説明

ゴルフボール用ゴム架橋成形物

【解決手段】本発明は、金属酸化物を含むゴム架橋成形物にアクリル酸等の酸基含有モノマーを所定条件で含浸させて、(i)モノマーとゴム及び/又はその配合材との化学反応、(ii)モノマー自体の化学反応のいずれかの化学反応または両方の化学反応を起こさせてなり、上記モノマーの含浸深さが0.3mm以上であり、かつ含浸後の表面硬度が含浸前よりもJIS−C硬度で7.4〜63.3高いことを特徴とするゴルフボール用ゴム架橋成形物を提供する。
【効果】本発明によれば、ゴム架橋成形物の表面硬度とその表面から所定深さにおける断面硬度との硬度分布を自由に調整することができ、特に、ゴム架橋成形物をゴルフボール用コアとして用いる場合、コアの表面−断面硬度分布の硬度設計の自由度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンピースゴルフボールの材料、ツーピースゴルフボール及びスリーピースゴルフボール等のソリッドゴルフボールのコア材として好適に用いられるゴム架橋成形物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴルフボールには、各種ゴム配合材を含有したゴム組成物を架橋成形して得られたソリッドコアに単層又は複数層のカバーを被覆形成したソリッドゴルフボールやゴム組成物を架橋成形してその球状物全体をボールとしたワンピースゴルフボールが知られている。これらのゴルフボールにおいて、基材ゴムを主体としたゴム組成物を加硫して球状架橋成形物であるコアを作製するものであるが、中心部分と表面部分との硬度差を調整することによりボール硬度分布の自由度を高めることができる。そこで、ボールの表面硬度を高める手段として、特開平10−43330号公報(特許文献1)には、コア表面にシリカ粒子を含有させたコアを有するゴルフボールが提案されている。
【0003】
しかしながら、上記提案のゴルフボールにおいては、シリカ粒子が単なる無機充填材であるので界面ロスが生じてしまい、反発性が悪くなるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−43330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、コアの表面から内部への硬度分布の硬度設計の自由度をより一層高めたゴルフボール用ゴム架橋成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、基材ゴム,充填材及び有機過酸化物等のゴム及びその配合材を含有したゴム組成物を、1層又は2層以上からなる球状体に架橋成形して得られるゴルフボール用ゴム架橋成形物において、上記充填材として金属酸化物を用いた上記架橋成形物にアクリル酸,メタクリル酸,及びこれらのアルキルエステル,アミノ基含有エステル,脂環含有エステル,芳香環含有エステル,ビニル基含有エステル,カルボン酸含有エステルの群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを浸漬法により所定条件で含浸させて、モノマーとゴム又はその配合材との化学反応、及び/又はモノマー自体の化学反応を起こさせ、モノマーが架橋成形物の表面から内部に含浸する深さを0.3mm以上に調整することにより、架橋成形物の表面から所定深さにおける断面硬度を表面硬度よりも大きく変化させることができ、従来に比べてボール硬度の設計の自由度をより一層高めることに成功し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は、下記のゴルフボール用ゴム架橋成形物を提供する。
基材ゴム,金属酸化物及び有機過酸化物等のゴム及びその配合材を含有したゴム組成物を、1層又は2層以上からなる球状体に架橋成形して得られるゴルフボール用ゴム架橋成形物において、上記架橋成形物に、アクリル酸,メタクリル酸,及びこれらのアルキルエステル,アミノ基含有エステル,脂環含有エステル,芳香環含有エステル,ビニル基含有エステル,カルボン酸含有エステルの群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを、0〜40℃/5〜200時間の条件で含浸させて、下記の(i),(ii)
(i)モノマーとゴム及び/又はその配合材との化学反応
(ii)モノマー自体の化学反応
