説明

ジペプチドを有効成分として含有する組成物

【課題】糖尿病または血糖値上昇の予防または治療、グリコーゲン貯蔵促進、または、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上もしくは疲労回復のいずれか少なくとも1つに効果を有する組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、糖取り込み促進作用を有するペプチドを有効成分として含有し、糖取り込み促進に用いられる組成物、または、ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドを有効成分として含有する組成物に関する。これらの組成物は、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療、グリコーゲン貯蔵促進、または、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上もしくは疲労回復の効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドを有効成分として含有する組成物に関する。また、本発明は、前記組成物を含有する食品又は医薬組成物に関する。さらに、本発明は、前記組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、インシュリンの作用不足に基づく高血糖状態の持続を特徴とする代謝疾患群の総称である。糖尿病は、インシュリン感受性低下とインシュリン分泌低下があらゆる程度で組み合わさることによって引き起こされ、糖、脂質、蛋白代謝に特徴的な異常が生じる。最近では、糖尿病は、生活習慣病の一つといわれ、適切な対応により改善が期待される疾患であるとされている。しかしながら、糖尿病が重度になると、神経障害、網膜症あるいは腎症など合併症が生じ、日常生活における動作を著しく低下させてしまうことがある。
【0003】
糖尿病はインシュリン依存型(IDDM)とインシュリン非依存型(NIDDM)に大別される。インシュリン依存型は、ウィルスなどが原因とされる自己免疫機序によって膵臓β細胞が壊死、あるいは機能停止することにより、インシュリンを合成、分泌できないタイプである。またインシュリン非依存型は、加齢やストレスなどの不明確かつ多様な要因により生ずるインシュリン分泌不足や、インシュリン抵抗性に起因して、高血糖を示すタイプである。糖尿病患者の約90%がインシュリン非依存型に含まれる。
【0004】
インシュリン非依存型の軽症、または中等度の患者における治療には、主に食事療法と運動療法が採用されている。例えば、食事のカロリー制限、運動による糖の代謝促進などによって血糖値の安定が図られている。糖尿病の予防、または悪化防止の観点から、食事療法のさらなる充実、すなわち、糖尿病を予防し、または悪化を防止することのできる食品が望まれている。
【0005】
また、食事後の血糖値の急な上昇とその継続(食後過血糖)が長年にわたって続くと、いずれは耐糖能異常に繋がり、糖尿病が悪化する恐れがある。糖尿病の悪化に伴って血管障害が促進され、神経症、腎症、網膜症、さらには心筋梗塞、脳卒中などの合併症の発症に繋がる危険性を有している。食後過血糖の抑制は、インシュリン非依存型糖尿病の治療に効果があるとされ、糖吸収抑制薬としてα−グルコシダーゼ阻害薬、インシュリン分泌促進薬としてスルホニルウレア剤などの医療用医薬品が利用されている。このような状況において、医薬品分野においても、糖尿病を予防し、または悪化を防止することのできる医薬品が望まれている。
【0006】
血糖値の上昇を抑制することのできる生体物質として、インシュリンがある。インシュリンは、例えば、肝臓における糖代謝を促進し、筋肉細胞や脂肪細胞における糖取り込みの亢進を引き起こすことによって血糖値を降下させる、生体内での唯一のホルモンである。筋肉や脂肪細胞に取り込まれた糖は、グリコーゲンへと代謝され組織内に貯蔵される。筋肉や脂肪細胞でのインシュリンの作用機序の一つとして、細胞内プールに存在する糖輸送担体タイプ4(GLUT4)の細胞膜上へのトランスロケート(動員)が挙げられる。インシュリンによる筋肉や脂肪細胞における糖取り込み促進に関わるシグナル伝達機構は、現在までのところ、以下のように考えられている。
【0007】
つまり、インシュリンは細胞膜上のインシュリン受容体(インシュリンレセプター:IR)に結合後、IRの細胞内部分に存在するチロシンキナーゼを活性化し、インシュリン受容体基質(インシュリンレセプターサブストレイト:IRSs)ファミリーをチロシンリン酸化する。チロシンリン酸化されたIRSsがホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K)を活性化させ、その後何らかのシグナル伝達が行われて、細胞内に潜在するGLUT4が細胞膜上へトランスロケートされる(例えば、非特許文献1参照)。このインシュリンも、糖尿病を予防し、または悪化を防止するために、医薬品として用いられている。
【0008】
以上のように、糖代謝の異常は生活習慣病の多くの疾患と関連があることからも、生活習慣病の予防または悪化防止を目的とした食品や医薬品が必要とされている。
【0009】
また、スポーツの分野では、体力、とりわけ、持久力、抗疲労力、疲労回復力などが重要となる。そして、運動による筋肉の疲労は、エネルギー生産の源となる組織中のグリコーゲンが消費され、一定限界に達したときに起こる。すなわち、組織中のグリコーゲンが枯渇すると、筋肉が運動できない状態に陥る。また、組織中のグリコーゲン貯蔵量と持久力との間には、正の相関が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。このようなことから、持久力、抗疲労力、疲労回復力などを高めるためには、組織中のグリコーゲン貯蔵量を高めることが重要である。
【0010】
