説明

ゲル状殺菌消毒用組成物

【課 題】十分な粘性を有し、かつサラッとした使用感が得られる殺菌消毒用組成物を提供する。
【解決手段】下記の(a)、(b)、及び(c)を含むことを特徴とする殺菌消毒用組成物。
(a) エタノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコール
(b) ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、及びポリアクリル酸塩とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボキシビニルポリマー
(c) 寒天

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手指殺菌等に用いられるゲル状の殺菌消毒用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
病院などで用いられる殺菌消毒剤は、手にとったときに手からこぼれたり、手指に擦り込むときに流れ落ちたりするのを避けるために、殺菌剤溶液に増粘剤を添加してゲル状の粘稠な組成物とされる場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1、及び特許文献2には、アルコール溶液に増粘剤としてカルボキシビニルポリマーを添加した殺菌消毒剤が記載されている。また、特許文献3、特許文献4、及び特許文献5には、アルコール溶液に、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーとセルロース系高分子化合物とを添加した殺菌消毒剤が記載されている。
【0004】
しかし、これらの増粘剤は、アルコール濃度が高い場合に組成物の粘度を十分に高くすることはできず、粘度を高めるために増粘剤の添加量を増やすとヨレが生じるようになる。また、これらの増粘剤を添加した消毒剤は、ベタツキがあり、使用感が悪い。
【0005】
ここで、特許文献6には、アルコール溶液と、カルボキシビニルポリマーのような樹脂ポリマーと、グルコマンナンとを含むゲル状の殺菌消毒剤が記載されている。この殺菌消毒剤は、手に擦り込むと、水分を失うに伴ってグルコマンナン成分がゴム状になりながらコヨリ形状のカスとなって残り、その結果、このカスに手指の汚れが付着して除去されるものである。また、同文献には、ゲル状組成物の効果を高めるために、寒天やセルロース誘導体を添加してもよいことが記載されている。しかし、この殺菌消毒剤は、手に擦り込んだ後に、グルコマンナンからなるカスが残り、サラッとした使用感が得られない。
【0006】
また、特許文献7には、寒天などのゲル化能を有する親水性化合物を水に溶解させ冷却してゲルを形成し、このゲルを粉砕して得られる平均粒径0.1〜1μmのミクロゲルは増粘剤として使用できることが記載されている。このミクロゲル増粘剤を添加した組成物は、ベタツキがなく、薬剤成分や塩類を高配合しても粘度が低下しないとされている。薬効成分や塩を高配合したときの濃度として20重量%程度が記載されている。このミクロゲル増粘剤は煩雑な方法で製造するため、コスト高になる。
【特許文献1】特公平7−29884号公報
【特許文献2】特開平11−9667号公報
【特許文献3】特許第3499882号公報
【特許文献4】特許第2533723号公報
【特許文献5】特許第3456236号公報
【特許文献6】特開2000−86408号公報
【特許文献7】特許第3531735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、十分な粘性を有し、かつサラッとした使用感が得られる殺菌消毒用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ね、(a)エタノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコール;(b)ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、及びポリアクリル酸塩とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボキシビニルポリマー;及び(c)寒天を含む殺菌消毒用組成物は、アルコール濃度を高くしても実用上十分な粘性が得られることを見出した。また、この組成物は、手指に塗布する際にのびが良く、ザラツキがなく、乾燥させた後にベトツキがなくサラッとした良好な使用感が得られることを見出した。また、この組成物は保湿性に優れることも見出した。
【0009】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の各項の殺菌消毒用組成物を提供する。
項1. 下記の(a)、(b)、及び(c)を含むことを特徴とする殺菌消毒用組成物。
(a) エタノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコール
(b) ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、及びポリアクリル酸塩とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボキシビニルポリマー
(c) 寒天
項2. アルコールの含有比率が、組成物全体に対して40〜95%(v/v)である項1に記載の殺菌消毒用組成物。
