説明

セキュリティシート

【課題】高い偽変造防止性を備えたセキュリティシートを得る。
【解決手段】紫外線照射によって可視顕在化する性質を有し、識別画像69の彫刻に伴って、当該彫刻部分75が削り取られるセキュリティマーク73を、彫刻領域71における彫刻層65の表面側に、識別画像69に対して積層方向にその一部が重なるように設ける。紫外線照射装置77を用いて、シート面67に向けて紫外線を照射したときに、識別画像69の彫刻部分にちょうど該当する部分75が削り取られたセキュリティマーク73が、部分的にマーク画像の連続性が絶たれたような態様で可視顕在化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、運転免許証、社員証、パスポート、あるいは卒業証書などの、偽造・変造(以下「偽変造」という。)が社会的に要請されているセキュリティシートに係り、特に、高い偽変造防止性を備えたセキュリティシートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、運転免許証、社員証、パスポート、あるいは卒業証書などに代表される、個人の氏名や住所等の個人情報又は顔写真などの識別画像が設けられたセキュリティシートには、その本人になりすました第三者による悪用を許すべきではないといった強い社会的要請が存在する。かかる社会的要請に鑑みて、セキュリティシートには、高い偽変造防止機能を有していることが求められている。
【0003】
こうした社会的要請に応えるために、例えば特許文献1には、支持体層と彫刻層とから成る透かし彫り用紙において、支持体層の不透明度が70%以下、彫刻層の不透明度が40%以上で、支持体層の不透明度が常に彫刻層の不透明度より低い値であり、且つ支持体層と彫刻層の不透明度の差が30%以上で、彫刻層から支持体層まで彫刻するようにした透かし彫り用紙が公知である。
【0004】
また、本発明者は、支持体層と、予め印刷された一方の画像を有し、該支持体層上に一体に設けられた透かし彫刻層と、予め印刷された他方の異なる画像と、表面粗さと帯電し難い機能とを有し、該支持体層下に一体に設けられた裏面透かしマット層と、該透かし彫刻層及び該裏面透かしマット層下に一体に設けられた透かし印刷層とから成り、該支持体層の透過濃度0.15以下で、該支持体層・該彫刻層・該裏面マット層の透過濃度が0.15以上、1.00以下、且つ彫刻面表面光沢度10.0%以下とする個体数の少ない重要書類用セキュリティシートを提案している(例えば特許文献2参照)。
【0005】
ところで、こうしたセキュリティシートでは、偽変造防止性を高めるために、いわゆる割印に代表されるセキュリティマークを設けることが好ましい。
【0006】
しかしながら、個人情報又は顔写真などの識別画像が彫刻されるセキュリティシートにおいて、偽変造防止性を担保する観点からいかにして効果的にどのようなセキュリティマークを設けるのか、が問題となる。
【0007】
【特許文献1】特開平6−15794号公報
【特許文献2】特開2007−130855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、個人情報又は顔写真等の識別画像が彫刻されるセキュリティシートにおいて、偽変造防止性を担保する観点からいかにして効果的にどのようなセキュリティマークを設けるのか、に係る解決手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高い偽変造防止性を備えたセキュリティシートを得ることを目的として、支持体層に彫刻層を積層して構成され、前記彫刻層のシート面に、個人を識別するための識別画像が彫刻されるセキュリティシートであって、前記シート面に、紫外線照射によって可視顕在化する性質を有し、前記識別画像の彫刻によりその一部が削り取られているセキュリティマークを設けた、ことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るセキュリティシートは、支持体層に彫刻層を積層して構成され、前記彫刻層のシート面に、個人を識別するための識別画像が彫刻されるセキュリティシートであって、前記シート面に、紫外線照射によって可視顕在化する性質を有し、前記識別画像の彫刻によりその一部が削り取られているセキュリティマークを設けたので、これにより、セキュリティシートの真偽判定を行う目的でシート面に紫外線を照射すると、識別画像の彫刻部分にちょうど該当する部分が削り取られているセキュリティマークが、部分的にマーク画像の連続性が絶たれたような態様で可視顕在化することになる。従って、識別画像と、セキュリティマークにおける画像欠落部分と、の整合性が担保されているか否かを確認することを通じて、同シートの真偽判定を行うことが可能となる結果として、高い偽変造防止性を備えたセキュリティシートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
