金属イオンを添加して第1水溶液を形成する金属イオン添加ステップを行えば、第1水溶液が金属イオンを確実に含むことで、第1ステップにおける系中に金属イオンを存在させ、キトサン−ケイ酸複合体粒子をうまく生成させることができる。なお、金属イオン添加ステップとしては、ケイ酸塩の水溶液に金属イオンを添加できるものであれば特に制限されないが、金属無機酸塩水溶液(金属イオン源)をケイ酸塩水溶液に添加して第1水溶液を形成するようにしてもよい。
【0009】
金属イオン添加本方法においては、ケイ酸塩として水ガラスを用い、金属イオン添加ステップが、水ガラスと水とを加えて形成した水ガラス水溶液に金属イオンを添加するものであってもよい。
第1水溶液中のケイ酸塩として水ガラスを用いることで、ケイ酸塩を含有する第1水溶液を容易に調製できる。そして、金属イオン添加ステップが、水ガラスと水とを加えて形成した水ガラス水溶液に金属イオンを添加することで、金属イオン添加の際にゲル化(本発明においてはゲル化は好ましくない)を生じない程度のSiO2濃度の水ガラス水溶液(SiO2濃度が高いとゲル化を生じやすくなる)を確実かつ容易に調製できる。
【0010】
本方法においては、第1ステップに先立ち、ケイ酸塩の水溶液に酸を添加して第1水溶液のpHを低下させるpH低下ステップをさらに含んでなるものであってもよい。
第1ステップにおいて第1水溶液と第2水溶液とを混合する際、第1水溶液のpHが低い方がSiOの析出速度が大きく、該pHが高い方がSiOの析出速度が小さい。このため第1ステップにおける第1水溶液のpHが高すぎると第1ステップにおいて第2水溶液中のキトサンが単独で析出するし(SiOと反応していないキトサンが析出しキトサン−ケイ酸複合体が生成しない)、逆に、第1ステップにおける第1水溶液のpHが低すぎると第1ステップにおいて第1水溶液中のSiOが単独で析出する(キトサンと反応していないSiOが析出しキトサン−ケイ酸複合体が生成しない)。このため第1ステップにおける第1水溶液のpHは、第1ステップにおいてキトサン−ケイ酸複合体がうまく生成するような所定範囲(以下、「好適pH範囲」という)とされることが好ましい。
通常、ケイ酸塩の水溶液は、そのままではpHは好適pH範囲よりも高すぎるので、第1ステップに先立ち、ケイ酸塩の水溶液に酸を添加してpHを低下させ第1水溶液とするpH低下ステップを行うようにしてもよい。pH低下ステップにおけるケイ酸塩水溶液への酸の添加量は、上述のように、あまり多いと第1ステップにおいてキトサンと反応していないSiOが析出してしまうし、あまり少ないと第1ステップにおいてSiOと反応していないキトサンが析出するので、得られる第1水溶液のpHが好適pH範囲内になるように決定されればよい。
【0011】
本方法においては、第2ステップにおいてカチオン性界面活性剤が混合される第1の懸濁液のpHが9〜12.5であってもよい。
第2ステップにおいて、第1の懸濁液とカチオン性界面活性剤とを混合する際の第1の懸濁液のpHはあまり高いと歩留まり低下(SiO成分が溶解してしまう)を引き起こし、逆に、あまり低いとカチオン性界面活性剤によってうまく処理されない(キトサン−ケイ酸複合体粉体の流動性の改善が不十分)ので、これらを満足する範囲とされてよく、第1の懸濁液のpHは、通常、9〜12.5とされてもよい。
【0012】
本方法においては、第2の懸濁液のpHを中性に近づける中和ステップをさらに含んでなるものであってもよい。
第2ステップにおいて得られる第2の懸濁液(カチオン性界面活性剤により接触し処理されたキトサン−ケイ酸複合体を含む)は、pHが高くアルカリ性が強いことから、取り扱いを容易にするため中性(pH=7)に近づけるよう第2の懸濁液を酸によって中和する中和ステップを行うようにしてもよい。
【0013】
本方法においては、第2の懸濁液に含まれるキトサン−ケイ酸複合体固体を液体中から回収する回収ステップを含むもの(以下、「回収ステップ実施本方法」という。)であってもよい。
第2ステップにおいて得られる第2の懸濁液には、カチオン性界面活性剤により処理されたキトサン−ケイ酸複合体が懸濁した状態(キトサン−ケイ酸複合体の微細な固体が浮遊した状態)で含まれるので、第2の懸濁液からキトサン−ケイ酸複合体固体(カチオン性界面活性剤による処理済)を回収ステップによって液体中から回収するようにしてもよい。
回収ステップは、第2の懸濁液からキトサン−ケイ酸複合体固体を回収するものであれば特に制限はないが、例えば、濾紙や濾布等のような濾材を用いて第2の懸濁液を濾過することでキトサン−ケイ酸複合体固体を濾残として回収すること、遠心分離やデカンテーション等によって固液を分離しキトサン−ケイ酸複合体固体を回収すること、等を例示することができる。
【0014】
回収ステップ実施本方法の場合、回収ステップの後、回収されたキトサン−ケイ酸複合体固体を水分が5〜9重量%の範囲まで乾燥させる乾燥ステップを含むものであってもよい。
回収ステップにより第2の懸濁液から回収されたキトサン−ケイ酸複合体固体は、第2の懸濁液を構成する水分を通常含むので、回収ステップにより回収されたキトサン−ケイ酸複合体固体を乾燥して粉状とする乾燥工程を含むようにしてもよい。
キトサン−ケイ酸複合体粉体の水分が5重量%未満になると粉体に静電気が起きやすく取扱が困難になったり、水分が9重量%を超えると粉体が凝集し易くなり所望の粒度分布の粒子を得ることができなくなる等といったことが生じうるので、水分が5〜9重量%の範囲まで乾燥させる乾燥ステップを実施するようにしてもよい。
なお、回収ステップにて回収されたキトサン−ケイ酸複合体固体を乾燥させる乾燥ステップにおいては、キトサン−ケイ酸複合体固体が塊となることもあるので、適宜、粉砕しつつ乾燥を行うようにしてもよい。
【0015】
本発明は、キトサン−ケイ酸複合体(以下、「本複合体」という。)も提供する。即ち、本複合体は、本方法により製造されうるキトサン−ケイ酸複合体である。