項3. 寒天が、天然寒天より分子が短い低強度寒天である項1又は2に記載の殺菌消毒用組成物。
項4. 低強度寒天が、寒天濃度1.5%(w/w)のゲルである場合のゼリー強度が10〜250g/cmである寒天である項3に記載の殺菌消毒用組成物。
項5. 低強度寒天が、酸処理、アルカリ処理、又は熱処理により天然寒天の分子を切断することにより得られるものである項3に記載の殺菌消毒用組成物。
項6. 寒天の含有量が、組成物全体に対して0.05〜5%(w/v)である項1〜5のいずれかに記載の殺菌消毒用組成物。
項7. カルボキシビニルポリマーの含有量が、組成物全体に対して0.01〜4%(w/v)である項1〜6のいずれかに記載の殺菌消毒用組成物。
項8. さらに、セルロース及びセルロース誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む項1〜7のいずれかに記載の殺菌消毒用組成物。
項9. さらに、炭素数12〜22の脂肪族高級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む項1〜8のいずれかに記載の殺菌消毒用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の殺菌消毒用組成物は、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと寒天とを含むことを特徴としている。これにより、本発明の組成物は、アルコール濃度が高い場合も、粘性が高く、液ダレし難い。また本発明の組成物は、手に塗布する際に滑らかにのび、ザラツキ感がないものであり、さらに乾燥させた後にベトツキ感又は糊感がなくサラリとしている。
【0011】
また、一般に高濃度アルコールを含む殺菌消毒剤は、病院関係者が1日に何度も使用すると、手が荒れ、ひび割れが生じて、そこに菌が感染して院内感染を引き起こすという重大な問題を生じることがある。このような手荒れの問題を回避するために、従来は、グリセリンやプロピレングリコールなどの保湿剤を添加する必要があった。この点、本発明の殺菌消毒用組成物は、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーと寒天とを含むことにより、別途保湿剤を含むことなく、アルコール製剤特有の乾燥感が軽減されて、保湿性良好で肌荒れを生じ難いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の殺菌消毒用組成物は、以下の(a)、(b)、及び(c)を含むことを特徴とする。
(a) エタノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコール
(b) ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、及びポリアクリル酸塩とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボキシビニルポリマー
(c) 寒天
【0013】
アルコール
殺菌成分のアルコールはエタノール、イソプロパノール、及びそれらの組み合わせのいずれであってもよい。特にエタノールが好ましい。
【0014】
アルコールの含有比率は、組成物全体に対して、40%(v/v)〜95%(v/v)程度が好ましく、50%(v/v) 〜85%(v/v)程度がより好ましく、60%(v/v) 〜85%(v/v)程度がさらにより好ましい。上記範囲であれば、十分な殺菌力が得られる。また、上記範囲であれば、肌荒れを生じることがなく、また他成分の溶解性が良好である。
【0015】
カルボキシビニルポリマー
本発明の組成物にカルボキシビニルポリマーが含まれることにより、組成物に粘性を与えるとともに、アルコール濃度が高い場合の寒天の析出が防止される。カルボキシビニルポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、及びポリアクリル酸塩とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体からなる群より選ばれるポリマーの1種又は2種以上を使用する。
各成分の混合時にポリアクリル酸を使用する場合でも、後述するようにアルカリを添加してpHを調整すると、結果として得られる組成物中では、その一部又は全部がポリアクリル酸塩になっている場合がある。好ましくは、アルコールとカルボキシビニルポリマーと寒天とを混合する時に低粘度のポリアクリル酸を使用し、pH調整によりその一部又は全部をポリアクリル酸塩として粘度を上げればよい。また、混合時からポリアクリル酸塩を使用するのも好ましい。
ポリアクリル酸塩としては、ポリアクリル酸;ポリアクリル酸のナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;ポリアクリル酸のモノエタノールアミン、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩のようなアミン塩;ポリアクリル酸のアンモニウム塩などを使用できる。中でも、アルカリ金属塩が好ましい。
ポリアクリル酸アルキルエステルとしては、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸プロピルなどが挙げられる。
【0016】
また、ポリアクリル酸は架橋型、又は非架橋型のいずれであってもよいが、増粘効果が高い点で架橋型ポリマーが好ましい.
