説明

ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素

【課題】ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有する酵素および前記酵素を利用してエクオールを製造する方法を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有する酵素又はその変異体、および当該酵素又はその変異体を、ダイゼインをジヒドロダイゼインに変換する酵素、ジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する酵素及びテトラヒドロダイゼインをエクオールに変換する酵素による一連の酵素反応系に組み込みダイゼインに作用させることにより、ダイゼインからエクオールを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチド、及び当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。更に、本発明は、前記ポリペプチドを利用したジヒドロダイゼインのラセミ化方法、及びそれに利用される製造装置に関する。更に、本発明は、一連の酵素反応を利用して、ダイゼインからエクオールを効率的に製造する方法、及びそれに利用される製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イソフラボン誘導体は、生理学的又は薬学的に様々な効能があると考えられており、食品原料や医薬品原料として利用されている。しかしながら、イソフラボン誘導体に関する機能が解明されるに連れて、従来信じられていたようにイソフラボン誘導体のみがエストロジェン様の効果を示すのではなく、種々の腸内細菌によりこれら誘導体が菌体内で代謝(生合成)を受けた後に、より強いエストロジェン様の作用を有するエクオールが産生され、このエクオールが菌体外に放出された後腸管から吸収されることによりエストロジェン作用を全身的に発揮しているものと報告されるに至っている。而るに、全てのヒトにおいて腸内でエクオールを産生する能力があるわけではなく、エクオール産生能はヒトによって個人差がある。例えば、腸内にエクオール産生菌を有していないヒトや腸内にエクオール産生菌を有していてもそのエクオール産生能が低いヒトもいる。
【0003】
そこで、エクオールを体内で有効に利用させることは、高齢化社会を迎えたわが国などでは、特に骨粗鬆症を代表とする慢性老人性疾患への対応の面からも重要である。そして、上述したようにエクオール産生腸内細菌を内在しているヒトと、いないヒトが存在するという現実を考えれば、エクオールの効率的な人的生産を念頭に置き、その材料作りに対しても目を向けなければならない。
【0004】
このような背景の下、エクオール合成原料の供給という面で、当該生合成経路に関係する酵素の同定およびその利用は極めて重要である。しかしながら、これら生合成経路において関連するいくつかの中間生成物を生産或いは触媒する酵素に関する情報は全くなく、関連酵素の同定が望まれている。
【0005】
これまでに、本発明者等は、エクオール合成に関与する酵素として、ダイゼインをジヒドロダイゼインに変換する酵素(以下、「E1ペプチド」又は「E1酵素」と表記することもある)、ジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する酵素(以下、「E2ペプチド」又は「E2酵素」と表記することもある)、及びテトラヒドロダイゼインをエクオールに変換する酵素(以下、「E3ペプチド」又は「E3酵素」と表記することもある)の単離に、世界で初めて成功しており、これらの3種の酵素を利用してダイゼインからエクオールを合成する技術を確立している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−296434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ジヒドロダイゼインには、2種の鏡像異性体が存在しているが、本発明者等は、ダイゼインをジヒドロダイゼインに変換する酵素(E1酵素)により合成されるジヒドロダイゼインは、一方の鏡像異性体(L-ジヒドロダイゼインと表記することもある)が非常に高い比率を占めることを明らかにした。一方、ジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する酵素(E2酵素)は、一方のジヒドロダイゼインの鏡像異性体L-ジヒドロダイゼインを基質とする場合にはcis-テトラヒドロダイゼインを選択的に合成し、他方の鏡像異性体F-ジヒドロダイゼインを基質とする場合にはtrans-テトラドロダイゼインを選択的に合成することも、本発明者等により見出された。更に、本発明者等の検討によって、E1酵素により合成されるジヒドロダイゼインの内、高い比率を占めるL-ジヒドロダイゼインは、E2酵素によってcis-テトラヒドロダイゼインに変換されるがcis-テトラヒドロダイゼインはエクオールの合成原料にはなり得ないことが判明した(即ちエクオールはtrans-テトラヒドロダイゼインより生成する)。そのため、ダイゼインからE1酵素により合成されたジヒドロダイゼインは、その殆どが、エクオールの合成原料として利用されず、E1酵素〜E3酵素を用いた一連の酵素反応において、エクオールの収率を低下させる一因にもなっていることが明らかとなった。このような理由から、エクオールの製造効率の向上という観点からは、E1酵素〜E3酵素による一連の酵素反応を利用してダイゼインからエクオールを合成する技術については改善の余地が残されている。
【0008】
そこで、E1酵素〜E3酵素による一連の酵素反応によって、ダイゼインからエクオールを効率的に製造するには、E1酵素によって生成したL-ジヒドロダイゼインをラセミ化することが有効であると考えられている。而るに、従来、ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素については見出されておらず、ジヒドロダイゼインをラセミ化する技術は未だ確立されていないのが現状である。
【0009】
本発明の主な目的は、ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素、及び該酵素を利用した技術を提供することである。具体的には、本発明は、ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチドを提供することを目的とする。また、本発明は、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び該ポリペプチドを利用したジヒドロダイゼインをラセミ化させる技術等を提供することを目的とする。
【0010】
更に、本発明は、E1酵素〜E3酵素と共に、ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素を用いて、ダイゼインからエクオールを効率的に製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意努力を重ねた結果、エクオール産生腸内細菌より、ジヒドロダイゼインをラセミ化することのできる酵素の遺伝子を単離し、その構造を明らかにすることに成功した。更に、当該遺伝子を利用して組み換え酵素を作製し、当該組み換え酵素を、E1酵素〜E3酵素による一連の酵素反応系に組み込むことによって、ダイゼインからエクオールを効率的に製造できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する:
項1. 以下の(a)〜(c)のいずれかであるポリペプチド:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチド。
項2. 項1に記載のポリペプチドからなる、ジヒドロダイゼインをラセミ化するラセマーゼ。
項3. 以下の(d)〜(f)のいずれかであるポリヌクレオチド:
(d)配列番号2に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(e)配列番号1に記載のアミノ配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f)前記(d)又は(e)のポリヌクレオチドの相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
項4. 項3に記載のポリヌクレオチドを有する発現ベクター。
項5. 項4に記載の発現ベクターによって形質転換された組換え細胞。
項6. 組換え細胞が細菌性原核細胞である、項5に記載の組換え細胞。
項7. 項5又は6に記載の組換え細胞を培養し、ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチドを得る工程を含む、ポリペプチドの製造方法。
項8. ジヒドロダイゼインに対して、項1に記載のポリペプチドを作用させる工程を含む、ジヒドロダイゼインのラセミ化方法。
項9. ジヒドロダイゼインに対して、項6又は5に記載の組換え細胞を作用させる工程を含む、ジヒドロダイゼインのラセミ化方法。
項10. ダイゼインに対して、項1に記載のポリペプチド、ダイゼインをジヒドロダイゼインに変換する酵素、ジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する酵素、及びテトラヒドロダイゼインをエクオールに変換する酵素を作用させる工程を含む、エクオールの製造する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のペプチドによれば、E1酵素によって変換されたジヒドロダイゼインをラセミ化することができ、エクオールの製造原料として利用可能な化合物を供給することが可能になる。従って、本発明のペプチドを利用した酵素反応を、ダイゼインからエクオールを製造する一連の酵素反応系に組み込むことによって、製造されるエクオールの収率を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1において、Hisタグ付きE1酵素、E2酵素、E3酵素についてSDS-PAGEを行った結果を示す図である。
【図2】実施例2において、ラクトコッカス20-92株菌体破砕液、及びHisタグ付きE1酵素をダイゼインに作用させることにより得られた生成物をキラル-HPLC分析した結果を示す図である。
【図3】ORF-US6とるChlorobium phaeobacteroides DSM 266株由来のメチルマロニル-CoA エピメラーゼ(GenBank Accession No.:ABL65204)のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。
【図4】実施例5において、Hisタグ付きE1酵素単独、又はHisタグ付きE1酵素とORF-US6ポリペプチド(E4酵素)の組合せを、ダイゼインに作用させることにより得られた生成物をキラル-HPLC分析した結果を示す図である。
【図5】実施例6において、Hisタグ付きORF-US6ポリペプチド(E4酵素)についてSDS-PAGEを行った結果を示す図である。
【図6】実施例7において、、Hisタグ付きE1、E2、及びE3酵素の組合せ単独、又はHisタグ付きE1、E2、E3、E4酵素の組合せの組合せを、ダイゼインに作用させることにより得られた生成物をHPLC分析した結果を示す図である。図6中ではダイゼイン、ジヒドロダイゼイン、シス-テトラヒドロダイゼイン、トランス-テトラヒドロダイゼイン、エクオールはそれぞれDZN, DD, c-THD, t-THD, EQLと略して示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書におけるアミノ酸、ポリペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列またはアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)および当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素
本項では、ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素(以下、E4酵素と表記することもある)に関して詳述する。
1−1.ポリペプチド
本発明は、ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチドとして、以下の(a)〜(c)のポリペプチド(以下、該ポリペプチドを「E4ポリペプチド」と表記することもある)を提供する:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチド。
【0017】
上記(b)のポリペプチドにおいて、「1若しくは複数」の範囲は、該ポリペプチドがジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有することを限度として特に限定されないが、例えば1若しくは数個、或いは例えば1〜100個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜4個、より特に好ましくは1〜3個、最も好ましく1又は2個が挙げられる。
【0018】
また、上記(b)のポリペプチドにおけるアミノ酸の置換としては、特に制限されないが、ポリペプチドの表現型に変化を来さないという観点から、類似アミノ酸同士による置換が好ましい。具体的には、類似アミノ酸としては、以下のようにグループ分けができる:
芳香族アミノ酸:Phe、Trp、Tyr
脂肪族アミノ酸:Ala、Leu、Ile、Val
極性アミノ酸:Gln、Asn
塩基性アミノ酸:Lys、Arg、His
酸性アミノ酸:Glu、Asp
水酸基を有するアミノ酸:Ser、Thr
側鎖の小さいアミノ酸:Gly、Ala、Ser、Thr、Met。
【0019】
特定のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加させる技術は公知である。
【0020】
上記(c)のポリペプチドにおいて、アミノ酸の同一性は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して、例えば60%以上であればよいが、通常80%以上、好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、更に特に好ましくは99%以上であることが望ましい。
【0021】
アミノ酸配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、SSEARCH等のソフトウェアを用いて計算される。具体的には、BLAST検索に一般的に用いられる主な初期条件は、以下の通りである。即ち、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、及びLambda ratioをそれぞれ 11、1、0.85(デフォルト値)にして、他の各種パラメータもデフォルト値に設定して検索を行うことにより、アミノ酸配列の同一性(identity)の値(%)を算出する。
【0022】
また、上記(b)及び(c)のポリペプチドにおいて、「ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性」は、ジヒドロダイゼインをラセミ化する作用の有無を測定することにより判定すればよく、その判定手法については、特に制限されないが、簡便には以下の手法が挙げられる。
【0023】
即ち、下記組成の反応溶液A及びBを作成し、37℃で2時間インキュベートする。その後、反応溶液Aに含まれるジヒドロダイゼインの2つの鏡像異性体の比率と、反応溶液Bに含まれるジヒドロダイゼインの2つの鏡像異性体の比率を測定し、前者と後者の比率が異なる場合、確認対象となるポリペプチドは「ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性」を有していると判定される。当該手法の判定原理は、次の通りである。配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるE1酵素は、下記条件のキラルHPLCにおいて保持時間が遅い方の鏡像異性体L-ジヒドロダイゼイン(以下、L−DDと表記することもある)を、保持時間が早い方の鏡像異性体F-ジヒドロダイゼイン(以下、F−DDと表記することもある)に比べて、多く合成する。そのため、反応溶液Bでは、L−DDがF−DDよりも多い割合で検出される。一方、確認対象となるポリペプチドに「ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性」があれば、反応溶液AではE1酵素から合成されたL−DDがF−DDに変換されるので、反応溶液Aは反応溶液Bに比べてF−DDの割合が高くなる。
【0024】
【表1】

【0025】
なお、ジヒドロダイゼインの2つの鏡像異性体は、以下の条件のキラルHPLCにて測定することができる。
サンプル調製:酵素反応後の溶液に酢酸エチルを添加して抽出処理を行い、酢酸エチルが含まれる画分を乾固した後、下記移動層に溶解する。
キラルHPLC条件
カラム:SUMICHIRAL OA-7000(株式会社住友分析センター) 4.6mm i.d.×25cm
移動層:含水メタノール(メタノール濃度50v/v%)
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出条件:UV 280nmの吸収を測定。
【0026】
E4ポリペプチドは、ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素活性を有しており、ジヒドロダイゼインのラセマーゼ(E4酵素)として使用することができる。E4酵素は、30℃付近、pH7.0付近で作用可能である。
【0027】
また、発明において、「ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性」とは、L−DD(上記条件のキラルHPLCにおいて保持時間が遅い方のジヒドロダイゼインの鏡像異性体)からF−DD(上記条件のキラルHPLCにおいて保持時間が早い方のジヒドロダイゼインの鏡像異性体)に可逆的に変換する活性、F−DDからL−DDに可逆的に変換する活性のいずれをも包含する。
【0028】
特に、E1ポリペプチドは、ダイゼインはF−DDよりもL−DDに変換する活性が強いため、L−DDをF−DDにラセミ化する活性を備えているE4ポリペプチドはF−DD合成酵素として有用である。L−DDはE2酵素によってcis-テトラヒドロダイゼインに変換されるためエクオールの合成原料として使用できないが、F−DDはE2酵素によってtrans-テトラヒドロダイゼインに変換されるためエクオールの合成原料として使用可能である。そのため、ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性が優れており、L−DDをF−DDに効率的に変換できるE4ポリペプチドは、E1〜E3酵素を利用してエクオールを酵素合成する一連の酵素反応系に組み込むことによって、ダイゼインからエクオールの製造効率の向上に寄与することができる。
【0029】
E4ポリペプチドは、後述する遺伝子工学的手法により製造することができるが、E4ポリペプチド産生能を有する微生物から単離精製することも可能である。また、E4ポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法により製造することもできる、該化学合成法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。
【0030】
以下、E4ポリペプチド産生能を有する微生物から、E4ペプチドを単離精製する方法について、説明する。先ず、E4ポリペプチド産生能を有する微生物の菌体を破砕し、該微生物の粗抽出物を得る。ここで、菌体の破砕には、フレンチプレス、セルミル等の破砕機による処理;低張溶液下超音波処理等の通常の菌体破砕処理に使用されている方法が使用される。また、得られた粗抽出物には、適当な緩衝液を添加しておいてもよい。また、E4ポリペプチドが嫌気性に馴化している場合には、得られた粗抽出物に適当な還元剤を添加し、E4ポリペプチドの失活を抑制しておくことが望ましい。得られた粗抽出物に対しては、その精製度を上げるために、更に、硫酸アンモニウム沈殿、エタノール等を利用した有機溶媒沈殿、又は等電点沈殿等の精製処理に供しても良い。次いで、粗抽出物を、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、各種アフィニテイークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー等の処理に供することにより、E4ポリペプチドを含む画分を得ることができる。なお、これらのクロマトグラフィーによる処理は、必要に応じてオープンカラムを使用してもよく、またHPLCを使用してもよい。また、斯くして得られたE4ポリペプチドを含む画分の純度については、電気泳動、特にSDS-PAGEによって、可視的に簡便に推定できる。また、E4ポリペプチドは、アミノ酸配列分析法;MALDI-TOF MS、ESI Q-TOF MS又はMALDI Q-TOF MS等の質量分析装置を利用した質量分析法;ペプチドマスフィンガープリンティング法等によって確認することもできる。
【0031】
また、ここで、E4ポリペプチド産生能を有する微生物は、ダイゼインを所定量含有する培地(特に限定されないが、例えば0.01μg/ml以上含有する培地)で培養されることが、効率的にE4ペプチドを産生させる点で望ましい。
【0032】
また、E4ポリペプチドは、安定性を向上させる目的等で、必要に応じて、ポリエチレングリコール又は糖鎖を付加修飾されたものであってもよい。
【0033】
1−2.ポリヌクレオチド
本発明は、更に、ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、該ポリヌクレオチドを「E4ポリヌクレオチド」と表記することもある)を提供する。具体的には、E4ポリヌクレオチドとして、以下の(d)〜(f)のポリヌクレオチドを提供する:
(d)配列番号2に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(e)配列番号1に記載のアミノ配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f)前記(d)又は(e)のポリヌクレオチドの相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0034】
配列番号1に記載のアミノ酸配列は、配列番号4に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。
【0035】
上記(f)のポリヌクレオチドにおいて、「ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする」とは、標準的なハイブリダイゼーション条件下に、2つのポリヌクレオチド断片が互いにハイブリダイズできることを意味し、本条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning : A laboratory manual (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USAに記載されている。より具体的には、「ストリンジェントな条件」とは、6.0x SSC中で、約45℃にてハイブリダイゼーションを行い、そして2.0x SSCによって50℃にて洗浄することを意味する。
【0036】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、通常、プローブとして使用するポリヌクレオチドのヌクレオチド配列と一定以上の相同性を有する。その相同性は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、更に特に好ましくは98%以上である。ヌクレオチド配列の相同性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、SSEARCH等のソフトウェアを用いて計算される。具体的には、BLAST検索に一般的に用いられる主な初期条件は、以下の通りである。即ち、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastnを用い、各種パラメータはデフォルト値に設定して検索を行うことにより、ヌクレオチド配列の相同性の値(%)を算出する。
