説明

セルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物

【課題】 発明は、銀行券、証券、商品券等、貴重印刷物に関し、指先の感覚で印刷物の種類や真偽を識別する「指感性識別性」の向上とともに、効果的な偽造防止を目的とするセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物に関わるものである。
【解決手段】 本発明の構成は、セルロース微小繊維を所定の材料に配合してインキを作製し、インキにより基材の一部に識別マークを施した印刷物であり、セルロース微小繊維の比重が、所定の材料の比重より軽いため、セルロース微小繊維配合インキの表面に、セルロース微小繊維が配向されて成り、かつ、セルロース微小繊維の一部が、セルロース微小繊維配合インキの表面に突出することで、基材と異なる指感性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、証券、商品券等、貴重印刷物に関し、指先の感覚で印刷物の種類や真偽を識別する「指感性識別性」の向上とともに、効果的な偽造防止を目的とするセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、銀行券、証券類等には視覚障害者が指で触って券種が判別できるように識別マークが施されている。識別マークにはすき入れ、エンボス加工等によって用紙に凹凸を施すものや、用紙に凹版印刷でインキ盛り領域を形成して凹凸を施す方法がある。
【0003】
特に、銀行券においては、特定部分に凹凸や凸等の券種ごとに異なる形状を有した領域を設け、その表面を指で触ること(以下「指感性」という。)により券種を判別可能にする工夫が施されている。
【0004】
現在、日本で発行されている銀行券では、銀行券の表面の右下部及び左下部において、一万円券はL字形状、五千円券は八角形状、二千円券は丸形状が縦に三つ、千円券は横棒形状が凹版印刷で施されている(以下これらの凹版印刷による券種判別のための領域を「識別マーク」という。)。
【0005】
このような識別マークを付与するには、高度な製紙技術や印刷技術が必要であるが、現状よりも、更に識別性が高く、より簡単に識別できる識別マークの付与が望まれている。
【0006】
前述したような、識別マークの識別性を向上させるための技術として、識別マークの近傍に光学的変化素子(ホログラム)を貼付した貴重印刷物が提案されている。これは、光学的変化素子(ホログラム)と識別マークの表面状態の指感性による差(ツルツルとザラザラ)と、識別マークの凸部と用紙表面との高低差による形状確認の二通りの識別方法を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、識別マークの識別性を向上させるための他の技術として、2層以上の層間に、ガラスフレークが混合された指感性材料によって形成された識別マークが施された多層抄き合わせ紙が提案されている。これは、識別マークが紙層で覆われているため指感性効果が持続し、悪意を持った者に識別マークを削られることがない、といったメリットがあり、さらに、識別マークはガラスフレークを混合した指感性材料で形成されているため、指感性は異質感(ザラツキ感、摩擦抵抗、硬さ)を有し、新たな指感性が得られることを特徴としている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
一方、地球環境の問題や作業環境の問題が取り上げられている現在、貴重印刷物の識別性を向上させる課題と並行して、印刷物に用いる材料として、地球環境を考慮した材料、リサイクル性や環境調和性の向上を考慮した材料の使用が求められている。
【0009】
その一つとして、セルロース系の繊維を物理的又は化学的方法でミクロフィブリル数本単位まで解繊した微小繊維(以下「セルロース微小繊維」という。)を分散液に分散させた材料が開示されている。
【0010】
さらに、その材料を使用する技術として、綿繊維を炭化した微小炭素繊維に、微小炭素繊維の分散、飛散及び繊維の絡み合い不足を解消するためにセルロース微小繊維を混合させて塗料を作製し、その塗料を用いて建材に塗布する技術が開示されている。これは、微小炭素繊維の効果を主として構成され、セルロース微小繊維は、微小炭素繊維の分散、飛散及び繊維の絡み合い不足を解消するための補助的役割として添加されており、効果としては、脱臭機能や加工性、強度、使いやすさの向上を目的としている。(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−058605号公報
