セレン含有水還元処理装置及びセレン含有水還元処理方法
【課題】生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理について、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うためのセレン含有水還元処理装置を得る。
【解決手段】本発明のセレン含有水還元処理は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填されたカラム容器2と、カラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5とを含むものとした。
【解決手段】本発明のセレン含有水還元処理は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填されたカラム容器2と、カラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5とを含むものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン含有水還元処理装置及びセレン含有水還元処理方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、原料や製品としてセレンを扱う工場等から排出される排水、排煙にセレンを含む工場等にて発生する洗煙排水、石炭火力発電所から排出されるセレンを含む脱硫排水等のセレン含有水の還元処理に用いて好適な、セレン含有水還元処理装置及びセレン含有水還元処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレン(Se)は、平成5年に水質汚濁防止法における有害物質に認定され、0.1mg/Lの排水基準と、0.01mg/Lの水質環境基準が定められた。この排水基準及び水質環境基準を満たすべく、原料や製品としてセレンを扱う工場等から排出される排水、排煙にセレンを含む工場等にて発生する洗煙排水、石炭火力発電所から排出されるセレンを含む脱硫排水等のセレン含有水について、セレン濃度を低減するための適切な対策が求められている。
【0003】
ここで、セレン含有水中において、セレン(Se)は、セレン酸(SeO42−)及び亜セレン酸(SeO32−)の形態で溶解している。
【0004】
亜セレン酸については、鉄と難溶性の塩を形成することから、共沈処理によって排水等から容易に除去することができる(非特許文献1)。また、不溶性の元素セレン(Se0)に化学的に還元することも比較的容易である(非特許文献2)。
【0005】
これに対し、セレン酸は、その化合物の殆どが水への溶解度が高い。したがって、金属類を排水から除去するための凝集沈殿や吸着等といった物理化学な処理方法は有効とは言えない。そのため、セレン酸は、亜セレン酸まで還元してから共沈処理を施したり、あるいは元素セレンに還元したりする必要がある。セレン酸の還元に有効な還元剤については、例えば、塩化チタン、還元性鉄化合物、光触媒等が報告されている(非特許文献3〜5)。
【0006】
しかしながら、セレン酸の化学的な還元に際しては、使用する還元剤の種類を問わず、工場排水試験方法(JIS K 0102)における「塩酸酸性の強酸性下で煮沸」のような、強酸性条件に設定する必要がある。このことから、セレン酸の化学的な還元処理については、高価な金属系還元剤に加えて、pH調整用の多量の酸やアルカリの投入に要する薬剤費が、実用上の障害となっている。
【0007】
薬剤費を低減できる処理方法として、微生物を利用した生物処理法についても検討が進められつつある。微生物を利用した生物処理法においては、反応条件として中性付近のpHとすることが一般的には適していることから(非特許文献6)、pH調整用の酸やアルカリを多量に必要とすることがなく、酸やアルカリにかかる薬剤費を大幅に低減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】公害防止の技術と法規編集委員会編、新・公害防止の技術と法規2009水質編、社団法人産業環境管理協会、東京、2009.
【非特許文献2】電力中央研究所報告V07015
【非特許文献3】後藤建次郎、TiCl3による水中のSe(VI)の還元・除去、資源と素材、Vol.116、773−777、2000.
【非特許文献4】林浩志ら、グリーンラスト/フェライト循環処理法によるセレン汚染水処理の連続実証試験、資源と素材、Vol.122、415−422、2006.
【非特許文献5】川辺能成ら、光触媒によるセレン酸除去反応に及ぼす硫酸イオンの影響、資源と素材、Vol.117、282−287、2001.
【非特許文献6】Takada T. et al.: Kinetic study on biological reduction of selenium compounds, Process Biochem., Vol.43, 1304−1307, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生物処理法により排水等を処理する場合、多孔質セラミック、活性炭、繊維状物質などの比表面積の高い担体に菌体を高密度に付着させて、これを排水と接触させる手法が一般的に行われる。このように、比表面積の高い担体に菌体を高密度に付着させることで、排水をより多くの菌体と接触させて処理効率を高いものとできる。また、担体に菌体を付着させることによって、担体に菌体を留まらせることができ、処理済み排水を処理槽等から排出する際に処理済み排水と同伴して菌体が排出されるのを防いで、長期間安定して処理を行うことが可能となる。
【0010】
生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理についても、同様に、比表面積の高い担体にセレン酸還元菌を高密度に付着させることで、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うことが考えられる。
【0011】
しかしながら、本願発明者等が検討を行った結果、ロックウール(繊維化高炉スラグ)等の比表面積の高い担体にセレン酸還元菌を付着させただけでは、菌体の付着直後については一定量のセレン酸還元処理能力が見られたものの、その能力は低く、しかもその能力はすぐに衰えてしまった。したがって、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理については、単に比表面積の高い担体にセレン酸還元菌を付着するだけでは、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うことができないことが明らかとなった。そこで、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理について、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うための別の手法を確立することが望まれる。
【0012】
また、セレン含有水中の総セレン濃度を低減させる上では、セレン酸の濃度のみならず、亜セレン酸の濃度も低減することが重要となる。したがって、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理を実用化する上では、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行いながらも、セレン酸の還元処理と同時に、またはセレン酸の還元処理と連続して、亜セレン酸濃度を低減することのできる技術の確立も望まれる。
【0013】
本発明は、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理について、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うための処理装置及び処理方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行いながらも、セレン酸の還元処理と同時に、またはセレン酸の還元処理と連続して、亜セレン酸濃度を低減することのできる処理装置及び処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意検討を行った結果、多孔質または繊維状構造の担体をカラム容器に充填し、カラム容器内にセレン酸還元菌の凝集菌体を含む懸濁液を通水させることで、この凝集菌体を担体表面に安定して付着させられることを知見するに至った。つまり、セレン酸還元菌の凝集菌体を担体に付着させることによって、カラム容器にセレン含有水を通水させた場合に、この凝集菌体がセレン含有水に同伴して排出されることなく、担体表面に付着した状態で安定して維持されることを知見するに至った。
【0016】
本願発明者等は、この知見に基づき、セレン酸還元菌ではなく、セレン酸還元菌の凝集菌体を用いることで、多孔質または繊維状構造の担体にセレン酸還元菌の凝集菌体を高密度に付着させて、セレン酸の還元処理効率を高いものとし、長期間安定して処理を行うことが可能であることを知見するに至り、さらに種々検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体が充填されたカラム容器と、カラム容器内に有機物を供給する有機物供給装置とを含むものとしている。また、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体に、セレン含有水と有機物とを接触させる工程を含むようにしている。
【0018】
したがって、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法によると、多孔質または繊維状構造の担体の表面にセレン酸還元菌を含む凝集菌体を付着させているので、この凝集菌体が担体の表面に安定に保持され、有機物を供給することにより、セレン酸が長期間安定して効率よく還元処理される。しかも、有機物の供給によって凝集菌体がさらに安定して担体の表面に保持されるようになる。
【0019】
次に、請求項2に記載のセレン含有水還元処理装置は、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置において、担体の表面に亜セレン酸吸着剤を付着させたものとしている。また、請求項8に記載のセレン含有水還元処理方法は、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法において、担体の表面に亜セレン酸吸着剤を付着させたものとしている。
【0020】
したがって、請求項2に記載のセレン含有水還元処理装置、請求項8に記載のセレン含有水還元処理方法によると、セレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、担体自体に亜セレン酸が吸着される。これにより、セレン含有水中のセレン酸と亜セレン酸が同時に還元処理され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0021】
ここで、請求項3に記載のセレン含有水還元処理装置のように、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置におけるカラム容器を第一のカラム容器とし、第一のカラム容器の後段に、亜セレン酸吸着材を充填した第二のカラム容器を更に含むものとしてもよい。また、請求項9に記載のセレン含有水還元処理方法のように、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法における工程を第一の工程とし、第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸吸着材に接触させる第二の工程を更に含むようにしてもよい。
【0022】
この場合には、前段にてセレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、後段にて亜セレン酸が吸着される。これにより、セレン含有水中のセレン酸が前段にて還元された後に、連続して亜セレン酸が後段にて吸着され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0023】
次に、請求項4に記載のセレン含有水還元処理装置は、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置において、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が凝集菌体に更に含まれているものとしている。また、請求項10に記載のセレン含有水還元処理方法は、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法において、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が凝集菌体に更に含まれているものとしている。
【0024】
したがって、請求項4に記載のセレン含有水還元処理装置、請求項10に記載のセレン含有水還元処理方法によると、セレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が凝集菌体に含まれていることによって、亜セレン酸が長期間安定して効率よく不溶化され、担体表面に付着する。これにより、セレン含有水中のセレン酸と亜セレン酸が同時に還元処理され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0025】
次に、請求項5に記載のセレン含有水還元処理装置において、請求項1又は4に記載のセレン含有水還元処理装置における凝集菌体とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が担体の表面に付着しているものとしている。また、請求項11に記載のセレン酸含有水還元処理方法は、請求項7又は10に記載のセレン含有水還元処理方法における凝集菌体とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が担体の表面に付着しているものとしている。
【0026】
したがって、請求項5に記載のセレン含有水還元処理装置、請求項11に記載のセレン含有水還元処理方法によると、セレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が担体の表面に付着していることによって、亜セレン酸が長期間安定して効率よく不溶化され、担体表面に付着する。これにより、セレン含有水中のセレン酸と亜セレン酸が同時に還元処理され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0027】
ここで、請求項6に記載のセレン含有水還元処理装置のように、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置におけるカラム容器を第一のカラム容器とし、第一のカラム容器の後段に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体が充填された第二のカラム容器を更に含むものとしてもよい。また、請求項12に記載のセレン含有水還元処理方法のように、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法における工程を第一の工程とし、第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体と有機物とに接触させる第二の工程をさらに含むようにしてもよい。
【0028】
この場合には、前段にてセレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、後段にて亜セレン酸が不溶化され、担体表面に吸着する。これにより、セレン含有水中のセレン酸が前段にて還元された後に、連続して亜セレン酸が後段にて不溶化され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0029】
次に、請求項13に記載のセレン含有水還元処理用担体は、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が、多孔質または繊維状構造の担体の表面に付着しているものである。
【0030】
したがって、請求項13に記載のセレン含有水還元処理用担体によると、凝集菌体に含まれる菌体の機能が長期間安定して効率よく発揮される。
【0031】
次に、請求項14に記載のセレン含有水還元処理用担体の作製方法は、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体を懸濁した溶液を多孔質または繊維状構造の担体に通液する工程を含むようにしている。
【0032】
したがって、請求項15に記載のセレン含有水還元処理用担体の作製方法によると、多孔質または繊維状構造の担体に、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体を長期間安定して付着させることができる。これにより、凝集菌体に含まれる菌体の機能が長期間安定して効率よく発揮される。
【発明の効果】
【0033】
請求項1に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能となる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元することができるので、セレン含有水に含まれるセレン酸の還元処理にかかる手間等を従来に比べて大幅に低減することが可能となる。
【0034】
請求項2に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、セレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を担体自体に化学的に吸着させて除去することが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元しながらも、同時に亜セレン酸を化学的に吸着して除去することができるので、セレン含有水の総セレン濃度低減処理を簡便に実施することが可能となる。さらには、同一カラム内にてセレン酸の還元処理と亜セレン酸の吸着処理を実施できるので、装置のコンパクト化を図ることができる。
【0035】
請求項3に記載の発明によれば、前段のカラム容器内における微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、後段のカラム容器内においてセレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を担体自体に吸着させて除去することが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元しながらも、連続して亜セレン酸を化学的に吸着して除去することができるので、セレン含有水の総セレン濃度低減処理を簡便に実施することが可能となる。さらには、後段のカラム容器内の亜セレン酸吸着材の亜セレン酸吸着能が低下したときには、新たな亜セレン酸吸着材と交換して、亜セレン酸吸着能を容易に回復させることができるので、装置の利便性を高いものとできる。
【0036】
請求項4及び5に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の機能により、セレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を元素セレン等の不溶性セレンとして、担体に吸着させることができる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元しながらも、同時に亜セレン酸を不溶化して担体に付着させて除去することができるので、セレン含有水の総セレン濃度低減処理を簡便に実施することが可能となる。さらには、同一カラム内にてセレン酸の還元処理と亜セレン酸の不溶化・付着処理を実施できるので、装置のコンパクト化を図ることができる。そして、担体に元素セレン等の不溶性セレンが蓄積した場合にも、逆洗により不溶性セレンを除去することができ、担体を交換することなく、セレン酸含有水中の総セレン濃度の低減能力を容易に回復させることができるので、装置の利便性を高いものとできる。
【0037】
請求項6に記載の発明によれば、前段のカラム容器内における微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、後段のカラム容器内においてセレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の機能により元素セレン等の不溶性セレンとして、後段の担体に吸着させることが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元しながらも、連続して亜セレン酸を不溶化して担体に付着させて除去することができるので、セレン含有水の総セレン濃度低減処理を簡便に実施することが可能となる。さらには、カラム容器内の担体に元素セレン等の不溶性セレンが蓄積した場合にも、逆洗により不溶性セレンを除去することができ、カラム容器内の担体を交換することなく、セレン酸含有水中の総セレン濃度の低減能力を容易に回復させることができるので、装置の利便性を高いものとできる。
【0038】
請求項7に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能となる。
【0039】
請求項8に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、セレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を担体自体に化学的に吸着させて除去することが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。
