説明

キャリア箔付き極薄銅箔およびその製造方法

【課題】 キャリア箔上での極薄銅箔の密着保持が確実であるとともに、熱圧着処理後のキャリア箔の剥離が容易であるキャリア箔付き極薄銅箔と、これを製造するための製造方法を提供する。
【解決手段】 キャリア箔付き極薄銅箔を、銅のキャリア箔上に、ニッケル層またはニッケル合金層、および、剥離層を介して極薄銅箔を備えたものとし、剥離層はオキシ水酸化ニッケルを含有するとともに、厚みが20〜60nmの範囲内であり、厚みのバラツキが20%以下であるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャリア箔付き極薄銅箔とその製造方法に係り、特にプリント配線基板のファインパターン形成等に適したピーラブルタイプのキャリア箔付き極薄銅箔とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の軽薄短小化が急速に進み、これらに用いられる各種プリント配線基板もファインパターン形成による高密度化、高多層化、薄型化等が要求されている。そのため、ICやLSI等の電子部品を搭載する各種パッケージ基板は無論のこと、マザーボードにおいても同様に、高密度化、高多層化、薄型化が要望されている。
現在、プリント配線基板の製造の主流であるサブトラクティブ法では、ファインピッチ化に対応するため、エッチングする銅膜厚を可能な限り低減する傾向が強くなってきている。この場合、プリント配線基板等に用いる絶縁体表面に積層される銅箔膜厚を薄くすればよいのであるが、例えば、厚さ9μm以下の極薄銅箔は機械的強度が弱く、生産現場での取り扱いが非常に困難である。この問題を解決するために、絶縁体表面に厚さ十数μmの銅箔を積層し、この銅箔をハーフエッチングして膜厚を低減させる方法が採られているが、ハーフエッチングによる銅膜厚の制御が難しく煩雑でるという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、機械的強度が弱い厚み1〜5μmの極薄銅箔を保持するためのキャリア箔として、厚みが18〜35μm程度の銅箔を使用したピーラブルタイプのキャリア箔付き極薄銅箔を作製し、絶縁体表面への熱圧着処理による積層後、キャリア箔を剥離して極薄銅箔を絶縁体表面に転写する方法が提案され、実施されてきている。しかし、このようなピーラブルタイプのキャリア箔付き極薄銅箔を用いたプレス機による熱圧着処理では、絶縁体がガラスエポキシプリプレグ(FR−4グレード)の場合には170℃以上、絶縁体がポリイミド等の高耐熱性樹脂の場合には300℃以上の高温下に数十分間曝されるため、銅の熱拡散が生じてキャリア箔と極薄銅箔との剥離が困難になるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決し、プレス機による熱圧着処理後に安定してキャリア箔と極薄銅箔との剥離を行うために、例えば、キャリア箔上にカルボキシベンゾトリアゾールを用いて有機接合界面層を形成し、その上に極薄銅箔を形成したもの(特許文献1)、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される1種又は2種以上を用いてキャリア箔上に接合界面層を形成し、その上に極薄銅箔を形成したもの(特許文献2)、キャリア箔と極薄銅箔の間に熱拡散防止層と剥離層を介在させ、剥離層は有機物質を含む溶液に浸漬して形成した有機皮膜、あるいは、Ni合金層に陰極処理や陽極酸化、あるいは酸化剤浸漬を施して形成した金属酸化物皮膜としたもの(特許文献3)、キャリア箔と極薄銅箔との間に剥離層を介在させ、剥離層は剥離性を保持する金属A(Mo,Ta,V,MN,W,Cr)と、極薄銅箔のめっき形成を容易にする金属B(Fe,Co,Ni,Cr)とが所定の比率となるようにしたもの(特許文献4)、キャリア箔上に物理蒸着法で炭素層、または、金属層と炭素層とからなる複合層である接合界面層を形成し、その上に極薄銅箔を形成したもの(特許文献5)、キャリア箔上にトリアゾール化合物である窒素含有有機化合物からなる有機剤層を接合界面層として形成し、その上にニッケル層、ニッケル合金層、コバルト層、コバルト合金層のいずれかである耐熱金属層を介して極薄銅箔を形成したもの(特許文献6)等の種々のキャリア箔付き極薄銅箔が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−89892号公報
【特許文献2】特開2001−140090号公報
【特許文献3】特開2002−292788号公報
【特許文献4】特開2007−186781号公報
【特許文献5】特開2007−307767号公報
【特許文献6】特開2010−222657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1、2、6に記載のキャリア箔付き極薄銅箔は、キャリア箔と極薄銅箔との剥離に寄与する接合界面層が有機皮膜であるため、高温での熱圧着処理後の剥離性に問題があった。また、特許文献3に記載のキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層が有機皮膜である場合には、高温での熱圧着処理後の剥離性に問題があり、剥離層が金属酸化物皮膜である場合には、キャリア箔に形成した剥離層と極薄銅箔形成前の銅ストライクめっきとの密着性が不十分であり、極薄銅箔の脱落が生じるおそれがあるという問題があった。特許文献4に記載のキャリア箔付き極薄銅箔は、金属Aに使用される金属が高価であり、また、金属Aと金属Bとを所定の比率とするための厳密な制御が必要であり、製造コストの低減に限界があった。さらに、特許文献5に記載のキャリア箔付き極薄銅箔は、物理蒸着法で接合界面層を形成するため、設備のイニシャルコストが極めて高く、また、ランニングコストも高いという問題があった。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、キャリア箔上での極薄銅箔の密着保持が確実であるとともに、熱圧着処理後のキャリア箔の剥離が容易であるキャリア箔付き極薄銅箔と、これを製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明のキャリア箔付き極薄銅箔は、キャリア箔上に、ニッケル層またはニッケル合金層、および、剥離層を介して極薄銅箔を備え、前記剥離層はオキシ水酸化ニッケルを含有するとともに、厚みが20〜60nmの範囲内であり、厚みのバラツキが20%以下であるような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記剥離層は、イオウを0.5〜4.5重量%の範囲で含有するような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記ニッケル合金層は、ニッケル−リン合金層またはニッケル−クロム合金層であるような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記剥離層と前記極薄銅箔との間に銅ストライクめっき膜を有し、前記極薄銅箔と前記銅ストライクめっき膜との合計厚みは1〜5μmの範囲であるような構成とした。
【0008】
本発明の好ましい態様として、前記極薄銅箔は10点平均粗さRzが0.8〜4μmの範囲であるような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記極薄銅箔は表面に亜鉛めっき層、亜鉛合金めっき層、スズめっき層、スズ合金めっき層、ニッケルめっき層、亜鉛めっきとクロム酸塩皮膜の複合層のいずれかを有するような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記極薄銅箔は表面にシランカップリング剤層を有するような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記極薄銅箔は表面にトリアジンチオール誘導体層を有するような構成とした。
【0009】
本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法は、キャリア箔上にニッケル層またはニッケル合金層を形成した後、アルカリ性溶液中に浸漬することにより、前記ニッケル層またはニッケル合金層上にオキシ水酸化ニッケルを含有し、厚みが20〜60nmの範囲内である剥離層を形成する工程と、前記剥離層上に銅ストライクめっきを行い、次いで、銅ストライクめっき膜上に極薄銅箔を形成する工程と、を有し、前記アルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの1種または2種以上を10〜200g/Lの範囲で含有し、液温が40〜60℃の範囲であるような構成とした。
【0010】
