説明

コーティング材及び被覆体の製造方法

【課題】低い光量の光の照射や、短時間の光の照射であっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ基材との密着性が高く経年劣化の少ない被覆を形成できるコーティング材と、それを用いた被覆の形成方法を提供する。
【解決手段】コーティング材は、ナシコン型構造を有する結晶を少なくとも表面に含有する。また、被覆体の製造方法は、ナシコン型結晶を有する光触媒結晶を含有するコーティング材を基材の表面に被覆する被覆工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング材及び被覆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、高い光触媒活性を有することが知られている。このような光触媒活性を有する化合物(以下、単に「光触媒化合物」と記すことがある)は、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子や正孔を生成するため、光触媒化合物の近傍において、酸化還元反応が強く促進される。また、光触媒化合物の表面は、水に濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
光触媒化合物としては、主に酸化チタンが研究されており、酸化チタンはバンドギャップが3〜3.2eVであるため、主に波長400nm以下の紫外線によって光触媒活性が得られる。
【0004】
例えば特許文献1〜5に示すように、このような光触媒特性や超親水性を有する酸化チタンを、塗料等のコーティング材に用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−115635号公報
【特許文献2】特許3077199号公報
【特許文献3】特許4456809号公報
【特許文献4】特許4525041号公報
【特許文献5】特許4571793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜6の技術では、酸化チタンの薄膜が光触媒特性や超親水性を奏するには、例えばBLB(ブラックライトブルー蛍光灯)の光や太陽光のように強力な紫外光を照射する必要があったため、特に日影や室内のように低い光量の光しか当たらない環境下や、光が短時間しか当たらない環境下では、光触媒特性や超親水性を発現させることが困難であった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、低い光量の光の照射や、短時間の光の照射であっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ基材との密着性が高く経年劣化の少ない被覆を形成できるコーティング材と、それを用いた被覆の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、コーティング材にナシコン型結晶である光触媒結晶を用いることにより、低い光量の光の照射や、短時間の光の照射によっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ、光触媒結晶の耐熱性が高められることで光触媒結晶と基材との密着性を高め易くできることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) ナシコン型結晶である光触媒結晶を含有するコーティング材。
【0010】
(2) 前記ナシコン型結晶が溶媒に分散されている(1)記載のコーティング材。
【0011】
(3) 前記溶媒が、水性溶媒、非水性溶媒又はその混合物からなる群から選択される、(1)又は(2)記載のコーティング材。
【0012】
(4) 前記ナシコン型結晶が、一般式A(XO(式中、第一元素AはLi、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とし、第二元素BはZn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上とし、第三元素XはSi、P、S、Mo及びWからなる群から選択される1種以上とし、係数mは0以上4以下とする)で表される結晶である(1)から(3)のいずれか記載のコーティング材。
【0013】
(5) 前記ナシコン型結晶の平均粒径が10nm以上300nm以下である(1)から(4)のいずれか記載のコーティング材。
【0014】
(6) 前記ナシコン型結晶の含有量は、前記コーティング材の固形分に占める割合が0.5〜20質量%である(1)から(5)のいずれか記載のコーティング材。
【0015】
(7) Zn、Ti、Zr、W及びPから選ばれる1種以上の成分を含む化合物結晶を更に含有する(1)から(6)のいずれか記載のコーティング材。
【0016】
(8) 前記化合物結晶の含有量は、前記ナシコン型結晶の含有量に対する質量比で0.5%〜95.0%である(7)記載のコーティング材。
【0017】
(9) Pd、Re及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の電子吸引性物質が、前記光触媒結晶の含有量に対する質量比で10.0%以下含まれている(1)から(8)のいずれか記載のコーティング材。
【0018】
(10) バインダをさらに含有する(1)から(9)のいずれか記載のコーティング材。
【0019】
(11) 前記バインダとして、シリカ微粒子、ポリシロキサン樹脂皮膜を形成可能なポリシロキサン樹脂皮膜前駆体、及びシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体からなる群から選択される少なくとも1種を含有する(10)記載のコーティング材。
【0020】
(12) 金属、セラミックス、グラファイト、ガラス、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体からなる基材の表面に直接塗布されるものである(1)から(11)のいずれか記載のコーティング材。
【0021】
(13) 前記基材は、表面におけるアルカリ金属含有量が1.0%以上である(12)記載のコーティング材。
【0022】
(14) 紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される(1)から(13)のいずれか記載のコーティング材。
【0023】
(15) 紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である(1)から(14)のいずれか記載のコーティング材。
【0024】
(16) (1)から(15)のいずれか記載のコーティング材を用いた塗料。
【0025】
(17) (1)から(15)のいずれか記載のコーティング材を用いた消臭剤。
【0026】
(18) 被覆体の製造方法であって、ナシコン型結晶を有する光触媒結晶を含有するコーティング材を基材の表面に被覆する被覆工程を有する被覆体の製造方法。
【0027】
(19) 前記基材が金属、セラミックス、グラファイト、ガラス、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体から構成される(18)記載の被覆体の製造方法。
【0028】
(20) 前記基材の表面におけるアルカリ金属含有量が1.0%以上である(18)又は(19)記載の被覆体の製造方法。
【0029】
(21) 前記被覆工程は、前記コーティング材として前記ナシコン型結晶が溶媒に分散した分散液を用い、前記コーティング材を前記基材に塗布又は噴霧する工程である(18)から(20)のいずれか記載の被覆体の製造方法。
【0030】
(22) 前記被覆工程は、前記コーティング材の被覆の厚みが10nm以上30μm以下になるように行う(18)から(21)のいずれか記載の被覆体の製造方法。
【0031】
(23) 前記コーティング材の被覆された基材を加熱する加熱工程をさらに有する(18)から(22)のいずれか記載の被覆体の製造方法。
【0032】
