説明

シールプレート検査方法

【課題】シールプレートの圧入の良否を確実に判定することができるシールプレート検査方法を提供すること。
【解決手段】玉軸受け200は、開口部に平行な平面部214と、平面部214に対して直交するシール面212とを有する。シールプレート250は、シール面に当接する内周側リップ部276と、内周側リップ部276を支持する基部272とを有する。開口部にシールプレート250が圧入された状態において、平面部214と基部272との間に内周側リップ部276の一部が底辺274Aとなる凹部Sが形成される。凹部Sに隣接する平面部214と底辺274Aとの段差、および、凹部Sに隣接する基部272と底辺274Aとの段差の少なくとも一方がレーザセンサ130によって測定され、得られた段差の値に基づいてシールプレート250の圧入の良否が判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用交流発電機に用いられる玉軸受けやプーリの気密性を維持するために用いられるシールプレートの圧入の良否を検査するシールプレート検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用交流発電機に用いられる玉軸受けは、内部にグリースを封入し、両側にシールプレートを設けた構造が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。このような玉軸受けは、外輪と内輪の間に、冠形保持器により保持された複数の玉を備え、これらの玉周辺にグリースを密封した状態で軸方向両側からシールで密封した構造を採用している。外輪のシール面とシール外周のシールリップ部との間にはスナップフィット構造が設けられており、シール挿入の確実性を向上させている。また、このスナップフィット構造では、比較的遊びが小さいので、シールを外輪に強固に固定することができる。一方、内輪側には、比較的遊びの大きいスナップフィット構造が設けられている。内輪側は遊びが大きので、シール挿入が容易になるとともに、シール挿入の確実性をさらに向上させている。さらに、内輪側については、固定側であるシールリップ部と可動側となる内輪との間の接触の程度を低減したライトタッチ構造を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−130305号公報(第3−4頁、図1−8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1等に開示された玉軸受けの構造においては、シールプレートの挿入が適切でない場合、シールリップ部の一部にめくれが生じ、グリース漏れや、被水時に内部への浸水などの不具合が生じるおそれがある。シールの挿入性を良好にするには、各部の締め代を小さくしたり、スナップフィットの遊びを大きくしたりすることで対応可能であることが知られている。しかし、これらの対応手法は、シール性を損なうものであり、グリース漏れ防止や異物混入防止のためには逆行する。また、遊びが大きいと位置決め精度が低下する。使用環境や寸法の都合を勘案して、的確な値に設定すべきであることも知られている。
【0005】
さらに、シール面などに異物が付着することもめくれの一因である。これは製造環境を清浄に保つことで回避できるが、清浄度の管理状況によってはコスト上昇につながるため、完全な回避はできない。
【0006】
これらの問題を解決する方法として、目視および触感でのチェックは有効な手段である。触感では、小さなめくれは触ることで同時に手直しできてしまう場合もある。しかし、目視や触感ではうっかりミスが回避できない。また、人件費の視点でも問題がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、シールプレートのめくれチェックを自動で行うことによりシールプレートの圧入の良否を確実に判定することができるシールプレート検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明のシールプレート検査方法は、被シール部材の開口部に圧入により嵌め込まれるシールプレートの圧入の良否を判定するシールプレート検査方法であって、被シール部材は、開口部から連続するとともに開口部に平行な平面部と、平面部に対して直交して連続するシール面とを有し、シールプレートは、開口部への圧入に際して変形可能であってシール面に端部が当接するリップ部と、リップ部に隣接する位置に形成されてリップ部を支持する基部とを有し、開口部にシールプレートが圧入された状態において、基部が開口部と平行に配置されるとともに、平面部と基部との間にリップ部の一部が底辺となる凹部が形成され、凹部に隣接する平面部と底辺との段差、および、凹部に隣接する基部と底辺との段差の少なくとも一方を測定手段によって測定する測定ステップと、測定ステップによって得られた段差の値に基づいて、検査処理手段によってシールプレートの圧入の良否を判定する判定ステップとを有している。
