説明

セラミック被膜付き方向性電磁鋼板

【課題】高温での成膜を行うことなしに、絶縁性に優れ、かつ鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板を提供する。
【解決手段】表面に、セラミック被膜をそなえる含珪素方向性電磁鋼板において、該セラミック被膜として、結晶方位が等方的でかつ相対密度が98%の粒状結晶で構成されているものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック被膜付き方向性電磁鋼板に関し、特にその鉄損の有利な低減を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主に変圧器や発電機等の電気機器の鉄心材料として用いられる軟磁性材料である。近年、省エネルギーの観点から、これら電気機器のエネルギーロスを低減することに対する要求が高まっており、鉄心材料として用いられる方向性電磁鋼板にも、従来にも増して良好な磁気特性が求められるようになってきた。
【0003】
方向性電磁鋼板の磁気特性は主に鉄損と磁束密度で表されるが、そのうち鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損に大別される。
方向性電磁鋼板の鉄損を低減するためには、
(1) 二次再結晶により鉄の磁化容易軸である<001>軸を一方向(圧延方向)に高度に揃えることにより、ヒステリシス損を低減する方法、
(2) 鋼板に含まれる不純物を低減したり、表面を平滑化することにより、ヒステリシス損を低減する方法、
(3) 鋼板に高比抵抗元素(主としてSi)を含有させて渦電流損を低減する方法、
(4) 鋼板の厚みを薄くして渦電流損を低減する方法、
(5) 鋼板の表面に特定形状の歪みや溝を形成することにより、磁区を細分化することで渦電流損を低減する方法
等が有効である。
これらの方法が確立されたことにより、方向性電磁鋼板の鉄損は飛躍的に低減されてきた。
【0004】
さらなる鉄損低減策として、最終仕上げ焼鈍後の鋼板の表面を平滑化し、その上に張力被膜を成膜することによって、磁区を細分化し、渦電流損を低減する技術も、これまで多数開示されている。
例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5および特許文献6において、PVD(物理蒸着)法やCVD(化学蒸着)法によって、電磁鋼板の表面に窒化物や炭化物などのセラミックス被膜を成膜することにより鉄損を低減する技術が開示されている。
さらに、張力には鋼板および被膜のヤング率と熱膨張率が影響することから、例えば、特許文献7、特許文献8および特許文献9では、これらを適宜調整する手法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭63−32849号公報
【特許文献2】特公昭63−32850号公報
【特許文献3】特公昭63−35684号公報
【特許文献4】特公昭63−35685号公報
【特許文献5】特公昭63−35686号公報
【特許文献6】特公昭63−35687号公報
【特許文献7】特開平6−248465号公報
【特許文献8】特開平6−287764号公報
【特許文献9】特開平6−287765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献に記載の方法ではいずれも、付与張力を増大するために被膜形成温度を上昇させる必要があるが、この場合に、鋼板の軟化温度の1000℃を大きく超える成膜温度を採用することは困難である。
また、成膜に際して、電気・電子機器類が装置に近接して設けられているPVDなどの手法では、600℃程度を超える温度での成膜は物理的に困難である。
【0007】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、高温での成膜を行うことなしに、張力付与被膜を被覆した鉄損が低くかつ絶縁性に優れた方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.表面に、セラミック被膜をそなえる含珪素方向性電磁鋼板であって、該セラミック被膜の結晶方位が等方的でかつ相対密度が98%の粒状結晶で構成されていることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【0009】
2.上記1において、前記セラミック被膜の結晶粒が平均粒径で50nm以下であることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【0010】
3.上記1または2において、前記セラミック被膜を構成する粒状結晶の粒子界面における、母相とは異なった結晶構造の粒界層の厚さを1nm以下に抑制したことを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【0011】
4.上記1〜3のいずれかにおいて、前記セラミック被膜の厚みが0.01〜10μm であることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【0012】
5.上記1〜4のいずれかにおいて、前記セラミック被膜と電磁鋼板との界面における、母相とは異なった結晶構造の粒界層の厚さを1nm以下に抑制したことを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【0013】
6.上記1〜5のいずれかにおいて、前記セラミック被膜の格子定数が0.1〜1.0%伸びていることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【0014】
7.上記1〜6のいずれかにおいて、前記セラミック被膜との界面近傍の電磁鋼板に、Si原子が規則配列している相が存在することを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【0015】