【0040】
請求項9に記載の発明によれば、前段のカラム容器内における微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、後段のカラム容器内においてセレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を担体自体に吸着させて除去することが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。
【0041】
請求項10又は11に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の機能により、セレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を元素セレン等の不溶性セレンとして、担体に吸着させることができる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。
【0042】
請求項12に記載の発明によれば、前段のカラム容器内における微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、後段のカラム容器内においてセレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の機能により元素セレン等の不溶性セレンとして、後段の担体に吸着させることが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。
【0043】
請求項13に記載の発明によれば、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が、多孔質または繊維状構造の担体の表面に付着しているので、凝集菌体に含まれる菌体の機能を長期間安定して効率よく発揮させることが可能となる。
【0044】
請求項14に記載の発明によれば、多孔質または繊維状構造の担体に、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体を長期間安定して付着させることができるので、凝集菌体に含まれる菌体の機能を長期間安定して効率よく発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図2】第二の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図3】第三の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図4】第四の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図5】第五の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図6A】比較例1における、装置容積当たりのセレン酸還元速度の経時変化を示す図である。
【図6B】比較例1における、装置容積当たりの亜セレン酸還元速度の経時変化を示す図である。
【図7】実施例1における、セレン酸還元菌を用いた場合のセレン酸と亜セレン酸の濃度変化を示す図である。
【図8】実施例1における、セレン酸還元菌、亜セレン酸還元菌及び硫酸還元菌を併用した場合のセレン酸と亜セレン酸の還元速度の経時変化を示す図である。
【図9A】実施例2における、二連1条件の前段の実験結果を示す図である。
【図9B】実施例2における、二連1条件の後段の実験結果を示す図である。
【図10A】実施例2における、二連2条件の前段の実験結果を示す図である。
【図10B】実施例2における、二連2条件の後段の実験結果を示す図である。
【図11A】実施例2における、二連3条件の前段の実験結果を示す図である。
【図11B】実施例2における、二連3条件の後段の実験結果を示す図である。
【図12】実施例2における、単独1条件の実験結果を示す図である。
【図13】実施例2における、単独2条件の実験結果を示す図である。
【図14】実施例2における、単独3条件の実験結果を示す図である。
【図15】実施例2における、単独4条件の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0047】
<第一の実施形態>
以下、本発明の実施形態の一例として、セレン含有水中のセレン酸を生物学的に処理する方法及び装置を第一の実施形態として説明する。
【0048】
第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体に、セレン含有水と有機物とを接触させる工程を含むようにしている。
【0049】
第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図1に示す。図1に示すセレン含有水還元処理装置1は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填されたカラム容器2と、カラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5とを含むものとしている。尚、図1中、符号10はセレン含有水貯留タンクであり、符号11は送液ポンプである。
【0050】
セレン酸還元菌は、セレン酸を亜セレン酸に還元する機能を有する菌体であれば特に限定されるものではないが、例えばPseudomonas sp. 4C-Cを用いることが好適である。この細菌は、嫌気条件下でセレン酸を亜セレン酸に還元する能力を持つ細菌である。しかも、エネルギー源として、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を用いることができるのは勿論のこと、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールを用いることも可能である。さらに、高濃度の硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンの存在下においても、セレン酸を亜セレン酸に還元する機能が阻害されることがなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することもできる。即ち、硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンを高濃度に含み得る石炭火力発電所から排出される脱硫排水をセレン含有水として本発明により還元処理を行う場合に使用して好適なセレン酸還元菌であると言える。尚、この細菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成18年3月13日付けで寄託番号FERM P−20840として寄託されている。しかも、この細菌は、通性嫌気性のセレン酸還元菌であることから、カラム容器内を嫌気性条件とするための窒素ガスパージ等を行うことなく、この細菌自体が遊離酸素を消費することによりカラム容器内を嫌気環境とすることができる。したがって、カラム容器内を嫌気性条件に維持するための操作等を行うことなく、セレン酸還元処理を行うことができるので、この点においても、Pseudomonas sp. 4C-Cの使用は好適である。尚、このことは、Pseudomonas sp. 4C-Cに限らず、他の通性嫌気性のセレン酸還元菌についても当て嵌まることである。
【0051】
セレン酸還元菌を含む凝集菌体4は、例えば、セレン酸還元菌を含む溶液に、凝集剤を適宜添加して作製される。凝集剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム等の無機凝集剤、アクリルアミド−N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体等の高分子凝集剤がが挙げられ、これらを単独で、あるいは併用することで、セレン酸還元菌を凝集させることができる。凝集菌体4の大きさは、視認可能な程度とすればよい。目安としては、セレン酸還元菌を含む溶液に、ポリ塩化アルミニウムであれば300〜500mg/L程度、アクリルアミド−N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体であれば2〜5mg/L程度添加することで、視認可能な大きさの凝集菌体4が形成され得る。
【0052】
尚、凝集菌体の大きさは、視認可能な大きさとすることが好適であり、0.5mm〜1mm程度とすることがより好適である。凝集菌体4のサイズが小さすぎると担体3の表面に凝集菌体4を十分に付着させ難くなる。また、凝集菌体4のサイズが大きすぎると担体3の空隙等に凝集菌体4が侵入し難くなって、担体3の表面に均一に分散担持させ難くなる。
【0053】
担体3としては、または繊維状構造を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、多孔質セラミック、活性炭、繊維状物質等の比表面積の高い材料を適宜用いることができるが、特にロックウール(繊維化高炉スラグ)を用いることが好適である。ロックウールは、微細な繊維が集まった粒状綿であり、ケイ酸カルシウムを主成分とする素材で、中性付近では溶解や溶出が殆ど見られない。また、高炉から排出されたスラグであることから、安価であるという利点も有している。即ち、担体3にかかるコストを抑えて、セレン含有水の還元処理にかかる総コストを低減することができる。
【0054】
セレン酸還元菌を含む凝集菌体4は、例えば、以下の方法により担体3の表面に付着させることができる。即ち、カラム容器2内に担体3を充填した後、カラム容器2内に凝集菌体4を含む溶液を通水することにより、担体3の空隙等に凝集菌体4が侵入し、担体3の表面に安定に付着する。
【0055】
また、担体3の表面にセレン酸還元菌を含む凝集菌体4を付着させた後、セレン酸還元菌のエネルギー源となる有機物をカラム容器2内に供給することが好ましい。これにより、凝集菌体4が担体3に安定に付着・保持される効果がさらに増大する。
【0056】
セレン酸還元菌のエネルギー源となる有機物は、有機物供給装置5から供給される。本実施形態では、容器5aにアルコール封入袋5bが収容され、送液ポンプ11により、セレン含有水がセレン含有水貯留タンク10から容器5aを介してカラム容器2に供給される。容器5aを介してセレン含有水をカラム容器2に供給することで、アルコール封入袋5bから徐放されたアルコール(炭素数1〜3の低級アルコール、より好適にはエタノール)をセレン含有水に混入させて、セレン含有水をカラム容器2内に供給する際に同時にアルコールを供給することが可能となる。
【0057】
微生物のエネルギー源となるアルコール等の有機物の供給は、例えば国際公開2006/135028に開示されている技術を用いて行うことができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等を一部に備える密封構造の容器(袋)の内部にメタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール、乳酸、ギ酸、酢酸及びプロピオン酸等の酸等を有機物として密封することで、ポンプや供給量を制御する手段を備えることなく、微生物が必要とする有機物を常時緩やかに供給することができる。
【0058】
但し、有機物供給装置5は、上記形態のものには限定されず、ポンプや供給量を制御する手段を利用して、セレン含有水と同時に、あるいはセレン含有水とは別に、有機物を供給する装置としてもよい。
【0059】
本実施形態のセレン含有水還元処理装置により、セレン含有水中のセレン酸が亜セレン酸に還元される。この亜セレン酸は、例えば、公知の共沈処理方法(例えば、鉄塩を添加して亜セレン酸を凝集沈殿させて固液分離する方法)等や化学的還元法により除去・回収することができるが、以下に説明する方法により、除去・回収することが好適である。
【0060】
<第二の実施形態>
第二の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、第一の実施形態におけるセレン含有水還元処理方法において、担体3の表面に亜セレン酸吸着剤3aを付着させたものとしている。
【0061】
第二の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図2に示す。図2に示すセレン含有水還元処理装置1aは、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填されたカラム容器2と、カラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5と、担体3の表面に付着させた亜セレン酸吸着剤3aを含むものとしている。
【0062】
つまり、第二の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1aは、第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1とは、担体3の表面に亜セレン酸吸着剤3aが固定されている点において相違しており、その他の構成は共通している。
【0063】
亜セレン酸吸着剤3aとしては、亜セレン酸の吸着能力を有し、且つ担体3の多孔質または繊維状構造を維持して担体3の比表面積の大きさを十分に維持できるものを適宜用いることができる。このような亜セレン酸吸着剤としては、例えば、活性水酸化鉄系(ジャロサイト等)の吸着剤等が挙げられ、活性水酸化鉄系吸着剤が表面に付着しているロックエースSF(日鉄環境エンジニアリング製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
尚、亜セレン酸吸着剤3aの担体3表面への付着とは、担体3と亜セレン酸吸着剤3aの微粒子を混合したり、担体3に亜セレン酸吸着剤3aの微粒子を含む液体を通液させたりすることによる付着は勿論のこと、担体3自体に亜セレン酸吸着剤が含まれていてその表面に亜セレン酸吸着剤が露出しているような形態をも含むものである。
【0065】
本実施形態のように、担体3の表面に亜セレン酸吸着剤3aが付着していることによって、セレン含有水中に含まれているセレン酸がセレン酸還元菌の凝集菌体4により還元されることによる亜セレン酸、さらにはセレン含有水中に元々含まれている亜セレン酸が担体3の表面に吸着される。これにより、セレン含有水中の総セレン濃度を低下させることができる。
【0066】
しかも、本願発明者等の実験によれば、ロックエースSFをPseudomonas sp. 4C-C株の付着担体とした場合、極めて効率よくセレン酸の還元処理を行うことができ、その処理速度は、装置容積当たりで32mg/(L・日)であることが確認されている。このことから、本実施形態の処理方法および処理装置によれば、単にセレン酸の還元と亜セレン酸の除去が行われるのみならず、セレン酸の還元効率の向上効果も奏され得る。つまり、セレン酸の還元効率を向上させながらも、同時に亜セレン酸の除去を行うことができるという特有の効果が奏され得る。この効果は、例えば、担体3に亜セレン酸吸着剤3aが付着していることによって、凝集菌体4を付着し得る面積が増大したことが要因の一つと考えられる。さらには、同一のカラム容器内でセレン酸を不溶性セレンに変換することができ、装置のコンパクト化を図り易いという利点も有している。
【0067】
<第三の実施形態>
第三の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、第一の実施形態のセレン含有水還元処理方法における工程を第一の工程とし、第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸吸着材6に接触させる第二の工程を更に含むようにしている。
【0068】
第三の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図3に示す。図3に示すセレン含有水還元処理装置1bは、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填された第一のカラム容器2と、第一のカラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5と、第一のカラム容器2の後段に設置され、亜セレン酸吸着材6を充填した第二のカラム容器12を更に含むものとしている。
【0069】
つまり、第三の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1bは、第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1とは、亜セレン酸吸着材6を充填した第二のカラム容器12が第一のカラム容器2の後段に設置されている点において相違しており、その他の構成は共通している。
【0070】
第二のカラム容器12に充填される亜セレン酸吸着材6としては、亜セレン酸の吸着能力を有するものを適宜用いることができる。このような亜セレン酸吸着材としては、ジャロサイト系吸着剤が表面に付着しているロックエースSF(日鉄環境エンジニアリング製)、ハイドロタルサイト系吸着剤が表面に付着しているロックエースFF(日鉄環境エンジニアリング製)が挙げられ、特に、比表面積の大きなロックエースSFを用いることが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
本実施形態のように、第一のカラム容器2の後段に、亜セレン酸吸着材6を充填した第二のカラム容器12を設置することによって、第一のカラム容器2から排出されるセレン含有水中の亜セレン酸(第一のカラム容器2内の凝集菌体4によるセレン酸の還元により生じた亜セレン酸、さらにはセレン含有水中に元々含まれる亜セレン酸)が、第二のカラム容器12内の亜セレン酸吸着材6に吸着される。これにより、セレン含有水中の総セレン濃度を低下させることができる。
【0072】
しかも、本実施形態の場合のように、亜セレン酸吸着材6を充填した第二のカラム容器12を、第一のカラム容器2の後段に設置することによって、亜セレン酸吸着材6の亜セレン酸吸着能が低下したときには、新たな亜セレン酸吸着材6と交換して、亜セレン酸吸着能を容易に回復させることができる。したがって、装置の利便性を高いものとできる。
【0073】
<第四の実施形態>
第四の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、第一の実施形態におけるセレン含有水還元処理方法において、凝集菌体4を、セレン酸還元菌に加えて、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を更に含むもの(凝集菌体4’)としている。あるいは、第一の実施形態のセレン含有水還元処理方法における凝集菌体4とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’を更に含むものとしている。
【0074】
第四の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図4に示す。図4に示すセレン含有水還元処理装置1cは、凝集菌体4’及び/又は凝集菌体4’’が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填されたカラム容器2と、カラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5と、担体3の表面に付着させた亜セレン酸吸着剤を含むものとしている。
【0075】
つまり、図4に示すセレン含有水還元処理装置1cは、第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1とは、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を更に含む点において相違しており、その他の構成は共通している。
【0076】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4に含ませて凝集菌体4’としてもよいし、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’を別途作製して担体3に付着させるようにしてもよい。
【0077】
セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’の作製は、例えば、これらの菌体を懸濁した懸濁液に上記第一の実施形態で挙げた凝集剤を適宜添加することで行うことができる。亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’の作製についても、同様である。但し、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の中には、例えば亜セレン酸を元素セレンに還元して不溶化する機能を持つパラコッカス属の菌体のように、凝集し難い菌体も存在する。このように、凝集し難い菌体に対しては、無機凝集剤と高分子凝集剤を併用することが好ましい。また、凝集菌体の大きさについては、第一の実施形態において説明した通りである。
【0078】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌としては、例えば亜セレン酸を直接元素セレンに還元する亜セレン酸還元菌、硫酸イオンを原料として硫化水素を生成し、この硫化水素によって亜セレン酸を元素セレン等の不溶性セレンに変換する硫酸還元菌等が挙げられるが、亜セレン酸を直接的にまたは間接的に不溶化し得る細菌であれば、必ずしもこれらの細菌に限定されるものではない。
