説明

タンカーの油槽構造

【課題】二重船殻構造のタンカーの油槽内に局所的に生じる腐食を抑制することが可能な、油槽構造を提供する。
【解決手段】船底外板と内底板11とで構成された二重船殻構造を有する油タンカーにおける、ドレンホール42が形成された防撓材40を船体の長さ方向に沿って縦通隔壁30に接合して形成された油槽は、ドレンホール42を介して内底板11に向かって流下する原油が、内底板11の上面に直接衝突することを防止する分散部材43を有し、当該分散部材43は、ドレンホール42の下方に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れるタンカーの油槽構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原油などを輸送するタンカーでは、タンカーの船底外板又は船側外板が破損した際に、タンカーに積載する原油が船外に流出することを防止するために、二重船殻構造が義務付けられている。
【0003】
この二重船殻構造のタンカーにおいては、船底外板と内底板との間及び船側外板と内側壁との間に構成されるバラストタンク内に海水が積載され、内底板及び内側壁により構成される油槽内に原油が積載されるため、内底板及び内側壁を構成する鋼板は、海水及び原油による腐食環境下に曝される。
【0004】
このため、内底板及び内側壁には数mm/年程度の比較的腐食速度の速い局部腐食が発生することが知られており、この腐食への対策として、防食塗装が施される。更に、再塗装等のメンテナンスの頻度を少なくするために、内底板及び内側壁を耐食性の高い特殊鋼板により形成することが行われている(例えば、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−214236号公報
【特許文献2】特開2004−204344号公報
【特許文献3】特開2005−23421号公報
【特許文献4】特開2007−270196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、防食塗装が施された塗装鋼板や、耐食性の高い特殊鋼板(耐食鋼板)によって構成されたタンカーの油槽における局部腐食の発生状況について鋭意調査を行った。その結果、局部腐食は内底板の油槽側の面であって油槽内を複数の区画に分割する縦通隔壁の近傍に集中して発生していることを知見した。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、タンカーの油槽内に局所的に生じる腐食を抑制することが可能な、油槽構造の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、内底板の油槽側の面であって油槽内を複数の区画に分割する縦通隔壁の近傍に集中して発生している局部腐食について更に調査を行った。その結果、局部腐食の発生箇所は、縦通隔壁の補強材として設けられた防撓材に形成されたドレンホールの真下となる位置とほぼ一致し、ドレンホールの真下となる位置以外の箇所では局部腐食がほとんど発生していないことを知見した。
【0009】
そして、本発明者らは、ドレンホールから流下する原油が内底板に直接衝突することが油槽内に発生する局部腐食の原因であることを突き止めた。更に、本発明者らは、油槽内に衝突防止構造を設け、タンカーの油槽における腐食、即ち、ドレンホールからの原油の流下に起因して発生する局部腐食を抑制することに成功した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0010】
前記の目的を達成するための本発明は、船底外板と内底板とで構成された二重船殻構造を有する油タンカーにおける、ドレンホールが形成された複数の防撓材を船体の長さ方向に沿って縦通隔壁に接合して形成された油槽の構造であって、
前記油槽は、当該防撓材のドレンホールを介して流下する油が前記内底板の上面に直接衝突することを防止する衝突防止構造を有していることを特徴としている。
【0011】
前記衝突防止構造は、前記防撓材のドレンホールの下方に前記とレンホールから流下する油を分散させる分散部材を設けた構造であってもよい。
【0012】
前記衝突防止構造は、前記防撓材のドレンホールを塞ぐ閉止部材を設けた構造であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タンカーの油槽内に局所的に生じる腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態にかかる油槽を有するタンカーの概略構成を示す縦断面図である。
【図2】縦通隔壁に設けられた防撓材及び分散部材近傍の構成の概略を示す説明図である。
【図3】防撓材近傍の構成の概略を示す横断面図である。
【図4】他の実施の形態にかかる分散部材近傍の構成の概略を示す説明図である。
【図5】他の実施の形態にかかる防撓材近傍の構成の概略を示す説明図である。
【図6】他の実施の形態にかかる防撓材近傍の構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる油槽を有するタンカーの概略構成を示す縦断面図である。
