説明

クロム酸−硫酸混液によるエッチング処理の後処理剤

【課題】クロム酸−硫酸混液によるエッチング工程を含むめっき処理方法において、エッチング処理液に含まれるクロム酸に対する安定した中和作用を有し、且つ、各種の樹脂成形品に対して優れた触媒付着能力を発揮できる新規な処理剤を提供する。
【解決手段】ジアミン化合物、又は該ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物を有効成分として含有する水溶液からなる、クロム酸−硫酸混液によるエッチング処理の後処理剤、及び
樹脂成形品に対してクロム酸−硫酸混液を用いてエッチング処理を行った後、該樹脂成形品を上記後処理剤に接触させ、その後、触媒付与及び無電解めっきを行い、更に、必要に応じて電気めっきを行うことを特徴とする樹脂成形品に対するめっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム酸−硫酸混液によるエッチング処理の後処理剤、及び該後処理剤を用いる樹脂成形品に対するめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品に対してめっき皮膜を形成する方法としては、脱脂、エッチング、中和の各処理を行った後、無電解めっき用の触媒を樹脂成形品の表面に付与し、その後、無電解めっきを行い、更に必要に応じて電気めっきを行う方法が一般的な方法である。
【0003】
この様なめっき方法では、例えば、ABS樹脂などからなる成形品を被めっき物とする場合には、クロム酸と硫酸を含有する水溶液、いわゆるクロム酸−硫酸混液をエッチング処理液として用いることが多く、エッチング処理後には、通常、樹脂表面上に付着したクロム酸を除去するために、塩酸水溶液を用いた中和処理が行われている。
【0004】
しかしながら、塩酸水溶液を用いる中和処理方法では、クロム酸の中和が不十分となることがあり、特に、長期間処理液を用いると、クロム酸などの不純物の持ち込みや処理液濃度の変動などによって塩酸水溶液の中和処理能力が低下し易い。このためクロム酸の中和が不十分となり、その影響で触媒能力が低下してめっき皮膜の析出不良が生じ易くなる。
【0005】
また、樹脂成形品に対する電気めっき方法として、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液を用いて触媒を付与した後、糖類を還元剤として含む無電解銅めっき液を用いて薄い導電性皮膜を形成し、その後電気めっきを行う方法が知られている(下記特許文献1参照)。この方法によれば、簡単な処理工程によって短時間に均一な電気めっき皮膜を形成することが可能であるが、やはりエッチング処理液としてクロム酸−硫酸混液を用いる場合には、クロム酸の中和処理が不十分であると、めっきの析出不良が生じ易くなる。
【0006】
一方、ABS樹脂等のスチレン系樹脂以外の樹脂、例えば、ポリフェニレンオキサイド樹脂やこれを含むポリマーアロイなどは、耐熱性や機械特性に優れたエンジニアリングプラスチックスとして注目されているが、クロム酸−硫酸混液によるエッチング処理を行うだけでは、密着性や外観などの良好なめっき皮膜を形成することは困難である。
【特許文献1】国際公開公報WO98/45505
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、クロム酸−硫酸混液によるエッチング工程を含むめっき処理方法において、エッチング処理液に含まれるクロム酸に対して安定した中和作用を有し、且つ、各種の樹脂成形品に対して優れた触媒付着能力を発揮できる新規な処理剤を提供することである。
【0008】
本発明の更に他の目的は、樹脂成形品に対して析出性、密着性などに優れためっき皮膜を形成することが可能な、上記処理剤を用いるめっき処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、クロム酸−硫酸混液をエッチング処理液として用いるめっき処理方法において、特定のジアミン化合物又は該ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物を有効成分として含有する水溶液をエッチング処理の後処理剤として用いる場合には、安定した中和処理が可能となり、長期間継続して良好なめっき皮膜を形成できることを見出した。更に、該後処理剤を用いる場合には、触媒の付着性が向上し、従来、クロム酸−硫酸混液によるエッチング処理では良好なめっき皮膜を形成することが困難であるとされていたエンジニアリングプラスチックなどの各種の樹脂成形品に対しても、良好なめっき皮膜を形成することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のクロム酸−硫酸混液によるエッチング処理の後処理剤、及び該後処理剤を用いる樹脂成形品に対するめっき方法を提供するものである。
