説明

コンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方法

【課題】
コンクリートの乾燥収縮ひずみの推定式であって、当該判定式によって短期材齢から所要の長期材齢におけるコンクリートの乾燥収縮ひずみを、高精度にかつ早期に判定することができる、コンクリートの乾燥収縮ひずみの評価方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法は、複数のコンクリートの温度20±2℃、湿度60±5%、並びに温度80±3℃(湿度は特に調整しないがほぼ0%)における上記それぞれの最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80、εsh∞20)と、それぞれの乾燥期間28日の実測値(εsh(35,7)80、εsh(35,7)20)とのそれぞれの差分(Δεsh80、Δεsh20)をそれぞれのコンクリートについて算定して、Δεsh80とΔεsh20との関係を一次式または二次式で近似した関係式を利用するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方法に関し、特にコンクリートの収縮に起因して生じるひび割れを制御するために、長期に渡るコンクリートの乾燥収縮による長さ変化率(以下、「乾燥収縮ひずみ」と称す)を短期材齢のコンクリートで、早期に高精度で判定することができる、コンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは乾燥に伴ってその体積を減少させ、かかる現象は乾燥収縮と呼ばれている。コンクリート構造物にかかる乾燥収縮が生じると、ひび割れの発生原因となるため、乾燥収縮ひずみが規制されている。
コンクリートの乾燥収縮による収縮ひび割れは、建築物や土木構造物の構造形式によっては機能性や耐久性の低下に大きな影響を及ぼす要因の1つであり、その制御に対する社会的要請は年々高まっている。
【0003】
例えば、土木学会のコンクリート標準示方書では設計において考慮すべきコンクリートの乾燥収縮ひずみを1200×10−6と示している。つまり、乾燥収縮ひずみが1200×10−6のコンクリートは、収縮が問題となる構造物に何ら対策を講じないで適用するのは実際上困難であるので、試験により得られた実際の乾燥収縮ひずみに基づき構造物の応答値を算定し、照査に合格する解を見出す流れを推奨しているのである。一方、日本建築学会のJASS5では、供用する期間に応じてコンクリートの乾燥収縮ひずみを規定しており、計画供用期間としておよそ100年の長期供用級、および計画供用期間としておよそ200年の超長期供用級では800×10−6以下としている。
【0004】
しかし、乾燥収縮ひずみは、長期に亘って発現し、その数値が完全に収束するには数年レベルの年月を要する。
従って、このコンクリートの乾燥収縮ひずみを制御するためには、長期材齢に渡り進行して達する乾燥収縮ひずみを推定、予測することが重要であるが、現実には長期の測定データを確認することは困難な状況である。
【0005】
コンクリートの乾燥収縮率(乾燥収縮ひずみ)を測定する長さ変化試験(JIS A 1129−2 附属書A)では、一般に材齢7日まで水中養生を行った後乾燥させ、少なくとも6か月(182日)の期間の測定が必要となる。
一般的なコンクリート工事において、6か月以上前にコンクリートの品質確認を行うことは難しく、上述の試験をそのままコンクリート工事のために適用することは現実的でない。
このため、短期間で得たコンクリートの乾燥収縮のデータから長期材齢での乾燥収縮ひずみを推定するために、種々の推定式が提案されており、乾燥収縮ひずみを規制するための判定は、短期のデータに基づいた推定値が用いられつつある。
【0006】
日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)」(非特許文献1)や土木学会「コンクリート標準示方書」(非特許文献2)では、コンクリートの乾燥収縮ひずみ発現は、長期に亘り最終値に漸近するといった特性上、下記式(1)、(2)のような関数式で近似して推定している。
【0007】
【数1】

【0008】
【数2】

【0009】
【数3】

【0010】
ここで上記式中、εsh(t,t)は乾燥開始材齢t日から材齢t日までの乾燥収縮ひずみ(×10−6)、εsh∞は乾燥収縮ひずみの最終値(×10−6)、α、β、γ、δは乾燥の進行度を表す係数である。
【0011】
例えば、式(1)’のように、乾燥開始材齢t0からコンクリートの任意の短期材齢te日における乾燥収縮ひずみの具体的測定データ(εsh(te,t020(×10−6))を代入し、乾燥収縮ひずみの最終値(εsh∞)を求めることによって、式(1)から長期材齢tの乾燥収縮ひずみ(εsh(t,t0)(×10−6))を推定している。
なお、コンクリートの乾燥収縮ひずみを測定するJIS A 1129−2附属書Aに規定される長さ変化試験により、乾燥収縮ひずみの規制値は通常材齢6ヶ月が対象となっている。
【0012】
