説明

センサ用光ファイバの製造方法及びセンサ用光ファイバ

【課題】低コストで計測システムを構築可能としつつ、センシングが可能な範囲を広げることを実現したセンサ用光ファイバの製造方法及びセンサ用光ファイバを提供することを目的とする。
【解決手段】移動ステージ37上の位相マスク32に光ファイバ31が保持されている。位相マスク32は、その一端32c側から他端32d側に向かって格子周期が漸次長くなる回折格子34を有しており、回折格子34を介して紫外線レーザビーム40を光ファイバ31に照射可能となっている。移動ステージ37の移動速度は、紫外線レーザビーム40の照射位置が位相マスク32の一端32c側から他端32d側に向かうにつれて徐々に遅くなるように制御されており、紫外線レーザビーム40の照射中に移動ステージ37を移動させることにより、FBG10を有する光ファイバ1が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、物理量を測定するためのセンサに用いられるセンサ用光ファイバの製造方法に係り、特に、入射光に対して特定の波長の光を反射するFBGを有するセンサ用光ファイバの製造方法及びセンサ用光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば物体のひずみ量や温度等の物理量を測定するためのセンサに、FBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)を有する光ファイバが利用される。FBGとは、光ファイバのコアの屈折率を軸方向に沿って周期的に変化させることによって形成された回折格子であり、光ファイバへの入力光に対し、ブラッグ波長と呼ばれる特定の波長の光のみを反射し、残りの光を透過するという特性を有している。ひずみや温度変化等の物理量がFBGに印加されると、それに伴ってブラッグ波長も変化するため、FBGからの反射光の波長や反射強度に基づいて、所望する物理量を測定することが可能となる。
【0003】
ここで、図7を用いて、FBGを利用した物理量の測定について概略的に説明する。図7において符号L11で示される曲線はFBGの反射帯域を示しており、この反射帯域L11の中心波長λ11から左側の領域R11が、FBGによるセンシングが可能な範囲となる。また、このFBGは、波長λ12を有する入力光に対する反射光を、反射強度S11にて反射するものとなっている。このようなFBGに測定対象となる物理量が印加されると、矢印A1で示されるように、FBGの反射帯域L11が一点鎖線で示される反射帯域L12にシフトし、それに伴って反射光の反射強度S11が反射強度S12へと変化する。したがって、FBGに印加された物理量を、反射強度S11、S12の差異に基づいて相対的に求めることが可能となる。
【0004】
しかしながら、FBGのブラッグ波長は、物理量の測定時におけるセンサの周囲温度、いわゆる雰囲気温度に応じて変化するという特性を有しており、例えば、一般的なガラス製のFBGにおいて雰囲気温度が50℃変化した場合、反射帯域のシフト量は0.6nmとなる。図7の矢印A2で示されるように、反射帯域L11が雰囲気温度の変化によって二点鎖線で示される反射帯域L13にシフトした場合、反射帯域L13においてセンシング可能な領域R12には、入力光の波長λ12が含まれなくなるため、物理量の測定が不可能になるという問題が生じる。この問題を回避するためには、矢印A3で示されるように、反射帯域のシフトに応じて入力光の波長λ12も波長λ13にシフトさせることが必要であり、例えば特許文献1には、入力光の波長をシフトさせることが可能な可変波長光源を用いることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、FBGの一種として、広い反射帯域を有するCFBG(チャープド・ファイバ・ブラッグ・グレーティング)が記載されている。CFBGとは、コアに対して屈折率を変化させた部位(屈折率変化部位)同士の間隔(グレーティング周期)を徐々に変化させたものであり、それにより、各屈折率変化部位におけるブラッグ波長を変化させている。特許文献2の図3に示されるように、屈折率変化部位ごとのブラッグ波長が互いに異なる場合、CFBG全体としての反射帯域は横方向(波長方向)に広がった略台形状となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−222397号公報
【特許文献2】特開2003−322736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に記載の光ファイバセンサで用いられる可変波長光源を利用すれば、雰囲気温度に応じてFBGの反射帯域がシフトすることによって物理量の測定が不可能になるというという問題は回避することが可能である。しかしながら、可変波長光源は、例えばLED等の単波長光源と比較すると高価な機器であるため、計測システムを低コストで構築することが困難であるという問題点を有している。
