説明

キャストコート紙及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、退色度が小さく、キャストドラムからの離型性が良好で、印刷強度が強く、光沢度の高いキャストコ−ト紙及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係るキャストコート紙の製造方法は、原紙の表面に顔料及び水性接着剤を含有するキャスト塗工液を塗工してキャスト塗工層を設け、次いで乾燥するキャスト塗工層形成工程と、リウェット法によるキャスト処理工程と、を有するキャストコート紙の製造方法において、水性接着剤としてカゼインを使用せず大豆タンパクを使用し、更にラテックスを併用し(ただし、水性接着剤として水性ウレタン樹脂を含む場合を除く。)、大豆タンパクの含有量が、顔料100質量部に対して4〜14質量部であり、ラテックスの含有量は、大豆タンパク100質量部に対して100〜400質量部であり、かつ、再湿潤液として蟻酸水溶液を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、退色度(紙の白色度又は色差の経時変化)が小さく、キャストドラムからの離型性が良好で、印刷強度が強く、光沢度の高いキャストコ−ト紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS Z 8741:1997「鏡面光沢度−測定方法(20度法)」による光沢度が40〜70であるキャスト紙(キャストコート紙)と呼ばれる強光沢塗工紙の製造方法としては、例えば、主成分が顔料、水性接着剤及び助剤からなる塗工組成物を原紙の表面に塗工し乾燥後、乾燥された塗工層を再湿潤液によって再湿潤して可塑化し、加熱した鏡面仕上げされたドラム(以下、「キャストドラム」と称する。)表面に圧接させながら乾燥するリウェット法によるキャストコート紙の製造方法がある。キャストコート紙の製造方法では、乾燥後にキャストドラム面からの塗工紙の離型性を良好にするため、塩による膠化性があり、かつ、熱によって容易に伸び縮みする粘弾性を有した可変性のゲルとなる特性を有し、更に光沢発現効果が高いカゼインが広く使用されている。
【0003】
しかしながら、カゼインは、供給や価格の面で不安定であるばかりでなく、動物性蛋白質であるため特有の臭気が発生する。特に、塗工液を製造するときのカゼインの腐敗による臭気、及び塗工紙を高速印刷する場合に、インキの乾燥のために加熱処理を施すときに出る臭気は公害問題となっている。また、カゼインは、退色度が大きいことが知られている。
【0004】
そこで、カゼインを使用しないキャストコート紙及びその製造方法が検討されている(例えば、特許文献1、2、3又は4を参照。)。特許文献1には、接着剤としてカゼイン、酸化澱粉、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子の代わりに、エマルジョン、コロイダルディスパージョン、水溶液などの形態で水中において安定に存在し得る水性ウレタン樹脂を用いた塗料組成物及びこの組成物を塗工して得られる強光沢紙が開示されている。この強光沢紙は、接着剤としてカゼイン、酸化澱粉、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子を使用する限りは得られない程高い光沢度を有するというものである。
【0005】
特許文献2には、カゼインの代わりにエポキシ樹脂変性水性ウレタン樹脂又はアクリル樹脂変性水性ウレタン樹脂をアルカリ金属水酸化物で中和した変性水性ウレタン樹脂を用い、ピンホール、フクレ、ドラムピックなどの欠陥を発生させずに、高光沢で、表面強度及び均一性に優れたキャスト面を可能とするキャストコート紙用組成物及びそれを用いたキャストコート紙の製造方法が開示されている。この方法ではカゼインを使用しないのでカゼインに含まれているリン成分に起因する、廃溶剤燃焼時の触媒劣化という問題も解消できるというものである。
【0006】
特許文献3には、接着剤としてオレフィン系モノマーの単独又は二種以上を共重合してなる変性水性ウレタン樹脂と脂肪族共役ジオレフィン系モノマー及びオレフィン系モノマーを単独又は二種以上使用し、乳化重合して得られる粒子径が150〜300nm、ゲル分含有率が70質量%以上のラテックスとを併用した塗料組成物を及びそれを塗工して得られるキャストコート紙が開示されている。この方法では、光沢、乾燥及び湿潤状態の表面強度及び耐ブリスター性に優れたキャスト面を可能とし、かつ、オフセット輪転印刷が可能となる。
【0007】
