説明

センサー装置およびセンサー装置の製造方法

【課題】小型化および低コスト化を図るとともに、コンクリートの品質劣化を防止しつつ、測定対象物の状態を測定し、その測定結果に基づく情報を鉄筋の腐食前の計画的または予防的な保全に活用することができるセンサー装置およびセンサー装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のセンサー装置1は、不測定対象部位の環境変化に伴って表面に不動態膜を形成するか、または、表面に存在した不動態膜を消失させる第1の金属材料で構成された第1の電極3と、第1の電極3に対して離間して設けられ、第1の金属材料とは異なる第2の金属材料で構成された第2の電極4と、基板21と、基板21の一方の面側に設けられ、第1の電極3と第2の電極4との電位差を測定する機能を有する集積回路50とを含む機能素子5とを備え、第1の電極3および第2の電極4は、それぞれ、集積回路50上に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー装置およびセンサー装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサー装置としては、例えば、コンクリート中の鉄筋の腐蝕状態を測定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
施工直後のコンクリート構造物中のコンクリートは、通常、強アルカリ性を呈する。そのため、施工直後のコンクリート構造物中の鉄筋は、その表面に不動態膜が形成されるため、安定である。しかし、施工後に酸性雨や排気ガス等の影響を受けたコンクリート構造物は、コンクリートが徐々に酸性化していくため、鉄筋が腐食することとなる。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に係るセンサー装置では、コンクリート構造物中の鉄筋と同種材料からなる細線をコンクリート構造物中に埋設し、腐蝕による細線の断線の有無を検知することにより、コンクリート中の鉄筋の腐蝕状況を予測する。
特許文献1に係るセンサー装置では、細線が切断されたタイミングにより、コンクリート構造物中の鉄筋の腐食が始まった時期を知ることは可能である。しかし、特許文献1に係るセンサー装置では、細線が腐食し始めてから切断に至るまでの間に鉄筋の腐食が進行してしまい、鉄筋の腐食前に予防的または計画的な保全を行うことができないという課題があった。
また、このようなセンサー装置は、小型化および低コスト化を図ることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−153568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、小型化および低コスト化を図るとともに、コンクリートの品質劣化を防止しつつ、測定対象物の状態を測定し、その測定結果に基づく情報を鉄筋の腐食前の計画的または予防的な保全に活用することができるセンサー装置およびセンサー装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のセンサー装置は、測定対象部位の環境変化に伴って表面に不動態膜を形成するか、または、表面に存在した不動態膜を消失させる第1の金属材料で構成された第1の電極と、
前記第1の電極に対して離間して設けられ、前記第1の金属材料とは異なる第2の金属材料で構成された第2の電極と、
基板と、前記基板の一方の面側に設けられ、前記第1の電極と前記第2の電極との電位差を測定する機能を有する集積回路とを含む機能素子とを備え、
前記第1の電極および前記第2の電極は、それぞれ、前記集積回路上に設けられていることを特徴とする。
【0007】
このように構成されたセンサー装置によれば、第1の電極の設置環境のpH変化に伴う不動態膜の有無により第1の電極と第2の電極との電位差が急峻に変化する。そのため、第1の電極および第2の電極の設置環境のpHが設定値以下か否かを正確に検知することができる。
また、第1の電極の設置環境の塩化物イオン濃度変化に伴う不動態膜消失により第1の電極と第2の電極との電位差が急峻に変化する。そのため、第1の電極および第2の電極の設置環境の塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを正確に検知することもできる。
また、第1の電極および第2の電極が機能素子の集積回路上に設けられているので、センサー装置の小型化および低コスト化を図ることができる。
【0008】
本発明のセンサー装置では、前記機能素子は、前記第1の電極と前記第2の電極との電位差に基づいて、前記測定対象部位のpHあるいは塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを検知する機能を有することが好ましい。
これにより、第1の電極と第2の電極との電位差に基づいて、第1の電極および第2の電極の設置環境のpHまたは塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを検知することができる。
【0009】
本発明のセンサー装置では、前記第1の金属材料は、鉄または鉄系合金であることが好ましい。
鉄または鉄系合金(鉄系材料)は比較的安価で入手が容易である。また、例えば、センサー装置をコンクリート構造物の状態測定に用いた場合、第1の金属材料をコンクリート構造物中の鉄筋と同一材料とすることが可能であり、第1の金属材料を鉄筋と同一材料とすることにより、コンクリート構造物中の鉄筋の腐蝕状態を効果的に検知することができる。
【0010】
本発明のセンサー装置では、前記第2の金属材料は、測定対象部位の環境変化に伴って表面に不動態膜を形成するか、または、表面に存在した不動態膜を消失させる金属であることを特徴とすることが好ましい。
これにより、第2の電極の不動態膜の有無、あるいは不動態膜破壊によっても、第1の電極と第2の電極との電位差が急峻に変化する。この結果、第1の電極と第2の電極との電位差が急峻に変化する2点で、pHまたは塩化物イオン濃度が設定値以下か否か、より正確に検知することができる。
【0011】
本発明のセンサー装置では、前記第2の金属材料は、鉄または鉄系合金であることが好ましい。
鉄または鉄系合金(鉄系材料)は比較的安価で入手が容易である。また、例えば、センサー装置をコンクリート構造物の状態測定に用いた場合、第2の金属材料をコンクリート構造物中の鉄筋と同一材料とすることが可能であり、第2の金属材料を鉄筋と同一材料とすることにより、コンクリート構造物中の鉄筋の腐蝕状態を効果的に検知することができる。
【0012】
本発明のセンサー装置では、前記第2の金属材料は、不動態膜を形成しないことが好ましい。
