説明

コンバインの刈高さ制御装置

【課題】刈取部のデバイダや刈刃装置が圃場面に接触して破損する可能性を大幅に低減させる。
【解決手段】主変速レバー24の操作に応じて車速が増減される走行機体1aと、該走行機体1aの前部に昇降自在に連結される刈取部2と、該刈取部2の刈高さを制御する制御部34とを備えるコンバイン1において、主変速レバー24による車速の急減速操作を判断するとともに、該急減速操作を判断したとき、車速の急減速に伴う走行機体1aの前傾状のピッチングを想定し、刈取部2を所定の高さまで自動的に上昇させるピッチング刈高さ制御手段34aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取部の刈高さを制御するコンバインの刈高さ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のコンバインは、刈取部の刈高さを制御する刈高さ制御装置を備えている。刈高さ制御装置は、圃場面又は走行機体に対する刈取部の高さを検出し、該検出高さが所定の高さとなるように刈取部の昇降制御を行う。例えば、特許文献1に示される刈高さ制御装置は、超音波センサで圃場面に対する刈取部の高さを検出し、該検出高さが刈高さ設定器の設定高さとなるように刈取部を昇降制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−168936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、圃場において刈取部の刈高さが変動する要因としては、圃場面の凹凸や走行機体のピッチング(前後傾斜)がある。従来の刈高さ制御装置によれば、これらの変動要因による刈高さの変動のうち、比較的緩やかな変動に対しては、大きな遅れなく刈取部を追従させて刈高さを所定の高さに保つことが可能であるが、刈高さの急激な変動に対しては、刈取部を追従させることが困難な場合がある。
【0005】
例えば、車速が急減速された場合、走行機体の前傾状のピッチングに伴って刈取部が圃場面に接近することになるが、従来の刈高さ制御装置では、刈高さの変化を検出してから刈取部を上昇させるので、刈取部の上昇が間に合わず、刈取部のデバイダや刈刃装置が圃場面に接触して破損する惧れがあった。
【0006】
尚、特許文献1のコンバインは、ピッチングセンサによって走行機体のピッチングを検出するとともに、走行機体のピッチング変動量が所定値を越えると、所定の時間だけ、ピッチング方向と逆方向に刈取部を昇降させるピッチング関連昇降制御手段を備えるが、この場合であっても、走行機体のピッチングを検出してから刈取部を上昇させることになるので、刈取部の上昇が間に合わず、刈取部が圃場面に接触する惧れがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、車速操作具の操作に応じて車速が増減される走行機体と、該走行機体の前部に昇降自在に連結される刈取部と、該刈取部の刈高さを制御する刈高さ制御装置とを備えるコンバインにおいて、前記車速操作具による車速の急減速操作を判断するとともに、該急減速操作を判断したとき、車速の急減速に伴う前記走行機体の前傾状のピッチングを想定し、前記刈取部を所定の高さまで自動的に上昇させるピッチング刈高さ制御手段を備えることを特徴とする。
また、前記ピッチング刈高さ制御手段は、所定時間毎に前記車速操作具の操作位置を記憶するとともに、今回記憶した操作位置と前回記憶した操作位置との比較にもとづいて急減速操作を判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、車速操作具による車速の急減速操作を判断したとき、車速の急減速に伴う走行機体の前傾状のピッチングを想定し、刈取部を所定の高さまで自動的に上昇させるので、走行機体のピッチングや刈高さの変動を検出してから刈取部を上昇させるものに比べ、早いタイミングで刈取部を上昇させることが可能となり、その結果、刈取部のデバイダや刈刃装置が圃場面に接触して破損する可能性を大幅に低減させることができる。
また、請求項2の発明によれば、所定時間毎に車速操作具の操作位置を記憶するとともに、今回記憶した操作位置と前回記憶した操作位置との比較にもとづいて急減速操作を判断するので、簡単な処理手順で車速操作具の急減速操作を確実に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】コンバインの全体右側面図である。
【図2】車高下限状態を示す走行部の右側面図である。
【図3】車高上限状態を示す走行部の右側面図である。
【図4】運転部の平面図である。
【図5】スイッチパネルの平面図である。
【図6】運転部の部分拡大平面図である。
【図7】コンバインの油圧構成を示す油圧回路図である。
【図8】制御部の入出力を示すブロック図である。