特許文献4には、顔料としてカオリナイトクレーとサチンホワイトを含有し、助剤としてカチオン性樹脂を所定量用い、かつ、接着剤としてカゼインを用いないキャスト塗工紙の製造方法が開示されている。この方法では、キャストドラムからの離型性とキャスト面の光沢度に優れるキャストコート紙を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−252473号公報
【特許文献2】特開平5−44193号公報
【特許文献3】特開平6−2299号公報
【特許文献4】特開平9−111694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2又は3に記載のキャストコート紙は、水性ウレタン樹脂又は変性水性ウレタン樹脂が極めて高価であるという欠点を有する。
【0010】
特許文献4に記載のキャストコート紙も、サチンホワイト及びカチオン性樹脂が高価であるため実用性に欠ける。
【0011】
カゼインは、前述のとおり、臭気及び退色度の問題を抱えているものの、石油系でなく動物系タンパク質であり、高い光沢発現効果、キャストコート紙の製造工程で良好な離型性が得られるなどの優れた点も有している。
【0012】
そこで、カゼインを使用しない又はカゼインの使用量を減ずることで臭気及び退色度の問題を改善し、石油系の水性ウレタン樹脂のように高価なものを接着剤として使用しなくとも、退色度が小さく、キャストドラムからの離型性が良好で、印刷強度が強く、光沢度の高いリウェット法によるキャストコート紙の製造方法の具現化が強く望まれている。
【0013】
本発明の目的は、退色度が小さく、キャストドラムからの離型性が良好で、印刷強度が強く、光沢度の高いキャストコ−ト紙及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、リウェット法による優れたキャスト面を有するキャストコート紙を得るために、鋭意研究した結果、水性接着剤と再湿潤液との組み合わせに着目し、水性接着剤として植物由来の大豆タンパクを使用し、再湿潤液として蟻酸を使用することによって退色度が小さく、キャストドラムからの離型性が良好で、印刷強度が強く、光沢度の高いリウェット法によるキャストコート紙を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るキャストコート紙の製造方法は、原紙を抄造する抄紙工程と、前記原紙の表面に顔料及び水性接着剤を含有するキャスト塗工液を塗工してキャスト塗工層を設け、次いで乾燥するキャスト塗工層形成工程と、該キャスト塗工層の表面を再湿潤液で再湿潤して鏡面光沢を有するキャストドラムに圧接し、乾燥するリウェット法によるキャスト処理工程と、を有するキャストコート紙の製造方法において、前記水性接着剤としてカゼインを使用せず大豆タンパクを使用し、更にラテックスを併用し(ただし、水性接着剤として水性ウレタン樹脂を含む場合を除く。)、前記大豆タンパクの含有量が、前記顔料100質量部に対して4〜14質量部であり、前記ラテックスの含有量は、前記大豆タンパク100質量部に対して100〜400質量部であり、かつ、前記再湿潤液として蟻酸水溶液を使用することを特徴とする。大豆タンパクの含有量をこの範囲にすることで、均一な塗工層を形成することができるため、より光沢度の高いキャストコート紙とすることができる。
【0015】
本発明に係るキャストコート紙の製造方法は、前記再湿潤液に、クエン酸ナトリウムを添加することが好ましい。
【0016】
本発明に係るキャストコート紙の製造方法では、前記蟻酸水溶液の濃度が、0.25〜2.00質量%であることが好ましい。この範囲にすることで、塗工層中の蟻酸の含有量を所望の含有量に調整しやすくなる。
【0017】
本発明に係るキャストコート紙の製造方法は、前記キャスト塗工液をアルカリ性に調製して用いることが好ましい。アルカリ性にすることによって、キャスト塗工液の粘度が下がり、均一に塗工することが可能となり、結果として光沢度をより高めることができる。
【0018】