【0009】
リップ部にめくれや異物混入などの異常がある場合には、リップ部とこれに隣接する平面部や基部とによって形成される凹部の段差が浅くなるため、段差の値を用いることにより、シールプレートの圧入の良否を確実に判定することができる。特に、凹部の段差を用いているため、凹部の底辺の絶対位置を用いる場合に比べて、部品の積み上げ公差の影響がほどんどなく、正確な判定が可能となる。
【0010】
また、上述した検査処理手段は、段差の値が所定範囲に含まれる場合に圧入良好とし、所定範囲から外れる場合に圧入不良として判定することが望ましい。段差の値を所定範囲と比較するだけであるため、判定が容易となる。また、平面部と底辺との段差と基部と底辺との段差の両方を用いる場合にはダブルチェックとなるため、判定の精度を上げることができる。
【0011】
また、上述した検査処理手段は、開口部と垂直な向きに沿って測定された平面部、基部および底辺のそれぞれの高さに基づいて凹部の位置を特定することが望ましい。これにより、リップ部に対応する凹部の位置を確実に特定することができ、判定の精度をさらに上げることができる。
【0012】
また、上述したシール面は円筒形状を有し、リップ部は円筒形状のシール面に当接するように円周上に形成されており、測定ステップにおける測定は、シールプレートの径方向について行われ、周方向位置をずらしながら、測定ステップと判定ステップの動作を一周にわたって繰り返すことが望ましい。これにより、円形のシールプレートの全周にわたって圧入の良否判定を行うことが可能となる。
【0013】
また、上述した周方向位置をずらす周方向に沿った間隔は、径方向に沿った底辺の長さよりも短いことが望ましい。一般に、平面部と基板との間の隙間(凹部)よりも小さなめくれは生じにくいと考えられるので、周方向に沿った判定の間隔をこのように設定することにより、シールプレートの全周にわたって確実に良否判定を行うことができる。
【0014】
また、上述した測定ステップにおける高さの測定は、所定の測定方向に沿った所定間隔の位置で行われ、所定間隔は、測定方向に沿った底辺の長さよりも短いことが望ましい。このように測定間隔を設定することより、リップ部に対応して少なくとも1箇所の測定を行うことができるため、段差部分を確実に特定することができる。
【0015】
また、上述した所定間隔は、測定方向に沿った底辺の長さの1/2未満であることが望ましい。このように測定間隔を設定することより、リップ部に対応して少なくとも2箇所の測定を行うことができるため、段差部分特定の精度をさらに上げることができる。
【0016】
また、上述した被シール部材を含む部品の組み付けを行うために円筒形状の中心軸の検出が行われ、検査処理手段は、凹部の径方向位置の特定を、組み付け時に検出された円筒形状の中心軸を基準に行うことが望ましい。平面部と、または基部と、比べて段差がある底辺部位を凹部として定義しているため、全周における凹部位置を特定すると、中心位置が特定できる。測定した凹部全体の中心位置と、組み付け時に検出された円筒形状の中心軸と、を対比することにより、組み付け中心のずれがないか確認できるため、正確な検査が可能となる。また、検査時に中心軸を検出する工程が不要となるため、検査時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態のシールプレート検査装置の概略的な構成を示す図である。
【図2】検査対象となる玉軸受けの構造を示す断面図である。
【図3】玉軸受けの部分的な拡大断面図である。
【図4】シールプレート検査装置によるシールプレートの圧入良否判定の動作手順を示す流れ図である。
【図5】シールプレートにめくれが生じた場合の玉軸受けの部分的な拡大断面図である。
【図6】車両用交流発電機のプーリに取り付けられたシールプレートの検査を行うシールプレート検査装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、一実施形態のシールプレート検査装置の概略的な構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態のシールプレート検査装置100は、検査対象となる玉軸受け200が所定位置に位置決めされて載置されたパレット110と、パレット110を搬送するコンベア120と、玉軸受け200の被測定面の高さを測定するために玉軸受け200の下側に設置されたレーザセンサ130と、レーザセンサ130を所定の回転軸回りに回転させる回転装置140と、レーザセンサ130から出力される測定結果に基づいて玉軸受け200に備わったシールプレートのめくれの有無を調べてシールプレートの圧入の良否判定を行う検査処理部150とを備えている。レーザセンサ130が測定手段に、検査処理部150が検査処理手段にそれぞれに対応する。
