説明

シンチレータ

【課題】本発明の目的は、波長変換剤を用いることなく、放射線に対する高い感度を有するシンチレータ用の樹脂を提供することにある。
【解決手段】本発明は、下記式(1)で表される単位を有するポリエステルを含有する放射線検出器のシンチレータ用樹脂である。


(式(1)中Arは、ナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていても良い。Xは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数2〜20の脂環族炭化水素基または炭素数5〜20の芳香族炭化水素基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器のシンチレータ用樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックをシンチレータとする従来の放射線検出器は、添加された波長変換剤の発光により放射線を検出していたため、波長変換剤の劣化により検出感度が経時変化していた。波長変換剤は、強い可視光線や紫外線によって分解することが知られており、これらの影響により測定値にバラツキも多く発生していた。また、ベース素材で発生した紫外光を波長変換剤にて可視光へ変換する効率も低かった。この変換効率の低さは、放射線検出器の性能を示す指標の一つである分解能を大幅に劣化させていた。
また近年、ポリエチレンテレフタレートがシンチレータとして用いることができることが発見されている(非特許文献1)。しかし放射線に対する感度には改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−514742号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hidehito Nakamura et al., Radiation measurement with heat-proof polyethylene terephthalate bottle, Proc. R. Soc.A (2010) 466, 2847-2856
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、波長変換剤を用いることなく、放射線に対する高い感度を有するシンチレータ用の樹脂を提供することにある。また本発明の目的は、高感度のプラスチック製のシンチレータを提供することにある。また本発明の目的は、安価で、高感度で、検出感度が経時変化せず、大型化が可能な放射線検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、放射線検出器のプラスチック製のシンチレータについて鋭意検討した。その結果、ナフタレンジカルボン酸を主成分とする樹脂の成形品をシンチレータして用いると、放射線を高感度で検出できることを見いだし、本発明を完成した。
本発明は、下記式(1)で表される単位を有するポリエステルを含有する放射線検出器のシンチレータ用樹脂である。
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中Arは、ナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていても良い。Xは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の脂環族炭化水素基または炭素数5〜20の芳香族炭化水素基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)
【発明の効果】
【0009】
本発明のシンチレータ用樹脂によれば、金型設計を最適化することにより結晶化せず透明なシンチレータが得られる。本発明のシンチレータ用樹脂は、放射線検出器に用いるシンチレータを通常の射出成形機、押出成形機、加熱プレス成形機、真空成形機、ブロー成形機、射出ブロー成形機等で成形することができる。
本発明のシンチレータは、放射線を高感度で検出できる。本発明のシンチレータは放射線により可視光を発するので、波長変換剤を添加する必要がない。本発明のシンチレータの放射線に対する性能は、従来のプラスチック製シンチレータと同等以上である。本発明のシンチレータは、波長変換剤を用いないため放射線検出感度の経時変化がきわめて小さい。本発明のシンチレータは、波長変換剤による光の損失が無いため、放射線検出器の感度と分解能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】PEN−1プレート(実施例1)の光量の測定結果である。
【図2】BC−408(比較例1)の光量の測定結果である。
【図3】PET−1プレート(比較例2)の光量の測定結果である。
【図4】PEN−1プレート(実施例1)、BC−408(比較例1)、PET−1プレート(比較例2)の波長分布の測定結果である。
【図5】本発明の放射線検出器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<シンチレータ用樹脂>
本発明のシンチレータ用樹脂は、下記式(1)で表される単位を有するポリエステルを含有する。
【0012】
【化2】

【0013】
Arは、ナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていても良い。置換する炭素数1〜6のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基などが挙げられる。置換するハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
Xは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の脂環族炭化水素基または炭素数5〜20の芳香族炭化水素基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。
炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基として、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基などの炭素数2〜20のアルキレン基が挙げられる。下記式(2)で表される基が好ましい。
【0014】
【化3】

【0015】
(但しnは2〜6の整数である。)
炭素数3〜20の脂環族炭化水素基として、シクロブチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘキシレンビス(メチレン)基、メチルシクロヘキシレン基、シクロオクチレン基などの炭素数3〜20のシクロアルキレン基が挙げられる。また分子内に−CH−O−基を有する下記式(3)で表されるジオールの残基が挙げられる。
【0016】
【化4】

