説明

コンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法

【課題】海洋コンクリートから製造される細骨材について、迅速に精度よく、JIS A 5002に規定の試験方法に基づいて得られる可溶性塩化物含有率を推定する。
【解決手段】海洋コンクリート製の細骨材Sについて、X線装置1により1次X線R1を照射した際に細骨材Sから放射される蛍光X線R2のX線強度と、JCI規準集に規定の全塩化物定量方法に基づいて得た細骨材Sの全塩化物含有率との関係を予め把握し、全塩化物含有率と、JIS A 5002に規定の試験方法に基づいて得た細骨材Sの可溶性塩化物含有率との関係を予め把握し、海洋コンクリート製の新たな細骨材SのX線強度を測定し、この測定値と、予め把握したX線強度と全塩化物含有率との関係と、予め把握した全塩化物含有率と可溶性塩化物含有率との関係とに基づいて、この細骨材Sについて、JIS A 5002に規定の試験方法に基づいて得られる可溶性塩化物含有率を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法に関し、さらに詳しくは、海洋コンクリートから製造される細骨材について、迅速に精度よく、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得される塩化物の含有率を推定できるコンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート廃材から骨材を再生する方法は、従来、種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。ところで、近年、コンクリート用再生細骨材のJIS規格の制定、砕石および砕砂に含まれる微粒分量の規制値緩和など、建設副産物として発生するコンクリート塊の再利用や、天然骨材の枯渇対策が具体化してきている。コンクリート用骨材として規格化されている骨材(例えば、JIS A 5302「レディーミクストコンクリート」、JIS A 5021「コンクリート用再生骨材H」、JIS A 5022「再生骨材Mを用いたコンクリート」、JIS A 5023「再生骨材Lを用いたコンクリート」)では、いずれも骨材中の塩化物含有率の上限値が設定されていて(NaCl換算で0.04重量%以下)、塩化物含有率が上限値を超える骨材の使用は原則認められていない。一方で、海洋港湾施設の老朽化等によって、撤去または解体される、もしくは補修によって発生する海洋コンクリート殻が増加しており、海洋コンクリート殻を有効に利用することが望まれている。
【0003】
海洋コンクリート殻をコンクリート用骨材として利用するには、海洋コンクリート殻から製造した骨材中の塩化物含有率を精度よく測定できることが重要となる。また、海洋コンクリート殻は撤去前に置かれていた環境によって、含んでいる塩化物の量が相当に異なるため、コンクリート用骨材としたときの塩化物含有率のばらつきが大きいことが予想される。海洋コンクリート殻から製造された骨材に含まれる塩化物のほとんどは、細骨材に含まれることがわかっている。そのため、海洋コンクリート殻から製造した再生骨材を用いたコンクリート製造においては、細骨材の塩化物含有率の測定頻度を他の骨材の場合よりも多くするなどして、細骨材の塩化物含有率のばらつきを把握し、そのばらつきをコンクリート製造に適切にフィードバックさせることが重要となる。
【0004】
一方、現状のJIS(例えば、JIS A 5302、JIS A 5021、JIS A 5022、JIS A 5023)では、JIS A 5002に規定する試験方法によって骨材中の塩化物含有率を測定することを定めている。しかしながら、JIS A 5002に規定する試験方法では、測定が完了するまで2日程度要するため、測定頻度を多くする必要のある海洋コンクリート殻から製造した再生骨材を用いたコンクリート製造においては、従来の方法より、骨材中の塩化物含有率を迅速かつ精度よく把握できる手法が必要となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−338558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、海洋コンクリートから製造されるコンクリート用細骨材について、迅速に精度よく、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得される可溶性塩化物含有率を推定できるコンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のコンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法は、海洋コンクリートから製造したコンクリート用細骨材について、エネルギー分散型蛍光X線装置によりX線を照射した際に細骨材から放射される蛍光X線の強度と、JCI規準集に規定された全塩分定量方法に基づいて取得した細骨材の全塩化物含有率との関係を予め把握しておくとともに、前記全塩化物含有率と、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得した細骨材の可溶性塩化物含有率との関係を予め把握しておき、海洋コンクリートから新たに製造した細骨材について前記X線強度を測定し、このX線強度の測定値と、前記予め把握しているX線強度と全塩化物含有率との関係と、前記予め把握している全塩化物含有率と可溶性塩化物含有率との関係と、に基づいて、前記新たに製造した細骨材について、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて得られる細骨材の可溶性塩化物含有率を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、海洋コンクリートから新たに製造した細骨材について測定した前記X線強度の測定値と、予め把握している前記X線強度と前記全塩化物含有率との関係とに基づいて、新たに製造した細骨材の全塩化物含有率を把握することができる。そして、この把握した全塩化物含有率と、予め把握している前記全塩化物含有率とJIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得した細骨材の可溶性塩化物含有率との関係とに基づいて、新たに製造した細骨材について、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて得られる可溶性塩化物含有率を把握することができる。即ち、前記エネルギー分散型蛍光X線装置によりX線を照射した際に、海洋コンクリートから新たに製造した細骨材から放射される蛍光X線の強度を測定すれば、その細骨材について、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて得られる可溶性塩化物含有率を、迅速に精度よく推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】エネルギー分散型蛍光X線装置によって、細骨材から放射される蛍光X線のX線強度を測定する工程を例示する説明図である。
