説明

キレート化合物含有組成物及びその洗浄剤用用途

【課題】高濃度のアルカリ条件において優れた安定性を有し、長期保存する場合においても安定であり、輸送効率が向上し、保存に有利な高濃度キレート化合物含有組成物、及び、洗浄力が向上し、ガラスに対する低腐食性を発揮することができる高濃度キレート化合物含有組成物の使用方法を提供するものである。
【解決手段】アルカリ性化合物とキレート化合物を含有する高濃度キレート化合物含有組成物であって、該キレート化合物は、下記一般式(1);
【化1】


(式中、X〜Xは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基を表す。)で表される化合物を必須成分とし、該キレート化合物の含有量は、1〜90質量%であり、該アルカリ性化合物の含有量は、10〜85質量%であるキレート化合物含有組成物、及び、上記キレート化合物含有組成物の洗浄剤用用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート化合物含有組成物及びその洗浄剤用用途に関する。より詳しくは、有機キレート剤、スケール防止剤、水処理剤、洗剤用ビルダー、漂白助剤、マスキング剤、繊維処理剤、紙・パルプ用添加剤、半導体洗浄剤、写真薬剤、土壌改質剤等に有用なキレート化合物含有組成物、並びに、食品工業、化学工業及び機械工業等の各種分野における各種洗浄や、家庭用及び業務用の自動食器洗浄機による洗浄に有用なキレート化合物含有組成物及びその洗浄剤用用途に関する。
【背景技術】
【0002】
キレート化合物を含む組成物は、各種の金属イオン等と錯体を形成することができるものであることから、有機キレート剤、スケール防止剤、水処理剤、洗剤用ビルダー、漂白助剤、マスキング剤、繊維処理剤、紙・パルプ用添加剤、半導体洗浄剤、写真薬剤、土壌改質剤等の各種用途に好適に用いられている。このような組成物としては、例えば、アルカリ水溶液にキレート化合物が溶解されたものが挙げられるが、輸送や保存上の便宜の点から、高濃度のアルカリ溶液に、キレート化合物が高濃度かつ安定に溶解されているものが望まれている。
【0003】
従来のキレート化合物を含有する水溶液組成物に関し、特定の構造を有するイミノカルボン酸塩を含有し、該イミノカルボン酸塩のアスパラギン酸骨格部分の異性体割合(D体/L体(モル比))が、1/0〜0.7/0.3又は0/1〜0.3/0.7であり、該イミノカルボン酸塩の含有量が40〜70重量%であることが開示されている(例えば特許文献1参照。)。このような水溶液組成物においては、高濃度のアルカリ溶液にイミノカルボン酸塩を溶解することについては記載されていない。また、洗浄剤組成物に関し、アルカリ金属水酸化物及び特定の構造を有するジコハク酸化合物を含有し、硬表面の洗浄に用いられることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この洗浄剤組成物においては、アルカリ化合物の濃度は2〜10重量%が好ましく、キレート化合物濃度は0.05〜10重量%が好ましいことが記載され、実施例においても水酸化ナトリウム2〜3%、キレート化合物0.4%程度である溶液について記載されている。このような組成物では、アルカリの濃度やキレート化合物の濃度が充分ではなく、更に濃度を高めたものは開示されていない。
【0004】
また自動食器洗浄機用洗浄剤組成物に関し、アルカリ塩20〜70%と特定構造を有するグルタミン酸ジ酢酸又はその塩1〜30%とを必須成分として含有し、1重量パーセント水溶液のpH値が9以上を呈する組成物が開示され(例えば、特許文献3参照。)、NaOH及びグルタミン酸−N,N−二酢酸(GLDA)を含む液体組成物においてGLDAが35%以上では安定な組成物の調製が難しいと記載されている。
このような組成物に含有されるキレート化合物は、高濃度のアルカリ水溶液に高濃度で溶解すると、沈殿したり、水溶液が層状になったりすることから、溶解性が向上されたキレート化合物とし、洗浄力やガラス腐食性においても向上された安定な組成物とする工夫の余地があった。
【特許文献1】特許第2644977号明細書(第1−2頁)
【特許文献2】特開平11−302691号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2000−63894号公報(第2、4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高濃度のアルカリ条件において優れた安定性を有し、長期保存する場合においても安定であり、輸送効率が向上し、保存に有利な高濃度キレート化合物含有組成物、及び、洗浄力が向上し、ガラスに対する低腐食性を発揮することができる高濃度キレート化合物含有組成物の使用方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、アルカリ水溶液にキレート化合物を溶解してなる組成物について種々検討したところ、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸(HIDS)が高濃度アルカリ水溶液に対して溶解性が高く、安定な高濃度キレート化合物含有組成物とできることを見いだした。そして、アルカリ性化合物濃度が特定され、かつHIDSの溶解濃度が特定されたものとすると、組成物としての優れた安定性が維持されるだけでなく、輸送や保存においても有利なものとすることができ、有機キレート剤、スケール防止剤、水処理剤、洗剤用ビルダー、漂白助剤、マスキング剤、繊維処理剤、紙・パルプ用添加剤、半導体洗浄剤、写真薬剤、土壌改質剤等の各種用途に好適に用いられるものとできることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、アルカリ性化合物及びHIDSの含有濃度が特定されたものを洗浄用組成物とすると、上述の作用効果とともに、洗浄力が高められ、かつガラス等に対する低腐食性を有するものとできることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、アルカリ性化合物とキレート化合物を含有する高濃度キレート化合物含有組成物であって、上記キレート化合物は、下記一般式(1);
