説明

スピーカーおよび再生帯域調整方法

【課題】部品点数が少なく、薄型化が簡単で、回路構成が簡単で、各々異なる再生帯域の音声を再生可能な複数のスピーカー部を有するスピーカーを提供することを課題とする。
【解決手段】スピーカー1は、エラストマー製または樹脂製の誘電層20と、誘電層20の表裏両面に配置される複数の電極層21、22と、を有する振動部2と、表側または裏側から見て、誘電層20の表面の電極層21と、誘電層20と、誘電層20の裏面の電極層21と、が重複する部分に配置され、各々、音声の再生帯域が異なる複数のスピーカー部3、4、5と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスピーカー部を有するスピーカー、およびスピーカー部の再生帯域調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、振動板を介して一対の圧電素子を貼り合わせた、バイモルフ型のスピーカーが開示されている。同文献の図19に示すように、スピーカーは、振動板と、一対の圧電素子と、を備えている。
【0003】
振動板は、基板と、一対の電極層と、を備えている。一対の電極層は、基板の表裏両面に配置されている。一対の圧電素子は、振動板の表裏両面に配置されている。圧電素子は、圧電材と、一対の電極層と、を備えている。一対の電極層は、圧電材の表裏両面に配置されている。
【0004】
すなわち、同文献記載のスピーカーによると、表側から裏側に向かって、圧電素子(電極層−圧電材−電極層)−振動板(電極層−基板−電極層)−圧電素子(電極層−圧電材−電極層)が積層されている。振動板から見て表側の圧電素子の裏側の電極層と、振動板の表側の電極層と、は接続されている。また、振動板から見て裏側の圧電素子の表側の電極層と、振動板の裏側の電極層と、は接続されている。
【0005】
同文献の図20に示すように、振動板の表側においては、圧電素子の裏面および振動板の表面に、各々、抵抗部が配置されている。同文献の図21に示すように、振動板の表側の等価回路においては、抵抗部を介して交流電源に接続されるコンデンサと、抵抗部を介さずに交流電源に接続されるコンデンサと、が配置されている。
【0006】
同文献記載のスピーカーによると、電極層の径方向中心側に配置される電極ほど、高周波数帯域の音圧を抑制することができる。このため、音声の再生帯域に応じて圧電素子の駆動領域の異なるスピーカーを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/078184号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、同文献記載のスピーカーの場合、振動板と、一対の圧電素子と、が必須である。具体的には、表側から裏側に向かって、圧電素子(電極層−圧電材−電極層)−振動板(電極層−基板−電極層)−圧電素子(電極層−圧電材−電極層)を積層する必要がある。このため、部品点数が多い。また、スピーカーの表裏方向の厚さが大きくなってしまう。つまり、スピーカーの薄型化が困難である。また、同文献記載のスピーカーの場合、抵抗部を直列接続する電極と、抵抗部を接続しない電極と、を区別して配置する必要がある。このため、回路構成が複雑である。また、複雑な回路構成を実現するために、電極と、抵抗部と、を別々に配置する必要がある。このため、部品点数が多い。
【0009】
本発明のスピーカーは、上記課題に鑑みて完成されたものである。本発明は、部品点数が少なく、薄型化が簡単で、回路構成が簡単で、各々異なる再生帯域の音声を再生可能な複数のスピーカー部を有するスピーカーを提供することを目的とする。また、本発明は、スピーカーの有するスピーカー部の再生帯域を、簡単に調整することが可能な再生帯域調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するため、本発明のスピーカーは、エラストマー製または樹脂製の誘電層と、該誘電層の表裏両面に配置される複数の電極層と、を有する振動部と、表側または裏側から見て、該誘電層の表面の該電極層と、該誘電層と、該誘電層の裏面の該電極層と、が重複する部分に配置され、各々、音声の再生帯域が異なる複数のスピーカー部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
ここで、「エラストマー製または樹脂製」とは、誘電層の基材が、エラストマー製または樹脂であることをいう。すなわち、誘電層は、エラストマーまたは樹脂の他に、添加剤等の他の成分を含んでいてもよい。また、「エラストマー」には、ゴムおよび熱可塑性エラストマーが含まれる。
【0012】
また、「音声の再生帯域が異なる」とは、音圧レベルの周波数分布において、隣接する再生帯域が完全に分離している場合は勿論、隣接する再生帯域が部分的に重複している場合を含む。
【0013】
本発明のスピーカーは、複数のスピーカー部を備えている。スピーカー部は、誘電層から見て、表側の電極層の一部と、誘電層の一部と、裏側の電極層の一部と、を備えている。誘電層の表面の電極層および裏面の電極層には、再生対象となる音声に基づく交流電圧が印加される。当該交流電圧に基づく電極層間の静電引力の変化に応じて、誘電層の表裏方向の厚さは変化する。すなわち、誘電層が振動する。このため、スピーカー部から音声が再生される。
【0014】
このように、本発明のスピーカーは、基本的には、誘電層と複数の電極層とにより、音声を再生することができる(勿論、本発明のスピーカーは、誘電層、複数の電極層以外の構成要素を有していてもよい。)。すなわち、特許文献1に記載のスピーカーのように、圧電素子(電極層−圧電材−電極層)−振動板(電極層−基板−電極層)−圧電素子(電極層−圧電材−電極層)といった、複雑な構造は、本発明のスピーカーには不要である。このため、部品点数が少なくなる。また、表裏方向の厚さを小さくすることができる。つまり、薄型化が可能である。また、軽量化が可能である。また、特許文献1に記載のスピーカーのように、敢えて抵抗部を配置する必要がない。このため、部品点数が少なくなる。また、特許文献1に記載のスピーカーのように、抵抗部を直列接続する電極と、抵抗部を接続しない電極と、を区別して配置する必要がない。このため、回路構成が簡単である。
【0015】
また、本発明のスピーカーによると、振動部は、エラストマー製または樹脂製の誘電層と、電極層と、を有している。このため、本発明のスピーカーは、永久磁石やボイスコイルを有する従来のダイナミック型スピーカーユニットと比較して、薄型化が可能である。また、軽量化が可能である。
【0016】
また、本発明のスピーカーによると、単一の誘電層により、複数のスピーカー部を設定することができる。複数のスピーカー部は、各々、異なる再生帯域の音声を再生可能である。このため、高周波数帯域や低周波数帯域など、再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する場合と比較して、スピーカーを小型化することができる。また、スピーカーを軽量化することができる。
【0017】
また、高周波数帯域専用のスピーカーの場合、低周波数帯域の音声を遮断するために、別途ハイパスフィルターを配置する必要がある。反対に、低周波数帯域専用のスピーカーの場合、高周波数帯域の音声を遮断するために、別途ローパスフィルターを配置する必要がある。これに対して、本発明のスピーカーによると、別途、フィルターを配置する必要がない。つまり、周波数遮断用の専用回路を、別途設ける必要がない。このため、再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する場合と比較して、部品点数が少なくなる。また、回路構成が簡単である。