(24) 前記加熱工程が700℃以上1200℃以下の加熱温度で行われる(23)記載の被覆体の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、コーティング材にナシコン型結晶である光触媒結晶を用いることにより、低い光量の光の照射や、短時間の光の照射によっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ、光触媒結晶の耐熱性が高められることで光触媒結晶と基材との密着性を高め易くできる。そのため、低い光量の光の照射や、短時間の光の照射であっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ基材との密着性が高く経年劣化の少ない被覆を形成できるコーティング材と、それを用いた被覆の形成方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明のコーティング材及び被覆体の製造方法の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0035】
<コーティング材>
本発明のコーティング材は、ナシコン型構造を有する結晶(以下、「ナシコン型結晶」と記すことがある)である光触媒結晶を含有する。ナシコン型結晶を光触媒結晶として用いた光触媒は、より少ない光量でも光触媒活性を示し、且つ、熱による相転移が起こり難い。そのため、特に光量の少ない環境下や、耐熱性が要求される用途に好適であり、且つ光触媒活性の高い被覆を形成できるコーティング材と、それを用いた被覆の形成方法を提供できる。
【0036】
(ナシコン型結晶)
まず、本発明のコーティング材が含有する光触媒結晶について説明する。
本発明のコーティング材に含まれる光触媒結晶は、ナシコン型結晶からなる。ナシコン型の結晶構造は、後述する一般式A(XOで表すことが可能な構造であり、BO八面体とXO四面体とが頂点を共有するように連結することで、三次元の網目構造を形成する構造である。その構造の中には、Aイオンが存在しうる二つのサイトがあり、これらのサイトは連続する三次元のトンネルを形成している。この結晶構造の最大の特徴は、Aイオンが結晶内を容易に動くことである。このような構造を取ることにより、光触媒結晶の光触媒活性が高められ、且つ光触媒結晶の耐熱性が高められるため、このような光触媒結晶を含有することで、優れた光触媒活性を安定的に有する被覆を形成することができる。ここで、光触媒結晶が光触媒活性を高められる理由としては、Aイオンが結晶内を動き易いことにより、光の照射により生じた電子とホールとの再結合の確率が低減されるためであると推察される。また、本発明の光触媒結晶が耐熱性を高められる理由としては、ナシコン型結晶は相転移がなく熱的に安定であり、焼成等の加熱条件によって光触媒特性が失われ難いためであると推察される。
【0037】
ここで、ナシコン型の結晶構造は、一般式A(XO(式中、第一元素AはLi、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とし、第二元素BはZn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上とし、第三元素XはSi、P、S、Mo及びWからなる群から選択される1種以上とし、係数mは0以上4以下とする)で表されることが好ましい。この一般式で表される化合物は、安定的にナシコン型構造をとるため、光触媒特性を高め易くすることができる。
【0038】
このうち、第一元素Aは、Li、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。これらのイオンが結晶内のトンネルを形成するサイトに存在することで、これらのイオンが結晶内を容易に動くことができる。そのため、光の照射により生じた電子とホールとの再結合の確率が低減されることで、ナシコン型結晶の光触媒特性が向上する。特に、第一元素AとしてCu及びAgの少なくともいずれかを含む場合、上述の光触媒特性に加えて、光照射がなくても高い抗菌性を発現できるので、これらの少なくともいずれかを含ませることがより好ましい。なお、第一元素Aは、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF、NaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF、KCO、KNO、KF、KHF、KSiF、CuO、CuCl、AgCl、MgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF、BaCO、Ba(NO等を用いることができる。
【0039】
また、第二元素Bは、Zn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。これらは、安定なナシコン型の結晶構造を取るのに必要不可欠な成分であり、且つ、結晶の伝導帯の構成に関与して2.5〜4eVの範囲を有するバンドギャップを形成する成分である。そのため、これらのうち少なくともいずれかの元素を含有することで、紫外光のみならず可視光にも応答する光触媒を得ることが可能である。また、光触媒効率を上げる観点で、Ti、Zr及びVから選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、Tiを含むことが最も好ましい。特に、Tiを含むことにより、バンドギャップは2.8〜3.4eVの範囲になるため、紫外光と可視光の両方に応答する光触媒を容易に得られる。ここで、第二元素Bの全体に対するTi、Zr及びVから選ばれる1種以上の化学量論比は、好ましくは0.1、より好ましくは0.3、最も好ましくは0.5を下限とすることが好ましい。特に、第二元素Bの全体に対するTi、Zr及びVから選ばれる1種以上の化学量論比を高めることにより、光触媒特性をより高め易くすることができる。なお、第二元素Bは、原料として例えばZnO、ZnFAl、Al(OH)、AlF、FeO、Fe、TiO、SnO、SnO、SnO、ZrO、ZrF、GeO、Hf、V、Nb、Ta等を用いることができる。
【0040】
また、第三元素Xは、Si、P、S、Mo及びWから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらの元素は、安定なナシコン型結晶構造を取るのに必要不可欠な成分であり、且つ、ナシコン型結晶のバンドギャップの大きさを調整できる効果があるので、これらの元素のうち少なくともいずれかを含有することが好ましい。その中でも特に、ナシコン型結晶の形成が容易である点から、P、S、Mo及びWから選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。なお、第三元素Xは、SiO、KSiF、NaSiF、Al(PO、Ca(PO、Ba(PO、Na(PO)、BPO、HPO、NaS,Fe,CaS、WO、MoO等を用いることができる。
【0041】
上記一般式における係数mは、B又はXの種類によって適宜設定されるが、0以上4以下の範囲内である。mがこの範囲にあることで、ナシコン型結晶構造が保たれ、熱的及び化学的な安定性が高くなり、環境の変化による被覆の光触媒特性の劣化が少なくなり、且つ、コーティング材や被覆と他の材料との複合化の際に加熱による光触媒特性の低下が起こり難くなる。ここで、mが4を超えると、ナシコン型構造が維持できなくなるため、光触媒特性が低下する。
【0042】
ナシコン型結晶としては、例えばRTi(PO、M0.5Ti(PO、RZr(PO、M0.5Zr(PO、RGe(PO、M0.5Ge(PO、RAlZn(PO、RTiZn(PO、R(PO、Al0.3Zr(PO、RFe(PO、RSn(SiO、RNbAl(PO、La1/3Zr(PO、Fe(MoO及びFe(SO(式中、RはLi、Na、K及びCuからなる群から選択される1種以上とし、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とする)が挙げられる。
【0043】
本発明のコーティング材は、上述の第一元素A、第二元素B及び第三元素Xを含んだ化合物からなる、ナシコン型結晶の前駆体を含有してもよい。これにより、加熱を行うことで前駆体の分解が進み、基材を取り込んだ重合反応が進むため、被覆の基材に対する付着性をより一層高めたコーティング材を得ることができる。ここで、特にコーティング材をゾルで形成した場合、ナシコン型結晶の代わりにこれらナシコン型結晶の前駆体を含有することも好ましい。これにより、コーティング材がゾル中に分散し易くなるため、被覆の膜厚をより均一にすることができる。一方で、ナシコン型結晶とこれらナシコン型結晶の前駆体を併用することも好ましい。これにより、基材とナシコン型結晶の両方を取り込んだ重合反応が進むため、被覆の基材に対する付着性をより一層高めることができる。また、コーティング液に含まれているナシコン型結晶が結晶核になって混合液からナシコン型結晶が成長するため、より確実且つ迅速にナシコン型結晶構造を形成できる。ここで、第一元素A、第二元素B及び第三元素Xを含む化合物は、ナシコン型結晶の化学量論比に応じて調合し、均一に混合することが好ましい。
