説明

シート状物

【課題】透気性、撥水性及び撥油性に優れ且つ環境汚染物質を含まないシート状物を提供すること。
【解決手段】本発明のシート状物は、A)シート状基材の表面に、n−ヘプタンに対する接触角が15度以上の撥油剤を固着させ、更に該撥油剤の固着部の表面に、水に対する接触角が70度以上の撥水剤を固着させてなるか、又はB)シート状基材の表面に、n−ヘプタンに対する接触角が15度以上の撥油剤と水に対する接触角が70度以上の撥水剤とを混合してなり且つ炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない混合物を固着させてなる。前記A)及びB)何れの形態のシート状物も、透気抵抗度が10秒以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透気性、撥水性及び撥油性を有するシート状物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐水性(水の浸透を抑制する性質)あるいは撥水性(水をはじく性質)や耐油性(油の浸透を抑制する性質)あるいは撥油性(油をはじく性質)を有するシート状物は、例えば、防汚性能が求められる各種衣料や産業用資材、食品の包装材料等、種々の用途に用いられている。斯かるシート状物として、例えば特許文献1には、基材の少なくとも片面に、デンプンとアルキルケテンダイマー及び/又はアルケニル無水コハク酸を含む塗工層を設けてなる耐油性シート状物が記載されている。特許文献1に記載のシート状物は、透気抵抗度が低く且つ耐油性に優れ、特に、揚げ物等の食用油を多く含む食品の包装材料として好適なものであるが、用途によっては、撥水性や撥油性の点で改良の余地があった。
【0003】
また、撥油性や撥水性を有するシート状物としては、シリコン樹脂加工紙、パラフィン紙等の撥油性を有するシートと紙とを貼り合わせたものが知られており(例えば特許文献2及び3参照)、更には、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコン等からなる樹脂シートを単独で用いたものや、該樹脂シートと紙等の支持体とを貼り合わせたもの等も知られている。しかし、これらのシート状物は、ある程度の撥水性及び撥油性を有しているものの、透気性に乏しいため、食品の包装材料等の用途には不向きであった。透気性に乏しい包装材料で食品を包んで略密封状態としたものをレンジ等で加熱すると、食品から発生した水蒸気が、包装材料によって包まれて形成されている空間内に充満し、それによって包装材料が破裂したり、あるいは水蒸気の結露によって発生した水が食品に付着することで、食品の味や食感が損なわれたりするおそれがある。また、特に前記樹脂シートを用いたシート状物は、油分を通過させることは少ないものの、該シート状物によって包まれている物(例えば食用油を多く含む食品)が該シート状物に吸着してしまう場合があり、用途が限定的であった。
【0004】
また従来、フッ素系有機化合物を用いることによって優れた撥水性及び撥油性が得られることが知られており、特許文献4〜8には、利用可能なフッ素系有機化合物の一例として、炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物が挙げられている。炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物として、例えば特許文献6には、アクリル酸又はメタクリル酸のパーフルオロアルキルエステルと、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルと、アクリル酸又はメタクリル酸のアミノアルキルエステルとの共重合体の水性分散物が記載されており、また特許文献7には、アクリル酸又はメタクリル酸のパーフルオロアルキルエステルと、ビニル基を含有するポリ有機シロキサン及びイソシアネート基又はブロックイソシアネート基を含有するビニル単量体との共重合体を含む撥水撥油剤が記載されており、また特許文献8には、炭素数1〜21のフルオロアルキル基である含フッ素単量体とメルカプト官能性オルガノポリシロキサンを含む含フッ素重合体が紹介されている。
【0005】
昨今、フッ素系有機化合物の一部に、生活環境や生物に悪影響を及ぼす可能性のある化合物があることが判明しており、該化合物として、パーフルオロオクタン酸(以下、PFOAともいう)、パーフルオロオクタンスルホン酸(以下、PFOSともいう)等が知られている。PFOA及びPFOSは、何れも炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−307363号公報
【特許文献2】特開2006−298414号公報
【特許文献3】特開2006−43979号公報
【特許文献4】特開平7−126428号公報
【特許文献5】特許第2886814号公報
【特許文献6】米国特許第5247008号明細書
【特許文献7】米国特許第5068295号明細書
