説明

スプリンクラー

【課題】構造が簡単で、部品点数も少なく、かつ矩形状の散水範囲に無駄なく均等に散水することのできるスプリンクラーを提供する。
【解決手段】水噴出用の噴射管3を、水の噴出圧力により円周方向に所定角度ずつ回転駆動する回転駆動機構5を備えたスプリンクラー1において、相互に連通可能にした通水ポート22a、23aを設けた外筒22と内筒23を挿入して構成したパターンカプラ2を設け、内筒を前記噴射管と結合して回転可能に構成し、内筒を回転させることにより、内外筒に設けた通水ポートの重なり合いを変更して通水ポートの有効通水面積を噴射管の散水角度に応じて変更し、噴射水量を制御できるように、通水ポートのパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の軌道、道路、農地、グラウンド等に散水するためのスプリンクラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスプリンクラーとしては、水噴射ノズルを、水の噴射圧力を利用してブレードを回転させて、これに連結された捩じりバネを捩じり、このバネの復元力によりブレードが戻されるときに、水噴射ノズルを打撃することにより、一定角度ずつ回転させて散水を行うものが一般的である。この種類のスプリンクラーの散水の範囲は、スプリンクラーを中心とするほぼ円形となる。このため、例えば、濡雪用に散水する鉄道の軌道や道路における散水のように、散水の範囲が、矩形状にとなるような場合には、散水を必要としない範囲も散水を行うことにより、無駄に散水する水量が多くなるので、極力無駄な散水を減らすことが要求されている。また。決められた散水範囲におけるスプリンクラーの水噴射ノズルからの噴射距離の遠い、近いに関係なく全範囲を均等に散水することができるようにすることも強い要求がある。
【0003】
このような要求に応えるものとして、特許文献1〜3には、次のようなスプリンクラーが示されている。
【0004】
すなわち、特許文献1に開示されているスプリンクラーは、回転するノズルへ供給する水の量を、ノズルの回転角によって異ならせ、ノズルから近い領域に散水するときはノズルへ供給する水の量を少なくして水が近くまでしか飛ばないようにし、ノズルから遠い領域に散水するときはノズルへ供給する水の量を多くして水を遠くまで飛ばす、というものである。
【0005】
また、特許文献2に開示されているスプリンクラーは、ノズルを上下2段に配置し、上段のノズルには水を常時供給して、その噴射圧力をノズルの回転駆動に利用し、下段のノズルには水を断続的に供給して、散水範囲を所要のパターンに制限する、というものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のスプリンクラーには次のような欠点がある。すなわち、ノズルへの水供給量が多く、散水飛距離が長いときは、噴射圧力が高くなるため、ノズルを打撃回転させるブレードユニットの受ける回転力が大きくなり、大きな角度回転することにより、ノズルがブレードユニットから大きな打撃力を受けるので、ノズルの回転角度は大きくなる。一方、ノズルへの水供給量が少なく、散水距離が短いときは、水の噴射圧力が低くなるため、ブレードユニットの受ける回転力が小さくなり、回転角度が小さくなることにより、ノズルのブレードユニットから受ける打撃力が小さくなるので、ノズルの回転角度は小さくなる。そのため、単位面積当たりの散水量が、ノズルが大きい回転角度を速く回転する範囲では少なく、ノズルが小さい回転角度を遅く回転する範囲では多くなり、散水範囲内の散水にムラが生じる。
【0007】
また、特許文献2記載のスプリンクラーは、上記の欠点を解消することができるが、次のような欠点がある。すなわち、ノズルを一定角度ずつ回転させるために上段のノズルに水を常時供給することから、上段のノズルはスプリンクラーの周りの散水を必要としない範囲にも散水することになり、無効散水量を一定限度以下に減らすことができない。
【0008】
このような欠点を解決するために、特許文献3に示されるようなスプリンクラーが提案されている。
【0009】