【0008】
また、特許文献2に開示されているようなCFBGを採用した場合、反射光の波長に対する反射率(反射強度)は略台形状(特許文献2の図3参照)となる。したがって、CFBGの反射帯域自体は広いので単波長光源を用いることは可能であるが、測定対象となる物理量がCFBGに印加されてブラッグ波長が変化しても、反射光の反射強度は略一定となる。すなわち、特許文献2に記載の光ファイバは、図7を用いて説明したように反射強度を相対的に対比することによって物理量を測定するというセンサ用途には利用できないという問題点を有している。
【0009】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、低コストで計測システムを構築可能としつつ、センシングが可能な範囲を広げることを実現したセンサ用光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。また、この発明は、そのようなセンサ用光ファイバを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るセンサ用光ファイバの製造方法は、光ファイバのコアに、前記コアとは異なる屈折率を有する複数の格子部からなるFBGを形成したセンサ用光ファイバの製造方法であって、光ファイバは、一端側から他端側に向かって格子周期が漸次長くなる回折格子を有する位相マスクに、一端側から他端側に向かう方向が光ファイバの軸方向に沿うように保持され、FBGは、位相マスクを介して光ファイバに紫外線レーザビームを照射することによって形成され、紫外線レーザビームと、光ファイバ及び位相マスクとは、光ファイバの軸方向に沿って相対的に移動され、移動の速度は、光ファイバにおける紫外線レーザビームの照射される位置が位相マスクの一端側から他端側に向かうにつれて遅くなるまたは位相マスクの他端側から前記一端側に向かうにつれて速くなることを特徴とするものである。
【0011】
一般に、光ファイバ及び位相マスクを低速で移動させながら紫外線レーザビームを照射した場合、それによって形成されたFBGの格子部は高い反射率を有するものとなる。一方、光ファイバ及び位相マスクを高速で移動させた場合、それによって形成されたFBGの格子部は低い反射率を有するものとなる。すなわち、紫外線レーザビームと光ファイバ及び位相マスクとを、移動速度を漸次変えながら相対的に移動させてFBGを形成した場合、形成されたFBGの反射率も一端側から他端側に向かって漸次変化する。したがって、FBGが反射する反射光の反射強度を、一端側(短波長側)から他端側(長波長側)に向かって漸次大きくすることができる。また、位相マスクの回折格子における格子周期は一端側から他端側に向かって漸次長くなっているため、形成されるFBGにおける格子部同士の間隔も一端側から他端側に向かって漸次広くなる。したがって、FBGの各格子部からの反射光が互いに異なる中心波長を有するようになり、FBG全体での反射帯域が広がった状態となる。以上より、低コストで計測システムを構築可能としつつ、センシング可能な範囲を広げたセンサ用光ファイバを製造することが可能となる。
【0012】
また、この発明に係るセンサ用光ファイバは、入射光が伝播するコアと、コアの屈折率とは異なる屈折率を有する複数の格子部をコアの軸方向(長手方向)に沿って形成したFBGとを備えたセンサ用光ファイバにおいて、FBGは、複数の格子部が入射光に対してそれぞれ反射する反射光が、互いに異なる中心波長を有するように、且つ複数の格子部からの各反射光の反射強度が、短波長側から長波長側に向かって漸次大きくなるように形成されることを特徴とするものである。
【0013】
FBGの各格子部からの反射光は互いに異なる中心波長を有するため、FBG全体での反射帯域が広がった状態となり、入力光を発する光源として単波長光源を用いることが可能となる。また、各反射光の反射強度が、短波長側から長波長側に向かって漸次大きくなるように構成したため、FBG全体での反射強度は、短波長側から長波長側に向かって略一定の傾きで大きくなる。反射強度が略一定の傾きで大きくなると、FBGへの物理量の印加前後における反射強度に差異が生じるため、この差異に基づいて物理量を相対的に求めることが可能となる。したがって、センサ用光ファイバにおいて、低コストで計測システムを構築可能としつつ、センシングが可能な範囲を広げることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、低コストで計測システムを構築可能としつつ、センシングが可能な範囲を広げることを可能としたセンサ用光ファイバの製造方法が実現される。また、この発明によれば、上記のようなセンサ用光ファイバを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係るセンサ用光ファイバの構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバにおけるFBGの反射帯域を概略的に示すグラフである。