本発明に係るキャストコート紙は、顔料及び水性接着剤を含有するキャスト塗工液を原紙の表面に塗工してキャスト塗工層を設け、次いで乾燥し、乾燥した前記キャスト塗工層の表面を再湿潤して鏡面光沢を有するキャストドラムに圧接し、乾燥することからなるリウェット法によってキャスト処理したキャストコート紙において、前記キャスト塗工層は、前記水性接着剤としてカゼインを使用せず大豆タンパク及びラテックスを含有し(ただし、水性接着剤として水性ウレタン樹脂又はポリアクリル酸を含む場合を除く。)、かつ、蟻酸を含有し、前記大豆タンパクの含有量が、前記顔料100質量部に対して4〜14質量部であり、前記ラテックスの含有量は、前記大豆タンパク100質量部に対して100〜400質量部であることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るキャストコート紙は、前記キャスト塗工層の蟻酸含有量が、0.05〜0.35g/mであることが好ましい。この範囲にすることで、より光沢度の高いキャストコート紙を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、キャストコート紙及びその製造方法において、退色度が小さく、キャストドラムからの離型性が良好で、印刷強度が強く、高い光沢度を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0022】
本実施形態に係るキャストコート紙は、顔料及び水性接着剤を含有するキャスト塗工液を原紙の表面に塗工してキャスト塗工層を設け、次いで乾燥し、乾燥した前記キャスト塗工層の表面を再湿潤して鏡面光沢を有するキャストドラムに圧接し、乾燥することからなるリウェット法によってキャスト処理したキャストコート紙において、前記キャスト塗工層は、前記水性接着剤としてカゼインを使用せず大豆タンパク及びラテックスを含有し(ただし、水性接着剤として水性ウレタン樹脂又はポリアクリル酸を含む場合を除く。)、かつ、蟻酸を含有し、前記大豆タンパクの含有量が、前記顔料100質量部に対して4〜14質量部であり、前記ラテックスの含有量は、前記大豆タンパク100質量部に対して100〜400質量部である。
【0023】
本実施形態に係るキャストコート紙に使用する原紙は、原料パルプを公知の湿式抄紙機で単層又は多層で抄紙した紙又は板紙を使用することができる。原紙の原料パルプとしては、透気性を有する公知のパルプを選択することができる。例えば、広葉樹材又は針葉樹材を蒸解して得られる未さらしパルプ、広葉樹さらしクラフトパルプ(LBKP)、針葉樹さらしクラフトパルプ(NBKP)などの化学パルプ、グランドパルプ(GP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、リファイナー砕木パルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、ケミグランドパルプ(CGP)などの機械パルプ、脱墨古紙パルプなどの古紙パルプが挙げられる。これらの原料パルプから適宜選択したパルプを単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
前記原料パルプは、離解機及び叩解機を使用して適切な叩解度を有するパルプスラリーとする。各層のパルプの叩解度は、本実施形態では、限定されるものではないが、カナダ標準ろ水度(JIS P 8121:1995 パルプのろ水度試験方法)でCFS300ml以上600ml以下とすることが好ましい。より好ましくは、CFS350ml以上550ml以下である。CFS300ml未満では、原紙の透気性が悪化し、キャスト処理時にピットと呼ばれるクレーター状の微小な欠点が発生する場合がある。一方、CFS600mlを超えると、原紙がポーラスになり、キャスト塗工液が原紙に多く浸透し、結果として光沢度が低下する場合がある。また、紙層が弱くなるため、印刷時に紙ムケなどが発生し、使用に適さない場合がある。
【0025】
また、パルプスラリーには、原料パルプの他に、必要に応じて従来公知の填料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、紙力増強剤などの各種添加剤を1種以上用いて混合することができる。填料は、例えば、白土、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、非晶質シリカ、二酸化チタンである。サイズ剤は、例えば、ロジンサイズ、カチオン化澱粉、カチオン化ポリアクリルアマイド、アルキルケテンダイマーである。歩留まり向上剤は、例えば、硫酸バンドである。紙力増強剤は、例えば、カチオン化澱粉、両性澱粉、ポリアクリルアマイドである。
【0026】
前記パルプスラリーを、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの公知の湿式抄紙機を用いて、単層又は多層で抄紙し、乾燥させて原紙を抄造することができる。なお、本実施形態では、抄紙方法は特に限定されず、酸性紙、中性紙又はアルカリ性紙を包含する。原紙の坪量は、特に制限されないが、30〜700g/mとすることが好ましい。より好ましくは、50〜600g/mである。特に好ましくは、85〜500g/mである。
【0027】