1. 一般式:NH−R−NH
(式中、Rは、置換基として低級アルキル基を有することのある炭素数4〜10のアルキレン基又はシクロアルキレン基であり、該アルキレン基には、1個又は2個以上の低級アルキル基が置換していてもよい。該アルキレン基の異なる炭素原子に2個以上の低級アルキル基が置換する場合には、該低級アルキル基は互いに結合して、該低級アルキル基が結合する炭素原子と共に環状構造を形成していてもよく、環状構造を形成する炭素原子には低級アルキル基が置換していてもよい。)で表されるジアミン化合物、又は該ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物を有効成分として含有する水溶液からなる、クロム酸−硫酸混液によるエッチング処理の後処理剤。
2. 一般式:NH−R−NHで表されるジアミン化合物が、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン及び1,2-ジアミノシクロヘキサンからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である上記項1に記載の後処理剤。
3. ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物が、数平均分子量1,000〜100,000の重縮合物である上記項1に記載の後処理剤。
4. 樹脂成形品に対してクロム酸−硫酸混液を用いてエッチング処理を行った後、該樹脂成形品を上記項1〜3のいずれかに記載の後処理剤に接触させ、その後、触媒付与及び無電解めっきを行い、更に、必要に応じて電気めっきを行うことを特徴とする樹脂成形品に対するめっき方法。
5. 下記の処理工程を含む樹脂成形品に対するめっき方法:
(1)クロム酸−硫酸混液を樹脂成形品に接触させてエッチング処理を行う工程、
(2)上記(1)工程でエッチング処理を行った樹脂成形品を上記項1〜3のいずれかに記載の後処理剤に接触させる工程、
(3)上記(2)工程で後処理を行った樹脂成形品を、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液に接触させて、該樹脂成形品に無電解めっき用触媒を付与する工程、
(4)銅化合物、還元性を有する糖類、錯化剤及びアルカリ金属水酸化物を含有する無電解めっき液を用いて、上記(3)工程で無電解めっき用触媒を付与した樹脂成形品に導電性皮膜を形成する工程、
(5)上記(4)工程で導電性皮膜を形成した樹脂成形品に電気めっきを行う工程。
【0011】
本発明の後処理剤は、クロム酸−硫酸混塩を用いて樹脂成形品に対してエッチング処理を行う際に、エッチング処理の後処理剤として使用されるものである。通常は、エッチング処理を行った後、水洗を行い、その後、被処理物である樹脂成形品を本発明の後処理剤に接触させることによって、エッチング処理の後処理を行うことができる。
【0012】
樹脂成形品
処理対象となる樹脂成形品の種類については特に限定はなく、クロム酸−硫酸混液によってエッチング処理が可能な樹脂素材からなるものであればよい。代表例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS)樹脂、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体(AES)樹脂等のスチレン系樹脂等を挙げることができる。
【0013】
更に、従来の処理工程を採用する場合には、クロム酸−硫酸混液によるエッチングでは、良好なめっき皮膜を形成することが難しいとされていた、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂などのエンジニアリングプラスチックに対しても、本発明の後処理剤を用いることによって、良好なめっき皮膜を形成することができる。
【0014】
エッチング処理
エッチング処理に用いるクロム酸−硫酸混液としては、通常、樹脂成形品に対するエッチング処理液として用いられているものを用いることができる。例えば、クロム酸−硫酸混液の代表例としては、クロム酸360〜420g/L程度と硫酸360〜420g/L程度を含有する水溶液を挙げることができる。