【図3】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバを用いた物理量の測定方法を説明するためのグラフである。
【図4】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバを製造するための装置の構成を示す模式図である。
【図5】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバの製造方法で用いられる位相マスクを示す模式図である。
【図6】実施の形態1に係るセンサ用光ファイバの製造方法を説明するための模式図である。
【図7】従来のFBGの反射帯域を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、この発明の実施の形態について添付図に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1に、この実施の形態1に係るセンサ用光ファイバ1を概略的に示す。センサ用光ファイバ1は、物理量を測定するためのセンサに用いられる光ファイバであって、例えばLED等の図示しない単波長光源から入力される入力光P1が伝播するコア2と、コア2の外周部を覆うクラッド3とから構成されている。また、センサ用光ファイバ1は、入力光P1に対して特定の波長(ブラッグ波長)の光を反射光P2として反射し、残りの光を透過光P3として透過させるFBG10を備えている。
【0017】
センサ用光ファイバ1のコア2はゲルマニウムをドープした石英ガラスから形成されており、クラッド3は石英ガラスから形成されている。また、FBG10は、コア2の軸方向に沿って形成された複数の格子部G1〜Gn+1から構成されている。後に製造方法を詳述するように、格子部G1〜Gn+1は、コア2に紫外線レーザビームを照射することによって、軸方向においてコア2の屈折率とは異なる屈折率N1〜Nnをそれぞれ有するように形成された部位となっている。また、各格子部G1〜Gn+1は、これらの間の間隔である長さ周期Λ1〜Λnが、入力光P1が伝播する方向における下流側から上流側に向かって徐々に大きくなるように形成されている。
【0018】
ここで、FBG10のブラッグ波長は、格子部G1〜Gn+1の屈折率N1〜Nnと、長さ周期Λ1〜Λnとによって規定されている。また、屈折率N1〜Nnは、FBG10に印加される温度変化量に応じて変化するものとなっている。したがって、外部から加えられた応力によってFBG10にひずみが生じると、それに伴って長さ周期Λ1〜Λnが変化するため、FBG10のブラッグ波長も印加されたひずみに応じて変化する。さらに、FBG10に加えられる温度が変化すると、各格子部G1〜Gn+1の屈折率N1〜Nnが変化するため、FBG10のブラッグ波長も印加された温度変化量に応じて変化する。すなわち、センサ用光ファイバ1は、FBG10に印加されるひずみや温度変化等の物理量を、ブラッグ波長の変化に基づいて測定するものである。
【0019】
以上のように構成されるFBG10において、各格子部G1〜Gn+1は、それらの長さ周期Λ1〜Λn、及び屈折率N1〜Nnに応じた波長λ1〜λnを有する光をそれぞれ反射する。すなわち、図2に示すように、FBG10が入力光P1に対して反射する反射光P2の反射帯域Lは、各格子部G1〜Gn+1からの各反射光の反射帯域L1〜Lnを含んだものとなる。FBG10は、格子部G1〜Gn+1によって反射される反射光の反射帯域L1〜Lnが、互いに異なる中心波長λ1〜λnを有するように、且つ各反射光の反射強度、すなわち各反射帯域L1〜Lnの中心波長λ1〜λnにおける反射強度S1〜Snが、短波長側から長波長側に向かって漸次大きくなるように形成されている。したがって、反射光P2の反射帯域Lが、略一定の傾きで漸次大きくなった状態となっている。
【0020】
次に、この発明の実施の形態1に係るセンサ用光ファイバ1を用いて物理量を測定する際の動作について説明する。
図1に示されるように、まず、センサ用光ファイバ1に接続された図示しない単波長光源から入力光P1が入力される。FBG10は、入力光P1に対してブラッグ波長の光を反射光P2として反射し、残りの光を透過光P3として透過する。このような状態でFBG10にひずみや温度変化等の物理量が印加されると、それに伴う各格子部G1〜Gn+1の長さ周期Λ1〜Λnの変化や屈折率N1〜Nnの変化によってブラッグ波長もシフトする。
