コンクリート管の診断方法
【課題】カバーコート部を有するコンクリート管について、カバーコート部の劣化状態を簡単かつ適確に診断する方法を提供する。
【解決手段】カバーコート部を有するコンクリート管について、一方の管内端に打撃を与え、その弾性波振動を他方の管内端で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度VPSと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度VPDの比較によってコンクリート管表面部の劣化状態を診断することを特徴とするコンクリート管の診断方法。
【解決手段】カバーコート部を有するコンクリート管について、一方の管内端に打撃を与え、その弾性波振動を他方の管内端で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度VPSと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度VPDの比較によってコンクリート管表面部の劣化状態を診断することを特徴とするコンクリート管の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート管の劣化状態を打撃振動によって診断する非破壊診断方法に関する。より詳しくは、本発明はカバーコート部を有するコンクリート管について、管内部から打撃を与えてその弾性波振動によってカバーコート部の劣化状態を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用水や工業用水などの供給用の管路として地中に多数の管体が埋設されており、布設後40年以上経過している管体が多く、老朽化が進行しており、管体破損事故も全国的に多発している。特に内水圧が高いパイプラインにおける、プレストレストコンクリート管(PC管)は、埋設環境の影響を受けて特有な化学的侵食作用に基づくカバーコート部の薄肉化(部材厚の減少)が進行している管体も多く、管体破損事故が懸念されている。パイプラインの長期維持管理のために、これらの管体破損事故をあらかじめ防止するための予防診断技術が強く希求されている。一方、埋設されているPC管は、数千kmの延長があり、全ての管体を診断することは予算の制約や診断時期の特殊性、診断機材の不足などから困難である。
【0003】
埋設されたPC管に関する予防保全診断技術としては、例えば、特許第4662890号「コンクリート構造物の機能診断方法」が知られている。この方法は超音波と電磁誘導とを利用したPC管の劣化診断方法であり、超音波反射法によってPC管のカバーコート部の部材厚を測定し、PC鋼線の健全性評価を電磁誘導法によって診断する方法を複合させた劣化診断方法である。
【0004】
この超音波反射法に基く診断方法は、事前に危険区間ないし危険箇所としてスクリーニングされた個別の管体について診断する手法としては有効であるが、管体ごとに9箇所の代表箇所での測定を原則としているため測定箇所が多く、多数の管体の診断には不向きである。
【0005】
多数の管体を効率よく短時間で診断する概査的な手法としては弾性波動を利用した診断方法が適している。この方法はメカニズムが単純であるので複雑な解析が不要であり、外部環境からの影響を受け難い利点がある。電磁波レーダ探査法も概査手法として利用されるが、電界や磁界などの外部環境に影響を受けやすく、またPC管特有の複雑な部材構成(鉄筋や養生筋の影響による偽像の除去方法など)や埋設管であることによる含有水分の不均質性(部材の比誘電率の設定)など、解析上の課題点が多く存在しており、簡便性に欠ける。
【0006】
衝撃弾性波を利用した鉄筋コンクリート管の診断方法として、従来、幾つの方法か知られている。例えば、特開2008−261871号(特願2008−142922号)の「鉄筋コンクリート管の検査方法、及び鉄筋コンクリート管の検査機器」は、鉄筋コンクリート管の管内から打撃を与え、その衝撃弾性波を利用して劣化状態を検査する方法であり、弾性波入射位置と受信位置とを1/4以上離し、弾性波の受信子の先端形状が錐状または針状の受信子を用い、位置決めのためにテレビカメラを搭載しており、打撃機構と受信機構とが搭載された検査機器を形成し、検査作業の効率性に着目した方法である。
【0007】
特許第4162967号「鉄筋コンクリート管の検査方法」では、鉄筋コンクリート管の劣化状態を管内部から衝撃弾性波で検査し、伝播波の共振周波数スぺクトルの高周波成分の面積と低周波成分との面積比率、伝播波の最大振幅値の変化、伝播波の減衰時間変化などを判定基準として検査する方法が提案されている。
【0008】
また、衝撃弾性波を利用したコンクリート構造物の劣化診断手法としては、特開2001−289829号(特願2000−137836号)「衝撃弾性波によるコンクリート劣化の非破壊測定技術」では、ハンマーなどの打撃装置を用いて構造物表面で衝撃弾性波を発振させ、これを複数のピックアップで受信し、表面波の伝播特性に基づいた比較解析によって、コンクリートの力学特性または劣化程度を測定し、さらには双方向発振技術によるセンサの取り付けの影響、計測機械の測定誤差の削減、発振機構の変化、もしくはフィルタを用いて弾性波の波長を変えてコンクリート深さ方向の劣化を測定する方法が提案されている。
【0009】
さらに、特開2004−163227号(特願2002−328754号)「コンクリートの中性化深度測定法」では、初期の弾性波速度と経年変化後の弾性波速度とを比較して弾性波速度変化率を求め、中性化深度との関係式から中性化深度を算出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4662890号公報
【特許文献2】特開2008−261871号
【特許文献3】特許第4162967号
【特許文献4】特開2001−289829号
【特許文献5】特開2004−163227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
PC管等について、衝撃弾性波を利用した従来の診断方法は、カバーコート部の劣化状態を十分に把握できず、さらに一部の方法は解析手法が複雑であり、簡単にコンクリート管の劣化状態を検出できない問題がある。
【0012】
本発明は、従来の診断方法における上記問題を解決したものであり、カバーコート部を有するコンクリート管について、管内部から打撃を与えてその弾性波振動によってカバーコート部の劣化状態を簡単に診断する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下の構成を有するコンクリート管の診断方法が提供される。
〔1〕カバーコート部を有するコンクリート管について、一方の管内端に打撃を与え、その弾性波振動を他方の管内端で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比較によってコンクリート管表面部の劣化状態を診断することを特徴とするコンクリート管の診断方法。
〔2〕健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比を増減率F〔F=[(Vpd/Vps)−1]×100%〕とし、+6%≦Fの場合、または、F≦−20%の場合を劣化状態と診断する上記[1]に記載するコンクリート管の診断方法。
〔3〕増減率Fが−2%から+6%以上の範囲において、カバーコート部について以下のように診断する上記[1]または上記[2]の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
(A1)−2%≦F≦0%の場合は健全状態。
(A2)0%≦F≦+2%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2以上であり、薄肉化開始状態。
(A3)+2%<F<+6%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2未満であり、薄肉化進行状態。
(A4)+6%≦Fの場合は、カバーコート部が殆ど無いためPC鋼線が露出した劣化状態。
〔4〕増減率Fが−20%から−2%以下の範囲において、カバーコート部について以下のように診断する上記[1]または上記[2]に記載するコンクリート管の診断方法。
(B1)−10%≦F<−2%の場合は多孔質化状態。
(B2)−20%<F<−10%の場合は多孔質化と砂泥化の進行状態。
(B3)F≦−20%の場合は砂泥化状態。
〔5〕劣化部を含む複数の経路から受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(n)の比較によって劣化部の規模を検出する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
〔6〕コンクリート管が鉄筋コンクリート管、プレストレストコンクリート管(PC管)、レジンコンクリート管(RC管)、RCセグメント、石綿管(ACP)、ボックスカルバートである上記[1]〜上記[5]の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
【0014】
以上のように、本発明の診断方法は、カバーコート部を有するコンクリート管について、一方の管内端に打撃を与え、その弾性波振動を他方の管内端で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比較によってコンクリート管表面部の劣化状態を診断することを特徴とするコンクリート管の診断方法である。
