説明

シリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマー組成物

【課題】錫化合物を含むことなく、良好な硬化性を示し、シリコーン粘着剤の基材密着性を向上させるシリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)1分子中に2個以上のシラノール基を有するオルガノポリシロキサン 100質量部、(B)1分子中に3個以上のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン (B)成分中のSiH基のモル数が(A)成分中のシラノール基のモル数の20〜1000倍となる量、(C)非錫系縮合反応触媒 (A)及び(B)成分の合計に対し1〜30質量部、(D)(D1)C原子1〜3個を介してN原子とO原子が結合した構造を含む有機化合物、及び/又は(D2)(D1)成分中のO原子の一部もしくは全てがS原子に置き換わった有機化合物からなる助触媒 (A)成分に対し1〜20質量部、並びに(E)任意量の有機溶剤を含むシリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン粘着テープは,耐熱性及び再剥離性(加熱工程を必要に応じ行った後で剥がすマスキング用途において,きれいに剥がすことができる特性)を有するため,広く上市されている。シリコーン粘着テープは、再剥離性が良好であるため,シリコーン粘着テープの基材であるプラスチックフィルム基材の表面に対して,基材密着性が劣る傾向にある。そのため、シリコーン粘着テープの基材密着性向上のため,従来よりプライマー組成物が使用されている。このようなシリコーン粘着剤用プライマー組成物として,例えば、特許文献1には、シラノール基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンと有機金属カルボン酸塩からなるシリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマー組成物が提案されている。
【0003】
このような縮合反応硬化型プライマー組成物において有機金属カルボン酸塩として通常に使用される多価カルボン酸塩は、通常,錫化合物である。錫化合物としては、硬化性に優れ、無色であり、液体で、しかもシリコーンに可溶である点からアルキル錫系が主に用いられる。錫化合物は、毒性(生殖毒性)という欠点を有し、また、環境ホルモン疑義物質であるとして環境負荷の問題が指摘されていることから、錫化合物の使用が厳しく制限される状況が進んでいる。
【0004】
それでも従来の縮合反応硬化型プライマー組成物は、付加硬化型シリコーン粘着剤及び過酸化物硬化型シリコーン粘着剤の基材密着性向上に有効であり,付加反応触媒毒を有する基材に使用することができる点、塗工後,時間をおいてシリコーン粘着剤を塗工しても基材密着性が得られる点、硬化性がよいため硬化後に巻き取り可能である点などの利点を有する。よって、縮合反応触媒の安全性及び環境負荷の問題が解決されれば、縮合反応硬化型プライマー組成物は、シリコーン粘着剤用プライマーとして更に多様な用途への利用拡大が期待される。
【0005】
そのため従来から縮合反応触媒の非錫化が検討されてきた。非錫系縮合反応触媒として、特許文献2では水酸化第4ホスホニウム化合物が、特許文献3では第4級アンモニウムイオン化合物が、特許文献4〜6ではグアニジンなどの有機物が提案されている。また、特許文献7ではカオリンなどの天然鉱物の利用が紹介されている。金属化合物については、チタン系化合物及びZn系化合物が従来から非錫系縮合反応触媒としてされている。最近では、非錫系縮合反応触媒として、特許文献8ではIr化合物が、特許文献9ではZr化合物が、特許文献10ではZn化合物が、特許文献11ではMo化合物が、特許文献12ではCu、Ag、B、Sc、Ce、Bi、Ge、Mnなど各種の金属の化合物が提案されている。しかしこれらの非錫系縮合反応触媒は、錫系縮合反応触媒よりも反応速度が緩やかである点、ゲル化を引き起こす点、触媒効果がさほど得られない点、コストアップをもたらす点などの欠点を有し、工業的に広く利用されているとは言えない状況にある。特に比較的低い加熱温度での短時間硬化が必要とされるシリコーン粘着剤用プライマー組成物において使用される場合には、これらの欠点が大きな障害となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6-39584号公報
【特許文献2】特開昭59−176326号公報
【特許文献3】国際公開第2008/081890号
【特許文献4】米国特許第3,719,633号明細書
【特許文献5】米国特許第4,180,462号明細書
【特許文献6】特表2011−506584号公報
【特許文献7】特表2011−510103号公報
【特許文献8】特表2007−527932号公報
【特許文献9】特開2010−163602号公報
【特許文献10】特表2011−506738号公報
【特許文献11】特表2011−506744号公報
