説明

ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物

【課題】ジフェンヒドラミン及びその塩から選ばれる抗ヒスタミン剤のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制すると共に、ソフトコンタクトレンズ装用時に涙液交換を良好にするソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を提供する。
【解決手段】(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩と、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とを含むことを特徴とするソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェンヒドラミン及びその塩から選ばれる抗ヒスタミン剤を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物、上記抗ヒスタミン剤のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制剤及び吸着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装着した場合、レンズ表面が乾燥して外界からの花粉、汚染物質が付着しやすく、かゆみ、炎症充血等のアレルギー症状を起こしやすい。よって、以前から抗炎症成分、抗ヒスタミン成分又は抗充血成分を含有するソフトコンタクトレンズ使用者用組成物が望まれていた。
【0003】
なかでも、抗ヒスタミン成分であるジフェンヒドラミンやクロルフェニラミン及びこれらの塩は、かゆみを抑制する効果に優れ、かゆみの抑制を目的とした点眼剤に広く使用されている成分である。しかしながら、これらの抗ヒスタミン成分は、ソフトコンタクトレンズとの親和性が高いために、ソフトコンタクトレンズ使用者用組成物として用いる場合、レンズ表面に吸着し、時間が経過するとレンズの内部に蓄積する可能性があり、レンズの物性や装用時の使用感、更には副作用等の悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、ソフトコンタクトレンズ使用者に適応するには、レンズへの抗ヒスタミン成分の吸着を抑制することが必要となる。
【0004】
従来、ソフトコンタクトレンズへの薬物の吸着を抑える方法として、脂溶性ビタミンの吸着を高分子化合物、非イオン性界面活性剤で抑制する方法(特許文献1:特開2001−158734号公報参照)、グリチルリチン酸二カリウムの吸着をアミノ酸等で抑制する方法(特許文献2:特開2001−002563号公報参照)、タンパク質の吸着をヒドロキシプロピルメチルセルロースで抑制する方法(特許文献3:特開2002−322048号公報参照)、清涼化剤の吸着を多価アルコール類で抑制する方法(特許文献4:特開2001−122774号公報参照)が提案されている。また、組成物のpHを5〜6に調節してマレイン酸クロルフェニラミンの容器への吸着を抑制する方法(特許文献5:特開2002−249445号公報参照)、シクロデキストリンを配合し、容器への吸着を抑制する方法(特許文献6:特開2004−359679号公報参照)が知られている。また、抗ヒスタミン成分のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制する方法としては、組成物のpHを3.5〜4.8にすることにより、抗ヒスタミン成分を含む塩基性薬物のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制する方法(特許文献7:特開2009−161455号公報、特許文献8:国際公開第2007/077783号パンフレット参照)が知られているが、中性領域におけるソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−158734号公報
【特許文献2】特開2001−002563号公報
【特許文献3】特開2002−322048号公報
【特許文献4】特開2001−122774号公報
【特許文献5】特開2002−249445号公報
【特許文献6】特開2004−359679号公報
【特許文献7】特開2009−161455号公報
【特許文献8】国際公開第2007/077783号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ジフェンヒドラミン及びその塩から選ばれる抗ヒスタミン剤のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制すると共に、ソフトコンタクトレンズ装用時に涙液交換を良好にするソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、上記抗ヒスタミン剤のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制剤及び吸着抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ジフェンヒドラミン及びその塩から選ばれる抗ヒスタミン剤を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物に、クロモグリク酸及び/又はその塩と、グリチルリチン酸及び/又はその塩と、コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とを配合することにより、上記抗ヒスタミン剤のソフトコンタクトレンズへの吸着が抑制され、しかもソフトコンタクトレンズ装用時の涙液交換が促進されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記のコンタクトレンズ用眼科組成物、ソフトコンタクトレンズへの抗ヒスタミン剤吸着抑制剤及び吸着抑制方法を提供する。
