説明

シリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法

【課題】複雑な手順や準備を必要せずに、従来の分析方法と比較して高感度に、安定的にシリコン化合物ガス中の不純物であるシロキサン濃度を分析することが可能な分析方法を提供する。
【解決手段】分子構造中にSi−H結合を有するシリコン化合物ガス中の不純物の濃度を、ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)を用いて分析する際に、パックドカラムとキャピラリーカラムとを組合せた分離カラムを用いることを特徴とするシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素化ケイ素ガス、水素化ケイ素のハロゲン化物ガス及び有機水素化ケイ素化合物ガスなどに代表されるシリコン化合物ガスは、シリコン半導体、液晶TFT、太陽電池など電子デバイスの原料として大量に使用されている。これらの用途において、シリコン化合物ガス中に、含酸素化合物が存在すると、製造される半導体や太陽電池に悪影響を及ぼす要因となることが知られている。
【0003】
ところで、シリコン化合物ガス中のシロキサン成分の分析方法として、いくつかの方法が知られている。分析方法の一つとして、先ず、ガスクロマトグラフ−熱伝導度型検出器(GC−TCD)を用いた分析方法が知られている。しかしながら、GC−TCDの検出下限値は概ね1ppm程度であり、それ以下の極低濃度を分析するためには適していないという問題があった。
【0004】
そこで、GC−TCDを用いた分析方法よりも高感度な分析が可能な、質量分析計(MS)を用いた分析方法が知られている(特許文献1を参照)。この特許文献1には、シロキサンを冷却によって捕集管に捕集し、加熱によって脱着して質量分析計に導いて分析する方法が開示されている。この方法では、捕集量を適宜増やすことによって感度を上げることができるため、極めて低い濃度のシロキサンも分析可能となる。
【0005】
しかしながら、質量分析計を用いた分析方法では、冷却捕集の操作の際に−15℃から−144℃の冷熱が必要であり、そのためにフロンやそれに類似する性能をもつ冷媒、もしくは液体窒素、ドライアイス等を利用しなくてはならず、分析準備に手間がかかるという問題があった。
【0006】
一方、特許文献2には、大気圧イオン化質量分析計(APIMS)を用いた、モノシラン、水素、シロキサン及びシロキサンイオンから生成するクラスターイオンの分析方法が開示されている。しかしながら、APIMSは質量分析計の中でも特殊な仕様の装置であり、高価で取り扱いや結果の解析が難しいという問題があった。
【0007】
さらに、シリコン化合物ガス中のシロキサン成分の分析方法として、ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)を用いた分析方法も知られているが、分析のためにはいくつかの欠点が予想される。先ず、GC−MSの分離カラムとしてキャピラリーカラムのみを使用する場合、キャピラリーカラムの内面は、反応性が高いシリコン化合物ガスによって侵されてしまうという欠点がある。
【0008】
次に、GC−MSの分離カラムとしてパックドカラムのみを使用する場合、ガスクロマトグラフ(GC)と質量分析計(MS)とのインターフェースには、サンプルを濃縮してMSの真空度を保つためにジェットセパレータを用いる。しかしながら、このジェットセパレータはガラス製であって、高温にして使用する上に微細な構造であり、デットボリュームも大きい。このため、ライン中で発生する珪素酸化物で汚染されやすく、バックグラウンドの安定化が阻害されてしまうという欠点がある。また、汚染された後は、パーツ自体を交換しない限り清浄化することが困難であるという欠点がある。よって、パックドカラムのみを用いる分析方法では、安定して分析を実施することが難しいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3608183号公報
【特許文献2】特開平8−261989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複雑な手順や準備を必要せずに、従来の分析方法と比較して高感度に、安定的にシリコン化合物ガス中の不純物であるシロキサン濃度を分析することが可能な分析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、分子構造中にSi−H結合を有するシリコン化合物ガス中の不純物の濃度を、ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)を用いて分析する方法であって、
GC−MSで分析する際に、パックドカラムとキャピラリーカラムとを組合せた分離カラムを用いることを特徴とするシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記パックドカラムによってシリコン化合物ガスを分離、除去することを特徴とする請求項1に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記シリコン化合物ガスを含む試料ガスを、前記パックドカラム、前記キャピラリーカラムの順に導入するとともに、