【0018】
一例として、電極層の電気抵抗および誘電層の静電容量のうち、少なくとも一方を調整することにより、スピーカー部の再生帯域の上限値を調整することができる。すなわち、電極層と誘電層とは、疑似的に、電気抵抗と静電容量とが直列接続された、ローパスフィルターを構成している。
【0019】
ここで、電気抵抗をR、静電容量をCとすると、ローパスフィルターのカットオフ周波数fcは、以下の式(1)により導出される。
fc=1/(2πRC) ・・・式(1)
このため、電気抵抗R、静電容量Cを調整することにより、カットオフ周波数fc、つまり再生帯域の上限値を調整することができる。電気抵抗Rは、電極層の導通経路の長さ、導通経路の横断面積(経路方向に対して直交する方向の断面積)、電極層を構成する材料の調整などにより、調整することができる。
【0020】
導通経路を長くすると電気抵抗Rが大きくなる。反対に、導通経路を短くすると電気抵抗Rが小さくなる。導通経路の横断面積を大きくすると電気抵抗Rが小さくなる。反対に、導通経路の横断面積を小さくすると電気抵抗Rが大きくなる。
【0021】
電極層を構成する材料として、導電率が高い材料を選択すると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層を構成する材料として、導電率が低い材料を選択すると、電気抵抗Rが大きくなる。電極層を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を大きくすると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を小さくすると、電気抵抗Rが大きくなる。
【0022】
静電容量は、誘電層の誘電率、電極面積(具体的には、表側または裏側から見て、表側の電極層と裏側の電極層とが重複する部分の面積)、電極間距離(具体的には、誘電層の表裏方向の厚さ)の調整などにより、調整することができる。すなわち、誘電率をε、電極面積をS、電極間距離をdとすると、静電容量Cは以下の式(2)により導出される。
C=εS/d ・・・式(2)
誘電層を構成する材料として、誘電率εが高い材料を選択すると、静電容量Cが大きくなる。反対に、誘電層を構成する材料として、誘電率εが低い材料を選択すると、静電容量Cが小さくなる。電極面積Sを大きくすると静電容量Cが大きくなる。反対に、電極面積Sを小さくすると静電容量Cが小さくなる。電極間距離dを大きくすると静電容量Cが小さくなる。反対に、電極間距離dを小さくすると静電容量Cが大きくなる。誘電層の積層数(電極層の積層数)を増加させると静電容量Cが大きくなり、電気抵抗Rは小さくなる。
【0023】
また、振動部の面方向(表裏方向に対して直交する方向)のばね定数をk、振動部の質量をmとすると、一次共振周波数f0は以下の式(3)により導出される。
f0=1/2π・√(k/m) ・・・式(3)
振動部の面方向のばね定数kを調整することにより、一次共振周波数f0、つまり再生帯域の下限値を調整することができる。また、振動部の質量mを調整することにより、一次共振周波数f0を調整することができる。
【0024】
誘電層を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数kが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、誘電層を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数kが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0025】
電極層を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数kが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、電極層を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数kが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0026】
誘電層の積層数(電極層の積層数)を多くすると、ばね定数kが大きくなる。反対に、誘電層の積層数(電極層の積層数)を少なくすると、ばね定数kが小さくなる。誘電層の積層数(電極層の積層数)を多くすると、振動部の質量mが大きくなる。反対に、誘電層の積層数(電極層の積層数)を少なくすると、振動部の質量mが小さくなる。このように、誘電層の積層数(電極層の積層数)により、式(3)のk/mを調整することができる。
【0027】
振動部の大きさを大きくすると、振動部の質量mが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。反対に、振動部の大きさを小さくすると、振動部の質量mが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。
【0028】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記振動部の裏面に当接する保持部を備える構成とする方がよい。本構成によると、振動部を裏側から保持することができる。このため、振動部に、しわが入りにくい。
【0029】
(2−1)好ましくは、上記(2)の構成において、前記保持部は、樹脂またはエラストマーの弾性発泡体製である構成とする方がよい。弾性発泡体は多数の空孔を備えている。また、弾性発泡体は柔軟である。このため、巨視的には、振動部にしわが入らないように、振動部をしっかりと保持することができる。また、微視的には、振動部の微細な振動を規制しにくい。
【0030】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、複数の前記スピーカー部は、同心円状に配置される構成とする方がよい。本構成によると、複数のスピーカー部を面方向に並べて配置する場合と比較して、複数のスピーカー部の設置スペースを小さくすることができる。このため、スピーカーを小型化することができる。また、スピーカーを軽量化することができる。
【0031】
(4)好ましくは、上記(3)の構成において、前記電極層は、内側電極部と、内側電極部の径方向外側に配置される外側電極部と、を有し、該内側電極部の外径は、1mm以上50mm以下であり、該外側電極部の外径は、20mm以上300mm以下である構成とする方がよい。
【0032】
つまり、本構成は、径方向内側に第一の再生帯域用のスピーカー部を、径方向外側に第二の再生帯域(第一の再生帯域よりも低い再生帯域)用のスピーカー部を、各々配置するものである。
【0033】
内側電極部の外径を1mm以上としたのは、1mm未満の場合、一次共振周波数f0が20kHz以上となり、径方向内側のスピーカー部の再生帯域が可聴領域を超えるためである。
【0034】
また、内側電極部の外径を50mm以下としたのは、50mm超過の場合、一次共振周波数f0が低くなり、またカットオフ周波数fcが過度に低くなり、径方向内側のスピーカー部が高周波数帯域の音声を再生しにくくなるからである。
【0035】
外側電極部の外径を20mm以上としたのは、20mm未満の場合、カットオフ周波数fcが高くなり、径方向外側のスピーカー部の再生帯域の高周波数部分と、径方向内側のスピーカー部の再生帯域の低周波数部分と、が重複してしまい、再生効率が低下するからである。
【0036】