【特許文献2】特開2006−283238号公報
【特許文献3】特許第4150447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、現在の銀行券に施されている凹版印刷による識別マークは、流通過程において識別マークの効果が失われていき、そのため券種の判別がしづらくなるといった課題がある。そこで、現状よりも、もっと識別性が高く、より簡単に分かり易く識別できる識別マークの付与が望まれている。
【0013】
また、エンボスによる識別マークの場合、用紙の復元力により時間経過とともにエンボス効果が失われていき、市場で長年使用され続けた銀行券等は、券種の判別がしづらくなり、本来の識別マークとしての効果を喪失していた。
【0014】
また、単なる凹凸による識別マークの場合、偽造者による偽造がされ易く、偽造困難性に欠けているといった問題点がある。
【0015】
さらに、引用文献1においては光学的変化素子(ホログラム)を使用しており、引用文献2においてはガラスフレークが使用されている。これらは、地球環境の問題や作業環境の問題が取り上げられている現在において、地球環境を考慮した材料、リサイクル性や環境調和性の向上を考慮した材料ではない。
【0016】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、セルロース微小繊維を配合したインキを作製し、そのインキにより基材の一部に、独特の指感性を有する識別マークを施した印刷物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明におけるセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物は、基材の一部に識別領域を有し、識別領域には、凸形状の識別マークが形成されて成り、識別マークは、セルロース微小繊維配合インキから成り、セルロース微小繊維配合インキは、所定の材料及びセルロース微小繊維を分散させたセルロース微小繊維分散液が配合されて成り、セルロース微小繊維の比重が、所定の材料の比重より軽いため、セルロース微小繊維配合インキの表面に、セルロース微小繊維が配向されて成り、かつ、セルロース微小繊維の一部が、セルロース微小繊維配合インキの表面に突出することで、識別マークが基材と異なる指感性を有して成ることを特徴とする。
【0018】
本発明におけるセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物は、紫外線で硬化するUV硬化型の材料であり、かつ、親水性基が導入されているか又は界面活性剤でエマルジョン化された水性材料であることを特徴とする。
【0019】
本発明におけるセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物は、セルロース微小繊維の固形分量が、インキ全量中に0.2〜5%であることを特徴とする。
【0020】
本発明におけるセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物は、セルロース微小繊維配合インキにおける膜厚が、5μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
セルロース微小繊維が表面に配向されたインキによる識別マークであるため、セルロース繊維独特の指感性を持たせることが可能であり、指感性が大幅に向上する。
【0022】
インキ膜厚が多少潰れても、その表面に配向されているセルロース繊維により、独特の指感性が保持される。
【0023】
エンボスのように、用紙自体に凹凸を持たせた識別マークではないため、用紙の復元力により、指感性が失われることがない。
【0024】
セルロース繊維が表面に配向されており、単なるインキの盛りによる凹凸とは明らかに指感性に差異を持たせることが可能であるため、指感性、識別性だけでなく偽造防止効果にも優れる。
【0025】
セルロース系の天然繊維を使用するため、リサイクル性や環境調和性の向上、コストの低減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明における印刷物を示す。
【図2】本発明における識別マークの形状を示す。
【図3】セルロース微小繊維のリーフィング効果を示す。