こうしたなかで、最近の研究成果として、例えば、微生物由来の低分子物質や天然植物抽出物からの細胞への糖取り込み促進作用を有する物質の発見が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。また、例えば、乳ホエイ蛋白質とその加水分解物がグリコーゲン貯蔵効果を有することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、乳蛋白質加水分解物が糖尿病治療に効果を奏する血糖降下作用を有すること(例えば、特許文献2参照)、乳ホエイ蛋白質加水分解物が血糖調節作用を有すること(例えば、特許文献3参照)がすでに報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−289861号公報
【特許文献2】特開平04−149139号公報
【特許文献3】特表2006−510367号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】N.Engl.J.Med.,341,248−257,1999
【非特許文献2】Acta Physiol.Scand.,71,140−150,1967
【非特許文献3】Science,284,974−977,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
こうした現状に鑑み、本発明者らは、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療、グリコーゲン貯蔵促進、または、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上もしくは疲労回復のいずれか少なくとも1つに効果を有する組成物を提供することを本発明の目的とした。また、本発明者らは、少なくとも1つの前記効果を有する食品または医薬組成物を提供することを本発明の目的とした。さらに、本発明者らは、少なくとも1つの前記効果を有する組成物の製造方法を提供することを本発明の目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ペプチドを有効成分として含有し、血糖値を低下させ、グリコーゲンの貯蔵を促進することのできる組成物を見出し、本発明を完成させるに到った。
すなわち、本発明の一つの態様によれば、糖取り込み促進作用を有するペプチドを有効成分として含有し、糖取り込み促進に用いられる組成物が提供される。「糖取り込み促進作用を有するペプチド」としては、ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドが好ましい。
また、本発明の他の一つの態様によれば、ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドを有効成分として含有する組成物が提供される。
本発明において、「組成物」には、「ペプチドそのもの(単一のペプチド、もしくは複数のペプチドの混合物)」、「蛋白質加水分解物」、または「蛋白質加水分解物を膜処理、溶媒分画などにより精製して得た混合物」などが包含される。
【0015】
また、上記いずれの態様においても、「ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチド」として、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valよりなる群から選択される少なくとも1種以上のジペプチドを好適に使用し得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組成物を含有させることにより、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療、グリコーゲン貯蔵促進、または、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上もしくは疲労回復のいずれか少なくとも1つに効果を有する食品または医薬組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、ペプチドを有効成分として含有する組成物の製造方法が提供される。
本願の開示は、2006年4月21日に出願された特願2006−117439号に記載の主題と関連しており、それらの開示内容は引用によりここに援用される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の組成物の一態様としては、糖取り込み促進作用を有するペプチドを有効成分として含有し、糖取り込み促進に用いられる組成物がある。糖取り込み促進作用を有するペプチドは、ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドであることが好ましい。特に、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、またはIle−Valを好適に使用し得る。
【0018】
また、本発明の組成物の他の態様としては、ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドを有効成分として含有する組成物がある。この態様の組成物は、例えば、生理活性組成物、栄養組成物、または機能性組成物として用いられる。また、この態様の組成物を、糖取り込み促進のために用いることも可能である。ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドとして、特に、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、またはIle−Valを好適に使用し得る。
【0019】