【0017】
カルボキシビニルポリマーの含有比率は、組成物全体に対して、0.01〜4%(w/v)程度が好ましく、0.01〜2%(w/v)程度がより好ましく、0.1〜1%(w/v)程度がさらにより好ましい。上記範囲であれば、十分な粘性を有するとともに、使用感が良好な殺菌消毒用組成物が得られる。また、高濃度アルコール中での寒天の分離が回避される。
【0018】
寒天
本発明では、増粘剤として、カルボキシビニルポリマーと寒天とを組み合わせ使用することにより、アルコール殺菌剤を含む組成物に、実用上十分な粘性、糊感のない使用感、及び保湿性を与えることができる。
【0019】
寒天は紅藻類などの海草から抽出される粘性物質である。本発明では、公知の寒天を制限なく使用できる。寒天は、粉末状、フレーク状などのものが市販されている。
【0020】
寒天は、構成する分子の長さにより、ゲルとした場合のゼリー強度が異なる。本発明では、海草から抽出された天然の分子構造を有する寒天をそのまま使用してもよいが、天然寒天より分子が短い低強度寒天を使用することが好ましい。低強度寒天を使用することにより、サラッとした使用感及び保湿性が一層良好になり、また滑らかでザラツキのない使用感が得られる。
中でも、寒天濃度1.5%(w/w)のゲルである場合のゼリー強度が10〜250g/cm程度の低強度寒天が好ましい。上記ゼリー強度範囲であれば、組成物の粘性を十分に保ちつつ、低強度寒天使用の効果を十分に得ることができる。
【0021】
本発明において、ゼリー強度は、日寒水式ゼリー強度計で測定した強度である。
【0022】
但し、日寒水式測定法では、100g/cm以下のゼリー強度を測定できないため、実際にはゼリー強度と寒天濃度との比例関係を利用して、例えば寒天濃度1.5%(w/w)のゲルのゼリー強度は、寒天濃度15%(w/w)のゲルのゼリー強度の測定値の10分の1とする。
【0023】
寒天濃度1.5%(w/w)のゲルのゼリー強度が10〜250g/cm程度である低強度寒天は、例えば、天然寒天を酸処理してその分子を切断することにより得ることができる。また、通常は、酸処理後にアルカリで中和される。酸及びアルカリは公知のものを制限なく使用できる。公知の酸としては、硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸などが挙げられ、公知のアルカリとしては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸カリウムなどが挙げられる。酸の使用量、酸処理時間、及び酸処理温度を調節することにより、ゼリー強度を調節することができる。上記ゼリー強度の低強度寒天は、具体的には、特許第3023244号公報に記載の方法で製造することができる。
【0024】
また、寒天濃度1.5%(w/w)のゲルのゼリー強度が10〜250g/cm程度である低強度寒天は、熱処理により天然寒天の分子を切断することによっても得ることができる。例えば、原料海藻から寒天成分を抽出する工程と、この工程で得られた抽出液を濾過する工程と、この工程で得られた濾過液をゲル化させ、得られたゲルを脱水処理する工程と、この工程で得られた濃縮ゲルを乾燥する工程と、上記各工程のうちいずれか一の工程の後に熱処理を行って寒天分子を切断する熱処理工程とを含む方法により製造することができる。熱処理工程は、エクストルーダーを用いてダイプレート温度90〜180℃程度、圧力7〜15MPa程度の条件下で行えばよい。好ましくは、熱処理工程は、乾燥工程後に、粉砕された乾燥寒天に対して、水を加えた加湿状態で熱処理を行えばよい。上記ゼリー強度の低強度寒天は、具体的には、特開平10−146174号公報に記載の方法で製造することができる。
また、上記ゼリー強度の低強度寒天は、伊那食品工業株式会社から「ウルトラ寒天」の名称で市販されている。
低強度寒天としては、寒天ゲルの圧縮モードにおけるレオロジー特性において、シェアレート(Share rate)0.005(1/s)で20%変形時の応力が20,000Pa以上であり、かつ応力が初期応力の半分になるまでの応力緩和時間が8秒以上であるものも好ましい。
このような応力及び応力緩和時間を有する低強度寒天は、例えば、原料海藻をその硫酸根含量に応じて度合いが調整されたアルカリ処理を行った後、水洗により十分にアルカリを除去し、より中性付近の熱水で寒天成分を抽出濾過し、ゲル化した後脱水及び乾燥することにより製造することができる。アルカリ処理は、苛性ソーダ,苛性カリ,消石灰,生石灰及び水酸化アンモニウムから選ばれた処理液を用いて行い、処理液濃度0.1〜10.0%程度、処理温度0〜100℃程度、及び処理時間1〜180分程度の範囲で処理度合いを調整すればよい。硫酸根含量が1〜10%の原料海藻の場合、原料海藻のアルカリ処理を行うことなく、また抽出後の酸処理を行うことなく、中性の熱水による抽出により、上記応力及び応力緩和時間を有する低強度寒天を得ることができる。アルカリ処理も酸処理も行わないことにより透明なゲルが得られる。上記応力及び応力緩和時間を有する低強度寒天は、具体的には、特開2000−157225号公報に記載の方法で製造することができる。
