説明

シリコーンゴム表面への金属固定方法

【課題】 シリコーンゴムの表面への無電解めっきの前工程を簡便とし、あるいは、無電解めっきを介さずに直接電解めっきによりシリコーンゴムの表面への導電性付与を可能とするためのシリコーンゴム表面への金属の固定方法を提供する。
【解決手段】 ケイ素を含有させたシリコーンゴムの表面を、チオール基あるいはポリスルフィド基を含有するシランカップリング剤で処理した後、あるいは、シリコーンゴムの表面をシランカップリング剤で処理し、次いで、シラン化合物により処理し、その後、チオール基あるいはポリスルフィド基を含有するシランカップリング剤で処理した後、金属化合物を接触させ、この金属化合物を構成する金属が還元されて生成した金属粒子を固定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非導電性であるシリコーンゴムへの無電解めっき、あるいは、電解めっきを可能とするためにシリコーンゴムの表面に金属を固定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品または半導体集積回路等の半導体関連分野においては、クッション性と導電性とを同時に必要とされる部品がある。優れたクッション性を有する材料としてゴム材料があるが、ゴム材料は非導電性であり、また、導電ゴムであっても金属と同等の導電性を得ることはできないため、そのままでは半導体部品等に使用することは困難であった。一方、ゴムに金属めっきを施すことにより導電性を付与することが行われており、例えば、ゴム表面に湿気硬化性樹脂を付与し、これを乾燥してプライマー層とした後、このプライマー層に無電解めっき用の触媒金属を付与し、その後、無電解めっき、電解めっきを行う方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−107255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、電解めっきの前工程として無電解めっきが必要であり、また、この無電解めっきの前工程としてプライマー層形成と触媒金属付与の工程が必要であり、工程数が多く作製時間が長くなり、製造コストの増大を来すという問題があった。
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、シリコーンゴムの表面への無電解めっきの前工程を簡便とし、あるいは、無電解めっきを介さずに直接電解めっきによりシリコーンゴムの表面への導電性付与を可能とするためのシリコーンゴム表面への金属の固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために、本発明は、シリコーンゴムにケイ素を含有させ、該シリコーンゴムの表面を下記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示されるシランカップリング剤で処理し、その後、金属化合物を接触させて該金属化合物を構成する金属が還元されて生成した金属粒子を固定するような構成とした。
3-mMemSi−R−Y … 化学構造式(1)
(m=0,1、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基、Yはチオール(メルカプト)基)
3-mMemSi−R−Sn−R−SiMem3-m … 化学構造式(2)
(m=0,1、n=2〜8の整数、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基)
【0006】
本発明の他の態様として、シリコーンゴムに含有させるケイ素量は、二酸化ケイ素換算でシリコーンゴム100重量部に対して0.5〜100重量部の範囲となるようにケイ素を含有させるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記シランカップリング剤で処理する前に、シリコーンゴムの表面をシラン化合物で処理するような構成とした。
【0007】
また、本発明は、シリコーンゴムの表面をシランカップリング剤で処理し、次いで、シラン化合物により処理し、その後、下記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示されるシランカップリング剤で処理した後、金属化合物を接触させて該金属化合物を構成する金属が還元されて生成した金属粒子を固定するような構成とした。
3-mMemSi−R−Y … 化学構造式(1)
(m=0,1、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基、Yはチオール(メルカプト)基)
3-mMemSi−R−Sn−R−SiMem3-m … 化学構造式(2)
(m=0,1、n=2〜8の整数、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基)
【0008】