前記キャピラリーカラムにおける前記試料ガスの流量を制御して、前記バックドカラム中の前記試料ガスの流量及び質量分析計の真空度を維持することを特徴する請求項1又は2に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記不純物が、分子構造中にシロキサン結合(Si−O−Si)を有するシロキサンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記キャピラリーカラムは、シロキサンポリマーを含まない固定相を有するキャピラリーカラム又は多孔質層型のキャピラリーカラムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記キャピラリーカラムは、多孔質ポリマーの層を形成した多孔質層型キャピラリーカラムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、前記キャピラリーカラムにかけるガスの圧力は、5kPa以上80kPa以下とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記キャピラリーカラムにかけるガスの圧力は、5kPa以上40kPa以下とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0019】
請求項9に記載の発明は、前記質量分析計(MS)のイオン化エネルギーは、20eV以上40eV以下とすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、前記質量分析計(MS)のイオン化エネルギーは、30eVとすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分子構造中にSi−H結合を有するシリコン化合物ガス中の不純物の濃度を、ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)を用いて分析する際に、パックドカラムとキャピラリーカラムとを組み合わせた分離カラムを用いる構成とする。そのため、パックドカラムでシリコン化合物ガスを分離し除去できるのでキャピラリーカラムを劣化することなく使用することができる。また、キャピラリーカラムを使用できるのでジェットセパレータがなくてもイオン源の真空度を保ちながらサンプルガスをMSに導入することができる。そのため、感度や安定性が高いガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)を用いてシリコン化合物ガス中の不純物であるシロキサン濃度を分析することができる。したがって、分析において、複雑な手順や準備を必要せずに、従来の分析方法と比較して高感度に、安定的にシリコン化合物ガス中の不純物であるシロキサン濃度を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用した一実施形態であるシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法に用いる分析装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2の結果を示す図であって、キャピラリーカラムにかけるガス圧力とジシロキサンの検出下限値との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例3の結果を示す図であって、イオン化エネルギーとジシロキサンの検出下限値との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例3の結果を示す図であって、ジシロキサンの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した一実施形態であるシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法(以下、単に「分析方法」という)について、これに用いる分析装置とともに図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0024】
本実施形態の試料ガスとしては、シリコン化合物ガスが対象となり、この試料ガス中に含まれている不純物として含酸素化合物のひとつであるシロキサンを分析対象とするものである。
なお、シリコン化合物ガスとは、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)といった化学式Si(2x+2)(x=1,2,3,4)で表記される水素化ケイ素ガス、SiHCl、SiHCl、SiCl、SiFといった水素化ケイ素のハロゲン化物ガス、SiHCH、SiHといった化学式(CHSiH(4−x)(x=1,2,3)及び化学式(CSiH(4−x)(x=1,2,3)で表記される有機水素化ケイ素化合物ガスなどである。
また、シロキサンとは、化学式(SiH)O(SiH)、(SiH)O(SiH)O(SiH)といった分子構造中にシロキサン結合(Si−O−Si)を有する鎖状又は環状構造の化合物である。
【0025】
図1は、本実施形態の分析方法に用いられる分析装置の例を示すものである。
以下の説明は、分析対象物としてモノシラン(SiH)中のジシロキサン[(SiH)O(SiH)]の例である。