【図4】実施例1における印刷物を示す。
【図5】実施例1における印刷物の識別領域のSEM画像を示す。
【図6】実施例2における印刷物を示す。
【図7】実施例2における印刷物の識別領域のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0028】
図1に、本発明における印刷物(1)を示す。印刷物(1)は、基材(2)の一部に識別領域(3)を有しており、識別領域(3)には、セルロース微小繊維を有した識別マーク(4)が施されている。印刷物(1)には、識別マーク(4)の他に料額、図柄、模様等が印刷されていてもよい。
【0029】
識別マーク(4)は、セルロース微小繊維配合インキによって付与され、セルロース微小繊維配合インキは、セルロース微小繊維と所定の材料を配合することで作製される。セルロース微小繊維及び所定の材料については後述する。
【0030】
識別マーク(4)の大きさに関しては、指感性が最優先であることを考慮すると、指先の大きさに適したサイズにすることが必要である。
【0031】
識別マーク(4)の形状に関しては、図2に示すように、(a)円形状、(b)多角形、(c)棒状、(d)図柄、(e)模様、(f)文字、(g)記号等、特に限定はなく、(d)のように一様な形状でも、その他のように、セルロース微小繊維配合インキの有る領域と無い領域が交互に連続するような形状でもよい。ただし、識別の容易性を向上させる点を考慮するならば複雑な形状よりも簡易な形状の方が好ましい。
【0032】
本発明におけるセルロース微小繊維とは、主としてセルロースから成る繊維であり、特に植物由来の天然セルロースを原料として用いたものが好ましく、繊維幅2nm〜10μm未満の微小なセルロース繊維に解繊されたものをいう。
【0033】
ここでいう解繊とは、セルロース系の繊維をミクロ又はナノフィブリル数本単位まで解きほぐすことである。通常、植物から得られるセルロース系の繊維は、セルロース分子30〜50本から成り、繊維幅が約2〜5nmのセルロースナノフィブリルの集合体である。セルロースミクロフィブリルは無数の水素結合により強固に結合されているが、物理的又は化学的な処理を施すことで、繊維状のままセルロースミクロフィブリル又はセルロースナノフィブリル数本単位に解きほぐすことが可能である。
【0034】
解繊する方法として、物理的方法では、高圧ホモジナイザーによる機械的せん断力でミクロフィブリル化する方法や、乾式ボールミルによる機械的粉砕に有機溶媒を添加することで微粒化処理する方法等がある。また、化学処理による方法では、硫酸処理によりセルロース繊維の非結晶部分を除く方法や、酸化処理により結晶性セルロースミクロフィブリル表面のみにカルボキシル基を導入して高分散させる方法等がある。これらの方法は、すべて公知の手法であり、本発明における用紙を作製するために行う解繊も公知の手法で行うこととする。
【0035】
セルロース微小繊維の繊維幅が10μm以上になると、一般的なパルプ繊維の繊維幅である10〜30μmと同じオーダーとなり、微小繊維特有の特性を得られない。よって、ここでいう微小繊維とは、セルロースナノフィブリル単位の約2nmから10μm未満の繊維をいう。インキに配合した際に、適当な印刷物の指感性を得るためには、2nm〜3μm程度の繊維が微凝集している状態が望ましい。
【0036】
セルロース微小繊維は、主としてセルロースの繊維から成るが、そのセルロースから成る繊維については、特に限定されるものではなく、各種木材を原料とするKP、SP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用でき、それらを粉砕した粉末状セルロース、化学処理により精製した微結晶化セルロース等も使用できる。また、ケナフ、麻、イネ、バガス、アバカ、木綿、ミツマタ、竹等の非木材を使用することもできる。
【0037】
セルロース微小繊維は水に分散させ、セルロース微小繊維分散液とする。セルロース微小繊維分散液は、解繊された微小繊維同士が、すぐに水素結合で再結合しない程度の濃度が好ましい。固形分濃度1〜10%程度での使用が望ましいが、10〜35%程度でも、分散液を強撹拌又は分散剤を添加することで、微小繊維同士を再分離させることができれば問題ない。
【0038】
