説明

ケーブル接続部及び終端部

【課題】 ポリオレフィン被覆ケーブルの接続部または終端部において絶縁劣化を防ぐために界面拡散法を使用した場合にも半導電層と絶縁層との界面付近における架橋の阻害を補償できるケーブルの接続部または終端部の構造及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 導体周囲上に界面活性剤系高誘電率物質を含有するポリオレフィン樹脂材料から形成された半導電層とポリオレフィン樹脂材料から形成された絶縁層とを被覆したケーブル接続部または終端部において、半導電層と絶縁層との間に絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料よりも架橋剤含有量が高いポリオレフィン樹脂材料から形成されたポリオレフィン補強層を設けたことを特徴とするケーブル接続部または終端部。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、導体接続部周囲上に半導電層と絶縁層とを被覆した、ポリオレフィン被覆ケーブル接続部または終端部の構造に係わり、特に半導電層との界面付近の絶縁材料の密度や結晶性が改善されたポリオレフィン被覆ケーブル接続部または終端部に係わる。また本発明は上記のようなケーブル接続部及び終端部の製造方法にも係わる。
【0002】
【従来の技術】ポリオレフィンを絶縁被覆として使用した電力用ケーブル、例えばCVケーブルは布設工事や保守管理が容易であり送電損失も少ないため、高圧用の電力ケーブルとしても使用され始めている。しかしポリオレフィン絶縁被覆ケーブルにおいては大きな経年的絶縁劣化が見られ、設計電位傾度をOFケーブル等のものより小さくせざるを得ず、それだけ絶縁層の厚みを大きくしなければならないという問題があった。
【0003】このようなポリオレフィン絶縁被覆ケーブルの経年的絶縁劣化の問題については、高圧用ポリオレフィン絶縁被覆ケーブルは通常、図2に断面で示すように、導体21上に、絶縁体層22に加え、電界緩和、部分放電防止のために導体側とケーブル外周側に半導電層23、24を設けた構造を有するところ、ケーブルの経年的絶縁劣化はこれらの絶縁体層と半導電層との間の界面不整による電界集中に大きな原因があることが判明した。
【0004】これに対し本発明者らの一部は、半導電層に界面活性剤系高誘電率物質を含有させ、これを被覆材料の架橋時の加熱により絶縁層側へ拡散させ、半導電層と絶縁層の界面付近に連続的な誘電率の勾配をもつ電界緩和用の拡散層を形成し、絶縁劣化を防止することを提案した(特公平5−32846号、特開平4−56009号、以下この方法を「界面拡散法」という)。
【0005】一方、上記のようなケーブルの接続部及び終端部は押出モールドジョイント工法(EMJ法)、テープ巻きモールドジョイント工法(TMJ法)等により形成され、例えば図3に接続部の側面断面図(ケーブル部分は断面としていない)として示すように、ケーブル自体と同様に導体接続部分31上に内部半導電層33、絶縁層32、及び外部半導電層34が順次設けられる。従って、このようなケーブル接続部についても上記の界面拡散法を応用して絶縁劣化を防ぐことが考えられる。
【0006】ところが、界面拡散法に用いられる界面活性剤系高誘電率物質が樹脂材料の架橋を阻害する作用を有することが判明した。従って、界面拡散法において十分な界面活性剤系高誘電率物質の添加効果を得、同時に拡散部分の樹脂の十分な架橋を得て絶縁材料の絶縁性能の低下を防止するためには界面付近での架橋剤含有量を通常より高くしなければならない。
【0007】ケーブル自体については、半導電層及び絶縁体層は通常はケーブルの製造時に同時に押し出されて架橋されるので、例えば半導電層の架橋剤の含有量を高くすることにより両者の界面付近の架橋度を容易に補償することができる。
【0008】しかし上記のようなケーブルの接続部の製造においては、EMJ工法のように接続現場で上記各層を積層形成することがあり、工程を簡略化するために予め成形された材料を各層に使用する場合がある。特に半導電層については比較的厚さが小さいので、予め成形されたシート等を接続現場で使用して絶縁層と一体化する方が有利である。
【0009】このような予め成形された半導電層材料は、通常は熱収縮性を有するシート等として製造されるが、架橋剤を含むものとするとシート等自体の成形時に架橋が進行してしまい、熱収縮性が得られなかったり絶縁層と一体化できなくなる等の問題が生じ得るので、架橋剤を使用せず、電子線等で必要量だけ架橋することにより製造されている。