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、X〜Xは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基を表す。)で表される化合物を必須成分とし、上記キレート化合物の含有量は、1〜90質量%であり、上記アルカリ性化合物の含有量は、10〜85質量%であるキレート化合物含有組成物である。
【0010】
本発明はまた、上記キレート化合物含有組成物の洗浄剤用用途でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のキレート化合物含有組成物は、上記一般式(1)で表されるキレート化合物を必須成分とするキレート化合物と、アルカリ性化合物とを含有するものである。
上記キレート化合物としては、キレート化合物含有組成物を100質量%する場合に、1〜90質量%であることが好ましい。上記濃度が1質量%未満であると、輸送や保存において充分には有利なものとできなかったり、洗浄剤として用いる場合に、洗浄力が充分には向上しないこととなる。下限値として好ましくは、1質量%であり、より好ましくは、2質量%であり、更に好ましくは、15質量%であり、特に好ましくは、20質量%であり、最も好ましくは、25質量%である。また、90質量%を超えると、組成物としての安定性を充分には向上できないこととなる。上記キレート化合物の含有量の範囲としては、15〜90質量%であることがより好ましい。
上記キレート化合物は、上記一般式(1)で表される化合物を必須成分とするものである。上記X〜Xにおいて、アルカリ金属原子としては,例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が好適である。上記X〜Xとしては、ナトリウム又はカリウムであることが好ましい。
【0012】
上記アルカリ性化合物としては、キレート化合物含有組成物を100質量%とする場合に、10〜85質量%であることが好ましい。上記濃度が10質量%未満であると、輸送や保存において充分には有利なものとならないこととなる。下限値として好ましくは、15質量%である。また、85質量%を超えると、組成物としての安定性を充分に向上できないこととなる。上限値としてより好ましくは、80質量%である。
【0013】
上記アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ(土類)金属塩;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)、炭酸カリウム等の炭酸アルカリ(土類)金属塩;オルソケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、セスキケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ(土類)金属塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のエタノールアミン類等が好適である。これらの中でも、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0014】
本発明のキレート化合物においては、上記一般式(1)で表される化合物を必須とすることになる。このような化合物の構造としては、アスパラギン酸骨格部分におけるL体、D体が存在することになる。
上記一般式(1)で表される化合物のアスパラギン酸骨格部分とは、一般式(1)中の下記一般式(3);
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、X及びXは、同一若しくは異なって、上記式(1)中のX及びXと同じである。)で表される構造を意味する。
またアスパラギン酸骨格部分におけるL体、D体とは、一般式(3)で表される構造中の不斉炭素原子における立体配置がS配置、R配置である化合物であり、S配置の場合はL体、R配置の場合はD体となる。
【0017】
上記一般式(1)で表される化合物の調製方法としては、アスパラギン酸及び/又はその塩と、エポキシコハク酸とを含む原料を水性媒体中で反応させる方法を挙げることができる。
上記調製方法において、原料におけるアスパラギン酸及び/又はその塩と、エポキシコハク酸との比率や、反応温度等の反応条件としては特に限定されるものではない。また、エポキシコハク酸としては、シス体、トランス体の両立体異性体を用いることができ、両者の中でもシス体を用いることが好ましい。水性媒体とは、水又は水と水に溶解する溶媒との混合物であり、水;水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル等との混合溶媒が好適であるが、これらの中でも、水を用いることが好ましい。
【0018】
上記反応において、例えば、D体のアスパラギン酸及び/又はその塩を原料として用いると、これに由来する立体配置が生成する上記一般式(1)で表される化合物の構造式中のアスパラギン酸骨格部分の不斉炭素原子にR配置として保持されることになり、アスパラギン酸骨格部分における異性体がD体である上記一般式(1)で表される化合物が生成することになる。このような上記一般式(1)で表される化合物は、アスパラギン酸のカルボン酸の一部又は全部を中和した反応液に、エポキシコハク酸を添加し反応させることで、上記一般式(1)で表される化合物を含む水溶液を得る方法で調製可能である。