これは、固形分濃度が35%以上の高濃度になると、撹拌又は分散剤を加えるのみでは、微小繊維同士の再結合を抑止できず、再解繊処理が必要となる可能性があるためであり、逆に、固形分濃度が1%以下の低濃度では、インキに配合する際、指感性の得られる適当な配合量を得られない可能性があるためである。ただし、それらの問題が他の手段で回避できれば特に制限はない。
【0039】
このようなセルロース微小繊維分散液を、所定の材料に配合することで、セルロース微小繊維配合インキを作製する。以下、所定の材料について説明する。
【0040】
セルロース微小繊維分散液を配合させる所定の材料は、セルロース微小繊維分散液が均一に分散されるような材料を選択する必要があり、水(溶剤)蒸発型の材料、UV硬化型の材料又は酸化重合型の材料とする。
【0041】
水(溶剤)蒸発型とは、熱風、IR乾燥することで水(溶剤)を蒸発させ、インキを乾燥させる材料のことである。この材料としては、例えば、水、有機溶剤、水と有機溶剤が界面活性剤等を用いて樹脂成分とエマルジョン化もしくは溶解された液が挙げられる。
【0042】
UV硬化型とは、樹脂成分にUVを照射することでラジカル重合により高分子化することでインキを乾燥させる材料のことである。この材料としては、例えば、水と親水性基が導入された水性硬化性材料、水と硬化性材料が界面活性剤を用いてエマルジョン化された液が挙げられる。
【0043】
酸化重合型とは、樹脂成分が酸素と触れることによって、樹脂成分分子が架橋され高分子化することでインキを乾燥させる材料のことである。この材料としては、例えば、水と親水性基が導入された酸化重合性材料、水と酸化重合性材料が界面活性剤を用いてエマルジョン化された液が挙げられる。
【0044】
ただし、指感性を考慮した識別マークを得るためには、膜厚が十分に得られるUV硬化型の材料を選択することが好ましい。
【0045】
また、UV硬化型の材料の中でも、セルロース微小繊維分散液の均一な分散性を考慮すると、親水性基が導入された水性材料(以下、「水性UV硬化型材料」という。)を選択することが好ましい。親水性基が導入された水性材料を利用する場合、親水性基としては、カルボキシル基又はスルホニル基が導入されたアニオンタイプ、アミノ基を酸で中和又は4級化試薬により4級アンモニウム塩としたカチオンタイプ、ポリエーテル骨格又は水酸基を有するノニオンタイプが良い。
【0046】
また、セルロース微小繊維分散液と、所定の材料以外には、水を配合させる。これは、セルロース微小繊維の分散性を上げるためであり、更にはインキ中の水分量を調整することによって、セルロース微小繊維のリーフィング効果が向上するためである。
【0047】
リーフィング効果とは、平面配向性のことであり、図3に示すように、インキの表面にセルロース微小繊維が配向している状態のことをいう。つまり、セルロース微小繊維を水性UV硬化型材料と配合させてインキとした場合、セルロース微小繊維の比重は、水性UV硬化型材料の比重よりも軽く、更にセルロース微小繊維は水で濡れているため、水性UV硬化型材料中のワニス成分をはじくことで、リーフィング効果が起きる。
【0048】
また、リーフィング効果に加え、インキの被膜からセルロース微小繊維が突出していること、更には、エマルジョン化する際にセルロース微小繊維が微凝集するとともに、セルロース微小繊維の表面が擦り合わさることで毛羽立ちを生じることから、基材(2)の指感性と、インキの被膜から突出しているセルロース微小繊維の指感性に差が生じる。そのことによって、インキ自体の膜厚に加えて、セルロース微小繊維の指感性により、識別マークとしての効果を生じさせることが可能となる。
【0049】
本発明において使用する基材(2)は、特に限定はない。ただし、基材(2)の指感性と、セルロース微小繊維の指感性の差によって識別を行うため、識別マークとしての指感性を考慮した場合、ある程度の平滑性を有した基材(2)を用いることが好ましい。これは、ザラザラした基材(2)を用いた場合、基材(2)の指感性と、セルロース微小繊維の指感性の差が識別しづらいためであり、セルロース微小繊維の指感性と異なった指感性を有する基材(2)を用いることが好ましい。
【0050】
所定の材料として、親水性基が導入されていない材料を選択した場合、セルロース微小繊維が分散されず、インキが水層と樹脂層(ワニス/有機成分層)に分離してしまい印刷不良が発生する。ただし、材料として、親水性基が導入されていない材料を選択した場合は、セルロース微小繊維分散液の分散を促進するための界面活性剤を更に配合することでエマルジョン化させれば問題はない。エマルジョン化とは、分離している二つの液体を分散させた分散系溶液とすることである。