のいずれかの化学反応または両方の化学反応を起こさせてなり、上記モノマーが上記架橋成形物の表面から内部に含浸する深さが0.3mm以上であり、かつ含浸後の表面硬度が含浸前よりもJIS−C硬度で7.4〜63.3高いことを特徴とするゴルフボール用ゴム架橋成形物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴルフボール用ゴム架橋成形物によれば、ゴム架橋成形物の表面硬度とその表面から所定深さにおける断面硬度との硬度分布を自由に調整することができ、特に、ゴム架橋成形物をゴルフボール用コアとして用いる場合、コアの表面−断面硬度分布の硬度設計の自由度を高めることができる。それ故、本発明のゴム架橋成形物をボールに適用した場合、ボールのスピン性能、反発性等を容易に制御又は調整することができ、ゴルファーの要望に応じて多様なゴルフボールを製造することができる。
【0009】
なお、本発明では、モノマーを含浸する前のゴム架橋成形物の硬度と、その含浸・化学反応後のゴム架橋成形物の硬度とに着目して記述したが、硬度以外のゴム架橋成形物の諸物性も大きく変化していることが推察し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のゴルフボール用ゴム架橋成形物につき更に詳しく説明する。
【0011】
本発明のゴルフボール用ゴム架橋成形物については、ワンピースゴルフボールの材料として、または、ツーピース及び3層以上のマルチピースソリッドゴルフボールのコア材料として適用することができ、基材ゴム、充填材及び有機過酸化物等のゴム配合材を含有したゴム組成物を加熱成形し、更には、モノマーをゴム架橋成形物に含浸させ、加熱させてゴム架橋成形物内部に特定の化学反応を起こさせてゴム架橋成形物の硬度分布を変化させたものである。
【0012】
ここで、基材ゴムとしては、従来からソリッドゴルフボールに用いられているジエン系ゴムを用いることができ、例えば、ブタジエンゴム(BR),スチレン−ブタジエンゴム(SBR),イソプレンゴム(IR),クロロプレンゴム(CR),アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR),エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム及びこれらの変性物などから選ばれ、1種を単独で、または2種以上併用して用いることができる。これらのゴムの合成触媒、ムーニー粘度、分子量等の条件については特に制限はない。特に、シス−1,4−結合を40%以上、更に好ましくは90%以上を有する高シス含有のポリブタジエンゴムを用いることが好ましい。また、ランタノイド触媒系を用いて合成された高シス含有のポリブタジエンが高反発性の点で好ましく用いられ、その他、ニッケル系、コバルト系触媒により得られた高シスポリブタジエンも使用することができる。具体的には、市販の製品、例えば、JSR社製の「BR01」、「BR730」やバイエル社の「CB22」、「CB24」等が挙げられる。
【0013】
また、上記の基材ゴムには、無機充填材が必須成分として配合される。上記無機充填材としては、例えば、酸化亜鉛,炭酸カルシウム,酸化カルシウム,酸化マグネシウム,硫酸バリウム,シリカ等を挙げることができる。特に、酸化亜鉛,酸化カルシウム,酸化マグネシウム等の金属酸化物を用いることが好ましい。この場合、金属酸化物の平均粒径は0.8μm以下であることが好ましく、より好ましくは300nm以下である。
【0014】
有機過酸化物としては、具体的には、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ハレレート、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、p−メタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(3,3,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ジサクサイニック酸パーオキサイド、ジ−(3−メチルベンゾイルパーオキサイド)、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(3−メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3−メチルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’,−テトラ(t−ブチルパーオキシカーボニルベンゾフェノン)、2,3−ジメチル−2,3−ジヘニルブタンなどが挙げられる。