【0010】ところがこのような架橋剤を含まない半導電層材料では、上記の界面拡散法を使用した場合の界面付近の架橋の低下を補償することができず、ケーブル自体の絶縁性能が低下することになり、界面拡散法の利点を生かすことができない。これに対して絶縁層材料の架橋剤を増加させることも考えられるが、絶縁層材料の架橋剤を増加すると絶縁体層の架橋が過度に早く進むことにより接続現場での押出が困難になり、製造工程に支障をきたす可能性がある。また過度の架橋は絶縁層自体の特性としても好ましくない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明は、上記のようなポリオレフィン被覆ケーブルの接続部または終端部において絶縁劣化を防ぐために界面拡散法を使用した場合にも半導電層と絶縁層との界面付近における架橋の阻害を補償できるケーブルの接続部または終端部の構造及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らの研究の結果、上記のような導体接続部周囲上に界面拡散法により界面活性剤系高誘電率物質を含有するポリオレフィン樹脂材料から形成された半導電層とポリオレフィン樹脂材料から形成された絶縁層とを被覆したケーブル接続部または終端部において、半導電層と絶縁層との間に絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料よりも架橋剤含有量が高いポリオレフィン樹脂材料から形成されたポリオレフィン層を設けることにより、界面拡散法を使用した場合でも半導電層と絶縁層との間の界面付近の架橋度の低下を補償することができ、界面付近の樹脂材料の密度や結晶性を改善し得ることが判明した。
【0013】従って本発明は、導体周囲上に界面活性剤系高誘電率物質を含有するポリオレフィン樹脂材料から形成された半導電層とポリオレフィン樹脂材料から形成された絶縁層とを被覆したケーブル接続部または終端部において、半導電層と絶縁層との間に絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料よりも架橋剤含有量が高いポリオレフィン樹脂材料から形成されたポリオレフィン補強層を設けたことを特徴とするケーブル接続部または終端部を提供する。
【0014】また本発明のケーブル接続部または終端部の好ましい態様によれば、半導電層が架橋剤を含まないポリオレフィン樹脂材料から形成されたものであることを特徴とする上記ケーブル接続部または終端部;補強層が、外部半導電層と絶縁層との間に設けられていることを特徴とする上記ケーブル接続部または終端部;ポリオレフィン補強層を形成するポリオレフィン樹脂材料の架橋剤の含有量が、ポリオレフィン樹脂材料100重量部に対して0.5〜5重量部であることを特徴とする上記ケーブル接続部または終端部;ポリオレフィン補強層を形成するポリオレフィン樹脂材料の架橋剤の量が、絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料の架橋剤量に対して、樹脂材料100重量部に対する量で表して0.05〜4.0重量部多いことを特徴とする上記ケーブル接続部または終端部;界面活性剤系高誘電率物質が、200〜20000程度の分子量をする、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリストール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシレングリセンリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィストステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖長ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びスチレンマイル酸共重合物誘導体から選択されることを特徴とする上記ケーブル接続部または終端部;及び、界面活性剤系高誘電率物質の量が、半導電層を形成するポリオレフィン樹脂材料100重量部に対して0.1〜30重量部であることを特徴とする上記ケーブル接続部または終端部が提供される。
【0015】本発明はさらに、上記の本発明のケーブル接続部または終端部の製造方法であって、導体周囲上に半導電層を形成するポリオレフィン樹脂材料と絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料とを被覆して架橋する際に、半導電層材料と絶縁層材料との間に絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂よりも架橋剤含有量が高いポリオレフィン樹脂材料を介在させることを特徴とする前記ケーブル接続部または終端部の製造方法を提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】以下本発明について詳細に説明する。
【0017】本発明のケーブル接続部及び終端部は、例えば図1に接続部の断面(ケーブル部分は断面としていない)を示すように、導体1上に内部半導電層2、絶縁層3及び外部半導電層4を被覆した樹脂被覆ケーブルの先端の導体露出部分を圧縮接合子(導体スリ−ブ)5等により結合した導体接続部上に接続部の内部半導電層6、絶縁層7及び外部半導電層8が設けられており、内部半導電層6と絶縁層7との間、及び絶縁層7と外部半導電層8との間に、絶縁層よりも架橋剤含有量が高いポリオレフィン樹脂材料から形成されたポリオレフィン補強層9が設けられた構造を有している。