【0051】
セルロース微小繊維(固形分)は、インキ全量中に0.2〜5%配合する。これは、インキ全量に対して5%以上配合すると、分散が難しく印刷不良の原因となるためであり、また、インキ全量に対して0.2%未満しか配合しないと、十分な指感性が得られないためである。
【0052】
水は、インキ全量中に20〜40%配合する。エマルジョン化する際に、インキ全量に対して40%以上配合すると、インキが低粘度化し、十分な膜厚が得られなかったり、水分量が多くなりすぎ硬化不良が発生したりするためであり、また、インキ全量に対して20%未満の配合となると、固形分濃度が1%のセルロース微小繊維分散液を用いた場合に、インキ全量中のセルロース繊維の固形分が0.2%以下になってしまうためである。
【0053】
界面活性剤を、界面活性剤の種類及び水の配合量によるが、1〜10%配合する。これは、エマルジョン化が確実にできる配合量とするためである。
【0054】
また、所定の材料として、親水性基が導入された水性材料を選択した場合においても、セルロース微小繊維と所定の材料の配合に、更に水溶性液体を配合してもよい。水溶性液体としては、分散剤、水溶性高分子等、セルロース微小繊維の分散状態を阻害しない液体であれば限定はない。
【0055】
基材(2)の一部に、セルロース微小繊維配合インキを印刷する方式は、スクリーン印刷、凹版印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等、ある程度のインキ膜厚を得られる方式で印刷すればよい。また、印刷方式によっては、一回の印刷で求められる指感性を有するインキ膜厚が得られない場合もあるが、この場合、数回印刷を繰り返し、目標のインキ膜厚を得ればよい。インキ膜厚は、5μm以上、望ましくは10μm以上確保することで、凹凸による指感性に加え、繊維特有の指感性が得られ識別マークとしての効果を発揮することができる。
【0056】
セルロース微小繊維の長さは、木材パルプの繊維長さが通常0.5〜3mm程度であることから、最小限界長さはこれ以下の長さとなるが、最大限界長さは印刷方式により異なる。例えば、スクリーン印刷方式ではスクリーンの網目を通過できる長さ以下、凹版印刷では版面に転写されうる長さ以下、フレキソ印刷方式ではロールのセルに転写されうる長さ以下、インクジェット印刷方式では噴射口から噴射されうる長さ以下である必要がある。
【0057】
以上のように、基材(2)の一部である識別領域(3)に、セルロース微小繊維配合インキにより識別マーク(4)を付与した後、基材(2)を乾燥させることによって、本発明におけるセルロース微小繊維を有した識別マーク(4)が施された印刷物(1)が作製される。
【0058】
以下、前述した発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製したセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0059】
図4に、本発明の実施例1における印刷物(1−1)を示す。印刷物(1−1)は、基材(2−1)の一部に識別領域(3−1)を有しており、識別領域(3−1)には、セルロース微小繊維を有した識別マーク(4−1)が施されている。また、印刷物(1−1)には、識別マーク(4−1)の他に料額、図柄、模様等が印刷されている。
【0060】
実施例1においては、基材(2−1)として上質紙を用いた。識別マーク(4−1)は円形状であり、セルロース微小繊維配合インキによって付与されている。セルロース微小繊維配合インキは、表1に示す配合割合で作製した。
【0061】
【表1】

表1に示す配合割合で作製したインキにより、スクリーン印刷方式で、識別マーク(4−1)の印刷を行った。この時の、インキ膜厚は15μm程度である。
【0062】
以上のように、上質紙の一部の識別領域(3−1)に、セルロース微小繊維配合インキにより識別マーク(4−1)が付与された後、上質紙を乾燥することで、本発明におけるセルロース微小繊維を有した識別マーク(4−1)が施された印刷物(1−1)が作製された。
【0063】
図5に、作製された印刷物(1−1)の識別領域(3−1)におけるSEM画像を示す。SEM画像は、識別マーク(4−1)の一部の拡大画像を示す。白く繊維状に見える部分が微凝集したセルロース微小繊維(6−1)で、黒い部分がワニス成分による皮膜(5−1)である。SEM画像によると、微凝集したセルロース微小繊維(6−1)がインキ皮膜(5−1)の表面に出ていることがわかる。このことにより、インキの膜厚に加えて、インキ皮膜から微凝集したセルロース微小繊維が出ていることによって、独特な指感性を有する。
