説明

スラブにおける開口補強構造

【課題】スラブに開口を設けた場合において、スラブの強度低下やひび割れを効果的に防ぐことができるスラブにおける開口補強構造を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリート建築物の片持ちスラブCSに形成された開口OPを補強する補強構造であって、開口OPの周縁の構造配筋SBに補強用鉄筋が取り付けられており、補強用鉄筋は、開口OPの隅角部C近傍に設けられた斜筋DRABのみで構成されている。開口OPの隅角部Cからのひび割れCRの発生を抑えることができるし、開口OP近傍における鉄筋の密集度を低くすることができる。すると、コンクリートCCを打設したときに開口OP近傍へのコンクリートCCの流れ込みを良好な状態とすることができるので、補強用鉄筋を設けたことによるコンクリートCCの充填性の低下を防ぐことができ、開OPを設けたことによる片持ちスラブCSの強度低下も防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブにおける開口補強構造に関する。
共同住宅等の建築物や土木構造物などのコンクリート製構造物などでは、スラブを貫通する貫通孔を形成しなければならない場合がある。例えば、共同住宅等の片持ちスラブ構造を有するバルコニーには、避難用のハッチを設けるために、片持ちスラブを貫通する貫通孔が形成される。かかる貫通孔(開口)が形成されたスラブは、開口に起因する強度の低下やひび割れなどが生じる可能性がある。とくに、スラブが、一端縁が建築物の梁などと連続した固定端となり他端縁が自由端となった片持ちスラブ構造となっている場合には、その強度低下やひび割れが発生する可能性が高くなるので、開口の補強が重要である。
本発明は、スラブに開口を形成した場合における強度低下やひび割れを防止するスラブにおける開口補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図3〜図5に示すように、鉄筋コンクリート構造物における片持ちスラブCSは、主筋MBと配力筋DBを格子状に組み合わせて形成された構造配筋SBを有しており、この片持ちスラブCSに開口OPを形成する場合には構造配筋SBが切断される。このため、開口OPが形成されたことによる片持ちスラブCSの強度低下を防止するために、開口OPを設けるために切断された構造配筋SBと同量の鉄筋(補強筋RB)が開口の周囲に配筋される(非特許文献1)。
具体的には、切断された主筋MBと同量の補強筋MRBが開口OP近傍の主筋MBに取り付けられ、切断された配力筋DBと同量の補強筋DRBが開口OP近傍の配力筋DBに取り付けられる。なお、各補強筋MRB,DRBは、主筋MBおよび補強筋DBに対して、それぞれ平行に取り付けられる。
また、片持ちスラブCSに開口OPを設けた場合、開口OPの隅角部Cからひび割れCRが発生する場合があるので、このひび割れCRを抑制するために、隅角部Cの近傍には、主筋MBおよび配力筋DBに対して斜めに鉄筋(斜筋DAB)が配設される。
【0003】
しかるに、開口OPの周囲に上記のごとき補強筋RBや斜筋DABを配設した場合には、開口OP周辺では、本来の構造配筋SB(主筋MBおよび配力筋DB)に加えて補強筋RBや斜筋DABが配置された状態となるので、開口OP周辺は鉄筋が密集した状態となる。このため、片持ちスラブCSの配筋(構造配筋SB・補強筋RB・斜筋DAB)を設置後、コンクリートCCを打設したときに、かかる鉄筋が密集した部分では、コンクリートCCが流れ込みにくく、コンクリートCC中に空隙Vができ、コンクリートCCの充填性が低下する場合がある。コンクリートCCの充填性が低下すると、コンクリートCCの強度が低下するだけでなく、ひび割れCRが発生しやすくなる。つまり、スラブの強度低下防止およびひび割れ防止のために補強筋RBや斜筋DABを取り付けたことによって、かえってスラブの強度を低下させひび割れが生じやすくなる状況とさせる可能性がある。
【0004】
これまでもスラブに形成された開口を補強する技術が種々開発されている(例えば、特許文献1、2)。
特許文献1には、開口と相似形となるように鉄筋を折り曲げて補強鉄筋を形成し、この補強鉄筋が開口を囲むように配置する技術が開示されている。
また、特許文献2には、面外剪断力及び面外曲げを受けるコンクリート造のフラットスラブに形成された開口の開口縁に沿って、フラットスラブの上端筋と下端筋との間に位置する複数の平行な縦筋の外周をスパイラル筋又はフープ筋で巻いて、フラットスラブの上端筋及び下端筋と接する高さを有する剪断補強筋を設ける技術が開示されている。
【0005】
しかるに、特許文献1の技術は、開口の周囲に開口と相似形の補強鉄筋を設けただけであるので、コンクリートの充填性が低下することはないが、補強鉄筋は単に開口の周囲を囲んでいるだけなので、その配置構造では、ひび割れを十分に抑制することが難しい。
また、特許文献2の技術では、開口周囲の縦筋にスパイラル筋又はフープ筋で巻いて剪断補強筋を形成しているので、特許文献1の補強鉄筋に比べて鉄筋量の不足によるスラブの強度低下を防ぐことができる可能性はある。しかし、スパイラル筋やフープ筋を配置したことによってコンクリートが流れ込みにくくなるので、コンクリートの充填性が低下する可能性がある。したがって、特許文献2の技術では、コンクリートの充填不足によるコンクリートの強度の低下に起因するスラブの強度低下やひび割れを防ぐことはできない。
【0006】
現在のところ、片持ちスラブに限らず、スラブに開口を設けた場合において、スラブの強度低下やひび割れを効果的に防ぐことができる開口の補強構造がなく、かかる補強構造が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4―189954号公報