また、キャリア箔付き極薄銅箔の製造方法は、キャリア箔上にニッケル層またはニッケル合金層を形成した後、アルカリ性溶液中に浸漬することにより、前記ニッケル層またはニッケル合金層上にオキシ水酸化ニッケルを含有し、厚みが20〜60nmの範囲内である剥離層を形成する工程と、前記剥離層上に銅ストライクめっきを行い、次いで、銅ストライクめっき膜上に極薄銅箔を形成する工程と、を有し、前記アルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムの1種または2種以上を10〜500g/Lの範囲で含有し、かつ、金属硫化物として硫化ナトリウム、硫化カリウムおよび硫化リチウムの1種または2種以上を0.005〜0.05重量%の範囲で含有し、液温が40〜60℃の範囲であるような構成とした。
【0011】
本発明の好ましい態様として、前記アルカリ性溶液への浸漬時間は30〜180秒間の範囲であるような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記ニッケル層またはニッケル合金層の形成では、無電解めっき法または電解めっき法によりニッケル層またはニッケル−リン合金層を形成するような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記ニッケル層またはニッケル合金層の形成では、真空成膜法によりニッケル層またはニッケル−クロム合金層を形成するような構成とした。
【0012】
本発明の好ましい態様として、前記極薄銅箔に10点平均粗さRzが0.8〜4μmの範囲となるように粗化処理を施し、その後、防錆処理を施す工程を有するような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記極薄銅箔上にシランカップリング剤層を形成する工程を有するような構成とした。
本発明の好ましい態様として、前記極薄銅箔上にトリアジンチオール誘導体層を形成する工程を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明のキャリア箔付き極薄銅箔は、熱圧着処理前のキャリア箔上での極薄銅箔の密着保持が確実で取り扱い性に優れるとともに、例えば、300℃以上の高温での熱圧着処理後における剥離性も良好である。
また、本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法は、アルカリ性溶液への浸漬によって、ニッケル層またはニッケル合金層上にオキシ水酸化ニッケルを含有するとともに、厚みが20〜60nmの範囲内である剥離層を形成するので、剥離層上に形成される極薄銅箔の保持性と剥離性という二律背反の特性をバランスよく具備したキャリア箔付き極薄銅箔の製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の最適な実施形態について説明する。
[キャリア箔付き極薄銅箔]
本発明のキャリア箔付き極薄銅箔は、キャリア箔上に、ニッケル層またはニッケル合金層、および、剥離層を介して極薄銅箔を備えている。
本発明のキャリア箔付き極薄銅箔を構成するキャリア箔は、銅箔、銅合金箔、ステンレス鋼箔、鉄合金箔、チタン箔、チタン合金箔等が使用可能であるが、極薄銅箔との熱膨張係数が整合する銅箔が最も適している。また、キャリア箔の厚みは特に限定されず、例えば、7〜35μmの範囲で設定することができる。キャリア箔の厚みが7μm未満であると、機械的強度が低く、絶縁体等への熱圧着による積層時にシワや折れ目が発生し易く、好ましくない。また、キャリア箔の厚みが35μmを超えると、キャリア箔付き極薄銅箔の製造時のテンション制御の問題や、キャリア箔付き極薄銅箔を巻き取ったコイルの重量増加の問題等が生じるので好ましくない。さらに、極薄銅箔を備える側のキャリア箔の表面形状は、積層した極薄銅箔の表面形状に影響を与えるので、ファインパターン形成を考慮して、キャリア箔の表面形状は、例えば、10点平均粗さRzが0.01〜2μm程度であることが好ましい。尚、本発明では、10点平均粗さRzはKEYENCE社製 レーザーマイクロスコープ VK−8700を用いて測定する。
【0015】
本発明のキャリア箔付き極薄銅箔を構成するニッケル層またはニッケル合金層は、剥離層のベース基材であるとともに、銅の熱拡散を防止する作用をなすものである。ニッケル合金層は、ニッケル−リン合金層またはニッケル−クロム合金層とすることができ、ニッケル合金層におけるニッケル含有量は85重量%以上が好ましい。このようなニッケル層またはニッケル合金層の厚みは、例えば、0.001〜0.5μm、好ましくは0.01〜0.3μmの範囲で適宜設定することができる。ニッケル層またはニッケル合金層の厚みが0.001μm未満であると、銅の熱拡散防止の作用が不十分となり、0.5μmを超えると生産性の低下、製造コストの増大を来すことがあり好ましくない。
【0016】
本発明のキャリア箔付き極薄銅箔を構成する剥離層は、オキシ水酸化ニッケルを含有するものであり、剥離層におけるオキシ水酸化ニッケルの含有量は、50〜100重量%、好ましくは60〜100重量%の範囲である。このような剥離層は、その厚みが20〜60nm、好ましくは25〜50nmの範囲内にあり、厚みのバラツキは20%以下、好ましくは10%以下である。尚、剥離層中のオキシ水酸化ニッケルの含有量の測定はESCA PHI Quantera SXM(ULVAC−PHI社製)を用いて行い、また、剥離層の厚み、および、厚みのバラツキは、剥離層の断面を ESCA PHI Quantera SXM(ULVAC−PHI社製)で観察し、長さ50mmにおける最大厚みTmax、最小厚みTmin、平均厚みTaを測定し、平均厚みTaを剥離層の厚みとし、剥離層のバラツキは(Tmax−Tmin)/Ta×100により算出するものとする。
【0017】
上記の剥離層におけるオキシ水酸化ニッケルの含有量が50重量%未満であると、極薄銅箔との剥離性が低下し、特に300℃以上の高温での熱圧着処理後の剥離性が不十分なものとなる。また、上記の剥離層の厚みが20nm未満であると、極薄銅箔との剥離性が低下し、特に300℃以上の高温での熱圧着処理後の剥離性が不十分なものとなる。また、剥離層の厚みが60nmを超えると、極薄銅箔との密着性が低下し、特に、後述するように、剥離層と極薄銅箔との間に銅ストライクめっき膜を介在させる場合、剥離層と銅ストライクめっき膜との浮きが生じて極薄銅箔の脱落を生じ易く、取り扱い性の点で好ましくない。また、剥離層の厚みのバラツキが20%を超えると、極薄銅箔との密着性が低下して脱落を生じ易く、取り扱い性の点で好ましくない。
【0018】
また、本発明では、剥離層上に形成される極薄銅箔の保持性と剥離性という二律背反の特性を更にバランスよく具備するために、剥離層がイオウを含有することが好ましい。剥離層中のイオウは、例えば、硫化ニッケルとして均一に分散しており、剥離層におけるイオウの含有量は、例えば、0.5〜4.5重量%、好ましくは1〜4重量%の範囲とすることができる。イオウの含有量が0.5重量%未満であると、イオウ含有による効果が得られず、4.5重量%を超えると、高温での熱圧着処理後の剥離性が不十分となり好ましくない。尚、本発明では、剥離層中のイオウの含有量の測定をESCA PHI Quantera SXM(ULVAC−PHI社製)を用いて行う。
【0019】
本発明のキャリア箔付き極薄銅箔を構成する極薄銅箔は、厚さ9μm以下であり、好ましくは1〜5μmでピンホールのない均一な厚みの銅箔である。このような銅箔は、例えば、銅めっきにより形成することができる。また、本発明では、剥離層と極薄銅箔との間に銅ストライクめっき膜を介在させてもよく、この場合、極薄銅箔と銅ストライクめっき膜との合計厚みを9μm以下、好ましくは1〜5μmとすることができる。
このような本発明のキャリア箔付き極薄銅箔は、熱圧着処理前のキャリア箔上での極薄銅箔の密着保持が確実で取り扱い性に優れており、また、例えば、300℃以上の高温での熱圧着処理後における剥離層と極薄銅箔との剥離性が良好である。
【0020】
上述の実施形態は例示であり、本発明のキャリア箔付き極薄銅箔は、これらに限定されるものではない。例えば、絶縁体表面との密着性を向上させるために、極薄銅箔の表面粗度を、10点平均粗さRzが0.8〜4μm、好ましくは2.5〜3.5μmの範囲となるように設定することができる。
また、極薄銅箔の防錆を目的として、極薄銅箔の表面に亜鉛めっき層、亜鉛合金めっき層、スズめっき層、スズ合金めっき層、ニッケルめっき層、亜鉛めっきとクロム酸塩皮膜の複合層等の防錆層を有するものであってもよい。このような防錆層の厚みは、例えば、0.1〜2μmの範囲で適宜設定することができる。
【0021】
また、絶縁体表面との密着性を向上させるために、極薄銅箔の表面にシランカップリング剤層を設けてもよい。使用するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