【0015】
カバーコート部を有するPC管等の劣化原因としては、埋設環境によるカバーコート部に対する化学的侵食作用が大きな要因と考えられている。特に表層地下水中の侵食性遊離炭酸や施肥の土壌浸透による硫酸イオンや硝酸イオン、塩化物イオンなどの高濃度箇所における侵食が顕著に見られる。
【0016】
PC管等の劣化メカニズムは、このようなPC管等が埋設された環境(水質や土壌など)による化学的侵食作用を受け、カバーコート部が侵食されて薄肉化(部材厚が減少する現象)するのに伴い、PC鋼線の露出や発錆ないし破断を生じ、最終的には管体割れを誘発するようになる。
【0017】
そのため、PC管等の劣化状態を診断するにはカバーコート部の残存厚を管内から測定することが有効である。カバーコート部の部材厚が減少すると、PC鋼線およびコアコンクリートが露出するため、本来、カバーコートとコアコンクリートからなる合成部材の工学的特性がコアコンクリートのみの工学的特性に変化する。このため、所定のカバーコート厚を有する健全管に比べて、PC鋼線が全て露出した状態ではコアコンクリートのみからなる管(カバーコートよりも高密度・高強度材料)の弾性波速度は健全管の弾性波速度より速くなる性質がある。本発明はこの現象を利用して健全部と劣化部とを識別評価する。
【0018】
本発明の診断方法は、PC管のカバーコート部を有するコンクリート管について、最初に管内端の一方から打撃を与え、その弾性波振動を管内端の他方で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdを比較する。なお、以下の説明において弾性波振動を単に弾性波とも云う。
【0019】
具体的には、例えば、まずキャリブレーション用として、健全部を通過する測線を管頂から左右の管側までの間に1ラインを設定する。従来から劣化箇所が多く発見される劣化部は管頂および左右の管側である。そこで、基本的に管頂から左右90度の範囲(管頂部分を除く)を健全部とみなしてキャリブレーションラインを設定する(図2参照)。
なお、概ね管頂の左右両側10度の範囲を健全部から除外すればよい。
【0020】
管頂から左右90度の範囲に劣化部分があると見込まれた場合は、管底部を通過するライン(測線)をキャリブレーション用とし、あるいは超音波反射法によって部材厚を数箇所測定するなどの方法によって健全部ラインを確認すると良い。
【0021】
管体の一方の管内端をハンマーにて軽く打撃し、反対側の管内端でこの打撃による弾性波を受信する。図1に衝撃弾性波測定のイメージを示す。図1の測定イメージは、劣化部が存在する管頂部分のさし口部近傍の管内周面に発信用受振器を設置し、反対側のうけ口近傍の管頂部分に受信用受振器を設置し、発信用受振器の近傍を打撃し、その弾性波振動を受信用受振器で受信する例である。健全部を通過するキャリブレーションラインは管底部にライン(測線)が設定され、うけ口近傍の管底部分に発信用受振器が設置されており、さし口近傍の管底部分に受信用受振器が設置されている。なお、管側部分にキャリブレーションラインを設定してもよい。
【0022】
なお、健全部を通過するラインと劣化部を通過するラインが平行であれば比較が容易であるので、図1のように管頂に劣化部があるときには、発信用受振器と受信用受振器を管頂部分に設定して劣化部の測定ラインとし、この測定ラインと平行になるように、管底部分または管側部分に発信用受振器と受信用受振器を設置して健全部を通過するキャリブレーションラインを形成するとよい。図1の測定イメージはこのようにラインを設定した例である。
【0023】
なお、計測にあたっては、打撃位置(発信用受振器)と受信位置(受信用受振器)の距離を測定しておく。また、使用するハンマーは市販の点検用ハンマーでもよいが、管体は曲面構造であるので、打撃時の打点が点接触となる球形ハンマーが好ましい。
【0024】
受信した波形データから初動を読み取り、測定した伝播時間(T)と、設定した伝播距離(R)から、V=R/Tの式に基き、健全部を経由した伝播速度(Vps)と、劣化部分を経由した伝播速度(Vpd)を算出する。
【0025】
本発明の診断方法は、基準となる健全部の伝播速度(Vps)に対して、劣化部を通過する伝播速度(Vpd)の比を伝播速度の増減率(F)と定義し(次式[1])、その増減の程度によって劣化状態を診断する。
伝播速度の増減率(F)=〔(Vpd/Vps)−1〕×100% … [1]
【0026】
一般に、カバーコート部を有するコンクリート管において、衝撃波の伝播速度はコアコンクリートの部分が最も速く、健全部を通過した伝播速度(Vps)はカバーコート部とコアコンクリート部との合成速度になり、劣化部を通過した伝播速度(Vpd)はカバーコート部の劣化状態に応じて増減した速度になる。
【0027】
PC管の劣化状態はカバーコート部の薄肉化と材質劣化の2種類がある。特にロール転圧成形管については薄肉化による劣化が顕著に認められる。一方、遠心力成型管については、一般にカバーコート部の吹き付け厚がロール転圧成形管よりも厚く施工されていることなどから、仮にロール転圧成形管と同時期の施工で同様な埋設環境下に置かれた場合に、薄肉化の度合は少ない。PC管以外のコンクリート管でも外部環境から化学的侵食作用を受ける場合には、劣化部層と内面の健全部層との2層構造となり、劣化部層は薄肉化か材質劣化のいずれかの劣化事象となるため、PC管の劣化事象と同様なパターンと見なすことが可能である。
【0028】
衝撃弾性波の伝播速度はコアコンクリート部分が最も速いので、劣化状態が薄肉化である場合には、カバーコート部の薄肉化の進行によってコアコンクリート部分の影響が大きくなるので伝播速度が増加することになる(増減率Fがプラスになる)。一方、劣化状態が材質劣化である場合には、劣化部分によって伝播速度が低下するので健全部よりも伝播速度が減少する(増減率がマイナスになる)。カバーコート部の劣化状態に応じた伝播速度の変化を図4に示した。また、カバーコート部の薄肉化の進行による伝播速度の変化を図5に示した。
【0029】
さらに、カバーコート部の劣化状態が薄肉化である場合、劣化ゾーンの割合(薄肉化部分の面積とカバーコート部の残存厚)によって伝播速度が変化する。薄肉化部分の面積と伝播速度の関係を図6および図7に示す。
【0030】
図6に示すように、全長4mの管において側線方向に沿って劣化部が広がっている場合、コアコンクリート部の伝播速度が5.4km/sec〜5.7km/secであり、健全部の伝播速度が5.1km/secであるとき、薄肉化部分はコアコンクリートの伝播速度で進行するとし、健全部と劣化部の速度差の関係から測線上に占める劣化部の割合(薄肉化率G:劣化部分の面積率:次式[2])を算出すると、図4に示す結果が得られる。
薄肉化率(G)=〔劣化部分の縦断方向の長さ(長軸長)/測線距離〕×100% … [2]
【0031】
図7に示すように、薄肉化率(G)と速度差(ΔV)とは単調増加直線の関係にある。
G=A(ΔV)+ B
(G:薄肉化率%、ΔV:健全部との速度差(m/sec)、A,B:定数)
【0032】
図7に示すように、健全部の伝播速度(Vps)と劣化部の伝播速度(Vpd)の速度差〔(Vpd)−(Vps)〕が100m/secの場合、管全長に対して概ね20%〜25%程度の部分が薄肉化しており、この速度差が150m/sec程度であれば、約25%〜40%程度の部分が薄肉化していることが分かる。
【0033】
このように、あらかじめ超音波法(二探法)などによってコアコンクリートの伝播速度を求めておけば、劣化部と健全部との速度差から概ね上記薄肉化率を把握することが可能である。また、伝播速度の増減率Fによって劣化状態を診断することができる。
【0034】
具体的には、実際に施工されているPC管等において調査すると、例えば、伝播速度の増減率Fが、+6%≦Fの場合、またはF≦−20%の場合はカバーコート部が劣化状態と診断することができる。
【0035】
また、増減率Fが−2%から+6%以上の範囲において、カバーコート部について以下のように診断することができる。
(A1)−2%≦F≦0%の場合は健全状態。
(A2)0%≦F≦+2%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2以上であり、薄肉化開始状態。
(A3)+2%<F<+6%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2未満であり、薄肉化進行状態。
(A4)+6%≦Fの場合は、カバーコート部が殆ど無いためPC鋼線が露出した劣化状態。
【0036】
さらに、増減率Fが−20%から−2%以下の範囲において、カバーコート部について以下のように診断することができる。
(B1)−10%≦F<−2%の場合は多孔質化状態。
(B2)−20%<F<−10%の場合は多孔質化と砂泥化の進行状態。
(B3)F≦−20%の場合は砂泥化状態。
【0037】
さらに、本発明の診断方法は、劣化部を通過する弾性波を設定位置の異なる複数の受振器で受信し、劣化部を含む複数の経路から受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(n)に基づいて劣化部の規模を検出することができる。
【0038】
具体的には、図9に示すように、管体のさし口近傍の管内端に発信用受振器を設置し、一方、管体を一周するように管端内周面に多数の受信用受振器(d1〜dn)を設置し、発信用受振器の近傍を打撃し、その弾性波を複数の受信用受振器によって受信し、劣化部を含む複数の経路を経て受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(n)を比較することによって劣化部の規模を把握することができる。