上記いずれの態様においても、有効成分であるペプチドは、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療効果(本明細書では、血糖値上昇の予防効果と血糖値低下効果とは、特に断らない限り同意語として使用するものとする。)、グリコーゲン貯蔵促進効果、または、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上もしくは疲労回復効果を有する。本発明におけるペプチドは、インシュリンに類似した生理活性物質であると考えられ、また、その作用メカニズムはインシュリンと同様のメカニズムであると推測される。従来、医薬品として用いられるインシュリンは、分子量が3,500以上のペプチドであるため、経口投与では体内に吸収することができなかった。しかしながら、本発明におけるペプチド、特にロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドは、経口投与により細胞への糖取り込み促進作用を示し得るペプチドであり、これにより血糖値の上昇を抑制することができる。また、これらのペプチドは、人体に対して有害な作用を示すこともない。
【0020】
糖取り込み促進作用を有するペプチドは、筋肉細胞、肝細胞などの細胞、特に筋肉細胞における糖取り込み作用を促進することができる。筋肉細胞においては、インシュリンがインシュリンレセプターに結合することに起因して、インシュリンレセプターシグナルの下流に存在するホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(phosphatidylinositol−3−kinase;PI3K)が活性化され、その後いくつかのシグナル伝達を経て、糖輸送担体タイプ4(glucose transporter 4;GLUT4)が細胞表面にトランスロケートされる。そして、通常、糖は、細胞表面に存在するGLUT4を介して細胞内に取り込まれる。この経路は、GLUT4阻害剤またはPI3K阻害剤によって阻害される。
【0021】
本発明の組成物についても、後述する実施例において示すとおり、ペプチドによる糖取り込み促進効果は、GLUT4阻害剤またはPI3K阻害剤によって抑えられる。このことから、ペプチドによって促進される糖取り込み作用が、インシュリンによる作用と同様のGLUT4を介する作用であり、また、インシュリンによる作用と同様のPI3Kを介する作用であると推測される。GLUT4阻害剤としては、例えばサイトカラシンBが知られており、PI3K阻害剤としては、例えばLY294002(Biochemical.Journal,333,471−490,1998)が知られている。
【0022】
本発明のペプチドを含有する組成物は、血糖値を低下させることができる。血糖値を低下させることにより、糖尿病や血糖値上昇の予防または治療が可能となる。
【0023】
また、本発明の組成物は、グリコーゲンを組織中に貯蔵させる作用を有する。そのため、運動パフォーマンスを向上させることができ、スポーツの現場においても有効性が十分に期待できる。さらに、本発明の組成物によれば、運動時の持久力、抗疲労力、疲労回復力、体力、運動能力、スタミナ、エネルギー補給力などを高めることができる。
【0024】
本発明におけるペプチドは、アミノ酸から合成することも可能であるが、好ましくは、蛋白質を加水分解することにより得ることができる。したがって、本発明の組成物の一例として、蛋白質を加水分解して得られたペプチドを含有する蛋白質加水分解物を挙げることができる。
【0025】
加水分解は、蛋白質加水分解酵素による加水分解が好ましい。原料としては、動物性蛋白質および植物性蛋白質を用いることが可能であり、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、卵、大豆、牛乳、ピーナッツ、とうもろこし、小麦などが挙げられる。本発明においては、カゼイン、大豆蛋白質、小麦グルテン、乳ホエイ蛋白質、および牛肉を用いることが好ましく、特に、乳ホエイ蛋白質を用いることが好ましい。乳ホエイ蛋白質としては、例えば、チーズまたはカゼインの製造工程で得られるチーズホエイまたはカゼインホエイを限外ろ過、ナノフィルトレーションなどのろ過方法によりろ過して得られる混合物、単離精製されたβ−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリンなどを用いることができる。
【0026】
蛋白質加水分解における酵素、酸、またはアルカリ処理の条件(例えば、基質の濃度、酵素量、処理温度、pH、あるいは時間など)は、適宜設定することできる。蛋白質の加水分解に使用する酵素としては、食品衛生上無害なものであることが好ましく、例えば、バシラス属またはアスペルギルス属に属する微生物由来のプロテアーゼ、パパイヤ由来のパパイン、パイナップル由来のブロメラインなどの植物由来のプロテアーゼ、パンクレアチン、トリプシンなどの動物由来のプロテアーゼが挙げられ、これらを単一であるいは組み合わせて使用することができる。
【0027】
例えば、Ile−Leuを得る場合には、バシラス属由来のプロテアーゼおよびアスペルギルス属由来のプロテアーゼを組み合わせて加水分解を行うことが好ましく、Ile−Trpを得る場合には、トリプシンで反応後、アスペルギルス属由来のプロテアーゼで反応させることが好ましい。また、Val−Leu、Lys−Ile、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、およびIle−Valを得る場合には、アスペルギルス属由来のプロテアーゼを用いることが好ましく、Ala−LeuおよびAsp−Leuを得る場合には、トリプシンで反応後、バシラス属由来のプロテアーゼで反応させることが好ましく、Gly−Leu、Leu−Leu、およびLeu−Valを得る場合には、ペプシンで反応後、アスペルギルス属由来のプロテアーゼで反応させることが好ましい。
【0028】
蛋白質加水分解酵素による加水分解の場合、例えば、処理温度は、35〜55℃が好ましく、処理時間は、3〜9時間が好ましく、また、酵素の使用量は、蛋白質100gに対し0.5〜10gが好ましい。
【0029】
蛋白質加水分解物から、吸着剤処理法、膜分離法、溶媒分画法、通常用いられている樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー操作等の精製法により、高純度の糖取り込み促進作用を有するペプチドを単離・精製することができる。
【0030】
