説明

タクロリムス含有カプセル剤

【課題】バイオアベイラビリティが改善され、更に血中濃度のばらつきが軽減されたタクロリムスを含有する経口固形製剤の提供。
【解決手段】(1)タクロリムス、(2)プロピレングリコール、(3)プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び(4)ポリオキシエチレンヒマシ油からなるカプセル充てん用組成物を、常法によりカプセルに充てんする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオアベイラビリティが改善され、更に経口投与時の吸収が安定化されたタクロリムス含有カプセル剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タクロリムスは、放線菌Streptomyces tsukubaensisの代謝産物として発見された免疫抑制効果を有する活性物質である。シクロスポリンとは異なるマクロライド化合物で、強力な免疫抑制作用を有する。リンパ球混合反応などのin vitro実験モデルでは、シクロスポリンの1/100の低濃度で同等の抑制作用を示し、またラット、イヌなどの臓器移植モデルにおいてもシクロスポリンの1/10〜1/30の低用量で拒絶反応を抑制し、移植臓器の生着延長が観察された。1993年には、肝移植における拒絶反応の抑制の効能でプログラフ(登録商標)として医薬品製造販売承認され、さらに他の臓器移植時の拒絶反応抑制、全身型重症筋無力症治療薬及び関節リウマチ治療薬等、効能・効果は拡大している。タクロリムスは、シクロスポリンと比較し、免疫抑制活性は強いが骨髄細胞に対する増殖抑制効果は同等以下であり、高い生着率及び生存率が得られることから、極めて有用な治療薬として使用が拡大している。
【0003】
タクロリムスは、免疫抑制という極めて困難な用量調整が必要な治療薬である。期待される薬効発現が得られる最低血中濃度を維持することが理想となるが、患者のQOLを向上させるには、経口投与が望ましい。本製剤は、経口投与時の吸収は一定しておらず、患者により個人差があるので、血中濃度が高い場合の副作用並びに血中濃度が低い場合の拒絶反応及び移植片対宿主病の発現を防ぐため、状況に応じて血中濃度を測定し、トラフレベルの血中濃度を参考にして投与量を調節することが必要になっている。さらに、経口投与時は、肝初回通過効果の影響等を受け、バイオアベイラビリティは20%台に留まっていることが判明している。
【0004】
タクロリムスを含有する経口製剤の中には、ハードカプセル、顆粒、徐放性を付与したハードカプセルが市販されている。顆粒剤は、小児等血中薬物濃度の治療域が狭い場合に、調節可能な形態として利用されている。なお、徐放性を付与したハードカプセルは、1日1回投与形態であり、患者のQOL向上に貢献しているが、経口投与時の吸収はばらつきが見られ、必ずしも最良の製剤効果が得られていない状況であった。
【0005】
タクロリムスを含有した経口製剤に関する先行技術として特許文献1〜3がある。特許文献1は、タクロリムスが水に不溶性なために経口投与時にバイオアベイラビリティが低いという欠点を回避するために、タクロリムスと水溶性重合体で分散させて固溶体組成物を製することを開示している。しかし、本技術でのバイオアベイラビリティは、必ずしも満足できるレベルに至っていない。特許文献2は、タクロリムスを含む経口に限らない溶液製剤に関する。タクロリムスは水に対する溶解性が非常に低いが、本報では種々の添加剤及びそれら組成割合を特定することにより溶液形態の実施物を製することを開示している。しかし、単に溶液状にすることを目的としており、バイオアベイラビリティや血中濃度のばらつきを抑制することには言及されていない。特許文献3は、マクロライド系化合物の徐放性製剤に関するものであるが、これもバイオアベイラビリティや血中濃度のばらつき軽減とは異なる目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−277321号公報
【特許文献2】特開平4−211012号公報
【特許文献3】特願平11−545641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に鑑み、本発明の課題は、バイオアベイラビリティが改善され、更に血中濃度のばらつきが軽減されたタクロリムスを含有する経口固形製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により前記課題は、(1)タクロリムス、(2)プロピレングリコール、(3)プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び(4)ポリオキシエチレンヒマシ油からなるカプセル充てん用組成物の提供によって解決される。
タクロリムスは、その水和物を使用することも出来る。
タクロリムスは、プロピレングリコールに良く溶ける。しかしながら、プロピレングリコールは、カプセル剤皮を溶解又は膨潤するため、配合できる量には制限がある。本発明においては、種々の検討から、カプセル充てん用組成物に対して30%まで添加することが可能であった。さらに本発明の目的であるバイオアベイラビリティの改善、更に血中濃度のばらつき軽減を考慮した場合、水に難溶性であるタクロリムスが消化管内で容易に可溶化することが望ましい。
本発明において鋭意検討した結果、溶解剤であるプロピレングリコールと共に、プロピレングリコール脂肪酸エステルとポリオキシエチレンヒマシ油を配合することによって、タクロリムスの可溶化が可能となった。
プロピレングリコール脂肪酸エステルは、脂肪酸低級アルキルエステルによるプロピレングリコールの直接エステル化により、または触媒の存在下天然油脂とプロピレングリコールとのエステル交換によって合成されるHLB3.4程度の親油性界面活性剤である。市販品として、SEFSOL−218、SEFSOL−228及びPDD(日本サーファクタント工業)、ディフォーマーPS(日本活性剤)、ホモテックスPS−200V(花王)、ミグリオールS40(ミツバ貿易)などがある。
ポリオキシエチレンヒマシ油は、ポリオキシル35ヒマシ油とも称され、ヒマシ油にエチレンオキシドを付加重合させて得られる非イオン界面活性剤であり、エチレンオキシドの平均付加モル数は約35である。市販品として、クレモホールEL(BASFジャパン)などがある。
具体的には、タクロリムス1重量部に対し、プロピレングリコールは、1〜30重量部、プロピレングリコール脂肪酸エステルは、30〜300重量部、ポリオキシエチレンヒマシ油は、4〜130重量部の組合せによる。また、比重調整剤、崩壊剤及び安定化剤は特に定めないが、合計100重量部まで配合することが可能である。
本組成物は多量の水に放出された際に、緩やかな撹拌によって混和することで、その効果を観察することができる。混和とは、目視において成分の分離を認めない状態であり、濁りを伴うエマルジョンからマイクロエマルジョン、ナノエマルジョンまでを包含する。ここでの多量の水とは通常タクロリムスの1回服用量を経口投与した際に、使用可能となる900mL程度が想定される。
また、本発明において、医薬組成物をカプセル剤とすることで更に、利便性、安定性を向上させることができる。
カプセルの種類は、軟カプセル剤であっても硬カプセル剤であってもよい。軟カプセル剤は、ロータリーダイ法又は多重ノズル滴下法によって製造することができ、又硬カプセル剤は液体充填の常法により、本発明の組成物をゼラチン等の硬カプセルに封入することにより、製造することができる。
とりわけ、多重ノズル滴下法による軟カプセル剤は、直径1〜5mmの微粒状とすることで更に付加価値を高めることができる。タクロリムスは、個々の患者毎に有効な治療濃度域が得られるように投与量を調整する必要がある。通例、初回投与時に血中濃度をモニタリングすることが望まれており、好適な濃度域を維持できる投与量は、患者ごとに微調整されることが望ましい。微粒状のカプセルとすることで、患者ごとの微調整が容易になり、また、服用し易さ、分割投与、調剤上の分包行為の作業軽減も可能となる。
比重調整剤としては、医薬的に許容される動植物油、合成油、鉱物油及びショ糖酢酸イソ酪酸エステル等が配合可能である。また、これらを組み合わせることもできる。
崩壊剤としては、医薬的に許容される成分が配合可能である。例えば、ポビドン、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルスターチ、部分アルファー化デンプン、メチルセルロース等が適用可能である。また、これらを組み合わせることもできる。
安定化剤としては、医薬的に許容される成分が配合可能である。例えば、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、β‐カロテン等が適用可能である。また、これらを組み合わせることもできる。
本発明のカプセル剤の剤皮に、機能性を付与することも効果的である。軟カプセル剤ロータリーダイ法で製造する軟カプセル剤の場合、常法に従って製造した軟カプセルにコーティング層を付与する方法や、カプセル剤皮にキトサンやヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の高分子を予め添加する方法が可能である。また、軟カプセル多重ノズル滴下法で製造するシームレスカプセルの場合も同様に、製造後にコーティング層を付与する方法や、予めカプセル剤皮にアルギン酸やキトサン等の多糖類を添加する方法も可能である。硬カプセル剤の場合は、カプセル種類を選択することで容易に変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例に記載の本発明のカプセル剤と、対照例並びに市販のタクロリムス製剤の溶出試験の結果を比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施例〕
以下に実施例としてカプセル充てん用組成物の例を挙げる。各成分を混合して液状とし、常法に従ってカプセル充てんし、軟カプセル剤を製造した。なお、実施例において、プロピレングリコール脂肪酸エステルとして日本サーファクタント工業(株)製SEFSOL−218を使用し、ポリオキシエチレンヒマシ油として、BASFジャパン(株)製クレモホールELを使用した。
【0011】
【表1】

