説明

ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤の使用

【課題】心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の予防、進行遅延または処置のための方法の提供。
【解決手段】ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤(DPP−IV阻害剤)、好ましくは(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン、L−トレオ−イソロイシルチアゾリジン(P32/98)、MK−0431、GSK23A、BMS−477118、3−(アミノメチル)−2−イソブチル−1−オキソ−4−フェニル−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリンカルボキサミドおよび2−{[3−(アミノメチル)−2−イソブチル−4−フェニル−1−オキソ−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリル]オキシ}アセトアミド、またはその医薬上許容される塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の処置を目的とするジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤(DPP−IV阻害剤)またはその医薬上許容される塩の使用、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患に罹患しているヒトを含む温血動物の処置方法であって、処置を必要とする動物に少なくとも1種のDPP−IV阻害剤またはその医薬上許容される塩の有効量を投与することから成る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レニン−アンギオテンシン系(RAS)アップレギュレーションは、心臓血管疾患の病因についての十分に容認された誘因であり、圧力/容量ホメオスタシスの調節および高血圧の発現に関与するホルモン機構の一つである。さらに、レニン−アンギオテンシン系は、腎臓損傷の発生においても主たる役割を演じる。
【0003】
この分野での研究を遂行したところ、出願人は、驚くべきことに、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤(DPP−IV阻害剤)が、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患を低減化することを発見した。DPP−IV阻害剤は、動物において特に心臓血管肥厚、マトリックス沈積および心臓血管肥大および肥大型リモデリングを低減化する。第二に、これらの栄養作用の改善は、全身血圧の変化とは無関係であった。血圧とは無関係である作用の利点は、臨床実践において、推奨された標的に達するのが困難であることである。それには通常2〜3種の薬剤が必要とされる。また、血圧または心臓血管および腎臓疾患または損傷についての閾値は無いため、血圧とは無関係の保護が非常に有利である。
【0004】
うっ血性心不全(CHF)、または心不全(HF)は、心臓が体全体に十分に血液を送り出せない、および/または血液が肺へ「逆流する」のを阻止できない状態を述べる場合に使用される語である。これらの状態は、例えば息切れ(呼吸困難)、疲労、虚弱および下肢および時には腹部の腫脹(浮腫)といった症状を誘発する。
【0005】
うっ血性心不全は、その病因とは関係無く、心臓左および/または右心室の心筋組織の弱さおよびその結果として全身および/または肺系へ血液を送り出し、循環させるのが困難であることを特徴としている。心筋組織の弱さは、典型的には十分な血液および酸素を末梢組織および臓器へ送達できなくする循環および神経ホルモンの変化と関連している。その結果としての変化の中には、肺および全身血圧の上昇、心拍出量の低下、血管抵抗の上昇および末梢および肺浮腫が含まれる。さらにうっ血性心不全は、労作時、安静時または発作性夜間呼吸困難での息切れとして表され得る。未処置で放置された場合、うっ血性心不全は致死原因となり得る。
【0006】
心不全は、収縮期性または拡張期性、高心拍出量性または低心拍出量性、急性または慢性、右側または左側、および前方または後方として記述され得る。これらのデスクリプターは、臨床環境、特に患者の経過の初期には有用である場合が多いが、慢性HFの経過の後期にはそれらの間の差異は曖昧になることが多い。
【0007】
収縮期対拡張期心不全:HFのこれら2形態間の区別は、主たる異常が、心室が正常な収縮および十分な血液の排出をできない状態(収縮期性心不全)であるのか、または正常な弛緩および/または充足をできない状態(拡張期性心不全)であるのかに関するものである。
【0008】
高心拍出量性対低心拍出量性心不全:HF患者を、低心拍出量、すなわち低心拍出量性HFの患者、および高心拍出量、すなわち高心拍出量性HF患者に分類することは有用である。
【0009】
急性対慢性心不全:急性HFのプロトタイプは、以前には全く問題の無かった患者における重い心筋梗塞または心臓弁の破裂の突然発症である。慢性HFは、典型的には拡張型心筋症またはゆっくりと発現および進行する多弁膜性心疾患の患者において観察される。急性HFは、通常主に収縮期性であり、心拍出量の突然の低下が、末梢浮腫を伴わない全身性低血圧をもたらすことが多い。対照的に、慢性HFでは、病気の末期まで動脈圧は通常良好に維持されているが、多くの場合浮腫の蓄積が存在する。
【0010】
右(側)対左(側)心不全:HFの臨床発現の多くは、一方または両方の心室後方における過剰血流の蓄積から生じる。この血流は、通常最初に罹患した心室(後方)に対して上流に局在する。
【0011】
後方対前方心不全:何年もの間、HFから生じる臨床発現機構の問題を巡って論議が繰返されてきた。両機構ともほとんどのHF患者において機能する程度が異なると思われるため、後方および前方HF間の厳密な区別は(右および左HF間の厳密な区別と同様)人為的なものに過ぎない。
【0012】
HFの処置は4構成要素に分割され得る:(1)促進している原因の除去、(2)根元的原因の矯正、(3)心機能悪化の阻止、および(4)うっ血性HF状態の制御。
【0013】
慣用的に、HFは、アルファ−アドレナリン作用性アゴニスト、ベータ−アドレナリン作用性アンタゴニスト、カルシウム(イオン)チャネルアンタゴニスト、心臓グリコシド、利尿剤、硝酸薬、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プラゾシン、および多様な血管拡張剤を含む、広く多様な薬剤により処置されてきた。
【0014】
しかしながら、これらの薬剤は全て、望ましくない副作用を有する。例えば、アルファ−アドレナリン作用性アゴニストの使用により、末梢組織の腫脹が誘発される。β−アドレナリン作用性薬剤の長期にわたる使用は、薬剤に対する脱感作の進展をもたらす。心臓グリコシドは、CNS、並びに消化器および呼吸器系においても毒性副作用を生じさせる。それらはさらに前不整脈作用を生じる。利尿剤による処置は、様々な有害作用、例えば低ナトリウム血症、低カリウム血症、および高塩素血代謝性アルカローシスを誘発し得る。
【0015】
カルシウムチャネルアンタゴニスト、例えばベラパミル、ジルチアゼムおよびニフェジピンを長期使用するとそれらは効力を示さなくなる。さらに、カルシウムチャネルアンタゴニストは、酸素消費を増加させるべく作用し、それが欠陥を生じた心臓にさらにストレスをかけることになるため、上記化合物はこれで処置された患者における死亡率を増加させることが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
すなわち、心筋酸素必要量の増加を伴わずにHFを処置し、左心室機能を改善する新たな非毒性化合物が依然として要望され続けている。また、薬剤は、直接作用して心筋収縮能に刺激を加えたり、例えば血圧および/または心拍の変化はHF患者における死亡率の増加と関連していることから、そういった副作用をもたらすことのないのが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この分野での研究を遂行したところ、出願人は、驚くべきことにDPP−IV阻害剤が、心不全(HF)または心不全関連疾患の阻止、進行の遅延または処置に有用であることを発見した。
【0018】
すなわち本発明は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の処置を目的とする医薬の製造についての、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤(DPP−IV阻害剤)またはその医薬上許容される塩の使用に関するものである。
【0019】
「DPP−IV阻害剤」の語は、DPP−IVおよび機能的に関連した酵素の酵素活性の阻害、例えば1〜100%阻害を呈し、特に、限定するわけではないが、グルカゴン様ペプチド−1、胃抑制性ポリペプチド、ペプチドヒスチジンメチオニン、物質P、ニューロペプチドY、および典型的には第2アミノ末端位置にアラニンまたはプロリン残基を含む他の分子を含む、基質分子の作用を保存する分子を示すものとする。DPP−IV阻害剤による処置は、ペプチド基質の作用持続時間を延長させ、開示されている発明に関連した一連の生物活性を導くそれらの無傷の未分解形態のレベルを増加させる。
【0020】
DPP−IVは、その基質がインスリン分泌増強ホルモングルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)および胃抑制性ペプチド(GIP)を含むため、グルコース代謝制御で使用され得る。GLP−1およびGIPは、それらの無傷形態でのみ活性を示す。それらの2個のN−末端アミノ酸の除去により、それらは不活化される。DPP−IVの合成阻害剤のインビボ投与によってGLP−1およびGIPのN−末端分解が阻止されることにより、これらのホルモンの血漿濃度が高められ、インスリン分泌が増加するため、グルコース耐性が改善される。その目的のため、精製CD26/DPP−IVの酵素活性阻害能力について化学的化合物を試験する。簡単に述べると、CD26/DPP−IVの活性は、それが合成基質Gly−Pro−p−ニトロアニリド(Gly−Pro−pNA)を開裂する能力によりインビトロで測定される。DPP−IVによるGly−Pro−pNAの開裂により、生成物p−ニトロアニリド(pNA)が遊離し、その見かけ上の速度は酵素活性と直接比例している。特定酵素阻害剤による酵素活性の阻害は、pNAの生成を減速させる。阻害剤および酵素間の相互作用が強くなることにより、pNA生成速度は減速される。すなわち、pNAの蓄積速度の阻害度は、酵素阻害強度の直接的な尺度である。pNAの蓄積は、分光光度計により測定される。固定量の酵素を幾つかの異なる濃度の阻害剤および基質とインキュベーションすることにより、各化合物について阻害定数Kiを測定する。