上記式(1)は日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)」(非特許文献1)、上記式(2)は土木学会「コンクリート標準示方書」(非特許文献2)が採用しているものであり、上記両式とも乾燥収縮ひずみの膨大なデータに基づき、α=0.16(V/S)1.8(Vはコンクリート試験体の容積(mm)、Sは試験体の表面積(mm)と規定しており、またJIS規格(例えば、JIS A 1129−2附属書A)で定められた乾燥収縮ひずみを測定する長さ変化試験ではV/S=22.2mmのため、α=42.5となる)、β=1.4(V/S)−0.18(β=0.8)、γ=0.108、δ=0.56と定めている。
【0013】
日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)」(非特許文献1)や土木学会「コンクリート標準示方書」(非特許文献2)では、上記式(1)及び上記式(2)の実験定数を定めることによって、乾燥収縮ひずみの推定式の運用を高めているが、その反面、比較的短期の乾燥期間(例えば、乾燥開始材齢t0からコンクリートの材齢28日までの期間)における実測データから求めた材齢6ヶ月の乾燥収縮ひずみの推定値は精度に欠けるといった問題があり、材齢6ヵ月後の乾燥収縮ひずみの実測値との差は100〜200(×10−6)となる場合がある。
日本建築学会「建築工事標準仕様書(JASS5)」による乾燥収縮ひずみの規制値が8(×10−4)であることから、実測値との差としての100〜200(×10−6)の誤差は無視することはできない数値である。
【0014】
また、今本らの「短期データに基づくコンクリートの乾燥収縮ひずみ予測に関する研究」(日本建築学会構造系論文集第602号,pp.15−20,2006.4)(非特許文献3)には、上記指針と同様にコンクリートの乾燥収縮ひずみは特定の予測式で近似可能とした上で、当該短期データの全てを逐次用いて、最終乾燥収縮ひずみを推定する方法を提案している。
【0015】
特開2008−8753号公報には、コンクリート乾燥収縮率の早期推定方法として、コンクリートの乾燥収縮に影響を与える因子を係数として乗じてなる経時変化特性係数から終局乾燥収縮率の1/2の乾燥収縮率に達する乾燥期間算出基準期間を設定し、該乾燥期間算出基準期間と1個の短期乾燥期間測定データとをもとに外挿1次補完係数を求め、前記乾燥期間算出基準期間と外挿1次補完係数とから、前記乾燥期間算出基準期間以後の任意の乾燥期間経過時のコンクリートの乾燥収縮率を推定することを特徴とするコンクリート乾燥収縮率の早期推定方法が提案されている。
【0016】
しかし、これらの評価方法は、ある範囲の材料および配合に限れば極めて適切な最終乾燥収縮ひずみを与えることもできるが、万能な評価方法ではない。
従来技術に示す迅速評価方法の適用が必ずしも適切でない一例を図1に示す。図1は、普通ポルトランドセメントを用いて、以下の表1に示す配合のコンクリートの乾燥収縮ひずみをJIS A 1129−2附属書Aに従って測定し、6か月までの乾燥期間を変化させてその最終値を推定したものである。
【0017】
【表1】

【0018】
具体的には、図1は、上記日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)」(既往の迅速評価方法1)及び今本らの「短期データに基づくコンクリートの乾燥収縮ひずみ予測に関する研究」(既往の迅速評価方法2)を用いて、乾燥期間が28日程度までの乾燥収縮ひずみデータからその最終値を推定した場合を示したものである。
なお、乾燥ひずみの予測式は、上記式(1)及び上記式(1)’(体積表面積比V/S=22.2mm)を用いて予測したものである。
図1より、乾燥開始材齢t0から材齢t日までの期間(以下、乾燥期間)が短いと、得られた乾燥収縮ひずみの最終値の推定値が大きくなることはこの図1より明らかであり、コンクリート乾燥収縮の早期推定方法としては、十分な方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2008−8753号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】日本建築学会『鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説』の迅速評価方法,pp.53−60,および同解説付録pp.186−190
【非特許文献2】土木学会『コンクリート標準示方書 [設計編]』,pp.45−46
【非特許文献3】今本啓一,石井寿美江,閑田徹志,百瀬晴基,藤森啓祐:短期データに基づくコンクリートの乾燥収縮ひずみ予測に関する研究,日本建築学会構造系論文集第602号,pp.15−20,2006.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は上述した問題点を解消し、コンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方式であって、コンクリートの短期材齢の乾燥収縮ひずみの実測値から、任意の長期材齢におけるコンクリートの乾燥収縮ひずみを、高精度にかつ早期に判定することができる、コンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方法を提供することにある。