【0019】
コンベア120で所定方向(図1に示す例では紙面の奥から手前方向)に搬送可能に固定されたパレット110に玉軸受け200が位置決め保持されている。玉軸受け200とパレット110の保持部の軸は、コンベア120を介して位置決めされている。また、コンベア120の下部に回転装置140を介して固定されたレーザセンサ130が固定されている。
【0020】
図2は、検査対象となる玉軸受け200の構造を示す断面図である。図2に示すように、玉軸受け200は、外輪210と、内輪220と、転動体としての複数の玉230と、玉230を周方向に保持して回転する保持器240と、中心軸に沿った両端部に設けられた円形のシールプレート250、260と、内部に充填される潤滑用のグリース(図示せず)とを含んで構成されている。この玉軸受け200は、例えば車両用交流発電機のフロント側(プーリ側)に用いる場合には、リテーナプレートによって外輪210の一方の軸方向端面が押圧され、このリテーナプレートが複数本のボルトによりハウジングに固定される。
【0021】
図3は、玉軸受け200の部分的な拡大断面図である。図3(A)にはシールプレート周辺のスナップフィット構造の詳細が、図3(B)にはシールプレート周辺の高さを測定した結果(詳細については後述する)がそれぞれ示されている。
【0022】
玉軸受け200では、グリースの漏えいや内部への被水防止のためにシールプレート250、260が内輪220と外輪210の軸方向両端面に嵌着されている。これらのシールプレート250、260のそれぞれは、ドーナツ状の芯金270を覆う形状を有し、ゴムで形成されている。また、シールプレート250、260のそれぞれは、芯金270とその付近であって肉厚が厚く高剛性を有する基部272と、基部272の外周に形成された外周側リップ部274および内周に形成された内周側リップ部276とを有する。
【0023】
外周側リップ部274は、外輪210のシール面212に接触してシール面との間の隙間を塞いでシールしている。また、外周側リップ部274の外周面を外輪210のシール面212に接触させることにより、シールプレート250、260の径方向の位置決めがなされている。
【0024】
外輪210のシール面212は、開口部側が小径部212Aで、内部側(反開口部側)が大径部212Bになっている。外部からシールプレート250、260を圧入すると、外周側リップ部274が小径部212Aで弾性変形し、さらに圧入が進むと大径部212Bで外周側リップ部274が元へ戻るので、シールプレート250、260が抜けない、所謂スナップフィット構造となっている。特に、径方向および軸方向ともに締め代があり、軸方向と径方向の位置決めができるように設定されている。
【0025】
また、シールプレート250、260の内周側リップ部276は、外輪210に対してシールプレート250、260の基部272を介して径方向の位置決めがなされている。内輪220は、外輪210に対し玉230を介して位置決めがなされているので、内輪220と内周側リップ部276との間の相対的な位置も決まる。
【0026】
同様に、内輪220のシール面222は、開口部側が小径部222Aで、内部側(反開口部側)が大径部222Bになっている。外部からシールプレート250、260を圧入すると、内周側リップ部276が小径部222Aで弾性変形し、さらに圧入が進むと大径部222Bで元へ戻るので、シールプレート250、260が抜けない、所謂スナップフィット構造となっている。
【0027】
シールプレート250、260の組み付けは、基部272へ荷重を印加することにより行われる。基部272の位置決めや、スナップフィット構造のストロークを小さくするためには、外周側リップ部274と内周側リップ部276は、径方向への突出寸法を小さくすることが望ましい。
【0028】