さらに、プリント配線基板等における信号の高速伝送(表皮効果による導体表面における伝送)を目的として、極薄銅箔の表面を平滑(例えば、10点平均粗さRzが1.3〜1.7μm)にした場合、極薄銅箔と絶縁体表面との密着性を向上させるために、極薄銅箔の平滑表面に有機皮膜を設けてもよい。このような有機皮膜としては、例えば、トリアジンチオール誘導体層を挙げることができ、厚みは、0.01〜1μm、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲で適宜設定することができる。
【0022】
[キャリア箔付き極薄銅箔の製造方法]
本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法では、まず、キャリア箔上にニッケル層またはニッケル合金層を形成した後、アルカリ性溶液中に浸漬することにより、ニッケル層またはニッケル合金層上にオキシ水酸化ニッケルを含有し、厚みが20〜60nm、好ましくは25〜50nmの範囲内である剥離層を形成する。
【0023】
本発明に使用するキャリア箔は、銅箔、銅合金箔、ステンレス鋼箔、鉄合金箔、チタン箔、チタン合金箔等が使用可能であり、これらの中で極薄銅箔との熱膨張係数が整合する銅箔を好適に使用することができる。また、キャリア箔の厚みは特に限定されず、例えば、7〜35μmの範囲で設定することができる。キャリア箔の厚みが7μm未満であると、機械的強度が低く、絶縁体等への熱圧着による積層時にシワや折れ目が発生し易く、好ましくない。また、キャリア箔の厚みが35μmを超えると、キャリア箔付き極薄銅箔の製造時のテンション制御の問題や、キャリア箔付き極薄銅箔を巻き取ったコイルの重量増加の問題等が生じるので好ましくない。さらに、極薄銅箔を備える側のキャリア箔の表面形状は、積層した極薄銅箔によるファインパターン形成を考慮すると、表面粗度が小さいことが望ましく、例えば、10点平均粗さRzが0.01〜2μm程度であることが好ましい。
【0024】
また、キャリア箔上へのニッケル層またはニッケル合金層の形成は、湿式法または乾式法により行うことができる。湿式法では、無電解めっき法または電解めっき法によりニッケル層、ニッケル−リン合金層等を形成することができる。無電解めっき法に使用するめっき浴としては、例えば、エンプレートNI−426(メルテックス(株)製 低リンタイプ)、メルプレートNI−865(メルテックス(株)製 中リンタイプ)、メルプレートNI−875M(メルテックス(株)製 高リンタイプ)等を挙げることができる。また、電解めっき法に使用するニッケルめっき浴としては、例えば、エルピライトGS−6(メルテックス(株)製)、エルピライトGS−7(メルテックス(株)製)等を挙げることができる。また、ニッケル−リン合金めっき浴としては、例えば、クエン酸ニッケル−リン合金めっき浴、ワット型ニッケル−リン合金めっき浴等を挙げることできる。
また、乾式法では、例えば、スパッタリング法によりニッケル層、ニッケル−クロム合金層(ニッケル含有量85重量%以下)等を形成することができる。
【0025】
上記のようなニッケル層またはニッケル合金層の厚みは、0.001〜0.5μm、好ましくは0.01〜0.3μmの範囲で適宜設定することができる。ニッケル層またはニッケル合金層の厚みが0.001μm未満であると、後述の剥離層形成に支障を来し、また、銅の熱拡散防止の作用が不十分となることがあり好ましくない。一方、厚みが0.5μmを超えると、生産性の低下、製造コスト増大を招き好ましくない。
【0026】
オキシ水酸化ニッケルを含有し、厚みが20〜60nm、好ましくは25〜50nmの範囲内である剥離層の形成は、上記のようにニッケル層またはニッケル合金層を形成したキャリア箔をアルカリ性溶液中に浸漬することにより行う。形成する剥離層の厚みが20nm未満であると、後工程で形成する極薄銅箔との剥離性が低下し、特に300℃以上の高温での熱圧着処理後の剥離性が低下する。また、剥離層の厚みが60nmを超えると、後工程で形成する銅ストライクめっき膜の浮きが生じて極薄銅箔の脱落を生じ易く、取り扱い性の点で好ましくない。
【0027】
使用するアルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの1種または2種以上を20〜200g/L、好ましくは50〜200g/Lの範囲で含有し、液温が40〜60℃の範囲にあるものとする。上記の濃度が20g/L未満であると、オキシ水酸化ニッケルを含有する剥離層の厚みを上記の範囲とするために要する浸漬時間が長くなり、また、濃度が200g/Lを超えると、剥離層の厚みのバラツキが20%を超え易く、後述の銅ストライクめっき膜の浮きが生じるおそれがあり好ましくない。また、アルカリ性溶液の液温が40℃未満であると、オキシ水酸化ニッケルを含有する剥離層の厚みを上記の範囲とするために要する浸漬時間が長くなり、また、液温が60℃を超えると、剥離層の厚みのバラツキが20%を超え易く、後述の銅ストライクめっき膜の浮きが生じるおそれがあり好ましくない。
【0028】
また、本発明では、剥離層上に形成する極薄銅箔の保持性と剥離性という二律背反の特性バランスを更に向上させるために、上記のアルカリ性溶液に金属硫化物として硫化ナトリウム、硫化カリウムおよび硫化リチウムの1種または2種以上を0.005〜0.05重量%の範囲で含有したものを使用することができる。このような金属硫化物を含有したアルカリ性溶液を使用することにより、イオウがオキシ水酸化ニッケル中に均一に分散した剥離層を形成することができる。アルカリ性溶液中の上記の金属硫化物の含有量が0.005重量%未満であると、金属硫化物添加の効果が得られず、また、上記の金属硫化物の含有量が0.05重量%を超えると、剥離層に含有されるイオウの含有量が多くなりすぎ、後述の銅ストライクめっき膜の330℃以上の高温での熱圧着処理後の密着性が高くなりすぎ好ましくない。
【0029】
このように金属硫化物として硫化ナトリウム、硫化カリウムおよび硫化リチウムの1種または2種以上を上記の含有量の範囲内で含有したアルカリ性溶液を使用する場合、アルカリ性溶液に含有される水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの1種または2種以上の濃度は、20〜500g/L、好ましくは50〜500g/Lの範囲とする。上記の濃度が20g/L未満であると、オキシ水酸化ニッケルを含有する剥離層の厚みを上記の範囲とするために要する浸漬時間が長くなり、また、濃度が500g/Lを超えると、剥離層の厚みのバラツキが20%を超え易く、後述の銅ストライクめっき膜の浮きが生じるおそれがあり好ましくない。
上記のようなアルカリ性溶液への浸漬時間は、例えば、30〜180秒の範囲で設定することができる。
【0030】
本発明の製造方法では、上記のように形成した剥離層上に銅ストライクめっきを行い、次いで、銅ストライクめっき膜上に極薄銅箔を形成する。
銅ストライクめっき膜の形成は、後工程の極薄銅箔形成において、ピンホールのない均一な厚みの銅箔を形成するうえで有効である。形成する銅ストライクめっき膜の厚みは、特に限定されないが、0.001〜1μmの範囲とすることが好ましい。使用する銅ストライクめっき液としては、例えば、メルカパーCF−2120(メルテックス(株)製)、メルカパーCF−2130(メルテックス(株)製)メルカパーCF−2140(メルテックス(株)製)メルカパーCF−2170(メルテックス(株)製)等を使用することができる。
【0031】
より具体的には、メルカパーCF−2120の浴組成は、下記の範囲とすることが好ましい。
(メルカパーCF−2120の浴組成)
・メルカパーCF−2120A … 60〜80mL/L
・メルカパーCF−2120B … 360〜400mL/L
【0032】
CF−2120A濃度が上記範囲未満の場合は、ヤケが生じ易くなり、上記範囲を超える場合は、剥離層に対する密着性が低下して極薄銅箔の脱落を生じ易く、取り扱い性の点で好ましくない。また、CF−2120B濃度が上記範囲未満の場合は、剥離層に対する密着性が低下して極薄銅箔の脱落を生じ易くなり、取り扱い性の点で好ましなく、上記範囲を超える場合は、浴の濁りや沈殿を生じることがある。浴のpHは、8.4〜10の範囲で設定することができるが、銅置換を抑制するためにpHを9.0〜9.5とすることが好ましい。また、浴温度は、20〜40℃の範囲で設定することができるが、めっき皮膜の内部応力が低い35〜40℃の範囲で設定することが好ましい。銅ストライクめっきにおける陰極電流密度は、0.3〜1.0A/dm2の範囲とすることができ、陽極にはOFHC、SUS304、SUS316等を使用することができる。また、浴の撹拌は、エアー撹拌を使用し、連続ろ過を行う。
【0033】
また、メルカパーCF−2130の浴組成は、下記の範囲とすることが好ましい。
(メルカパーCF−2130の浴組成)
・メルカパーCF−2130A … 200〜240mL/L
・メルカパーCF−2130B … 440〜560mL/L
【0034】