【0015】
上記有機過酸化物の配合量は、特に制限はないが、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、上限として好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3質量部以下配合することである。
【0016】
上記ゴム組成物には、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸、及び/又はそれらの金属塩を配合することができ、金属としては亜鉛、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、リチウム、カルシウムを例示することができる。更に、上記化合物と併せて又は単独で、アクリル酸ブチルエステル、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、メタクリル酸グリシジルエステル等の不飽和カルボン酸のエステルなどを配合することができる。
【0017】
上記化合物の配合量は、特に制限はないが、上記基材ゴム100質量部に対して好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、上限として好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下配合することである。
【0018】
また、本発明では、その他のゴム配合材として、硫黄、無機硫黄化合物、及び上述した以外の各種の無機化合物などを適宜配合することができる。
【0019】
上記ゴム組成物のその他の任意成分としては、例えば、球状架橋成形物の反発性を向上させる目的により有機硫黄化合物を配合することができる。このような有機硫黄化合物として具体的には、チオフェノール類、チオナフトール類、ハロゲン化チオフェノール又はそれらの金属塩、より具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール又はそれらの金属塩、特に亜鉛塩が挙げられる。この場合、有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して好ましくは0.2質量部以上、5質量部以下とすることが望ましい。また、球状架橋成体の断面硬度分布を大きくするために元素硫黄や無機硫黄化合物などを添加することもできる。また、ゴム組成物の加工性改良のために公知の加工助剤、具体的には、商品名「アクチプラスト」(Aktiplast)(ラインケミー社製)等の加工助剤を加えることができ、コアの粉砕物、カバー材の粉砕物、使用済みゴルフボールの粉砕物や製造工程で発生するゴムや樹脂の廃棄物を粉砕したものを添加してもよい。
【0020】
なお、必要に応じて老化防止剤を配合することもできる。この場合、老化防止剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、上限として好ましくは3質量部以下配合することができる。老化防止剤としては市販品を用いることができ、例えば、ノクラックNS−6、同NS−30(大内新興化学工業(株)製)、ヨシノックス425(吉富製薬(株)製)等が挙げられる。
【0021】
また、上記ゴム組成物以外に、シリコーンパウダーを適宜量で配合することができる。この場合、シリコーンパウダーの粒径や変性される官能基については特に制限はない。更には、上記ゴム組成物以外に、各種の熱可塑性樹脂を適宜量配合することができる。
【0022】
本発明のゴム架橋成形物は、上述したゴム組成物を、公知のゴルフボール用組成物と同様の方法で架橋硬化させることにより得ることができる。例えば、上記ゴム組成物をロール、ニーダー、バンバリーミキサーなどの適宜な混練機で混練し、金型を用いて加熱加圧成型する方法である。なお、架橋条件として、温度や時間については、特に制限はないが、100〜200℃,10〜40分にて実施することが好適である。
【0023】
ここで、本発明においては、上述したゴム組成物を架橋成形した架橋成形物に対してモノマーを含浸させるものである。このモノマーとしては、アクリル酸,メタクリル酸,及びこれらのアルキルエステル,アミノ基含有エステル,脂環含有エステル,芳香環含有エステル,ビニル基含有エステル,アルコキシ基含有エステル,カルボン酸含有エステルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物を採用することができる。