【0015】
エッチング処理方法については特に限定はなく、常法に従って樹脂成形品の被処理面をエッチング処理液に接触させればよい。通常は、エッチング処理液中に樹脂成形品を浸漬する方法によって処理すればよい。処理条件についても常法に従えばよく、例えば、浸漬法にて処理を行う場合には、液温を60〜70℃程度とすることが好ましい。浸漬時間については特に限定はなく、エッチング処理の進行の程度によって適宜決めれば良く、通常、5〜15分程度の浸漬時間とすれば良い。
【0016】
後処理剤
本発明の後処理剤は、一般式:NH−R−NHで表されるジアミン化合物、又は該ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物を有効成分として含有する水溶液からなるものである。
【0017】
上記ジアミン化合物において、Rは、置換基として低級アルキル基を有することのある炭素数4〜10のアルキレン基又はシクロアルキレン基である。該アルキレン基には、1個又は2個以上の低級アルキル基が置換していてもよく、該アルキレン基の異なる炭素原子に2個以上の低級アルキル基が置換する場合には、該低級アルキル基は互いに結合して、該低級アルキル基が結合する炭素原子と共に環状構造を形成していてもよい。更に、環状構造を形成する炭素原子には低級アルキル基が置換していてもよい。置換基として含まれる低級アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、sec−ブチル等の炭素数1〜4程度のアルキル基を例示できる。
【0018】
上記した一般式:NH−R−NHで表されるジアミン化合物の具体例としては、下記の化合物を例示できる。
【0019】
【化1】

【0020】
また、上記ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物としては、例えば、数平均分子量が1,000〜100,000程度の範囲の重縮合物を用いることができる。
【0021】
本発明の後処理剤における有効成分であるジアミン化合物の又該ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物の濃度は、0.01〜50g/l程度とすることが好ましく、0.02〜10g/l程度とすることがより好ましい。
【0022】
本発明の後処理剤を用いる後処理方法については特に限定的ではなく、エッチング処理を行った後、水洗を行い、その後、上記した後処理剤に被めっき物を接触させればよい。通常は、該後処理剤中に被めっき物を浸漬することによって効率のよい処理が可能である。後処理の条件についても特に限定的ではないが、例えば、10〜50℃程度の後処理剤中に10秒〜10分間程度被めっき物を浸漬すればよい。
【0023】
本発明の後処理剤は、pH値については特に限定されない。ただし、処理対象となる樹脂成形品が、めっきを析出させない部分を含む2種類の樹脂から形成されている場合や、樹脂成形品の非めっき部分にめっき用レジスト皮膜が形成されている場合等には、目的とする樹脂表面にのみめっき皮膜を選択的に析出させることが必要となる。このような場合には、pHを12程度以下とすることが好ましく、8程度以下とすることがより好ましい。pHの下限値については、特に限定的ではないが、4程度とすることが好ましい。この様なpH範囲とすることによって、選択性良くめっき皮膜を形成することが可能となる。pHを上記範囲に調整する場合には、エッチング液の持ち込みによるpHの変動を抑制するために、更に、緩衝剤を添加しても良い。緩衝剤としては、炭酸、ほう酸、りん酸、亜りん酸、しゅう酸、酢酸、マロン酸、りんご酸、くえん酸、グリコール酸、グルコン酸、こはく酸、グリシン、ニトリロジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、2−アミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンおよびこれらの塩類等を例示できる。これらのうち一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0024】
緩衝剤の添加量については特に限定的ではないが、通常、1〜50g/l程度とすることが好ましい。
【0025】
触媒付与及びめっき処理
上記した方法でエッチング処理と、後処理を行った後、無電解めっき用の触媒を付与して無電解めっきを行うことによって、密着性、物性、外観などに優れためっき皮膜を形成することができる。
【0026】