【0044】
なお、ナシコン型結晶の前駆体は、コーティング材から被覆を作製したときにナシコン型結晶を形成する物質を指す。そのため、ナシコン型結晶前駆体は必ずしもナシコン型結晶構造を有する必要はないが、特にコーティング材にナシコン型結晶を含まない場合には、局所的にはナシコン型結晶構造の骨格を有していることが好ましい。これにより、ナシコン型結晶構造の骨格が結晶核となってナシコン型結晶が成長するため、より確実且つ迅速にナシコン型結晶構造を形成できる。
【0045】
(化合物結晶)
本発明のコーティング材は、光触媒結晶すなわちナシコン型結晶に加えて、他の化合物結晶を含有してもよい。これにより、ナシコン型結晶が有する光触媒特性や機械的特性等の特性が調整されるため、コーティング材から形成される被覆を所望の用途に用い易くすることができる。
【0046】
ここで、化合物結晶は、所望とする特性に応じて適宜選択されるものであるが、Zn、Ti、Zr、W及びPから選ばれる1種以上の成分を含む化合物結晶を更に含有してもよい。これらの化合物結晶がナシコン型結晶の近傍に存在することで、コーティング材から形成される被覆の光触媒特性をより高めることができる。このような化合物結晶としては、TiO、WO、ZnO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上の結晶が挙げられる。これらの結晶を添加することで、光触媒特性を有する結晶の量が増加されるため、コーティング材から形成される被覆の光触媒特性をより増強できる。
【0047】
コーティング材における化合物結晶の含有量は、より光触媒特性を高められる観点では増加させることが好ましい。より具体的には、ナシコン型結晶の含有量に対する質量比で95.0%以下が好ましく、90.0%以下がより好ましく、80.0%以下が最も好ましい。化合物結晶を含有する場合、ナシコン型結晶の含有量に対する質量比で0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、2.0%以上がさらに好ましい。一方で、特にコーティング材を高温で乾燥及び加熱する場合には、これらの化合物結晶の含有量を低減することが好ましく、化合物結晶を含有しないことがより好ましい。これにより、高温での乾燥及び加熱を行っても所望の光触媒特性が得られるため、コーティング材から形成される被覆に対して、光触媒特性を高めながらもコーティング材を被覆した基材との密着性を高め、被覆の経年劣化を低減することができる。なお、化合物結晶は、生成されたナシコン型結晶に人為的に加えられるものであってもよく、ナシコン型結晶の生成過程における副産物を用いたものであってもよい。
【0048】
なお、本発明における固溶体とは、2種類以上の金属固体又は非金属固体が互いの中に原子レベルで溶け込んで全体が均一の固相になっている状態のことをいい、混晶という場合もある。溶質原子の溶け込み方によって、結晶格子の隙間より小さい元素が入り込む侵入型固溶体、母相原子と入れ代わって入る置換型固溶体等がある。
【0049】
コーティング材に含まれるナシコン型結晶及び/又は化合物結晶の平均粒径は、球近似したときの平均径が、10nm以上10μm以下であることが好ましい。その中でも特に、有効な光触媒特性を引き出すためには、結晶のサイズを10nm〜3μmの範囲とすることが好ましく、10nm〜1μmの範囲とすることがより好ましく、10nm〜300nmの範囲とすることが最も好ましい。結晶の平均粒径を10nm以上にすることで、結晶が溶媒に分散し易くなるため、コーティング材の流動性を確保して被覆の形成を行い易くすることができる。一方で、結晶の平均粒径を10μm以下にすることで、ナシコン型結晶の沈殿の形成が低減されるため、所望の光触媒特性を有する被膜を形成し易くできる。ここで、結晶の平均粒径は、例えばX線回折装置(XRD)の回折ピークの半値幅より、シェラー(Scherrer)の式:
D=0.9λ/(βcosθ)
を用いて見積もることができる。ここで、Dは結晶の大きさであり、λはX線の波長であり、θはブラッグ角(回折角2θの半分)である。特に、XRDの回折ピークが弱かったり、回折ピークが他のピークと重なったりする場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結晶粒子の面積から、これを円と仮定してその直径を求めることでも見積もることができる。顕微鏡を用いて結晶の粒径の平均値を算出する際には、無作為に100個以上の結晶の直径を測定することが好ましい。
【0050】
(電子吸引性物質)
本発明のコーティング材には、Pd、Re及びPtから選ばれる1種以上の電子吸引性物質が含まれていてもよい。これにより、金属元素成分がナシコン型結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、ナシコン型結晶を介した酸化還元の活性が増強されるため、ナシコン型結晶が有する光触媒特性をより向上することが可能になる。
【0051】
ここで、金属元素成分がナシコン型結晶の近傍に存在する場合、金属元素成分の粒子径や形状は、ナシコン型結晶の組成等に応じて適宜設定される。特に、ナシコン型結晶の光触媒機能を最大に発揮する観点では、金属元素成分の平均粒子径は、できるだけ小さい方がよい。従って、コーティング材に含まれる金属元素成分の平均粒子径の上限は、好ましくは5.0μmであり、より好ましくは1.0μmであり、最も好ましくは0.1μmである。
【0052】
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Pd、Re及びPt等の金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl、PtCl〕、臭化白金〔PtBr、PtBr〕、沃化白金〔PtI、PtI〕、塩化白金カリウム〔K(PtCl)〕、ヘキサクロロ白金酸〔HPtCl〕、亜硫酸白金〔HPt(SOOH〕、酸化白金〔PtO〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NHCl〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C14Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NHHPO〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH(OH)〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO(NH〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH)(PtCl)〕等が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CHCOO)Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl〕、臭化パラジウム〔PdBr〕、沃化パラジウム〔PdI〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K(PdCl)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K(PdBr)〕、テトラアンミンパラジウム塩化物〔Pd(NHCl〕、テトラアンミンパラジウム臭化物〔Pd(NHBr〕、テトラアンミンパラジウム硝酸塩〔Pd(NH(NO〕、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラジウム酸〔(Pd(NH)(PdCl)〕、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム〔(NHPdCl〕等が;Reを含む前駆体として、ReClが;それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質又はその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
【0053】
(バインダ)
本発明のコーティング材には、有機及び/又は無機のバインダが含まれていてもよい。これにより、コーティング材に適度な粘性が付与され、且つ、コーティング材から被覆を形成する際に、バインダの重合等によってナシコン型結晶が被覆中に固定されるため、より経年劣化の小さい被覆を形成することができる。