原紙の片面又は両面には、澱粉、ポリビニルアルコール、外添用サイズ剤、合成樹脂などの公知の表面サイズ液を、サイズプレス、ロールコーターなどの公知の塗工機で塗布したサイズプレス面とすることができる。さらに、本実施形態では、原紙として、顔料及びバインダーを含有する顔料塗工組成物を下塗り層として塗工した塗工紙、キャスト塗工層の裏面に前記顔料塗工組成物を塗工した塗工紙、裏面をキャスト処理して光沢仕上げした塗工紙などの塗工紙を使用することができる。また、インク受容層を設けてインクジェット印字に適したインクジェット記録紙とすることもできる。
【0028】
キャスト塗工液は、顔料及び水性接着剤を含有する。キャスト塗工液に含有される顔料は、カオリンクレー、焼成クレー、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、サチンホワイト、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、プラスチックピグメントなど公知の塗工用顔料であり、1種又は2種以上の顔料を適宜選択して使用することができる。本実施形態では、顔料の種類に限定されない。この中で、カオリンクレーを選択することが好ましい。カオリンクレーは、キャストコート紙の光沢性及びキャストドラム表面からの離型性の点で優れている。また、軽質炭酸カルシウムを選択することが好ましい。軽質炭酸カルシウムを添加することで、所望する高い白色度を得ることができる。2種以上の顔料を使用する場合は、カオリンクレーの含有率は、絶乾全顔料質量当り40〜90質量%とすることが好ましく、より好ましくは50〜80質量%である。また、軽質炭酸カルシウムの含有率は、絶乾全顔料質量当り10〜60質量%とすることが好ましく、より好ましくは20〜50質量%である。さらに、二酸化チタンを0〜10質量%含有させてもよい。
【0029】
キャスト塗工層には、水性接着剤として大豆タンパクを含有する。大豆タンパクは、例えば、大豆タンパク、カルボキシル変性、スルホン化、リン酸化などの官能基を導入した大豆タンパクが挙げられる。キャスト塗工液中の大豆タンパクの含有量は、顔料100質量部に対して4〜14質量部であることが好ましい。この範囲にすることで、均一なキャスト塗工層を形成することができるため、より光沢度の高いキャストコート紙とすることができる。4質量部未満では、キャストドラムからの離型性が悪化し、ドラム汚れにつながる場合がある。14質量部を超えると、キャスト塗工液の粘度が急激に上昇することでキャスト塗工液の流動性が悪化し、無理に塗工しても均一な面とならず、結果として光沢度が低下する場合がある。
【0030】
水性接着剤は、大豆タンパクの他に、酸化澱粉、酵素変性澱粉などの澱粉類、ポリビニルアルコール、オレフィン無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂などの合成樹脂系接着剤、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル酸エステルの重合体、アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系重合体ラテックス、又はこれらの各種重合体ラテックスをカルボキシル基のような官能基を含有する単量体で変性したアルカリ溶解性又はアルカリ非溶解性の重合体などを挙げることができ、適宜選択して用いることができる。
【0031】
キャスト塗工層に含有する接着剤として、カゼインを使用せず大豆タンパクを使用し、更にラテックスを併用することが好ましい形態の一つである。カゼインを使用せず大豆タンパクを使用することによって、コストダウンを図ることができ、更には退色度が小さい経時的に安定したキャストコート紙とすることができる。また、大豆タンパクだけを使用した場合には、キャスト塗工層の表面強度を所望の強度にするために、多くの大豆タンパクを添加する必要があり、キャスト塗工液の粘度が高くなりすぎて塗工に適さない場合があるところ、ラテックスを併用することで、大豆タンパクの使用量を所定の量とし、かつ、キャスト塗工層の表面強度を所望の強度にすることができる。ラテックスの含有量は、大豆タンパク100質量部に対して100〜400質量部であることが好ましい。より好ましくは、150〜300質量部である。100質量部未満では、表面強度が不足する場合があり、400質量部を超えると、キャストドラムからの離型性が悪くなる場合がある。
【0032】
キャスト塗工液には、必要に応じて消泡剤、着色剤、離型剤、流動変性剤などの各種の助剤を適宜配合して用いることができる。
【0033】