高い偽変造防止性を備えたセキュリティシートを得るといった目的を、彫刻層のシート面に、紫外線照射によって可視顕在化する性質を有し、個人を識別するための識別画像の彫刻によりその一部が削り取られているセキュリティマークを設けることで実現した。
【実施例】
【0012】
以下、本発明実施例に係るセキュリティシートについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明実施例に係るセキュリティシートの説明に先立って、同セキュリティシートに対して彫刻を施す際に用いられる画像彫刻装置について説明する。
【0013】
[画像彫刻装置の概略構成]
図1は、画像彫刻装置の外観を示す概略斜視図、図2は、画像彫刻装置における主要部を示す斜視図、図3(A)は、往復運動機構に設けられている彫刻テーブルを拡大して示す説明図、図3(B)は、彫刻テーブルに載置固定される小冊子状の被彫刻媒体を示す説明図、図4及び図5は、被彫刻媒体として卒業証書や表彰状等の比較的大判のシート状媒体を採用したときの彫刻テーブルを拡大して示す説明図である。
【0014】
図1に示すように、画像彫刻装置1は、制御装置等が格納されている装置本体2と、その上方に被彫刻媒体(例えば、本発明に係るセキュリティシートが相当する。)を載置固定してX軸方向(横方向)に往復移動させるX軸テーブル(彫刻テーブル)20と、X軸テーブル20に対してY軸テーブル(不図示)により前後方向に往復移動されるとともに、Z駆動機構により上下方向に往復移動される、被彫刻媒体の表面を彫刻する彫刻ヘッド10と、を備えている。
【0015】
図2に示すように本画像彫刻装置1は、入力される画像信号に基づいて振動され、被彫刻媒体に画像を彫刻するための彫刻針が装着された彫刻ヘッド10を備えている。
【0016】
この彫刻ヘッド10は、その後方に配設されているZ軸駆動部12が有するステッピングモータ、タイミングベルト、ボールねじ等の駆動機構によって、上下方向に移動可能に構成されている。また、彫刻ヘッド10は、その下に配設されているY軸駆動部14により駆動されるY軸テーブルによって、前後方向に移動可能に構成されている。
【0017】
彫刻ヘッド10の前方には、X軸駆動装置16が配設されている。このX軸駆動装置16は、往復運動機構(X軸駆動部)18と、該機構18上に設けられ、横方向(X軸方向)に往復移動(運動)される彫刻テーブル20と、で構成されている。図2には、彫刻テーブル20に対し、被彫刻媒体36として小冊子状のパスポートを保持固定した状態を示してある。
【0018】
図3(A)に示すように、往復運動機構18上には、アルミニウム等の非磁性体よりなる彫刻テーブル20が設けられ、彫刻テーブル20は往復運動機構18の動作により左右(X軸)方向に往復運動を行なう。
【0019】
この彫刻テーブル20の上面には、X軸方向及びY軸方向の媒体ガイド22及び弾性を有する第1クリップ24が設置されている。
【0020】
彫刻テーブル20は、裏面の4箇所に嵌穴が設けられ、各穴には永久磁石26が埋設されている。この彫刻テーブル20の前端には、パスポートホルダ28が先端を下方に傾斜させて取り付けられ、パスポートホルダ28の上には弾性を有する第2クリップ30が設けられている。
【0021】
彫刻テーブル20におけるパスポートホルダ28の取付位置に対向する後端側には、弾性を有する磁性体金属板で形成された媒体ホルダ32が蝶着されている。この媒体ホルダ32の両側先端部には係合部32Aが設けられ、これが彫刻テーブル20の前端部の対応箇所に設けられている被係合部20Bに係合することにより、媒体ホルダ22が固定され、同時に彫刻テーブル20に埋設されている永久磁石26が媒体ホルダ32を、被彫刻媒体が載置される彫刻基準面20Aに密着させるように磁気吸引する。
【0022】
上述のように構成された彫刻テーブル20においては、まず、媒体ホルダ32を上方に持ち上げ、図3(A)に示すように、彫刻テーブル20の彫刻基準面20Aを露出させる。次に、図3(B)に示す小冊子状の被彫刻媒体36の被彫刻頁36Aを彫刻基準面20Aに密着させ、その先端部36Bをクリップ24により彫刻基準面20Aとの間で挟持する。