【特許文献2】特開2005―220703号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説”、日本建築学会、2003、pp246-247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、スラブに開口を設けた場合において、スラブの強度低下やひび割れを効果的に防ぐことができるスラブにおける開口補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明のスラブにおける開口補強構造は、鉄筋コンクリート構造物のスラブに形成された開口を補強する補強構造であって、前記開口の周縁の構造配筋に補強用鉄筋が取り付けられており、該補強用鉄筋は、前記開口の隅角部近傍に設けられた斜筋のみで構成されていることを特徴とする。
第2発明のスラブにおける開口補強構造は、第1発明において、前記斜筋は、前記構造配筋の主筋の直径が10〜13mmの場合には、その直径が該主筋と同径以上であり、前記構造配筋の主筋の直径が13mmよりも太い場合には、その直径が13mmよりも太いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、補強用鉄筋として開口の隅角部近傍に斜筋が設けられているので、開口隅角部からひび割れが発生することを抑制することができる。しかも、補強用鉄筋として斜筋だけしか取り付けられていないので、開口近傍における鉄筋の密集度を低くすることができる。すると、コンクリートを打設したときに開口近傍へのコンクリートの流れ込みを良好な状態とすることができるので、補強用鉄筋を設けたことによるコンクリートの充填性の低下を防ぐことができる。したがって、コンクリートの充填性の低下に起因するスラブの強度低下も防ぐことができる。そして、補強用鉄筋が多すぎることに起因する、鉄筋とコンクリートの付着切れなどの発生も防止することができる。
第2発明によれば、構造配筋について、過度に太いものではなく、合理的かつ経済的な太さのものを配置することによってスラブのひび割れを防ぐことができ、しかも、スラブの充填性が低下することを防ぐことができる。そして、補強用鉄筋が過度に太い場合に生じる、鉄筋とコンクリートの付着切れなどの発生も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のスラブSにおける開口補強構造の概略平面説明図である。
【図2】本実施形態のスラブSにおける開口補強構造を採用した、開口OPを有する片持ちスラブCSの概略説明図である。
【図3】従来のスラブSにおける開口補強構造の概略平面説明図である。
【図4】従来のスラブSにおける開口補強構造を採用した、開口OPを有する片持ちスラブCSの概略説明図である。
【図5】従来のスラブSにおける開口補強構造を採用した、開口OPを有する片持ちスラブCSの概略断面図である。
【図6】実施例に使用した供試体の概略説明図であって、(A)は概略平面図であり、(B)は概略側面図である。
【図7】実施例に使用した供試体の配筋状態の概略説明図であって、(A)は開口の補強状態の概略説明平面図であり、(B)は補強を取り付ける構造配筋の概略説明図である。
【図8】各開口の隅角部近傍をX線撮影した結果を示した図である。
【図9】(A)は初期のひび割れ状況を示した図であり、(B)は時間経過後のひび割れ状況を示した図である。
【図10】コンクリートのひずみ測定位置を示した図である。
【図11】コンクリートのひずみ測定の結果を示した図である。
【図12】鉄筋のひずみ測定の結果を示した図である。
【図13】供試体の製造に使用したコンクリートの材料、調合割合、物性値の表である。
【図14】(A)は円柱試験体の概要図であり、(B)は円柱試験体の鉄筋断面積比である。
【図15】(A)はコンクリートの乾燥収縮に与える鉄筋の影響を確認した試験の結果(コンクリートの長さ変化率)を示した図であり、(B)はコンクリートの乾燥収縮に与える鉄筋の影響を確認した試験の結果(鉄筋のひずみ)を示した図である。
【図16】供試体(L400)の表面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のスラブにおける開口補強構造は、鉄筋コンクリート建築物のスラブに開口を形成した場合において、開口を形成したことに起因するスラブの強度低下やひび割れの発生を抑制することができるようにしたものであり、開口が設けられる箇所の鉄筋の配置に特徴を有するものである。
【0014】
まず、本発明のスラブにおける開口補強構造を説明する前に、スラブに発生するひび割れの原因について簡単に説明する。
【0015】
(温度ひび割れ)
コンクリートが打設された直後は、水和反応にともなうコンクリートの発熱によって、躯体の温度は上昇するが、躯体の外表面部は周辺環境に晒されていることから、躯体の内部と外部において温度差、すなわち温度勾配が発生し、それによってコンクリート中に曲げ応力(俗に,温度応力とも言う)が生じることでひび割れが生じる。かかるひび割れが温度ひび割れであり、このひび割れを抑止することは、困難である。
【0016】
(乾燥収縮ひび割れ)
水和反応が終息した後も、躯体の内部と外部では、湿度の差が生じる。つまり、内部は完全には乾かず、高い湿度を有するが、外部は周辺環境と接するため、特に冬場は湿度が低下し、両者に湿度差ができる。湿度が低下する場合、コンクリートは収縮するが、躯体内部では湿度が高く収縮の程度が小さいことから、躯体外部において、やはり、無数のひび割れが生じる。かかるひび割れが乾燥収縮ひび割れであり、このひび割れもまた抑止することは困難である.