【0019】
上記一般式(1)で表される化合物は、光学異性体が存在する場合があるが、それぞれの光学異性体の含有割合としては特に限定されず、L体又はD体をそれぞれ合成したり、ラセミ体を分割することにより、L体又はD体を単独で用いてもよい。なお、HIDSの生分解性は異性体間で異なり、D体、ラセミ体、L体の順に高くなることから、使用するHIDSとしては、ラセミ体を用いることが好ましく、L体を用いることがより好ましい。このように、上記一般式(1)で表される化合物のアスパラギン酸骨格部分における異性体割合を特定の範囲に調整する方法としては、上記調製方法において、D体とL体の比率が特定範囲にあるアスパラギン酸及び/又はその塩を含む原料を用いて反応を行う方法、D体の上記一般式(1)で表される化合物とL体の上記一般式(1)で表される化合物とを別々に合成し、これらを特定比率で混合する方法等が好適である。
【0020】
本発明におけるキレート化合物は、上記一般式(1)で表される化合物を必須成分とするものである。このようなキレート化合物としては、上記一般式(1)で表される化合物におけるX〜Xが、例えば、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基、アルカリ土類金属原子又は有機アンモニウム基である化合物を含有していてもよい。
上記アルカリ金属原子としては、上述したものを好適に用いることができ、アルカリ土類金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を挙げることができ、有機アンモニウム基(有機アミ
ン基)としては、例えば、モノエチルアミン基、ジエチルアミン基、トリエチルアミン基等のアルキルアミン基;モノエタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基;エチレンジアミン基、トリエチレンジアミン基等のポリアミン基等を挙げることができる。
上記キレート化合物においては、その他のキレート化合物を本発明のキレート化合物含有組成物の効果を阻害しない範囲で加えてもよい。
【0021】
上記キレート化合物含有組成物は、上述のキレート化合物、アルカリ性化合物、必要に応じてその他の化合物を混合することにより製造することができ、混合するこれらの化合物としては、粉体、スラリー、溶液等のいずれの形態で用いてもよい。好ましい混合形態としては、本発明の組成物を液体状とする場合には、例えば、アルカリ性化合物水溶液とキレート化合物水溶液とを混合する形態、アルカリ性化合物水溶液に固体のキレート化合物を添加して混合する形態等が好適である。また、固体状とする場合には、キレート化合物の粉体と固体状のアルカリ性化合物を混合する形態、キレート化合物水溶液に固体状のアルカリ性化合物を添加して混練する形態等が好適である。
【0022】
本発明のキレート化合物含有組成物は、本発明の作用効果を発揮する限り、その形態は特に限定されず、例えば、粉体、スラリー、溶液、固体等のいずれの形態で用いてもよい。これらの中でも、上記キレート化合物含有組成物が液体状であることが好適である。
上記キレート化合物含有組成物が液体状である場合、アルカリ性化合物の濃度が10〜45質量%のいずれの濃度においてもキレート化合物濃度が1〜50質量%である形態であることが好ましい。これにより高濃度アルカリにおいても組成物としての安定性を維持することができ、かつ輸送や保存において有利なものとできるだけでなく、例えば洗浄剤として用いる場合においては洗浄力が向上され、ガラスに対する低腐食性を発揮できるものとなる。すなわち、上記キレート化合物含有組成物は、水溶液であり、上記キレート化合物の含有量は、1〜50質量%であり、上記アルカリ性化合物の含有量は、10〜45質量%であるキレート化合物含有組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
上記キレート化合物含有組成物が安定化されているとは、40℃において1カ月間放置した場合に、沈殿物が実質的に生じていない状態である。
【0023】
上記キレート化合物濃度としては、キレート化合物含有組成物を100質量%する場合に1質量%未満であると、輸送や保存において充分には有利にならなかったり、洗浄剤とした場合に洗浄力が充分には向上しないこととなる。下限値として好ましくは、2質量%であり、より好ましくは、15質量%であり、更に好ましくは、20質量%である。また、50質量%を超えると、組成物としての安定性を充分に向上できないことになる。上限値として好ましくは、45質量%であり、より好ましくは、40質量%である。なお、上記キレート化合物の含有量の範囲としては、15〜50質量%であることがより好ましい。
上記アルカリ性化合物濃度としては、キレート化合物含有組成物を100質量%とする場合に10質量%未満であると、輸送や保存において充分には有利なものとならないこととなる。下限値として好ましくは、15質量%であり、より好ましくは、20質量%である。また、45質量%を超えると、組成物の安定性を充分に向上できないこととなる。上限値として好ましくは、40質量%であり、より好ましくは35質量%である。
上記キレート化合物及びアルカリ性化合物としては、上述と同様である。
【0024】
本発明のキレート化合物含有組成物は、特定範囲のキレート化合物及びアルカリ性化合物を含有するものであり、なかでも、アルカリ性化合物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムであることが好ましく、水酸化ナトリウムであることがより好ましい。上記キレート化合物は、下記一般式(2);
【0025】
【化2】

