説明

タンパク質分離・精製用吸着剤

【課題】免疫グロブリンなどの有用なタンパク質分離・精製用吸着剤の提供。
【解決手段】一般式(1)で表される基をカルボニル基を介して不溶性担体に固定化して得られるタンパク質分離・精製用吸着剤。


(式中、Arは、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルスルホニル基、水酸基、シアノ基、フェニル基、炭素数1から5のアシル基およびニトロ基などから選択される基で置換されていてもよいフェニル基またはピリジル基を表し、Xは、単結合、カルボニル基、スルホニル基、または炭素数1もしくは2のアルキレン基を表す。nは1または2を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペラジン誘導体を不溶性担体に固定化して得られる、各種タンパク質、特に免疫グロブリンの分離・精製に有用な吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療用タンパク質の需要は拡大しつつあり、該タンパク質の精製を工業的に簡便かつ大規模に実施できる技術の確立が切望されている。一般にタンパク質精製技術には、ゲル透過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィー分離技術がある。しかしながら現状、これらの技術で医療用タンパク質の精製を工業的に実施する場合、経済性に乏しく、実用的とは言い難い。また、医療用タンパク質を工業的に製造する過程では多種類のタンパク質が混在しているため、これらの技術単独で目的とするタンパク質を純粋に得ることは困難である。そのため通常はいくつかの技術を複合させた精製プロセスが採用されている(特許文献1)。
【0003】
近年、医療用タンパク質の一つである免疫グロブリンを精製するためのクロマトグラフィー用吸着剤として、有機化合物を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤が注目されている。例えば、スルホン誘導体(特許文献2)、トリアジン誘導体(特許文献3)、メルカプト複素環式化合物(特許文献4)、4−(アルキルチオエチル)ピリジン誘導体(非特許文献1)を不溶性担体に固定化して得られるタンパク質分離・精製用吸着剤が開示されている。一方、ピペラジン誘導体を不溶性担体に固定化して得られる本発明の吸着剤についての報告例はこれまでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2004/087761号
【特許文献2】米国特許4696980号公報
【特許文献3】米国特許6117996号公報
【特許文献4】特許第3844496号公報
【特許文献5】WO96/09116号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bioseparation,9(4),211−221,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、タンパク質、特に免疫グロブリンの分離・精製に有用な、ピペラジン誘導体を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明の下記一般式(1)で表されるピペラジン誘導体を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤が、タンパク質、特に免疫グロブリンの簡便な分離・精製に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、一般式(1)
一般式(1)
【0009】
【化1】

(式中、Arは、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルチオ基、炭素数1から4のアルキルスルホニル基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基、シアノ基、トリ(炭素数1から3のアルキル)シリル基、フェニル基、炭素数1から5のアシル基、(炭素数1から4のアルコキシ)カルボニル基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいフェニル基;または炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいピリジル基を表し、Xは、単結合、カルボニル基、スルホニル基、または炭素数1もしくは2のアルキレン基を表す。nは1または2を表す。)で表される、ピペラジニル基または1,4−ジアゼパニル基を、カルボニル基を介して不溶性担体に固定化して得られる、タンパク質分離・精製用吸着剤に関するものである。
【0010】
その具体例として、不溶性担体とカルボニル基導入剤と反応させ、次いで一般式(1a)
【0011】
【化2】

(式中、Arは、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルチオ基、炭素数1から4のアルキルスルホニル基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基、シアノ基、トリ(炭素数1から3のアルキル)シリル基、フェニル基、炭素数1から5のアシル基、(炭素数1から4のアルコキシ)カルボニル基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいフェニル基;または炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいピリジル基を表し、Xは、単結合、カルボニル基、スルホニル基、または炭素数1もしくは2のアルキレン基を表す。nは1または2を表す。)で表される、ピペラジンまたは1,4−ジアゼパン誘導体を反応させて得られる、タンパク質分離・精製用吸着剤がある。