また、上記応力及び応力緩和時間を有する低強度寒天は、伊那食品工業株式会社から「ウルトラ寒天」の名称で市販されている。
【0025】
寒天の含有比率は、組成物全体に対して0.05〜5%(w/v)程度が好ましく、0.01〜1%(w/v)程度がより好ましく、0.1〜1%(w/v)程度がさらにより好ましい。上記の範囲内であれば、寒天使用による上記効果が十分に得られるとともに、寒天特有のヌメリ感が発生することがない。
【0026】
高級脂肪族アルコール
本発明の組成物には、炭素数12〜22の直鎖又は分岐鎖の脂肪族高級アルコールが含まれることが好ましい。組成物にこのような高級脂肪族アルコールが含まれることにより、組成物を手にとって手を擦り合わせるときに一層滑らかに良くのびるようになり、乾燥させた後にも一層サラッとした使用感が得られる。また、乾燥する瞬間にも摩擦感又はツッカカリ感を感じないものとなる。
【0027】
直鎖又は分岐鎖の脂肪族高級アルコールは、炭素数12〜20のものがより好ましく、炭素数14〜18のものがさらにより好ましい。炭素数が偶数のものは天然に存在するため入手し易い点で好ましい。また、不飽和アルコールは特有の臭いが感じられる場合があるため飽和アルコールの方が好ましい。
【0028】
炭素数12〜22の直鎖状の飽和脂肪族アルコールとしては、ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、ステアリルアルコール(18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキルアルコール(C20)、ベヘニルアルコール(C22)などが挙げられる。
炭素数12〜22の脂肪族高級アルコールは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
このような脂肪族高級アルコールが含まれる場合の含有比率は、組成物全体に対して、0.01〜1%(w/v)程度が好ましく、0.1〜0.5%(w/v)程度がより好ましい。上記範囲であれば、脂肪族高級アルコールによる上記効果が十分に得られるとともに、脂肪族高級アルコール特有のベタツキ感が生じることがない
【0030】
補助的な増粘剤
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の補助的な増粘剤が含まれていてよい。その他の増粘剤としては、セルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;アクリル酸−澱粉グラフト共重合体架橋物、N−ビニルアセトアミド/アクリル酸ナトリウム共重合体等のアクリル酸又はその塩を構成成分のひとつとする共重合体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリエチレンオキサイド;メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体;ポリアクリルアミド;アルギン酸;アルギン酸ナトリウム;アルギン酸プロピレングリコールエステル;ゼラチン;アラビアゴム;トラガントゴム;ローカストビーンガム;グアガム;タマリンドガム;キサンタンガム;ジェランガム;カラギーナン等が挙げられる。補助的な増粘剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
特に、セルロース及びセルロース誘導体からなる群より選ばれる補助的増粘剤が好ましく、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、及び疎水化ヒドロキシプロピルエチルセルロースがより好ましい。本発明の殺菌消毒用組成物に、カルボキシビニルポリマー及び寒天に加えて、セルロース又は/及びセルロース誘導体が含まれることにより、カルボキシビニルポリマーの含有量を減らすことができる。
【0032】
補助的な増粘剤が含まれる場合の含有比率は、その種類によって異なる。セルロース又は/及びセルロース誘導体が含まれる場合の使用量は、組成物全体に対して、0.001〜1%(w/v)程度が好ましく、0.01〜0.1%(w/v)程度がより好ましい。上記範囲内であれば、セルロース又は/及びセルロース誘導体による上記効果が十分に得られるとともに、セルロース又は/及びセルロース誘導体特有のヨレの発生の原因となることはない。