【特許文献8】特表2008−542449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
消費者からは、PFOAやPFOS等の環境汚染物質を含まない製品が要望されているが、そのような製品は、PFOAやPFOSを使用した製品に比して、撥水性及び撥油性に劣るのが現状であった。透気性、撥水性及び撥油性に優れ且つ環境汚染物質を含まない製品は未だ提供されていない。
【0008】
従って、本発明の課題は、透気性、撥水性及び撥油性に優れ且つ環境汚染物質を含まないシート状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、PFOAやPFOS等の環境汚染物質を用いずに、シート状物に優れた撥水性及び撥油性を付与する方法について種々検討した結果、炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない、特定の撥水剤及び撥油剤を、A)撥油剤、撥水剤の順でシート状基材の表面に重ねて固着させるか、又はB)両剤の混合物をシート状基材の表面に固着させることにより、PFOAやPFOSを使用した場合に比して遜色のない撥水性及び撥油性をシート状物に付与し得ることを知見した。
【0010】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、シート状基材の表面に、n−ヘプタンに対する接触角が15度以上で且つ炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない撥油剤を固着させ、更に外撥油剤の固着部の表面に、水に対する接触角が70度以上で且つ炭素数が7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない撥水剤を固着させてなり、且つ透気低硬度が10秒以下であるシート状物を提供することにより前記課題を解決したものである。
【0011】
また本発明は、前記知見に基づきなされたもので、シート状基材の表面に、n−ヘプタンに対する接触角が15度以上の撥油剤と水に対する接触角が70度以上の撥水剤とを含有してなり、且つ炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない混合物を固着させてなり、且つ透気低硬度が10秒以下であるシート状物を提供することにより前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透気性、撥水性及び撥油性に優れ且つPFOAやPFOS等の環境汚染物質を含まないシート状物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のシート状物について、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のシート状物は、シート状基材の表面に特定の撥油剤及び撥水剤を固着させてなるもので、該撥油剤及び撥水剤は何れも「炭素数7以上のパーフルオロアルキル基」(以下、≧C7Rf基ともいう)を有する化合物、即ち一般式(Cn2n+1−)で表されるパーフルオロアルキル基においてnが7以上のものを有する化合物を実質的に含有していない。
【0014】
本発明のシート状物の主たる特徴の一つとして、PFOAやPFOS等の、≧C7Rf基を有する化合物を実質的に含有せずに、優れた撥水性及び撥油性を発現し得る点が挙げられる。PFOAにおけるパーフルオロアルキル基の炭素数は7(前記一般式においてn=7)、PFOSにおけるパーフルオロアルキル基の炭素数は8(前記一般式においてn=8)である。PFOA及びPFOSは、何れも界面活性剤であり、強力な撥水性及び撥油性を有することから、繊維や紙等の撥水・撥油加工用、防汚加工用等に幅広く用いられているものであるが、近年、難分解性で生体蓄積性や毒性が懸念されており、これらの類縁物質を含めて使用が規制されつつある。本発明のシート状物は、PFOA及びPFOS並びにこれらの類縁物質を実質的に含有しない特定の撥油剤及び撥水剤を、特定の固着形態でシート状基材の表面に固着させることによって、PFOAやPFOS等を使用した場合に比して遜色のない撥水性及び撥油性を発現可能になされている。
【0015】
本明細書において、「炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない」とは、撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物(シート状基材の表面に固着している物質)に含有されている、≧C7Rf基(炭素数7以上のパーフルオロアルキル基)を有する化合物の量(該化合物が2種類以上含有されている場合には、それらの総量)が、高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定したときに100ng/g未満であり、好ましくは10ng/g未満である場合を意味する。尚、シート状基材の表面に固着している物質は、適当な溶媒を用いて抽出することができ、この抽出物を前記LC−MSの測定対象とすることができる。
