説明

スポッター及び反応検出チップ

【課題】分散性の低い粒子が添加されたスポッティング液を良好にスポッティングすることが可能なスポッター及び該スポッターを用いて作製された反応検出チップを提供する。
【解決手段】本発明は、遺伝子診断及び生理機能診断等に使用される多数の機能分子の認識を可能にする反応検出チップ等を製造する際に好適に使用されるスポッター及び該スポッターを用いて作製された反応検出チップに関するものである。本発明のスポッターは、複数の粒子を含んだ液体を基板21にスポッティングするスポッティングヘッド1と、液体に運動を付与して該液体中の粒子の分散状態を維持させる運動付与機構6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子診断及び生理機能診断等に使用される多数の機能分子の認識を可能にする反応検出チップ等を製造する際に好適に使用されるスポッター及び該スポッターを用いて作製された反応検出チップに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光標識が予め付加された検体DNAを反応検出チップの表面に接触させると、この反応検出チップの表面に固定されている相補的なプローブに検体DNAが結合(ハイブリダイズ)し、蛍光標識から蛍光シグナルが発せられる。この蛍光シグナルを検出することにより、検体DNAの特定配列を同定し、かつ定量分析することができる。
【0003】
プローブと結合した検出対象からの蛍光シグナルの強度において圧倒的な優位を示す反応検出チップとして、3次元的にプローブが配置された反応検出チップが開発されている。特許文献1には、この種の反応検出チップである、多孔質粒子の細孔を含む表面にプローブを担持させ、その多孔質粒子を基板に固定する形態の反応検出チップが開示されている。
【0004】
このような形態の反応検出チップを作製する際、問題になるのが多孔質粒子の基板への固定方法である。通常、多孔質粒子を適当な液体に添加してスポッティング液を生成し、微少量のスポッティング液を接着層の形成された基板表面へスポッティングすることで、複数の多孔質粒子を集合させたスポットを基板上に形成する。しかしながら、反応検出チップに用いられる多孔質粒子は直径が1μm以上と大きいため、分散性を維持しつつスポッティングすることは困難であった。
【0005】
このような分散性の低いスポッティング液をスポッティングする場合、スポッティング液に添加物を加えて分散性を向上させる方法を採用することが一般的であった。例えば、界面活性剤をスポッティング液に添加したり、スポッティング液のpH調整をしたり、スポッティング液の粘性を高くしたりすることが行われている。しかしながら、このような方法では、添加物によりスポッティング液の性質が変化してしまい、多孔質粒子に担持されたプローブが変質したり、接着層への多孔質粒子の接着力が弱まるといった不具合が生じてしまう。
【0006】
この問題について、プローブ付き多孔質粒子を基板上に固定する方法を参照しながら具体的に説明する。
まず、プローブ付き多孔質粒子を水に分散させてスポッティング液を調合する。続いてスポッターを用いて、表面に接着層が形成された基板の上に、このスポッティング液をスポッティングしてスポットを形成する。そして、スポットの水分が蒸発した後に、基板を加温することにより接着層を軟化させ接着力を復活させて、多孔質粒子を基板上に固定する。この多孔質粒子は、一般に、直径10μm程度の多孔質ガラスであるため、水中での分散性は低く、数mm/minの速さで水中を沈降する。したがって、スポッティング液中の多孔質粒子の分散性を向上させる工夫が必要になる。
【0007】
しかしながら、スポッティング液に添加物を加えて分散性を向上させる方法では、以下の理由により新たな問題が発生することがわかっている。
スポッティング液に界面活性剤を添加する方法では、界面活性剤が接着層と多孔質粒子の界面に介在するために、多孔質粒子を固定する力が著しく弱くなってしまう。
スポッティング液のpHをアルカリ側に調整して、多孔質粒子同士をマイナスの表面電位で互いに反発させる方法では、スポッティング液を強アルカリ性にする必要があるため、プローブおよび多孔質粒子が変質してしまう。
また、スポッティング液の粘性や比重を増大させる方法では、一般にスポッティング液の蒸気圧が低下し、スポッティング後のスポットから液体成分が蒸発し難くなるため、製造効率が大幅に低下してしまう。
【0008】
このように、スポッティング液に添加物を加えることによって分散性を向上させる従来法では、反応検出チップの良好なスポットを形成することができないという問題がある。一方、スポッティング液中の多孔質粒子の分散性が低い状態のままで従来のスポッターを用いれば、多孔質粒子の密度がばらついた不安定なスポットになったり、スポッターにおいて多孔質粒子による詰まりが発生するといった問題がある。