【0037】
また、上記(f)のポリヌクレオチドにおいて、「ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性」は、上記(b)又は(c)のポリペプチドの場合と同様の方法で確認される。
【0038】
E4ポリヌクレオチドは、配列番号2の配列情報に基づいて、化学的DNA合成法により製造、取得することができるが、一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる〔Molecular Cloning 2d Ed, Cold Spring Harbor Lab. Press (1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)等参照〕。
【0039】
化学的DNA合成法としては、フォスフォアミダイト法による固相合成法を例示することができる。この合成法には自動合成機を利用することができる。
【0040】
また、一般的遺伝子工学的手法としては、具体的には、E4ポリヌクレオチドが存在する適当な起源より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、E4ポリヌクレオチドに特有の適当なプローブ、抗体、アプタマー等を用いて所望クローンを選択することにより実施できる〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 78, 6613 (1981);Science122, 778 (1983)等〕。
【0041】
ここで、cDNAの起源としては、E4ポリヌクレオチドを有している生物であれば特に制限されないが、具体的には、エクオール産生能を有する微生物、好ましくはエクオール産生能を有する乳酸菌、バクテロイデス属に属する菌及びストレプトコッカス属に属する菌、更に好ましくはエクオール産生能を有するラクトコッカス・ガルビエ、バクテロイデス・オバタス、及びストレプトコッカス・コンステラタス、特に好ましくはエクオール産生能を有する糞便由来のラクトコッカス・ガルビエ、特にエクオール産生能を有する糞便由来のラクトコッカス・ガルビエであるラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号;独立行政法人産業技術綜合研究所 特許生物寄託センターにて寄託)、バクテロイデス・オバタスE−23−15株(FERM BP-6435号;独立行政法人産業技術綜合研究所 特許生物寄託センターにて寄託)、ストレプトコッカス・コンステラタス A6G−225株(FERM BP-6437号;独立行政法人産業技術綜合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番1号)にて寄託)が例示される。E4ポリヌクレオチドは、ラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)から単離されたものである。
【0042】
また、これらからの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施することができる。また、本発明のポリヌクレオチドをcDNAライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の方法に従うことができる。具体的には、例えばcDNAによって産生されるポリペプチドに対して、該ポリペプチド特異抗体を使用した免疫的スクリーニングにより対応するcDNAクローンを選択する方法、目的のヌクレオチド配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等やこれらの組合せ等を例示できる。
【0043】
ここで用いられるプローブとしては、E4ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列に関する情報(例えば、配列番号2のヌクレオチド配列)をもとにして化学合成されたDNA等が一般的に例示できる。また、E4ポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づき設定したセンスプライマー及び/又はアンチセンスプライマーをスクリーニング用プローブとして用いることもできる。
【0044】
E4ポリヌクレオチドの取得に際しては、PCR法〔Science130, 1350 (1985)〕またはその変法によるDNA若しくはRNA増幅法が好適に利用できる。殊に、ライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法〔Rapid amplification of cDNA ends;実験医学、12(6), 35 (1994)〕、特に5'-RACE法〔M.A. Frohman, et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 8, 8998 (1988)〕等の採用が好適である。これらRACE法及び5’−RACE法は、真核生物由来のE4ポリヌクレオチドを取得する際に有用である。
【0045】
かかるPCR法の採用に際して使用されるプライマーは、E4ポリヌクレオチドの配列情報に基づいて適宜設定することができ、これは常法に従って合成できる。尚、増幅させたDNA若しくはRNA断片の単離精製は、前記の通り常法に従うことができ、例えばゲル電気泳動法、ハイブリダイゼーション法等によることができる。
【0046】
E4ポリヌクレオチドによれば、通常の遺伝子工学的手法を用いることにより、該ポリヌクレオチドの産物(即ち、上記E4ポリペプチド)を容易に大量に、安定して製造することができる。E4ポリヌクレオチドの単離に成功したことによって、E1〜E3酵素を利用してダイゼインからエクオールを製造する際の収率を向上させることができ、エクオールの工業的生産への道が開かれる。
【0047】
1−3.発現ベクター
本発明の発現ベクターは、E4ポリヌクレオチドを含んでおり、且つ該E4ポリヌクレオチドを発現できるものであれば特に制限されず、一般に宿主細胞との関係から適宜選択される。
【0048】
宿主細胞として原核生物の細胞を使用する場合、発現ベクターとしては、例えば該宿主細胞中で複製可能なプラスミドベクターであって、このベクター中にE4ポリヌクレオチドが発現できるようにE4ポリヌクレオチドの上流にプロモーター及びSD(シヤイン・アンド・ダルガーノ)塩基配列を付与した発現プラスミドを挙げることができる。具体的には、PLプロモーター、T7プロモーターおよびlacプロモーターを利用した発現プラスミドを挙げることができる。他の好ましい細菌発現ベクターとしてはtacプロモーター又はtrcプロモーターを利用したプラスミドpKK233−2及びpKK233−3等を挙げることができる。ただし、これらに限定されず公知の各種の菌株及びベクターをも利用できる。
【0049】
また、宿主細胞として真核細胞を使用する場合、発現ベクターとしては、通常、発現しようとするE4ポリヌクレオチドの上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するものを使用でき、これは更に必要により複製起点を有していてもよい。E4ポリヌクレオチドを挿入するのに有用な真核生物ベクターはよく知られている。例えば、適当な真核生物ベクターとしてはpCD及びpCMVを例示することができる。また、これらの他には、必要に応じて、MMTV又はSV40後期プロモーターを利用したpMSG及びpSVLを挙げることができる。ただし、これらに限定されず公知の各種の真核生物及びベクターをも利用できる。
【0050】
1−4.組み換え細胞
本発明は、上記E4ポリヌクレオチドを含む発現ベクターによって形質転換された組み換え細胞(形質転換体)を提供する。
【0051】
組み換え細胞に使用される宿主細胞としては、原核細胞及び真核細胞のいずれを使用してもよい。
【0052】
宿主細胞として使用される原核細胞としては、ラクトコッカス属に属する乳酸菌等の細菌性原核細胞を好適に使用できるが、他に、好気的条件下で生育可能な細菌性原核細胞(例えば、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等)を例示することができる。
【0053】
宿主細胞として使用される真核細胞としては、例えば、酵母、アスペルギルス等の真核微生物;ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞;L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、HEK293細胞、Bowesメラノーマ細胞、卵母細胞等の動植物細胞等を例示することができる。
【0054】
また、上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法は、特に制限されず、一般的な各種方法を採用することができる。例えば、上記発現ベクターの宿主細胞への導入は、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)等の多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法に従って行うことができ、その具体的手法としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング (scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等が挙げられる。
【0055】
該組み換え細胞は、ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素であるE4ポリペプチドを産生できるので、ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素の製造のために利用することができ、また細胞の状態のままジヒドロダイゼインのラセミ化に利用することもできる。
【0056】
1−5.組み換え細胞を用いたE4ポリペプチドの製造
E4ポリヌクレオチドが導入された組み換え細胞を培養し、細胞及び又は培養物からE4ポリペプチドを回収することにより、E4ポリペプチドを製造することができる。
【0057】
培養は、宿主に適した培地を用いて継代培養又はバッチ培養を行えばよい。培養は、組み換え細胞の内外に生産されたE4ポリペプチド量を指標にして、E4ポリペプチドが適当量得られるまで行えばよい。
【0058】
該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
【0059】
また、斯くして得られるE4ポリペプチドは、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作〔「生化学データーブックII」、1175-1259 頁、第1版第1刷、1980年 6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25(25), 8274 (1986); Eur. J. Biochem., 163, 313 (1987) 等参照〕により分離、精製できる。具体的には、上記「1−1.ポリペプチド」の欄に記載する方法と同様である。
【0060】
1−6.E4ポリペプチドを用いたジヒドロダイゼインのラセミ化
本発明は、E4ポリペプチドを用いたジヒドロダイゼインのラセミ化方法を提供する。即ち、該ラセミ化方法では、E4ポリペプチドをジヒドロダイゼインに作用させることにより、ジヒドロダイゼインをラセミ化する。
【0061】
本ラセミ化方法において、ラセミ化反応に供されるジヒドロダイゼインは、2種のジヒドロダイゼインの鏡像異性体の内、いずれか1種であってもよく、また2種であってもよい。前述するように、F−DDはE2酵素によりtrans-テトラヒドロダイゼインに変換されるため、エクオールの合成原料を供給するという観点から、本ラセミ化方法において、ラセミ化反応に供されるジヒドロダイゼインは、L−DDを単独で存在するもの、又はL−DDがF−DDに比べて高い割合を占めているラセミ体であることが望ましい。また、本ラセミ化方法において、ラセミ化反応に供されるジヒドロダイゼインは、ダイゼインをE1酵素で反応させた反応産物であってもよい。ダイゼインをE1酵素で反応させた反応産物には、L−DDが高い割合で含まれており、これを本ラセミ化方法に供することにより、反応産物中のL−DDの含有量を低下させてF−DDの含有量を増加させることができる。
【0062】
本ラセミ化方法において、ラセミ化反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E4ポリペプチドの所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示することができる。
【0063】
また、該反応には、必要に応じてPMSF、EDTA等のプロテアーゼ阻害剤を適当量添加していてもよい。また、E4ポリペプチドが嫌気性菌由来であることを考慮すると、DTT、2ME、DET、Sodium hydrosulfite等の還元剤を適当量添加していてもよい。
【0064】
本ラセミ化方法に採用される反応は、例えば、反応開始時に溶媒中で各成分を下記の濃度範囲を満たすように添加してE4ペプチド及びジヒドロダイゼインを含む反応液を調製し、これを20〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E4ポリペプチドが0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ジヒドロダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0065】
また、本発明は、ジヒドロダイゼインをラセミ化するための混合原料として、(i)E4ポリペプチド、及び(ii)ジヒドロダイゼインを含有するジヒドロダイゼインラセミ化原料組成物を提供する。該ラセミ化原料組成物を前述する条件でインキュベートすることにより、該ラセミ化原料組成物中のジヒドロダイゼインをラセミ化させることができる。該ラセミ化原料組成物は、上記ラセミ化方法において、反応開始時の反応液に相当するものであり、該ラセミ化原料組成物におけるE4ポリペプチドの配合濃度、ジヒドロダイゼインの配合濃度、並びに該ラセミ化原料組成物に配合可能な他の成分等についても、上記ラセミ化方法に採用される反応開始時の反応液の場合と同様である。
【0066】
更に、本発明は、ジヒドロダイゼインをラセミ化するためのキットとして、(i)E4ポリペプチド、及び(ii)ジヒドロダイゼインを含有するジヒドロダイゼインラセミ化用キットを提供する。該ラセミ化用キットには、前述する条件でジヒドロダイゼインのラセミ化を簡易に実施できるように、各成分が必要に応じて区分けされて備えられていればよい。また、該ラセミ化用キットには、必要に応じて、使用する緩衝液が含まれていても良い。更に、該ラセミ化用キットは、ジヒドロダイゼインのラセミ化を簡易に行うために、必要となる器具や操作マニュアルを含んでいても良い。
【0067】
1−7.ジヒドロダイゼインラセミ化酵素組成物
本発明は、更に、E4ポリペプチドを含むジヒドロダイゼインラセミ化酵素組成物を提供する。
【0068】
該酵素組成物は、粗精製の状態のE4ポリペプチドであってもよく、また粗精製又は精製されたE4ポリペプチドを適当な担体に配合したものであってもよい。
【0069】
該酵素組成物において、E4ポリペプチドの配合割合については、上記ジヒドロダイゼインのラセミ化方法において、ジヒドロダイゼインラセミ化酵素として使用できる限り、特に制限されない。具体的には、該酵素組成物の総量当たり、E4ポリペプチドが0.001〜20.0重量%、好ましくは0.005〜5.0重量%、更に好ましくは0.01〜1.0重量%が例示される。
【0070】
該酵素組成物には、E4ポリペプチドの他に、該E4ポリペプチドの安定性を向上せしめるために、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロール、システイン等の抗酸化剤を含んでいても良い。また、該酵素組成物の保存性を担保するために、必要に応じて、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等の保存剤を添加してもよい。
【0071】
1−8.上記組み換え細胞を用いたジヒドロダイゼインのラセミ化方法
本発明は、E4ポリヌクレオチドが導入された組み換え細胞を用いたジヒドロダイゼインのラセミ化方法を提供する。即ち、該ラセミ化方法では、上記組み換え細胞を、ジヒドロダイゼインに作用させることにより、ジヒドロダイゼインをラセミ化する。本ラセミ化方法に供されるジヒドロダイゼインは、上記「1−6.E4ポリペプチドを用いたジヒドロダイゼインのラセミ化」の場合と同様である。
【0072】
本ラセミ化方法に採用される反応は、上記組み換え細胞が生存でき、且つジヒドロダイゼインをラセミ化できる環境下で実施される。
【0073】
具体的には、上記組み換え細胞が生育可能な培地中に、上記組み換え細胞、及びダイゼインを適当量添加して培養を行うことにより実施される。
【0074】
本ラセミ化方法において、使用される培地は、組み換え細胞の宿主細胞として採用した細胞の種類に応じて、慣用される各種のものを適宜選択利用される。
【0075】
また、該培地には、必要に応じてPMSF、EDTA等のプロテアーゼ阻害剤を適当量添加していてもよい。また、上記E4ポリペプチドが嫌気性菌由来であることを考慮すると、DTT、2ME、DET、Sodium hydrosulfite等の還元剤を適当量添加していてもよい。
【0076】
本ラセミ化方法は、具体的には、ジヒドロダイゼインを0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜1重量%、更に好ましくは0.01〜0.5重量%を含む培地に上記組み換え細胞を接種して反応液を調製し、この反応液を上記組み換え細胞の生育可能温度条件下で6〜30時間、好ましくは7〜24時間、更に好ましくは7〜18時間インキュベートすることにより実施される。
【0077】
また、本発明は、ジヒドロダイゼインをラセミ化するための混合原料として、(iv)上記組み換え細胞、及び(ii)ジヒドロダイゼインを含有するジヒドロダイゼインラセミ化原料組成物を提供する。該ラセミ化原料組成物を前述する条件で培養することにより、該ラセミ化原料組成物中のジヒドロダイゼインをラセミ化することができる。該ラセミ化原料組成物は、上記ジヒドロダイゼインのラセミ化において、反応開始時の反応液に相当するものであり、該ラセミ化原料組成物における上記組み換え細胞、及びジヒドロダイゼインの濃度、並びに該ラセミ化原料組成物に配合可能な他の成分等についても、上記ラセミ化方法に採用される条件等と同様である。
【0078】
更に、本発明は、ジヒドロダイゼインをラセミ化するためのキットとして、(iv)上記組み換え細胞、及び(ii)ジヒドロダイゼインを含有するジヒドロダイゼインラセミ化用キットを提供する。該ラセミ化用キットには、前述する条件でジヒドロダイゼインのラセミ化を簡易に実施できるように、上記組み換え細胞とジヒドロダイゼインが、必要に応じて区分けされて備えられていればよい。また、該ラセミ化用キットには、必要に応じて、緩衝液や培地が含まれていても良い。更に、該ラセミ化用キットは、ジヒドロダイゼインのラセミ化を簡易に行うために、必要となる器具や操作マニュアルを含んでいても良い。
【0079】
なお、該ラセミ化用キットに含まれる上記組み換え細胞は、公知の方法で保存されたものであってもよい。組み換え細胞を保存する技術は公知であり、例えば、ジメチルホルムアミド等に組み換え細胞を入れて凍結乾燥機でアンプルが真空状態になるよう処理した後、4〜25℃で保存する方法等を挙げることができる。この他にも、10%グリセロール加保存培地に菌体を懸濁し、これを専用アンプルに収め、液体窒素タンク(−150〜−196℃)で保管する液体窒素法を挙げられる。
【0080】
1−9.E4ポリペプチドに結合する抗体
本発明は、更に、E4ポリペプチドに結合性を有する抗体(抗E4ペプチド抗体)を提供する。本抗E4ペプチド抗体のアイソタイプとしては、特に制限されず、IgG、IgA、IgM、IgD、IgE等のいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。また、本抗E4ペプチド抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、またポリクローナル抗体であってもよい。
【0081】
モノクローナル抗体は、従来法に従って作製される。具体的には、ハーローとレーン(Harlow,H. and Lane,D.)、「抗体:実験室マニュアル」中、コールドスプリングハーバーラボ(Cold Spring Harbor Lab)、ニューヨーク、139−240頁(1988)に記載の方法に従って作製することができる。
【0082】
また、ポリクローナル抗体についても、従来法に従って作製される。具体的には、細胞工学実験プロトコール(東京大学医科学研究所制癌研究部編、1992年、155〜173ページ)等に記載の方法に従って作製することができる。
【0083】
モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体とも、通常の硫酸アンモニウム沈澱法及びプロテインAクロマトグラフィー等により精製することができる。
【0084】
1−10.E4ポリペプチドを検出又は測定する免疫学的方法
更に、本発明は、上記抗E4ペプチド抗体を用いてE4ポリペプチドを検出又は測定する免疫学的方法を提供する。具体的には、該免疫学的方法は、上記抗E4ペプチド抗体を被験試料に接触させることにより実施される。即ち、上記抗E4ペプチド抗体を被験試料に接触させることにより、被験試料中にE4ポリペプチドが存在する場合には、上記抗体とE4ポリペプチドが特異的に結合する。次いで、E4ポリペプチドに結合した上記抗体を検出し、必要に応じてこれを定量することにより、被験試料中の上記ポリペプチドを検出又は測定することができる。
【0085】
ここで、被験試料とは、E4ポリペプチドの検出又は測定の対象となる試料である。E4ポリペプチドは、細菌性原核細胞内に見出されることが予測されるので、細菌性原核細胞内に存在するE4ポリペプチドの検出又は測定の目的に、該免疫学的方法は好適である。なお、細胞内に存在するE4ポリペプチドの検出又は測定を行う場合には、当該細胞に対して破砕処理を行ったもの、又は該破砕処理の後にタンパク質の精製処理を行ったものを被験試料として使用すればよい。
【0086】
抗体を利用した免疫学的方法によって、目的のポリペプチドを検出又は測定する手法は公知であり、当業者であれば、免疫学的方法における適当な諸条件については適宜設定可能である。例えば、ラジオイムノアッセイ法、ELISA法等を採用し、適当な条件を適宜設定すればよい。
【0087】
更に、本発明は、E4ポリペプチドを検出又は測定するためのキットとして、上記抗E4ペプチド抗体を含有する免疫学的検出用キットを提供する。該検出用キットには、必要に応じて、E4ポリペプチドが標準品として含まれていてもよい。更に、該検出用キットには、前述する条件でE4ポリペプチドの検出を簡易に実施できるように、その他に使用される試薬等が、必要に応じて備えられていてもよい。また、該検出用キットは、E4ポリペプチドの検出を簡易に行うために、必要となる器具や操作マニュアルを含んでいても良い。
【0088】
1−11.E4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの検出又は測定する方法
また、本発明は、E4ポリヌクレオチドを検出又は測定する方法を提供する。該方法は、具体的には、E4ポリヌクレオチドに結合するプローブを被験試料と接触させることにより実施される。即ち、該プローブを被験試料に接触させることにより、被験試料中にE4ポリヌクレオチドが存在する場合には、該プローブとE4ポリヌクレオチドがハイブリダイズする。次いで、この二本鎖の形成の有無を検出し、必要に応じてこれを定量することにより、被験試料中のE4ポリヌクレオチドを検出又は測定することができる。
【0089】
ここで、被験試料とは、E4ポリヌクレオチドの検出又は測定の対象となる試料である。E4ポリヌクレオチドは、細菌性原核細胞内に見出されることが予測されるので、細菌性原核細胞内に存在するE4ポリヌクレオチドの検出又は測定の目的に、該方法は好適である。なお、細胞内に存在するE4ポリヌクレオチドの検出又は測定を行う場合には、当該細胞に対して破砕処理を行ったもの、又は該破砕処理の後に核酸の精製処理を行ったものを被験試料として使用すればよい。