【図2】X線強度の測定値のばらつきを例示するグラフ図である。
【図3】X線強度と、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得した細骨材の可溶性塩化物含有率との関係を示すグラフ図である。
【図4】X線強度と、JCI規準集に規定された全塩分定量方法に基づいて取得した細骨材の全塩化分含有率との関係との関係を示すグラフ図である。
【図5】JCI規準集に規定された全塩化物定量方法に基づいて取得した細骨材の全塩化物含有率と、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得した細骨材の可溶性塩化物含有率との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
本発明は、海洋に設置、埋設されていたコンクリート構造物、コンクリート塊等の海洋コンクリートに含まれる細骨材を取り出して再生した細骨材について、その塩化物の含有率を推定、把握するものである。詳しくは、再生した細骨材について、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得される塩化物の含有率(コンクリート製造の際に練混ぜ水中に容易に溶け出す塩化物の質量と細骨材の質量に対する百分率)を推定する。
【0012】
本発明では、図1に例示するエネルギー分散型蛍光X線装置1(以下、X線装置1という)を使用する。X線装置1は、X線管球2と内部を低真空にしたケーシング3を有し、ケーシング3内にはキャピラリー4とSDD(Silicon Drift Detector)検出器5を備えている。また、SDD検出器5の検出データが入力されるパーソナルコンピュータ等の演算装置6を備えている。
【0013】
そのX線装置1では、X線管球2より発生した1次X線R1がキャピラリー4を通って、試料である細骨材Sに照射され、試料から放射された蛍光X線R2がSDD検出器5によって検出され、そのX線強度が演算装置6によって測定、記憶される。
【0014】
そこで、まず、海洋コンクリートから再生した種々の細骨材Sについて、X線装置1を用いて、それぞれのX線強度を測定する。X線強度の測定は3〜9回程度の範囲で測定し、その平均値を測定値とする。1回の細骨材SについてX線強度を測定するのに要する時間は2分程度である。X線強度の測定の際には、細骨材Sの粒度は特別調整しなくてもよい。
【0015】
図2に同一の海洋コンクリートから採取して再生した9つの細骨材Sのサンプル(表乾密度2.35g/cm3、絶乾密度2.13g/cm3 、吸水率10.16%、微粒分量6.30重量%、塩化物含有率0.113重量%)について、絶乾状態でX線強度を測定した結果を例示する。これらサンプルは粉砕やふるい分け等の粒度調整を行なっていない。
【0016】
図2の結果では、X線強度は、平均値μに対して±2σ(σ=標準偏差)の範囲に分布している。これにより、細骨材Sは粒度調整を行なわずにX線強度を測定しても、測定値のばらつきが大きくないことが分かる。尚、X線強度を測定する際に、細骨材Sの平均粒度を0.3mm以下に調整しておくと、測定値のばらつきを一段と小さくするには有利である。
【0017】
また、X線強度を測定する際に、細骨材Sを絶乾状態にしておくと、含水分による影響を排除してより高精度でX線強度を測定できるので好ましい。例えば、細骨材Sを100℃以上(105℃程度)の乾燥炉の中に所定時間入れて絶乾状態にする。
【0018】
ところで、再生したそれぞれの細骨材Sについて、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて可溶性塩化物含有率を測定し、この測定値と、X線強度の測定値との関係を示すと図3に例示するように、可溶性塩化物含有率がある範囲に偏在する。なお、図3に示すプロット1点は、1試料につき9サンプルの平均値である。海洋コンクリートから再生した細骨材には、水と接触すると容易に水に溶け出す塩分と、細骨材Sに吸着または固定され水には容易には溶け出さない塩分の2つの形態がある。JIS A 5002に規定された試験方法では、試料となる細骨材Sを、精製水の中に24時間静置して塩化物を溶出させて含有率を測定するため、細骨材S中に浸透または吸着した塩化物までは溶出させ難く、骨材の種類ごとに精製水の中に24時間静置して溶出する塩化物の量は異なる。したがって、単純に、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得した溶性の塩化物含有率と、X線強度との関係を導き出すのは難しい。
【0019】
そこで、本発明では、X線強度を測定した細骨材Sについて、JCI規準集に規定された全塩分定量方法に基づいて全塩化分含有率(コンクリート製造の際に練混ぜ水中に容易に溶け出す塩化物と溶け出さない塩化物の総和の細骨材の質量に対する百分率)を測定する。この全塩分定量方法は、社団法人日本コンクリート工学協会(JCI)によって2004年4月に制定された規準集において、「硬化コンクリート中に含まれる塩分の分析方法」の中で規定されている。この方法はコンクリートを対象物としているので、本発明では対象物を細骨材Sとして、この方法に準拠して測定を行なう。
【0020】
具体的には、全塩分定量方法として、塩化物イオン選択性電極を用いた電位差滴定法、クロム酸銀−吸光光度法、硝酸銀滴定法の三種類の方法が規定されている。これら三種類のいずれの方法を用いても良いが、電位差滴定法は、操作が簡単な上、測定者のスキルによらず信頼性の高いデータが得易いので好適である。