具体的には、使用するレディミクストコンクリートが決定してから工事着工までの期間内、すなわち室内試験練りのコンクリートの圧縮強度が呼び強度を満足することが判明する材齢28日程度に相当する乾燥期間において、材齢6か月における乾燥収縮ひずみを精度良く推定する迅速評価方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法は、
(1)評価対象となるコンクリートについて、材齢7日後から温度20±2℃及び湿度60±5%(以下、「温度20℃」と略記する)の条件下、並びに温度80±3℃(湿度は特に調整しないがほぼ0%、以下「温度80℃」と略記する)での条件下でそれぞれ28日まで乾燥させ、乾燥期間28日までの複数の任意の乾燥期間における乾燥収縮ひずみ(εsh(t,t020または80)を測定し、
(2)上記(1)で実測した複数の乾燥期間の乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(t,t080)(×10−6)を用いて、下記式(1)により、温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)(×10−6)、α80及びβ80を算定し、
(但し、下記式中、εsh(t,t)は乾燥開始材齢t日から材齢t日までの乾燥収縮ひずみ(×10−6)、εsh∞は乾燥収縮ひずみの最終値(×10−6)、α、βは乾燥の進行度を表す係数である)
【0023】
【数4】

【0024】
(3)温度80℃における上記最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)と乾燥期間28日の実測値εsh(35,7)80との差分(Δεsh80)を算定し、
(4)予め決定された、温度80℃における上記最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)と乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値εsh(35,7)80との差分(Δεsh80)と、温度20℃における上記最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞20)と乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値εsh(35,7)20との差分(Δεsh20)との関係式を用いて、上記(3)で得られた差分(Δεsh80)値を用いて、対象となるコンクリートの20℃における乾燥収縮ひずみの差分値(Δεsh20)を求め、該差分値(Δεsh20)より、上記(1)で測定した温度20℃における乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ実測値から、温度20℃における最終収縮ひずみ推定値(εsh∞20)を算定し、
(5)上記式(1)に、前記(4)で得られた最終収縮ひずみ推定値(εsh∞20)及び上記(1)で測定した乾燥期間28日までの乾燥期間t日の乾燥収縮ひずみ実測値(εsh(t,7)20)を適用して、α20及びβ20を最小二乗法により算定し、
(6)上記(4)で得られた最終収縮ひずみ推定値(εsh∞20)、上記(5)で得られたα20及びβ20を上記式(1)に適用して、任意の長期材齢tの乾燥収縮ひずみ値(εsh20(t,7))を推定する
ことを特徴とする、コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法である。
【0025】
好適には、上記本発明のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、前記温度80℃における乾燥収縮ひずみの差分(Δεsh80)と、温度20℃における乾燥収縮ひずみ値の差分(Δεsh20)との関係式は、コンクリートに含まれる粗骨材が石灰石と、石灰石以外の場合とで異なることを特徴とする、コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法である。
さらに好適には、上記本発明のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、任意の長期乾燥期間が乾燥期間6か月であることを特徴とする、コンクリートの乾燥収ひずみの早期評価方法である。
【0026】
また好適には、上記本発明のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、上記温度80℃における乾燥収縮ひずみの差分(Δεsh80)と、温度20℃における乾燥収縮ひずみ値の差分(Δεsh20)との関係式は、
(1)複数のコンクリートについて、材齢7日後から温度20℃の条件下、および温度80℃の条件下でそれぞれ乾燥期間6か月または28日として乾燥させ、乾燥期間6か月または28日までの複数の任意の乾燥期間における乾燥収縮ひずみ(εsh(t,7)20または80)を測定し、