キャスト塗工液は、アルカリ性に調製して用いることが好ましい。アルカリ性にすることによって、水性接着剤を作製するときに、大豆タンパクなどの成分が水に溶解しやすくなる。また、キャスト塗工液の粘度が小さくなり、均一なキャスト塗工層を形成することができる。結果として、光沢度をより高めることができる。
【0034】
本実施形態では、キャスト塗工液の塗工には、公知の塗工機、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーターなどから選ばれた塗工機を用いることができる。また、塗工は、1回又は複数回に分けて行うことができる。キャスト塗工液の固形分濃度は、30〜70質量%とすることが好ましいが、塗工機の種類、塗工速度などの各塗工条件に応じて適宜調節する。
【0035】
本実施形態に係るキャストコート紙では、キャスト塗工液の塗工量は、5〜50g/mであることが好ましく、より好ましくは10〜30g/mである。5g/m未満では所望する光沢度が得られない場合があり、50g/mを超えると、キャスト塗工液を過剰に使用することとなり不経済である。また乾燥時間が長くなるため生産性が低下するおそれがある。さらに、品質面でもインク乾燥性が遅くなるなどの弊害が発生する場合がある。
【0036】
キャスト処理方法としては、ウェット法、リウェット法、ゲル化法など公知の方法があるが、本実施形態では、リウェット法を選択する。リウェット法は、原紙上に塗工したキャスト塗工層を一旦乾燥して、その後、キャスト塗工層の表面を再湿潤液で再湿潤して鏡面光沢を有するキャストドラムに圧着乾燥させ強光沢仕上げして光沢面を形成するキャスト処理方法である。キャスト塗工液に大豆タンパクだけを使用する場合において、リウェット法は、キャスト塗工層を一旦乾燥する工程を経ているためにキャストドラムの温度を100℃以上でキャスト処理することができ、他のキャスト処理法と比較して生産性が高く、更なるコストダウンを図ることができる。
【0037】
キャスト塗工層の乾燥は、熱風ドライヤー、エアーキャップドライヤー、シリンダードライヤー、赤外線ドライヤー、電子線ドライヤーなどの塗工紙用乾燥装置を使用することができる。キャストコート紙の乾燥の程度は、水分が、キャストコート紙の全質量当り4〜8質量%となるようにすることが好ましい。
【0038】
再湿潤液には蟻酸を必須成分として含有させる。蟻酸は、大豆タンパクをゲル化して、蟻酸がキャスト塗工層に含有される。キャスト塗工層の蟻酸含有量は、0.05〜0.35g/mであることが好ましい。より好ましくは、0.07〜0.30g/mであり、特に好ましくは、0.07〜0.25g/mである。0.05g/m未満では、キャストドラムに圧着前のゲル化が弱く、結果として光沢度が低くなる。0.35g/mを超えると光沢面の強度が低下し、印刷に耐えることができない。
【0039】
キャスト塗工層中の蟻酸含有量を前記の所望の範囲に調節する手段として、例えば、蟻酸水溶液の濃度を、0.25〜2.00質量%とすることによって行うことができる。より好ましくは、0.50〜1.50質量%とする。また、再湿潤液のキャスト塗工層への吸収量を5〜40ml/mに調整することによっても行うことができる。
【0040】
大豆タンパクは、カゼインと比較して末端基のカルボキシル基及びアミノ基の数が少ないため、反応性が低くなる。その結果として、大豆タンパクを水性接着剤として使用したキャストコート紙は、カゼインを水性接着剤として使用したキャストコート紙よりも、光沢度が劣るところ、本実施形態に係るキャストコート紙のように、キャスト塗工層中に含有する蟻酸量を規定することによって、カゼインを水性接着剤として使用したキャストコート紙よりも光沢度の高いキャストコート紙を得ることができる。
【0041】
再湿潤液には、本発明の効果が損なわれない程度に、その他の資材を添加してもよい。その他の資材としては、例えば清水、温水、熱水、離型剤、クエン酸ナトリウム、硫酸亜鉛、ジシアンジアミド、尿素が挙げられる。
【0042】
再湿潤液をキャスト塗工層上に塗布する方法としては、公知の塗工機、例えばディップコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーターなどから選ばれた塗工機を用いることができる。
【0043】
キャスト処理後に、必要に応じてマシンキャレンダー、スーパーキャレンダーなどによって平滑化処理が行うことができるが、嵩高さ、剛度などのキャストコート紙の特長を著しく損なうような過度の処理は避ける必要がある。
【0044】