【特許文献12】特表2011−506739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、錫化合物を含むことなく、良好な硬化性を示し、シリコーン粘着剤の基材密着性を向上させるシリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、各種材料を用いて検討を進めた結果、特定の構造を有する窒素含有化合物からなる助触媒を非錫系縮合反応触媒と併用することにより、シリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマーとして優れた性能を有する組成物が得られることを見いだして本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は、
(A)1分子中に少なくとも2個のシラノール基を有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン (B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子のモル数が(A)成分中のシラノール基のモル数の20〜1000倍となる量、
(C)非錫系縮合反応触媒 (A)成分と(B)成分の合計に対し1〜30質量部、
(D)(D1)炭素原子1〜3個を介して窒素原子と酸素原子が結合した構造を含む有機化合物、(D2)(D1)成分中の酸素原子の一部又は全てがイオウ原子に置き換わった有機化合物、又はこれらの組み合わせからなる助触媒 (A)成分に対し1〜20質量部、及び
(E)任意量の有機溶剤
を含むシリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマー組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、シェルフライフ及びポットライフが良好で、作業性にも優れており、安定な特性を有する。本発明の組成物は、プラスチックフィルム、紙、ラミネート紙などの基材の表面に塗布して加熱硬化することにより、速やかに硬化する。形成された硬化皮膜は、これらの基材とシリコーン粘着剤とに対して良好な密着性を示す。よって、本発明の組成物は、各種基材表面に対してシリコーン粘着剤を密着させることのできるシリコーン粘着剤用プライマーとして好適に使用できる。
【0011】
本発明の組成物は、縮合反応触媒として錫系化合物の代わりに非錫系化合物を含む。非錫系化合物は、錫系化合物に比べ、組成物の硬化性向上作用及びシリコーン粘着剤の基材密着性向上作用に劣っているにもかかわらず、本発明の組成物は、上記のとおり、優れた硬化性を示し、シリコーン粘着剤の基材密着性を向上させることができる。本発明の組成物は、安全性及び環境負荷の問題が指摘されている錫化合物を含まないので、さまざまな用途に広く用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳述する。本明細書において、Meはメチル基、Etはエチル基を表す。
【0013】
[(A)成分]
(A)成分は1分子中にケイ素原子に結合したヒドロキシル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。(A)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。ヒドロキシル基以外のケイ素原子に結合した1価の基は特に限定されるものではないが、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、等の1価炭化水素基が挙げられる。特にヒドロキシル基以外のケイ素原子に結合した1価の基の80モル%以上がメチル基であることが好ましい。(A)成分の分子構造も特に限定されるものではなく、基本的には直鎖構造が工業的には好ましいが、分岐構造を有するオルガノポリシロキサンも同様に使用可能である。(A)成分の25℃における粘度は50,000mPa・s以上であることが好ましい。
【0014】
(A)成分の具体的な例としては以下の式1-1又は1-2で示されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。式中のRとしてはヒドロキシル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、ビニル基、プロペニル基などのアルケニル基、式2−1又は2−2のシロキサン残基(式2-1及び2−2中、Rは酸素原子又はアルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素原子数2〜6のアルキレン基)、xは0〜10000の数、yは1000〜100000の数,x+yは1000以上の数である)が挙げられる。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
[(B)成分]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(以下、SiH基という)を少なくとも3個有する限り特に限定されない。(B)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。(B)成分の分子構造は直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。(B)成分の25℃における粘度は数mPa・s〜数万mPa・s(例えば、2mPa・s〜6万mPa・s)の範囲でよい。
【0018】
(B)成分の具体例としては下記のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを挙げることができる。
【0019】
【化3】