8.上記7において、Si原子が規則配列している相の厚みが20〜200nmであることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温での成膜を行うことなしに、鉄損特性とくに高周波域における鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、基本的に含珪素方向性電磁鋼板の表面にセラミック被膜を被成したものである。
ここに、素材である含珪素方向性電磁鋼板の成分組成は、特に限定されるものではなく、従来から公知の成分系いずれもが適合する。代表的な成分組成について述べると、次のとおりである。
Si:2.0〜4.5mass%、Mn:0.01〜0.5mass%を含有し、必要に応じて、Mo:0.005〜0.10mass%,Ni:0.005〜1.50mass%,Sn:0.01〜0.50mass%,Sb:0.005〜0.50mass%,Cu:0.01〜1.50,P:0.005〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.50mass%等を含有させたものである。
【0018】
なお、本発明では、主に、結晶方位が1方向に揃った一方向性電磁鋼板を対象とするが、本発明はこれだけに限るものではなく、結晶方位が2方向に揃った二方向性電磁鋼板および結晶方位が無配向の無方向性電磁鋼板にも適用できるものである。
【0019】
次に、上記した方向性電磁鋼板の表面に形成するセラミック被膜については、張力付与効果に優れるだけでなく、絶縁性に富み、さらに高周波域での鉄損特性に優れることが重要である。
かようなセラミック被膜としては、アルミナ、窒化アルミニウム、マグネタイト、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、PZT、チタン酸カリウム、炭化珪素、酸化珪素、窒化珪素、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸ナトリウム、コバルト酸カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化チタンおよび酸化亜鉛等が有利に適合する。
【0020】
本発明において、セラミック被膜の結晶は粒状とする必要がある。一般に、薄膜の結晶は成長方向に伸びた柱状晶となる。この時、粒界部分の強度が粒内に比べて弱いので、基板を曲げると、膜面に垂直に容易にクラックが発生し、甚だしい場合には剥離が生じる。すなわち、密着性の著しい低下を招く。この点、結晶が粒状晶の場合には、クラックが発生しても伝播しにくく、被膜強度が向上する。
また、この時、結晶方位が揃っていると、強度の小さな面でへき開し被膜強度が低下して密着性が劣化するので、本発明鋼板のセラミック被膜は、結晶方位がランダムな等方性の膜とする必要がある。
さらに、被膜密度が98%に満たないと、たとえ等方的な粒状晶であっても十分な膜強度を維持することが困難となる。
従って、セラミック被膜は、結晶方位が等方的で、かつ相対密度が98%以上の粒状晶にすることが肝要である。
【0021】
ここに、結晶方位が等方的で、かつ相対密度が98%以上の粒状晶にするには、成膜中に結晶成長が生じない方が良く、従って被膜形成に際しては、後述するガスデポジション法を使用することが有利である。
そして、使用する原料粉末の粒径やガス流量、ノズル口径等を調整することによって、所望の結晶粒性状を達成することができる。
【0022】
また、セラミック被膜の結晶粒径は小さい方が膜強度の面で好適であり、この観点からは結晶粒径を50nm以下にすることが好ましい。
このためには、原料粒子径を1〜3μm として、上述したガスデポジション法を使用することが好ましい。
【0023】
上記の成分組成になるセラミック被膜の厚みは0.01〜10μm とすることが好ましい。というのは、被膜厚が0.01μm に満たないと付与張力の面だけでなく、積層したときの絶縁性の面でも不十分であり、一方10μm を超えると剥離の問題が生じるからである。
【0024】
さらに、本発明のセラミック被膜では、結晶粒間に粒界層がない方が膜強度に優れてより好適である。従って、セラミック被膜の粒界層厚みは1nm以下に抑制することが好適である。かような粒界層としては、ガラス相が挙げられる。
同様に、電磁鋼板とセラミック被膜との界面にも異相の粒界層が存在しない方が密着強度が向上してより好適である。従って、電磁鋼板の界面には少なくとも1nmを超える粒界層を存在させないことが好適である。また、かような粒界層としては、ガラス相が挙げられる。
なお、上記したような粒界層の形成を抑制するには、原子の拡散を抑えることが必要で、ガス流量を1〜10リットル/minとしてガスデポジション法を使用することが好ましい。
【0025】
ところで、電磁鋼板に張力を付与するには、セラミック被膜が伸びた状態にすると好適である。この際、格子定数の伸びが、ASTMカードの値と比較した時、0.1%未満では張力付与による電磁鋼板の磁気特性向上効果に乏しく、一方1.0%を超えると、大きな張力によりセラミック被膜が剥離したり、表面にクラックが発生するため、セラミック被膜の格子定数の伸びは、ASTM(American Standard for Testing Materials)カード比で0.1〜1.0%程度とするのが好適である。
ここに、ASTMカードとは、粉末X線回折の標準データが示されたものである。
なお、セラミック被膜の格子定数の伸びを上記の範囲に調整するには、原料の平均粒径を1〜2μm の範囲として、ガスデポジション法を適用することが好適である。
【0026】
電磁鋼板では、通常、体心立方格子をSiがランダム置換しているが、セラミック被膜との界面において、Siを規則配列することで適度な歪を付与でき、電磁鋼板の磁区の微細化による渦電流抑制効果が期待できる。
ここに、電磁鋼板界面のSiが規則格子を形成する領域(規則格子を形成する相の厚さ)は、20〜200nmの範囲とすることが好適である。というのは、Siの規則配列領域が20nm未満だと渦電流抑制効果に乏しく、一方200nmを超えるとヒステリシス損失が増加して鉄損の劣化を招くからである。