【0017】
上記2つのタイプのひび割れは、躯体表面に発生することから、たとえ躯体が鉄筋コンクリート構造であったとしても、鉄筋はかぶり40mmを確保した躯体中にあるため、鉄筋はこれらの発生に対して、あまり抑止力として働かない。
【0018】
(スラブ内応力に起因するひび割れ)
一方、スラブにおいては、上記ひび割れに加え,元端(付け根部)においては、スラブ上面で引張応力状態となり、また、下面では圧縮状態となる。圧縮状態、すなわち内部応力が圧縮状態にあれば、ひび割れは発生しないが、逆に、引張状態、すなわち内部応力が引張状態にあれば、ひび割れが発生しやすくなる。
【0019】
このような、スラブが引張応力状態となることによって発生するひび割れは、上述した2つのタイプのひび割れとは異なり、適切に鉄筋を配筋することによって回避、あるいは低減が可能である。
【0020】
(スラブ内応力に起因するひび割れに与える開口の影響)
また、スラブに開口が形成されている場合には、開口周辺において、放射方向の応力が緩和される一方、円周方向の応力が高まる。しかも、開口部は、単に応力の不連続性を生み出すだけでなく、温度収縮などが起こると、円周方向では、引張応力が高まることになる。すると、開口部を形成したことによって高まる引張応力は、開口部が真円の場合には、円周方向で、力学的にはほぼ均一となるが、開口部が矩形の場合には、隅角部においてとくに引張応力が増大する傾向を有する。
【0021】
したがって、矩形の形をした開口の場合、ひび割れは、開口の隅角部周辺から発生する確率が高くなる。つまり、矩形の形をした開口では、隅角部以外でのひび割れ発生頻度が小さくなるので、この隅角部でひび割れ発生を抑止できれば、スラブとしての品質および強度を向上させることができる。
【0022】
また、線的にではなく面的に成長しようとするひび割れに対しては、鉄筋はその成長を抑止する効果を有する。開口の隅角部周辺におけるひび割れは面的に成長するので、開口の隅角部周辺におけるひび割れの成長を抑止するには、その発生あるいは成長方向に対して直角となるような鉄筋の配筋が望ましい。そして、ひび割れは、開口部が矩形の場合、開口の対角線方向に進展することが多いので、開口の対角線に対して直交する方向に配筋すれば、開口の隅角部周辺におけるひび割れの発生および成長を効果的に抑止することが可能となる。
【0023】
以上のごとく、スラブにおいてスラブ内応力に起因して発生するひび割れ、とくに開口が形成されたスラブの開口に起因して発生するひび割れは、適切に鉄筋を配筋することによって回避、あるいは低減が可能である。
本発明のスラブにおける開口補強構造は、かかるひび割れの発生を抑制することができるようにしたことに特徴を有するのであるので、以下、その開口補強構造を、図面に基づいて説明する。
【0024】
(本発明のスラブにおける開口補強構造の説明)
図2に示すように、共同住宅のバルコニーなどに採用される片持ちスラブCSは、共同住宅などの壁面Wと連続した構造を有している。なお、図2では、片持ちスラブCSの構造を分り易くするために、片持ちスラブCSの部分と共同住宅の壁面W以外の部分は省略している。
【0025】
図2に示すように、共同住宅のバルコニーでは、避難用ハッチを設けたり避難ハシゴを設けたりするために、片持ちスラブCSの上下を貫通する貫通孔が設けられることがあり、かかる貫通孔を設けた場合、片持ちスラブCSには開口OPが形成される。
なお、居住者が火災時等に避難できる方向を2つ以上選べるように、建築基準法・消防法・特定行政条例では、共同住宅のバルコニーには、避難用ハッチまたは避難ハシゴを設けることが規定されている。
【0026】
このような開口OPを設けた場合には、開口OPを設けるために構造配筋SBが切断されるため、片持ちスラブCSの強度低下やひび割れCRが発生する可能性が高くなる。
したがって、開口OPを補強するために、片持ちスラブCSの構造配筋SBを補強する補強用鉄筋が設けられる。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の片持ちスラブにおける開口補強構造では、構造配筋SBにおいて開口OPが設けられた箇所の近傍に斜筋DABだけが配置される。つまり、通常、開口OPを補強するために使用される補強筋RB(図3参照)は設けられず、斜筋DABだけが補強用鉄筋として使用されるのである。
【0028】
この斜筋DABは、コンクリートCCが打設されたときに、開口OPの隅角部Cとなる部分(4箇所)の近傍にそれぞれ配置される。各斜筋DABは、その軸方向が構造配筋SBの主筋MBおよび配力筋DBの軸方向と交差するように配設され、結束線などによって主筋MBおよび/または配力筋DBに取り付けられる。
各斜筋DABは、各斜筋DABが配置される隅角部Cとこの隅角部Cと対向する隅角部Cとを結ぶ開口部の対角線方向とほぼ直交に配設されればよい。例えば、図1であれば、対角線D1に対して、斜筋DAB1が直交するように配設される。