【0054】
バインダとして、シリカ微粒子、ポリシロキサン樹脂皮膜を形成可能なポリシロキサン樹脂皮膜前駆体、及びシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0055】
このうち、シリカ微粒子は、ナシコン型結晶を効率よく部材表面に固定化できる。特に、本発明の好ましい態様によれば、シリカ微粒子の平均粒径は、1〜100nmが好ましく、より好ましくは5〜50nmであり、最も好ましくは8〜20nmである。
【0056】
ポリシロキサン樹脂皮膜前駆体は、未硬化の若しくは部分的に硬化したポリシロキサン(シリコーン(登録商標))又はその前駆体からなる。これにより、ポリシロキサン樹脂皮膜が形成されることで、ナシコン型結晶を効率よく部材表面に固定化できる。特に、ポリシロキサン樹脂皮膜前駆体を用いた場合、加熱工程を行わなくとも被覆が形成されるため、基材がプラスチックスのような非耐熱性の材料で形成されている場合や、基材が塗料で塗装されている場合であっても、高い光触媒特性や超親水性をもたらすことができる点で一層好ましい。また、シロキサン結合を有するポリシロキサンを用いることで、ナシコン型結晶による被覆自体への反応を起こり難くすることができ、且つ、表面が一旦超親水化された後に暗所に保持しても長い期間超親水性を維持できる。
【0057】
ここで、本発明のコーティング材に含有しうるポリシロキサン樹脂皮膜前駆体の好ましい例は、平均組成式
SiX(4−p−q)/2
(式中、Rは、水素原子及びアルキル(より好ましくは炭素数1〜18の非置換アルキル、最も好ましくは炭素数3〜18のアルキルである)又はアリール(好ましくはフェニルである)の一種又は二種以上の基からなる群から選択される基であり、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子であり、pは0<p<2を、qは0<q<4をそれぞれ満足する数である)
で表されるシロキサンが挙げられる。
【0058】
また、ポリシロキサン樹脂皮膜前駆体として、一般式
SiX4−p
(式中、Rは、水素原子及びアルキル(より好ましくは炭素数1〜18の非置換アルキル、最も好ましくは炭素数3〜18のアルキルである)又はアリール(好ましくはフェニルである)の一種又は二種以上の基からなる群から選択される基であり、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子であり、pは1又は2である)
で表される加水分解性シラン誘導体を用いてもよい。
【0059】
特に、形成される被覆に良好な硬度と平滑性をもたらすには、3次元架橋型シロキサンをコーティング材の全質量に対して10質量%以上含有させるのが好ましい。更に、形成される被覆に良好な硬度と平滑性を確保しながら、被覆に充分な可撓性を提供するためには、2次元架橋型シロキサンをコーティング材の全質量に対して60質量%以下含有させるのが好ましい。また、ポリシロキサン分子のケイ素原子に結合した有機基が光励起により水酸基に置換される速度を速めるには、ポリシロキサン分子のケイ素原子に結合する有機基がn−プロピル基若しくはフェニル基からなるポリシロキサンを用いることが好ましい。また、シロキサン結合を有するポリシロキサンに替えて、シラザン結合を有するオルガノポリシラザン化合物を用いてもよい。
【0060】
シリカ皮膜前駆体は、平均組成式
SiX(4−q)/2
(式中、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子であり、qは0<q<4を満足する数である)で表されるシリケートからなる。これにより、シリカ皮膜を形成されることで、ナシコン型結晶を効率よく部材表面に固定化できる。
【0061】
その他、無機バインダとしては、特に限定されるものではないが、紫外線や可視光線を透過する性質のものが好ましく、例えば、珪酸塩系バインダ、リン酸塩系バインダ、無機コロイド系バインダや、アルミナ、シリカ及びジルコニア等の微粒子等を挙げることができる。
【0062】
また、有機バインダとしては、特に限定されるものではないが、例えば、プレス成形やラバープレス、押出成形又は射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダを用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、及び、ビニル系共重合物等が挙げられる。
【0063】
<コーティング材の作製>
本発明のコーティング材を作製する方法は、例えばナシコン型結晶をバインダ及び/又は溶媒等と混合する方法が挙げられる。特に、ナシコン型結晶を溶媒に分散させてゾルを形成することが好ましい。これにより、ナシコン型結晶が分散した均質なゾルが形成されるため、このゾルをコーティング材として用いることで、より均質であり且つ均一な膜厚の被覆を形成することができる。また、これによりナシコン型結晶の被覆が容易になるため、様々な基材に光触媒特性を持たせることができる。なお、本発明のコーティング材は、このような溶媒やバインダを含有するものでなくてもよい。例えば、スパッタ法を用いてナシコン型結晶を基材に被着させるコーティング材として、ナシコン型結晶を含有する焼結体や、ナシコン型結晶を含有する圧縮成形体をコーティング材として用いてもよい。
【0064】
ナシコン型結晶は、噴霧熱分解法、ゾルゲル法又は水熱法により製造された粉末を用いることが好ましい。これにより、所望の平均粒径を有するナシコン型結晶が得られ易くなるため、コーティング材の溶媒への分散性を確保しつつ沈殿の形成を低減できる。このうち、噴霧熱分解法としては、原料として有機金属塩溶液を用い、これを火炎中に噴霧して微粒子やその前駆体を形成する方法が挙げられる。
【0065】
ここで、ナシコン型結晶は、必要に応じてボールミル等で粒径及び/又は粒度分布を調整することが好ましい。これにより、ナシコン型結晶の粒度が揃えられるため、コーティング材をより均質にすることができ、ひいては、コーティング材から形成される被覆の光触媒特性や親水性のばらつきを低減することができる。ここで、ナシコン型結晶の平均粒子径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。なお、上述の噴霧熱分解法で微粒子状のナシコン型結晶やその前駆体を形成する場合、粒径及び/又は粒度分布の調整は行わなくてもよい。
【0066】
また、ナシコン型結晶の粉粒体を溶媒に分散させる場合、溶媒は、水性溶媒、非水性溶媒又はその混合物からなる群から選択される。水性溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールといったアルコール;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンといったエーテル;アセトン、メチルエチルケトンといったケトン;酢酸や酢酸エチル等のカルボン酸やエステル等が挙げられる。一方、非水性溶媒としては、塩化メチレン、塩化エチレン、クロロホルム、四塩化炭素といったハロゲン化炭素;ヘキサンといった脂肪族炭化水素;シクロヘキサンといった環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンといった芳香族炭化水素;等が挙げられる。その他、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル及びポリビニルアルコール(PVA)等の公知の溶媒や、これらの組み合わせが使用できる。その中でも特に、環境負荷を軽減できる点で、分子量60〜300、好ましくは分子量60〜100の常温で液体のアルコール又は水を用いることが好ましい。
【0067】
コーティング材に溶媒やバインダを用いる場合、コーティング材に含まれるナシコン型結晶の含有量は、コーティング材の用途や、バインダ及び/又は溶媒の種類に応じて適宜設定できる。そのため、コーティング材におけるナシコン型結晶の含有量は、特に限定されるものではないが、その一例を挙げれば、十分に光触媒特性を発揮させる観点から、好ましくは0.5質量%、より好ましくは1.0質量%、最も好ましくは5.0質量%を下限とし、コーティング材の被覆を行い易くする観点から、好ましくは20.0質量%、より好ましくは15.0質量%、最も好ましくは10.0質量%を上限とする。
【0068】
ここで、コーティング材には、化合物結晶や非金属元素成分、電子吸引性物質等を混合してもよい。