【0017】
炭素数5〜20の芳香族炭化水素基として、フェニレン基、フェニレンビス(メチレン)基、メチルフェニレン基、ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基などのアリーレン基が挙げられる。
Xは置換基を有していてもよく、置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1〜6のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子が挙げられる。
式(1)で表される単位として、下記式(4)で表される単位が好ましい。
【0018】
【化5】

【0019】
(式中Arはナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、nは2〜6の整数である。)
本発明の樹脂として、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート、ポリプロピレンナフタレンジカルボキシレート、ポリブチレンナフタレンジカルボキシレートなどが挙げられる。
式(1)で表される単位を有するポリエステルは、ナフタレンジカルボン酸またはアントラセンジカルボン酸を主たる酸成分とする。
ナフタレンジカルボン酸成分は、2,6−ナフタレンジカルボン酸、その低級アルキルエステル誘導体、2,7−ナフタレンジカルボン酸、その低級アルキルエステル誘導体が好ましい。主たるとは、全ジカルボン酸成分に対して70モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%である。
【0020】
全酸成分に対して30モル%以下の範囲で共重合可能な成分として、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、またテレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テレラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;グリコール酸、p−オキシ安息香酸等のオキシ酸等が挙げられる。
式(1)で表される単位を有するポリエステルは、炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の脂環族炭化水素基または炭素数5〜20の芳香族炭化水素基を有するジオールを主たるジオール成分とする。主たるとは、全ジオール成分に対して70モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%である。
【0021】
他のジオール成分も、炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の脂環族炭化水素基または炭素数5〜20の芳香族炭化水素基を有するジオールから選ばれる。従って、例えば主たるジオール成分が脂肪族炭化水素基を有するジオールの場合、他のジオール成分は、脂肪族炭化水素基を有するジオール、脂環族炭化水素基を有するジオール、芳香族炭化水素基を有するジオール、またはこれらの混合物から選ばれる。
式(1)で表される単位を有するポリエステルは、炭素数2〜6のアルキレングリコールを主たるジオール成分とすることが好ましい。グリコール成分は70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%が炭素数1〜6のアルキレングリコールで構成されることが好ましいが、30モル%以下の範囲で、例えば、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAが共重合されていてもよい。
式(1)で表される単位を有するポリエステルは、エステル交換法あるいは直接エステル化法のいずれの方法でも製造することができる。エステル交換法にて製造する場合はエステル交換反応触媒を必要とする。
【0022】
エステル交換反応触媒としては特に限定されず、一般にポリエチレンテレフタレートのエステル交換反応触媒として広く用いられるマンガン化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、チタン化合物、亜鉛化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物、セリウム化合物、リチウム化合物等が挙げられる。また、整色剤としても作用するエステル交換反応触媒として、コバルト化合物が含有されていてもよい。
また式(1)で表される単位を有するポリエステルを直接エステル化法にて製造する場合は、上記エステル交換法の場合のようにエステル交換反応触媒を使用しないため触媒を失活させる必要はないものの、安定剤としてリン化合物の残存量が全酸成分に対して5〜100ミリモル%となるよう添加することが好ましい。リン化合物の残存量が上記範囲にあれば、耐熱性および色相の点で好ましい。
【0023】
重縮合触媒としてはアンチモン化合物および/またはゲルマニウム化合物が好ましく用いられる。アンチモン化合物としては酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモン酸グリコレート等があげられるが中でも三酸化アンチモンが好ましく用いられる。アンチモン化合物が含有される場合、アンチモン化合物の含有量としては三酸化アンチモンに換算して全酸成分に対して5〜40ミリモル%であることが好ましい。アンチモン化合物の含有量が5ミリモル%未満の場合重合活性が低く、重縮合時間が長くなり生産サイクルの低下等の経済面で好ましくないばかりでなく、副反応生成物の増加及び色相の悪化等の品質面でも劣るため好ましくない。アンチモン化合物の含有量が40ミリモル%を超える場合、アンチモン化合物の析出に起因する黒色化等、色相面及び分解反応の促進による副反応生成物が多くなるという点で好ましくない。
【0024】
ゲルマニウム化合物としては二酸化ゲルマニウムが好ましく用いられる。ゲルマニウム化合物が含有される場合、ゲルマニウム化合物の含有量としては全酸成分に対して15〜50ミリモル%であることが好ましい。15ミリモル%未満の場合重合活性が低く、重縮合時間が長くなり生産サイクルの低下等の経済面で好ましくないばかりでなく、副反応生成物の増加及び色相の悪化等の品質面でも劣るため好ましくない。ゲルマニウム化合物の含有量が50ミリモル%を超える場合、分解反応の促進による副反応生成物が多くなるという点で好ましくない。
【0025】
式(1)で表される単位を有するポリエステルの固有粘度は、好ましくは0.4〜0.8dl/g、より好ましくは0.5〜0.7dl/gである。
固有粘度は、樹脂0.6gをフェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)混合溶媒50ml中に加熱溶融した後、室温に冷却し、得られた樹脂溶液の粘度を、オストワルド式粘度管を用いて35℃の温度条件で測定し、得られた溶液粘度のデータから当該樹脂の固有粘度(IV)を求める。