なお、斜筋DABと対角線方向とがほぼ直交とは、完全に直交な場合を基準として約±10度程度以下、好ましくは、±5度程度以下の状態を意味している。例えば、開口部が正方形断面であれば、開口部の対角線は構造配筋SBとほぼ45度に配置されるので、各斜筋DABを、構造配筋SBとなす角度が45±10度程度(好ましくは45±5度程度)となるように配置すればよい。
【0029】
このように、補強用鉄筋として開口OPの隅角部近傍に斜筋DABを設ければ、従来のように補強筋RB(図3参照)を設けた場合と同程度あるいはそれ以上に、開口OPの隅角部Cから発生するひび割れの形成および成長を抑えることができる(図1,4参照)。
しかも、補強用鉄筋として斜筋DABだけしか構造配筋SBに取り付けられていないので、従来のように補強筋RB(図3参照)を設けた場合に比べて、開口OPの近傍における鉄筋の密集度を低くすることができる。すると、コンクリートCCを打設したときに、開口OPの近傍において、鉄筋間の空間にコンクリートCCが流れ込み易くすることができるので、補強用鉄筋を設けても、鉄筋間へのコンクリートCCの充填性の低下を防ぐことができる。具体的には、コンクリートCC中に空隙V(図5および図8(A)参照)が形成されることを防ぐことができる。すると、コンクリートCCの充填性の低下に起因するコンクリートCCの強度低下を防ぐことができ、コンクリートCCの強度低下に起因する構造体としての片持ちスラブCSの強度低下も防ぐことができる。
そして、補強用鉄筋が多すぎることに起因するひび割れの発生や鉄筋とコンクリートCCの付着切れなどの発生も防止することができるので、補強用鉄筋を設けたことによるスラブの強度低下も防ぐことができる。
【0030】
なお、図1では、各斜筋DABがその両軸端間で真っ直ぐなものが記載されているが、各斜筋DABは曲っていてもよい。例えば、各斜筋DABを配置したときに、他の構造体(例えば柱など)と斜筋DABが干渉する場合には、他の構造体と干渉する部分を曲げてもよい。つまり、各斜筋DABは、隅角部C近傍の一定の範囲(40〜80mm程度)の長さが真っ直ぐになっていればよい。
【0031】
(斜筋DABの詳細)
補強用鉄筋として使用される斜筋DABの直径はとくに限定されない。開口OPの隅角部Cから発生するひび割れの形成および成長を適切に抑制することができる程度の直径であればよい。具体的には、斜筋DABの直径は構造配筋SBの直径と同等以上または13mm以上であればよいが、コンクリートCCが打設されたときにおけるコンクリートCCの充填性やスラブの強度維持等を考慮すれば、太すぎないほうが好ましい。例えば、構造配筋SBの主筋MBの太さが10mmであれば、斜筋DABの直径は13〜16mmが好ましく、かかる太さとしておけば、ひび割れの形成および成長を適切に抑制でき、コンクリートCCの充填性を良好に維持できると同時に、鉄筋によるコンクリートCCの拘束力を適切に維持できるので、好ましい。
【0032】
各隅角部Cの近傍に斜筋DABを配設する本数はとくに限定されず、各隅角部Cについて斜筋DABは1本でもよいし、互いに平行となるように複数本の斜筋DABを配設してもよい。
例えば、構造配筋SBの主筋MBが13mmの場合であって、開口を形成した際に主筋MBが2本切断された場合には、主筋MBよりも太い16mmの鉄筋を1本だけ斜筋DABとして用いてもよい。すると、13mmの斜筋DABを2本使用するよりも配筋間の隙間を大きくできるので、コンクリートの充填性を高めることができる。
また、構造配筋SBの主筋MBが16mmの場合であって、開口を形成した際に主筋MBが2本切断された場合には、主筋MBよりも細い13mmの鉄筋を2〜3本使用して斜筋DABとして用いてもよい。この場合も、16mmの斜筋DABを使用するよりも配筋間の隙間を大きくできるので、コンクリートの充填性を高めることができる。
そして、複数本の斜筋DABを配設する場合には、コンクリートの充填性を高める上でも、隣接する斜筋DAB同士の間隔L(図1参照)が35mm以上となるように配設されていることが好ましく、40mm以上であればより好ましい。
【実施例】
【0033】
本発明のスラブにおける開口補強構造を採用した場合において、スラブの強度およびひび割れの発生状況に与える影響を確認した。
【0034】
実験では、補強方法の異なった開口を有する実寸大の片持ちスラブ供試体を作成し、コンクリート打設から1年かけて、ひび割れ状況の観測と鉄筋およびコンクリートのひずみを計測した。
【0035】
実験で使用した供試体は、図6に示す寸法の梁付き片持ちスラブ(出寸法1.5程度)であり、開口を4か所設けたものである。
【0036】
この供試体は、図13の表1に示す材料を、図13の表2に示すように調合(JIS工場に規格されている一般的な27-18-20Nの調合)したコンクリートによって形成した。使用したコンクリートの物性値は図13の表3に示すとおりである。
供試体は、型枠内に後述するような配筋を行った後、型枠内に上記のコンクリートを打設し、その後、3日間スラブ上面から散水を行い、湿潤養生を行って形成した。湿潤養生後は、材齢28日までは型枠の底板及び側板を在置した状態で放置し、28日後に型枠の脱型及び片持ちスラブの支保工を解体した。