なお、以上説明した問題点は、プローブ付き多孔質粒子を基板に固定する反応検出チップの例に限らず、ナノテクノロジーの分野で必要とされる、粒子を複数集合させたスポットをスポッターにより形成する技術一般に共通して該当することである。
【0009】
【特許文献1】特開2001−281251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した問題点を鑑みてなされたものであり、分散性の低い粒子が添加されたスポッティング液を良好にスポッティングすることが可能なスポッター及び該スポッターを用いて作製された反応検出チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した問題点を解決するために、本発明の一態様は、複数の粒子を含んだ液体を基板にスポッティングするスポッティングヘッドと、前記液体に運動を付与して該液体中の粒子の分散状態を維持させる運動付与機構とを備えたことを特徴とするスポッターである。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記液体を収容し、前記スポッティングヘッドに該液体を供給するための容器を更に備え、前記運動付与機構は、前記容器中の液体に運動を付与することを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記運動付与機構は、前記液体を収容している前記スポッティングヘッドを運動させることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記運動には、鉛直方向の振動が含まれることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記運動には、鉛直面内の回転が含まれることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記運動には、上下反転が含まれることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記運動付与機構は、前記容器に収容された液体中に気体を送り込んでバブリングすることにより、該液体中の粒子の分散状態を維持させることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記運動付与機構は、前記容器内に配置された回転子を回転させて該容器内の液体を攪拌するマグネティックスターラーであることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の態様は、上記スポッターを用いて作製されたことを特徴とする反応検出チップである。
また、本発明の他の態様は、複数の粒子を加えた液体を用意し、前記複数の粒子同士が凝集しないように該液体に運動を付与して該液体中における前記複数の粒子の分散状態を維持させ、スポッティングヘッドを用いて前記複数の粒子を含む液体を基板上に配置することを特徴とする粒子の配置方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スポッティング液に運動を付与することによって、複数の粒子同士が凝集してしまうことを防止することができる。従って、本発明によれば、スポッティング液に添加物を加えることなく粒子の分散状態を維持することができる。本発明のスポッターの最重要な適用分野である、反応検出チップ等のバイオ分野やナノテクノロジー分野では、スポッティング液の量は1ml程度と非常に少ない。したがって、スポッティング液に運動を付与するには、スポッティングヘッドを運動させるか、スポッティング液を収容する容器を運動させるか、スポッティング液にマイクロバブリングを行うか、あるいは、マイクロマグネティックスターラーを用いてスポッティング液を攪拌させる方法が好適である。
【0015】
スポッティング液中の粒子は重力の作用により沈降する。したがって、粒子の沈降を補償し、粒子の分散状態を維持するために、鉛直上向きの運動成分を粒子に与えることが重要である。運動の態様としては、鉛直方向での振動、鉛直面内での円運動(回転)、上下反転運動等が挙げられる。バブリングは、容器の底部から気体をスポッティング液中に送り込むことにより行うことができる。マグネティックスターラーによる攪拌は、この用途で使われる小さな容器の底に十分収まる、非常に小さな回転子を用いることにより行うことができる。なお、スポッティングヘッド及び容器を運動させる場合は、沈降して容器の底部に堆積した粒子を再分散させるための強い振動と、一旦分散した粒子の状態を維持するための弱い振動の2つの運動(振動)とを使い分けることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態に係るスポッターについて図面を参照して具体的に説明する。ただし、本発明は以下に記載する実施形態のみに限定されるものではない。