【0033】
pH調整剤
本発明の組成物は、カルボキシビニルポリマーの増粘のために、pHが4〜9程度であることが好ましい。このため、本発明の組成物には、必要に応じてpH調整剤が含まれる。pH調整剤は、医薬品や化粧品などの皮膚外用に適したものであればよく、特に限定されない。このようなpH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウムのようなアンモニウムの水酸化物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンのようなアルカノールアミン;2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールのようなアルキルアミン;リジン、アルギニンのような塩基性アミノ酸;POEアルキルアミンなどが挙げられる。中でも、アルコールへの溶解性が良い点で、アルカノールアミンが好ましく、ジイソプロパノールアミンがより好ましい。
【0034】
また、必要に応じて、クエン酸、酒石酸、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、サリチル酸、フマル酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、酢酸、EDTA−2ナトリウムのような有機酸又は有機酸塩;塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸のような無機酸なども使用できる。
pH調整剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
その他の成分
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の殺菌消毒剤を含んでいてよい。このような殺菌消毒剤としては、アクリノール、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、セチルリン酸化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化メチルロザニリン、ヨウ素、ヨウ化カリウム、ポビドンヨード等のヨードホール、ヨードホルム、マーキュロクロム、アルキルポリアミノエチルグリシン、チメロサール、プロノポール、レゾルシン、ヒノキチオール、トリクロサン、フェノール及びその誘導体、グルコン酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンのようなクロルヘキシジン塩等が挙げられる。
【0036】
また、本発明の組成物は保湿剤を含まなくてもよいが、殺菌消毒剤に添加される公知の保湿剤を含んでいてもよい。このような公知の保湿剤としては、例えばシリコーンオイル、脂肪酸エステル、ピロリドンカルボン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、dl−ピロリドンカルボン酸ナトリウム、尿素、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等が挙げられる。シリコーンオイルは、保湿剤としての作用に加え、例えば手術用手袋の脱着を容易にし得る潤滑作用も有する。脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、オレイン酸イソブチル又はマレイン酸イソブチル等が挙げられる。
【0037】
本発明の組成物には、必要に応じて、グリチルリチン酸又はその誘導体、ビタミンE、ビタミンEアセテート、ビタミンB6のような薬剤;ノニオン性界面活性剤;アミノ酸又はその誘導体;アジピン酸ジイソブチル;アラントイン等を配合することもできる。
なお、本発明の組成物は手に塗った後に洗い流さずに乾燥させるものであるため、グルコマンナンのように、水やアルコールと均一に混ざり合わない成分は含まれないことが好ましい。
【0038】
調製方法
本発明の組成物は、各成分を混合し、加温して寒天、及び場合により脂肪族高級アルコールなどの常温で固体の成分を溶解させ、通常はpHを調整することにより得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び試験例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)殺菌消毒用組成物の調製
後掲の表1に示す各成分を順次撹拌混合し、100mLとした。尚、寒天は90℃付近の熱水に溶解し、撹拌冷却後、混和した。カルボキシビニルポリマーは、ノベオン社製のカーボポールUlterz10を用いた。寒天は、伊那食品工業社製の低強度寒天AX−30を用いた。この低強度寒天の濃度は1.5%(w/w)のゲルとした場合のゼリー強度は約30g/cm2である。ゼリー強度は、日寒水式ゼリー強度測定計を用いて測定した。