【0024】
上記モノマーを含浸させる手段としては、モノマーの種類により異なるが、例えば、モノマーが液状の場合は液状モノマーをそのままを含浸液として用い、架橋成形物を該含浸液に好ましくは0〜40℃で5〜200時間の範囲内で浸漬する方法が挙げられる。浸漬時間が長ければ長いほど浸漬する薬品の量が多くなり、表面から架橋成形物の中心に向って深い箇所まで浸漬する。つまり、架橋成形物の中心付近の硬度を上げる場合には更に長時間の浸漬が必要となる。このように浸漬条件は、所望とする架橋成形物の中心硬度,表面硬度及びこれらの硬度差等を含めた硬度分布に応じて適宜選定することができる。
【0025】
なお、モノマーが液体であれば、上述したとおり、架橋成形物に対してそのまま浸漬すればよく、モノマーが固体であれば、各種溶媒に溶かして当該薬品を使用することができる。
【0026】
また、上記架橋成形物の表面から中心に向けて含浸する深さが0.3mm以上、好ましくは0.3mm以上10mm以下の範囲内でモノマーを浸透させることが望まれる。更に架橋成形物の内部に向けてモノマーゴムを浸透させる場合には、架橋成形物が半加硫の状態でモノマーを浸漬させるとよい。
【0027】
本発明の架橋成形物においては、モノマーを架橋成形物に浸透させたものを加熱することにより、下記の(i),(ii)
(i)モノマーとゴム及び/又はその配合材との化学反応
(ii)モノマー自体の化学反応
のいずれかの化学反応または両方の化学反応を起こさせるものである。ただし、モノマーを架橋成形物に浸透させただけでは架橋成成形物内部での化学反応は起きず、加熱することが必要とされる。
【0028】
上記の(i)(ii)の化学反応とは、具体的には、下記の(1)〜(4)から選ばれる化学反応である。
(1)モノマーと基材ゴムとの化学反応
(2)モノマー自体の化学反応
(3)モノマーがアクリル酸等の酸基含有モノマーである場合、該モノマーと酸化亜鉛等の金属酸化物との化学反応により不飽和カルボン酸金属塩が生成する。この場合、この不飽和カルボン酸の金属塩と基材ゴムとの化学反応
(4)上記により生成した不飽和カルボン酸の金属塩自体の化学反応
本発明では、モノマーを含浸した架橋成形物を加熱することにより、上記(1)〜(4)のうち少なくとも1つの化学反応が単独で起きたり、または、上記(1)〜(4)の任意の組み合わせによりこれらの化学反応が同時に起きるものであり、そのメカニズムの詳細は定かではないが、これらの化学反応により硬度変化をもたらすものと考える。
【0029】
本発明では、上記モノマーを含浸した架橋成形物を加熱することにより、該架橋成形物の硬度分布を変化させて表面硬度や中心と表面との硬度差を自由に調整することが可能である。即ち、上記架橋成形物の表面からモノマーを含浸させて当該成形物を加熱すると、上述した(1)〜(4)の化学反応により、少なくとも表面硬度を向上させることが可能となる。加熱温度及び加熱時間については、モノマーの種類により異なるが、100〜180℃、1分〜2時間の範囲内で行うことが好適であり、特に、80℃以上かつ20分以上で行うことがより好適である。
【0030】
乾燥工程は、本発明の必須の工程ではないが、余分のモノマーを除去する目的で行うことができ、具体的には、大気圧下又は減圧下にモノマーを含浸させた後、0〜30℃,0.5〜240時間内で乾燥させることが好適である。
【0031】
加熱工程は、具体的には、上型,下型からなる金型を用いて加圧又は非加圧により架橋成形物を加熱することができる。
【0032】
なお、モノマーを含浸し、必要により乾燥させた後、加熱した後の架橋成形物のJIS−C硬度は含浸前の架橋成形物に比べてJIS−C硬度で5以上、特に10以上高く形成することが好ましい。
【0033】
上述したようにモノマーを含浸させ、加熱処理を施した架橋成形物(以下、「含浸加熱成形物」と略す。)の直径は、好ましくは30.0mm以上、より好ましくは32.0mm以上、更に好ましくは35.0mm以上に調整される。一方、上限値としては、好ましくは41.0mm以下、より好ましくは40.5mm以下、更に好ましくは40.0mm以下に調整される。
【0034】
上記の含浸加熱成形物の中心硬度はJIS−C硬度で30〜80であることが好ましく、より好ましくは40〜72である。なお、JIS−C硬度は、JIS−K 6301−1993に準じて測定する。
【0035】