但し、上記式において、YとZのおのおのは以下の式で示される基であり、aからpは次に示される範囲の整数である:a,e及びgは3〜500、f,i及びlは1〜500、b,c,d,h,j,k,m,n,o及びpは0〜500。
【0020】
【化4】

【0021】
(B)成分の配合量は、(B)成分中のSiH基のモル数が(A)成分中のシラノール基のモル数の20〜1000倍となる量である。上記下限未満では本発明のプライマー組成物の硬化性が不充分となる場合がある。一方、上記上限を超えて(B)成分を本発明の組成物に配合しても顕著な効果の増加は見られず、省資源化を図りにくく、経済的に不利となる場合がある。一般的には、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対し(B)成分を0.1〜20質量部の範囲で配合すると、上記のモル数の比を達成することができる。
【0022】
[(C)成分]
(C)成分の非錫系縮合反応触媒は、(A)成分と(B)成分とのいわゆる架橋反応を促進し、硬化被膜を形成するために用いられる縮合反応触媒である。(C)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。(C)成分としては、例えば、非錫系金属化合物が挙げられ、好ましくはマグネシウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、クロム化合物、鉄化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、銅化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物などが使用できる。(C)成分としては、例えば、3価アルミニウム、3価鉄、3価コバルト、2価亜鉛、4価ジルコニウム、3価ビスマス等の金属の有機酸塩、該金属のアルコキシド、該金属のキレート化合物などの金属化合物がより好ましく挙げられる。前記有機酸塩としては、例えば、オクチル酸、ラウリン酸、ステアリン酸などの、多価カルボン酸以外の有機酸の塩が挙げられる。前記アルコキシドとしては、例えば、プロポキシド、ブトキシドなどのアルコキシドが挙げられる。前記キレート化合物としては、例えば、カテコール、クラウンエーテル、ヒドロキシ酸の共役塩基、ヒドロキシ酸のエステルの共役塩基、1,3−ジケトン類の共役塩基、β−ケト酸エステル類の共役塩基などの多座配位子を含むキレート化合物が挙げられる。1個の金属原子に複数種類の配位子が結合していてもよい。特に、配合及び使用の条件が多少異なっても、安定した硬化性の得られ易いアルミニウム化合物、鉄化合物、及びビスマス化合物が使いやすく望ましい。中でも、多座配位子を含む3価アルミニウム化合物、多座配位子を含む3価鉄化合物、及び多座配位子を含む3価ビスマス化合物がより望ましく、3価アルミニウムのキレート化合物、3価鉄のキレート化合物、及び3価ビスマスのキレート化合物が更により望ましい。
【0023】
(C)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計に対し、通常、1〜30質量部であり、硬化条件によりこの範囲内で任意に選択できる。該配合量が1質量部未満であると、十分な触媒作用が得られない場合がある。該配合量が30質量部を超えても触媒作用は促進されにくく、省資源化を図りにくい。
【0024】
[(D)成分]
(D)成分のうち(D1)成分は炭素原子1〜3個を介して窒素原子と酸素原子が結合した構造を含む有機化合物である。(D1)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
炭素原子を1個介して窒素原子と酸素原子が結合した−O−C−N−の構造を持つ有機化合物としては、シアネート基−O−C≡N、その3量体であるシアヌレート基、イソシアネート基−N=C=O、その2量体であるウレトジオン基、イソシアネート基の3量体であるイソシアヌレート基、アミド基−CO−NH−、カルバメート基、ウレタン基−O−CO−NH−、尿素基−NH−CO−NH−、ビウレット基−NH−CO−N(−CO−NH−)−、アロファネート基−NH−CO−N(−CO−O−)−等を有する有機化合物が挙げられる。これらの有機化合物のうち、環構造を有するものとしては、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジンなどの環状イミノエーテル、マレイミド、フタルイミドなどの環状イミド、ピロリドンなどの環状ラクタムなどが挙げられる。これらのなかでも、 (D1a)イソシアネート基含有化合物、イソシアネート基含有化合物同士の縮合物、イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、又はこれらの組み合わせとの反応生成物
が好ましく用いられる。イソシアネート基含有化合物同士の縮合物としては、イソシアネート基含有化合物の2量体、3量体などが挙げられる。(D1a)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
−O−C−C−N−の構造を持つ有機化合物としては、エタノールアミンから誘導される化合物が挙げられる。アミンとエチレンオキサイドとを反応させるエタノールアミン製造方法を応用して、各種アミノ基含有化合物とエポキシ化合物とを開環反応させれば相当する構造を持った様々な化合物を調製できる。即ち、
(D1b)アミノ基含有化合物とエポキシ化合物との開環反応生成物
が好ましく用いられる。(D1b)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
−O−C−C−C−N−の構造をもつ有機化合物としては1,3-アミノアルコールから誘導される化合物が挙げられる。アミンとオキセタンとを反応させる1,3-アミノアルコール製造方法を応用して、各種アミノ基含有化合物とオキセタン化合物とを開環反応させれば相当する構造を持った様々な化合物を調製できる。即ち、
(D1c)アミノ基含有化合物とオキセタン化合物との開環反応生成物
が好ましく用いられる。(D1c)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
(D1)成分としては、上記(D1a)〜(D1c)成分の2種以上同士の反応生成物を用いることもできる。
【0029】
