説明

シリンジポンプ及びそれを用いたTOC測定装置

【課題】
流体デバイスの一方の流路における流量と他方の流路における流量の流量差を生じさせることのないシリンジポンプを提供する。
【解決手段】
シリンジ1aと流体デバイス、導電率検出部27とシリンジ1bがそれぞれ接続されるようにバルブ9,31を切り替える。シリンジ駆動部5によってピストン4がY軸上方に駆動すると、シリンジ1aは内部の試料水を試料水流路17に吐出し、シリンジ1bは内部に測定水を吸引する。これに同期してガス透過膜15では試料水から測定水にガスが透過し、導電率計27によって測定水の導電率が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液を送液するためのシリンジポンプや、それを用いた輸液装置、分析装置又はマイクロデバイスに関する。特に、微量な液体を用いて化学分析や化学反応を行う際に、液体の流量を精度よく制御するために用いられるシリンジポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
排水、環境水、水道水、下水、純水等の各種用水等の水質分析を行なう際、一般に水質汚染の指標となる有機性汚濁物総量が、TOC(全有機炭素)計によって測定されることが多い。TOCは、試料水中の有機体を酸化反応器で二酸化炭素へ転化する工程と、試料水中の二酸化炭素をガス透過膜を介して測定水中に通す工程と、測定水中の二酸化炭素量を導電率計によって測定する工程とによって測定される。
【0003】
従来、TOC計に試料などを送液する際は、試料水はシリンジポンプで送液させ、測定水はポンプで常時循環させて送液させるなど、試料水と測定水には異なる送液ポンプが用いられていた(特許文献1参照)。また、試料などの液体を送液する際に同じ種類の送液ポンプが用いられた場合であっても、試料水と測定水には別々のシリンジポンプが設けられていた。
【特許文献1】特開平2−141661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料測定を正確に行なうためには、試料水と測定水の流量はそれぞれ安定して流れていて、かつ、それらの流量比率が一定である必要がある。
しかし、試料水の送液にはシリンジポンプを用い、測定水の送液には循環ポンプを用いる場合は、ポンプの種類が異なるためにシリンジポンプと循環ポンプの流量変動は一定にはならない。
【0005】
また、循環ポンプを用いた送液ではポンプ脈動が生じて試料の測定結果に影響を与えることがある。ポンプ脈動を抑えた送液ポンプを用いることもできるが、そのようなポンプは高価な上、ポンプ脈動は完全には無くなってはいない。
試料水と測定水をそれぞれ別のシリンジポンプで送液した場合はポンプ脈動は抑えられるが、シリンジの駆動精度とシリンジの内面加工精度には限度がある上、シリンジポンプにも器差が必ずあるため、多少の流量変動は起きうる。
【0006】
本発明は流体デバイスの一方の流路における流量と他方の流路における流量の流量差を生じさせることのないシリンジポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシリンジポンプは、互いに相互作用しながら流れる2つの流路をもつ流体デバイスの流路に液を同時に流すように、それぞれの流路に繋がる2つの流通口をもつシリンジと、シリンジ内のピストンを往復運動させる1つのシリンジ駆動部を備え、流体デバイスの両流路における液の流れる量の比率は、ピストンがシリンジ駆動部と一体化して連動することにより一定に保たれている。
【0008】
上記シリンジはピストンを間に挟んで対向して2つ備えられ、両ピストンがシリンジ駆動部と一体化して連動することにより、一方のシリンジの吸引(又は吐出)と他方のシリンジの吐出(又は吸引)は同期していることが好ましい。
この場合、ピストンは1個で、両シリンジに共用されるものであってもよい。
【0009】
また、シリンジ個々の内面加工の違いは流量変動の原因となることから、シリンジは1個で、その内部はピストンによって2つに隔てられ、その両端には液を流すための流通口と、ピストンを外部から駆動するための貫通穴がそれぞれ設けられ、ピストンがシリンジ駆動部と一体化して連動することにより、シリンジの両流通口からの吸引(又は吐出)と吐出(又は吸引)は同期しているようにしてもよい。
【0010】
本発明のTOC測定装置は、試料水流路、測定水流路、及び試料水中のガスを測定水中へ透過させるためのガス透過膜によって構成される流体デバイスと、測定水中のガス濃度を検出するための導電率検出部とを備えており、上記流体デバイスに試料水と測定水を流すシリンジポンプとして本発明のシリンジポンプを用いるものである。
【発明の効果】
【0011】
従来はシリンジ駆動部の駆動精度の違いによってシリンジにおける吸引と吐出の流量比が安定しない場合があったが、シリンジにおける吸引と吐出の流量を1つのシリンジ駆動部で駆動するようにすると、一方の流通口による液の吸引(又は吐出)と他方の流通口による液の吐出(又は吸引)を同時に行うことができるようになるので、流体デバイスへの一方の出入口からの吸引(又は吐出)と他方の出入口からの吐出(又は吸引)の流量比は常に一定に保たれるようになる。