【0012】
また本発明は、本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤を用いた、タンパク質の分離・精製法に関する。
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
はじめに本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)およびピペラジンまたは1,4−ジアゼパン誘導体(1a)における、Arについて説明する。
【0015】
Arで表される、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルチオ基、炭素数1から4のアルキルスルホニル基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基、シアノ基、トリ(炭素数1から3のアルキル)シリル基、フェニル基、炭素数1から5のアシル基、(炭素数1から4のアルコキシ)カルボニル基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいフェニル基としては、フェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、3−ヨードフェニル基、4−ヨードフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、5−クロロ−2−メトキシフェニル基、5−ブロモ−2−メトキシフェニル基、5−ヨード−2−メトキシフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3−プロピルフェニル基、4−プロピルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、3−シクロプロピルフェニル基、4−シクロプロピルフェニル基、3−ブチルフェニル基、4−ブチルフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、3−プロピルオキシフェニル基、4−プロピルオキシフェニル基、3−イソプロピルオキシフェニル基、4−イソプロピルオキシフェニル基、3−シクロプロピルオキシフェニル基、4−シクロプロピルオキシフェニル基、3−ブトキシフェニル基、4−ブトキシフェニル基、2−トリフルオロメトキシフェニル基、3−トリフルオロメトキシフェニル基、4−トリフルオロメトキシフェニル基、2−メチルチオフェニル基、4−メチルチオフェニル基、2−メチルスルホニルフェニル基、4−メチルスルホニルフェニル基、4−アミノフェニル基、4−アミノ−2−クロロフェニル基、4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェニル基、4−アミノ−3−トリフルオロメチルフェニル基、2−アミノ−4−トリフルオロメチルフェニル基、4−メチルアミノフェニル基、4−エチルアミノフェニル基、4−ジメチルアミノフェニル基、4−ジエチルアミノフェニル基、4−エチルメチルアミノフェニル基、4−トリメチルシリルフェニル基、4−ニトロフェニル基、2−ニトロ−4−トリフルオロメチルフェニル基、4−ニトロ−2−トリフルオロメチルフェニル基、4−ニトロ−3−トリフルオロメチルフェニル基、2−クロロ−4−ニトロフェニル基、2−シアノフェニル基、4−シアノフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル基、4−アセチルフェニル基、4−メトキシカルボニルフェニル基、ビフェニル−4−イル基が例示できる。
【0016】
Arで表される、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいピリジル基としては、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、5−トリフルオロメチルピリジン−2−イル基、3−シアノピリジン−2−イル基、5−シアノピリジン−2−イル基、3−メチルピリジン−2−イル基、4−メチルピリジン−2−イル基、5−メチルピリジン−2−イル基、6−メチルピリジン−2−イル基、4−エチルピリジン−2−イル基、4−プロピルピリジン−2−イル基、4−ブチルピリジン−2−イル基、4−メトキシピリジン−2−イル基、4−ヒドロキシピリジン−2−イル基、4−ニトロピリジン−2−イル基、4−アミノピリジン−2−イル基、5−アミノ−4−メチルピリジン−2−イル基、5−アミノピリジン−2−イル基、3−トリフルオロメチルピリジン−2−イル基が例示できる。
【0017】
Ar、Xおよびnの組み合わせは、タンパク質の分離・精製性能が良い点で、Arがアミノ基で置換されていてもよいフェニル基またはアミノ基もしくはメチル基で置換されていてもよいピリジル基であり、Xが単結合であり、nが1であると好ましく、Arが4−アミノフェニル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、4−メチルピリジン−2−イル基、5−メチルピリジン−2−イル基のいずれかであり、Xが単結合であり、nが1であるとさらに好ましい。