(D)成分のうち(D2)成分は(D1)成分中の酸素原子の一部又は全てがイオウ原子に置き換わった有機化合物である。(D2)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。(D)成分はイソチオシアナート、チアシクロプロパン、チエタンなどを利用して調製することができる。
【0030】
(D)成分は、本発明の組成物において良好な溶解性を持つ事が求められる。化合物の構造にもよるが高分子量なほど溶解性は乏しくなる傾向にあるため、(D)成分は分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下である。
【0031】
特に断らない限り、(D)成分の分子量は平均分子量である。本明細書において平均分子量とは数平均分子量をいい、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
[測定条件]
展開溶媒:トルエン
流量:0.35mL/min.
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:品名…TSKgel−G2000H×2本、G3000H×1本、G4000H×1本、TSKgurdcolumnH−L×1本(東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(濃度1質量%のトルエン溶液)
【0032】
また、(D)成分は分子内にケイ素原子含有基を有することが、(D)成分の溶解性が良好となる点で望ましい。ケイ素原子含有基としては、例えば、−SiR(OR3−q、−O−SiR(OR3−q、−(SiR(OR2−s−O−)−SiR(OR3−qで表されるシリル基又はシロキサン基が挙げられる。ここでR及びRのおのおのはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのC1〜20のアルキル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基などのC2〜20のアルケニル基、フェニル基などのC6〜20のアリール基であり、q=0〜3の整数、r=1〜10の整数、s=0〜2の整数である。これらの基は、R、R又はその両方の一部が結合手に置き換わった、2価置換基などの多価置換基として分子内に存在しても差し支えない。
【0033】
また、(D)成分の配合量は、(A)成分に対し、通常、1〜20質量部である。該配合量が1質量部未満であると、(D)成分による助触媒の作用が十分に得られない場合がある。該配合量が20質量部を超えた場合、(D)成分による助触媒の作用は促進されにくく、省資源化を図りにくい。
【0034】
(D)成分の具体例としては下記の有機化合物が挙げられる。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
[(E)成分]
(E)成分の有機溶剤は、処理浴安定性及び各種基材に対する塗工性の向上、塗工量及び粘度の調整を目的として配合される成分である。(E)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。(E)成分としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ヘキサン、ヘプタン等の、組成物を均一に溶解できる有機溶剤が使用でき、塗工方法によっては(E)成分は配合されなくてもよい。
【0038】
(E)成分の配合量は特に限定されず任意量でよいが、本発明の組成物における(A)〜(D)成分の合計の濃度が典型的には1質量%以上、より典型的には5〜20質量%以上となる量である。
【0039】
[その他の成分]
本発明の組成物には、必要に応じて滑り性付与剤、密着向上剤、剥離力コントロール剤、顔料、レベリング剤、バスライフ延長剤として公知のものを配合することもできる。本発明の組成物は、本発明の目的に基づき、錫系縮合反応触媒を含まないものであることが好ましい。
【0040】
[製造方法]
本発明の組成物は前記(A)〜(E)成分及び必要に応じその他の成分を均一に混合することにより容易に製造することができる。このとき、(A)成分を(E)成分に均一に溶解した後、(B)〜(D)成分を混合するのが有利である。
【0041】
本発明の組成物は錫触媒を含有しないことにより従来の縮合反応硬化型組成物よりもポットライフが良好であるという特徴も有するが、十分なポットライフを確保するため、(C)成分はコーティングをする直前に添加混合した方がよい。
【0042】
[塗工方法]
本発明の組成物を基材に塗工する場合には、本発明の組成物を直接又は適当な有機溶剤で希釈した後、バーコーター、ロールコーター、リバースコーター、グラビアコーター、エアナイフコーター、さらに薄膜の塗工の場合には高精度のオフセットコーター、多段ロールコーター等の公知の塗布手段を用い、公知の塗布方法により、フィルム等の基材に塗布する。
【0043】
本発明の組成物の基材への塗布量は塗布すべき基材の材質によっても異なる。本発明の組成物が過酸化物硬化型シリコーン粘着剤用プライマー組成物である場合、該塗布量は固形分の量として0.05〜2.0g/m2の範囲が好ましい。該塗布量が0.05〜2.0g/m2の範囲であると、十分な基材密着性が得られやすく,省資源化が図りやすく、経済的に有利である。また,本発明の組成物が付加硬化型シリコーン粘着剤用プライマー組成物である場合、該塗布量は固形分の量として0.05〜1.0g/m2の範囲が好適である。該塗布量が0.05〜1.0g/m2の範囲であると、付加硬化阻害が起きにくい。上記のようにして本発明の組成物を塗布した基材を80〜180℃で60〜5秒間加熱することにより基材表面に硬化被膜を形成せしめたのち、シリコーン粘着剤を塗布し硬化させることにより所望の基材密着性を有するシリコーン粘着テープを得ることができる。
【0044】
シリコーン粘着剤としては,公知のものを使用することが出来る。具体的には,過酸化物硬化型シリコーン粘着剤として,KR-101-10,KR-130(共に、商品名で、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下に合成例、実施例及び比較例によって本発明を更に詳述するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
[合成例1]
等モル量の
【0047】
【化7】