玉軸受け200では、内輪220と外輪210の両方においてシールが必要となるので、確実な位置決めが必要である。また、小型化のためにも遊びを大きくすることができない。外周側リップ部274と内周側リップ部276のそれぞれの径方向への突出寸法が大きいとこれらのたわみが大きくなる。たわみが大きいと、ストロークを大きくして確実に各リップ部がスナップフィット構造を形成するために大きな遊び寸法が必要になる。この場合には、各リップ部を大径部212B、222Bに嵌めた後にガタが大きくなってしまう。また、弾性変形させるために各リップ部は、柔らかい状態を維持する形状になっている。このように、各リップ部は小さくて柔らかいので、各リップ部を押さえて圧入しようとすると、この圧入に必要な抑え治具は鋭利な形状となり、各リップ部を傷つける心配がある。このため、基部272を押さえることで間接的に各リップ部を押し込むようにしているが、圧入できずにリップ部に部分的にめくれが生じる場合がある。本実施形態では、このようにして発生するリップ部のめくれを確実に検出する。
【0029】
本実施形態のシールプレート検査装置100および検査対象の玉軸受け200はこのような構成を有しており、次に、シールプレート検査装置100を用いて玉軸受け200のシールプレート250(シールプレート260についても同様)のめくれチェックを自動で行ってシールプレート250の圧入の良否判定を行う動作について説明する。
【0030】
図4は、シールプレート検査装置100によるシールプレート250の圧入良否判定の動作手順を示す流れ図である。この動作手順は、検査処理部150の制御によって行われる。
【0031】
パレット110の上部には玉軸受け200の外輪210の周辺形状に対応した凹部が設けられており、この凹部に玉軸受け200が置かれると(ステップ100)、パレット110が動作して玉軸受け200が搬送され、測定用の所定位置に固定される(ステップ110)。
【0032】
次に、レーザセンサ130を用いて、シールプレート250およびこれに隣接する外輪210と内輪220の一部を含む直線上(これらが含まれれば曲線上であってもよい)の高さが測定される(ステップ120)。具体的には、レーザセンサ130を用いて、玉軸受け200の外径側から内径側に向けて、外輪210のシール面212から外径側に連続する平面部214と、シールプレート250の表面と、内輪220のシール面222から内径側に連続する平面部224のそれぞれについて、玉軸受け200の中心軸方向の高さを測定する。図3(B)には、得られた高さの測定結果が示されている。
【0033】
次に、シールプレート250の外周側リップ部274と内周側リップ部276のそれぞれの段差を特定する(ステップ130)。玉軸受け200はパレット110に対して位置決めされているので、測定結果(図3(B))に含まれる凹部Sの大径側端部の直径D2と小径側端部の直径D3の間が、外周側リップ部274であることが特定でき、この凹部Sの底辺274Aの軸方向寸法が外周側リップ部274の高さとして計測することができる。しかし、実際には、玉軸受け200は位置決めされているといっても、組み合わせ部品が多いので積み上げ公差が大きく、外周側リップ部274に対応する凹部Sの位置精度が悪い。そのため、正常品でも、外周側リップ部274に対応する凹部Sの底辺274Aの軸方向に沿った高さGのばらつきが大きく、外周側リップ部274にめくれがあっても高さGのみから異常を検出することは難しい。組み合わせ部品公差の精度を上げれば、検出が可能となる場合もあるが、めくれの程度が小さい場合には見逃しのおそれがあり、しかも、部品コストが上昇してしまう。
【0034】
そこで、本実施形態では、底辺274Aの高さGとその外径側の平面部214の高さEとの差(E−G)、あるいは、底辺274Aの高さGとその内径側の基部272の表面の高さFとの差(F−G)を用いることにより、玉軸受け200全体の各部品の積み上げ公差に関係なく、確実にリップ高さを測定している。
【0035】
また、積み上げ公差は、凹部Sの底辺274Aの径方向位置にも影響を与えるため、底辺274Aの径方向位置を絶対座標で特定して凹部Sの底辺274Aの高さGを測定することを困難にする。径方向の位置が少しずれて、図3(B)に示す直径D2’やD3’の位置で凹部Sの底辺274Aの高さGを測定すると、底辺274Aの高さGが規格B−bから外れ、良品にもかかわらず、外周側リップ部274にめくれがある不良品であると誤判定するおそれがある。これについても、組み合わせ部品公差の精度を上げれば、測定位置を正確に決定することができるが、部品コストが上昇してしまう。そこで、外輪210の平面部214とシールプレート250の基部272との間に位置する凹部Sの底辺274Aの位置を、径方向に沿った絶対位置とは関係なく外周側リップ部274の位置と定義すると、外周側リップ部274の径方向の絶対位置の検出は不要となる。実際には、玉軸受け200の中心軸を中心とした凹部Sの径方向の位置検出を行って、外周側リップ部274の位置検出の2重チェックや判定範囲の絞り込みを行うことができる。例えば、玉軸受け200の中心軸を中心とした凹部Sの径方向の位置を検出した後、この検出位置近傍についてのみステップ120の測定を行う場合や、ステップ130における特定の後にこの特定された位置が、玉軸受け200の中心軸を中心とした凹部Sの径方向位置の近傍の所定範囲に含まれるか否かを確認することで、ステップ130における特定動作に誤りがないかどうかを確認する場合などが考えられる。このようにして、外周側リップ部274の段差の特定が行われる。また、同様にして、内周側リップ部276の段差の特定が行われる。