【0021】
本明細書における「DPP−IV阻害剤」はまた、活性代謝産物およびそのプロドラッグ、例えばDPP−IV阻害剤の活性代謝産物およびプロドラッグを包含するものとする。「代謝産物」は、DPP−IV阻害剤が代謝されるときに生成されるDPP−IV阻害剤の活性誘導体である。「プロドラッグ」は、DPP−IV阻害剤に代謝されるか、またはDPP−IV阻害剤と同じ代謝産物(複数も可)に代謝される化合物である。
【0022】
DPP−IV阻害剤は当業界では公知である。例えば、DPP−IV阻害剤は、それぞれの場合において例えば国際公開第98/19998号、ドイツ国特許第19616486A1号、国際公開第00/34241号、国際公開第95/15309号、国際公開第01/72290号、国際公開第01/52825号、国際公開第9310127号、国際公開第9925719号、国際公開第9938501号、国際公開第9946272号、国際公開第9967278号および国際公開第9967279号において包括的かつ具体的に開示されている。
【0023】
好ましいDPP−IV阻害剤は、以下の特許出願に記載されている;国際公開第02053548号特に化合物1001〜1293および実施例1〜124、国際公開第02067918号特に化合物1000〜1278および2001〜2159、国際公開第02066627号特に記載された実施例、国際公開第02/068420号特に実施例I〜LXIIIで具体的に列挙されている全化合物および記載された対応する類似体、さらに好ましい化合物はIC50を記録している表に記載された2(28)、2(88)、2(119)、2(136)である、国際公開第02083128号特に実施例1〜13、米国第2003096846号特に具体的に記載されている化合物、国際公開第2004/037181号特に実施例1〜33、国際公開第0168603号特に実施例1〜109の化合物、欧州第1258480号特に実施例1〜60の化合物、国際公開第0181337号特に実施例1〜118、国際公開第02083109号特に実施例1A〜1D、国際公開第030003250号特に実施例1〜166、最も好ましくは1〜8の化合物、国際公開第03035067号特に実施例に記載された化合物、国際公開第03/035057号特に実施例に記載された化合物、米国第2003216450号特に実施例1〜450、国際公開第99/46272号特に請求項12、14、15および17の化合物、国際公開第0197808号特に請求項2の化合物、国際公開第03002553号特に実施例1〜33の化合物、国際公開第01/34594号特に実施例1〜4に記載された化合物、国際公開第02051836号特に実施例1〜712、欧州第1245568号特に実施例1〜7、欧州第1258476号特に実施例1〜32、米国第2003087950号特に記載されている実施例、国際公開第02/076450号特に実施例1〜128、国際公開第03000180号特に実施例1〜162、国際公開第03000181号特に実施例1〜66、国際公開第03004498号特に実施例1〜33、国際公開第/0302942号特に実施例1〜68、米国第6482844号特に記載されている実施例、国際公開第0155105号特に実施例1および2で列挙されている化合物、国際公開第0202560号特に実施例1〜166、国際公開第03004496号特に実施例1〜103、国際公開第03/024965号特に実施例1〜54、国際公開第0303727号特に実施例1〜209、国際公開第0368757号特に実施例1〜88、国際公開第03074500号特に実施例1〜72、実施例4.1〜4.23、実施例5.1〜5.10、実施例6.1〜6.30、実施例7.1〜7.23、実施例8.1〜8.10、実施例9.1〜9.30、国際公開第02038541号特に実施例1〜53、国際公開第02062764号特に実施例1〜293、好ましくは実施例95の化合物(2−{{3−(アミノメチル)−4−ブトキシ−2−ネオペンチル−1−オキソ−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリニル}オキシ}アセトアミド塩酸塩)、
【0024】
国際公開第02308090号特に実施例1−1〜1−109、実施例2−1〜2−9、実施例3、実施例4−1〜4−19、実施例5−1〜5−39、実施例6−1〜6−4、実施例7−1〜7−10、実施例8−1〜8−8、90頁の実施例7−1〜7−7、91〜95頁の実施例8−1〜8−59、実施例9−1〜9−33、実施例10−1〜10−20、米国第2003225102号特に化合物1〜115、実施例1〜121の化合物、好ましくは化合物a)〜z)、aa)〜az)、ba)〜bz)、ca)〜cz)およびda)〜dk)、国際公開第0214271号特に実施例1〜320および米国第2003096857号、国際公開第2004/052850号特に具体的に記載された化合物、例えば実施例1〜42および請求項1の化合物、ドイツ国第10256264A1号特に記載された化合物、例えば実施例1〜181および請求項5の化合物、国際公開第04/076433号特に具体的に記載された化合物、例えば表Aで列挙されているもの、好ましくは表Bで列挙されている化合物、好ましくは化合物I〜XXXXVII、または請求項6〜49の化合物、国際公開第04/071454号特に具体的に記載されている化合物、例えば化合物1〜53または表1a〜1fの化合物、または請求項2〜55の化合物、国際公開第02/068420号特に具体的に記載されている化合物、例えば化合物I〜LXIIIまたは実施例1および類似体1〜140または実施例2および類似体1〜174または実施例3および類似体1、または実施例4〜5、または実施例6および類似体1〜5、または実施例7および類似体1〜3、または実施例8および類似体1、または実施例9、または実施例10および類似体1〜531、さらに好ましいのは請求項13の化合物、国際公開第03/000250号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜166、好ましくは実施例1〜9の化合物、国際公開第03/024942号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜59、表1の化合物(1〜68)、請求項6、7、8、9の化合物、国際公開第03024965024942号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜54、国際公開第03002593号特に具体的に記載された化合物、例えば表1または請求項2〜15の化合物、国際公開第03037327号特に具体的に記載された化合物、例えば実施例1〜209の化合物、国際公開第03/000250号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜166、好ましくは実施例1〜9の化合物、国際公開第03/024942号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜59、表1の化合物(1〜68)、請求項6、7、8、9の化合物、国際公開第03024965024942号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜54、国際公開第03002593号特に具体的に記載された化合物、例えば表1または請求項2〜15の化合物、国際公開第03037327号特に具体的に記載された化合物、例えば実施例1〜209の化合物、国際公開第0238541号、国際公開第0230890号。
【0025】
国際公開第03/000250号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜166、好ましくは実施例1〜9の化合物、国際公開第03/024942号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜59、表1の化合物(1〜68)、請求項6、7、8、9の化合物、国際公開第03024965号特に具体的に記載された化合物、例えば化合物1〜54、国際公開第03002593号特に具体的に記載された化合物、例えば表1または請求項2〜15の化合物、国際公開第03037327号特に具体的に記載された化合物、例えば実施例1〜209の化合物、国際公開第0238541号特に具体的に記載された化合物、例えば実施例1〜53の化合物、国際公開第03/002531号特に具体的に記載された化合物、好ましくは9〜13頁に列挙された化合物、最も好ましくは実施例1〜46の化合物およびさらに好ましいのは実施例9の化合物、米国特許第6395767号、好ましくは実施例1〜109の化合物、最も好ましくは実施例60の化合物。
【0026】
それぞれの場合において、特に化合物の請求項および実施例の最終生成物では、最終生成物、医薬製剤および請求項の内容について出典明示により本明細書の一部とする。
【0027】
国際公開第9819998号は、N−(N'−置換グリシル)−2−シアノピロリジン、特に1−[2−[5−シアノピリジン−2−イル]アミノ]−エチルアミノ]アセチル−2−シアノ−(S)−ピロリジンを開示している。
【0028】
国際公開第03/002553号に記載されている好ましい化合物は、9〜11頁に列挙されており、これらについては出典明示により本明細書の一部とする。
【0029】
ドイツ国第19616486A1号は、val−pyr、val−チアゾリジド、イソロイシル−チアゾリジド、イソロイシル−ピロリジド、ならびにイソロイシル−チアゾリジドおよびイソロイシル−ピロリジドのフマル酸塩を開示している。
【0030】
公開特許出願国際公開第0034241号および米国公開特許第6110949号は、N−置換アダマンチル−アミノ−アセチル−2−シアノピロリジンおよびN−(置換グリシル)−4−シアノピロリジンをそれぞれ開示している。興味の対象であるDPP−IV阻害剤は、特に請求項1〜4で挙げられているものである。特に、これらの出願は、化合物1−[[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル]−2−シアノ−(S)−ピロリジン(LAF237としても知られている)を記載している。
【0031】
国際公開第9515309号は、DPP−IVの阻害剤としてアミノ酸2−シアノピロリジンアミドを開示しており、国際公開第9529691号は、アルファ−アミノアルキルホスホン酸のジエステルのペプチジル誘導体、特にプロリンまたは関連構造をもつものを開示している。興味の対象であるDPP−IV阻害剤は、特に表1〜8に挙げられているものである。
【0032】
国際公開第01/72290号において、興味の対象であるDPP−IV阻害剤は、特に実施例1および請求項1、4および6に挙げられているものである。
【0033】