【0018】
本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)の製造原料であるピペラジンおよび1,4−ジアゼパン誘導体(1a)は、市販品として入手可能な化合物や、既知の方法で合成できる化合物を用いることができる。また、必要に応じて、例えばこれらのアンモニウム塩等を用いてもよい。なおピペラジンおよび1,4−ジアゼパン誘導体(1a)として、1−(4−アミノフェニル)ピペラジン、1−(ピリジン−2−イル)ピペラジン、1−(ピリジン−3−イル)ピペラジン、1−(ピリジン−4−イル)ピペラジン、1−(4−メチルピリジン−2−イル)ピペラジン、1−(5−アミノピリジン−2−イル)ピペラジン、1−(ピリジン−2−イル)ジアゼパンのいずれかを用いると、該誘導体により得られる、本発明の分離・精製用吸着剤(1)のタンパク質の分離・精製性能が向上する点で好ましい。ピペラジンおよび1,4−ジアゼパン誘導体(1a)の不溶性担体(gel)に対する固定化量は、タンパク質の分離・精製性能がよい点で、100μmol/mL(gel)以上が好ましい。
【0019】
本発明のタンパク質の分離・精製用吸着剤(1)の製造原料である不溶性担体に特に限定はなく、アガロース、アルギネート、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプンなどの多糖類、ポリビニルアルコール、水酸基を導入したポリメタクレート、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタンなどの合成高分子が例示できる。中でもタンパク質の分離・精製性能がよい点で、トヨパール(商品名、東ソー製)等の水酸基を導入したポリメタクリレート、Sepharose 6 Fast Flow(商品名、GEヘルスケア製)等のアガロース、セルファインGCL−2000(商品名、チッソ製)等のセルロースが、不溶性担体として好ましい。不溶性担体の形状、表面構造、細孔構造、重合度については、特に限定はないが、オープンカラムに充填して使用する態様では、微粒子状とすると、タンパク質の分離・精製の性能が向上する点で好ましい。圧力損失を抑えながらタンパク質吸着量を上げる目的で、粒子径は1から1000μmの範囲にあることが好ましい。また、ピペラジンおよび1,4−ジアゼパン誘導体(1a)の固定化量を多くすることができる点で、400μmol/mL(gel)以上の水酸基を含有することが好ましい。
【0020】
本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)の製造方法に特に限定はなく、例えばWO96/09116号に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、不溶性担体上の水酸基をカルボニル基導入剤で処理し、次いでピペラジンまたは1,4−ジアゼパン誘導体(1a)と反応させることにより製造することができる。用いることのできるカルボニル基導入剤としては、1,1’−カルボニルジイミダゾール、クロロギ酸エチル、クロロギ酸−p−ニトロフェニルエステル、炭酸ビス(トリクロロメチル)、トリクロロメチルクロロホルメート、ホスゲンダイマーが例示できる。この中で、1,1’−カルボニルジイミダゾールが固定化量が多い点で好ましい。
【0021】
次に、本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)を用いたタンパク質の分離・精製法について説明する。
【0022】
本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)を用いて、分離・精製することができるタンパク質としては、血漿タンパク質成分(例えば血漿中の免疫グロブリン)、血清アルブミン、血液凝固因子、ラクトアルブミンやラクトフェリン等の乳タンパク質成分や、天然には微量しか存在しないペプチドホルモン、インターフェロン、インターロイキン、成長因子、成長抑制因子、ワクチン等を例示できる。また、人工的に設計された遺伝子組換えタンパク質も含まれる。中でも、免疫グロブリンが本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)の特徴を活かせる点で好ましい。なお、ここでいう免疫グロブリンは、その類縁体、フラグメントまたは融合体を含んでもよい。ここでいう類縁体とは、免疫グロブリンの構造や機能が少なくとも部分的に保持された、天然もしくは人工的に作られたタンパク質またはタンパク質コンジュゲートを指し、ここでいうフラグメントとは、酵素的な処理または遺伝子工学的な設計によって作製された、免疫グロブリンの部分構造を有したタンパク質を指し、ここでいう融合体とは各種サイトカインやサイトカイン受容体等の生物活性を有したタンパク質の機能部分を、免疫グロブリンの全部または一部と遺伝子工学的に融合させて作製したものを指す。
【0023】