(2)上記(1)で実測した複数の乾燥期間の乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(t,7)20 または 80)(×10−6)を用いて、下記式(1)により、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞20)(×10−6)、α20及びβ20、並びに温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)(×10−6)、α80及びβ80を算定し、
(但し、下記式中、εsh(t,t)は乾燥開始材齢t0から材齢t日までの乾燥収縮ひずみ(×10−6)、εsh∞は乾燥収縮ひずみの最終値(×10−6)、α、βは乾燥の進行度を表す係数である)
【0027】
【数5】

【0028】
(3)上記複数のコンクリートの温度20℃及び温度80℃における上記それぞれの最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80、εsh∞20)と、それぞれの乾燥期間28日の実測値(εsh(35,7)20、εsh(35,7)80)とのそれぞれの差分(Δεsh80、Δεsh20)をそれぞれのコンクリートについて算定して、Δεsh80とΔεsh20との関係を一次式または二次式で近似して関係式を決定する
ことを特徴とする、コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法である。
【0029】
さらに好適には、上記本発明のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、前記関係式は、コンクリートの粗骨材が石灰石である場合と、石灰石以外である場合とで分けて構築されることを特徴とする、コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明のコンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方法は、短期材齢におけるコンクリートの乾燥収縮ひずみの実測値を測定することで、任意の長期材齢、例えば乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみを高精度かつ早期に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来の乾燥収縮ひずみの早期評価(比較例)による乾燥収縮ひずみの推定値と乾燥期間との相関関係を示す一例の相関図である。
【図2】各種コンクリート供試体を材齢7日から温度20℃の条件下で乾燥させた場合の乾燥期間と乾燥収縮ひずみの実測値との相関関係を示す一例の相関図である。
【図3】他の各種コンクリート供試体を材齢7日から温度20℃の条件下で乾燥させた場合の乾燥期間と乾燥収縮ひずみの実測値との相関関係を示す一例の相関図である。
【図4】各種コンクリート供試体を材齢7日から温度80℃の条件下で乾燥させた場合の乾燥期間と乾燥収縮ひずみの実測値との相関関係を示す一例の相関図である。
【図5】他の各種コンクリート供試体を材齢7日から温度80℃の条件下で乾燥させた場合の乾燥期間と乾燥収縮ひずみの実測値との相関関係を示す一例の相関図である。
【図6】コンクリート供試体中の粗骨材が石灰石の場合において、各種コンクリート供試体を材齢7日から温度80℃の条件下で28日間乾燥させた場合の各乾燥収縮ひずみから推定された最終乾燥収縮ひずみと乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみとの差分、および各種コンクリート供試体を材齢7日から温度20℃の条件下で6か月乾燥させた場合の各乾燥収縮ひずみから推定された最終乾燥収縮ひずみと乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみとの差分との相関関係を示す相関図である。
【図7】コンクリート供試体中の粗骨材が石灰石以外の場合において、各種コンクリート供試体を材齢7日から温度80℃の条件下で28日乾燥させた場合の各乾燥収縮ひずみから推定された最終乾燥収縮ひずみと乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみとの差分と、および各種コンクリート供試体を材齢7日から温度20℃の条件下で6か月乾燥させた場合の各乾燥収縮ひずみから推定された最終乾燥収縮ひずみと乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみとの差分との相関関係を示す相関図である。
【図8】コンクリート供試体を材齢7日から温度20℃の条件下で6か月乾燥させた場合の乾燥収縮ひずみと、本発明の方法により推定した乾燥期間6か月の乾燥収縮ひずみの推定値との関係を示す図である。
【図9】温度20℃における各種コンクリート供試体の乾燥期間と乾燥収縮ひずみについて、実測値と本願の方法による推定値との相関関係を示す一例の相関図である。
【図10】温度20℃における他の各種コンクリート供試体の乾燥期間と乾燥収縮ひずみについて、実測値と本願の方法による推定値の相関関係を示す一例の相関図である。
【図11】本発明の乾燥収縮ひずみの早期評価方法のためのデータベース構築の手順を概略的に示すフローチャート図である。