特許文献3に示されたスプリンクラーは、下端から水が供給され、上端付近の周壁に散水方向に開口した水出口を設けた中空固定軸に、放射状に突出した複数の水噴射ノズルを有するノズルユニットを回転可能に取付け、回転するノズルユニットが周方向のどの位置にあるときでも、複数本の水噴射ノズルのうちの何れかが水を噴射するように水出口に連通されようにしたものである。これにより、ノズルユニットを一定角度ずつ安定して回転させ、かつ、散水範囲は中空固定軸の水出口が開口する方向により制限することにより、スプリンクラーの周りの散水を必要とする範囲だけにほぼ均等に散水することができるとともに、無効散水量を少なくできるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平04−134445号公報
【特許文献2】特開平09−248493号公報
【特許文献3】特開2010−058016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、前記特許文献3に示されたスプリンクラーにおいても、複数本の水噴射ノズルを備えるものであるので、構造が複雑で部品点数も多く、また、矩形状の散水範囲には均等に散水することが困難であるという等の問題がある。
【0012】
そこで、この発明は、このような問題を解決して、構造が簡単で、部品点数も少なく、かつ矩形状の散水範囲に無駄なく均等に散水することのできるスプリンクラーを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するために、この発明は、水噴出用のノズル体を、水の噴出圧力により円周方向に所定角度ずつ回転駆動する回転駆動機構を備えたスプリンクラーにおいて、水供給管に結合される円筒状のパターンカプラを設け、このカプラ内に給水空間を介して外筒を挿入固定し、この外筒内に回転可能に内筒を挿入し、この内筒の先端に、噴射ノズルを備えた噴射管を結合し、前記外筒および内筒に前記給水空間と連通可能に通水ポートを設け、前記外筒および内筒の一方に設ける第1の通水ポートは、所定の均等な間隔で設けられた幅がほぼ一定で上下の軸線方向に長く延びた複数の縦長孔で構成し、他方に設ける第2の通水ポートは、前記第1の通水ポートの縦長孔の上下方向の長さとほぼ同じか、これより短い長さに上下の軸線方向に延びた縦長孔と、この縦長孔から両側に前記第1の通水ポートの間隔とほぼ等しい長さに水平の円周方向に延びた横長孔とを交差して重ね合わせた複合形状の複数の孔で構成したことを特徴とするものである。
【0014】
この発明においては、前記第2の通水ポートの縦長孔の幅は、前記第1の通水ポートの縦長孔の幅より広くするのがよい。
【0015】
また、前記第2の通水ポートの横長孔の左右の軸線方向の高さを同じでなく何れか一方を他方より大きくすることができる。
【0016】
さらに、前記回転駆動機構が設定された回転角度で回転を反転させる反転機構および、前記回転駆動機構の回転量を制限する回転制限機構を備えるのがよい。
【発明の効果】
【0017】
この発明のように、パターンカプラ内に挿入された外筒と内筒に設ける通水ポートの形状を、一方は上下方向に延びた幅がほぼ一定の縦長孔とし、他方を縦長孔と横長孔とを交差して重ね合わせた複合形状の孔とすることにより、簡単な構造で、スプリンクラーからの噴射水量を噴射管の回転角度に応じて散水範囲の形状に見合った散水量に調整することが可能となるため、矩形状の散水範囲に無駄なく均等に散水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施例のスプリンクラーの構成を示すもので、(a)は平面図、(b)は半部を縦断面図として示す正面図である。
【図2】この発明の実施例のスプリンクラーの主要部であるパターンカプラの構成を示す縦断面である。
【図3】この発明の実施例のスプリンクラーのパターンカプラを構成する外筒の構成図であり、(a)は平面図、(b)は縦断面図、(c)は、(b)のc−c線に沿う横断面図である。
【図4】この発明の実施例のスプリンクラーのパターンカプラ部を構成する内筒の構成図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)のb−b線に沿う横断面図である。
【図5】この発明の第1の実施例のスプリンクラーの外筒と内筒に設けた通水ポートを示す展開図である。
【図6】この発明の第1の実施例のスプリンクラーの散水動作の説明図である。
【図7】この発明の第2の実施例のスプリンクラーの外筒と内筒に設けた通水ポートを示す展開図である。
【図8】この発明の第2の実施例のスプリンクラーの散水動作の説明図である。
【図9】この発明のスプリンクラーによる散水範囲の説明図であり、(A)は、この発明の第1の実施例により散水形状の説明図、(B)は、この発明の第2の実施例により散水形状の説明図である。