図1において、符号1は第1六方弁を示す。この第1六方弁1の第1ポートにはサンプルガスライン2が、第2ポートは計量管3の一端が、第3ポートにはガスクロマトグラフ8中の第1カラム8Aを経由して第2六方弁4の第1ポートに連通する管5が、第4ポートにはキャリアガスライン6の分岐ライン6aが、第5ポートは計量管3の他端が、第6ポートは排気ライン7が接続されている。
【0026】
また、第2六方弁4の第2ポートにはガスクロマトグラフ8中の第2カラム8Bを経由して質量分析計9に連通する管10が、第3ポートには第5ポートと連通する管11の一端が、第4ポートにはガスクロマトグラフ8の第3カラム8Cを経由するキャリアガスライン6の分岐ライン6bが、第5ポートは管11の他端が、第6ポートは排気ライン12が接続されている。なお、管10には、減圧弁13、圧力計14及び質量流量制御器15が設けられている。また、キャリアガスライン6にはヘリウムなどのキャリアガスが送られる。
【0027】
ガスクロマトグラフ8の第1カラム8Aは、パックドカラムである。この第1カラム8Aによって、試料ガス中からシリコン化合物ガスであるモノシランを分離、除去することができる。
【0028】
また、ガスクロマトグラフ8の第2カラム8Bは、キャピラリーカラムである。この第2カラム8Bがウォールコーテッドオープンチューブラカラムである場合には、シロキサンポリマーを固定相に含まないカラムを用いることが好ましい。これは、シロキサンポリマーの成分がサンプル中の微量シロキサンに影響を及ぼす可能性があるためである。
【0029】
一方、第2カラム8Bがウォールコーテッドオープンチューブラカラム以外である場合には、多孔質層型カラムを用いることが好ましい。特に、キャピラリーカラムの内面に第1カラム8Aで使用するパックドカラム充填剤と同じ性質の多孔質ポリマーの層を形成したカラムを用いることが有用である。
【0030】
第3カラム8Cは、パックドカラムである。この第3カラム8Cは、後述するように第2六方弁4を切り替えたときに、クロマトグラフ上に発生するノイズやショックピークを最小限とするために、キャリアガスライン6の分岐ライン6bに接続されている。また、第3カラム8Cのパックドカラムは、第1カラム8Aに用いるパックドカラムの仕様と同じとする必要がある。
【0031】
第2六方弁4の切り替え前に、第3カラム8Cに、第1カラム8Aと同程度の圧力で同程度の流量のガスを流して分析することで、第2六方弁4の切り替え前後でライン10に設けられている減圧弁13にかかる圧力変動を最小限にすることができる。このように、減圧弁13にかかる圧力変動を最小限にすることで、第2六方弁4を切り替えたときにクロマトグラフ上に発生するノイズやショックピークを最小限にすることができる。
【0032】
ここで、図1に示した第1六方弁1の状態では、第1ポートと第2ポートとが連通し、第3ポートと第4ポートとが連通し、第5ポートと第6ポートとが連通した状態となっている。また、第2六方弁4の状態では、第2ポートと第3ポートとが連通し、第4ポートと第5ポートとが連通し、第6ポートと第1ポートとが連通した状態となっている。
【0033】
この時、キャリアガスライン6の分岐ライン6aからのキャリアガスを、第1六方弁1の第4ポート、第3ポート、管5、ガスクロマトグラフ8の第1カラム8A、第2六方弁4の第1ポート、第6ポート及び排気ライン12に流して系外に排出する。同様に、分岐ライン6bからのキャリアガスを、ガスクロマトグラフ8の第3カラム8Cから、さらに第2六方弁4の第4ポート、第5ポート、管11、第3ポート、管10、ガスクロマトグラフ8の第2カラム8B及び質量分析計9に流し、これらの管路やガスクロマトグラフ8及び質量分析計9内部の管路等をパージする。
【0034】
ついで、サンプルガスライン2から試料ガスを所定流量で第1六方弁1に導入し、第1ポート、第2ポート、計量管3、第5ポート、第6ポートを経て、排気ライン7を介して系外に排出する。この時、計量管3には一定量の試料ガスが満たされることになる。
【0035】
この状態で所定時間経過後、第1六方弁1を図中反時計回りに切り替える。
これにより、キャリアガスライン6の分岐ライン6aからのキャリアガスは、第1六方弁1の第4ポート、第5ポート、計量管3、第2ポート、第3ポート、管5を通り、ガスクロマトグラフ8の第1カラム8Aに流れる。そして、このキャリアガスが計量管3を流れる際に、これに満たされていた一定量の試料ガスとキャリアガスとが混合して、この混合ガスがクロマトグラフ8に注入され、ここから第1カラム8Aに送られることになる。
【0036】
第1カラム8Aはパックドカラムであり、ここで混合ガス中のモノシランとジシロキサンとが分離される。そして、先に溶出したモノシランを第2六方弁4に導入し、第1ポート、第6ポート、排気ライン12を介して系外に排出する。
【0037】
モノシランの排出が終了した後、第2六方弁4を図中反時計回りに切り替える。
これにより、ジシロキサンのみを含む混合ガスは、第2六方弁4の第1ポート、第2ポート、管10に流れる。減圧弁13、圧力計14を通過したジシロキサンは、一部が質量流量制御器15を介して系外に排気され、一部がガスクロマトグラフ8に導入される。これにより、ガスクロマトグラフ8の第2カラム(キャピラリーカラム)8Bにおける試料ガスの流量を制御することが可能となり、第1カラム(バックドカラム)8A中の試料ガスの流量及び質量分析計9の真空度を維持しながらガスクロマトグラフ8と質量分析計9とを接続することができる。