【図9】ピッチング刈高さ制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】ピッチング刈高さ制御の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はコンバインであって、該コンバイン1は、走行機体1aに、茎稈を刈り取る刈取部2と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀して選別する脱穀部(図示せず)と、選別された穀粒を貯留する穀粒タンク4と、脱穀済みの排稈を後処理する後処理部5と、オペレータが乗車する運転部6と、クローラ式の走行部7とを備えて構成されている。
【0011】
刈取部2は、茎稈を分草するデバイダ8、茎稈を引き起す引起し装置(図示せず)、茎稈を掻込む掻込み装置(図示せず)、茎稈の株元を切断する刈刃装置9、刈り取った茎稈を脱穀部に向けて搬送する前処理搬送装置(図示せず)などを備えて構成されている。刈取部2全体は、走行機体1aの前部に昇降自在に連結されており、刈取部昇降シリンダ10の油圧伸縮作動に応じて昇降されるようになっている。
【0012】
走行部7は、左右一対のクローラ走行装置11を備えている。図1〜図3に示すように、各クローラ走行装置11は、駆動スプロケット12、アイドラ13、転輪14、可動転輪15、上部転輪16などの輪体に無端帯状のクローラ17を巻回して構成されており、駆動スプロケット12の駆動に応じて走行機体1aの前進、後進、旋回などが行われるようになっている。
【0013】
また、本実施形態のクローラ走行装置11は、車高昇降シリンダ18L、18Rの伸縮作動に応じて走行機体1aの車高を変更する車高変更機能を有しており、左右の車高昇降シリンダ18L、18Rを同方向に伸縮作動させて車高を変更する車高制御や、左右の車高昇降シリンダ18L、18Rを背反方向に伸縮作動させたり、いずれか一方の車高昇降シリンダ18L、18Rを伸縮作動させて走行機体1aを水平姿勢に保つ水平自動制御などを行うことが可能である。
【0014】
因みに、本実施形態のクローラ走行装置11では、トラックフレーム19、前リンク20、後リンク21及び連結ロッド22により平行リンク機構を構成し、該平行リンク機構に連繋した車高昇降シリンダ18L、18Rの伸縮作動に応じてトラックフレーム19を昇降させることにより、車高が変更されるようになっている。
【0015】
図4〜図6に示すように、運転部6は、オペレータが着座する運転席Sや各種の操作具を配置して構成されている。例えば、運転席Sの前方には、機体操向具及び前処理昇降操作具に兼用されるマルチステアリングレバー23などの操作具が配置されており、運転席Sの左側方には、車速操作具である主変速レバー24、水平自動制御の入り/切り操作具である水平自動スイッチ25、脱穀クラッチ操作具及び刈取クラッチ操作具に兼用されるパワークラッチスイッチ26、車高昇降シリンダ18L、18Rの操作具である水平手動操作レバー27、後述する刈高さ自動制御の入り/切り操作具及び刈高さ設定具に兼用される刈高さ自動スイッチ28などの操作具が配置されている。
【0016】
図1及び図7に示すように、運転部6の下方には、油圧バルブユニット29が設けられている。油圧バルブユニット29は、刈取部昇降シリンダ10を伸縮作動させる刈取部昇降用電磁バルブ30、車高昇降シリンダ18L、18Rを伸縮作動させる車高昇降用電磁バルブ31、32、ポンプの全流量をオイルタンクにアンロードするアンロード用電磁バルブ33などが組み込まれている。
【0017】
図8に示すように、コンバイン1には、マイコンなどで構成される制御部(刈高さ制御装置)34が設けられている。制御部34の入力側には、前述した水平自動スイッチ25、パワークラッチスイッチ26、刈高さ自動スイッチ28の他に、マルチステアリングレバー23の刈取部昇降操作を検出するマルチレバー昇降ポテンショ35、刈取部2の刈高さ(対機高さ)を検出する刈高さポテンショ36、主変速レバー24の操作位置を検出する主変速レバーポテンショ37、走行機体1aの車速を検出する車速センサ38、左クローラ走行装置11の昇降位置を検出する左車高ポテンショ39、右クローラ走行装置11の昇降位置を検出する右車高ポテンショ40、水平手動レバー27の操作を検出する水平手動レバースイッチ41などが接続されている。
【0018】
また、制御部34の出力側には、脱穀クラッチや刈取クラッチを入り/切りさせるパワークラッチモータ42、刈取部昇降用電磁バルブ30の刈取部上昇ソレノイド30a及び刈取部下降ソレノイド30b、アンロード用電磁バルブ33のアンロードソレノイド33a、左車高昇降用電磁バルブ31の左車高上昇ソレノイド31a及び左車高下降ソレノイド31b、右車高昇降用電磁バルブ32の右車高上昇ソレノイド32a及び右車高下降ソレノイド32bなどが接続されている。
【0019】
制御部34は、前述した水平自動制御の他に、刈高さ自動制御やピッチング刈高さ制御(ピッチング刈高さ制御手段34a)を行うようになっている。刈高さ自動制御は、刈高さ設定具で設定された刈高さを維持するように刈取部2を自動的に昇降させる既存の制御であり、ピッチング刈高さ制御は、刈高さ自動制御の欠点を補う本発明特有の制御である。以下、ピッチング刈高さ制御の処理手順及び作用について、図9及び図10を参照して説明する。
【0020】
