説明

ショウガの種類の判別方法

【課題】本発明は、たとえ乾燥粉末となった状態でも、ショウガの種類を判別できる方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該方法で用いることができるプライマーセットを提供することも目的とする。
【解決手段】本発明に係るショウガの種類の判別方法は、試料からショウガの全DNAを得る工程;得られた全DNAを鋳型とし、ショウガレトロトランスポゾンの両方の末端部配列の相同DNAまたは当該末端部配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAをプライマーセットとするPCR反応を行う工程;および、PCR反応液を電気泳動により解析する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウガの種類を判別するための方法と、当該方法で用いることができるプライマーセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショウガは古来より香辛料や食材として用いられている他、発汗作用や健胃作用を有するものとして、風邪の初期症状の緩和や胃腸機能の回復のための生薬としても利用されてきた。実際、ショウガに含まれるジンゲロールやショウガオールなどは血行促進作用や抗菌作用を示すことが知られている。
【0003】
しかし、ショウガには様々な種類があり、上記の薬効などが同一であるとは限らない。例えば、ショウガはその塊茎の大きさにより大ショウガ、中ショウガ、小ショウガに分類され、一般に市販されているもののほとんどは大ショウガであるが、ジンゲロールなどの含有量は小ショウガなどに比べて低い。近年、国内では収量が多く生産効率の良い大ショウガが主に生産されており、労働に対して収量の少ない小ショウガは、ジンゲロールなどの有効成分は多いもののほとんど生産されていない。
【0004】
また、本発明者は、種類の違いによるショウガの薬効の違いに着目し、研究を行ってきた。例えば特許文献1のとおり、小ショウガに属し、現在の日本ではほとんど栽培されていない金時ショウガが、他のショウガに比べて体温上昇効果に極めて優れることを見出した。かかる研究結果などに基づいて、本発明者は、金時ショウガを用いた健康食品の商品化に協力している。
【0005】
しかし、ショウガを健康食品自体やその成分とする場合には、乾燥粉末とするのが一般的であるところ、収穫したばかりのショウガであればいざしらず、乾燥粉末の状態では、その外観からはいかなる種類のショウガが原料として用いられているか判別できない。よって、安価ではあるが薬効に乏しい大ショウガが原料として用いられていたり或いは混合されているなど、品質の低いショウガ健康食品が出回っていることに本発明者は心を痛めていた。実際、小ショウガの国内生産量と輸入量の合計に対して、健康食品に含まれているショウガの使用量は明らかに上回っており、かなりの量の大ショウガが健康食品の原料として用いられているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3462839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、古来よりショウガには様々な効能が知られていたが、現在流通しているショウガ健康食品には、薬効の低い大ショウガが使われている場合がある。このような健康食品は、薬効に劣るといえる。しかし、乾燥粉末となったショウガは、外観でその種類を特定するのは難しい。
【0008】
そこで本発明の目的は、たとえ乾燥粉末となった状態でも、ショウガの種類を判別できる方法を提供することにある。また、本発明は、当該方法で用いることができるプライマーセットを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、ゲノム解析によりショウガの種類を判別することを考えた。ところが、ショウガゲノムの塩基配列に関する情報はほとんど無く、唯一、ショウガゲノム中に普遍的且つ繰り返し認められるレトロトランスポゾンの塩基配列が知られているのみである。かかる状況下、本発明者は、レトロトランスポゾンに挟まれる領域のサイズがショウガの種類により異なり、その情報からショウガの種類を判別できることを見出して、本発明を完成した。
【0010】
本発明に係るショウガの種類の判別方法は、試料からショウガの全DNAを得る工程;得られた全DNAを鋳型とし、ショウガレトロトランスポゾンの両方の末端部配列の相同DNAまたは当該末端部配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAをプライマーセットとするPCR反応を行う工程;および、PCR反応液を電気泳動により解析する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明方法によれば、電気泳動による解析工程において、180bp以上、200bp以下にバンドが見られず、150bp以上、170bp以下にバンドが見られる場合、試料に含まれるショウガを大ショウガであると判断することができる。
【0012】
本発明方法では、さらに、ショウガの全DNAを制限酵素により処理する工程を行うことが好ましい。制限酵素を用いることによって、ショウガの種類をより高精度で判別することが可能になる。