【0039】
劣化部の中心付近を通過する測線Aと、劣化部の縁を通過する測線Bとを比較すると、測線Aが劣化部を通過する長さよりも測線Bが劣化部を通過する長さは短く、測線Bの伝播速度は劣化部の影響が小さくなる。この伝播速度の変化に基いて劣化部の規模を診断することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の診断方法は、管内端の打撃による弾性波振動を他方の管内端で受信してコンクリート管表面部の劣化状態を診断する衝撃弾性波を利用した診断方法であるので、効率よく短時間で診断することができ、複雑な解析が不要であり、外部環境の影響を受け難い利点がある。
【0041】
本発明の診断方法は、鉄筋コンクリート管、プレストレストコンクリート管(PC管)、レジンコンクリート管(RC管)、RCセグメント、石綿管(ACP)、ボックスカルバートなど各種のコンクリート管について広く適用することができる。また、本発明の診断方法は、あらかじめ埋設環境調査などによってスクリーニングされた幹線の危険区間における管内概査手法として、劣化管を検出する手法として最適である。
【0042】
本発明の診断方法によれば、劣化部を有するPC管等を管内からの概査で抽出することが可能になる。延長が数千kmになるPC管幹線水路の中から劣化管を特定することができれば、予防保全対策の立案や対策工の優先順位の策定など効率的かつ計画的な維持管理が可能となる。
【0043】
埋設管では、劣化状態が最終段階にならないと地上部から発見し難いので、劣化管の発見が遅れ、事故が生じてから対策する事後保全になりやすい。今後の維持管理においては、リスクマネジメントの観点から、起こりうるリスクを予見する技術が要求されており、そのためには現状の施設の状態を的確に把握することが必要となっている。さらに、維持管理費用は厳しい予算制約化にあり、管路全長の検査は多大な費用を必要とするので実施困難であり、危険区間や危険箇所のスクリーニング手法が極めて重要となっている。
【0044】
これらの要求に対して、本発明の診断方法は、衝撃弾性波の伝播速度を比較する概査的な方法によって劣化管を抽出できる利点を有しており、必要に応じて詳細な検査と組み合わせることによって低コスト化を図ることができ、また劣化状態に応じた診断が可能であるので、劣化状態に応じた対策を立てることができるなど、効率的かつ効果的な診断方法である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】PC管内における衝撃弾性波の測定方法を示す縦断面概念図。
【図2】PC管について、測線の設定範囲を示す横断面概念図。
【図3】衝撃弾性波を測定する受振器の接続状態を示すブロック概念図。
【図4】カバーコートの劣化状態に応じた伝播速度の変化を示す概念図。
【図5】薄肉化過程における伝播速度の変化を示すグラフ。
【図6】縦断方向の劣化部の広がりを示す概念図。
【図7】薄肉化率と伝播速度差との関係を示すグラフ。
【図8】本発明に係る診断方法を利用した劣化診断のフロー図。
【図9】多点受振測定方法の概念図。
【図10】多点受振測定法における劣化部の規模を測定する概念図。
【図11】多点受振測定法による診断フロー図。
【図12】伝播速度の増減率と健全部との速度差による判定区分例を示すグラフ。
【図13】補修・補強対策の判定手順を示すフロー図。
【図14】カバーコート部の薄肉化によってコアコンクリートが露出した例を示す部分外観写真。
【図15】カバーコートの薄肉化によってPC鋼線が発錆・破断した例を示す部分外観写真。
【図16】カバーコート部の一部が砂泥化した例を示す部分外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施形態に基いて説明する。
図1に示すように、コアコンクリート11の表面にカバーコート部12を有し、管頂付近のカバーコート部の劣化部13が存在するPC管10について、一方の管内端(さし口近傍)に発信用の受振器21を設置し、反対側の管内端(うけ口近傍)に受信用の受振器22を設置し、受振器21の近傍をハンマーで打撃して、劣化部を通過する弾性波振動を受振器22によって受信する。
【0047】
また、キャリブレーションラインとして管底部分のさし口近傍に発信用の受振器31を設置し、反対側のうけ口近傍に受信用の受振器32を設置し、受振器21の近傍をハンマーで打撃して、健全部を経由する弾性波振動を受振器32によって受信する。
【0048】
図3に示すように、発信用の受振器21と受信用の受振器22の間にはオシロスコープ23とアンプ24を設け、オシロスコープ23に受信波形を表示する。これらの受振器21、22、31、32は管内部(コアコンクリート部)の壁面に装着する。管内面は曲面であるため設定位置にパテを押し付けてこれらの受振器を装着するとよい。これらの受振器は市販品(NF社製品)を用いることができる。例えば、発信用受振器として商品記号AE−901S(周波数140kHz)、受信用受振器として商品記号AE−901S−WB(周波数100kHz〜1MHz)を用いることができる。
【0049】
図1の構成例に基く診断フローの一例を図8に示す。この診断例は、炭酸化の進行に伴いカバーコート部が侵食されて薄肉化する場合の診断フローである。コアコンクリート部の伝播速度5.0km/sec、カバーコート部の設定厚さ20mm〜25mmであるとき、劣化部を4段階で評価した。カバーコート部の部材厚は超音波反射法等によって測定すればよい。この結果を表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
上記診断結果において、診断区分が「劣化」の場合は、劣化部を経由した伝播速度(Vpd)が5.3km/sec以上であり、従って健全部を経由する伝播速度(Vps)5.0km/secに対する伝播速度の増減率(F)は6%以上である。この場合、超音波反射法によってカバーコート部の残存厚を測定するとほぼ0mmである。このような段階では、劣化部の浮き・剥離などによってPC鋼線が露出している状態と考えられ、このため劣化部を通過する伝播速度(Vpd)はコアコンクリート部の伝播速度に近い値になる。この劣化部分ではPC鋼線が発錆または局部的に破断している可能性も高い。
【0052】
また、この場合、測線距離が260cm、劣化部の縦断長さ25cm程度×幅10cm以上の局部剥離であるとき、薄肉化率(G)は、G=〔劣化部位の縦断長さ(0.25m)/測線距離(2.6m)〕×100%=約10%程度である。
【0053】
劣化段階の対策としては、開削によって劣化部を削除し、部分補修、あるいはPC鋼線が切断している場合には、鉄筋コンクリート巻きやステンレス鋼板巻きなどを施して応急対策を行い、あらかじめリスクマネジメント手法などで検討された対策シナリオに沿って恒久対策(管の布設換えなど)を実施するなどの取り組みが必要になる。
【0054】
診断区分が「要注意」の段階は「健全」と「劣化」の間の状態であり、劣化部を通過する伝播速度(Vpd)は概ね、(Vpd)=5.1〜5.3km/secの範囲である。伝播速度(Vpd)が5.3km/sec側に近い場合には薄肉化が進行しているので注意を要する。一方、伝播速度(Vpd)が5.1km/sec側に近ければ健全側にあると推定できる。
【0055】
例えば、劣化部を経由した伝播速度(Vpd)が5.29km/secであり、健全部を経由した伝播速度(Vps)が5.11km/secであるとき、伝播速度の増減率(F)は、F=〔(5.29/5.11)−1〕×100%=3.52%であり、カバーコート部の薄肉化が進行した「要注意」の段階である。超音波反射法によってカバーコート部の残存厚を測定すると約10mmであり、PC鋼線の発錆が開始している。
【0056】
上記診断例は、遠心力成型管の合成伝播速度やコアコンクリートの伝播速度が基になっており、ロール転圧成形管では、この基準よりも約1km/secほど低速度であるため、ロール転圧成形管について診断する場合には約1km/secほど修正するとよい。
【0057】
カバーコート部の材質劣化の場合について、診断結果を表2に示した。この場合には、劣化部の多孔質化や砂泥化によって劣化部を通過する伝播速度(VPS)が減少するので、伝播速度の増減率(F)がマイナスになり、その大きさによって劣化状態が診断できる。
【0058】
【表2】
【0059】
次に、多点受振法の例を図9〜図11に示す。多点受振法は、1つの打撃点に対して、複数の受振器を設置する方法であり、この多点受振法によれば劣化部の規模を把握することができる。なお、劣化部の規模とは劣化部の管軸方向(縦断方向)の範囲である。
【0060】
図9に示すように、管体のさし口近傍の管内端に発信用受振器(S1)を設置し、一方、管体を一周するように管端内周面に多数の受信用受振器(d1〜d8)を設置し、発信用受振器S1の近傍を打撃し、その弾性波を複数の受信用受振器(d1〜d8)によって受信し、劣化部を含む複数の経路を経て受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(8)を比較することによって劣化規模を把握する。
【0061】
図10に示すように、劣化部の中心付近を通過する測線Bと、劣化部の縁を通過する測線A、Cについて、各測線が劣化部を通過する距離がL0、L1、L2であるとき、測線Bの通過距離L1よりも測線B、Cの通過距離L0、L2が短い。従って、測線A、Cの伝播速度は測線Bよりも劣化部の影響が小さくなる。従って、これら測線ごとの伝播速度の分布あるいは健全部との速度差の分布から劣化部の規模を把握することができる。