[1].(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩と、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とを含むことを特徴とするソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
[2].更に、(E)非イオン性界面活性剤を含む[1]記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
[3].ソフトコンタクトレンズが、FDAコンタクトレンズ分類グループIVのレンズである[1]又は[2]記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
[4].防腐剤を含有しないことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
[5].更に、(F)ホウ酸、ホウ酸塩、トロメタモール、エデト酸ナトリウム、メントール、カンフル、ボルネオール及びゲラニオールから選ばれる1種以上の成分を含む [1]〜[4]のいずれかに記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
[6].(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物に配合され、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とからなることを特徴とする、上記(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制剤。
[7].(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物に、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とを配合することを特徴とする、上記(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ジフェンヒドラミン及びその塩から選ばれる抗ヒスタミン剤のソフトコンタクトレンズへの吸着を抑制し、しかもソフトコンタクトレンズ装用時の涙液交換を良好にするソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を提供することができる。涙液交換が促進されることで、酸素や栄養成分の供給が促進され、ドライアイ等の症状の改善効果が期待できる。また、本発明によれば、ソフトコンタクトレンズへの抗ヒスタミン剤吸着抑制剤及び吸着抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<(A)ジフェンヒドラミン及びその塩>
(A)成分のジフェンヒドラミン及びその塩は、抗ヒスタミン作用を有する本発明の有効成分である。本発明で用いられるジフェンヒドラミン及びその塩として、より具体的には、ジフェンヒドラミン塩酸塩が好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0011】
(A)成分の配合量は、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物中0.001〜1.0w/v%(質量/容量w/v%(g/100mL)、以下同様)が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5w/v%であり、更に好ましくは0.01〜0.05w/v%の範囲である。0.001w/v%未満の場合には、抗ヒスタミン作用が不十分となる場合があり、1.0w/v%を超えると、効果の向上は望めなくなる場合がある。0.001〜1.0w/v%の範囲であれば、有効性の点から好ましい効果が得られる。
【0012】
<(B)クロモグリク酸及びその塩>
クロモグリク酸及びその塩は、抗アレルギー剤であり、(A)成分を含む眼科組成物に添加することで、(A)成分がソフトコンタクトレンズに吸着することを抑制する。クロモグリク酸及びその塩としては、クロモグリク酸それ自体の他に、クロモグリク酸ナトリウム等のクロモグリク酸塩が挙げられる。クロモグリク酸及びその塩は、通常、眼科組成物中に0.01〜10.0w/v%配合することができ、好ましくは0.1〜3.0w/v%であり、より好ましくは0.5〜2.0w/v%の範囲である。0.01〜10.0w/v%の範囲とすることで、抗アレルギー効果及び本発明の効果をより得ることができる。
【0013】
<(C)グリチルリチン酸及びその塩>
グリチルリチン酸及びその塩は、抗炎症剤であり、(A)成分を含む眼科組成物に添加することで、(A)成分がソフトコンタクトレンズに吸着することを抑制すると共に、涙液交換を促進する。グリチルリチン酸及びその塩としては、グリチルリチン酸それ自体の他に、グリチルリチン酸二カリウム等のグリチルリチン酸塩が挙げられる。グリチルリチン酸及びその塩は、通常、眼科組成物中に0.01〜5.0w/v%配合することができ、好ましくは0.01〜3.0w/v%であり、より好ましくは0.05〜1.0w/v%の範囲である。0.01〜5.0w/v%の範囲とすることで、抗炎症効果及び本発明の効果をより得ることができる。
【0014】
<(D)コンドロイチン硫酸及びその塩>
コンドロイチン硫酸及びその塩は、アミノ酸の一種であり、(B)及び(C)成分に更に(D)成分を加えることで、(A)成分がソフトコンタクトレンズに吸着することをより抑制し、しかもソフトコンタクトレンズ装用時の涙液交換を良好にする。コンドロイチン硫酸及びその塩としては、コンドロイチン硫酸それ自体の他に、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のコンドロイチン硫酸塩も含まれる。コンドロイチン硫酸及びその塩は、通常、眼科組成物中に0.01〜5.0w/v%配合することができ、好ましくは0.01〜3.0w/v%であり、より好ましくは0.05〜1.0w/v%の範囲である。0.01〜5.0w/v%の範囲であれば、本発明の効果及び点眼剤組成物の使用感の点から好ましい効果が得られる。
【0015】
<(E)非イオン性界面活性剤>