【0013】
例えば、制限酵素としてHhaIとXspIを用い、且つ、電気泳動による解析工程において、400bp以上、500bp以下に2本のバンドが見られる場合、試料に含まれるショウガを白金時ショウガであると判断し、1本のバンドのみが見られる場合、試料に含まれるショウガを金時ショウガであると判断できる。
【0014】
また、制限酵素としてHhaIとXspIを用い、且つ、電気泳動による解析工程において、1900bp以上、2100bp以下に2本のバンドが見られる場合、試料に含まれるショウガを白金時ショウガであると判断し、1本のバンドのみが見られる場合、試料に含まれるショウガを金時ショウガであると判断できる。
【0015】
本発明方法で用い得るプライマーセットとしては、配列番号2のDNAの相同DNAまたは配列番号2のDNAの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、および配列番号3のDNAの相同DNAまたは配列番号3のDNAの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAのセットがある。
【発明の効果】
【0016】
ショウガを有効成分として含む健康食品では、通常、ショウガは乾燥粉末の形で配合されている。生薬として用いられる場合も、一般的に、ショウガは塊茎をそのまま或いは蒸した上で乾燥され、粉末化されている。このような状態では、用いられているショウガの種類を外観から判断することは不可能である。よって、これらの品質を評価するには、従来は動物実験などに頼らざるを得ず、非常に手間や費用がかかっていた。その一方で、ショウガはその種類により薬効が異なるため、ショウガの種類の判別は重要である。
【0017】
本発明によれば、たとえ試料が乾燥粉末の状態であっても、それに含まれているショウガの種類を簡便に特定することができる。従って本発明は、ショウガ健康食品や、ショウガ生薬である生姜や乾姜の品質を評価できるものとして、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、各種ショウガの全DNAを制限酵素処理することなく鋳型として本発明に係るPCR反応を行った電気泳動結果である。
【図2】図2は、各種ショウガの全DNAを制限酵素で処理したものを鋳型として本発明に係るPCR反応を行った電気泳動結果である。
【図3】図3は、近縁種である金時ショウガと白金時ショウガの全DNAを制限酵素で処理したものを鋳型として本発明に係るPCR反応を行った電気泳動結果のうち400bp付近である。
【図4】図4は、近縁種である金時ショウガと白金時ショウガの全DNAを制限酵素で処理したものを鋳型として本発明に係るPCR反応を行った電気泳動結果のうち1500bp付近である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明方法を、実施の順番に従って説明する。
【0020】
1. 全DNAの取得工程
ショウガは学名をZingiber officinale Roseといい、主に塊茎の大きさによって、土佐大ショウガ、お多福ショウガ、インドショウガ、近江ショウガなどの大ショウガ;房州ショウガやラクダショウガなどの中ショウガ;金時ショウガ、白金時ショウガ、三州ショウガ、ラオス小ショウガ、谷中ショウガなどの小ショウガに分類される。これらショウガの種類により、主な薬効成分であるジンゲロールやショウガオールなどの含量が異なり、薬効が大きく相違する場合がある。
【0021】
本発明方法によりショウガの種類を判別できる対象試料は、全DNAを含むものであれば特に制限されない。例えば、ショウガの葉、塊茎、根、およびこれらの乾燥物や乾燥粉末などの処理物などを対象試料として挙げることができる。なお、未処理の塊茎であれば大ショウガと小ショウガなどは判別できるが、小ショウガ同士などでは、塊茎などのみを比較しても判別が難しい場合がある。
【0022】
本工程では、試料から全DNAを取得する。その方法としては常法を用いればよい。全DNAの取得方法としては様々なものがあるが、例えば、最も一般的な、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドを用いるCTAB法を行えばよい。
【0023】
2. 制限酵素処理工程
本発明方法では、上記で得られたショウガの全DNAを、任意で制限酵素により処理してもよい。例えば、試料から得られた全DNAに何の処理を行わないまま鋳型とし、後述するPCR反応を行う場合、十分にショウガの種類の判別ができない場合がある。そのような場合には全DNAを制限酵素で処理し、得られたPCR反応液のみの解析結果、或いは当該解析結果と未処理全DNAのPCR反応液の解析結果とを合わせて考慮すれば、より正確にショウガの種類を判別することが可能になり得る。
【0024】
制限酵素の種類は特に制限されないが、例えば、特定種のショウガの試料を用いた予備実験などで適切な結果が得られたものを決定すればよい。例えば、本発明者による実験的知見によれば、制限酵素としてHhaIとXspIを用いると、近縁種である金時ショウガと白金時ショウガとの識別が可能となる。
【0025】