ここに、上記したようなSiの規則配列領域を形成するには、原料の平均粒径を1〜2μm の範囲として、ガスデポジション法を適用することが好ましい。
【0027】
次に、本発明鋼板の好適製造方法について説明する。
所定の成分組成に調整された鋼スラブを、熱間圧延し、得られた熱延板に1回又は中間焼鈍を挟んで複数回の冷間圧延を施して最終板厚とした後、脱炭および1次再結晶焼鈍を施し、さらに焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施して方向性電磁鋼板とする。この際、焼鈍分離剤の主成分をマグネシアとして、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成した場合には、このフォルステライト被膜を酸洗で除去して表面を平滑化する。かようなフォルステライト被膜を形成しない場合には、そのまま次工程に供することもできるが、やはり酸洗により表面を平滑化することが好ましい。
【0028】
ついで、表面を平滑化した方向性電磁鋼板の表面に、セラミック被膜を形成する。このセラミック被膜の形成方法としては、ガスデポジション法またはエアロゾルデポジションと呼ばれる成膜方法が有利に適合する。なお、両方法の原理は同じであるので、本発明ではガスデポジション法と総称する。
ここに、ガスデポジション法とは、セラミックスなどの微粒子をガスと共に混合し、エアロゾル化したものを、数100m/s程度の高速度で基板に吹き付け、成膜する手法である(例えば、「粉体および粉末冶金第37巻第1号(1990)P.94」、「まてりあ 第41巻第7号(2002)P.459」)。また、そこで成膜された時には歪が導入されていることが知られている(「粉体および粉末冶金第51巻第9号(2004)P.691」)。
【0029】
以下に、具体的な成膜方法を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
開口:10×0.4 mmのノズルを備えたチャンバー内に、該ノズル先端から5mm離れ、かつノズルと垂直な位置に電磁鋼板をセットする。ノズル先端からキャリアガスでセラミック粒子を搬送・衝突させることで成膜する。このとき、チャンバー内圧力を数Torrに維持するために、適度に絞った真空ポンプで排気する。また、ノズルから噴出するガス・粒子混合物は、粒子がガスに浮遊・分散した、エアロゾル状態となっているものを用い、ノズル先端から減圧チャンバー内へ噴出した時の速度は数100m/s程度とする。このとき、基板またはノズル先端を移動することで、所望の面積にわたって被膜を形成することができる。なお、処理温度は室温でよい。
【0030】
上記のようにして方向性電磁鋼板の表面にセラミック粒子を衝突させると、衝突エネルギーに起因してセラミックは通常の場合よりも伸展した状態で成膜されるが、この伸展に伴い、地鉄鋼板には張力が付与されるのである。
ここに、上記した伸展の程度は、前述したとおり、格子定数の伸びが、ASTMカード比で0.1〜1.0%程度とするのが好適である。
【0031】
なお、セラミック被膜の被覆方法としては、上記したガスデポジション法に限定されるものではなく、他の被覆方法、例えばPVD法やCVD法などを用いることもできる。
【実施例】
【0032】
実施例1
Si:3.2mass%、Mn:0.062mass%、Mo:0.025mass%およびSb:0.026mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、板厚が0.2mmのフォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板(比較例1)と、このフォルステライト被膜を酸洗で除去して表面を平滑化した被膜無し方向性電磁鋼板(比較例2)、およびこの被膜無し方向性電磁鋼板の表面に、表1に示す組成になるセラミック被膜を、ガスデポジション法により、厚さ:3μmに成膜したセラミック被膜付き方向性電磁鋼板(発明例1〜40)を製造した。
なお、ガスデポジション法による成膜条件は、原料の平均粒径:1μm、搬送ガス(アルゴンガス)流量:1リットル/mim、ノズル開口寸法:0.4×10mmである。
かくして得られた各方向性電磁鋼板について、磁束密度:1.7T,周波数:50Hzのときの鉄損W17/50を、エプスタイン法により測定した。
得られた結果を表1に併記する。
なお、鉄損値は、比較例1の値を1.0したときの相対値で表した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、本発明に従うセラミック被膜を電磁鋼板上に成膜した場合には、良好な鉄損を得ることができた。
【0035】
実施例2
実施例1において、比較例2として示した被膜無し方向性電磁鋼板の表面に、セラミックとしてAl2O3を用い、ガスデポジション法(発明例41,42)、レーザーアブレーション法(比較例3)およびスパッタ法(比較例4)により、実施例2と同様に、電磁鋼板表面に厚さ:3μmのAl2O3膜を成膜した。
かくして得られたAl2O3膜付き方向性電磁鋼板に対し、φ15mm丸棒曲げテストを行い、電磁鋼板とセラミック被膜の密着性について調査した。
また、セラミック被膜の結晶状態および相対密度についても調査した。
得られた結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から明らかなように、本発明に従い得られたセラミック被膜は、結晶が等方性で粒状であり、しかも密度が98%以上で、良好な密着性を呈していた。
【0038】
実施例3
セラミックをZrO2とする以外は、実施例1と同様にして、電磁鋼板表面に厚さ:3μmのZrO2膜を成膜したのち、結晶粒径をコントロールするため、400〜1000℃の温度で焼鈍した。
かくして得られたZrO2膜付き方向性電磁鋼板に対し、φ15mm丸棒曲げテストを行い、電磁鋼板とセラミック被膜の密着性について調査した。
得られた結果を、結晶粒径との関係で表3に示す。
なお、この結晶粒径は、高分解能透過電顕で観察した像から求めた平均値である。
【0039】
【表3】