【0023】
その際、水平方向に対する被彫刻媒体36の位置決めは、X方向、Y方向を規制する媒体ガイド22に各端部36B、36Cを押し当てて行なう。被彫刻頁36A以外の残余頁は一体に折り返して、パスポートホルダ28に載せ、その後端部を第2クリップ30により挟持することにより保持する。
【0024】
次いで、媒体ホルダ32を、被彫刻頁36Aに該頁を彫刻基準面20Aとの間で挟持するように押し当て、係合部22Aをその弾性を用いて被係合部20Bに係合させる。このとき、同時に永久磁石26が被彫刻頁36Aを介して媒体ホルダ32を磁気吸着することから、媒体ホルダ32により被彫刻ページ36Aは基準面20Aに平坦な状態で押え付けられ、密着した状態で強固に固定される。
【0025】
被彫刻媒体36の固定(保持)が完了した後、画像彫刻装置を駆動させると、媒体ホルダ32の彫刻用窓22Bから露出されている被彫刻頁36Aの部位を彫刻針で切削し、彫刻画像の生成が行なわれる。
【0026】
その際、往復運動機構18上の彫刻テーブル20が高速往復運動を行ない、かつ、彫刻針による切削作用によって被彫刻頁36Aに彫刻画像の生成が行なわれる。このため、被彫刻頁36Aは慣性力による位置ずれや、切削抵抗により彫刻基準面20Aから離反するといった作用力を受ける。
【0027】
しかしながら、第1クリップ24、第2クリップ30による挟持力及び永久磁石26の媒体ホルダ32に対する磁気吸着力の相互作用により、被彫刻媒体36は上記作用力に抗して彫刻テーブル20の基準面20Aからの位置ずれを起こすことが防止されるため、鮮明で正確な画像彫刻を行なうことが可能となる。
【0028】
画像彫刻終了後、被彫刻媒体36は係合部32Aの弾性を利用して係合を解除し、媒体ホルダ32を解放することにより容易に取外しを行なうことができる。
【0029】
以上説明したように、本画像彫刻装置における彫刻テーブル20によれば、小冊子状の被彫刻媒体36を強固に固定する際に、真空吸着に代えて、磁気吸引力及びホルダ32と彫刻テーブル20との係合力を用いるようにしたため、真空ポンプ、真空回路等の設置及び彫刻基準面に対する吸引溝や吸気孔の微細加工を必要とせず、装置の構造を単純にできる。
【0030】
なお、被彫刻媒体として卒業証書や表彰状等の比較的大判のシート状のものを採用する場合には、図4及び図5に示すように、かかる大判のシート状彫刻媒体を載置可能な大型の彫刻テーブル40を採用すればよい。
【0031】
すなわち、この彫刻テーブル40は、往復運動機構18に設けられ、卒業証書等の比較的大判の被彫刻媒体に対応できるように大型化されるとともに、それに応じて媒体ホルダ42も大型化されている。
【0032】
この彫刻テーブル40の上面端部には、媒体ガイド44及び弾性を有する第1クリップ46が付設され、また、その裏面には前述と同様に複数の嵌穴が設けられ、その中に永久磁石26が埋設されている。
【0033】
一方、この彫刻テーブル40は、前端に下方に折り曲げられた媒体保持部40Bを有し、媒体保持部40Bの下垂面部には弾性を有する第2クリップ48が取り付けられている。彫刻テーブル40の媒体保持部40Bの取付位置に対向する後端側には、同様に磁性体金属板で形成された媒体ホルダ42が蝶着されている。更に、彫刻テーブル40の往復運動方向の両側前端部には、被係合駒50が取り付けられている。媒体ホルダ42の先端の係合部42Aを該被係合駒50に係合させることにより、媒体ホルダ42が固定され、同時に彫刻テーブル40に埋設されている永久磁石26が媒体ホルダ42を基準面40Aに密着させるよう磁気吸引する。
【0034】
上述のように構成された彫刻テーブル40においては、まず、媒体ホルダ42を上方に持ち上げ、彫刻テーブル40の彫刻基準面40Aを露出させ、次いで図5(B)に示すシート状の被彫刻部材52の先端部52Aを彫刻基準面40Aと第1クリップ46で挟持する。
【0035】
その際、被彫刻媒体46の水平方向に対する位置決めは、第1クリップ46に先端部52Aが突き当たるまで押し込むと共に、媒体ガイド44に側端部52Bを押し当てることにより行なう。被彫刻媒体52の残余部分は円筒状に折り返してカール形状52Cを形成し、彫刻テーブル40の前端側に形成されている媒体保持部40Bにその円弧外周部が当接するように載置し、カール先端部52Dを第2クリップ44により挟持する。
【0036】