本実施形態に係るキャストコート紙では、両面をキャスト処理した光沢面とした両面キャストコート紙又は一方の面をキャスト処理した光沢面とし、他方の面にはキャスト処理しない片面キャストコート紙とすることができる。片面キャストコート紙では、キャスト処理しない面に顔料とバインダーとを含有する塗工層を設けて印刷適性を付与してもよい。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限り「質量部」、「質量%」を示し、塗工量はすべて絶乾質量である。
【0046】
(参考例1)
<原紙の作製>
原料パルプは、広葉樹さらしクラフトパルプ90部と針葉樹さらしクラフトパルプ10部とを混合した混合パルプとし、叩解機によってカナダ標準濾水度(JIS P 8121:1995 パルプのろ水度試験方法)CSF450mlとなるように叩解処理した。このパルプスラリーに、カチオン化澱粉(ネオタック40T、日本食品加工社製)を1.0部、中性ロジンサイズ剤(CC1461、星光PMC社製)を0.4部、液体硫酸バンドを1.0部及び軽質炭酸カルシウム(TP121S、奥多摩工業社製)を灰分10%になるよう添加量を調整して配合し、長網抄紙機にて抄紙し、坪量80g/mの原紙を抄造した。
【0047】
<表面サイズ液の塗布>
酸化澱粉糊液(王子エースA、王子コーンスターチ社製)を表面サイズ液とし、原紙の両面に、乾燥塗工量が片面当たり1g/mとなるようにサイズプレスで塗布し、シリンダードライヤーで乾燥した。スチールカレンダーを用いて線圧40kg/cm、25℃、2ニップ1パスの条件で表面処理を行った。
【0048】
<キャスト塗工液の調製>
次に、キャスト塗工液を次に示す組成で調製した。顔料と分散剤とを固形分濃度65%においてセリエミキサー(三菱M−40ミキサー、三菱重工業社製)で分散させ、次いで撹拌しながら接着剤と他の助剤とを順次添加して十分に混合分散した後、工業用水で調製し、固形分濃度を40%とし、更に25%アンモニア水溶液を用いて、塗工液をpH10.0のアルカリ性に調製してキャスト塗工液を得た。
〔キャスト塗工液の組成〕
<<顔料>>
カオリン(UWー90、エンゲルハードM&C社製) 70部
軽質炭酸カルシウム(タマパール123CS、
奥多摩工業社製) 30部

顔料100部当り
分散剤(アロンT50、東亜合成社製) 0.3部
カゼイン(アラシッドラクチックカゼイン、日成共益社製) 4部
大豆タンパク(プロコート4610、デュポン社製) 4部
ラテックス(E1794、旭化成工業社製) 15部
離型剤(ノプコートPEM17、サンノプコ社製) 2部
【0049】
<キャスト塗工層の形成>
前記原紙の片面に、前記キャスト塗工液をエアーナイフコーターで15g/mとなるように塗工した後、紙水分が6%になるまで熱風式ドライヤーで乾燥させて、キャスト塗工層を形成した。
【0050】
<キャスト処理>
その後、得られたキャスト塗工層に、再湿潤液として蟻酸濃度が0.8%であり、かつ、クエン酸ナトリウム濃度が0.1%である水溶液を湿潤塗布量が20g/mとなるようにディップコーターで塗布し、この面を直ちに110℃の表面温度を有するキャストドラムにプレスロールで圧接して乾燥した後、テークオフロールでキャストドラムから剥離する、所謂「リウェット法」によって光沢面を形成し、キャストコート紙を作製した。このときの巻取り速度は、100m/分で行った。ここで、塗工層中の蟻酸含有量は0.16g/mとなった。
【0051】
(参考例2)
再湿潤液の蟻酸濃度を0.25%に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。ここで塗工層中の蟻酸含有量は0.05g/mとなった。
【0052】
(参考例3)
再湿潤液の蟻酸濃度を1.75%に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。ここで、塗工層中の蟻酸含有量は0.35g/mとなった。
【0053】
(参考例4)
再湿潤液の蟻酸濃度を0.35%に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。ここで、塗工層中の蟻酸含有量は0.07g/mとなった。
【0054】
(参考例5)
再湿潤液の蟻酸濃度を1.5%に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。ここで、塗工層中の蟻酸含有量は0.30g/mとなった。
【0055】
(参考例6)
キャスト塗工液に使用するカゼインを2部、大豆タンパクを2部に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0056】
(参考例7)