CF−2130A濃度が上記範囲未満の場合は、ヤケが生じ易くなり、上記範囲を超える場合は、剥離層に対する密着性が低下して極薄銅箔の脱落を生じ易く、取り扱い性の点で好ましくない。また、CF−2130B濃度が上記範囲未満の場合は、剥離層に対する密着性が低下して極薄銅箔の脱落を生じ易くなり、取り扱い性の点で好ましなく、上記範囲を超える場合は、浴の濁りや沈殿を生じることがある。浴のpHは、8.3〜10の範囲で設定することができるが、銅置換を抑制するためにpHを9.0〜9.5とすることが好ましい。また、浴温度は、20〜40℃の範囲で設定することができるが、めっき皮膜の内部応力が低い35〜40℃の範囲で設定することが好ましい。銅ストライクめっきにおける陰極電流密度は、0.3〜1.0A/dm2の範囲とすることができ、陽極にはOFHC、または電気銅等を使用することができる。また、浴の撹拌は、エアー撹拌を使用し、連続ろ過を行う。
【0035】
また、メルカパーCF−2140の浴組成は、下記の範囲とすることが好ましい。
(メルカパーCF−2140の浴組成)
・メルカパーCF−2140A … 150〜190mL/L
・メルカパーCF−2140B … 340〜420mL/L
【0036】
CF−2140A濃度が上記範囲未満の場合は、ヤケが生じ易くなり、上記範囲を超える場合は、剥離層に対する密着性が低下して極薄銅箔の脱落を生じ易く、取り扱い性の点で好ましくない。また、CF−2140B濃度が上記範囲未満の場合は、剥離層に対する密着性が低下して極薄銅箔の脱落を生じ易くなり、取り扱い性の点で好ましなく、上記範囲を超える場合は、浴の濁りや沈殿を生じることがある。浴のpHは、8.4〜10の範囲で設定することができるが、銅置換を抑制するためにpHを9.0〜9.5とすることが好ましい。また、浴温度は、20〜40℃の範囲で設定することができるが、めっき皮膜の内部応力が低い35〜40℃の範囲で設定することが好ましい。銅ストライクめっきにおける陰極電流密度は、0.3〜1.0A/dm2の範囲とすることができ、陽極にはOFHC、または電気銅等を使用することができる。また、浴の撹拌は、エアー撹拌を使用し、連続ろ過を行う。
【0037】
また、メルカパーCF−2170の浴組成は、下記の範囲とすることが好ましい。
(メルカパーCF−2170の浴組成)
・メルカパーCF−2170A … 170〜270mL/L
・メルカパーCF−2170B … 420〜580mL/L
・メルカパーCF−2170C … 30g/L
【0038】
CF−2170A濃度が上記範囲未満の場合は、ヤケが生じ易くなり、上記範囲を超える場合は、剥離層に対する密着性が低下して極薄銅箔の脱落を生じ易く、取り扱い性の点で好ましくない。また、CF−2170B濃度が上記範囲未満の場合は、剥離層に対する密着性が低下して極薄銅箔の脱落を生じ易くなり、取り扱い性の点で好ましなく、上記範囲を超える場合は、浴の濁りや沈殿を生じることがある。浴のpHは、8.4〜9.4の範囲で設定することができるが、銅置換を抑制するためにpHを9.0〜9.4とすることが好ましい。また、浴温度は、25〜55℃の範囲で設定することができるが、めっき皮膜の内部応力が低い35〜45℃の範囲で設定することが好ましい。銅ストライクめっきにおける陰極電流密度は、1〜3A/dm2の範囲とすることができ、陽極にはOFHC、または電気銅等を使用することができる。また、浴の撹拌は、エアー撹拌を使用し、連続ろ過を行う。
【0039】
銅ストライクめっき膜上への極薄銅箔の形成には、硫酸銅めっきを用いることができる。例えば、下記組成の基本浴に市販の硫酸銅めっき添加剤を添加して使用することができる。
(基本浴組成)
・硫酸銅・五水塩 … 30〜220g/L
・硫酸 … 70〜300g/L
・塩化物イオン … 30〜75mg/L
【0040】
硫酸銅めっきの浴温度は、20〜40℃の範囲で設定することができるが、めっき皮膜の内部応力が低い22〜28℃の範囲で設定することが好ましい。また、陰極電流密度は、0.5〜15A/dm2の範囲とすることができるが、めっき皮膜の内部応力を考慮して2〜6A/dm2の範囲とすることが好ましい。陽極には含リン銅、または不溶性陽極(例えば、チタン上に酸化イリジウムをコートした電極)等を使用することができる。また、浴の撹拌は、エアー撹拌または噴流を使用し、連続ろ過を行う。
また、上記の銅ストライクめっきに使用したノーシアンアルカリ電気銅ストライク浴であるメルカパーCF−2170(メルテックス(株)製)も極薄銅箔の形成に使用することができる。
形成する極薄銅箔の厚みは、上記の銅ストライクめっき膜との合計厚みが9μm以下、好ましくは1〜5μmの範囲となるように設定することができる。
【0041】
上述のような本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法は、アルカリ性溶液への浸漬によって、ニッケル層またはニッケル合金層上に、オキシ水酸化ニッケルを含有する厚みが20〜55nmの範囲内の剥離層を形成するので、剥離層上に形成される極薄銅箔の保持性と剥離性という二律背反の特性をバランスよく具備したキャリア箔付き極薄銅箔の製造が可能である。
また、本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法では、上記の極薄銅箔表面に、絶縁体表面との密着性を向上させるための銅微粒子形成めっき、銅微粒子固定のための被せめっき、ヒゲめっきからなる一連の粗化処理を施してもよい。このような粗化処理により、極薄銅箔の表面粗度を、10点平均粗さRzが0.8〜4μm、好ましくは2.5〜3.5μmの範囲とすることができる。
【0042】
上記の銅微粒子形成めっきは、微粒子状の銅電着物を極薄銅箔表面に形成するものであり、例えば、下記組成の銅微粒子形成めっき浴を使用することができる。
(銅微粒子形成めっき浴組成)
・硫酸銅・五水塩 … 30〜200g/L
・硫酸 … 50〜300g/L
・塩化物イオン … 30〜80mg/L
また、銅微粒子形成めっき浴の浴温度は20〜40℃、陰極電流密度は1〜50A/dm2、めっき時間は5〜15秒間とすることができる。陽極には含リン銅、または不溶性陽極(例えば、チタン上に酸化イリジウムをコートした電極)等を使用することができる。また、浴の撹拌は、エアー撹拌または噴流を使用し、連続ろ過を行う。
【0043】
銅微粒固定のための被せめっきは、上記のように極薄銅箔表面に形成した微粒子状上に析出させて銅微粒子を固定するものであり、例えば、下記組成の被せめっき浴を使用することができる。
(被せめっき浴組成)
・硫酸銅・五水塩 … 100〜300g/L
・硫酸 … 50〜150g/L
・塩化物イオン … 30〜80mg/L
また、被せめっき浴の浴温度は40〜60℃、陰極電流密度は5〜50A/dm2、めっき時間は5〜15秒間とすることができる。陽極には含リン銅、または不溶性陽極(例えば、チタン上に酸化イリジウムをコートした電極)等を使用することができる。また、浴の撹拌は、エアー撹拌または噴流を使用し、連続ろ過を行う。
【0044】
ヒゲめっきは、被せめっきが施された表面に、絶縁体との密着性を更に向上させるために施すものであり、例えば、下記組成のヒゲめっき浴を使用することができる。
(ヒゲめっき浴組成)
・硫酸銅・五水塩 … 30〜150g/L
・硫酸 … 30〜100g/L
・塩化物イオン … 30〜80mg/L
また、ヒゲめっき浴の浴温度は20〜30℃、陰極電流密度は5〜40A/dm2、めっき時間は5〜15秒間とすることができる。陽極には含リン銅、または不溶性陽極(例えば、チタン上に酸化イリジウムをコートした電極)等を使用することができる。また、浴の撹拌は、エアー撹拌または噴流を使用し、連続ろ過を行う。
【0045】
また、本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法では、上記の一連の粗化処理を施した表面に防錆めっき処理を施してもよい。このような粗化処理は、防錆効果および耐熱効果を有する金属めっき層、合金めっき層を形成するものであり、例えば、亜鉛めっき層、スズめっき層、ニッケルめっき層、あるいは、これらの金属の合金めっき層、例えば、スズ−亜鉛合金めっき層、スズ−ニッケル合金めっき層、亜鉛−ニッケル合金めっき層を形成することができる。亜鉛めっき層の形成には、例えば、メルジンク2400(メルテックス(株)製)等を使用することができる。また、スズめっき層の形成には、例えば、硫酸浴、アルカンスルホン酸浴、アルカノールスルホン酸浴等を使用することができる。また、ニッケルめっき層の形成には、例えば、エルピライトGS−6(メルテックス(株)製)、エルピライトGS−7(メルテックス(株)製)等を使用することができる。
【0046】
また、更に防錆効果を高めるためにクロメート処理を施してもよい。クロメート処理としては、例えば、三価クロムを使用するスプレンダーブルーTC−1580(メルテックス(株)製)、スプレンダーブルーTC−1581(メルテックス(株)製)等を使用して行うことができる。