図1(a)は本発明の第1の実施形態に係るスポッターを示す概略平面図であり、図1(b)は図1(a)に示すスポッターの概略側面図である。
図1(a)及び図1(b)に示すように、このスポッターは、スポッティングヘッド1、基板固定部2、容器収納部3、スポッティングヘッド移動ロボット4、及びスポッティングヘッド洗浄部5の5つの部分から主に構成されている。それぞれの部分の構成及び役割を以下に記載する。
【0017】
(1)スポッティングヘッド
スポッティングヘッド1は、スポッティング液を毛管現象により吸い込むキャピラリー11を具備している。キャピラリー11は鉛直方向に延びる細い管状の部材である。このキャピラリー11の先端を基板(反応検出チップ)21の表面に接触させることによりスポッティングを行い、複数の粒子を含む液体を基板21の一部分に配置する。
(2)基板固定部
基板固定部2は、スポッティングされる複数の基板21の位置を固定するものである。
(3)容器収納部
容器収納部3には、各種スポッティング液がそれぞれ入れられた複数の円筒状の容器31が収納されている。それぞれのスポッティング液には多孔質粒子(例えば多孔質ガラス)などの粒子が含まれている。容器収納部3の下部には、スポッティング液中の粒子の分散性を維持するための運動付与機構6が設けられている。
【0018】
(4)スポッティングヘッド移動ロボット
スポッティングヘッド移動ロボット4は、スポッティングヘッド1を任意の位置へ移動させる機能を有する。水平方向に関しては、スポットのピッチに相当する位置精度、すなわち、数十μm程度の位置精度が要求される。スポッティングヘッド移動ロボット4の基本的構成は、プロッターの駆動部等に用いられる3軸(XYZ軸)ロボットと同等である。
(5)スポッティングヘッド洗浄部
スポッティングヘッド洗浄部5は、異なるスポッティング液の混合を防ぐために、キャピラリー11の内部と外部に残留するスポッティング液を洗い流すものである。このスポッティングヘッド洗浄部5は、スポッティング液を洗い流した後、キャピラリー11を乾燥させる機能も有する。
【0019】
さらに詳細な説明を必要とする構成について、以下に追記する。
・スポッティングヘッド1
図2はスポッティングヘッド1を示す拡大断面図である。スポッティングヘッド1は、上述したキャピラリー11と、このキャピラリー11の上半分を収容するケーシング13とを備えている。ケーシング13の内部にはスプリング12が内蔵されており、スプリング12によってキャピラリー11が下方に押圧されている。このスプリング12の作用により、キャピラリー11の先端面11bを基板21に押し付けたときに、キャピラリー11の基板21に対する接触力を安定させることができる。
【0020】
スポッティングヘッド1は空洞になっており、ケーシング13の上部に設けられた開口13aから空気等の気体がスポッティングヘッド1の内部に供給されるようになっている。そして、この気流の強さを調節することにより、キャピラリー11の内部のスポッティング液を完全に排除したり、上方に上がってしまったスポッティング液をキャピラリー11の先端面11bまで押し下げたりする。
【0021】
キャピラリー11の中でスポッティング液の粒子が沈降する時間内に、必要とされる個数のスポットのスポッティングを行う。粒子が沈降したらスポッティング液を捨てるか、スポッティング液を容器31に戻し、粒子分散を維持しているスポッティング液を容器31から吸い込ませ、スポッティングを継続させる。
【0022】
キャピラリー11に吸い込まれたスポッティング液の最下面がキャピラリー11の先端面11bより高くなると、キャピラリー11の先端面11bを基板21の表面に接触させてもスポッティングできないという問題が生じる。このような問題を防止するための手段として、上述した通り、開口13aから適度に空気等の気体を流入する手法もあるが、キャピラリー11の先端の、内壁11aおよびドーナツ状の先端面11bのみをキャピラリー11の他の部分よりスポッティング液に対する濡れ性を上げることにより上記問題に対処できる。
【0023】
・容器収納部3
容器31を収めた容器収納部3の全体を通常の振盪器などから構成される運動付与機構6を用いて振動させる。容器収納部3の振動方向は、図1(a)及び図1(b)の矢印に示すように、水平方向及び鉛直方向である。また、振動の強さは、スポッティング液に含まれる粒子の分散状態が維持される程度であり、これはスポッティング液中の粒子の大きさや濃度に依存する。容器31とスポッティングヘッド1との間でのスポッティング液の移行がなされる時は、容器収納部3の振動を一時的に停止させ、容器収納部3が元の位置に静止するようにする。あるいは、容器収納部3を振動させたままで、振動する各容器31の開口部が上から見て常に存在する領域内でスポッティングヘッド1のキャピラリー11が上下動するように位置合わせを行う。