本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)をオープンカラムに充填し、緩衝液、金属塩溶液、アミノ酸溶液、アルコール溶液等の溶離液を通液することで、タンパク質の分離・精製を行なうことができる。本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)を充填したカラムの溶離液として用いる緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、Tris、PIPES、ACES、Cholamine、BES、MOPS、TES、HEPESが例示できる。溶離液として用いる金属塩溶液に含まれる金属塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムが例示できる。溶離液として用いるアミノ酸溶液に含まれるアミノ酸としては、グリシン、アルギニン、ベータアラニン、ガンマアミノ酪酸が例示できる。溶離液として用いるアルコール溶液に含まれるアルコールとしてはエタノール、イソプロピルアルコール、グリセロール、エチレングリコールが例示できる。なお、前述した溶液を混合した溶液も混合溶媒として用いることもできる。pHは3から11の範囲内であれば、目的とするタンパク質を分離・精製できる。本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)を用いて、免疫グロブリン、またはその類縁体、フラグメントもしくは融合体を分離・精製する場合、例えば、pH3から8に調整した塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液を通液するクロマトグラフィーを実施すればよい。
【0024】
本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸の水溶液、塩酸グアニジン水溶液、尿素水溶液等のタンパク変性剤水溶液、アルギニンやヒスチジン等のアミノ酸を含んだ水溶液、ドデシル硫酸ナトリウム、Tween(商品名)等の界面活性剤水溶液、メタノール、エタノール、イソプロパノール、グリセロール、エチレングリコール等のアルコール、またはこれら溶液を混合した溶液を用いて洗浄することによって、初期状態に復帰させることができ、繰り返し使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤(1)は、有用なタンパク質、特に免疫グロブリンの分離・精製に有用である。そのため、医療用タンパク質、特に免疫グロブリンの工業的な精製において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】固定化ゲル36を用いたタンパク質の分離・精製結果を示すクロマトグラム。(A)は素通り画分を、(B)は回収画分1を、(C)はHCP(チャイニーズハムスター卵巣細胞を培養した培養液から細胞を取り除いた液)を、それぞれ液体クロマトグラフィーで分析して得られたクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1 ポリメタクリレートゲルのイミダゾリルカルボニル化
(1)不溶性担体として、ポリメタクリレートゲルであるTOYOPEARL HW−65F(商品名、東ソー製)を用いた。まず、該ゲルを遠沈管に充填し、100×gで遠心分離することで、沈降ゲル(10mL)を得た。
(2)吸引濾過により溶媒を除去し、沈降ゲルを1,4−ジオキサン(50mL×5)で洗浄した。
(3)洗浄後のゲルに1,4−ジオキサン(10mL)と1,1’−カルボニルジイミダゾール(1.0g,6.17mmol)を加え、40℃で1時間、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(4)100×gでゲルを遠心分離し、反応液を吸引濾過した。
(5)得られたゲルを1,4−ジオキサン(20mL×4)で洗浄することで、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲルを得た。
【0029】
実施例2 フェニルピペラジンのポリメタクリレートゲルへの固定化
(1)実施例1に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲル(2mL)に、フェニルピペラジンの1,4−ジオキサン溶液(1.23mol/L,1.9mL)を加え、45℃で一晩、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(2)反応終了後、得られたゲルを1,4−ジオキサン(4mL×5)で洗浄した。
(3)さらに水(10mL×10)で洗浄後、0.1mol/L塩酸(10mL)を加え25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(4)反応液を濾過し、水(10mL×10)で洗浄した。
(5)0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(6)反応液を濾過後、さらに水(10mL×10)で洗浄することで、フェニルピペラジン固定化トヨパールゲル(固定化ゲル18)を得た。
【0030】
反応終了後のゲルを洗浄した、1,4−ジオキサン洗浄液中の未反応のフェニルピペラジンの量を、液体クロマトグラフィーで分析し、固定化ゲル18に固定化されたフェニルピペラジンの量を算出したところ、固定化量は340μmol/mL(gel)であった。
【0031】
実施例3 フェニルピペラジン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル18)のタンパク質結合量測定
(1)実施例2に記載の方法で製造した固定化ゲル18を、オープンカラム(バイオスピンエンプティーカラム、商品名、BioRad製)に充填し、100×gで1分間遠心分離し、沈降ゲル(0.5mL)を得た。