本発明の他の態様として、前記金属化合物を構成する金属は、金またはパラジウムであるような構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ケイ素を含有させたシリコーンゴムの表面を、チオール基あるいはポリスルフィド基を含有するシランカップリング剤で処理した後、金属化合物を接触させて、あるいは、シリコーンゴムの表面をシランカップリング剤で処理し、次いで、シラン化合物により処理し、チオール基あるいはポリスルフィド基を含有するシランカップリング剤で処理した後、金属化合物を接触させて、この金属化合物を構成する金属が還元されて生成した金属粒子を固定するので、例えば、固定する金属を無電解めっきの触媒金属とすることにより、直ちに無電解めっき工程に移行することができ、無電解めっきの前工程としてプライマー層形成と触媒金属付与の工程が必要であった従来のシリコーンゴムへの導電性付与方法に比べて工程が簡便なものとなり、さらに、シランカップリング剤による処理を調整して固定する金属量を多くすることにより、無電解めっきを介することなく、直接電解めっき工程に移行することができ、従来のシリコーンゴムへの金属めっき方法に比べて工程が格段に簡便なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】シリコーンゴムへのシランカップリング剤による従来の処理を説明するための図である。
【図2】本発明におけるシリコーンゴムへのシランカップリング剤による処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
本発明では、シリコーンゴムにケイ素を含有させ、このシリコーンゴムの表面をシランカップリング剤で処理し、その後、金属化合物を接触させ、この金属化合物を構成する金属が還元されて生成した金属粒子を固定するものである。シランカップリング剤によるシリコーンゴムの表面処理は、例えば、シランカップリング剤への浸漬、あるいは、シランカップリング剤の塗布、噴霧等により行うことができる。また、金属化合物の接触は、金属化合物の溶液にシリコーンゴムを浸漬したり、金属化合物の溶液を塗布、噴霧することにより行うことができる。
【0012】
使用するシランカップリング剤は、下記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示されるものである。
3-mMemSi−R−Y … 化学構造式(1)
(m=0,1、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基、Yはチオール(メルカプト)基)
3-mMemSi−R−Sn−R−SiMem3-m … 化学構造式(2)
(m=0,1、n=2〜8の整数、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基)
【0013】
このようなシランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等を挙げることができる。
チオール(メルカプト)基、あるいは、ポリスルフィド基を含有する上記のシランカップリング剤でシリコーンゴムの表面を処理すると、通常、有機官能性基であるチオール基やポリスルフィド基とシリコーンゴムが反応し、表面に加水分解性基(メトキシ等のアルコキシ基)が出てしまい、金属粒子が結合し難い状態となる。図1はこのようなシリコーンゴムの表面状態を説明するための図であり、有機官能性基としてチオール基を有するシランカップリング剤を用いた場合を示している。しかし、本発明では、予めシリコーンゴムにケイ素を含有させることにより、図2に示されるように、このケイ素とシランカップリング剤の加水分解性基とを反応させ、有機官能性基であるチオール基(あるいは、ポリスルフィド基)を表面に露出させることができる。そして、シランカップリング剤で処理した後、金属化合物を接触させることにより、金属化合物を構成する金属が還元されて微細な金属粒子(平均粒径0.1〜1000nm程度)となり、チオール基、あるいは、ポリスルフィド基に結合して固定される。尚、金属化合物を使用せず、シランカップリング剤による処理面に金属粉末(例えば、平均粒径2〜100μm程度)を金属コロイド等の状態で接触させた場合、金属固定は著しく低下する。
【0014】
シリコーンゴムに含有させるケイ素は、有機ケイ素化合物、あるいは、ケイ素酸化物等の化合物であってよい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤を使用することができ、具体的には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(p−ビニルベンジル)−N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン・塩酸塩40%メタノール溶液、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノシラン等を挙げることができる。また、上記の化学構造式(1)、(2)で示されるシランカップリング剤も使用することができる。
【0015】
シリコーンゴムに含有させるケイ素量は、例えば、二酸化ケイ素換算でシリコーンゴム100重量部に対して0.5〜100重量部の範囲とすることができる。含有させるケイ素量が0.5重量部未満であると、還元された金属粒子と結合するためのチオール基、あるいは、ポリスルフィド基が少なく、金属の固定量が不十分となる。一方、含有させるケイ素量が100重量部を超えると、ゴムとしての機能、性能が著しく低下し、好ましくない。