本方法により製造されうるキトサン−ケイ酸複合体の粉体は、上述の通り、該粉体の流動性がキトサン粉体に比して極めて高い。そして、本方法により製造されうるキトサン−ケイ酸複合体は、原料としたキトサン由来のアミノ基を保持しており、従来からキトサンの粉体を用いてきた様々な用途(食品分野を含む)にキトサン粉体の代替として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】流動性実験(拡散直径)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。しかしながら、これらによって本発明は何ら制限されるものではない。
【0018】
図1は、本方法の一実施形態を示すフローチャートである。図1を参照して、本方法の一実施形態について説明する。
本方法は、ケイ酸塩を含有する第1水溶液と、キトサンの酸水溶液である第2水溶液と、を混合し、第1の懸濁液を形成する第1ステップと、第1ステップにより形成された第1の懸濁液とカチオン性界面活性剤とを混合し、カチオン性界面活性剤に接触したキトサン−ケイ酸複合体を含む第2の懸濁液を形成する第2ステップと、を含んでなる、キトサン−ケイ酸複合体の製造方法である。
【0019】
(水ガラス(イ))
ここではケイ酸塩として水ガラス(イ)を用いる。水ガラスとは、珪酸ナトリウムまたは珪酸ソーダと呼ばれており、単一の化合物ではなく、SiO2(無水珪酸)とNa2O(酸化ソーダ)がいろいろな比率で混合している液体である。分子式はNa2O・nSiO2で表され、このnはモル比と呼ばれ、Na2OとSiO2の混合比率を表している。水ガラスは日本工業規格(JIS K1408)で様々なものが規定されており、本発明ではJIS K1408のいう1号〜3号、そして3号よりモル比の高い特殊ケイ酸ソーダも使用できるが、水ガラス1号〜3号を好適に使用することができる。
【0020】
(水(ロ))
ケイ酸塩(水ガラス(イ))を含有する第1水溶液(ここでは後述の酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ))は、水ガラス(イ)のみならず、後述の通り、金属無機酸塩水溶液(ハ)(金属無機酸塩水溶液(ハa)及び/又は金属無機酸塩水溶液(ハb))が添加されてなる。このとき水ガラス(イ)に、後に金属無機酸塩水溶液(ハa)及び/又は酸水溶液(ヘ)と混合された金属無機酸塩水溶液(ハb)を添加する際、水ガラス(イ)を水で希釈せずに金属無機酸塩水溶液(ハa)及び/又は酸水溶液(ヘ)と混合された金属無機酸塩水溶液(ハb)を直接添加すると全体がゲル状(好ましくない)になってしまう(これは水ガラス(イ)中のSiO2の濃度が高いと金属無機酸塩水溶液(ハa)及び/又は酸水溶液(ヘ)と混合された金属無機酸塩水溶液(ハb)を添加する際に局所的にゲル化が起こるものと考えられる。)。このゲル化を防止するために、水ガラス(イ)を水(ロ)によって希釈する。この水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈は、金属無機酸塩水溶液(ハa)及び/又は酸水溶液(ヘ)と混合された金属無機酸塩水溶液(ハb)の添加の際のSiO2の濃度が高いほどゲル化が生じやすく、またSiO2の濃度があまり低いと歩留まりが低下するので、これらを満足する程度のSiO2の濃度になるよう水ガラス(イ)を水(ロ)によって希釈すればよく何ら限定されるものではないが、金属無機酸塩水溶液(ハa)及び/又は酸水溶液(ヘ)と混合された金属無機酸塩水溶液(ハb)の添加の際のSiO2の濃度として、通常、5重量%〜15重量%の範囲とされてもよい。
【0021】
(金属無機酸塩水溶液(ハ))
後述する通り、混合(ル)において、第1水溶液たる酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)に第2水溶液たるキトサン酸水溶液(リ)を添加した際、系中に電解質の金属イオンを存在させることで金属イオンを介してシリカコロイド同士(酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)に含まれる)を凝集させ、キトサン−ケイ酸複合体粒子をうまく形成させる(電解質の効果)ため、酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)に予め金属無機酸塩水溶液(ハ)(該金属イオン源)を添加しておく。
用いる金属無機酸塩としては、キトサン−ケイ酸複合体粒子をうまく生成できるものであれば様々な金属無機酸塩を用いることができ何ら限定されるものではないが、例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属の無機酸塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等)を用いることができる。
【0022】
酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)に予め金属無機酸塩水溶液(ハ)を添加する工程は、水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈物に金属無機酸塩水溶液(ハa)を添加するようにしてもよいし、後述の酸水溶液(ヘ)に金属無機酸塩水溶液(ハb)を添加するようにしてもよい。なお、金属無機酸塩水溶液(ハa)と金属無機酸塩水溶液(ハb)とは、いずれか一方のみとしてもよいが両方としてもよく、金属無機酸塩水溶液(ハa)中の金属イオン量ma(g)と、金属無機酸塩水溶液(ハb)中の金属イオン量mb(g)と、の合計mt(mt=ma+mb、但し、maは0以上mt以下であり、mbは0以上mt以下である。)が、水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈物に含まれるSiO2の質量に対する割合があまり小さいと歩留まりが低下(電解質の金属イオンを介してシリカコロイド同士を凝集させ、キトサン−ケイ酸複合体粒子を形成させる効果(電解質の効果)が十分発揮されない)し、逆に、あまり大きいと金属無機酸塩水溶液(ハa)として添加する場合であればケイ酸塩水溶液(ニ)がゲル化してしまうし、金属無機酸塩水溶液(ハb)として添加する場合であれば金属無機酸塩水溶液(ハa)と同様に酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)がゲル化してしまうので、これらを両立する範囲とされてもよい。水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈物に含まれるSiO2の質量に対する合計mt(=ma+mb)の割合は、用いる金属無機酸塩中の金属イオンが1価(例えば、ナトリウムやカリウム)であれば5重量%〜50重量%とされてよい(mt=該希釈物中のSiO2質量×(0.05〜0.50))。