【0021】
図3に示すように、FBG10のブラッグ波長がシフトすると、矢印A1で示すように、反射光P2の反射帯域Lは同じ波形のままL21へとシフトする。また、入力光P1の波長λ21は物理量の印加前後で変わらないため、入力光P1に対するFBG10からの反射強度は、S1からS2へと変化する。このように、物理量の印加前後における反射強度S1、S2に相対的な差異が生じるため、この差異に基づいて、FBG10に印加された物理量が算出される。
【0022】
ここで、センサ用光ファイバ1は正の熱膨張係数を有しており、雰囲気温度の上昇に伴って膨張し、逆に雰囲気温度が低下すると収縮するという特性を有している。したがって、雰囲気温度が変化してFBG10が収縮すると、それに伴って各格子部G1〜Gn+1(図1参照)の間の周期Λ1〜Λnも収縮する。また、各格子部G1〜Gn+1からの反射光の波長は、周期Λ1〜Λn、及び格子部G1〜Gn+1の屈折率N1〜Nnによって規定される。したがって、入力光P1の波長λ21に対するFBG10の反射光P2の反射帯域Lは、図3の矢印A2で示されるように、雰囲気温度の変化に応じて反射帯域L22にシフトする場合がある。
【0023】
しかしながら、FBG10は、各格子部G1〜Gn+1によって反射される反射光の反射帯域L1〜Lnが、互いに異なる中心波長λ1〜λnを有するように形成されており、センシング可能な領域が広げられた状態となっている。また、FBG10は、各反射光の反射強度、すなわち各反射帯域L1〜Lnの中心波長λ1〜λnにおける反射強度S1〜Snが、短波長側から長波長側に向かって漸次大きくなるように形成されており、反射光P2の反射帯域Lが、略一定の傾きで漸次大きくなった状態となっている。したがって、FBG10は、反射帯域Lが反射帯域L22にシフトしたとしても、そのセンシング可能領域内に入力光P1の波長λ21を含むこと、及び物理量の印加前後における反射強度の差異を相対的に対比することが可能となっている。すなわち、センサ用光ファイバ1は、可変波長光源を用いることなく、温度補償を行いつつ物理量を測定することが可能となっている。
【0024】
以上のように、センサ用光ファイバ1のFBG10において、各格子部G1〜Gn+1からの反射光が互いに異なる中心波長λ1〜λnを有するため、FBG10全体での反射帯域が広がった状態となり、入力光を発する光源として単波長光源を用いることが可能となる。また、各反射光の反射強度が、短波長側から長波長側に向かって漸次大きくなるように構成したため、FBG10全体での反射帯域は、短波長側から長波長側に向かって略一定の傾きで大きくなる。反射帯域が略一定の傾きで大きくなると、FBG10への物理量の印加前後における反射強度に差異が生じるため、この差異に基づいて物理量を相対的に求めることが可能となる。したがって、センサ用光ファイバ1において、低コストで計測システムを構築可能としつつ、センシングが可能な範囲を広げることが可能となる。
【0025】
次に、この発明の実施の形態1に係るセンサ用光ファイバ1を製造する方法について説明する。
図4に、センサ用光ファイバ1を製造するための装置の構成を模式的に示す。尚、センサ用光ファイバ1は、コア2及びクラッド3から構成される光ファイバ31にFBG10(図1参照)を形成することによって製造される。図4に示される位相マスク32は、石英等を材料とする透明基板33の中央部に、格子としての複数の溝部34aからなる回折格子34を形成したものであり、この位相マスク32の一方の面32aに当接する位置または近接する位置に光ファイバ31が保持される。一方、位相マスク32の他方の面32bには、図示しない紫外線レーザ光源から紫外線レーザビーム40が出力されるようになっており、紫外線レーザビーム40を、位相マスク32の回折格子34を介して光ファイバ31に照射可能となっている。
【0026】
ここで、図5に示されるように、回折格子34の格子周期、すなわち複数の溝部34a同士の間隔は、位相マスク32の長手方向における一端32c側から他端32d側に向かって漸次大きくなっている。また、図4に示される位相マスク32と図示しない紫外線レーザ光源との間には、紫外線レーザビーム40の通過及び遮断を開閉することによって切り換えるメカニカルシャッタ35と、メカニカルシャッタ35を通過した紫外線レーザビーム40を集光するシリンドリカルレンズ36とが設けられている。尚、本発明の製造方法で紫外線レーザ光源から出力される紫外線レーザビーム40は細く、例として、図6に示される光ファイバ31のコア2の径D2及びクラッド3の径D3がそれぞれ10μm、125μmである場合、紫外線レーザビーム40の径D1は1mm程度となる。径D1で出力された紫外線レーザビーム40はシリンドリカルレンズ36によって集光され、クラッド3を透過して光ファイバ31のコア2に照射される。