【0040】
表3から明らかなように、結晶粒径が50nm以下の場合に、良好な被膜密着性を得ることができた。
【0041】
実施例4
セラミックをSrTiO3とする以外は、実施例1と同様にして、電磁鋼板表面に厚さ:3μmのSrTiO3膜を成膜したのち、結晶粒界層の厚さをコントロールするため、500〜900℃の温度で焼鈍した。
かくして得られたSrTiO3膜付き方向性電磁鋼板に対し、φ15mm丸棒曲げテストを行い、電磁鋼板とセラミック被膜の密着性について調査した。
得られた結果を、結晶粒界層の厚さとの関係で表4に示す。
なお、結晶粒界層の厚さ、すなわちセラミック被膜を構成する粒状結晶の粒子界面における母相とは異なった結晶構造の粒界層の厚さは、高分解能透過電顕で観察した像から求めた値であり、解像度が0.5nmなので、見えなかった場合を<0.5nmと表記した。
【0042】
【表4】

【0043】
表4から明らかなように、結晶粒界層の厚さが1nm以下の場合にとりわけ良好な被膜密着性が得られている。
【0044】
実施例5
セラミックをSiCとする以外は、実施例1と同様にして、電磁鋼板表面に厚さ:3μmのSiC膜を成膜した。膜厚さは、成膜時間によりコントロールした。
かくして得られたSiC膜付き方向性電磁鋼板について、鉄損W17/50を測定すると共に、φ15mm丸棒曲げテストを行って被膜密着性を調査した。
得られた結果を、膜厚さとの関係で表5に示す。
なお、鉄損値は、比較例1の値を1.0したときの相対値で表した。
【0045】
【表5】