【0062】
多点受振測定法は、受信用受振器を多数設置すれば詳細調査法として適用することができる。多数の受振器を設置すれば、弾性波トモグラフィーとしての機能となり、打撃点を複数設ければ詳細な弾性波トモグラフィーを得ることができる。図10は1つの打撃点に対して3個の受信用受振器を設置した例である。
【0063】
多点受振測定法による診断フローを図11に示す。基本診断(一次診断)としては、例えば、管頂部に劣化が予想される場合、最初に図1のように受振器を設置して概査測定を行い、前述したように、伝播速度増減率(F)が+6%≦F、またはF≦−20%の場合には劣化部を有していると判定できるので二次診断を実施する。
【0064】
二次診断においては、例えば、受振器の間隔(測定距離)が半分になる位置に打撃点を移動し、再度打撃して健全部か劣化部かを確認する。劣化部があると判定された場合には、多点に受振器を設置する。次に、第三次診断として1打撃多点受振(1箇所で打撃し多点で波動を受振する)を行って劣化部の規模を把握する。必要に応じて、劣化範囲を含む格子状の測線を設け、超音波反射法などを併用した複合診断によって部材厚を測定する。これらの診断によって、劣化部の位置および規模や薄肉化の程度など詳細な劣化状態を把握することができる。
【0065】
本発明の診断方法によれば、伝播速度の増減率(F)と、劣化部の伝播速度(Vpd)と健全部の伝播速度(Vps)との速度差(ΔV)から劣化状態を診断することができる。この診断例を図12に示す。これは健全部の伝播速度が5.1km/secであるときの判定区分例である。
【0066】
この診断例では、伝播速度の増減率(F)がF<3%および速度差<100mの領域を「健全管」、F<3%および速度差<150mの領域を「要注意管」と判定している。3%≦Fを「劣化管」と判定してもよい。ここで基本としている健全部の伝播速度(管径φ1350mmのカバーコートを含めた合成音速度)は、本発明者らが収集した遠心力成型管の代表的な速度値である。なお材質劣化によって速度低下を生じた場合にはその低下の程度に応じて判定区分を調整すればよい。
【0067】
本発明の診断方法を利用すれば、PC管等について補修・補強等の対策を容易に行うことができ、対策を効率化することができる。PC管等の維持管理においては診断結果に基いた迅速な対応のための意思決定が重要であり、管理者のためのサポートシステムとしての判断材料を提供できることは有益である。
【0068】
本発明の診断方法によって算出される伝播速度増減率(F)および薄肉化率(G)の指標値に基く補修・補強対策の判定フローを図13に示した。図示する対策は主に「部分補修対策」、「完全薄肉化対策」、「薄肉化進行対策」である。
【0069】
伝播速度の増減率(F)が−2%≦F≦0%の場合は健全状態と診断できるので、対策は不要である。次に、増減率(F)が0%≦F≦+2%の場合はカバーコート部の薄肉化開始状態であるので、経過を観察する。増減率(F)が+2%<Fの場合はカバーコート部の薄肉化が進行している状態であるので、劣化部位やその規模を把握する必要がある。ここで、薄肉化率(G)の情報が有効となる。健全部との速度差の程度を目安として、両者の関係から薄肉化率(G)を算定し、劣化規模を把握する。
【0070】
対策を検討する場合には、対策規模の見込み(劣化域の特定)や劣化内容(局部的、全体的など)が把握されていなければならない。そのためには、前述した多点受振法や超音波反射法による部材厚測定などの複合診断による二次診断および三次診断が詳細を検討するうえで有効になる。
【0071】
具体的には、例えば、薄肉化率(G)が30%以下の場合には、概ね部分的な劣化と判断できるので、劣化区間を特定して部分補修対策工を検討する。基本的には、開削して管体の劣化部を確認し、断面修復工や左官工法、表面保護工などの部分補修対策を行う。薄肉化率(G)が10%以下のような劣化が小規模な場合には、必要に応じて管内から削孔などを通じて損傷箇所に補修材を注入するなどの対策を行う。
【0072】
伝播速度の増減率(F)が6%以上である場合には、管体全体が劣化し、PC鋼線がほとんど露出している状態と判断され、PC鋼線の発錆や破断が懸念され、管体破損の可能性が高いので、至急に対策する必要がある。基本的には管体の置換えによる改築・更新などの対策が必要になる。
【0073】
また、伝播速度の増減率(F)が+2%<F<+6%の場合(コアコンクリート部の伝播速度に近い場合、伝播速度(Vps)=5.1〜5.3km/sec)には、薄肉化進行過程にあるものと判断される。従って、カバーコート部の残存厚(炭酸化部分を除く健全なかぶり厚)を超音波反射法等によって確認し、残存厚が概ね10mm以下である場合には劣化管として予防保全処置を行う。
【0074】
なお、カバーコート部の残存厚が概ね10mm以下である場合には、PC鋼線が発錆している可能性が高く、状態によってはPC鋼線が破断している場合もあるため、PC鋼線の健全性を確認することが望ましい。PC鋼線の健全性を確認するには電磁誘導法による診断を利用することができる。ただし、電磁誘導法によるPC鋼線の診断は、遠心力成型管の場合には、全周に巻かれている籠筋の影響で的確な診断ができないため、実施できる管体はロール転圧成形管に限定される。この診断によってPC鋼線が複数切断されていることが判明した場合には、管体破損事故を誘発する可能性が極めて高いため、新たな管体の置き換えや管更生などの対策が必要になる。
【0075】
図13に示すフローに従って診断を行うことにより、診断結果に基いた適確な対策を事前に検討することができ、補修・補強手順の策定や予算化の準備などにおいて有効な情報を得ることができる。
【実施例】
【0076】
〔実施例1〕
埋設されていたPC管(管径φ1350mm、カバーコートの設計部材厚20〜25mm)について、本発明の診断方法によって劣化状態を診断した。さらに、劣化部分について削孔にてカバーコート残存厚を測定し、劣化状態を目視観察した。この結果を表3に示した。
本発明の診断方法による劣化状態は、実測したカバーコート残存厚および目視観察の劣化状態と良く一致することが確認された。なお、増減率がマイナス(−)を示す材質劣化部では、カバーコート部の残存厚があるものの脆弱しており、薄肉化過程と異なる事象となっている。
【0077】
なお、掘り出したPC管の写真を図14〜図16に示した。図14はカバーコート部の薄肉化によってコアコンクリートが露出した例であり、図15はカバーコートの薄肉化によってPC鋼線が発錆・破断した例である(何れも表3のNo.7)。また、図16はカバーコート部の一部が砂泥化した例である(表3のNo.3)。この例ではカバーコート部の部材厚は20mm程度であるが、局所的に流下水によると推定される削痕が残る材質劣化の例である。
【0078】
【表3】
【符号の説明】
【0079】
10−PC管、11−コアコンクリート、12−カバーコート部、13−劣化部、21−発信用受振器、22−受信用受振器、23−オシロスコープ、24−アンプ、31−発信用受振器、32−受信用受振器
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート管の劣化状態を打撃振動によって診断する非破壊診断方法に関する。より詳しくは、本発明はカバーコート部を有するコンクリート管について、管内部から打撃を与えてその弾性波振動によってカバーコート部の劣化状態を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用水や工業用水などの供給用の管路として地中に多数の管体が埋設されており、布設後40年以上経過している管体が多く、老朽化が進行しており、管体破損事故も全国的に多発している。特に内水圧が高いパイプラインにおける、プレストレストコンクリート管(PC管)は、埋設環境の影響を受けて特有な化学的侵食作用に基づくカバーコート部の薄肉化(部材厚の減少)が進行している管体も多く、管体破損事故が懸念されている。パイプラインの長期維持管理のために、これらの管体破損事故をあらかじめ防止するための予防診断技術が強く希求されている。一方、埋設されているPC管は、数千kmの延長があり、全ての管体を診断することは予算の制約や診断時期の特殊性、診断機材の不足などから困難である。
【0003】
埋設されたPC管に関する予防保全診断技術としては、例えば、特許第4662890号「コンクリート構造物の機能診断方法」が知られている。この方法は超音波と電磁誘導とを利用したPC管の劣化診断方法であり、超音波反射法によってPC管のカバーコート部の部材厚を測定し、PC鋼線の健全性評価を電磁誘導法によって診断する方法を複合させた劣化診断方法である。
【0004】
この超音波反射法に基く診断方法は、事前に危険区間ないし危険箇所としてスクリーニングされた個別の管体について診断する手法としては有効であるが、管体ごとに9箇所の代表箇所での測定を原則としているため測定箇所が多く、多数の管体の診断には不向きである。
【0005】
多数の管体を効率よく短時間で診断する概査的な手法としては弾性波動を利用した診断方法が適している。この方法はメカニズムが単純であるので複雑な解析が不要であり、外部環境からの影響を受け難い利点がある。電磁波レーダ探査法も概査手法として利用されるが、電界や磁界などの外部環境に影響を受けやすく、またPC管特有の複雑な部材構成(鉄筋や養生筋の影響による偽像の除去方法など)や埋設管であることによる含有水分の不均質性(部材の比誘電率の設定)など、解析上の課題点が多く存在しており、簡便性に欠ける。