【0016】
炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物としては、例えば、PFOA及びPFOS並びにこれらの塩(アンモニウム塩、アルカリ金属塩等)が挙げられる。また、経済産業省のホームページに掲載されているPFOS類縁化合物(PFOS related substance)も、本発明でいう炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物である〔“PFOS類縁化合物の例示(96物質リスト)"、[online]、PFOS及びPFOS類縁化合物の調査(平成19年5月〜6月実施)、[平成20年12月17日検索]、インターネット<URL:http://www.meti.go.jp/policy/chemical#management/int/files/pops/96list.pdf>〕。本発明に係る撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物(シート状基材の表面に固着している物質)は、これらの化合物を実質的に含有していない。
【0017】
本発明に係る撥油剤は、炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していないことに加えて、n−ヘプタンに対する接触角が15度以上、好ましくは30度以上である。n−ヘプタンに対する接触角の値が大きいほど、撥油性が強く、n−ヘプタンに対する接触角が15度未満であると撥油性が不十分となるので好ましくない。
【0018】
また、本発明に係る撥水剤は、炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していないことに加えて、水に対する接触角が70度以上、好ましくは90度以上である。水に対する接触角の値が大きいほど、撥水性が強い。水に対する接触角が70度未満であると撥水性が不十分となるので好ましくない。
【0019】
<接触角の測定方法>
スライドガラス(厚さ0.9〜1.5mm)の一面を95%エタノールで洗浄して油分を除去した後、乾燥させて水分を除去する。該一面に、測定対象の撥水剤を固形分換算で0.05g/m2塗布し、乾燥させる。この撥水剤塗布面に、一般的な接触角計(例えば、FACE接触角計CA−D型:協和界面科学(株)製)を用いて、純水(半径1mmの水滴)を滴下し、10秒後に接触角を測定する(23℃,60%RH)。これを違う位置で5回測定し、その平均値を得る。更に新たなスライドガラスについても同様に処理・測定を行って(合計5回)、5つの平均値を得る。それら5つの平均値をさらに平均することで得られた平均値を、水に対する接触角とする。また、測定対象が撥油剤の場合は、その塗布面に滴下するものをn−ヘプタン(半径1mmのn−ヘプタンの液滴)とする以外は前記と同様にして接触角の平均値を得、これをn−ヘプタンに対する接触角とする。
【0020】
n−ヘプタンに対する接触角が15度以上の撥油剤としては、水と相溶性を有する有機溶剤を溶媒又は分散媒としたものが好ましく用いられ、例えば、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。前記撥油剤として市販品を用いることもでき、例えば、商品名「AG−E060」、旭硝子(株)製造等を用いることができる。
【0021】
水に対する接触角が70度以上の撥水剤としては、水を溶媒又は分散媒としたものが好ましく用いられ、例えば、脂肪酸誘導体、三価クロム酸錯塩、炭酸ジルコニウム塩、パラフィンワックス、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、アルキルケテンダイマー(AKD)等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。前記撥水剤として市販品を用いることもでき、例えば、商品名「キロンC」、デユポン(株)製造等を用いることができる。
【0022】
特に、n−ヘプタンに対する接触角が15度以上の撥油剤として、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物、とりわけ炭素数が6のパーフルオロアルキル基を有する化合物を用い、且つ水に対する接触角が70度以上の撥水剤として、三価クロム酸錯塩を用いることが好ましい。
【0023】
前記撥油剤の含有量は、シート状物の全質量に対して、好ましくは0.05〜2.0質量%、更に好ましくは0.4〜0.8質量%である。また、前記撥水剤の含有量は、シート状物の全質量に対して、好ましくは0.0001〜1.0質量%、更に好ましくは0.05〜0.6質量%である。
【0024】
本発明のシート状物は、前記の撥油剤及び撥水剤(特定溶媒に対する接触角が特定範囲にあり且つ炭素数が7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない、撥油剤及び撥水剤)を特定の形態で含有することによって、優れた撥水性及び撥油性の発現を可能にしている。即ち、本発明のシート状物は、A)シート状基材の表面に、前記撥油剤を固着させ、更に該撥油剤の固着部の表面に、前記撥水剤を固着させてなるか、又はB)シート状基材の表面に、前記撥油剤と前記撥水剤との混合物を固着させてなる。