本発明の後処理剤は、長期間使用した場合にも、中和処理能力の低下が少ないので、公知の方法で触媒付与と無電解めっきを行うことによって、長期間安定して良好なめっき皮膜を形成することができる。更に、クロム酸−硫酸混液によるエッチング処理では良好なめっき皮膜を形成することが困難とされていたポリフェニレンオキサイド樹脂からなる樹脂成形品に対しても、触媒の付着性が向上して均一に触媒核を付着させることができ、良好なめっき皮膜を形成することが可能となる。
【0027】
触媒付与処理の具体的な方法としては、無電解めっき皮膜を形成する際に行われている公知の方法をいずれも適用できる。一般的には、パラジウムを付与する方法が広く行われており、例えば、センシタイジング−アクチベーション法、キャタリスト−アクセレーター法、アルカリキャタリスト法等により触媒を付与すればよい。尚、必要に応じて、常法に従ってプリディップ処理などを行ってもよい。
【0028】
更に、無電解めっき皮膜を形成する際に用いられるその他の触媒、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、白金等の触媒金属を付与してもよい。また、上記した触媒金属を二種類以上併用してもよい。例えば、Sn−Ag触媒(奥野製薬工業(株)、MOONプロセス)、Sn−Ag−Pd触媒(奥野製薬工業(株)、テクノクリアプロセス)などを適用できる。
【0029】
無電解めっき液としては、公知の自己触媒性の無電解めっき液であれば特に限定なく使用できる。この様な無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル−コバルト合金めっき液、無電解金めっき液等を例示できる。
【0030】
無電解めっきの条件については、公知の方法と同様とすればよい。また、必要に応じて無電解めっき皮膜を二層以上形成してもよい。
【0031】
また、無電解めっき皮膜を形成した後、必要に応じて、電気めっきを行うことができる。この場合、無電解めっきの後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、その後、電気めっきを行えばよい。電気めっき液の種類については特に限定はなく、公知の電気めっき液から目的に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
めっき処理工程
本発明の後処理剤による後処理を含むめっき処理工程の一例として、還元性を有する糖類を還元剤として含む無電解銅めっき液を用いる処理工程を以下に示す。このめっき処理工程によれば、触媒付与後のアクセレーション(活性化工程)や導電性皮膜(無電解銅めっき皮膜)形成後の活性化処理が不要となり、処理効率が向上する。また、使用する無電解銅めっき液の安定性が良好であり、更に、形成される導電性皮膜(無電解銅めき皮膜)に欠陥が少ないために外観、物性などが良好な電気めっき皮膜を安定して形成できる。また、無電解銅めっき液の還元剤として比較的還元力の弱い糖類を用いるために、めっき用治具への無電解銅めっきの析出がほとんどなく、めっき用治具を交換することなく、無電解めっき処理と電気めっき処理を連続して行うことが可能となる。
【0033】
以下、このめっき処理工程について具体的に説明する。
(1)エッチング及び後処理工程
エッチング処理工程と後処理工程については、エッチング処理液としてクロム酸−硫酸混液を用い、後処理液として前記ジアミン化合物又は該ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物を含有する水溶液を用いて、上記した処理方法と同様にして各々の処理を行えばよい。尚、エッチング処理に先立って、必要に応じて、常法に従って、脱脂などの前処理を行うことができる。
【0034】
(2)触媒付与工程
次いで、無電解めっき用の触媒液として、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液を用いて、被処理物に無電解めっき用触媒を付与する。触媒液として用いるコロイド溶液としては、無電解めっき用の触媒液として公知のものを使用できる。この様な公知の触媒液は、通常、無電解めっきに対する触媒能を有する化合物として知られている白金化合物、金化合物、パラジウム化合物、銀化合物等の貴金属化合物を含有するものである。この様な触媒液に配合される白金化合物の具体例としては塩化白金塩等、金化合物の具体例としては塩化金塩、亜硫酸金塩等、パラジウム化合物の具体例としては塩化パラジウム、硫酸パラジウム等、銀化合物の具体例としては硝酸銀、硫酸銀等を挙げることができる。貴金属化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。本発明では、特に、貴金属化合物としてパラジウム化合物を含有する触媒液を用いることが好ましい。貴金属化合物の配合量については、特に限定的ではないが、通常、金属量として100〜500mg/l程度の範囲が好適である。