【表1】

【0040】
また、以下の試験例においては、従来の代表的なゲル状殺菌消毒製剤であるゴージョージャパン社製のゴージョーMHSも使用した(比較例2)。ゴージョーMHSは、エタノール、カルボキシビニルポリマー、ミリスチン酸イソプロピル、及びプロピレングリコールを含む水溶液である。
【0041】
(2)液ダレの評価
実施例1及び比較例2(ゴージョーMHS)の各殺菌消毒用組成物を適量(500円玉程度の大きさ)手に取り、手指全体に馴染むように擦り込んで乾燥させた。各パネラーがこの動作を1日5回行い、手からの組成物の液ダレを、「こぼれる」、「少しこぼれる」、「こぼれない」の3段階で評価した。パネラーの数は実施例1の組成物については31人とし、比較例2の組成物については30人とした。各段階の評価を下したパネラーの人数の比率を下記の表2に示す。
【0042】
【表2】

表2より、組成物中に、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーに加えて寒天が含まれることにより、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーのみ含まれる場合に比べて、液ダレし難いことが分かる。
【0043】
(3)使用感の評価
(3-1)ベタツキ感・乾燥感の評価
実施例1及び比較例2(ゴージョーMHS)の各組成物を、前述した液ダレ評価の場合と同様にしてパネラーが使用し、乾燥後の状態を評価した。評価は、「ベタツキ又は乾燥を感じる」、「ややベタツキ又は乾燥を感じる」、及び「適当」の3段階で評価した。パネラーの数は実施例1の組成物については31人とし、比較例2の組成物については30人とした。各段階の評価を下したパネラーの人数の比率を下記の表3に示す。
【0044】
【表3】

表3から、組成物中に、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーに加えて寒天が含まれることにより、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーのみ含まれる場合に比べて、ベタツキ感又は乾燥感が抑えられることが分かる。
【0045】
(3-2)ベタツキ感・ザラツキ感の評価
実施例1〜5、及び比較例1の各組成物を、前述した液ダレ評価の場合と同様にしてパネラーが使用し、乾燥後の状態を、「ベタツキ又はザラツキを感じる」、「ベタツキ又はザラツキを殆ど感じない」、及び「ベタツキ又はザラツキを感じない」の3段階で評価した。パネラーの数は2人とした。結果を下記の表4に示す。
【表4】

【0046】
表4から、組成物中に、カルボキシビニルポリマー及びセルロース系化合物に加えて寒天が含まれることにより、増粘剤としてカルボキシビニルポリマー及びセルロース系化合物のみ含まれる場合に比べて、ベタツキ感又はザラツキ感が抑えられることが分かる。また、セタノールが含まれることにより、ベタツキ感又はザラツキ感が一層抑えられることが分かる。
【0047】
(3-3)滑らかさの評価
実施例1及び比較例2の各組成物について、平均摩擦係数(MIU)及び平均摩擦係数の変動(MMD)を測定した。MIUは、人が物体の表面を擦るときに感じる「滑り易さ」又は「のび」と相関があり、この値が大きいほど滑り難く、即ちのび難いことを示す。MMDは、人が物体の表面を擦るときに感じる「滑らかさ」と相関があり、この値が大きいほど滑らかさが大きいことを示す。
【0048】
具体的には、摩擦感テスター(カトーテック社製、KES-SE型)に設置した人工皮革の供試面に各組成物を50μL載せ、その上に静荷重50gのシリコーン製摩擦感センサーを置き、速度1mm/秒で滑らせて、3cm滑らせたところまでの滑り出しの摩擦抵抗を測定した。測定は、温度22.6℃、相対湿度40.5%の環境中で行った。
MIUはシリコーン製摩擦感センサーにより感知される摩擦抵抗値の積分に0.1の係数を掛け、MMDはシリコーン製摩擦感センサーにより感知される摩擦抵抗の変動値の積分に0.01の係数を掛けて算出した。具体的には、KES−FB SYSTEM データ計測プログラムを用いたデータ処理により算出した。
結果を以下の表5及び図1に示す。
【表5】

表5及び図1から、組成物中に、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーに加えて寒天が含まれることにより、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーのみ含まれる場合に比べて、のびが良く、また滑らかになることが分かる。