(2)ヒト免疫グロブリン溶液(150mg/mL,化血研製)3mLを、150mMの塩化ナトリウムを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)(緩衝液A)10.5mLで希釈することでタンパク質溶液(1.5mL,免疫グロブリン50mgを含む)を調製し、これを固定化ゲル18を充填したカラムに添加した。
(3)マイクロチューブローテーター(アズワン製MTR103)を用いて25℃で一晩回転した後、40×gで2分間遠心濾過した。
(4)カラムに緩衝液A(1.5mL)を加え、40×gで2分間遠心濾過する洗浄操作を、計4回繰り返した。
(5)洗浄後のカラムに100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)1.5mLを加え、40×gで2分間遠心濾過するタンパク質回収操作を、計4回繰り返した。
【0032】
それぞれのタンパク質回収液の280nmにおける吸光度をU−2900スペクトロフォトメーター(日立製作所製)で測定し、それぞれの回収液に含まれる免疫グロブリンの総量から結合量を算出した。その結果、タンパク質の結合量は5mg/mL(gel)であった。
【0033】
実施例4 1−(4−ニトロフェニル)ピペラジンのポリメタクリレートゲルへの固定化
(1)実施例1に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲル(2mL)に、1−(4−ニトロフェニル)ピペラジンのDMSO溶液(1.23mol/L,1.9mL)を加え、45℃で一晩、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(2)反応終了後、得られたゲルをDMSO(4mL×5)で洗浄した。
(3)さらに水(10mL×10)で洗浄した後、0.1mol/L塩酸(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(4)反応液を濾過後、水(10mL×10)で洗浄した。
(5)0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(6)反応液を濾過後、さらに水(10mL×10)で洗浄することで、1−(4−ニトロフェニル)ピペラジン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル11)を得た。
【0034】
洗浄したDMSO(濾液)中に含まれる未反応の1−(4−ニトロフェニル)ピペラジンの量を液体クロマトグラフィーで分析し、固定化ゲル11に固定化された1−(4−ニトロフェニル)ピペラジンの量を算出した。その結果、固定化量は150μmol/mL(gel)であった。
【0035】
実施例5 1−(4−ニトロフェニル)ピペラジン固定化ポリメタクリレート(固定化ゲル11)のタンパク質結合量測定
実施例3に記載の方法と同様で、固定化ゲル11のタンパク質結合量を測定した。結果、タンパク質の結合量は10mg/mL(gel)であった。
【0036】
実施例6 1−(4−フルオロフェニル)ピペラジンのポリメタクリレートゲルへの固定化
(1)実施例1に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲル(2mL)に、1−(4−フルオロフェニル)ピペラジン二塩酸塩の(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(1.23mol/L,1.9mL)を加え、45℃で一晩、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(2)反応終了後、得られたゲルを(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(4mL×5)で洗浄した。
(3)さらに水(10mL×10)で洗浄後、0.1mol/L塩酸(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(4)反応液を濾過後、水(10mL×10)で洗浄した。
(5)0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(6)反応液を濾過後、さらに水(10mL×10)で洗浄することで、1−(4−フルオロフェニル)ピペラジン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル3)を得た。
【0037】
洗浄した(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(濾液)中に含まれる未反応の1−(4−フルオロフェニル)ピペラジンの量を液体クロマトグラフィーで分析し、固定化ゲル3に固定化された1−(4−フルオロフェニル)ピペラジンの量を算出した結果、固定化量は350μmol/mL(gel)であった。
【0038】
実施例7 1−(4−フルオロフェニル)ピペラジン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル3)のタンパク質結合量測定
実施例3に記載の方法と同様な方法で、固定化ゲル3のタンパク質結合量を分析した。結果、タンパク質の結合量は6mg/mL(gel)であった。
【0039】
実施例8 1−(4−ピリジル)ピペラジンのポリメタクリレートゲルへの固定化