また、外側電極部の外径を300mm以下としたのは、300mm超過の場合、一次共振周波数f0が20Hz以下になり、径方向外側のスピーカー部の再生帯域が可聴領域を超えるからである。
【0037】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記スピーカー部の周縁が固定される枠部を備える構成とする方がよい。本構成によると、スピーカー部を外側から保持することができる。
【0038】
(6)好ましくは、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成において、前記振動部は、N(Nは3以上の整数)層の前記電極層と、N−1層の前記誘電層と、が表裏方向に積層されてなり、該振動部を貫通し、N層の該電極層のうち、極性が共通する複数の該電極層に導通する共用配線部を備える構成とする方がよい。本構成によると、極性(正極、負極)が共通する複数の電極層に対して個別に配線部を配置する場合と比較して、配線部の数が少なくなる。
【0039】
(7)好ましくは、上記(1)ないし(6)のいずれかの構成において、前記誘電層は、ヤング率が1MPa以上20MPa以下のエラストマー製である構成とする方がよい。ヤング率を1MPa以上としたのは、1MPa未満の場合、誘電層の設置が困難だからである。また、ヤング率を20MPa以下としたのは、20MPa超過の場合、一次共振周波数f0が過度に高周波数側に移動してしまうからである。
【0040】
(8)好ましくは、上記(1)ないし(7)のいずれかの構成において、前記電極層は、該電極層の原料である電極材料が前記誘電層に塗布されることにより形成される構成とする方がよい。本構成によると、電極層の形成と電極層の配置とを同時に行うことができる。
【0041】
(9)好ましくは、上記(1)ないし(7)のいずれかの構成において、前記電極層は、前記誘電層に接着される構成とする方がよい。本構成によると、電極層を、しっかりと誘電層に固定することができる。
【0042】
(10)また、上記課題を解決するため、本発明の再生帯域調整方法は、上記(1)ないし(9)のいずれかの構成のスピーカーの、任意の前記スピーカー部の再生帯域調整方法であって、前記電極層の電気抵抗および前記誘電層の静電容量のうち、少なくとも一方を調整することにより、再生帯域の上限値であるカットオフ周波数を調整し、前記振動部の面方向のばね定数および該振動部の質量のうち、少なくとも一方を調整することにより、該再生帯域の下限値である一次共振周波数を調整することを特徴とする。
【0043】
本発明の再生帯域調整方法によると、スピーカー部ごとに、再生帯域の上限値、下限値を、簡単に調整することができる。すなわち、スピーカー部ごとに、再生帯域の広さ、位置を、簡単に調整することができる。
【0044】
電極層の電気抵抗および誘電層の静電容量のうち、少なくとも一方を調整することにより、スピーカー部の再生帯域の上限値を調整することができる。すなわち、電極層と誘電層とは、疑似的に、電気抵抗と静電容量とが直列接続された、ローパスフィルターを構成している(前出の式(1)参照)。
【0045】
このため、電気抵抗R、静電容量Cを調整することにより、カットオフ周波数fc、つまり再生帯域の上限値を調整することができる。電気抵抗Rは、電極層の導通経路の長さ、導通経路の横断面積(経路方向に対して直交する方向の断面積)、電極層を構成する材料の調整などにより、調整することができる。
【0046】
導通経路を長くすると電気抵抗Rが大きくなる。反対に、導通経路を短くすると電気抵抗Rが小さくなる。導通経路の横断面積を大きくすると電気抵抗Rが小さくなる。反対に、導通経路の横断面積を小さくすると電気抵抗Rが大きくなる。
【0047】
電極層を構成する材料として、導電率が高い材料を選択すると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層を構成する材料として、導電率が低い材料を選択すると、電気抵抗Rが大きくなる。電極層を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を大きくすると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を小さくすると、電気抵抗Rが大きくなる。
【0048】
静電容量は、誘電層の誘電率、電極面積(具体的には、表側または裏側から見て、表側の電極層と裏側の電極層とが重複する部分の面積)、電極間距離(具体的には、誘電層の表裏方向の厚さ)の調整などにより、調整することができる(前出の式(2)参照)。
【0049】
誘電層を構成する材料として、誘電率εが高い材料を選択すると、静電容量Cが大きくなる。反対に、誘電層を構成する材料として、誘電率εが低い材料を選択すると、静電容量Cが小さくなる。電極面積Sを大きくすると静電容量Cが大きくなる。反対に、電極面積Sを小さくすると静電容量Cが小さくなる。電極間距離dを大きくすると静電容量Cが小さくなる。反対に、電極間距離dを小さくすると静電容量Cが大きくなる。誘電層の積層数(電極層の積層数)を増加させると静電容量Cが大きくなり、電気抵抗Rは小さくなる。
【0050】
振動部の面方向のばね定数kを調整することにより、一次共振周波数f0、つまり再生帯域の下限値を調整することができる。また、振動部の質量mを調整することにより、一次共振周波数f0を調整することができる(前出の式(3)参照)。
【0051】
誘電層を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数kが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、誘電層を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数kが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0052】
電極層を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数kが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、電極層を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数kが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0053】
誘電層の積層数(電極層の積層数)を多くすると、ばね定数kが大きくなる。反対に、誘電層の積層数(電極層の積層数)を少なくすると、ばね定数kが小さくなる。誘電層の積層数(電極層の積層数)を多くすると、振動部の質量mが大きくなる。反対に、誘電層の積層数(電極層の積層数)を少なくすると、振動部の質量mが小さくなる。このように、誘電層の積層数(電極層の積層数)により、式(3)のk/mを調整することができる。
【0054】
振動部の大きさを大きくすると、振動部の質量mが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。反対に、振動部の大きさを小さくすると、振動部の質量mが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。
【発明の効果】
【0055】
本発明によると、部品点数が少なく、薄型化が簡単で、回路構成が簡単で、各々異なる再生帯域の音声を再生可能な複数のスピーカー部を有するスピーカーを提供することができる。また、本発明によると、スピーカーの有するスピーカー部の再生帯域を、簡単に調整可能な再生帯域調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第一実施形態のスピーカーの斜視図である。