【0027】
図4に戻って、移動ステージ37は、紫外線レーザビーム40に対して光ファイバ31及び位相マスク32を一体として移動させるためのものであり、紫外線レーザビーム40の照射方向(矢印B1参照)に対して垂直となる方向(矢印B2参照)に移動可能となっている。尚、光ファイバ31は、その軸方向が位相マスク32の一端側から他端側に向かう方向に沿うように保持されている。また、光ファイバ31及び位相マスク32は、光ファイバ31の軸方向及び位相マスク32の長手方向が移動ステージ37の移動方向に一致するように固定されている。したがって、紫外線レーザビーム40の照射中に移動ステージ37を移動させると、紫外線レーザビーム40が光ファイバ31の軸方向に沿って照射される。また、移動ステージ37には制御部38が電気的に接続されており、制御部38から出力される指令信号に基づいて移動ステージ37の動作が制御される。
【0028】
制御部38は、光ファイバ31に紫外線レーザビーム40を照射してFBG10(図1参照)を形成する際、紫外線レーザビーム40が位相マスク32の一端32c側から他端32d側に向かって照射されるように移動ステージ37の移動を制御する。また、制御部38は、紫外線レーザビーム40の照射中における移動ステージ37の移動速度、すなわち光ファイバ31及び位相マスク32の移動速度を、紫外線レーザビーム40の照射位置が位相マスク32の一端32c側から他端32d側に向かうにつれて徐々に減速するように制御する。ここで、位相マスク32の回折格子34は、溝部34a同士の間隔が一端32c側から他端32d側に向かって漸次大きくなるように形成されている(図5参照)。すなわち、移動ステージ37の移動速度は、紫外線レーザビーム40の照射位置が溝部34a同士の間隔が短い部分から長い部分に向かうにつれて徐々に減速するように制御されている。尚、制御部38にはメカニカルシャッタ35も電気的に接続されており、その開閉を制御部38によって制御されている。
【0029】
以上のような装置を用いてセンサ用光ファイバ1を製造する場合、まず、移動ステージ37上に位相マスク32が固定されるとともに、位相マスク32に光ファイバ31が保持される。次いで、図示しない紫外線レーザ光源からの紫外線レーザビーム40の出力と、矢印B2で示される方向への移動ステージ37の移動とが開始される。また、紫外線レーザビーム40の照射位置が位相マスク32の回折格子34において一端32c側に位置する部位になると、メカニカルシャッタ35が開かれ、紫外線レーザビーム40が位相マスク32を介して光ファイバ31に照射されるようになる。尚、紫外線レーザビーム40は、光ファイバ31のクラッド3を透過してコア2に照射される。光ファイバ31のコア2は、ゲルマニウムがドープされた石英ガラスを材料としており、このようなコア2に紫外線レーザビーム40が照射されると、コア2におけるSi−Geの結合手が切られることによって屈折率の変化が生じ、それにより、FBG10における格子部G1〜Gn+1(図1参照)が形成される。
【0030】
ここで、移動ステージ37の移動速度は、紫外線レーザビーム40の照射位置が位相マスク32の一端32c側から他端32d側に向かうにつれて徐々に遅くなるように制御部38によって制御されている。よって、光ファイバ31のコア2に対する紫外線レーザビーム40の照射量は、光ファイバ31の軸方向に沿って一定とはなっておらず、移動ステージ37の移動速度に応じて変化している。具体的に説明すると、移動ステージ37が高速で移動している場合、すなわち、紫外線レーザビーム40の照射位置が位相マスク32の一端32c側である場合、光ファイバ31のコア2に対する紫外線レーザビーム40の照射量は少なくなる。したがって、コア2においてSi−Geの結合手が切られる量も少なくなるため、形成されたFBG10の格子部は低い反射率を有するものとなる。
【0031】
一方、移動ステージ37が低速で移動している場合、すなわち、紫外線レーザビーム40の照射位置が位相マスク32の他端32d側である場合、光ファイバ31のコア2に対する紫外線レーザビーム40の照射量は多くなる。したがって、コア2においてSi−Geの結合手が切られる量も多くなるため、形成されたFBG10の格子部は高い反射率を有するものとなる。すなわち、光ファイバ31及び位相マスク32の移動速度を徐々に減速させながら光ファイバ31にFBG10を形成した場合、形成されたFBG10の反射率も一端側から他端側に向かって漸次高くなる。したがって、FBG10が反射する反射光の反射強度を、短波長側から長波長側に向かって漸次大きくすることができる。