【図10】この発明のスプリンクラーの第1の回転角の範囲の回転動作の説明図である。
【図11】この発明のスプリンクラーの第2の回転角の範囲の回転動作の説明図である。
【図12】この発明の改良されたスプリンクラーの第2の回転角の範囲の回転動作の説明図である。
【図13】この発明の第3の実施例のスプリンクラーの外筒と内筒に設けた通水ポートを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施の形態を図に示す実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
まず、この発明の第1の実施例について図1〜図5に基づいて説明する。
【0021】
図1〜図5において、1は、スプリンクラーであり、このスプリンクラー1は、図示しない給水管に基端部をねじ込んで結合することにより立設し、散水パターンを形成するパターンカプラ2と、このカプラ2に回転可能に結合された噴射管3と、噴射管3の水の噴射圧力で回転し、噴射管3を所定角度ずつ回転駆動する回転駆動機構5を備える。スプリンクラー1には、その外に、噴射管3の回転を所定の角度、例えば180°の範囲で反転させるための反転機構7と、回転駆動機構5のブレード51の回転角を制限する回転制限機構8が結合されている。
【0022】
パターンカプラ2は、図2に詳細を示すように、円筒状のカプラ本体21と、この本体21内に挿入され、ねじ結合により固定された円筒状の外筒22と、この外筒22内に回転可能に挿入された円筒状の内筒23および内筒23の基端にねじ結合された通水栓24とで構成されている。
【0023】
通水栓24には、中心に適宜の大きさの通水孔24aが設けられており、これによりベースとなる噴射水量が決定される。そして、外筒22および内筒23の周壁には、互いに対向する位置に、散水パターンを形成するための所望のパターンの孔で形成された通水ポート22aおよび23aが設けられ、カプラ本体21の通水空間と連通する。
【0024】
このパターンカプラ2に回転可能に設けられた内筒23の先端に噴射管3の基端部32をねじ込み固定することにより、噴射管3を内筒23に一体に連結する。このため、噴射管3は、内筒23とともにパターンカプラ2に回転可能に支持される。内筒23に結合された噴射管3の基端部32と外筒22の先端との間にコイルバネ34を介装させて、外筒22に適当な押圧力を加えることにより、内筒23および噴射管3に適宜の回転制動力を与える。
【0025】
また、カプラ本体21と外筒22との間にOリングからなるパッキン25をし、そして、外筒22と内筒23との間には弾性パッキン26を介装することにより、カプラ21における、各筒間の隙間からの漏水が防止される。
【0026】
噴射管3は、管本体31の上端に所定の仰角で傾斜して形成された先端部に、水を絞り込んで噴射する水噴射ノズル33を結合している。
【0027】
噴射管3を回転駆動する回転駆動機構5は、噴射管3の頂部36に回転可能に支持されたブレード51と、このブレード51の先端に結合され、噴射管3のノズル33から噴射される水の噴射圧力を受けて駆動力を発生する受圧体52とを備える。ブレード51の噴射管本体31に嵌合されたボス部53の上には、コイル状バネからなる復元バネ54が配設され、その一端が噴射管3から延長された固定軸37に結合され、他端がブレード51のボス部53に結合される。復元バネ54の上部には、水がかからないようにプラスチック製のキャップ56が被せられている。
【0028】
反転機構7は、反転レバー71と、反転角度の設定を行う角度設定レバー75および76を備えているが、これ自身は、特許文献1等により公知のものであるので、詳細な説明は省略する。
【0029】
回転制限機構8は、調節ねじで構成したストッパ81を備える。このストッパ81は、回転駆動機構5のブレード51がノズル33から噴射される水の噴射圧力により回動される角度がこのストッパ81によって設定された角度以上なると、ブレード51に設けた突起58がこのストッパ81に当たって、この設定角度以上に回動されないように回転を制限するものである。
【0030】
なお、ストッパ81は、調節ねじで構成されているため、これをねじ込んだり、戻したりしてその先端の突出長さを調節することによって、ブレード51の突起58と当たる回転角、すなわちブレード51の回転制限角を設定することができる。
【0031】