本発明においては、(B)〜(D)成分に更に(E)非イオン性界面活性剤を加えることで、(A)成分がソフトコンタクトレンズに吸着することを更に抑制する。また、ソフトコンタクトレンズ装用時の涙液交換をより良好にする。非イオン性界面活性剤としては、例えば、水溶性のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられ、具体的には、例えばポリオキシエチレン(p=40,50,60)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(p=20)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール等が挙げられる。より具体的には、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油として、日光ケミカルズ(株)製HCO−40,HCO−50,HCO−60(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエ−トとして、日光ケミカルズ(株)製TO−10MV等、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとして、BASF社製Lutrol F127、日油(株)製ユニルーブ70DP−950B等を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。これらのなかでも特に、ポリオキシエチレン(p=60)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(p=20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール等が好ましく用いられる。(E)成分の配合量は特に制限されないが、通常、組成物全体に対して0.001〜10.0w/v%が好ましく、より好ましくは0.01〜5.0w/v%であり、更に好ましくは0.05〜3.0w/v%の範囲である。0.001〜10.0w/v%の範囲であれば、本発明の効果及び点眼剤組成物の性状の点から好ましい効果が得られる。
【0016】
<その他配合成分>
本発明の眼科組成物には、前記成分の他、眼科組成物に配合できる各種成分を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。これらの成分としては、緩衝剤、粘稠剤、pH調整剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、清涼化剤、薬物、水等が挙げられる。これらは、それぞれ1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、適量を配合することができる。
【0017】
緩衝剤としては、例えば、ホウ酸又はその塩(ホウ砂等)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム等)、リン酸又はその塩(リン酸一水素ナトリウム等)、酒石酸又はその塩(酒石酸ナトリウム等)、グルコン酸又はその塩(グルコン酸ナトリウム等)、酢酸又はその塩(酢酸ナトリウム等)、各種アミノ酸等(ε−アミノカプロン酸、アスパラギン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム等)、トロメタモール等が挙げられる。なかでも、低刺激、かつ組成物の防腐効果の点から、トロメタモールが好ましい。更に、ホウ酸、ホウ砂を併用すると、特に高い防腐効果が得られる。緩衝剤の含有量は、眼科組成物中0.001〜10w/v%が好ましく、より好ましくは0.01〜5w/v%である。
【0018】
粘稠剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。粘稠化剤の配合量は、例えば、眼科組成物中0.001〜10w/v%が好ましく、より好ましくは0.001〜5w/v%、更に好ましくは0.01〜3w/v%である。
【0019】
pH調整剤としては、無機酸又は無機アルカリ剤を使用することが好ましい。例えば、無機酸としては(希)塩酸等が挙げられる。無機アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。これらのなかでも、塩酸、水酸化ナトリウムが好ましい。pH調整剤の配合量は、例えば、眼科組成物中0.00001〜10w/v%が好ましく、より好ましくは0.0001〜5w/v%、更に好ましくは0.001〜3w/v%である。
【0020】
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ポリドロニウム等の第4級アンモニウム塩、ポリヘキサメチレンビグアニド、ソルビン酸又はその塩、パラオキシ安息香酸エステル(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等)、フェニルエチルアルコール等が挙げられる。防腐剤の配合量は、例えば、眼科組成物中0.00001〜5w/v%が好ましく、より好ましくは0.0001〜3w/v%、更に好ましくは0.001〜2w/v%である。なお、上記の防腐剤(化合物)を含有せず、無菌フィルター付容器、ユニットドーズ型容器又は1回使いきり容器に充填したり、又は上記防腐剤化合物に代えて上記緩衝剤や、下記安定化剤、下記清涼化剤として挙げられている、(F)ホウ酸、ホウ酸塩(ホウ砂)、トロメタモール、エデト酸ナトリウム、メントール、カンフル、ボルネオール及びゲラニオールから選ばれる1種以上、好適には2種以上を適宜組み合わせた組成物によって、防腐効果を発揮させることもできる。特に、ホウ酸とトロメタモールとエデト酸ナトリウムとを適切に組合せた組成物(防腐組成物)とすることが好ましく、これにメントール、カンフル、ボルネオール、及びゲラニオールから選ばれる1種又は2種以上を組み合わせるとさらに好ましい。前記の防腐組成物を使用した点眼剤をマルチドーズの通常容器に充填することが、眼刺激の低減の観点から最も好ましい。
【0021】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。等張化剤の配合量は、例えば、眼科組成物中0.001〜5w/v%が好ましく、より好ましくは0.01〜3w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%である。