【0006】
衝撃弾性波を利用した鉄筋コンクリート管の診断方法として、従来、幾つの方法か知られている。例えば、特開2008−261871号(特願2008−142922号)の「鉄筋コンクリート管の検査方法、及び鉄筋コンクリート管の検査機器」は、鉄筋コンクリート管の管内から打撃を与え、その衝撃弾性波を利用して劣化状態を検査する方法であり、弾性波入射位置と受信位置とを1/4以上離し、弾性波の受信子の先端形状が錐状または針状の受信子を用い、位置決めのためにテレビカメラを搭載しており、打撃機構と受信機構とが搭載された検査機器を形成し、検査作業の効率性に着目した方法である。
【0007】
特許第4162967号「鉄筋コンクリート管の検査方法」では、鉄筋コンクリート管の劣化状態を管内部から衝撃弾性波で検査し、伝播波の共振周波数スぺクトルの高周波成分の面積と低周波成分との面積比率、伝播波の最大振幅値の変化、伝播波の減衰時間変化などを判定基準として検査する方法が提案されている。
【0008】
また、衝撃弾性波を利用したコンクリート構造物の劣化診断手法としては、特開2001−289829号(特願2000−137836号)「衝撃弾性波によるコンクリート劣化の非破壊測定技術」では、ハンマーなどの打撃装置を用いて構造物表面で衝撃弾性波を発振させ、これを複数のピックアップで受信し、表面波の伝播特性に基づいた比較解析によって、コンクリートの力学特性または劣化程度を測定し、さらには双方向発振技術によるセンサの取り付けの影響、計測機械の測定誤差の削減、発振機構の変化、もしくはフィルタを用いて弾性波の波長を変えてコンクリート深さ方向の劣化を測定する方法が提案されている。
【0009】
さらに、特開2004−163227号(特願2002−328754号)「コンクリートの中性化深度測定法」では、初期の弾性波速度と経年変化後の弾性波速度とを比較して弾性波速度変化率を求め、中性化深度との関係式から中性化深度を算出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4662890号公報
【特許文献2】特開2008−261871号
【特許文献3】特許第4162967号
【特許文献4】特開2001−289829号
【特許文献5】特開2004−163227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
PC管等について、衝撃弾性波を利用した従来の診断方法は、カバーコート部の劣化状態を十分に把握できず、さらに一部の方法は解析手法が複雑であり、簡単にコンクリート管の劣化状態を検出できない問題がある。
【0012】
本発明は、従来の診断方法における上記問題を解決したものであり、カバーコート部を有するコンクリート管について、管内部から打撃を与えてその弾性波振動によってカバーコート部の劣化状態を簡単に診断する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下の構成を有するコンクリート管の診断方法が提供される。
〔1〕カバーコート部を有するコンクリート管について、一方の管内端に打撃を与え、その弾性波振動を他方の管内端で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比較によってコンクリート管表面部の劣化状態を診断することを特徴とするコンクリート管の診断方法。
〔2〕健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比を増減率F〔F=[(Vpd/Vps)−1]×100%〕とし、+6%≦Fの場合、または、F≦−20%の場合を劣化状態と診断する上記[1]に記載するコンクリート管の診断方法。
〔3〕増減率Fが−2%から+6%以上の範囲において、カバーコート部について以下のように診断する上記[1]または上記[2]の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
(A1)−2%≦F≦0%の場合は健全状態。
(A2)0%≦F≦+2%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2以上であり、薄肉化開始状態。
(A3)+2%<F<+6%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2未満であり、薄肉化進行状態。
(A4)+6%≦Fの場合は、カバーコート部が殆ど無いためPC鋼線が露出した劣化状態。
〔4〕増減率Fが−20%から−2%以下の範囲において、カバーコート部について以下のように診断する上記[1]または上記[2]に記載するコンクリート管の診断方法。
(B1)−10%≦F<−2%の場合は多孔質化状態。
(B2)−20%<F<−10%の場合は多孔質化と砂泥化の進行状態。
(B3)F≦−20%の場合は砂泥化状態。
〔5〕劣化部を含む複数の経路から受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(n)の比較によって劣化部の規模を検出する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
〔6〕コンクリート管が鉄筋コンクリート管、プレストレストコンクリート管(PC管)、レジンコンクリート管(RC管)、RCセグメント、石綿管(ACP)、ボックスカルバートである上記[1]〜上記[5]の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
【0014】
以上のように、本発明の診断方法は、カバーコート部を有するコンクリート管について、一方の管内端に打撃を与え、その弾性波振動を他方の管内端で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比較によってコンクリート管表面部の劣化状態を診断することを特徴とするコンクリート管の診断方法である。
【0015】
カバーコート部を有するPC管等の劣化原因としては、埋設環境によるカバーコート部に対する化学的侵食作用が大きな要因と考えられている。特に表層地下水中の侵食性遊離炭酸や施肥の土壌浸透による硫酸イオンや硝酸イオン、塩化物イオンなどの高濃度箇所における侵食が顕著に見られる。
【0016】
PC管等の劣化メカニズムは、このようなPC管等が埋設された環境(水質や土壌など)による化学的侵食作用を受け、カバーコート部が侵食されて薄肉化(部材厚が減少する現象)するのに伴い、PC鋼線の露出や発錆ないし破断を生じ、最終的には管体割れを誘発するようになる。
【0017】
そのため、PC管等の劣化状態を診断するにはカバーコート部の残存厚を管内から測定することが有効である。カバーコート部の部材厚が減少すると、PC鋼線およびコアコンクリートが露出するため、本来、カバーコートとコアコンクリートからなる合成部材の工学的特性がコアコンクリートのみの工学的特性に変化する。このため、所定のカバーコート厚を有する健全管に比べて、PC鋼線が全て露出した状態ではコアコンクリートのみからなる管(カバーコートよりも高密度・高強度材料)の弾性波速度は健全管の弾性波速度より速くなる性質がある。本発明はこの現象を利用して健全部と劣化部とを識別評価する。
【0018】
本発明の診断方法は、PC管のカバーコート部を有するコンクリート管について、最初に管内端の一方から打撃を与え、その弾性波振動を管内端の他方で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdを比較する。なお、以下の説明において弾性波振動を単に弾性波とも云う。
【0019】
具体的には、例えば、まずキャリブレーション用として、健全部を通過する測線を管頂から左右の管側までの間に1ラインを設定する。従来から劣化箇所が多く発見される劣化部は管頂および左右の管側である。そこで、基本的に管頂から左右90度の範囲(管頂部分を除く)を健全部とみなしてキャリブレーションラインを設定する(図2参照)。
なお、概ね管頂の左右両側10度の範囲を健全部から除外すればよい。
【0020】
管頂から左右90度の範囲に劣化部分があると見込まれた場合は、管底部を通過するライン(測線)をキャリブレーション用とし、あるいは超音波反射法によって部材厚を数箇所測定するなどの方法によって健全部ラインを確認すると良い。
【0021】
管体の一方の管内端をハンマーにて軽く打撃し、反対側の管内端でこの打撃による弾性波を受信する。図1に衝撃弾性波測定のイメージを示す。図1の測定イメージは、劣化部が存在する管頂部分のさし口部近傍の管内周面に発信用受振器を設置し、反対側のうけ口近傍の管頂部分に受信用受振器を設置し、発信用受振器の近傍を打撃し、その弾性波振動を受信用受振器で受信する例である。健全部を通過するキャリブレーションラインは管底部にライン(測線)が設定され、うけ口近傍の管底部分に発信用受振器が設置されており、さし口近傍の管底部分に受信用受振器が設置されている。なお、管側部分にキャリブレーションラインを設定してもよい。
【0022】
なお、健全部を通過するラインと劣化部を通過するラインが平行であれば比較が容易であるので、図1のように管頂に劣化部があるときには、発信用受振器と受信用受振器を管頂部分に設定して劣化部の測定ラインとし、この測定ラインと平行になるように、管底部分または管側部分に発信用受振器と受信用受振器を設置して健全部を通過するキャリブレーションラインを形成するとよい。図1の測定イメージはこのようにラインを設定した例である。