【0016】
使用する金属化合物は、構成する金属が金あるいはパラジウムである有機金属化合物あるいは無機金属化合物であり、例えば、テトラクロロ金(III)酸三水和物、テトラクロロ金(III)酸四水和物、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物、二シアノ金(I)酸カリウム、テトラクロロ金(III)酸カリウム、テトラクロロ金(III)酸カリウム・n水和物、塩化アリルパラジウム(II)ダイマー、塩化パラジウム(II)アンモニウム、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム、塩化(cis,cis−1,5−シクロオクタンジエン)パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)ナトリウム、酢酸パラジウム(II)、酢酸(ビス(トリフェニルホスフィン))パラジウム(II)、トリフルオロ酢酸パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、水酸化パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、テトラクロロパラジウム(II)酸リチウム・n水和物、パラジウム(II)アセチルアセトナート、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム等を挙げることができる。このような金属化合物は、アルコール、ケトンまたは水を溶媒とした溶液として使用することができ、金属化合物の含有量は、例えば、0.01〜5重量%程度とすることができる。
【0017】
このような本発明は、上記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示されるシランカップリング剤による処理面に、金属化合物を接触させ、還元された微細な金属粒子を固定するものであり、シランカップリング剤による処理面に金属粉末を接触する場合に比べて金属固定の効率が格段に高いものとなる。そして、固定する金属を無電解めっきの触媒金属(例えば、パラジウム)とすることにより、直ちに無電解めっき工程に移行することができるので、無電解めっきの前工程としてプライマー層形成と触媒金属付与の工程が必要であった従来のシリコーンゴムへの導電性付与方法に比べて工程が簡便なものとなる。
【0018】
また、例えば、上記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示されるシランカップリング剤による処理におけるコート量を多くする、浸漬時間を長くする、あるいは、金属化合物の溶液との接触時間を長くする、金属化合物の還元条件を最適化する等の調整を行うことにより、固定する金属量を多くすることができる。これにより、無電解めっきを介することなく、直接電解めっき工程に移行することができ、従来のシリコーンゴムへの金属めっき方法に比べて工程が格段に簡便なものとなる。
【0019】
また、本発明では、ケイ素を含有させたシリコーンゴムの表面を上記のシランカップリング剤で処理する前に、シリコーンゴムの表面をシラン化合物で処理してもよい。これは、シリコーンゴムの表面に存在する水酸基等とシラン化合物とを反応させて、表面に存在するケイ素量を増大させ、固定する金属量を多くすることを目的としたものである。このようなシラン化合物による処理は、シラン化合物の溶液にシリコーンゴムを浸漬したり、シラン化合物の溶液を塗布、噴霧することにより行うことができる。使用するシラン化合物は、例えば、メチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、テトラエトキシシラン等を挙げることができる。
【0020】
[第2の実施形態]
本発明では、シリコーンゴムの表面をシランカップリング剤で処理し、次いで、シラン化合物により処理し、その後、下記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示される所定のシランカップリング剤で処理した後、金属化合物を接触させて、この金属化合物を構成する金属が還元されて生成した金属粒子を固定するものである。
3-mMemSi−R−Y … 化学構造式(1)
(m=0,1、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基、Yはチオール(メルカプト)基)
3-mMemSi−R−Sn−R−SiMem3-m … 化学構造式(2)
(m=0,1、n=2〜8の整数、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基)
【0021】