国際公開第01/52825号は、特に(S)−1−{2−[5−シアノピリジン−2イル)アミノ]エチル−アミノアセチル)−2−シアノ−ピロリジンまたは(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン(LAF237)を開示している。
【0034】
国際公開第9310127号は、DPP−IV阻害剤として有用であるプロリンホウ素エステルを開示している。興味の対象であるDPP−IV阻害剤は、特に実施例1〜19に挙げられているものである。
【0035】
国際特許出願公開第9925719号は、微生物ストレプトマイシス(Streptomyces)を培養することにより製造されたDPP−IV阻害剤である、スルホスチンを開示している。
【0036】
国際公開第9938501号は、N−置換4−〜8−員複素環を開示している。興味の対象であるDPP−IV阻害剤は、特に請求項15〜20に挙げられたものである。
【0037】
国際公開第9946272号は、DPP−IVの阻害剤としてリン酸化合物を開示している。興味の対象であるDPP−IV阻害剤は、特に請求項1〜23に挙げられているものである。
【0038】
他の好ましいDPP−IV阻害剤は、特許出願国際公開第03/057200号14〜27頁で開示されている式I、IIまたはIIIの化合物である。最も好ましいDPP−IV阻害剤は、28および29頁で具体的に記載された化合物である。
【0039】
国際特許出願公開第9967278号および国際公開第9967279号は、DPP−IVプロドラッグおよびA−B−C形態(式中、CはDPP−IVの安定または不安定阻害剤)の阻害剤を開示している。
【0040】
好ましくは、N−ペプチジル−O−アロイルヒドロキシルアミンは、式(VII)
【化1】

[式中、
jは0、1または2であり、
ε1は、天然アミノ酸の側鎖を表し、そして
ε2は、低級アルコキシ、低級アルキル、ハロゲンまたはニトロを表す]
で示される化合物またはその医薬上許容される塩である。
【0041】
本発明の非常に好ましい実施態様において、N−ペプチジル−O−アロイルヒドロキシルアミンは、式VIIa
【化2】

で示される化合物またはその医薬上許容される塩である。
【0042】
例えば式(VII)または(VIIa)のN−ペプチジル−O−アロイルヒドロキシルアミン、およびそれらの製法は、H.U.Demuth et al.、J.Enzyme inhibition 1988、第2巻、129−142頁、特に130−132頁に記載されている。
【0043】
好ましいDPP−IV阻害剤は、Mona Patelおよびその同僚(Expert Opinion Investig Drugs、2003年4月;12(4):623−33)により5節に記載されているもの、特にP32/98、K−364、FE−999011、BDPX、NVP−DDP−728などであり、この出版物、特に記載されているDPP−IV阻害剤については出典明示により本明細書の一部とする。
【0044】
FE−999011は、特許出願国際公開第95/15309号14頁に化合物番号18として記載されている。
【0045】
別の好ましい阻害剤は、米国特許第6395767号で開示された化合物BMS−477118(実施例60の化合物)であり、これは、特許出願国際公開第2004/052850、2頁の式Mで示されている(1S,3S,5S)−2−[(2S)−2−アミノ−2−(3−ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イル)−1−オキソエチル]−2−アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン−3−カルボニトリル、安息香酸塩(1:1)、および特許出願国際公開第2004/052850、3頁の式Mで示されている対応する遊離塩基、(1S,3S,5S)−2−[(2S)−2−アミノ−2−(3−ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]デカ−1−イル)−1−オキソエチル]−2−アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン−3−カルボニトリル(M')およびその一水和物(M”)としても知られている。
【0046】
別の好ましい阻害剤は、(2S,4S)−1−((2R)−2−アミノ−3−[(4−メトキシベンジル)スルホニル]−3−メチルブタノイル)−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル塩酸塩としても知られている国際公開第03/002531号に開示されている化合物GSK23A(実施例9)である。
【0047】
本発明の他の非常に好ましいDPP−IV阻害剤は、国際特許出願国際公開第02/076450(特に実施例1〜128)および Wallace T.Ashton(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 14(2004)859−863)により記載されており、特に化合物1および表1および2で列挙されている化合物である。好ましい化合物は、式
【化3】

で示される化合物21e(表1)である。
【0048】
3−[(2S,3S)−2−アミノ−3−メチル−1−オキソペンチル]チアゾリジンとしても知られているP32/98またはP3298(CAS番号:251572−86−8)は、例えば下式
【化4】

に示されている3−[(2S,3S)−2−アミノ−3−メチル−1−オキソペンチル]チアゾリジンおよび(2E)−2−ブテンジオエート(2:1)混合物として使用され得るもので、これは、プロバイオドラッグの名称で、また化合物P93/01として国際公開第99/61431号に記載されている。
【0049】
他の好ましいDPP−IV阻害剤は、特許出願国際公開第02/083128、例えば請求項1〜5に開示されている化合物である。最も好ましいDPP−IV阻害剤は、実施例1〜13および請求項6〜10に具体的に記載されている化合物である。
【0050】
他の好ましいDPP−IV阻害剤は、特許出願国際公開第2004/037169に記載されている、特に実施例1〜48に記載されているものおよび国際公開第02/062764号に記載されている、特に実施例1〜293に記載されているものであり、さらに好ましいのは、7頁およびまた特許出願国際公開第2004/024184、特に参考例1〜4に記載されている化合物3−(アミノメチル)−2−イソブチル−1−オキソ−4−フェニル−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリンカルボキサミドおよび2−{[3−(アミノメチル)−2−イソブチル−4−フェニル−1−オキソ−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリル]オキシ}アセトアミドである。
【0051】
他の好ましいDPP−IV阻害剤は、特許出願国際公開第03/004498、特に実施例1〜33に記載されており、最も好ましくは実施例7に記載されており、MK−0431としても知られている式
【化5】

で示される化合物である。
【0052】
また好ましいDPP−IV阻害剤は、特許出願国際公開第2004/037181、特に実施例1〜33にも記載されており、最も好ましくは請求項3〜5に記載されている化合物である。
【0053】
好ましいDPP−IV阻害剤は、N−置換アダマンチル−アミノ−アセチル−2−シアノピロリジン、N(置換グリシル)−4−シアノピロリジン、N−(N'−置換グリシル)−2−シアノピロリジン、N−アミノアシルチアゾリジン、N−アミノアシルピロリジン、L−アロ−イソロイシルチアゾリジン、L−トレオ−イソロイシルピロリジン、およびL−アロ−イソロイシルピロリジン、1−[2−[(5−シアノピリジン−2−イル)アミノ]エチルアミノ]アセチル−2−シアノ−(S)−ピロリジンおよびその医薬用塩である。
【0054】
特に好ましいのは、式
【化6】

で示される1−{2−[(5−シアノピリジン−2−イル)アミノ]エチルアミノ}アセチル−2(S)−シアノピロリジン二塩酸塩(DPP728)、特にその二塩酸塩、および式
【化7】

で示される(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン(LAF237)およびL−トレオ−イソロイシルチアゾリジン(プロバイオドラッグによる化合物コード:上記のP32/98)、MK−0431、GSK23A、BMS−477118、3−(アミノメチル)−2−イソブチル−1−オキソ−4−フェニル−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリンカルボキサミドおよび2−{[3−(アミノメチル)−2−イソブチル−4−フェニル−1−オキソ−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリル]オキシ}アセトアミドおよび所望によるいずれかの場合におけるその医薬用塩である。
【0055】
DPP728およびLAF237は、非常に好ましい化合物であり、国際公開第98/19998号の実施例3および国際公開第00/34241号の実施例1にそれぞれ具体的に開示されている。DPP−IV阻害剤P32/98(上記参照)は、Diabetes 1998、47、1253−1258に具体的に記載されている。DPP728およびLAF237は、国際公開第98/19998号の20頁または国際公開第00/34241号に記載されている通り製剤化し得る。LAF237の投与に好ましい製剤は、米国仮出願第60/604274号に記載されている。
【0056】
特に好ましいのは、経口活性DPP−IV阻害剤である。さらなる実施態様において、好ましいDPP−IV阻害剤は、好ましくはジペプチドではない化合物および誘導体である。
【0057】
出典明示により本明細書の一部とされている上述の特許文献で開示されている物質はいずれにしても、本発明の実施で使用されるDPP−IV阻害剤として潜在的に有用であると考えられる。
【0058】
本発明に従って単独で使用されるDPP−IV阻害剤は、担体と共に使用され得る。
【0059】
前記記載の担体は、特定物質を、それが埋封されている細胞膜を通して細胞中へ輸送する一種の道具(天然、合成、ペプチド性、非ペプチド性)、例えばタンパク質である。担体(天然、合成、ペプチド性、非ペプチド性)が異なれば、各々唯一の物質または類似物質の群を認識するように設計されているため、輸送する物質も異なるものであることが要求される。
【0060】
例えば担体を標識することにより、担体とDPP−IVの会合を検出するのに、当業者に公知の任意の検出手段が使用され得る。
【0061】
DPP−IV阻害剤は、ペプチド性、または好ましくは非ペプチド性であり得る。
【0062】
最も好ましいのは、経口活性DPP−IV阻害剤およびその医薬用塩である。
【0063】
本発明による有効成分またはその医薬上許容される塩はまた、溶媒和物、例えば水和物または結晶化に使用される他の溶媒を含む形態で使用され得る。