【図12】本発明の乾燥収縮ひずみの早期評価方法の手順を概略的に示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のコンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方法について以下に詳述する。
図11は、本発明のコンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、測定対象のコンクリートの長期材齢t(日)における乾燥収縮ひずみ(εsh(t,t)(×10−6))の算定を行うためのデータベースの関係式の構築を概略的に示すフローチャート図である。なお、乾燥開始材齢はJIS A 1129−2附属書Aに従えば、7日となる。
図12は、本発明のコンクリート乾燥収縮ひずみの早期評価方法によって、上記で構築したデータベースの関係式を利用して、評価対象のコンクリートの長期材齢t(日)における乾燥収縮ひずみ(εsh(t,t)(×10−6))の算定を行うためのフローチャートを示したものである。
【0033】
本発明における乾燥収縮ひずみの早期評価方法を、図11および図12のフローチャート図に沿って、以下の好適例により詳細に説明する。
A.本発明の評価方法に用いる関係式の構築
(1)既往の迅速評価方法を用いた場合に起こりうる過大な最終乾燥収縮ひずみの推定誤差をなるべく無くすために、同一のコンクリートからコンクリート試験体を複数体作製する。
好適例として、使用材料及びその配合量が異なる、合計12種類のコンクリートを調製した。
コンクリートの使用材料は以下のものを使用した。
・セメント:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)
・細骨材:川砂または山砂であり、密度および吸水率を表3に示す。
・粗骨材:川砂利、石灰石、硬質砂岩、凝灰岩または砂岩であり、密度および吸水率を表3に示す。
・混和材:石灰石微粉末(ブレーン比表面積 4580cm/g、密度2.71g/cm
・水:水道水
【0034】
表2は、コンクリートの配合量を示す。但し、表2中のスランプはJIS A 1101、スランプフローはJIS A 1150に従い、また空気量はJIS A 1128に従って測定した値である。また、表3は、各コンクリートに用いた粗骨材および細骨材の物性(密度および吸水率)を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
上記調製された表2の各No2〜13の各コンクリートを用いてJIS規格(JIS A 1129−2附属書A)に従って、各コンクリートから6個のコンクリートの角柱試験体(100×100×400mmの角柱試験体)を作製した。具体的には、室温20±2℃、湿度80%以上の恒温恒湿室でコンクリート角柱試験体を作製し、同恒温恒湿室において打設後1日で型枠をはずし、材齢7日までの6日間は20±2℃で水中養生を行なった。
【0038】
次いで、No2〜13の各コンクリート角柱試験体6個のうち3個の試験体を、材齢7日後から温度20±2℃、湿度60±5%(JIS A 1129−2 付属書A)の条件下で乾燥させ、その後6か月まで、1日、3日、7日、14日、28日(実測必須の6点)及び、図2および図3に示す各任意の乾燥期間(t−t)における乾燥収縮ひずみ(εsh(t,t20)をJIS A 1129−2 付属書Aに準じて各コンクリート試験体毎に実測した。乾燥期間6か月までの乾燥収縮ひずみの測定は前述より多くても一向に差し支えない。
その結果を図2および図3に示す。但し、各乾燥期間における乾燥収縮ひずみ実測値は、当該乾燥期間における各コンクリート試験体の上記3個の試験体の平均値とした。
【0039】
(2)図2および図3に示す各任意材齢t日の乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(t,t20)(×10−6)を用いて、下記式(1)により、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞20)(×10−6)およびα20、β20を最小二乗法により求めた。各コンクリート試験体の得られた最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞20)を、以下の表4に示す。
【0040】
【数6】

【0041】
(3)また、各コンクリート試験体の3個の乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(35,7)20)と、上記式(1)より求められた最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞20)とのひずみ値の差分も以下の表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