【0079】
亜セレン酸還元菌は、亜セレン酸を元素セレンに還元する機能を有する細菌であれば特に限定されるものではないが、例えばパラコッカス属の細菌、好適にはParacoccus pantotrophus JCM-6892株が挙げられる。この細菌は、嫌気条件下で亜セレン酸を元素セレンに還元する能力を持つ細菌である。しかも、エネルギー源として、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を用いることができるのは勿論のこと、炭素数2〜3の低級アルコール、例えばエタノールやプロパノールを用いることも可能である。さらに、高濃度の硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンの存在下においても、亜セレン酸を元素セレンに還元する機能が阻害されることがなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することもできる。即ち、硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンを高濃度に含み得る石炭火力発電所から排出される脱硫排水をセレン含有水として本発明により還元処理を行う場合に使用して好適な亜セレン酸還元菌であると言える。しかも、この細菌は、通性嫌気性の亜セレン酸還元菌であることから、カラム容器内を嫌気性条件とするための窒素ガスパージ等を行うことなく、この細菌自体が遊離酸素を消費することによりカラム容器内を嫌気環境とすることができる。したがって、カラム容器内を嫌気性条件に維持するための操作等を行うことなく、亜セレン酸還元処理を行うことができるので、この点においても、Paracoccus pantotrophus JCM-6892株の使用は好適である。尚、このことは、Paracoccus pantotrophus JCM-6892株に限らず、他の通性嫌気性の亜セレン酸還元菌についても当て嵌まることである。
【0080】
硫酸還元菌は、硫酸イオンを原料として硫化水素を産生する機能を有する細菌であれば特に限定されるものではないが、例えば、デスルフォビブリオ(Desulfovibrio)属に属する微生物であるHT−1株が挙げられる。この細菌は、嫌気条件下で硫酸イオンを原料として硫化水素を産生する細菌である。しかも、エネルギー源として、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を用いることができるのは勿論のこと、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールを用いることも可能である。さらに、高濃度の硝酸イオンや亜硝酸イオンの存在下においても、硫酸イオンを原料として硫化水素を産生する細菌である。即ち、硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンを高濃度に含み得る石炭火力発電所から排出される脱硫排水をセレン含有水として、硫酸イオンを原料として硫化水素を産生することができ、脱硫排水を対象として本発明によりセレン還元処理を行う場合に使用して好適な硫酸還元菌であると言える。尚、この細菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成20年5月21日付けで寄託番号FERM P−21577として寄託されている。
【0081】
尚、上記のような炭素数1〜3の低級アルコールを利用できる細菌を利用することによって、有機物供給装置5から供給する有機物をエネルギー源として共用させることが可能となり、上述の第一の実施形態における有機物供給装置5(容器5a、アルコール封入袋5b)を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のための有機物供給装置として利用することが可能になる。但し、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のための有機物供給装置は、有機物供給装置5とは別に設けるようにしても勿論良い。また、有機物供給装置を別途設ける場合には、ポンプや供給量を制御する手段を利用して、セレン含有水と同時に、あるいはセレン含有水とは別に、有機物を供給する装置としてもよい。尚、硫酸還元菌を用いる場合、セレン含有水中に硫酸イオンが含まれていない場合には、硫酸イオンを別途添加するようにしてもよい。
【0082】
セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’は、上述の第一の実施形態と同様の方法で担体3に付着させることができる。また、セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’を担体3の表面に付着させた後、セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のエネルギー源となる有機物をカラム容器2内に供給することが好ましい。また、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’を担体3の表面に付着させた後、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のエネルギー源となる有機物をカラム容器2内に供給することが好ましい。これにより、凝集菌体4’、4’’が担体3に安定に付着・保持される効果がさらに増大する。
【0083】
本実施形態のように、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を併用することによって、セレン含有水中に含まれているセレン酸がセレン酸還元菌を含む凝集菌体4または凝集菌体4’により還元されることによる亜セレン酸、さらにはセレン含有水中に元々含まれている亜セレン酸が元素セレン等の不溶性セレンに変換され、担体3の表面に付着する。これにより、セレン含有水中の総セレン濃度を低下させることができる。
【0084】
しかも、本実施形態の処理方法および処理装置によれば、同一のカラム容器内でセレン酸を不溶性セレンに変換することができ、装置のコンパクト化を図り易いという利点も有している。しかも、担体3は多孔質または繊維状構造を有する担体であることから、逆洗(通水方向と逆向きに水(処理水でも可)を流すことにより付着した不溶性セレンを除去する)を適用することが可能な構成となっている。したがって、元素セレン等の不溶性セレンが蓄積した段階で逆洗を行うことで、セレン酸の還元処理能力を容易に回復させることができる利便性も有している。
【0085】
<第五の実施形態>
第五の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、第一の実施形態のセレン含有水還元処理方法における工程を第一の工程とし、第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体と有機物とに接触させる第二の工程をさらに含むようにしている。
【0086】
第五の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図5に示す。図5に示すセレン含有水還元処理装置1dは、凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填された第一のカラム容器2と、第一のカラム容器2の後段に設置され、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体13が充填された第二のカラム容器12と、第一のカラム容器2及び第二のカラム容器12に有機物を供給する有機物供給装置5とを含むものとしている。
【0087】
つまり、図5に示すセレン含有水還元処理装置1dは、第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1とは、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体13が充填された第二のカラム容器12が第一のカラム容器2の後段に設置されている点において相違しており、その他の構成は共通している。
【0088】
第二のカラム容器12に充填される担体13は、第一のカラム容器に充填される担体3と同様、多孔質セラミック、活性炭、繊維状物質等の比表面積の高い材料を適宜用いることができるが、特にロックウール(繊維化高炉スラグ)を用いることが好適である。
【0089】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌は、第四の実施形態で挙げた細菌と同様のものを用いることができる。また、凝集菌体4’’の作製方法は、第四の実施形態で挙げた方法と同様の方法を用いることができる。
【0090】
セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のエネルギー源としての有機物が共通している場合には、本実施形態のように、有機物供給装置5から第一のカラム容器2に有機物を供給し、その残りをさらに第二のカラム容器12に供給することで、セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の双方を機能させ得る。
【0091】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’は、上述の第一の実施形態と同様の方法で担体13に付着させることができる。また、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’を担体13の表面に付着させた後、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のエネルギー源となる有機物を第二のカラム容器12内に供給することが好ましい。これにより、凝集菌体4’’が担体13に安定に付着・保持される効果がさらに増大する。
【0092】
本実施形態のように、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を併用することによって、セレン含有水中に含まれているセレン酸がセレン酸還元菌の凝集菌体4により還元されることによる亜セレン酸、さらにはセレン含有水中に元々含まれている亜セレン酸が元素セレン等の不溶性セレンに変換され、担体13の表面に付着する。これにより、セレン含有水中の総セレン濃度を低下させることができる。
【0093】
しかも、本実施形態の処理方法および処理装置によれば、二つのカラム容器を用いて連続的にセレン酸を不溶性セレンに変換することができることから、第二のカラム容器12の担体13に元素セレン等の不溶性セレンが蓄積したときには、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体を充填した新たな第二のカラム容器12と交換するだけで、亜セレン酸の不溶化処理能力を容易に回復させることができる利便性、あるいは元素セレン等の不溶性セレンが蓄積した段階で逆洗を行うことで、亜セレン酸の不溶化処理能力を容易に回復させることができる利便性を有している。
【0094】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、凝集菌体4をセレン酸還元菌を含むもの、あるいはセレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含むものとしていたが、これらの菌以外の菌、例えばセレン含有液に含まれている物質等に応じて、当該物質を除去・変換等し得る菌を適宜含むものとしてもよい。
【0095】
また、上述の実施形態では、上向流のカラム装置としたが、下向流のカラム装置としてもよい。担体を反応槽に浸漬して、処理対象のセレン含有水と接触させてもよい。
【0096】
さらに、第一のカラム容器2は並列に複数個並べてあるいは直列に複数個接続してセレン含有水を処理するようにしてもよい。第二のカラム容器12についても並列に複数個並べてあるいは直列に複数個接続してセレン含有水を処理するようにしてもよい。この場合には、セレン含有水の滞留時間を長くして、処理効率をより高いものとできると共に、カラム容器を一部交換している間も残りのカラム容器にて処理を継続することができ、実排水の処理に非常に好適な形態となる。
【実施例】
【0097】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0098】
<細菌の調整>
本実施例で使用した細菌について、その特徴と培養方法を以下に説明する。
【0099】
(1)Pseudomonas sp. 4C-C株
この細菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成18年3月13日付けで受託番号FERM P−20840として受託されているセレン酸還元菌であり、メタノールやエタノール等の低級アルコールをエネルギー源として、嫌気条件下で、セレン酸を亜セレン酸に還元する能力を有するセレン酸還元菌である。しかも、この細菌は、硝酸イオンや亜硝酸イオンの存在下においても、セレン酸還元能力が阻害されることなく、セレン酸の還元と同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを窒素ガスに還元する能力を有している。尚、この細菌は、亜セレン酸を元素セレンに還元する能力も有しているが、その還元速度は低い(電力中央研究所報告V06017参照)。以降の説明では、この細菌をセレン酸還元菌と呼ぶこととする。
【0100】
セレン酸還元菌は、30℃、好気、30rpm、約24時間の条件で、汎用の栄養培地(Nutrient Broth 16.0g/L、NaCl 5.0g/L、pH 7.0)で前培養を行った後、8000rpm、10分間の遠心分離で集菌し、リン酸緩衝液(Na2HPO4 9.0g/L、KH2PO4 1.5g/L、pH 7.5)への懸濁と、同条件の遠心分離を二回、洗浄のために行い、最終的には適量のリン酸緩衝液に懸濁させて実験に供した。
【0101】
(2)Paracoccus pantotrophus JCM-6892株(旧種名:denitrificans)
この細菌は、セレン酸の還元能力を持たないが、嫌気条件下で亜セレン酸を元素セレンに還元する能力を持つ細菌である。しかも、この細菌は、硝酸イオンや亜硝酸イオンの存在下においても、亜セレン酸還元能力が阻害されることなく、亜セレン酸の還元と同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを窒素ガスに還元する能力を有している(電力中央研究所報告V06017参照)。以降の説明では、この細菌を亜セレン酸還元菌と呼ぶこととする。
【0102】
亜セレン酸還元菌は、振とう速度を120rpmとした以外は、セレン酸還元菌と同様の条件で前培養、集菌及び洗浄を行い、最終的には適量のリン酸緩衝液に懸濁させて実験に供した。
【0103】
(3)Desulfovibrio sp. HT-1株
この細菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成20年5月21日付けで受託番号FERM P−21577として受託されている硫酸還元菌であり、メタノールやエタノール等の低級アルコールをエネルギー源として硫酸を還元し、硫化水素を生成する能力を有している。この硫化水素によって亜セレン酸が化学的に還元される(電力中央研究所報告V07015参照)。以降の説明では、この細菌を硫酸還元菌と呼ぶこととする。
【0104】
硫酸還元菌は、30℃、嫌気(窒素置換)、120rpm、約1週間の条件で、クエン酸と乳酸を主な有機物源とする硫酸還元細菌用の培地(Na3(C3H5O(COO)3)・2H2O 5.0g/L、Na(C2H5OCOO) 3.5g/L、酵母抽出物 1.0g/L、MgSO4・7H2O 2.0g/L、CaSO4 1.0g/L、NH4Cl 1.0g/L、K2HPO4 0.5g/L、pH 7.2)で、前培養を行った後、集菌と洗浄をセレン酸還元菌と同様の条件で実施し、最終的には適量のリン酸緩衝液に懸濁させて実験に供した。
【0105】
<分析方法>
セレン酸と亜セレン酸は、イオンクロマトグラフ分析器ISC−1500にAS12Aカラム(いずれもDionex)を組み合わせて測定した。有機物指標としては、溶解性TOCをTOC−TN測定装置TNC−6000(東レエンジニアリング)で測定した。試料のろ過には、セレン酸と亜セレン酸のみのを測定する場合は、孔系0.2μmの酢酸セルロースろ紙DISMIC−13cp(東洋濾紙)を、TOCも測定する場合は、孔系0.3μmのガラス繊維ろ紙GF−75(東洋濾紙)を用いた。
【0106】
[比較例1]
カラム型の容器にセレン酸還元細菌の包括固定化担体を充填し、上向流で通水する処理装置を作製して、セレン酸還元処理能について検討した。
【0107】
(1)包括固定化担体の作製
以下の4種の包括固定化担体を作製した。
(a)セレン酸還元菌のみ(Ps)
(b)セレン酸還元菌+亜セレン酸還元菌(Ps+Pa)
(c)セレン酸還元菌+硫酸還元菌(Ps+De)
(d)セレン酸還元菌+亜セレン酸還元菌+硫酸還元菌(Ps+Pa+De)
【0108】
各担体ごとに、セレン酸還元菌は、<細菌の調整>において使用した培養液750mLから、亜セレン酸還元菌と硫酸還元菌は同じく培養液500mLから必要に応じて集菌し、集菌と洗浄の後に、細菌懸濁液が15mLとなるように調整した。
【0109】
これを45mLの光硬化性樹脂PVA-SbQ/SPP-H-13(東洋合成工業)と混ぜて、直径9cmのシャーレに注ぎ、両面にメタルハライドランプを20分間ずつ照射して、全体を固めた。その後、固形物をシャーレから取り出して、一辺が1cm弱の立方体となるように切り分けた。
【0110】
できあがった担体は、100mgSe/L相当のセレン酸ナトリウムと1g/L相当のエタノールを加えた表1の人工基質(低塩分)に浸漬した。培地の交換を挟んで1週間ほど馴養したところ、浸漬の直後からセレン酸の還元が確認された。また、担体が元の1.5倍程度の大きさまで膨潤した。この状態の担体を通水実験に用いた。尚、表1におけるTrace Metal Sol.(微量必須元素の混合溶液)は、文献(齋藤利晃ら:主要ポリリン酸蓄積細菌2種の消長に与える亜硝酸の影響、環境工学研究論文集、Vol.46、659-663、2009.)に掲載されているものと同様のものとした。
【0111】
【表1】
【0112】
(2)装置の設定および運転条件
有効容積150mL(内径4cm、高さ12cm)の円筒形カラムに、包括固定化担体のほぼ全量を充填した。カラム内には、エタノールを封入したポリエチレン製の袋(ポリエチレン厚さ:0.05mm厚、3cm×8cm)も設置した。ポリエチレンフィルムのエタノール透過性により、袋内に封入されたエタノールが袋の外に徐放され、一日あたり9mgC(25℃)相当のエタノールが供給される。
【0113】
この装置に、表1の人工基質(低塩分)を通水した。はじめの15日間はセレン酸濃度20mg/Lで流速620mL/d、その後の22日間はセレン酸濃度5mg/Lで流速1300mL/dとした。水理学的滞留時間(HRT)は、それぞれ5.8時間、2.8時間となる。また、供給有機物濃度は、それぞれ15mgC/L、7mg/Lとなる。温度は約25℃とした。尚、嫌気状態とするための窒素置換や通気を行うことなく、運転を実施した。
【0114】
この実験におけるセレン酸及び亜セレン酸の還元能力について、装置容積あたりの還元速度に換算して表記した結果を図6A及び図6Bに示す。尚、図6Aは装置容積あたりのセレン酸の還元速度であり、図6Bが装置容積あたりの亜セレン酸の還元速度である。また、図中、点線は速度の上限(流入セレン酸の全量が還元された場合の速度)である。尚、セレン酸の還元速度は、セレン酸濃度の減少量をHRTで除したものであり、亜セレン酸の還元速度は、セレン酸濃度と亜セレン酸濃度の合計の減少量をHRTで除したものである。
【0115】
実験開始から15日目まで(流入セレン酸濃度20mg/L)は、セレン酸の8〜9割が還元されており、容積あたりの速度に換算して約70mg/(L・日)であった。固定化した細菌による差は、ほとんど見られなかった。
【0116】
また、セレン酸の還元に比べると遅いが、一定量の亜セレン酸の還元も生じていた。亜セレン酸の還元速度は、3種類の細菌を混合した担体が約25mg/(L・日)であり、他の担体の約15mg/(L・日)に比べて高かった。
【0117】
実験16日目から37日目まで(流入セレン酸濃度5mg/L)では、担体ごとのセレン酸還元速度に差が見られるようになった。最も高速なのはセレン酸還元菌のみの担体(a)で、セレン酸の8割程度が還元されており、速度は約35mg/(L・日)であった。以下、亜セレン酸還元菌混合担体(b)、3種混合担体(d)、硫酸還元菌混合担体(c)の順で速度が下がった。また、これらの還元速度は、セレン酸還元菌のみの担体(a)の約半分であった。
【0118】
亜セレン酸の還元速度は、3種混合担体(d)では約15mg/(L・日)となった。しかしながら、他の担体では、亜セレン酸の還元がほとんど生じなくなった。
【0119】
以上の結果から、包括固定化担体を用いることで、嫌気状態とするための窒素置換や通気を行わずに開放系の連続通水処理を行うことにより、セレン酸を亜セレン酸に還元することが可能であることが明らかとなった。即ち、装置の構成を上向流カラム型とするとともに、セレン酸の還元に必要な量以上の有機物を供給することで、装置内の排水と空気との接触面積が極めて小さい構成として、通性細菌であるセレン酸還元菌に流入水中の溶存酸素を消費させることで、装置内の大部分を嫌気条件とでき、セレン酸還元菌にセレン酸還元能を発揮させるために十分な嫌気状態を保つことができたと考えられた。
【0120】