【0090】
また、該方法に使用されるプローブとしては、上記E4ポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるヌクレオチド配列を有するものが使用される。ここで、ストリンジェントな条件とは、プローブ又はプライマーとして用いられる通常の条件を挙げることができるが、具体的には上記「1−2.ポリヌクレオチド」の欄に示す条件が例示される。
【0091】
該プローブは、E4ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列(例えば、配列番号2に記載のヌクレオチド配列)に関する情報を基にして化学合成したものであってもよく、また既に取得されたE4ポリヌクレオチドやその断片の相補鎖からなるものであってもよい。また、該プローブは、通常、標識したプローブを用いるが、非標識であってもよい。また、該プローブをPCR用のプライマー(センスプライマー叉はアンチセンスプライマー)として使用する場合、その長さについては、約10〜40ヌクレオチド程度、特に20〜30ヌクレオチド程度が好ましく例示される。
【0092】
該方法は、該プローブを用いて、E4ポリヌクレオチドを特異的に検出する方法としては、例えば、プラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、サザンブロット法、ノーザンブロット法、PCR法等が挙げられるが、感度の点からは、該プローブをプライマーとして利用したPCR法によりE4ポリヌクレオチド又はその一部を増幅する方法が好適に採用される。
【0093】
PCR法としては、例えばRT−PCR法が例示されるが、当該分野で用いられる種々の変法を適応することが出来る。PCR法を用いて、E4ポリヌクレオチドの存在とその量を定量することも可能である。該方法としては、MSSA法の如き競合的定量法(Kinoshita, M.,et al., CCA, 228, 83-90 (1994))、または一本鎖DNAの高次構造の変化に伴う移動度の変化を利用した突然変異検出法として知られるPCR−SSCP法(Orita, M.,et al., Genomics, 5, 874-879 (1989))を例示できる。
【0094】
更に、本発明は、E4ポリヌクレオチドを検出又は測定するためのキットとして、上記プローブを含有するE4ポリヌクレオチド検出用キットを提供する。該検出用キットには、前述する条件でE4ポリヌクレオチドの検出を簡易に実施できるように、上記プローブ以外に使用される試薬等が、必要に応じて備えられていてもよい。また、該検出用キットは、E4ポリヌクレオチドを含有する細胞を同定するためのキットとして使用することもできる。また、該検出用キットとしては、精度の高い検出を可能にするという観点から、好ましくはPCRによる検出を行うためのキットが挙げられる。
【0095】
2.E1酵素〜E4酵素を利用したエクオール又はその中間体の製造方法
2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法
本発明は、ダイゼインにE1酵素及びE4酵素を作用させることにより、ジヒドロダイゼインを製造する方法を提供する。本ジヒドロダイゼインの製造方法により得られるジヒドロダイゼインは、E4酵素によってラセミ化されており、E2酵素によってtransテトラヒドロダイゼインを生成するための原料として使用可能な化合物の割合が増加しており、酵素を用いたエクオールの合成原料として好適に使用することができる。
【0096】
本ジヒドロダイゼインの製造方法としては、具体的には、E1酵素による反応を実施した後に、E4酵素による反応を実施する方法(以下、第1-I法と表記することもある)、又はE1酵素による反応とE4酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第1-II法と表記することもある)が例示される。以下、第1-I法と第1-II法に分けて詳述する。
<第1-I法>
第1-I法によるジヒドロダイゼインの製造方法は、以下の第(1I-1)工程及び第(1I-2)工程を含むものである。
第(1-I-1)工程:ダイゼインにE1酵素を作用させることにより、ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(1-I-2)工程:第(1-I-1)工程で生成したジヒドロダイゼインにE4酵素を作用させることにより、ラセミ化されたジヒドロダイゼインを生成する工程。
【0097】
第(1-I-1)工程で使用されるE1酵素については後述する。E1酵素によるダイゼインからジヒドロダイゼインへの変換は、補酵素としてNADPH及び/又はNADHが要求されるので、上記第(1-I-1)工程は、NADPH及び/又はNADHの存在下、好ましくはNADPHの存在下で行うことが望ましい。NADPH及び/又はNADHの反応溶液における濃度としては、例えば0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%、更に好ましくは0.1〜0.5重量%が例示される。
【0098】
また、E1酵素のジヒドロダイゼイン合成活性は、Mn2+及び/又はFe2+の存在によって賦活されるため、Mn2+及び/又はFe2+の存在下でE1酵素をダイゼインに作用させることが好ましい。E1酵素の当該酵素活性を賦活することができる限り、Mn2+及び/又はFe2+の反応溶液における濃度は特に制限されない。Fe2+の濃度は、好ましくは2mM以上であり、より好ましくは2mM〜100mMであり、更に好ましくは10mM〜40mMである。Mn2+の濃度は、好ましくは0.2μMであり、より好ましくは0.2μM〜100mMであり、更に好ましくは1.0μM〜40mMである。
【0099】
第(1-I-1)工程で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示することができる。
【0100】
また、第(1-I-1)工程で採用される反応には、必要に応じてPMSF、EDTA等のプロテアーゼ阻害剤を適当量添加していてもよい。また、E1酵素が嫌気性菌由来であることを考慮すると、DTT、2ME、DET、Sodium hydrosulfite等の還元剤を適当量添加していてもよい。
【0101】
第(1-I-1)工程で採用される反応は、例えば、反応開始時に溶媒中で各成分を下記の濃度範囲を満たすように添加して反応溶液を調製し、これを20〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E1ポリペプチドが0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0102】
第(1-I-1)工程で生成されたジヒドロダイゼインは、精製又は粗精製された後に、第(1-I-2)工程に供されてもよく、また第(1-I-1)工程の反応終了後の反応溶液をそのまま第(1-I-2)工程に供してもよい。
【0103】
第(1-I-2)工程で採用される反応は、E4酵素、及びジヒドロダイゼインを含有する溶液を、E4酵素、ジヒドロダイゼイン等が変質・不活性化されない条件でインキュベートすることにより実施される。具体的には、上記「1−6.E4ポリペプチドを用いたジヒドロダイゼインのラセミ化」の欄に記載の条件に従って実施することができる。
【0104】
<第1-II法>
第1-II法によるジヒドロダイゼインの製造方法は、E1酵素及びE4酵素の存在下でダイゼインをラセミ化されたジヒドロダイゼインに変換する工程を含むものである。
【0105】
第1-II法で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素及びE4酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示される。
【0106】
第1-II法で採用される反応は、E1酵素による反応を円滑に進行させるために、NADPH及び/又はNADHの存在下、好ましくはNADPHの存在下で実施することが望ましい。更に、E1酵素のジヒドロダイゼイン合成活性を賦活化する目的で、Mn2+及び/又はFe2+の存在下で実施することが望ましい。第1-II法で採用される反応において、添加されるNADPH及び/又はNADHの濃度、Mn2+及び/又はFe2+の濃度については、上記第1-I法の第(1-I-1)工程の場合と同様である。
【0107】
第1-II法において、E1酵素の反応とE4酵素の反応を同一条件で効率よく実施する観点から、採用される反応は、各成分を下記の濃度範囲を満たすように反応溶液を調製し、これを15〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E1酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E4酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0108】
2−2.テトラヒドロダイゼインの製造方法−1
本発明は、ダイゼインに、E1酵素、E2酵素及びE4酵素を作用させることにより、テトラヒドロダイゼインを製造する方法を提供する。本製造方法により得られるテトラヒドロダイゼインは、トランス型が高い割合を占めており、E3酵素の基質として使用可能であるのでE3酵素を用いたエクオールの合成原料として使用することができる。
【0109】
本テトラヒドロダイゼインの製造方法としては、具体的には、E1酵素による反応、E4酵素による反応、E2酵素による反応を各々独立で実施する反応を実施する方法(以下、第2-I法と表記することもある)、E1酵素による反応とE4酵素による反応を同一系内で同時に実施した後に、E2酵素による反応を実施する方法(以下、第2-II法と表記することもある)、E1酵素による反応を実施した後に、E4酵素による反応とE2酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第2-III法と表記することもある)、又はE1酵素による反応、E4酵素による反応、及びE2酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第2-IV法と表記することもある)が例示される。以下、第2-I法〜第2-IV法に分けて詳述する。
【0110】
<第2-I法>
第2-I法によるテトラヒドロダイゼインの製造方法は、以下の第(2-I-1)工程〜第(2-I-3)工程を含むものである。
第(2-I-1)工程:ダイゼインにE1酵素を作用させることにより、ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(2-I-2)工程:第(2-I-1)工程で生成したジヒドロダイゼインにE4酵素を作用させることにより、ラセミ化ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(2-I-3)工程:第(2-I-2)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインにE2酵素を作用させることにより、テトラヒドロダイゼインを生成する工程。
【0111】
本第2-I法における第(2-I-1)工程及び第(2-I-2)工程は、それぞれ、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法における第(1-I-1)工程及び第(1-I-2)工程と同様の条件で実施される。
【0112】
第(2-I-2)工程で生成されたラセミ化ジヒドロダイゼインは、精製又は粗精製された後に、第(2-I-3)工程に供されてもよく、また第(2-I-2)工程の反応終了後の反応溶液をそのまま第(2-I-3)工程に供してもよい。
【0113】
第(2-I-3)工程で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示することができる。
【0114】
第(2-I-3)工程で使用されるE2酵素については後述する。E2酵素によるジヒドロダイゼインからテトラヒドロダイゼインへの変換は、補酵素としてNADPH及び/又はNADHが要求されるので、上記第(2-I-3)工程は、NADPH及び/又はNADHの存在下で行うことが望ましい。NADPH及び/又はNADHの反応溶液における濃度としては、例えば0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%、更に好ましくは0.1〜0.5重量%が例示される。
【0115】
また、第(2-I-3)工程で採用される反応には、必要に応じてPMSF、EDTA等のプロテアーゼ阻害剤を適当量添加していてもよい。また、E2酵素が嫌気性菌由来であることを考慮すると、DTT、2ME、DET、Sodium hydrosulfite等の還元剤を適当量添加していてもよい。
【0116】
第(2-I-3)工程で採用される反応は、例えば、反応開始時に溶媒中で各成分を下記の濃度範囲を満たすように添加して反応溶液を調製し、これを0〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E2酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ラセミ化されたジヒドロダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0117】
<第2-II法>
第2-II法によるテトラヒドロダイゼインの製造方法は、以下の第(2-II-1)工程及び第(2-II-2)工程を含むものである。
第(2-II-1)工程: E1酵素及びE4酵素の存在下でダイゼインをラセミ化ジヒドロダイゼインに変換する工程。
第(2-II-2)工程:第(2-II-1)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインにE2酵素を作用させることにより、テトラヒドロダイゼインを生成する工程。
【0118】
本第2-II法における第(2-II-1)工程は、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-II法と同様の条件で実施される。
【0119】
また、本第2-II法における第(2-II-2)工程は、上記第2-I法の第(2-I-3)工程と同様の条件で実施される。
【0120】
<第2-III法>
第2-III法によるテトラヒドロダイゼインの製造方法は、以下の第(2-III-1)工程及び第(2-III-2)工程を含むものである。
第(2-III-1)工程:ダイゼインにE1酵素を作用させることにより、ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(2-III-2)工程:E4酵素及びE2酵素の存在下で第(2-III-1)工程で生成したジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する工程。
【0121】
本第2-III法における第(2-III-1)工程は、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法における第(1-I-1)工程と同様の条件で実施される。
【0122】
第(2-III-1)工程で生成されたジヒドロダイゼインは、精製又は粗精製された後に、第(2-III-2)工程に供されてもよく、また第(2-III-1)工程の反応終了後の反応溶液をそのまま第(2-III-2)工程に供してもよい。
【0123】
第(2-III-2)工程で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素及びE4酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示される。
【0124】
第(2-III-2)工程で採用される反応は、E2酵素による反応を円滑に進行させるために、NADPH及び/又はNADHの存在下で実施することが望ましい。第(2-III-2)工程で採用される反応において、添加されるNADPH及び/又はNADHの濃度については、記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法の第(1-I-1)工程の場合と同様である。
【0125】
第(2-III-2)工程において、E4酵素の反応とE2酵素の反応を同一条件で効率よく実施する観点から、採用される反応は、各成分を下記の濃度範囲を満たすように反応溶液を調製し、これを15〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E4酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E2酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ジヒドロダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0126】
<第2-IV法>
第2-IV法によるテトラヒドロダイゼインの製造方法は、E1酵素、E2酵素及びE4酵素の存在下でダイゼインをラセミ化されたジヒドロダイゼインに変換する工程を含むものである。
【0127】
第2-IV法で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素及びE4酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示される。
【0128】
第2-IV法で採用される反応は、E1酵素及びE2酵素による反応を円滑に進行させるために、NADPH及び/又はNADHの存在下で実施することが望ましい。更に、E1酵素のジヒドロダイゼイン合成活性を賦活化する目的で、Mn2+及び/又はFe2+の存在下で実施することが望ましい。第2法で採用される反応において、添加されるNADPH及び/又はNADHの濃度、Mn2+及び/又はFe2+の濃度については、上記上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法の第(1-I-1)工程の場合と同様である。
【0129】
第2-IV法において、E1酵素の反応、E4酵素の反応、及びE2酵素の反応を同一条件で効率よく実施する観点から、採用される反応は、各成分を下記の濃度範囲を満たすように反応溶液を調製し、これを15〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E1酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E2酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E4酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0130】
2−3.テトラヒドロダイゼインの製造方法−2
本発明は、ジヒドロダイゼインに、E2酵素及びE4酵素を作用させることにより、テトラヒドロダイゼインを製造する方法を提供する。本製造方法において原料として供されるジヒドロダイゼインは、L−DD(前述する条件のキラルHPLCにおいて保持時間が遅い方のジヒドロダイゼインの鏡像異性体)が含まれているもであればよく、L−DDが単独で含まれるもの、又はL−DDとF−DD(上記条件のキラルHPLCにおいて保持時間が早い方のジヒドロダイゼインの鏡像異性体)が混在しているもののいずれであってもよい。本製造方法において原料として供されるジヒドロダイゼインとしては、好ましくはダイゼインにE1酵素を作用させることにより得られたジヒドロダイゼインが挙げられる。
【0131】
E2酵素単独では、L−DDをtrans-テトラヒドロダイゼインに変換することはできないが、E4酵素を組み合わせて使用することによって、E4酵素によりL−DDをF−DDに変換した後に、E2酵素によってF−DDをtrans-テトラヒドロダイゼインに変換することが可能になる。このように、本製造方法により得られるテトラヒドロダイゼインは、トランス型が高い割合で占められており、E3酵素の基質として使用可能であるのでE3酵素を用いたエクオールの合成原料として使用することができる。
【0132】
本テトラヒドロダイゼインの製造方法としては、具体的には、E4酵素による反応、E2酵素による反応を各々独立で実施する反応を実施する方法(以下、第3-I法と表記することもある)、又はE4酵素による反応とE2酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第3-II法と表記することもある)が例示される。以下、第3-I法及び第3-II法に分けて詳述する。
【0133】
<第3-I法>
第3-I法によるテトラヒドロダイゼインの製造方法は、以下の第(3-I-1)工程及び第(3-I-2)工程を含むものである。
第(3-I-1)工程:ジヒドロダイゼインにE4酵素を作用させることにより、ラセミ化ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(3-I-2)工程:第(3-I-1)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインにE2酵素を作用させることにより、テトラヒドロダイゼインを生成する工程。
【0134】
本第3-I法における第(3-I-1)工程及び第(3-I-2)工程は、それぞれ、上記「2−2.テトラヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第2-I法における第(2-I-2)工程及び第(2-I-3)工程と同様の条件で実施される。
【0135】
<第3-II法>
第3-II法によるテトラヒドロダイゼインの製造方法は、E2酵素及びE4酵素の存在下でジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する工程を含むものである。
【0136】
本第3-II法は、上記「2−2.テトラヒドロダイゼインの製造方法−1」における第2-III法の第(2-III-2)工程と同様の条件で実施される。
【0137】
2−4.エクオールの製造方法−1
本発明は、ダイゼインに、E1酵素〜E4酵素を作用させることにより、エクオールを製造する方法を提供する。
【0138】
本エクオールの製造方法としては、具体的には、E1酵素〜E4酵素による反応を各々独立で実施する方法(以下、第4-I法と表記することもある);E1酵素による反応とE4酵素による反応を各々独立で実施した後に、E2酵素による反応とE3酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第4-II法と表記することもある);E1酵素による反応を行った後に、E4酵素による反応とE2酵素による反応を同一系内で同時に実施し、次いでE3酵素による反応を実施する方法(以下、第4-III法と表記することもある);E1酵素による反応を行った後に、E4酵素による反応、E2酵素による反応、及びE3酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第4-IV法と表記することもある);E1酵素による反応とE4酵素による反応を同一系内で同時に実施した後に、E2酵素による反応及びE3酵素による反応を各々独立で実施する方法(以下、第4-V法と表記することもある);E1酵素による反応とE4酵素による反応を同一系内で同時に実施した後に、E2酵素による反応とE3酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第4-VI法と表記することもある);E1酵素による反応、E4酵素による反応、及びE2酵素による反応を同一系内で同時に実施した後に、E3酵素による反応を実施する方法(以下、第4-VII法と表記することもある);或いはE1酵素〜E4酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第4-VIII法と表記することもある)が例示される。以下、第4-I法及び第4-VIII法に分けて詳述する。
【0139】
<第4-I法>
第4-I法によるエクオールの製造方法は、以下の第(4-I-1)工程〜第(4-I-4)工程を含むものである。
第(4-I-1)工程:ダイゼインにE1酵素を作用させることにより、ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(4-I-2)工程:第(4-I-1)工程で生成したジヒドロダイゼインにE4酵素を作用させることにより、ラセミ化ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(4-I-3)工程:第(2-I-2)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインにE2酵素を作用させることにより、テトラヒドロダイゼインを生成する工程。