【0036】
なお、各リップ部の測定可能範囲が狭い場合、特にレーザセンサ130による測定のサンプリング間隔が粗い(広い)と、リップ部に対応する凹部Sの底辺274Aを測定できないおそれがある。例えば、直径D2とD3の間の間隔δ1(図3(B))が1mmのときに、2mm間隔で高さを測定すると、凹部Sの底辺274Aが検出できない場合がある。したがって、測定間隔は、凹部Sの底辺274Aの径方向の長さ(平面部214と基部272の間の隙間)よりも狭い間隔、望ましくは、1/2未満の間隔となるように設定されている。但し、底辺274Aの高さGを正確に測定するためには、サンプリング間隔は狭い方が望ましいが、コストや工数面からはあまり間隔が狭い精緻なサンプリングはできないため、上述した間隔の範囲の上限値よりも若干小さい値となるようにサンプリング間隔が設定されている。
【0037】
次に、ステップ130で特定した外周側リップ部274の段差と内周側リップ部276の段差のそれぞれが正常品の範囲に含まれるか否かを判定する(ステップ140)。具体的には、外周側リップ部274の段差としての(E−G)および(F−G)の少なくも一方(両方でもよい)が正常品の範囲に含まれるか否かが判定される。また、内周側リップ部276については、内周側リップ部276の段差としての(E’−G’)および(F−G’)の少なくも一方(両方でもよい)が正常品の範囲に含まれるか否かが判定される。
【0038】
外周側リップ部274の段差と内周側リップ部276の段差のそれぞれが正常品の範囲に含まれる場合にはステップ140の判定において肯定判断が行われる。次に、回転装置140を用いてレーザセンサ130の周方向位置を所定角度だけ回転させる(ステップ150)。例えば、回転装置140の回転中心軸と玉軸受け200の中心軸はほぼ一致(正確に一致しなくてもよい)しており、レーザセンサ130を回転させる角度を1°、シールプレート250の直径を46mmとすると、この回転によってシールプレート250の外周側リップ部274の周方向に沿った測定位置を約0.4mmずらすことができる。例えば、直径D2とD3の間の間隔δ1(図3(B))が1mmとすると、この値(0.4mm)はδ1よりも短く、さらに具体的にはδ1の1/2未満に設定されている。
【0039】
また、外周側リップ部274の段差と内周側リップ部276の段差の少なくとも一方が正常品の範囲に含まれない場合にはステップ140の判定において否定判断が行われる。この場合には、検査処理部150は、シールプレート250にめくれ等の異常が発生している旨のアラームを出力する(ステップ160)。検査作業者は、このアラームによって異常を確認し、不良品である玉軸受け200をパレット110から排除する。
【0040】
次に、検査処理部150は、レーザセンサ130の回転が1周したか否かを判定し(ステップ170)、1周していない場合には否定判断が行われてステップ120の測定動作以降が繰り返される。また、1周した場合にはステップ170の判定において肯定判断が行われ、この玉軸受け200の一方のシールプレート250に対する圧入の良否判定が終了する。なお、他方のシールプレート260についても同様にして圧入の良否判定が行われる。上述したステップ120の動作が測定ステップの動作に、ステップ130、140の動作が判定ステップの動作にそれぞれ対応する。
【0041】
外周側リップ部274にめくれや異物混入などの異常がある場合には、外周側リップ部274とこれに隣接する平面部214や基部272とによって形成される凹部Sの底辺274Aまでの段差が浅くなるため、この段差の値(平面部214と底辺274Aとの高さの差や基部272と底辺274Aとの高さの差)を用いることにより、シールプレート250の圧入の良否を確実に判定することができる。特に、凹部Sの段差を用いているため、凹部Sの底辺274Aの絶対位置を用いる場合に比べて、部品の積み上げ公差の影響がほどんどなく、正確な判定が可能となる。また、凹部Sの段差の値を所定範囲と比較するだけであるため、判定が容易となる。また、平面部214と底辺274Aとの段差と基部272と底辺274Aとの段差の両方を用いる場合にはダブルチェックとなるため、判定の精度を上げることができる。
【0042】