【0038】
第2六方弁4の切り替えと同時に、質量分析計9による測定を開始し、キャピラリーカラムである第2カラム8Bでの分離が行われた後、カラム8Bからの流出ガスが質量分析計9に送られて分析が行われることとなる。
【0039】
ここで、キャピラリーカラムである第2カラムにかけるガスの圧力は、ジシロキサンがキャピラリーカラムを通過するときの線速度と質量分析計(MS)9の真空度に影響を与え、検出下限値を左右するパラメータとなる。本実施形態の分析方法によれば、キャピラリーカラムにかけるガスの圧力を、5kPa以上80kPa以下とすることが好ましく、5kPa以上40kPa以下とすることがより好ましい。これにより、ジシロキサンの検出する際の感度をより高くすることが可能となる。
【0040】
また、本実施形態の分析方法によれば、質量分析計(MS)のイオン化エネルギーを、20eV以上40eV以下とすることが好ましく、30eVとすることがより好ましい。これにより、ジシロキサンの検出する際の感度をより高くすることが可能となる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の分析方法によれば、分子構造中にSi−H結合を有するモノシラン中の不純物であるジシロキサンの濃度を、パックドカラムである第1カラム8Aとキャピラリーカラムである第2カラム8Bとを組み合わせた分離カラムを用いる構成とする。そのため、パックドカラムでシリコン化合物ガスを分離し除去できるのでキャピラリーカラムを劣化することなく使用することができる。また、キャピラリーカラムを使用できるのでジェットセパレータがなくてもイオン源の真空度を保ちながらサンプルガスをMSに導入することができる。そのため、感度や安定性が高いガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)を用いてシリコン化合物ガス中の不純物であるシロキサン濃度を分析することができる。したがって、分析において、複雑な手順や準備を必要せずに、従来の分析方法と比較して高感度に、安定的にモノシラン中のジシロキサン濃度を分析することができる。
【0042】
また、第1カラム8Aとして、気密性の良いパックドカラムを用いて、混合ガス中のモノシランを分離するため、キャピラリーカラムのみを用いてジシロキサン濃度を測定する場合と比較して、作業者にとって安全な環境を提供することができる。
【0043】
さらに、本実施形態の分析方法によれば、ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)と、本実施形態の分析装置に示すような適切な流路とを利用し、ガスクロマトグラフ(GC)および質量分析計(MS)のイオン化条件を最適な範囲内に設定することで、モノシラン中のジシロキサン濃度を検出下限値10ppbの感度で分析可能となり、極低濃度の分析にも適応することができる。
【0044】
以下に具体例を示す。
(実施例1)
下記表1に示す条件で、モノシラン中のシロキサン濃度を測定した。この測定では一例として、常温で気体でありモノシランが消費される装置まで到達する可能性が最も高いジシロキサンに焦点を合わせて測定を行った。
【0045】
【表1】

【0046】
ここで、モノシラン中のジシロキサン濃度は、技術文献(12年委員会編,UCS12年―半導体産業の発展とUCS12年の成果,p.1219−1241,半導体基盤技術研究会(2000).)に記載された方法を用いて定量し、流量混合によってジシロキサンを濃度400ppbに調整した後に測定を実施した。また、計量管3(図1を参照)へのサンプルガスの流量は、100ml/minとした。なお、測定は、モノシランのフラグメントイオンであるm/z=31と、ジシロキサンのフラグメントイオンであるm/z=77をそれぞれ観察した。測定結果を図2に示す。
【0047】
図2中の上図に示すように、モノシラン(m/z=31)は全く検出されていないこと、及び図2中の下図に示すように、ジシロキサン(m/z=77)が検出されていることが確認された。これは、図1に示す分析装置が、パックドカラム(第1カラム8A)とキャピラリーカラム(第2カラム8B)とを組み合わせており、パックドカラムにおいてモノシランをカットしたため、モノシランによってキャピラリーカラムを侵すことなくジシロキサンを検出できたことを示している。
【0048】
なお、ジシロキサンの検出下限値は、図2に示すように、シグナルノイズ比3としてピーク高さとノイズ幅とから計算すると300ppbであった。
【0049】
(実施例2)
サンプル濃縮の効果があるジェットセパレータを除去したラインを用いて、高感度化を目指すために種々のパラメータを検討した。特に、図1に示す分析装置の減圧弁13によって調整されるキャピラリーカラム(第2カラム8B)にかけるガスの圧力は、ジシロキサンがキャピラリーカラムを通過するときの線速度と質量分析計(MS)の真空度とに影響を与え、検出下限値を左右するパラメータとなる。そこで、上記実施例1において、キャピラリーカラムにかけるガス圧力を変化させて測定を行い、当該ガス圧力とジシロキサンの検出下限値との関係を検討した。両者の関係を図3に示す。
【0050】