【0064】
驚くべきことに、DPP−IV阻害剤は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置に有用であることが見出された。
【0065】
すなわち本発明は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置を目的とする医薬の製造についての、DPP−VI阻害剤またはその医薬上許容される塩の使用に関するものである。
【0066】
特に、本発明は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置を目的とする医薬の製造についての、式(I)
【化8】

で示される(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン(LAF237)またはその医薬上許容される塩の新規使用に関するものである。
【0067】
さらに本発明は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置方法であって、予防、進行の遅延または処置を必要とする温血動物、例えばヒトに治療有効量のDPP−IV阻害剤、好ましくは式(I)の(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン(LAF237)を投与することから成る方法に関するものである。
【0068】
さらなる実施態様において、本発明は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の処置を目的とする、1種またはそれ以上の医薬上許容される担体と組合わせて治療有効量のDPP−IV阻害剤を含む医薬組成物に関するものである。
【0069】
さらに、驚くべきことに、本明細書で開示されている化合物は、現在使用されている化合物の不利な点を有しないことが発見された。本発明化合物は、部分的脂肪酸酸化(pFox)阻害特性およびグルコース酸化活性化特性を有する結果としてそれらの有益な効果を発揮すること、およびそれらは心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の処置に価値があることが見出された。
【0070】
特に、本発明化合物は、脂肪酸からグルコース/乳酸へ心臓での基質使用を切換えるため、有害な副作用、例えば血圧および/または心拍の変化を生じること無く左心室機能を改善し、また心筋収縮能に直接作用して刺激を加えることもないものであるが、これらは全てカルシウム流入遮断薬から予測されることである。
【0071】
また、驚くべきことに、DPP−IV阻害剤は、特に心筋リモデリングの進行を減速または停止させ、内皮機能を改善し、内皮依存的血管拡張機能を改善し、アテローム性動脈硬化の進行を低減化し、アセチルコリンに対し内皮依存的血管拡張機能を著しく改善し、CHF患者でひどく損なわれていることが知られている血管拡張能力の改善をもたらし、アポトーシスおよび壊死レベルを減少させ得ることが見出された。
【0072】
驚くべきことに、DPP−IV阻害剤は、心筋酸素必要量の増加を伴わずに、左心室機能を改善することが見出された。さらにDPP−IV阻害剤は、心筋収縮能に直接作用して刺激を加えることも、HF患者の死亡率増加と関連している副作用、例えば血圧および/または心拍の変化を生じることもない。
【0073】
また、驚くべきことに、DPP−IV阻害剤は、特に長期投与に関して安全(非毒性)および有用である、例えば副作用が少なく、経口投与時の体内への被吸収性が良好であり、持続作用が長期にわたることが見出された。
【0074】
本発明の方法または使用は、HFの処置に有効なDPP−IV阻害剤の一日用量の患者への長期投与を含む。
【0075】
最も好ましくは、本発明によると、心臓血管疾患または損傷は、心臓肥大、心筋梗塞後の心臓リモデリング、拡張型または肥大型心筋症における肺うっ血および心臓線維症、心筋症、例えば拡張型心筋症または肥大型心筋症または糖尿病性心筋症、左または右心室肥大、糖尿病性ミオパシー、うっ血性心不全における拍動妨害、動脈および/または主幹脈管における肥大型内膜肥厚、腸間膜血管系肥厚またはアテローム性動脈硬化症から選択される。
【0076】
可能性のある他の心臓血管および腎臓疾患または損傷は、糖尿病性黄斑水腫、糖尿病性ニューロパシー、糖尿病性網膜症、心筋梗塞、末梢動脈疾患、炎症促進および酸化促進状態を伴う内皮機能不全、内皮機能不全、再狭窄、下肢虚血、腎症、卒中、糖尿病性腎症または冠動脈心疾患から選択される。
【0077】
さらなる好ましい実施態様では、心臓血管疾患または損傷の予防、進行遅延または処置は、DPP−IV阻害剤の使用による左心室機能の改善に関するものである。
【0078】
最も好ましくは、本発明によると、腎臓疾患または損傷は、例えば門脈腎切除後の腎臓過剰濾過、慢性腎臓病における蛋白尿、高血圧症の結果としての腎動脈症、腎硬化症または高血圧性腎硬化症、糸球体間質肥厚から選択される。
【0079】
さらなる実施態様において、脈管疾患または損傷は、最も好ましくは高血圧または糖尿病に罹患している動物またはヒトにおける、腎臓での血管傷害である。
【0080】
さらなる実施態様において、脈管疾患または損傷は、最も好ましくは高血圧または糖尿病に罹患している動物またはヒトにおける、動脈および/または主幹脈管における肥大型内膜肥厚、腸間膜血管系肥厚またはアテローム性動脈硬化症から選択される。
【0081】
さらなる実施態様において、脈管疾患または損傷は、最も好ましくは高血圧または糖尿病に罹患している動物またはヒトにおける、アテローム性動脈硬化症、好ましくは冠動脈、脳および末梢アテローム性動脈硬化症から選択される。
【0082】
さらなる好ましい実施態様において、心臓血管および腎臓疾患または損傷は、心臓肥大、例えば左心室肥大、肺うっ血または心筋症、例えば拡張型心筋症または肥大型心筋症または糖尿病性心筋症、または糸球体間質肥厚から選択される。
【0083】
さらなる好ましい実施態様において、心臓血管または損傷は、心臓血管系および/または腎臓における肥大または肥大型リモデリングを伴う病気に関するものである。好ましくは、心臓血管系における肥大または肥大型リモデリングを伴う病気は、肥大型心筋症、左心室肥大または動脈および/または主幹脈管における肥大型内膜肥厚から選択される。
【0084】
さらなる実施態様において、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患は、好ましくは高血圧誘導性心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患から選択される。
【0085】
さらなる実施態様において、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患は、好ましくは糖尿病誘導性心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患から選択される。
【0086】
本明細書で使用されている「心不全関連疾患」の語は、限定するわけではないが、心筋収縮能の減少、心室圧、例えば左心室収縮期圧の減少、拡張期コンプライアンスの異常、一回拍出量の縮小、心臓弁および/または筋肉自体の感染(心内膜炎および/または心筋炎)および心拍出量の減少を含む、HFの基本的な一つまたはそれ以上の状態をいい、これらは、他の先行技術化合物の長期投与に一般的に随伴する有害な効果、例えば酸素浪費効果、不整脈、および狭心症の増悪を最小限にするかまたは減じながら処置される。さらに上記で使用されている「酸素浪費効果」は、限定するわけではないが、心室充満圧の増加によるうっ血の症状または徴候、および低心拍出量に随伴する疲労を包含する。
【0087】
本明細書で使用されている「長期投与」は、少なくとも3週間にわたる投与を意味する。
【0088】
本明細書で使用されている「心臓血管疾患または損傷」の語は、心臓および/または血管疾患または心臓および/または血管損傷を包含する。
【0089】
本明細書で使用されている「炎症促進および酸化促進状態を伴う内皮機能不全」の語は、限定するわけではないが、アンギオテンシンIIが深く関与している内皮に対する慢性損傷を意味する。
【0090】
本明細書で使用されている「高血圧誘導性心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患」の語は、高血圧に罹患している動物またはヒトにおける心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患を包含する。高血圧誘導性心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患は、好ましくは眼、腎臓、心臓、全身循環および脳系への脈管損傷である。
【0091】
本明細書で使用されている「糖尿病誘導性心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患」の語は、糖尿病、例えば2型糖尿病、例えば特にアテローム性動脈硬化症(artherosclerosis)、肥大型心筋症、うっ血性心不全における拍動妨害、心不全、左心室肥大または眼、腎臓、心臓、全身循環および脳系に対する血管損傷、例えば好ましくはアテローム性動脈硬化症に罹患している動物またはヒトにおける心臓血管または腎臓疾患または損傷を包含する。
【0092】
心臓、血管または腎臓肥大または肥大型リモデリングは、心臓、動脈、主幹脈管または腎臓の質量の増加を特徴とする。
【0093】
高血圧誘導性心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患。血圧が高い状態である高血圧の患者人口はかなりの数にのぼる。持続的高血圧の結果としては、眼、腎臓、心臓および脳系への脈管損傷が挙げられ、これらの合併症の危険性は血圧増加に伴って増加する。本発明によると、高血圧に関する傷害は、好ましくは高血圧患者における心臓肥大、例えば右または左心室肥大(LVH)、腎臓動脈症、および脈管疾患であるが、これらに限定されるわけではない。
【0094】
内皮機能不全は、血管運動/弾力性が損なわれている状態、前血栓状態、炎症促進状態および/または動脈壁の増殖を特徴とする初期段階の病気である。内皮機能不全の発生はまた、アテローム性動脈硬化および他の心臓血管疾患の病原の一因であり得る幾つかの因子の一つであると予測される。
【0095】
心肥大または心筋細胞肥大は、過剰の圧力負荷が心筋層に加えられたときに、血管壁にかかるストレスを低減化するための心臓の適応プロセスである。レニン−アンギオテンシン系の活性化は、心肥大および心不全の病態生理学において主たる役割を演じると仮定されている。インビボ試験は、アンギオテンシンIIが左心室質量を増加させることから、動脈圧に対するその効果とは関係無く心臓表現型モジュレーションに寄与することを立証している。インビトロ試験によると、アンギオテンシンIIは、心筋細胞肥大を誘発し、間質性線維症をモジュレーションすることが示された。