単離・精製をする前に、蛋白質加水分解物からペプチドを抽出してもよい。ペプチドの抽出に用いる溶剤としては、水、エタノール、メタノール、アセトンまたはこれらの混合溶剤を用いることが好ましい。溶剤として、例えば、90体積%エタノール水溶液を用いることができる。
【0031】
抽出の際の蛋白質加水分解物と溶剤の比率は、特に限定されるものではないが、蛋白質加水分解物(乾燥)1に対して溶剤2から1,000重量倍、特に抽出操作、効率の観点から、5から100重量倍が望ましい。また、抽出温度は、「室温」から「常圧下での溶剤の沸点」の範囲が便利である。抽出時間は抽出温度によって異なるが、数時間から2日間の範囲とすることが好ましい。このような操作を行うことにより、精製されたペプチドを溶媒抽出物として得ることができる。したがって、本発明の組成物の一例として、精製されたペプチドを含有する溶媒抽出物を挙げることができる。溶媒抽出物は、好ましくは、凍結乾燥された状態で用いられる。
【0032】
蛋白質加水分解物あるいはその溶媒抽出物を、吸着モードのクロマトグラフィーに付して分画するには、例えば、次の方法がある。まず、凍結乾燥された蛋白質加水分解物またはその溶媒抽出物を少量の水、メタノール、エタノール等の溶媒あるいはこれらの混合溶媒に溶解する。次いで、得られた溶液をカラムに流してペプチドを吸着剤に吸着させる。その後、カラムを水で十分に洗浄し、メタノール、エタノール、アセトン等の親水性溶媒あるいはこれらの混合溶媒でペプチドを溶出させればよい。吸着モードのカラムクロマトグラフィーに換え、他の分離モードのクロマトグラフィーを用いることもできる。さらに二つ以上の吸着モードおよび/または他の分離モードのカラムクロマトグラフィーを組み合わせることにより、より高純度に単離・精製されたペプチドを得ることができる。吸着剤充填カラムとしては、例えば、セファデックスLH−20(スウェーデン、ファルマシア製)、ダイアイオンHP20(三菱化成工業製)、Develosil ODS(野村化学製)、ODS−A(YMC製)、ODS−AQ(YMC製)、MCI−GEL(三菱化成工業製)、MCI−CHP20(三菱化成工業製)、セパビーズHP1MG(三菱化成工業製)、トヨパールHW40F(東ソー製)が挙げられる。
【0033】
このように単離・精製されたペプチドも、本発明の組成物として用いることができる。また、ペプチドの混合物である、単離・精製前の蛋白質加水分解物または溶媒抽出物をそのまま、あるいは凍結乾燥させた後に本発明の組成物として用いることも可能である。本発明の組成物は、場合により、そのまま摂取することができる。
【0034】
本発明の組成物は、有効成分であるペプチドの他に、公知の物質を含んでもよい。例えば、本発明の組成物は、原料として用いることのできる種々の蛋白質を加水分解することにより生じるその他のペプチドや、加水分解に用いられた触媒を含んでもよい。また、細胞への糖取り込み量を増すために、各種の糖を含んでもよい。
【0035】
上述のようにして得られる本発明の組成物は、一般の食品(飲料を含む)に配合することができる。本発明の組成物が配合された食品は、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療用の食品として使用される。同様に、組織中へのグリコーゲン貯蔵を促進し、運動パフォーマンスを向上させる食品として使用することができる。さらに、同様に、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上、または疲労回復のための食品として使用することができる。
【0036】
本発明の食品は、筋肉細胞への糖取り込み促進作用、グリコーゲンの貯蔵促進作用を有するため、日常摂取する食品、サプリメントとして摂取する健康食品または機能性食品として提供することができる。そして、本発明の食品は、血糖値の上昇抑制用、糖尿病の予防または治療用、体力の増進もしくは低下の予防、運動能力の増進、持久力の向上、疲労回復を希望する消費者に適した食品、または、それらの症状が気になる消費者に適した食品である。このようなことから本発明の食品を、特定保健用食品、病者用食品として提供することができる。さらに、本発明の食品は、ヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、飼料として用いることができる。
【0037】
本発明の食品の形態は特に限定されるものではない。本発明の食品の具体例としては、飲料、粉末飲料、濃厚飲料、タブレット、焼き菓子、スープ、ハンバーグ、粉末状食品、カプセル状食品、ゼリー、カレー、パン、ソーセージ、ヨーグルト、チーズ、チョコレート、ガム、ジャム、アイスクリームなどが挙げられる。
【0038】
糖取り込み促進作用を有するペプチドは水溶性であることが好ましい。また、ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドは、水溶性である。水溶性のペプチドは、広く一般の食品に添加することが可能である。例えば、水溶性ペプチドを合計0.001重量%以上配合したお茶を毎日約1L飲用することにより、1日当たり10mgのペプチドの摂取が可能となる。血糖値上昇を抑制するためには、用いるペプチドの活性に応じて食品に配合し、ペプチドの摂取量を純品換算で0.1〜10,000mg/日の範囲で適宜増減させることが好ましい。
【0039】
本発明の組成物を、血糖値上昇抑制剤、糖尿病予防・治療剤等の医薬組成物として用いることもできる。また、グリコーゲン貯蔵促進により治療、予防、または改善し得る疾患または症状のためのグリコーゲン貯蔵促進剤として用いることができる。さらに、体力の増進剤、運動能力の増進剤、持久力の向上剤、または疲労回復剤等の医薬品組成物として用いることができる。
【0040】
これらの医薬品組成物の主な投与形態は、経口剤である。経口剤に使用することができる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。具体的には、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等を挙げることができる。経口剤の用途等に応じてこれら担体をそれぞれ単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0041】