【0035】
上記コロイド溶液に配合する第一錫化合物としては、塩化第一錫、硫酸第一錫等が好ましく、これらを一種単独又は適宜混合して配合することができる。特に、塩化第一錫が好ましい。第一錫化合物の配合量は、通常、錫金属として10〜50g/l程度で、貴金属量の50〜120重量倍程度とすればよい。
【0036】
上記コロイド溶液は、一般に、pH1程度以下の強酸性のコロイド溶液であり、常法に従って製造することができる。例えば、貴金属化合物と第一錫化合物を、それぞれ別個に酸溶液に溶解し、これらの溶液を混合してコロイド溶液とし、使用時に適度な濃度に調整して用いることができる。この際に用いる酸溶液としては、塩酸溶液、硫酸溶液、塩酸と硫酸の混酸、塩化ナトリウムを含有する塩酸、塩化ナトリウムを含有する硫酸、塩化ナトリウムを含有する塩酸と硫酸の混酸等が挙げられる。
【0037】
上記コロイド溶液には、更に、必要に応じて、低級脂肪族モノカルボン酸銅、臭化銅等を配合してもよい。特に、銅化合物としては、溶解性が良好であること等から、2価の銅化合物を用いることが好ましい。また、低級脂肪族モノカルボン酸銅のうちでは、ギ酸銅、酢酸銅等が好ましく、これらを用いることによって、安定なコロイド溶液が形成されて、均一なコロイド膜として被処理物に付着させ易くなる。銅化合物の配合量は、銅金属として0.2〜3g/l程度が好ましく、0.5〜2g/l程度がより好ましい。
【0038】
特に、パラジウム化合物をパラジウム金属量として150〜300ppm程度含有し、第一錫化合物を錫金属量として10〜22g/l程度含有する塩酸水溶液を触媒液として用いることが好ましい。
【0039】
コロイド溶液による処理方法としては、通常、10〜50℃程度、好ましくは、25〜45℃程度のコロイド溶液中に、被処理物を2〜10分程度、好ましくは3〜5分程度浸漬すればよい。この処理により、被処理物の表面に均一な触媒膜を付着させることができる。
【0040】
(3)めっき工程:
次いで、触媒を付与した樹脂成形品に、無電解銅めっき液を用いて導電性を有する皮膜を形成する。
【0041】
無電解銅めっき液としては、銅化合物、還元性を有する糖類、錯化剤及びアルカリ金属水酸化物を含有する無電解銅めっき液を用いる。
【0042】
上記無電解銅めっき液では、銅化合物としては、硫酸銅、塩化銅、炭酸銅、酸化銅、水酸化銅等を使用できる。銅化合物の含有量は、銅金属量として0.1〜5g/l程度、好ましくは0.8〜1.2g/l程度とすればよい。
【0043】
上記無電解銅めっき液に配合する還元性のある糖類の具体例としては、ブドウ糖、グルコース、ソルビット、セルロース、ショ糖、マンニット、グルコノラクトン等を挙げることができる。糖類の含有量は3〜50g/l程度とし、好ましくは10〜20g/l程度とする。
【0044】
該無電解銅めっき液に配合する錯化剤としては、ヒダントイン類、有機カルボン酸類等を用いることができる。ヒダントイン類の具体例としては、ヒダントイン、1−メチルヒダントイン、1,3−ジメチルヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、アラントイン等を挙げることができ、有機カルボン酸類の具体例としては、クエン酸、酒石酸、コハク酸及びこれらの塩類等を挙げることができる。錯化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。錯化剤の配合量は、2〜50g/l程度とし、好ましくは10〜40g/l程度とする。
【0045】
上記無電解銅めっき液には、更に、アルカリ金属水酸化物を配合することが必要である。アルカリ金属水酸化物としては、入手の容易性、コストなどの点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を用いることが適当である。アルカリ金属水酸化物は、一種単独又は適宜混合して用いることができる。アルカリ金属水酸化物の配合量は、10〜80g/l程度とすることが好ましく、30〜50g/l程度とすることがより好ましい。
【0046】