【0049】
(4)保湿性の評価
実施例1及び比較例2(ゴージョーMHS)の各組成物の100μLを、8人のパネラーが腕に塗布し、30分間放置した後、精製水10μLを滴下し、30秒後に拭き取り、その直後、30秒後、60秒後、90秒後、及び120秒後に、皮膚角質部分の水分含有量を測定した。皮膚角質部分の水分含有量は、皮膚角質水分量測定装置(アイ・ビイ・エス社製、SKICON−200EX)を用いて測定した。30秒後、60秒後、90秒後、及び120秒後の各水分保持量の平均値の、精製水拭き取り直後の水分含有量に対する比率(水分保持率)を求めた。水分保持率が大きいほど保湿性がよいことを示す。
【0050】
結果を下記の表6及び図2に示す。
【表6】

表6及び図2から、組成物中に、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーに加えて寒天が含まれることにより、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーのみ含まれる場合に比べて、保湿性が良いことが分かる。また、比較例2の組成物にはミリスチン酸イソプロピル及びプロピレングリコールのような保湿剤が含まれているのに対して、本発明実施例1の組成物には保湿剤が含まれていない。これにも関わらず本発明の実施例1の組成物の方が保湿性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の殺菌消毒用組成物は、液ダレがなく、使用感に優れ、さらに保湿性が良好であるため、一般家庭用又は一般業務用の殺菌消毒用組成物としてだけでなく、頻回使用される病院用の殺菌消毒用組成物としても好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1の組成物と比較例2の組成物との間で、平均摩擦係数(MIU)及び平均摩擦係数の変動(MMD)を比較した結果を示す図である。
【図2】実施例1の組成物と比較例2の組成物との間で、皮膚角質水分含有率を比較した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)、(b)、及び(c)を含むことを特徴とする殺菌消毒用組成物。
(a) エタノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルコール
(b) ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、及びポリアクリル酸塩とポリアクリル酸アルキルエステルとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボキシビニルポリマー
(c) 寒天
【請求項2】
アルコールの含有比率が、組成物全体に対して40〜95%(v/v)である請求項1に記載の殺菌消毒用組成物。
【請求項3】
寒天が、天然寒天より分子が短い低強度寒天である請求項1又は2に記載の殺菌消毒用組成物。
【請求項4】
低強度寒天が、寒天濃度1.5%(w/w)のゲルである場合のゼリー強度が10〜250g/cmである寒天である請求項3に記載の殺菌消毒用組成物。
【請求項5】
低強度寒天が、酸処理、アルカリ処理、又は熱処理により天然寒天の分子を切断することにより得られるものである請求項3に記載の殺菌消毒用組成物。
【請求項6】
寒天の含有量が、組成物全体に対して0.05〜5%(w/v)である請求項1〜5のいずれかに記載の殺菌消毒用組成物。
【請求項7】
カルボキシビニルポリマーの含有量が、組成物全体に対して0.01〜4%(w/v)である請求項1〜6のいずれかに記載の殺菌消毒用組成物。
【請求項8】
さらに、セルロース及びセルロース誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜7のいずれかに記載の殺菌消毒用組成物。
【請求項9】
さらに、炭素数12〜22の脂肪族高級アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜8のいずれかに記載の殺菌消毒用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−120765(P2008−120765A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309375(P2006−309375)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(393028036)丸石製薬株式会社 (20)
【Fターム(参考)】