(1)実施例1に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲル(2mL)に、1−(4−ピリジル)ピペラジン二塩酸塩の(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(1.23mol/L,1.9mL)を加え、45℃で一晩、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(2)反応終了後、(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(4mL×5)で洗浄し、さらに水(10mL×10)で洗浄した後、0.1mol/L塩酸(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(3)反応液を濾過後、水(10mL×10)で洗浄した。
(4)0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(5)反応液を濾過後、さらに水(10mL×10)で洗浄することで、1−(4−ピリジル)ピペラジン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル39)を得た。
【0040】
洗浄した(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(濾液)中に含まれる1−(4−ピリジル)ピペラジンの量を液体クロマトグラフィーで分析し、固定化ゲル39に固定化された1−(4−ピリジル)ピペラジンの量を算出した。その結果、固定化量は400μmol/mL(gel)であった。
【0041】
実施例9 1−(4−ピリジル)ピペラジン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル39)のタンパク質結合量測定
実施例3に記載の方法と同様な方法で、固定化ゲル39のタンパク質結合量を測定した。結果、タンパク質の結合量は24mg/mL(gel)であった。
【0042】
実施例10 1−(4−アミノフェニル)ピペラジンのポリメタクリレートゲルへの固定化
(1)実施例1に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したポリメタクリレートゲル(2mL)に、1−(4−アミノフェニル)ピペラジンの(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(1.23mol/L,1.9mL)を加え、45℃で一晩、150rpmでレシプロ振とうし、反応させた。
(2)反応終了後、得られたゲルを(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(4mL×5)で洗浄し、さらに水(10mL×10)で洗浄後、0.1mol/L塩酸(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(3)反応液を濾過後、水(10mL×10)で洗浄した。
(4)0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で15分間、150rpmでロータリー振とうした。
(5)反応液を濾過後、さらに水(10mL×10)で洗浄することによって、1−(4−アミノフェニル)ピペラジン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル36)を得た。
【0043】
洗浄した(1,4−ジオキサン:水=1:1)溶液(濾液)中の1−(4−アミノフェニル)ピペラジンの量を液体クロマトグラフィーで分析し、固定化された1−(4−アミノフェニル)ピペラジンの量を算出した。その結果、固定化量は420μmol/mL(gel)であった。
【0044】
実施例11 1−(4−アミノフェニル)ピペラジン固定化ポリメタクリレートゲル(固定化ゲル36)のタンパク質結合量測定
実施例3に記載の方法と同様な方法で、固定化ゲル36のタンパク質結合量を測定した。結果、タンパク質の結合量は28mg/mL(gel)であった。
【0045】
実施例12 アガロースゲルのイミダゾリルカルボニル化
不溶性担体としてアガロースゲルであるSepharose 6 Fast Flow(商品名、GEヘルスケア製)を用い、この水酸基を実施例1に記載の方法と同様な方法でイミダゾリルカルボニル化した。
【0046】
実施例13 1−(2−ピリジル)ピペラジンのアガロースゲルへの固定化
実施例12に記載の方法で製造した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したアガロースゲル(2mL)への1−(2−ピリジル)ピペラジンの固定化を、実施例8の記載と同様な方法で行ない、1−(2−ピリジル)ピペラジン固定化アガロースゲル(固定化ゲル71)を得た。実施例8に記載の方法と同様に分析した結果、1−(2−ピリジル)ピペラジンの固定化量は170μmol/mL(gel)であった。
【0047】
実施例14 1−(2−ピリジル)ピペラジン固定化アガロースゲル(固定化ゲル71)のタンパク質結合量測定
実施例3に記載の方法と同様な方法で、固定化ゲル71のタンパク質結合量を測定した。結果、タンパク質の結合量は50mg/mL(gel)であった。
【0048】
実施例15 セルロースゲルのイミダゾリルカルボニル化
不溶性担体としてセルロースゲルであるセルファインGCL−2000(商品名、JNC製)を用い、この水酸基を実施例1に記載の方法と同様な方法でイミダゾリルカルボニル化した。