【0023】
なお、計測にあたっては、打撃位置(発信用受振器)と受信位置(受信用受振器)の距離を測定しておく。また、使用するハンマーは市販の点検用ハンマーでもよいが、管体は曲面構造であるので、打撃時の打点が点接触となる球形ハンマーが好ましい。
【0024】
受信した波形データから初動を読み取り、測定した伝播時間(T)と、設定した伝播距離(R)から、V=R/Tの式に基き、健全部を経由した伝播速度(Vps)と、劣化部分を経由した伝播速度(Vpd)を算出する。
【0025】
本発明の診断方法は、基準となる健全部の伝播速度(Vps)に対して、劣化部を通過する伝播速度(Vpd)の比を伝播速度の増減率(F)と定義し(次式[1])、その増減の程度によって劣化状態を診断する。
伝播速度の増減率(F)=〔(Vpd/Vps)−1〕×100% … [1]
【0026】
一般に、カバーコート部を有するコンクリート管において、衝撃波の伝播速度はコアコンクリートの部分が最も速く、健全部を通過した伝播速度(Vps)はカバーコート部とコアコンクリート部との合成速度になり、劣化部を通過した伝播速度(Vpd)はカバーコート部の劣化状態に応じて増減した速度になる。
【0027】
PC管の劣化状態はカバーコート部の薄肉化と材質劣化の2種類がある。特にロール転圧成形管については薄肉化による劣化が顕著に認められる。一方、遠心力成型管については、一般にカバーコート部の吹き付け厚がロール転圧成形管よりも厚く施工されていることなどから、仮にロール転圧成形管と同時期の施工で同様な埋設環境下に置かれた場合に、薄肉化の度合は少ない。PC管以外のコンクリート管でも外部環境から化学的侵食作用を受ける場合には、劣化部層と内面の健全部層との2層構造となり、劣化部層は薄肉化か材質劣化のいずれかの劣化事象となるため、PC管の劣化事象と同様なパターンと見なすことが可能である。
【0028】
衝撃弾性波の伝播速度はコアコンクリート部分が最も速いので、劣化状態が薄肉化である場合には、カバーコート部の薄肉化の進行によってコアコンクリート部分の影響が大きくなるので伝播速度が増加することになる(増減率Fがプラスになる)。一方、劣化状態が材質劣化である場合には、劣化部分によって伝播速度が低下するので健全部よりも伝播速度が減少する(増減率がマイナスになる)。カバーコート部の劣化状態に応じた伝播速度の変化を図4に示した。また、カバーコート部の薄肉化の進行による伝播速度の変化を図5に示した。
【0029】
さらに、カバーコート部の劣化状態が薄肉化である場合、劣化ゾーンの割合(薄肉化部分の面積とカバーコート部の残存厚)によって伝播速度が変化する。薄肉化部分の面積と伝播速度の関係を図6および図7に示す。
【0030】
図6に示すように、全長4mの管において側線方向に沿って劣化部が広がっている場合、コアコンクリート部の伝播速度が5.4km/sec〜5.7km/secであり、健全部の伝播速度が5.1km/secであるとき、薄肉化部分はコアコンクリートの伝播速度で進行するとし、健全部と劣化部の速度差の関係から測線上に占める劣化部の割合(薄肉化率G:劣化部分の面積率:次式[2])を算出すると、図4に示す結果が得られる。
薄肉化率(G)=〔劣化部分の縦断方向の長さ(長軸長)/測線距離〕×100% … [2]
【0031】
図7に示すように、薄肉化率(G)と速度差(ΔV)とは単調増加直線の関係にある。
G=A(ΔV)+ B
(G:薄肉化率%、ΔV:健全部との速度差(m/sec)、A,B:定数)
【0032】
図7に示すように、健全部の伝播速度(Vps)と劣化部の伝播速度(Vpd)の速度差〔(Vpd)−(Vps)〕が100m/secの場合、管全長に対して概ね20%〜25%程度の部分が薄肉化しており、この速度差が150m/sec程度であれば、約25%〜40%程度の部分が薄肉化していることが分かる。
【0033】
このように、あらかじめ超音波法(二探法)などによってコアコンクリートの伝播速度を求めておけば、劣化部と健全部との速度差から概ね上記薄肉化率を把握することが可能である。また、伝播速度の増減率Fによって劣化状態を診断することができる。
【0034】
具体的には、実際に施工されているPC管等において調査すると、例えば、伝播速度の増減率Fが、+6%≦Fの場合、またはF≦−20%の場合はカバーコート部が劣化状態と診断することができる。
【0035】
また、増減率Fが−2%から+6%以上の範囲において、カバーコート部について以下のように診断することができる。
(A1)−2%≦F≦0%の場合は健全状態。
(A2)0%≦F≦+2%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2以上であり、薄肉化開始状態。
(A3)+2%<F<+6%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2未満であり、薄肉化進行状態。
(A4)+6%≦Fの場合は、カバーコート部が殆ど無いためPC鋼線が露出した劣化状態。
【0036】
さらに、増減率Fが−20%から−2%以下の範囲において、カバーコート部について以下のように診断することができる。
(B1)−10%≦F<−2%の場合は多孔質化状態。
(B2)−20%<F<−10%の場合は多孔質化と砂泥化の進行状態。
(B3)F≦−20%の場合は砂泥化状態。
【0037】
さらに、本発明の診断方法は、劣化部を通過する弾性波を設定位置の異なる複数の受振器で受信し、劣化部を含む複数の経路から受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(n)に基づいて劣化部の規模を検出することができる。
【0038】
具体的には、図9に示すように、管体のさし口近傍の管内端に発信用受振器を設置し、一方、管体を一周するように管端内周面に多数の受信用受振器(d1〜dn)を設置し、発信用受振器の近傍を打撃し、その弾性波を複数の受信用受振器によって受信し、劣化部を含む複数の経路を経て受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(n)を比較することによって劣化部の規模を把握することができる。
【0039】
劣化部の中心付近を通過する測線Aと、劣化部の縁を通過する測線Bとを比較すると、測線Aが劣化部を通過する長さよりも測線Bが劣化部を通過する長さは短く、測線Bの伝播速度は劣化部の影響が小さくなる。この伝播速度の変化に基いて劣化部の規模を診断することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の診断方法は、管内端の打撃による弾性波振動を他方の管内端で受信してコンクリート管表面部の劣化状態を診断する衝撃弾性波を利用した診断方法であるので、効率よく短時間で診断することができ、複雑な解析が不要であり、外部環境の影響を受け難い利点がある。
【0041】
本発明の診断方法は、鉄筋コンクリート管、プレストレストコンクリート管(PC管)、レジンコンクリート管(RC管)、RCセグメント、石綿管(ACP)、ボックスカルバートなど各種のコンクリート管について広く適用することができる。また、本発明の診断方法は、あらかじめ埋設環境調査などによってスクリーニングされた幹線の危険区間における管内概査手法として、劣化管を検出する手法として最適である。
【0042】
本発明の診断方法によれば、劣化部を有するPC管等を管内からの概査で抽出することが可能になる。延長が数千kmになるPC管幹線水路の中から劣化管を特定することができれば、予防保全対策の立案や対策工の優先順位の策定など効率的かつ計画的な維持管理が可能となる。
【0043】
埋設管では、劣化状態が最終段階にならないと地上部から発見し難いので、劣化管の発見が遅れ、事故が生じてから対策する事後保全になりやすい。今後の維持管理においては、リスクマネジメントの観点から、起こりうるリスクを予見する技術が要求されており、そのためには現状の施設の状態を的確に把握することが必要となっている。さらに、維持管理費用は厳しい予算制約化にあり、管路全長の検査は多大な費用を必要とするので実施困難であり、危険区間や危険箇所のスクリーニング手法が極めて重要となっている。
【0044】
これらの要求に対して、本発明の診断方法は、衝撃弾性波の伝播速度を比較する概査的な方法によって劣化管を抽出できる利点を有しており、必要に応じて詳細な検査と組み合わせることによって低コスト化を図ることができ、また劣化状態に応じた診断が可能であるので、劣化状態に応じた対策を立てることができるなど、効率的かつ効果的な診断方法である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】PC管内における衝撃弾性波の測定方法を示す縦断面概念図。
【図2】PC管について、測線の設定範囲を示す横断面概念図。
【図3】衝撃弾性波を測定する受振器の接続状態を示すブロック概念図。
【図4】カバーコートの劣化状態に応じた伝播速度の変化を示す概念図。
【図5】薄肉化過程における伝播速度の変化を示すグラフ。
【図6】縦断方向の劣化部の広がりを示す概念図。
【図7】薄肉化率と伝播速度差との関係を示すグラフ。
【図8】本発明に係る診断方法を利用した劣化診断のフロー図。
【図9】多点受振測定方法の概念図。
【図10】多点受振測定法における劣化部の規模を測定する概念図。
【図11】多点受振測定法による診断フロー図。
【図12】伝播速度の増減率と健全部との速度差による判定区分例を示すグラフ。
【図13】補修・補強対策の判定手順を示すフロー図。