【0096】
心筋梗塞後の有害な心臓リモデリング:心筋梗塞(MI)による収縮性組織の喪失は、部分的に残存する心筋層の肥大により補われる。大きい壁内梗塞ほど拡大する傾向があり、心室全体が拡張により反応する。残留心筋層の負荷増加への適応には、コラーゲン沈積増加による心筋層の強化が含まれる。このプロセス全体が、心臓のリモデリング(心臓リモデリング)と称され、機構的および体液性因子により制御されると思われる。重要なことに、リモデリングは、梗塞および瘢痕並びに残留心筋層の全体的形態、組織、細胞および分子変化を包含する。進行性拡張には、進行性左心室(LV)機能不全および心臓の電気的不安定性が伴う。急性MI後の患者は、無症候性であるとしても、再発性虚血、不整脈およびリモデリングの危険に瀕している。MI後患者の評価において、リモデリングの危険に瀕している患者を同定し、リモデリングプロセスの中断または遅延を含む二次予防的治療を適用することが重要である。
【0097】
拡張型または肥大型心筋症における肺うっ血および心線維症。肥大型心筋症(HCM)は、若年層における心臓突然死の最も一般的な原因であり、心臓肥大、筋細胞損傷および間質性線維症を特徴とする。
【0098】
うっ血性心不全における拍動妨害。
【0099】
アテローム性動脈硬化症は、頚動脈、大動脈、冠動脈および他の末梢動脈で起こる血管壁の全身疾患である。アテローム動脈硬化プラークの主成分は、(1)コラーゲン、プロテオグリカンおよびフィブロネクチン伸縮性線維を含む、結合組織細胞外マトリックス、(2)細胞、例えば単球由来のマクロファージ、Tリンパ球、および平滑筋細胞、および(3)結晶性コレステロール、コレステリルエステルおよびリン脂質である。アテローム性動脈硬化プロセスの進行中、実質的な血管リモデリングが起こることにより、血管が拡大され、従って同心性または離心性狭窄病変が生じる。
【0100】
ヒトにおけるアテローム性動脈硬化プラークを評価するためのイメージング技術の中で、高分解能の磁気共鳴法(MR)は、プラーク特性確認についての主要なインビボモダリティーとして出現した。
【0101】
左心室肥大(LVH)または高血圧性左心室肥大(LVH)の病因には、機構的、ホルモン的および神経的因子が含まれる。左心室は、その質量および壁の厚さを増すことにより、加えられた負荷の上昇に抵抗する。左心室肥大(LVH)は、罹患率および死亡率についての主要心臓血管危険因子であり、例えば心筋肥大、心不全、高血圧に関連した心不全、および血圧(BP)とは無関係である他の心臓血管合併症をもたらす。LVHの個々の予後は、心臓エコー検査法により測定され得る。
【0102】
腎硬化症または高血圧性腎硬化症は、細胞外マトリックス成分コラーゲンI、III、IV、VおよびVI型およびフィブロネクチンの間隙性蓄積(リモデリング)を特徴とする。これらのマトリックス変化には、皮質間隙における単核細胞の進行性浸潤が伴ったことから、マクロファージおよびTリンパ球が線維発生の一因であることが示唆される。
【0103】
高血圧の結果としての腎動脈症。この病気は、弾性組織崩壊、過栄養平滑筋細胞およびコラーゲン束を特徴とする動脈壁の肥厚をまねく。
【0104】
慢性腎臓病における蛋白尿。糸球体内高血圧は、蛋白尿を増進し、さらにレニン−アンギオテンシン系(RAS)を活性化する。
【0105】
例えば門脈腎切除後の腎臓過剰濾過。腎臓塊の部分切除により、レムナントにおける進行性糸球体傷害のサイクルが開始される。このプロセスは、糸球体肥大、過剰濾過および全身性高血圧と関連している。
【0106】
糖尿病性ネフロパシーは、以下の追加基準が満たされた場合に臨床的に診断され得る病気である、持続的蛋白(アルブミン)尿症(>300mg/24時または200μg/分)を特徴としている:糖尿病性網膜症の存在があり、糖尿病性糸球体硬化症以外の腎臓または尿管疾患の臨床的または実験的証拠は無い。糖尿病性ネフロパシーは、西側諸国における末期腎不全の最も一般的な原因である。
【0107】
糖尿病性網膜症(DR)および糖尿病性黄斑水腫(DME)は、糖尿病患者にはよく見られる脈管合併症であり、最終的には失明に至る、視力(VA)に対する突然かつ消耗的影響を有し得る。DRの進行段階は、虚血に続発する異常な網膜血管の増大を特徴としている。これらの血管は、低酸素網膜へ酸素をもたらす血液を供給しようとして増大する。DRの進行中におけるいずれの時点でも、糖尿病患者はまた、黄斑領域における網膜肥厚を伴うDMEを発症し得る。DMEは、拡張過透過性毛細管の漏出および微細動脈瘤により血液−網膜関門の破壊後に生じる。
【0108】
糖尿病性ニューロパシーは、末梢神経における形態学的および代謝的変化をもたらすあまり解明されていない糖尿病脈管合併症である。
【0109】
本明細書において、「処置」の語は、病気に罹る危険に瀕しているかまたは罹患している疑いがある患者および不調の患者の処置を含む、防止的または予防的処置並びに治療的または発病抑制処置の両方を包含する。さらにこの語は、病気の進行の遅延を目的とする処置を包含する。
【0110】
本明細書で使用されている「治療的」の語は、進行中の心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の処置において有効であることを意味する。
【0111】
「予防的」の語は、急迫した健康上の問題が無い患者へ組合わせ剤を防止的に投与することにより、本明細書で挙げた状態の急な発症を防止することを意味する。さらに、「予防」の語は、処置されるべき状態の前段階にある患者への上記組合わせ剤の防止的投与を意味する。
【0112】
「防止的」の語は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の兆候または再発の予防を意味する。
【0113】
本明細書で使用されている「進行の遅延」の語は、処置されるべき病気の前段階または早期にある患者であって、例えば対応する病気の前形態であると診断されている患者または例えば医学的処置中の状態または対応する病気が発現すると思われる偶発症候から生じる状態にある患者への活性化合物の投与を意味する。
【0114】
さらなる実施態様では、他の先行技術化合物の長期投与に一般的に関連する有害な影響、例えば酸素浪費効果、不整脈、および狭心症の増悪を最小限にするか、弱めるか、または低減化させながら、限定するわけではないが、心筋収縮能の減少、拡張期コンプライアンスの異常、一回拍出量の縮小、心臓弁および/または筋肉自体の感染(心内膜炎および/または心筋炎)および心拍出量の減少を含む、HFの根底にある状態を処置する用量のDPP−IV阻害剤を投与することが本発明の目的である。好ましくは、DPP−IV阻害剤の用量は、他の先行技術化合物の長期投与に一般的に関連する有害な作用が排除される量である。
【0115】
最も好ましくは、処置されるべきHF状態は、特発性拡張型心筋症(IDCM)および/または冠動脈虚血疾患(冠動脈疾患CAD)に続発する。
【0116】
最も好ましくは、HF状態は、糖尿病、例えば2型糖尿病に伴う心不全または高血圧に伴う心不全である。
【0117】
最も好ましくは、本発明は、真性糖尿病、2型糖尿病または高血圧に罹患したヒト対象における心不全または心不全関連疾患の処置または予防に関するものである。
【0118】
本発明のさらなる態様は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置を目的とする医薬組成物の製造についての、有効成分としてDPP−IV(阻害剤)の遊離形態またはその医薬上許容される塩形態を含む医薬組成物の使用である。
【0119】
本発明はまた、有効成分としてDPP−IV阻害剤の遊離形態またはその医薬上許容される塩形態を含む医薬組成物に関するものである。
【0120】
本発明の別の態様は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置を目的とする医薬組成物の製造についての、有効成分としてDPP−IV(阻害剤)の遊離形態またはその医薬上許容される塩形態を含む医薬組成物の使用である。
【0121】
本発明はまた、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置方法であって、処置等を必要とするヒトを含む温血動物に、有効成分としてDPP−IV阻害剤の遊離形態またはその医薬上許容される塩形態を含む医薬組成物の治療有効量を連係的に投与することから成る方法に関するものである。
【0122】
本発明による医薬組成物は、自体公知の方法で製造され得、単独で、または特に経腸または非経腸適用に適切な1種またはそれ以上の医薬上許容される担体と組合わせて医薬活性化合物の治療有効量を含む、ヒトを含む哺乳類(温血動物)への経腸、例えば経口または経直腸、および非経腸投与に適切なものである。
【0123】
これらの医薬製剤は、恒温動物への経腸、例えば経口、および経直腸または非経腸投与用であり、薬理学的活性化合物を単独で、または常用医薬補助物質と一緒に含む製剤である。例えば、医薬製剤は、約0.1%〜90%、好ましくは約1%〜約80%の割合で活性化合物を含む。経腸または非経腸用、および眼投与用医薬製剤は、例えば単位用量形態、例えばコーティング錠剤、錠剤、カプセル剤または坐剤およびアンプルである。これらは、自体公知の方法で、例えば慣用的混合、造粒、コーティング、可溶化または凍結乾燥工程を用いて製造される。すなわち、経口用医薬製剤は、活性化合物を固体賦形剤と合わせ、所望ならば得られた混合物を粒状化し、そして要求されたかまたは必要ならば、適切な補助物質を加えた後、混合物または顆粒を錠剤またはコーティング錠剤コアへ加工処理することにより得られる。
【0124】
活性化合物の投薬量は、様々な因子、例えば投与方法、恒温動物種、年齢および/または個々の状態により異なり得る。
【0125】
心不全疾患の分野では、好ましい患者集団年齢は50歳以上であり、最も好ましくは65歳以上である。
【0126】
本発明による使用または方法に好ましい患者は、高血圧または糖尿病に罹患している患者または動物である。
【0127】
市販されている本発明による医薬組合わせ剤の有効成分についての好ましい投薬量は、特に治療上有効な市販投薬量である。
【0128】
活性化合物の投薬量は、様々な因子、例えば投与方法、恒温動物種、年齢および/または個々の状態により異なり得る。
【0129】
対応する有効成分またはその医薬上許容される塩はまた、水和物の形態で使用されるかまたは結晶化に使用される他の溶媒を含み得る。
【0130】
これらの適応症について、正確な投薬量は、勿論、使用されている化合物、投与方法および所望の処置により異なる。化合物は、非経口または好ましくは経口による慣用的経路により投与され得る。
【0131】
一般に、満足すべき結果は、約0.01〜100mg/kgの一日用量で投与されたときに得られ、さらに好ましい用量は0.1〜50mg/kgの範囲である。
【0132】