【0023】
水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈物に添加する金属無機酸塩水溶液(ハa)中の金属無機酸塩濃度が高いとケイ酸塩水溶液(ニ)にゲル化が生じやすく、また金属無機酸塩濃度があまり低いと歩留まりが低下するので、これらを満足する程度の金属無機酸塩濃度とされればよく、通常、2.5重量%〜7.5重量%の範囲とされてもよい。
酸水溶液(ヘ)に添加する金属無機酸塩水溶液(ハb)中の金属無機酸塩濃度が高いと酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)にゲル化が生じやすく、また金属無機酸塩濃度があまり低いと歩留まりが低下するので、これらを満足する程度の金属無機酸塩濃度とされればよく、通常、2.5重量%〜7.5重量%の範囲とされてもよい。
ケイ酸塩水溶液(ニ)の濃度(なお、ここの重量%はケイ酸塩水溶液(ニ)中の水分以外のものの質量がケイ酸塩水溶液(ニ)全体の質量に占める割合をいう)はあまり低いと収率が低下し、あまり高いと粘度が増加し溶液がゲル化したり攪拌ムラを生じるので、これらを両立する範囲とされてもよく、通常、7.5重量%〜12.5重量%とされてもよい。
【0024】
(加熱(ホ))
ケイ酸塩水溶液(ニ)を攪拌しつつ約95℃に加熱し保持する。
加温せずに、後の酸水溶液(ヘ)を加えて中和すると酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)がゲル化(ゲル化により、攪拌が不十分になり、うまく反応が均一にすすまない。)してしまう。この加熱温度は、あまり低いと酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)がゲル化するし、逆に、あまり高いとキトサンの変質(変色や分解等)を生じる可能性があるので、これらを両立する範囲とされてもよく、通常は50℃〜100℃であり、より好ましくは75℃〜100℃である(通常は95℃程度としてもよい)。
【0025】
(酸水溶液(ヘ))
加熱(ホ)により加熱されたケイ酸塩水溶液(ニ)に酸水溶液(ヘ)を混合し、酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)とする。
酸水溶液(ヘ)を加える目的は、後述のキトサン酸水溶液(リ)と酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)とを混合(ル)したときにキトサンだけが析出するのを防ぐためpHを下げるためである。酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)のpHが低い方が混合(ル)したときのSiOの析出速度が大きく、該pHが高い方が混合(ル)したときのSiOの析出速度が小さい。このため酸水溶液(へ)の量があまり多いと混合(ル)したときキトサンと反応していないSiOのみが先に析出を開始してしまうし(キトサンと未反応のSiOが析出してしまう)、酸水溶液(へ)の量があまり少ないと混合(ル)したときキトサンだけが析出するので(SiOと未反応のキトサンが析出してしまう)、酸水溶液(へ)の量が多くても少なくてもキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)を効率よく生成させることができない。このため、キトサン−ケイ酸複合物となっていない単独のキトサンやSiOの生成を抑制し、所望のキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)が得られる酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)のpHとなる程度の酸水溶液(ヘ)を添加する。
【0026】
酸水溶液(ヘ)としては、キトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)が得られるよう酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)のpHを調整できるものを広く用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の強酸を挙げることができる。
酸水溶液(ヘ)の濃度はあまり高いと酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)にゲル化を生じ、あまり低いと生産性が低下するので、これらを両立する範囲とされてよく、通常、5〜10重量%(例えば7.2重量%としてもよい)とされてもよい。
【0027】
ここにケイ酸塩水溶液(ニ)中のNaO全量を中和するために必要な水素イオンの量を「全量」と定義する。全量の算出方法は、次のように計算する。即ち、水ガラスの中和反応式は、NaO+2H+(水素イオン)→2Na+(ナトリウムイオン)+HO(中和反応式)の如くであり、水ガラス中のNaOとH+のモル比は1:2である。水ガラス中のNaOは、例えば、1号水ガラス(35%SiO、17%NaO含有)286g(SiOが100g含有)を水ガラス(イ)とした場合、ケイ酸塩水溶液(ニ)に含まれるNaO量は48.6g(286g×0.17=48.6g)であり、これは0.78mol(48.6/62(NaO分子量))に相当する。この0.78molのNaOを全て中和するのに必要なH+(水素イオン)量は、NaOのモル数の2倍であるので、2×0.78mol=1.56molとなる。