【0069】
化合物結晶の含有量は、所望とする特性に応じて適宜設定できる。ここで、化合物結晶の量が過小であると、建材の光触媒特性や機械的特性等が調整され難くなる。一方で、化合物結晶の量が過剰であると、後述する加熱工程を高温で行った場合や、建材を高温下に置いた場合に、光触媒特性が損なわれ易い。また、後述する加熱工程を高温で行わなかった場合に、形成される被覆の耐久性や、被覆対象である基材との密着性が損なわれ易い。そのため、化合物結晶を含有する場合、混合する化合物結晶の量の下限は、ナシコン型結晶の全質量に対する質量比で0.5%であることが好ましく、より好ましくは3.0%、最も好ましくは10.0%である。他方、混合する化合物結晶の量の上限は、ナシコン型結晶の全質量に対する質量比で95.0%であることが好ましく、より好ましくは80.0%、さらに好ましくは60.0%、最も好ましくは30.0%である。
【0070】
非金属元素成分としては、例えばF成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分及びC成分からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これら非金属元素成分をコーティング材に含ませることで、非金属元素成分がナシコン型結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒結晶の光触媒特性を向上できる。しかし、これら非金属元素成分の含有量が合計で20.0%を超えると、形成される被覆の機械的特性が著しく悪くなり、建材の光触媒特性も低下し易くなる。従って、被覆の良好な機械的特性及び光触媒特性を確保するために、ナシコン型結晶の全質量に対する非金属元素成分の含有量の合計は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。
【0071】
これらの非金属元素成分は、フッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形で混合できる。このとき、非金属元素成分を、電子吸引性物質のフッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形で混合してもよい。これにより、非金属元素成分及び電子吸引性物質の双方によって光触媒特性が向上するため、より光触媒特性の高い建材を得ることができる。
【0072】
一方、電子吸引性物質の含有量も、所望とする特性に応じて適宜設定できる。しかし、電子吸引性物質の含有量が合計で10.0%を超えると、被覆の機械的特性が著しく悪くなり易くなる。また、特にコーティング材を塗料として用いる場合や、被覆による着色が望まれない場合において、被覆の色に悪影響を及ぼし易くなる。従って、良好な機械的特性及び光触媒特性を確保するために、ナシコン型結晶の全質量に対する電子吸引性物質の含有量の合計は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。
【0073】
また、コーティング材の均質化を図るために、溶媒やバインダに、適量の分散剤を併用してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン及びシクロヘキサン等の炭化水素類、セロソルブ、カルビトール、テトラヒドロフラン(THF)及びジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類、並びに、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル及び酢酸アミル等のエステル類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
特に、コーティング材にナシコン型結晶の前駆体を用いる場合、pH調整剤や前駆体の分解抑制剤を適宜添加することができる。これにより、前駆体の反応性や分子量を調節することができる。また、反応開始剤や反応促進剤を加えてもよい。
【0075】
また、コーティング材にナシコン型結晶の前駆体を用いる場合、ナシコン型結晶の前駆体を必要に応じて反応させてもよい。この反応は、室温で攪拌することによって行ってもよく、適宜加熱してもよい。コーティング材を作成する工程と、前駆体を反応させる工程とは、同時に行うこともできる。
【0076】
ここでいう前駆体の反応は、混合液中の第一元素A、第二元素B若しくは第三元素Xを含んだ化合物、それらの化合物に由来する成分、又はそれらの組み合わせが関与する反応をいう。例えば、遷移金属イオン及びポリリン酸イオンが凝集して微粒子となってゾルを形成する反応や、遷移金属イオンにリン配位子が配位した錯体を形成する反応、等が挙げられる。アルコキシドの分解反応には、加アルコール分解及び加水分解が含まれる。むろん、この混合液の反応によってナシコン型結晶が形成されてもよい。
【0077】
<被覆体の製造方法>
次いで、本発明のコーティング材を用いた被覆体の製造方法について説明する。
【0078】
(被覆工程)
本発明の被覆体の製造方法では、上述のコーティング材を基材の表面に被覆する被覆工程を有する。これにより、被覆対象となる基材の表面がナシコン型結晶を含んだコーティング材によって被覆されるため、形成される被覆によって基材に光触媒特性や超親水性をもたらすことができる。
【0079】
被覆を形成する基材は、所望とする機械的特性や耐熱性のほか、コーティング材とのぬれ性等に応じても適宜選択される。すなわち、金属(例えばアルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル)、セラミックス、グラファイト、ガラス、木、石、布、セメント、プラスチック(例えばアクリル材、PET)、コンクリート等を用いることができる。その中でも特に、金属、セラミックス、グラファイト、ガラス(特にパイレックス(登録商標)ガラスや石英ガラス)、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体から構成されることが好ましい。これにより、耐熱性を有する基材に被覆が形成されるため、後述する加熱工程を行うことで、被覆の基材に対する付着性をより高めることができる。なお、基材には、被覆工程の前にアンダーコートを形成してもよいが、被覆体の製造方法に含まれる成分による光触媒特性への悪影響が軽微である。そのため、本発明のコーティング材は、基材の表面に直接塗布されることが好ましい。ガラスとしては、蛍光灯、窓等の室内環境浄化(汚染物質分解)ガラス、水槽、生け簀等の水質浄化ガラス、車の防曇ガラス、CRT(ブラウン管ディスプレイ)、LCD(液晶ディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイパネル)画面、窓、鏡、眼鏡等の防汚ガラス、カメラ、光学機器の防汚、防黴レンズ等がある。プラスチックとしては、AV機器、コンピューター、マウス、キーボード、リモコン、フレキシブルディスク、等の機器及びその周辺製品、車の内装品、家具、キッチン、風呂、洗面所等で使用する家庭用品等の使用する防汚、抗菌、防黴プラスチック等がある。金属としては、物干し台、物干し竿、キッチン、実験室等の作業台や洗い場、換気扇等に使用する防汚、抗菌、防黴ステンレス、防汚、抗菌処理ドアノブ等がある。木材の用途としては、防汚家具、公園の抗菌遊技施設等がある。タイルを含むセラミック、セメント、コンクリート、石等の建材としては、防汚処理した外壁材、屋根、床材等、室内環境浄化(汚染物質分解)性を持つ内壁材、防汚、抗菌、防黴処理した各種内装品等がある。紙としては、抗菌処理文房具等に使用できる。フィルム等の繊維としては、食品包装用透明抗菌フィルム、野菜保存用透明エチレンガス分解フィルム、環境、水質浄化用フィルム等がある。このように各種基材は、防汚、環境浄化、抗菌、防黴の効果を有するので、太陽光や蛍光灯等から発せられる紫外線の照射が可能な条件であれば、例示した以外でも多くの用途に使用することができる。無機質の下地層としてはシリカ、アルミナ等が挙げられる。
【0080】
ここで、基材として、アルカリ金属成分を含有する材料を用いることも好ましい。これにより、基材に含まれるアルカリ金属成分が被覆に溶出しても被覆の光触媒特性や超親水性が失われ難く、むしろ光触媒特性や超親水性が高められ易くなる。そのため、より幅広い材料を用いて、高い光触媒特性や超親水性を有する被覆体を作製することができる。ここで、アルカリ金属成分を含有する材料としては、例えば施釉タイルやソーダガラスが挙げられる。このとき、コーティング材が被覆される基材の表面に含まれる、アルカリ金属含有量は、1.0%以上であることが好ましく、3.0%以上であることがより好ましく、5.0%以上であることが最も好ましい。