このように構成されているこの発明の第1の実施例のスプリンクラー1は、散水範囲を、縦がDで、横が縦の2倍の2Dの長方形に設定したものである。このスプリンクラー1のパターンカプラ2の外筒22および内筒23に設けられた通水ポート22aおよび23aのパターンの具体的な第1の実施例を図5に示す。この図5は、外筒22および内筒23の円筒周壁の通水ポート22aおよび23aの設けられた部分を展開して示すものである。
【0032】
ここでは、外筒22に設けた通水ポート22aのパターンは、外筒の軸方向に向いた縦長孔と円周方を向いた横長孔とを交差して重ね合わせて略T字形としているが、このパターンに限られるものでなく、例えば、図13に示すように十字形を変形したパターンであっても構わない。通水量の調整を細かく行うためには、この通水ポート22aの縦長孔部分又は、横長孔部分の辺を筒の軸線方向又は直径方向に対して傾斜させておくのがよい。また、通水ポート22aは4個設けられ、交互に向きを上下に反転させて90°の均等間隔で配置する。そして、円周方向を向いた横長孔部分の長さL22は、配置間隔Pと等しい長さとし、垂直の縦長孔部分の長さ(高さ)H22は、内筒23に設けられた通水ポート23aの長さ(高さ)H23と等しいか、これより少し小さく選んでいる。そして幅W22は、内筒23の通水ポート23aの幅W23の1.5倍以上の大きさに選んでいる。
【0033】
内筒23に設ける通水ポート23aは、180°の間隔で2個設けている。これは、噴射水量を増やすために、4個設けることもできる。パターンは、単純な内筒の軸方向を向いた縦長孔としているが、これに限られるのでなく、複数の丸孔を複数個、複数列に軸方向(垂直方向)に並置した形状であってもよい。この通水ポート23aの開口面積(≒高さH23×幅W23)は、所望する最大散水量に基づいて決定される。
【0034】
このように構成されたスプリンクラー1の基本的な散水動作は次のとおりである。
【0035】
すなわち、図1におけるパターンカプラ2に、図示しない給水管から水が供給されると、カプラ本体21の給水空間の水が、外筒22および内筒23の通水ポート22aおよび23aを通して、内筒23へ供給される。内筒23へ供給された水は、これに連通結合された噴射管3の管本体31を通して、先端のノズル33により絞り込まれて、圧力を高められてから周囲へ噴射放出される。ノズル33から噴射された水は、回転駆動機構5のブレード51の先端に取り付けられた受圧体52に当たる。受圧体52は、噴射された水の噴射圧力の反力により反時計方向の回転駆動力を発生する。この回転駆動力によりブレード51が、このときの駆動力に対応した回転角度だけ回転し、復元バネ54をそのバネ力に抗して捩じり、復元力を発生させる。
【0036】
ブレード51が回転することにより、受圧体52は、噴射水からの受圧がなくなるので、今度は、復元バネ54の復元力によりブレード51が時計方向に回転駆動され、ブレードの先端部51aが噴射管3の突起35を打撃する。この打撃により、噴射管3が打撃力に対応した角度だけ時計方向に回転する。そして、受圧体52が元の位置に戻り、再び、水の噴射圧力を受けて、ブレード51を前述と同様に回転させ、噴射管3の突起35を打撃する動作を繰り返し、噴射管3が所定角度ずつ回転しながら水を噴射して散水する。
【0037】
噴射管3の回転角度が、予め角度設定レバー75および76により設定された角度、例えば180°に達すると、噴射管3に一体に結合された反転機構7の反転レバー71が、一方の角度設定レバー75に当たり、この反転機構7が作動するので、噴射管3は今度はここから反対に反時計方向に回転駆動されるようになり、元の位置へ戻る。噴射管3が元の位置に戻ると、反転機構7の反転レバー71が、他方の角度設定レバー76に当たって、反転動作を停止し、再び正転動作へ移行し、以後この動作を繰り返し行う。
【0038】
これにより、ノズル33から決められた散水範囲に水を噴射し、均等に散水を行うことができる。
【0039】
次に、このような構成の第1の実施例のスプリンクラーの散水動作を図6および図9に基づいて説明する。
【0040】
図9の(A)は、この発明の実施例1のスプリンクラーによる散水範囲を説明する図である。この図における縦がDで、横が2Dの長方形の枠W1が、散水範囲を示している。この枠W1の下辺の中央のP点にスプリンクラー1を設置し、このスプリンクラーの噴射管3を0°から180°の範囲で回転させて、長方形の枠W1内散水を行うものである。
【0041】