これにより、第1の電極および第2の電極の設置環境が強アルカリ状態から中性状態へ変化するとき、その変化を1段階で高精度に検知することができる。
本発明のセンサー装置では、第3の金属材料で構成された電気抵抗体を備え、
前記集積回路は、前記電気抵抗体の抵抗値を測定する機能をさらに有することが好ましい。
これにより、電気抵抗体の抵抗値に基づいて、塩化物イオンの侵入を検知することができる。
本発明のセンサー装置では、前記電気抵抗体は、前記集積回路上に設けられていることが好ましい。
これにより、電気抵抗体を設けたセンサー装置の小型化および低コスト化を図ることができる。
【0013】
本発明のセンサー装置の製造方法は、測定対象部位の環境変化に伴って表面に不動態膜を形成するか、または、表面に存在した不動態膜を消失させる第1の金属材料で構成された第1の電極と、
前記第1の電極に対して離間して設けられ、前記第1の金属材料とは異なる第2の金属材料で構成された第2の電極と、
基板と、前記基板の一方の面側に設けられ、前記第1の電極と前記第2の電極との電位差を測定する機能を有する集積回路とを含む機能素子とを備え、
前記第1の電極および前記第2の電極は、それぞれ、前記集積回路上に設けられているセンサー装置の製造方法であって、
ウエハーの一方の面側に、前記集積回路を形成する第1の工程と、
前記集積回路上に前記第1の電極および前記第2の電極を形成する第2の工程とを有し、
前記第1の工程では、前記集積回路の他に、前記集積回路に電気的に接続されたメッキ用配線を形成し、
前記第2の工程では、前記メッキ用配線を用いて電気メッキにより前記第1の電極および前記第2の電極のうちの少なくとも一方の電極を形成することを特徴とする。
このようなセンサー装置の製造方法によれば、測定対象部位のpH変化または塩化物イオン濃度変化を高精度に測定し得る小型なセンサー装置を安価に製造することができる。
【0014】
本発明のセンサー装置の製造方法では、前記第2の工程の後に、前記ウエハーをスクライブライン領域に沿ってダイシングする第3の工程を有し、
前記第1の工程では、前記メッキ用配線を前記スクライブライン領域内に形成することが好ましい。
これにより、スクライブライン領域を有効利用してメッキ用配線を形成することができる。また、第3の工程により、ダイシングと同時にメッキ用配線を除去するとともに、個片化された機能素子を得ることができる。
【0015】
本発明のセンサー装置の製造方法では、前記集積回路は、第1の導体部と、前記第1の導体部に対して離間した第2の導体部とを有し、
前記メッキ用配線は、前記第1の導体部に電気的に接続された第1の配線と、前記第2の導体部に電気的に接続された第2の配線とを有し、
前記第2の工程では、前記第1の配線を用いて電気メッキにより前記第1の導体部上に前記第1の電極を形成するとともに、前記第2の配線を用いて電気メッキにより前記第2の導体部上に前記第2の電極を形成することが好ましい。
これにより、マスキングを行うことなく、第1の電極および第2の電極をそれぞれ選択的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るセンサー装置の使用状態の一例を示す図である。
【図2】図1に示すセンサー装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示すセンサー装置の平面図である。
【図4】図3中のA−A線断面図である。
【図5】図3中のB−B線断面図である。
【図6】図2に示す測定回路の差動増幅回路を示す回路図である。
【図7】図1に示すセンサー装置の作用の一例を説明するための図である。
【図8】図1に示すセンサー装置の製造方法を説明するための図である。
【図9】図8に示すメッキ用配線を説明するための拡大図である。
【図10】図9中のC−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のセンサー装置およびセンサー装置の製造方法の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るセンサー装置の使用状態の一例を示す図、図2は、図1に示すセンサー装置の概略構成を示すブロック図、図3は、図2に示すセンサー装置の平面図、図4は、図3中のA−A線断面図、図5は、図3中のB−B線断面図、図6は、図2に示す測定回路の差動増幅回路を示す回路図、図7は、図1に示すセンサー装置の作用の一例を説明するための図である。
【0018】
なお、以下では、本発明のセンサー装置をコンクリート構造物の品質測定に用いる場合を例に説明する。
図1に示すセンサー装置1は、コンクリート構造物100の品質を測定するものである。
コンクリート構造物100は、コンクリート101内に複数の鉄筋102が埋設されている。そして、センサー装置1は、コンクリート構造物100のコンクリート101内の鉄筋102付近に埋設されている。なお、センサー装置1は、コンクリート構造物100の打設する際に、コンクリート101の硬化前に鉄筋に固定して埋め込んでもよいし、打設後に硬化したコンクリート101に穿孔して埋め込んでもよい。
【0019】
このセンサー装置1は、本体2と、その本体2の表面に露出した第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8とを有する。本実施形態では、第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8は、コンクリート構造物100の外表面からの距離が互いに等しくなるように設置されている。また、第1の電極3および第2の電極4は、それぞれ、電極面がコンクリート構造物100の外表面に平行または略平行となるように設置されている。そして、第1の電極3および第2の電極4は、pH変化または塩化物イオン濃度変化に伴って、これらの間の電位差が変化するように構成されている。また、電気抵抗体8は、pH変化または塩化物イオン濃度変化に伴って、抵抗値が変化するように構成されている。なお、第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8については、後に詳述する。
【0020】
また、センサー装置1は、図2に示すように、第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8に電気的に接続された機能素子5(集積回路)と、アンテナ61と、電源62と、温度センサー63と、発振器64とを有し、これらが本体2内に収納されている。また、本体2上には、機能素子5に電気的に接続された複数の電極パッド7が設けられている。
【0021】
以下、センサー装置1を構成する各部を順次説明する。
(本体)
本体2は、第1の電極3、第2の電極4、電気抵抗体8および機能素子5等を支持する機能を有する。