【0046】
表5に示したとおり、膜厚さが0.01〜10μmの場合に良好な密着性と鉄損が得られている。
【0047】
実施例6
セラミックをSiO2とする以外は、実施例1と同様にして、電磁鋼板表面に厚さ:3μmのSiO2膜を成膜したのち、このSiO2膜と電磁鋼板との界面における結晶粒界層の厚さをコントロールするため、600〜900℃の温度で焼鈍した。
かくして得られたSiO2膜付き方向性電磁鋼板に対し、φ15mm丸棒曲げテストを行い、電磁鋼板とセラミック被膜の密着性について調査した。
得られた結果を、結晶粒界層の厚さとの関係で表6に示す。
【0048】
【表6】

【0049】
表6から明らかなように、結晶粒界層の厚さが1nm以下の場合にとりわけ良好な被膜密着性が得られている。
【0050】
実施例7
セラミックとして、粒径が0.3〜7μm のPZNT(Pb(Zr,Nb,Ti)O3)を用いる以外は、実施例1と同様にして、電磁鋼板表面に厚さ:3μmのPZNT膜を成膜した。その際、結晶格子の伸びを、原料粉末粒径でコントロールした 。
かくして得られたPZNT膜付き方向性電磁鋼板について、鉄損W17/50および結晶格子の伸びを測定した。
なお、鉄損値は、比較例1の値を1.0したときの相対値で示す。また、結晶格子の伸びは、粉末X線回折から求めた格子定数を、原料粉末での格子定数を基準として算出した。
得られた結果を表7に示す。
【0051】
【表7】

【0052】
表7から明らかなように、結晶格子の伸びが0.1〜1.0%の場合において特に良好な鉄損が得られている。
【0053】
実施例8
セラミックとして、粒径が0.8〜3μmのTiO2を用いる以外は、実施例1と同様にして、電磁鋼板表面に厚さ:3μmのTiO2膜を成膜した。その際、原料粉末粒径で、電磁鋼板の TiO2膜との界面近傍におけるSi原子が規則配列している相の厚さすなわち規則格子相厚さをコントロールした。
かくして得られたTiO2膜付き方向性電磁鋼板の鉄損W17/50について調べた結果を、規則格子相厚さとの関係で表8に示す。
なお、鉄損値は、比較例1の値を1.0したときの相対値で示す。また、規則格子相厚さは、高分解能透過電顕で観察した像から求めた。
【0054】
【表8】

【0055】
表8に示したとおり、規則格子相厚さが20〜200nmの場合にとりわけ良好な鉄損が得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、セラミック被膜をそなえる含珪素方向性電磁鋼板であって、該セラミック被膜の結晶方位が等方的でかつ相対密度が98%の粒状結晶で構成されていることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【請求項2】
請求項1において、前記セラミック被膜の結晶粒が平均粒径で50nm以下であることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【請求項3】
請求項1または2において、前記セラミック被膜を構成する粒状結晶の粒子界面における、母相とは異なった結晶構造の粒界層の厚さを1nm以下に抑制したことを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記セラミック被膜の厚みが0.01〜10μm であることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記セラミック被膜と電磁鋼板との界面における、母相とは異なった結晶構造の粒界層の厚さを1nm以下に抑制したことを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、前記セラミック被膜の格子定数が0.1〜1.0%伸びていることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記セラミック被膜との界面近傍の電磁鋼板に、Si原子が規則配列している相が存在することを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。
【請求項8】
請求項7において、Si原子が規則配列している相の厚みが20〜200nmであることを特徴とするセラミック被膜付き方向性電磁鋼板。

【公開番号】特開2007−154269(P2007−154269A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352159(P2005−352159)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】