次いで、媒体ホルダ42を被彫刻媒体52の上方より基準面40Aに密着させて挟持するように押し当て、係合部42Aをその弾性を用いて被係合駒50に係合させる。その際、永久磁石26が被彫刻媒体52を介して媒体ホルダ42を磁気吸着し、被彫刻部52Eは基準面40Aに平坦に密着した状態で、強固に固定される。
【0037】
このようにシート状の被彫刻媒体52を固定することにより、彫刻時に高速往復運動を行なうことにより生じる風圧により扇動を起こすような場合でも、カール形状52Cを形成して円筒状にしてあるために、紙片の剛性を増大させた上に、空気抵抗を受け難くすることができることから、安定した画像彫刻を実現することができる。
【0038】
以上述べた彫刻テーブル40によれば、シート状の被彫刻媒体を使用する場合、円筒状にカールさせるため、彫刻テーブルの基準面を被彫刻媒体全体に及ぶ大規模なものにする必要がなく、小型軽量化が可能となる。
【0039】
また、被彫刻媒体を円筒状にカールさせるため、彫刻時の往復運動による風圧に起因する扇動を防止することができるため、安定した画像彫刻を実現できる。
【0040】
次に、上述のように構成された画像彫刻装置を用いて、個人を識別するための識別画像が彫刻される本発明実施例に係るセキュリティシートについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0041】
[本発明実施例に係るセキュリティシート]
(本発明実施例に係るセキュリティシートの概略構成)
図6は、本発明に係るセキュリティシートを、被彫刻媒体としてのパスポートにおける個人認証ページ部分に適用した例を示す説明図、図7は、本発明実施例に係るセキュリティシートの要部A−A断面図、図8は、本発明実施例に係るセキュリティシートにおいて、真偽判定を行う際における状態説明図、図9は、本発明実施例に係るセキュリティシートの変形例を示す要部断面図、図10は、本発明に係るセキュリティシートを、社員証に適用した例を示す説明図である。
【0042】
図6及び図7に示すように、実施例に係るセキュリティシート(パスポートにおける個人認証ページ部分)61は、支持体層63と彫刻層65とを積層して構成され、彫刻層65のシート面67に、個人を識別するための識別画像69が彫刻される略矩形形状の彫刻領域71を備えている。この彫刻領域71には、識別画像として個人の顔写真が、彫刻層65側から彫刻されている。なお、本発明でいう識別画像とは、個人を識別する機能を有する画像であって、例えば、個人の氏名、住所、年齢、性別、署名(図6の符号「70」参照)、或いは、印影、又は顔写真のうち、一又は二以上の組み合わせを含む概念である。
【0043】
支持体層63としては、一般的に用いられる透明合成樹脂製シート(例えば、ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリエチレンテレフタレート・塩化ビニル等)であって、ある程度透明性の得られるものであれば、その材質を問わずに使用することができる。支持体層63の厚みは、一般的には、0.1〜0.3mm程度が好ましい。ただし、素材・用途・使われ方・汎用性等に応じて、適切な厚みが変動するので、これらを総合的に考慮して、適宜その厚みを設定すればよい。また、材質の軟硬に係る性質は、彫刻画像の保存性に大きく影響する。そのため、例えば、セキュリティシートに求められる屈曲性等を考慮して、適切なものを適宜選択すればよい。なお、セキュリティシートにおけるシート面上に、例えば、インクジェット方式や昇華熱転写方式等による顔写真画像を印刷加工する場合には、硬質透明塩化ビニルシート等を好適に使用することができる。
【0044】
彫刻層65は、例えば、樹脂(バインダー)と充填材(フィラー)とから成るシルクスクリーンインクを、白色インク(充填材は、主として酸化チタン等)やマットインク(充填材は、主として合成シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウムやタルク・クレー等のカオリン類)の混合等により調整して生成し、こうして生成したシルクスクリーンインクを、支持体層63上にシルクスクリーン印刷することで構成することができる。シルクスクリーンインクの性質は、同インクの供給者や品種により大きく異なるので、適切な透過濃度と光沢度を得るためには、その都度配合比率を検討する必要がある。なお、彫刻層65の厚みは、3〜50μmで、特に証書類の場合は、5〜20μmが好ましい。彫刻層65に用いられる樹脂(バインダー)の種類は、支持体層63の使用樹脂に応じて変更することが好ましい。相互に異なる種類の樹脂間では、その接着性の良し悪しが異なるからである。例えば、支持体層63がポリエステルフィルムである場合には、彫刻層65に用いられる樹脂(バインダー)の種類は、ポリエステルやポリウレタンが適する。また、支持体層63が硬質塩化ビニルの場合、彫刻層65に用いられる樹脂(バインダー)の種類は、ポリウレタンや塩化ビニル、酢酸ビニル共重合体等が適する。彫刻層65の硬度については、硬化剤の種類や添加量によって調整すればよい。
