説明

セルロースフィルム

【課題】低水蒸気透過率、低熱収縮率、および高硬度等の特性を有するセルロースフィルムを提供する。
【解決手段】セルロースフィルムは、トリアセテートセルロースおよび可塑剤を含む。可塑剤は、1種または多種のモノカルボン酸と脂肪族ポリオールで合成されたポリオールエステル化合物を含む。セルロースフィルムの総重量に対し、ポリオールエステル化合物の含量は、0より大きく、3%より小さい。あるいは、セルロースフィルムの厚さが65μm〜200μmの間の時、ポリオールエステル化合物の含量は、3%〜20%の間である。本発明のセルロースフィルムは、サイズの安定性が良く、低水蒸気透過率および高硬度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースフィルムに関するものであり、特に、低水蒸気透過率、低熱収縮率、および高硬度を有するセルロースフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ技術が進歩するにつれ、人々の生活はディスプレイのおかげでさらに便利になった。ディスプレイは、軽薄化の傾向により、現在では平面ディスプレイ(flat panel display,FPD)が主流となっている。数多くある平面ディスプレイの中でも、液晶ディスプレイ(liquid crystal display,LCD)は、空間利用効率が高く、消費効率が低く、放射線がなく、電磁干渉が低いといった優れた特性を有するため、消費者に広く受け入れられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本特願第05−271471号
【特許文献2】中華民国出願第593493号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般の液晶ディスプレイは、通常、液晶ディスプレイパネルの上表面と下表面に偏光板(polarization plate)を配置することによって、表示効果を達成する。偏光板は、通常、接着剤でセルロースフィルムを透明基板に貼付することによって製造される。液晶ディスプレイの使用時間が増すにつれて、セルロースフィルムの耐熱特性(例えば、熱収縮(heat shrinkage)率)および耐湿特性(例えば、水蒸気透過率)が時間とともに悪化するため、液晶ディスプレイの画像品質に影響を与える。
【0005】
セルロースフィルムが低水蒸気透過率、低熱収縮率、および高硬度を有するようにするために、現在の技術では、通常、セルロースフィルム中の可塑剤の配合と含量を調整することによって達成する。日本特願第05−271471号の開示内容によると、リン酸エステル系の添加剤をセルロースフィルム内に使用する。中華民国出願第593493号の開示内容によると、厚さが10μm〜65μmのセルロースフィルムの中に、3%〜30%のポリオールエステル化合物を添加することによって、水蒸気透過率を下げる。このように、低水蒸気透過率、低熱収縮率、および高硬度を有するセルロースフィルムをいかにして製造するかが、現在、業界における1つの重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、低水蒸気透過率、低熱収縮率、および高硬度等の特性を有するセルロースフィルムを提供する。
【0007】
本発明は、トリアセテートセルロースおよび可塑剤を含むセルロースフィルムを提供する。可塑剤は、1種または多種のモノカルボン酸と脂肪族ポリオールで合成されたポリオールエステル化合物を含む。セルロースフィルムの総重量に対し、ポリオールエステル化合物の含量は、0より大きく、3%より小さい。あるいは、セルロースフィルムの厚さが65μm〜200μmの間の時、ポリオールエステル化合物の含量は、3%〜20%の間である。
【0008】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、上述した脂肪族ポリオールが、例えば、式(1)で示され、
1-(OH)n 式(1)
式中、R1はn価の有機基であり、且つ少なくとも2の整数である。
【0009】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、上述したモノカルボン酸の分子構造中に、例えば、芳香族環またはシクロアルキル環を有する。
【0010】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、上述したポリオールエステル化合物の分子構造中に、例えば、芳香族環またはシクロアルキル環を有する。