上記含浸加熱成形物の表面硬度はJIS−C硬度で75以上であることが好ましい。なお、JIS−C硬度計は90〜100以上では硬度計測が困難となるので、これ以上の硬度計測についてはショアD硬度計(ASTM D 2240に準ずるタイプDデュロメーター)を用いることができる。この場合、上記の含浸加熱成形物の表面硬度はショアD硬度で85を超えないことが好ましい。
【0036】
このようにして得られた含浸加熱成形物の中心部分と表面付近の硬度差は大きくなる。具体的には、上記の含浸加熱成形物の表面硬度から中心硬度を差し引いた値は、JIS−C硬度で15〜45であることが好ましく、より好ましくは17〜40である。上記硬度差が小さくなると、ドライバー(W#1)打撃時にスピン量が増大してしまい、その結果、飛距離が十分に得られない場合がある。
【0037】
上記の含浸加熱成形物の980N(100kg)荷重負荷時のたわみ量については、目的とするゴルフボールの種類に応じて適宜選定されるが、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは2.8mm以上、上限としては好ましくは7mm以下、より好ましくは5mm以下であることが推奨される。
【0038】
上記の含浸加熱成形物の用途としては、主にゴルフボール用であり、具体的には、上記含浸加熱成形物が直接適用されるワンピースソリッドゴルフボール、含浸加熱成形物をソリッドコアとし、かつその表面に1層のカバーが形成されたツーピースソリッドゴルフボール、含浸加熱成形物をソリッドコアとし、かつその外側に2層以上のカバーが形成されたスリーピース以上のマルチピースソリッドゴルフボール等の態様を採ることができる。
【0039】
なお、上記の含浸加熱成形物をワンピースゴルフボール又はツーピース,スリーピース以上のマルチピースゴルフボール用のコアとした場合、ゴルフボールの直径は、好ましくは42.67mm以上、より好ましくは42.67〜43.00mm、質量は、好ましくは45.0〜45.93gに形成することができる。また、上記の含浸加熱成形物をソリッドコアに適用した場合、該コアに被覆するカバー層及び/又は中間層の材料としては、アイオノマー樹脂,ポリエステル,ポリウレタン,ナイロン等の通常用いられるカバー材料を使用することができる。更に、この場合、ゴルフボールの表面には、公知の方法により公知の各種ディンプルを形成することができる。コアにカバーを被覆する方法は、コンプレッション成形、射出成形などで形成する公知の方法を採用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例と比較例とを示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1〜2、比較例1]
下記表1のコア配合に基づくゴム組成物を混練し、各々の実施例及び比較例につき155℃で30分間の条件により加硫成形して実施例1,2及び比較例1の球状の架橋成形物を作成し、下記表1に示したモノマー(即ち、アクリル酸)を架橋成形物に含浸させ加熱して硬度分布を変化させた。この含浸加熱成形物の断面硬度を計測した結果を下記表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
含浸及び乾燥工程について
上記表に示したゴム配合を上記の架橋条件で成型して球状の架橋成型物得る。
該成型物を十分量アクリル酸が入ったビーカーに入れる。19.7時間浸した後、ビーカーから取り出し、23℃、大気圧のもとで乾燥させる。96時間乾燥した後、23℃、減圧のもとで更に乾燥させて乾燥総時間を120時間とした。
含浸し加熱成型して得られたコアを球の中心を含む面で切ると、含浸・加熱処理することによりコア層中の含浸した部分(含浸層)の色は、浸漬していない部分の層色とは異なるので、この色の差異により含浸層の深さ、体積及び質量を算出することができる。
【0044】
便宜上、含浸途中の含浸層の深さを上記の通り測定した含浸層の深さと同じとすると、含浸工程途中の、含浸層中のポリブタジエンに対する含浸液の質量部が算出できる。また、実施例1,2において、得られたコアの表面硬度および、断面硬度がそれぞれ異なる。上記の通り、架橋成型物にアクリル酸モノマーを浸漬させる際、酸化亜鉛等でアクリル酸の含浸液を中和することで、浸漬させるアクリル酸の量を制御することができる。また、アクリル酸の浸漬量を調整することは、得られるコアの表面硬度、表面より内側の部分の硬度を調整するのに有効である。酸化亜鉛とアクリル酸とでアクリル酸の含浸液を中和しトラップすることが可能である。この場合、酸化亜鉛量は常に一定量であるため、含浸・加熱成型して得られたコア層の各断面硬度は、アクリル酸の含浸量と一定の相関関係があると考えられる。