【0047】
また、本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法では、極薄銅箔と絶縁体表面の密着性を向上させるために、極薄銅箔表面にシランカップリング剤を塗布することができる。使用するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。このようなシランカップリング剤の極薄銅箔表面への塗布方法は、浸漬または噴霧等を用いることができる。
【0048】
さらに、本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法では、極薄銅箔に対して上記のような粗化処理および防錆処理を行わず、直接極薄銅箔の平滑面に有機皮膜を形成することにより、高速伝送に求められている導体のノープロファイル銅箔(例えば、10点平均粗さRzが1.3〜1.7μm)を作製することができる。プリント配線基板等で処理される信号が高速度化、高周波数化となるにつれて、信号伝送は表皮効果による導体表面での伝送となる。そのため、従来行われている銅箔と絶縁体との密着性を向上させるための粗化処理は、信号の伝送を遅延させることになり、より密着性の良い平滑面であることが銅箔に要求されている。
【0049】
このような要求に対応するために、極薄銅箔の平滑面に有機皮膜、例えば、トリアジンチオール誘導体層を形成することができる。トリアジンチオール誘導体層は、例えば、サンチオールN−1(三協化成(株)製)を溶媒に溶解し、この溶液中で陽極酸化を行って電解重合させた後、水洗、乾燥を行うことにより形成することができる。この場合、サンチオールN−1の濃度は0.1〜15g/L、液温度は20〜50℃、電解重合電位は0.1〜2V、電解重合時間は0.1〜10分間、好ましくは0.5〜2分間程度とすることができる。
上述の実施形態は例示であり、本発明のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法は、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
<試料1−1の作製>
キャリア箔として、厚さ35μm、シャイニ面(極薄銅箔を積層する面)の10点平均粗さRzが0.04μmである電解銅箔を準備した。尚、10点平均粗さRzはKEYENCE社製 レーザーマイクロスコープ VK−8700を用いて測定した。
上記のキャリア箔をアルカリ性電解脱脂浴(メルテックス(株)製 クリーナー160)を用いて70℃、5Vにて1分間陰極電解し、充分水洗後、10%硫酸にて中和した。
上記のキャリア箔のシャイニ面に、ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いて、浴温度35℃、電流密度0.5A/dm2にて1分間めっきして、厚み0.05μmのニッケル層を形成し、その後、充分洗浄した。
【0051】
次いで、アルカリ性溶液として、100g/L水酸化ナトリウム水溶液を準備し、液温度を50℃とした上記のアルカリ性溶液に、ニッケル層を形成したキャリア箔を60秒間浸漬し、その後、充分洗浄した。これにより、オキシ水酸化ニッケル皮膜からなる剥離層を形成した。尚、形成した剥離層の組成および厚みは、ESCA PHI Quantera SXM(ULVAC−PHI社製)を用いて測定し、下記の表1に示した。また、剥離層の長さ50mmにおける最大厚みTmax、最小厚みTmin、平均厚みTaを測定し、平均厚みTaを剥離層の厚みとし、(Tmax−Tmin)/Ta×100から剥離層の厚みのバラツキを算出し、下記の表1に示した。
次に、銅ストライクめっき浴として、メルテックス(株)製 メルカパーCF−2120(メルカパーCF−2120A:70mL/L、メルカパーCF−2120B:100mL/L)を用いて、浴温度35℃、電流密度1A/dm2にて30秒間めっきを行い、充分洗浄後、1%硫酸に室温にて10秒間浸漬した。次いで、充分洗浄後、市販の硫酸銅めっき添加剤を添加した硫酸銅めっき浴を用いて、浴温度25℃、電流密度3A/dm2にて4分間めっきを行い、厚み3μmの極薄銅箔を形成した。尚、極薄銅箔の厚みは銅ストライクめっき膜との合計厚みであり、蛍光X線微小膜厚計 FISHER SCOPE X−ray System XDL(FISHER社製)を用いて測定した。
【0052】
次いで、上記の極薄銅箔表面に、絶縁体との密着性を向上させるための銅微粒子形成めっき、被せめっき、および、ヒゲめっきからなる一連の粗化処理を施した。この粗化処理は、上述の銅微粒子形成めっき浴組成の範囲内、被せめっき浴組成の範囲内、ヒゲめっき浴組成の範囲内にある各浴を使用するとともに、各処理に関する上述の条件の範囲内で行った。
さらに、亜鉛めっき浴(メルテックス(株)製 メルジンク2400)を用いて、浴温度25℃、電流密度5A/dm2にて30秒間めっきし、亜鉛めっき層を形成して防錆層とした。その後、液温度25℃のスプレンダーブルーTC−1581(メルテックス(株)製)に10秒間浸漬してクロメート処理を施し、水洗、乾燥して、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−1)を得た。
【0053】
<試料1−2の作製>
アルカリ性溶液として、100g/L水酸化カリウム水溶液を使用した他は、上記の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−2)を作製した。
<試料1−3の作製>
アルカリ性溶液として、100g/L水酸化リチウム水溶液を使用した他は、上記の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−3)を作製した。
<試料1−4の作製>
アルカリ性溶液として、50g/L水酸化ナトリウム水溶液と50g/L水酸化カリウム水溶液の混合溶液を使用した他は、上記の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−4)を作製した。
【0054】
<試料1−5の作製>
アルカリ性溶液として、50g/L水酸化ナトリウム水溶液と50g/L水酸化リチウム水溶液の混合溶液を使用した他は、上記の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−5)を作製した。
<試料1−6の作製>
キャリア箔として、厚さ35μm、シャイニ面(極薄銅箔を積層する面)の10点平均粗さRzが0.2μmである電解銅箔を使用した他は、上記の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−6)を作製した。
<試料1−7の作製>
キャリア箔として、厚さ18μm、シャイニ面(極薄銅箔を積層する面)の10点平均粗さRzが0.04μmである電解銅箔を使用した他は、上記の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−7)を作製した。
【0055】
<試料1−8の作製>
キャリア箔として、厚さ18μm、シャイニ面(極薄銅箔を積層する面)の10点平均粗さRzが0.2μmである電解銅箔を使用した他は、上記の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−8)を作製した。
<試料1−9の作製>
アルカリ性溶液への浸漬を行わない他は、上記の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−9)を作製した。
【0056】
<試料1−10〜試料1−14の作製>
アルカリ性溶液に浸漬した状態にて、1.5Vで60秒間陽極電解を行って剥離層を形成した他は、上記の試料1−1〜試料1−5の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−10〜試料1−14)を作製した。形成した剥離層はオキシ水酸化ニッケル皮膜からなる剥離層であり、試料1−1と同様に、剥離層の厚み、バラツキを測定して、下記の表1に示した。
【0057】
<試料1−15の作製>
試料1−1の作製に使用したものと同じキャリア箔を、硫酸が150g/L、銅濃度が10g/L、カルボキシベンゾトリアゾール濃度が800ppmである有機剤含有希硫酸水溶液(液温度30℃)に30秒浸漬し、キャリア箔表面にカルボキシベンゾトリアゾールを吸着させて有機剤層を形成し接合界面層とした。
次に、硫酸ニッケルが330g/L、塩化ニッケルが45g/L、ホウ酸が35g/L、pH3のワット浴を使用し、浴温度45℃、電流密度2.5A/dm2にてめっきして、上記の有機剤層上に厚み0.01μmのニッケル層を形成し、その後、充分洗浄した。
次いで、銅濃度が65g/L、硫酸濃度が150g/Lの硫酸銅めっき浴を使用し、浴温度45℃、電流密度15A/dm2にてめっきして、上記のニッケル層上に厚み3μmの極薄銅箔を形成した。