式(1)で表される単位を有するポリエステルを得るためには、固相重合における反応温度を230℃以下とすることが好ましい。固相重合反応温度が230℃を超えて実施される場合、得られるポリマーの結晶化度が高くなり、成形品の外観を損ない、核剤として作用するため成形品の白化等をもたらすため好ましくない。
【0026】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂は、式(1)で表される単位を有するポリエステルと他の熱可塑性樹脂との樹脂組成物であっても良い。
【0027】
他の熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イフタレート)、ポリトリメチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリトリメチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリトリメチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリトリメチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)などが挙げられる。またポリエーテルサルホンなどが挙げられる。
【0028】
樹脂組成物中の式(1)で表される単位を有するポリエステルの割合は、樹脂組成物100重量部当たり、少なくとも15重量部以上、好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部以上であることが好ましい。本発明の樹脂は、式(1)で表される単位を有するポリエステルのみを含有する樹脂であってもよいので、式(1)で表される単位を有するポリエステルの割合の上限は全体の100重量%である。
【0029】
<シンチレータ>
本発明のシンチレータは、前記樹脂を成形したものである。成形は、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、真空成形、ブロー成形、射出ブロー成形などの方法で行なうことができる。
【0030】
<放射線検出器>
本発明の放射線検出器は、シンチレータ、光電変換デバイスおよび電子アンプを含む。シンチレータは前述の樹脂を成形したものである。光電変換デバイスとして、光電子増倍管、CCD素子、シリコンフォトセルなどが挙げられる。本発明の放射線検出器は電子アンプの他、演算器および表示器などの電子機器を含むことができる。
本発明の放射線検出器は、電離放射線を受けたシンチレータから出た光を、光電子増倍管などの光電変換デバイスで測定する。光電変換デバイスは電子アンプなどの電子機器に接続され、光電変換デバイスが生成した電気信号を演算し、放射線量を測定する。
【0031】
本発明の放射線検出器は、従来不可能であった多様な形状に対応でき、かつ大量生産可能な樹脂製シンチレータとして用いることができるので、放射線を使用した非破壊検査装置、地下水脈の流路追跡、ガンマー線、電子線滅菌装置のモニターへの応用や空港、港湾設備、鉄道の駅などにおける違法な放射性物質の検査に広く用いることができる。また原子力発電所の作業者の放射性物質による汚染をリアルタイムで測定するウォークスルー汚染モニター、トラックや作業車の放射性物質による汚染をリアルタイムで測定するドライブスルー車両モニター、航空機、人工衛星、宇宙ステーションなどに搭載する宇宙線モニター、小部屋にひとが入り内部被爆の有無を判断するホールボディカウンター、緊急時用背面汚染検査ベッドなどに適用できる。また放射線カメラなどのがん診断装置、馬や牛などの大型動物の診断装置、病院、各種研究機関などで保有する放射性物質の保管管理の監視にも用いることができる。
【0032】
本発明の放射線検出器を図5で説明する。放射性物質(4)からの放射線(5)は、遮光膜(6)を通ってサーベイメータ検出部(12)に入り、シンチレータ(1)が蛍光(7)を発生する。蛍光(7)は、反射板(8)により光電変換デバイス(2)に導入され、蛍光が電気パルスに変換される。電気パルスは、サーベイメータ本体(13)内の電子アンプ(3)により増幅され、表示器(10)により表示される。
【0033】
<シンチレータとして用いる方法>
本発明は、式(1)で表される単位を有するポリエステルを含有する樹脂を放射線検出器のシンチレータとして用いる方法を包含する。
【実施例】
【0034】
<実施例1>放射線検出器
(PEN−1プレートの製造)
ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル100重量部とエチレングリコール51重量部を酢酸コバルト四水和物0.010重量部(10ミリモル%)、酢酸マンガン四水和物0.030重量部(30ミリモル%)の存在下、常法によりエステル交換反応し、メタノール溜出20分後に三酸化アンチモン0.012重量部(10ミリモル%)を添加し、エステル交換反応終了前に正リン酸0.020重量部(50ミリモル%)を添加し、次いで295℃、高真空下重縮合反応を行い、ナフタレンジカルボキシレートプレポリマーを得た。更に221℃、滞留時間18時間で固相重合を行い固有粘度0.65dl/g、結晶化度37%のPEN−1樹脂を得た。
得られたPEN−1樹脂を射出成形して125mm×150mm×6mm,50mm×50mm×5mmサイズのPEN−1プレートを得た。
(放射線検出感度の測定)
PEN−1プレートをオプティカルグリス(Saint−Gobain社製;BC−630)で、光センサーである光電子増倍管(浜松ホトニクスス社製H7195)に光学接続し放射線検出器を構築した。得られた放射線検出器により、207Bi放射線源から放出される放射線を測定した。図1に光量の測定結果を示す。
【0035】
<比較例1>
PEN−1プレートの代わりにプラスチックシンチレーターであるSaint−Gobain社製BC−408[C10]のプレートを用いる以外は実施例1と同じ実験を行った。図2に光量の測定結果を示す。発光強度の最大値を実施例1と比較し表2に示した。
【0036】
<比較例2>
南亜(株)製PET樹脂(製品番号P115、以下PET−1樹脂という)を射出成形して125mm×150mm×6mmサイズのPET−1プレートを得た。PEN−1プレートの代わりにPET−1プレートを用いる以外は実施例1と同じ実験を行った。図3に光量の測定結果を示す。発光強度の最大値を実施例1と比較し表2に示した。
【0037】
<実施例1と比較例1〜2との対比>
表1は、PEN−1,BC−408,PET(P115)の特性比較である。BC−408は、波長変換剤を含有し最大蛍光波長が425nmを示す。BC−408は、波長変換剤を含有するので高価である。また、波長変換剤の劣化により、寿命も短い。これに対比し、PEN−1は波長変換剤を含有しなくても最大蛍光波長425nmを示す。
【0038】
【表1】