制限酵素による処理の条件は、使用する制限酵素に応じた一般的なものを採用すればよい。
【0026】
3. PCR反応工程
次に、試料から得られたショウガの全DNA、および/または当該全DNAの制限酵素処理物を鋳型として、PCR反応を行なう。かかるPCR反応の条件は一般的なものとすればよいが、本工程では、プライマーとして、ショウガレトロトランスポゾンの末端部配列の相同DNAまたは当該末端部配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAをプライマーとして用いる。
【0027】
「ショウガレトロトランスポゾンの末端部配列」は、配列番号1に示す塩基配列の1〜22および171〜211をいうものとする。
【0028】
「ショウガレトロトランスポゾンの末端部配列の相同DNA」とは、上記ショウガレトロトランスポゾンの末端部配列の全部または一部と同一、または当該末端部配列の全部または一部との相同性が70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上のDNA、より具体的には、常法により測定された相同性が当該範囲にあるものや、当該末端部配列の全部または一部の相補鎖に対して、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAをいうものとする。但し、通常のプライマーの長さは15〜40bp程度であることから、当該DNAの長さは15bp以上とする。
【0029】
なお、本発明において「ストリンジェントな条件」とは、ショウガレトロトランスポゾンの末端部配列の全部または一部の相補鎖を固定化したフィルタを使用し、0.7〜1.0M塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(150mM塩化ナトリウムと15mMクエン酸ナトリウムを含む)を使用し、65℃の条件下でフィルタを洗浄することをいうものとする。
【0030】
また、「ショウガレトロトランスポゾンの末端部配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA」とは、当該末端部配列と、上述したストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAをいう。
【0031】
4. 解析工程
次に、上記PCR反応後の反応液を、電気泳動により解析する。
【0032】
電気泳動は、常法を用いればよい。但し、本発明者による実験的知見によれば、ポリアクリルアミドゲルと銀染色との組み合わせで良好な結果が得られているので、かかる組み合わせを用いることが好ましい。
【0033】
本工程から、電気泳動の結果より、試料に含まれるショウガの種類を特定する。電気泳動の結果とショウガの種類との関係は、予備実験などにより事前に明らかにしておけばよい。
【0034】
例えば、全DNAを制限酵素により処理せずPCRを行い、180bp以上、200bp以下にバンドが見られず、150bp以上、170bp以下にバンドが見られる場合には、試料に含まれるショウガが大ショウガであると判断することができる。
【0035】
一方、全DNAを制限酵素により処理せずPCRを行い、180bp以上、200bp以下と、150bp以上、170bp以下との両方にバンドが見られる場合には、三州ショウガまたはラオス小ショウガであり、両方にバンドが見られない場合には、金時ショウガまたは白金時ショウガであると判断できる。
【0036】
また、1300bp以上、1500bp以下と、1900bp以上、2100以下との両方にバンドが見られない場合には、三州ショウガであると判断することができる。
【0037】
全DNAをHhaIとXspIで処理した上でPCRを行い、400bp以上、500bp以下に2本のバンドが見られる場合、および/または1900bp以上、2100bp以下に2本のバンドが見られる場合、試料に含まれるショウガを白金時ショウガであると判断し、前記領域に1本のバンドのみが見られる場合、試料に含まれるショウガを金時ショウガであると判断することができる。
【0038】
また、全DNAをHhaIとXspIで処理した上でPCRを行い、550bp以上、650bp以下にバンドが見られない場合には金時ショウガであると判断でき、見られる場合には、三州ショウガ、土佐大ショウガ、お多福ショウガ、ラオス小ショウガまたは白金時ショウガである可能性が高い。
【0039】
さらに、85bp以上、95bp以下にバンドが見られる場合、および160bp以上、180bp以下にバンドが見られない場合は、三州ショウガであると判断できる。
【0040】
今後、さらに実験データが蓄積すれば、より多くの種類のショウガをより高精度で判別できるようになると予想できる。そのようなデータの蓄積は、当業者であれば当然に実施可能である。
【0041】
以上で説明した本発明方法によれば、たとえ乾燥粉末試料であっても、それに含まれるショウガの種類を判別することができ、動物実験などを行わなくとも、ショウガを含む健康食品などの製品の品質を評価することが可能になる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0043】
実施例1
(1) 全DNAの抽出