第(4-I-4)工程:第(2-I-3)工程で生成したテトラヒドロダイゼインにE3酵素を作用させることにより、エクオールを生成する工程。
【0140】
本第4-I法における第(4-I-1)工程〜第(4-I-2)工程は、それぞれ、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法における第(1-I-1)工程及び第(1-I-2)工程と同様の条件で実施される。
【0141】
また、本第4-I法における第(4-I-3)工程は、上記「2−2.テトラヒドロダイゼインの製造方法−1」の第2-I法における第(2-I-3)工程と同様の条件で実施される。
【0142】
第(4-I-3)工程で生成されたテトラヒドロダイゼインは、精製又は粗精製された後に、第(4-I-4)工程に供されてもよく、また第(4-I-3)工程の反応終了後の反応溶液をそのまま第(4-I-4)工程に供してもよい。
【0143】
第(4-I-4)工程で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示することができる。
【0144】
第(4-I-4)工程で使用されるE3酵素については後述する。
【0145】
また、(4-I-4)工程で採用される反応には、必要に応じてPMSF、EDTA等のプロテアーゼ阻害剤を適当量添加していてもよい。また、E3酵素が嫌気性菌由来であることを考慮すると、DTT、2ME、DET、Sodium hydrosulfite等の還元剤を適当量添加していてもよい。
【0146】
第(4-I-4)工程で採用される反応は、例えば、反応開始時に溶媒中で各成分を下記の濃度範囲を満たすように添加して反応溶液を調製し、これを15〜45℃、好ましくは20〜37℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E3酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
テトラヒドロダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0147】
<第4-II法>
第4-II法によるエクオールの製造方法は、以下の第(4-II-1)工程〜第(4-II-3)工程を含むものである。
第(4-II-1)工程:ダイゼインにE1酵素を作用させることにより、ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(4-II-2)工程:第(4-II-1)工程で生成したジヒドロダイゼインにE4酵素を作用させることにより、ラセミ化ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(4-II-3)工程:E2酵素及びE3酵素の存在下で、第(4-II-2)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインをエクオールに変換する工程。
【0148】
本第4-II法における第(4-II-1)工程及び第(4-II-2)工程は、それぞれ、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法における第(1-I-1)工程及び第(1-I-2)工程と同様の条件で実施される。
【0149】
第(4-II-2)工程で生成されたラセミ化ジヒドロダイゼインは、精製又は粗精製された後に、第(4-II-3)工程に供されてもよく、また第(4-II-2)工程の反応終了後の反応溶液をそのまま第(4-II-3)工程に供してもよい。
【0150】
第(4-II-3)工程で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素及びE4酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示される。
【0151】
第(4-II-3)工程で採用される反応は、E2酵素による反応を円滑に進行させるために、NADPH及び/又はNADHの存在下で実施することが望ましい。第(4-II-3)工程で採用される反応において、添加されるNADPH及び/又はNADHの濃度については、記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法の第(1-I-1)工程の場合と同様である。
【0152】
第(4-II-3)工程において、E2酵素の反応とE3酵素の反応を同一条件で効率よく実施する観点から、採用される反応は、各成分を下記の濃度範囲を満たすように反応溶液を調製し、これを15〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E2酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E3酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ラセミ化ジヒドロダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0153】
<第4-III法>
第4-III法によるエクオールの製造方法は、以下の第(4-III-1)工程〜第(4-III-3)工程を含むものである。
第(4-III-1)工程:ダイゼインにE1酵素を作用させることにより、ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(4-III-2)工程:E4酵素及びE2酵素の存在下で、第(4-III-1)工程で生成したジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する工程。
第(4-III-3)工程:第(4-III-2)工程で生成したテトラヒドロダイゼインにE3酵素を作用させることにより、エクオールを生成する工程。
【0154】
本第4-III法における第(4-III-1)工程〜第(4-III-3)工程は、それぞれ、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法における第(1-I-1)工程、上記「2−2.テトラヒドロダイゼインの製造方法−1」の欄の第2-III法における第(2-III-2)工程、及び上記第(4-I-4)工程と同様の条件で実施される。
【0155】
<第4-IV法>
第4-IV法によるエクオールの製造方法は、以下の第(4-IV-1)工程及び第(4-IV-2)工程を含むものである。
第(4-IV-1)工程:ダイゼインにE1酵素を作用させることにより、ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(4-IV-2)工程:E2酵素〜E4酵素の存在下で、第(4-IV-1)工程で生成したジヒドロダイゼインをエクオールに変換する工程。
【0156】
本第4-IV法における第(4-IV-1)工程工程は、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法における第(1-I-1)工程と同様の条件で実施される。
【0157】
第(4-IV-1)工程で生成されたジヒドロダイゼインは、精製又は粗精製された後に、第(4-IV-2)工程に供されてもよく、また第(4-IV-1)工程の反応終了後の反応溶液をそのまま第(4-IV-2)工程に供してもよい。
【0158】
第(4-IV-2)工程で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示できる。また、該反応におけるpH条件については、E2酵素〜E4酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示される。
【0159】
第(4-IV-2)工程で採用される反応は、E2酵素による反応を円滑に進行させるために、NADPH及び/又はNADHの存在下で実施することが望ましい。第(4-IV-2)工程で採用される反応において、添加されるNADPH及び/又はNADHの濃度については、記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法の第(1-I-1)工程の場合と同様である。
【0160】
第(4-IV-2)工程において、E4酵素の反応、E2酵素の反応、及びE3酵素の反応を同一条件で効率よく実施する観点から、採用される反応は、各成分を下記の濃度範囲を満たすように反応溶液を調製し、これを15〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E2酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E3酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E4酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ジヒドロダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0161】
<第4-V法>
第4-V法によるエクオールの製造方法は、以下の第(4-V-1)工程〜第(4-V-3)工程を含むものである。
第(4-V-1)工程:E1酵素及びE4酵素の存在下で、ダイゼインをラセミ化ジヒドロダイゼインに変換する工程。
第(4-V-2)工程:第(4-V-1)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインにE2酵素を作用させることにより、テトラヒドロダイゼインを生成する工程。
第(4-V-3)工程:第(4-V-2)工程で生成したテトラヒドロダイゼインにE3酵素を作用させることにより、エクオールを生成する工程。
【0162】
本第4-V法における第(4-V-1)工程〜第(4-V-3)工程は、それぞれ、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-II法、上記「2−2.テトラヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第2-I法おける第(2-I-3)工程、並びに上記第4-I法における第(4-I-4)工程と同様の条件で実施される。
【0163】
<第4-VI法>
第4-VI法によるエクオールの製造方法は、以下の第(4-VI-1)工程及び第(4-VI-2)工程を含むものである。
第(4-VI-1)工程:E1酵素及びE4酵素の存在下で、ダイゼインをラセミ化ジヒドロダイゼインに変換する工程。
第(4-VI-2)工程:E2酵素及びE3酵素の存在下で、第(4-VI-1)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインをエクオールに変換する工程。
【0164】
本第4-VI法における第(4-VI-1)工程及び第(4-VI-2)工程は、それぞれ、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第2-II法における第(2-II-1)工程、及び第(4-II-3)工程と同様の条件で実施される。
【0165】
<第4-VII法>
第4-VII法によるエクオールの製造方法は、以下の第(4-VII-1)工程及び第(4-VII-2)工程を含むものである。
第(4-VII-1)工程:E1酵素、E2酵素及びE4酵素の存在下で、ダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する工程。
第(4-VII-2)工程:第(4-VII-1)工程で生成したテトラヒドロダイゼインにE3酵素を作用さることにより、エクオールを生成する工程。
【0166】
第(4-VII-1)工程で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素、E2酵素ならびにE4酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示される。
【0167】
また、第(4-VII-1)工程で採用される反応は、E1酵素及びE2酵素による反応を円滑に進行させるために、NADPH及び/又はNADHの存在下で実施することが望ましい。添加されるNADPH及び/又はNADHの濃度については、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法の第(1-I-1)工程、第2−I法の第(2-I-3)工程の場合と同様である。更に、E1酵素のジヒドロダイゼイン合成活性を賦活化する目的で、Mn2+及び/又はFe2+の存在下で実施することが望ましい。添加されるNADPH及び/又はNADHの濃度、Mn2+及び/又はFe2+の濃度については、上記上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法の第(1-I-1)工程の場合と同様である。
【0168】
第(4-VII-1)工程において、E1酵素の反応、E4酵素の反応、及びE2酵素の反応を同一条件で効率よく実施する観点から、採用される反応は、各成分を下記の濃度範囲を満たすように反応溶液を調製し、これを15〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E1酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E2酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E4酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
第(4-V-2)工程は、それぞれ、上記「2-2.テトラヒドロダイゼインの製造方法−1」の欄の第2−IV法、及び上記第4−1法における第(4-I-4)工程と同様の条件で実施される。
【0169】
<第4-VIII法>
第4-VIII法によるエクオールの製造方法は、E1酵素〜E4酵素の存在下で、ダイゼインにをエクオールに変換する工程を含むものである。
【0170】
第4-VIII法で採用される反応は、適当な緩衝液中で行うことができる。例えば、緩衝液としては、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等を例示される。また、該反応におけるpH条件については、E1酵素及びE4酵素の所望の酵素活性が失活しない範囲で適宜反応条件とすることができるが、好ましくはpH 5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜8.0を例示される。
【0171】
第4-VIII法で採用される反応は、E1酵素及びE2酵素による反応を円滑に進行させるために、NADPH及び/又はNADHの存在下で実施することが望ましい。更に、E1酵素のジヒドロダイゼイン合成活性を賦活化する目的で、Mn2+及び/又はFe2+の存在下で実施することが望ましい。第2法で採用される反応において、添加されるNADPH及び/又はNADHの濃度、Mn2+及び/又はFe2+の濃度については、上記上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法の第(1-I-1)工程の場合と同様である。
【0172】
第4-VIII法において、E1酵素の反応、E4酵素の反応、E2酵素の反応、及びE3酵素の反応を同一条件で効率よく実施する観点から、採用される反応は、各成分を下記の濃度範囲を満たすように反応溶液を調製し、これを15〜45℃、好ましくは25〜40℃、更に好ましくは30〜38℃の温度条件で、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、更に好ましくは2〜4時間インキュベートすることにより実施される:
E1酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E2酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;
E3酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
E4酵素が0.0001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、更に好ましくは0.001〜0.01重量%;及び
ダイゼインが0.0001〜10.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%。
【0173】
2−5.エクオールの製造方法−2
本発明は、ジヒドロダイゼインに、E2酵素〜E4酵素を作用させることにより、エクオールを製造する方法を提供する。本製造方法において原料として供されるジヒドロダイゼインは、上記「2−3.テトラヒドロダイゼインの製造方法−2」において、原料として使用されるジヒドロダイゼインと同様である。
【0174】
本テトラヒドロダイゼインの製造方法としては、具体的には、E2酵素〜E4酵素による反応を各々独立で実施する方法(以下、第5-I法と表記することもある);E4酵素による反応を独立で実施した後に、E2酵素による反応とE3酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第5-II法と表記することもある);E4酵素による反応とE2酵素による反応を同一系内で同時に実施した後に、E3酵素による反応を実施する方法(以下、第5-III法と表記することもある);或いはE2酵素〜E4酵素による反応を同一系内で同時に実施する方法(以下、第5-IV法と表記することもある)が例示される。以下、第5-I法及び第5-III法に分けて詳述する。
【0175】
<第5-I法>
第5-I法によるエクオールの製造方法は、以下の第(5-I-1)工程〜第(5-I-3)工程を含むものである。
第(5-I-1)工程:ジヒドロダイゼインにE4酵素を作用させることにより、ラセミ化ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(5-I-2)工程:第(5-II-1)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインにE2酵素を作用させることにより、テトラヒドロダイゼインを生成する工程。
第(5-I-3)工程:第(5-II-2)工程で生成したテトラヒドロダイゼインにE3酵素を作用させることにより、エクオールを生成する工程。
【0176】
本第5-I法における第(5-I-1)工程〜第(5-I-3)工程は、それぞれ、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法における第(1-I-2)工程、上記「2−2.テトラヒドロダイゼインの製造方法−1」の欄の第2-I法における第(2-I-3)工程、及び上記「2−4.エクオールの製造方法−1」の欄の第4-I法における第(4-I-4)工程と同様の条件で実施される。
【0177】
<第5-II法>
第5-II法によるエクオールの製造方法は、以下の第(5-II-1)工程及び第(5-II-2)工程を含むものである。
第(5-II-1)工程:ジヒドロダイゼインにE4酵素を作用させることにより、ラセミ化ジヒドロダイゼインを生成する工程。
第(5-II-2)工程:E2酵素及びE3酵素の存在下で、第(5-II-1)工程で生成したラセミ化ジヒドロダイゼインをエクオールに変換する工程。
【0178】
本第5-II法における第(5-II-1)工程及び第(5-II-2)工程は、それぞれ、上記「2−1.ジヒドロダイゼインの製造方法」の欄の第1-I法における第(1-I-2)工程、及び上記「2−4.エクオールの製造方法−1」の欄の第4-II法における第(4-II-3)工程と同様の条件で実施される。
【0179】
<第5-III法>
第5-III法によるエクオールの製造方法は、以下の第(5-III-1)工程及び第(5-III-2)工程を含むものである。
第(5-III-1)工程:E4酵素及びE2酵素の存在下で、ジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する工程。
第(5-III-2)工程:第(5-III-1)工程で生成したテトラヒドロダイゼインにE3酵素を作用させることにより、エクオールを生成する工程。
【0180】
本第5-III法における第(5-III-1)工程及び第(5-III-2)工程は、それぞれ、上記「2−2.テトラヒドロダイゼインの製造方法−1」の欄の第2-III法における第(2-III-2)工程、及び上記「2−4.エクオールの製造方法−1」の欄の第4-I法における第(4-I-4)工程と同様の条件で実施される。
【0181】
<第5-IV法>
第5-IV法によるエクオールの製造方法は、E2酵素〜E4酵素の存在下で、ジヒドロダイゼインをエクオールに変換する工程を含むものである。
【0182】
本第5-IV法は、上記「2−4.エクオールの製造方法−1」の欄の第4-IV法における第(4-IV-2)工程と同様の条件で実施される。
【0183】
3.E1酵素〜E4酵素をコードしているポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞を利用したエクオール又はその中間体の製造方法
前述するE1酵素〜E4酵素を利用したエクオール又はその中間体の製造方法は、E1酵素〜E4酵素の代わりに、それぞれE1酵素をコードしているポリヌクレオチド(以下、E1ポリヌクレオチドと表記することもある)、E2酵素をコードしているポリヌクレオチド(以下、E2ポリヌクレオチドと表記することもある)、E3酵素をコードしているポリヌクレオチド(以下、E3ポリヌクレオチドと表記することもある)、及びE4ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞を利用することによっても実施される。E1ポリヌクレオチド、E2ポリヌクレオチド、E3ポリヌクレオチド、及びこれらで形質転換された細胞については、後述する。
【0184】
組み換え細胞を利用したエクオール又はその中間体の製造方法における各反応は、下記組み換え細胞の中から、目的に応じたものを適宜選択して使用される。例えば、E1酵素とE2酵素の存在下で反応を行う場合、E1ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞とE2ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞を組み合わせて使用してもよく、またE1ポリヌクレオチド及びE4ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞を使用してもよい。他の酵素の組合せの場合も同様である。
E1ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E2ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E3ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E4ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E1ポリヌクレオチド及びE4ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E4ポリヌクレオチド及びE2ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E2ポリヌクレオチド及びE3ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E1ポリヌクレオチド、E4ポリヌクレオチド及びE2ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E4ポリヌクレオチド、E2ポリヌクレオチド及びE3ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞、
E1ポリヌクレオチド、E4ポリヌクレオチド、E2ポリヌクレオチド及びE3ポリヌクレオチドで形質転換された組み換え細胞。
【0185】
また、組み換え細胞を利用したエクオール又はその中間体の製造方法における各反応は、上記組み換え細胞の生育可能な溶媒(例えば、前述する緩衝液や培地)中で、上記組み換え細胞の生育可能温度条件に設定して実施される。組み換え細胞を利用したエクオール又はその中間体の製造方法における各反応のその他の条件は、E1酵素〜E4酵素を利用したエクオール又はその中間体の製造方法と同様である。
