説明

クロロスルホニルイソシアナートの製造方法

本発明は、三酸化硫黄とクロロシアンとを反応させてクロロスルホニルイソシアナートを製造する方法において、反応溶媒としてクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液を用い、還流下、クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で、それぞれ希釈した三酸化硫黄およびクロロシアンを反応系に略等モルずつ同時供給することを特徴とするクロロスルホニルイソシアナートの製造方法である。本発明の製造方法によれば、省設備化を達成しつつ、温度制御の手間を省き、三酸化硫黄とクロロシアンから、操作性よく、高収率で、高純度のクロロスルホニルイソシアナートを製造することができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はクロロスルホニルイソシアナートの製造方法に関する。さらに詳しくは、三酸化硫黄とクロロシアンから、操作性よく、高収率でクロロスルホニルイソシアナートを製造する方法に関する。
【背景技術】
クロロスルホニルイソシアナートは、医農薬の製造中間体等として工業的に有用である。
従来、クロロスルホニルイソシアナートは、三酸化硫黄とクロロシアンとの反応で合成できることが知られており、その製造方法がいくつか報告されている。例えば、(a)Chem.Ber.,89,1071(1956)、および西ドイツ特許928896号公報には、−50℃以下の低温下で、クロロシアン中に三酸化硫黄を添加して反応させる方法が記載されている。また、(b)ヨーロッパ特許294613号公報、およびスイス国特許680292A5号公報には、三酸化硫黄とクロロシアンとを100℃〜200℃で反応させる方法が記載されている。
しかし、前記(a)の方法の場合、三酸化硫黄に対して多量(1.5〜3倍モル)のクロロシアンを使用するため、経済面から好ましいものとはいえない。また、毒性の強いクロロシアンを過剰に使用するものであるため、安全上の観点からも好ましいものとはいえなかった。さらに、得られるクロロスルホニルイソシアナートの単離収率が60〜62%と低いことや、品質(特に純度)が市場の要求を満たしていないという問題があった。また、(b)の方法の場合には、三酸化硫黄およびクロロシアンを反応系に供給する流量の制御が容易ではなく、(a)の方法と同様、得られるクロロスルホニルイソシアナートの収率が低いことや、品質面に問題があった。
これら問題を解決すべく、(c)反応系の温度を20℃〜50℃に保ちつつ、三酸化硫黄中へクロロシアンを添加して反応させる方法(特開昭63−77855号公報)や、(d)反応系の温度を10℃〜50℃に保ちつつ、三酸化硫黄とクロロシアンを同時に反応系内に供給して反応させる方法(特開平1−228955号公報)、(e)塩素系炭化水素溶媒中で、三酸化硫黄とクロロシアンとを反応させる方法(特開平4−164063号公報)、(f)反応系の温度を−10℃〜17℃に保ちつつ、三酸化硫黄とクロロスルホニルイソシアナートの混合物にクロロシアンを供給して反応させる方法(特開2000−53630号公報)などが提案されている。
さらに最近では、(g)クロロスルホニルイソシアナートを蒸留分離した釜残液の分解処理を行うと共に、クロロスルホニルイソシアナートの蒸留分離や釜残液の分解・蒸留処理により得られる低沸点留分を回収し、この回収液を三酸化硫黄とクロロシアンとの反応に投入することにより再利用する方法(特開2003−40854号公報)も提案されている。
これら(c)〜(g)の方法によれば、いずれも、工業的に比較的簡単な手法でクロロスルホニルイソシアナートを、比較的高収率(74%〜91%)かつ高純度(90%〜98%)で得ることが可能である。
しかしながら、(c)〜(f)の方法では、三酸化硫黄とクロロシアンとの発熱反応を、適切な温度範囲に維持するための冷却操作が必要であり、冷却設備費が高価となる為、工業的な製法としては満足できるものではなかった。また、これらの方法において収率を向上させるためには、副生成物であるクロロピロスルホニルイソシアナートを熱分解処理することにより、クロロスルホニルイソシアナートを得ることが必須である。クロロピロスルホニルイソシアナートの熱分解操作は、危険で煩雑かつ高コストであり、工業的に問題があった。
さらに、(f)の方法の場合、低沸点留分を回収して再利用するためには、工程数が多く、煩雑な後処理操作が必要となり、そのための必要設備が多くなることが問題となっていた。
本発明は、上記した従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、高収率で高純度のクロロスルホニルイソシアナートを得ることができ、かつ省設備化が達成できる、簡便で、操作性のよいクロロスルホニルイソシアナートの製造方法を提供することを課題とする。
【発明の開示】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液を、三酸化硫黄およびクロロシアンの希釈液とすることにより、反応系に供給する三酸化硫黄およびクロロシアンの流量制御が容易になることを見出した。また、反応溶媒としてクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液を用いることにより、溶媒還流下において反応完結および副生成物の熱分解処理を同時に行うことができることを見出し、本発明を完成するに到った。
かくして本発明によれば、三酸化硫黄とクロロシアンとを反応させてクロロスルホニルイソシアナートを製造する方法において、反応溶媒としてクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液を用い、還流下、クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で、それぞれ希釈した三酸化硫黄およびクロロシアンを反応系に略等モルずつ同時供給することを特徴とするクロロスルホニルイソシアナートの製造方法が提供される。