【0022】
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム水和物、シクロデキストリン、亜硫酸塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。安定化剤の配合量は、例えば、眼科組成物中0.001〜5w/v%が好ましく、より好ましくは0.01〜3w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%である。中でも、エデト酸ナトリウムは、防腐力の増強や薬物の安定性を高める上で好ましい。
【0023】
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール等が挙げられる。清涼化剤の含有量は、眼科組成物中、化合物の総量として、0.0001〜5w/v%が好ましく、0.001〜2w/v%がより好ましく、0.005〜1w/v%が更に好ましく、0.007〜0.8w/v%が特に好ましい。
【0024】
薬物(薬学的有効成分)としては、例えば、他の抗ヒスタミン剤(例えば、塩酸イプロヘプチン、塩酸イソチペンジル等)、ビタミン類(例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、酢酸トコフェロール、フラビンアデニンジヌクレオチド、シアノコバラミン)、充血除去剤(例えば、塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリン、エピネフリン、塩酸エフェドリン、dl−塩酸メチルエフェドリン、硝酸テトラヒドロゾリン、硝酸ナファゾリン等)、消炎・収斂剤(例えば、メチル硫酸ネオスチグミン、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、塩化ベルベリン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、塩化リゾチーム、サリチル酸メチル、トラネキサム酸、アズレンスルホン酸ナトリウム等)、アミノ酸(例えば、L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等)、サルファ剤、殺菌剤(例えば、イオウ、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等)、局所麻酔剤(例えば、リドカイン、塩酸リドカイン、塩酸プロカイン、塩酸ジブカイン等)、抗アレルギー剤(例えば、フマル酸ケトチフェン等)を適宜配合することができる。
【0025】
眼科組成物中のこれらの成分の配合量は、製剤の種類、薬物の種類などに応じて適宜選択され、各種成分の配合量は本発明の属する技術分野で公知である。例えば、眼科組成物全体に対して0.0001〜30w/v%が好ましく、より好ましくは、0.001〜10w/v%程度の範囲から選択できる。より具体的には、各成分の含有量は、例えば眼科組成物について以下の通りである。
【0026】
抗ヒスタミン剤であれば、例えば、0.0001〜10w/v%、好ましくは0.001〜5w/v%である。ビタミン類であれば、0.0001〜1w/v%、好ましくは0.0001〜0.5w/v%である。充血除去剤であれば、例えば、0.0001〜0.5w/v%、好ましくは0.0005〜0.3w/v%、更に好ましくは0.001〜0.1w/v%である。消炎・収斂剤であれば、例えば、0.0001〜10w/v%、好ましくは0.0001〜5w/v%である。アミノ酸であれば、0.0001〜10w/v%、好ましくは0.001〜3w/v%である。サルファ剤、殺菌剤であれば、例えば、0.00001〜10w/v%、好ましくは0.0001〜10w/v%である。局所麻酔剤であれば、例えば、0.001〜1w/v%、好ましくは0.01〜1w/v%である。抗アレルギー剤であれば、例えば、0.001〜5w/v%、好ましくは0.01〜3w/v%である。
【0027】
本発明の眼科組成物は液状であって、その粘度は、点眼剤の場合、1〜50mPa・sが好ましく、1〜20mPa・sがより好ましく、1〜10mPa・sが更に好ましい。なお、本発明において、粘度の値は、20℃でE型粘度計(VISCONIC ELD−R,東京計器(株))を用いて測定した値である。
【0028】
また、本発明の眼科組成物のpH(20℃)は、点眼剤として使用する点から、4.0〜9.0が好ましく、より好ましくは5.0〜8.0であり、更に好ましくは5.5〜8.0である。pHが低すぎても高すぎても刺激感が強くなりすぎる場合がある。なお、本発明において、pHは、20℃でpH浸透圧計(HOSM−1,東亜ディーケーケー(株))を用いて測定した値である。
【0029】
本発明の眼科組成物は、その調製方法については特に制限されるものではないが、例えば、精製水等の水性溶媒等に上記(A)〜(D)成分及び必要に応じて(E)成分及び他の成分を所定濃度加えてpHを調整して得ることができる。その後、適当な容器、例えばポリエチレンテレフタレート製の容器等に無菌充填することができる。
【0030】
本発明の眼科組成物の使用形態としては、具体的には、ソフトコンタクトレンズ用点眼剤、ソフトコンタクトレンズ装着液、ソフトコンタクトレンズ取り外し液等が挙げられる。また、本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物が適応できるソフトコンタクトレンズの種類については特に制限されるものではなく、1日使い捨てソフトコンタクトレンズ、1週間使い捨てソフトコンタクトレンズ、2週間使い捨てソフトコンタクトレンズのいずれにも使用できる。特に、米国食品医薬品局(FDA)基準によるソフトコンタクトレンズ分類グループI〜IV中、(A)成分が吸着しやすいグループIVのソフトコンタクトレンズ(高含水(50質量%以上)・イオン性)においても、より高い(A)成分の吸着抑制効果及び涙液交換効果を得ることができる。なお、グループIVのソフトコンタクトレンズは、メタクリル酸を含むためにマイナスの電荷を帯びており、溶液中においてプラスの電荷を帯びている(A)成分と静電相互作用により、吸着するものと考えられる。