このために、前記したように、パターンカプラ2の外筒22および内筒23に図5に示すようなパターンの通水ポート22aおよび23aを設けている。
【0042】
このようなパターンカプラ2を備えたスプリンクラー1が噴射管3を回転させて散水を行う際の、外筒22と内筒23の回転角度ごとの通水ポート22a,23aの位置関係を図6に示す。この図6における角度は噴射管3の散水角度を示しており、図9(A)に1点鎖線で示す水の放射角度と一致する。この図6は、上段に内外筒22、23の通水ポート部分を水平に切断した断面図を、そして下段に同様に内外筒の通水ポート部分を筒の内側から円周方向に展開した展開図を示している。
【0043】
角度0°、すなわち、図9の散水範囲を示す長方形の枠W1の左側の下辺上が原点位置0°でここから散水を開始する。この位置では、図6の0°に示すように、内筒23の通水ポート23a-1および23a-2が、外筒22の上下の通水ポート22a-1,22a-3および左右の通水ポート22a-2,22a-4の境界部分に対向するため、展開図に示されるように、縦長の長孔で構成された内筒23の通水ポート23a-1の上下端部が、それぞれ外筒22の通水ポート22a-1と22a−2の横長孔部分の端部に重なり合う状態にある。このときの通水ポートの有効通水面積は黒く塗りつぶして示すように小面積S0となる。このときの有効通水面積S0は、スプリンクラー1の置かれたP点から、0°の放水線上の散水範囲の枠Wの左辺までの距離だけ飛ばすことのできる噴射水量に対応した通水面積となる。
【0044】
次に、噴射管3が時計方向に15°回転すると、散水方向が図9(A)の15°の放水線上を向くようになる。このとき、内筒23も一緒に回転するので、図6の15°の位置に示すように、内筒23の通水ポート23a−1(23a−2)が、外筒22の通水ポート22a-2(22a−4)から外れ、通水ポート22a−1(22a−3)の横長孔の端部にだけに重なり合うようになる。この時の有効通水面積は、噴射水が図9(A)に示すように、P点から、15°の線が枠Wの左辺に接する点まで届く噴射水量に対応する面積S15に増加する。
【0045】
噴射管3がさらに15°回転して、30°の位置にくると、散水方向は、図9の30°の放水線上を向く。噴射管3の回転とともに内筒23が回転し、内筒の通水ポート23a−1(23a−2)の一部が、図6の30°の位置の図に示すように外筒22の通水ポート22a−1(22a−3)の縦長孔部分に重なり合う位置へくるので、さらに有効通水面積がS30に増加し、噴射水が30°の放水線上の枠Wの左辺まで散水されるようになる。
【0046】
さらに、45°の位置まで噴射管3が回転すると、内筒23の通水ポート23a−1(23a−2)が、図6の45°の位置の図に示すように、外筒22の通水ポート22a−1(22a−3)と完全に重なり合う位置にくるので、さらに有効通水面積がS45まで増大し噴射水量が最大となる。このときの噴射水量は、45°の回転位置に置いては、図9(A)の45°の放水線で示すように枠Wの対角点までの最大距離を飛ばすことが可能な量となるように内外筒の通水ポートのパターンの大きさ(面積)が選ばれている。
【0047】
この後、回転が進むと、スプリンクラー1からの放水距離が、図9(A)に示すように、この位置から90°の位置までは、次第に減少する。90°の回転位置の放水距離は、0°の回転位置における放水距離と等しくなる。これに合わせて、内外筒の通水ポートの相対的な回転位置が図6の60°〜90°までの図に示すように、前記と丁度反対の経過をたどるので、内外筒の通水ポート間の有効通水面積は次第に減少し、噴射水の飛距離を減少させることができる。
【0048】
90°から180°までの回転範囲の動作は、0°から90°までの回転動作の繰り返しとなる。
【0049】
したがって、実施例1のスプリンクラーによれば、噴射管3を回転駆動機構5により所定角度ずつ回転させて散水することにより、長方形の散水範囲に、噴射管3の各回転角度に対する長方形の散水予定枠W1内の放水距離の変化に対応して内外筒の相互の通水ポートの重なり合いを調整して有効通水面積を変更することができるので、長方形の散水範囲内にこれをはみ出することなく、ほぼ均一に散水することができ、無駄な散水を抑えて散水効率を高めることができる。
【0050】
ところで、この実施例1のスプリンクラーにおいては、噴射管3の回転角度が0°〜30°の範囲にあるときと、30°〜60°の範囲にあるときとでは、0°〜30°のときの方が、噴射水量が少なく、30°〜60°のときの方が噴射水量が多くなるので、噴射管3の回転速度および進み角度に差が生じる。