また、セレン酸還元菌のみを固定化した担体(a)のセレン酸還元速度が、他の担体(b)〜(d)よりも高かったことも注目すべきことである。この傾向は滞留時間の短い条件において目立っていたことから、菌体とセレン酸やエタノールとの接触効率に起因するものと推察される。したがって、担体内の表面付近で基質との接触が容易な空間に、セレン酸還元菌を多く保持できる条件とすることにより、セレン酸の還元速度を高められる可能性があると考えられる。具体的には、セレン酸還元菌のみを固定化する方法に加えて、表面積全体を増やす方法が考えられる。
【0121】
但し、いずれの方法を選んだとしても、元素セレン粒子の蓄積の問題が生じ得る。本実験において、約40日間の実験後には、セレン酸還元菌のみを固定化した担体(a)でも、元素セレンとみられる赤い着色があった。セレン酸還元菌は、セレン酸を亜セレン酸に還元する能力だけでなく、亜セレン酸を元素セレンに還元する能力も僅かながら有している。このことは、セレン酸還元菌において一般的に生じ得ることである。元素セレンが担体内に蓄積するほど、セレン酸還元菌が機能するための有効な空間が狭まるため、セレン酸の還元速度が低下すると予想される。本実験でも、最終的に赤色が濃かった担体(b)〜(d)では、セレン酸の還元速度が低下する傾向を示した。尚、実際の脱硫排水におけるセレン酸の負荷量は、本実験よりも相当に低いと想定されるため、これほど短期間で速度が低下することはないと考えられる。それでも、処理速度の低下にともなう担体の更新が見込まれることは、処理費用の面で考慮すべき課題であると考えられる。
【0122】
[実施例1]
包括固定化担体を用いた場合よりも、より長期に亘って安定したセレン酸還元処理能を発揮することのできる方法について検討した。
【0123】
具体的には、比表面積の大きな担体に菌体を付着させた微生物付着担体をカラムの充填材として、比較例1と同様、上向流で通水する処理装置を作製して、セレン酸還元処理能について検討した。
【0124】
(1)微生物付着担体の作製
担体にはロックウール(日鉄環境エンジニアリング)を用いた。ロックウールは、微細な繊維が集まった粒状綿である。ケイ酸カルシウムを主成分とする素材で、中性付近では溶解や溶出がほとんど見られない。また、単独ではセレン酸や亜セレン酸の吸着能力がないことを事前に確認した。
【0125】
有効容積1000mL(内径5cm、高さ50cm)の円筒形カラムに、前述のロックウール100mL相当を充填し、体積充填率を約10%とした。また、カラムの前に小型容器を配置して、この中にメタノール封入ポリエチレン袋(ポリエチレン厚さ:0.05mm厚、3cm×6cm)、またはエタノール封入ポリエチレン袋(ポリエチレン厚さ:0.05mm厚、3cm×8cm)を収容し、被処理水を小型容器を介してカラムに通水させることで、カラムに有機物が供給されるようにした。尚、メタノール封入ポリエチレン袋からは、1日に11mgC(20℃)〜18mgC(25℃)相当のメタノールが供給される。また、エタノール封入ポリエチレン袋からは、1日に10mgC(20℃)〜18mgC(25℃)相当のメタノールが供給される。実験開始から55日目まではメタノール封入ポリエチレン袋を用い、実験開始から56日目以降はエタノール封入ポリエチレン袋を用いた。
【0126】
この装置に、表1の人工基質(低塩分)を流速2400mL/dで通水することで、HRTを10時間とした。流入水のセレン酸濃度20mg/Lで実験を始めた後、濃度を10mg/Lに下げて運転を続けた。温度は20〜25℃とした。供給有機物濃度は、4mg/L(20℃)〜8mg/L(25℃)であった。
【0127】
まず、セレン酸還元菌の懸濁液を実験開始から1日の間カラムに循環させることで、ロックウールへのセレン酸還元菌の付着を試みた。この方法では、付着の直後に一定量(流入セレン酸濃度20mg/Lに対して1〜2mg/L)の還元が見られたが(図7、●:セレン酸濃度、○:亜セレン酸濃度)、還元能力はすぐに衰えてしまった。このことから、単に細菌懸濁液をカラムに通水するのみでは、ロックウールにセレン酸還元菌を十分に付着させることができないものと考えられた。
【0128】
そこで、セレン酸還元菌(培養液6Lからの集菌分)の懸濁液30mLに、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)を添加し、菌体を視認できる大きさまで凝集させた。そして、凝集菌体を含む懸濁液を、実験開始22日目〜49日目にかけて、週に1回の頻度で、カラムに通水した。
【0129】
その結果、付着直後の還元速度の急上昇と、上昇分の半分程度までの低下を繰り返しながら、セレン酸の還元速度が徐々に高まっていった。このことから、凝集後であれば、一過性の通水でも凝集菌体をロックウールに十分に付着させられることが明らかとなった。さらに、実験56日目に、供給有機物をメタノールからエタノールに変更したところ、流入セレン酸のほぼ全量が還元されるようになった(図7)。
【0130】
次に、ロックウールにセレン酸還元菌、亜セレン酸還元菌及び硫酸還元菌を付着させて実験を行った。セレン酸還元菌(培養液6Lからの集菌分)と亜セレン酸還元菌(培養液 Lからの集菌分)の懸濁液30mLに、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)を添加し、菌体を視認できる大きさまで凝集させた。そして、凝集菌体を含む懸濁液を、実験開始直後と13日目に、カラムに通水した。また、亜セレン酸還元菌(培養液0.5〜1Lからの集菌分)の懸濁液30mLに、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)と2〜5mg/L相当のアクリルアミド−N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(高分子凝集剤)を添加し、菌体を視認できる大きさまで凝集させた。そして、凝集菌体を含む懸濁液を、実験開始37日目に、カラムに通水した。さらに、硫酸還元菌(培養液1Lからの集菌分)の懸濁液に、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)を添加し、菌体を視認できる大きさまで凝集させた。そして凝集菌体を含む懸濁液を、実験開始62日目、69日目、及び78日目に、カラムに通水した。
【0131】
また、実験全期間に亘って、エタノール封入ポリエチレン袋を用い、カラムにエタノールを供給した。
【0132】
実験結果を図8に示す。図8の還元速度は、図6における還元速度の同様の方法で算出したものである。実験開始3日目の時点で、流入セレン酸のほぼ全量が還元されることが確認できた。
【0133】
また、図7及び図8に示される結果から、流入セレン酸のほぼ全量が還元されていることが確認できた。その際の還元速度は、流入セレン酸濃度が20mg/Lの時に48mg/(L・日)、同じく10mg/Lの時に24mg/(L・日)であった。しかも、いずれの実験においても、150日以上の長期間に亘って、セレン酸還元能が低下することなく維持された。尚、セレン酸の全量が還元されていない時期も一部で見られたが、この時期には空調の不具合があり、温度低下に起因してセレン酸還元菌の還元能力が低下したものと考えられた。
【0134】
また、セレン酸還元菌と亜セレン酸還元菌と硫酸還元菌の3種細菌を付着させた場合には、流入セレン酸濃度の1割に相当する亜セレン酸が還元されていた。また、元素セレンと見られる赤い着色がカラム全体に見られたが、カラム通過後の処理水は無色であり、また、カラムの閉塞による通水速度の減少などの問題も生じなかった。
【0135】
以上の結果から、実施例1における微生物付着担体を充填したカラム装置を使用することで、比較例1の包括固定化担体を充填したカラム装置を使用する場合よりも、長期に亘って安定してセレン酸の還元処理を実施できることが明らかとなった。
【0136】
尚、付着担体として用いたロックウールは、非常に大きな比表面積を持ち、セレン酸還元菌が機能するための空間が包括固定化担体よりも大きい。さらに、元素セレン等の不溶性セレンの蓄積が進んだとしても、担体の交換ではなく逆洗で対処できる構造となっている。これらの特徴から、微生物付着担体は、包括固定化担体よりも長期間の使用に適していると言える。
【0137】
[実施例2]
実施例1の検討結果に基づき、さらにセレン酸処理と亜セレン酸処理の併用について検討した。
【0138】
具体的には、表2に示す条件について、検討を行った。尚、表2において、Psはセレン酸還元菌、Paは亜セレン酸還元菌、Deは硫酸還元菌を意味している。また、単独4の条件ではメタノールを供給したが、それ以外の条件ではエタノールを供給して実験を行った。
【0139】
【表2】
【0140】
また、表2において、未加工の担体は、実施例1で使用したロックウールである。FFは、実施例1で使用したロックウールにハイドロタルサイト(マグネシウム)系の吸着剤を付着させたロックエースFF(日鉄環境エンジニアリング)である。SFは、実施例1で使用したロックウールに活性水酸化鉄系の吸着剤を付着させたロックエースSF(日鉄環境エンジニアリング)である。尚、ロックエースFFとロックエースSFは、亜セレン酸用の吸着材として入手したものである。表1の人工基質(高塩分)を1週間ほど通水し、セレン酸イオンの吸着が見られないことを確認するとともに、十分に付着していなかった吸着剤成分を洗い流した。
【0141】
微生物を付着させる場合、1回の付着で用いた細菌の量は、セレン酸還元菌は培養液1.5Lからの集菌分、亜セレン酸還元菌は培養液0.5Lからの集菌分、硫酸還元菌は培養液1.2Lからの集菌分とした。凝集菌体の作製には、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)と2〜5mg/L相当のアクリルアミド−N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(高分子凝集剤)を併用した。凝集菌体を含む懸濁液は、実験開始直後に通水して付着させた。
【0142】
本実験では、実排水の処理条件に近づけるため、表1に示す人工基質(高塩分)を通水し、流入セレン酸濃度:5mg/L、供給有機物(エタノール)濃度:4mgC/Lから段階的に増加、1カラムのHRT:3.8時間として運転を行った。また、運転中は、温度を30℃に制御し続けた。さらに、本実験では、比較例1で使用した150mLの円筒形カラムを使用したことから、実施例1のカラムと比較して内径が小さくなり、その結果としてロックウール充填率が10%から5〜7%に低下した。
【0143】
(1)二連の実験結果
二連の実験結果を図9〜図11に示す。図9Aが二連1の前段の結果を示し、図10Aが二連2の前段の結果を示し、図11Aが二連3の前段の結果を示している。また、図9Bが二連1の後段の結果を示し、図10Bが二連2の後段の結果を示し、図11Bが二連3の後段の結果を示している。また、図中、●はセレン酸濃度、○は亜セレン酸濃度、×はTOC濃度を表している。▽は細菌の添加を表している。
【0144】
まず、図9A〜図11Aに示される二連1〜3の前段の結果について検討する。有機物(エタノール)供給量が4mg/L相当の期間(実験開始から14日目まで)では、3種類とも、処理水中のセレン酸濃度の増加と亜セレン酸濃度の減少、すなわちセレン酸の還元能力の低下が進んだ。そこで、有機物供給量を6mg/L相当に増やして(実験14日目)、セレン酸還元菌の凝集菌体を含む懸濁液を実験18日目に通水したところ、流入セレン酸5mg/Lのうち、半分程度が亜セレン酸まで還元されるようになった。装置容積あたりの還元速度に換算すると、16mg/(L・日)に相当する。その後、還元速度の向上を期待して有機物供給量を8mg/L相当まで増やしたところ(実験28日目)、一時的にセレン酸のほぼ全量が還元されるようになったものの、セレン酸の還元能力は再び低下傾向を示した。以上の結果から、本実施例における運転条件では、有機物供給量を6mg/L以上〜8mg/L未満とすることで、セレン酸還元菌のセレン酸の高い還元能力を維持できることが明らかとなった。
【0145】
次に、図9B〜図11Bに示される二連1〜3の後段の結果について検討する。後段における亜セレン酸の処理には、二連1の設定(細菌混合)と二連3の設定(ロックエースSFの使用)が有効であった。
【0146】
また、二連1の後段について、亜セレン酸還元菌と硫酸還元菌は、セレン酸の還元能力を有していないにもかかわらず、前段での有機物供給量を6mg/Lに増やした実験14日目以降はセレン酸の全量が、同じく8mg/Lに増やした実験35日目以降は亜セレン酸の全量が、装置全体として還元できるようになっていた(図9B)。これは、前段に付着していたセレン酸還元菌が非意図的に後段の担体に植種されたことに起因するものと考えられる。
【0147】
また、二連3の後段について、前段からの亜セレン酸の供給が安定しなかったものの、実験開始から25日目まで、亜セレン酸の全量が除去されていることが確認された(図11B)。
【0148】
尚、二連2の後段についても、一定量の亜セレン酸の減少が見られたが、亜セレン酸残存量は二連3の後段の結果よりも高かった(図10B)。
【0149】
以上の結果から、本実験の運転条件にて、前段カラムと併用するための亜セレン酸の処理方法としては、亜セレン酸還元菌の凝集菌体及び硫酸還元菌の凝集菌体をロックウール(未加工)に付着させた微生物付着担体、ロックウールにハイドロサイト系吸着剤を付着させたロックエースFF、ロックウールに活性水酸化鉄系吸着剤を固定したロックエースSFを用いた方法を採用することができるが、特に亜セレン酸還元菌の凝集菌体及び硫酸還元菌の凝集菌体をロックウール(未加工)に付着させた微生物付着担体、ロックウールに活性水酸化鉄系吸着剤を固定したロックエースSFを用いた方法を採用することが好適であることが明らかとなった。
【0150】
(2)単独カラム型での実験結果
単独カラム型での実験結果を図12〜図15に示す。図12が単独1条件、図13が単独2条件、図14が単独3条件、図15が単独4条件である。また、図中、●はセレン酸濃度、○は亜セレン酸濃度、▽は細菌の添加を表している。
【0151】
ロックウール(未加工)にセレン酸還元菌の凝集菌体、亜セレン酸還元菌の凝集菌体、及び硫酸還元菌の凝集菌体を付着させた単独1条件では、有機物(エタノール)の供給量の条件ごとに、特徴的な性質を示した。即ち、4mg/Lの有機物供給量ではセレン酸の還元が進まなかった。一方、供給量を6mg/Lに増やした際には、セレン酸還元菌の凝集菌体を追加しなくても、流入セレン酸5mg/Lの半分程度が亜セレン酸まで還元された。但し、生成した亜セレン酸の還元は進まなかった。さらに有機物供給量を8mg/Lまで増やすと、セレン酸の還元能力がやや高まるとともに、亜セレン酸の還元が進むようになった。最終的には、処理水中のセレン酸濃度が1.5〜2mg/L、亜セレン酸濃度が検出限界以下に落ち着いた。したがって、本実施例の条件においては、セレン酸還元菌の凝集菌体に加えて、亜セレン酸還元菌の凝集菌体及び硫酸還元菌の凝集菌体を担体に付着させることは、亜セレン酸の還元能力を付与するだけでなく、セレン酸の還元能力を高めに安定化させる効果があったと言える。
【0152】
この要因の一つとして、例えば、亜セレン酸の還元が進むことで、亜セレン酸によるセレン酸還元への悪影響が緩和されることが挙げられる。また、他の原因として、多くの微粒子がカラム内で生成していたことが考えられる。例えば、硫酸還元菌の存在と硫酸塩濃度の高い排水組成(表1)から、元素硫黄や硫化物塩が析出することは容易に予想される。これらの微粒子がロックウールに捕捉されると、元来は滑らかなロックウールの繊維の表面に凹凸が生じて比表面積が大きくなり、より多くの細菌を保持できると考えられる。
【0153】
次に、ロックウール(未加工)にハイドロタルサイト系吸着剤が固定されたロックエースFFにセレン酸還元菌の凝集菌体を付着させた単独2条件では、セレン酸の還元が全く見られなかった(図13)。この原因は、ロックエースFFはハイドロタルサイト系吸着剤が固定されている結果として、ロックウール自体の繊維が目立たない形状であることや、排水にアルカリ分が溶出する(通水後のpHは9.0以上、他のカラムでは8.0程度)こと等によって、細菌の凝集菌体の付着に適していないことによるものと考えられる。
【0154】
次に、ロックウール(未加工)に活性水酸化鉄系吸着剤が固定されたロックエースSFにセレン酸還元菌の凝集菌体を付着させた単独3条件(エタノール供給)及び単独4条件(メタノール供給)では、セレン酸の還元能力及び亜セレン酸の吸着能力ともに優れた結果が得られた。
【0155】
また、エタノールを供給した単独3条件では、6mg/Lで安定したセレン酸還元能が得られ、6mg/Lのエタノール供給量で、セレン酸濃度が検出限界以下となるまで還元されることが確認できた。また、亜セレン酸濃度についても、実験40日目までは検出限界以下、以後も1mg/Lを上回らずに推移した。装置容積あたりの速度に換算すると、セレン酸の還元速度が32mg/(L・日)となり、同じ速度で亜セレン酸の処理も行われていることになる。
【0156】
さらに、メタノールを供給した単独4条件でも、安定したセレン酸の還元が可能であった。具体的には、有機物(メタノール)供給量を8mg/L相当とすれば、セレン酸濃度は1〜1.5mg/L、亜セレン酸濃度は検出限界以下で安定した。
【0157】
単独3条件及び単独4条件において示された結果から、活性水酸化鉄系吸着剤が混合・付着されたロックウールを担体とすることは、亜セレン酸の吸着能力を付与するだけでなく、セレン酸還元菌によるセレン酸の還元能力を著しく高める効果もあることが明らかとなった。
【0158】
推測される要因は、単独1の場合と同様、亜セレン酸による悪影響の緩和と、吸着剤粒子による比表面積の増大であるものと考えられる。但し、亜セレン酸が検出限界以下となっていた時期に、単独1(実験35〜50日目)ではセレン酸が残存したが、単独3(実験23日目以降)では残存しなかった。したがって、セレン酸の還元能力に対しては、亜セレン酸濃度よりもセレン酸還元菌の保持能力の方が大きな影響力を持ち、さらに、硫黄系粒子による保持能力の増大効果よりも吸着剤粒子による保持能力の増大効果が大きいと考えられる。
【符号の説明】
【0159】
1 セレン含有水還元処理装置
2 (第一の)カラム容器
3 (第一のカラム容器に充填される)担体
3a 亜セレン酸吸着剤
4 セレン酸還元菌を含む凝集菌体
4’ セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体
4’’ 亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体
5 有機物供給装置
6 亜セレン酸吸着材
12 第二のカラム容器
13 (第二のカラム容器に充填される)担体
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン含有水還元処理装置及びセレン含有水還元処理方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、原料や製品としてセレンを扱う工場等から排出される排水、排煙にセレンを含む工場等にて発生する洗煙排水、石炭火力発電所から排出されるセレンを含む脱硫排水等のセレン含有水の還元処理に用いて好適な、セレン含有水還元処理装置及びセレン含有水還元処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレン(Se)は、平成5年に水質汚濁防止法における有害物質に認定され、0.1mg/Lの排水基準と、0.01mg/Lの水質環境基準が定められた。この排水基準及び水質環境基準を満たすべく、原料や製品としてセレンを扱う工場等から排出される排水、排煙にセレンを含む工場等にて発生する洗煙排水、石炭火力発電所から排出されるセレンを含む脱硫排水等のセレン含有水について、セレン濃度を低減するための適切な対策が求められている。
【0003】
ここで、セレン含有水中において、セレン(Se)は、セレン酸(SeO42−)及び亜セレン酸(SeO32−)の形態で溶解している。
【0004】
亜セレン酸については、鉄と難溶性の塩を形成することから、共沈処理によって排水等から容易に除去することができる(非特許文献1)。また、不溶性の元素セレン(Se0)に化学的に還元することも比較的容易である(非特許文献2)。
【0005】
これに対し、セレン酸は、その化合物の殆どが水への溶解度が高い。したがって、金属類を排水から除去するための凝集沈殿や吸着等といった物理化学な処理方法は有効とは言えない。そのため、セレン酸は、亜セレン酸まで還元してから共沈処理を施したり、あるいは元素セレンに還元したりする必要がある。セレン酸の還元に有効な還元剤については、例えば、塩化チタン、還元性鉄化合物、光触媒等が報告されている(非特許文献3〜5)。
【0006】
しかしながら、セレン酸の化学的な還元に際しては、使用する還元剤の種類を問わず、工場排水試験方法(JIS K 0102)における「塩酸酸性の強酸性下で煮沸」のような、強酸性条件に設定する必要がある。このことから、セレン酸の化学的な還元処理については、高価な金属系還元剤に加えて、pH調整用の多量の酸やアルカリの投入に要する薬剤費が、実用上の障害となっている。
【0007】
薬剤費を低減できる処理方法として、微生物を利用した生物処理法についても検討が進められつつある。微生物を利用した生物処理法においては、反応条件として中性付近のpHとすることが一般的には適していることから(非特許文献6)、pH調整用の酸やアルカリを多量に必要とすることがなく、酸やアルカリにかかる薬剤費を大幅に低減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】公害防止の技術と法規編集委員会編、新・公害防止の技術と法規2009水質編、社団法人産業環境管理協会、東京、2009.