すなわち、最初のシランカップリング剤の処理によって、有機官能性基とシリコーンゴムを反応させ、表面に加水分解性基(メトキシ等のアルコキシ基)を存在させる。次いで、シラン化合物で処理することにより、シランカップリング剤の加水分解性基側が加水分解してシラノールとなり、これがシラン化合物と反応して、表面にケイ素が存在することになる。その後、上記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示される所定のシランカップリング剤で処理して、シラン化合物のケイ素とシランカップリング剤の加水分解性基とを反応させ、有機官能性基であるチオール基、あるいはポリスルフィド基を表面に露出させる。次いで、上記のように処理が施された面に金属化合物を接触させることにより、金属化合物を構成する金属が還元されて微細な金属粒子(平均粒径0.1〜1000nm程度)となり、チオール基、あるいはポリスルフィド基に結合して固定される。尚、金属化合物を使用せず、シランカップリング剤による処理面に金属粉末(例えば、平均粒径2〜100μm程度)を金属コロイド等の状態で接触させた場合、金属固定は著しく低下する。
【0022】
シランカップリング剤によるシリコーンゴムの表面処理は、例えば、シランカップリング剤への浸漬、シランカップリング剤の塗布、噴霧等により行うことができる。
最初のシランカップリング剤によるシリコーンゴムの表面処理に使用するシランカップリング剤としては、特に制限はなく、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(p−ビニルベンジル)−N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン・塩酸塩40%メタノール溶液、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノシラン等を挙げることができる。また、後工程の処理に使用する上記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示されるシランカップリング剤も使用することができる。
【0023】
また、上記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示される所定のシランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等を挙げることができる。
【0024】
また、シラン化合物による処理は、シラン化合物の溶液にシリコーンゴムを浸漬したり、シラン化合物の溶液を塗布、噴霧することにより行うことができる。使用するシラン化合物は特にトリシラン化合物が好適であり、例えば、メチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、テトラエトキシシラン等を挙げることができる。
【0025】
さらに、金属化合物の接触は、金属化合物の溶液にシリコーンゴムを浸漬したり、金属化合物の溶液を塗布、噴霧することにより行うことができる。使用する金属化合物は、構成する金属が金あるいはパラジウムである有機金属化合物あるいは無機金属化合物であり、例えば、テトラクロロ金(III)酸三水和物、テトラクロロ金(III)酸四水和物、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物、二シアノ金(I)酸カリウム、テトラクロロ金(III)酸カリウム、テトラクロロ金(III)酸カリウム・n水和物、塩化アリルパラジウム(II)ダイマー、塩化パラジウム(II)アンモニウム、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム、塩化(cis,cis−1,5−シクロオクタンジエン)パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)ナトリウム、酢酸パラジウム(II)、酢酸(ビス(トリフェニルホスフィン))パラジウム(II)、トリフルオロ酢酸パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、水酸化パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、テトラクロロパラジウム(II)酸リチウム・n水和物、パラジウム(II)アセチルアセトナート、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム等を挙げることができる。このような金属化合物は、アルコール、ケトンまたは水を溶媒とした溶液として使用することができ、金属化合物の含有量は、例えば、0.01〜5重量%程度とすることができる。
【0026】
このような本発明は、上記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示される所定のシランカップリング剤による処理面に、金属化合物を接触させ、還元された微細な金属粒子を固定するものであり、シランカップリング剤による処理面に金属粉末を接触する場合に比べて金属固定の効率が格段に高いものとなる。そして、固定する金属を無電解めっきの触媒金属(例えば、パラジウム)とすることにより、直ちに無電解めっき工程に移行することができるので、無電解めっきの前工程としてプライマー層形成と触媒金属付与の工程が必要であった従来のシリコーンゴムへの導電性付与方法に比べて工程が簡便なものとなる。