【0045】
【表2】

【0046】
上記の表2の説明は下記の通りである。
・JIS−C硬度は、JIS K6301−1993に準じて各実施例の硬度を測定した

・表面の硬度は、コア表面の2点をランダムに測定した値の平均値である。
・コア断面硬度は、コアを半分に切断し、表2に記載された所定の位置の硬度を測定した
。表中の数字は、中心からの距離が等しく異なる2点の平均値を示す(測定点は断面の
中心を通る2本の直交する直線上にある。)。
【0047】
[実施例3〜7]
下記表3のコア配合に基づくゴム組成物を混練し、各実施例につき155℃で30分間の条件により加硫成形して実施例3〜7の球状の架橋成形物を作成し、下記表3に示したモノマーを架橋成形物に含浸させて硬度分布を変化させた。この含浸加熱成形物の断面硬度を計測した結果を下記表4に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
[実施例8〜11、比較例2]
下記表5のコア配合に基づくゴム組成物を混練し、各実施例につき160℃,15分間の条件により加硫成形して実施例8−11、比較例2の球状の架橋成形物を作成し、下記表5に示したモノマー(メタクリル酸グリシジルエステル)を架橋成形物に含浸させて硬度分布を変化させた。この含浸加熱成形物の断面硬度を計測した結果を下記表6に示す。
【0051】
【表5】

※メタクリル酸グリシジルエステル(100質量%)
【0052】
【表6】

【0053】
なお、表中に記載した主な商品名、材料は以下の通りである。
・cis−1,4−ポリブタジエン:BR730(Nd系触媒,ML1+4100℃「55
」)JSR社製
・cis−1,4−ポリブタジエン:BR01(Ni系触媒,ML1+4100℃「43」
)JSR社製
・アクリル酸亜鉛:日本蒸溜工業株式会社製
・酸化亜鉛:堺化学社製
・2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール):大内新興化学社

・有機過酸化物1:ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」:日本油脂株式会
社製
・有機過酸化物2:1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、商品名「パー
ヘキサC−40」:日本油脂株式会社製
・含浸液として用いた「アクリル酸」は株式会社日本触媒製、「メタクリル酸グリシジル
」は三菱レイヨン株式会社製である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材ゴム,金属酸化物及び有機過酸化物等のゴム及びその配合材を含有したゴム組成物を、1層又は2層以上からなる球状体に架橋成形して得られるゴルフボール用ゴム架橋成形物において、上記架橋成形物に、アクリル酸,メタクリル酸,及びこれらのアルキルエステル,アミノ基含有エステル,脂環含有エステル,芳香環含有エステル,ビニル基含有エステル,カルボン酸含有エステルの群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを、0〜40℃/5〜200時間の条件で含浸させて、下記の(i),(ii)
(i)モノマーとゴム及び/又はその配合材との化学反応
(ii)モノマー自体の化学反応
のいずれかの化学反応または両方の化学反応を起こさせてなり、上記モノマーが上記架橋成形物の表面から内部に含浸する深さが0.3mm以上であり、かつ含浸後の表面硬度が含浸前よりもJIS−C硬度で7.4〜63.3高いことを特徴とするゴルフボール用ゴム架橋成形物。
【請求項2】
上記架橋成形物が、ワンピースゴルフボール又はカバーで直接若しくは中間層を介して被覆した多層構造ソリッドゴルフボールのソリッドコアである請求項1記載のゴルフボール用ゴム架橋成形物。

【公開番号】特開2012−90995(P2012−90995A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−265554(P2011−265554)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【分割の表示】特願2006−157251(P2006−157251)の分割
【原出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】