【0048】
【化8】


とを140℃で6時間反応させて、下記平均構造式:
【0049】
【化9】


で表される平均分子量400の縮合物を得た。
【0050】
[合成例2]
3モルの
【0051】
【化10】


を公知方法に従って(80℃で1時間)反応させて、3モルのイソシアネート基同士を縮合させることにより、下記平均構造式:
【0052】
【化11】


で表される平均分子量600の3量体を得た。
【0053】
[合成例3]
等モル量の
【0054】
【化12】



【0055】
【化13】


とを50℃で6時間反応させて、下記平均構造式:
【0056】
【化14】


で表される平均分子量350の縮合物を得た。
【0057】
[合成例4]
1モルの
【0058】
【化15】


と1モルの
【0059】
【化16】


とを140℃で6時間反応させた後、得られた反応生成物と1モルの
【0060】
【化17】


とを50℃で6時間反応させて、下記平均構造式:
【0061】
【化18】


で表される平均分子量600の縮合物を得た。
【0062】
[合成例5]
1モルの
【0063】
【化19】


と2モルの
【0064】
【化20】


とを140℃で6時間反応させて、下記平均構造式:
【0065】
【化21】


で表される平均分子量700の縮合物を得た。
【0066】
[合成例6]
1モルの
【0067】
【化22】

と1モルの
【0068】
【化23】


とを140℃で6時間反応させて、下記平均構造式:
【0069】
【化24】


で表される平均分子量400の縮合物を得た。
【0070】
[実施例1]
(A−1)30質量%トルエン溶液の25℃における粘度が3000mPa・sであり、分子鎖の両末端がジメチルヒドロキシシリル基で封鎖され、主骨格(即ち、分子鎖両末端以外の部分。以下同じ)はジメチルシロキサン単位で構成されているオルガノポリシロキサン 100質量部

(E)トルエン 900質量部
に20〜40℃で撹拌溶解させた。得られた溶液に、
(B)分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖され、MeHSiO2/2で表される単位を全シロキサン単位中95モル%含有し、25℃における粘度が25mPa・sであるメチルハイドロジエンポリシロキサン 10質量部、及び
(D−1)下記平均構造式:
【0071】
【化25】