【0028】
なお、所望のキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)が得られる酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)とするためのケイ酸塩水溶液(ニ)への酸水溶液(ヘ)の添加量はケイ酸塩水溶液(ニ)中のケイ酸塩の析出が開始する量としてもよい。このケイ酸塩水溶液(ニ)中のケイ酸塩の析出が開始する酸水溶液(ヘ)添加量としては、酸水溶液(ヘ)として強酸(例えば塩酸)を用いた場合、通常、全量の水素イオン量の15%〜25%を酸水溶液(ヘ)としてケイ酸塩水溶液(ニ)に添加すればよいが、ケイ酸塩水溶液(ニ)中のケイ酸塩の析出が開始する酸水溶液(ヘ)添加量は次の予備実験により決定することができる。即ち、maとmbとの合計mt(g)の金属無機酸塩水溶液(ハ)を添加したケイ酸塩水溶液(ニ)を撹拌しつつ酸水溶液(ヘ)を加えていき、溶液中に白濁物が析出してくる酸水溶液(ヘ)の量を「ケイ酸塩水溶液(ニ)中のケイ酸塩の析出が開始する酸水溶液(ヘ)添加量」として全量に対する割合yとして表す。例えば、酸水溶液(ヘ)として7.2重量%の塩酸を用いると共に、金属無機酸塩水溶液(ハ)として5重量%の塩化ナトリウム水溶液を250ml用いる場合、mtが12.5gでは割合yが約20%であり、mtが50gなら割合yが約2〜3%程度であり、mtが25gなら割合yが約10〜12%程度であり、そしてmtが5gなら割合yが約38〜40%程度である。
【0029】
前述の如く、酸水溶液(ヘ)には金属無機酸塩水溶液(ハb)を添加するようにしてもよく、かかる場合には、酸水溶液(ヘ)と金属無機酸塩水溶液(ハb)との混合物を、加熱(ホ)したケイ酸塩水溶液(ニ)に添加すればよい。
【0030】
(キトサン(ト))
キトサン(ト)としては、通常のキトサンが広く使用できるが、キトサンの分子量(Mw)として約1000〜約500000程度のものを好適に使用出来、例えば、甲陽ケミカル株式会社製キトサンFM−80S LotS0809−12(脱アセチル化度97.1%、Mn11.7万、Mw42.3万(GPCプルラン換算))を使用してもよい。
【0031】
(酸(チ))
酸(チ)にキトサン(ト)を溶解させ、第2水溶液たるキトサン酸水溶液(リ)を調製する。
キトサン(ト)の溶解に使用する酸(チ)は、塩酸、硫酸及び硝酸等の無機酸、酢酸や乳酸等の有機酸等のようにキトサンを溶解出来る酸であれば特に限定無く使用出来る。
酸(チ)はキトサン(ト)を溶解させ溶液とすることでキトサン(ト)と酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)との反応を円滑に行わせることに加え、酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)に含まれるSiOを析出させる効果を奏する。ここに酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)に含まれるSiO全量を析出させるのに必要な酸(水素イオン)は、全量の70%であるので、酸水溶液(ヘ)として先に添加した水素イオン量を全量の70%から差し引いた量の水素イオンを含有する量が酸(チ)の量の基準となる(例えば、酸水溶液(ヘ)として先に全量の20%を添加した場合であれば、酸(チ)としては全量の50%(=70%−20%)程度の量の水素イオンを含有する量が基準となる。)。酸水溶液(ヘ)として先に添加した量を全量の70%から差し引いた量に相当する量よりも酸(チ)があまり多いとSiOの析出が全て終了した後にもキトサンを添加することになるし(混合(ル)をした際のpHが低い方がSiOの析出速度が大きい)、逆にあまり少ないとキトサンが析出し終わった後に未析出のケイ酸が残ってしまうので、通常、酸(チ)としては全量の30%〜70%の水素イオン量を含有する量とすればよい。
酸(チ)として供給する水素イオンは、通常、全量の30%〜70%であるが、これを増減させるには前述の酸水溶液(ヘ)として先に添加する水素イオン量を増減させてもよいが、酸(チ)として供給する水素イオンを減少させるには、前述した水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈物に含まれるSiOの質量に対する合計mt(=ma+mb)の割合を低下させればよく、これを増加させるには、前述した水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈物に含まれるSiOの質量に対する合計mt(=ma+mb)の割合を増加させればよい。
また、キトサン(ト)を溶解させる酸(チ)の濃度は、あまり高くても、またあまり低くても、キトサンがうまく溶解しないので、これらを両立する範囲とされてよく、通常、0.19〜2重量%(例えば、0.57重量%)とされてもよい。
【0032】
(キトサン酸水溶液(リ))
キトサン酸水溶液(リ)のキトサン濃度は、あまり濃度が高いと粘度が上昇することで攪拌が困難となり均一な反応を行うことができなくなるが、逆に、あまり濃度が低いと歩留まりが低下するので、通常、キトサン酸水溶液(リ)のキトサン濃度は、10重量%以下が好ましく、より好ましくは6重量%以下である。なお、下限は特にないが、歩留まり等を考慮すれば0.3重量%以上とされてもよい(通常、0.5重量%〜6.0重量%が好ましい)。
【0033】
(混合(ル))
第1水溶液たる酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)を回分式反応槽中にて高速で攪拌しつつ、第2水溶液たるキトサン酸水溶液(リ)を徐々に添加する。