【0037】
供試体の形成およびこの供試体を使用した実験は全て室内で行った。室内の環境は、室内の温度及び湿度を計測して、外気温度に追従した状態に保持した。
【0038】
スラブには、図7に示すように鉄筋を配筋した(上主筋(D13@150)、下主筋(D10@150)、上下配力筋(D10@200)、鉄筋比(主筋方向0.66%・配力筋方向:0.47%))。なお、@とは鉄筋ピッチ、つまり鉄筋を配置する間隔のことである。また、図7は、配筋構造を例示するために示したものであり、鉄筋の本数および補強筋、斜筋の本数は必ずしも実際のスラブとは一致していない。
【0039】
また、スラブにおいて開口1〜3が形成される位置には、図7(A)に示すように、補強筋および斜筋による補強を行った。開口1の補強が一般的な片持ちスラブ開口の補強要領であり、開口2は開口1の補強から斜筋を除いた補強要領であり、開口3が本発明の補強要領である。なお、開口4には、補強筋等を設けた場合と比較するために、補強筋および斜筋を設けていない。
開口1、2において、補強筋は、開口を形成するために切断した鉄筋と同本数の鉄筋を、開口際の構造鉄筋の外側に配置した。つまり、開口を形成するために上下の主筋および上下の配力筋はそれぞれ2本切断されたので、上下の主筋には、開口の両側にそれぞれ各2本の鉄筋(D13)を配置し、上下の配力筋には、開口の両側にそれぞれ2本の鉄筋(D10)を配置した。
開口1、3において、斜筋は、構造鉄筋の主筋または配力筋と45度で交差するように、開口の各隅角部に、上下とも各2本の鉄筋(D13)を配置した。
【0040】
実験では、(1)X線を用いたコンクリートの可視化によるコンクリートの充填性の測定と、(2)スラブのひび割れ観測と、(3)スラブのひずみ計測と、を行って、補強状態の相違による差を確認した。
【0041】
(1)X線を用いたコンクリートの可視化
補強筋および斜筋の配設状況の相違による開口補強筋周辺のコンクリートの充填性や密実性の相違を確認するために、X線を使用した可視化観察を行った。
【0042】
撮影には、X線機器は管電圧80〜200kV、管電流3mAのX線機器(理学電機社製:型番ラジオフレックス200SPS)を使用した。
撮影箇所は、各開口の元端(梁側)内側の隅角部近傍である。
【0043】
なお、X線によるコンクリート内部の可視化は、数十ミリ程度の空隙が無い限りは、加工を加えない画像上では空隙と判別し難い。このため、X線画像の特徴である写される色の濃淡に着目して、X線画像において空隙が存在する可能性がある部分について可視化画像の色のヒストグラムをそれぞれ平滑化した画像を形成し、その部分のコンクリートの密実性を判断した。
【0044】
結果を図8に示す。
X線撮影画像では、密度の高いものは白く、密度の低いものは黒く写る。よって、通常は、鉄筋近傍では、鉄筋の影響で白っぽく写り内部では、鉄筋から遠ざかるにつれて、より黒く写る。したがって、鉄筋近傍でその部分の内側のコンクリートよりも黒く写っている部分は、密実でないか、空隙部分である可能性がある。
【0045】
図8(A)に示すように、開口1の内側元端の隅角部近傍では、範囲aについて画像を拡大し平滑化すると、左上の鉄筋が交差している鉄筋近傍の部分(範囲A)が黒くなっていることが確認された。このことから、この部分に空隙が存在している可能性があると考えられる。
また、図8(B)に示すように、開口2の内側元端の隅角部近傍では、最も色ムラがあるように思われた範囲bの部分について画像を拡大し平滑化した。しかし、拡大し平滑化した画像では、鉄筋際で黒くなっているような色のムラはさほどみられず、充填性には問題がないと考えられる。
図8(C)に示すように、開口3の内側元端の隅角部近傍では、主筋・配力筋・斜筋が交差している部分でも空隙や充填性の悪いような色ムラは見られず、範囲cについて画像を拡大し平滑化しても、空隙や充填性の悪いような色ムラは見られなかった。つまり、充填性には問題がないと考えられる。
図8(D)に示すように、開口4の内側元端の隅角部近傍では、鉄筋近傍から離れるに従い、黒く写されており、密実にコンクリートが打設されていると考えられる。
【0046】
以上のごとく、一般的な片持ちスラブ開口の補強要領である開口1の補強を行った場合には、主筋・配力筋と斜筋が混み合っている部分でコンクリートの充填性が低下する可能性があるが、本発明の開口の補強構造では、斜筋を使用してもコンクリートの充填性の低下が生じないことが確認された。
【0047】
(2)スラブのひび割れ観測
供試体の各開口周辺の表面ひび割れを、幅、長さを定期的に計測した。なお、図9には、ある程度の幅(0.04mm以上)を有するひび割れを表示している。
【0048】
図9(A)に示すように、開口1〜4の全てにおいて、内側の開口隅角部分に最初のひび割れが確認された。その後、開口1〜4では、隅角部分にひび割れが検出されたが、開口間において、ひび割れ発生時期およびそのひび割れの状況に大きな差は見られなかった。