【非特許文献2】電力中央研究所報告V07015
【非特許文献3】後藤建次郎、TiCl3による水中のSe(VI)の還元・除去、資源と素材、Vol.116、773−777、2000.
【非特許文献4】林浩志ら、グリーンラスト/フェライト循環処理法によるセレン汚染水処理の連続実証試験、資源と素材、Vol.122、415−422、2006.
【非特許文献5】川辺能成ら、光触媒によるセレン酸除去反応に及ぼす硫酸イオンの影響、資源と素材、Vol.117、282−287、2001.
【非特許文献6】Takada T. et al.: Kinetic study on biological reduction of selenium compounds, Process Biochem., Vol.43, 1304−1307, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生物処理法により排水等を処理する場合、多孔質セラミック、活性炭、繊維状物質などの比表面積の高い担体に菌体を高密度に付着させて、これを排水と接触させる手法が一般的に行われる。このように、比表面積の高い担体に菌体を高密度に付着させることで、排水をより多くの菌体と接触させて処理効率を高いものとできる。また、担体に菌体を付着させることによって、担体に菌体を留まらせることができ、処理済み排水を処理槽等から排出する際に処理済み排水と同伴して菌体が排出されるのを防いで、長期間安定して処理を行うことが可能となる。
【0010】
生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理についても、同様に、比表面積の高い担体にセレン酸還元菌を高密度に付着させることで、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うことが考えられる。
【0011】
しかしながら、本願発明者等が検討を行った結果、ロックウール(繊維化高炉スラグ)等の比表面積の高い担体にセレン酸還元菌を付着させただけでは、菌体の付着直後については一定量のセレン酸還元処理能力が見られたものの、その能力は低く、しかもその能力はすぐに衰えてしまった。したがって、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理については、単に比表面積の高い担体にセレン酸還元菌を付着するだけでは、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うことができないことが明らかとなった。そこで、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理について、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うための別の手法を確立することが望まれる。
【0012】
また、セレン含有水中の総セレン濃度を低減させる上では、セレン酸の濃度のみならず、亜セレン酸の濃度も低減することが重要となる。したがって、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理を実用化する上では、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行いながらも、セレン酸の還元処理と同時に、またはセレン酸の還元処理と連続して、亜セレン酸濃度を低減することのできる技術の確立も望まれる。
【0013】
本発明は、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理について、セレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行うための処理装置及び処理方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、生物処理法によるセレン含有水中のセレン酸の還元処理効率を高いものとして、長期間安定して処理を行いながらも、セレン酸の還元処理と同時に、またはセレン酸の還元処理と連続して、亜セレン酸濃度を低減することのできる処理装置及び処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意検討を行った結果、多孔質または繊維状構造の担体をカラム容器に充填し、カラム容器内にセレン酸還元菌の凝集菌体を含む懸濁液を通水させることで、この凝集菌体を担体表面に安定して付着させられることを知見するに至った。つまり、セレン酸還元菌の凝集菌体を担体に付着させることによって、カラム容器にセレン含有水を通水させた場合に、この凝集菌体がセレン含有水に同伴して排出されることなく、担体表面に付着した状態で安定して維持されることを知見するに至った。
【0016】
本願発明者等は、この知見に基づき、セレン酸還元菌ではなく、セレン酸還元菌の凝集菌体を用いることで、多孔質または繊維状構造の担体にセレン酸還元菌の凝集菌体を高密度に付着させて、セレン酸の還元処理効率を高いものとし、長期間安定して処理を行うことが可能であることを知見するに至り、さらに種々検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体が充填されたカラム容器と、カラム容器内に有機物を供給する有機物供給装置とを含むものとしている。また、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体に、セレン含有水と有機物とを接触させる工程を含むようにしている。
【0018】
したがって、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法によると、多孔質または繊維状構造の担体の表面にセレン酸還元菌を含む凝集菌体を付着させているので、この凝集菌体が担体の表面に安定に保持され、有機物を供給することにより、セレン酸が長期間安定して効率よく還元処理される。しかも、有機物の供給によって凝集菌体がさらに安定して担体の表面に保持されるようになる。
【0019】
次に、請求項2に記載のセレン含有水還元処理装置は、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置において、担体の表面に亜セレン酸吸着剤を付着させたものとしている。また、請求項8に記載のセレン含有水還元処理方法は、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法において、担体の表面に亜セレン酸吸着剤を付着させたものとしている。
【0020】
したがって、請求項2に記載のセレン含有水還元処理装置、請求項8に記載のセレン含有水還元処理方法によると、セレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、担体自体に亜セレン酸が吸着される。これにより、セレン含有水中のセレン酸と亜セレン酸が同時に還元処理され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0021】
ここで、請求項3に記載のセレン含有水還元処理装置のように、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置におけるカラム容器を第一のカラム容器とし、第一のカラム容器の後段に、亜セレン酸吸着材を充填した第二のカラム容器を更に含むものとしてもよい。また、請求項9に記載のセレン含有水還元処理方法のように、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法における工程を第一の工程とし、第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸吸着材に接触させる第二の工程を更に含むようにしてもよい。
【0022】
この場合には、前段にてセレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、後段にて亜セレン酸が吸着される。これにより、セレン含有水中のセレン酸が前段にて還元された後に、連続して亜セレン酸が後段にて吸着され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0023】
次に、請求項4に記載のセレン含有水還元処理装置は、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置において、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が凝集菌体に更に含まれているものとしている。また、請求項10に記載のセレン含有水還元処理方法は、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法において、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が凝集菌体に更に含まれているものとしている。
【0024】
したがって、請求項4に記載のセレン含有水還元処理装置、請求項10に記載のセレン含有水還元処理方法によると、セレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が凝集菌体に含まれていることによって、亜セレン酸が長期間安定して効率よく不溶化され、担体表面に付着する。これにより、セレン含有水中のセレン酸と亜セレン酸が同時に還元処理され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0025】
次に、請求項5に記載のセレン含有水還元処理装置において、請求項1又は4に記載のセレン含有水還元処理装置における凝集菌体とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が担体の表面に付着しているものとしている。また、請求項11に記載のセレン酸含有水還元処理方法は、請求項7又は10に記載のセレン含有水還元処理方法における凝集菌体とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が担体の表面に付着しているものとしている。
【0026】
したがって、請求項5に記載のセレン含有水還元処理装置、請求項11に記載のセレン含有水還元処理方法によると、セレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が担体の表面に付着していることによって、亜セレン酸が長期間安定して効率よく不溶化され、担体表面に付着する。これにより、セレン含有水中のセレン酸と亜セレン酸が同時に還元処理され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0027】
ここで、請求項6に記載のセレン含有水還元処理装置のように、請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置におけるカラム容器を第一のカラム容器とし、第一のカラム容器の後段に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体が充填された第二のカラム容器を更に含むものとしてもよい。また、請求項12に記載のセレン含有水還元処理方法のように、請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法における工程を第一の工程とし、第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体と有機物とに接触させる第二の工程をさらに含むようにしてもよい。
【0028】
この場合には、前段にてセレン酸が長期間安定して効率よく還元処理されると共に、後段にて亜セレン酸が不溶化され、担体表面に吸着する。これにより、セレン含有水中のセレン酸が前段にて還元された後に、連続して亜セレン酸が後段にて不溶化され、セレン含有水の総セレン濃度が低減される。
【0029】
次に、請求項13に記載のセレン含有水還元処理用担体は、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が、多孔質または繊維状構造の担体の表面に付着しているものである。
【0030】
したがって、請求項13に記載のセレン含有水還元処理用担体によると、凝集菌体に含まれる菌体の機能が長期間安定して効率よく発揮される。
【0031】
次に、請求項14に記載のセレン含有水還元処理用担体の作製方法は、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体を懸濁した溶液を多孔質または繊維状構造の担体に通液する工程を含むようにしている。
【0032】
したがって、請求項15に記載のセレン含有水還元処理用担体の作製方法によると、多孔質または繊維状構造の担体に、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体を長期間安定して付着させることができる。これにより、凝集菌体に含まれる菌体の機能が長期間安定して効率よく発揮される。
【発明の効果】
【0033】
請求項1に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能となる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元することができるので、セレン含有水に含まれるセレン酸の還元処理にかかる手間等を従来に比べて大幅に低減することが可能となる。
【0034】
請求項2に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、セレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を担体自体に化学的に吸着させて除去することが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元しながらも、同時に亜セレン酸を化学的に吸着して除去することができるので、セレン含有水の総セレン濃度低減処理を簡便に実施することが可能となる。さらには、同一カラム内にてセレン酸の還元処理と亜セレン酸の吸着処理を実施できるので、装置のコンパクト化を図ることができる。
【0035】
請求項3に記載の発明によれば、前段のカラム容器内における微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、後段のカラム容器内においてセレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を担体自体に吸着させて除去することが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元しながらも、連続して亜セレン酸を化学的に吸着して除去することができるので、セレン含有水の総セレン濃度低減処理を簡便に実施することが可能となる。さらには、後段のカラム容器内の亜セレン酸吸着材の亜セレン酸吸着能が低下したときには、新たな亜セレン酸吸着材と交換して、亜セレン酸吸着能を容易に回復させることができるので、装置の利便性を高いものとできる。
【0036】
請求項4及び5に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の機能により、セレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を元素セレン等の不溶性セレンとして、担体に吸着させることができる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元しながらも、同時に亜セレン酸を不溶化して担体に付着させて除去することができるので、セレン含有水の総セレン濃度低減処理を簡便に実施することが可能となる。さらには、同一カラム内にてセレン酸の還元処理と亜セレン酸の不溶化・付着処理を実施できるので、装置のコンパクト化を図ることができる。そして、担体に元素セレン等の不溶性セレンが蓄積した場合にも、逆洗により不溶性セレンを除去することができ、担体を交換することなく、セレン酸含有水中の総セレン濃度の低減能力を容易に回復させることができるので、装置の利便性を高いものとできる。
【0037】
請求項6に記載の発明によれば、前段のカラム容器内における微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、後段のカラム容器内においてセレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の機能により元素セレン等の不溶性セレンとして、後段の担体に吸着させることが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。しかも、カラム容器内にセレン含有水を通水するという極めて簡単な操作で、セレン酸を長期間安定して効率よく還元しながらも、連続して亜セレン酸を不溶化して担体に付着させて除去することができるので、セレン含有水の総セレン濃度低減処理を簡便に実施することが可能となる。さらには、カラム容器内の担体に元素セレン等の不溶性セレンが蓄積した場合にも、逆洗により不溶性セレンを除去することができ、カラム容器内の担体を交換することなく、セレン酸含有水中の総セレン濃度の低減能力を容易に回復させることができるので、装置の利便性を高いものとできる。
【0038】
請求項7に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能となる。
【0039】
請求項8に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、セレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を担体自体に化学的に吸着させて除去することが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。
【0040】
請求項9に記載の発明によれば、前段のカラム容器内における微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、後段のカラム容器内においてセレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を担体自体に吸着させて除去することが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。
【0041】
請求項10又は11に記載の発明によれば、微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の機能により、セレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を元素セレン等の不溶性セレンとして、担体に吸着させることができる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。
【0042】
請求項12に記載の発明によれば、前段のカラム容器内における微生物を利用した生物処理法により、セレン含有水中に含まれるセレン酸を長期間安定して効率よく還元処理することが可能になると共に、後段のカラム容器内においてセレン酸含有水中に含まれる亜セレン酸(セレン含有水に元々含まれていた亜セレン酸、セレン酸の還元により生じた亜セレン酸)を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の機能により元素セレン等の不溶性セレンとして、後段の担体に吸着させることが可能となる。したがって、セレン酸含有水中の総セレン濃度を減少させることができる。
【0043】
請求項13に記載の発明によれば、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が、多孔質または繊維状構造の担体の表面に付着しているので、凝集菌体に含まれる菌体の機能を長期間安定して効率よく発揮させることが可能となる。
【0044】
請求項14に記載の発明によれば、多孔質または繊維状構造の担体に、セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体を長期間安定して付着させることができるので、凝集菌体に含まれる菌体の機能を長期間安定して効率よく発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図2】第二の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図3】第三の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図4】第四の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図5】第五の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置の一例を示す概略図である。
【図6A】比較例1における、装置容積当たりのセレン酸還元速度の経時変化を示す図である。
【図6B】比較例1における、装置容積当たりの亜セレン酸還元速度の経時変化を示す図である。
【図7】実施例1における、セレン酸還元菌を用いた場合のセレン酸と亜セレン酸の濃度変化を示す図である。
【図8】実施例1における、セレン酸還元菌、亜セレン酸還元菌及び硫酸還元菌を併用した場合のセレン酸と亜セレン酸の還元速度の経時変化を示す図である。
【図9A】実施例2における、二連1条件の前段の実験結果を示す図である。
【図9B】実施例2における、二連1条件の後段の実験結果を示す図である。
【図10A】実施例2における、二連2条件の前段の実験結果を示す図である。
【図10B】実施例2における、二連2条件の後段の実験結果を示す図である。
【図11A】実施例2における、二連3条件の前段の実験結果を示す図である。
【図11B】実施例2における、二連3条件の後段の実験結果を示す図である。
【図12】実施例2における、単独1条件の実験結果を示す図である。