【0011】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、上述したポリオールエステル化合物の分子構造中に、例えば、芳香族環とシクロアルキル環を同時に有する。
【0012】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、上述した可塑剤が、上述したポリオールエステル化合物以外の少なくとも1種のエステル化合物をさらに含んでもよい。
【0013】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、上述したエステル化合物が、例えば、リン酸エステル系化合物である。
【0014】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、上述したリン酸エステル系化合物が、例えば、式(2)または式(3)で示され、

式中、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立してアルキル基、アリル基またはアラルキル基であり、R9は、2価の連結基(connecting group)であり、mは、1〜10の整数である。
【0015】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、紫外線吸収剤をさらに含んでもよい。
【0016】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、セルロースフィルムの総重量に対し、上述した紫外線吸収剤の含量が、例えば、0.001%〜5%の間である。
【0017】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、セルロースフィルムの総重量に対し、上述した可塑剤の含量が、例えば、5%〜20%の間である。
【0018】
本発明の実施形態に係るセルロースフィルムは、上述したセルロースフィルムの厚さが、例えば、10μm〜200μmの間である。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明のセルロースフィルム中の可塑剤は、価格の高いポリオールエステル化合物を少量しか含まないため(セルロースフィルムの総重量に対し、含量が3%よりも小さい)、生産コストを下げる目的を達成することができる。また、本発明のセルロースフィルム中の可塑剤が、価格の安いリン酸エステル系化合物をさらに含む場合、セルロースフィルムの耐熱特性および耐湿特性を有効に向上させることができる。
【0020】
本発明の上記および他の目的、特徴、および利点をより分かり易くするため、幾つかの実施形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】フィルム材の表面に試験の注記を行ったものを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
セルロースフィルムが低水蒸気透過率および熱収縮率等の特性を有するよう、本実施形態は、トリアセテートセルロースと可塑剤を含むセルロースフィルムを提供する。セルロースフィルムの厚さは、10μm〜200μmの間である。
【0023】
トリアセテートセルロースは、セルロースフィルムの主要成分であり、その含量は、セルロースフィルムの総重量に対し、例えば、80%〜90%の間である。トリアセテートセルロースの主要構造は、以下の通りである:

【0024】
上記の構造中、アセチル置換度(アセチル基でOH基を置換する比率)の大きさは、トリアセテートセルロースの性質に影響を及ぼす。アセチル置換度は、より好適には、2.5〜3.0の間である。
【0025】
可塑剤は、ポリオールエステル化合物を含む。ポリオールエステル化合物は、1種または多種のモノカルボン酸と脂肪族ポリオールで合成される。セルロースフィルムの総重量に対し、可塑剤の含量は、5%〜20%の間であり、ポリオールエステル化合物の含量は、0より大きく、3%より小さい。あるいは、セルロースフィルムの厚さが65μm〜200μmの間の時、ポリオールエステル化合物の含量は、3%〜20%の間である。
【0026】
上述したモノカルボン酸は、例えば、脂肪族モノカルボン酸である。あるいは、モノカルボン酸の分子構造中に、例えば、脂環式モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸等の芳香族環またはシクロアルキル環を有してもよい。脂環式モノカルボン酸および芳香族モノカルボン酸は、水蒸気伝送速度および滞留性の改良に有利である。
【0027】