小ショウガである金時ショウガ、白金時ショウガ、三州ショウガとラオス小ショウガ、並びに大ショウガである土佐大ショウガとお多福ショウガのそれぞれの葉(約1g)を液体窒素に加え、破砕した。別途、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドを1.5w/v%、Tris−HCl(pH8)を75mM、EDTAを15mM、塩化ナトリウムを1.05M含む溶液(以下、「1.5×CTAB液」という)と、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドを1.0w/v%、Tris−HCl(pH8)を50mM、EDTAを10mM含む溶液(以下、「沈殿バッファ」という)を調製した。チューブに破砕した各葉を移し、1.5×CTAB液(0.7mL)を加え、55℃で30分間処理した。さらにクロロホルム(0.5mL)を加えて混和した後、15000rpm、室温で30分間遠心分離した。水層を別のチューブに移し、クロロホルム(0.5mL)を加え、15000rpm、室温で10分間遠心分離した。水層を別のチューブに移し、沈殿バッファ(0.5mL)を加え、55℃で30分間処理した後、15000rpm、室温で30分間遠心分離した。上清を除いた後、1M塩化ナトリウム/TE(塩化ナトリウム、Tris−HCl(pH8)とEDTAの混液)と10mg/mL RNaseA(0.4mL)を加え、55℃で2時間以上反応させることにより沈殿を溶解した。イソプロパノール(0.8mL)を加えて混和した後、生じた不溶成分を、15000rpm、室温で30分間遠心分離した。得られた不溶成分を70%エタノール(0.5mL)で洗浄した後、Tris−HCl(pH8)とEDTAの混液で溶解した。
【0044】
(2) PCR反応1
ショウガゲノムの塩基配列に関する情報はほとんど無く、唯一、いずれのショウガゲノムに複数含まれる反復配列であるレトロトランスポゾン領域の塩基配列のみが公表されている。本発明者らは、レトロトランスポゾン領域に挟まれる領域のサイズがショウガの種類により異なるのではないかと考え、実験を行った。
【0045】
先ず、特に性質が類似している金時ショウガと白金時ショウガの全DNAを試料とし、公知のショウガレトロトランスポゾンの両末端付近の塩基配列、具体的には配列番号1の塩基配列中、1〜22および187〜211の配列を有するポリヌクレオチドを合成してプライマーとし、PCR反応を行った。PCR反応の条件は、95℃で7分間反応させた後、95℃で1分間、52℃で1分間、72℃で1分間のサイクルを35回繰り返し、最後に72℃で5分間反応させるものとした。
【0046】
得られたPCR産物を電気泳動により解析したところ、200bp付近に極めて強く発色するバンドが認められた。金時ショウガと白金時ショウガの両方において、当該200bp付近のバンドの塩基配列を決定したところ、全く同一であった。当該塩基配列を、配列番号1として示す。なお、配列番号1中、1〜22と171〜211の配列は、それぞれレトロトランスポゾンの末端配列である。
【0047】
(3) 制限酵素処理
上記実施例1(2)のとおり、特に性質が類似している金時ショウガと白金時ショウガでは、レトロトランスポゾンに挟まれている200bp付近の塩基配列は全く同一であったが、他のショウガでは異なる可能性があると考え、当該塩基配列を選択的に切断できる制限酵素であるHhaIとXspIを用い、上記実施例1(1)で得た各ショウガの全DNAを切断した。HhaIは、GCGC配列を認識して粘着末端状に切断し、XspIは、CTAG配列を認識して切断する。
【0048】
具体的には、先ず上記実施例1(1)の各全ショウガDNA溶液(0.16ng)へHhaI(Takara社製,2〜6unit)を加え、37℃で16時間反応させた。続いてXspI(Takara社製,2〜6unit)を加え、37℃で6時間反応させた。
【0049】
(4) PCR反応2
上記実施例1(1)で得た各ショウガの全DNA、または上記実施例1(3)で得たその制限酵素処理物を鋳型とし、上記実施例1(2)に示す条件でPCR反応を行った。
【0050】
(5) 電気泳動による分析
上記実施例1(4)のPCR反応後の反応液(各10μL)を4%ポリアクリルアミドゲルにアプライし、電気泳動を行った。電気泳動後のゲルを銀染色した。制限酵素による処理を行わなかった場合のゲルを図1に、制限酵素処理を行った場合のゲルを図2に示す。
【0051】
図1のとおり、制限酵素処理を行わない場合、三州ショウガとラオス小ショウガのゲノム中には、約190bpと約160bpの両方のバンドが見られたのに対し、土佐大ショウガとお多福ショウガでは約160bpのバンドのみが見られ、金時ショウガと白金時ショウガではこの近辺にバンドは見られなかった。また、土佐大ショウガ、お多福ショウガ、ラオス小ショウガ、金時ショウガおよび白金時ショウガでは約1400bpと約2000bpの両方のバンドが見られたのに対し、三州ショウガではこの近辺にバンドは見られなかった。以上の結果より、以下のショウガまたはショウガ群を区別することができる。
・ 三州ショウガ
・ 土佐大ショウガ − お多福ショウガ
・ ラオス小ショウガ
・ 金時ショウガ − 白金時ショウガ
【0052】