図3に示すように、キャピラリーカラムにかけるガス圧力を5kPa以上80kPa以下とした場合に、ジシロキサンのピークが検出されることを確認した。特に、ガス圧力を5kPa以上40kPa以下とした場合に、検出下限値150ppb以下でモノシラン中のジシロキサン濃度を測定できることを確認した。
【0051】
(実施例3)
次に、上記実施例2において、キャピラリーカラムにかけるガスの圧力を30kPaと設定して、質量分析計9(図1を参照)におけるイオン化エネルギーの影響を検討した。ここで、イオン化エネルギーは、ジシロキサンから発生するm/z=77のイオンの発生量に影響し、イオン化効率を考慮して一定以上の値とすることで発生するイオンの量が最大となる。しかし、イオン化エネルギーを大きく設定しすぎると、ノイズが大きくなり検出下限値は低下する。そこで、イオン化エネルギーを変化させて測定を行い、イオン化エネルギーとジシロキサンの検出下限値との関係を検討した。両者の関係を図4に示す。
【0052】
図4に示すように、質量分析計におけるイオン化エネルギーは、20eV以上40eV以下とすることで、モノシラン中のジシロキサンの検出下限値が100ppb以下となることを確認した。特に、イオン化エネルギーの値を30eVとしたときが最も優れた結果となった。このときの測定結果を図5に示す。なお、m/z=77はジシロキサンのフラグメントイオンを示している。
【0053】
図5に示すように、シグナルノイズ比(S/N比)を3としてピーク高さとノイズ幅とから本測定における検出下限値を計算すると、検出下限値が10ppbであることを確認した。
【符号の説明】
【0054】
1・・・第1六方弁
2・・・サンプルガスライン
3・・・計量管
4・・・第2六方弁
5,10,11・・・管
6・・・キャリアガスライン
6a,6b・・・分岐ライン
7,12・・・排気ライン
8・・・ガスクロマトグラフ
8A・・・第1カラム(パックドカラム)
8B・・・第2カラム(キャピラリーカラム)
8C・・・第3カラム
9・・・質量分析計
13・・・減圧弁
14・・・圧力計
15・・・質量流量制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中にSi−H結合を有するシリコン化合物ガス中の不純物の濃度を、ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)を用いて分析する方法であって、
GC−MSで分析する際に、パックドカラムとキャピラリーカラムとを組合せた分離カラムを用いることを特徴とするシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項2】
前記パックドカラムによってシリコン化合物ガスを分離、除去することを特徴とする請求項1に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項3】
前記シリコン化合物ガスを含む試料ガスを、前記パックドカラム、前記キャピラリーカラムの順に導入するとともに、
前記キャピラリーカラムにおける前記試料ガスの流量を制御して、前記バックドカラム中の前記試料ガスの流量及び質量分析計の真空度を維持することを特徴する請求項1又は2に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項4】
前記不純物が、分子構造中にシロキサン結合(Si−O−Si)を有するシロキサンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項5】
前記キャピラリーカラムは、シロキサンポリマーを含まない固定相を有するキャピラリーカラム又は多孔質層型のキャピラリーカラムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項6】
前記キャピラリーカラムは、多孔質ポリマーの層を形成した多孔質層型キャピラリーカラムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項7】
前記キャピラリーカラムにかけるガスの圧力は、5kPa以上80kPa以下とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項8】
前記キャピラリーカラムにかけるガスの圧力は、5kPa以上40kPa以下とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項9】
前記質量分析計(MS)のイオン化エネルギーは、20eV以上40eV以下とすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。
【請求項10】
前記質量分析計(MS)のイオン化エネルギーは、30eVとすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシリコン化合物ガス中の不純物濃度の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−61172(P2013−61172A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198319(P2011−198319)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】