【0012】
1つのシリンジの内部を1つのピストンによって2つに隔てるようにすると、1つのシリンジ駆動部で両シリンジを駆動することができ、また、用いるシリンジが1つであるためにシリンジ内面の加工精度の器差も相殺することができ、シリンジによる流量影響を受けることがなくなる。
流体デバイスをTOC測定装置として用いるようにすれば、試料水と測定水に常に同じ流量比の液を流すことができるため、測定の精度を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、図1を参照して本発明の一実施例を具体的に説明する。
シリンジ1a,1bは内部にそれぞれピストンヘッド3a,3bを備え、共通のピストン4を間に挟んで対向するように接続されている。シリンジ駆動部5はモータ駆動力やエアシリンジ等をピストンに伝えるものであり、ピストン4と連動して動くようになっている。
【0014】
シリンジ1a,1bには液を吸引吐出するための流通口7a,7bがそれぞれ備えられている。流通口7aは1つのポートが試料水導入口に接続された三方バルブ9の一の共通ポートに接続されている。三方バルブ9の他のポートは流体デバイス11の試料水導入側13に接続されている。流体デバイス11は例えば二酸化炭素を透過可能なガス透過膜15が内部に備えられたものであり、ガス透過膜15を間に挟んで試料水流路17と測定水流路19が対向して配置されている。試料水排出側29はドレインに接続されている。
【0015】
流体デバイス11における測定水流路19の測定水導入側21は、純水を供給するための測定水供給部23に接続されている。測定水排出側25はガスが溶け込んだ測定水の導電率を測定するための導電率検出部27が接続されている。
三方バルブ31は測定水供給部23の測定水をシリンジ1bで吸い上げると共に測定後の測定水を測定水供給部23へ戻すための切り替え弁であり、3つのポートはそれぞれシリンジ1b、導電率検出部27及び測定水供給部23に接続されている。シリンジ1bが接続されているポートが共通ポートである。測定水供給部23と三方バルブ31を接続する流路には、測定水を脱イオン化するイオン交換樹脂33が設けられている。
【0016】
図1の実施例において、シリンジの動作と試料水の測定操作を順に説明する。
[シリンジの動作]
ピストン4は支持部材43に支持されており、支持部材43は送りねじ41に螺合している。送りねじ41が回転することにより支持部材43とピストン4はY軸上を移動する。
【0017】
(1)試料水導入工程
バルブ9は試料水導入部とシリンジ1aが接続されるように切り替え、バルブ31はシリンジ1bと測定水供給部23が接続されるように切り替える。モータ等の駆動力が伝えられたシリンジ駆動部5により、ピストン4は図中Y方向の下方に移動する。
シリンジ1aは内部に試料水を吸引し、シリンジ1bは内部の測定水を吐出する。これにより、シリンジ1aには試料水導入部から試料水が導入され、シリンジ1b内に存在していた測定水はイオン交換樹脂33を通って脱イオン化され、測定水供給部23へと排出される。
【0018】
(2)ガス交換工程
バルブ9はシリンジ1aと流体デバイス11が接続されるように切り替え、バルブ31は導電率検出部27とシリンジ1bが接続されるように切り替える。モータ等の駆動力によるシリンジ駆動部5が(1)のときと反対方向に駆動することにより、ピストン3は図中Y方向の上方に移動する。
シリンジ1aは内部の試料水を吐出し、シリンジ1bは内部に測定水を吸引する。これにより、流体デバイス11の試料水流路17には試料水が導入されるとともに、これと同期して、測定水流路19には測定水供給部23から純水が導入される。試料水と測定水はガス透過膜15を挟んで常に同じ流量で流されるため、測定水には一定濃度のガスが透過することになる。測定水流路17を通過した測定水は、導電率検出部27により透過ガス濃度に応じた導電率が測定され、シリンジ1bに吸引される。
【0019】
この(1)〜(2)の工程で試料水を測定するようにすると、イオン交換樹脂33で脱イオン化された測定水を導電率測定に再利用することができる。
【0020】
次にシリンジ駆動部の他の実施例を図2を参照しながら説明する。(A)は2つのシリンジとその間の1つのピストンによって構成されているシリンジポンプ、(B)は1つのシリンジとその内部の1つのピストンによって構成されているシリンジポンプ、(C)はシリンジとピストンのセットを円板カムを挟むように2つ設けたシリンジポンプの概略図である。
【0021】
(A)のシリンジポンプにおいて、シリンジ1a,1bは内部にピストン4を挟み込むように対向して設けられている。
ピストン4は支持部材43を介して図1と同様に送りねじ41に螺合して支持されている。送りねじ41が回転することによりピストン4はY軸上を移動する。試料水及び測定水は、シリンジ1の両端に設けられている流通口7a、7bから吸引吐出される。
【0022】