その後、試料1−1の作製と同様に、粗化処理、亜鉛めっき層形成、クロメート処理を施し、水洗、乾燥して、キャリア箔付き極薄銅箔(試料1−15)を得た。
【0058】
<キャリア箔付き極薄銅箔の評価>
上述のように作製したキャリア箔付き極薄銅箔(試料1−1〜試料1−15)について、下記の条件で330℃加熱後の剥離性、剥離強度を評価、測定して、結果を下記の表1に示した。
(330℃加熱後の剥離性の評価方法)
絶縁体としてポリイミドフィルム(宇部興産(株)製 UPILEX−VT)
を準備し、この絶縁体にキャリア箔付き極薄銅箔を330℃で圧着(圧力:50
kg/cm2)し、室温まで放冷した後、キャリア箔を絶縁体から剥離したときの
状態を観察し、下記の基準で評価した。
(評価基準)
○ : 熱圧着領域の極薄銅箔が絶縁体表面に積層され、キャリア箔への
極薄銅箔の残存はみられない
△ : 熱圧着領域の極薄銅箔の一部が、剥離したキャリア箔に残存する
× : 熱圧着領域の極薄銅箔とキャリア箔との剥離が不可能である
【0059】
(剥離強度の測定方法)
作製したキャリア箔付き極薄銅箔をJIS C6511に準拠して、キャリア箔
を引き剥がし、剥離強度を3回測定し、その平均値を求めた。
【0060】
【表1】

【0061】
[実施例2]
<試料2−1の作製>
アルカリ性溶液として、10g/L水酸化ナトリウム水溶液を使用した他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料2−1)を作製した。
<試料2−2の作製>
アルカリ性溶液として、20g/L水酸化ナトリウム水溶液を使用した他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料2−2)を作製した。
<試料2−3の作製>
アルカリ性溶液として、200g/L水酸化ナトリウム水溶液を使用した他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料2−3)を作製した。
【0062】
<試料2−4の作製>
アルカリ性溶液として、300g/L水酸化ナトリウム水溶液を使用した他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料2−4)を作製した。
<試料2−5の作製>
アルカリ性溶液の液温を30℃とした他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料2−5)を作製した。
<試料2−6の作製>
アルカリ性溶液の液温を40℃とした他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料2−6)を作製した。
【0063】
<試料2−7の作製>
アルカリ性溶液の液温を60℃とした他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料2−7)を作製した。
<試料2−8の作製>
アルカリ性溶液の液温を80℃とした他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料2−8)を作製した。
【0064】
<キャリア箔付き極薄銅箔の評価>
上述のように作製したキャリア箔付き極薄銅箔(試料2−1〜試料2−8)について、実施例1と同様にして、330℃加熱後の剥離性、剥離強度を評価、測定して、結果を下記の表2に示した。
【0065】
【表2】

【0066】
[実施例3]
<試料3−1の作製>
実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−1)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層がオキシ水酸化ニッケルからなる層(オキシ水酸化ニッケル含有率:100重量%)であった。尚、剥離層中のオキシ水酸化ニッケルの含有量の測定は、ESCA PHI Quantera SXM(ULVAC−PHI社製)を用いて行った。
【0067】
<試料3−2の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、ニッケル−リン合金めっき浴(メルテックス(株)製 メルブライトNC−57)を用いて、浴温度55℃、電流密度0.5A/dm2にて30秒間めっきして、厚み0.05μmのニッケル−リン(Ni−P)合金層(ニッケル含有量88重量%)を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−2)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層がオキシ水酸化ニッケルを69重量%含有する層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表3に示した。
【0068】
<試料3−3の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、スパッタリング法により厚み0.05μmのニッケル(Ni)層を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−3)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層がオキシ水酸化ニッケルからなる層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表3に示した。
【0069】
<試料3−4の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、スパッタリング法により厚み0.05μmのニッケル−クロム(Ni−Cr)合金層(ニッケル含有量90重量%)を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−4)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層がオキシ水酸化ニッケルを75重量%含有する層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表3に示した。
【0070】
<試料3−5の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、無電解ニッケル−リンめっき浴(メルテックス(株)製 メルプレートNI−865)を用いて、浴温度85℃にて1分間めっきを行い、厚み0.3μmのニッケル−リン(Ni−P)合金層(ニッケル含有量92重量%)を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−5)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層がオキシ水酸化ニッケルを68重量%含有する層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表3に示した。
【0071】
<試料3−6の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、無電解ニッケル−リンめっき浴(メルテックス(株)製 エンプレートNI−426)を用いて、浴温度80℃にて1分間めっきを行い、厚み0.3μmのニッケル−リン(Ni−P)合金層(ニッケル含有量89重量%)を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−6)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層がオキシ水酸化ニッケルを60重量%含有する層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表3に示した。
【0072】
<試料3−7の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、無電解ニッケル−リンめっき浴(メルテックス(株)製 メルプレートNI−865)を用いて、浴温度85℃にて1分間めっきを行い、厚み0.3μmのニッケル−リン(Ni−P)合金層(ニッケル含有量85重量%)を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−7)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層がオキシ水酸化ニッケルを50重量%含有する層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表3に示した。
【0073】