脂肪族モノカルボン酸は、例えば、1〜32個(より好適には、1〜20個、さらに好適には、1〜10個)の炭素原子を有する直鎖または側鎖脂肪酸である。脂肪族モノカルボン酸の実例は、飽和脂肪酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2-エチルヘキサンカルボン酸、ウンデカノイン酸、ラウリン酸、トリデシリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ベヘン酸、テトラコサノイン酸、ヘキサコサニック酸、ヘプタコサン酸、ナコサン酸、トリアコンタン酸、ラッセル酸等)および不飽和脂肪酸(例えば、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸等)を含む。特に、セルロースフィルムとの相溶性を上げる時、脂肪族モノカルボン酸は、より好適には、酢酸であり、さらに好適には、酢酸とその他のモノカルボン酸の混合物である。しかしながら、本実施形態はモノカルボン酸に対して特に限定しない。
【0028】
脂環族モノカルボン酸の実例は、シクロプロパンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸およびその誘導体を含む。
【0029】
芳香族モノカルボン酸の実例は、安息香酸、アルキル基により置換された安息香酸、ナフタレンカルボン酸、テトラリンカルボン酸およびその誘導体を含む。
【0030】
上述した脂肪族ポリオールは、例えば、式(1)で示され、
1-(OH)n 式(1)
式中、R1はn価の有機基であり、且つ少なくとも2の整数である。n価の有機基は、例えば、アルキレン(例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン等)、アルケニレン(例えば、ビニレン等)、アルキニレン(例えば、エチニレン等)、シクロアルキレン(例えば、1,4-ヘキサメチレン等)またはアルカントリイル(例えば、1,2,3-プロパントリオール等)である。nは、より好適には、2〜20の整数であり、さらに好適には、2〜15の整数であり、最も好適には、3〜10の整数である。脂肪族ポリオールの実例は、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジブタンジオール、1,3,4-ブタントリオール、1,5-ペンタジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3-メチルペンタン-1,3,5トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を含み、そのうち、より好適には、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパンおよびキシリトールである。
【0031】
1種または多種のモノカルボン酸と脂肪族ポリオールを合成したポリオールエステル化合物の分子量は、本実施形態では特に限定しないが、より好適には、300〜1500の間であり、さらに好適には、350〜750の間である。比較的高い分子量のポリオールエステル化合物は、滞留性の面において有利であり、比較的低い分子量のポリオールエステル化合物は、水蒸気伝送速度およびセルロースフィルムとの相溶性の面において有利である。ある実施形態では、ポリオールエステル化合物の分子構造中に、例えば、芳香族環またはシクロアルキル環を有する。
【0032】
本実施形態において、ポリオールエステル化合物を調製する時、1種または多種のモノカルボン酸を使用することができ、脂肪族ポリオールの全てまたは一部のヒドロキシをエステル化して、自由ヒドロキシを保留することができる。
【0033】
ポリオールエステル化合物の分子構造中、より好適には、3個または更に多くの芳香族環、3個または更に多くのシクロアルキル環、あるいは3個または更に多くの芳香族環とシクロアルキル環を有する。ポリオールエステル化合物は、以下の通りである。














【0034】
特に言及すべきこととして、上述したポリオールエステル化合物の価格は比較的高いが、本実施形態は、セルロースフィルム中にポリオールエステル化合物を少量だけ(含量は3%より小さい)含んでいればよいため、本実施形態のセルロースフィルムは、一般のセルロースフィルムと比べて、生産コストが安い。また、本実施形態のセルロースフィルムは、厚さが65μm〜200μmの間の時、ポリオールエステル化合物の含量は3%〜20%の間であるため、サイズの伸縮、硬度および水蒸気透過率において、商品材料の水準に達することができる。
【0035】