【0051】
噴射管3の回転角度が0°〜30°の範囲における噴射管3および回転駆動機構の動きを図10に、そして噴射管3の回転角度が30°〜60°の範囲における噴射水圧力も高めにある状態での噴射管3および回転駆動機構の動きを図11示す。
【0052】
図10において、(a)は、噴射管3の回転開始位置にある状態を示す。水の噴射を開始すると、ノズル33から噴射された噴射水が回転駆動機構5の受圧体52に当たり、水の噴射圧力に応じてブレード51が反時計方向の駆動力を受けるので、これが、回転駆動機構5のここには図示しない復元バネのバネ力に抗して(b)に示すように回動し、(c)に示す、復元バネのバネ力と平衡する回転角xの位置まで回転する。
【0053】
このブレード51の回転によって復元バネが捩じられることにより発生する復元バネの復元力がブレード51に作用し、今度は、ブレード51が(d)に太線矢印で示すように時計方向に回転される。この回転によって、ブレード51が(e)に示すように戻され、噴射管3の突起35に当たり、これを打撃するため、噴射管3がブレード51とともに、(f)に示すように打撃力に見合った位置まで時計方向に回動し、角度αだけ回転する。噴射管3は、このような回転動作を繰り返して所定角度ずつ回転する。
【0054】
次に、噴射水量の多くなる30°〜60°の範囲においては、図11に示すように回転動作が行われる。
【0055】
図11の(a)は、回転開始位置であり、噴射管3と回転駆動機構5とが重なり合っている。ノズル33からの噴射水が回転駆動機構5の受圧体52に当たると、噴射水圧力により、ブレード51が反時計方向に回転駆動される。このときは、前記図10について説明した場合より噴射水量が多くなっているので、水の噴射圧力も高くなり、ブレード51はそれに見合った大きな駆動力で回転されるので、(b),(c)の状態を経て、(d)に示すように、回転開始位置からほぼ90°の回転角yの位置まで大きく回転して、復元バネのバネ力と平衡する。これにより、復元バネはより大きく捩じられることにより、大きな復元力を発生する。
【0056】
今度は、復元バネの大きな復元力により、この(d)に示す位置から、ブレード51を時計方向に回転駆動するので、ブレード51は、(e),(f)の状態を経て、(g)に示すようにブレード51が噴射管3の突起35に当たる位置まで一気に回転し、噴射管3を大きな打撃力で叩くので、噴射管3は、ブレード51とともに(h)に示すように角度βの位置まで大きく回転し、次の回転動作を開始する。
【0057】
前記の説明から明らかであるように、噴射水量の少ない範囲における噴射管3の回転角度αに対して、噴射水量の多い範囲における噴射管3の回転角度βは大きくなり、場合によってはαの2倍以上に大きくなることもある。
【0058】
このように噴射水量の多くなる30°〜60°の回転範囲においては、噴射管3の回転を大きな回転角度で進めるので、散水範囲が広くなるが、面積当たりの散水量が、噴射水量の少ない0°〜30°回転範囲での散水に比して少なくなるので、散水量に不均一が生じることになる。
【0059】
この発明においては、このような不都合を解消して、長方形の散水範囲に均一に散水することができるようにするためにこの実施例1に設けられたのが回転制限機構8である。
【0060】
この回転制限機構8を設けたスプリンクラー1の噴水量の多い回転角度30°〜60°の範囲における回転動作を図12に示すので、これについて説明する。
【0061】
この図における(a)に示す位置から回転動作が開始される。この位置において、噴射管3のノズル33から噴射された水が回転駆動機構5の受圧体52に当たると、その噴射水圧力によりブレード51が反時計方向に回転駆動される。これによりブレード51は、(b),(c)に太線矢印で示すように回転して、(d)に示す、ストッパ81のねじ込み量によって設定された回転制限角zの位置まで回転するとブレード51の突起58が回転制限機構8のストッパ81に当たり、回転が止められる。これと同時に、ブレード51の突起58がストッパ81に当たったとき、これを打撃するので、回転制限機構8とともにこれと一体となった噴射管3が、(e)に示すように、反時計方向に僅かな角度γだけ戻され、ストッパ81がブレード51の突起58から離間する。
【0062】