【0049】
実施例16 1−(2−ピリジル)ピペラジンのセルロースゲルへの固定化
実施例15に記載の方法で調製した、水酸基をイミダゾリルカルボニル化したセルロースゲル(2mL)への1−(2−ピリジル)ピペラジンの固定化を、実施例8の記載と同様な方法で行ない、1−(2−ピリジル)ピペラジン固定化セルロースゲル(固定化ゲル72)を得た。実施例8に記載の方法と同様にして分析した結果、1−(2−ピリジル)ピペラジンの固定化量は170μmol/mL(gel)であった。
【0050】
実施例17 1−(2−ピリジル)ピペラジン固定化セルロースゲル(固定化ゲル72)のタンパク質結合量測定
実施例3に記載の方法と同様な方法で、固定化ゲル72のタンパク質結合量を測定した結果、タンパク質の結合量は32mg/mL(gel)であった。
【0051】
実施例18 1−(4−アミノフェニル)ピペラジン固定化トヨパールゲル(固定化ゲル36)を用いたタンパク質の分離・精製
(1)実施例10に記載の方法で調製した固定化ゲル36を、オープンカラム(バイオスピンエンプティーカラム、商品名、BioRad製)に充填し、100×gで1分間遠心分離し、沈降ゲル(0.5mL)を得た。
(2)ヒト免疫グロブリン溶液(150mg/mL ヒト血漿由来免疫グロブリンG製剤、化血研製)133μLを、150mMの塩化ナトリウムを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)(緩衝液A)5.27mLで希釈し、さらに、10倍濃縮のHCP溶液(HCPとはチャイニーズハムスター卵巣細胞を培養した後に、この培養液から細胞を取り除いたものである)600μLを加え、試料溶液を調製した。
(3)(2)の試料溶液1.5mL(免疫グロブリン5mgを含む)を、(1)で調製した沈降ゲルに添加し、マイクロチューブローテーター(アズワン製MTR103)を用いてインキュベーター中で、25℃で一晩回転した後、40×gで2分間遠心濾過することにより素通り画分を得た。
(4)カラムに緩衝液A(1.5mL)を加え、40×gで2分間遠心濾過する洗浄操作を計4回繰り返し、洗浄画分1から4を得た。
(5)洗浄後のカラムに100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)1.5mLを加え、40×gで2分間遠心濾過するタンパク質回収する操作を計4回繰り返し、回収画分1から4を得た。
(6)得られた素通り画分、洗浄画分および回収画分の280nmにおける吸光度をU−2900スペクトロフォトメーター(日立製作所製)で測定し、各画分に含まれるタンパク質の量を分析した。
【0052】
結果、素通り画分と回収画分1以外の画分のみタンパク質を含んでいた。そこで、タンパク質を含む画分である、素通り画分および回収画分1について、それぞれの画分10μLを高速液体クロマトグラフィー(カラム:東ソー製 TSK−G3000SWXL(商品名)(内径7.8mm×長さ30cm)、溶離液:0.1M NaSOを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)、流速:0.5mL/min、温度:25℃、検出:UV 280nm)にて分析した。結果を図1に示す。図1(A)は素通り画分の分析結果(クロマトグラム)であり、図1(B)は回収画分1の分析結果(クロマトグラム)であり、図1(C)はHCPの分析結果(クロマトグラム)である。図1(A)ではHCP(図1(C))に由来するピークのみ確認され、免疫グロブリンに由来するピークが確認されなかったことから、素通り画分には免疫グロブリンがほとんど含まれていないことがわかる。一方、図1(B)では免疫グロブリンに由来するピーク1(保持時間16.4分)が確認され、HCP(図1(C))に由来するピークが確認されなかったことから、回収画分1に含まれるタンパク質の主成分は免疫グロブリンであり、HCPをほとんど含んでいないことがわかる。なお、図1(B)のピーク2(保持時間23.2分)は溶出に用いた100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)の成分に由来したピークである。
【0053】
図1より、本発明のタンパク質分離・精製用吸着剤の一態様である、固定化ゲル36が、免疫グロブリンを特異的に分離・精製できることがわかる。
【0054】
参考例1
【0055】
【化3】

ステンレス製オートクレーブに、1−(4−ニトロフェニル)ピペラジン(2.3g,11.1mmol)、エタノール(20mL)および10%パラジウムカーボン(70mg)を加え、4気圧の水素ガスを封入し80℃で6時間反応させた。反応終了後、触媒をろ過によって除去し、溶媒を減圧留去することによって、黒色固体の4−アミノフェニルピペラジン(1.8g,91.5%)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,ppm):δ 2.98−3.04(m,8H),3.37−3.42(brs,2H),6.64−6.68(m,2H),6.79−6.83(m,2H)。NHのプロトンは帰属できなかった。
【0056】
参考例2
【0057】
【化4】