また、外輪210と内輪220の軸方向端面に形成された開口部(シールプレート250等で塞がれる面)と垂直な向きに沿って測定された平面部214、基部272および底辺274Aのそれぞれの高さに基づいて凹部Sの位置を特定することにより、外周側リップ部274に対応する凹部Sの位置を確実に特定することができ、判定の精度をさらに上げることができる。
【0043】
また、径方向に沿った高さの測定(ステップ120)を、周方向位置をずらしながら一周にわたって繰り返しているため、円形のシールプレート250の全周にわたって圧入の良否判定を行うことが可能となる。特に、周方向位置をずらす間隔は、径方向に沿った底辺274Aの長さよりも短い値に設定されている。一般に、平面部214と基板272との間の隙間(凹部S)よりも小さなめくれは生じにくいと考えられるので、周方向に沿った判定の間隔をこのように設定することにより、シールプレート250の全周にわたって確実に良否判定を行うことができる。
【0044】
また、ステップ120における高さの測定間隔を底辺274Aの長さよりも短くすることにより、外周側リップ部274に対応して少なくとも1箇所の測定を行うことができるため、段差部分(凹部S)を確実に特定することができる。特に、測定間隔を底辺274Aの長さの1/2未満とすることにより、外周側リップ部274に対応して少なくとも2箇所の測定を行うことができるため、段差部分特定の精度をさらに上げることができる。
【0045】
図5は、シールプレート250にめくれが生じた場合の玉軸受け200の部分的な拡大断面図であり、図3に対応した箇所が示されている。図5に示すように、外周側リップ部274や内周側リップ部276にめくれや異物混入が生じると、その分だけ凹部の深さが浅くなるため、底辺274Aの段差が正常範囲から外れたり、底辺274Aの段差が正常範囲から外れることになる。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。上述した実施形態では、主に一方のシールプレート250の外周側リップ部274のめくれをチェックしたが、内周側リップ部276や他方のシールプレート260の外周側リップ部274、内周側リップ部276についても同じ要領でめくれチェックを行って圧入の不良判定を行うことができる。
【0047】
また、上述した実施形態では、主に一方のシールプレート250の外周側リップ部274と、シール面212の大径部212Bとの間に、径方向に締め代を備えた構造であった。一方、内周側リップ部276は、シール面222の平面部222Cとの間に軸方向の締め代を備えた構造である。この場合でも同じ要領でめくれチェックを行って圧入の不良判定を行うことができる。このように、リップ部とシール面の形状や締め代の方向に制限はない。
【0048】
また、上述した実施形態では、シール面212は、大径部212Bと、小径部212Aとで構成され、圧入抜けを防止していたが、大径部と小径部とが同一円筒面であっても、あるいは逆テーパ面であっても、同じ要領でめくれチェックを行って圧入の不良判定を行うことができる。
【0049】
また、上述した実施形態では、円形のシールプレート250、260について説明したが、四角形などの円形以外の形状であってもよい。円形以外の形状の場合には、レーザセンサ130を回転させたときに、周方向位置θに応じて外周側リップ部274と内周側リップ部276の径方向位置R(θ)が変化する。しかし、本発明では、外周側リップ部274等の中心軸からの距離に関係なく、平面部214あるいは基部272の高さとの差が最大となる凹部Sを特定して底辺274Aの高さを知ることができるため、円形の場合と同様に外周側リップ部274や内周側リップ部276のめくれ等による異常を確認することが可能となる。
【0050】
また、上述した実施形態では、直線上に一列に高さの測定を行う動作を、角度をずらしながら一周に渡って行うようにしたが、レーザセンサ130を複数配置することで、測定時間の短縮、あるいは測定時間が一定とすると測定精度(分解能)の向上を図るようにしてもよい。例えば、2台のレーザセンサ130を180°の間隔で配置したり、3台のレーザセンサ130を120°の間隔で配置したり、4台のレーザセンサ130を90°の間隔で配置し、並行して測定動作を行うようにしてもよい。
【0051】
また、上述した実施形態では、玉軸受け200に含まれるシールプレート250、260について圧入の良否を判定したが、類似のシール構造を有する他の部品について圧入の良否判定を行う場合に本発明を適用することができる。
【0052】