ここから、ブレード51が、復元バネの復元力により時計方向に回転駆動されるので、(f)の状態を経て、(g)に示すように、噴射管3の突起35に当たる位置までこれが回転し、噴射管3を打撃する。これにより、噴射管3がブレード51とともに(h)に示す位置まで回転し、次の回転動作を開始する。このときの噴射管3の回転進み角度は、θとなる。この進み角度θは、調節ねじで構成されたストッパ81のねじ込み量を調整してその先端位置を調整することによって、前記の噴射水量の少ないときの進み角度αと大差ない値とすることが可能となる。これは、(d)に示すストッパ81によるストッパ81による設定回転制限角zを、図10(c)に示す、噴射水量少ない範囲におけるブレード51の回転角xとほぼ等しくなるように設定することにより実現できる。
【0063】
またストッパ81の位置の調整は、スプリンクラーの設置現場の環境、すなわち、その現場における給水圧力等に合わせた調整や、スプリンクラーの製造誤差によって生じる個体差を解消するための微調整でも行うことができる。そして、このストッパ81は、ストッパ81の先端とブレード51の突起との間隔を調整できればよいので、調節ねじ以外のこの間隔の調整可能な機構を使用することができる。
【0064】
このように、噴射管3に回転制限機構8を取り付けることにより、噴射水量が多く、噴射圧力が高い回転範囲においては、回転駆動機構5のブレード51の大きな回転を、途中でストッパ81に当てて止めるとともに、噴射管3の進み角度を一部戻すことができるので、噴射管3の時計方向への回転進み角度を抑制することができる。このため、散水範囲が長方形のような矩形であっても、噴射管の回転の進み角度を回転範囲の全体にわたった比較的均等にすることができるので、全体の散水量を均一にすることができる。
【実施例2】
【0065】
前記の実施例1のスプリンクラーは、横方向(回転角0°の方向)の散水距離と縦方向(回転角90°方向)の散水距離とを等しくしたものであるが、実施例2は、これを縦横方向の散水距離を異ならせることができるように改良したものである。
【0066】
図7にこの発明の第2の実施例による内外筒に設ける通水ポートのパターンを示す。
【0067】
この実施例2にける内筒23の通水ポート23bは、実施例1の内筒23の通水ポート23aと同じパターンを有し、縦(内筒23の軸方向)に長い長孔で形成され、180°間隔で2個設けられる。
【0068】
外筒22の通水ポート22bは、実施例1の外筒22の通水ポート22a(図5参照)と同じく90°間隔で4個設けられているが、パターンは、次のように異なっている。すなわち通水ポート22bは、実施例1の通水ポート22aと同じく横長の長孔と縦長の長孔をT字形に重ね合わせた形状を有するが、横長の長孔部分の右端側が、左端側より軸方向高さが高く形成されており、左右非対称のパターンとなっている点が実施例1の通水ポート22aとは異なる。ちなみに、実施例1の通水ポート22aは、左右対称のパターンとなっている。
【0069】
このように、外筒22に設けられた通水ポート22bが左右非対称のパターンに形成されると、図8に示すように、噴射管3の0°(180°)の噴射位置においては、内筒23の通水ポート23bが、外筒22の通水ポート22bと、その横長孔部分の軸方向高さの低い方の左端部に重なる。そして、噴射管3の90°(270°)の噴射位置においては、内筒23の通水ポート23bが、外筒22の通水ポート22bの横長孔部分の軸方向高さの高い方の右端部に重なり合うので、有効通水面積(図8における黒で塗り潰した部分の面積)が90°の回転位置の方が、0°の回転位置の方より大きくなる。したがって、この実施例2のスプリンクラーにおいては、90°の回転位置での噴射水量が、0°の回転位置での噴射水量より大きくなる。
【0070】
このため、図9(B)に示すように、0°の散水位置での散水距離はDとなるが、90°の散水位置では、散水距離がD+Aの距離に増大する。
【0071】
このように、実施例2のスプリンクラーによれば、横方向には距離Dの散水ができ、縦方向にはこの距離DよりAだけ大きい距離まで散水することができるようになり、散水範囲を図8に示すように、横2D×縦D+Aの長方形の枠W2とすることできる。
【実施例3】
【0072】
この発明の第3の実施例を図13に示す。この図13は、外筒22および内筒23に設ける通水ポートを円周方向に展開して示すものである。
【0073】
内筒23に設ける通水ポート23cは、軸方向に長い縦長孔であり、前記の実施例1および2お内筒23の通水ポート23aおよび23bと同じパターンであるが、90°間隔で4個設けられている点が、異なる。