本発明のクロロスルホニルイソシアナートの製造方法においては、還流温度が50℃〜110℃であるのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明のクロロスルホニルイソシアナートの製造方法について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、三酸化硫黄とクロロシアンとを反応させてクロロスルホニルイソシアナートを製造する方法である。
(1)三酸化硫黄
本発明に用いる三酸化硫黄は、液状のものであればその種類に特に制限されないが、反応性に富む点から特にγ体が好ましい。本発明に用いる三酸化硫黄の純度は特に制限されないが、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上である。また、本発明に用いる三酸化硫黄は、有機ケイ素、四塩化炭素、ジメチル硫酸、ホウ素化合物、リン化合物、芳香族スルホン酸等公知の重合防止剤を含有するものであってもよい。重合防止剤の含有量は特に制限されないが、通常0.001〜1重量%の範囲である。
(2)クロロシアン
本発明の製造方法においては、液状状態のクロロシアンを使用する。クロロシアンは青酸と塩素から工業的に製造されており、脱水剤あるいは蒸留により脱水されたものの使用が好ましい。また、用いるクロロシアンの純度は特に制限されないが、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上である。
クロロシアンの使用量(連続式の場合には単位時間あたりの使用量)は、三酸化硫黄に対して、通常0.8〜1.2モル当量、好ましくは0.9〜1.1モル当量である。クロロシアンの使用量が、0.8モル当量未満あるいは1.2モル当量を超える場合には、クロロピロスルホニルイソシアナートや2,6−ジクロロ−1,4,3,5−オキサチアジアジン−4,4−ジオキシド等の副生成物の生成が多くなり、収率の低下や完結時間が長引く等の弊害が起こるため、好ましくない。
(3)クロロスルホニルイソシアナートの製造方法
本発明の製造方法は、反応溶媒としてクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液を用い、還流下、クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で、それぞれ希釈した三酸化硫黄およびクロロシアンを反応系に略等モルずつ同時供給することを特徴とする。
反応溶媒並びに三酸化硫黄およびクロロシアンの希釈用として使用するクロロスルホニルイソシアナートの純度については特に限定的ではなく、高純度のクロロスルホニルイソシアナートであっても、クロロスルホニルイソシアナートを含有する液であってもよい。
クロロスルホニルイソシアナートを含有する液としては、クロロスルホニルイソシアナート製造の際の反応液、蒸留精製の際に留出する初留分、本留分、釜残等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、反応液の一部を次バッチの溶媒用として反応槽に残してもよい。
本発明において、反応溶媒として用いるクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液の使用量は、攪拌および温度管理が可能となる量であれば特に限定されない。通常は三酸化硫黄の使用量に対して0.2〜1モル当量、好ましくは0.2〜0.5モル当量である。
本発明においては、三酸化硫黄とクロロシアンは、クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で希釈したものを用いる。
三酸化硫黄およびクロロシアンをクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で希釈して用いることにより、流量を制御しながら、このクロロシアンと三酸化硫黄の希釈液を還流下に供給することができる。したがって、副生成物の生成を抑え、選択的に、クロロスルホニルイソシアナートを得ることができる。
クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で希釈した三酸化硫黄とクロロシアンの使用量は、三酸化硫黄の希釈に関しては特に限定されない。クロロシアンに関しては希釈液であるクロロスルホニルイソシアナート中からクロロシアンが揮発しないだけの量が必要となる。通常はクロロシアンの使用量に対して0.2〜1モル当量、好ましくは0.2〜0.5モル当量である。
クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で希釈した三酸化硫黄、およびクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で希釈したクロロシアン(以下、これらをまとめて「原料」ということがある。)の供給方法は、回分式であっても連続式であっても差し支えない。連続式の場合には、反応槽のほかに、反応を完結させるための完結槽を設けることもできる。
本発明の製造方法においては、クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で、それぞれ希釈した三酸化硫黄とクロロシアンは、反応溶媒還流下に略等モルずつ同時に供給する。ここで、「略等モルずつ」とは、三酸化硫黄とクロロシアンの供給量の比が、三酸化硫黄:クロロシアンのモル比で、0.8:1.2〜1.2:0.8、好ましくは1.1:0.9〜0.9:1.1の範囲であることを意味する。なお、供給量は、連続式の場合には単位時間あたりの供給量である。
前記原料の供給バランスが崩れた場合は、クロロピロスルホニルイソシアナートや、2,6−ジクロロ−1,4,3,5−オキサチアジアジン−4,4−ジオキシド等の副生成物の生成量が多くなり、収率低下や反応完結の時間が長引く等の弊害が起こる。