例えば、車両用交流発電機の中には、プーリの端部にシールプレートが嵌め込まれたものがある。具体的には、特表2007−517168号公報に開示されたデカプラなどが知られている。エンジンからプーリと駆動力を伝達するベルトのばたつきを防止する目的で一方向クラッチやばね機構をプーリに内蔵する場合に、これらの機構に対する浸水や異物の侵入を防止するためにプーリの軸方向端面にシールプレートが取り付けられる場合がある。このようなシールプレートのシール機構は、上述した玉軸受け200における外輪210とシールプレート250の外周側リップ部274との間のシール機構と基本的に同じであり、形状的な特徴も基本的に同じである。したがって、シールプレートの外周側リップ部のめくれチェックを同じように行うことができる。
【0053】
但し、車両用交流発電機の場合には、他の部品の組み付けが終了した後にシールプレートの組み付けが行われるため、玉軸受け200のようにシールプレート検査装置の所定位置に容易に移動することができず、組み付けの最終工程で圧入し、さらにその後の検査を行うことが望ましい。
【0054】
図6は、車両用交流発電機300のプーリに取り付けられたシールプレートの検査を行うシールプレート検査装置の概要を示す図である。
【0055】
組み付けから検査に至るまでの工程を整理すると、以下のようになる。なお、図6に示したシールプレート検査装置100Aのパレット110等は車両用交流発電機の組み付け工程で用いられたものがそのまま検査でも用いられるものとする。また、図1に示したシールプレート検査装置100に対応する構成については図6でも同じ符号が用いられている。
(1)パレット110上にドライブフレーム310をセットする。パレット110には、ドライブフレーム310の位置決め機構があり、パレット110の所定位置に嵌合して、ドライブフレーム310の軸方向位置、径方向位置および周方向位置が固定される。
(2)ドライブフレーム310に玉軸受け312を挿入し、リテーナプレートで固定する。
(3)回転子320の回転軸322を玉軸受け312に通し、下方向からプーリ330が組み付けられる。
(4)固定子340、リアフレーム350、電気部品360、リアカバー370が組み付けられる。
(5)プーリ330端部の開口部にシールプレート332が圧入されて組み付けられる。
(6)その後、シールプレート検査装置100Aを用いたシールプレート332のめくれチェックが行われ、圧入の良否判定が行われる。この判定動作の内容自体は、図4に示した動作手順と同じである。
【0056】
このように、最後にシールプレート332が組み付けられる車両用交流発電機300では、重量が5kg程度あるいはそれ以上になるため、検査作業員が車両用交流発電機300を手にとってシールプレート332の圧入の良否を手作業で確認することは容易ではない。このため、本実施形態のようなシールプレート検査装置100Aを用いた自動判定が特に有効となる。
【0057】
また、上述したプーリ330の表面は耐環境性を向上させるために塗装がなされている。このため、レーザセンサ130から照射されるレーザ光の反射を低減することができ、照射位置の高さを安定的に測定することが可能となる。メッキや鉄素地の場合、反射光が強すぎて測定困難となる場合があるので、黒色が望ましい。溝部(凹部)は他の表面処理でもよい。また同じ理由でシールプレートも黒色が望ましい。
【0058】
なお、上述した車両用交流発電機300の組み付けを行う際に中心軸の検出が行われ、この中心軸に合わせて回転子320や固定子340の組み付けが行われる。この中心軸は、シールプレート332のリップ部が当接するプーリ330の円筒形状の内周面の中心軸と同じであるため、車両用交流発電機300の組み付けで用いられた中心軸を、圧入判定において必要な中心軸としてそのまま用いるようにしてもよい。例えばレーザセンサ130の回転軸と、製品の回転軸が一致するように、レーザセンサ130、コンベア120、パレット110、製品の各々の位置を的確に規定すればよい。これにより、検査時に新たに中心軸を検出する工程が不要となるため、検査時間を短縮することができる。また、レーザセンサ130の軸と対象の軸があっているので、検出ソフトが単純で間違いにくい。また、本願では、前記凹部を、前記平面部または前記基部との段差として検出するため、凹部全周を検出することで、その中心位置を検出することも可能である。この中心位置と、前記中心軸とを対比することで、パレット110からの脱落など設備異常を検出することもでき、信頼性の高い検査を実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上述したように、本発明によれば、リップ部にめくれや異物混入などの異常がある場合には、リップ部とこれに隣接する平面部や基部とによって形成される凹部の段差が浅くなるため、段差の値を用いることにより、シールプレート250、260の圧入の良否を確実に判定することができる。