(4)また、上記で調製された表2の各No2〜13の各コンクリート供試体のうち、残りの3個のコンクリート角柱試験体(100×100×400mm)を用いて(材齢7日までの6日間は20±2℃で水中養生)、材齢7日から温度80±3℃(湿度は特に調整しないがほぼ0%)の条件下で乾燥させ、その後28日まで、1日、3日、7日、14日(実測必須の5点)及び、図4および図5に示す各任意の乾燥期間における乾燥収縮ひずみ(εsh(t,7)80)をJIS A 1129−2 付属書Aに従ってコンクリート試験体毎に実測した。乾燥期間28日までの乾燥収縮ひずみの測定は前述より多くても一向に差し支えない。
その結果を図4および図5に示す。但し、各乾燥期間における乾燥収縮ひずみ実測値は、当該乾燥期間における各コンクリート試験体の上記3個の試験体の平均値とした。
【0044】
図4および図5に示す乾燥開始材齢7日から各材齢t日までの乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(t,7)80)(×10−6)を用いて、上記式(1)により、温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)(×10−6)およびα80、β80を最小二乗法により求めた。各コンクリート試験体の得られた最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞80)を、以下の表5に示す。
【0045】
また、各コンクリート試験体の3個の乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(35,7)80)と、上記式(1)より求められた最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞80)とのひずみ値の差分(Δε)も以下の表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
(5)次いで、上記表3中の、乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ実測値(εsh(35,7)20)と最終収縮ひずみ(εsh∞20)値の差分(Δε20)をY軸に、上記表4中の、乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ実測値(εsh(35,7)80)と最終収縮ひずみ(εsh∞80)値の差分(Δε80)をX軸として、粗骨材が石灰石粗骨材のもの(配合例3,5,7,11,12)とそれ以外のもの(配合例2,4,6,8,9,10,13)とに分けて、その相関関係を、図6(粗骨材が石灰石)および図7(粗骨材が石灰石以外)に示し、最小二乗法によりXとYとの相関関係式を導く。
図6においては、両者の関係はXの二次式、図7においては、両者の関係は一次式となった(図6及び図7)。
【0048】
なお、上記(5)で得られた相関関係式を用いて、温度80℃における乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(35,7)80)と最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞80)とのひずみ値の差分(増分)の値より、温度20℃における乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(35,7)20)と最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞20)とのひずみ値の差分(増分)を求める。実際の乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(35,7)20)に、該相関関係式を用いて得られた該差分(乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(35,7)20)と最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞20)とのひずみ値の差分(増分))を加算することで、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ推定値Aを推定することができる。
一方、各配合例のコンクリート試験体の温度20℃における複数の乾燥期間での乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(t,t20)を用いて、上記式(1)の最終乾燥収縮ひずみ値Aを代入した上で、最小二乗法によってα20、β20を求める。
【0049】
更に、上述のごとく求めた最終乾燥収縮ひずみ、α20、β20より乾燥期間6か月の乾燥収縮ひずみを算出する。これらの乾燥期間6か月の乾燥収縮ひずみの上記推定値と、実測値との関係を図8に示す。
図8より、乾燥期間6か月の乾燥収縮ひずみの推定値と実測値とは、比較的一致しており、上記し(5)の上記相関関係式を用いたコンクリートの乾燥収縮ひずみの推定方法は、実用的な推定方法であることがわかる。
【0050】
B.コンクリートの乾燥収縮ひずみの評価
例えば、乾燥期間6か月のコンクリートの乾燥収縮ひずみを、上記関係式を用いて評価する方法を説明する。