尚、該無電解銅めっき液では、上記した各成分の配合割合の範囲内において、めっき浴のpHが10.0〜14.0の範囲、好ましくは11.5〜13.5の範囲となるように、使用成分の組み合わせ、具体的な配合割合などを適宜調整することが好ましい。
【0047】
上記無電解めっき液には、更に、必要に応じて、安定剤として黄血塩、ロダン塩等を配合できるが、特に、該無電解めっき液は、安定性が非常に良好であるので、安定剤を使用しないか、又は安定剤を使用する場合にも、非常に弱い安定剤であるタンニン酸、ロダニン等を数mg/l程度の少量配合するだけで、良好な安定性を維持できる。
【0048】
無電解めっき液による処理工程では、無電解銅めっき液の液温を、20〜70℃程度、好ましくは35〜50℃程度とし、このめっき液中に被処理物を30秒〜20分程度、好ましくは3〜5分程度浸漬すればよい。
【0049】
この工程により、被処理物の表面に非常に薄い膜厚の導電性皮膜が形成され、この皮膜上に直接電気めっきを行うことが可能となる。
【0050】
次いで、常法に従って被処理物を電気めっき処理に供する。電気めっき浴の種類は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの電気めっき浴も使用可能である。又、めっき処理の条件も常法に従えばよい。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、樹脂成形品に対してクロム酸−硫酸混液を用いてエッチング処理を行う場合に、塩酸水溶液による中和処理では、処理液の処理能力不足や処理能力の低下によって生じ易かっためっき析出不良を改善して、安定して良好なめっき皮膜を形成することが可能となる。
【0052】
また、これまでは良好なめっき皮膜を形成することが困難であった樹脂素材、例えばポニフェニレンオキサイド樹脂等に対しても密着性、外観、物性などに優れた良好なめっき皮膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0054】
実施例1
被処理物として、ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商標名:サイコラック3001M)、PC/ABSアロイ樹脂(UMG ABS(株)製、商標名:UMGアロイTC−41M)及びポリフェニレンオキサイド樹脂(GEプラスチックス(株)製)の各樹脂製の平板(10cm×5cm×厚さ0.3cm、表面積約1dm2)を用いた。
【0055】
めっき用冶具として被処理物との接点部が2カ所の冶具を使用して、被処理物を冶具にセットした後、アルカリ系脱脂溶液(奥野製薬工業(株)製、商標名:エースクリーンA−220、50g/L水溶液)中に50℃で5分間浸漬し、水洗した。
【0056】
その後、無水クロム酸400g/L及び硫酸400g/Lを含有する水溶液からなるエッチング溶液に67℃で10分間浸漬して、被処理物の表面を粗化した。その後、被処理物を水洗し、後処理剤として下記の本発明浴1〜3又は比較浴を用いて、浴中に25℃で2分浸漬することによって、エッチングの後処理を行った。
*後処理剤
本発明浴1:1,6-ジアミノヘキサンを10g/L含有するpH11〜12の水溶液
本発明浴2:1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを1g/L含有するpH7〜8の水溶液
本発明浴3:1,6-ジアミノヘキサンとエピクロルヒドリンとの重縮合物(商標名:ユニセンスKHE103L、センカ(株)製、数平均分子量役13,000)を0.1g/L含有するpH7〜8の水溶液
比較浴1:35%塩酸を50ml/L含有するpH1以下の水溶液。
【0057】
次に、プリディップ処理として、35%塩酸250ml/Lを含有する水溶液に被処理物を25℃で1分間処理した後、塩化パラジウム330mg/L、塩化第一錫35g/L及び35%塩酸250ml/Lを含有するpH1以下のコロイド溶液からなる触媒付与液中に35℃で6分間浸漬して、被処理物に均一に触媒を吸着させた。
【0058】
その後水洗を行い、無電解銅めっき浴(奥野工業(株)製 CRPセレクター浴)に45℃で3分浸漬して、導電性皮膜を形成した。
【0059】