【0024】
容器31の開口部に蓋を設け、容器31を運動させている時は蓋を閉めてスポッティング液の漏れを防止し、スポッティングヘッド1との間でのスポッティング液の移行がなされる時は蓋を開けるようにすれば、容器収納部3をより激しく振動させることが可能になる。更に、容器31を容器収納部3から外れないように容器収納部3に固定し、容器収納部3を鉛直面内で回転あるいは上下反転させるようにすれば、鉛直面内での回転あるいは上下反転という粒子分散維持のための運動を各容器31に付与することも可能になる。
【0025】
・スポッティングヘッド洗浄部5
エタノールの入っている洗浄容器51からエタノールをキャピラリー11に毛管現象を利用する等して吸い込ませる。その後、スポッティングヘッド1を除去エリア52へ移動させ、スポッティングヘッド1の開口13aに向けて空気等の気体を強く吹き付けることにより、エタノールを一気に排出させキャピラリー11の内部および外部の洗浄を行う。その後、更に気体を吹き付けてキャピラリー11の内部および外部を乾燥させる。
【0026】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態の基本的な構造は第1の実施形態と同様であるが、本実施形態のスポッティングヘッド1はピンのタイプである。このピンには、スポッティング用の通常の市販品を用いることができる。
【0027】
まず、濡れ性を利用してピン先にスポッティング液を付着させる。続いて、ピン先を基板21に接触させることによりスポットを形成する。1つのスポットを形成したら、ピン先をスポッティングヘッド洗浄部5において超音波洗浄し、乾燥させる。そして、新たなスポットを形成する場合は、スポッティング液のピン先への付着、ピン先の基板21への接触を必要に応じて繰り返す。
【0028】
この方法は、スポッティング液のスポッティングヘッド1への一回の補給につき1つのスポットしか形成できないので、処理時間は長くなる。しかしながら、この方法は、ばらつきの少ない安定したスポットを形成する確実な方法である。スポッティング液の性状、形成するスポットのサイズに合わせて、ピン先の形状、サイズ、及び材質を決定することが大切である。
【0029】
次に、本発明の第3の実施形態について図3(a)及び図3(b)を参照して説明する。なお、本実施形態の基本的な構造は第1の実施形態と同様であるが、本実施形態のスポッターはスポッティングヘッド内のスポッティング液を振動させる運動付与機構を備えている。
【0030】
本実施形態は、第1の実施形態の構成に対し、スポッティングヘッド1を上下反転させる機能を追加したものである。図3(a)及び図3(b)に示すように、スポッティングヘッド1は上下反転板(運動付与機構)306に固定されている。この上下反転板306は、図示しないモータなどの駆動源に連結されており、駆動源によって上下反転板306が軸307を中心に鉛直面内で右回り及び左回りに交互に半回転ずつ回転するようになっている。この上下反転は、スポッティング動作の合間に行われ、キャピラリー11の中におけるスポッティング液の粒子の分散状態が維持される程度に行われる。具体的には、スポッティングを30秒間行い、続いて20秒間スポッティングを中断して上下反転動作を2秒に1回の割合で行う。
【0031】
スポッティングヘッド1の上下反転運動により、キャピラリー11の中に吸い込ませたスポッティング液中の粒子の分散状態が維持されるので、スポッティング液を途中で排出する必要がない。なお、スポッティングヘッド1を運動させる方法は、上下反転運動に限られなく、鉛直面内での回転運動でも構わない。スポッティング液中の粒子は重力の作用により沈降するので、鉛直方向の振動成分がある程度以上大きいものであれば運動付与機構として適用可能である。
【0032】
次に、本発明の第4の実施形態について図4、図5(a)、及び図5(b)を参照して説明する。
本実施形態の基本的な構造は第1の実施形態とほぼ同様であるが、本実施形態のスポッターは、第3の実施形態と同様に、スポッティングヘッド内のスポッティング液を運動させる運動付与機構を備えている。
【0033】
図4に示すように、本実施形態のスポッターのスポッティングヘッド401は、スポッティング液407を溜めておくシリンダー408を有している。そして、空気等の気体をシリンダー408にチューブ409を通して送り込み、スポッティング液407に圧力を印加する。これにより、シリンダー408の下端に設けられたノズル402から微量のスポッティング液407が基板21(図1(a)参照)に噴射される。