【0081】
また、基材として、ガラスを用いることがより好ましい。これにより、基材がナシコン型結晶に近い屈折率を有するため、特に光を透過させる用途に被覆体を用いる場合に、被覆体の光透過性を高めることができる。ここで、ガラスとしては、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダライムガラス、及び石英ガラスが挙げられる。
【0082】
その中でも特に、基材としてアルカリ金属成分を含有するガラスを用いることが好ましい。このようなガラスは、例えばソーダガラスのように安価であることが多い反面で、アルカリ金属成分の被覆への溶出が多い材料でもある。すなわち、ソーダガラス等のような安価なガラスに対して、アンダーコートを形成せずに光触媒特性や超親水性の高い被覆を形成できるため、ガラスの光透過特性を犠牲にすることなく、ガラスに高い光触媒特性や超親水性をもたらすことができる。
【0083】
基材の表面にコーティング材を被覆する手段としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ゾルゲル法、液相析出法、スパッタ法や真空蒸着法等の真空成膜法、焼き付け法、スプレーコート法等が挙げられる。特に、ゾルゲル法を用いた方法としては、ディップコート、噴霧、ブレードコート、ロールコート、グラビアコートが挙げられる。
【0084】
特に、コーティング材が溶媒やバインダを含まない場合、例えばスパッタ法を用いることが好ましい。これにより、ナシコン型結晶を含んだコーティング材が基材に被着されるため、基材とコーティング材との付着性をより高めることができる。
【0085】
また、コーティング材が溶媒やバインダを含む場合、例えばナシコン型結晶が分散した水性ゾルを用いて、コーティング材を基材に塗布又は噴霧することが好ましい。これにより、ナシコン型結晶を含んだコーティング材が基材の所定の部位に略均一に付着するため、所望の光触媒特性や超親水性を有する被覆を形成し易くすることができる。
【0086】
被覆を形成する厚みは、基材の種類等に応じて選択されるものであるが、10nm以上30μm以下になるように被覆を形成することが好ましい。ここで、被覆を形成する厚みは、好ましくは10nm、好ましくは20nm、好ましくは50nmを下限とし、好ましくは30μm、より好ましくは10μm、最も好ましくは1μmを上限とする。
【0087】
(加熱工程)
加熱工程では、コーティング材の被覆された基材を加熱する。これにより、基材とコーティング材の被覆との結合が促進されるため、形成される被覆の基材に対する付着性を高めることができる。また、特にコーティング材がナシコン型結晶の前駆体を含む態様では、前駆体の分解が進み、基材やナシコン型結晶を取り込んだ重合反応が進むことで、被覆の基材に対する付着性をより一層高めることができる。ここで、加熱工程の具体的な態様は特に限定されないが、コーティング材の被覆された基材を設定温度へと徐々に昇温させる工程、この基材を設定温度に一定時間保持する工程、及び、この基材を室温へと徐々に冷却する工程を含んでよい。
【0088】
加熱工程における加熱の条件は、コーティング材の組成等に応じ、適宜設定されてよい。具体的には、加熱工程を行う際の雰囲気温度(加熱温度)の上限は、基材の耐熱性や、ナシコン型結晶が溶解等により消滅しない範囲を考慮して選択される。従って、焼成温度の上限は、好ましくは1200℃であり、より好ましくは1100℃であり、最も好ましくは1000℃である。一方で、加熱工程を行う際の雰囲気温度の下限は、溶媒やバインダが蒸発又は分解する温度や、基材と被覆との結合が促進される度合い考慮して選択される。従って、焼成温度の下限は、好ましくは300℃であり、より好ましくは400℃であり、最も好ましくは500℃である。
【0089】
ここで、加熱温度は、700℃以上で行うことがより好ましい。本発明の建材では、酸化チタン系等の光触媒を用いた場合に比べて、光触媒結晶の高温での相転移による変質や、基材中の成分の溶出による悪影響が起こり難くなる。そのため、より短時間で加熱工程を行うことができ、且つ、基材と被覆との結合をより強固にすることができる。
【0090】
加熱工程における加熱時間は、加熱温度や加熱温度までの昇温速度に応じて設定される。加熱温度までの昇温速度を遅くすれば、加熱温度まで加熱するだけでよい場合もあるが、目安としては加熱温度が高い場合は加熱時間を短く設定し、加熱温度が低い場合は加熱時間を長く設定することが好ましい。具体的には、基材と被覆との結合を強固にでき得る観点で、好ましくは5分、より好ましくは10分、最も好ましくは30分を下限とする。一方、加熱時間が24時間を越えると、加熱によってナシコン型結晶が大きくなり過ぎることで、かえって光触媒特性や超親水性が損なわれるおそれがある。従って、加熱時間の上限は、好ましくは24時間、より好ましくは18時間、最も好ましくは12時間とする。なお、ここでいう加熱時間は、加熱工程のうち加熱温度が一定(例えば、上記設定温度)以上に保持されている時間の長さを指す。
【0091】
加熱工程は、例えばガス炉、マイクロ波炉、電気炉等の中で、空気交換しつつ大気中で行うことが好ましい。ただし、この条件に限らず、上記の工程を、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気、酸化ガス雰囲気にて行ってもよい。
【0092】
ここで、特にコーティング材が溶媒やバインダを含む場合、加熱工程を行う前に、基材を200℃以上の温度にしてコーティング材を乾燥する乾燥工程を行うことも好ましい。これにより、コーティング材に含まれていた水分や有機物等が分解され、ガス化して排出されるため、コーティング材の粒子同士の密着性を高められることで、コーティング材の基材に対する付着性をより高めることができる。それとともに、特にコーティング材がナシコン型結晶の前駆体を含む態様では、前駆体の分解が進行し易くなることで、被覆に含まれるナシコン型結晶をより増加できる。ここで、乾燥工程における雰囲気温度(乾燥温度)の下限は、水分や有機物の分解を充分に進められる観点から、好ましくは200℃、より好ましくは250℃、最も好ましくは300℃とする。一方、乾燥温度の上限は、加熱温度より低い温度であればよく、例えば1200℃、より好ましくは1100℃、最も好ましくは1000℃であってもよい。但し、特にコーティング材がナシコン型結晶の前駆体を含む態様では、前駆体の分解生成物の排出が多くなるため、被膜に亀裂が生じないように選択される。この場合における乾燥温度の上限は、好ましくは800℃以下、より好ましくは400℃以下、最も好ましくは250℃以下である。乾燥工程を行う時間は、コーティング材に含まれる溶媒やバインダ等の種類によっても異なるが、例えば2〜12時間程度の時間をかけて行うことが好ましい。
【0093】
なお、コーティング材がポリシロキサンを含有する場合、上述の加熱工程を行わなくとも、ナシコン型結晶に光を照射して光励起を行うことで、ポリシロキサン分子のケイ素原子に結合した有機基が光触媒作用により水酸基に置換されることで、被覆の表面の超親水性をより高めることができる。
【0094】
ここで、金属板のような塑性加工できる基材に塗膜を形成した場合、塗膜を硬化させてから光励起を行う前に、金属板を塑性加工することも好ましい。本発明の被覆体に形成される被覆は、光励起する前であればポリシロキサン分子のケイ素原子に有機基が結合しており、被覆は充分な可撓性を有するので、被覆を損傷させずに容易に金属板を塑性加工することができる。従って、金属製品の複数の面に同時に光触媒特性や超親水性をもたらすことが可能である。
【0095】
<物性>
本発明のコーティング材を用いて形成された被覆は、紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、又はそれらが複合した波長の光によって触媒活性が発現される。より具体的には、この被覆に紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光を照射したときに、メチレンブルー等の有機物を分解する特性を有する。これにより、被覆の表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、被覆を防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。ここで、被覆に含まれる光触媒結晶は、メチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上であることが好ましく、4.0nmol/L/min以上であることがより好ましく、5.0nmol/L/min以上であることが最も好ましい。なお、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。