(6)対象となるコンクリートについて、上記(1)と同様にして、材齢7日後から温度20±2℃、湿度60±5%(JIS A 1129−3 付属書A)の条件下で乾燥させ、その後28日までの複数の乾燥期間における乾燥収縮ひずみ(εsh(t,t20)をJIS A 1129−2 付属書Aに準じてコンクリート試験体毎に実測した(乾燥期間28日(εsh(35,7)20)は必須)。
(7)次いで、上記(4)と同様にして、乾燥期間28日までの各任意の乾燥期間(t−t)の乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(t,t80)(×10−6)を用いて、上記式(1)により、温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)(×10−6)およびα80、β80を最小二乗法により算定した。乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(28)80)と、前記式(1)より求められた最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞80)とのひずみ値の差分(Δε80)も算定した。
【0051】
(8)上記(5)で得られた相関関係式を用いて、乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(28)80)と最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞80)とのひずみ値の差分(増分)の値より、乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(28)20)と最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞20)とのひずみ値の差分(増分)を求める。
但し、対象となるコンクリートの粗骨材が石灰石の場合には、上記関係式を構築するにあたって、石灰石を用いて構築した関係式を用い、粗骨材が石灰石以外のコンクリートを評価する場合には、石灰石以外の粗骨材を用いて構築した関係式を用いる。
次に、実際の乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(35,7)20)に、該相関関係式を用いて得られた該差分(乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値の実測値(εsh(35,7)20)と最終乾燥収縮ひずみ(εsh∞20)とのひずみ値の差分(増分))を加算することで、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ推定値Aを推定することができる。
【0052】
(9)次いで、コンクリート試験体の上記(8)で得られた最終乾燥収縮ひずみ推定値A、乾燥期間28日までの複数の乾燥収縮ひずみ実測値(上記(6)での実測値)を用いて、前記式(1)により、α20、β20を最小二乗法で求める。
次いで、得られたα20、β20の値および最終乾燥収縮ひずみ推定値Aを前記式(1)に入れて、評価対象のコンクリート試験体の任意の乾燥期間、例えば乾燥期間6ヶ月における乾燥収縮ひずみ値を推定評価する。
【0053】
(10)コンクリート試験体に含まれる粗骨材が本願の実施例と異なる岩石種であっても、基本的には上記(6)〜(9)の手順と同様であり、80℃における乾燥期間28日から最終乾燥収縮ひずみεsh∞80までの増分を求め、岩石種が石灰石かそれ以外のものであるかに依存して図6または図7の近似曲線から、温度20℃における乾燥期間28日と最終乾燥収縮ひずみまでの増分を求め、別途実施している20℃の条件における乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみに該求めた増分を加算して最終乾燥収縮ひずみを推定する。次いで、乾燥期間28日までの複数の乾燥収縮ひずみ実測値での実測値を用いて、前記式(1)により、α20、β20を最小二乗法で求める。
得られたα20、β20の値および最終乾燥収縮ひずみ推定値Aを前記式(1)に入れて、各配合例のコンクリート試験体の任意の乾燥期間における乾燥収縮ひずみ値を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、コンクリートのひび割れに関連する乾燥収縮ひずみを、粗骨材の種類に応じて、早期かつ正確に推定するのに適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)評価対象となるコンクリートについて、材齢7日後から温度20±2℃及び湿度60±5%(以下、「温度20℃」と略記する)の条件下、並びに温度80±3℃(湿度は特に調整しないがほぼ0%、以下「温度80℃」と略記する)での条件下でそれぞれ28日まで乾燥させ、乾燥期間28日までの複数の任意の乾燥期間における乾燥収縮ひずみ(ε28(t,7)20または80)を測定し、
(2)上記(1)で実測した複数の乾燥期間(t−t)の乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(t,7)80)(×10−6)を用いて、下記式(1)
【数7】