【図13】実施例2における、単独2条件の実験結果を示す図である。
【図14】実施例2における、単独3条件の実験結果を示す図である。
【図15】実施例2における、単独4条件の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0047】
<第一の実施形態>
以下、本発明の実施形態の一例として、セレン含有水中のセレン酸を生物学的に処理する方法及び装置を第一の実施形態として説明する。
【0048】
第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体に、セレン含有水と有機物とを接触させる工程を含むようにしている。
【0049】
第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図1に示す。図1に示すセレン含有水還元処理装置1は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填されたカラム容器2と、カラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5とを含むものとしている。尚、図1中、符号10はセレン含有水貯留タンクであり、符号11は送液ポンプである。
【0050】
セレン酸還元菌は、セレン酸を亜セレン酸に還元する機能を有する菌体であれば特に限定されるものではないが、例えばPseudomonas sp. 4C-Cを用いることが好適である。この細菌は、嫌気条件下でセレン酸を亜セレン酸に還元する能力を持つ細菌である。しかも、エネルギー源として、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を用いることができるのは勿論のこと、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールを用いることも可能である。さらに、高濃度の硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンの存在下においても、セレン酸を亜セレン酸に還元する機能が阻害されることがなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することもできる。即ち、硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンを高濃度に含み得る石炭火力発電所から排出される脱硫排水をセレン含有水として本発明により還元処理を行う場合に使用して好適なセレン酸還元菌であると言える。尚、この細菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成18年3月13日付けで寄託番号FERM P−20840として寄託されている。しかも、この細菌は、通性嫌気性のセレン酸還元菌であることから、カラム容器内を嫌気性条件とするための窒素ガスパージ等を行うことなく、この細菌自体が遊離酸素を消費することによりカラム容器内を嫌気環境とすることができる。したがって、カラム容器内を嫌気性条件に維持するための操作等を行うことなく、セレン酸還元処理を行うことができるので、この点においても、Pseudomonas sp. 4C-Cの使用は好適である。尚、このことは、Pseudomonas sp. 4C-Cに限らず、他の通性嫌気性のセレン酸還元菌についても当て嵌まることである。
【0051】
セレン酸還元菌を含む凝集菌体4は、例えば、セレン酸還元菌を含む溶液に、凝集剤を適宜添加して作製される。凝集剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム等の無機凝集剤、アクリルアミド−N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体等の高分子凝集剤がが挙げられ、これらを単独で、あるいは併用することで、セレン酸還元菌を凝集させることができる。凝集菌体4の大きさは、視認可能な程度とすればよい。目安としては、セレン酸還元菌を含む溶液に、ポリ塩化アルミニウムであれば300〜500mg/L程度、アクリルアミド−N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体であれば2〜5mg/L程度添加することで、視認可能な大きさの凝集菌体4が形成され得る。
【0052】
尚、凝集菌体の大きさは、視認可能な大きさとすることが好適であり、0.5mm〜1mm程度とすることがより好適である。凝集菌体4のサイズが小さすぎると担体3の表面に凝集菌体4を十分に付着させ難くなる。また、凝集菌体4のサイズが大きすぎると担体3の空隙等に凝集菌体4が侵入し難くなって、担体3の表面に均一に分散担持させ難くなる。
【0053】
担体3としては、または繊維状構造を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、多孔質セラミック、活性炭、繊維状物質等の比表面積の高い材料を適宜用いることができるが、特にロックウール(繊維化高炉スラグ)を用いることが好適である。ロックウールは、微細な繊維が集まった粒状綿であり、ケイ酸カルシウムを主成分とする素材で、中性付近では溶解や溶出が殆ど見られない。また、高炉から排出されたスラグであることから、安価であるという利点も有している。即ち、担体3にかかるコストを抑えて、セレン含有水の還元処理にかかる総コストを低減することができる。
【0054】
セレン酸還元菌を含む凝集菌体4は、例えば、以下の方法により担体3の表面に付着させることができる。即ち、カラム容器2内に担体3を充填した後、カラム容器2内に凝集菌体4を含む溶液を通水することにより、担体3の空隙等に凝集菌体4が侵入し、担体3の表面に安定に付着する。
【0055】
また、担体3の表面にセレン酸還元菌を含む凝集菌体4を付着させた後、セレン酸還元菌のエネルギー源となる有機物をカラム容器2内に供給することが好ましい。これにより、凝集菌体4が担体3に安定に付着・保持される効果がさらに増大する。
【0056】
セレン酸還元菌のエネルギー源となる有機物は、有機物供給装置5から供給される。本実施形態では、容器5aにアルコール封入袋5bが収容され、送液ポンプ11により、セレン含有水がセレン含有水貯留タンク10から容器5aを介してカラム容器2に供給される。容器5aを介してセレン含有水をカラム容器2に供給することで、アルコール封入袋5bから徐放されたアルコール(炭素数1〜3の低級アルコール、より好適にはエタノール)をセレン含有水に混入させて、セレン含有水をカラム容器2内に供給する際に同時にアルコールを供給することが可能となる。
【0057】
微生物のエネルギー源となるアルコール等の有機物の供給は、例えば国際公開2006/135028に開示されている技術を用いて行うことができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等を一部に備える密封構造の容器(袋)の内部にメタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール、乳酸、ギ酸、酢酸及びプロピオン酸等の酸等を有機物として密封することで、ポンプや供給量を制御する手段を備えることなく、微生物が必要とする有機物を常時緩やかに供給することができる。
【0058】
但し、有機物供給装置5は、上記形態のものには限定されず、ポンプや供給量を制御する手段を利用して、セレン含有水と同時に、あるいはセレン含有水とは別に、有機物を供給する装置としてもよい。
【0059】
本実施形態のセレン含有水還元処理装置により、セレン含有水中のセレン酸が亜セレン酸に還元される。この亜セレン酸は、例えば、公知の共沈処理方法(例えば、鉄塩を添加して亜セレン酸を凝集沈殿させて固液分離する方法)等や化学的還元法により除去・回収することができるが、以下に説明する方法により、除去・回収することが好適である。
【0060】
<第二の実施形態>
第二の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、第一の実施形態におけるセレン含有水還元処理方法において、担体3の表面に亜セレン酸吸着剤3aを付着させたものとしている。
【0061】
第二の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図2に示す。図2に示すセレン含有水還元処理装置1aは、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填されたカラム容器2と、カラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5と、担体3の表面に付着させた亜セレン酸吸着剤3aを含むものとしている。
【0062】
つまり、第二の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1aは、第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1とは、担体3の表面に亜セレン酸吸着剤3aが固定されている点において相違しており、その他の構成は共通している。
【0063】
亜セレン酸吸着剤3aとしては、亜セレン酸の吸着能力を有し、且つ担体3の多孔質または繊維状構造を維持して担体3の比表面積の大きさを十分に維持できるものを適宜用いることができる。このような亜セレン酸吸着剤としては、例えば、活性水酸化鉄系(ジャロサイト等)の吸着剤等が挙げられ、活性水酸化鉄系吸着剤が表面に付着しているロックエースSF(日鉄環境エンジニアリング製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
尚、亜セレン酸吸着剤3aの担体3表面への付着とは、担体3と亜セレン酸吸着剤3aの微粒子を混合したり、担体3に亜セレン酸吸着剤3aの微粒子を含む液体を通液させたりすることによる付着は勿論のこと、担体3自体に亜セレン酸吸着剤が含まれていてその表面に亜セレン酸吸着剤が露出しているような形態をも含むものである。
【0065】
本実施形態のように、担体3の表面に亜セレン酸吸着剤3aが付着していることによって、セレン含有水中に含まれているセレン酸がセレン酸還元菌の凝集菌体4により還元されることによる亜セレン酸、さらにはセレン含有水中に元々含まれている亜セレン酸が担体3の表面に吸着される。これにより、セレン含有水中の総セレン濃度を低下させることができる。
【0066】
しかも、本願発明者等の実験によれば、ロックエースSFをPseudomonas sp. 4C-C株の付着担体とした場合、極めて効率よくセレン酸の還元処理を行うことができ、その処理速度は、装置容積当たりで32mg/(L・日)であることが確認されている。このことから、本実施形態の処理方法および処理装置によれば、単にセレン酸の還元と亜セレン酸の除去が行われるのみならず、セレン酸の還元効率の向上効果も奏され得る。つまり、セレン酸の還元効率を向上させながらも、同時に亜セレン酸の除去を行うことができるという特有の効果が奏され得る。この効果は、例えば、担体3に亜セレン酸吸着剤3aが付着していることによって、凝集菌体4を付着し得る面積が増大したことが要因の一つと考えられる。さらには、同一のカラム容器内でセレン酸を不溶性セレンに変換することができ、装置のコンパクト化を図り易いという利点も有している。
【0067】
<第三の実施形態>
第三の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、第一の実施形態のセレン含有水還元処理方法における工程を第一の工程とし、第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸吸着材6に接触させる第二の工程を更に含むようにしている。
【0068】
第三の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図3に示す。図3に示すセレン含有水還元処理装置1bは、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填された第一のカラム容器2と、第一のカラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5と、第一のカラム容器2の後段に設置され、亜セレン酸吸着材6を充填した第二のカラム容器12を更に含むものとしている。
【0069】
つまり、第三の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1bは、第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1とは、亜セレン酸吸着材6を充填した第二のカラム容器12が第一のカラム容器2の後段に設置されている点において相違しており、その他の構成は共通している。
【0070】
第二のカラム容器12に充填される亜セレン酸吸着材6としては、亜セレン酸の吸着能力を有するものを適宜用いることができる。このような亜セレン酸吸着材としては、ジャロサイト系吸着剤が表面に付着しているロックエースSF(日鉄環境エンジニアリング製)、ハイドロタルサイト系吸着剤が表面に付着しているロックエースFF(日鉄環境エンジニアリング製)が挙げられ、特に、比表面積の大きなロックエースSFを用いることが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
本実施形態のように、第一のカラム容器2の後段に、亜セレン酸吸着材6を充填した第二のカラム容器12を設置することによって、第一のカラム容器2から排出されるセレン含有水中の亜セレン酸(第一のカラム容器2内の凝集菌体4によるセレン酸の還元により生じた亜セレン酸、さらにはセレン含有水中に元々含まれる亜セレン酸)が、第二のカラム容器12内の亜セレン酸吸着材6に吸着される。これにより、セレン含有水中の総セレン濃度を低下させることができる。
【0072】
しかも、本実施形態の場合のように、亜セレン酸吸着材6を充填した第二のカラム容器12を、第一のカラム容器2の後段に設置することによって、亜セレン酸吸着材6の亜セレン酸吸着能が低下したときには、新たな亜セレン酸吸着材6と交換して、亜セレン酸吸着能を容易に回復させることができる。したがって、装置の利便性を高いものとできる。
【0073】
<第四の実施形態>
第四の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、第一の実施形態におけるセレン含有水還元処理方法において、凝集菌体4を、セレン酸還元菌に加えて、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を更に含むもの(凝集菌体4’)としている。あるいは、第一の実施形態のセレン含有水還元処理方法における凝集菌体4とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’を更に含むものとしている。
【0074】
第四の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図4に示す。図4に示すセレン含有水還元処理装置1cは、凝集菌体4’及び/又は凝集菌体4’’が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填されたカラム容器2と、カラム容器2内に有機物を供給する有機物供給装置5と、担体3の表面に付着させた亜セレン酸吸着剤を含むものとしている。
【0075】
つまり、図4に示すセレン含有水還元処理装置1cは、第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1とは、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を更に含む点において相違しており、その他の構成は共通している。
【0076】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌は、セレン酸還元菌を含む凝集菌体4に含ませて凝集菌体4’としてもよいし、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’を別途作製して担体3に付着させるようにしてもよい。
【0077】
セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’の作製は、例えば、これらの菌体を懸濁した懸濁液に上記第一の実施形態で挙げた凝集剤を適宜添加することで行うことができる。亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’の作製についても、同様である。但し、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の中には、例えば亜セレン酸を元素セレンに還元して不溶化する機能を持つパラコッカス属の菌体のように、凝集し難い菌体も存在する。このように、凝集し難い菌体に対しては、無機凝集剤と高分子凝集剤を併用することが好ましい。また、凝集菌体の大きさについては、第一の実施形態において説明した通りである。
【0078】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌としては、例えば亜セレン酸を直接元素セレンに還元する亜セレン酸還元菌、硫酸イオンを原料として硫化水素を生成し、この硫化水素によって亜セレン酸を元素セレン等の不溶性セレンに変換する硫酸還元菌等が挙げられるが、亜セレン酸を直接的にまたは間接的に不溶化し得る細菌であれば、必ずしもこれらの細菌に限定されるものではない。
【0079】
亜セレン酸還元菌は、亜セレン酸を元素セレンに還元する機能を有する細菌であれば特に限定されるものではないが、例えばパラコッカス属の細菌、好適にはParacoccus pantotrophus JCM-6892株が挙げられる。この細菌は、嫌気条件下で亜セレン酸を元素セレンに還元する能力を持つ細菌である。しかも、エネルギー源として、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を用いることができるのは勿論のこと、炭素数2〜3の低級アルコール、例えばエタノールやプロパノールを用いることも可能である。さらに、高濃度の硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンの存在下においても、亜セレン酸を元素セレンに還元する機能が阻害されることがなく、同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに還元することもできる。即ち、硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンを高濃度に含み得る石炭火力発電所から排出される脱硫排水をセレン含有水として本発明により還元処理を行う場合に使用して好適な亜セレン酸還元菌であると言える。しかも、この細菌は、通性嫌気性の亜セレン酸還元菌であることから、カラム容器内を嫌気性条件とするための窒素ガスパージ等を行うことなく、この細菌自体が遊離酸素を消費することによりカラム容器内を嫌気環境とすることができる。したがって、カラム容器内を嫌気性条件に維持するための操作等を行うことなく、亜セレン酸還元処理を行うことができるので、この点においても、Paracoccus pantotrophus JCM-6892株の使用は好適である。尚、このことは、Paracoccus pantotrophus JCM-6892株に限らず、他の通性嫌気性の亜セレン酸還元菌についても当て嵌まることである。
【0080】
硫酸還元菌は、硫酸イオンを原料として硫化水素を産生する機能を有する細菌であれば特に限定されるものではないが、例えば、デスルフォビブリオ(Desulfovibrio)属に属する微生物であるHT−1株が挙げられる。この細菌は、嫌気条件下で硫酸イオンを原料として硫化水素を産生する細菌である。しかも、エネルギー源として、酵母エキスや含硫アミノ酸あるいは乳酸塩を用いることができるのは勿論のこと、炭素数1〜3の低級アルコール、例えばメタノールやエタノール、プロパノールを用いることも可能である。さらに、高濃度の硝酸イオンや亜硝酸イオンの存在下においても、硫酸イオンを原料として硫化水素を産生する細菌である。即ち、硝酸イオンや亜硝酸イオン、硫酸イオンを高濃度に含み得る石炭火力発電所から排出される脱硫排水をセレン含有水として、硫酸イオンを原料として硫化水素を産生することができ、脱硫排水を対象として本発明によりセレン還元処理を行う場合に使用して好適な硫酸還元菌であると言える。尚、この細菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成20年5月21日付けで寄託番号FERM P−21577として寄託されている。
【0081】
尚、上記のような炭素数1〜3の低級アルコールを利用できる細菌を利用することによって、有機物供給装置5から供給する有機物をエネルギー源として共用させることが可能となり、上述の第一の実施形態における有機物供給装置5(容器5a、アルコール封入袋5b)を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のための有機物供給装置として利用することが可能になる。但し、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のための有機物供給装置は、有機物供給装置5とは別に設けるようにしても勿論良い。また、有機物供給装置を別途設ける場合には、ポンプや供給量を制御する手段を利用して、セレン含有水と同時に、あるいはセレン含有水とは別に、有機物を供給する装置としてもよい。尚、硫酸還元菌を用いる場合、セレン含有水中に硫酸イオンが含まれていない場合には、硫酸イオンを別途添加するようにしてもよい。
【0082】
セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’は、上述の第一の実施形態と同様の方法で担体3に付着させることができる。また、セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’を担体3の表面に付着させた後、セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のエネルギー源となる有機物をカラム容器2内に供給することが好ましい。また、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’を担体3の表面に付着させた後、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のエネルギー源となる有機物をカラム容器2内に供給することが好ましい。これにより、凝集菌体4’、4’’が担体3に安定に付着・保持される効果がさらに増大する。
【0083】
本実施形態のように、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を併用することによって、セレン含有水中に含まれているセレン酸がセレン酸還元菌を含む凝集菌体4または凝集菌体4’により還元されることによる亜セレン酸、さらにはセレン含有水中に元々含まれている亜セレン酸が元素セレン等の不溶性セレンに変換され、担体3の表面に付着する。これにより、セレン含有水中の総セレン濃度を低下させることができる。
【0084】
しかも、本実施形態の処理方法および処理装置によれば、同一のカラム容器内でセレン酸を不溶性セレンに変換することができ、装置のコンパクト化を図り易いという利点も有している。しかも、担体3は多孔質または繊維状構造を有する担体であることから、逆洗(通水方向と逆向きに水(処理水でも可)を流すことにより付着した不溶性セレンを除去する)を適用することが可能な構成となっている。したがって、元素セレン等の不溶性セレンが蓄積した段階で逆洗を行うことで、セレン酸の還元処理能力を容易に回復させることができる利便性も有している。
【0085】
<第五の実施形態>
第五の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法は、第一の実施形態のセレン含有水還元処理方法における工程を第一の工程とし、第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体と有機物とに接触させる第二の工程をさらに含むようにしている。
【0086】
第五の実施形態にかかるセレン含有水還元処理方法を実施するための装置の一例を図5に示す。図5に示すセレン含有水還元処理装置1dは、凝集菌体4が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体3が充填された第一のカラム容器2と、第一のカラム容器2の後段に設置され、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体13が充填された第二のカラム容器12と、第一のカラム容器2及び第二のカラム容器12に有機物を供給する有機物供給装置5とを含むものとしている。
【0087】
つまり、図5に示すセレン含有水還元処理装置1dは、第一の実施形態にかかるセレン含有水還元処理装置1とは、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体13が充填された第二のカラム容器12が第一のカラム容器2の後段に設置されている点において相違しており、その他の構成は共通している。
【0088】
第二のカラム容器12に充填される担体13は、第一のカラム容器に充填される担体3と同様、多孔質セラミック、活性炭、繊維状物質等の比表面積の高い材料を適宜用いることができるが、特にロックウール(繊維化高炉スラグ)を用いることが好適である。
【0089】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌は、第四の実施形態で挙げた細菌と同様のものを用いることができる。また、凝集菌体4’’の作製方法は、第四の実施形態で挙げた方法と同様の方法を用いることができる。
【0090】
セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のエネルギー源としての有機物が共通している場合には、本実施形態のように、有機物供給装置5から第一のカラム容器2に有機物を供給し、その残りをさらに第二のカラム容器12に供給することで、セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌の双方を機能させ得る。
【0091】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’は、上述の第一の実施形態と同様の方法で担体13に付着させることができる。また、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’を担体13の表面に付着させた後、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌のエネルギー源となる有機物を第二のカラム容器12内に供給することが好ましい。これにより、凝集菌体4’’が担体13に安定に付着・保持される効果がさらに増大する。
【0092】
本実施形態のように、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を併用することによって、セレン含有水中に含まれているセレン酸がセレン酸還元菌の凝集菌体4により還元されることによる亜セレン酸、さらにはセレン含有水中に元々含まれている亜セレン酸が元素セレン等の不溶性セレンに変換され、担体13の表面に付着する。これにより、セレン含有水中の総セレン濃度を低下させることができる。
【0093】
しかも、本実施形態の処理方法および処理装置によれば、二つのカラム容器を用いて連続的にセレン酸を不溶性セレンに変換することができることから、第二のカラム容器12の担体13に元素セレン等の不溶性セレンが蓄積したときには、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体4’’が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体を充填した新たな第二のカラム容器12と交換するだけで、亜セレン酸の不溶化処理能力を容易に回復させることができる利便性、あるいは元素セレン等の不溶性セレンが蓄積した段階で逆洗を行うことで、亜セレン酸の不溶化処理能力を容易に回復させることができる利便性を有している。
【0094】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、凝集菌体4をセレン酸還元菌を含むもの、あるいはセレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含むものとしていたが、これらの菌以外の菌、例えばセレン含有液に含まれている物質等に応じて、当該物質を除去・変換等し得る菌を適宜含むものとしてもよい。
【0095】
また、上述の実施形態では、上向流のカラム装置としたが、下向流のカラム装置としてもよい。担体を反応槽に浸漬して、処理対象のセレン含有水と接触させてもよい。
【0096】
さらに、第一のカラム容器2は並列に複数個並べてあるいは直列に複数個接続してセレン含有水を処理するようにしてもよい。第二のカラム容器12についても並列に複数個並べてあるいは直列に複数個接続してセレン含有水を処理するようにしてもよい。この場合には、セレン含有水の滞留時間を長くして、処理効率をより高いものとできると共に、カラム容器を一部交換している間も残りのカラム容器にて処理を継続することができ、実排水の処理に非常に好適な形態となる。
【実施例】
【0097】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0098】
<細菌の調整>
本実施例で使用した細菌について、その特徴と培養方法を以下に説明する。
【0099】
(1)Pseudomonas sp. 4C-C株
この細菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成18年3月13日付けで受託番号FERM P−20840として受託されているセレン酸還元菌であり、メタノールやエタノール等の低級アルコールをエネルギー源として、嫌気条件下で、セレン酸を亜セレン酸に還元する能力を有するセレン酸還元菌である。しかも、この細菌は、硝酸イオンや亜硝酸イオンの存在下においても、セレン酸還元能力が阻害されることなく、セレン酸の還元と同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを窒素ガスに還元する能力を有している。尚、この細菌は、亜セレン酸を元素セレンに還元する能力も有しているが、その還元速度は低い(電力中央研究所報告V06017参照)。以降の説明では、この細菌をセレン酸還元菌と呼ぶこととする。
【0100】
セレン酸還元菌は、30℃、好気、30rpm、約24時間の条件で、汎用の栄養培地(Nutrient Broth 16.0g/L、NaCl 5.0g/L、pH 7.0)で前培養を行った後、8000rpm、10分間の遠心分離で集菌し、リン酸緩衝液(Na2HPO4 9.0g/L、KH2PO4 1.5g/L、pH 7.5)への懸濁と、同条件の遠心分離を二回、洗浄のために行い、最終的には適量のリン酸緩衝液に懸濁させて実験に供した。
【0101】
(2)Paracoccus pantotrophus JCM-6892株(旧種名:denitrificans)
この細菌は、セレン酸の還元能力を持たないが、嫌気条件下で亜セレン酸を元素セレンに還元する能力を持つ細菌である。しかも、この細菌は、硝酸イオンや亜硝酸イオンの存在下においても、亜セレン酸還元能力が阻害されることなく、亜セレン酸の還元と同時に硝酸イオンや亜硝酸イオンを窒素ガスに還元する能力を有している(電力中央研究所報告V06017参照)。以降の説明では、この細菌を亜セレン酸還元菌と呼ぶこととする。
【0102】
亜セレン酸還元菌は、振とう速度を120rpmとした以外は、セレン酸還元菌と同様の条件で前培養、集菌及び洗浄を行い、最終的には適量のリン酸緩衝液に懸濁させて実験に供した。
【0103】
(3)Desulfovibrio sp. HT-1株
この細菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成20年5月21日付けで受託番号FERM P−21577として受託されている硫酸還元菌であり、メタノールやエタノール等の低級アルコールをエネルギー源として硫酸を還元し、硫化水素を生成する能力を有している。この硫化水素によって亜セレン酸が化学的に還元される(電力中央研究所報告V07015参照)。以降の説明では、この細菌を硫酸還元菌と呼ぶこととする。
【0104】
硫酸還元菌は、30℃、嫌気(窒素置換)、120rpm、約1週間の条件で、クエン酸と乳酸を主な有機物源とする硫酸還元細菌用の培地(Na3(C3H5O(COO)3)・2H2O 5.0g/L、Na(C2H5OCOO) 3.5g/L、酵母抽出物 1.0g/L、MgSO4・7H2O 2.0g/L、CaSO4 1.0g/L、NH4Cl 1.0g/L、K2HPO4 0.5g/L、pH 7.2)で、前培養を行った後、集菌と洗浄をセレン酸還元菌と同様の条件で実施し、最終的には適量のリン酸緩衝液に懸濁させて実験に供した。
【0105】
<分析方法>
セレン酸と亜セレン酸は、イオンクロマトグラフ分析器ISC−1500にAS12Aカラム(いずれもDionex)を組み合わせて測定した。有機物指標としては、溶解性TOCをTOC−TN測定装置TNC−6000(東レエンジニアリング)で測定した。試料のろ過には、セレン酸と亜セレン酸のみのを測定する場合は、孔系0.2μmの酢酸セルロースろ紙DISMIC−13cp(東洋濾紙)を、TOCも測定する場合は、孔系0.3μmのガラス繊維ろ紙GF−75(東洋濾紙)を用いた。
【0106】
[比較例1]
カラム型の容器にセレン酸還元細菌の包括固定化担体を充填し、上向流で通水する処理装置を作製して、セレン酸還元処理能について検討した。
【0107】
(1)包括固定化担体の作製
以下の4種の包括固定化担体を作製した。
(a)セレン酸還元菌のみ(Ps)
(b)セレン酸還元菌+亜セレン酸還元菌(Ps+Pa)
(c)セレン酸還元菌+硫酸還元菌(Ps+De)
(d)セレン酸還元菌+亜セレン酸還元菌+硫酸還元菌(Ps+Pa+De)
【0108】
各担体ごとに、セレン酸還元菌は、<細菌の調整>において使用した培養液750mLから、亜セレン酸還元菌と硫酸還元菌は同じく培養液500mLから必要に応じて集菌し、集菌と洗浄の後に、細菌懸濁液が15mLとなるように調整した。
【0109】
これを45mLの光硬化性樹脂PVA-SbQ/SPP-H-13(東洋合成工業)と混ぜて、直径9cmのシャーレに注ぎ、両面にメタルハライドランプを20分間ずつ照射して、全体を固めた。その後、固形物をシャーレから取り出して、一辺が1cm弱の立方体となるように切り分けた。
【0110】
できあがった担体は、100mgSe/L相当のセレン酸ナトリウムと1g/L相当のエタノールを加えた表1の人工基質(低塩分)に浸漬した。培地の交換を挟んで1週間ほど馴養したところ、浸漬の直後からセレン酸の還元が確認された。また、担体が元の1.5倍程度の大きさまで膨潤した。この状態の担体を通水実験に用いた。尚、表1におけるTrace Metal Sol.(微量必須元素の混合溶液)は、文献(齋藤利晃ら:主要ポリリン酸蓄積細菌2種の消長に与える亜硝酸の影響、環境工学研究論文集、Vol.46、659-663、2009.)に掲載されているものと同様のものとした。
【0111】
【表1】
【0112】
(2)装置の設定および運転条件
有効容積150mL(内径4cm、高さ12cm)の円筒形カラムに、包括固定化担体のほぼ全量を充填した。カラム内には、エタノールを封入したポリエチレン製の袋(ポリエチレン厚さ:0.05mm厚、3cm×8cm)も設置した。ポリエチレンフィルムのエタノール透過性により、袋内に封入されたエタノールが袋の外に徐放され、一日あたり9mgC(25℃)相当のエタノールが供給される。
【0113】
この装置に、表1の人工基質(低塩分)を通水した。はじめの15日間はセレン酸濃度20mg/Lで流速620mL/d、その後の22日間はセレン酸濃度5mg/Lで流速1300mL/dとした。水理学的滞留時間(HRT)は、それぞれ5.8時間、2.8時間となる。また、供給有機物濃度は、それぞれ15mgC/L、7mg/Lとなる。温度は約25℃とした。尚、嫌気状態とするための窒素置換や通気を行うことなく、運転を実施した。
【0114】
この実験におけるセレン酸及び亜セレン酸の還元能力について、装置容積あたりの還元速度に換算して表記した結果を図6A及び図6Bに示す。尚、図6Aは装置容積あたりのセレン酸の還元速度であり、図6Bが装置容積あたりの亜セレン酸の還元速度である。また、図中、点線は速度の上限(流入セレン酸の全量が還元された場合の速度)である。尚、セレン酸の還元速度は、セレン酸濃度の減少量をHRTで除したものであり、亜セレン酸の還元速度は、セレン酸濃度と亜セレン酸濃度の合計の減少量をHRTで除したものである。
【0115】
実験開始から15日目まで(流入セレン酸濃度20mg/L)は、セレン酸の8〜9割が還元されており、容積あたりの速度に換算して約70mg/(L・日)であった。固定化した細菌による差は、ほとんど見られなかった。
【0116】
また、セレン酸の還元に比べると遅いが、一定量の亜セレン酸の還元も生じていた。亜セレン酸の還元速度は、3種類の細菌を混合した担体が約25mg/(L・日)であり、他の担体の約15mg/(L・日)に比べて高かった。
【0117】
実験16日目から37日目まで(流入セレン酸濃度5mg/L)では、担体ごとのセレン酸還元速度に差が見られるようになった。最も高速なのはセレン酸還元菌のみの担体(a)で、セレン酸の8割程度が還元されており、速度は約35mg/(L・日)であった。以下、亜セレン酸還元菌混合担体(b)、3種混合担体(d)、硫酸還元菌混合担体(c)の順で速度が下がった。また、これらの還元速度は、セレン酸還元菌のみの担体(a)の約半分であった。
【0118】
亜セレン酸の還元速度は、3種混合担体(d)では約15mg/(L・日)となった。しかしながら、他の担体では、亜セレン酸の還元がほとんど生じなくなった。
【0119】
以上の結果から、包括固定化担体を用いることで、嫌気状態とするための窒素置換や通気を行わずに開放系の連続通水処理を行うことにより、セレン酸を亜セレン酸に還元することが可能であることが明らかとなった。即ち、装置の構成を上向流カラム型とするとともに、セレン酸の還元に必要な量以上の有機物を供給することで、装置内の排水と空気との接触面積が極めて小さい構成として、通性細菌であるセレン酸還元菌に流入水中の溶存酸素を消費させることで、装置内の大部分を嫌気条件とでき、セレン酸還元菌にセレン酸還元能を発揮させるために十分な嫌気状態を保つことができたと考えられた。
【0120】
また、セレン酸還元菌のみを固定化した担体(a)のセレン酸還元速度が、他の担体(b)〜(d)よりも高かったことも注目すべきことである。この傾向は滞留時間の短い条件において目立っていたことから、菌体とセレン酸やエタノールとの接触効率に起因するものと推察される。したがって、担体内の表面付近で基質との接触が容易な空間に、セレン酸還元菌を多く保持できる条件とすることにより、セレン酸の還元速度を高められる可能性があると考えられる。具体的には、セレン酸還元菌のみを固定化する方法に加えて、表面積全体を増やす方法が考えられる。
【0121】
但し、いずれの方法を選んだとしても、元素セレン粒子の蓄積の問題が生じ得る。本実験において、約40日間の実験後には、セレン酸還元菌のみを固定化した担体(a)でも、元素セレンとみられる赤い着色があった。セレン酸還元菌は、セレン酸を亜セレン酸に還元する能力だけでなく、亜セレン酸を元素セレンに還元する能力も僅かながら有している。このことは、セレン酸還元菌において一般的に生じ得ることである。元素セレンが担体内に蓄積するほど、セレン酸還元菌が機能するための有効な空間が狭まるため、セレン酸の還元速度が低下すると予想される。本実験でも、最終的に赤色が濃かった担体(b)〜(d)では、セレン酸の還元速度が低下する傾向を示した。尚、実際の脱硫排水におけるセレン酸の負荷量は、本実験よりも相当に低いと想定されるため、これほど短期間で速度が低下することはないと考えられる。それでも、処理速度の低下にともなう担体の更新が見込まれることは、処理費用の面で考慮すべき課題であると考えられる。
【0122】
[実施例1]
包括固定化担体を用いた場合よりも、より長期に亘って安定したセレン酸還元処理能を発揮することのできる方法について検討した。
【0123】
具体的には、比表面積の大きな担体に菌体を付着させた微生物付着担体をカラムの充填材として、比較例1と同様、上向流で通水する処理装置を作製して、セレン酸還元処理能について検討した。
【0124】
(1)微生物付着担体の作製
担体にはロックウール(日鉄環境エンジニアリング)を用いた。ロックウールは、微細な繊維が集まった粒状綿である。ケイ酸カルシウムを主成分とする素材で、中性付近では溶解や溶出がほとんど見られない。また、単独ではセレン酸や亜セレン酸の吸着能力がないことを事前に確認した。
【0125】
有効容積1000mL(内径5cm、高さ50cm)の円筒形カラムに、前述のロックウール100mL相当を充填し、体積充填率を約10%とした。また、カラムの前に小型容器を配置して、この中にメタノール封入ポリエチレン袋(ポリエチレン厚さ:0.05mm厚、3cm×6cm)、またはエタノール封入ポリエチレン袋(ポリエチレン厚さ:0.05mm厚、3cm×8cm)を収容し、被処理水を小型容器を介してカラムに通水させることで、カラムに有機物が供給されるようにした。尚、メタノール封入ポリエチレン袋からは、1日に11mgC(20℃)〜18mgC(25℃)相当のメタノールが供給される。また、エタノール封入ポリエチレン袋からは、1日に10mgC(20℃)〜18mgC(25℃)相当のメタノールが供給される。実験開始から55日目まではメタノール封入ポリエチレン袋を用い、実験開始から56日目以降はエタノール封入ポリエチレン袋を用いた。
【0126】
この装置に、表1の人工基質(低塩分)を流速2400mL/dで通水することで、HRTを10時間とした。流入水のセレン酸濃度20mg/Lで実験を始めた後、濃度を10mg/Lに下げて運転を続けた。温度は20〜25℃とした。供給有機物濃度は、4mg/L(20℃)〜8mg/L(25℃)であった。
【0127】
まず、セレン酸還元菌の懸濁液を実験開始から1日の間カラムに循環させることで、ロックウールへのセレン酸還元菌の付着を試みた。この方法では、付着の直後に一定量(流入セレン酸濃度20mg/Lに対して1〜2mg/L)の還元が見られたが(図7、●:セレン酸濃度、○:亜セレン酸濃度)、還元能力はすぐに衰えてしまった。このことから、単に細菌懸濁液をカラムに通水するのみでは、ロックウールにセレン酸還元菌を十分に付着させることができないものと考えられた。
【0128】
そこで、セレン酸還元菌(培養液6Lからの集菌分)の懸濁液30mLに、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)を添加し、菌体を視認できる大きさまで凝集させた。そして、凝集菌体を含む懸濁液を、実験開始22日目〜49日目にかけて、週に1回の頻度で、カラムに通水した。
【0129】
その結果、付着直後の還元速度の急上昇と、上昇分の半分程度までの低下を繰り返しながら、セレン酸の還元速度が徐々に高まっていった。このことから、凝集後であれば、一過性の通水でも凝集菌体をロックウールに十分に付着させられることが明らかとなった。さらに、実験56日目に、供給有機物をメタノールからエタノールに変更したところ、流入セレン酸のほぼ全量が還元されるようになった(図7)。
【0130】