【0025】
前記A)の形態のシート状物においては、シート状基材の表面に撥油剤が膜状に固着し、その被膜の表面に、撥水剤が膜状に固着していると推測される。特に撥油剤として、上述の、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物を用いた場合には、該化合物の疎水基(炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基)が大き過ぎず且つ適度な疎水性を有していること等により、シート状基材の表面を被覆する該化合物の撥油性被膜の所々に、疎水基の非存在部分である、孔が発生し、斯かる孔の存在によって、該撥油性被膜の表面に固着された撥水剤が、該孔を塞ぐように撥水性被膜を形成し、これにより優れた撥水性及び撥油性が発現されるものと推測される。
【0026】
また、撥油剤及び撥水剤を前記A)の形態とは逆に固着させた場合、即ちシート状物が、シート状基材の表面に、前記撥水剤を固着させ、更に該撥水剤の固着部の表面に、前記撥油剤を固着させてなる場合は、後から固着される撥油剤が、先に固着している撥水剤の固着部表面上ではじかれてしまうため、撥油剤の被膜の形成が困難になり、撥水性及び撥油性が不十分となるおそれがある。
【0027】
撥油剤、撥水剤をシート状基材に固着させる方法は特に限定されず、例えば、各種コーターやスプレー等の塗工手段を用いて常法に従って撥油剤、撥水剤をシート状基材に塗工し乾燥する方法;所定濃度の撥油剤あるいは撥水剤の含有液にシート状基材を浸漬し乾燥する方法(いわゆる含浸法)等を利用することができ、これらの方法を適宜組み合わせても良い。
【0028】
撥油剤、撥水剤をシート状基材に固着させる際には、これらの剤を単独でシート状基材に付与しても良く、適当な溶媒に溶解又は分散させたものをシート状基材に付与しても良い。後者の場合、溶媒としては、水又は水と相溶性を有する有機溶媒を用いることが好ましい。水と相溶性を有する有機溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
前記Aの形態において、シート状基材の表面に固着させる撥油剤の量(製造時における撥油剤の付与量)は、固形分換算で、好ましくは0.05〜1.0g/m2、更に好ましくは0.4〜0.8g/m2であり、また、該撥油剤の固着部の表面に固着させる撥水剤の量(製造時における撥水剤の付与量)は、固形分換算で、好ましくは0.0001〜0.5g/m2、更に好ましくは0.05〜0.3g/m2である。撥油剤及び撥水剤の固着量が少なすぎると、撥水性及び撥油性が不十分となり、撥油剤及び撥水剤の固着量が多すぎると、撥水性及び撥油性の性能が頭打ちとなり、コスト的に不利益となるので好ましくない。
【0030】
また、前記B)の形態のシート状物は、別途調製した前記撥油剤と前記撥水剤との混合物を、公知の塗工・含浸手段を用いて常法に従ってシート状基材の表面に固着させることで得られる。前記混合物における撥油剤と撥水剤との質量比(撥油剤/撥水剤)は、前記混合物の溶液の安定性の観点から、好ましくは0.01〜5.0、更に好ましくは0.02〜2.5である。前記混合物には、撥油剤及び撥水剤以外の成分として、必要に応じ、撥油剤及び撥水剤を溶解又は分散させる溶媒として、例えばアルコール、トルエン、n−ヘキサン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を必要最小量含有させることができる。
【0031】
前記B)の形態において、シート状基材の表面に固着させる前記混合物の量(製造時における前記混合物の付与量)は、固形分換算で、好ましくは0.05〜1.5g/m2、更に好ましくは0.3〜1.3g/m2である。
【0032】
前記A)及びB)の形態において、撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物は、シート状基材の片面にのみ固着させても良く、両面に固着させても良い。例えば、シート状基材の片面にヒートシール剤の塗工等の加工処理を施す場合には、撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物は、該片面に固着させず、該片面とは反対側の面に固着させることが好ましい。その理由は、撥油剤や撥水剤の固着面は、ヒートシール剤の塗工等が困難になるためである。
【0033】
また、撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物は、シート状基材の片面において、その全面に固着させても良く、一部に固着させても良い。通常、撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物は、シート状基材の片面又は両面の全面に略均一に膜状に固着される。