【0026】
で表される化合物であり、かつ、上記アルカリ性化合物は水酸化ナトリウムを必須として含むキレート化合物含有組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0027】
上記アルカリ性化合物として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを含むキレート化合物含有組成物は、共に、充分な洗浄力を発揮するものである。水酸化カリウムを含むキレート化合物含有組成物は、上記一般式(1)で表される化合物のみならず一般的なキレート化合物と容易に安定な組成物を形成することができるので、本発明においても好適に用いることができる。一方、水酸化ナトリウムを含むキレート化合物含有組成物では、上記一般式(1)で表される化合物は従来のキレート化合物に比べ組成物の安定な領域が広いので好適に使用することができる。また、水酸化ナトリウムは水酸化カリウム等の他のアルカリ性化合物に比べて安価であり、コスト面で有利となる利点がある。
このように、水酸化ナトリウムとキレート化合物を含有する安定化された高濃度キレート化合物含有組成物であって、上記組成物は、水溶液であり、上記キレート化合物は、上記一般式(1)で表される化合物を必須成分とし、上記キレート化合物の含有量は、15〜50質量%であり、上記水酸化ナトリウムの含有量は、10〜45質量%であるキレート化合物含有組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0028】
上記キレート化合物含有組成物は、上述のキレート化合物、水酸化ナトリウム、必要に応じてその他の化合物を混合することにより製造することができ、混合するこれらの化合物としては、粉体、スラリー、溶液等のいずれの形態で用いてもよい。好ましい混合形態としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液とキレート化合物水溶液とを混合する形態、水酸化ナトリウム水溶液に粉体のキレート化合物を添加して混合する形態、水に固体あるいは溶融した水酸化ナトリウムとキレート化合物水溶液を添加して混合する形態等が好適である。
【0029】
本発明はまた、上記キレート化合物含有組成物の洗浄剤用用途でもある。
上記キレート化合物含有組成物を洗浄剤として用いる場合においては、用途に応じて、そのまま使用されてもよいし、目的に応じて希釈剤等で適当な濃度に希釈して使用されてもよく、各種食品製造機器類(食品や飲料用の設備、食品工場のタンクや配管等)、ビール瓶、牛乳瓶等の各種瓶類等の洗浄用途や自動食器洗浄機用途等に好適に用いることができる。このような用途においては、アルカリ洗浄液を噴霧する方法で洗浄がなされ、従来では、この際、洗浄剤による微量の珪酸分の溶出によりガラスや陶器の表面に不溶性の珪酸スケールが発生して、白色の汚れが付着し曇りや光沢低下を引き起こすことになる。本発明のキレート化合物含有組成物やその希釈液を用いると、EDTA溶液(エチレンジアミン四酢酸溶液)に比べてガラス腐食性が低いので、このような白色の汚れの付着による曇りや光沢低下を抑制する作用効果を発揮することができる。
【0030】
本発明のキレート化合物含有組成物やその希釈液はまた、水不溶性Ca塩に対して優れた溶解能を有するため、使用過程で不溶性のカルシウム塩を生成する設備や容器等の洗浄にも好適に用いることができる。このような設備や容器等としては、例えば、酒造タンクが挙げられ、従来では、ビールタンク等の酒造タンクには、大部分がシュウ酸カルシウムである不溶性のカルシウム塩が生成し、また、ワインは熟成が進むと酒石酸カルシウムの白色結晶がタンクや瓶の底に発生することになる。本発明のキレート化合物含有組成物やその希釈液は、これらの不溶性のカルシウム塩を有効に溶解させることができる。例えば、EDTA溶液と同等の性能でシュウ酸カルシウムを溶解することができ、従って、スケール溶解剤として有効に使用することができる。また、本発明のキレート化合物含有組成物やその希釈液は、酒石酸カルシウム溶解能がEDTAに比べて著しく大きく、ワイン等の酒造タンクの洗浄に使用できる。
【0031】
本発明のキレート化合物含有組成物を洗浄剤として用いる場合のキレート化合物及びアルカリ性化合物等としては、上述のものが好適である。また、これらの含有量等としては上述のとおりであり、ビールタンク洗浄用洗浄剤(CIP洗浄)、食器洗浄機用洗浄剤の液体タイプ、食器洗浄機用洗浄剤の固形タイプ等の用途に応じて適宜設定することができる。
このように、本発明のキレート化合物含有組成物は、洗浄用に好適に用いることができるものであり、アルカリ性化合物とキレート化合物を含有する高濃度キレート化合物含有洗浄用組成物であって、上記キレート化合物は、上記一般式(1)で表される化合物を必須成分とし、上記キレート化合物の含有量は、15〜90質量%であり、上記アルカリ性化合物の含有量は、10〜85質量%であるキレート化合物含有洗浄用組成物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0032】