【0012】
【表2】

【0013】
【表3】

【0014】
【表4】

【0015】
【表5】

【0016】
【表6】

【0017】
【表7】

【0018】
〔試験例〕
実施例及び対照例に従って製造した軟カプセル剤、並びにタクロリムス含有の市販製剤について、日本薬局方 溶出試験を実施した。具体的には、検体1個をとり、試験液に水900mLを用い、パドル法により、毎分50回転で試験を行った。規定時間で溶出液10mLをとり、高速液体クロマログラフィーにより、製剤中に含まれるタクロリムスの含有量に対する溶出率を算出した。その結果、実施例は比較例並びに市販製剤(タクロリムス硬カプセル剤)と比較し極めて良好な溶出性が得られた。結果を図1に示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)タクロリムス、(2)プロピレングリコール、(3)プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び(4)ポリオキシエチレンヒマシ油を含み、タクロリムス1重量部に対し、プロピレングリコール1〜100重量部、プロピレングリコール脂肪酸エステル5〜300重量部、ポリオキシエチレンヒマシ油3〜200重量部からなるカプセル充てん用組成物。
【請求項2】
前記タクロリムスが、タクロリムス水和物である請求項1記載のカプセル充てん用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物に、更に比重調整剤、崩壊剤及び/又は安定化剤を含むことを特徴とするカプセル剤。
【請求項4】
前記カプセル充てん用組成物が、多量の水中に放出された際、緩やかな撹拌によって混和することを特徴とする請求項1〜3に記載のカプセル充てん用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4に記載のカプセル充てん用組成物を充てんしてなるカプセル剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1487(P2012−1487A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138082(P2010−138082)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000222200)東洋カプセル株式会社 (14)
【Fターム(参考)】