で表される平均分子量400の縮合物(合成例1で得られたもの) 5質量部
を加え、20〜40℃で1時間撹拌混合して混合物を得た。基材への塗工直前に、
(C−1)トリアセチルアセトナートビスマス (A−1)成分に対しBi換算で3質量%
を上記混合物に添加して、組成物を調製した。
【0072】
得られた組成物を,メイヤーバーを用いて25mm幅のポリイミドフィルム(東レデュポン製、カプトン(登録商標)100H)へ均一に塗工し、100℃の熱風循環式乾燥機で30秒間加熱処理して硬化皮膜を形成させ、塗工量が固型分で0.6g/m2の評価用試料1を作製した。
【0073】
過酸化物硬化型シリコーン粘着剤であるKR-130(商品名、信越化学工業株式会社製)100質量部にトルエン50質量部を加えて希釈し,さらにナイパー(登録商標)BMT-K40(商品名、日本油脂株式会社製、過酸化物硬化剤)を3質量部添加して,シリコーン粘着剤塗工液を調製した。この塗工液を、別途作製した評価用試料1の硬化皮膜上に、アプリケーターで,乾燥後の厚さが40μmになるように塗工し,80℃で5分乾燥後,165℃で2分硬化させて,ポリイミドフィルム、硬化皮膜、及び粘着剤が積層された評価用試料2を作製した。
【0074】
[実施例2]
実施例1において、(D−1)成分の代わりに
(D−2)下記平均構造式:
【0075】
【化26】


で表される平均分子量600の3量体(合成例2で得られたもの) 10質量部
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0076】
[実施例3]
実施例1において、(D−1)成分の代わりに
(D−3)下記平均構造式:
【0077】
【化27】


で表される平均分子量350の縮合物(合成例3で得られたもの) 5質量部
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0078】
[実施例4]
実施例1において、(D−1)成分の代わりに
(D−4)下記平均構造式:
【0079】
【化28】


で表される平均分子量600の縮合物(合成例4で得られたもの) 5質量部
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0080】
[実施例5]
実施例1において、(D−1)成分の代わりに
(D−5)下記平均構造式:
【0081】
【化29】


で表される平均分子量700の縮合物(合成例5で得られたもの) 5質量部
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0082】
[実施例6]
実施例1において、(D−1)成分の代わりに
(D−6)下記平均構造式:
【0083】
【化30】


で表される平均分子量400の縮合物(合成例6で得られたもの) 5質量部
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0084】
[実施例7]
実施例1において、(C−1)成分の代わりに
(C−2)テトラアセチルアセトナート鉄 (A−1)成分に対しFe換算で3質量%
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0085】
[実施例8]
実施例1において、(A−1)成分の代わりに
(A−2)30質量%トルエン溶液の25℃における粘度が27000mPa・sであり、分子鎖の両末端がジメチルヒドロキシシリル基で封鎖され、主骨格はジメチルシロキサン単位99.9モル%とヒドロキシメチルシロキサン単位0.01モル%とで構成されているオルガノポリシロキサン 100質量部
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0086】
[実施例9]
実施例8において、(C−1)成分の代わりに
(C−3)テトラアセチルアセトナートアルミニウム (A−2)成分に対しAl換算で3質量%
を用いた以外は実施例8と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0087】
[実施例10]
実施例8において、(C−1)成分の代わりに
(C−2)テトラアセチルアセトナート鉄 (A−2)成分に対しFe換算で3質量%
を用いた以外は実施例8と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0088】
[実施例11]
実施例8において、(C−1)成分の代わりに
(C−3)テトラアセチルアセトナートアルミニウム (A−2)成分に対しAl換算で1.5質量%、及び
(C−4)3価Biカルボン酸塩(ビスマスネオデカノエート、Sigma-Aldrich製) (A−2)成分に対しBi換算で1.5質量%
を用いた以外は実施例8と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0089】
[実施例12]
実施例8において、(C−1)成分の代わりに
(C−2)テトラアセチルアセトナート鉄 (A−2)成分に対しFe換算で1.5質量%、及び
(C−4)3価Biカルボン酸塩(ビスマスネオデカノエート、Sigma-Aldrich製) (A−2)成分に対しBi換算で1.5質量%
を用いた以外は実施例8と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0090】
[比較例1]
実施例1において、(D−1)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0091】
[比較例2]
実施例1において、(D−1)成分の代わりに
(D'−1)下記平均構造式:
【0092】
【化31】


で表されるエポキシ化合物 5質量部
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0093】
[比較例3]
実施例1において、(D−1)成分の代わりに
(D'−2)下記平均構造式:
【0094】
【化32】