本発明の医薬組成物を、血糖値上昇抑制剤、糖尿病予防・治療剤、グリコーゲン貯蔵促進剤等の経口剤として用いる場合の投与量は、患者の年齢、症状等により適宜変更すればよい。一般には、投与量が、ペプチド純品換算で0.1〜10,000mg/日の範囲となるように用いることが好ましい。
【0042】
本発明の食品または医薬組成物において配合が可能な他の成分としては、例えば、炭水化物、蛋白質、アミノ酸、ミネラル類および/またはビタミン類等が挙げられる。ここで、炭水化物としては、澱粉、コーンスターチ等の多糖類、デキストリン、スクロース、グルコース、フルクトース等のその他の糖類等が挙げられる。また、ここで、蛋白質としては、動物性蛋白質であっても、植物性蛋白質であっても、またはそれらの混合物であってもよく、例えば、乳蛋白質、大豆蛋白質、卵蛋白質等が挙げられる。また、アミノ酸としては、必須アミノ酸であるロイシン、イソロイシン、バリン、トリプトファン、フェニルアラニン、リジン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジンや、非必須アミノ酸であるグルタミン、グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アルギニン、シスチン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、オルニチン、タウリン等が挙げられる。また、ミネラル類としては、特に限定するものではないが、カルシウム、マグネシウム、鉄等が挙げられる。また、ナトリウムまたはカリウム、あるいはその他の栄養的必須元素である亜鉛、銅、クロム、セレン、マンガン、モリブデン等が挙げられる。また、ビタミン類としては、特に限定するものではないが、栄養的に必須であるビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD,ビタミンE,ナイアシン、パントテン酸、葉酸、コエンザイムQ10等が挙げられる。
【0043】
本発明において、有効成分であるペプチドは、血糖上昇抑制作用、またはグリコーゲン貯蔵増進作用を示す活性物質として、十分な有効性を有する。本発明の組成物は、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療、グリコーゲン貯蔵促進、または、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上もしくは疲労回復の効果を有する。また、本発明の組成物を含有させることにより、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療、グリコーゲン貯蔵促進、または、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上もしくは疲労回復に優れた効果を奏する食品または医薬組成物を提供することができる。
【実施例】
【0044】
次に、有効成分であるペプチドの製造例、および各種生物試験例、製剤実施例等を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例等になんら制約されるものではないことはいうまでもない。なお、実施例中、特に断りのない限り、「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」を意味する。
【0045】
製造例1
カゼイン、大豆蛋白質、小麦グルテン、乳ホエイ蛋白質、および牛肉それぞれ50gを水1Lに溶解させた。それぞれの溶液のpHを7.0に調整後、50℃に加熱し、保温した。バシラス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼMアマノ、アマノエンザイム社)500mgとアスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼNアマノ、アマノエンザイム社)500mgを溶液に加え、8時間インキュベートし、その後10分間加熱することによりプロテアーゼを失活させた。
【0046】
得られた溶液を凍結乾燥により粉末状にした。粉末を0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液に1000倍(体積比)に希釈し、下記の条件によりLC/MSを用い、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valの含量を定量した。
【0047】
1g蛋白質あたりの各ペプチドの生成量(mg)を表1に示す。カゼイン、大豆蛋白質、小麦グルテン、乳ホエイ蛋白質、および牛肉から、表1に示すペプチドが得られた。
【0048】
分析条件
カラム:Develosil ODS−HG−3(15mm×2mm)
移動相:A液:0.05% TFA水溶液
B液:0.05% TFAアセトニトリル溶液
移動相の通液開始から0minに3体積%B液、40min後に20体積%B液(いずれもA液およびB液の合計に対する割合)となるように、グラジエントをかけた。
カラム温度:35℃
流速:0.2mL/min
MS条件
Ionization:API−ES positive
SIM ion:m/z 245
Drying gas:10L/min at 350℃
Nebulizer:25psig
Fragmentor:30V
EM gain:1
【0049】
【表1】

【0050】
製造例2