<試料3−8の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、無電解ニッケル−リンめっき浴(メルテックス(株)製 メルプレートNI−875)を用いて、浴温度90℃にて1分間めっきを行い、厚み0.3μmのニッケル−リン(Ni−P)合金層(ニッケル含有量80重量%)を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−8)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層がオキシ水酸化ニッケルを40重量%含有する層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表3に示した。
【0074】
<試料3−9の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、下記組成のコバルトストライク浴を用いて、浴温度25℃、電流密度10A/dm2にて1分間めっきして、厚み0.05μmのコバルト(Co)層を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−9)を作製した。
(コバルトストライク浴の組成)
・硫酸コバルト … 200g/L
・硫酸 … 80g/L
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層が酸化コバルトからなる層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表2に示した。
【0075】
<試料3−10の作製>
ニッケル電解めっき浴(メルテックス(株)製 エルピライトGS−6)を用いたニッケル層の形成に代えて、下記組成の鉄ストライク浴を用いて、浴温度60℃、電流密度10A/dm2にて30秒間めっきして、厚み0.05μmの鉄(Fe)層を形成した他は、上記の試料3−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料3−10)を作製した。
(鉄ストライク浴の組成)
・硫酸第一鉄・七水塩 … 400g/L
・硫酸アンモニウム … 50g/L
・尿素 … 80g/L
作製したキャリア箔付き極薄銅箔は、剥離層が酸化鉄からなる層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表3に示した。
【0076】
<キャリア箔付き極薄銅箔の評価>
上述のように作製したキャリア箔付き極薄銅箔(試料3−1〜試料3−10)について、実施例1と同様にして、330℃加熱後の剥離性、剥離強度を評価、測定して、結果を下記の表3に示した。
【0077】
【表3】

【0078】
[実施例4]
<試料4−1の作製>
アルカリ性溶液として、100g/L水酸化ナトリウム水溶液に硫化リチウムを0.1g/L添加したアルカリ性溶液(硫化リチウム含有量:0.01重量%)を使用した他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−1)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量2.8重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。尚、剥離層におけるイオウの分散状態の確認、および、剥離層中のイオウの含有量の測定は、ESCA PHI Quantera SXM(ULVAC−PHI社製)を用いた。
【0079】
<試料4−2の作製>
アルカリ性溶液として、100g/L水酸化ナトリウム水溶液に硫化ナトリウムを0.1g/L添加したアルカリ性溶液(硫化ナトリウム含有量:0.01重量%)を使用した他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−2)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、がオキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量2.5重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0080】
<試料4−3の作製>
アルカリ性溶液として、100g/L水酸化ナトリウム水溶液に硫化カリウムを0.1g/L添加したアルカリ性溶液(硫化カリウム含有量:0.01重量%)を使用した他は、実施例1の試料1−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−3)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量4.1重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0081】
<試料4−4の作製>
アルカリ性溶液として、100g/L水酸化カリウム水溶液に硫化ナトリウムを0.1g/L添加したアルカリ性溶液(硫化ナトリウム含有量:0.01重量%)を使用した他は、実施例1の試料1−2の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−4)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量3.2重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0082】
<試料4−5の作製>
アルカリ性溶液として、100g/L水酸化リチウム水溶液に硫化ナトリウムを0.1g/L添加したアルカリ性溶液(硫化ナトリウム含有量:0.01重量%)を使用した他は、実施例1の試料1−3の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−5)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量3.5重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0083】
<試料4−6の作製>
アルカリ性溶液として、50g/L水酸化ナトリウム水溶液と50g/L水酸化カリウム水溶液の混合溶液に硫化ナトリウムを0.1g/L添加したアルカリ性溶液(硫化ナトリウム含有量:0.01重量%)を使用した他は、実施例1の試料1−4の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−6)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量3.0重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0084】
<試料4−7の作製>
アルカリ性溶液として、50g/L水酸化ナトリウム水溶液と50g/L水酸化リチウム水溶液の混合溶液に硫化ナトリウムを0.1g/L添加したアルカリ性溶液(硫化ナトリウム含有量:0.01重量%)を使用した他は、実施例1の試料1−5の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−7)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量2.8重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4示した。
【0085】
<試料4−8の作製>
アルカリ性溶液中の硫化リチウム量を0.05g/L(0.005重量%)とした他は、試料4−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−8)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量0.5重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0086】
<試料4−9の作製>
アルカリ性溶液中の硫化リチウム量を0.08g/L(0.008重量%)とした他は、試料4−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−9)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量1.6重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0087】
<試料4−10の作製>
アルカリ性溶液中の硫化リチウム量を0.5g/L(0.05重量%)とした他は、試料4−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−10)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量4.5重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0088】
<試料4−11の作製>