また、さらにセルロースフィルムの熱収縮率を下げ、硬度を上げるため、上述した可塑剤は、その他の化合物をさらに含んでもよい。例を挙げて説明すると、上述した可塑剤は、ポリオールエステル化合物以外の少なくとも1種のエステル化合物を含んでもよい。
【0036】
エステル化合物は、例えば、式(2)または式(3)で示されるリン酸エステル系化合物であり、

式中、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8は、それぞれ独立してアルキル基、アリル基またはアラルキル基であり、R9は、2価の連結基(connecting group)であり、mは、1〜10の整数である。リン酸エステル系化合物は、リン酸ビフェニルジフェニルホスフェート(biphenyl diphenylphosphate,BDP)、リン酸トリフェニルホスフェート(triphenyl phosphate,TPP)、リン酸トリクレジルホスフェート(tricresyl phosphate,TCP)、リン酸クレジルジフェニルホスフェート、リン酸オクチルジフェニルホスフェート、リン酸トリオクチルホスフェート、リン酸トリブチルホスフェート等である。リン酸エステル系化合物は、以下の通りである。


【0037】
また、実際の要求に基づいて、本実施形態のセルロースフィルム中に添加剤をさらに加えてもよい。添加剤は、例えば、紫外線吸収剤またはナノパウダーである。上記の添加剤は、単独で使用しても、あるいは混合して使用してもよい。
【0038】
セルロースフィルムの総重量に対し、紫外線吸収剤の含量は、より好適には、0.001%〜5%の間であり、さらに好適には、0.01%〜1%の間である。紫外線吸収剤は、サリチラート系吸収剤、ベンゾフェノン系吸収剤、ベンゾトリアゾール系吸収剤、ベンゾアート系吸収剤、シアノアクリレート系吸収剤またはニッケル錯塩系吸収剤であってもよく、より好適には、ベンゾフェノン系吸収剤、ベンゾトリアゾール系吸収剤、サリチラート系吸収剤、さらに好適には、ベンゾトリアゾール系吸収剤である。
【0039】
ベンゾフェノン系吸収剤の実例は、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-アセトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデカカルボニルベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリトキシ)プロピルオキシベンゾフェノンを含む。
【0040】
ベンゾトリアゾール系吸収剤の実例は、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールを含む。
【0041】
サリチラート系吸収剤の実例は、サリチル酸フェニル、サリチル酸p-オクチルフェニル、サリチル酸p-tert-ブチルフェニルを含む。
【0042】
上述した紫外線吸収剤において、より好適には、2-ヒドロキシ-4-アセトキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-メトキシベンゾフェノン、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールである。
【0043】
上述した紫外線吸収剤は、単独で使用しても、あるいは混合して使用してもよい。紫外線吸収剤は、主に、吸収波長が400nm以下の紫外線を用いることによって、セルロースフィルムで覆われた部材が紫外線の照射により破損するのを防ぐ。より好適には、吸収波長が異なる多種の紫外線吸収剤を混合して使用して、広い波長範囲で紫外線を吸収する。
【0044】
セルロースフィルムの総重量に対し、ナノパウダーの含量は、例えば、0.001%〜2%の間である。ナノパウダーの材料は、例えば、Aerosil 200、200V、300、R972、R972V、R972CF、R974、R202、R805、R812、OX50、TT600等のシリカであってもよく、より好適には、Aerosil 200、200V、R972、R972V R974、R202、R805、R812である。上述したナノパウダーは、単独で使用しても、あるいは混合して使用してもよい。
[セルロースフィルムの製造方法および試験]
【0045】
トリアセテートセルロース(145.5kg)、可塑剤(表1に示した成分)を溶媒(ジクロロメタン:730kg、メタノール:110kg)中に加えて混合し、それから、除泡、濾過、溶媒キャスト(solvent casting)を行って、セルロースフィルムを形成する。
【0046】
形成されたセルロースフィルムに対し、以下の試験を行う。