乳ホエイ蛋白質50gを水1Lに溶解させた。1)バシラス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼMアマノ、アマノエンザイム社)500mg、2)アスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼNアマノ、アマノエンザイム社)500mg、3)トリプシン(ノボ社)500mg、4)ペプシン(和光純薬)500mg、5)フレーバザイム(ノボ社)500mg、6)アスペルギルス属由来のプロテアーゼ(ウマミザイム、アマノエンザイム社)500mg、7)アスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼAアマノ、アマノエンザイム社)500mg、および8)アスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼPアマノ、アマノエンザイム社)500mgをそれぞれ単独で、または組み合わせて溶液に加え、乳ホエイ蛋白質を加水分解した(表2)。プロテアーゼを加熱失活後、得られた溶液を凍結乾燥により粉末にした。粉末を0.1%トリフルオロ酢酸水溶液に1000倍(体積比)に希釈し、上記の条件によりLC/MSを用い、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valを定量した。
【0051】
結果を表2に示す。1)バシラス属由来のプロテアーゼおよび2)アスペルギルス属由来のプロテアーゼを組み合わせて反応させた場合に、最もIle−Leuを高含量に含む蛋白質加水分解物が得られた。また、3)トリプシンで反応後、2)アスペルギルス属由来のプロテアーゼで反応させた場合に、最もIle−Trpを高含量に含む蛋白質加水分解物が得られた。
【0052】
また、Val−Leu、Lys−Ile、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、およびIle−Valは、6)アスペルギルス属由来のプロテアーゼで反応させた場合に、Ala−LeuおよびAsp−Leuは、3)トリプシンで反応後、1)バシラス属由来のプロテアーゼで反応させた場合に、Gly−Leu、Leu−Leu、およびLeu−Valは、4)ペプシンで反応後、2)アスペルギルス属由来のプロテアーゼで反応させた場合に、最もそれらのペプチドを高含量に含む蛋白質加水分解物が得られた。
【0053】
【表2】


【0054】
製造例3
乳ホエイ蛋白質50gを水1Lに溶解させた。溶液のpHを7.0に調整後、50℃に加熱し、保温した。バシラス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼMアマノ、アマノエンザイム社)500mgとアスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼNアマノ、アマノエンザイム社)500mgを溶液に加え、8時間インキュベートし、次いで10分間加熱することによりプロテアーゼを失活させた。その後、凍結乾燥により粉末状にした乳ホエイ蛋白質加水分解物10gから、0%、50%、60%、70%、80%、90%、95%エタノール(エタノール水溶液全体に対するのエタノールの体積%)1Lを用いて、Ile−LeuおよびIle−Trpを抽出した。抽出液を、濃縮エバポレータで濃縮後、凍結乾燥により粉末化した。得られた粉末を0.1%トリフルオロ酢酸水溶液に1000倍(体積比)に希釈し、上記の条件によりLC/MSを用い、Ile−LeuおよびIle−Trpを定量した。
【0055】
結果を表3に示す。90%エタノールでの抽出物に、最もIle−LeuおよびIle−Trpが多く含まれていた。
【0056】
【表3】

【0057】
実施例1
錠剤
常法に従い、下記の成分を所定量採取し、均一に混合し、圧縮成型して、直径7mm、1錠150mgの錠剤を得た。
イソロイシルロイシン(糖取り込み促進ジペプチド) 30部
グルタミン 5部
バリン 5部
ロイシン 7部
イソロイシン 3部
トウモロコシデンプン 19部
結晶セルロース 30部
ステアリン酸マグネシウム 1部
【0058】
実施例2
食品
下記の成分を所定量採取し、均一化して、本発明による食品を製造した。
製造例1で作成した糖取り込み促進ペプチド含有蛋白質分解物(粉末) 90部
グルタミン 2部
ピロリン酸第2鉄 1部
トウモロコシデンプン 7部
【0059】
実施例3
錠菓
実施例2による食品を用い、以下の配合にて、常法に従って錠菓を製造した。
グラニュー糖 52部
濃縮果汁 5部
クエン酸 6部
香料 2部
乳化剤 3部
実施例2の食品 32部
【0060】
生物試験例1:筋肉細胞における糖取り込み速度に与える影響
ウィスター系雄性ラット(体重120g)(16匹)をペントバルビタール麻酔下、滑車上筋を傷つけないように注意深く摘出した。滑車上筋を、0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)、8mM グルコース、および32mM マンニトール含有KRH(136mM NaCl、4.7mM KCl、1.25mM CaCl、1.25mM MgSO・7HO、20mM Hepes、1mg/mL BSA:pH7.4、以下同様)緩衝液中で、5%CO、95%O下、35℃で1時間インキュベートした。その後、滑車上筋を取り出し、0.1%BSA、40mM マンニトール、および1mM Ile−Leu(国産化学(株))、1mM Ile−Trp(国産化学(株))、または1mMロイシン当量の製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物を含むKRH緩衝液中で、5%CO、95%O下、30℃で30分間インキュベートした(各群8検体)。次いで、滑車上筋を取り出し、0.1%BSA、32mM マンニトール、8mM 2−デオキシグルコース含有KRH緩衝液中で、5%CO、95%O下、30℃で正確に20分間インキュベートした。正確に20分間インキュベートした後、直ちに滑車上筋を液体窒素で凍結させた。その後、凍結した滑車上筋を、0.3M 過塩素酸水溶液でホモジナイズし、懸濁液を中和後、2−デオキシグルコース−6−リン酸の量を、酵素法を用いて定量し、糖取り込み速度を測定した。
【0061】
糖取り込み速度(平均値±標準誤差)を表4に示す。Ile−Leu、Ile−Trp、および蛋白質加水分解物の全てに、筋肉細胞への糖取り込み作用があった。
【0062】
【表4】

【0063】
生物試験例2:筋肉細胞における糖取り込み速度効果に対するPI3Kインヒビター、GLUT4インヒビターの影響