キャスト塗工液に使用するカゼインを2部、大豆タンパクを2部、ラテックス14部に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0057】
(参考例8)
キャスト塗工液に使用するカゼインを7部、大豆タンパクを7部に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0058】
(参考例9)
キャスト塗工液に使用するカゼインを7部、大豆タンパクを7部、工業用水で調製し、固形分濃度を35%に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0059】
(参考例10)
キャスト塗工液に使用するカゼインを2.5部、大豆タンパクを2.5部に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0060】
(参考例11)
キャスト塗工液に使用するカゼインを6部、大豆タンパクを6部に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0061】
(実施例12)
キャスト塗工液にカゼインを使用せず、大豆タンパクを8部に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0062】
(実施例13)
キャスト塗工液にカゼインを使用せず、大豆タンパクを8部、再湿潤液の蟻酸濃度を1.2%に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。ここで、塗工層中の蟻酸含有量は0.24g/mとなった。
【0063】
(参考例14)
キャスト塗工液に使用するカゼインを5部、大豆タンパクを3部に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0064】
(比較例1)
キャスト塗工液に大豆タンパクを使用せず、カゼインを8部に変更した以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0065】
(比較例2)
再湿潤液に蟻酸を使用しないこと以外は、参考例1と同様にしてキャストコート紙を作製した。
【0066】
以上の参考例1〜11,14、実施例12,13及び比較例1〜2で得られたキャストコート紙の品質評価及びキャストコート紙を製造時の操業性を評価するため、次の試験法及び評価法を用いた。結果を表1に示した。
【0067】
(1)光沢面の光沢度
JIS Z 8741:1997規定する測定方法に従い、光沢面表面の鏡面光沢度を測定した。なお、入射角を20°で測定した。評価基準を次に示す。
◎:光沢度60以上(使用可)
○:光沢度50以上60未満(使用可)
△:光沢度45を超え50未満(使用下限)
×:光沢度45以下(使用難)
【0068】
(2)退色度
JIS P 8150:2004で規定する該表面の明度指数L、知覚色度指数a及びbから算出する方法を用いて、各サンプルを次に示す環境条件にて保存し、この前後でのΔEで退色度を評価した。ΔEは、数1から求めた。
<環境条件>
使用機器:ATLAS Ci4000 Xenon Weather−Ometer(東洋精機製作所)
環境条件:40℃、50%、24時間
照度条件:340nm、0.5W/m
【数1】

なお、数1において、処理前の値をLx、ax、bxと表記し、処理後の値をL、a、bと表記する。また、測定機器は、色彩色差計(PF−10、日本電色工業社製)を用いて測定した。退色度の評価基準を次に示す。
◎:ΔEが0.6以下(使用可)
○:ΔEが0.6を超え1.0未満(使用可)
△:ΔEが1.0以上1.5未満(使用下限)
×:ΔEが1.5以上(使用難)
【0069】
(3)キャストドラムからの離型性
キャストドラムからキャスト処理した面が離れるときの状態を目視で観察し、その評価を次のとおり行った。
◎:キャスト処理した面がドラムに付着せず、離れるときに抵抗がない(使用可)。
○:キャスト処理した面がドラムにわずかに付着しているが、離れるときに抵抗がない(使用可)。
△:キャスト処理した面がドラムにわずかに付着しており、やや離れ難い(使用下限)。
×:キャスト処理した面がドラムに付着しており、離れ難い(使用不可)。
【0070】
(4)キャスト塗工液の流動性
キャスト塗工液をエアーナイフで原紙上に塗工した直後のキャスト塗工層の表面状態を目視で観察し、その評価を次のとおり行った。
◎:キャスト塗工液に流動性があり、キャスト塗工層に塗りムラが無く、均一で非常に良好である(使用可)。
○:キャスト塗工液の流動性が若干劣るが、キャスト塗工層に塗りムラは無く良好である(使用可)。