次いで、充分に水洗し、冶具を変えることなく次工程の電気銅めっきに移行した。電気銅めっき液としては、硫酸銅250g/L、硫酸50g/L及び塩素イオン50ppmを含有する水溶液に、光沢剤として奥野製薬工業(株)製のCRPカッパーMU(商標名)5ml/LとCRPカッパーA(商標名)0.5ml/Lを添加しためっき液を用い、含リン銅板を陽極とし、被処理品を陰極として、ゆるやかなエアー撹拌を行いながら、液温25℃、電流密度1.5A/dm2で最大5分間電気銅めっきを行い、電気銅めっき皮膜が被処理物の全面をカバーリングするまでの時間を測定した。また、電気銅めっき皮膜の析出状態を目視で観察して、電気銅めっきの析出状態を評価した。被めっき物の全面に均一な銅めっき皮膜が形成されている場合を○として評価した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
以上の結果から明らかなように、本発明の後処理剤を用いる場合には、無電解銅めっき処理によって良好な導電性皮膜が形成され、その結果、均一な電気銅めっき皮膜を短時間に形成することができる。また、比較浴である塩酸水溶液による中和処理では均一なめっき皮膜を形成できないポリフェニレンオキサイド樹脂に対しても、本発明の後処理剤で処理することによって、良好な電気銅めっき皮膜を形成することができる。
【0062】
実施例2
実施例1と同様にして無電解銅めっきまでの処理を行ったABS樹脂製平板とPC/ABSアロイ樹脂製平板を充分に水洗し、乾燥させた後、抵抗率測定器(三菱化学(株)製、商標名:Loresta MP)を用いて樹脂表面の抵抗値を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
以上の結果から明らかなように、本発明の後処理剤で処理した場合には、無電解銅めっきの析出性が良好となり、形成される導電性皮膜は抵抗値が低く優れた導電性を有するものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:NH−R−NH
(式中、Rは、置換基として低級アルキル基を有することのある炭素数4〜10のアルキレン基又はシクロアルキレン基であり、該アルキレン基には、1個又は2個以上の低級アルキル基が置換していてもよい。該アルキレン基の異なる炭素原子に2個以上の低級アルキル基が置換する場合には、該低級アルキル基は互いに結合して、該低級アルキル基が結合する炭素原子と共に環状構造を形成していてもよく、環状構造を形成する炭素原子には低級アルキル基が置換していてもよい。)で表されるジアミン化合物、又は該ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物を有効成分として含有する水溶液からなる、クロム酸−硫酸混液によるエッチング処理の後処理剤。
【請求項2】
一般式:NH−R−NHで表されるジアミン化合物が、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン及び1,2-ジアミノシクロヘキサンからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の後処理剤。
【請求項3】
ジアミン化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物が、数平均分子量1,000〜100,000の重縮合物である請求項1に記載の後処理剤。
【請求項4】
樹脂成形品に対してクロム酸−硫酸混液を用いてエッチング処理を行った後、該樹脂成形品を請求項1〜3のいずれかに記載の後処理剤に接触させ、その後、触媒付与及び無電解めっきを行い、更に、必要に応じて電気めっきを行うことを特徴とする樹脂成形品に対するめっき方法。
【請求項5】
下記の処理工程を含む樹脂成形品に対するめっき方法:
(1)クロム酸−硫酸混液を樹脂成形品に接触させてエッチング処理を行う工程、
(2)上記(1)工程でエッチング処理を行った樹脂成形品を請求項1〜3のいずれかに記載の後処理剤に接触させる工程、
(3)上記(2)工程で後処理を行った樹脂成形品を、貴金属化合物及び第一錫化合物を含有するコロイド溶液に接触させて、該樹脂成形品に無電解めっき用触媒を付与する工程、
(4)銅化合物、還元性を有する糖類、錯化剤及びアルカリ金属水酸化物を含有する無電解めっき液を用いて、上記(3)工程で無電解めっき用触媒を付与した樹脂成形品に導電性皮膜を形成する工程、
(5)上記(4)工程で導電性皮膜を形成した樹脂成形品に電気めっきを行う工程。

【公開番号】特開2009−144227(P2009−144227A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325704(P2007−325704)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】