【0186】
4.E1酵素〜E4酵素を利用したエクオール又はその中間体の製造装置
本発明は、更に、前述するE1酵素〜E4酵素を利用したエクオール又はその中間体の製造方法を実施するための製造装置を提供する。本製造装置は、E1酵素〜E4酵素を利用したエクオール又はその中間体の製造方法における各反応の種類に応じて、下記反応槽の中から、目的に応じたものを適宜選択又は組み合わせて使用される。
E1反応槽:E1酵素が固定されている反応手段を有しており、E1酵素を用いてダイゼインからジヒドロダイゼインを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のダイゼインと接触できるように配置されている。
E4反応槽:E4酵素が固定されている反応手段を有しており、E4酵素を用いてジヒドロダイゼインをラセミ化するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のジヒドロダイゼインと接触できるように配置されている。
E2反応槽:E2酵素が固定されている反応手段を有しており、E2酵素を用いてラセミ化ジヒドロダイゼインからテトラヒドロダイゼインを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のラセミ化ジヒドロダイゼインと接触できるように配置されている。
E3反応槽:E3酵素が固定されている反応手段を有しており、E3酵素を用いてテトラヒドロダイゼインからエクオールを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のテトラヒドロダイゼインと接触できるように配置されている。
E1・E4反応槽:E1酵素及びE4酵素が固定されている反応手段を有しており、E1酵素及びE4酵素を用いてダイゼインからラセミ化ジヒドロダイゼインを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のダイゼイン及び中間生成物と接触できるように配置されている。
E4・E2反応槽:E4酵素及びE2酵素が固定されている反応手段を有しており、E4酵素及びE2酵素を用いてジヒドロダイゼインからテトラヒドロダイゼインを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のジヒドロダイゼイン及び中間生成物と接触できるように配置されている。
E2・E3反応槽:E2酵素及びE3酵素が固定されている反応手段を有しており、E2酵素及びE3酵素を用いてラセミ化ジヒドロダイゼインからエクオールを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のラセミ化ジヒドロダイゼイン及び中間生成物と接触できるように配置されている。
E1・E4・E2反応槽:E1酵素、E4酵素及びE2酵素が固定されている反応手段を有しており、E1酵素、E4酵素及びE2酵素を用いてダイゼインからテトラヒドロダイゼインを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のダイゼイン及び中間生成物と接触できるように配置されている。
E4・E2・E3反応槽:E4酵素、E2酵素、及びE3酵素が固定されている反応手段を有しており、E4酵素、E2酵素、及びE3酵素を用いてジヒドロダイゼインからエクオールを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のジヒドロダイゼイン及び中間生成物と接触できるように配置されている。
E1・E4・E2・E3反応槽:E1酵素、E4酵素、E2酵素、及びE3酵素が固定されている反応手段を有しており、E1酵素、E4酵素、E2酵素、及びE3酵素を用いてダイゼインからエクオールを製造するための反応槽、ここで該反応手段は該反応槽内のダイゼイン及び中間生成物と接触できるように配置されている。
【0187】
上記各反応槽の形状、大きさ、素材等については、特に制限されず、製造規模等に応じて適宜設定される。
【0188】
上記各反応槽における反応手段は、各々の反応手段が有する酵素が活性を保持した状態で固定化されているものであればよく、各酵素の反応手段への固定化は、従来公知の技術に従い実施される。例えば、各酵素が担体に固定されている場合、該担体は、各ポリペプチドからなる酵素が有する所望の活性の発揮を妨げない限り制限されない。例えば、該担体としては、各酵素と共有結合により結合できるアミノ基、カルボキシル基、水酸基などの官能基を有するもの、また、各酵素とリンカーを介して接続できるもの等が例示される。担体の形状も限定されない。このような担体、官能基、リンカー等は、ポリペプチドからなる酵素を担体に固定する従来公知の技術に従い適宜選択される。また、ポリペプチドからなる酵素の担体への固定化も、従来公知の技術に従い実施される。
【0189】
また、本製造装置が、上記反応槽の中の2以上の反応槽を備えるものである場合、前段に配置される反応槽の内容物が、その後段に配置される反応槽に供給するための供給手段を備えていてもよい。
【0190】
5.E1酵素及びE1ポリヌクレオチド
E1酵素
E1酵素は、ダイゼインを基質として利用し、ジヒドロダイゼインを合成するポリペプチドであり、その具体例として、以下の(E1a)〜(E1c)のポリペプチドが好適に例示される。
(E1a)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(E1b)配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、且つダイゼインを基質としジヒドロダイゼインを合成する活性を有するポリペプチド;
(E1c)配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つダイゼインを基質としジヒドロダイゼインを合成する活性を有するポリペプチド。
【0191】
上記(E1b)のポリペプチドにおいて、「1若しくは複数」の範囲は、該ポリペプチドがダイゼインを基質としてジヒドロダイゼインを合成する活性を有することを限度として特に限定されないが、例えば1若しくは数個、或いは1〜250個、好ましくは1〜200個、より好ましくは1〜150個、より好ましくは1〜100個、より好ましくは、1〜50個、より好ましくは1〜30個、更に好ましくは1〜15個、更により好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜4個、より特に好ましくは1〜3個、最も好ましくは1又は2個が挙げられる。
【0192】
このような(E1b)のポリペプチドの具体例としては、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド及び配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。配列番号3に記載されるアミノ酸配列と比較して配列番号4に記載されるアミノ酸配列は、3個のアミノ酸が置換している。配列番号3に記載のアミノ酸配列と比較して配列番号5に記載のアミノ酸配列は、10個のアミノ酸が置換している。配列番号4に記載されるアミノ酸配列は、バクテロイデス・オバタスE−23−15株(FERM BP-6435号)由来のE1酵素に相当する。配列番号5に記載されるアミノ酸配列は、ストレプトコッカス・コンステラタス A6G−225株(FERM BP-6437号)由来のE1酵素に相当する。
【0193】
上記(E1b)のポリペプチドにおけるアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加は、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−1.ポリペプチド」の欄に記載されるE4ポリペプチドにおける置換、欠失、挿入及び/又は付加に準じて為され得る。上記(E1b)のポリペプチドにおけるアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加は、ポリペプチドの高次構造に大きく影響しない領域やジヒドロダイゼイン合成酵素としての活性中心に阻害的影響を与えない領域で為されることが望ましい。そのような領域とは、例えば、配列番号3、4、及び5に記載のアミノ酸配列の間で保存性の低い領域及びその近辺、又はN末端領域又はC末端領域を挙げることができる。具体的には、配列番号3に記載のアミノ酸配列において、第45番のロイシン、第80番目のアスパラギン第167番目のバリン、第231番目のアスパラギン酸、第233番目のイソロイシン、第435番目のアルギニン、第459番目のアスパラギン酸、第462番目のバリン、第528番目のアルギニン、第540番目のセリン、及び第639番目イソロイシン、並びにこれらのアミノ酸の近辺の領域を挙げることができる。前記「近辺の領域」とは、ジヒドロダイゼイン合成酵素活性に影響を与えない範囲において、前記の特定の位置のアミノ酸を基点として、例えば、前後5個以内のアミノ酸、好ましくは前後4個以内のアミノ酸、より好ましくは前後3個のアミノ酸、特に好ましくは前後2個のアミノ酸を意味し、より特に好ましくは前後1個のアミノ酸である。
【0194】
配列番号3に記載のアミノ酸配列において第112番目〜第116番目のアミノ酸配列は、NADPH結合ドメインに相当すると考えられる。NADPH結合ドメインの機能を阻害しない限り、当該5個のアミノ酸からなる配列において、アミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加が為されていてもよい。好ましくは、当該配列において、3個以下のアミノ酸、より好ましくは2個以下のアミノ酸、更に好ましくは1個のアミノ酸に対してそのような変異が為されていてもよく、最も好ましくは、当該アミノ酸配列には変異が為されていない。特に、第112番目、115番目及び116番目のアミノ酸に対しては、置換、欠失、挿入又は付加は為されていないことが好ましい。
【0195】
配列番号3に記載のアミノ酸配列における第260番目のヒスチジンは上記プロトンリレーサイトに関与すると考えられる。よって、プロトンリレーサイトの機能を阻害しない限り、当該ヒスチジンは他のアミノ酸に置換されていてもよいが、好ましくは置換されていない。
【0196】
配列番号3に示されるアミノ酸配列において、第343番目〜第363番目のアミノ酸からなる配列は、Fe−Sクラスターモチーフに相当すると考えられる。よって、当該モチーフの機能を阻害しない限り、当該配列において任意のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されていても良いが、第343番目、第346番目、第350番目及び第363番目のシステインは変異されていないことが好ましい。当該配列における前記3個のアミノ酸以外のアミノ酸が他のアミノ酸に置換される場合は、好ましくは、4個以下のアミノ酸が置換され、より好ましくは3個以下のアミノ酸が置換され、更に好ましくは2個以下のアミノ酸が置換され、特に好ましくは1個のアミノ酸が置換されている。最も好ましくは、当該配列において、アミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加は為されていないものである。
【0197】
配列番号3に記載のアミノ酸配列において、第390番目〜第413番目のアミノ酸からなる配列は、FAD結合ドメインに相当すると考えられる。よって、当該ドメインの機能を阻害しない限り、当該配列において任意のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されていても良いが、第390番目、第392番目、及び第395番目のグリシンは、変異されていないことが好ましい。当該配列においてアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加される場合は、好ましくは4個以下のアミノ酸、より好ましくは3個以下のアミノ酸、更に好ましくは2個以下のアミノ酸、特に好ましくは1個のアミノ酸について為されていることが好ましい。最も好ましくは、当該配列においてアミノ酸の変異は為されていないものである。
【0198】
配列番号3に記載のアミノ酸配列において、第512番目〜第540番目のアミノ酸からなる配列も、FAD結合ドメインに相当すると考えられる。よって、当該ドメインの機能を阻害しない限り、当該配列において任意のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されていても良いが、第512番目、第514番目、及び第517番目のグリシンは、変異されていないことが好ましい。当該配列においてアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加される場合は、好ましくは4個以下のアミノ酸、より好ましくは3個以下のアミノ酸、更に好ましくは2個以下のアミノ酸、特に好ましくは1個のアミノ酸について為されていることが好ましい。最も好ましくは、当該配列においてアミノ酸配列において変異は為されていないものである。
【0199】
上記(E1c)のポリペプチドにおいて、アミノ酸の同一性は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して、例えば60%以上であればよいが、通常80%以上、好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、更に特に好ましくは99%以上であることが望ましい。
【0200】
上記(E1c)のポリペプチドの具体例としては、配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド及び配列番号5のアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。配列番号3のアミノ酸配列と配列番号4のアミノ酸配列とのアミノ酸の同一性は、99.5%であり、配列番号3のアミノ酸配列と配列番号5のアミノ酸配列とのアミノ酸の同一性は、98.6%である(Blast2)。従って、本発明の好適な一実施形態において、(E1c)ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して、好ましくは98.6%以上、より好ましくは99.5%以上の同一性を有する。
【0201】
また、上記(E1b)及び(E1c)のポリペプチドにおいて、「ダイゼインを基質としジヒドロダイゼインを合成する活性」は、次のようにして確認することができる。即ち、下記組成の基質溶液中に、確認対象となるポリペプチドを0.001 mg/mLとなるように添加し、37℃で2時間インキュベートし、その後、溶液中にジヒドロダイゼインの有無を確認する。インキュベート後の溶液にジヒドロダイゼインの存在が確認された場合、そのポリペプチドは「ダイゼインを基質としジヒドロダイゼインを合成する活性」を有していると判定される。
基質溶液の組成
0.1 M リン酸カリウム緩衝液
1 mM PMSF(フェニルメチルスルフォニルフルオライド)
2 mM dithiothreitol
5 mM Sodium hydrosulfite
2 mM NADPH又はNADH
40 μM ダイゼイン
pH 7.0
【0202】
E1酵素は、Sodium hydrosulfite等の還元剤やマンガンイオンや鉄イオン等の金属イオンの存在により、その酵素活性が賦活化される。E1酵素は、補酵素として、NADPH又はNADHを必要とし、至適温度は30℃付近であり、至適pHは7.0である。
【0203】
E1酵素は、配列番号6、7、又は8に記載のヌクレオチド配列情報を用いて遺伝子工学的手法で得ることができる。また、配列番号3、4、又は5に記載のアミノ酸配列情報に基づいて化学合成法によって得ることもできる。さらにE1酵素産生能を有する微生物から単離精製することによって得ることも可能である。ここで、E1酵素産生能を有する微生物は、ダイゼインを所定量含有する培地(特に限定されないが、例えば0.01μg/mL以上含有する培地)で培養されることが、効率的にE1酵素を産生させる点で望ましい。なお、これらの方法は上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−1.ポリペプチド」の欄の記載に準じて行うことができる。
【0204】
また、E1酵素は、安定性を向上させる目的等で、必要に応じて、ポリエチレングリコール又は糖鎖を付加修飾されたものであってもよい。
【0205】
E1ポリヌクレオチド
E1ポリヌクレオチドは、E1酵素をコードしているポリヌクレオチドであり、具体的には、E1ポリヌクレオチドとして、以下の(E1d)〜(E1f)のポリヌクレオチドが例示される。
(E1d)配列番号6に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(E1e)配列番号3に記載のアミノ配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(E1f)前記(E1d)又は(E1e)のポリヌクレオチドの相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つダイゼインを基質としジヒドロダイゼインを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0206】
配列番号3に記載のアミノ酸配列は、配列番号6に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。配列番号4に記載のアミノ酸配列は、配列番号7に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。配列番号5に記載のアミノ酸配列は、配列番号8に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。
【0207】
上記(E1f)のポリヌクレオチドにおいて、「ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする」とは、上記「1.1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−2.ポリヌクレオチド」の欄に記載の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」と同義である。このような上記(E1f)のポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号7に記載のヌクレオチド配列及び配列番号8に記載のヌクレオチド配列を挙げることができる。配列番号6のヌクレオチド配列と配列番号7のヌクレオチド配列との塩基配列の相同性は、99.6%であり、配列番号6のヌクレオチド配列と配列番号8のヌクレオチド配列との塩基配列の相同性は、97.6%である(Blast2)。従って、(E1f)のポリヌクレオチドは、配列番号6に記載のヌクレオチド配列に対して、97.6%以上の相当性を有し、より好ましくは99.6%以上の相当性を有することが好ましい。
【0208】
また、上記(E1f)のポリヌクレオチドにおいて、「ダイゼインを基質としジヒドロダイゼインを合成する活性」は、上記(E1b)又は(E1c)のポリペプチドの場合と同様の方法で確認される。
【0209】
E1ポリヌクレオチドは、配列番号6、7、又は8に記載の配列情報に基づいて、化学的合成法又は遺伝子工学的手法によって製造・取得することが可能である。具体的な手法としては、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−2.ポリヌクレオチド」の欄に記載した方法を使用することができる。そのような方法は、必要に応じて、修正・変更することができる。
【0210】
E1ポリヌクレオチドのcDNAの起源としては、E1ポリヌクレオチドを発現する生物であれば特に制限されないが、具体的には、E4ヌクレオチドの場合と同様の微生物が例示される。
【0211】
E1ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
本発現ベクターは、E1ポリヌクレオチドを含んでおり、且つ該E1ポリヌクレオチドを発現できるものであれば特に制限されず、E4ポリヌクレオチドを含む発現ベクターと同様に、一般に宿主細胞との関係から適宜選択される。発現ベクターとしては、上記「1.1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−3.発現ベクター」の欄に記載のものを使用することができる。
【0212】
E1ポリヌクレオチドで形質転換された組換え細胞
本組み換え細胞は、上記E1ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを使用して形質転換されたものである。組換え細胞に使用される宿主細胞、及び発現ベクターを宿主細胞に導入する方法については、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−4.組み換え細胞」の欄の記載と同様である。
【0213】
E1ポリヌクレオチドで形質転換された組換え細胞を用いたポリペプチドの製造
E1ポリヌクレオチドが導入された組換え細胞を培養し、培養物からE1ポリペプチドを回収することにより、E1ポリペプチドを製造することができる。培養は記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−5.組み換え細胞を用いたE4ポリペプチドの製造」の欄の記載に準じて行うことができる。
【0214】
6.E2酵素及びE2ポリヌクレオチド
E2酵素
E2酵素は、ジヒドロダイゼインを基質として利用しテトラヒドロダイゼインを合成するポリペプチドであり、その具体例として、以下の(E2a)〜(E2c)のポリペプチドが好適に例示される。
(E2a)配列番号9に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(E2b)配列番号9に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、且つジヒドロダイゼインを基質としテトラヒドロダイゼインを合成する活性を有するポリペプチド;
(E2c)配列番号9に記載のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つジヒドロダイゼインを基質としテトラヒドロダイゼインを合成する活性を有するポリペプチド。
【0215】
上記(E2b)のポリペプチドにおいて、「1若しくは複数」の範囲は、該ポリペプチドがジヒドロダイゼインを基質としテトラヒドロダイゼインを合成する活性を有することを限度として特に限定されないが、例えば1若しくは数個、或いは1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜15個、更に好ましくは1〜5個、より更に好ましくは1〜4個、特に好ましくは1〜3個、更に特に好ましくは1又は2個が挙げられる。
【0216】
このような(E2b)のポリペプチドの具体例としては、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド及び配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。配列番号9に記載のアミノ酸配列と比較して配列番号10に記載のアミノ酸配列は、2個のアミノ酸配列が置換されており、N末端に24アミノ酸からなるアミノ酸配列が付加されている。配列番号9に記載のアミノ酸配列と比較して配列番号11に記載のアミノ酸配列と、20個のアミノ酸が置換されており、1個のアミノ酸が欠失している。配列番号10に記載されるアミノ酸配列は、バクテロイデス・オバタスE−23−15株(FERM BP-6435号)由来のE2酵素に相当する。配列番号11に記載されるアミノ酸配列は、ストレプトコッカス・コンステラタス A6G−225株(FERM BP-6437号)由来のE2酵素に相当する。
【0217】