△:キャスト塗工液の流動性が劣り、キャスト塗工面の一部に塗りムラが見られる(使用下限)。
×:キャスト塗工液の流動性が悪く、キャスト塗工面に塗りムラが多い(使用不可)。
【0071】
(5)光沢面印刷強度
RI印刷試験機(RI−3、明製作所社製)にて、墨インキ(SMXタックグレード15、東洋インキ製造社製)1mlを使用し、回転数を60rpmとして、200mm×250mmのキャストコート紙表面のピック数に基づいて、光沢面の印刷強度を評価した。強度は、次に示す4段階の評価基準で目視評価した。
◎:ピック数が無い(使用可)。
○:ピック数が1〜2個である(使用可)。
△:ピック数が3〜4個である(使用下限)。
×:ピック数が5個以上である(使用不可)。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示すとおり、実施例12,13で得られたキャストコート紙は、いずれも退色度が小さく、キャストドラムからの離型性が良好で、印刷強度が強く、光沢度の高いキャストコート紙であった。また、キャスト塗工層への蟻酸の含有量を調整することで、光沢度をコントロールすることができ、更には、水性接着剤としてカゼインを使用しなくても強光沢を有するキャストコート紙を得ることができることが確認できた。
【0074】
一方、比較例1は、水性接着剤として大豆タンパクを使用せず、カゼインのみを使用した場合であり、退色度が大きく、実用に適さないキャストコート紙となった。比較例2は、蟻酸を使用しなかったため、所望する光沢度が得られず、実用に適さないキャストコート紙となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙を抄造する抄紙工程と、前記原紙の表面に顔料及び水性接着剤を含有するキャスト塗工液を塗工してキャスト塗工層を設け、次いで乾燥するキャスト塗工層形成工程と、該キャスト塗工層の表面を再湿潤液で再湿潤して鏡面光沢を有するキャストドラムに圧接し、乾燥するリウェット法によるキャスト処理工程と、を有するキャストコート紙の製造方法において、
前記水性接着剤としてカゼインを使用せず大豆タンパクを使用し、更にラテックスを併用し(ただし、水性接着剤として水性ウレタン樹脂を含む場合を除く。)、前記大豆タンパクの含有量が、前記顔料100質量部に対して4〜14質量部であり、前記ラテックスの含有量は、前記大豆タンパク100質量部に対して100〜400質量部であり、かつ、
前記再湿潤液として蟻酸水溶液を使用することを特徴とするキャストコート紙の製造方法。
【請求項2】
前記再湿潤液に、クエン酸ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1に記載のキャストコート紙の製造方法。
【請求項3】
前記蟻酸水溶液の濃度が、0.25〜2.00質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャストコート紙の製造方法。
【請求項4】
前記キャスト塗工液をアルカリ性に調製して用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のキャストコート紙の製造方法。
【請求項5】
顔料及び水性接着剤を含有するキャスト塗工液を原紙の表面に塗工してキャスト塗工層を設け、次いで乾燥し、乾燥した前記キャスト塗工層の表面を再湿潤して鏡面光沢を有するキャストドラムに圧接し、乾燥することからなるリウェット法によってキャスト処理したキャストコート紙において、
前記キャスト塗工層は、前記水性接着剤としてカゼインを使用せず大豆タンパク及びラテックスを含有し(ただし、水性接着剤として水性ウレタン樹脂又はポリアクリル酸を含む場合を除く。)、かつ、蟻酸を含有し、
前記大豆タンパクの含有量が、前記顔料100質量部に対して4〜14質量部であり、前記ラテックスの含有量は、前記大豆タンパク100質量部に対して100〜400質量部であることを特徴とするキャストコート紙。
【請求項6】
前記キャスト塗工層の蟻酸含有量が、0.05〜0.35g/mであることを特徴とする請求項5に記載のキャストコート紙。

【公開番号】特開2013−76204(P2013−76204A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−15394(P2013−15394)
【出願日】平成25年1月30日(2013.1.30)
【分割の表示】特願2009−271225(P2009−271225)の分割
【原出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】