【0049】
図9(B)に示すように、時間の経過とともに、新たなひび割れが発生したが、0.04mm以上の幅を有するひび割れはそれほど発生しなかった。一方、時間の経過とともに、初期に発生したひび割れが進展し、その長さが伸び、幅が広がった。とくに、開口1のひび割れは、長さ、幅ともに他の開口のひび割れよりも大きくなっている。しかし、開口間で、ひび割れの形成状況に大きな差はないことが確認された。
【0050】
以上のように、本発明の補強構造を採用した開口3は、一般的な片持ちスラブ開口の補強要領によって補強した開口1から補強筋を除いているが、ひび割れの進展状況に差は見られないことが確認できた。
【0051】
(3)スラブのひずみ計測
供試体の各開口の隅角部の鉄筋及びコンクリートにひずみゲージを取り付け、それぞれのひずみを計測した。
【0052】
コンクリート表面のひずみ計測には、長さ60mm、3線式の貼付ゲージ(東京測器製、型番:TL-60-11-3L)を使用し、コンクリート内部のひずみ計測には、長さ60mm、直径4mmの埋め込みゲージ(東京測器製、型番:PMFL-60-7LT)を使用した。
【0053】
なお、コンクリート内部の埋め込みゲージによるひずみ計測は、コンクリートを打設した直後から計測を開始した。
また、コンクリート表面の貼り付けゲージによるひずみ計測は、上面は材齢8日目、下面は29日目にゲージを貼り付けて計測を開始した。
【0054】
鉄筋のひずみ計測には、長さ3mm、3線式の貼付ゲージ((株)共和電業製、型番:KFG-2-120)を使用した。
【0055】
図10(A)には、コンクリートのひずみ計測を行うゲージを貼りつけた位置と、図11の凡例の解説を示している。凡例では、左から順に、開口ナンバー、貼付位置(CU:上、CC:中、CL:下)、元端or先端(f:元端、t:先端)、側面方向位置(o:外側、i:内側)が記載されている。つまり、「3CU−to」の場合であれば、ひずみ測定位置が、開口3の先端(自由端)外側の上部表面であることを意味している。
また、図10(B)には、図12に結果を示す、ひずみ計測を行った鉄筋を示す凡例の解説を示している。凡例では、左から順に、開口ナンバー、鉄筋種別(M:主筋、D:配力筋、O:斜筋)、鉄筋断面位置(U:上、C:中、L:下)、元端or先端(f:元端、t:先端)、側面方向位置(o:外側、i:内側)、隣り合う2本の補強筋位置(n:開口寄り、f:開口より外)が記載されている。つまり、「3MU−fin」の場合であれば、開口3の元端(梁側)内側の開口寄り上部に設けられている補強主筋を意味している。また、ひずみ計測を行った鉄筋が構造筋の場合には、開口ナンバーと鉄筋種別の間に、structureを表す“s”を記載している。「3sMU−fin」であれば、開口3の元端(梁側)内側の開口寄り上部に設けられている構造主筋を意味している。
図10(C)には、斜筋にゲージを貼りつけた位置を示している。
【0056】
なお、鉄筋の貼付ゲージによるひずみ計測およびコンクリート内部の埋め込みゲージによるひずみ計測は、コンクリートを打設した直後から計測を開始した。
また、コンクリート表面の貼り付けゲージによるひずみ計測は、上面は材齢8日目、下面は29日目にゲージを貼り付けて計測を開始した。
【0057】
結果を図11および図12に示す。
【0058】
図12に示すように、開口4では、構造鉄筋のひずみが開口1〜3の構造鉄筋のひずみよりもやや大きくなっている。このことから、開口4では、補強筋や斜筋が設けられていないため、他の開口1〜3に比べて、構造鉄筋に加わる負荷が大きくなっていることが確認できる。
また、図11に示すように、コンクリート内部のひずみも、外側元端では、開口4のひずみが他の開口1〜3のひずみに比べて極端に大きくなっている。しかも、先端では、外側も内側も開口4のひずみが開口1〜3のひずみよりも大きくなっている。内側元端については、斜筋を設けていない開口2のひずみが最も大きく、斜筋を設けている開口1、開口3の倍以上のひずみが発生している。
一方、開口3では、構造鉄筋やコンクリートに発生するひずみの大きさが現状の設計である開口1のひずみとそれほど差がなく、また、時間経過によるひずみの変動も非常に似た傾向を示していることが確認できる。
【0059】
また、図11に示すように、元端の上表面ひずみには開口によって大きな差が見られ、また、他の場所でも若干開口による差がある。しかし、表面のひずみは、鉄筋が存在する位置よりも40mmも離れた箇所で発生しているひび割れに影響を受けるため、ひび割れ発生箇所にひずみゲージが近ければ大きなひずみの値が測定される。つまり、局所的な変形(ひび割れ発生)の影響を受けるため、各開口で同じ場所にひずみゲージを設けても、一概に比較はできない。しかし、表面のひずみは、4つの開口1〜4において、局所的な影響を排除できる箇所を比較すれば、あまり大きな差はないと考える。
【0060】