【0034】
また、シート状基材の表面に印刷を施す場合には、撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物をシート状基材に固着させる前に、該印刷を実施することが好ましい。撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物をシート状基材に固着させた後にその固着部に印刷を施すことは、印刷インキや印刷の際に使用される湿し水がはじかれるために良好な印刷を施しにくくなるので好ましくない。
【0035】
本発明のシート状物を構成するシート状基材としては、該シート状物に良好な透気性を付与する観点から、透気性を有しているものが好ましく用いられる。具体的には、透気抵抗度が10秒以下、特に5秒以下のシート状基材が好ましい。本発明のシート状物は、斯かるシート状基材の表面に撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物を固着させて構成されているものであり、その透気抵抗度は好ましくは10秒以下、更に好ましくは5秒以下である。
【0036】
前記透気抵抗度の測定は、JIS P−8117(1998)のガーレー試験機法に則り、ガーレー式デンソメータ((株)東洋精機製、型式G−B2C)を用いて、室温下で、100mlの空気の透過時間(単位;s/100ml)を測定する。1つのシート状基材あるいはシート状物に対して、種々の異なる位置について5点の測定を行い、その平均値を前記透気抵抗度とした。
【0037】
前記シート状基材としては、前記の撥油剤、撥水剤あるいはこれらの混合物の塗工・含浸が可能なものが用いられ、例えば、紙、織布、不織布、あるいはこれらの2種類以上を貼り合わせた積層シート等が挙げられる。
【0038】
前記シート状基材は、繊維を含んで構成されていることが好ましい。シート状基材における繊維の含有量は、シート状基材の全質量に対して、好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60〜100質量%である。シート状基材の構成繊維としては、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプ;麻、竹、藁、ケナフ、楮、三椏や木綿等の非木材パルプ;カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース系繊維;ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維;半合成繊維、アルミナ繊維、シリケート繊維、アルミナシリケート繊維、ロックウール、硝子繊維等の無機繊維;ミクロフィブリル化パルプ、羊毛等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
前記シート状基材として紙を用いる場合、紙としては、前記木材パルプを主体としたもの(木材パルプの含有量が40質量%以上のもの)が好ましい。紙には、繊維以外の成分として、必要に応じて湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、接着剤、防黴剤、各種の製紙用填料、サイズ剤、着色剤、定着剤、歩留まり向上剤、スライムコントロール剤等が含有されていても良い。紙は、公知の湿式抄紙法によって得られ、必要に応じ、抄紙工程中あるいは抄紙工程後に、カレンダー処理、スーパーカレンダー処理、ソフトニップカレンダー処理等の加工を行うことで、表面性や厚さを調整しても良い。
【0040】
前記シート状物としては、前記した紙以外にも、ポリエチレンやポリプロピレン等を使用した不織布を使用しても構わない。不織布としては、湿式法で製造された湿式不織布であっても良く、乾式法で製造された乾式不織布であっても良い。また、ナイロン、テトロン、レーヨン、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維、半合成繊維、再生繊維あるいは羊毛、木綿等の天然繊維を単独で、あるいは混合して寄りあわせた繊維を織りこんだ織布を使用しても構わないし、これらを単独で、あるいは組み合わせて使用しても構わない。
【0041】
以上の構成を有する本発明のシート状物は、透気性、撥水性及び撥油性に優れ且つPFOAやPFOS等の環境汚染物質を含まないため、防汚性能が求められる各種衣料や産業用資材(例えばスーツ、靴、鞄、シーツ、手術着等)や食品の包装材料等、幅広い用途に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の例中、特に断らない限り「部」は、「質量部」を意味し、また、シート状基材の透気抵抗度並びに撥油剤及び撥水剤の接触角は、それぞれ上述した測定方法に従って測定されたものである。
【0043】
〔実施例1〕