【0031】
本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物は、(A)成分のジフェンヒドラミン及び/又はその塩のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制効果を有することから、上記抗ヒスタミン剤のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制剤として好適である。その機構は明らかではないが、(B)〜(D)成分は、いずれもマイナスの電荷を有するアニオン性の成分であり、(A)成分のプラス電荷と相互作用することにより、吸着抑制効果を発揮するものと考えられる。なお、(A)成分とグループIVのソフトコンタクトレンズの吸着において、静電相互作用の他に疎水性相互作用も関与しており、(E)成分の非イオン界面活性剤は、その疎水性相互作用を弱めるものと推察される。また、(C)〜(E)成分は、(A)成分の吸着抑制のみならず、ソフトコンタクトレンズ装用によって低下した涙液交換を高める効果を発現し、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物としてより好適である。特に(C)と(E)成分は、界面活性能を有しており、眼表面とレンズの隙間に涙液が侵入しやすくし、(D)成分については、水溶性高分子化合物として、眼表面とレンズの滑りを高めることにより涙液交換が高まるものと考えられる。
【0032】
本発明は、吸着抑制剤及び吸着抑制方法を提供する。好適な成分、配合量等は上記眼科組成物と同様である。
(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物に配合され、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とからなることを特徴とする、上記(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制剤。
(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物に、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とを配合することを特徴とする、上記(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0034】
[実施例1〜10、比較例1〜5]
表1〜3の組成(配合単位:w/v%)になるように、表中の各配合成分を常法に準じて滅菌精製水に溶解した後、各溶液を無菌ろ過して、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を調製した。得られた各組成物について、下記試験を実施した。結果を表1〜3に併記する。
【0035】
[試験1:ジフェンヒドラミン(抗ヒスタミン剤)のソフトコンタクトレンズへの吸着性評価試験]
(ソフトコンタクトレンズに対するジフェンヒドラミン(抗ヒスタミン剤)の吸着性評価試験:n=3)
各ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物5mLを20mLバイアルに分注し、バイアル1本につき1枚のソフトコンタクトレンズを浸漬した。レンズを浸漬したバイアルを37℃で7日間振とう撹拌後、溶液中のジフェンヒドラミン量を液体クロマトグラフィーで、常法に従い、標準サンプルとの比較により定量した。レンズを浸漬させずに同様の処理を行ったものをコントロールとし、コントロール溶液中のジフェンヒドラミン量に対する比率から、下記式に基づいて、ソフトコンタクトレンズに対するジフェンヒドラミンのレンズ吸着率(%)を計算した。1種のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物に対して3回測定を行い、レンズに対する平均吸着率を算出後、下記評価基準に基づいて評価した。
【0036】
(レンズ吸着率算出式)
レンズ吸着率(%)=[(コントロールのジフェンヒドラミン量−レンズ浸漬液のジフェンヒドラミン量)/コントロールのジフェンヒドラミン量]×100
(使用したソフトコンタクトレンズ)
ソフトコンタクトレンズは、FDA(米国食品医薬局)による4分類(グループI〜IV)のうちから、ジフェンヒドラミン塩酸塩が最も吸着しやすいグループIVレンズ(高含水・イオン性レンズ)を用いた。具体的には、アキュビュー(ジョンソンエンドジョンソンメディカル(株)製)を用いた。
(ソフトコンタクトレンズに対する吸着抑制効果の評価基準)
◎:レンズに対するジフェンヒドラミンの平均吸着率が5%未満
○:レンズに対するジフェンヒドラミンの平均吸着率が5%以上8%未満
△:レンズに対するジフェンヒドラミンの平均吸着率が8%以上10%未満
×:レンズに対するジフェンヒドラミンの平均吸着率が10%以上
【0037】
[試験2:点眼による涙液交換への作用評価試験]
各ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を用いて、ソフトコンタクトレンズを装用した被験者5名をパネラーとし、フルオロフォトメトリー法によるソフトコンタクトレンズ下の涙液交換率の評価を行った。
具体的には、ソフトコンタクトレンズとしてアキュビュー(ジョンソンエンドジョンソンメディカル(株)製)を用い、10質量%フルオレセインデキストラン(フルオレセインイソチオシアネートで蛍光標識したデキストラン)溶液2μLを、マイクロピペットを用いてソフトコンタクトレンズの凹面に滴下し、そのままソフトコンタクトレンズを装着させた。装着直後のソフトコンタクトレンズ装着部分(角膜中央部)の蛍光強度を測定した後、実施例1〜10及び比較例1〜5のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を50μL点眼し、蛍光強度の測定を1分毎に10分後まで測定した。蛍光強度の経時的な減少を直線回帰し、その傾きから涙液交換率(%/分)を算出した。更に、それぞれのパネラーで、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を点眼しない場合と点眼した場合の涙液交換率を比較し、非点眼時に対する点眼時の涙液交換率の増加率を算出した。パネラー5名の涙液交換率の増加率を平均し、下記評価基準に基づいて評価した。