上記(E2b)のポリペプチドにおけるアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加は、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−1.ポリペプチド」の欄に記載されるE4ポリペプチドにおける置換、欠失、挿入及び/又は付加に準じて為され得る。(E2b)のポリペプチドにおけるアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、ポリペプチドの高次構造に大きく影響しない領域やテトラヒドロダイゼイン合成酵素としての活性中心に阻害的影響を与えない領域で為されることが望ましい。そのような領域としては、例えば、配列番号9、10、及び11に記載のアミノ酸配列の間で保存性の低い領域及びその近辺、又はN末端領域又はC末端領域を挙げることができる。具体的には、配列番号9に記載されるアミノ酸配列において、第7番目のバリン、第8番目のプロリン、第26番目のバリン、第36番目のロイシン、第46番目のアルギニン、第94番目のアスパラギン酸、第101番目のグルタミン酸、第126番目のグリシン、第137番目のイソロイシン、第156番目のグルタミン、第157番目のリジン、159番目のアスパラギン酸、第160番目、第171番目のアラニン、第185番目のシステイン、第221位番目のセリン、第233番目のアラニン、第241番目のバリン、第258番目のセリン、第266番目のイソロイシン、及び第286番目のバリン、並びにこれらのアミノ酸の近辺の領域を挙げることができる。前記「近辺の領域」とは、テトラヒドロダイゼイン合成酵素活性に影響を与えない範囲において、前記の特定の位置のアミノ酸を基点として、前後5個以内のアミノ酸、好ましくは、前後4個以内のアミノ酸、より好ましくは前後3個以内のアミノ酸、更に好ましくは前後2個以内のアミノ酸、特に好ましくは前後1個のアミノ酸である。
【0218】
配列番号9に記載されるアミノ酸配列において、第38番目〜45番目のアミノ酸からなる配列は、NADPH結合ドメインに相当すると考えられる。よって、当該ドメインの機能が阻害されない限り、当該配列において、任意のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されていてもよいが、好ましくは、第38番目のスレオニン、第39番目のグリシン、第43番目のグリシン、及び第45番目のグリシンは変異されていないことが好ましい。当該配列においてアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加される場合は、好ましくは4個以下のアミノ酸、より好ましくは3個以下のアミノ酸、更に好ましくは2個以下のアミノ酸、特に好ましくは1個のアミノ酸について為されていることが好ましい。
【0219】
配列番号9に記載されるアミノ酸配列において、第115番目〜第118番目のアミノ酸から成る配列は、SDRファミリーに保存性の高いモチーフに相当すると考えられる。当該配列においてアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加が為される場合は、好ましくは3個以下のアミノ酸、より好ましくは2個以下のアミノ酸、更に好ましくは1個のアミノ酸について為される。当該配列においては、アミノ酸の変異が為されないことが最も好ましい。
【0220】
配列番号9に記載されるアミノ酸配列において、第168番目のセリン、第182番目のヒスチジン、第186番目のリジンは、E2酵素の活性中心に関与していると考えられる。よって、当該酵素活性を阻害しない限り、前記3個のアミノ酸を任意の他のアミノ酸に置換することができるが、これらのアミノ酸に対しては、変異が為されていないことが好ましい。
【0221】
配列番号9に記載されるアミノ酸配列において、第212番目〜217番目のアミノ酸から成る配列は、補因子との結合に関与すると考えられる。よって、当該機能を阻害しない限り、当該配列において任意のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されていてもよいが、好ましくは、第212番目のプロリン、第213番目のグリシン、及び第217番目のスレオニンは変異されない。当該配列においてアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加される場合は、好ましくは3個以下のアミノ酸、より好ましくは2個以下のアミノ酸、更に好ましくは1個のアミノ酸ついて為されている。特に好ましくは、当該配列においてアミノ酸の変異が為されていないものである。
【0222】
上記(E2c)のポリペプチドにおいて、アミノ酸の同一性は、配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して、例えば60%以上であればよいが、通常80%以上、好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、更に特に好ましくは99%以上であることが望ましい。
【0223】
上記(E2c)のポリペプチドの具体例としては、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド及び配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。配列番号9に記載のアミノ酸配列と配列番号10に記載のアミノ酸配列との同一性は、99.3%であり、配列番号9に記載のアミノ酸配列と配列番号11に記載のアミノ酸配列との同一性は、93.0%である(Blast2)。従って、本発明の好適な一実施形態において、(E2c)ポリペプチドは、配列番号9に記載のアミノ酸配列に対して、好ましくは93.0%以上、より好ましくは99.3%以上の同一性を有する。
【0224】
また、上記(E2b)及び(E2c)のポリペプチドにおいて、「ジヒドロダイゼインを基質としテトラヒドロダイゼインを合成する活性」は、次のようにして確認することができる。即ち、下記組成の基質溶液中に、確認対象となるポリペプチドを0.001 mg/mLとなるように添加し、37℃で2時間インキュベートし、その後、溶液中にテトラヒドロダイゼインの有無を確認する。インキュベート後の溶液にテトラヒドロダイゼインの存在が確認された場合、そのポリペプチドは「ジヒドロダイゼインを基質としテトラヒドロダイゼインを合成する活性」を有していると判定される。
基質溶液の組成
0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)
1 mM PMSF(フェニルメチルスルフォニルフルオライド)
2 mM dithiothreitol
5 mM Sodium hydrosulfite
2 mM NADPH
2 mM NADH
40 μM ジヒドロダイゼイン
【0225】
E2酵素は、補酵素として、NADPH又はNADHを必要とする。E2酵素の至適温度は37℃付近であり、至適pHは4.5である。
【0226】
E2酵素は、配列番号12、13、又は14に記載のヌクレオチド配列情報を用いて遺伝子工学的手法で得ることができる。また、配列番号9、10、又は10に記載のアミノ酸配列情報に基づいて化学合成法によって得ることもできる。さらにE2酵素産生能を有する微生物から単離精製することによって得ることも可能である。これらの手法は、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−1.ポリペプチド」の欄の記載に準じて行うことができる。
【0227】
また、E2酵素は、安定性を向上させる目的等で、必要に応じて、ポリエチレングリコール又は糖鎖を付加修飾されたものであってもよい。
【0228】
E2ポリヌクレオチド
E2ポリヌクレオチドは、E2酵素をコードしているポリヌクレオチドであり、具体的には、E2ポリヌクレオチドとして、以下の(E2d)〜(E2f)のポリヌクレオチドが例示される。
(E2d)配列番号12に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(E2e)配列番号9に記載のアミノ配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(E2f)前記(E2d)又は(E2e)のポリヌクレオチドの相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つジヒドロダイゼインを基質としテトラヒドロダイゼインを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0229】
配列番号9に記載のアミノ配列は、配列番号12に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。配列番号10のアミノ酸配列は、配列番号13に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。配列番号11に記載のアミノ酸配列は、配列番号14に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。
【0230】
上記(E2f)ポリヌクレオチドに関する「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−2.ポリヌクレオチド」の欄に記載の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」と同義である。(E2f)のポリヌクレオチドの具体例としては、配列番号13に記載のヌクレオチド配列及び配列番号14に記載のヌクレオチド配列を挙げることができる。配列番号12に記載のヌクレオチド配列と配列番号13に記載のヌクレオチド配列との塩基配列の相同性は、99.7%であり、配列番号12に記載のヌクレオチド配列と配列番号14に記載のヌクレオチド配列との塩基配列の相同性は、91.0%である(Blast2)。従って、(E2f)のポリヌクレオチドは、配列番号12に記載のヌクレオチド配列に対して、91.0%以上の相当性を有し、より好ましくは99.7%以上の相当性を有するものである。
【0231】
上記(E2f)のポリヌクレオチドにおいて、「ジヒドロダイゼインを基質としテトラヒドロダイゼインを合成する活性」は、上記(E2b)又は(E2c)のポリペプチドの場合と同様の方法で確認される。
【0232】
E2ポリヌクレオチドは、配列番号12、13、又は14に記載の配列情報に基づいて、化学的合成法又は遺伝子工学的手法によって製造・取得することが可能である。具体的な手法としては、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−2.ポリヌクレオチド」の欄に記載した方法を使用することができる。そのような方法は、必要に応じて、修正・変更することができる。
【0233】
E2ポリヌクレオチドのcDNAの起源としては、E2ポリヌクレオチドを発現する微生物であれば特に制限されないが、具体的には、具体的には、E4ヌクレオチドの場合と同様の微生物が例示される。
【0234】
E2ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
本発現ベクターは、E2ポリヌクレオチドを含んでおり、且つ該E2ポリヌクレオチドを発現できるものであれば特に制限されず、E4ポリヌクレオチドを含む発現ベクターと同様に、一般に宿主細胞との関係から適宜選択される。発現ベクターとしては、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−3.発現ベクター」の欄に記載のものを使用することができる。
【0235】
E2ポリヌクレオチドで形質転換された組換え細胞
本組み換え細胞は、上記E2ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを使用して形質転換されたものである。組換え細胞に使用される宿主細胞、及び発現ベクターを宿主細胞に導入する方法については、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−4.組み換え細胞」の欄の記載と同様である。
【0236】
E2ポリヌクレオチドで形質転換された組換え細胞を用いたポリペプチドの製造
E2ポリヌクレオチドが導入された組換え細胞を培養し、培養物からE2ポリペプチドを回収することにより、E2ポリペプチドを製造することができる。培養は記「1.1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−5.組み換え細胞を用いたE4ポリペプチドの製造」の欄の記載に準じて行うことができる。
【0237】
7.E3酵素及びE3ポリヌクレオチド
E3酵素
E3酵素は、テトラヒドロダイゼインを基質として利用しエクオールを合成するポリペプチドであり、その具体例として、以下の(E3a)〜(E3c)のポリペプチドが好適に例示される。
(E3a)配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(E3b)配列番号15に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、且つテトラヒドロダイゼインを基質としエクオールを合成する活性を有するポリペプチド;
(E3c)配列番号15に記載のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つテトラヒドロダイゼインを基質としエクオールを合成する活性を有するポリペプチド。
【0238】
上記(E3b)のポリペプチドにおいて、「1若しくは複数」の範囲は、該ポリペプチドがテトラヒドロダイゼインを基質としエクオールを合成する活性を有することを限度として特に限定されないが、例えば1若しくは数個、或いは1〜200個、好ましくは1〜150個、より好ましくは1〜100個、より好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜45個、より好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜15個、更に好ましくは1〜5個、更により好ましくは1〜4個、特に好ましくは1〜3個、更に特に好ましくは1又は2個が挙げられる。
【0239】
このような(E3b)のポリペプチドの具体例としては、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド及び配列番号17に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。配列番号15に記載のアミノ酸配列と比較して配列番号16に記載のアミノ酸配列は、2個のアミノ酸が置換されている。配列番号15に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号17に記載のアミノ酸配列は、アミノ酸42個が置換されており、C末端に1個のアミノ酸(グルタミン酸)が付加されている。配列番号16に記載されるアミノ酸配列は、バクテロイデス・オバタスE−23−15株(FERM BP-6435号)由来のE3酵素に相当する。配列番号17に記載されるアミノ酸配列は、ストレプトコッカス・コンステラタス A6G−225株(FERM BP-6437号)由来のE3酵素に相当する。
【0240】
上記(E3b)のポリペプチドにおける「アミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加」は、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−1.ポリペプチド」の欄に記載されるE4ペプチドにおける置換、欠失、挿入、及び/又は付加に準じて為され得る。上記(E3b)のポリペプチドにおけるアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加については、ポリペプチドの高次構造に大きく影響しない領域やエクオール合成酵素としての活性中心に影響を与えない領域において為されることが望ましい。そのような領域としては、例えば、配列番号15、16、及び17に記載のアミノ酸配列の間で保存性の低い領域及びその近辺、並びにN末端領域又はC末端領域を挙げることができる。具体的には、配列番号15に記載のアミノ酸配列において、第3番目のグルタミン酸、第28番目のアルギニン、第29番目のグルタミン酸、第32番目のアルギニン、第61番目のアスパラギン、第80番目のイソロイシン、第92番目のアスパラギン、第112番目のアスパラギン酸、第119番目のアラニン、第129番目のアスパラギン、第172番目のアスパラギン酸、第174番目のアラニン、第204番目のセリン、第206番目のグルタミン酸、第223番目のスレオニン、第230番目のバリン、第244番目のプロリン、第246番目のチロシン、第280番目のスレオニン、第282番目のアルギニン、第285番目のアラニン、第307番目のバリン、第322番目のアラニン、第347番目のグルタミン酸、第359番目のグリシン、第360番目のセリン、第366番目のアラニン、第367番目のロイシン、第368番目のイソロイシン、第372番目のバリン、第373番目のアスパラギン酸、第374番目のスレオニン、第377番目のアラニン、第380番目のアラニン、第381番目のアスパラギン酸、第399番目のグルタミン、第403番目のプロリン、第404番目のメチオニン、第405番目のバリン、第406番目のグルタミン酸、第407番目のグリシン、第426番目のアルギニン、第434番目のバリン、第436番目のアラニン、第438番目のチロシン、及び第440番目のアラニン、並びにこれらのアミノ酸の近辺の領域を挙げることが出来る。前記「近辺の領域」とは、エクオール合成酵素活性を阻害しない範囲において、前記の特定の位置のアミノ酸を基点として、前後5個以内のアミノ酸、好ましくは前後4個のアミノ酸、より好ましくは前後3個のアミノ酸、更に好ましくは前後2個のアミノ酸、特に好ましくは前後1個のアミノ酸である。前記保存性の低い領域及びその近辺として、好ましくは、配列番号15に記載のアミノ酸配列において、第25番目〜第35番目に相当する領域、第170番目〜177番目に相当する領域、第201番目〜第208番目に相当する領域、242番目〜248番目に相当する領域、第276番目〜第289番目に相当する領域、第355番目〜第385番目に相当する領域、第396番目〜第409番目に相当する領域、及び第431番目〜第443番目に相当する領域を挙げることが出来る。
【0241】
配列番号15に記載されるアミノ酸配列において、第14番目のアミノ酸〜第19番目のアミノ酸から成る配列は、FAD結合ドメインに相当すると考えられる。よって、当該ドメインの機能を阻害しない限り、当該配列において任意のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されていてもよいが、好ましくは第14番目のグリシン、第16番目のグリシン及び第19番目のグリシンは変異されていない。当該配列において、アミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されている場合は、好ましくは3個以下のアミノ酸、より好ましくは2個以下のアミノ酸、更に好ましくは1個のアミノ酸について為され、最も好ましくは変異が為されていないものが挙げられる。
【0242】
上記(E3c)のポリペプチドにおいて、アミノ酸の同一性は、配列番号15に記載のアミノ酸配列に対して、例えば60%以上であればよいが、通常80%以上、好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、更に特に好ましくは99%以上であることが望ましい。
【0243】
上記(E3c)のポリペプチドの具体例としては、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド及び配列番号17に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。配列番号15に記載のアミノ酸配列と配列番号16に記載のアミノ酸配列との同一性は、99.6%であり、配列番号15に記載のアミノ酸配列と配列番号17に記載のアミノ酸配列との同一性は、90.9%である(Blast2)。従って、本発明の好適な一実施形態において、(E3c)ポリペプチドは、配列番号16に記載のアミノ酸配列に対して、好ましくは90.9%以上、より好ましくは99.6%以上の同一性を有している。
【0244】
上記(E3b)及び(E3c)のポリペプチドにおいて、「テトラヒドロダイゼインを基質としエクオールを合成する活性」は、次のようにして確認することができる。即ち、下記組成の基質溶液中に、確認対象となるポリペプチドを0.001 mg/mLとなるように添加し、37℃で2時間インキュベートし、その後、溶液中にエクオールの有無を確認する。インキュベート後の溶液にエクオールの存在が確認された場合、そのポリペプチドは「テトラヒドロダイゼインを基質としエクオールを合成する活性」を有していると判定される。
基質溶液の組成
0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)
1 mM PMSF(フェニルメチルスルフォニルフルオライド)
2 mM dithiothreitol
5 mM Sodium hydrosulfite
40 μM テトラヒドロダイゼイン
【0245】
E3酵素の至適温度は約23〜37℃であり、至適pHは4.5である。
【0246】
E3酵素は、配列番号18、19、又は20に記載のヌクレオチド配列情報に基づき、遺伝子工学的手法によって得ることができる。また、配列番号15、16、又は17に記載のアミノ酸配列情報に基づいて、化学合成法によって得ることもできる。さらに、E3酵素産生能を有する微生物から単離精製することによって得ることができる。これらの手法は、上記「1.1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−1.ポリペプチド」の欄の記載に準じて行うことができる。
【0247】
E3ポリヌクレオチド
E3ポリヌクレオチドは、E3酵素をコードしているポリヌクレオチドであり、具体的には、E3ポリヌクレオチドとして、以下の(E3d)〜(E3f)のポリヌクレオチドが例示される。
(E3d)配列番号18に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(E3e)配列番号16に記載のアミノ配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(E3f)前記(E3d)又は(E3e)のポリヌクレオチドの相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つテトラヒドロダイゼインを基質としエクオールを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0248】
配列番号15に記載のアミノ配列は、配列番号18に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。配列番号16に記載のアミノ酸配列は、配列番号19に記載のヌクレオチド配列がコードしているアミノ酸配列に相当する。配列番号17に記載のアミノ酸配列は、配列番号20に記載のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸配列に相当する。
【0249】
上記(E3f)ポリヌクレオチドに関する「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−2.ポリヌクレオチド」の欄に記載の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」と同義である。(E3f)のポリヌクレオチドの具体例としては、配列番号19に記載のヌクレオチド配列及び配列番号20に記載のヌクレオチド配列を挙げることができる。配列番号18に記載のヌクレオチド配列と配列番号19に記載のヌクレオチド配列との塩基配列の相同性は、99.8%であり、配列番号18に記載のヌクレオチド配列と配列番号20に記載のヌクレオチド配列との相同性は、85.2%である。従って、本発明の好適な一実施形態において、(E3f)のポリヌクレオチドは、配列番号16に記載のヌクレオチド配列に対して、85.2%以上の相当性を有し、より好ましくは99.8%以上の相当性を有する。
【0250】
また、上記(E3f)のポリヌクレオチドにおいて、「テトラヒドロダイゼインを基質としエクオールを合成する活性」は、上記(E3b)又は(E3c)のポリペプチドの場合と同様の方法で確認される。
【0251】
E3ポリヌクレオチドは、配列番号18、19、又は20の配列情報に基づいて、化学的DNA合成法又は遺伝子工学的手法により製造・取得することが可能である。具体的な手法としては、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−2.ポリヌクレオチド」の欄に記載した方法を使用することができる。そのような方法は、必要に応じて、修正・変更することができる。
【0252】