【符号の説明】
【0060】
100 シールプレート検査装置
110 パレット
120 コンベア
130 レーザセンサ
140 回転装置
150 検査処理部
200 玉軸受け
210 外輪
212、222 シール面
212A、222A 小径部
212B、222B 大径部
214、224 平面部
222C 平面部
220 内輪
230 玉
240 保持器
250、260 シールプレート
270 芯金
272 基部
274 外周側リップ部
274A 底辺
276 内周側リップ部
300 車両用交流発電機
310 ドライブフレーム
312 玉軸受け
320 回転子
322 回転軸
330 プーリ
332 シールプレート
340 固定子
350 リアフレーム
360 電気部品
370 リアカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被シール部材の開口部に圧入により嵌め込まれるシールプレートの圧入の良否を判定するシールプレート検査方法であって、
前記被シール部材は、前記開口部から連続するとともに前記開口部に平行な平面部と、前記平面部に対して直交して連続するシール面とを有し、
前記シールプレートは、前記開口部への圧入に際して変形可能であって前記シール面に端部が当接するリップ部と、前記リップ部に隣接する位置に形成されて前記リップ部を支持する基部とを有し、
前記開口部に前記シールプレートが圧入された状態において、前記基部が前記開口部と平行に配置されるとともに、前記平面部と前記基部との間に前記リップ部の一部が底辺となる凹部が形成され、
前記凹部に隣接する前記平面部と前記底辺との段差、および、前記凹部に隣接する前記基部と前記底辺との段差の少なくとも一方を測定手段によって測定する測定ステップと、
前記測定ステップによって得られた段差の値に基づいて、検査処理手段によって前記シールプレートの圧入の良否を判定する判定ステップと、
を有することを特徴とするシールプレート検査方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記検査処理手段は、前記段差の値が所定範囲に含まれる場合に圧入良好とし、所定範囲から外れる場合に圧入不良として判定することを特徴とするシールプレート検査方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記検査処理手段は、前記開口部と垂直な向きに沿って測定された前記平面部、前記基部および前記底辺のそれぞれの高さに基づいて前記凹部の位置を特定することを特徴とするシールプレート検査方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記シール面は円筒形状を有し、前記リップ部は円筒形状の前記シール面に当接するように円周上に形成されており、
前記測定ステップにおける測定は、前記シールプレートの径方向について行われ、
周方向位置をずらしながら、前記測定ステップと前記判定ステップの動作を一周にわたって繰り返すことを特徴とするシールプレート検査方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記周方向位置をずらす間隔は、前記径方向に沿った前記底辺の長さよりも短いことを特徴とするシールプレート検査方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記測定ステップにおける高さの測定は、所定の測定方向に沿った所定間隔の位置で行われ、
前記所定間隔は、前記測定方向に沿った前記底辺の長さよりも短いことを特徴とするシールプレート検査方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記所定間隔は、前記測定方向に沿った前記底辺の長さの1/2未満であることを特徴とするシールプレート検査方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかにおいて、
前記被シール部材を含む部品の組み付けを行うために前記円筒形状の中心軸の検出が行われ、
前記検査処理手段は、前記凹部の径方向位置の特定を、前記組み付け時に検出された前記円筒形状の中心軸を基準に行うことを特徴とするシールプレート検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−145470(P2012−145470A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4566(P2011−4566)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】