前記原料の供給温度および反応温度は、溶媒であるクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液の還流温度である。還流温度は通常50℃〜110℃である。クロロピロスルホニルイソシアナートや2,6−ジクロロ−1,4,3,5−オキサチアジアジン−4,4−ジオキシド等の副生成物を短時間で分解させることを考えると、還流温度は100〜110℃であることが好ましい。この範囲でクロロスルホニルイソシアナートを反応溶媒として使用する場合には冷却設備が不要であり、クロロピロスルホイソシアナートを含む副生成物の熱分解処理を同時に行うことができる。
本発明における原料供給時間は、凝縮器の能力範囲内であれば特に限定されない。回分式の場合は、通常0.25〜2.5時間である。連続式の場合は、設備の処理能力に応じた原料供給量で反応させればよい。
本発明の製造方法においては、副生成物の分解を完全に行い、収率よく目的とするクロロスルホニルイソシアナートを製造するために十分な反応時間を設けるのが好ましい。反応時間は、原料の消費および副生成物の分解が十分であればよく、通常は0.5〜15時間、好ましくは5〜10時間である。
(4)後処理操作
反応終了後、反応液を精製して、目的とするクロロスルホニルイソシアナートを単離することができる。反応液の精製は、通常、反応完結後の反応液を常圧下あるいは減圧下において、通常の蒸留塔を用いて蒸留することにより行うことができる。蒸留の条件、例えば、圧力、温度、段数、回数等は特に限定されない。なお、連続式の場合には、前記反応完結槽から連続的に反応液を取り出し、連続的に蒸留することにより、目的とするクロロスルホニルイソシアナートを単離することができる。
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
凝縮器を取り付けた容量100mlの四つ口フラスコにクロロスルホニルイソシアナート14.3g(0.1モル)を量り取り、攪拌しながら還流温度まで昇温した。この液中に、還流下、三酸化硫黄40.4g(0.5モル)とクロロスルホニルイソシアナート14.2g(0.1モル)の混合溶液およびクロロシアン30.9g(0.5モル)とクロロスルホニルイソシアナート14.2g(0.1モル)の混合溶液を15分間かけて等モルずつ同時に滴下した。その後さらに反応液の還流温度(104℃〜108℃)で9.5時間攪拌した。反応完結後におけるクロロスルホニルイソシアナート収率は90%(使用した三酸化硫黄基準。反応溶媒および原料希釈用として用いたクロロスルホニルイソシアナートは差し引いている。)であった。その後、常圧下において単蒸留を行ない、沸点106〜108℃/1.013kPaの留分として、クロロスルホニルイソシアナート(純度99%)を94.1g得た。
【実施例2】
凝縮器を取り付けた容量100mlの四つ口フラスコにクロロスルホニルイソシアナート14.3g(0.1モル)を量り取り、攪拌しながら還流温度まで昇温した。この液中に、還流下、三酸化硫黄40.6g(0.5モル)とクロロスルホニルイソシアナート14.3g(0.1モル)の混合溶液およびクロロシアン31.4g(0.5モル)とクロロスルホニルイソシアナート28.4g(0.2モル)の混合溶液を20分間かけて等モルずつ同時に滴下した。その後さらに反応液の還流温度(103℃〜108℃)で9時間攪拌した。反応完結後におけるクロロスルホニルイソシアナート収率は89%(使用した三酸化硫黄基準。反応溶媒および原料希釈用として用いたクロロスルホニルイソシアナートは差し引いている。)であった。その後、常圧下において単蒸留を行ない、沸点106〜108℃/1.013kPaの留分として、クロロスルホニルイソシアナート(純度99%)を108.5g得た。
(比較例)
凝縮器を取り付けた容量100mlの四つ口フラスコにクロロスルホニルイソシアナート14.3g(0.1モル)を量り取り、攪拌しながら還流温度まで昇温した。この液中に、還流下、三酸化硫黄40.2g(0.5モル)およびクロロシアン30.8g(0.5モル)を60分間かけて同時に滴下した。その際、クロロシアンは液状のものを一度気化させて流量計を通し、別の凝縮器で再び液化して反応系に滴下したが、クロロシアンの流量は一定しなかった。その後さらに反応液の還流温度(95℃→109℃へ徐々に上昇)において9時間攪拌した。この時点におけるクロロスルホニルイソシアナート収率は67%(使用した三酸化硫黄基準。反応溶媒および原料希釈用として用いたクロロスルホニルイソシアナートは差し引いている。)であった。
【産業上の利用可能性】
本発明の製造方法によれば、省設備化を達成しつつ、温度制御の手間を省き、三酸化硫黄とクロロシアンから、操作性よく、高収率で、高純度のクロロスルホニルイソシアナートを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三酸化硫黄とクロロシアンとを反応させてクロロスルホニルイソシアナートを製造する方法において、反応溶媒としてクロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液を用い、還流下、クロロスルホニルイソシアナートまたはその含有液で、それぞれ希釈した三酸化硫黄およびクロロシアンを反応系に略等モルずつ同時供給することを特徴とするクロロスルホニルイソシアナートの製造方法。
【請求項2】
還流温度が50℃〜110℃である請求項1記載のクロロスルホニルイソシアナートの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/058806
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516384(P2005−516384)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019132
【国際出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】