また、本体2は、機能素子5およびアンテナ61等を収納する機能を有する。
特に、本体2は、機能素子5およびアンテナ61を液密的に収納するように構成されている。
【0022】
具体的には、図3および図4に示すように、本体2は、封止部24を有する。この封止部24は、機能素子5、アンテナ61、電源62、温度センサー63および発振器64を封止する機能を有する。これにより、センサー装置1を水分やコンクリートの存在下に設置した場合に、機能素子5、アンテナ61、電源62、温度センサー63および発振器64の劣化を防止することができる。
【0023】
ここで、封止部24は、開口部241を有し、この開口部241から第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8を露出させつつ、第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8以外の各部を覆うように設けられている(図3および図4参照)。これにより、封止部24が第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8以外の各部の劣化を防止しつつ、センサー装置1が測定を行うことができる。なお、開口部241は、第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体のそれぞれの少なくとも一部を露出するように形成されていればよい。
【0024】
封止部24の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂のような熱可塑性樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂のような熱硬化性樹脂等の各種樹脂材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、封止部24は、必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
【0025】
(第1の電極、第2の電極)
第1の電極3および第2の電極4は、図4に示すように、それぞれ、後述する機能素子5の集積回路50上に設けられている。これにより、センサー装置1の小型化および低コスト化を図ることができる。
また、第1の電極3および第2の電極4は、同一平面上に設けられている。そのため、第1の電極3および第2の電極4の設置環境の差が生じるのを防止することができる。
【0026】
また、第1の電極3および第2の電極4は、互いに電位の影響を受けない程度(例えば数mm)に離間している。
本実施形態では、第1の電極3および第2の電極4は、それぞれ、薄膜状をなしている。また、第1の電極3および第2の電極4の平面視形状は、それぞれ、四角形をなしている。また、第1の電極3および第2の電極4は、平面視にて、互いの形状および面積が等しくなっている。
【0027】
このような第1の電極3は、不動態膜を形成する第1の金属材料(以下、単に「第1の金属材料」とも言う)で構成されている。このように構成された第1の電極3は、pHの変化によって不動態膜が形成されたり破壊されたりする。このような第1の電極3に不動態膜が形成された状態(消失した状態)では不活性(貴)であり、自然電位が高くなる(貴化する)。一方、第1の電極3は、不動態膜が破壊された状態(消失された状態)では活性(卑)である。そのため、第1の電極3の電位は、pH変化に伴う不動態膜の有無により急峻に変化する。
【0028】
このような第1の金属材料としては、不動態膜が形成される限り、特に限定されないが、例えば、Fe、Ni、Mg、Znまたはこれらを含む合金等が挙げられる。
Feは、pHが9よりも大きいときに不動態膜を形成する。また、FeAl(Al0.8%)系炭素鋼は、pHが4よりも大きいときに不動態膜を形成する。また、Niは、pHが8〜14であるときに不動態膜を形成する。また、Mgは、pHが10.5よりも大きいときに不動態膜を形成する。また、Znは、pHが6〜12であるときに不動態膜を形成する。
【0029】
中でも、第1の金属材料は、FeまたはFeを含む合金(Fe系合金)、すなわち鉄系材料(炭素鋼、合金鋼)であるのが好ましい。鉄系材料は安価で入手が容易である。また、本実施形態のように、センサー装置1をコンクリート構造物100の状態測定に用いた場合、第1の金属材料をコンクリート構造物100の鉄筋102と同一材料とすることが可能であり、第1の金属材料を鉄筋102と同一材料とすることにより、鉄筋102の腐蝕環境状態を効果的に検知することができる。例えば、第1の電極3がFeで構成されている場合、pHが9以上か否かの判断ができる。
【0030】
一方、第2の電極4は、第1の金属材料とは異なる第2の金属材料(以下、単に「第2の金属材料」とも言う)で構成されている。このように構成された第2の電極4は、前述したように不動態膜の有無により第1の電極3の電位が変化する際に、不導体膜の形成や破壊(消失)が無く、急激な電位の変化がない。そのため、前述したように不動態膜の有無により第1の電極3の電位が変化する際に、第1の電極3と第2の電極4との電位差が急峻に変化する。そのため、第1の電極3および第2の電極4の設置環境(本実施形態ではコンクリート101の鉄筋102付近)のpHが設定値以下か否かを正確に検知することができる。
【0031】
第2の金属材料としては、第1の金属材料とは異なる金属材料であり、電極として機能し得るものであれば、特に限定されず、各種金属材料を用いることができる。
また、第2の金属材料は、前述した第1の金属材料と異なる金属材料であれば、不動態膜を形成するものであってもよいし、不動態膜を形成しないものであってもよい。
第2の金属材料が不動態膜を形成するものである場合、第2の金属材料として、上述の第1の金属材料として例示した金属を挙げることができる。
【0032】
本発明の好ましい態様においては、第1の金属材料が不動態膜を形成するpHの範囲の下限値を第1のpH(第1の不動態化pH)とし、第2の金属材料が不動態膜を形成するpHの範囲の下限値を第2のpH(第2の不動態化pH)としたとき、第1のpHおよび第2のpHが互いに異なる。すなわち、第1の金属材料は、第1のpHよりも大きいpHとなったときに不動態膜を形成し、第2の金属材料は、第1のpHとは異なる第2のpHよりも大きいpHとなったときに不動態膜を形成する。これにより、第1の電極3および第2の電極4が設置された環境のpHが第1のpH以下か否かおよび第2のpH以下か否かをそれぞれ正確に検知することができる。
【0033】