キトサン酸水溶液(リ)の添加速度(例えば、30g/分)は、攪拌力に応じて適宜定められてよく、添加速度があまり大きいと局所的に急激なゲル化が起こりキトサン−ケイ酸複合体の反応が不均一となり、逆に、小さいと反応時間が長くなり生産性が悪くなるので、これらを満足する範囲とされてよい。キトサン酸水溶液(リ)の添加に応じ(例えば、キトサン酸水溶液(リ)を滴下して添加する場合には、滴下のたび)、液中にキトサン−ケイ酸複合体粒子が析出し、スラリー状の第1の懸濁液(ヲ)を生じる。
キトサン酸水溶液(リ)の全量を酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)に添加し終えると(全量の約70%の水素イオンが添加される)、第1の懸濁液(ヲ)のpHは約12となり、水ガラス(イ)に含まれていたケイ素分はキトサン−ケイ酸複合体粒子としてほとんどが析出する。
【0034】
(カチオン性界面活性剤水溶液(ワ))
カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を、第1の懸濁液(ヲ)に添加する。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロリド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド等のカチオン性界面活性剤を好適に用いることができる。
カチオン性界面活性剤を水溶液(ワ)とし、かかるカチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を第1の懸濁液(ヲ)に添加するが、カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)のカチオン性界面活性剤の濃度があまり大きいとカチオン性界面活性剤の処理にむらが生じ、逆に、小さいとカチオン性界面活性剤によってうまく処理されないので(キトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)の流動性の改善が不十分となる)、これらを満足する範囲とされてよく、通常、2.5重量%〜10.0重量%程度とされてもよい(通常、5重量%程度としてもよい)。
【0035】
(混合(カ))
カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を第1の懸濁液(ヲ)に添加混合し(混合(カ))、第2の懸濁液(ヨ)とする。
カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を第1の懸濁液(ヲ)に添加する速度は、攪拌力に応じて適宜定められてよく、添加速度があまり大きいと反応が不均一になり、逆に、小さいと混合に時間がかかり生産性が低下するので、これらを満足する範囲とされてよい(例えば、5重量%のカチオン性界面活性剤水溶液(ワ)400gを第1の懸濁液(ヲ)に30g/分程度で添加してもよい)。
カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を第1の懸濁液(ヲ)に添加する量は、あまり少ないと効果が小さく、あまり多くても効果が増加しないので、これらを両立する範囲とされてもよく、通常、第1の懸濁液(ヲ)に含まれるケイ酸SiO量に対して3〜40重量%(界面活性剤ドライ質量/ケイ酸SiO量)程度に相当するカチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を添加するようにしてもよい(例えば、5重量%のカチオン性界面活性剤水溶液(ワ)であれば、カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)に含まれるカチオン性界面活性剤自体の質量が第1の懸濁液(ヲ)に含まれるケイ酸SiO量100gに対して20%となるようカチオン性界面活性剤水溶液(ワ)400gと決定できる。)。
また、カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を添加する際の第1の懸濁液(ヲ)のpHはあまり高いと歩留まり低下(SiO成分が溶解してしまう)を引き起こし、逆に、あまり低いとカチオン性界面活性剤によってうまく処理されない(キトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)の流動性の改善が不十分となる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は、SiO成分のシラノール基がイオン化しないためカチオン性界面活性剤とうまくイオン結合しないものと推測している。なお、この推測は、本発明者の推測であり、本発明がこの推測された理由により何ら限定されるものではない。)ので、これらを満足する範囲とされてよく、通常、9.0〜12.5程度とされてもよい(例えば、pH=約12とされてよい)。
【0036】
(混合(タ))
第2の懸濁液(ヨ)はpHが高くアルカリ性が強いことから、取り扱いを容易にするため中性に近づけるよう第2の懸濁液(ヨ)を酸によって中和する。なお、第2の懸濁液(ヨ)中には、既にキトサン−ケイ酸複合体(カチオン性界面活性剤による処理済)が生成しているので、アルカリ性が強い第2の懸濁液(ヨ)のまま使用可能な用途であれば、この中和は必ずしも必要ない。
例えば、全量の30%の量の水素イオンを含有する酸(例えば、全量の30%量の水素イオンを含有する塩酸)を、第2の懸濁液(ヨ)に添加混合し(混合(タ))、pH約9の中和済み第2懸濁液(レ)とすることができる(その後、加熱保温をやめる)。
【0037】
(濾過(ソ))
スラリー状の中和済み第2懸濁液(レ)を濾過し(濾過(ソ))、ウエットケーキ(ツ)を濾残として得る。
【0038】
(再分散(ネ))
ウエットケーキ(ツ)を洗浄(ウエットケーキ(ツ)に含まれる中和塩等の不純物を除去する目的)するため、ウエットケーキ(ツ)をその4倍の重量のイオン交換水にスラリー状に分散させ、そのスラリーに硫酸水溶液を添加しpH8とする。