【0045】
実施例に係るセキュリティシートにおける彫刻領域71に、識別画像69を透かし彫刻することを考慮した場合、下記の条件を満足することが好ましい。すなわち、支持体層63の不透明度と、彫刻層65の不透明度との間で、肉眼で認識可能な程度の差が存在し、かつ、支持体層63の不透明度が、彫刻層65の不透明度よりも低く構成されたセキュリティシートにおいて、彫刻層65から支持体層63に至るまで彫刻される(図7参照)、との諸条件を満足することが好ましい。こうした諸条件を満足すると、肉眼で認識可能な透かし彫り識別画像を得ることができるからである。ここで、透かし彫刻とは、上述したように、支持体層63の不透明度が、彫刻層65の不透明度よりも低く構成されたセキュリティシートにおいて、彫刻層65から支持体層63に至るまで彫刻することで、肉眼で認識可能な透かし彫り識別画像69を得ることをいう。これに対し、浮かし彫刻とは、支持体層63における色彩の濃度と、彫刻層65における色彩の濃度との間で、肉眼で認識可能な程度の差が存在し、かつ、支持体層63における色彩の濃度が、彫刻層65における色彩の濃度よりも濃く構成されたセキュリティシートにおいて、彫刻層65から支持体層63に至るまで彫刻することで、肉眼で認識可能な浮かし彫り識別画像を得ることをいう。なお、透かし彫刻か、浮かし彫刻かは、セキュリティシート側の構成に依存するものであり、本発明実施例で開示した画像彫刻装置によれば、透かし彫刻、及び浮かし彫刻のいずれをも行うことが可能である。
【0046】
さて、彫刻領域71における彫刻層65の表面側には、識別画像69の彫刻によりその一部が削り取られているセキュリティマークセキュリティマーク73が設けられている。ここで、本発明でいうセキュリティマークとは、セキュリティシートに設けられた識別画像69が、セキュリティシートそれ自体との間で一体性を維持していること、換言すれば、識別画像の偽変造がなされていないことを証明するために付される標識をいう。図6の例では、セキュリティマーク73は、シート面67上に複数(例えば4つ等、所要の数を付すことができる。)設けられている。なお、シート面67上にセキュリティマーク73を複数設けるにあたっては、彫刻領域71における識別画像69に対し、少なくともひとつ以上のセキュリティマーク73の一部が位置することを考慮して、個々のマーク73それ自体の大きさと、マーク73間の間隔とを決定するように構成すればよい。
【0047】
セキュリティマーク73は、紫外線照射によって可視顕在化する性質を有しており、識別画像69の彫刻に伴って、当該彫刻部分が部分的に削り取られるようになっている。具体的には、セキュリティマーク73は、シート面67における彫刻層65の表面側に、紫外線発光インクをもって、例えばシルクスクリーン印刷することで設けられている。
【0048】
セキュリティマーク73としては、セキュリティシートの目的に合致した、例えば、個人の身分を証明するための印章又は記号を好適に用いることができる。具体的には、例えば、セキュリティシートがパスポートである場合には、当該個人が国籍を有する国家(例えば日本国)の印章又は記号を用いることができる。また、セキュリティシートが社員証である場合には、当該従業者が属する会社の印章又は記号を用いることができる。さらに、セキュリティシートが大学の卒業証書である場合には、当該個人が卒業した大学の印章又は記号を用いることができる。
【0049】
セキュリティマーク73を、シート面67上に設けるにあたっては、例えば図6及び図7に示すように、彫刻領域71の外と、識別画像(例えば、個人の顔写真)69との間を架け渡すように設けることが好ましい。このようにすれば、後で詳述するように、セキュリティシートの真偽判定を行う目的でシート面67に紫外線を照射したときに、識別画像69の彫刻部分にちょうど該当する部分75が削り取られたセキュリティマーク73が、部分的にマーク画像の連続性が絶たれたような態様で可視顕在化することになる。従って、識別画像69と、セキュリティマーク73における画像欠落部分と、の整合性が担保されているか否かを確認することを通じて、同シートの真偽判定を行うことが可能となる結果として、高い偽変造防止機能を備えたセキュリティシートを得ることができる。