E3ポリヌクレオチドのcDNAの起源としては、E3ポリヌクレオチドを発現する微生物であれば特に制限されないが、具体的には、具体的には、E4ヌクレオチドの場合と同様の微生物が例示される。
【0253】
E3ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
本発現ベクターは、E2ポリヌクレオチドを含んでおり、且つ該E3ポリヌクレオチドを発現できるものであれば特に制限されず、E4ポリヌクレオチドを含む発現ベクターと同様に、一般に宿主細胞との関係から適宜選択される。発現ベクターとしては、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−3.発現ベクター」の欄に記載のものを使用することができる。
【0254】
E3ポリヌクレオチドで形質転換された組換え細胞
本組み換え細胞は、上記E3ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを使用して形質転換されたものである。組換え細胞に使用される宿主細胞、及び発現ベクターを宿主細胞に導入する方法については、上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−4.組み換え細胞」の欄の記載と同様である。
【0255】
E3ポリヌクレオチドで形質転換された組換え細胞を用いたポリペプチドの製造
E3ポリヌクレオチドが導入された組換え細胞を培養し、培養物からE3ポリペプチドを回収することにより、E3ポリペプチドを製造することができる。培養は上記「1.ジヒドロダイゼインをラセミ化する酵素」の「1−5.組み換え細胞を用いたE4ポリペプチドの製造」の欄の記載に準じて行うことができる。
【実施例】
【0256】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されて解釈されるものではない。
実施例1 大腸菌を用いた組換えHis-タグ付きエクオール産生関連酵素の発現及び精製
大腸菌を用いた組換えタンパク質発現システムであるpET システム(Novagen)を用いて、エクオール産生関連酵素[E1(ジヒドロダイゼイン合成酵素)、E2(テトラヒドロダイゼイン合成酵素)、E3(エクオール合成酵素)]を発現させ、His-タグ付きタンパク質精製用(Ni)カラムを用いてアフィニティー精製を行った。
【0257】
(1)His-タグ付き酵素発現ベクターの作製
各酵素(E1,E2,E3)の発現ベクターを作製する目的でPCRにより、それぞれのオープン・リーディング・フレーム領域のポリヌクレオチドを増幅し、pET21aベクター(Novagen)に挿入した。
【0258】
(1−1)増幅プライマー
ラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)のゲノムDNAには、配列番号6に示されるヌクレオチド配列からなるE1ポリヌクレオチドが、配列番号12に示されるヌクレオチド配列からなるE2ポリヌクレオチド、及び配列番号18に示されるヌクレオチド配列からなるE3ポリヌクレオチドが含まれていることが既に確認されている。更に、Inverse-PCRの結果から、これらの3つのポリヌクレオチドが存在するゲノムDNA配列6685bpを決定した。そこで、これらの3つポリヌクレオチドが含まれるゲノム領域のヌクレオチド配列情報を基に下記の増幅プライマーを作製した。
His-タグ付きE1酵素
exp.E1 pet F Nde:AGCTCATATGAAGAACAAGTTCTATCCGAA (配列番号:21)
exp.E1 His:AATCGAATTCGACAGGTTGCAGCCAGCGATGT (配列番号:22)
His-タグ付きE2酵素
exp.pET E-2 Nde:TATACATATGGCACAGGAAGTCAAAGTC (配列番号:23)
exp.E2 His:AATCGAATTCGAGACCTCGATCTCGCCCTGC (配列番号:24)
His-タグ付きE3酵素
exp.US3 F:TATACATATGGCAGAATTCGATGTTGAG (配列番号:25)
exp.US3 R His:CCGCAAGCTTGTACATAGTGGAGATCGCGTGG (配列番号:26)
上記増幅プライマー:exp.E1 pet F Nde、exp.US2 pet F、exp.US3 FにはpET21a(Novagen)へ挿入するため、制限酵素NdeI切断部位配列を、exp.E1 pet His、exp.E2 pet HisにはEcoRI切断部位配列をexp.E3 R HisにはHindIII切断部位配列を含ませてある。
【0259】
(1−2)ラクトコッカス20-92株からのゲノムDNAの精製
ダイゼイン含有増殖用培地40mLで嫌気培養したラクトコッカス20-92株を5000rpm、4℃、10分間で遠心し、培地をデカンテーションで除去し、菌体を集めた。集めた菌体は直ちにQIAGEN Genomic DNA Buffer Set(キアゲン)のB1溶液11mL (200μg/mL RNaseを含有)に懸濁し、更に300μLのLysozyme溶液(100mg/mL)、500μLのQIAGEN Proteinase K solution(キアゲン)を加えて、37℃、16時間インキュベーションした。次いで、B2溶液4mL加え、数回転倒混和した後、50℃、3時間インキュベーションした。
【0260】
次いで、5000rpm、4℃、10分間遠心し、その上清をQBT溶液(カラム活性化溶液)で平衡化したQIAGEN Genomic-tip 500/G(キアゲン)カラムに通し、ゲノムDNAをカラムに吸着させた。30mLのQC溶液(カラム洗浄用溶液)で2回カラムを洗浄後、15mLのQF(カラム溶出用溶液)でカラムからゲノムDNAを溶出させ、10.5mLのイソプロパノールを加えて塩析させた。糸状に析出したゲノムDNAのみを1.5mL容マイクロチューブに採り、75%エタノールで洗浄し、風乾した後、250μLのTE溶液(0.4μg/μL)で溶解した。こうして得られたゲノムDNA溶液は濃度を測定後、TE溶液で40ng/μLに調製した。
【0261】
(1−3)各His-タグ付き酵素ポリヌクレオチドの増幅
上記した増幅プライマーを各5pmol、dNTP 5nmol each、上記で得られたラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)のゲノムDNA 40ng 、KOD-plus DNA polymerase用10×緩衝液(東洋紡績株式会社)2.5μL、KOD-Plus DNA polymerase 0.3ユニット(東洋紡績株式会社)を含む25μLの反応液を用い、増幅プログラム:95℃ 3分、(94℃ 30秒、60℃ 30秒、68℃ 2分)×30cycles、68℃ 7分でGeneAmpPCR System 9700(アプライド・バイオシステムズ)を用いてPCRを行った。PCR反応液の一部をアガロースゲル電気泳動した結果、それぞれに予想される大きさのバンドが検出できた。PCR産物全量をQIAGEN PCR Purification kit(キアゲン)にて回収した。
【0262】
(1−4)His-タグ付き酵素ポリペプチド発現ベクターの作製
上記(1-3)で回収した各His-タグ付き酵素ポリヌクレオチド断片を制限酵素NdeI及びEcoRI(E1及びE2酵素の場合)或いはNdeI及びHindIII(E3酵素の場合)で切断後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、QIAGEN Gel Extraction kit (キアゲン) により精製、回収した。得られたポリヌクレオチド断片はDNA Ligation Kit ver.2.1(タカラバイオ株式会社)を用いて、NdeI及びEcoRI(E1及びE2酵素の場合)若しくはHindIII(E3酵素の場合)で消化したpET21aと16 ℃、終夜でライゲーションした後、ライゲーション反応液を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ株式会社)を定法で形質転換した。斯くして得た形質転換体を、アンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地アガー(GIBCO)プレート上で37℃、終夜生育させ、コロニーを形成させた。得られたシングルコロニーを、アンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地(GIBCO)3mLで終夜培養した後、プラスミド自動抽出機PI-100(KURABO)を用いてプラスミドDNAを抽出した。
【0263】
プラスミドに挿入したDNAの塩基配列をダイターミネーター法によりシークエンスを行い、目的どおり正しく各ポリヌクレオチドが挿入されていることを確認し、pET-E1-His、pET-E2-His、pET-E3-Hisを得た。本実施例におけるDNAシークエンスはDNAシークエンサーABI3700(アプライド・バイオシステムズ)を用いて行った。
【0264】
(2)大腸菌内での各組換えHis-タグ付き酵素ポリペプチドの発現及びアフィニティー精製
(2−1)大腸菌BL21形質転換体の作製
His-タグ付き酵素ポリペプチドを発現するプラスミドpET-E1-His、pET-E2-His、pET-E3−Hisを用いて、それぞれ、大腸菌BL21(DE3)株(Novagen)を定法で形質転換した。形質転換体はアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地アガープレート上で37℃、終夜生育させ、シングルコロニーを得た。
【0265】
(2−2)各組換えHis-タグ付き酵素ポリペプチドの精製
(2−2−1)大腸菌培養及び各組換えHis-タグ付き酵素ポリペプチドの発現誘導
上記pET-E1-His、pET-E2-His及びpET-E3-Hisによる大腸菌BL21(DE3)形質転換体それぞれをアンピシリン(50μg/mL)を含む50mLの液体LB培地で終夜pET-E1-His大腸菌BL21(DE3)形質転換体は30℃、pET-E2-His及びpET-E3-His大腸菌BL21(DE3)形質転換体は37℃で終夜培養を行った。その培養液50mL を同濃度のアンピシリンを含む液体LB培地500mL に加え、pET-E1-Hisにおいては30℃で4時間、pET-E2-His及びpET-E3-His においては37℃で3時間(OD600nmが約0.8になるまで)前培養し、終濃度が1.0mM になるようにIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)(和光純薬工業株式会社)を加え、弱い振とう条件下で30℃、4時間培養し、大腸菌内での各組換えHis-タグ付き酵素ポリペプチドの発現誘導行った。
【0266】
(2−2−2)菌ライゼートの調製
上記(2-2-1)での発現誘導終了後、菌体をAvanti HP25(beckman coulter)で遠心分離(6000rpm 4℃ 10分)により集菌し、組換えHis-タグ付きE1、E2及びE3酵素ポリペプチド発現大腸菌をそれぞれ湿重量にして2.4g、2.7g、2.9gを得た。得た菌体はBugbuster protein Extraction solution(Novagen)が菌体湿重量1gあたり15mLになるように加え、ピペットで穏やかに懸濁し、更にLysozyme(SIGMA) 15000units/mL、Benzonase(Novagen) 25units(1μL)/mLになるように加えた。その後、ローテーター(RT-50:タイテック)を用いて30分間室温でゆっくり攪拌し、菌ライゼートAを得た。更に菌ライゼートAをAvanti HP25(beckman coulter)で遠心分離(8000rpm 4℃ 15分)により、その上清である菌ライゼートBを得た。
【0267】
(2−2−3)組換えHisタグ付きE1及びE2酵素ポリペプチドのアフィニティー精製
His-タグ付きタンパク質精製用カラムにはHis GraviTrap(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用い、取り扱い説明書に記載されている手順に従い、一部変更した方法でHis-タグ付きE1、E2及びE3酵素ポリペプチドのアフィニティー精製を行った。
His GraviTrapを氷冷した10mLの結合バッファーで平衡化した後、上記(2-2-2)で調製した菌ライゼートBを全量注ぎ込み、自然落下にて目的のHis-タグ付きE1、E2及びE3酵素ポリペプチドをHis GraviTrapに吸着させた。その後、His GraviTrapを氷冷した10mLの洗浄バッファーで2回洗浄した後、氷冷しておいた3mLの溶出バッファーで目的のHis-タグ付きE1、E2及びE3酵素をHis GraviTrapより溶出した。溶出液にDTT[dithiothreitol](和光純薬工業株式会社)を終濃度が3mMになるように加えた後、300μLずつマイクロチューブに小分けした。それらの一部を用いて、それぞれの溶出液のE1、E2及びE3活性を確認し、溶出液は酵素実験に使用するまで4℃で保存した。以下の試験では、E1酵素、E2酵素及びE3酵素として、これらの溶出液を使用した。
【0268】
本精製で使用した結合バッファー、洗浄バッファー、溶出バッファーの組成は以下の通りである。
結合バッファー:20mM Tris-HCl、20mM Imidazole(和光純薬工業株式会社)、0.5M NaCl(和光純薬工業株式会社)、1mM DTT[dithiothreitol](和光純薬工業株式会社)、1 mM PMSF[phenylmethylsulfonyl fluoride](和光純薬工業株式会社)
洗浄バッファー:20mM Tris-HCl、 40mM Imidazole、0.5M NaCl、1mM DTT[dithiothreitol]、1 mM PMSF[phenylmethylsulfonyl fluoride]
溶出バッファー:20mM Tris-HCl 500mM Imidazole、0.5M NaCl、1mM DTT[dithiothreitol]、1 mM PMSF[phenylmethylsulfonyl fluoride]。
【0269】
(3)SDS-ポリアクリルアミド-ゲル電気泳動(SDS-PAGE)による各組換えHis-タグ付き酵素ポリペプチドの確認
精製した組換えHis-タグ付きE1、E2及びE3酵素ポリペプチドの確認はSDS-PAGEで行った。上記(2-2-3)で得た組換えHis-タグ付きE1酵素ポリペプチド溶液を10μL、組換えHis-タグ付きE2及びE3酵素ポリペプチド溶液を各5μL分取して、5×サンプル緩衝液(125mM Tris-HCl(pH6.5)/ 25% グリセロール/5% SDS/5% 2-メルカプトエタノール/BPB 0.5%)を4μL加え、滅菌水で20μLに調製した。98℃ 5分間加熱変性後、氷冷し、うち10μLをSDS-PAGEで泳動した。SDS‐PAGEには市販のゲル板(SuperSepTM5-20% (和光純薬工業株式会社))を使用し、染色はQuickBlue staining Solution(BioDynamics laboratory Inc.)で行った。分子量マーカーにはAPRO-Marker(Unstained)Broad range(SP-1110)(株式会社アプロサイエンス)を使用した。SDS-PAGEの結果を図1に示す。Hisタグ付きE1、E2及びE3酵素ポリペプチドそれぞれの溶出液において、分子量約70kDa、30kDa、57kDaのバンドが見られたことから、いずれの組換えHis-tag付き酵素ポリペプチドも精製されていることが確認された。
【0270】
実施例2 ラクトコッカス20-92株菌体破砕物中のジヒドロダイゼイン-ラセマーゼ(E4)活性の確認
(1)ラクトコッカス20-92株菌体破砕液の調製
保存してあるラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)の凍結菌体(67mL分、2本)を融解後8,000rpm、4℃、10分間遠心分離し、沈渣を回収した。沈渣を、1 mM PMSF(和光純薬工業株式会社)及び2mM DTT(和光純薬工業株式会社)、5 mM Sodium hydrosulfite(和光純薬工業株式会社)を含有する0.1 M リン酸カリウム溶液2mLに懸濁させた。懸濁液をあらかじめ0.1 mm zirconia/silica beads(BioSpec Products, Inc.)を入れておいた2ml容スクリューキャップ付チューブ(株式会社アシスト製)2本に移し、FastPrep(登録商標) FP100A(Thermo ELECTRON CORPORATION)にて菌体を破砕し(6500rpm 10秒 氷冷を8回)、菌体破砕物を得た。得られた菌体破砕物を約10,000rpm、4℃にて10分間遠心して遠心上清を得、遠心上清を1 mM PMSF及び2mM DTT、5 mM Sodium hydrosulfiteを含有する0.1 M リン酸カリウム溶液で4.5mLに希釈し、これを菌体破砕液とした。
【0271】
(2)菌体破砕液及び組換えE1酵素を用いたダイゼインからのジヒドロダイゼインの生合成
上記(1)で得られた菌体破砕液、又は本実施例1で精製した組換えHis-タグ付きE1酵素を酵素源として、ダイゼインを基質にしてジヒドロダイゼインを生合成した。
【0272】
ダイゼインからのジヒドロダイゼインの生合成反応は下記組成の酵素反応液を調製し、37℃で2時間インキュベートして行った。
酵素反応液組成
酵素源にラクトコッカス20-92株菌体破砕液を用いた反応
ラクトコッカス20-92株菌体破砕液 100 μl
NADH(100 mM) 20 μl
NADPH(100 mM) 20 μl
ダイゼイン (2mg/mL) 5 μl
0.1Mリン酸カリウム緩衝液pH7/1mM DTT/5mM sodiumhydrosulfite 855 μl
計 1000 μl
酵素源に精製した組換えHis-タグ付きE1酵素を用いた反応
精製した組換えHis-タグ付きE1酵素 30 μl
NADH(100 mM) 20 μl
NADPH(100 mM) 20 μl
ダイゼイン (2mg/mL) 5 μl
0.1Mリン酸カリウム緩衝液pH7/1mM DTT/5mM sodiumhydrosulfite 925 μl
計 1000 μl
【0273】
インキュベート後、得られた酵素反応液に3mLの酢酸エチルを添加して抽出処理を行い、乾固した後、移動層(溶離液)で溶解し、生合成物として、キラル-HPLC分析に供した。
【0274】
(3)キラル-HPLC分析による菌体破砕物中のジヒドロダイゼイン-ラセマーゼ(E4)活性の確認
上記(2)で酵素反応を行った後の各生成物(ジヒドロダイゼイン)をキラル-HPLC分析を行った。本実施例で行ったキラル-HPLC分析の条件は以下の通りである。
分析条件
column : SUMICHIRAL OA-7000(株式会社住友分析センター) 4.6mm i.d.×25cm
mobile phase : Methanol : Water (50:50)
flow rate : 1.0mL/min
detector : UV 280nm。
【0275】
各生成物のキラル-HPLC分析の結果を図2に示す。尚、ジヒドロダイゼインには鏡像異性体が存在するが、本実施例では便宜上、キラル-HPLCによる分析で保持時間(RT)が早い方をF体(F−DDと同義)、遅い方をL体(F−DDと同義)とした。酵素源に精製した組換えHis-タグ付きE1酵素を用いた場合では生成されるジヒドロダイゼインはそのほとんどがL体として生成され存在した。しかしながら、酵素源に菌体破砕液を使用した場合は生成するジヒドロダイゼインはラセミ体として存在することが確認できた。以上のことから、菌体破砕物中にはジヒドロダイゼイン-ラセマーゼ活性を有するE4酵素の存在が示唆された。
【0276】
実施例3 エクオール産生関連(E1,E2,E3)酵素遺伝子周辺ゲノムDNA配列の解析
ラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)のゲノムDNAには、配列番号6に示されるヌクレオチド配列からなるE1ポリヌクレオチドが、配列番号12に示されるヌクレオチド配列からなるE2ポリヌクレオチド、及び配列番号18に示されるヌクレオチド配列からなるE3ポリヌクレオチドが含まれていることが既に確認されている。更に、Inverse-PCRの結果から、これらの3つのポリヌクレオチドが存在するゲノムDNA配列6685bpを決定した。本実施例では更にInverse-PCRを繰り返し行うことにより、ラクトコッカス20-92株のゲノムDNAの上記配列決定した領域の上流領域及び下流領域の塩基配列の決定を行った。
【0277】
(1)Inverse-PCR用ゲノムDNAライブラリーの作成
上記実施例1の(1-2)で精製したラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)のゲノムDNAを制限酵素(BamHI,EcoRI,HindIII,KpnI,PstI,SacI,SalI,Sau3AI,XhoI)(いずれもタカラバイオ株式会社)により37℃、16時間消化することで断片化し、フェノール・クロロホルム処理後、エタノール沈殿にて精製した。精製したゲノムDNA断片はTaKaRa Ligation kit var.2.1(タカラバイオ株式会社)を用いてセルフ−ライゲーションした。各ライゲーション溶液を滅菌水で10倍希釈することにより、Inverse-PCR用ゲノムDNAライブラリーを作製した。
【0278】
(2)Inverse-PCR
Inverse-PCRにはTaKaRa LA Taq(タカラバイオ株式会社)を使用した。First-PCRは1×PCR Buffer(Mg2+ free)、プライマー各0.5μM、dNTP 各0.5mM、MgCl2 2.5mM、TaKaRa LA Taq 0.2U を含む20μLの反応液を用いて、ゲノムDNAライブラリー希釈液(上記(1))1μL(40ng)を鋳型に使用し、以下の増幅プログラム: 98℃ 1min、(95℃ 10sec、62℃ 10sec、68℃ 10min)×35cycles、68℃ 15minで行った。更に、続いてNested-PCRをFirst-PCR産物0.5μLを鋳型に1×PCR Buffer(Mg2+ free)、プライマー各0.5μM、dNTP 各0.5mM、MgCl2 2.5mM、TaKaRa LA Taq 0.3U を含む30μLの反応液を用いて、以下の増幅プログラム:98℃ 1min、(95℃ 10sec、62℃ 10sec、68℃ 10min)×30cycles、68℃ 15minで行った。
【0279】
(3)Inverse-PCRより増幅したDNA断片の精製及び塩基配列決定
上記(2)で実施した各Inverse-PCR産物は5μLを0.8%のアガロースゲルで電気泳動することによりDNA断片の増幅を確認した。増幅されたDNA断片はアガロースゲルから切り出し、QIAGEN Gel-Extraction kit(キアゲン)を用いて精製し、増幅に使用したプライマーを使用したダイレクトシークエンス、及び決定した配列を基に作製したプライマーを用いたウォーキング法により、その各DNA断片の全塩基配列を決定した。本実施例におけるアガロース電気泳動ではエチジウムブロミド(株式会社ニッポンジーン)による染色を行い、分子量マーカーにはλ/StyI(株式会社ニッポンジーン)、100bp ladder(東洋紡株式会社)を使用した。
【0280】
(4)ゲノム配列の解析及びORF(Open Reading Frame)の予測
上記(3)で得られたInverse-PCR産物のDNA塩基配列をシーケンス−アセンブルソフトウェアSEQUENCHER(Gene Codes Inc、USA)を使用してアセンブル解析を行った。また、括弧内に示す一連の作業(Inverse-PCR 用増幅プライマーの作製、Inverse-PCR、PCR産物の塩基配列決定、アセンブル解析)を繰り返すことにより、E1ヌクレオチド,E2ヌクレオチド,E3ヌクレオチドを含めた周辺ゲノム領域24473bpの配列を決定した。ORF予測の結果、E1酵素遺伝子を基準にして上流に8つ、下流に8つのORFを見出した。見出したORFはE1ヌクレオチドから上流に向かってUpstream(US)1,US2,US3,US4,US5,US6,US7,US8、下流に向かってDownstream(DS)1,DS2,DS3,DS4,DS5,DS6,DS7,DS8とした。尚、ORF-US2,US3はそれぞれE2ヌクレオチド,E3ヌクレオチドに相当する。
【0281】
実施例4 E1,E2,E3ヌクレオチド周辺ゲノム領域配列情報を基にしたE4ヌクレオチドの探索