シート状基材として、10デニールの木綿繊維で平織りにした織布(坪量50g/m2、透気抵抗度0.1秒)を用意し、該織布の片面の全面に、ワイヤーバーコーターを用いて、撥油剤〔商品名「AG−E060」、旭硝子(株)製、炭素数6のフッ素系有機化合物(パーフルオロアルキル基の炭素数5)〕30部とイソプロピルアルコール10部との混合物を固形分換算で0.5g/m2塗工し、次いで該片面の全面に、ワイヤーバーコーターを用いて、撥水剤(商品名「キロンC」、デュポン(株)製、三価クロム酸錯塩)を固形分換算で0.05g/m2塗工してシート状物を得、これを実施例1のサンプルとした。尚、前記AG−E060及び前記キロンCは、何れも炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない。
【0044】
〔実施例2〕
シート状基材として、不織布(商品名「プレシゼCE−5040」、旭化成(株)製、坪量40g/m2、透気抵抗度0.1秒)を用いた以外は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを実施例2のサンプルとした。
【0045】
〔実施例3〕
シート状基材として、次のようにして抄造した紙(坪量40g/m2、透気抵抗度4.5秒)を用いた。即ち、針葉樹晒クラフトパルプ50部及び広葉樹晒クラフトパルプ50部を離解し、これらを450mlC.S.F.に叩解してスラリーを得、該スラリーに湿潤紙力増強剤(商品名「WS−4024」、星光PMC(株)製)を1.0部添加し、常法に従って湿式抄紙して紙を抄造した。この紙を、撥油剤(前記AG−E060)中に浸漬させた後乾燥させることにより、該紙の全体に該撥油剤を固形分換算で0.5g/m2含浸させ、次いで該紙の片面の全面に、ワイヤーバーコーターを用いて、前記撥水剤(前記キロンC)を固形分換算で0.05g/m2塗工してシート状物を得、これを実施例3のサンプルとした。
【0046】
〔実施例4〕
実施例3で抄造した紙を、撥水剤(前記キロンC)2部と撥油剤(前記AG−E060)10部との混合物中に浸漬させた後乾燥させることにより、該紙の全体に該混合物を固形分換算で0.5g/m2含浸させてシート状物を得、これを実施例4のサンプルとした。
【0047】
〔実施例5〕
実施例3で抄造した紙の片面の全面に、ワイヤーバーコーターを用いて、撥油剤(前記AG−E060)を固形分換算で0.5g/m2塗工し、次いで該片面の全面に、ワイヤーバーコーターを用いて、撥水剤(商品名「RGA−74」、理研グリーン(株)製)2部と他の撥水剤(商品名「SE2360」、星光PMC(株)製)2部との混合物を固形分換算で0.05g/m2塗工してシート状物を得、これを実施例5のサンプルとした。尚、前記RGA−74及び前記SE2360は、何れも炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない。
【0048】
〔比較例1〕
撥油剤を炭素数8のフッ素系有機化合物(商品名「AG−550Z」、旭硝子(株)製、パーフルオロアルキル基の炭素数7)に変更した以外は実施例3と同様にしてシート状物を得、これを比較例1のサンプルとした。
【0049】
〔比較例2〕
撥水剤を使用しなかった以外は実施例3と同様にしてシート状物を得、これを比較例2のサンプルとした。
【0050】
〔比較例3〕
撥油剤を使用せず且つ撥水剤をシート状基材の片面の全面に固形分換算で0.05g/m2直接塗工した以外は実施例3と同様にしてシート状物を得、これを比較例3のサンプルとした。
【0051】
〔比較例4〕
撥油剤を使用せず且つ撥水剤をシート状基材の片面の全面に固形分換算で0.5g/m2直接塗工した以外は実施例3と同様にしてシート状物を得、これを比較例4のサンプルとした。
【0052】
〔比較例5〕
実施例3で抄造した紙の片面の全面に、ワイヤーバーコーターを用いて、撥水剤(前記キロンC)を固形分換算で0.05g/m2塗工し、次いで該片面の全面に、ワイヤーバーコーターを用いて、撥油剤(前記AG−E060)を固形分換算で0.5g/m2塗工してシート状物を得、これを比較例5のサンプルとした。
【0053】
〔比較例6〕
シート状基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「G2」、帝人デュポンフィルム(株)製)を用いた以外は実施例1と同様にしてシート状物を得、これを比較例6のサンプルとした。
【0054】
〔性能評価〕
実施例及び比較例の各サンプル(シート状物)について、透気性、撥水性、撥油性を下記の評価試験によって評価した。それらの結果を下記表1に示す。尚、下記の各評価試験は、JIS P8111の条件下で予め1昼夜調湿しておいた試験片に対して、同条件下で実施した。
【0055】
<透気性の評価試験>
縦50mm、横50mmの矩形形状の試験片について、該試験片における撥油剤・撥水剤付与面を表面として、JIS P8117(1998) 紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法に準じて透気性の評価を実施した。評価基準は下記の通りとし、○以上を合格とした。
◎:5秒未満
○:5秒以上10秒未満
△:10秒以上20秒未満