【実施例2】
【0064】
図6に、本発明の実施例2における印刷物(1−2)を示す。印刷物(1−2)は、基材(2−2)の一部に識別領域(3−2)を有しており、識別領域(3−2)には、セルロース微小繊維を有した識別マーク(4−2)が施されている。また、印刷物(1−2)には、識別マーク(4−2)の他に料額、図柄、模様等が印刷されている。
【0065】
実施例2においては、基材(2−2)として上質紙を用いた。識別マーク(4−2)は棒状であり、セルロース微小繊維配合インキによって付与されている。セルロース微小繊維配合インキは、表2に示す配合割合で作製した。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示す配合割合で作製したインキによりスクリーン印刷方式で、識別マーク(4−2)の印刷を行なった。この時の、インキ膜厚は15μm程度である。
【0068】
以上のように、上質紙の一部の識別領域(3−2)に、セルロース微小繊維配合インキにより識別マーク(4−2)が付与された後、上質紙を乾燥することで、本発明におけるセルロース微小繊維を有した識別マーク(4−2)が施された印刷物(1−2)が作製された。
【0069】
作製された印刷物(1−2)の識別領域(3−2)におけるSEM画像を図7に示す。SEM画像は、識別マーク(4−2)の一部の拡大画像を示す。白く繊維状に見える部分が微凝集したセルロース微小繊維(6−2)で、黒い部分がワニス成分による皮膜(5−2)である。SEM画像によると、微凝集したセルロース微小繊維(6−2)がインキ皮膜(5−2)の表面に出ていることがわかる。このことにより、インキの膜厚に加えて、インキ皮膜から微凝集したセルロース微小繊維が出ていることによって、独特な指感性を有する。
【符号の説明】
【0070】
1、1−1、1−2 印刷物
2、2−1、2−2 基材
3、3−1、3−2 識別領域
4、4−1、4−2 識別マーク
5−1、5−2 ワニス成分による皮膜
6、6−1、6−2 微凝集したセルロース微小繊維
7 インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一部に識別領域を有し、
前記識別領域には、凸形状の識別マークが形成されて成り、
前記識別マークは、セルロース微小繊維配合インキから成り、
前記セルロース微小繊維配合インキは、所定の材料及びセルロース微小繊維を分散させたセルロース微小繊維分散液が配合されて成り、
前記セルロース微小繊維の比重が、前記所定の材料の比重より軽いため、前記セルロース微小繊維配合インキの表面に、前記セルロース微小繊維が配向されて成り、かつ、前記セルロース微小繊維の一部が、前記セルロース微小繊維配合インキの表面に突出することで、前記識別マークが前記基材と異なる指感性を有して成ることを特徴とするセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物。
【請求項2】
前記所定の材料は、紫外線で硬化するUV硬化型の材料であり、かつ、親水性基が導入されているか又は界面活性剤でエマルジョン化された水性材料であることを特徴とする請求項1記載のセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物。
【請求項3】
前記セルロース微小繊維の固形分量は、前記セルロース微小繊維配合インキ全量中に0.2〜5%であることを特徴とする請求項1又は2記載のセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物。
【請求項4】
前記セルロース微小繊維配合インキにおける膜厚は、5μm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のセルロース微小繊維を有した識別マークが施された印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−35601(P2012−35601A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180207(P2010−180207)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】