(B)のシリンジポンプにおいて、ピストン4はシリンジ1内に設けられ、シリンジ1の内部を2つに分けるものである。シリンジ1の両端にはシリンジ軸45を液密を保って外部に貫通するための貫通穴47a,47bと、液を吸引吐出するための流通口7a,7bが設けられている。ピストン4はピストン軸45によって固定され支持部材43によって支持されている。支持部材43は図1と同様に回転可能な送りねじ41に螺合して接続され、送りねじ41が回転することによりピストン4はY軸上を移動する。試料水及び測定水は、シリンジ1の両端に設けられている流通口7a、7bから吸引吐出される。
【0023】
(C)のシリンジポンプにおいて、ピストン4a,4bはその間隔が固定され、それぞれシリンジ1a,1b内に設けられ、円板カム50を間に挟んで対向して備えられている。円板カム50のカム軸は円の中心からずれた位置に設けられ、カム軸はシャフトを介してモータ52に接続されている。(図ではシャフトは面内方向に描かれているが、実際にはシャフトは紙面に垂直な方向となっている。)モータ52によって円板カム50がカム軸を中心として時計方向に180度回転したとき、ピストン4a,4bは円板カム50と一体となってY軸の下方向に移動する。これにより流通口7aから試料が吸引されるとともに、流通口7bから測定水が吐出される。
次いで、円板カム50がさらに180度回転したとき、ピストン4a,4bは一体となってY軸の上方向に移動する。これにより流通口7aから試料が吐出されるとともに、流通口7bから測定水が吸引される。
【0024】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、請求項の範囲内で実施可能である。例えば、検出装置として導電率検出部を用いたが、吸光光度計やpH計など、他の分析装置を用いることもできる。また測定対象物としてはTOCに限らず、全窒素量や全リン濃度を対象として測定することもできる。さらに、流体デバイスはガス透過膜を備えたガス分離部に限定されるものではなく、医療や化学反応に用いる輸液装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、液を送液するためのシリンジポンプ及びそれを用いた輸液装置や分析装置、マイクロデバイスに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例を示した図である。
【図2】シリンジポンプの他の実施例を示したものであり、(A)は2つのシリンジとその間の1つのピストンによって構成されているシリンジポンプ、(B)は1つのシリンジとその内部の1つのピストンによって構成されているシリンジポンプ、(C)はシリンジとピストンのセットを円板カムを挟むように2つ設けたシリンジポンプの概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1,1a,1b シリンジ
3a,3b ピストンヘッド
4,4a,4b ピストン
5 シリンジ駆動部
7a,7b 流通口
9,31 三方弁
11 流体デバイス
13 試料水導入側
15 ガス透過膜
17 試料水流路
19 測定水流路
21 測定導入側
23 測定水供給部
25 測定水排出側
27 導電率検出部
29 試料水排出側
33 イオン交換樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相互作用しながら流れる2つの流路をもつ流体デバイスの前記流路に液を同時に流すように、前記それぞれの流路に繋がる2つの流通口をもつシリンジと、前記シリンジ内のピストンを往復運動させる1つのシリンジ駆動部を備え、
前記流体デバイスの両流路における前記液の流れる量の比率は、前記ピストンが前記シリンジ駆動部と一体化して連動することにより一定に保たれていることを特徴とするシリンジポンプ。
【請求項2】
前記シリンジは前記ピストンを間に挟んで対向して2つ備えられ、
両ピストンが前記シリンジ駆動部と一体化して連動することにより、一方のシリンジの吸引(又は吐出)と他方のシリンジの吐出(又は吸引)は同期しているものである請求項1に記載のシリンジポンプ。
【請求項3】
前記ピストンは1個で、両シリンジに共用されるものである請求項2に記載のシリンジポンプ。
【請求項4】
前記シリンジは1個で、その内部は前記ピストンによって2つに隔てられ、その両端には前記液を流すための流通口と、前記ピストンを外部から駆動するための貫通穴がそれぞれ設けられ、
前記ピストンが前記シリンジ駆動部と一体化して連動することにより、前記シリンジの両流通口からの吸引(又は吐出)と吐出(又は吸引)は同期しているものである請求項1に記載のシリンジポンプ。
【請求項5】
試料水流路、測定水流路、及び試料水中のガスを測定水中へ透過させるためのガス透過膜によって構成される流体デバイスと、前記測定水中のガス濃度を検出するための導電率検出部とを備えたTOC測定装置において、
前記流体デバイスに試料水と測定水を流すシリンジポンプとして請求項1から4のいずれかに記載のシリンジポンプを用いることを特徴とするTOC測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−24840(P2007−24840A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211634(P2005−211634)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】