【0047】
熱収縮試験:
試験用のセルロースフィルムを3片に切り、各片の大きさを10cm×15cmにする。フィルムの伝送方向(MD方向)上の長さが15cmで、フィルムの伝送方向と垂直の方向(TD方向)上の長さが10cmである。熱収縮試験を行う時、オーブンの温度は90℃である。二次元装置を用いて、MD方向とTD方向における伸縮値Aを測定する。それから、セルロースフィルムをそれぞれオーブンの中に置いて、24時間放置する。そして、二次元装置を用いて、MD方向とTD方向における伸縮値Bを測定する。公式(A−B)/Aにより、大きさの変化率を得る。得られた大きさの変化率が低ければ低いほど、セルロースフィルムの熱収縮性が低いことを示す。
【0048】
水蒸気透過試験:
直径が7cmの円形セルロースフィルムを恒温恒湿オーブン(50%RH、23℃)の中に5時間放置する。それから、リン酸二水素アンモニウム(saturated ammonium dihydrogen phosphate)溶液をガラス瓶の中に入れる。そして、セルロースフィルムを隙間がないように詰めて、瓶蓋の上面を固定し、水蒸気だけがセルロースフィルムを通過できるようにする。続いて、ガラス瓶を恒温恒湿オーブンに4日間放置し、毎日取り出して記録を付ける。得られた重量からセルロースフィルムの重量と瓶の重量を差し引いて、毎日損失した重量を得る(単位は、g/m2・day)。毎日少なくとも2片以上を試験する。
【0049】
鉛筆硬度試験:
サンプルの製造:
1.フィルム材の空気側(air side)およびベルト側(belt side)により、MD方向の長さを20cm、TD方向の長さを6cmとする。
2.フィルム材の表面に図1のような試験の注記を行って、粘着ロールでサンプル表面のほこりを除去する。
3.機台操作
運転速度30r/minを確認して、サンプルを放置し、両側を均等に締める。
3.1 試験用鉛筆(芯が正面から見て円形、側面から見て長方形のもの)を準備して、機台に置き、平衡を行う。
3.2 平衡が完了したら、500gの重りを置く。
3.3 "START"を押して試験を開始し、"STOP"を押して試験を停止する。
3.4 それぞれのセクション毎に1cm試験を行い、鉛筆をもう一方の側に回転して、上記ステップを繰り返す。
3.5 鉛筆を1回磨ぐと3つのデータを測定することができる。毎回鉛筆を研ぐ毎に平衡動作を行う必要があることをよく記憶しておく。
3.6 各サンプルは、鉛筆の等級が同じもので5本試験しなければならず、そのうち3本が合格すれば1等級上がり、そうでなければ1等級下がる。
3.7 鉛筆の等級は、2B<B<HB<F<H<2H<3Hに分類される。
【0050】
表1は、セルロースフィルムに対して熱収縮、鉛筆硬度試験および水蒸気透過試験を行って得られた結果である。
【0051】
【表1】

【0052】
サンプル1、4、5、6、7において、可塑剤は、1種のポリオールエステル化合物のみを含む。サンプル2、3において、可塑剤は、1種のリン酸エステル系化合物のみを含む。サンプル8において、可塑剤は、2種のリン酸エステル系化合物を含む。サンプル9において、可塑剤は、2種のポリオールエステル化合物を含む。サンプル10、11、12において、可塑剤は、ポリオールエステル化合物とリン酸エステル系化合物を同時に含み、且つポリオールエステル化合物の含量は3%よりも小さく、本実施形態のセルロースフィルムに属する。
【0053】
表1からわかるように、可塑剤の含量が全て10%の条件の下で、可塑剤中にポリオールエステル化合物とリン酸エステル系化合物を同時に含み、且つポリオールエステル化合物の含量が3%よりも小さい場合(例えば、サンプル10、11、12)、セルロースフィルムは、低水蒸気透過率および低熱収縮率を有する。言い換えると、本実施形態のセルロースフィルムは、可塑剤の含量を増やすことによって耐熱特性および耐湿特性を向上させる必要がない。また、サンプル10、11、12は、ポリオールエステル化合物を少量しか含まないため(含量が3よりも小さい)、その他のサンプルと比べて製造コストが低い。
【0054】
表2は、セルロースフィルムの厚さが80μmの場合に、本実施形態の配合と現在の各企業の商品材料を比較したものである。
【0055】
【表2】

【0056】
サンプル13〜16は、現在の各企業の商品材料である。サンプル17、18は、本実施形態の配合である。表2からわかるように、セルロースフィルムの厚さが80μmの条件の下で、ポリオールエステル化合物の含量が3%〜20%の間の場合に、本実施形態のセルロースフィルムは、サイズの伸縮、硬度および水蒸気透過率において、いずれも商品材料の水準に達することができた。