【0039】
(再濾過(ナa))
再分散(ネ)により調製されたスラリー状の再分散スラリー液を再度濾過(ナa)し、濾残として洗浄済みケーキ(ナb)を得る。
【0040】
(乾燥・粉砕(ナc))
洗浄済みケーキ(ナb)を適宜解砕しながら乾燥させ(乾燥・粉砕(ナc))、キトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)を得る。
このときキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)ケーキの水分が5重量%未満になると粉体に静電気が起きやすくなり粉砕時の収率が低下し、水分が9重量%を超えると粉体が凝集し易くなるため粉砕時に目的の粒度分布の粒子を得ることができないことが生じ得るので、水分が5〜9重量%(望ましくは7重量%)になるまで乾燥させる。
以上のように乾燥及び粉砕(ナc)することで、キトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)を得る。
【実施例】
【0041】
以下、実験例により本発明を更に詳細に説明する。
また、理解を容易にするため、上述の図1に加えて、実験条件をまとめた表1も参照しつつ、実験例を詳しく説明する。
ここでは水ガラス(イ)として、「和光純薬工業株式会社」製の商品名「和光1級 けい酸ナトリウム溶液」(Assay 52%〜57%、MolarRatio SiO2/Na2O=2.06〜2.31 35%、Na2O 17%)を用いた。この水ガラス(イ)は、Na2O・2SiO2(即ち、モル比n=2.06〜2.31)であり、JIS K1408における水ガラス1号である。
この水ガラス(イ)w1(g)に水(ロ)として蒸留水w2(g)を加え、水ガラス(イ)を水(ロ)で希釈し、希釈水ガラス((w1+w2)g)を得た。この希釈水ガラス((w1+w2)g)中のSiOの濃度は、p1(重量%)であった(各実施例及び比較例におけるこれらw1、w2、p1等の具体的な数値については表1を参照されたい。以下、同様。)。
【0042】
【表1】

【0043】
ここでは金属無機酸塩水溶液(ハ)は、金属無機酸塩水溶液(ハa)として希釈水ガラスに添加した(金属無機酸塩水溶液(ハb)の添加は行わない)。そして、金属無機酸塩としては塩化ナトリウムを用い、金属無機酸塩水溶液(ハa)としては5重量%の塩化ナトリウム水溶液を用いた。金属無機酸塩水溶液(ハa)たる5重量%の塩化ナトリウム水溶液w3(g)を希釈水ガラス((w1+w2)g)に加え撹拌混合して((w1+w2+w3)g)のケイ酸塩水溶液(ニ)を調製した。水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈物(希釈水ガラス)に含まれるSiOの質量w4(g)に対する金属イオン量ma(g)の割合(ma/w4)はr1であった。水ガラス(イ)の水(ロ)による希釈物(希釈水ガラス((w1+w2)g))に添加する金属無機酸塩水溶液(ハa)(塩化ナトリウム水溶液)中の金属無機酸塩濃度(ma/(w1+w2+w3))はp2(重量%)であった。また、ケイ酸塩水溶液(ニ)中の水分以外のもの(具体的には、SiO分100g、NaO分48.6g及びNaCl分12.5g)の質量w5(g)がケイ酸塩水溶液(ニ)全体の質量((w1+w2+w3)g)に占める割合はr2であった。
次いで、ケイ酸塩水溶液(ニ)を攪拌しつつT1(℃)(ここではT1=95℃)に加熱し保持した(加熱(ホ))。
【0044】
一方、酸水溶液(ヘ)として7.2重量%の塩酸を用い、加熱(ホ)により加熱されたケイ酸塩水溶液(ニ)にw6(g)の酸水溶液(ヘ)を混合(約30g/分程度の添加速度)し、((w1+w2+w3+w6)g)の酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)とした。また、ケイ酸塩水溶液(ニ)中のNaO全量を中和するために必要な水素イオンの量である「全量」はM0(ここではM0=1.56モル)であったので、添加した酸水溶液(ヘ)が放出する水素イオン量が全量に対する比率はr3であった。
【0045】
ここではキトサン(ト)としては、甲陽ケミカル株式会社製キトサンFM−80S LotS0809−12(脱アセチル化度97.1%、Mn11.7万、Mw42.3万(GPCプルラン換算))を使用した。
実施例1については酸(チ)として0.19重量%の塩酸w7(g)を用い、それ以外の実施例2〜6及び比較例1〜5については酸(チ)として0.57重量%の塩酸w7(g)を用いた。この塩酸w7(g)にキトサン(ト)w8(g)を溶解させ、((w7+w8)g))のキトサン酸水溶液(リ)を調製した。ここで用いた酸(チ)が放出する水素イオン量が全量に対する比率はr4であった。調製されたキトサン酸水溶液(リ)のキトサン濃度(w8/(w7+w8))は、p3(重量%)であった。
【0046】
((w1+w2+w3+w6)g)の酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ)を回分式反応槽中にて高速で攪拌しつつ、((w7+w8)g))のキトサン酸水溶液(リ)を徐々に添加(30g/分程度の速度で滴下)する(混合(ル)工程)。このキトサン酸水溶液(リ)の添加(滴下)に応じ、液中にキトサン−ケイ酸複合体粒子が析出し、((w1+w2+w3+w6+w7+w8)g)のスラリー状の第1の懸濁液(ヲ)を生じた。r3とr4との合計が約70%(0.7)程度で第1の懸濁液(ヲ)のpHは約12となり、水ガラス(イ)に含まれていたケイ素分はキトサン−ケイ酸複合体粒子としてほとんどが析出した。
【0047】
カチオン性界面活性剤として「日油株式会社」社製の商品名「2−OLR」(型番Lot00651C、固形分75%、有効成分:ジオレイルジメチルアンモニウムクロリド)と、「日油株式会社」社製の商品名「AB−250」(型番Lot00520C、固形分25%、有効成分:ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド)と、を用いた。これらのカチオン性界面活性剤を蒸留水に溶解させ、p4(重量%)のカチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を調製した。