この場合、第1のpHが8以上10以下であり、かつ、第2のpHが7以下であるのが好ましい。これにより、第1のpH以下か否かを検知することにより、第1の電極3および第2の電極4の設置環境が中性状態に近付いていることを事前に知ることができる。このようなことから、本実施形態にように、センサー装置1をコンクリート構造物100の状態測定に用いた場合、鉄筋102の腐食防止の対策を事前に行うことができる。また、第2のpH以下か否かを検知することにより、第1の電極3および第2の電極4の設置環境が酸性状態になってしまったことを知ることもできる。
【0034】
また、この場合、第2の金属材料は、FeまたはFeを含む合金(Fe系合金)、すなわち鉄系材料であるのが好ましい。鉄系材料は安価で入手が容易である。また、本実施形態のように、センサー装置1をコンクリート構造物100の状態測定に用いた場合、第2の金属材料を鉄筋102と同一材料とすることが可能であり、第2の金属材料を鉄筋102と同一材料とすることにより、鉄筋102の腐蝕状態を効果的に検知することができる。
【0035】
一方、第2の金属材料が不動態膜を形成しないものである場合、第2の金属材料として、Pt、Au等を挙げることができる。第2の金属材料が不動態膜を形成しないものである場合、第1の電極3および第2の電極4の設置環境が強アルカリ状態から強酸性状態へ変化するとき、その変化を1段階で高精度に検知することができる。
この場合、第1の金属材料は、3以上5以下のpH、または、8以上10以下のpHよりも大きいpHとなったときに不動態膜を形成するものであるのが好ましい。3以上5以下のpH以下か否かを検知することにより、第1の電極3および第2の電極4の設置環境が酸性状態になってしまったことを知ることができる。また、8以上10以下のpH以下か否かを検知することにより、第1の電極3および第2の電極4の設置環境が酸性状態に近付いていることを事前に知ることができる。
【0036】
本発明の他の態様によれば、第2の金属材料が不動態膜を形成するものである場合、第1の金属材料の不動態膜破壊が始まる塩化物イオン濃度下限値を第1の塩化物イオン濃度とし、第2の金属材料の不動態膜破壊が始まる塩化物イオン濃度下限値を第2の塩化物イオン濃度としたとき、第1の塩化物イオン濃度および第2の塩化物イオン濃度が互いに異なる。すなわち、第1の金属材料は、第1の塩化物イオン濃度よりも大きくなったときに不動態膜破壊が始まり、第2の金属材料は、第1の塩化物イオン濃度とは異なる第2の塩化物イオン濃度よりも大きくなったときに不動態膜の破壊が始まる。これにより、第1の電極3および第2の電極4が設置された環境の塩化物イオン濃度が第1の塩化物イオン濃度以下か否かおよび第2の塩化物イオン濃度以下か否かをそれぞれ正確に検知することができる。
【0037】
この場合、第1の塩化物イオン濃度が1.0kg/m以上1.5kg/m以下(好ましくは1.2kg/m程度)であり、かつ、第2の塩化物イオン濃度が第1の塩化物イオン濃度より大きいことが好ましい。これにより、第1の塩化物イオン濃度以下か否かを検知することにより、第1の電極3および第2の電極4の設置環境に塩化物イオンが侵入してきているかどうかを知ることができる。例えば、第1の金属材料に、第1の塩化物イオン濃度が約1.2kg/mの炭素鋼(SD345)を用い、第2の金属材料に第2の塩化物イオン濃度が約20kg/mであるSUS304を用いる。このように構成された第2の電極4は、塩化物イオン濃度が1.2kg/mを超えて不動態膜破壊が始まることにより第1の電極3の電位が変化する際に、不動態膜の破壊(消失)が無く、急激な電位の変化がない。そのため、不動態膜の有無により第1の電極3の電位が変化する際に、第1の電極3と第2の電極4との電位差が急峻に変化する。そのため、第1の電極3および第2の電極4の設置環境(本実施形態ではコンクリート101の鉄筋102付近)の塩化物イオン濃度が設定値1.2kg/mを超えているか否かを正確に検知することができる。第2の金属材料に耐性に優れたSUS316やSUS329J4Lを用いることもできる。
【0038】
このようなことから、本実施形態のように、センサー装置1をコンクリート構造物100の状態測定に用いた場合、外部からコンクリート101内に侵入するCO(中性化)や塩素イオンをコンクリート構造物100中の鉄筋102に届く前に検知できる。従って、鉄筋102が腐食する前に腐食防止の対策を行うことができる。
このような第1の電極3および第2の電極4は、それぞれ、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等により形成することができる。
【0039】
(電気抵抗体)
電気抵抗体8は、図4および図5に示すように、後述する機能素子5の集積回路50上に設けられている。これにより、電気抵抗体8を設けたセンサー装置1の小型化および低コスト化を図ることができる。
また、電気抵抗体8は、前述した第1の電極3および第2の電極4と同一平面上に設けられている。そのため、第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8の設置環境の差が生じるのを防止することができる。
【0040】
また、電気抵抗体8は、第1の電極3おおよび第2の電極4に対して、電位の影響を受けない程度(例えば数mm)に離間している。
この電気抵抗体8は、酸または塩化物イオンにより腐蝕するものである。そのため、電気抵抗体8は、酸または塩化物イオンの環境下で、腐蝕により横断面積が減少または切断される。
【0041】
また、電気抵抗体8の外形は、板状またはシート状をなしている。また、電気抵抗体8は、長尺状をなしている。すなわち、電気抵抗体8は、帯状をなしている。これにより、電気抵抗体8を腐蝕により切断され易くすることができる。
このような電気抵抗体8の構成材料としては、酸または塩化物イオンの存在下で腐蝕するものであれば、特に限定されないが、不動態膜を形成する金属材料を用いるのが好ましい。
【0042】
かかる金属材料としては、前述した第1の電極3の構成材料(第1の金属材料)と同様のものを用いることができる。
中でも、電気抵抗体8を構成する金属材料は、FeまたはFeを含む合金(Fe系合金)、すなわち鉄系材料(具体的には、炭素鋼、合金鋼、SUS等)、ニッケルまたはこれらを含む合金であるのが好ましい。これらの材料は安価で入手が容易である。また、本実施形態のように、センサー装置1をコンクリート構造物100の状態測定に用いた場合、電気抵抗体8の構成材料をコンクリート構造物100の鉄筋102と同一または近似の材料とすることが可能であり、鉄筋102の腐蝕環境状態を効果的に検知することができる。例えば、電気抵抗体8がFeで構成されている場合、pHが9以上か否かの判断ができる。
【0043】
また、電気抵抗体8は、連続空孔を有する多孔質体で構成されているのが好ましい。
このような連続空孔により電気抵抗体8の表面積を大きくすることができる。そのため、電気抵抗体8に付着する水分量や酸素の量を多くすることができる。