【0034】
スポッティングヘッド401内のスポッティング液407への運動付与は、スポッティングヘッド401を鉛直面内で回転させることによりなされる。具体的には、図5(a)及び図5(b)に示すように、軸403を中心に鉛直面内で回転する回転板(運動付与機構)406にスポッティングヘッド401を固定し、チューブ409に設けられたロータリージョイント410を介して気体をシリンダー408に送り込む。回転板406は、図示しないモータなどの駆動源により回転するようになっている。
【0035】
シリンダー408へのスポッティング液407の注入は、容器31(図1(a)参照)に貯留されているスポッティング液をスポッティングヘッド401に吸引させるようにしてもよく、調合したスポッティング液407を直接シリンダー408に注入するようにしてもよい。後者の場合、静止したシリンダー408中で粒子の沈降がある程度進行してしまうことがある。その場合は、スポッティング液407中の粒子が再分散する程度に強くスポッティング液407を振動させる。本実施形態のようなシリンダー内包型のスポッティングヘッドでは、第3の実施形態に示すキャピラリー内にスポッティング液を保持するものに比べて、強い振動が与えられたときにスポッティング液が漏れてしまうことを防止する手段を講じ易い。
【0036】
スポッティングヘッド401内のスポッティング液407に運動を付与する態様は、鉛直面内での回転運動に限られなく、第3の実施形態のようにスポッティングヘッド401を上下反転させてもよい。この場合、チューブ409の長さにある程度の余裕を持たせておけば、ロータリージョイント410は不要である。スポッティング液中の粒子は重力の作用により沈降するので、鉛直方向の振動成分がある程度以上大きいものであれば運動付与機構として適用可能である。
【0037】
次に、本発明の第5の実施形態について図6を参照して説明する。本実施形態の基本的な構造は第1の実施形態と同様であるが、本実施形態は、スポッティング液中の粒子の分散性を維持するために、容器に気体を送り込んでバブリングを行うように構成されている。
【0038】
図6に示すように、容器531の底部には細管511が連結されており、この細管511を通して空気あるいは窒素等の気体が容器531内のスポッティング液507に送り込まれて気泡512が発生する。この気泡512の上昇に伴い、スポッティング液507中の沈降しつつある粒子が上昇するため、スポッティング液507中における粒子の分散性を維持することが可能になる。
【0039】
気体の送り込みに際しては、少量の気体をある程度以上の圧力で送り込むことが重要であり、チューブポンプあるいは吐出量の少ないエアーポンプにより好適に行える。気体の流量は粒子の分散性が維持できる範囲内で最小限に調整することが好ましく、この気体の流量は、粒子の大きさ、比重、濃度、分散に用いられる液の比重等に依存する。気泡の大きさを決定する、細管511の内径は、粒子の良好な分散状態が実現できるように適宜選択される。または、細管511の先端部に多孔質のフィルターを付けて、気泡の大きさを調整してもよい。
【0040】
気体の送り込みを止めた時、スポッティング液507が細管511に毛管現象により引き込まれることを防止するために、細管511はスポッティング液507に対して濡れ性の低い材質から形成されていることが好ましい。また、バブリングを行う際に、粒子の分散に用いられる液の蒸発の助長が一般的に問題になる。このような問題を防止するためには、その液の気化成分を多量に含んだ気体を送り込むようにすればよい。例えば、その液が水であれば、水蒸気を多量に含んだ湿った空気を送り込むことで上記問題が解決される。
【0041】
次に、本発明の第6の実施形態について図7を参照して説明する。本実施形態の基本的な構造は第1の実施形態と同様であるが、本実施形態は、スポッティング液中の粒子の分散性を維持するために、マグネティックスターラーによりスポッティング液の攪拌を行うように構成されている。
【0042】
図7に示すように、円筒状の容器631内に貯留されたスポッティング液607中にはマイクロ回転子613が配置されており、マイクロ回転子613は容器631の底部に接している。このマイクロ回転子613は、磁石の外面をフッ素樹脂で被覆したものであり、直径2mm×高さ2mm程度の円柱形状を有している。このマイクロ回転子613の大きさは容器631の底部の内径よりも小さく、攪拌時にマイクロ回転子613が容器631内で自由に回転できるようになっている。
【0043】