【0032】
さらに、位相マスク32の回折格子34における格子周期、すなわち溝部34a同士の間隔(図5(a)参照)は、一端32c側から他端32d側に向かって漸次長くなっている。そのため、本方法によって形成されたFBG10は、図1に示すように、各格子部G1〜Gn+1間の間隔である長さ周期Λ1〜Λnが一端側から他端側に向かって徐々に広がったものとなる。したがって、各格子部G1〜Gn+1からの反射光が互いに異なる中心波長を有するようになり、FBG10全体での反射帯域が広がった状態となる(図2参照)。
【0033】
以上のように、センサ用光ファイバ1を製造する方法において、一端32c側から他端32d側に向かって格子周期が漸次長くなる回折格子34を有する位相マスク32を用いるとともに、移動ステージ37の移動速度を、紫外線レーザビーム40の照射位置が位相マスク32の一端32c側から他端32d側に向かうにつれて徐々に減速されるようにしたので、形成されたFBG10から反射する反射光の反射強度が短波長側から長波長側に向かって漸次大きくなるとともに、FBG10全体での反射帯域を広がった状態となる。したがって、低コストで計測システムを構築可能としつつ、反射帯域を広げたセンサ用光ファイバを製造することが可能となる。
【0034】
尚、上記のセンサ用光ファイバの製造方法において、移動ステージ37は、紫外線レーザビーム40に対して光ファイバ31及び位相マスク32を一体として移動させるように構成されたが、移動ステージ37が光ファイバ31及び位相マスク32を移動させることに限定するものではない。紫外線レーザビーム40と光ファイバ31及び位相マスク32とが相対的に移動可能であればよく、移動ステージ37の位置を固定して紫外線レーザビーム40を移動させること、すなわち図示しない紫外線レーザ光源、メカニカルシャッタ35及びシリンドリカルレンズ36を移動させることも可能である。
【0035】
また、紫外線レーザビーム40の照射中における移動ステージ37の移動速度は、紫外線レーザビーム40の照射位置が位相マスク32の一端32c側から他端32d側に向かうにつれて徐々に減速するように制御されたが、このような制御に限定するものではなく、逆に他端32d側から一端32c側に向かって徐々に早くなるように制御することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 光ファイバ、2 コア、10 FBG、31 光ファイバ、32 位相マスク、34 (位相マスクの)回折格子、34a 溝部(位相マスクの格子)、40 紫外線レーザビーム、G1〜Gn+1 (FBGの)格子部、 L2 反射光、 S1〜Sn 反射光の反射強度、 λ1〜λn 反射光の波長。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバのコアに、前記コアとは異なる屈折率を有する複数の格子部からなるFBGを形成したセンサ用光ファイバの製造方法であって、
前記光ファイバは、一端側から他端側に向かって格子周期が漸次長くなる回折格子を有する位相マスクに、前記一端側から前記他端側に向かう方向が前記光ファイバの軸方向に沿うように保持され、
前記FBGは、前記位相マスクを介して前記光ファイバに紫外線レーザビームを照射することによって形成され、
前記紫外線レーザビームと、前記光ファイバ及び前記位相マスクとは、前記光ファイバの軸方向に沿って相対的に移動され、
前記移動の速度は、前記光ファイバにおける前記紫外線レーザビームの照射される位置が前記位相マスクの前記一端側から前記他端側に向かうにつれて遅くなるまたは前記位相マスクの前記他端側から前記一端側に向かうにつれて速くなることを特徴とするセンサ用光ファイバの製造方法。
【請求項2】
入射光が伝播するコアと、
前記コアの屈折率とは異なる屈折率を有する複数の格子部を前記コアの軸方向に沿って形成したFBGと
を備えたセンサ用光ファイバにおいて、
前記FBGは、
前記複数の格子部が前記入射光に対してそれぞれ反射する反射光が、互いに異なる中心波長を有するように、且つ
前記複数の格子部からの各反射光の反射強度が、短波長側から長波長側に向かって漸次大きくなるように
形成されることを特徴とするセンサ用光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−92371(P2013−92371A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228613(P2011−228613)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】