以上の結果から、開口2および開口4は、現状の設計である開口1に比べて、鉄筋やコンクリートに大きな負荷が加わっているが、開口3では、構造鉄筋やコンクリートに加わる負荷が現状の設計である開口1のひずみとそれほど差がない。このことから、開口3は、開口2および開口4よりも開口を補強できており、少なくとも開口1と同程度の補強がなされていると考える。
【0061】
ひび割れについては、開口2および開口4に比べて、開口1や開口3ではひび割れの進展が顕著であるが、これは、内部で鉄筋が密に配置されているので、乾燥収縮を妨げる効果が少なからず存在していることに起因すると考える。つまり、鉄筋から拘束を受けると、コンクリートが自由に縮めないので、ひび割れが発生してしまうからである。
【0062】
本実験では、ひび割れの発生よりも、ひび割れの進展において鉄筋の影響が顕著に現れて、開口1においてひび割れがもっとも成長している。これは、開口1の鉄筋量が最も多く鉄筋が密に入りすぎていたため、コンクリートが縮むことができず、ひび割れが入りやすくなったと考える。
【0063】
また、開口3では、開口1に次いで、ひび割れの進展に対する鉄筋の影響が顕著に現れているが、これは、鉄筋がコンクリートの乾燥収縮に抵抗した証拠といえる。かかる鉄筋の抵抗によるひび割れの進展は、コンクリート構造物の施工初期の段階では弊害と考えられるが、逆に、開口3の周辺がしっかりと鉄筋で補強されている証拠であるといえる。
【0064】
したがって、開口1では鉄筋は密すぎて品質として(出来上がりとして)問題を残すレベルにひび割れが進展したといえるが、開口3ではそこまでのひび割れの進展は生じなかったといえる。
【0065】
一方、開口2と開口4は、本実験では開口1および開口3に比べてひび割れの進展は少なかったが、これは、鉄筋がコンクリートを拘束する効果を有していなかったためと考えられる。すると、コンクリートのクリープ挙動(長期的変形挙動)、あるいは地震などによって、より大きなひび割れを発生する可能性があるといえ、本実験においてひび割れが顕著ではないから安全というわけではない。
【0066】
以上の結果を総合的に判断すると、開口2および開口4は、現状の設計である開口1に対して初期のひび割れの進展に対しては優れていたものの、将来的な安全性の点では問題があると考えられる。
一方、開口3は、現状の設計である開口1と同程度に開口を補強できており、しかも、開口1よりもひび割れの進展を抑えることができていると考える。
したがって、開口の補強およびひび割れの進展防止という観点から、開口3の補強構造、つまり、本発明のスラブにおける開口補強構造が、現状の補強構造等と比べて優れていると判断する。
【0067】
(コンクリートの乾燥収縮に与える鉄筋の影響の確認)
なお、上述したように、鉄筋はコンクリートの乾燥収縮を妨げる効果を有していると考えられるので、コンクリートの乾燥収縮に与える鉄筋の影響も調べた。その結果を以下に説明する。
【0068】
図14(A)に示すように、この試験で使用した試験体は、直径100mm、高さ400mmの円柱および、直径100mm、高さ1000mmの円柱であり、コンクリート表面からの水分拡散および収縮が極力均一となるよう形成した。
供試体は、D10、D13、D16の異形鉄筋の3種を埋設した試験体(各3本)と、長さ400mmの試験体については、D10を2本設置した試験体(各3本)と、基準となる自由に収縮することが可能な試験体、つまり、鉄筋が埋設されていない試験体(3本)を作製して、鉄筋密度(鉄筋の直径および本数)の相違がコンクリートの乾燥収縮に与える影響を確認した。
なお、図14(B)および図15に示す試験体記号は、Lの後の数字が供試体の高さであり、4が400mm、10が1000mmを示しており、Dの後の数字が鉄筋の直径を示している。つまり、L4D10は、直径10mmの鉄筋を埋設した高さ400mmの供試体を意味している。なお、L4D10×2は、直径10mmの鉄筋を2本埋設している供試体を表している。
【0069】
試験体の作製には、上述した実験と同様に、図13の表1に示す材料を、図13の表2に示すように調合(JIS工場に規格されている一般的な27-18-20Nの調合)したコンクリートを使用した。使用したコンクリートの物性値は、スランプ以外は図13の表3に示すものと同じ値であった。なお、この実験で使用したコンクリートのスランプは16.0mmであった。
【0070】
上記コンクリートを使用して、上述した試験体は以下の方法で作製した。
まず、型枠には、塩ビ製のパイプを使用した、このパイプを立てた状態で、パイプの上端からコンクリートを縦方向(パイプ軸方向)に打設した。打設直後、パイプの上端(つまり、コンクリートを投入した開口)にキャップをして養生を行い、材齢1日で脱型した。脱型後、7日間標準水中で養生した後、恒温恒湿室で乾慢させた。
また、乾燥を促進させるため、恒温恒湿室内の環境設定を温度20℃±1℃、湿度40%±5%RHとし、隣接する試験体間で湿度が変化しないように送風ファンにて微風を与えた。
【0071】