【0096】
また、本発明のコーティング材を用いて形成された被覆は、優れた耐熱性を有するようにしてもよい。これにより、被覆体が高温下におかれた場合にも光触媒特性が失われ難いため、特に耐熱性が要求される用途で、高い光触媒特性をもたらすことができる。このような用途として、例えば暖房器具や調理器具、ボイラ等の近傍に用いられる、耐火レンガやタイル、耐熱ガラス、耐熱結晶化ガラス等が挙げられる。
【0097】
また、本発明のコーティング材を用いて形成された被覆は、表面が親水性を呈することが好ましい。これにより、被覆体の表面に弱い光が当たるだけでもセルフクリーニング作用が発現されることで、被覆体の表面を水等の洗浄剤で容易に洗浄できる。そのため、日影や昼間の室内のように弱い太陽光しか当たらない場所や、夜間の室内のように蛍光灯の光しかあたらない場所でも、被覆体の表面の汚れによる光触媒特性の低下を抑制することができ、且つ、被覆体の美観をより長く保つことができる。ここで、紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、又はそれらが複合した波長の光を照射した際における、本発明の建材の表面と水滴との接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、20°以下が最も好ましい。
【0098】
本発明のコーティング材は、種々の基材に対して優れた光触媒活性と超親水性を付与できるため、塗料として用いることも好ましく、繊維製品等の表面をコーティングする消臭剤として用いることも好ましい。優れた光触媒活性と超親水性を
【0099】
本発明のコーティング材を用いて形成された被覆は、少なくともその表面に光触媒活性を持つナシコン型結晶相を含有しているため、優れた光触媒活性と超親水性を有するとともに、耐熱性にも優れている。すなわち、光触媒機能や超親水性に加えて、耐熱性が要求される様々な建材に加工できる。本発明のコーティング材を被覆するのに好適な具体例としては、壁、屋根、床、天井等の外装材や、鏡、壁紙、遮光材、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、食器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇等の内装材等が挙げられる。また、窓ガラスのように建築物の内部と外部とを隔てる部材であり、前記光触媒結晶を有する表面のうち少なくとも一部が、建築物の内部表面及び/又は外部表面を構成する部材も含まれる。このとき、ナシコン型結晶を有する表面のうち少なくとも一部が外装材や内装材等として、外気や建築物の内部雰囲気に接触していることが好ましい。
【実施例】
【0100】
次に、実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら制約を受けるものではない。
【0101】
(実施例1)
本実施例では、ナシコン型結晶を含有するコーティング材を作製した後、このコーティング材を基材であるガラス板の表面に塗布し、加熱を行うことで被覆体を形成した。
【0102】
[コーティング材の作製]
100mLのオクチル酸ナトリウム溶液、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート溶液及びジエチルホスホノ酢酸エチルからなる水性分散液に、平均粒径40nmのMg0.5Ti(PO結晶を2g加えて2時間攪拌し、ナシコン型結晶を含有するゾルからなるコーティング材を得た。
【0103】
[被覆体の作製]
このコーティング材を用い、縦7.5cm、横5.5cm、厚さ1.1mmのソーダライムガラスからなる基材の5cm×5cmの領域にディップコートを行った。ディップコートの条件は、室温の窒素雰囲気下で、引き上げ速度を24cm/minとした。ディップコートした基材を150°Cで30分乾燥し、さらに大気雰囲気下600°Cで30分間にわたり加熱工程を行った。ディップコートから焼成完了までを1サイクルとして、5サイクル行って被覆体を作製した。ここで、得られる被膜の厚さは、約200nmであった。
【0104】
[光触媒活性の評価]
また、本実施例の被覆体の光触媒特性は、次のように評価した。すなわち、70mm四方に切出したサンプルAの膜面側に、濃度0.01mmol/Lのメチレンブルー水溶液を2.5mg滴下及び塗布してから、照度1mW/cmの紫外線(株式会社東芝社製 型番:FL10BLB)を2〜10時間にわたって照射した。そして、紫外線照射前のサンプルAの色と紫外線照射後のサンプルAの色とを目視で比較し、下記の5段階の判定基準でメチレンブルーの分解力を評価した。また、比較として、紫外線を照射しない場合のサンプルAの色の変化を、紫外線を照射する場合と同様に評価した。
【0105】
(判定基準)
5:僅かに薄い,ほぼ変化がない
4:やや薄い
3:薄い
2:かなり薄い
1:透明に近い,ほぼ透明
【0106】
[平均結晶子サイズの算出]
被覆体に含まれるMg0.5Ti(PO結晶の結晶子サイズは以下の方法で算出した。
すなわち、X線回析測定により得られる各配向面に対するピークの積分巾から、Scherrerの式より結晶子サイズを算出した。
Scherrerの式: ε=λ/(β・cosθ)
ε=結晶子の大きさ(Å)
λ=測定X線波長(Å)
β=ピークの積分幅(ラジアン)
θ=回析線のブラッグ角(ラジアン)
【0107】
[親水性評価]
また、得られた建材のサンプルAの親水性について、θ/2法によりサンプルAの表面と水滴との接触角を測定することにより評価した。すなわち、上述の紫外線を照射した後のサンプルAの表面に水を滴下し、サンプルAの表面から水滴の頂点までの高さhと、水滴のサンプルAに接している面の半径rと、を協和界面科学社製の接触角計(CA−X)を用いて測定し、θ=2tan−1(h/r)の関係式より、水との接触角θを求めた。
【0108】
その結果、本実施例で得られる被覆体の表面には、結晶子サイズが15nmのMg0.5Ti(PO結晶が析出していた。
【0109】
また、本実施例で得られた被覆体の光触媒特性をメチレンブルーの脱色により評価したところ、紫外線照射前に「5:殆ど変化しない」と評価されていたものが、紫外線照射後には「3:薄い」になった。一方、紫外線を照射しなかった場合は、時間がたってもサンプルに明確な色変化が見られなかった。このことから、本実施例の被覆体は、光の照射によってメチレンブルーの脱色現象が起こるため、光触媒特性を有することが確認された。
【0110】
また、本実施例で得られた被覆体の親水性は、紫外線の照射開始から2時間後における水との接触角が10°であったため、紫外線の照射開始から2時間後には水との接触角が30°以下となることが確認された。これにより、本発明の実施例の被覆体は、高い親水性を有することが明らかになった。
【0111】
(実施例2)
本実施例では、NaTi(PO結晶の前駆体を含有するコーティング材を作製した後、このコーティング材を基材であるガラス板の表面に塗布し、加熱を行うことで被覆体を形成した。
【0112】
[コーティング材の作製]
100mLのオクチル酸ナトリウム溶液、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート溶液及びジエチルホスホノ酢酸エチルからなる水性分散液に、NaTi(PO微粒子を分散し、10%の微粒子を含むコーティング材を得た。
【0113】
[被覆体の作製]
このコーティング材を用い、縦7.5cm、横5.5cm、厚さ1.1mmのソーダライムガラスからなる基材の5cm×5cmの領域にディップコートを行った。ディップコートの条件は、室温の窒素雰囲気下で、引き上げ速度を24cm/minとした。ディップコートした基材を150°Cで30分乾燥し、さらに大気雰囲気下600°Cで30分間にわたり加熱工程を行った。ディップコートから焼成完了までを1サイクルとして、3サイクル行って被覆体を作製した。ここで、得られる被膜の厚さは、約200nmであった。
【0114】
その結果、本実施例で得られた被覆体の表面には、実施例1の場合と同様に、結晶子サイズが20nmのNaTi(PO結晶が確認されていた。