上記キレート化合物含有組成物としては、上述の化合物に加えて、無機ビルダー、分散剤、界面活性剤、消泡剤、スケール生成防止剤、造粒剤、増量剤、漂白剤、漂白活性化剤、表面改質剤、腐食防止剤、再汚染防止剤、蛍光剤、殺菌剤、酵素、香料、着色料、糖若しくは糖酸又はこれらの塩等を含有させてもよい。
上記無機ビルダーとしては、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸カリウム等が好適であり、分散剤としては、ポリアクリル酸ソーダ、アクリル酸−マレイン酸コポリマーのナトリウム塩等の高分子カルボン酸塩等が好適であり、界面活性剤としては、アルキルサルフェート塩、α−スルホ脂肪酸塩、石鹸、アルコールエトキシレート、アルキルポリグルコシド等の高起泡性界面活性剤やエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのコポリマー等の低泡性ノニオン界面活性剤が好適であり、消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤等が好適であり、スケール生成防止剤としては、ヘキサメタリン酸やそのアルカリ金属塩等が好適であり、造粒剤としては、硫酸ナトリウムや非晶質シリカ等が好適であり、増量剤としては、硫酸ナトリウムや硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が好適である。
【0033】
本発明のキレート化合物含有組成物は、種々の用途に用いることができるものであり、例えば、有機キレート剤、スケール防止剤、水処理剤、洗剤用ビルダー、漂白助剤、マスキング剤、繊維処理剤、紙・パルプ用添加剤、半導体洗浄剤、写真薬剤、土壌改質剤等として用いることができるものである。また本発明のキレート化合物含有組成物は、各種洗浄用途において、ガラス、プラスチックや金属等の硬表面に付着した汚れを洗浄、除去するのに好適に用いられるものである。洗浄方法としては、浸漬洗浄、噴射洗浄、循環洗浄、ブラシ洗浄、スプレー洗浄等の方法を用いることができる。
【0034】
本発明の組成物を洗浄用途に用いる場合においては、用途に応じて、そのまま使用されてもよいし、目的に応じて希釈剤等で適当な濃度に希釈して使用されてもよく、例えば、食品工業、化学工業等においては、ビールやジュース等の飲料、加工食品等の食料品を装填する容器類;これらの容器を収納するコンテナ類;ビール等の発酵タンク等のタンク類;食料品製造装置の配管、殺菌プレート、充填機等の装置類;作業場;タンク車輛、コンテナ車輛等の運搬車輛等の洗浄に好適に用いられるものである。
また、家庭用又は業務用の自動食器洗浄機による洗浄、化学・機械工業における金属表面洗浄、金属清浄、精密洗浄等に用いることもできる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のキレート化合物含有組成物は、上述の構成よりなり、高濃度のアルカリ条件における優れた安定性を有し、長期保存する場合においても安定であり、輸送効率が向上し、保存に有利なものである。また、キレート化合物含有組成物は、このような効果とともに、洗浄力が高められ、ガラス等に対する低腐食性を有するものであることから、各種の洗浄用途に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0037】
実施例1〜6
表1に示すアルカリ性化合物及び3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸四ナトリウム塩(HIDS・4Na)、イオン交換水を表1に示す濃度となるように混合してキレート化合物含有組成物を得た。得られたキレート化合物含有組成物の40℃における1ヶ月間の溶液の変化を表1に示した。
【0038】
比較例1〜7
表1に示すアルカリ性化合物を用い、HIDS・4Naをエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(EDTA・4Na)又はニトリロ三酢酸三ナトリウム塩(NTA・3Na)として、表1のように混合してキレート化合物含有組成物を得た。得られたキレート化合物含有組成物の40℃における1ヶ月間の溶液の変化を表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例7及び比較例8〜10
キレート化合物、NaOH及びイオン交換水を混合して表2に示す濃度になるように試験液を調整した。キレート化合物は、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸4ナトリウム塩(HIDS・4Na)、エチレンジアミン四酢酸4ナトリウム(EDTA・4Na)、ニトリロ三酢酸3ナトリウム(NTA・3Na)から選択して使用した。試験液に試験片としてスライドガラスを吊り下げ、40℃で2週間浸漬した。浸漬後の試験片はイオン交換水で洗浄したのち質量および面積を計測し、(式1)に従って腐食度(mg/cm/day)を算出した。
【0041】
【数1】