【0038】
(涙液交換率の変化率の評価基準)
◎:非点眼時の涙液交換率に対する点眼時の涙液交換率の増加率が20%以上
○:非点眼時の涙液交換率に対する点眼時の涙液交換率の増加率が10%以上20%未満
△:非点眼時の涙液交換率に対する点眼時の涙液交換率の増加率が5%以上10%未満
×:非点眼時の涙液交換率に対する点眼時の涙液交換率の増加率が5%未満
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】


ポリソルベート80:商品名「NIKKOL TO−10MV」、日光ケミカルズ(株)製
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60:商品名「NIKKOL HCO−60」、日光ケミカルズ(株)製
ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール:商品名「ユニルーブ70DP−950B」、日油(株)製
【0042】
表1〜3に示す通り、本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を点眼することで涙液交換率は改善された。具体的にパネラー1名について示すと、裸眼時の涙液交換率は18.1%/分であったが、ソフトコンタクトレンズ装用時には、10.2%/分に低下した。そこに実施例5に示す組成物を点眼したときに、涙液交換率は13.7%/分にまで改善し、その増加率は34.3%であった。
【0043】
[実施例11,12]
さらに、表4の組成(配合単位:w/v%)になるように、表中の各配合成分を常法に準じて滅菌精製水に溶解した後、各溶液を無菌ろ過して、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を調製した。得られた各組成物について、上記試験に加えて、下記試験を実施した。結果を表中に併記する。
【0044】
[刺激感]
刺激感に敏感な専門パネラー10名が、マルチドーズ型点眼容器に充填された眼科組成物2滴(80〜100μL)点眼し、点眼後30秒間に感じる「しみる程度」を、下記の評価基準により評価した。結果を、評価の平均評点から下記刺激感評価に基づき示す。
(評価基準)
5:全くしみない
4:わずかにしみる
3:ややしみる
2:しみる
1:かなりしみる
【0045】
(刺激感評価)
◎:平均評点が4.5以上
○:平均評点が4.0以上4.5未満
△:平均評点が3.0以上4.0未満
×:平均評点が3.0未満
【0046】
[防腐力]
日局参考情報(「第十五改正 日本薬局方解説書 参考情報28.保存力試験方法」)記載の保存効力試験に基づき試験を実施し、点眼剤の判定基準を満たしている場合は「○」、満たしていない場合は「×」とした。
【0047】
【表4】

【0048】
表4に示す通り、本発明のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物は、眼刺激性がなく、点眼剤として十分な防腐力を有していた。
【0049】
[実施例13〜24]
表5,6の組成(配合単位:w/v%)になるように、表中の各配合成分を常法に準じて滅菌精製水に溶解した後、各溶液を無菌ろ過して、ソフトコンタクトレンズ用眼科組成物を調製した。
【0050】
【表5】

【0051】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩と、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とを含むことを特徴とするソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
更に、(E)非イオン性界面活性剤を含む請求項1記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
ソフトコンタクトレンズが、FDAコンタクトレンズ分類グループIVのレンズである請求項1又は2記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項4】
防腐剤を含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項5】
更に、(F)ホウ酸、ホウ酸塩、トロメタモール、エデト酸ナトリウム、メントール、カンフル、ボルネオール及びゲラニオールから選ばれる1種以上の成分を含む請求項1〜4のいずれか1項記載のソフトコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項6】
(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物に配合され、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とからなることを特徴とする、上記(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制剤。
【請求項7】
(A)ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有するソフトコンタクトレンズ用眼科組成物に、(B)クロモグリク酸及び/又はその塩と、(C)グリチルリチン酸及び/又はその塩と、(D)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩とを配合することを特徴とする、上記(A)成分のソフトコンタクトレンズへの吸着抑制方法。

【公開番号】特開2011−207874(P2011−207874A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52353(P2011−52353)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】