【0027】
また、例えば、シランカップリング剤による処理、上記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示される所定のシランカップリング剤による処理におけるコート量を多くする、浸漬時間を長くする、また、金属化合物の溶液との接触時間を長くする、金属化合物の還元条件を最適化する等の調整を行うことにより、固定する金属量を多くすることができる。これにより、無電解めっきを介することなく、直接電解めっき工程に移行することができ、従来のシリコーンゴムへの金属めっき方法に比べて工程が格段に簡便なものとなる。
上述の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
次に、具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
二酸化ケイ素換算でシリコーンゴム100重量部に対して40重量部となるようにケイ素(二酸化ケイ素)を予め含有させたシリコーンゴムを準備した。
次に、シリコーンゴムを上記化学構造式(1)に該当する下記組成のシランカップリング剤(液温20℃)に5分間浸漬し、引き上げた後、熱処理(150℃、10分間)し、水洗した。
(シランカップリング剤の組成)
・3−メルカプトプロピルメトキシシラン … 0.1重量部
・アセトン … 10重量部
【0029】
次いで、シリコーンゴムを下記組成の金属化合物水溶液(液温20℃)に60分間浸漬し、パラジウムを固定した後、引き上げ水洗した。
(金属化合物水溶液の組成)
・酢酸パラジウム(II) … 0.1重量部
・0.1規定アンモニア水 … 5重量部
・メタノール … 50重量部
【0030】
上記のようにパラジウムを固定したシリコーンゴムの表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、平均粒径が約2μmの微細なパラジウム粒子がシリコーンゴム表面を均一に被覆していることを確認した。
また、パラジウムを固定したシリコーンゴムを超音波洗浄機に60分間浸漬した後の表面状態を上記と同様に観察した結果、パラジウム粒子の脱落はほとんど見られず、パラジウム粒子の固定が強固であることが確認された。
さらに、パラジウムを固定したシリコーンゴムの表面に、無電解銅めっき液(ムロマチテクノス社製 MK−430)を用いて無電解銅めっきを行った結果、銅めっき層が均一に形成されていることを確認した。
【0031】
[実施例2]
シリコーンゴムを下記組成のシランカップリング剤(液温20℃)に5分間浸漬し、引き上げた後、熱処理(150℃、10分間)し、水洗した。
(シランカップリング剤の組成)
・3−アミノプロピルトリメトキシシラン … 0.1重量部
・アセトン … 10重量部
【0032】
次に、このシリコーンゴムを下記組成のシラン化合物溶液(液温20℃)に5分間浸漬し、引き上げた後、熱処理(150℃、10分間)し、水洗した。
(シラン化合物溶液の組成)
・テトラエトキシシラン … 0.5重量部
・アセトン … 10重量部
次いで、シリコーンゴムを、上記化学構造式(1)に該当する下記組成のシランカップリング剤(液温20℃)に5分間浸漬し、引き上げた後、熱処理(150℃、10分間)し、水洗した。
(シランカップリング剤の組成)
・3−メルカプトプロピルメトキシシラン … 0.1重量部
・アセトン … 10重量部
【0033】
その後、シリコーンゴムを下記組成の金属化合物水溶液(液温20℃)に60分間浸漬し、パラジウムを固定した後、引き上げ水洗した。
(金属化合物水溶液の組成)
・酢酸パラジウム(II) … 0.1重量部
・0.1規定アンモニア水 … 5重量部
・メタノール … 50重量部
【0034】
上記のようにパラジウムを固定したシリコーンゴムの表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、パラジウム粒子がシリコーンゴム表面を均一に被覆していることを確認した。
また、パラジウムを固定したシリコーンゴムを超音波洗浄機に60分間浸漬した後の表面状態を上記と同様に観察した結果、パラジウム粒子の脱落はほとんど見られず、パラジウム粒子の固定が強固であることが確認された。
さらに、パラジウムを固定したシリコーンゴムの表面に、無電解銅めっき液(ムロマチテクノス社製 MK−430)を用いて無電解銅めっきを行った結果、銅めっき層が均一に形成されていることを確認した。
【0035】
[実施例3]
金属化合物水溶液として下記組成の金属化合物水溶液を使用した他は、実施例1と同様にして、ケイ素含有のシリコーンゴムの表面に金を固定した。
(金属化合物水溶液の組成)
・テトラクロロ金(III)酸四水和物 … 50重量部
・クエン酸ナトリウム … 200重量部
・水 … 50000重量部
【0036】
上記のように金を固定したシリコーンゴムの表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、金粒子がシリコーンゴム表面を均一に被覆していることを確認した。