【0018】図1に示した接続部においては、内部半導電層5と絶縁層6との間、及び絶縁層6と外部半導電層7との間の両方にポリオレフィン補強層8が設けられているが、いずれか一方の半導電層と絶縁層との間にポリオレフィン補強層に設けられていてもよい。予め成形されたポリオレフィン樹脂半導電層材料は外部半導電層として使用されることが多いので、絶縁層6と外部半導電層7との間にポリオレフィン補強層8を設けることが好ましい。
【0019】半導電層、絶縁層及びポリオレフィン補強層の製造に用いられるベースポリマーは通常のポリレフィン樹脂被覆ケーブル及びその接続部に用いられているポリオレフィンでよく、好ましくは例えばポリエチレンであり、あるいはエチレンとこれと共重合可能なモノマーからなるエチレンコポリマーを含んでもよい。エチレンコポリマーとしては、エチレン/ビニルアセテートコポリマー、エチレン/エチルアクリレートコポリマー等が挙げられる。
【0020】ポリエチレンの場合、分子量は一般には数万から数十万であり、好ましくは5万〜20万、特に好ましくは7〜8万程度である。エチレンコポリマーの分子量は一般には数万から数十万であり、好ましくは5万〜10万程度である。ポリエチレンにエチレンコポリマーを含有させる場合のエチレンコポリマーの量は通常は樹脂全体の10〜40重量%程度である。またエチレンコポリマー中のエチレン以外のモノマーに由来する部分の量は一般には20〜50重量%、好ましくは25〜40重量%程度である。
【0021】これらのポリオレフィン樹脂は予め、あるいはケーブル接続部の製造時に架橋され、各層を形成する。
【0022】絶縁層及びポリオレフィン補強層は、通常使用される架橋剤により架橋され、好ましくは過酸化物架橋剤が使用される。過酸化物の例としてはベンジルパーキサイド、1,1−ビス−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n−ブチル−4,4−ビス−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ(t−ブチルパーオキシ)−m−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル)パーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシクメン等を挙げることができ、ジクミルパーオキサイドが特に好ましい。これらの有機過酸化物は単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】架橋剤の量は、絶縁層についてはこれまでのケーブル接続部の絶縁層を形成するポリオレフィン材料に使用されていたものと同様な量でよく、材料の種類によっても変化するが、ポリオレフィン樹脂100重量部あたり一般的には0.2〜5.0重量部程度の量で使用される。ポリオレフィン補強層についても、一般的には半導電層を形成するポリオレフィン樹脂の100重量部あたり一般的には0.2〜5重量部程度の量で使用されるが、上記のように半導電層と絶縁層との界面付近の架橋度の低下を補償するため、絶縁層よりも高い架橋剤の含有量を有するものとする。ポリオレフィン補強層を形成するポリオレフィン材料の架橋剤の量は、上記のような絶縁層の架橋剤量に対して、樹脂材料100重量部に対する量で表して好ましくは0.05〜4.0重量部程度多いものとする。絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料との架橋剤の量の差が0.05重量部未満であると架橋度補償の効果が十分でなく、4.0重量部を越えると補強層部分の架橋が過度になる。
【0024】補強層部分のポリオレフィンの架橋度は、接続部等の製造後に絶縁層の架橋度とほぼ等しくなるようにすることが好ましい。
【0025】また、絶縁層及びポリオレフィン補強層を形成するポリオレフィン樹脂材料には通常使用される架橋助剤を用いてもよく、例えばトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタレート(TMM)等の不飽和化合物を使用することができる。
【0026】半導電層を形成するポリオレフィン樹脂材料は架橋剤を含むことを妨げられるものではないが、上記のように本発明は半導電層の架橋剤により界面付近の架橋度を補償できない場合に界面付近の架橋度を補償することを目的とするものであるから、本発明の好ましい態様においては半導電層は架橋剤を含まないものである。
【0027】半導電層及び絶縁層の厚さは従来のケーブル接続部に用いられているものでよい。ケーブルの仕様電圧にもよるが、通常は半導電層は0.5〜2mm程度、絶縁層は10〜30mm程度の厚さを有する。