大型哺乳類の場合、指示合計一日用量は、化合物約0.01〜100mg/kgの範囲であり、好都合には持続放出形態で例えば約10〜約100mgの化合物を含む単位用量で一日2〜4回の分割用量で投与される。
【0133】
別の好ましい一日経口用量は、1〜500mg、好ましくは10〜100mg、例えば10mg、最も好ましくは25〜100mgまたは25〜50mg、例えば25mgまたは40または50または70または100mgである。
【0134】
経口投与に適切な単位用量は、例えば約10〜約100mgの化合物を含有する。非経腸投与に適切な用量は、例えば約10〜約50mgまたは25〜約100mgの化合物、例えば25mg、50mg、75mgまたは100mgを含有する。
【0135】
化合物は、これらの用途で使用される既知標準と類似した形で投与され得る。特定化合物に適切な一日用量は、若干の因子、例えばその相対活性効力により異なる。当業者であれば、十分に治療有効用量を決定できるはずである。
【0136】
本発明化合物は、遊離塩基で、または医薬上許容される酸付加塩または第四級アンモニウム塩として投与され得る。上記塩類は、慣用的方法で製造され、遊離形態と同程度の活性を呈し得る。これらの化合物が例えば少なくとも1個の塩基性中心を有する場合、それらは酸付加塩を形成し得る。対応する酸付加塩はまた、所望ならば、さらに塩基中心が存在する形で形成され得る。酸性基(例えばCOOH)を有する化合物はまた、塩基との塩を形成し得る。例えば、組合わされる化合物は、ナトリウム塩、マレイン酸塩または二塩酸塩として存在し得る。有効成分またはその医薬上許容される塩はまた、水和物形態で使用されるかまたは結晶化に使用される他の溶媒を含み得る。
【0137】
本発明による医薬組成物は、自体公知の方法で製造され得、単独で、または特に経腸または非経腸適用に適切な1種またはそれ以上の医薬上許容される担体と組合わせて、薬理学的活性化合物の治療有効量を含有する、ヒトを含む哺乳類(温血動物)への経腸、例えば経口または経直腸、および非経腸投与に適切なものである。
【0138】
さらに、出願人は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の処置を改良する特定摂取法を発見した。驚くべきことに、DPP−IV阻害剤が、食事と連係的に、好ましくは食事の直前または開始時、所望により食事中または直後に摂取された場合、この本発明による食事連係摂取法により、特に糖尿病、例えば2型糖尿病または高血圧患者において心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患が予想外に低減化されることがわかった。
【0139】
本発明による食事連係摂取法は、特に、糖尿病、特に2型糖尿病患者においてアテローム性動脈硬化の予想外の低減化をまねく。
【0140】
すなわちさらなる態様において、本発明は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置を目的とする医薬の製造についての、DPP−IV阻害剤、好ましくは式(I)で示される(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン(LAF237)またはその医薬上許容される塩の使用に関するものであり、この場合DPP−IV阻害剤は食事と連係して投与される。
【0141】
さらに本発明は、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の予防、進行の遅延または処置方法であって、処置等を必要とする温血動物、例えばヒトに治療有効量のDPP−IV阻害剤、好ましくは式(I)で示される(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン(LAF237)を投与することからなり、DPP−IV阻害剤の投与が食事に連係している方法に関するものである。
【0142】
本発明は、糖尿病、特に2型糖尿病患者の処置、最も好ましくはアテローム性動脈硬化の処置または予防についての上記使用または方法に関するものである。
【0143】
本発明は、糖尿病、特に2型糖尿病または高血圧症患者の処置、最も好ましくは心不全または心不全関連疾患の処置または予防についての上記使用または方法に関するものである。
【0144】
本発明は、糖尿病、特に2型糖尿病患者の処置、最も好ましくは糖尿病性黄斑水腫、糖尿病性ニューロパシー、糖尿病性網膜症、心筋梗塞、炎症促進および酸化促進状態を伴う内皮機能不全、内皮機能不全、再狭窄、腎症、卒中、糖尿病性腎症または冠動脈心疾患の処置または予防についての上記使用または方法に関するものである。
【0145】
本明細書で使用されている「食事」の語は、朝食、昼食、夕食または夜食を意味するものとする。
【0146】
本明細書で「食事連係(の)」という表現がDPP−IV阻害剤の投与と関連して使用されているとき、それは、好ましくはDPP−IV阻害剤が食事の直前または開始時に投与されることを示す。しかしながら、投与はまた、本発明の根底にある概念から逸脱することなく、明らかに食事中または直後にも行われ得る。すなわち、「食事連係(の)」という表現は、好ましくは食事開始の約30分、好ましくは10分前から食事終了の約10分後、さらに好ましくは食事開始の5分前から食事終了まで、最も好ましくは食事開始時を意味する。
【0147】
本発明に従って使用されるDPP−IV阻害剤が属するクラスの代表なものの投与により発揮される医薬活性は、例えば当業界で公知の対応する薬理学的モデルを使用することにより立証され得る。当業者であれば、関連性のある動物試験モデルを選択することにより、本明細書の前記および後記で示されている治療適応症および有益な効果を証明することができるはずである。
【0148】
心臓血管または腎臓疾患における本発明化合物および組成物の薬理学的活性を証明するための実験プロトコールを、決して限定するわけではないが、以下に記載する(以前の頁も参照):
・DPP−IV阻害剤の特に糖尿病における心臓血管に有益な効果の評価は、例えばNawano et al.、Metabolism 48:1248−1255、1999の発表に記載されているZucker 脂肪過多ラットモデルを用いて実施され得る。また、糖尿病性自然発症高血圧ラットを用いた試験についても、Sato et al.、Metabolism 45:457−462、1996の発表に記載されている。さらに、ラットモデル、例えば Cohen-Rosenthal 糖尿病性高血圧ラット(Rosenthal et al.、Hypertension、1997;29:1260−1264)もまた、血圧および心臓血管疾患に対するDPP−IV阻害剤の効果の同時評価に使用され得る。
・特に左心室肥大における心臓血管に有益な効果の評価は、Gaudio C. およびその同僚、“Comparative effects of irbesartan versus amlodipine on left ventricular mass index in hypertensive patients with left ventricular hypertrophy”、J Cardiovasc Pharmacol.2003年11月;42(5):622−8により記載された要領で評価され得る。
・DPP−IV阻害剤のアテローム性動脈硬化に対する有益な効果の評価は、例えば Prescott MF およびその同僚、“Effect of matrix metalloproteinase inhibition on progression of atherosclerosis and aneurysm in LDL receptor-deficient mice overexpressing MMP-3, MMP-12, and MMP-13 and on restenosis in rats after balloon injury”、Ann N Y Acad Sci. 1999年6月30日;878:179−90の発表に記載されているプロトコールを用いて実施され得る。
・DPP−IV阻害剤の左心室肥大に対する有益な効果の評価は、例えばArnfried U およびその同僚、“A meta-analysis of the effects of treatment on left ventricular mass in essential hypertension”、Am J Med.2003年7月;115(1):41−6の発表に記載されたプロトコールを用いて実施され得る。
【0149】
心不全および心不全関連疾患における本発明化合物および組成物の薬理学的活性を証明するための実験プロトコールを、決して限定するわけではないが、以下に記載する(以前の頁も参照):
・本発明によるDPP−IV阻害剤が心不全の処置に使用され得ることを評価するためには、例えば、Smith HJ、Nuttall A: Experimental models of heart failure、Cardiovasc Res 1985、19、181−186により開示された方法が適用され得る。分子アプローチ、例えばトランスジェニック方法もまた、例えば Luft et al.:Hypertension-induced end-organ damage“A new transgenic approach for an old problem”、Hypertension 1999、33、212−218により記載されている。また、Doggrell SA および Brown L(Cardiovasc Res 1998、39:89−105)により報告された高血圧および心不全のラットモデルは、DPP−IV阻害剤の薬理学的評価に使用され得る。単独または組合わせた形での薬剤の特に糖尿病における心臓血管に有益な効果の評価は、例えばNawano et al.、Metabolism 48:1248−1255、1999の発表で記載されているZucker 脂肪過多ラットモデルを用いて実施され得る。
・追加的実験プロトコールは、米国特許第6087360号(心不全モデルとして養殖ブタを使用)および同20030045469号に記載されている。
・有用な心不全臨床試験については、Stephan Schmidt-Schweda および Christian Holubarsch(慢性うっ血性心不全患者におけるエトモキシルによる初回臨床試験;Clinical Science(2000)99、27−35)により報告されている。
・他の臨床試験は、Jay N.Cohn,M.D.および Gianni Tognoni,M.D.(第345巻:1667−1675、2001年12月6日−ナンバー23 A Randomized Trial of the Angiotensin-Receptor Blocker Valsartan in Chronic Heart Failure)および米国特許第5998458号(実施例1)に記載されている。
【0150】