w9(g)のカチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を((w1+w2+w3+w6+w7+w8)g)の第1の懸濁液(ヲ)に添加混合し(混合(カ)工程)、第2の懸濁液(ヨ)とした。なお、カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を第1の懸濁液(ヲ)に添加する速度は、ここでは30g/分程度とした。また、第1の懸濁液(ヲ)に含まれるケイ酸SiO量(w4(g))に対する、カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)に含まれるカチオン性界面活性剤のドライ状態の質量(w10(g))の割合(w10/w4)はr5であった。なお、カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を添加する際の第1の懸濁液(ヲ)のpHは約12であった。
【0048】
第2の懸濁液(ヨ)の取り扱いを容易にするため中性に近づけるよう第2の懸濁液(ヨ)を7.2重量%の塩酸w11(g)によって中和し(混合(タ))、pH約9の中和済み第2懸濁液(レ)とした。そして、中和済み第2懸濁液(レ)の加熱保温をやめ、放冷した。
スラリー状の中和済み第2懸濁液(レ)を濾紙ワットマン製42番(Φ24cm)を用いて濾過し(濾過(ソ)工程)、ウエット状態のケーキ(ツ)を濾残として得た。
ウエットケーキ(ツ)を洗浄(ウエットケーキ(ツ)に含まれる中和塩等の不純物を除去する目的)するため、ウエットケーキ(ツ)をその4倍の重量のイオン交換水にスラリー状に分散させ、そのスラリーに硫酸水溶液を添加しpH8とした(再分散(ネ)工程)。
再分散(ネ)工程により調製されたスラリー状の再分散スラリー液を濾過(ソ)工程と同様に再度濾過(ナa)し、濾残として洗浄済みケーキ(ナb)を得た。
洗浄済みケーキ(ナb)を適宜解砕しながら乾燥させ(ナc)、水分量が約7重量%のキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)を得た(乾燥・粉砕(ナc)工程)。
【0049】
以上のようにして得られたキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)の流動性を評価する流動性実験を行った。流動性試験に用いたすべての粉体は、粉砕後、40μm以下のふるい(使用ふるい:SANPO製目開き40μm、ステンレス篩)で分級したものを使用した。具体的には、流動性実験は、アズワン社製の流動性試験器RBS−01を使用して粉体10gを落下させたときの拡散直径を比較した。
ここでは本方法(表1中、実施例1〜6)により得られたキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)に加え、本方法の効果を確認するために比較例(表1中、比較例1〜5)についても流動性実験に供した。
【0050】
比較例1は、平均粒径が40μm以下の市販の粉状のキトサン(具体的には、大日精化製キトサンパウダー:Lot061101)を用いた。
比較例2、3及び4は、カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)を添加しないこと以外は、それぞれ実施例1、実施例3及び実施例5と同じ方法で製造した粉体を用いた。
比較例5は、比較例1に用いたキトサン粉末(大日精化製キトサンパウダー:Lot061101)を水に懸濁させ実施例4と同じ方法で界面活性処理を行った粉体を用いた。具体的には、キトサン粉末100gを蒸留水6058gに懸濁させ、さらにカチオン性界面活性剤水溶液(ワ)(「日油株式会社」社製の商品名「2−OLR」(型番Lot00651C、固形分75%、有効成分:ジオレイルジメチルアンモニウムクロリド)を蒸留水で希釈し、P4(重量%)としたものを用いた。)を実施例4の添加速度(30g/分)で攪拌滴下し第2懸濁液(ヨ)とした。得られた第2懸濁液(ヨ)を濾紙ワットマン製42番(Φ24cm)を用いて濾過し(濾過(ソ)工程)、ウエット状態のケーキ(ツ)を濾残として得た。適宜解砕しながら乾燥させ(ナc)、水分量が約7重量%のキトサン、界面活性剤粉末を得た。
【0051】
流動性実験(測定された拡散直径:単位cm)の結果を表1及び図2に示した。なお、キトサン含有量(%)は、(100×w4/(w4+w8))として算出されるものである。
図2は、横軸にキトサン含有量(表1中、「複合化キトサン含有量」)をとり、縦軸に拡散直径(cm)をとったグラフである。拡散直径(cm)は大きいほど流動性が大きい(良好)ことを示している。また、図2中、実1〜6は実施例1〜6を示し、比1〜5は比較例1〜5を示している。
図2から、キトサンと水溶性アルカリケイ酸塩(SiO)とカチオン性の界面活性剤で処理した実施例1〜4はキトサン含有量が50%以上とキトサン高含有でありながら流動性が大きく改善されることが明らかになった。そして、比較例1〜5に比し、本発明の実施例1〜6に示すキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)は流動性が顕著に改善されていることが明らかになった。また、このようにして得られるキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)は、キトサン(ト)由来のアミノ基を保持しており、キトサンの粉体を用いてきた用途に、キトサンの粉体の代替として用いることができる。
【0052】