次に、ロックウールにセレン酸還元菌、亜セレン酸還元菌及び硫酸還元菌を付着させて実験を行った。セレン酸還元菌(培養液6Lからの集菌分)と亜セレン酸還元菌(培養液 Lからの集菌分)の懸濁液30mLに、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)を添加し、菌体を視認できる大きさまで凝集させた。そして、凝集菌体を含む懸濁液を、実験開始直後と13日目に、カラムに通水した。また、亜セレン酸還元菌(培養液0.5〜1Lからの集菌分)の懸濁液30mLに、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)と2〜5mg/L相当のアクリルアミド−N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(高分子凝集剤)を添加し、菌体を視認できる大きさまで凝集させた。そして、凝集菌体を含む懸濁液を、実験開始37日目に、カラムに通水した。さらに、硫酸還元菌(培養液1Lからの集菌分)の懸濁液に、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)を添加し、菌体を視認できる大きさまで凝集させた。そして凝集菌体を含む懸濁液を、実験開始62日目、69日目、及び78日目に、カラムに通水した。
【0131】
また、実験全期間に亘って、エタノール封入ポリエチレン袋を用い、カラムにエタノールを供給した。
【0132】
実験結果を図8に示す。図8の還元速度は、図6における還元速度の同様の方法で算出したものである。実験開始3日目の時点で、流入セレン酸のほぼ全量が還元されることが確認できた。
【0133】
また、図7及び図8に示される結果から、流入セレン酸のほぼ全量が還元されていることが確認できた。その際の還元速度は、流入セレン酸濃度が20mg/Lの時に48mg/(L・日)、同じく10mg/Lの時に24mg/(L・日)であった。しかも、いずれの実験においても、150日以上の長期間に亘って、セレン酸還元能が低下することなく維持された。尚、セレン酸の全量が還元されていない時期も一部で見られたが、この時期には空調の不具合があり、温度低下に起因してセレン酸還元菌の還元能力が低下したものと考えられた。
【0134】
また、セレン酸還元菌と亜セレン酸還元菌と硫酸還元菌の3種細菌を付着させた場合には、流入セレン酸濃度の1割に相当する亜セレン酸が還元されていた。また、元素セレンと見られる赤い着色がカラム全体に見られたが、カラム通過後の処理水は無色であり、また、カラムの閉塞による通水速度の減少などの問題も生じなかった。
【0135】
以上の結果から、実施例1における微生物付着担体を充填したカラム装置を使用することで、比較例1の包括固定化担体を充填したカラム装置を使用する場合よりも、長期に亘って安定してセレン酸の還元処理を実施できることが明らかとなった。
【0136】
尚、付着担体として用いたロックウールは、非常に大きな比表面積を持ち、セレン酸還元菌が機能するための空間が包括固定化担体よりも大きい。さらに、元素セレン等の不溶性セレンの蓄積が進んだとしても、担体の交換ではなく逆洗で対処できる構造となっている。これらの特徴から、微生物付着担体は、包括固定化担体よりも長期間の使用に適していると言える。
【0137】
[実施例2]
実施例1の検討結果に基づき、さらにセレン酸処理と亜セレン酸処理の併用について検討した。
【0138】
具体的には、表2に示す条件について、検討を行った。尚、表2において、Psはセレン酸還元菌、Paは亜セレン酸還元菌、Deは硫酸還元菌を意味している。また、単独4の条件ではメタノールを供給したが、それ以外の条件ではエタノールを供給して実験を行った。
【0139】
【表2】
【0140】
また、表2において、未加工の担体は、実施例1で使用したロックウールである。FFは、実施例1で使用したロックウールにハイドロタルサイト(マグネシウム)系の吸着剤を付着させたロックエースFF(日鉄環境エンジニアリング)である。SFは、実施例1で使用したロックウールに活性水酸化鉄系の吸着剤を付着させたロックエースSF(日鉄環境エンジニアリング)である。尚、ロックエースFFとロックエースSFは、亜セレン酸用の吸着材として入手したものである。表1の人工基質(高塩分)を1週間ほど通水し、セレン酸イオンの吸着が見られないことを確認するとともに、十分に付着していなかった吸着剤成分を洗い流した。
【0141】
微生物を付着させる場合、1回の付着で用いた細菌の量は、セレン酸還元菌は培養液1.5Lからの集菌分、亜セレン酸還元菌は培養液0.5Lからの集菌分、硫酸還元菌は培養液1.2Lからの集菌分とした。凝集菌体の作製には、300〜500mg/L相当のポリ塩化アルミニウム(無機凝集剤)と2〜5mg/L相当のアクリルアミド−N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(高分子凝集剤)を併用した。凝集菌体を含む懸濁液は、実験開始直後に通水して付着させた。
【0142】
本実験では、実排水の処理条件に近づけるため、表1に示す人工基質(高塩分)を通水し、流入セレン酸濃度:5mg/L、供給有機物(エタノール)濃度:4mgC/Lから段階的に増加、1カラムのHRT:3.8時間として運転を行った。また、運転中は、温度を30℃に制御し続けた。さらに、本実験では、比較例1で使用した150mLの円筒形カラムを使用したことから、実施例1のカラムと比較して内径が小さくなり、その結果としてロックウール充填率が10%から5〜7%に低下した。
【0143】
(1)二連の実験結果
二連の実験結果を図9〜図11に示す。図9Aが二連1の前段の結果を示し、図10Aが二連2の前段の結果を示し、図11Aが二連3の前段の結果を示している。また、図9Bが二連1の後段の結果を示し、図10Bが二連2の後段の結果を示し、図11Bが二連3の後段の結果を示している。また、図中、●はセレン酸濃度、○は亜セレン酸濃度、×はTOC濃度を表している。▽は細菌の添加を表している。
【0144】
まず、図9A〜図11Aに示される二連1〜3の前段の結果について検討する。有機物(エタノール)供給量が4mg/L相当の期間(実験開始から14日目まで)では、3種類とも、処理水中のセレン酸濃度の増加と亜セレン酸濃度の減少、すなわちセレン酸の還元能力の低下が進んだ。そこで、有機物供給量を6mg/L相当に増やして(実験14日目)、セレン酸還元菌の凝集菌体を含む懸濁液を実験18日目に通水したところ、流入セレン酸5mg/Lのうち、半分程度が亜セレン酸まで還元されるようになった。装置容積あたりの還元速度に換算すると、16mg/(L・日)に相当する。その後、還元速度の向上を期待して有機物供給量を8mg/L相当まで増やしたところ(実験28日目)、一時的にセレン酸のほぼ全量が還元されるようになったものの、セレン酸の還元能力は再び低下傾向を示した。以上の結果から、本実施例における運転条件では、有機物供給量を6mg/L以上〜8mg/L未満とすることで、セレン酸還元菌のセレン酸の高い還元能力を維持できることが明らかとなった。
【0145】
次に、図9B〜図11Bに示される二連1〜3の後段の結果について検討する。後段における亜セレン酸の処理には、二連1の設定(細菌混合)と二連3の設定(ロックエースSFの使用)が有効であった。
【0146】
また、二連1の後段について、亜セレン酸還元菌と硫酸還元菌は、セレン酸の還元能力を有していないにもかかわらず、前段での有機物供給量を6mg/Lに増やした実験14日目以降はセレン酸の全量が、同じく8mg/Lに増やした実験35日目以降は亜セレン酸の全量が、装置全体として還元できるようになっていた(図9B)。これは、前段に付着していたセレン酸還元菌が非意図的に後段の担体に植種されたことに起因するものと考えられる。
【0147】
また、二連3の後段について、前段からの亜セレン酸の供給が安定しなかったものの、実験開始から25日目まで、亜セレン酸の全量が除去されていることが確認された(図11B)。
【0148】
尚、二連2の後段についても、一定量の亜セレン酸の減少が見られたが、亜セレン酸残存量は二連3の後段の結果よりも高かった(図10B)。
【0149】
以上の結果から、本実験の運転条件にて、前段カラムと併用するための亜セレン酸の処理方法としては、亜セレン酸還元菌の凝集菌体及び硫酸還元菌の凝集菌体をロックウール(未加工)に付着させた微生物付着担体、ロックウールにハイドロサイト系吸着剤を付着させたロックエースFF、ロックウールに活性水酸化鉄系吸着剤を固定したロックエースSFを用いた方法を採用することができるが、特に亜セレン酸還元菌の凝集菌体及び硫酸還元菌の凝集菌体をロックウール(未加工)に付着させた微生物付着担体、ロックウールに活性水酸化鉄系吸着剤を固定したロックエースSFを用いた方法を採用することが好適であることが明らかとなった。
【0150】
(2)単独カラム型での実験結果
単独カラム型での実験結果を図12〜図15に示す。図12が単独1条件、図13が単独2条件、図14が単独3条件、図15が単独4条件である。また、図中、●はセレン酸濃度、○は亜セレン酸濃度、▽は細菌の添加を表している。
【0151】
ロックウール(未加工)にセレン酸還元菌の凝集菌体、亜セレン酸還元菌の凝集菌体、及び硫酸還元菌の凝集菌体を付着させた単独1条件では、有機物(エタノール)の供給量の条件ごとに、特徴的な性質を示した。即ち、4mg/Lの有機物供給量ではセレン酸の還元が進まなかった。一方、供給量を6mg/Lに増やした際には、セレン酸還元菌の凝集菌体を追加しなくても、流入セレン酸5mg/Lの半分程度が亜セレン酸まで還元された。但し、生成した亜セレン酸の還元は進まなかった。さらに有機物供給量を8mg/Lまで増やすと、セレン酸の還元能力がやや高まるとともに、亜セレン酸の還元が進むようになった。最終的には、処理水中のセレン酸濃度が1.5〜2mg/L、亜セレン酸濃度が検出限界以下に落ち着いた。したがって、本実施例の条件においては、セレン酸還元菌の凝集菌体に加えて、亜セレン酸還元菌の凝集菌体及び硫酸還元菌の凝集菌体を担体に付着させることは、亜セレン酸の還元能力を付与するだけでなく、セレン酸の還元能力を高めに安定化させる効果があったと言える。
【0152】
この要因の一つとして、例えば、亜セレン酸の還元が進むことで、亜セレン酸によるセレン酸還元への悪影響が緩和されることが挙げられる。また、他の原因として、多くの微粒子がカラム内で生成していたことが考えられる。例えば、硫酸還元菌の存在と硫酸塩濃度の高い排水組成(表1)から、元素硫黄や硫化物塩が析出することは容易に予想される。これらの微粒子がロックウールに捕捉されると、元来は滑らかなロックウールの繊維の表面に凹凸が生じて比表面積が大きくなり、より多くの細菌を保持できると考えられる。
【0153】
次に、ロックウール(未加工)にハイドロタルサイト系吸着剤が固定されたロックエースFFにセレン酸還元菌の凝集菌体を付着させた単独2条件では、セレン酸の還元が全く見られなかった(図13)。この原因は、ロックエースFFはハイドロタルサイト系吸着剤が固定されている結果として、ロックウール自体の繊維が目立たない形状であることや、排水にアルカリ分が溶出する(通水後のpHは9.0以上、他のカラムでは8.0程度)こと等によって、細菌の凝集菌体の付着に適していないことによるものと考えられる。
【0154】
次に、ロックウール(未加工)に活性水酸化鉄系吸着剤が固定されたロックエースSFにセレン酸還元菌の凝集菌体を付着させた単独3条件(エタノール供給)及び単独4条件(メタノール供給)では、セレン酸の還元能力及び亜セレン酸の吸着能力ともに優れた結果が得られた。
【0155】
また、エタノールを供給した単独3条件では、6mg/Lで安定したセレン酸還元能が得られ、6mg/Lのエタノール供給量で、セレン酸濃度が検出限界以下となるまで還元されることが確認できた。また、亜セレン酸濃度についても、実験40日目までは検出限界以下、以後も1mg/Lを上回らずに推移した。装置容積あたりの速度に換算すると、セレン酸の還元速度が32mg/(L・日)となり、同じ速度で亜セレン酸の処理も行われていることになる。
【0156】
さらに、メタノールを供給した単独4条件でも、安定したセレン酸の還元が可能であった。具体的には、有機物(メタノール)供給量を8mg/L相当とすれば、セレン酸濃度は1〜1.5mg/L、亜セレン酸濃度は検出限界以下で安定した。
【0157】
単独3条件及び単独4条件において示された結果から、活性水酸化鉄系吸着剤が混合・付着されたロックウールを担体とすることは、亜セレン酸の吸着能力を付与するだけでなく、セレン酸還元菌によるセレン酸の還元能力を著しく高める効果もあることが明らかとなった。
【0158】
推測される要因は、単独1の場合と同様、亜セレン酸による悪影響の緩和と、吸着剤粒子による比表面積の増大であるものと考えられる。但し、亜セレン酸が検出限界以下となっていた時期に、単独1(実験35〜50日目)ではセレン酸が残存したが、単独3(実験23日目以降)では残存しなかった。したがって、セレン酸の還元能力に対しては、亜セレン酸濃度よりもセレン酸還元菌の保持能力の方が大きな影響力を持ち、さらに、硫黄系粒子による保持能力の増大効果よりも吸着剤粒子による保持能力の増大効果が大きいと考えられる。
【符号の説明】
【0159】
1 セレン含有水還元処理装置
2 (第一の)カラム容器
3 (第一のカラム容器に充填される)担体
3a 亜セレン酸吸着剤
4 セレン酸還元菌を含む凝集菌体
4’ セレン酸還元菌及び亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体
4’’ 亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体
5 有機物供給装置
6 亜セレン酸吸着材
12 第二のカラム容器
13 (第二のカラム容器に充填される)担体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体が充填されたカラム容器と、前記カラム容器内に有機物を供給する有機物供給装置とを含むことを特徴とするセレン含有水還元処理装置。
【請求項2】
前記担体の表面に亜セレン酸吸着剤が付着している請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項3】
前記カラム容器を第一のカラム容器とし、前記第一のカラム容器の後段に、亜セレン酸吸着材を充填した第二のカラム容器を更に含む請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項4】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が前記凝集菌体に更に含まれている請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項5】
前記凝集菌体とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が前記担体の表面に付着している請求項1又は4に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項6】
前記カラム容器を第一のカラム容器とし、前記第一のカラム容器の後段に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体が充填された第二のカラム容器を更に含む請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項7】
セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体に、セレン含有水と有機物とを接触させる工程を含むことを特徴とするセレン含有水還元処理方法。
【請求項8】
前記担体の表面に亜セレン酸吸着剤が付着している請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法。
【請求項9】
前記工程を第一の工程とし、前記第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸吸着材に接触させる第二の工程を更に含む請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法。
【請求項10】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が前記凝集菌体に更に含まれている請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法。
【請求項11】
前記凝集菌体とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が前記担体の表面に付着している請求項7又は10に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項12】
前記工程を第一の工程とし、前記第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体と有機物とに接触させる第二の工程をさらに含む請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法。
【請求項13】
セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が、多孔質または繊維状構造の担体の表面に付着していることを特徴とするセレン含有水還元処理用担体。
【請求項14】
セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体を懸濁した溶液を多孔質または繊維状構造の担体に通液する工程を含むことを特徴とするセレン含有水還元処理用担体の作製方法。
【請求項1】
セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体が充填されたカラム容器と、前記カラム容器内に有機物を供給する有機物供給装置とを含むことを特徴とするセレン含有水還元処理装置。
【請求項2】
前記担体の表面に亜セレン酸吸着剤が付着している請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項3】
前記カラム容器を第一のカラム容器とし、前記第一のカラム容器の後段に、亜セレン酸吸着材を充填した第二のカラム容器を更に含む請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項4】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が前記凝集菌体に更に含まれている請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項5】
前記凝集菌体とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が前記担体の表面に付着している請求項1又は4に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項6】
前記カラム容器を第一のカラム容器とし、前記第一のカラム容器の後段に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体が充填された第二のカラム容器を更に含む請求項1に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項7】
セレン酸還元菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体に、セレン含有水と有機物とを接触させる工程を含むことを特徴とするセレン含有水還元処理方法。
【請求項8】
前記担体の表面に亜セレン酸吸着剤が付着している請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法。
【請求項9】
前記工程を第一の工程とし、前記第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸吸着材に接触させる第二の工程を更に含む請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法。
【請求項10】
亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌が前記凝集菌体に更に含まれている請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法。
【請求項11】
前記凝集菌体とは別に、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が前記担体の表面に付着している請求項7又は10に記載のセレン含有水還元処理装置。
【請求項12】
前記工程を第一の工程とし、前記第一の工程により処理されたセレン含有水を、亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が表面に付着している多孔質または繊維状構造の担体と有機物とに接触させる第二の工程をさらに含む請求項7に記載のセレン含有水還元処理方法。
【請求項13】
セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体が、多孔質または繊維状構造の担体の表面に付着していることを特徴とするセレン含有水還元処理用担体。
【請求項14】
セレン酸還元菌及び/又は亜セレン酸を不溶化する機能を持つ菌を含む凝集菌体を懸濁した溶液を多孔質または繊維状構造の担体に通液する工程を含むことを特徴とするセレン含有水還元処理用担体の作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−192359(P2012−192359A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59173(P2011−59173)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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