【0057】
特に言及することとして、本実施形態のセルロースフィルムは、ユーザーの要求に基づいて、様々な構成要素に応用することができる。例えば、低水蒸気透過率および低熱収縮率のセルロースフィルムは、液晶ディスプレイの偏光板またはその他の光学フィルムに応用することができる。
【0058】
以上のように、本実施形態のセルロースフィルムは、セルロースフィルム中の可塑剤がポリオールエステル化合物を少量しか含まないため(セルロースフィルムの総重量に対し、含量が3より小さい)、価格の高いポリオールエステル化合物の使用量を減らし、生産コストを下げる目的を達成することができる。また、本実施形態のセルロースフィルムの厚さが65μm〜200μmの間の時、ポリオールエステル化合物の含量は3%〜20%の間であるため、サイズの伸縮、硬度および水蒸気透過率において、商品材料の水準に達することができる。
【0059】
また、本実施形態のセルロースフィルム中の可塑剤がリン酸エステル系化合物を同時に含む場合、さらにセルロースフィルムの耐熱特性および耐湿特性を有効に向上させ、セルロースフィルムの使用寿命を延ばすことができる。
【0060】
また、発明のセルロースフィルムを液晶ディスプレイの偏光板に応用した場合、セルロースフィルムは低水蒸気透過率および低熱収縮率等の特性を有するため、偏光板の使用寿命を延ばすことができ、さらには液晶ディスプレイの画像品質をより高くすることができる。
【0061】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースフィルムであって、
トリアセテートセルロースと、
1種または複数種のモノカルボン酸と脂肪族ポリオールで合成されたポリオールエステル化合物を含む可塑剤と
を含み、
前記セルロースフィルムの総重量に対し、前記ポリオールエステル化合物の含量が、0より大きく、3%より小さいか、あるいは、前記セルロースフィルムの厚さが65μm〜200μmの間の時、前記ポリオールエステル化合物の含量が、3%〜20%の間であるセルロースフィルム。
【請求項2】
前記脂肪族ポリオールが、式(1)で示され、
1-(OH)n 式(1)
式中、R1がn価の有機基であり、且つnは2以上の整数である請求項1記載のセルロースフィルム。
【請求項3】
前記モノカルボン酸の分子構造中に、芳香族環またはシクロアルキル環を有する請求項1または2記載のセルロースフィルム。
【請求項4】
前記ポリオールエステル化合物の分子構造中に、芳香族環またはシクロアルキル環を有する請求項1から3の何れか1項記載のセルロースフィルム。
【請求項5】
前記ポリオールエステル化合物の分子構造中に、芳香族環とシクロアルキル環を同時に有する請求項1から4の何れか1項記載のセルロースフィルム。
【請求項6】
前記可塑剤が、前記ポリオールエステル化合物以外の少なくとも1種のエステル化合物をさらに含む請求項1から5の何れか1項記載のセルロースフィルム。
【請求項7】
前記エステル化合物が、リン酸エステル系化合物である請求項6記載のセルロースフィルム。
【請求項8】
前記リン酸エステル系化合物が、式(2)または式(3)で示され、

式中、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8が、それぞれ独立してアルキル基、アリル基またはアラルキル基であり、R9が、2価の連結基であり、mが、1〜10の整数である請求項7記載のセルロースフィルム。
【請求項9】
紫外線吸収剤をさらに含む請求項1から8の何れか1項記載のセルロースフィルム。
【請求項10】
前記セルロースフィルムの総重量に対し、前記紫外線吸収剤の含量が、0.001%〜5%の間である請求項9記載のセルロースフィルム。
【請求項11】
前記セルロースフィルムの総重量に対し、前記可塑剤の含量が、5%〜20%の間である請求項1から10の何れか1項記載のセルロースフィルム。
【請求項12】
前記セルロースフィルムの厚さが、10μm〜200μmの間である請求項1から11の何れか1項記載のセルロースフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−136682(P2012−136682A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28519(P2011−28519)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(511039016)達輝光電股▲ふん▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】