【0050】
(本発明実施例に係るセキュリティシートの作用効果)
本発明実施例に係るセキュリティシート(パスポート)61を製作するにあたり、まず、支持体層63上に彫刻層65を積層して構成されたシート面67に、複数(4つ)のセキュリティマーク73が印刷された原紙(パスポート原紙)を用意する。そして、この原紙(パスポート原紙)における彫刻領域71に、前述した画像彫刻装置1を用いて、個人の顔写真に係る識別画像69を透かし彫刻する。この識別画像69の透かし彫刻に伴って、彫刻領域71の外と、識別画像69との間を架け渡すように配設されているセキュリティマーク73における当該彫刻部分が部分的に削り取られる。
【0051】
これにより、図8に示すように、セキュリティシートの真偽判定を行う目的で、紫外線照射装置77を用いて、シート面67に向けて紫外線を照射したときに、識別画像69の彫刻部分にちょうど該当する部分75が削り取られたセキュリティマーク73が、部分的にマーク画像の連続性が絶たれたような態様で可視顕在化することになる。従って、識別画像69と、セキュリティマーク73における画像欠落部分と、の整合性が担保されているか否かを確認することを通じて、同シートの真偽判定を行うことが可能となる結果として、高い偽変造防止性を備えたセキュリティシートを得ることができる。
【0052】
[その他]
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、あるいは技術思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うセキュリティシートもまた、本発明における技術的範囲の射程に包含されるものである。
【0053】
すなわち、例えば、本発明実施例に係るセキュリティシート(パスポート)61として、シート面67に、その表面上にむき出しとなるかたちでセキュリティマーク73を設ける態様を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されることなく、例えば、図9に示すように、セキュリティマーク73を傷付きや剥がれなどから保護する目的で、セキュリティマーク73の表面に、透明(紫外線透過性を有する)なコーティング層79を設ける構成を採用してもよい。
【0054】
また、本発明実施例に係るセキュリティシート61として、パスポートを例示して説明したが、本発明はこの例に限定されることなく、例えば、図10に示すように、本発明を社員証81に適用するように構成してもよい。なお、図10に示す社員証81は、前述したパスポート61の例と基本的な構成が共通するので、両者間で共通の部材には共通の符号を付して、その重複した説明を省略するとともに、両者間の相違点に着目して説明すると、この社員証81には、そのシート面67における識別画像69と隣接する位置に、該当する個人の顔写真83がフルカラー印刷されている。このように構成すれば、透かし彫刻に係る識別画像69と、フルカラー印刷に係る顔写真83と、が相俟って、さらなる変偽造防止機能を高めることが可能となる。さらには、例えば、図11に示すように、本発明を卒業証書91に適用するように構成してもよい。なお、図11に示す卒業証書91は、上述した社員証81の例と基本的な構成が共通するので、両者間で共通の部材に共通の符号を付し、その重複した説明を省略する。このように構成すれば、社員証81の例と同様に、透かし彫刻に係る識別画像69と、フルカラー印刷に係る顔写真83と、が相俟って、さらなる変偽造防止機能を高めることが可能となる。
【0055】
最後に、本発明実施例において、セキュリティシート61における彫刻領域71に、識別画像69を透かし彫刻する例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されることなく、セキュリティシート61として、支持体層63における色彩の濃度と、彫刻層65における色彩の濃度との間で、肉眼で認識可能な程度の差が存在し、かつ、支持体層63における色彩の濃度が、彫刻層65における色彩の濃度よりも濃く構成されたセキュリティシートを採用し、その彫刻領域71に、彫刻層65から支持体層63に至るまで彫刻することで、識別画像69を浮かし彫刻する構成を採用してもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】画像彫刻装置の外観を示す概略斜視図である。