【0115】
また、本実施例で得られた被覆体の光触媒特性をメチレンブルーの脱色により評価したところ、紫外線照射前に「5:殆ど変化しない」と評価されていたものが、紫外線照射後には「4:やや薄い」になった。一方、紫外線を照射しなかった場合は、時間がたってもサンプルに明確な色変化が見られなかった。このことから、本実施例の被覆体は、光の照射によってメチレンブルーの脱色現象が起こるため、光触媒特性を有することが確認された。
【0116】
また、本実施例で得られた被覆体の親水性は、紫外線の照射開始から2時間後における水との接触角が15°であったため、紫外線の照射開始から2時間後には水との接触角が30°以下となることが確認された。これにより、本発明の実施例の被覆体も、高い親水性を有することが明らかになった。
【0117】
(実施例3)
本実施例では、ポリシロキサンとナシコン型結晶を含有するコーティング材を金属板の表面に塗布し、硬化させることで被覆を形成した。
【0118】
平均粒子径100nmのナシコン型構造を有するMg0.5Ti(PO結晶と、日本合成ゴム(東京)の塗料用組成物“グラスカ”のA液(シリカゾル)とを混合し、エタノールで希釈した後、更に“グラスカ”のB液(トリメトキシメチルシラン)を添加し、ナシコン型結晶を含有するコーティング材である塗料を作製した。このコーティング材の組成は、シリカ3重量部、トリメトキシメチルシラン1重量部、ナシコン型結晶4重量部であった。
【0119】
一方で、基材として10cm四角のアルミニウム板を使用した。基板の表面を平滑化するため、予めポリシロキサン層で被覆した。このため、“グラスカ”のA液(シリカゾル)とB液(トリメトキシメチルシラン)を、シリカ重量とトリメトキシメチルシランの重量の比が3になるように混合し、この混合液をアルミニウム板に塗布し、150℃の温度で硬化させ、膜厚3μmのポリシロキサンのベースコートで被覆された複数のアルミニウム基板を得た。
【0120】
次に、上述のコーティング材を用いてアルミニウム基板を被覆した。より詳しくは、このコーティング材をアルミニウム基板の表面に塗布し、150℃の温度で硬化させ、ナシコン型結晶を含有する被覆を形成して被覆体を作製した。
【0121】
その結果、本実施例で得られた被覆体の表面には、実施例1の場合と同様に、結晶子サイズが20nmのMg0.5Ti(PO結晶が析出していた。
【0122】
また、本実施例で得られた被覆体の親水性は、紫外線の照射開始から2時間後における水との接触角が10°であったため、紫外線の照射開始から2時間後には水との接触角が30°以下となることが確認された。これにより、本発明の実施例の被覆体も、高い親水性を有することが明らかになった。
【0123】
その結果、本実施例で得られた被覆体の親水性は、紫外線の照射開始から2時間後における水との接触角が10°であったため、紫外線の照射開始から2時間後には水との接触角が30°以下となることが確認された。一方で、紫外線を照射する前のサンプルCの親水性は、水との接触角が70°であった。また、ナシコン型結晶を含有する被覆を形成せずに紫外線を照射した場合は、水との接触角が85°であった。
【0124】
これにより、ポリシロキサンは本来かなり疎水性であるにも拘わらず、ナシコン型結晶を含有した被覆体に用い、紫外線照射で励起した場合には、高度に親水化されることが明らかになった。
【0125】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナシコン型結晶である光触媒結晶を含有するコーティング材。
【請求項2】
前記ナシコン型結晶が溶媒に分散されている請求項1記載のコーティング材。
【請求項3】
前記溶媒が、水性溶媒、非水性溶媒又はその混合物からなる群から選択される、請求項1又は2記載のコーティング材。
【請求項4】
前記ナシコン型結晶が、一般式A(XO(式中、第一元素AはLi、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とし、第二元素BはZn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上とし、第三元素XはSi、P、S、Mo及びWからなる群から選択される1種以上とし、係数mは0以上4以下とする)で表される結晶である請求項1から3のいずれか記載のコーティング材。
【請求項5】
前記ナシコン型結晶の平均粒径が10nm以上300nm以下である請求項1から4のいずれか記載のコーティング材。
【請求項6】
前記ナシコン型結晶の含有量は、前記コーティング材の固形分に占める割合が0.5〜20質量%である請求項1から5のいずれか記載のコーティング材。
【請求項7】
Zn、Ti、Zr、W及びPから選ばれる1種以上の成分を含む化合物結晶を更に含有する請求項1から6のいずれか記載のコーティング材。
【請求項8】
前記化合物結晶の含有量は、前記ナシコン型結晶の含有量に対する質量比で0.5%〜95.0%である請求項7記載のコーティング材。
【請求項9】
Pd、Re及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の電子吸引性物質が、前記光触媒結晶の含有量に対する質量比で10.0%以下含まれている請求項1から8のいずれか記載のコーティング材。
【請求項10】
バインダをさらに含有する請求項1から9のいずれか記載のコーティング材。
【請求項11】
前記バインダとして、シリカ微粒子、ポリシロキサン樹脂皮膜を形成可能なポリシロキサン樹脂皮膜前駆体、及びシリカ皮膜を形成可能なシリカ皮膜前駆体からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項10記載のコーティング材。
【請求項12】
金属、セラミックス、グラファイト、ガラス、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体からなる基材の表面に直接塗布されるものである請求項1から11のいずれか記載のコーティング材。
【請求項13】
前記基材は、前記コーティング材が被覆される表面におけるアルカリ金属含有量が1.0%以上である請求項12記載のコーティング材。
【請求項14】
紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される請求項1から13のいずれか記載のコーティング材。
【請求項15】
紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である請求項1から14のいずれか記載のコーティング材。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか記載のコーティング材を用いた塗料。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか記載のコーティング材を用いた消臭剤。
【請求項18】
被覆体の製造方法であって、
ナシコン型結晶を有する光触媒結晶を含有するコーティング材を基材の表面に被覆する被覆工程を有する被覆体の製造方法。
【請求項19】
前記基材が金属、セラミックス、グラファイト、ガラス、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体から構成される請求項18記載の被覆体の製造方法。
【請求項20】
前記基材の表面におけるアルカリ金属含有量が1.0%以上である請求項18又は19記載の被覆体の製造方法。
【請求項21】
前記被覆工程は、前記コーティング材として前記ナシコン型結晶が溶媒に分散した分散液を用い、前記コーティング材を前記基材に塗布又は噴霧する工程である請求項18から20のいずれか記載の被覆体の製造方法。
【請求項22】
前記被覆工程は、前記コーティング材の被覆の厚みが10nm以上30μm以下になるように行う請求項18から21のいずれか記載の被覆体の製造方法。
【請求項23】
前記コーティング材の被覆された基材を加熱する加熱工程をさらに有する請求項18から22のいずれか記載の被覆体の製造方法。
【請求項24】
前記加熱工程が700℃以上1200℃以下の加熱温度で行われる請求項23記載の被覆体の製造方法。

【公開番号】特開2012−193251(P2012−193251A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57225(P2011−57225)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】