ウィスター系雄性ラット(体重120g)(各群8匹)をペントバルビタール麻酔下、滑車上筋を傷つけないように注意深く摘出した。滑車上筋を、0.1%BSA、8mM グルコース、および32mM マンニトール含有KRH緩衝液中で、5%CO、95%O下、35℃で1時間インキュベートした。その後、滑車上筋を取り出し、0.1%BSA、40mM マンニトール、および1mM Ile−Leu(国産化学(株))、1mM Ile−Leu+10μM LY294002(シグマ社)、または1mM Ile−Leu+70μM サイトカラシンB(シグマ社)を含むKRH緩衝液中で、5%CO、95%O下、30℃で30分間インキュベートした。次いで、滑車上筋を取り出し、0.1%BSA、32mM マンニトール、8mM 2−デオキシグルコース含有KRH緩衝液中、5%CO、95%O下、30℃で正確に20分間インキュベートした。正確に20分間インキュベートした後、直ちに滑車上筋を液体窒素で凍結させた。その後、凍結した滑車上筋を、0.3M 過塩素酸水溶液でホモジナイズし、懸濁液を中和後、2−デオキシグルコース−6−リン酸の量を、酵素法を用いて定量し、糖取り込み速度を測定した。
【0064】
糖取り込み速度(平均値±標準誤差)を表5に示す。PI3K阻害剤であるLY294002、GLUT4阻害剤であるサイトカラシンBを加えることにより、Ile−Leuによる糖取り込み作用が阻害された。このことはIle−Leuが、PI3Kを介して、GLUT4を細胞膜上にトランスロケーションし、GLUT4を介して筋肉細胞における糖取り込み作用を促進していることを示している。
【0065】
【表5】

【0066】
生物試験例3:経口糖負荷試験
ウィスター系雄性ラット約360g(各群6匹)を用いた。18時間絶食させたラットに、30%グルコース水溶液を2.0g/kg体重(BW)になるように投与した。さらに、試験物質群として、製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物またはIle−Leuを0.1g/kg体重(BW)となる量、30%グルコース水溶液に加えて投与した。30、60、90、120、180分後にラットの尾静脈血から採血を行い、ダイヤセンサー(アークレイ社)を用い血糖値を測定した。
【0067】
血糖値の変化量(平均値±標準誤差)を表6に示す。糖液を単独で投与した場合に比べ、蛋白質加水分解物またはIle−Leuを加えることにより、有意に血糖の上昇を抑制できた。
【0068】
【表6】

【0069】
生物試験例4:2型糖尿病モデルマウスを用いた糖尿病発症予防効果確認試験
10週令の2型糖尿病マウスモデル動物雄性KK−Ayマウス(日本クレア(株))を、水および食餌を自由摂取させ3週間飼育した(各群8匹)。食餌として、25%カゼイン食(AIN93Gに従った)、または25%カゼイン食に製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物を3%となる量添加した餌をそれぞれ摂取させた。飼育開始前と飼育3週間後にマウスの尾静脈より採血をし、血糖値を測定した。
【0070】
血糖値(平均値±標準誤差)を表7に示す。カゼイン食を摂取したマウスは、血糖値が上昇し、糖尿病が悪化した。これに対し、乳ホエイ蛋白質加水分解物を添加したカゼイン食を摂取したマウスは、有意に血糖値の上昇が抑制された。
【0071】
【表7】

【0072】
生物試験例5:グリコーゲン貯蔵効果確認試験
ウィスター系雄性ラット(各群8匹)を、水および食餌を自由摂取させ1週間飼育した。その際、1〜6日目には、ラットに1日あたり6時間の水泳トレーニングの負荷を掛けた。解剖前日(7日目)は18gの制限食を与えた。次いで、ラットに、体重あたり2%重量の錘をつけ、4時間水泳運動させるグリコーゲン枯渇運動をさせた。その後、コントロールとして25%カゼイン食(AIN93Gに従った)、あるいは25%カゼイン食に含まれるカゼインを製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物に置き換えた餌を摂取させた。摂取開始から12時間後にエーテル麻酔下でラットを解剖し、肝臓および筋肉を摘出した。直ちに、摘出した臓器を用いてグリコーゲン量を分析した。
【0073】
グリコーゲン量(平均値±標準誤差)を表8に示す。乳ホエイ蛋白質加水分解物は、グリコーゲン貯蔵促進作用を有していた。
【0074】
【表8】

【0075】
生物試験例6:筋肉細胞における糖取り込み速度に与える影響
ラット筋芽細胞L6を、5%CO条件下、タイプ1コラーゲンコートシャーレを用い、10%牛血清添加イーグル培地(αMEM)で培養した。常法に従い、トリプシン処理により回収した細胞を、タイプ1コラーゲンコート48穴プレートに50,000cells/wellになるように撒き、3日間培養してコンフルエントにした。培地を除いた後、2%牛血清添加イーグル培地(αMEM)を各well毎に500μL添加して5日間培養し、細胞を分化誘導させた。各wellを、500μL KRH緩衝液(136mM NaCl、4.7mM KCl、1.25mM CaCl、1.25mM MgSO・7HO、20mM Hepes、1mg/mL BSA:pH7.4)で細胞がはがれないように注意深く洗浄した。次いで、各wellに、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、またはIle−Val(国産化学(株))をそれぞれ1mM含むKRH緩衝液を500μL加え、3時間反応させた。その後、KRH緩衝液を取り除き、8mM 2−デオキシグルコース含有KRH緩衝液を100μL加え、正確に10分間反応させた。100μL 0.1N NaOHで反応を停止し、等量の0.1N HClで中和した後、2−デオキシグルコース−6−リン酸量を、酵素法を用いて定量することによって、糖取り込み速度を測定した。
【0076】
糖取り込み速度(平均値±標準誤差)を表9に示す。Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valは、筋肉細胞への糖取り込み作用を有していた。
【表9】

【0077】
生物試験例7:マウスを用いた持久運動能力向上効果確認試験