【図2】画像彫刻装置における主要部を示す斜視図である。
【図3】図3(A)は、往復運動機構に設けられている彫刻テーブルを拡大して示す説明図、図3(B)は、彫刻テーブルに載置固定される小冊子状の被彫刻媒体を示す説明図である。
【図4】被彫刻媒体として卒業証書や表彰状等のシート状媒体を採用したときの彫刻テーブルを拡大して示す説明図である。
【図5】被彫刻媒体として卒業証書や表彰状等のシート状媒体を採用したときの彫刻テーブルを拡大して示す説明図である。
【図6】本発明に係るセキュリティシートを、被彫刻媒体としてのパスポートにおける個人認証ページ部分に適用した例を示す説明図である。
【図7】本発明実施例に係るセキュリティシートの要部断面図である。
【図8】本発明実施例に係るセキュリティシートにおいて、真偽判定を行う際における状態説明図である。
【図9】本発明実施例に係るセキュリティシートの変形例を示す要部断面図である。
【図10】本発明に係るセキュリティシートを、社員証に適用した例を示す説明図である。
【図11】本発明に係るセキュリティシートを、卒業証書に適用した例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 画像彫刻装置
61 パスポート(セキュリティシート)
63 支持体層
65 彫刻層
67 シート面
69 識別画像
71 彫刻領域
73 セキュリティマーク
75 画像欠落部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層に彫刻層を積層して構成され、前記彫刻層のシート面に、個人を識別するための識別画像が彫刻されるセキュリティシートであって、
前記シート面に、紫外線照射によって可視顕在化する性質を有し、前記識別画像の彫刻によりその一部が削り取られているセキュリティマークを設けた、
ことを特徴とするセキュリティシート。
【請求項2】
請求項1記載のセキュリティシートであって、
前記セキュリティマークは、
前記シート面における前記識別画像に係る彫刻領域の外から、当該識別画像に渡って設けられる、
ことを特徴とするセキュリティシート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセキュリティシートであって、
前記セキュリティマークは、
前記彫刻層のシート面に、紫外線発光インクをもって印刷される、
ことを特徴とするセキュリティシート。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のセキュリティシートであって、
前記セキュリティマークは、
前記シート面に複数設けられる、
ことを特徴とするセキュリティシート。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のセキュリティシートであって、
前記セキュリティマークは、
個人を認証するための印章又は記号である、
ことを特徴とするセキュリティシート。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項に記載のセキュリティシートであって、
前記識別画像は、
個人の氏名、住所、年齢、性別、署名、或いは、印影、又は顔写真のうち、一又は二以上の組み合わせである、
ことを特徴とするセキュリティシート。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか一項に記載のセキュリティシートであって、
前記支持体層の不透明度と、前記彫刻層の不透明度との間で、肉眼で認識可能な程度の差が存在し、かつ、前記支持体層の不透明度が、前記彫刻層の不透明度よりも低く構成され、前記彫刻層から前記支持体層に至るまで透かし彫刻される、
ことを特徴とするセキュリティシート。
【請求項8】
請求項1〜6のうちいずれか一項に記載のセキュリティシートであって、
前記支持体層における色彩の濃度と、前記彫刻層における色彩の濃度との間で、肉眼で認識可能な程度の差が存在し、かつ、前記支持体層における色彩の濃度が、前記彫刻層における色彩の濃度よりも濃く構成され、前記彫刻層から前記支持体層に至るまで浮かし彫刻される、
ことを特徴とするセキュリティシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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