そして、材齢7日より鉄筋のひずみ測定およびコンクリート表面の長さ変化の測定を行った。
図14(A)に示すように、鉄筋のひずみ測定には、長さ5mm、貼付ゲージ(株式会社共和電業製、型番:KFG-5-120-C1)を使用した。
コンクリートのひずみ計測は、試験体表面にコンタクトチップ(株式会社丸東製作所、型番:MSG-10)を貼り付け、JIS法(コンタクトゲージ法)で測定した。
なお、貼付ゲージおよびコンタクトチップは、図14(A)に示すように貼り付けた。
【0072】
結果を図15および図16に示す。
図15(A)に示すように、コンクリートの長さ変化率は、時間の経過とともに大きくなっており、鉄筋断面比が大きくなるほど、長さ変化率が小さくなっていることが確認できる。また、材齢56日目まではどの試験体も長さ変化率が大きく、コンクリートの大きな収縮が生じていると判断できるが、材齢56日目以降は長さ変化率が緩やかになっており、その傾向は鉄筋の径が大きいほど長さ変化率が小さくなる傾向を示している。そして、直径10mmの鉄筋を2本入れた試験体では、鉄筋断面比が近い直径13mmの試験体と同等の長さ変化率を示している。つまり、鉄筋の径が太いほどまたは鉄筋の本数が多いほど、鉄筋によるコンクリートを拘束する力が大きく、コンクリートが乾燥収縮しにくいことが確認できる。
【0073】
かかる効果は、図16に示すように、試験終了後の試験体(長さ400mm)の表面からも確認できる。
図16に示すように、鉄筋が埋設されていない試験体では試験体の表面にひび割れが発生していないが、鉄筋が埋設されている試験体ではひび割れが発生している。しかも、鉄筋の密度が高まるにしたがって、試験体に発生する水平方向(試験体の軸と直交する方向)のひび割れが多くなっていることも確認できる。
以上のように、試験体の表面の状況からも、試験体のコンクリートが軸方向に収縮しようとしているのを鉄筋が抑止しており、この抑止力の影響で試験体の表面にひび割れが発生していることが確認できる。
【0074】
一方、図15(B)に示すように、鉄筋のひずみも、時間の経過とともに大きくなっていく傾向をしめしている。しかし、材齢28日目以降は、直径10mmの鉄筋を1本埋設している試験体ではひずみがほぼ一定となっており、それ以外の試験体ではひずみが小さくなる傾向を示している。
図15(A)の結果では、コンクリートには、材齢56日目まで大きな収縮が生じていることから、鉄筋とコンクリートとの付着が切れている、つまり、鉄筋によってコンクリートの変形を低減させる能力が低下している可能性があることが確認できる。とくに、埋設されている鉄筋の径が太い試験体ほど能力の低下が著しいことが確認できる。
【0075】
以上の結果より、鉄筋の密度(径,本数)が増加するにしたがって、鉄筋がコンクリートの変形を拘束する力が強くなり、その結果,コンクリートの乾燥収縮量は低下することが確認された。
一方、鉄筋によるコンクリートの変形を拘束する力が増加することによって、ある程度乾燥収縮が進んだ状態では、鉄筋の付着切れやコンクリートにひび割れなどが生じ、本来期待される鉄筋によるコンクリートの変形を拘束する力が失われることも確認された。
【0076】
この結果からも、開口の補強およびひび割れの進展防止という観点では、現状の補強構造(開口1の補虚構造)よりも、開口3の補強構造、つまり、本発明のスラブにおける開口補強構造が優れていると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のスラブにおける開口補強構造は、バルコニーなどの片持ちスラブ構造に開口を設ける場合の開口補強に適している。
【符号の説明】
【0078】
CS 片持ちスラブ
OP 開口
C 隅角部
SB 構造配筋
MB 主筋
DB 配力筋
DAB 斜筋
CC コンクリート
V 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物のスラブに形成された開口を補強する補強構造であって、
前記開口の周縁の構造配筋に補強用鉄筋が取り付けられており、
該補強用鉄筋は、
前記開口の隅角部近傍に設けられた斜筋のみで構成されている
ことを特徴とするスラブにおける開口補強構造。
【請求項2】
前記斜筋は、
前記構造配筋の主筋の直径が10〜13mmの場合には、その直径が該主筋と同径以上であり、
前記構造配筋の主筋の直径が13mmよりも太い場合には、その直径が13mmよりも太い
ことを特徴とする請求項1記載のスラブにおける開口補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図8】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−112999(P2013−112999A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260143(P2011−260143)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】