【0028】上記のような厚さを有する半導電層は電子線照射等により架橋剤なしに架橋して容易に形成でき、上記のようなケーブル接続部に好ましく使用される。本発明においてはこのような架橋剤を含まない半導電層を使用した場合にも前記架橋剤含量の高いポリオレフィン樹脂材料から形成されたポリオレフィン補強層の存在により半導電層と絶縁層との間の界面付近の架橋度の低下が補償される。
【0029】ポリオレフィン補強層の厚さは、好ましくは0.1〜2mm程度とする。ポリオレフィン補強層が上記のような架橋剤含有量を有し、このような範囲の厚さを有することにより半導電層と絶縁層との間の界面付近の架橋度の低下が補償される。
【0030】上記のような厚さのポリオレフィン補強層及び半導電層用樹脂材料はベースポリマー中に必要な成分を混合し、シート、テープ等として予め成形しておき、それをケーブル接続現場において使用することが好ましい。
【0031】半導電層に導電性を与える導電物質も従来使用されているものでよく、通常はカーボンブラックが使用される。カーボンブラックの種類も従来から導電剤として使用されているものでよい。導電物質の量は、ベースポリマー100重量部に対して50〜200重量部程度である。導電物質の量が50重量部未満では導電特性が十分でなく、200重量部を越えると半導電層の機械的特性が著しく低下する。
【0032】さらに半導電層を形成するポリオレフィン樹脂材料には上記の界面拡散法による電界緩和効果を得るために、界面活性剤系高誘電率物質を添加する。界面活性剤系高誘電率物質は好ましくは200〜20000程度の分子量を有し、熱拡散性を有するものであり、例えばソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリストール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシレングリセンリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィストステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖長ポリオキシエチレンアルキルエーテル、スチレンマイル酸共重合物誘導体等が挙げられる。
【0033】これらの界面活性剤系高誘電率物質は1種でまたは2種以上の混合物として使用することができ、半導電層形成材料100重量部に対して0.1〜30重量部程度添加する。添加量が0.1重量部未満であると絶縁材料の密度あるいは結晶性を高める効果が低下する。また添加量が30重量部以上になると半導電層とポリオレフィン補強層間の密着性が悪化する。これは添加される界面活性剤系物質の界面活性作用が強くなって半導電層と絶縁層間の結合を弱めることによるものと考えられる。
【0034】本発明のケーブル接続部に使用される樹脂材料には、所望により、本発明の目的とする効果を阻害しない範囲で、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、炭化珪素、マイカ、クレー等の無機充填剤、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸またはその金属塩等の可塑剤、加工助剤、鉱物油、ワックス、パラフィン類等の軟化剤、エステル、アミド類等の老化防止剤、架橋促進剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、安定剤等のその他の添加剤を添加してもよい。
【0035】本発明のケーブル接続部あるいは終端部の製造方法は、導体周囲上に半導電層を形成するポリオレフィン樹脂材料と絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料とを被覆して架橋する際に、半導電層材料と絶縁層材料との間に絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂よりも架橋剤含有量が高いポリオレフィン樹脂材料を介在させることを特徴とし、それ以外は従来のケーブル接続部あるいは終端部の製造と同様に行うことができる。
【0036】本発明のケーブル接続部あるいは終端部は、例えばTMJ工法により以下のようにして製造することができる。まずケーブルを整直させ、切断して導体を露出させる。導体露出部分を導体スリーブにより結合し、その上に例えば半導電層用の樹脂組成物からなるシート等を被覆することにより内導処理し、さらにその上に例えばポリオレフィン補強層用の樹脂材料からなるテープを巻く。そしてその上に絶縁層を形成する樹脂材料からなるテープを巻き、さらにポリオレフィン補強層用の樹脂材料からなるテープを巻く。さらにその上に例えば半導電層用の樹脂材料からなシート等を巻くことにより外導処理する。そして全体を加熱加圧することにより架橋して全体を一体化させる。架橋温度は各層の厚さ、材料等にもよるが、通常は150〜200℃程度の温度で、約5〜15時間程度行う。その後従来の接続部の製造と同様にして外部遮蔽処理する。