【0039】
図1〜3を対比すると明らかなように、PEN−1プレート(実施例1)から放出される光量は、BC−408(比較例1)の1.05倍、PET−1プレート(比較例2)の4.70倍であることが分かる。つまり波長変換剤を添加しなくても高い光量(〜10,500 photon/MeV)が生成されることが実証された。図中に見えるピークは、207Bi放射線源から放出された976keVの内部転換電子を示している。
図4に波長分布の測定結果を示す。図4から明らかなようにPEN−1プレート(実施例1)から放出される光の波長をスペクトロメーター(日立ハイテク社製F−2700)を用いて測定した。その結果、PEN−1プレートからの光は、プラスチックシンチレーター(比較例1)からの光と、ほぼ同じ波長(〜425ナノメートル)であることが分かる。このPEN−1から放出される光の波長領域は、光電子増倍管などの光センサーの受光感度とよく一致する。そのため、放射線を高い検出効率で検出することが可能である。
【0040】
<実施例2>放射線検出器(PEN−1/PBN−1ブレンド)
(PBN−1の製造)
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル315.0部、1,4−ブタンジオール200.0部にテトラ−n−ブチルチタネート0.062部をエステル交換反応槽に入れ、反応槽が210℃となるように昇温しながら150分間エステル交換反応を行った。ついで得られた反応生成物を重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。重縮合反応は常圧から0.13kPa(1Torr)まで75分かけて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度260℃まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.13kPa(1Torr)の状態を維持して110分間重縮合反応を行った。110分が経過した時点で重縮合反応を終了してPBNをストランド状に抜き出し、水冷しながらカッターを用いてチップ状に切断した。また、得られたPBNを213℃、0.13kPa(1Torr)以下の条件にて8時間固相重合しPBN−1樹脂を得た。
【0041】
(PEN−1/PBN−1ブレンドプレートの製造)
実施例1で使用したPEN−1樹脂とPBN−1樹脂を重量比が75/25になるように混合し、射出成形機(住友重機械工業(株)SG260M−HP)を用いて125mm×150mm×6mmサイズのプレートを得た。
実施例1同様に放射線検出感度を測定し、発光強度の最大値を実施例1と比較し表2に示した。
【0042】
<実施例3>放射線検出器(PEN−1/PET−1ブレンド)
(PEN/PETブレンドプレートの製造)
実施例1で使用したPEN−1樹脂と比較例1で使用したPET−1樹脂を、PEN−1樹脂/PET−1樹脂が75/25(重量比)になるように混合し、射出成形機(住友重機械工業(株)SG260M−HP)を用いて125mm×150mm×6mmサイズのPEN−1/PET−1ブレンドプレートを得た。
実施例1同様に放射線検出感度を測定し、発光強度の最大値を実施例1と比較し表2に示した。
【0043】
<実施例4>
(PEN−1/PET−1ブレンドプレートの製造)
実施例1で使用したPEN−1樹脂と比較例1で使用したPET−1樹脂を重量比が50/50になるように混合し、射出成形機(住友重機械工業(株)SG−150U)を用いて125mm×150mm×6mmサイズのPEN−1/PET−1ブレンドプレートを得た。
実施例1同様に放射線検出感度を測定し、発光強度の最大値を実施例1と比較し表2に示した。
【0044】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のシンチレータ用樹脂は、種々の放射線検出器に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 シンチレータ
2 光電変換デバイス
3 電子アンプ
4 放射性物質
5 放射線
6 遮光膜
7 蛍光
8 反射板
9 レートメータ
10 表示器
11 設定器
12 サーベイメータ検出部
13 サーベイメータ本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される単位を有するポリエステルを含有する放射線検出器のシンチレータ用樹脂。
【化1】