【図14】カバーコート部の薄肉化によってコアコンクリートが露出した例を示す部分外観写真。
【図15】カバーコートの薄肉化によってPC鋼線が発錆・破断した例を示す部分外観写真。
【図16】カバーコート部の一部が砂泥化した例を示す部分外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施形態に基いて説明する。
図1に示すように、コアコンクリート11の表面にカバーコート部12を有し、管頂付近のカバーコート部の劣化部13が存在するPC管10について、一方の管内端(さし口近傍)に発信用の受振器21を設置し、反対側の管内端(うけ口近傍)に受信用の受振器22を設置し、受振器21の近傍をハンマーで打撃して、劣化部を通過する弾性波振動を受振器22によって受信する。
【0047】
また、キャリブレーションラインとして管底部分のさし口近傍に発信用の受振器31を設置し、反対側のうけ口近傍に受信用の受振器32を設置し、受振器21の近傍をハンマーで打撃して、健全部を経由する弾性波振動を受振器32によって受信する。
【0048】
図3に示すように、発信用の受振器21と受信用の受振器22の間にはオシロスコープ23とアンプ24を設け、オシロスコープ23に受信波形を表示する。これらの受振器21、22、31、32は管内部(コアコンクリート部)の壁面に装着する。管内面は曲面であるため設定位置にパテを押し付けてこれらの受振器を装着するとよい。これらの受振器は市販品(NF社製品)を用いることができる。例えば、発信用受振器として商品記号AE−901S(周波数140kHz)、受信用受振器として商品記号AE−901S−WB(周波数100kHz〜1MHz)を用いることができる。
【0049】
図1の構成例に基く診断フローの一例を図8に示す。この診断例は、炭酸化の進行に伴いカバーコート部が侵食されて薄肉化する場合の診断フローである。コアコンクリート部の伝播速度5.0km/sec、カバーコート部の設定厚さ20mm〜25mmであるとき、劣化部を4段階で評価した。カバーコート部の部材厚は超音波反射法等によって測定すればよい。この結果を表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
上記診断結果において、診断区分が「劣化」の場合は、劣化部を経由した伝播速度(Vpd)が5.3km/sec以上であり、従って健全部を経由する伝播速度(Vps)5.0km/secに対する伝播速度の増減率(F)は6%以上である。この場合、超音波反射法によってカバーコート部の残存厚を測定するとほぼ0mmである。このような段階では、劣化部の浮き・剥離などによってPC鋼線が露出している状態と考えられ、このため劣化部を通過する伝播速度(Vpd)はコアコンクリート部の伝播速度に近い値になる。この劣化部分ではPC鋼線が発錆または局部的に破断している可能性も高い。
【0052】
また、この場合、測線距離が260cm、劣化部の縦断長さ25cm程度×幅10cm以上の局部剥離であるとき、薄肉化率(G)は、G=〔劣化部位の縦断長さ(0.25m)/測線距離(2.6m)〕×100%=約10%程度である。
【0053】
劣化段階の対策としては、開削によって劣化部を削除し、部分補修、あるいはPC鋼線が切断している場合には、鉄筋コンクリート巻きやステンレス鋼板巻きなどを施して応急対策を行い、あらかじめリスクマネジメント手法などで検討された対策シナリオに沿って恒久対策(管の布設換えなど)を実施するなどの取り組みが必要になる。
【0054】
診断区分が「要注意」の段階は「健全」と「劣化」の間の状態であり、劣化部を通過する伝播速度(Vpd)は概ね、(Vpd)=5.1〜5.3km/secの範囲である。伝播速度(Vpd)が5.3km/sec側に近い場合には薄肉化が進行しているので注意を要する。一方、伝播速度(Vpd)が5.1km/sec側に近ければ健全側にあると推定できる。
【0055】
例えば、劣化部を経由した伝播速度(Vpd)が5.29km/secであり、健全部を経由した伝播速度(Vps)が5.11km/secであるとき、伝播速度の増減率(F)は、F=〔(5.29/5.11)−1〕×100%=3.52%であり、カバーコート部の薄肉化が進行した「要注意」の段階である。超音波反射法によってカバーコート部の残存厚を測定すると約10mmであり、PC鋼線の発錆が開始している。
【0056】
上記診断例は、遠心力成型管の合成伝播速度やコアコンクリートの伝播速度が基になっており、ロール転圧成形管では、この基準よりも約1km/secほど低速度であるため、ロール転圧成形管について診断する場合には約1km/secほど修正するとよい。
【0057】
カバーコート部の材質劣化の場合について、診断結果を表2に示した。この場合には、劣化部の多孔質化や砂泥化によって劣化部を通過する伝播速度(VPS)が減少するので、伝播速度の増減率(F)がマイナスになり、その大きさによって劣化状態が診断できる。
【0058】
【表2】
【0059】
次に、多点受振法の例を図9〜図11に示す。多点受振法は、1つの打撃点に対して、複数の受振器を設置する方法であり、この多点受振法によれば劣化部の規模を把握することができる。なお、劣化部の規模とは劣化部の管軸方向(縦断方向)の範囲である。
【0060】
図9に示すように、管体のさし口近傍の管内端に発信用受振器(S1)を設置し、一方、管体を一周するように管端内周面に多数の受信用受振器(d1〜d8)を設置し、発信用受振器S1の近傍を打撃し、その弾性波を複数の受信用受振器(d1〜d8)によって受信し、劣化部を含む複数の経路を経て受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(8)を比較することによって劣化規模を把握する。
【0061】
図10に示すように、劣化部の中心付近を通過する測線Bと、劣化部の縁を通過する測線A、Cについて、各測線が劣化部を通過する距離がL0、L1、L2であるとき、測線Bの通過距離L1よりも測線B、Cの通過距離L0、L2が短い。従って、測線A、Cの伝播速度は測線Bよりも劣化部の影響が小さくなる。従って、これら測線ごとの伝播速度の分布あるいは健全部との速度差の分布から劣化部の規模を把握することができる。
【0062】
多点受振測定法は、受信用受振器を多数設置すれば詳細調査法として適用することができる。多数の受振器を設置すれば、弾性波トモグラフィーとしての機能となり、打撃点を複数設ければ詳細な弾性波トモグラフィーを得ることができる。図10は1つの打撃点に対して3個の受信用受振器を設置した例である。
【0063】
多点受振測定法による診断フローを図11に示す。基本診断(一次診断)としては、例えば、管頂部に劣化が予想される場合、最初に図1のように受振器を設置して概査測定を行い、前述したように、伝播速度増減率(F)が+6%≦F、またはF≦−20%の場合には劣化部を有していると判定できるので二次診断を実施する。
【0064】
二次診断においては、例えば、受振器の間隔(測定距離)が半分になる位置に打撃点を移動し、再度打撃して健全部か劣化部かを確認する。劣化部があると判定された場合には、多点に受振器を設置する。次に、第三次診断として1打撃多点受振(1箇所で打撃し多点で波動を受振する)を行って劣化部の規模を把握する。必要に応じて、劣化範囲を含む格子状の測線を設け、超音波反射法などを併用した複合診断によって部材厚を測定する。これらの診断によって、劣化部の位置および規模や薄肉化の程度など詳細な劣化状態を把握することができる。
【0065】
本発明の診断方法によれば、伝播速度の増減率(F)と、劣化部の伝播速度(Vpd)と健全部の伝播速度(Vps)との速度差(ΔV)から劣化状態を診断することができる。この診断例を図12に示す。これは健全部の伝播速度が5.1km/secであるときの判定区分例である。
【0066】
この診断例では、伝播速度の増減率(F)がF<3%および速度差<100mの領域を「健全管」、F<3%および速度差<150mの領域を「要注意管」と判定している。3%≦Fを「劣化管」と判定してもよい。ここで基本としている健全部の伝播速度(管径φ1350mmのカバーコートを含めた合成音速度)は、本発明者らが収集した遠心力成型管の代表的な速度値である。なお材質劣化によって速度低下を生じた場合にはその低下の程度に応じて判定区分を調整すればよい。
【0067】
本発明の診断方法を利用すれば、PC管等について補修・補強等の対策を容易に行うことができ、対策を効率化することができる。PC管等の維持管理においては診断結果に基いた迅速な対応のための意思決定が重要であり、管理者のためのサポートシステムとしての判断材料を提供できることは有益である。
【0068】
本発明の診断方法によって算出される伝播速度増減率(F)および薄肉化率(G)の指標値に基く補修・補強対策の判定フローを図13に示した。図示する対策は主に「部分補修対策」、「完全薄肉化対策」、「薄肉化進行対策」である。
【0069】
伝播速度の増減率(F)が−2%≦F≦0%の場合は健全状態と診断できるので、対策は不要である。次に、増減率(F)が0%≦F≦+2%の場合はカバーコート部の薄肉化開始状態であるので、経過を観察する。増減率(F)が+2%<Fの場合はカバーコート部の薄肉化が進行している状態であるので、劣化部位やその規模を把握する必要がある。ここで、薄肉化率(G)の情報が有効となる。健全部との速度差の程度を目安として、両者の関係から薄肉化率(G)を算定し、劣化規模を把握する。
【0070】