【図2】図1のII−II方向断面図である。
【図3】同スピーカーの透過前面図である。
【図4】同スピーカーの分解斜視図である。
【図5】同スピーカーの振動部の分解斜視図である。
【図6】任意のスピーカー部の音圧レベルの周波数分布の模式図である。
【図7】本実施形態のスピーカーの音圧レベルの周波数分布の模式図である。
【図8】第二実施形態のスピーカーの前後方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明のスピーカーおよび再生帯域調整方法の実施の形態について説明する。
【0058】
<第一実施形態>
[スピーカーの構成]
まず、本実施形態のスピーカーの構成について説明する。図1に、本実施形態のスピーカーの斜視図を示す。図2に、図1のII−II方向断面図を示す。図3に、同スピーカーの透過前面図を示す。図4に、同スピーカーの分解斜視図を示す。なお、図2においては、説明の便宜上、誘電層20、電極層21、22の上下方向(表裏方向)の厚さを誇張して示す。また、図3においては、説明の便宜上、電極層21にハッチングを施す。また、絶縁シールド層95、枠部7を透過して示す。
【0059】
図1〜図4に示すように、スピーカー1は、振動部2と、内側スピーカー部3と、中間スピーカー部4と、外側スピーカー部5と、保持部6と、枠部7と、回路部8と、一対の絶縁シールド層95と、を備えている。内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5は、各々、本発明の「スピーカー部」の概念に含まれる。
【0060】
(振動部2、絶縁シールド層95)
図5に、本実施形態のスピーカーの振動部の分解斜視図を示す。図5に示すように、振動部2は、五層の誘電層20と、六層の電極層21、22と、を備えている。これら五層の誘電層20、六層の電極層21、22は、前方から後方に向かって、交互に積層されている。具体的には、五層の誘電層20、六層の電極層21、22は、前方から後方に向かって、電極層21→誘電層20→電極層22→誘電層20→電極層21→誘電層20→電極層22→誘電層20→電極層21→誘電層20→電極層22の順に配置されている。互いに配置パターンの異なる電極層21と電極層22とは、誘電層20を挟んで、前後方向に隣り合っている。
【0061】
誘電層20は、H−NBR(水素化ニトリルゴム)製であって円形の膜状を呈している。電極層21は、シリコーンゴム中に銀粉末が充填された柔軟導電材料製であって膜状を呈している。電極層21は、前から一層目、三層目、五層目の誘電層20の前面に配置されている。具体的には、電極層21は、柔軟導電材料を含む塗料が誘電層20の前面に塗布(例えばスクリーン印刷など)されることにより、形成されている。
【0062】
電極層21は、内側電極部21aと、外側電極部21bと、を備えている。内側電極部21aは、内側部21aaと、外側部21abと、端子部21acと、を備えている。内側部21aaは、円形を呈している。内側部21aaは、誘電層20の径方向中心に配置されている。外側部21abは、リング状を呈している。外側部21abは、内側部21aaの径方向外側に配置されている。端子部21acは、左右方向(径方向)に延在する帯状を呈している。端子部21acは、内側部21aaと外側部21abとを連結している。
【0063】
外側電極部21bは、本体部21baと、端子部21bcと、を備えている。本体部21baは、リング状を呈している。本体部21baは、内側電極部21aの径方向外側に配置されている。内側電極部21aの内側部21aa、内側電極部21aの外側部21ab、外側電極部21bは、同心円状に配置されている。端子部21bcは、右側に突出するタブ状を呈している。
【0064】
電極層22は、前から二層目、四層目の誘電層20の前面、および前から五層目の誘電層20の後面に配置されている。電極層21と電極層22との構成、材質、配置方法は同じである。また、前方(表側)または後方(裏側)から見て、電極層21と電極層22との配置パターンは、左右反対である。
【0065】
電極層22は、内側電極部22aと、外側電極部22bと、を備えている。内側電極部22aは、内側部22aaと、外側部22abと、端子部22acと、を備えている。外側電極部22bは、本体部22baと、端子部22bcと、を備えている。
【0066】
一対の絶縁シールド層95は、振動部2の前後両面を覆っている。絶縁シールド層95は、H−NBR製であって円形の膜状を呈している。一対の絶縁シールド層95は、振動部2と外部との導通を遮断している。また、一対の絶縁シールド層95は、振動部2の耐久性を確保している。
【0067】
(枠部7)
図1〜図4に戻って、枠部7は、基部70と、表側二重筒部71と、裏側二重筒部72と、一対の内側共用配線部73と、一対の外側共用配線部74と、四つの内筒部用ボルト75と、四つの外筒部用ボルト76と、を備えている。内側共用配線部73、外側共用配線部74は、各々、本発明の「共用配線部」の概念に含まれる。また、内筒部用ボルト75、外筒部用ボルト76は、各々、五層の誘電層20(つまり振動部2)を枠部7に取り付ける、振動部取付部材としての機能を有している。また、基部70は、エンクロージャーとしての機能を有している。
【0068】
基部70は、樹脂製であって円板状を呈している。裏側二重筒部72は、内筒部720と、外筒部721と、を備えている。内筒部720は、樹脂製であって短軸円筒状を呈している。内筒部720は、基部70の前面に配置されている。内筒部720は、基部70の径方向中心に配置されている。外筒部721は、樹脂製であって短軸円筒状を呈している。外筒部721は、基部70の前面に配置されている。外筒部721は、内筒部720の径方向外側に配置されている。内筒部720と外筒部721とは、同心円状に配置されている。
【0069】
表側二重筒部71は、内筒部710と、外筒部711と、を備えている。内筒部710は、樹脂製であって短軸円筒状を呈している。内筒部710は、裏側二重筒部72の内筒部720の前方に配置されている。内筒部710と内筒部720との間には、一対の絶縁シールド層95と振動部2とが介装されている。内筒部710の後端面は、前方の絶縁シールド層95の前面に圧接している。内筒部720の前端面は、後方の絶縁シールド層95の後面に圧接している。
【0070】
外筒部711は、樹脂製であって短軸円筒状を呈している。外筒部711は、裏側二重筒部72の外筒部721の前方に配置されている。外筒部711と外筒部721との間には、一対の絶縁シールド層95と振動部2とが介装されている。外筒部711の後端面は、前方の絶縁シールド層95の前面に圧接している。外筒部721の前端面は、後方の絶縁シールド層95の後面に圧接している。
【0071】
一対の内側共用配線部73は、各々、銅製であって丸棒状を呈している。内側共用配線部73は、内筒部710、振動部2、内筒部720に挿通されている。図2に示すように、右側の内側共用配線部73は、三層の電極層21の端子部21acを、貫通している。すなわち、右側の内側共用配線部73は、三つの端子部21acに、電気的に接続されている。
【0072】
これに対して、左側の内側共用配線部73は、三層の電極層22の端子部22acを、貫通している。すなわち、左側の内側共用配線部73は、三つの端子部22acに、電気的に接続されている。
【0073】
一対の外側共用配線部74は、各々、銅製であって丸棒状を呈している。外側共用配線部74は、外筒部711、振動部2、外筒部721に挿通されている。図2に示すように、右側の外側共用配線部74は、三層の電極層21の端子部21bcを、貫通している。すなわち、右側の外側共用配線部74は、三つの端子部21bcに、電気的に接続されている。