コード番号、一般名または商標名により識別される有効成分の構造は、標準総目録“The Merck Index”の現行版またはデータベース、例えばパテンツ・インターナショナル(例、IMS ワールド・パブリケーションズ)から入手され得る。その対応する内容については、出典明示により本明細書の一部とする。当業者であれば、十分に有効成分を同定することができるはずであり、またこれらの参考文献に基いて、同様に、それらを製造し、インビトロおよびインビボの両方で、標準試験モデルにおいて医薬適応症および特性を試験することが可能なはずである。
【0151】
薬理学的活性は、例えば、臨床試験または当業者に公知の方法で本質的に後述されている試験手順により立証され得る。
【0152】
本発明の使用および方法に好ましいDPP−IV阻害剤は、1−{2−[(5−シアノピリジン−2−イル)アミノ]エチルアミノ}アセチル−2(S)−シアノ−ピロリジン二塩酸塩(DPP728)、特にその二塩酸塩、(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン(LAF237)、およびL−トレオ−イソロイシルチアゾリジン(プロビオドラッグ社による化合物コード:上記P32/98)、MK−0431、GSK23A、BMS−477118、3−(アミノメチル)−2−イソブチル−1−オキソ−4−フェニル−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリンカルボキサミドおよび2−{[3−(アミノメチル)−2−イソブチル−4−フェニル−1−オキソ−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリル]オキシ}アセトアミドおよび所望によりそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩である。
【0153】
実験の部
DPP−IV阻害剤を用いて、以下の実施例を実施することにより、主張された活性が立証され得る。
【実施例】
【0154】
実施例1:
動物:48匹の8週齢雄スプラーグ−ドーリーラットに、エンフルラン(アボット・オーストララシア、カーナル、NSW、オーストラリア国)で麻酔をかけ、浸透圧ミニポンプ(アルゼットモデル2002、アルゼット・コーポレーション、パロアルト)を肩甲骨間領域に挿入する。以前に報告された要領(Cao Z ら、Kidney Int 58:2437−2451、2000)で、ラットを無作為化して、アンギオテンシンII(58ng/分)を使用または使用せずにミニポンプに満たした賦形剤(0.15MのNaCl、1mmol/lの酢酸)を与える。次いで、動物をさらに無作為化して、全く処置を施さないかまたは毎日の胃管栄養法により60mg/kgの用量でDPP−IV阻害剤を与え、12日後に殺す。ラットには無制限に水および標準ラット飼料を与える。以前の報告(Bunag RD;Journal of Applied Physiology 34:279−282、1973)に従って、予温非麻酔動物における間接的非観血式(テイルカフ)体積変動記録法により、収縮期血圧(SBP)を測定する。動物16匹から成る各群において、8匹を組織学的試験に使用し、8匹を遺伝子発現解析に使用する。後者の群では、以前に報告された要領(Rumble J et al.;J Hypertension 14:601−607、1996)に従って、断頭により動物を殺した後、腸間膜血管を摘出し、周囲の脂肪、結合組織および静脈を取り除くことにより、上方腸間膜動脈枝を得る。血管を秤量し、液体窒素で瞬間冷凍し、それに続いて−80℃で貯蔵する。
【0155】
組織化学および免疫組織化学:血管構造の組織学的試験を動物のサブセット(n=8/群)で実施する。このサブグループにおける動物に、ペントバルビタールナトリウム(ネンブタール、ボマック・ラボラトリーズ、アスキス、オーストラリア国)で麻酔をかけ、大動脈内カニューレを介して、10%中性緩衝ホルマリンによる動脈圧で血管を灌流する。次いで、以前の報告(Cooper MEら;Diabetes 43:1221−1228、1994)に従って、組織を調製する。簡単に述べると、脂肪、結合組織および静脈が短い太針により切開除去されている腸間膜血管を、氷冷リン酸緩衝液中に入れる。次いで、得られた血管標本を、パラフィンに埋封する。次いで、切片を組織化学的または免疫組織化学的に染色する。組織化学的染色では、ヘマトキシリンおよびエオシンまたはマッソントリクローム(Masson P;J Tech Methods 2:75−90、1929)を使用することにより、細胞外マトリックスを調べる。ポリクローナルα−平滑筋アクチン抗体(バイオジーンズ、サンレーモン、カリフォルニア)を用いて、平滑筋を免疫染色し、以前に報告された(Rumble JR et al.;J Clin Invest 99:1016−1027、1997)間接的アビジン−ビオチン複合体方法を用いて、免疫組織化学試験を実施する。
【0156】
組織変化の定量:中膜が占める血管壁の比率は、α−平滑筋アクチンについて免疫標識することにより確認され、壁:管腔の比率は、撮影付属部品(アキシオフォト、ツァイス、オベルコッケン、ドイツ国)を備えた光学顕微鏡(ツァイス、オベルコッケン、ドイツ国)と連結させた、ビデオ−イメージングシステム(ビデオ・プロ32、リーディング・エッジ、ベッドフォードパーク、サウス・オーストラリア、オーストラリア国)を用いて定量される。この装置を用いて、他の血管肥厚モデルにおいて以前に報告された要領(Kakinuma Y ら;Kidney Int 42:46−55、1992)で、中膜(抗アクチン抗体で染色された領域)および対応する管腔領域を、一動物当たり20個(10〜35個の範囲)の血管の中央値で測定し、壁:管腔比として表す。
【0157】
以前に報告された(Lehr HAら、J Histochem Cytochem 45:1559−1565、1997)コンピューター支援画像解析を用いて、ECMが占める領域の比率を計算することにより、ECMの定量をトリクローム染色切片で実施する。簡単に述べると、マトリックス(トリクローム染色切片における青色)、中膜平滑筋(トリクローム染色切片における赤色)についての着色範囲を選択し、色素原分離技術(Lehr HAら)を用いて画像解析を実施する。切片全体を光学顕微鏡(オリンパスBX−50、オリンパス・オプティカル、東京、日本国)により検査し、高解像カメラ(Fujix HC−2000、フジフィルム、東京、日本国)を用いてデジタル化する。20倍対物レンズを用いて全画像を得る。次いで、デジタル化された画像を、ビルトイン式グラフィックボードを備えたパワー・マッキントッシュG3コンピューター(アップル・コンピューター・インコーポレイテッド、クペルチノ、カリフォルニア)でとらえ、解析ソフトウェア(アナリティカル・イメージング・ソフトウェア、オンタリオ)を用いて評価する。
【0158】
統計:特記しない場合、データは全て平均±標準偏差として示されている。マッキントッシュG3でStatView IVプログラム(ブレインパワー、カラバサス、カリフォルニア)を用いた分散分析(ANOVA)によりデータを分析する。フィッシャー最小有意差法により、群平均間の比較を実施する。0.05未満のp値は統計的に有意であると見なす。
【0159】
結果:
動物データ:アンギオテンシンII注入は、賦形剤処置動物の場合と比べて収縮期圧(SBP)の増加をもたらす(141±2mmHg対202±7mmHg、賦形剤対アンギオテンシンII、p<0.001)。腸間膜血管重量もまた、アンギオテンシンII注入ラット(52mg、p<0.001)では、賦形剤(32mg、p<0.001)を投与された対照動物と比べて増加している。DPP−IV阻害剤は、収縮期圧に対してあまり効果を示さないが(205±10mmHg)、アンギオテンシンIIを投与された動物(42mg、p<0.001)での腸間膜重量を顕著に低下させる。
【0160】
組織学および免疫組織化学:組織形態計測分析は、アンギオテンシンII注入ラットでは中膜壁:管腔比の顕著な増加を表す(賦形剤注入ラット>0.39;アンギオテンシンII注入ラット>0.52、p<0.001)。DPP−IV阻害剤での処置により、例えば両群における壁:管腔比が対照動物における場合に近づくレベルまで著しく低減化され得る。トリクローム染色片は、アンギオテンシンIIが注入された動物の腸間膜血管における中膜肥厚およびコラーゲン性ECMの拡大の両方を立証している。この経験は、DPP−IV阻害剤処置がアンギオテンシンII注入動物における中膜肥厚およびECM拡大の範囲を低減化させ得ることを示す。
【0161】
実施例2:ネフロパシー:非インスリン依存性(NIDD)糖尿病ラット(ウィスター脂肪過多ラット)における抗蛋白尿作用[H.Ikeda et al.、Diabetes 30、1045(1981)または巣状糸球体硬化症モデルによる;T.W.MeyerおよびH.G.Renake、Am.J.Physiol.254、F856(1988)または国際公開第01/64200号に記載されたプロトコール]
【0162】
特性の範囲が予知し得ないことは、DPP−IV阻害剤が、本明細書で記載している病気、特に心臓血管系および/または腎臓における肥大または肥大型リモデリング、および本明細書に記載されている関連疾患の処置を目的とする医薬の製造に関して特に興味深いものであることを意味する。
【0163】
この効果は、特に高血圧に関する傷害、例えば本明細書に記載されたものに罹患している患者に関して臨床的に関連性を有し得る。
【0164】
実験3:心臓肥大に対する効果
材料および方法:体重100〜120gのケージに閉じ込めた雄ウィスターラットを使用する:21±10℃の温度および50±15%湿度で、12/12時間の明/暗サイクルおよび15〜20換気/時により1ケージ当たり5匹(ケージサイズ:425mm×266mm×180mm、おが屑を敷く)。動物には、LP ALTROMIN(REIPER)飼料および湧き水を自由に与える。
【0165】
心臓肥大の誘導:ネンブタールナトリウムによる麻酔をかけたラットにおいて、横隔膜および腎枝間の腹大動脈に設置したクリップ(φ0.8mm)による腹大動脈緊縛により、左心室肥大を誘導する。次いで、一動物群を対照群として使用し、同じ操作を行うが、大動脈の緊縛は行わない(擬似)。
【0166】
かくして動物を無作為に以下の群に割当てる:
擬似:大動脈を緊縛せずに実施(n=8)
対照:大動脈を緊縛して実施(n=8)
CLO:大動脈を緊縛して実施し、飼料中に含ませたDPP−IV阻害剤(60〜100mg/kg/日(n=11))による実施の翌日から12週間処置する。
【0167】
心機能の評価:処置の最後に、頚動脈を介して左心室に挿入し、圧力変換器(Statham p23XL)および増幅器(ビオメディカ・マンゴーニbm61)に連結させたポリエチレンカテーテル手段により、ネンブタールナトリウムで麻酔した動物において、心機能を評価する。
【0168】