実施例3の(4)において決定したエクオール産生関連(E1,E2,E3)酵素遺伝子周辺ゲノム領域配列上に同定した各ORFについて、以下に示す条件でそれらORFがコードすると推測されるアミノ酸配列についてその配列類似性をNCBI-BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)のデーターベース上でprotein-BLAST検索を行った。その結果、ORF-US6が嫌気性緑色硫黄菌であるChlorobium phaeobacteroides DSM 266株由来のメチルマロニル-CoA エピメラーゼ(GenBank Accession No.:ABL65204)に相同性(28%)を示すことが解かった(図3にアライメント結果を示す)。以上のことから、ORF-US6がE4酵素(ジヒドロダイゼイン-ラセマーゼ)をコードしているE4ヌクレオチドである可能性が示唆された。
【0282】
実施例5 組換えORF-US6ポリペプチドのジヒドロダイゼイン-ラセマーゼ活性の確認
(1)ORF-US6ポリペプチド発現ベクターの作製
ORF-US6ポリペプチドの発現ベクターを作製する目的でPCRにより、ORF-US6ポリペプチドのコーディング領域のポリヌクレオチドを増幅し、pET21aベクター(Novagen)に挿入した。
【0283】
(1−1)増幅プライマー
本実施例3の(4)において決定したエクオール産生関連(E1,E2,E3)酵素遺伝子周辺ゲノムDNA配列情報を基に下記の増幅プライマーを作製した。
exp.US6 F:TATACATATGATCAAGGCACAGCTCAACC (配列番号:27)
exp.US6 R:GCTCGAATTCTTACTTTGCGTCCCAGTCGCAG (配列番号:28)
上記増幅プライマー exp.US6 F、にはpET21a(Novagen)へ挿入するため、制限酵素NdeI切断部位配列を、exp.US6 RにはEcoRI切断部位配列を含ませてある。
【0284】
(1−2)ORF-US6ポリヌクレオチドの増幅
上記プライマーを各5pmol、dNTP 5nmol each、ラクトコッカス20-92株のゲノムDNA 40ng 、KOD-plus DNA polymerase用10×緩衝液 (東洋紡) 2.5μL、KOD-Plus DNA polymerase 0.3ユニット(東洋紡)を含む25μLの反応液を用い、増幅プログラム:95℃ 3分、(94℃ 30秒、62℃ 20秒、68℃ 1分)×30cycles、68℃ 5分でGeneAmpPCR System 9700(アプライド・バイオシステムズ)を用いてPCR反応を行った。PCR反応液の一部をアガロースゲル電気泳動により解析した結果、予想される大きさのバンド(約500bp)が検出できた。PCR産物全量をQIAGEN PCR Purification kit(キアゲン)にて回収した。回収したDNA断片を制限酵素NdeI及びEcoRIで切断後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンドの部分を切り出し、QIAGEN Gel Extraction kit (キアゲン) により精製、回収した。得られたDNA断片はNdeI及びEcoRIで消化したpET21aとDNA Ligation Kit ver.2.1(タカラバイオ)を用いて、16 ℃、2時間ライゲーションした後、ライゲーション反応液を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ)を形質転換した。形質転換体はアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地アガー(GIBCO)プレート上で37℃、終夜生育させ、コロニーを得た。得られたシングルコロニーはアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地(GIBCO)3 mLで終夜培養した後、QIAprep(R) Spin Miniprep Kit (キアゲン)を用いてプラスミドDNAを抽出した。
【0285】
プラスミドに挿入したDNAの塩基配列をダイターミネーター法によりシークエンスを行い、目的どおり正しくORF-US6ポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。本実施例におけるDNAシークエンスはDNAシークエンサーABI3130-XL (アプライド・バイオシステムズ)を用いて行った。
【0286】
(2)組換えORF-US6ポリペプチド発現大腸菌の作製
組換えORF-US6ポリペプチドを発現するプラスミドpET21-US6を用いて、大腸菌BL21(DE3)株(Novagen)を定法で形質転換した。形質転換体(腸菌BL21(DE3)pET21-US6形質転換体)はアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地アガープレート上で37℃、終夜生育させ、シングルコロニーを得た。
【0287】
(3)組換えポリペプチドの発現誘導及び菌体破砕物の調製
(3−1)組換えポリペプチドの発現誘導
大腸菌BL21(DE3)pET21-E1-His形質転換体及び大腸菌BL21(DE3)pET21-US6形質転換体それぞれをアンピシリン50μg/mLを含む10mLの液体LB培地で終夜37℃において培養を行った。その培養液5mL を同濃度のアンピシリンを含む液体LB培地50mL 加え、2時間(OD600nmが約0.4になるまで)37℃で前培養し、終濃度が1mM になるようにIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)(和光純薬工業株式会社)を加え、さらに30℃で4時間培養を行った。
【0288】
なお、上記大腸菌BL21(DE3)pET21-E1-His形質転換体は、下記のE1ヌクレオチドの増幅プライマーを使用して、上記(1)と(2)と同様の手法で作成したものであり、組換えORF-US6ポリペプチドを発現するプラスミドpET21-E1を用いて大腸菌BL21(DE3)株(Novagen)を形質転換させたものである。
exp.E1 pet F Nde:AGCTCATATGAAGAACAAGTTCTATCCGAA (配列番号:29)
exp.E1 His:AATCGAATTCGACAGGTTGCAGCCAGCGATGT (配列番号:30)
上記増幅プライマー:exp.E1 pet F Nde、exp.E1 pet HisにはpET21a(Novagen)へ挿入するため、それぞれ制限酵素NdeI切断部位、EcoRI切断部位配列を含ませてある。
【0289】
(3−2)組換えポリペプチド発現株由来菌体破砕液の調製
培養終了後、菌体をAvanti HP25(beckman coulter)で遠心分離(6000rpm 4℃ 15分)により集菌した。以降の操作は氷上で行った。遠心上静(培地)を除いた後、1mL の1mM PMSF、2mM DTT、5mM Sodium hydrosulfiteを含む0.1Mリン酸カリウム緩衝液pH7.0(KPB-PDH)に懸濁し、あらかじ0.7mL容のジルコニア-シリカビーズ(BioSpec Products, Inc.)及びKPB-PDH 400μLを入れておいた2mL容アシストチューブへ入れ、FastPrep(R)(Thermo ELECTRON CORPORATION)を用いて6500rpm、20秒間処理-3分間氷冷を2回繰り返すことで、菌体を破砕し、組換えE1ポリペプチド発現株及びORF-US6ポリペプチド発現株由来菌体破砕液を得た。
【0290】
(4)組換えORF-US6ポリペプチドのジヒドロダイゼイン-ラセマーゼ活性の確認
本実施例での組換えORF-US6ポリペプチドのジヒドロダイゼイン-ラセマーゼ活性の有無の測定は以下の方法で行った。
【0291】
下記組成の酵素反応液を調製し、37℃で2時間インキュベートした。
酵素反応液組成
組換えE1ポリペプチド発現株由来菌体破砕液 100 μl
組換えORF-US6ポリペプチド発現株由来菌体破砕液若しくは無し 100 μl or 0μl
NADH(100 mM) 20 μl
NADPH(100 mM) 20 μl
ダイゼイン(2mg/mL) 5 μl
0.1Mリン酸カリウム緩衝液pH7/1mM DTT/5mM sodiumhydrosulfite 855 or 755 μl
計 1000 μl
【0292】
インキュベート後、得られた酵素反応液に3mLの酢酸エチルを添加して抽出処理を行い、乾固した後、移動層(溶離液)で溶解した。溶解物をキラル-HPLC分析することにより、酵素反応液中のジヒドロダイゼインの含量を測定した。キラル-HPLC分析は本実施例2の(3)に記載する方法と同様に行った。キラル-HPLC分析の標準溶液にはジヒドロダイゼイン(ラセミ体)(Tronto research chemicals)を用いた。キラル-HPLC分析の結果を図4に示す。尚、ジヒドロダイゼインには鏡像異性体が存在するが、本実施例では便宜上、キラル-HPLCによる分析で保持時間(RT)が早い方をF体、遅い方をL体とした。酵素源に組換えE1ポリペプチド発現株由来菌体破砕物を用いた反応では基質のダイゼインはそのほとんどがL体のジヒドロダイゼインに変換された。しかしながら、組換えE1ポリペプチド発現株由来菌体破砕物及び組換えORF-US6ポリペプチド発現株由来菌体破砕物を用いた反応では生成されたジヒドロダイゼインはラセミ体として存在した。以上のことから組換えORF-US6ポリペプチドがジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有することが示された。すなわち、組換えORF-US6ポリペプチドは前記E4ポリペプチドに相当するといえる。
【0293】
実施例6 大腸菌内を用いた組換えHis-タグ付きORF-US6ポリペプチドの発現及びアフィニティー精製
His-タグ付きORF-US6ポリペプチド発現ベクター(pET-US6-His)を作製する目的でPCRにより、コーディング領域のポリヌクレオチドを増幅し、pET21aベクター(Novagen)に挿入した。
【0294】
(1−1)増幅プライマー
実施例3で決定したエクオール産生関連(E1,E2,E3)酵素遺伝子周辺ゲノム配列情報を基に下記の増幅プライマーを作製した。
His-タグ付きORF-US6
exp.US6 F:TATACATATGATCAAGGCACAGCTCAACC (配列番号:31)
exp.US6 R His:GCTCGAATTCCACTTTGCGTCCCAGTCGCAG (配列番号:32)
上記増幅プライマー:exp.US6 FにはpET21a(Novagen)へ挿入するため、制限酵素NdeI切断部位配列を、exp.US6 R HisにはEcoRI切断部位配列を含ませてある。
【0295】
(1−2)ORF-US6ポリヌクレオチドの増幅
上記した増幅プライマーを各5pmol、dNTP 5nmol each、上記実施例1の(1-2)において精製したラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)のゲノムDNA 40ng 、KOD-plus DNA polymerase用10×緩衝液(東洋紡績株式会社)2.5μL、KOD-Plus DNA polymerase 0.3ユニット(東洋紡績株式会社)を含む25μLの反応液を用い、増幅プログラム:95℃ 3分、(94℃ 30秒、60℃ 20秒、68℃ 45分)×30cycles、68℃ 5分でGeneAmpPCR System 9700(アプライド・バイオシステムズ)を用いてPCRを行った。PCR反応液の一部をアガロースゲル電気泳動した結果、それぞれに予想される大きさのバンドが検出できた。PCR産物全量をQIAGEN PCR Purification kit(キアゲン)にて回収した。
【0296】
(1−3)His-タグ付きORF-US6ポリペプチド発現ベクター(pET-US6-His)の作製
上記(1-2)で回収した各His-タグ付きORF-US6ポリヌクレオチド断片を制限酵素NdeI及びEcoRIで切断後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンド(約500bp)の部分を切り出し、QIAGEN Gel Extraction kit (キアゲン) により精製、回収した。得られたポリヌクレオチド断片はDNA Ligation Kit ver.2.1(タカラバイオ株式会社)を用いて、NdeI及びEcoRIで消化したpET21aと16 ℃、2時間でライゲーションした後、ライゲーション反応液を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ株式会社)を定法で形質転換した。斯くして得た形質転換体を、アンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地アガー(GIBCO)プレート上で37℃、終夜生育させ、コロニーを形成させた。得られたシングルコロニーを、アンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地(GIBCO) 3mLで終夜培養した後、QIAprep(R) Spin Miniprep Kit (キアゲン)を用いてプラスミドDNAを抽出した。
【0297】
プラスミドに挿入したDNAの塩基配列をダイターミネーター法によりシークエンスを行い、目的どおり正しく各ポリヌクレオチドが挿入されていることを確認し、pET-US6-Hisを得た。本実施例におけるDNAシークエンスはDNAシークエンサーABI3130xl(アプライド・バイオシステムズ)を用いて行った。
【0298】
(2)大腸菌内での組換えHis-タグ付きORF-US6ポリペプチドの発現及び精製
(2−1)大腸菌BL21形質転換体の作製
His-タグ付きORF-US6ポリペプチドを発現するプラスミドpET-US6-Hisを用いて、大腸菌BL21(DE3)株(Novagen)を定法で形質転換した。形質転換体はアンピシリン(50μg/mL)を含むLB培地アガープレート上で37℃、終夜生育させ、シングルコロニーを得た。
【0299】
(2−2)組換えHis-タグ付きUS6酵素ポリペプチドの発現及び精製
(2−2−1)大腸菌培養及び組換えHis-タグ付きUS6ポリペプチドの発現誘導
上記pET-US6-Hisによる大腸菌BL21(DE3)形質転換体をアンピシリン(50μg/mL)を含む20mLの液体LB培地で終夜37℃において培養を行った。その培養液の全量 を同濃度のアンピシリンを含む液体LB培地200mL 加え、32℃で2.5時間(OD600nmが0.76)前培養し、終濃度が1mM になるようにIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)(和光純薬工業株式会社)を加え、弱い振とう条件下で30℃、3時間培養し、大腸菌内での組換えHis-タグ付きORF-US6ポリペプチドの発現誘導行った。
【0300】
(2−2−2)菌ライセートの調製
上記(2-2-1)での発現誘導終了後、菌体をAvanti HP25(beckman coulter)で遠心分離(6000rpm 4℃ 10分)により集菌し、組換えORF-US6ポリペプチド発現大腸菌をそれぞれ湿重量にして0.76gを得た。得た菌体はBugbuster protein Extraction solution(Novagen)が菌体湿重量1gあたり10 mLになるように加え、ピペットで穏やかに懸濁し、更にLysozyme(SIGMA) 15000units/mL、Benzonase(Novagen) 25units(1μL)/mLになるように加えた。その後、ローテーター(RT-50:タイテック)を用いて40分間室温でゆっくり攪拌し、菌ライセートAを得た。更に菌ライセートAをAvanti HP25(beckman coulter)で遠心分離(8000rpm 4℃ 15分)により、その上静である菌ライセートBを得た。
【0301】
(2−2−3)組換えHisタグ付きORF-US6ポリペプチドのアフィニティー精製
His-タグ付きタンパク質精製用カラムにはHis GraviTrap(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用い、取り扱い説明書に記載されている手順に従い、一部変更した方法でHis-タグ付きORF-US6ポリペプチドのアフィニティー精製を行った。
【0302】
His GraviTrapを氷冷した10mLの結合バッファーで平衡化した後、上記(2-2-2)で調製した菌ライセートBを全量注ぎ込み、自然落下にて目的のHis-タグ付きORF-US6をHis GraviTrapに吸着させた。その後、His GraviTrapを氷冷した10mLの洗浄バッファーで2回洗浄した後、氷冷しておいた3mLの溶出バッファーで目的のHis-タグ付きORF-US6をHis GraviTrapより溶出した。溶出液は300μLずつマイクロチューブに小分けし、実験に使用するまで4℃で保存した。以下の試験では、E4酵素としてこの溶出液を使用した。
【0303】
本精製で使用した結合バッファー、洗浄バッファー、溶出バッファーの組成は以下の通りである。
結合バッファー:20mM Tris-HCl、20mM Imidazole(和光純薬工業株式会社)、0.5M NaCl(和光純薬工業株式会社)、0.5mM DTT[dithiothreitol](和光純薬工業株式会社)、0.5mM PMSF[phenylmethylsulfonyl fluoride](和光純薬工業株式会社)
洗浄バッファー:20mM Tris-HCl、 60mM Imidazole、0.5M NaCl、0.5mM DTT[dithiothreitol]、0.5mM PMSF[phenylmethylsulfonyl fluoride]
溶出バッファー:20mM Tris-HCl 500mM Imidazole、0.5M NaCl、0.5mM DTT[dithiothreitol]、0.5mM PMSF[phenylmethylsulfonyl fluoride]
【0304】
(3)SDS-ポリアクリルアミド-ゲル電気泳動(SDS-PAGE)による組換えHis-タグ付きORF-US6ポリペプチドの確認
精製した組換えHis-タグ付きORF-US6ポリペプチドの確認はSDS-PAGEで行った。
【0305】
上記(2-2-3)での溶出液を溶出バッファーで4倍希釈したもの7.5μLに5×サンプル緩衝液(125mM Tris-HCl(pH6.5)/ 25% グリセロール/5% SDS/5% 2-メルカプトエタノール/BPB 0.5%)を4μL加え、滅菌水で20μLに調製した。98℃ 5分間加熱変性後、氷冷し、うち10μLをSDS-PAGEで泳動した。SDS‐PAGEには市販のゲル板(SuperSepTM5-20% (和光純薬工業株式会社))を使用し、染色はQuickBlue staining Solution(BioDynamics laboratory Inc.)で行った。分子量マーカーにはPrestain XL-Ladder Broad (株式会社アプロサイエンス)を使用した。SDS-PAGEの結果を図5に示す。分子量約22kDaのHisタグ付きORF-US6ポリペプチドが選択的に精製されていることが確認された。
【0306】
実施例7 組換えHis-タグ付きE1,E2,E3及びE4酵素を用いたダイゼインからのエクオール合成
精製した組換えHis-タグ付きE1,E2,E3酵素及びE4酵素を酵素源として、37℃で2時間反応させることでダイゼインからエクオールの合成を行った。また、同時に酵素源として組換えHis-タグ付きE1、E2、E3酵素を用いた反応も行った。本実施例において使用した酵素反応液の組成を下記に示す。
酵素反応液組成
組換えHis-タグ付きE1酵素 20 μl
組換えHis-タグ付きE2酵素 20 μl
組換えHis-タグ付きE3酵素 20 μl
組換えHis-タグ付きE4酵素 若しくは 無し 20 or 0 μl
NADH(100 mM) 20 μl
NADPH(100 mM) 20 μl
ダイゼイン (2mg/mL) 5 μl
0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液
(pH7/1mM PMSF/2mM DTT/5mM Sodiumhydrosulfite) 875 or 895μl
計 1000 μl
【0307】
インキュベート後、得られた酵素反応液に3mLの酢酸エチル(和光純薬)を添加して抽出処理を行い、乾固した後、移動層(溶離液)で溶解した。溶解物をHPLC分析することにより、酵素反応液中のエクオールを測定した。HPLC分析の結果を図6に示す。酵素源に組換えHis-タグ付きE1,E2,E3酵素混合を使用した場合はエクオールの生合成は確認できたが効率が悪かった。しかしながら、上記酵素源にE4酵素を加えた場合、ダイゼインからの高効率なエクオールの生合成が確認された。
【0308】
HPLC分析の標準溶液としてはダイゼイン(フナコシ)、エクオール(フナコシ)、ジヒドロダイゼイン(トロントリサーチケミカル社)、シス-テトラヒドロダイゼイン、トランス-テトラヒドロダイゼインの混合溶液(各2μg/mL)を用いた。
【配列表フリーテキスト】
【0309】
配列番号21はプライマーexp.E1 pet F Ndeの塩基配列を示す。
【0310】
配列番号22はプライマーexp.E1 Hisの塩基配列を示す。
【0311】
配列番号23はプライマーexp.pET E-2 Ndeの塩基配列を示す。
【0312】
配列番号24はプライマーexp.E2 Hisの塩基配列を示す。
【0313】
配列番号25はプライマーexp.US3 Fの塩基配列を示す。
【0314】
配列番号26はプライマーexp. US3 R Hisの塩基配列を示す。
【0315】
配列番号27はプライマーexp.US6 Fの塩基配列を示す。
【0316】
配列番号28はプライマーexp.US6 Rの塩基配列を示す。
【0317】
配列番号29はプライマーexp.E1 pet F Ndeの塩基配列を示す。
【0318】
配列番号30はプライマーexp.E1 Hisの塩基配列を示す。
【0319】
配列番号31はプライマーexp.US6 Fの塩基配列を示す。
【0320】
配列番号32はプライマーexp.US6 R Hisの塩基配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)のいずれかであるポリペプチド:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドからなる、ジヒドロダイゼインをラセミ化するラセマーゼ。
【請求項3】
以下の(d)〜(f)のいずれかであるポリヌクレオチド:
(d)配列番号2に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;
(e)配列番号1に記載のアミノ配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(f)前記(d)又は(e)のポリヌクレオチドの相補鎖に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを有する発現ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の発現ベクターによって形質転換された組換え細胞。
【請求項6】
組換え細胞が細菌性原核細胞である、請求項5に記載の組換え細胞。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の組換え細胞を培養し、ジヒドロダイゼインをラセミ化する活性を有するポリペプチドを得る工程を含む、ポリペプチドの製造方法。
【請求項8】
ジヒドロダイゼインに対して、請求項1に記載のポリペプチドを作用させる工程を含む、ジヒドロダイゼインのラセミ化方法。
【請求項9】
ジヒドロダイゼインに対して、請求項6又は5に記載の組換え細胞を作用させる工程を含む、ジヒドロダイゼインのラセミ化方法。
【請求項10】
ダイゼインに対して、請求項1に記載のポリペプチド、ダイゼインをジヒドロダイゼインに変換する酵素、ジヒドロダイゼインをテトラヒドロダイゼインに変換する酵素、及びテトラヒドロダイゼインをエクオールに変換する酵素を作用させる工程を含む、エクオールの製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−273647(P2010−273647A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131351(P2009−131351)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】