以上の通り、実施例は、ケイ酸塩(ここでは水ガラス(イ))を含有する第1水溶液(ここでは酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ))と、キトサン(ト)の酸水溶液である第2水溶液(ここではキトサン酸水溶液(リ))と、を混合し、第1の懸濁液(ヲ)を形成する第1ステップ(ここでは混合(ル)工程)と、第1ステップ(混合(ル)工程)により形成された第1の懸濁液(ヲ)とカチオン性界面活性剤(カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)に含まれる)とを混合し、カチオン性界面活性剤に接触したキトサン−ケイ酸複合体を含む第2の懸濁液(ヨ)を形成する第2ステップ(ここでは混合(カ)工程)と、を含んでなる、キトサン−ケイ酸複合体の製造方法である。
【0053】
そして実施例においては、第1ステップ(混合(ル)工程)が、第1水溶液(酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ))に第2水溶液(キトサン酸水溶液(リ))を添加するものである。
さらに、実施例においては、第1ステップ(混合(ル)工程)に先立ち、ケイ酸塩(水ガラス(イ))の水溶液に金属イオン(ここではナトリウムイオン)を添加して第1水溶液(酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ))を形成する金属イオン添加ステップ(ここでは金属無機酸塩水溶液(ハa)の希釈水ガラスへの添加工程)をさらに含んでなるものである。
実施例においては、ケイ酸塩として水ガラス(イ)を用い、金属イオン添加ステップ(金属無機酸塩水溶液(ハa)の添加工程)が、水ガラス(イ)と水(ロ)とを加えて形成した水ガラス水溶液に金属イオン(ナトリウムイオン)を添加するものである。
実施例においては、第1ステップ(混合(ル)工程)に先立ち、ケイ酸塩(水ガラス(イ))の水溶液(ここではケイ酸塩水溶液(ニ))に酸(ここでは酸水溶液(ヘ))を添加して第1水溶液(酸添加ケイ酸塩水溶液(ヌ))のpHを低下させるpH低下ステップ(ここではケイ酸塩水溶液(ニ)に酸水溶液(ヘ)を添加する工程)をさらに含んでなるものである。
【0054】
加えて、実施例においては、第2ステップ(混合(カ)工程)においてカチオン性界面活性剤(カチオン性界面活性剤水溶液(ワ)に含まれる)が混合される第1の懸濁液(ヲ)のpHが9〜12.5(ここでは約12)である。
実施例においては、第2の懸濁液(ヨ)のpHを中性に近づける中和ステップ(ここでは混合(タ))をさらに含んでなるものである。
実施例においては、第2の懸濁液(ヨ)に含まれるキトサン−ケイ酸複合体固体を液体中から回収する回収ステップ(ここでは濾過(ソ)工程)を含むものである。
実施例においては、回収ステップ(濾過(ソ)工程)の後、回収されたキトサン−ケイ酸複合体固体を水分が5〜9重量%の範囲まで乾燥させる乾燥ステップ(ここでは乾燥・粉砕(ナc)工程)を含むものである。
実施例により製造されたキトサン−ケイ酸複合体粉体(ラ)は、本方法により製造されうるキトサン−ケイ酸複合体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩を含有する第1水溶液と、キトサンの酸水溶液である第2水溶液と、を混合し、第1の懸濁液を形成する第1ステップと、
第1ステップにより形成された第1の懸濁液とカチオン性界面活性剤とを混合し、カチオン性界面活性剤に接触したキトサン−ケイ酸複合体を含む第2の懸濁液を形成する第2ステップと、
を含んでなる、キトサン−ケイ酸複合体の製造方法。
【請求項2】
第1ステップが、第1水溶液に第2水溶液を添加するものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1ステップに先立ち、ケイ酸塩の水溶液に金属イオンを添加して第1水溶液を形成する金属イオン添加ステップをさらに含んでなるものである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ケイ酸塩として水ガラスを用い、
金属イオン添加ステップが、水ガラスと水とを加えて形成した水ガラス水溶液に金属イオンを添加するものである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
第1ステップに先立ち、ケイ酸塩の水溶液に酸を添加して第1水溶液のpHを低下させるpH低下ステップをさらに含んでなるものである、請求項1乃至4のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項6】
第2ステップにおいてカチオン性界面活性剤が混合される第1の懸濁液のpHが9〜12.5である、請求項1乃至5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項7】
第2の懸濁液のpHを中性に近づける中和ステップをさらに含んでなるものである、請求項1乃至6のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項8】
第2の懸濁液に含まれるキトサン−ケイ酸複合体固体を液体中から回収する回収ステップを含むものである、請求項1乃至7のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項9】
回収ステップの後、回収されたキトサン−ケイ酸複合体固体を水分が5〜9重量%の範囲まで乾燥させる乾燥ステップを含むものである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1に記載の製造方法により製造されうるキトサン−ケイ酸複合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35990(P2013−35990A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175016(P2011−175016)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【Fターム(参考)】