記録すべきパラメーターは以下の通りである:心拍、心室収縮期圧および最終拡張期圧、および特殊データ獲得システム(IDAS)手段によりパソコンで記録される、心室圧の正および負の瞬間変化率。30分間かけて測定結果をとる。
【0169】
顕微鏡評価:実験の最後に、致死量のネンブタールにより動物を殺し、腹腔を切開し、臓器を外部に出すことにより、大動脈クリップの正確な位置を確認し、次いで心臓、肺および肝臓を取出し、注意深く乾燥し、異常に関する顕微鏡観察後に秤量する。
【0170】
統計分析:データを平均±標準偏差として表し、独立データについてのスチューデントt検定を用いて比較する。P<0.05である差異は、統計的に有意であるとみなした。
【0171】
結果
重量パラメーター:実験の最後に測定された重量パラメーターを評価する。動物の体重は、大動脈緊縛の結果または処置の結果として著しく変わることはない。大動脈緊縛は、顕著な心室肥大を誘導する。事実、クリップでとめた動物の心臓重量は、擬似の場合と比べて約35%増加している(P<0.05)。施した処置が、未処置対照の場合と比べて心臓重量を根本的に変えることはない。肝臓および肺の重量が、大動脈緊縛の結果または施した処置の結果として変化を被ることはない。
【0172】
心機能:大動脈緊縛は、左心室収縮期圧および最終拡張期圧の両方に著しい増加をもたらす。発生した圧力、および心室圧の正および負の瞬間変化率が、擬似の場合と比べて大動脈緊縛動物において絶対値の統計的に有意な変化を示すことはない。
【0173】
発生した圧力を心室重量について正規化した場合、大動脈緊縛動物ではこのパラメーターにおける統計的に有意な低下が観察され得る。同様に、それを心室収縮期圧について正規化した場合、心室圧の正の瞬間変化率は著しく低減化され得る。
【0174】
大動脈緊縛動物を処置することにより、最終拡張期圧、および心室重量に対して発生した圧力を正規化したところ、心室圧の正および負の瞬間変化率が両方とも著しく改善していた。
【0175】
DPP−IV阻害剤で処置すると、大動脈緊縛動物において例えば左心室収縮期圧のさらなる増加が誘導され、最終拡張期圧が正規化され得る。
【0176】
心室重量に対して発生した圧力、および心室圧の正および負の瞬間変化率は両方とも、DPP−IV阻害剤での処置により著しく改善され得る。
【0177】
実験4。内皮機能(心不全)に対する効果
この実施例は、生まれて最初の1年間に複雑なアテローム性動脈硬化病変を発症することが知られている、ワタナベウサギにおける内皮機能に対する本発明処置の効果を測定するために実施される試験について記載している。以前に述べたところによると、内皮機能不全は、HFの病態生理に関連している。
【0178】
ウサギについては7〜8ヶ月齢で試験を開始し、無作為に3群に分ける:基準測定用に直ちに殺される第一群、DPP−IV阻害剤を投与される第二群(n=10)、およびプラセボから成る擬似処置を施される第三群(n=10)(対照動物)。
【0179】
この処置では、10週間の期間にわたってDPP−IV阻害剤の毎日投与を行う。
【0180】
全動物を11ヶ月齢で殺す。輪状標本を動物の腸骨動脈から取出し、フェニレフリン(血管収縮剤)で処置した後アセチルコリン(内皮依存的血管拡張剤)により誘導される緊張低下の量について評価する。
【0181】
輪状標本の評価は、対照動物の場合と比べて、例えば、処置動物における内皮による血管緊張低下が著しく増大していることを示す。
【0182】
内皮を輪状標本から除去したとき、緊張低下は全く観察されないことから、本発明処置の内皮特異効果がさらに確認される。DPP−IV阻害剤は、衰えていた内皮依存的緊張低下を回復させることができる。
【0183】
以上、本発明について、好ましい実施態様を用いて説明したが、当業者であれば、請求の範囲内で多くの追加、省略および修正が全て加えられ得ることは容易に理解できるはずである。
【0184】
本明細書で引用されている特許および参考文献は全て、出典明示により本明細書の一部とする。矛盾する場合は、定義および解釈を含め、本明細書を優先する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の予防、進行遅延または処置方法であって、処置を必要とする温血動物、例えばヒトに治療有効量のDPP−IV阻害剤を投与することを含む方法。
【請求項2】
DPP−IV阻害剤が、1−{2−[(5−シアノピリジン−2−イル)アミノ]エチルアミノ}アセチル−2(S)−シアノ−ピロリジン二塩酸塩、(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン、L−トレオ−イソロイシルチアゾリジン(P32/98)、MK−0431、GSK23A、BMS−477118、3−(アミノメチル)−2−イソブチル−1−オキソ−4−フェニル−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリンカルボキサミドおよび2−{[3−(アミノメチル)−2−イソブチル−4−フェニル−1−オキソ−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリル]オキシ}アセトアミドまたはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
DPP−IV阻害剤が、(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン、またはその医薬上許容される塩である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の予防、進行遅延または処置を目的とする医薬の製造におけるDPP−IV阻害剤またはその医薬上許容される塩の使用。
【請求項5】
DPP−IV阻害剤が食事に連係して投与される、心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の予防、進行遅延または処置を目的とする医薬の製造におけるDPP−IV阻害剤またはその医薬上許容される塩の使用。
【請求項6】
DPP−IV阻害剤が、1−{2−[(5−シアノピリジン−2−イル)アミノ]エチルアミノ}アセチル−2(S)−シアノ−ピロリジン二塩酸塩、(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン、L−トレオ−イソロイシルチアゾリジン(P32/98)、MK−0431、GSK23A、BMS−477118、3−(アミノメチル)−2−イソブチル−1−オキソ−4−フェニル−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリンカルボキサミドおよび2−{[3−(アミノメチル)−2−イソブチル−4−フェニル−1−オキソ−1,2−ジヒドロ−6−イソキノリル]オキシ}アセトアミドまたはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩から選択される、請求項4または5記載の使用。
【請求項7】
DPP−IV阻害剤が、(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジン、またはその医薬上許容される塩である、請求項4または請求項5記載の使用。
【請求項8】
心臓血管疾患または損傷が、心臓肥大、心筋梗塞後の心臓リモデリング、拡張型または肥大型心筋症における肺うっ血および心臓線維症、心筋症、例えば拡張型心筋症または肥大型心筋症または糖尿病性心筋症、左または右心室肥大、糖尿病性ミオパシー、うっ血性心不全における卒中予防、動脈および/または主幹脈管における肥大型内膜肥厚、腸間膜血管系肥厚またはアテローム性動脈硬化症から選択される、請求項4〜7のいずれか1項記載の使用、または請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
腎臓疾患または損傷が、例えば門脈腎切除後の腎臓過剰濾過、慢性腎臓病における蛋白尿、高血圧症の結果としての腎動脈症、腎硬化症、高血圧性腎硬化症または糸球体間質肥厚から選択される、請求項4〜7のいずれか1項記載の使用、または請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
心臓血管および腎臓疾患または損傷が、心臓肥大、例えば左心室肥大、肺うっ血または心筋症、例えば拡張型心筋症または肥大型心筋症、または糸球体間質肥厚から選択される、請求項4〜7のいずれか1項記載の使用、または請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
血管疾患または損傷が、高血圧症または糖尿病に罹患している動物またはヒトにおける、動脈および/または主幹脈管における肥大型内膜肥厚、腸管膜血管系肥厚またはアテローム性動脈硬化症から選択される、請求項4〜7のいずれか1項記載の使用、または請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
血管疾患または損傷がアテローム性動脈硬化症である、請求項11記載の使用または方法。
【請求項13】
左心室機能を改善するための請求項4〜7のいずれか1項記載の使用、または請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
心不全、または心不全関連疾患の処置についての、請求項4〜7のいずれか1項記載の使用、または請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
処置されるべき心不全状態が、特発性拡張型心筋症および/または冠動脈虚血疾患に続発的なものである、請求項4〜7のいずれか1項記載の使用、または請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
処置される患者または動物が高血圧症または糖尿病に罹患している、上記請求項のいずれか1項記載の使用または方法。
【請求項17】
有効成分、好ましくは(S)−1−[(3−ヒドロキシ−1−アダマンチル)アミノ]アセチル−2−シアノ−ピロリジンの一日経口用量が、1〜100mgの間、好ましくは25〜100mgの間である、上記請求項のいずれか1項記載の使用または方法。
【請求項18】
心臓血管疾患または損傷、腎臓疾患または損傷、心不全、または心不全関連疾患の処置を目的とする、1種またはそれ以上の医薬上許容される担体と組合わせてDPP−IV阻害剤の治療有効量を含む医薬組成物。

【公開番号】特開2012−211146(P2012−211146A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−123284(P2012−123284)
【出願日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【分割の表示】特願2006−538825(P2006−538825)の分割
【原出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】