アルカリ性溶液中の硫化リチウム量を0.7g/L(0.07重量%)とした他は、試料4−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−11)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量5.2重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0089】
<試料4−12の作製>
アルカリ性溶液中の硫化リチウム量を1.0g/L(0.1重量%)とした他は、試料4−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料4−12)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散(剥離層中のイオウ含有量6.4重量%)した層であり、この剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表4に示した。
【0090】
<キャリア箔付き極薄銅箔の評価>
上述のように作製したキャリア箔付き極薄銅箔(試料4−1〜試料4−12)について、実施例1と同様にして、330℃加熱後の剥離性、剥離強度を評価、測定して、結果を下記の表4に示した。
【0091】
【表4】

【0092】
[実施例5]
<試料5−1〜試料5−5の作製>
アルカリ性溶液として、5種の濃度(10g/L、20g/L、200g/L、500g/L、800g/L)の各水酸化ナトリウム水溶液に硫化リチウムを0.1g/L(0.01重量%)添加したものを使用した他は、実施例4の試料4−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料5−1〜試料5−5)を作製した。
作製したキャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散した層であり、各剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表5に示した。
【0093】
<試料5−6〜試料5−9の作製>
アルカリ性溶液の液温度を4種(30℃、40℃、60℃、80℃)に設定した他は、実施例4の試料4−1の作製と同様にして、キャリア箔付き極薄銅箔(試料5−6〜試料5−9)を作製した。
作製した各キャリア箔付き極薄銅箔の剥離層は、オキシ水酸化ニッケル中にイオウが均一に分散した層であり、各剥離層の厚み、厚みのバラツキを実施例1と同様に測定して、下記の表5に示した。
【0094】
<キャリア箔付き極薄銅箔の評価>
上述のように作製したキャリア箔付き極薄銅箔(試料5−1〜試料5−9)について、実施例1と同様にして、330℃加熱後の剥離性、剥離強度を評価、測定して、結果を下記の表5に示した。
【0095】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0096】
極薄銅箔を表面に備える種々の基板等の作製、および、このような基板等を用いた種々の製品の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア箔上に、ニッケル層またはニッケル合金層、および、剥離層を介して極薄銅箔を備え、前記剥離層はオキシ水酸化ニッケルを含有するとともに、厚みが20〜60nmの範囲内であり、厚みのバラツキが20%以下であることを特徴とするキャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項2】
前記剥離層は、イオウを0.5〜4.5重量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載のキャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項3】
前記ニッケル合金層は、ニッケル−リン合金層またはニッケル−クロム合金層であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のキャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項4】
前記剥離層と前記極薄銅箔との間に銅ストライクめっき膜を有し、前記極薄銅箔と前記銅ストライクめっき膜との合計厚みは1〜5μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項5】
前記極薄銅箔は10点平均粗さRzが0.8〜4μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項6】
前記極薄銅箔は表面に亜鉛めっき層、亜鉛合金めっき層、スズめっき層、スズ合金めっき層、ニッケルめっき層、亜鉛めっきとクロム酸塩皮膜の複合層のいずれかを有することを特徴とする請求項5に記載のキャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項7】
前記極薄銅箔は表面にシランカップリング剤層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項8】
前記極薄銅箔は表面にトリアジンチオール誘導体層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔。
【請求項9】
キャリア箔上にニッケル層またはニッケル合金層を形成した後、アルカリ性溶液中に浸漬することにより、前記ニッケル層またはニッケル合金層上にオキシ水酸化ニッケルを含有し、厚みが20〜60nmの範囲内である剥離層を形成する工程と、
前記剥離層上に銅ストライクめっきを行い、次いで、銅ストライクめっき膜上に極薄銅箔を形成する工程と、を有し、
前記アルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの1種または2種以上を10〜200g/Lの範囲で含有し、液温が40〜60℃の範囲であることを特徴とするキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法。
【請求項10】
キャリア箔上にニッケル層またはニッケル合金層を形成した後、アルカリ性溶液中に浸漬することにより、前記ニッケル層またはニッケル合金層上にオキシ水酸化ニッケルを含有し、厚みが20〜60nmの範囲内である剥離層を形成する工程と、
前記剥離層上に銅ストライクめっきを行い、次いで、銅ストライクめっき膜上に極薄銅箔を形成する工程と、を有し、
前記アルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムの1種または2種以上を10〜500g/Lの範囲で含有し、かつ、金属硫化物として硫化ナトリウム、硫化カリウムおよび硫化リチウムの1種または2種以上を0.005〜0.05重量%の範囲で含有し、液温が40〜60℃の範囲であることを特徴とするキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ性溶液への浸漬時間は30〜180秒間の範囲であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法。
【請求項12】
前記ニッケル層またはニッケル合金層の形成では、無電解めっき法または電解めっき法によりニッケル層またはニッケル−リン合金層を形成することを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法。
【請求項13】
前記ニッケル層またはニッケル合金層の形成では、真空成膜法によりニッケル層またはニッケル−クロム合金層を形成することを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法。
【請求項14】
前記極薄銅箔に10点平均粗さRzが0.8〜4μmの範囲となるように粗化処理を施し、その後、防錆処理を施す工程を有することを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法。
【請求項15】
前記極薄銅箔上にシランカップリング剤層を形成する工程を有することを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法。
【請求項16】
前記極薄銅箔上にトリアジンチオール誘導体層を形成する工程を有することを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれかに記載のキャリア箔付き極薄銅箔の製造方法。

【公開番号】特開2013−1993(P2013−1993A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137580(P2011−137580)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(593174641)メルテックス株式会社 (28)
【Fターム(参考)】