【0074】
これに対して、左側の外側共用配線部74は、三層の電極層22の端子部22bcを、貫通している。すなわち、左側の外側共用配線部74は、三つの端子部22bcに、電気的に接続されている。
【0075】
四つの内筒部用ボルト75は、内筒部710に、周方向に90°ずつ離間して配置されている。四つの内筒部用ボルト75は、図4に示すように、各々、内筒部710、五層の誘電層20、内筒部720を介して、基部70に螺着されている。四つの内筒部用ボルト75の締結力により、内筒部710と内筒部720との間に、振動部2が挟持、固定されている。
【0076】
四つの外筒部用ボルト76は、外筒部711に、周方向に90°ずつ離間して配置されている。四つの外筒部用ボルト76は、図4に示すように、各々、外筒部711、五層の誘電層20、外筒部721を介して、基部70に螺着されている。四つの外筒部用ボルト76の締結力により、外筒部711と外筒部721との間に、振動部2が挟持、固定されている。
【0077】
(保持部6)
保持部6は、内側保持体60と、外側保持体61と、を備えている。内側保持体60は、ウレタン発泡体製であって、短軸円柱状を呈している。内側保持体60は、内筒部720の径方向内側に配置されている。内側保持体60の前面は、後方の絶縁シールド層95の後面に当接している。
【0078】
外側保持体61は、ウレタン発泡体製であって、短軸円筒状を呈している。外側保持体61は、内筒部720の外周面と外筒部721の内周面との間に配置されている。外側保持体61の前面は、後方の絶縁シールド層95の後面に当接している。外側保持体61と内側保持体60とは、同心円状に配置されている。
【0079】
(内側スピーカー部3)
図2、図3に示すように、内側スピーカー部3は、前方または後方から見て、三つの内側電極部21aの内側部21aaと、三つの内側電極部22aの内側部22aaと、五層の誘電層20の径方向中心部と、が重複する部分に配置されている。前方または後方から見て、内側スピーカー部3は円形を呈している。内側スピーカー部3の再生帯域は、後述する再生帯域調整方法により、高周波数帯域(高音領域)に設定されている。
【0080】
(中間スピーカー部4)
図2、図3に示すように、中間スピーカー部4は、前方または後方から見て、三つの内側電極部21aの外側部21abと、三つの内側電極部22aの外側部22abと、五層の誘電層20の径方向中間部と、が重複する部分に配置されている。前方または後方から見て、中間スピーカー部4はリング状を呈している。中間スピーカー部4は、内側スピーカー部3の径方向外側に配置されている。中間スピーカー部4の再生帯域は、後述する再生帯域調整方法により、中周波数帯域(中音領域)に設定されている。
【0081】
(外側スピーカー部5)
図2、図3に示すように、外側スピーカー部5は、前方または後方から見て、三つの外側電極部21bの本体部21baと、三つの外側電極部22bの本体部22baと、五層の誘電層20の径方向外側部と、が重複する部分に配置されている。前方または後方から見て、外側スピーカー部5はリング状を呈している。外側スピーカー部5は、中間スピーカー部4の径方向外側に配置されている。外側スピーカー部5の再生帯域は、後述する再生帯域調整方法により、低周波数帯域(低音領域)に設定されている。内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5は、同心円状に配置されている。
【0082】
(回路部8)
図2に示すように、回路部8は、直流バイアス電源80と、交流電源81と、を備えている。直流バイアス電源80は、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5に、直流のバイアス電圧を印加している。交流電源81は、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5に、再生対象となる音声に基づく交流電圧を印加している。すなわち、直流バイアス電源80と交流電源81とは、直流バイアス電圧と交流電圧とを重畳して、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5に印加している。
【0083】
直流バイアス電源80の正極側は、交流電源81を介して、左側の内側共用配線部73に接続されている。すなわち、直流バイアス電源80の正極側は、三つの内側電極部22aに接続されている。また、直流バイアス電源80の正極側は、交流電源81を介して、右側の外側共用配線部74に接続されている。すなわち、直流バイアス電源80の正極側は、三つの外側電極部21bに接続されている。
【0084】
これに対して、直流バイアス電源80の負極側は、右側の内側共用配線部73に接続されている。すなわち、直流バイアス電源80の負極側は、三つの内側電極部21aに接続されている。また、直流バイアス電源80の負極側は、左側の外側共用配線部74に接続されている。すなわち、直流バイアス電源80の負極側は、三つの外側電極部22bに接続されている。
【0085】
[スピーカーの動き]
次に、本実施形態のスピーカーの動きについて説明する。スピーカー1に音声信号が入力されると、交流電源81の交流電圧が変化する。このため、上下方向に誘電層20を挟んで隣り合う電極層21、22間の静電引力が変化する。したがって、誘電層20の上下方向の厚さが変化する。すなわち、誘電層20が振動する。よって、内側スピーカー部3から音声の高音部分が、中間スピーカー部4から音声の中音部分が、外側スピーカー部5から音声の低音部分が、各々再生される。
【0086】
[再生帯域調整方法]
次に、本実施形態の再生帯域調整方法について説明する。内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5の再生帯域は、個別に調整される。図6に、任意のスピーカー部の音圧レベルの周波数分布の模式図を示す。
【0087】
図6に示すように、再生帯域Lの下限値は、一次共振周波数f0である。これに対して、再生帯域Lの上限値は、カットオフ周波数fcである。このため、一次共振周波数f0とカットオフ周波数fcとの間隔を広げることにより、再生帯域Lを広げることができる。また、一次共振周波数f0を下げることにより、再生帯域Lを低周波数側に広げることができる。また、カットオフ周波数fcを上げることにより、再生帯域Lを高周波数側に広げることができる。また、一次共振周波数f0およびカットオフ周波数fcを下げることにより、再生帯域Lを低周波数側に移動させることができる。また、一次共振周波数f0およびカットオフ周波数fcを上げることにより、再生帯域Lを高周波数側に移動させることができる。
【0088】
このように、一次共振周波数f0、カットオフ周波数fcのうち、少なくとも一方を調整することにより、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5に、所望の再生帯域を設定することができる。
【0089】
具体的には、前出の式(1)に示すように、電極層21、22の電気抵抗Rおよび誘電層20の静電容量Cのうち、少なくとも一方を調整することにより、カットオフ周波数fcを調整することができる。すなわち、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5の再生帯域Lの上限値を調整することができる。
【0090】
電極層21、22の電気抵抗Rは、電極層21、22の導通経路の長さ、導通経路の横断面積(経路方向に対して直交する方向の断面積)、電極層21、22を構成する材料の調整などにより、調整することができる。