また、細孔による毛管凝縮効果により、より低い相対湿度で、電気抵抗体8上に水分を結露させることができる。そのため、電気抵抗体8上に安定して液体の水を存在させることができる。すなわち、仮に電気抵抗体8が緻密体で構成された場合に電気抵抗体8上に結露が生じないような低い相対湿度においても、電気抵抗体8上に結露させて液体の水を存在させることができる。
【0044】
このようなことから、電気抵抗体8の配置環境が劣化した場合には、電気抵抗体8の腐蝕を生じやすくさせるとともに、電気抵抗体8の腐蝕による断面積変化を急激なものとし、それに伴って、電気抵抗体8の腐蝕による抵抗値変化を大きくすることができる。そのため、コンクリート構造物100中の鉄筋102が腐食する前に、コンクリート101の中性化、塩化物イオンまたは酸の侵入を高精度に検知することができる。これにより、コンクリート構造物100中の鉄筋102の腐食前に、予防的または計画的な保全を行って、鉄筋102の腐食を防止することができる。
【0045】
また、電気抵抗体8の腐蝕により電気抵抗体8の体積が増加しても、その増加分の体積を多孔質体の連続空孔で吸収させることができる。そのため、電気抵抗体8が腐蝕しても、コンクリート101のひび割れを誘発するのを防止し、コンクリート101の品質劣化を防止することができる。
このように電気抵抗体8が多孔質体で形成されている場合、その空孔の平均径は、前述したように毛管凝縮効果を生じ得る範囲であれば、特に限定されないが、例えば、2nm以上50nm以下であるのが好ましい。すなわち、かかる空孔は、それぞれ、メソ孔であるのが好ましい。
【0046】
さらに、空孔率は、前述したように毛管凝縮効果を生じ得る範囲であれば、特に限定されないが、例えば、10%以上90%以下であるのが好ましい。
このような電気抵抗体8は、特に限定されず、公知の多孔質体膜の形成方法を用いて形成することができる。
また、電気抵抗体8の厚さは、特に限定されないが、腐食による電気抵抗の変化が大きく、コンクリート強度に影響を及ぼさないためには、10nm以上5mm以下であるのが好ましい。
【0047】
(機能素子)
機能素子5は、前述した本体2の内部に埋設されている。なお、機能素子5は、前述した本体2の基板21に対して第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8とは、同一面に設けても、反対側に設けても良い。
この機能素子5は、第1の電極3と第2の電極4との電位差を測定する機能を有する。これにより、第1の電極3と第2の電極4との電位差に基づいて、第1の電極3および第2の電極4の設置環境のpHが設定値以下か否かを検知することができる。
【0048】
また、機能素子5は、第1の電極3と第2の電極4との電位差に基づいて、測定対象物であるコンクリート構造物100の測定対象部位のpHが設定値以下か否かを検知する機能をも有する。これにより、コンクリート構造物100のpH変化に伴う状態変化を検知することができる。
さらに、機能素子5は、電気抵抗体8の抵抗値を測定する機能を有する。これにより、電気抵抗体8の抵抗値に基づいて、測定対象部位の状態を測定することができる。
【0049】
また、機能素子5は、電気抵抗体8の抵抗値に基づいて、測定対象物であるコンクリート構造物100の測定対象部位のpHあるいは塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを検知する機能をも有する。これにより、コンクリート構造物100のpH変化あるいは塩化物イオン濃度変化に伴う状態変化を検知することができる。
このような機能素子5は、例えば、集積回路である。より具体的には、機能素子5は、例えば、MCU(マイクロコントロールユニット)であり、図2に示すように、測定回路51と、A/D変換回路52と、CPU53と、通信回路54と、電源回路55とを有する。
【0050】
この機能素子5は、図4および図5に示すように、基板21と、基板21の一方の面側に設けられた複数のトランジスタ511、512、513を含む集積回路50とを有する。
基板21は、例えばSOI基板またはシリコン基板であり、CPU53およびA/D変換回路52等が形成されている。基板21としてSOI基板を用いることにより、トランジスタ511〜513をSOI型MOSFETとすることができる。
【0051】
複数のトランジスタ511〜513は、それぞれ例えば電界効果トランジスタ(FET)である。
また、図6に示すように、トランジスタ511、512は、第1の電極3と第2の電極4との電位差に応じた信号を出力する差動増幅回路の一部を構成する。また、トランジスタ513は、電気抵抗体8の抵抗値に応じた信号を出力する回路の一部を構成する。
【0052】
具体的に説明すると、トランジスタ511は、ソース電極561aと、ドレイン電極562aと、ゲート電極565aとを備える。
また、トランジスタ512は、ソース電極561bと、ドレイン電極562bと、ゲート電極565bとを備える。
また、トランジスタ513は、ソース電極561cと、ドレイン電極562cと、ゲート電極565cとを備える。
【0053】
このようなトランジスタ511〜513のソース電極561a、561b、561cおよびドレイン電極562a、562b、562cは、前述した基板21の一方の面(図4にて上側の面)に形成されている。また、その基板21の一方の面には、接地された接地電極563も形成されている。
そして、ソース電極561a、561b、561cおよびドレイン電極562a、562b、562cを覆うように、ゲート絶縁膜564が設けられている。
【0054】
ゲート絶縁膜564上には、ゲート電極565a、565b、565cが設けられ、ゲート電極565a、565b、565cを覆うように、絶縁膜567が設けられている。
また、ゲート電極565aには、絶縁膜567を貫通する導体部568a(導体ポストおよび配線)が電気的に接続されている。同様に、ゲート電極565bには、絶縁膜567を貫通する導体部568b(導体ポストおよび配線)が電気的に接続されている。また、ゲート電極565cには、絶縁膜567を貫通する導体部568c(導体ポストおよび配線)が電気的に接続されている。
【0055】
また、接地電極563には、ゲート絶縁膜564および絶縁膜567を貫通する導体部569(導体ポストおよび配線)が電気的に接続されている。
絶縁膜567上には、導体部568a、568b、568c、569を覆うように、絶縁膜570が設けられている。
導体部568aには、絶縁膜570を貫通する導体部571a(導体ポストおよび配線)が電気的に接続されている。同様に、導体部568bには、絶縁膜570を貫通する導体部571b(導体ポストおよび配線)が電気的に接続されている。また、導体部568cには、絶縁膜570を貫通する導体部571c(導体ポストおよび配線)が電気的に接続されている。導体部571cは、導体部569に電気的に接続されている。