【0016】
図1に示すようにタンカー1の船底は船底外板10と内底板11で構成され、船側は船側外板12と内側壁13で構成された二重船殻構造を有している。船側外板12と内側壁13の上端には、上甲板14が設けられ、船側外板12、内側壁13及び上甲板14に囲まれた空間によりバラストタンク20が形成されている。また、内側壁13及び上甲板14で囲まれた空間は油槽21を形成している。
【0017】
油槽21には、タンカーの長さ方向に沿って、例えば二つの縦通隔壁30が設けられ、油槽21はこの縦通隔壁30によりセンタータンク31とウイングタンク32とに分割されている。
【0018】
内底板11及び内側壁13のバラストタンク20側の表面には、内底板11及び内側壁13の剛性を高めるための補強材として、平板状の防撓材40がタンカーの長さ方向に沿って上下方向に所定の間隔で複数枚接合されている。また、縦通隔壁30の、例えばセンタータンク31側の表面にも、内側壁13と同様に防撓材40が複数設けられている。
【0019】
図2は縦通隔壁30に設けられた防撓材40近傍の構成の概略を示す説明図である。図2に示すように、縦通隔壁30には、縦通隔壁30の鉛直方向に沿って隔壁横桁41が複数設けられている。防撓材40には、レンホール42が同一の鉛直線上に設けられ、平面視において上下に配置された各防撓材40のドレンホール42の位置が一致するように設けられている。このドレンホール42により、例えば油槽21への原油の積み降ろしの際に、防撓材40と縦通隔壁30との接合部に原油のスラッジが、堆積することを防止すように構成されている。
【0020】
上下方向に設けられた防撓材40と防撓材40の間であって、ドレンホール42の真下となる位置には、平板状の分散部材43が設けられている。分散部材43は縦通隔壁30に溶接接合されている。分散部材43は、図3に示すように、ドレンホール42の径よりも大きい径で形成され、平面視においてドレンホール42の外周部が全て分散部材43の内側に位置するように配置されている。
【0021】
そして、この分散部材43により、例えば油槽21への原油の積み降ろしの際にドレンホール42から原油が流下した場合、当該ドレンホール42から流下した原油は分散部材43に一旦衝突して分散部材43上面で分散し、分散した原油は分散部材43から流下し、その後内底板11に到達する。したがって、当該分散部材43により、ドレンホール42から流下した原油が内底板11に直接衝突することを防止する衝突防止構造が油槽21において形成される。
【0022】
なお、分散部材43が油槽21への原油の積み降ろしの際に油槽21内の原油の流れに外乱を与えないように、分散部材43は、その端部の位置が、平面視において防撓材40の端部よりも縦通隔壁30側に位置するように形成することが好ましい。また、上述のタンカー1を構成する部材は、いずれも塗装鋼板や耐食鋼板などの船舶用鋼板が用いられる。
【0023】
以上の実施の形態によれば、防撓材40に形成されたドレンホール42の下方に分散部材43を設けたので、ドレンホール42から流下する原油が内底板11の上面に直接衝突することを防止することができる。したがって、ドレンホール42からの原油の流下に起因して発生する内底板11の局部腐食を抑制することができる。
【0024】
ここで、ドレンホール42の真下にあたる位置以外では局部腐食がほとんど認められないという発明者らの調査結果を勘案すると、防撓材40におけるセンタータンク31の中心方向側の端部から流下する原油の流れFによっては、局部腐食は生じないといえる。したがって、以上の実施の形態においては、各防撓材40毎に分散部材43を設けたが、分散部材43は最下段に位置する、即ち内底板11と対向する防撓材40aのドレンホール42の下方にのみ設けるようにしてもよい。かかる場合も、当該分散部材43により防撓材40aのドレンホール42から流下する原油が内底板11の上面に直接衝突することを防止できる。
【0025】
また、分散部材43を用いてドレンホール42から流下する原油が内底板11の上面に直接衝突することを防止にあたっては、例えば図3に破線で示すように内底板11の上面であって、ドレンホール42の真下となる位置に分散部材43aを犠牲材として直接接合することも考えられる。ただし、現状は船級規則により内底板11の減肉量が規定値以内に収まっているかを定期的に確認することが義務付けられており、犠牲材としての分散部材43aが板厚測定の際に障害となることがある。そのため現状の船級規則の下では実施を制限されるものの、分散部材43aを犠牲材として直接接合する態様は、本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0026】
以上の実施の形態では、平板状の分散部材43を用いて衝突防止構造が形成されていたが、分散部材43の形状は、平板状に限られるものではなく、例えば図4に示すように角錐状の分散部材50を用いてもよい。
【0027】