(式(1)中Arは、ナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていても良い。Xは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の脂環族炭化水素基または炭素数5〜20の芳香族炭化水素基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)
【請求項2】
式(1)中Arはナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、Xは下記式(2)で表される単位である請求項1記載の樹脂。
【化2】

(但しnは2〜6の整数である。)
【請求項3】
樹脂が、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート、ポリプロピレンナフタレンジカルボキシレートおよびポリブチレンナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の樹脂。
【請求項4】
樹脂が、式(1)で表される単位を有するポリエステルおよび他の熱可塑性樹脂を含有する請求項1記載の樹脂。
【請求項5】
他の熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエーテルサルホンからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項4記載の樹脂。
【請求項6】
樹脂中の式(1)で表される単位を有するポリエステルの含有量が、樹脂100重量部当たり、15重量部以上である請求項4記載の樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂からなるシンチレータ。
【請求項8】
シンチレータ、光電変換デバイスおよび電子アンプを含み、シンチレータが下記式(1)で表される単位を有するポリエステルを含有する樹脂からなることを特徴とする放射線検出器。
【化3】

(式(1)中Arは、ナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていても良い。Xは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の脂環族炭化水素基または炭素数5〜20の芳香族炭化水素基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)
【請求項9】
式(1)中Arはナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、Xは下記式(2)で表される単位である請求項8記載の放射線検出器。
【化4】

(但しnは2〜6の整数である。)
【請求項10】
下記式(1)で表される単位を有するポリエステルを含有する樹脂を放射線検出器のシンチレータとして用いる方法。
【化5】

(式(1)中Arは、ナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。
Xは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数2〜20の脂環族炭化水素基または炭素数5〜20の芳香族炭化水素基であり、これらは炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。)
【請求項11】
式(1)中Arはナフタレンジイル基またはアントラセンジイル基であり、Xは下記式(2)で表される単位である請求項10記載の方法。
【化6】

(但しnは2〜6の整数である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−32479(P2013−32479A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−284736(P2011−284736)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【特許番号】特許第5062644号(P5062644)
【特許公報発行日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】