で表されるアミノ基含有化合物 5質量部
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0095】
[比較例4]
実施例1において、(D−1)成分を配合せず、(C−1)成分の代わりに、
(C'−1)ジオクチル錫ジカルボン酸塩(ジオクチル錫ジネオデカノエート) (A−1)成分に対し錫換算で3質量%
を用いた以外は実施例1と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0096】
[比較例5]
実施例8において、(D−1)成分を配合せず、(C−1)成分の代わりに、
(C'−1)ジオクチル錫ジカルボン酸塩(ジオクチル錫ジネオデカノエート) (A−2)成分に対し錫換算で3質量%
を用いた以外は実施例8と同様に、組成物を調製し、評価用試料1及び2を作製した。
【0097】
[比較例6]
実施例1において、組成物を調製せず、組成物をポリイミドフィルムに塗工しなかった以外は実施例8と同様に、評価用試料1及び2を作製した。
【0098】
[評価方法]
1)硬化性
評価用試料1の硬化皮膜表面を指でこすり、皮膜表面のくもり度合を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
○:くもりが生じなかった。
△:相対的に薄いくもりが生した。
×:相対的に濃いくもりが生じた、あるいは未硬化の状態であった。
【0099】
2)シリコーン粘着剤の基材密着性
密着性は、評価用試料2の長さ方向に平行な側面のうち、一方の側面の中央辺りにおいて、該一方の側面から評価用試料2の幅方向に2mmの長さを有する切れ目をポリイミドフィルム基材、硬化皮膜、および粘着剤にわたって入れた後、評価用試料2をその両端で互いに反対向きに引っ張って引き裂き、粘着剤がフィルム基材より浮き上がるかどうかで確認し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
×:粘着剤が全面にわたり浮き上がった。
△:粘着剤が一部浮き上がった。
○:粘着剤の浮き上がりが認められなかった。
さらに評価用試料2中のポリイミドフィルム基材にのみ上記と同様の切れ目を入れ、評価用試料2をその両端で互いに反対向きに引っ張って引き裂き、粘着剤が該切れ目由来の裂け目において左右に引っ張られて伸び、最終的に切れるまでの粘着剤の伸び量を測定した。密着性が良好であれば粘着剤の伸びは短くなる。
【0100】
【表1】


本発明の組成物を用いれば、錫系縮合反応触媒を用いることなく、基材密着性に優れたシリコーン粘着テープを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のシラノール基を有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン (B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子のモル数が(A)成分中のシラノール基のモル数の20〜1000倍となる量、
(C)非錫系縮合反応触媒 (A)成分と(B)成分の合計に対し1〜30質量部、
(D)(D1)炭素原子1〜3個を介して窒素原子と酸素原子が結合した構造を含む有機化合物、(D2)(D1)成分中の酸素原子の一部又は全てがイオウ原子に置き換わった有機化合物、又はこれらの組み合わせからなる助触媒 (A)成分に対し1〜20質量部、及び
(E)任意量の有機溶剤
を含むシリコーン粘着剤用縮合反応硬化型プライマー組成物。
【請求項2】
(D)成分が以下の特徴(1)及び(2)のうち少なくとも1つを有する助触媒である請求項1に係る組成物。
(1)分子量が10000以下である
(2)分子内にケイ素原子含有基を有する
【請求項3】
(D1)成分が以下の(D1a)〜(D1c)成分及びこれらの2種以上同士の反応生成物からなる群より選択される少なくとも1種の非錫系縮合反応触媒である請求項1又は2に係る組成物。
(D1a)イソシアネート基含有化合物、イソシアネート基含有化合物同士の縮合物、イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、又はこれらの組み合わせとの反応生成物
(D1b)アミノ基含有化合物とエポキシ化合物との開環反応生成物
(D1c)アミノ基含有化合物とオキセタン化合物との開環反応生成物
【請求項4】
(C)成分がマグネシウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、クロム化合物、鉄化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、銅化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、及びビスマス化合物からなる群より選択される少なくとも1種の非錫系縮合反応触媒である請求項1〜3のいずれか1項に係る組成物。
【請求項5】
(C)成分が多座配位子を含む3価アルミニウム化合物、多座配位子を含む3価鉄化合物、及び多座配位子を含む3価ビスマス化合物からなる群より選択される少なくとも1種の非錫系縮合反応触媒である請求項1〜4のいずれか1項に係る組成物。
【請求項6】
シリコーン粘着剤が過酸化物硬化型である請求項1〜5のいずれか1項に係る組成物。

【公開番号】特開2013−112686(P2013−112686A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256996(P2011−256996)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】