【0091】
導通経路を長くすると電気抵抗Rが大きくなる。反対に、導通経路を短くすると電気抵抗Rが小さくなる。導通経路の横断面積を大きくすると電気抵抗Rが小さくなる。反対に、導通経路の横断面積を小さくすると電気抵抗Rが大きくなる。
【0092】
電極層21、22を構成する材料として、導電率が高い材料を選択すると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層21、22を構成する材料として、導電率が低い材料を選択すると、電気抵抗Rが大きくなる。電極層21、22を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を大きくすると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層21、22を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を小さくすると、電気抵抗Rが大きくなる。
【0093】
前出の式(2)に示すように、誘電層20の静電容量Cは、誘電層20の誘電率ε、電極面積S(具体的には、表側または裏側から見て、表側の電極層21と裏側の電極層22とが重複する部分の面積)、電極間距離d(具体的には、誘電層20の上下方向の厚さ)の調整などにより、調整することができる。
【0094】
誘電層20を構成する材料として、誘電率εが高い材料を選択すると、静電容量Cが大きくなる。反対に、誘電層20を構成する材料として、誘電率εが低い材料を選択すると、静電容量Cが小さくなる。電極面積Sを大きくすると静電容量Cが大きくなる。反対に、電極面積Sを小さくすると静電容量Cが小さくなる。電極間距離dを大きくすると静電容量Cが小さくなる。反対に、電極間距離dを小さくすると静電容量Cが大きくなる。
【0095】
振動部2の面方向(上下方向に対して直交する方向)のばね定数kを調整することにより、一次共振周波数f0、つまり再生帯域の下限値を調整することができる。また、振動部2の質量mを調整することにより、一次共振周波数f0を調整することができる(前出の式(3)参照)。すなわち、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5の再生帯域Lの下限値を調整することができる。
【0096】
誘電層20を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数kが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、誘電層20を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数kが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0097】
電極層21、22を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数kが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、電極層21、22を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数kが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0098】
誘電層20の積層数(電極層21、22の積層数)を多くすると、ばね定数kが大きくなる。反対に、誘電層20の積層数(電極層21、22の積層数)を少なくすると、ばね定数kが小さくなる。誘電層20の積層数(電極層21、22の積層数)を多くすると、振動部2の質量mが大きくなる。反対に、誘電層20の積層数(電極層21、22の積層数)を少なくすると、振動部2の質量mが小さくなる。このように、誘電層20の積層数(電極層21、22の積層数)により、式(3)のk/mを調整することができる。
【0099】
振動部2の大きさを大きくすると、振動部2の質量mが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。反対に、振動部2の大きさを小さくすると、振動部2の質量mが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。
【0100】
保持部6を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、振動部2のばね定数が大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、保持部6を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、振動部2のばね定数が小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0101】
図7に、本実施形態のスピーカーの音圧レベルの周波数分布の模式図を示す。図7に示すように、再生帯域調整方法を実施することにより、低周波数側から高周波数側に、外側スピーカー部5の再生帯域(低周波数帯域)LLと、中間スピーカー部4の再生帯域(中周波数帯域)LMと、内側スピーカー部3の再生帯域(高周波数帯域)LHと、を繋げることができる。このため、本実施形態のスピーカー1は、フルレンジの音声を再生することができる。
【0102】
[作用効果]
次に、本実施形態のスピーカーおよび再生帯域調整方法の作用効果について説明する。本実施形態のスピーカー1は、誘電層20と複数の電極層21、22とにより、音声を再生することができる。すなわち、特許文献1に記載のスピーカーのように、圧電素子(電極層−圧電材−電極層)−振動板(電極層−基板−電極層)−圧電素子(電極層−圧電材−電極層)といった、複雑な構造は、本実施形態のスピーカー1には不要である。このため、部品点数が少なくなる。また、前後方向の厚さを小さくすることができる。つまり、薄型化が可能である。また、軽量化が可能である。また、特許文献1に記載のスピーカーのように、敢えて抵抗部を配置する必要がない。このため、部品点数が少なくなる。また、特許文献1に記載のスピーカーのように、抵抗部を直列接続する電極と、抵抗部を接続しない電極と、を区別して配置する必要がない。このため、回路構成が簡単である。
【0103】
また、本実施形態のスピーカー1によると、振動部2は、H−NBR製の誘電層20と、柔軟導電材料製の電極層21、22と、を有している。このため、本実施形態のスピーカー1は、永久磁石やボイスコイルを有する従来のダイナミック型スピーカーユニットと比較して、薄型化が可能である。また、軽量化が可能である。
【0104】
また、本実施形態のスピーカー1によると、単一の誘電層20により、三つのスピーカー部(内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5)を設定することができる。内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5は、各々、異なる再生帯域の音声を再生可能である。このため、高周波数帯域や低周波数帯域など、再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する場合と比較して、スピーカー1を小型化することができる。また、スピーカー1を軽量化することができる。また、単一のスピーカー1により、フルレンジの音声を再生することができる。
【0105】