【0042】
【表2】

【0043】
評価例1〜4
キレート化合物、NaOH及びイオン交換水を混合して表3に示す濃度になるように試験液を調製した以外は実施例7及び比較例8〜10と同じ試験を行った。
【0044】
【表3】

【0045】
実施例8及び比較例11〜13
キレート化合物、NaOH及びイオン交換水を混合して表3に示す濃度になるように試験液を調整した。キレート化合物は、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸4ナトリウム塩(HIDS・4Na)、エチレンジアミン四酢酸4ナトリウム(EDTA・4Na)、ニトリロ三酢酸3ナトリウム(NTA・3Na)から選択して使用した。試験液に試験片としてスライドガラスを吊り下げ、100℃で3日間浸漬した。浸漬後の試験片はイオン交換水で洗浄したのち質量および面積を計測し、(式1)に従って腐食度(mg/cm/day)を算出した。
【0046】
【表4】

【0047】
表2〜表4から明らかなように、HIDSを含む組成物は、EDTAまたはNTAを含む比較対照に比べてガラス腐食性が低いことが示される。
【0048】
評価例5〜8
水不溶性カルシウム塩を0.6%、キレート化合物を0.2%、NaOHを3%、残部をイオン交換水として試験液を調製した。水不溶性カルシウム塩としては、酒石酸カルシウムおよびシュウ酸カルシウム、キレート化合物としては、HIDS・4NaおよびEDTA・4Naから表4に示すように選択して使用した。試験液を80℃で1時間攪拌したのち、溶解したCa2+をICP発光分析法により定量してカルシウム塩重量に換算したのち、(式2)に従ってカルシウム塩溶解能を算出した。
カルシウム塩溶解能(%)=(溶解したカルシウム塩の質量/仕込みカルシウム塩の質量)×100 (式2)
【0049】
【表5】

【0050】
表5から明らかなように、HIDSを含む組成物は、EDTAを含む比較対照に比べて水不溶性カルウシム塩溶解能が同等以上であることが示される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性化合物とキレート化合物を含有する高濃度キレート化合物含有組成物であって、
該キレート化合物は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、X〜Xは、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基を表す。)で表される化合物を必須成分とし、
該キレート化合物の含有量は、1〜90質量%であり、
該アルカリ性化合物の含有量は、10〜85質量%である
ことを特徴とするキレート化合物含有組成物。
【請求項2】
前記キレート化合物の含有量は、15〜90質量%である
ことを特徴とする請求項1記載のキレート化合物含有組成物。
【請求項3】
前記キレート化合物含有組成物は、水溶液であり、
前記キレート化合物の含有量は、1〜50質量%であり、
前記アルカリ性化合物の含有量は、10〜45質量%である
ことを特徴とする請求項1記載のキレート化合物含有組成物。
【請求項4】
前記キレート化合物の含有量は、15〜50質量%である
ことを特徴とする請求項3記載のキレート化合物含有組成物。
【請求項5】
前記キレート化合物は下記一般式(2);
【化2】

で表される化合物であり、かつ、前記アルカリ性化合物は水酸化ナトリウムを必須として含むことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のキレート化合物含有組成物。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載のキレート化合物含有組成物の洗浄剤用用途。

【公開番号】特開2006−96978(P2006−96978A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154209(P2005−154209)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】