(上記式中、εsh(t,t)は乾燥開始材齢t日から材齢t日までの収縮ひずみ(×10−6)、εsh∞は乾燥収縮ひずみの最終値(×10−6)、α、βは乾燥の進行度を表す係数である)
により、温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)(×10−6)、α80及びβ80を算定し、
(3)温度80℃における上記最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)と乾燥期間28日の実測値εsh(28)80との差分(Δεsh80)を算定し、
(4)予め決定された、温度80℃における上記最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)と乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値εsh(35,7)80との差分(Δεsh80)と、温度20℃における上記最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞20)と乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ値εsh(35,7)20との差分(Δεsh20)との関係式を用いて、上記(3)で得られた差分(Δεsh80)値を用いて、対象となるコンクリートの20℃における乾燥収縮ひずみの差分値(Δεsh20)を求め、該差分値(Δεsh20)より、上記(1)で測定した温度20℃における乾燥期間28日の乾燥収縮ひずみ実測値から、温度20℃における最終収縮ひずみ推定値(εsh∞20)を算定し、
(5)上記式(1)に、前記(4)で得られた最終収縮ひずみ推定値(εsh∞20)及び上記(1)で測定した乾燥期間28日までの乾燥収縮ひずみ実測値(εsh(t,7)20)を適用して、α20及びβ20を最小二乗法により算定し、
(6)上記(4)で得られた最終収縮ひずみ推定値(εsh∞20)、上記(5)で得られたα20及びβ20を上記式(1)に適用して、任意の長期材齢の乾燥収縮ひずみ値(εsh20(t,7))を推定する
ことを特徴とする、コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、前記温度80℃における乾燥収縮ひずみの差分(Δεsh80)と、温度20℃における乾燥収縮ひずみ値の差分(Δεsh20)との関係式は、コンクリートに含まれる粗骨材が石灰石と、石灰石以外の場合とで異なることを特徴とする、コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、任意の長期乾燥期間が乾燥期間6ヶ月であることを特徴とする、コンクリートの乾燥収ひずみの早期評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、上記温度80℃における乾燥収縮ひずみの差分(Δεsh80)と、温度20℃における乾燥収縮ひずみ値の差分(Δεsh20)との関係式は、
(1)複数のコンクリートについて、材齢7日後から温度20℃の条件下、および温度80℃の条件下でそれぞれ6か月または28日まで乾燥させ、乾燥期間6か月または28日までの複数の任意の乾燥期間における乾燥収縮ひずみ(εsh(t,7)20または80)を測定し、
(2)上記(1)で実測した複数の乾燥期間の乾燥収縮ひずみの実測値(εsh(t,7)20または80)(×10−6)を用いて、下記式(1)
【数8】

(上記式中、εsh(t,t)は乾燥開始材齢t日から材齢t日までの乾燥収縮ひずみ(×10−6)、εsh∞は乾燥収縮ひずみの最終値(×10−6)、α、βは乾燥の進行度を表す係数である)
により、温度20℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞20)(×10−6)、α20及びβ20、並びに温度80℃における最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80)(×10−6)、α80及びβ80を算定し、
(3)上記複数のコンクリートの温度20℃及び温度80℃における上記それぞれの最終乾燥収縮ひずみ値(εsh∞80、εsh∞20)と、それぞれの乾燥期間28日の実測値(εsh(35,7)80、εsh(35,7)20)とのそれぞれの差分(Δεsh80、Δεsh20)をそれぞれのコンクリートについて算定して、Δεsh80とΔεsh20との関係を一次式または二次式で近似して関係式を決定する
ことを特徴とする、コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法。
【請求項5】
請求項4記載のコンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法において、前記関係式は、コンクリートの粗骨材が石灰石である場合と、石灰石以外である場合とで分けて構築されることを特徴とする、
コンクリートの乾燥収縮ひずみの早期評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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