また、高周波数帯域専用のスピーカーの場合、低周波数帯域の音声を遮断するために、別途ハイパスフィルターを配置する必要がある。反対に、低周波数帯域専用のスピーカーの場合、高周波数帯域の音声を遮断するために、別途ローパスフィルターを配置する必要がある。これに対して、本実施形態のスピーカー1によると、別途、フィルターを配置する必要がない。つまり、周波数遮断用の専用回路を、別途設ける必要がない。このため、再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する場合と比較して、部品点数が少なくなる。また、回路構成が簡単である。
【0106】
また、本実施形態のスピーカー1は、保持部6を備えている。保持部6は、振動部2を後方から保持している。このため、誘電層20、電極層21、22が柔軟かつ薄膜状であるにもかかわらず、誘電層20、電極層21、22に、しわが入りにくい。
【0107】
また、保持部6は、ウレタン発泡体製である。このため、保持部6は、多数の空孔を備えている。また、保持部6は柔軟である。したがって、巨視的には、誘電層20、電極層21、22にしわが入らないように、誘電層20、電極層21、22をしっかりと保持することができる。また、微視的には、誘電層20、電極層21、22の微細な振動を規制しにくい。このため、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5の音声再生を、保持部6が阻害しにくい。
【0108】
また、本実施形態のスピーカー1によると、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5は、同心円状に配置されている。このため、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5を振動部2の面方向に並べて配置する場合と比較して、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5の設置スペースを小さくすることができる。このため、スピーカー1を小型化することができる。また、スピーカー1を軽量化することができる。
【0109】
また、本実施形態のスピーカー1は、枠部7を備えている。内筒部710、720は、内側スピーカー部3の周縁を固定している。内筒部710、720および外筒部711、721は、中間スピーカー部4および外側スピーカー部5の周縁を固定している。このため、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5を確実に振動させることができる。また、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5を保持することができる。
【0110】
また、本実施形態のスピーカー1は、内側共用配線部73、外側共用配線部74を備えている。内側共用配線部73、外側共用配線部74は、各々、極性(正極、負極)が共通する複数の内側電極部21a、22a、外側電極部21b、22bに対して、共用化されている。このため、極性が共通する複数の内側電極部21a、22a、外側電極部21b、22bに対して、個別に配線部を配置する場合と比較して、配線部の数が少なくなる。
【0111】
また、本実施形態のスピーカー1によると、電極層21、22は、電極材料が誘電層20に塗布されることにより、形成されている。このため、電極層21、22の形成と電極層21、22の配置とを同時に行うことができる。
【0112】
また、本実施形態の再生帯域調整方法によると、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5ごとに、再生帯域LH、LM、LLの上限値、下限値を、簡単に調整することができる。すなわち、内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5ごとに、再生帯域LH、LM、LLの広さ、位置を、簡単に調整することができる。
【0113】
<第二実施形態>
本実施形態のスピーカーおよび再生帯域調整方法と、第一実施形態のスピーカーおよび再生帯域調整方法との相違点は、振動部が単層の誘電層を備えている点である。また、二つのスピーカー部が配置されている点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
【0114】
図8に、本実施形態のスピーカーの前後方向断面図を示す。なお、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0115】
図8に示すように、電極層21は、内側電極部21aと、外側電極部21bと、を備えている。内側電極部21aは、円形を呈している。内側電極部21aは、誘電層20の径方向中心に配置されている。外側電極部21bは、リング状を呈している。外側電極部21bは、内側電極部21aの径方向外側に配置されている。内側電極部21aと外側電極部21bとは、同心円状に配置されている。
【0116】
電極層21と電極層22との構成、材質、配置方法は同じである。また、前方(表側)または後方(裏側)から見て、電極層21と電極層22との配置パターンは、左右反対である。電極層22は、内側電極部22aと、外側電極部22bと、を備えている。
【0117】
一対の内側配線部93は、各々、銅製であって丸棒状を呈している。内側配線部93は、内筒部710、振動部2、内筒部720に挿通されている。図8に示すように、右側の内側配線部93は、内側電極部21aに電気的に接続されている。左側の内側配線部93は、内側電極部22aに電気的に接続されている。右側の外側配線部94は、外側電極部21bに電気的に接続されている。左側の外側配線部94は、外側電極部22bに電気的に接続されている。
【0118】
直流バイアス電源80の正極側は、交流電源81を介して、左側の内側配線部93に接続されている。すなわち、直流バイアス電源80の正極側は、内側電極部22aに接続されている。また、直流バイアス電源80の正極側は、交流電源81を介して、右側の外側配線部94に接続されている。すなわち、直流バイアス電源80の正極側は、外側電極部21bに接続されている。
【0119】
これに対して、直流バイアス電源80の負極側は、右側の内側配線部93に接続されている。すなわち、直流バイアス電源80の負極側は、内側電極部21aに接続されている。また、直流バイアス電源80の負極側は、左側の外側配線部94に接続されている。すなわち、直流バイアス電源80の負極側は、外側電極部22bに接続されている。
【0120】
内側スピーカー部3は、前方または後方から見て、内側電極部21aと、内側電極部22aと、誘電層20の径方向中心部と、が重複する部分に配置されている。前方または後方から見て、内側スピーカー部3は円形を呈している。内側スピーカー部3の再生帯域は、高周波数帯域(高音領域)に設定されている。
【0121】
外側スピーカー部5は、前方または後方から見て、外側電極部21bと、外側電極部22bと、誘電層20の径方向外側部と、が重複する部分に配置されている。前方または後方から見て、外側スピーカー部5はリング状を呈している。外側スピーカー部5の再生帯域は、中低周波数帯域(中低音領域)に設定されている。
【0122】
本実施形態のスピーカー1および再生帯域調整方法と、第一実施形態のスピーカー1および再生帯域調整方法とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態のように、振動部2が単層の誘電層20を備えていてもよい。また、本実施形態のように、二つのスピーカー部(内側スピーカー部3、外側スピーカー部5)を配置してもよい。本実施形態のスピーカー1によると、さらに薄型化が可能である。また、さらに軽量化が可能である。