また、金を固定したシリコーンゴムを超音波洗浄機に60分間浸漬した後の表面状態を上記と同様に観察した結果、金粒子の脱落はほとんど見られず、金粒子の固定が強固であることが確認された。
【0037】
[実施例4]
金属化合物水溶液として下記組成の金属化合物水溶液を使用した他は、実施例2と同様にして、シリコーンゴムの表面に金を固定した。
(金属化合物水溶液の組成)
・テトラクロロ金(III)酸四水和物 … 50重量部
・クエン酸ナトリウム … 200重量部
・水 … 50000重量部
【0038】
上記のように金を固定したシリコーンゴムの表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、金粒子がシリコーンゴム表面を均一に被覆していることを確認した。
また、金を固定したシリコーンゴムを超音波洗浄機に60分間浸漬した後の表面状態を上記と同様に観察した結果、金粒子の脱落はほとんど見られず、金粒子の固定が強固であることが確認された。
【0039】
[比較例1]
シリコーンゴムにケイ素(二酸化ケイ素)を含有させない他は、実施例1と同様にして、パラジウムの固定を行った。
しかし、シリコーンゴムの表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、痕跡程度のパラジウムが存在するのみであり、パラジウムの固定が行われていないことが確認された。
【0040】
[比較例2]
金属化合物水溶液に代えて、平均粒径が5μmであるパラジウム粉末のコロイド溶液を使用した他は、実施例1と同様にして、ケイ素含有のシリコーンゴムの表面へのパラジウムの固定を行った。
しかし、シリコーンゴムの表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、痕跡程度のパラジウムが存在するのみであり、パラジウムの固定が行われていないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、シリコーンゴムに導電性を付与することが要求される種々の分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムにケイ素を含有させ、該シリコーンゴムの表面を下記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示されるシランカップリング剤で処理し、その後、金属化合物を接触させて該金属化合物を構成する金属が還元されて生成した金属粒子を固定することを特徴とするシリコーンゴム表面への金属固定方法。
3-mMemSi−R−Y … 化学構造式(1)
(m=0,1、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基、Yはチオール(メルカプト)基)
3-mMemSi−R−Sn−R−SiMem3-m … 化学構造式(2)
(m=0,1、n=2〜8の整数、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基)
【請求項2】
シリコーンゴムに含有させるケイ素量は、二酸化ケイ素換算でシリコーンゴム100重量部に対して0.5〜100重量部の範囲となるようにケイ素を含有させることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンゴム表面への金属固定方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤で処理する前に、シリコーンゴムの表面をシラン化合物で処理することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコーンゴム表面への金属固定方法。
【請求項4】
シリコーンゴムの表面をシランカップリング剤で処理し、次いで、シラン化合物により処理し、その後、下記の化学構造式(1)あるいは化学構造式(2)で示されるシランカップリング剤で処理した後、金属化合物を接触させて該金属化合物を構成する金属が還元されて生成した金属粒子を固定することを特徴とするシリコーンゴム表面への金属固定方法。
3-mMemSi−R−Y … 化学構造式(1)
(m=0,1、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基、Yはチオール(メルカプト)基)
3-mMemSi−R−Sn−R−SiMem3-m … 化学構造式(2)
(m=0,1、n=2〜8の整数、Xはアルコキシ基である加水分解性基、Meはメチル基、Rはエチレン基またはプロピレン基)
【請求項5】
前記金属化合物を構成する金属は、金またはパラジウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のシリコーンゴム表面への金属固定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−140677(P2011−140677A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507(P2010−507)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】