【0056】
絶縁膜570上には、絶縁膜572、573がこの順に積層されている。
導体部571a上には、第1の電極3が設けられている。これにより、トランジスタ511のゲート電極565aと第1の電極3とが電気的に接続されている。そのため、第1の電極3の電位の変化に応じて、トランジスタ511のドレイン電流が変化する。
同様に、導体部571b上には、第2の電極4が設けられている。これにより、トランジスタ512のゲート電極565bと第2の電極4とが電気的に接続されている。そのため、第2の電極4の電位の変化に応じて、トランジスタ512のドレイン電流が変化する。
【0057】
また、導体部571c上には、電気抵抗体8が設けられている。これにより、トランジスタ513のゲート電極565cと電気抵抗体8とが電気的に接続されている。そのため、ゲート電極565cと導体部569との間に流れる電流の変化に応じて、トランジスタ513のドレイン電流が変化する。
以上のように構成された測定回路51は、A/D変換回路52を介してCPU53に電気的に接続されている。
【0058】
CPU53は、機能素子5の各部を駆動制御する機能を有する。
また、CPU53は、第1の電極3と第2の電極4との電位差に関する情報(以下、単に「電位差情報」ともいう)と、機能素子5は、電気抵抗体8の抵抗値に関する情報(以下、単に「抵抗値情報」ともいう)と、測定部位のpHが設定値以下か否かに関する情報(以下、単に「pH情報」ともいう)とをそれぞれ通信回路54に入力する。また、CPU53は、温度センサー63によって検知された温度に関する情報(以下、単に「温度情報」ともいう)も併せて通信回路54に入力する。
【0059】
通信回路54は、アンテナ61に給電する機能(送信機能)を有する。これにより、通信回路54は、入力された情報をアンテナ61を介して無線送信することができる。送信された情報は、コンクリート構造物100の外部に設けられた受信機(リーダー)で受信される。
この通信回路54は、例えば、電磁波を送信するための送信回路、信号を変調する機能を有する変調回路等を有する。なお、通信回路54は、信号の周波数を小さく変換する機能を有するダウンコンバータ回路、信号の周波数を大きく変換する機能を有するアップコンバータ回路、信号を増幅する機能を有する増幅回路、電磁波を受信するための受信回路、信号を復調する機能を有する復調回路等を有していてもよい。
【0060】
また、アンテナ61は、特に限定されないが、例えば、金属材料、カーボン等で構成され、巻線、薄膜等の形態をなす。このアンテナ61は、基板21上、より具体的には、集積回路50の配線層に設けられている。なお、アンテナ61は、基板21の集積回路50とは反対側の面上に設けられていてもよい。
また、機能素子5は、発振器64からのクロック信号を取得し得るように構成されている。これにより、各回路の同期をとったり、各種情報に時刻情報を付加したりすることができる。
【0061】
発振器64は、特に限定されないが、例えば、水晶振動子を利用した発振回路で構成されている。
また、機能素子5は、温度センサー63の検知温度情報を取得し得るように構成されている。これにより、測定部位の温度に関する情報も得ることができる。このような温度に関する情報を用いることにより、測定部位の状態をより正確に測定したり、測定部位の変化を高精度に予想したりすることができる。
【0062】
温度センサー63は、測定対象物であるコンクリート構造物100の測定部位の温度を検知する機能を有する。このような温度センサー63としては、特に限定されず、例えば、サーミスター、熱電対等の公知の様々な種類の温度センサーを用いることができる。
また、機能素子5は、電源回路55に電気的に接続された電源62からの通電により作動する。電源62は、機能素子5を動作可能な電力を供給できるものであれば、特に限定されず、例えば、ボタン型電池のような電池であってもよいし、圧電素子のような発電機能を有する素子を用いた電源であってもよい。
以上説明したように構成されたセンサー装置1は、測定対象物であるコンクリート構造物100内に埋設され、第1の電極3と第2の電極4との電位差、および、電気抵抗体8の抵抗値に基づいて、コンクリート構造物100の状態を測定する。
【0063】
以下、第1の電極3および電気抵抗体8がFeで構成され、第2の電極4がFeAlで構成されている場合を一例として、センサー装置1の作用を説明する。
打設直後のコンクリート構造物100において、通常、適切に打設されていれば、コンクリート101は強アルカリ性を呈する。そのため、このとき、図7(a)、(b)に示すように、第1の電極3および第2の電極4は、それぞれ、安定な不動態膜を形成する。すなわち、図7(a)に示すように、第1の電極3は、その表面に不動態膜31が形成され、第2の電極4は、その表面に不動態膜41が形成される。これにより、第1の電極3および第2の電極4の自然電位がそれぞれ上がっている(貴化している)。その結果、コンクリートの打設直後における第1の電極3と第2の電極4との電位差は小さくなる。
【0064】
また、このとき、図示しないが、電気抵抗体8も、その表面に不導体膜が形成される。
その後、コンクリート構造物100は、二酸化炭素、酸性雨、排気ガス等の影響により、コンクリート101のpHが徐々に酸性側に変化していく。
そして、コンクリート101のpHが9程度にまで下がると、図7(b)に示すように、第2の電極4は、その不動態膜41が安定であり、自然電位の変化が少ないものの、第1の電極3は、その不動態膜が崩壊し始め、自然電位が下がる(卑化する)。これにより、第1の電極3と第2の電極4との電位差が大きくなる。
【0065】
また、図示しないが、コンクリート101のpHが9程度にまで下がると、電気抵抗体8も、その不動態膜が崩壊し、腐食し始める。これにより、電気抵抗体8の断面積が減少し、それに伴い、電気抵抗体8の抵抗値が増加する。このような電気抵抗体8の抵抗値変化を検知することにより、測定対象部位のpHが9程度となったことを高精度に検知することができる。
【0066】
また、コンクリート101のpHが4程度まで下がると、図7(c)に示すように、第2の電極4も、その不動態膜が崩壊し始め、自然電位が下がる。このとき、第1の電極3および第2の電極4は、ともに自然電位が下がっているので、第1の電極3と第2の電極4との電位差は、再び小さくなる。なお、このとき、第1の電極3および第2の電極4の腐蝕がそれぞれ進む。
このように、pHが9程度となるタイミングと、pHが4程度となるタイミングとの2つのタイミングで、第1の電極3と第2の電極4との電位差が急峻に変化する。そのため、測定部位のpHが9程度となったこと、および、測定部位のpHが4程度となったことをそれぞれ高精度に検知することができる。