【0037】上記では本発明のケーブル接続部の製造方法をTMJ工法について説明したが、EMJ工法等も使用できる。また上記では、本発明のケーブル接続部を示す図面を参照して説明したが、本発明の構成はケーブル終端部、例えばガス中終端部(EB−G)や気中終端部(EB−A)等にもそのまま適用できる。
【0038】
【実施例】ポリエチレン樹脂(架橋ポリエチレンHFDJ4201、日本ユニカ)100重量部に対し、導電剤としてのカーボンブラック(カーボンブラックを含むポリエチレン、超高圧セミコンポリエチレン [日本ユニカ] 中のものとして導入)1重量部、界面活性剤系高誘電率物質(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル)2重量部を添加し、厚さ1.0mmのシート状に成形し、電子線架橋したものを半導電層を形成する材料として使用し、ポリエチレン樹脂(HFDJ4201、日本ユニカ)100重量部に対し、架橋剤(ジクミルパーオキサイド)2重量部を添加し、厚さ1.0mm、幅25mmのテープ状に成形したものを絶縁層を形成する材料として使用した。
【0039】また、ポリエチレン樹脂(HFDJ4201、日本ユニカ)100重量部に対し、架橋剤(ジクミルパーオキサイド)3重量部を添加し、厚さ0.2mm、幅25mmのテープ状に成形したものを補強層を形成する材料として使用した。
【0040】導体径22mm、絶縁厚さ3.7mmの6.6kVCVケーブルを使用して実験用ケーブル接続部を製造した。この実験用ケーブル接続部は、接続部の露出された導体の長さ20mm、接続部の絶縁層の長さ(最長部)440mmとして図1に示すものと同様な構造とした。この導体上に上記の各層材料を積層し、内部半導電層(厚さ1.0mm)、補強層(厚さ0.5mm)、絶縁層(厚さ3.7mm)、補強層(厚さ0.5mm)及び外部半導電層(厚さ1.0mm)を順次設けた。この接続部を約200℃に2時間加熱することにより架橋一体化させ、本発明の実験用ケーブル接続部を得た。
【0041】また比較例として、補強層を設けなかった以外は上記と同様にして実験用ケーブル接続部を製造した(内部半導電層厚さ1.0mm、絶縁層厚さ3.7mm、外部半導電層厚さ1.0mm)。
【0042】上記の本発明のケーブル接続部と比較用のケーブル接続部について、初期課電電圧20kV(AC)を10分間課電後、20kV/10分のステップで100kVまで課電し、100kVで10分間耐圧した後、さらに10kV/10分のステップで絶縁が破壊するまで課電を行い、AC破壊試験を行った。
【0043】その結果、本発明のケーブル接続部の平均破壊電圧は250kVであり、比較例のケーブル接続部の平均破壊電圧は150kVであった。この本発明のケーブル接続部の平均破壊電圧の改善は、補強層により半導電層及び絶縁層の間の界面付近の架橋度が比較例のものに比べて改善されていることによるものと考えられる。
【0044】また、加速劣化試験法である熱重量減少法(TG法)による界面活性剤系高誘電率物質の逸散速度の温度依存性の評価実験によれば、常温において30年程度電界緩和効果を保持できることが判った。
【0045】
【発明の効果】本発明のケーブル接続部等によれば、上記界面拡散法を採用してもポリオレフィン樹脂補強層の存在により半導電層と絶縁層との界面付近の架橋度が改善されることにより、ケーブル接続部等の絶縁性能が向上する。同時に、上記界面拡散法を採用したことにより長期間に亘って安定に絶縁性能向上効果を発揮することができる。即ち、ケーブル接続部等の絶縁性能を低下させることなく界面拡散法の効果を得ることができる。
【0046】本発明のケーブル接続部等に使用される界面活性剤系高誘電率物質は熱分解温度が250〜300℃の範囲であって常温より何れも高いため熱的に安定であり、信頼性にすぐれたケーブル接続部等が得られる。
【0047】従って、本発明によれば電力ケーブル接続部等の絶縁層の厚さを低減してケーブル接続部の細径化を図ることができ、ケーブル接続部等の径に対する電流容量の増大を図ることができる。これらの効果は高い電圧階級のポリオレフィン絶縁電力ケーブル接続部等についての適用において特に有用である。
【0048】さらに本発明において使用される界面活性剤系高誘電率物質は高分子量であるのでこれを添加しない場合と比較して半導電層材料の押出特性がよくなり、半導電層を接続現場で押出により形成する場合にはケーブル接続部の製造速度の向上も図ることができる。またこの界面活性剤系高誘電率物質は安価な工業材料であるため、接続部等のコスト高は殆ど問題にならない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のケーブル接続部の一例の概略断面図である。
【図2】 ポリオレフィン絶縁電力ケーブルの断面図である。
【図3】 従来のケーブル接続部の一例の概略断面図である。
【符号の説明】