また、以上の結果により、約160bpにバンドを有する一方で約190bpにはバンドを有さないものは、大ショウガであることが予測される。
【0053】
さらに、図2のとおり、HhaIとXspIでゲノムを選択的に切断した場合、三州ショウガ、土佐大ショウガ、お多福ショウガ、ラオス小ショウガおよび白金時ショウガでは約620bpのバンドが見られるのに対して、金時ショウガではこの近辺のバンドは見られない。
【0054】
よって、制限酵素HhaIおよびXspIを用いる場合の結果により、さらに金時ショウガと白金時ショウガを区別することができる。
【0055】
また、約90bpにバンドが見られる場合、および約170bpにバンドが見られない場合は、三州ショウガであると判断できる。
【0056】
なお、上記の実験では、ショウガの生葉から全DNAを得たが、全DNAは乾燥粉末からも取得できるので、同様の結果が乾燥粉末試料からでも得られると考えられる。
【0057】
実施例2
上記実施例において、金時ショウガと白金時ショウガをより明確に区別するために、金時ショウガと白金時ショウガの全DNAを用い、HhaIによる反応を37℃で15時間、XspIによる反応を37℃で5時間に変更した以外は同様にして、上記実施例1と同様に実験を行った、400〜500bp付近の電気泳動ゲルの写真を図3に、1500bp付近の電気泳動ゲルの写真を図4に示す。
【0058】
図3のとおり、白金時ショウガの場合、400〜500bp付近に2本のバンドが見られるのに対して、金時ショウガでは1本のバンドのみが見られる。また、図4のとおり、白金時ショウガの場合、約2000bp付近に2本のバンドが見られるのに対して、金時ショウガでは1本のバンドのみが見られる。
【0059】
よって、400〜500bp付近と約2000bp付近のバンドを比較することにより、近縁種である金時ショウガと白金時ショウガを区別できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガの種類を判別する方法であって、
試料からショウガの全DNAを得る工程;
得られた全DNAを鋳型とし、ショウガレトロトランスポゾンの両方の末端部配列の相同DNAまたは当該末端部配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAをプライマーセットとするPCR反応を行う工程;
PCR反応液を電気泳動により解析する工程;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
電気泳動による解析工程において、180bp以上、200bp以下にバンドが見られず、150bp以上、170bp以下にバンドが見られる場合、試料に含まれるショウガを大ショウガであると判断する、請求項1に記載のショウガの種類の判別方法。
【請求項3】
さらに、ショウガの全DNAを制限酵素により処理する工程を含む請求項1に記載のショウガの種類の判別方法。
【請求項4】
制限酵素としてHhaIとXspIを用い、且つ、電気泳動による解析工程において、400bp以上、500bp以下に2本のバンドが見られる場合、試料に含まれるショウガを白金時ショウガであると判断し、1本のバンドのみが見られる場合、試料に含まれるショウガを金時ショウガであると判断する、請求項3に記載のショウガの種類の判別方法。
【請求項5】
制限酵素としてHhaIとXspIを用い、且つ、電気泳動による解析工程において、1900bp以上、2100bp以下に2本のバンドが見られる場合、試料に含まれるショウガを白金時ショウガであると判断し、1本のバンドのみが見られる場合、試料に含まれるショウガを金時ショウガであると判断する、請求項3に記載のショウガの種類の判別方法。
【請求項6】
プライマーセットとして、配列番号2のDNAの相同DNAまたは配列番号2のDNAの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、および配列番号3のDNAの相同DNAまたは配列番号3のDNAの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを用いる請求項1〜5のいずれかに記載のショウガの種類の判別方法。
【請求項7】
配列番号2のDNAの相同DNAまたは配列番号2のDNAの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、および配列番号3のDNAの相同DNAまたは配列番号3のDNAの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAからなるプライマーセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−103828(P2011−103828A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264033(P2009−264033)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(598092270)有限会社 坂本薬草園 (11)
【出願人】(599000212)香栄興業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】