【0067】
このような検知結果を利用することにより、コンクリート構造物100の打設後の品質の経時変化をモニタリングすることができる。そのため、鉄筋102が腐蝕する前に、コンクリート101の劣化(中性化や塩分侵入)を把握することができる。これにより、鉄筋102が腐食する前に、コンクリート構造物100に塗装や防腐剤混入モルタル等による補修工事を行うことが可能となる。
また、コンクリート構造物100の打設時に異常があった否かを判断することもできる。そのため、コンクリート構造物100の初期トラブルを防止し、コンクリート構造物100の品質を向上させることができる。
【0068】
以上説明したように第1実施形態のセンサー装置1によれば、第1の電極3および第2の電極4の設置環境(すなわちコンクリート101)のpH変化に伴う不動態膜の有無により第1の電極3と第2の電極4との電位差が急峻に変化する。そのため、第1の電極3および第2の電極4の設置環境のpHが設定値以下か否かを正確に検知することができる。
【0069】
また、第1の電極3と第2の電極4との電位差に基づいて、測定対象物であるコンクリート構造物100の第1の電極3および第2の電極4が埋設された部位のpHが設定値以下か否かを検知することができる。また、第1の電極3と第2の電極4との電位差に基づいて、測定対象物であるコンクリート構造物100の品質を測定することができる。これにより、コンクリート構造物100のpH変化に伴う状態変化を検知することができる。
【0070】
また、第1の電極3および第2の電極4の設置環境の塩化物イオン濃度変化に伴う不動態膜破壊(消失)により第1の電極3と第2の電極4との電位差が急峻に変化する。そのため、第1の電極3および第2の電極4の設置環境の塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを正確に検知することができる。
また、本実施形態では、電気抵抗体8の抵抗値に基づいて、コンクリート構造物100のpH変化または塩化物イオン濃度変化に伴う状態変化をも検知することができる。
【0071】
(センサー装置の製造方法)
次に、本発明のセンサー装置の製造方法について、図8ないし図10に基づいて、前述したセンサー装置1の製造方法の一例を説明する。
図8は、図1に示すセンサー装置の製造方法を説明するための図、図9は、図8に示すメッキ用配線を説明するための拡大図、図10は、図9中のC−C線断面図である。
センサー装置1の製造方法は、[A]ウエハー200の一方の面側に集積回路50を形成する第1の工程と、[B]集積回路50上に第1の電極3および第2の電極4を形成する第2の工程とを有する。
【0072】
ここで、第1の工程では、集積回路50の他に、集積回路50に電気的に接続されたメッキ用配線300を形成し、第2の工程では、メッキ用配線300を用いて電気メッキにより第1の電極3および第2の電極4を形成する。
このようなセンサー装置1の製造方法によれば、測定対象部位のpH変化または塩化物イオン濃度変化を高精度に測定し得る小型なセンサー装置1を安価に製造することができる。
また、集積回路50の形成方法としては、公知の成膜方法を用いることができる。
【0073】
以下、各工程を順次詳細に説明する。
[A]集積回路50およびメッキ用配線300の形成工程
まず、図8に示すように、ウエハー200上に、複数の集積回路50および複数のメッキ用配線300を形成する。
ここで、複数の集積回路50(機能素子5)は、行列状に配置されている。また、この複数の機能素子5は、後の工程において、図9に示すスクライブライン領域400に沿ってウエハー200がダイシングされることにより個片化される。
【0074】
また、センサー装置1の製造方法は、第2の工程の後に、ウエハー200をスクライブライン領域400に沿ってダイシングする第3の工程を有しており、第1の工程では、図9に示すように、メッキ用配線300をスクライブライン領域400内に形成する。これにより、スクライブライン領域400を有効利用してメッキ用配線300を形成することができる。また、第3の工程により、ダイシングと同時にメッキ用配線300を除去するとともに、個片化された機能素子5を得ることができる。
また、各メッキ用配線300は、2つの配線301、302で構成されている。
【0075】
図10に示すように、配線301は、絶縁膜567と一体形成された層上に設けられ、導体部568aに電気的に接続されている。これにより、配線301は、第1の導体部である導体部571aに電気的に接続されている。
また、配線302は、絶縁膜570一体形成された層上に設けられ、第2の導体部である導体部571bに電気的に接続されている。
【0076】
[B]第1の電極3および第2の電極4の形成工程
次に、配線301を用いて、電気メッキにより第1の導体部である導体部571a上に第1の電極3を形成する。また、配線302を用いて、電気メッキにより第2の導体部である導体部571b上に第2の電極4を形成する。また、ウエハー200へ通電して、電気メッキにより電気抵抗体8を形成する。
【0077】
第1の電極3の形成に際しては、ウエハー200の縁部に、配線301に電気的に接続したメッキ用電極を設け、このメッキ用電極を通じて、配線301へ通電を行う。このとき、例えば、このメッキ用電極を陰極とし、陽極に鉄対極または炭素対極を用い、硫酸第一鉄または塩化第一鉄等の鉄メッキ液中で電気メッキを行う。
第2の電極4の形成に際しては、ウエハー200の縁部に、配線302に電気的に接続したメッキ用電極を設け、このメッキ用電極を通じて、配線302へ通電を行う。このとき、例えば、このメッキ用電極を陰極とし、Auメッキ液中で電気メッキを行う。
電気抵抗体8の形成に際しては、配線301、302を用いず、ウエハー200(接地電極563)を陰極とし、陽極に鉄対極または炭素対極を用い、硫酸第一鉄または塩化第一鉄等の鉄メッキ液中で電気メッキを行う。
【0078】
以上のように電気メッキを行うことにより、マスキングを行うことなく、第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8をそれぞれ選択的に形成することができる。なお、図示しないが、複数の電極パッド7を形成することができる。
以上のように第1の電極3、第2の電極4および電気抵抗体8を形成した後、スクライブライン領域400に沿ってウエハー200をダイシングして個片化する。その後、図示しないが、封止部24を形成し、センサー装置1を得る。
【0079】