雄性C57BL/6Jマウス約20g(日本クレア(株))を水及び食餌を自由摂取させ3週間飼育した(各群8匹)。飼育1週目は15メートル/分、15分間、傾斜なしの条件下のトレッドミル運動負荷から始め、徐々にスピードと運動時間を22メートル/分、30分間、傾斜なしまで上げることによりトレッドミル運動に慣れさせた。2週目から飼育終了時まではスピード22メートル/分、30分間、傾斜なしの条件下で運動負荷を実施した。運動負荷は1週間あたり5日間実施した。食餌は25%カゼイン食(AIN93Gに従った)、および25%カゼイン食に含まれるカゼインを製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物に置き換えた餌をそれぞれ摂取させた。飼育3週間後に、運動パフォーマンステストを実施した。トレッドミルを用い、スピード30メートル/分、傾斜なしの条件下で運動負荷を実施し、マウスが疲労困憊に到るまでの時間を計測した。
【0078】
持久運動時間(平均値±標準誤差)を表10に示す。カゼイン食を摂取したマウスに比べ、蛋白質加水分解物を摂取したマウスは、持久運動時間が約1.7倍に増加した。
【表10】

【0079】
本発明の組成物は、in vitroにおける糖取り込み促進作用と同時に、上記生物試験例で示すとおり、in vivoでのウィスターラットまたはマウス試験においても、血糖上昇抑制効果、グリコーゲン貯蔵効果、持久運動能力向上効果を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖取り込み促進作用を有するペプチドを有効成分として含有し、糖取り込み促進に用いられる組成物。
【請求項2】
糖取り込み促進作用を有するペプチドが、ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
糖取り込み促進作用を有するペプチドが、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
糖取り込み促進に用いられる組成物が、蛋白質を加水分解して得られる糖取り込み促進作用を有するペプチドを含有する蛋白質加水分解物である請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
ロイシンおよび/またはイソロイシンを有するジペプチドを有効成分として含有する組成物。
【請求項6】
ジペプチドが、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
組成物が、蛋白質を加水分解して得られるジペプチドを含有する蛋白質加水分解物である請求項5または6記載の組成物。
【請求項8】
蛋白質が、カゼイン、大豆蛋白質、小麦グルテン、乳ホエイ蛋白質、および牛肉からなる群から選択される少なくとも1種である請求項4または7に記載の組成物。
【請求項9】
ペプチドが、筋肉細胞への糖取り込み促進作用を有し、筋肉における糖取り込み促進に用いられる請求項1ないし3のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
筋肉細胞への糖取り込みが、糖輸送担体タイプ4(GLUT4)を介する作用である請求項9記載の組成物。
【請求項11】
筋肉細胞への糖取り込みが、ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K)を介する作用である請求項9記載の組成物。
【請求項12】
糖尿病または血糖値上昇の予防または治療のための請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
グリコーゲン貯蔵促進のための請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上、または疲労回復のための請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物を含んでなる、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療のための食品。
【請求項16】
請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物を含んでなる、グリコーゲン貯蔵促進のための食品。
【請求項17】
請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物を含んでなる、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上、または疲労回復のための食品。
【請求項18】
請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物を含んでなる、糖尿病または血糖値上昇の予防または治療のための医薬組成物。
【請求項19】
請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物を含んでなる、グリコーゲン貯蔵促進のための医薬組成物。
【請求項20】
請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物を含んでなる、体力の増進、運動能力の増進、持久力の向上、または疲労回復のための医薬組成物。
【請求項21】
請求項1ないし11のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、蛋白質を、蛋白質加水分解酵素を用いて加水分解する工程を含む組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−91668(P2013−91668A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−21252(P2013−21252)
【出願日】平成25年2月6日(2013.2.6)
【分割の表示】特願2008−512162(P2008−512162)の分割
【原出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】