×:20秒以上
【0056】
<撥水性の評価試験>
縦20cm、横20cmの矩形形状の試験片について、該試験片における撥油剤・撥水剤付与面を表面として、JIS L−1092(1998) 繊維製品の防水性試験方法におけるはっ水度試験(スプレー試験)に準じて撥水性の評価を実施した。評価基準は下記の通りとし、4以上を合格とした。
5:試験片の表面に湿潤や水滴の付着のないもの。
4:試験片の表面は湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの。
3:試験片の表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
2:試験片の表面の半分に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が試験片を浸透している状態を示すもの。
1:試験片の表面全体に湿潤を示すもの。
【0057】
<撥油性の評価試験>
縦100mm、横100mmの矩形形状の試験片について、該試験片における撥油剤・撥水剤付与面を表面として、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41(2000)における、紙及び板紙−はつ油度試験方法−キット法に準じて評価を行った。評価基準は下記の通りとし、○以上を合格とした。
◎:10以上
○:8以上10未満
△:6以上8未満
×:6未満
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜5のサンプルは、何れも透気性、撥水性及び撥油性に優れたものであることが確認された。これに対し、比較例1は、透気性、撥水性及び撥油性に優れるものの、炭素数が8のフッ素系有機化合物(炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物)を含んでいるので環境上、安全衛生上での問題を有している。また比較例2は、主として撥水剤を使用していないため、撥水性に劣る。また比較例3及び4は、主として撥油剤を使用していないため、撥油性に劣る。また比較例5は、シート状基材の表面に撥水剤を先に塗工したため、後から塗工された撥油剤がはじかれてしまい、撥水性及び撥油性に劣る。また比較例6は、撥水性及び撥油性に優れるものの、シート状基材が非透気性のフィルムであるため、透気性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のシート状物は、透気性、撥水性及び撥油性に優れ且つPFOAやPFOS等の環境汚染物質を含まないため、防汚性能が求められる各種衣料や産業用資材(例えばスーツ、靴、鞄、シーツ、手術着等)や食品の包装材料等、幅広い用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材の表面に、n−ヘプタンに対する接触角が15度以上で且つ炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない撥油剤を固着させ、更に該撥油剤の固着部の表面に、水に対する接触角が70度以上でかつ炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない撥水剤を固着させてなり、且つ透気抵抗度が10秒以下であるシート状物。
【請求項2】
シート状基材の表面に、n−ヘプタンに対する接触角が15度以上の撥油剤と水に対する接触角が70度以上の撥水剤とを混合してなり且つ炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を実質的に含有していない混合物を固着させてなり、且つ透気抵抗度が10秒以下であるシート状物。
【請求項3】
前記撥水剤が、脂肪酸誘導体、三価クロム酸錯塩、炭酸ジルコニウム塩、パラフィンワックス、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂及びアルキルケテンダイマーからなる群から選択される1種以上である請求項1又は2記載のシート状物。
【請求項4】
前記撥油剤が、炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物からなる群から選択される1種以上である請求項1〜3の何れかに記載のシート状物。
【請求項5】
前記シート状基材が紙である請求項1〜4の何れかに記載のシート状物。

【公開番号】特開2013−57159(P2013−57159A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253239(P2012−253239)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2009−42297(P2009−42297)の分割
【原出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(507369811)特種東海製紙株式会社 (11)
【Fターム(参考)】