以上、本発明のセンサー装置およびセンサー装置の製造方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、本発明のセンサー装置では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。また、例えば、本発明のセンサー装置の製造方法では、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。
【0080】
また、前述した実施形態では機能素子がCPU、通信回路、A/D変換回路および測定回路を有する場合を例に説明したが、これに限定されず、例えば、機能素子には、ROM、RAM、各種駆動回路等の他の回路が組み込まれていてもよい。
また、前述した実施形態では第1の電極と第2の電極との電位差に関する情報をアクティブタグ通信により無線送信によりセンサー装置外部へ送信する場合を例に説明したが、これに限定されず、例えば、パッシブタグ通信を用いて情報をセンサー装置の外部へ送信してもよいし、有線により情報をセンサー装置の外部へ送信してもよい。
【0081】
また、前述した実施形態では機能素子5、アンテナ61、電源62、温度センサー63および発振器64を本体2内に収納し、これらを第1の電極3および第2の電極4とともに測定対処物であるコンクリート構造物100内に埋設する場合を例に説明したが、アンテナ61、電源62、温度センサー63および発振器64を測定対象物の外部に設けてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1‥‥センサー装置 2‥‥本体 3‥‥第1の電極 4‥‥第2の電極 5‥‥機能素子 7‥‥電極パッド 8‥‥電気抵抗体 21‥‥基板 24‥‥封止部 31‥‥不動態膜 41‥‥不動態膜 50‥‥集積回路 51‥‥測定回路 52‥‥A/D変換回路 53‥‥CPU 54‥‥通信回路 55‥‥電源回路 61‥‥アンテナ 62‥‥電源 63‥‥温度センサー 64‥‥発振器 100‥‥コンクリート構造物 101‥‥コンクリート 102‥‥鉄筋 200‥‥ウエハー 241‥‥開口部 300‥‥メッキ用配線 301‥‥配線 302‥‥配線 400‥‥スクライブライン領域 511‥‥トランジスタ 512‥‥トランジスタ 513‥‥トランジスタ 561a‥‥ソース電極 561b‥‥ソース電極 561c‥‥ソース電極 562a‥‥ドレイン電極 562b‥‥ドレイン電極 562c‥‥ドレイン電極 563‥‥接地電極 564‥‥ゲート絶縁膜 565a‥‥ゲート電極 565b‥‥ゲート電極 565c‥‥ゲート電極 567‥‥絶縁膜 568a‥‥導体部 568b‥‥導体部 568c‥‥導体部 569‥‥導体部 570‥‥絶縁膜 571a‥‥導体部 571b‥‥導体部 571c‥‥導体部 572、573‥‥絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象部位の環境変化に伴って表面に不動態膜を形成するか、または、表面に存在した不動態膜を消失させる第1の金属材料で構成された第1の電極と、
前記第1の電極に対して離間して設けられ、前記第1の金属材料とは異なる第2の金属材料で構成された第2の電極と、
基板と、前記基板の一方の面側に設けられ、前記第1の電極と前記第2の電極との電位差を測定する機能を有する集積回路とを含む機能素子とを備え、
前記第1の電極および前記第2の電極は、それぞれ、前記集積回路上に設けられていることを特徴とするセンサー装置。
【請求項2】
前記機能素子は、前記第1の電極と前記第2の電極との電位差に基づいて、前記測定対象部位のpHあるいは塩化物イオン濃度が設定値以下か否かを検知する機能を有する請求項1に記載のセンサー装置。
【請求項3】
前記第1の金属材料は、鉄または鉄系合金である請求項1または2に記載のセンサー装置。
【請求項4】
前記第2の金属材料は、測定対象部位の環境変化に伴って表面に不動態膜を形成するか、または、表面に存在した不動態膜を消失させる金属であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のセンサー装置。
【請求項5】
前記第2の金属材料は、鉄または鉄系合金である請求項4に記載のセンサー装置。
【請求項6】
前記第2の金属材料は、不動態膜を形成しない請求項1ないし3のいずれかに記載のセンサー装置。
【請求項7】
第3の金属材料で構成された電気抵抗体を備え、
前記集積回路は、前記電気抵抗体の抵抗値を測定する機能をさらに有する請求項6に記載のセンサー装置。
【請求項8】
前記電気抵抗体は、前記集積回路上に設けられている請求項7に記載のセンサー装置。
【請求項9】
測定対象部位の環境変化に伴って表面に不動態膜を形成するか、または、表面に存在した不動態膜を消失させる第1の金属材料で構成された第1の電極と、
前記第1の電極に対して離間して設けられ、前記第1の金属材料とは異なる第2の金属材料で構成された第2の電極と、
基板と、前記基板の一方の面側に設けられ、前記第1の電極と前記第2の電極との電位差を測定する機能を有する集積回路とを含む機能素子とを備え、
前記第1の電極および前記第2の電極は、それぞれ、前記集積回路上に設けられているセンサー装置の製造方法であって、
ウエハーの一方の面側に、前記集積回路を形成する第1の工程と、
前記集積回路上に前記第1の電極および前記第2の電極を形成する第2の工程とを有し、
前記第1の工程では、前記集積回路の他に、前記集積回路に電気的に接続されたメッキ用配線を形成し、
前記第2の工程では、前記メッキ用配線を用いて電気メッキにより前記第1の電極および前記第2の電極のうちの少なくとも一方の電極を形成することを特徴とするセンサー装置の製造方法。
【請求項10】
前記第2の工程の後に、前記ウエハーをスクライブライン領域に沿ってダイシングする第3の工程を有し、
前記第1の工程では、前記メッキ用配線を前記スクライブライン領域内に形成する請求項9に記載のセンサー装置の製造方法。
【請求項11】
前記集積回路は、第1の導体部と、前記第1の導体部に対して離間した第2の導体部とを有し、
前記メッキ用配線は、前記第1の導体部に電気的に接続された第1の配線と、前記第2の導体部に電気的に接続された第2の配線とを有し、
前記第2の工程では、前記第1の配線を用いて電気メッキにより前記第1の導体部上に前記第1の電極を形成するとともに、前記第2の配線を用いて電気メッキにより前記第2の導体部上に前記第2の電極を形成する請求項9または10に記載のセンサー装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−108831(P2013−108831A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253724(P2011−253724)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】