【0074】
外筒22に設ける通水ポート22cは、軸方向に長い縦長孔と円周方向に長い横長孔を十字に重ね合わせた形状にしている。この通水ポート22cも90°間隔で4個設けられているが、横長孔部分の円周方向の長さは、外筒22の90°ピッチの長さより短い長に選ばれ、隣り合う通水ポートが連通さないようにしている。
【0075】
この実施例3のスプリンクラーにおいても、内筒22が外筒22に対して相対的に回転することにより、内筒23の通水ポート23cが外筒22の通水ポート22c上を走査することなり、内筒23の回転角に応じて、通水ポート23cの通水ポート22cと重なり合って有効通水面積が変化させることができ、噴射水量の調整を行うことができる。
【0076】
内筒23の回転角度0°、90°、180°および270°において、内筒23の通水ポート23cが外筒22の通水ポート22cの縦長孔部分全体に重なり合うことにより、最大の有効通水面積となるので、噴射水量が最大となり、最大散水距離を得ることができる。
【0077】
そして、内筒23の回転角度が、45°、135°、225°および315°になったときに、内筒23の通水ポート23cがそれぞれ、外筒22の各通水ポート22cの間に位置し、隣り合う通水ポート22cの横長孔の端部にと重なり合い、最小の有効通水面積となり、最小の噴射水量となる。
【0078】
内筒23の回転角度が前記の角度の間で変化することにより、通水ポート23cと通水ポート22cとの重なりが変化することにより、有効通水面積が、最大から最小へあるいは、最小から最大へと変化し、散水範囲の形状に合わせて噴射水量を調節することができる。
【0079】
この実施例3も、矩形の散水範囲に均等な散水を行うことができる。
【符号の説明】
【0080】
1:スプリンクラー
2:パターンカプラ
3:噴射管
33:水噴射ノズル
5:回転駆動機構
51:ブレード
52:受圧体
7:反転機構
8:回転制限機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水噴出用のノズル体を、水の噴出圧力により円周方向に所定角度ずつ回転駆動する回転駆動機構を備えたスプリンクラーにおいて、水供給管に結合される円筒状のパターンカプラを設け、このカプラ内に給水空間を介して外筒を挿入固定し、この外筒内に回転可能に内筒を挿入し、この内筒の先端に、噴射ノズルを備えた噴射管を結合し、前記外筒および内筒に前記給水空間と連通可能に通水ポートを設け、前記外筒又は内筒の一方に設ける第1の通水ポートは、所定の均等な間隔で設けられた幅がほぼ一定で上下の軸線方向に長く延びた複数の縦長孔で構成し、前記外筒又は内筒の他方に設ける第2の通水ポートは、前記第1の通水ポートの縦長孔の上下方向の長さとほぼ同じか、これより短い長さに上下の軸線方向に延びた縦長孔と、この縦長孔から両側に前記第1の通水ポートの間隔とほぼ等しい長さに水平の円周方向に延びた横長孔とを交差して重ね合わせた複合形状の複数の孔で構成したことを特徴とするスプリンクラー。
【請求項2】
請求項1に記載のスプリンクラーにおいて、前記第2の通水ポートの縦長孔の幅を、前記第1の通水ポートの縦長孔の幅より広くしたことを特徴とするスプリンクラー。
【請求項3】
請求項1に記載のスプリンクラーにおいて、前記第2の通水ポートの横長孔の左右の幅を何れか一方が他方より広くしたことを特徴とするスプリンクラー。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のスプリンクラーにおいて、前記回転駆動機構が設定された回転角度で回転を反転させる反転機構を備えたことを特徴とするスプリンクラー。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載されたスプリンクラーにおいて、前記回転駆動機構の回転量を制限する回転制限機構を備えたことを特徴とするスプリンクラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−22481(P2013−22481A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156709(P2011−156709)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(592031318)富士古河E&C株式会社 (7)
【Fターム(参考)】