【0123】
<その他>
以上、本発明のスピーカーおよび再生帯域調整方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0124】
誘電層20に対する電極層21、22の配置方法は特に限定しない。例えば、誘電層20とは別に作製した電極層21、22(例えば原反シートを裁断して作製する)を、誘電層20に接着してもよい。こうすると、電極層21、22を、しっかりと誘電層20に固定することができる。
【0125】
内筒部用ボルト75、外筒部用ボルト76の配置数は特に限定しない。外筒部用ボルト76の配置数を、内筒部用ボルト75の配置数よりも、多くしてもよい。また、ボルト以外の締結具(クランプ部材、クリップ、ピンなど)を用いて、枠部7に振動部2を固定してもよい。また、枠部7の裏側二重筒部72と基部70とは一体物であってもよい。また、基部70は配置しなくてもよい。
【0126】
また、電極層21、22、誘電層20の層数は特に限定しない。また、スピーカー部(内側スピーカー部3、中間スピーカー部4、外側スピーカー部5)の配置数も特に限定しない。
【0127】
誘電層20の材質は特に限定しない。エラストマー製または樹脂製であればよい。例えば、誘電率の高いエラストマーを用いることが好ましい。具体的には、常温における誘電率(100Hz)が2以上、さらには5以上のエラストマーが好ましい。例えば、エステル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アミド基、スルホン基、ウレタン基、ニトリル基等の極性官能基を有するエラストマー、あるいは、これらの極性官能基を有する極性低分子量化合物を添加したエラストマーを採用するとよい。H−NBR以外の好適なエラストマーとしては、シリコーンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。また、好適な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン(架橋発泡ポリスチレンを含む)、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。絶縁シールド層95の材質は特に限定しない。上記誘電層20と同様の材質としてもよい。
【0128】
電極層21、22の材質は、特に限定しない。例えば、シリコーンゴム、アクリルゴム、H−NBR中に銀粉末、カーボンが充填された柔軟導電材料製としてもよい。電極層21、22を金属や炭素材料から形成してもよい。伸縮性を付与するという観点から、例えば、金属等をメッシュ状に編むことにより、電極層21、22を形成することができる。また、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電性高分子から、電極層21、22を形成してもよい。また、バインダーと導電材とを含む柔軟導電材料を採用する場合、バインダーには、エラストマーを用いることが好ましい。エラストマーとしては、例えば、シリコーンゴム、NBR、EPDM、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等が好適である。また、導電材としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金等の金属材料、酸化インジウム錫(ITO)や、酸化チタン、酸化亜鉛にアルミニウム、アンチモン等の他金属をドーピングしたもの等の導電性酸化物の中から、適宜選択すればよい。導電材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。保持部6の材質は、特に限定しない。例えば、保持部6を連泡発泡ウレタンから形成してもよい。
【符号の説明】
【0129】
1:スピーカー、2:振動部、3:内側スピーカー部(スピーカー部)、4:中間スピーカー部(スピーカー部)、5:外側スピーカー部(スピーカー部)、6:保持部、7:枠部、8:回路部。
20:誘電層、21:電極層、21a:内側電極部、21aa:内側部、21ab:外側部、21ac:端子部、21b:外側電極部、21ba:本体部、21bc:端子部、22:電極層、22a:内側電極部、22aa:内側部、22ab:外側部、22ac:端子部、22b:外側電極部、22ba:本体部、22bc:端子部、60:内側保持体、61:外側保持体、70:基部、71:表側二重筒部、72:裏側二重筒部、73:内側共用配線部(共用配線部)、74:外側共用配線部(共用配線部)、75:内筒部用ボルト、76:外筒部用ボルト、80:直流バイアス電源、81:交流電源、93:内側配線部、94:外側配線部、95:絶縁シールド層。
710:内筒部、711:外筒部、720:内筒部、721:外筒部。
L:再生帯域、LH:再生帯域、f0:一次共振周波数、fc:カットオフ周波数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー製または樹脂製の誘電層と、該誘電層の表裏両面に配置される複数の電極層と、を有する振動部と、
表側または裏側から見て、該誘電層の表面の該電極層と、該誘電層と、該誘電層の裏面の該電極層と、が重複する部分に配置され、各々、音声の再生帯域が異なる複数のスピーカー部と、
を備えるスピーカー。
【請求項2】
前記振動部の裏面に当接する保持部を備える請求項1に記載のスピーカー。
【請求項3】
複数の前記スピーカー部は、同心円状に配置される請求項1または請求項2に記載のスピーカー。
【請求項4】
前記電極層は、内側電極部と、内側電極部の径方向外側に配置される外側電極部と、を有し、
該内側電極部の外径は、1mm以上50mm以下であり、
該外側電極部の外径は、20mm以上300mm以下である請求項3に記載のスピーカー。
【請求項5】
前記スピーカー部の周縁が固定される枠部を備える請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項6】
前記振動部は、N(Nは3以上の整数)層の前記電極層と、N−1層の前記誘電層と、が表裏方向に積層されてなり、
該振動部を貫通し、N層の該電極層のうち、極性が共通する複数の該電極層に導通する共用配線部を備える請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項7】
前記誘電層は、ヤング率が1MPa以上20MPa以下のエラストマー製である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項8】
前記電極層は、該電極層の原料である電極材料が前記誘電層に塗布されることにより形成される請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項9】
前記電極層は、前記誘電層に接着される請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のスピーカーの、任意の前記スピーカー部の再生帯域調整方法であって、
前記電極層の電気抵抗および前記誘電層の静電容量のうち、少なくとも一方を調整することにより、再生帯域の上限値であるカットオフ周波数を調整し、
前記振動部の面方向のばね定数および該振動部の質量のうち、少なくとも一方を調整することにより、該再生帯域の下限値である一次共振周波数を調整する再生帯域調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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