更に、ドレンホール42から流下する原油が内底板11の上面に直接衝突することを防止する衝突防止構造に代えて、内底板11の上面に到達する原油の流下速度を一定の速度以下に抑える構造を形成することによっても、同様の効果が奏されると考えられる。したがって、ドレンホール42を通過する原油の流速を低減するため、例えば図5に示すように、ドレンホール42に代えてスリット状のドレンホール60を設けてもよい。かかる場合においても、ドレンホール60を通過する際に、スリットの抵抗により原油の流下速度が低下するため、分散部材43を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0028】
なお、以上の実施の形態においては、ドレンホール42の配置が同一の鉛直線状に並ぶように配置されていたが、このような配置とするのは、一般に、同一形状の防撓材40を複数作成し、その防撓材40を縦通隔壁30に上下方向にわたって溶接接合することが建造コストの抑制につながるためである。したがって、ドレンホール42は必ずしも同一の鉛直線状に配置される必要はなく、例えば図6に示すように、最下段に配置された防撓材40におけるドレンホール42の位置を、平面視においてその上方に位置する防撓材40のドレンホール42と互いに重ならないように交互に配置してもよい。
【0029】
かかる場合、最下段に位置する防撓材40aのドレンホール42に流れ込む原油は、防撓材40の上方のドレンホール42から流下したのち、一旦防撓材40aの上面に衝突して流速が低下しているため、スリット状のドレンホール60を用いた場合と同様に、防撓材40aのドレンホール42からの流下速度を低下させることができる。したがって、図6に示すように防撓材40,40aを配置することで、分散部材43を設けずともドレンホール42から流下する原油が内底板11に直接衝突することを防止した場合と同様の効果を得ることができる。
【0030】
また、図6に示すように防撓材40,40aを配置すると分散部材43が不要となるので、溶接作業及びそれに伴う高所での作業も不要となり、分散部材43を設ける場合と比較して、建造現場での作業コスト及び安全性が向上する。なお、この場合、防撓材40aの高さ方向の配置を、内底板11側に寄せることで、更に防撓材40aのドレンホール42からの原油の流下速度を低減させることができるので、内底板11の局部腐食を抑制する効果を更に高めることができる。
【0031】
なお、図6に示すようにドレンホール42を交互に配置した場合、防撓材40の上面には、その上方に設けられたドレンホール42から流下する原油が衝突する。この場合、構造用部材である防撓材40に局部腐食が発生する可能性があり、腐食が生じた場合は防撓材40を交換する必要があるので、例えば防撓材40の上面であって、ドレンホール42の真下となる位置に犠牲材61を設けて防撓材40の腐食を予防してもよい。
【0032】
以上の実施の形態においては、分散部材43を上下に対向して配置された防撓材40の間に配置したが、例えば分散部材43に代えて、防撓材40の上面または下面であってドレンホール42に対応する位置に、当該ドレンホール42を塞ぐ閉止部材を設けてもよい。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、タンカーの油槽における腐食を抑制する際に有用である。
【符号の説明】
【0035】
1 タンカー
10 船底外板
11 内底板
12 船側外板
13 内側壁
14 上甲板
20 バラストタンク
21 油槽
30 縦通隔壁
31 センタータンク
32 ウイングタンク
40 防撓材
41 隔壁横桁
42 ドレンホール
43 分散部材
50 分散部材
60 ドレンホール
61 犠牲材
F 流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底外板と内底板とで構成された二重船殻構造を有する油タンカーにおける、ドレンホールが形成された防撓材を、船体の長さ方向に沿って縦通隔壁に接合して形成された油槽の構造であって、
前記油槽は、前記防撓材のドレンホールを介して流下する油が前記内底板の上面に直接衝突することを防止する衝突防止構造を有していることを特徴とする、タンカーの油槽構造。
【請求項2】
前記衝突防止構造は、前記防撓材のドレンホールの下方に当該ドレンホールから流下する油を分散させる分散部材を設けた構造であるとこを特徴とする、請求項1に記載のタンカーの油槽構造。
【請求項3】
前記防撓材は上下方向に所定の間隔で複数設けられ、
前記衝突防止構造は、上下方向に隣り合って配置された防撓材の前記ドレンホールが、平面視において互いに重ならない位置に配置された構造であること特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載のタンカーの油槽構造。
【請求項4】
前記衝突防止構造は、前記防撓材のドレンホールを塞ぐ閉止部材を設けた構造であることを特徴とする、請求項1に記載のタンカーの油槽構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−18320(P2013−18320A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151422(P2011−151422)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)