図9に示すように、ピッチング刈高さ制御は、脱穀クラッチが接続状態であり(S1)、かつ、刈高さ自動スイッチ28がONである場合(S2)、すなわち、刈取作業状態であることを前提として実行される。そして、ピッチング刈高さ制御では、主変速レバー24による車速の急減速操作を判断するとともに(S3、S4)、該急減速操作を判断したとき、車速の急減速に伴う走行機体1aの前傾状のピッチングを想定し、刈取部2を所定の高さまで自動的に上昇させる(S5、S6)。
【0021】
ピッチング刈高さ制御では、主変速レバー24による車速の急減速操作を判断するにあたり、所定時間毎に主変速レバー24の操作位置を記憶するとともに、今回記憶した操作位置と前回記憶した操作位置との比較にもとづいて急減速操作を判断することが好ましい。例えば、今回の操作位置が低速域であり、かつ、前回の操作位置が中速域以上である場合に、急減速操作であると判断することができる。
【0022】
図10の上側は、ピッチング刈高さ制御なしで車速を急減速させた場合を示し、図10の下側は、ピッチング刈高さ制御ありで車速を急減速させた場合を示している。これらの図に示すように、車速の急減速操作を行うと、慣性力により走行機体1aが前傾状にピッチングする。走行機体1aが前傾状にピッチングすると、刈取部2が圃場面に接近することになり、特に、ピッチング角度が所定角度以上の場合は、刈取部2のデバイダ8や刈刃装置9が圃場面に接触して破損する惧れがある。
【0023】
例えば、特許文献1に示されるように、超音波センサで刈取部2の対地高さを検出したり、ピッチングセンサで走行機体1aのピッチングを検出するものでは、走行機体1aの前傾状のピッチングに応じて刈取部2を自動的に上昇させることが可能であるが、刈高さの変化や走行機体1aのピッチングを検出してから刈取部2を上昇させることになるので、急減速時には、刈取部2の上昇が間に合わず、図10の上側に示すように、刈取部2が圃場面に接触する可能性が高い。
【0024】
一方、本発明特有のピッチング刈高さ制御によれば、主変速レバー24による車速の急減速操作を判断したとき、車速の急減速に伴う走行機体1aの前傾状のピッチングを想定し、刈取部2を所定の高さまで自動的に上昇させるので、走行機体1aのピッチングや刈高さの変動を検出してから刈取部2を上昇させるものに比べ、早いタイミングで刈取部2を上昇させることができる。これにより、図10の下側に示すように、急減速時であっても、刈取部2が圃場面に接触することを回避することが可能になる。
【0025】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、主変速レバー24の操作に応じて車速が増減される走行機体1aと、該走行機体1aの前部に昇降自在に連結される刈取部2と、該刈取部2の刈高さを制御する制御部34とを備えるコンバイン1において、主変速レバー24による車速の急減速操作を判断するとともに、該急減速操作を判断したとき、車速の急減速に伴う走行機体1aの前傾状のピッチングを想定し、刈取部2を所定の高さまで自動的に上昇させるピッチング刈高さ制御手段34aを備えるので、走行機体1aのピッチングや刈高さの変動を検出してから刈取部2を上昇させるものに比べ、早いタイミングで刈取部2を上昇させることが可能となり、その結果、刈取部2のデバイダ8や刈刃装置9が圃場面に接触して破損する可能性を大幅に低減させることができる。
【0026】
また、ピッチング刈高さ制御手段34aは、所定時間毎に主変速レバー24の操作位置を記憶するとともに、今回記憶した操作位置と前回記憶した操作位置との比較にもとづいて急減速操作を判断するので、簡単な処理手順で主変速レバー24の急減速操作を確実に判断することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 コンバイン
1a 走行機体
2 刈取部
8 デバイダ
9 刈刃装置
10 刈取部昇降シリンダ
24 主変速レバー
34 制御部
34a ピッチング刈高さ制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速操作具の操作に応じて車速が増減される走行機体と、該走行機体の前部に昇降自在に連結される刈取部と、該刈取部の刈高さを制御する刈高さ制御装置とを備えるコンバインにおいて、
前記車速操作具による車速の急減速操作を判断するとともに、該急減速操作を判断したとき、車速の急減速に伴う前記走行機体の前傾状のピッチングを想定し、前記刈取部を所定の高さまで自動的に上昇させるピッチング刈高さ制御手段を備えることを特徴とするコンバインの刈高さ制御装置。
【請求項2】
前記ピッチング刈高さ制御手段は、所定時間毎に前記車速操作具の操作位置を記憶するとともに、今回記憶した操作位置と前回記憶した操作位置との比較にもとづいて急減速操作を判断することを特徴とする請求項1記載のコンバインの刈高さ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−239440(P2012−239440A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114355(P2011−114355)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】