【0021】
全塩分定量方法では、細骨材Sを0.15mm以下(標準ふるいの149μmを全通)の粉末状にして、粉末中の塩化物を硝酸溶液に溶出させるので、JIS A 5002に規定された試験方法に比して、細骨材S中に浸透または吸着した塩化物まで溶出させ易くなる。
【0022】
そして、上記の測定したX線強度と、JCI規準集に規定された全塩分定量方法に基づいて取得した細骨材の全塩化物含有率との関係L1を予め把握しておく。両者の関係L1は、図4に例示したように比例関係として把握される。この両者の関係L1は演算装置6に記憶させておく。
【0023】
図4のグラフ図において、四角マーカは、海洋コンクリートから再生した細骨材Sのデータである。丸形のマーカは山砂、三角形のマーカは砕砂、ひし形のマーカは通常の再生細骨材について、意図的に適宜NaCl水溶液を噴霧した場合のデータである。このように図4に示した直線L1の関係は、様々な種類の細骨材Sについて成立する。
【0024】
また、それぞれの細骨材Sについて、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて可溶性塩化物含有率を測定する。そして、JCI規準集に規定された全塩塩化物定量方法に基づいて取得した細骨材Sの全塩化物含有率と、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得した細骨材Sの可溶性塩化物含有率との関係L2を予め把握しておく。両者の関係L2は、図5に例示したように比例関係として把握される。この両者の関係L2も演算装置6に記憶させておく。両者の関係L2の傾きが1よりも小さくなっている主な要因は、海洋コンクリートから再生した細骨材Sでは、付着したモルタル分に吸着または固定化した塩化物が容易に溶け出さないためであると考えられる。
【0025】
海洋コンクリートから新たに再生した細骨材Sについて、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得される可溶性塩化物含有率を把握しようとする場合は、この細骨材Sについて上述したX線強度を測定する。演算装置6では、このX線強度の測定値と、予め把握しているX線強度と全塩化物含有率との関係L1とに基づいて、新たに再生した細骨材Sの全塩化物含有率を把握することができる。
【0026】
次いで、この把握した全塩化物含有率と、予め把握している全塩化物含有率とJIS A 5002の規定に基づく可溶性塩化物含有率との関係L2とに基づいて、新たに製造した細骨材Sについて、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて得られる可溶性塩化物含有率を把握することができる。
【0027】
即ち、本発明では、新たに再生した細骨材Sについて、X線装置1によりX線強度を測定すれば、その細骨材Sについて、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて得られる可溶性塩化物含有率を、迅速に精度よく推定することが可能になる。
【0028】
そして、推定した可溶性塩化物含有率に応じて、コンクリート構造物の要求性能を満足するコンクリート配合に適宜修正し、全量の海洋コンクリート殻をコンクリート用再生細骨材として利用する。例えば、鉄筋コンクリート構造に適用する場合には、コンクリート中鉄筋が腐食しない濃度(例えば、2.0kg/m3以下)となるように、コンクリート配合を調整するなどして利用する。本発明を適用することにより、再生した細骨材SのX線強度を測定すればよく、この測定は短時間で完了させることができる。そのため、再生した細骨材Sを一時保管することなく、連続的に供給(出荷)することが可能になる。
【符号の説明】
【0029】
1 X線装置
2 X線管球
3 ケーシング
4 キャピラリー
5 SDD検出器
6 演算装置
R1 1次X線
R2 蛍光X線
S 細骨材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋コンクリートから製造したコンクリート用細骨材について、
エネルギー分散型蛍光X線装置によりX線を照射した際に細骨材から放射される蛍光X線の強度と、JCI規準集に規定された全塩分定量方法に基づいて取得した細骨材の全塩化物含有率との関係を予め把握しておくとともに、
前記全塩化物含有率と、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて取得した細骨材の可溶性塩化物含有率との関係を予め把握しておき、
海洋コンクリートから新たに製造した細骨材について前記X線強度を測定し、このX線強度の測定値と、前記予め把握しているX線強度と全塩化物含有率との関係と、前記予め把握している全塩化物含有率と可溶性塩化物含有率との関係と、に基づいて、前記新たに製造した細骨材について、JIS A 5002に規定された試験方法に基づいて得られる細骨材の可溶性塩化物含有率を推定することを特徴とするコンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法。
【請求項2】
前記JCI規準集に規定された細骨材の全塩化物定量方法が、塩化物イオン選択性電極を用いた電位差滴定法である請求項1に記載のコンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法。
【請求項3】
前記X線を、粒度の調整をしていない細骨材に照射する請求項1または2に記載のコンクリート用再生細骨材の塩化物含有率の推定方法。
【請求項4】
前記X線を、絶乾状態にした細骨材に照射する請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート用細骨材の塩化物含有率の推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−33007(P2013−33007A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169989(P2011−169989)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】