・・・・・・導体
・・・・・・ケーブルの内部半導電層
・・・・・・ケーブルの絶縁層
・・・・・・ケーブルの外部半導電層
・・・・・・圧縮接合子
・・・・・・ケーブル接続部の内部半導電層
・・・・・・ケーブル接続部の絶縁層
・・・・・・ケーブル接続部の外部半導電層
・・・・・・ポリオレフィン補強層
21・・・・導体
22・・・・ケーブルの絶縁層
23・・・・ケーブルの内部導電層
24・・・・ケーブルの外部導電層
31・・・・導体
32・・・・ケーブル接続部の絶縁層
33・・・・ケーブル接続部の内部導電層
34・・・・ケーブル接続部の外部導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 導体周囲上に界面活性剤系高誘電率物質を含有するポリオレフィン樹脂材料から形成された半導電層とポリオレフィン樹脂材料から形成された絶縁層とを被覆したケーブル接続部または終端部において、半導電層と絶縁層との間に絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料よりも架橋剤含有量が高いポリオレフィン樹脂材料から形成されたポリオレフィン補強層を設けたことを特徴とするケーブル接続部または終端部。
【請求項2】 半導電層が架橋剤を含まないポリオレフィン樹脂材料から形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のケーブル接続部または終端部。
【請求項3】 補強層が、外部半導電層と絶縁層との間に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のケーブル接続部または終端部。
【請求項4】 ポリオレフィン補強層を形成するポリオレフィン樹脂材料の架橋剤の含有量が、ポリオレフィン樹脂材料100重量部に対して0.5〜5重量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のケーブル接続部または終端部。
【請求項5】 ポリオレフィン補強層を形成するポリオレフィン樹脂材料の架橋剤の量が、絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料の架橋剤量に対して、樹脂材料100重量部に対する量で表して0.05〜4.0重量部多いことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のケーブル接続部または終端部。
【請求項6】 界面活性剤系高誘電率物質が、200〜20000程度の分子量をする、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリストール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシレングリセンリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィストステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖長ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びスチレンマイル酸共重合物誘導体から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のケーブル接続部または終端部。
【請求項7】 界面活性剤系高誘電率物質の量が、半導電層を形成するポリオレフィン樹脂材料100重量部に対して0.1〜30重量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のケーブル接続部または終端部。
【請求項8】 導体周囲上に界面活性剤系高誘電率物質を含有するポリオレフィン樹脂材料から形成された半導電層とポリオレフィン樹脂材料から形成された絶縁層とを被覆したケーブル接続部または終端部の製造方法において、導体周囲上に半導電層を形成するポリオレフィン樹脂材料と絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂材料とを被覆して架橋する際に、半導電層材料と絶縁層材料との間に絶縁層を形成するポリオレフィン樹脂よりも架橋剤含有量が高いポリオレフィン樹脂材料を介在させることを特徴とする前記ケーブル接続部または終端部の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平11−18270
【公開日】平成11年(1999)1月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−165955
【出願日】平成9年(1997)6月23日
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【出願人】(000002255)昭和電線電纜株式会社 (71)