対策を検討する場合には、対策規模の見込み(劣化域の特定)や劣化内容(局部的、全体的など)が把握されていなければならない。そのためには、前述した多点受振法や超音波反射法による部材厚測定などの複合診断による二次診断および三次診断が詳細を検討するうえで有効になる。
【0071】
具体的には、例えば、薄肉化率(G)が30%以下の場合には、概ね部分的な劣化と判断できるので、劣化区間を特定して部分補修対策工を検討する。基本的には、開削して管体の劣化部を確認し、断面修復工や左官工法、表面保護工などの部分補修対策を行う。薄肉化率(G)が10%以下のような劣化が小規模な場合には、必要に応じて管内から削孔などを通じて損傷箇所に補修材を注入するなどの対策を行う。
【0072】
伝播速度の増減率(F)が6%以上である場合には、管体全体が劣化し、PC鋼線がほとんど露出している状態と判断され、PC鋼線の発錆や破断が懸念され、管体破損の可能性が高いので、至急に対策する必要がある。基本的には管体の置換えによる改築・更新などの対策が必要になる。
【0073】
また、伝播速度の増減率(F)が+2%<F<+6%の場合(コアコンクリート部の伝播速度に近い場合、伝播速度(Vps)=5.1〜5.3km/sec)には、薄肉化進行過程にあるものと判断される。従って、カバーコート部の残存厚(炭酸化部分を除く健全なかぶり厚)を超音波反射法等によって確認し、残存厚が概ね10mm以下である場合には劣化管として予防保全処置を行う。
【0074】
なお、カバーコート部の残存厚が概ね10mm以下である場合には、PC鋼線が発錆している可能性が高く、状態によってはPC鋼線が破断している場合もあるため、PC鋼線の健全性を確認することが望ましい。PC鋼線の健全性を確認するには電磁誘導法による診断を利用することができる。ただし、電磁誘導法によるPC鋼線の診断は、遠心力成型管の場合には、全周に巻かれている籠筋の影響で的確な診断ができないため、実施できる管体はロール転圧成形管に限定される。この診断によってPC鋼線が複数切断されていることが判明した場合には、管体破損事故を誘発する可能性が極めて高いため、新たな管体の置き換えや管更生などの対策が必要になる。
【0075】
図13に示すフローに従って診断を行うことにより、診断結果に基いた適確な対策を事前に検討することができ、補修・補強手順の策定や予算化の準備などにおいて有効な情報を得ることができる。
【実施例】
【0076】
〔実施例1〕
埋設されていたPC管(管径φ1350mm、カバーコートの設計部材厚20〜25mm)について、本発明の診断方法によって劣化状態を診断した。さらに、劣化部分について削孔にてカバーコート残存厚を測定し、劣化状態を目視観察した。この結果を表3に示した。
本発明の診断方法による劣化状態は、実測したカバーコート残存厚および目視観察の劣化状態と良く一致することが確認された。なお、増減率がマイナス(−)を示す材質劣化部では、カバーコート部の残存厚があるものの脆弱しており、薄肉化過程と異なる事象となっている。
【0077】
なお、掘り出したPC管の写真を図14〜図16に示した。図14はカバーコート部の薄肉化によってコアコンクリートが露出した例であり、図15はカバーコートの薄肉化によってPC鋼線が発錆・破断した例である(何れも表3のNo.7)。また、図16はカバーコート部の一部が砂泥化した例である(表3のNo.3)。この例ではカバーコート部の部材厚は20mm程度であるが、局所的に流下水によると推定される削痕が残る材質劣化の例である。
【0078】
【表3】
【符号の説明】
【0079】
10−PC管、11−コアコンクリート、12−カバーコート部、13−劣化部、21−発信用受振器、22−受信用受振器、23−オシロスコープ、24−アンプ、31−発信用受振器、32−受信用受振器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバーコート部を有するコンクリート管について、一方の管内端に打撃を与え、その弾性波振動を他方の管内端で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比較によってコンクリート管表面部の劣化状態を診断することを特徴とするコンクリート管の診断方法。
【請求項2】
健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比を増減率F〔F=[(Vpd/Vps)−1]×100%〕とし、+6%≦Fの場合、または、F≦−20%の場合を劣化状態と診断する請求項1に記載するコンクリート管の診断方法。
【請求項3】
増減率Fが−2%から+6%以上の範囲において、カバーコート部について以下のように診断する請求項1または請求項2の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
(A1)−2%≦F≦0%の場合は健全状態。
(A2)0%≦F≦+2%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2以上であり、薄肉化開始状態。
(A3)+2%<F<+6%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2未満であり、薄肉化進行状態。
(A4)+6%≦Fの場合は、カバーコート部が殆ど無いためPC鋼線が露出した劣化状態。
【請求項4】
増減率Fが−20%から−2%以下の範囲において、カバーコート部について以下のように診断する請求項1または請求項2に記載するコンクリート管の診断方法。
(B1)−10%≦F<−2%の場合は多孔質化状態。
(B2)−20%<F<−10%の場合は多孔質化と砂泥化の進行状態。
(B3)F≦−20%の場合は砂泥化状態。
【請求項5】
劣化部を含む複数の経路から受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(n)の比較によって劣化部の規模を検出する請求項1〜請求項4の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
【請求項6】
コンクリート管が鉄筋コンクリート管、プレストレストコンクリート管(PC管)、レジンコンクリート管(RC管)、RCセグメント、石綿管(ACP)、ボックスカルバートである請求項1〜請求項5の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
【請求項1】
カバーコート部を有するコンクリート管について、一方の管内端に打撃を与え、その弾性波振動を他方の管内端で受信し、健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比較によってコンクリート管表面部の劣化状態を診断することを特徴とするコンクリート管の診断方法。
【請求項2】
健全部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpsと、劣化部を経由して受信した弾性波の伝播速度Vpdの比を増減率F〔F=[(Vpd/Vps)−1]×100%〕とし、+6%≦Fの場合、または、F≦−20%の場合を劣化状態と診断する請求項1に記載するコンクリート管の診断方法。
【請求項3】
増減率Fが−2%から+6%以上の範囲において、カバーコート部について以下のように診断する請求項1または請求項2の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
(A1)−2%≦F≦0%の場合は健全状態。
(A2)0%≦F≦+2%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2以上であり、薄肉化開始状態。
(A3)+2%<F<+6%の場合は、カバーコート部の残存厚さが設計部材厚の1/2未満であり、薄肉化進行状態。
(A4)+6%≦Fの場合は、カバーコート部が殆ど無いためPC鋼線が露出した劣化状態。
【請求項4】
増減率Fが−20%から−2%以下の範囲において、カバーコート部について以下のように診断する請求項1または請求項2に記載するコンクリート管の診断方法。
(B1)−10%≦F<−2%の場合は多孔質化状態。
(B2)−20%<F<−10%の場合は多孔質化と砂泥化の進行状態。
(B3)F≦−20%の場合は砂泥化状態。
【請求項5】
劣化部を含む複数の経路から受信した弾性波の伝播速度Vpd(1)〜Vpd(n)の比較によって劣化部の規模を検出する請求項1〜請求項4の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
【請求項6】
コンクリート管が鉄筋コンクリート管、プレストレストコンクリート管(PC管)、レジンコンクリート管(RC管)、RCセグメント、石綿管(ACP)、ボックスカルバートである請求項1〜請求項5の何れかに記載するコンクリート管の診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−44523(P2013−44523A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180025(P2011−180025)
【出願日】平成23年8月20日(2011.8.20)
【出願人】(000133397)株式会社ダイヤコンサルタント (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月20日(2011.8.20)
【出願人】(000133397)株式会社ダイヤコンサルタント (11)
【Fターム(参考)】
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