容器631は、小型のマグネティックスターラー614の上に固定されている。容器631の材質、および固定の仕方は、マグネティックスターラー614からの磁場が遮断されることがないように選択されるべきである。マグネティックスターラー614の回転速度は、スポッティング液607中の粒子の分散性が維持される最低限程度に適宜設定するようにする。攪拌能力は、マグネティックスターラー614(マイクロ回転子613)の回転速度を上げることにより向上させることができる。または、スポッティング液607中に配置されるマイクロ回転子613の数を増やすことにより攪拌能力を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1(a)は本発明の第1の実施形態に係るスポッターを示す概略平面図であり、図1(b)は図1(a)に示すスポッターの概略側面図である。
【図2】図1(b)に示すスポッティングヘッドの拡大断面図である。
【図3】図3(a)は本発明の第3の実施形態におけるスポッティングヘッドの上下反転機構を示す正面図であり、図3(b)は図3(a)に示すスポッティングヘッドの上下反転機構を示す側面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態におけるスポッティングヘッドを示す断面図である。
【図5】図5(a)は本発明の第4の実施形態におけるスポッティングヘッドの回転機構を示す正面図であり、図5(b)は図5(a)に示すスポッティングヘッドの回転機構を示す側面図である。
【図6】本発明の第5の実施形態における容器を示す断面図である。
【図7】本発明の第6の実施形態における容器及びマグネティックスターラーを示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1,401 スポッティングヘッド
2 基板固定部
3 容器収納部
4 スポッティングヘッド移動ロボット
5 スポッティングヘッド洗浄部
6 運動付与機構
11 キャピラリー
11a 内壁
11b 先端面
12 スプリング
13 ケーシング
13a 開口
21 基板
31,531,631 容器
51 洗浄容器
52 除去エリア
306 上下反転板(運動付与機構)
307,403 軸
402 ノズル
406 回転板(運動付与機構)
407,507,607 スポッティング液
408 シリンダー
409 チューブ
410 ロータリージョイント
511 細管
512 気泡
613 マイクロ回転子
614 マグネティックスターラー(運動付与機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子を含んだ液体を基板にスポッティングするスポッティングヘッドと、
前記液体に運動を付与して該液体中の粒子の分散状態を維持させる運動付与機構とを備えたことを特徴とするスポッター。
【請求項2】
前記液体を収容し、前記スポッティングヘッドに該液体を供給するための容器を更に備え、前記運動付与機構は、前記容器中の液体に運動を付与することを特徴とする請求項1に記載のスポッター。
【請求項3】
前記運動付与機構は、前記液体を収容している前記スポッティングヘッドを運動させることを特徴とする請求項1に記載のスポッター。
【請求項4】
前記運動には、鉛直方向の振動が含まれることを特徴とする請求項2又は3に記載のスポッター。
【請求項5】
前記運動には、鉛直面内の回転が含まれることを特徴とする請求項2又は3に記載のスポッター。
【請求項6】
前記運動には、上下反転が含まれることを特徴とする請求項2又は3に記載のスポッター。
【請求項7】
前記運動付与機構は、前記容器に収容された液体中に気体を送り込んでバブリングすることにより、該液体中の粒子の分散状態を維持させることを特徴とする請求項2に記載のスポッター。
【請求項8】
前記運動付与機構は、前記容器内に配置された回転子を回転させて該容器内の液体を攪拌するマグネティックスターラーであることを特徴とする請求項2に記載のスポッター。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のスポッターを用いて作製されたことを特徴とする反応検出チップ。
【請求項10】
複数の粒子を加えた液体を用意し、
前記複数の粒子同士が凝集しないように該液体に運動を付与して該液体中における前記複数の粒子の分散状態を維持させ、
スポッティングヘッドを用いて前記複数の粒子を含む液体を基板上に配置することを特徴とする粒子の配置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−53063(P2006−53063A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235221(P2004−235221)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】