1−(tert−ブトキシカルボニル)ピペラジン(2.00g,10.7mmol)のアセトニトリル(30mL)溶液に、2−クロロ−4−ニトロピリジン(1.70g,10.7mmol)および炭酸カリウム(1.48g,10.7mmol)を加え、100℃で6時間反応させた。反応終了後、反応混合物に水(90mL)を加え酢酸エチル(60mL)で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、乾燥剤を濾別し溶媒を減圧留去した。得られた混合物を自動設定中圧カラムクロマトグラフィーシステム(山善製)で精製することで、黄色固体の1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−(4−ニトロピリジン−2−イル)ピペラジン(548mg,16.6%)と淡黄色固体の1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−(4−ヒドロキシピリジン−2−イル)ピペラジン(153mg,5.1%)を得た。
1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−(4−ニトロピリジン−2−イル)ピペラジン;H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,ppm):δ 1.49(s,9H),3.56−3.58(m,4H),3.64−3.67(m,4H),7.27(dd,J=1.6Hz and 5.4Hz,1H),7.31(d,J=1.6Hz,1H),8.38(d,J=5.4Hz,1H)。
1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−(4−ヒドロキシピリジン−2−イル)ピペラジン;H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,ppm):δ1.48(s,9H),3.34(t,J=5.5Hz,4H),3.57(t,J=5.5Hz,4H),6.57(dd,J=2.5Hz and 6.0Hz,1H),6.65(d,J=2.5Hz,1H),8.04(d,J=6.0Hz,1H)。水酸基のプロトンは帰属できなかった。
【0058】
参考例3
【0059】
【化5】

1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−(4−ニトロピリジン−2−イル)ピペラジン(200mg,0.65mmol)のクロロホルム(10mL)溶液に、トリフルオロ酢酸(0.23mL,3.24mmol)を加え、室温で一晩反応させた。反応終了後、反応混合物に飽和重曹水(40mL)を加え酢酸エチル(50mL)で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、乾燥剤を濾別し溶媒を減圧留去し、橙色固体の1−(4−ニトロピリジン−2−イル)ピペラジン(52mg,38.6%)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,ppm):δ 3.08(t,J=5.0Hz,4H),3.72(t,J=5.0Hz,4H),4.49(brs,1H),7.28(dd,J=1.8Hz and 5.5Hz,1H),7.33(d,J=1.8Hz,1H),8.38(d,J=5.5Hz,1H)。
【0060】
参考例4
【0061】
【化6】

1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−(4−ヒドロキシピリジン−2−イル)ピペラジン(313mg,1.12mmol)のエタノール(10mL)溶液に36%塩酸(1mL,11mmol)を加え、1時間加熱還流した。反応終了後、溶媒を減圧留去後、トルエン(20mL)を加え共沸し、水分を除去した。得られた固体をエーテルで洗浄することによって、黒色固体の1−(4−ヒドロキシピリジン−2−イル)ピペラジン塩酸塩(270mg,96.0%)を得た。
H−NMR(400MHz,DMSO−d,TMS,ppm):δ 3.81(t,J=5.0Hz,4H),3.88−3.97(m,4H),7.00(dd,J=2.4 and 6.6Hz,1H), 7.20(d,J=2,4Hz,1H),8.13(d,J=6.6Hz,1H),9.72(brs,2H)。水酸基のプロトンは帰属できなかった。
【0062】
参考例5
【0063】
【化7】

ステンレス製オートクレーブにトルエン(10mL)、1−(tert−ブトキシカルボニル)−4−(4−ニトロピリジン−2−イル)ピペラジン(200mg,0.65mmol)、モレキュラーシーブス4A(2g)、10%パラジウムカーボン(50mg)を順次加え、4気圧の水素ガスを封入し110℃で6時間反応させた。反応終了後、触媒をろ過によって除去し、溶媒を減圧留去することによって、褐色固体の4−(4−アミノピリジン−2−イル)−1−(tert−ブトキシカルボニル)ピペラジン(478mg,81.4%)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,ppm):δ 1.48(s,9H),3.44−3.46(m,4H),3.51−3.53(m,4H),3.99(brs,2H),5.86(d,J=1.8Hz,1H),6.02(dd,J=1.8Hz and 5.6Hz,1H),7.88(d,J=5.6Hz,1H)。
【0064】
参考例6
【0065】
【化8】

4−(4−アミノピリジン−2−イル)−1−(tert−ブトキシカルボニル)ピペラジン(470mg,1.69mmol)のクロロホルム(10mL)溶液にトリフルオロ酢酸(0.63mL,8.45mmol)を加え、1時間加熱還流させた。反応終了後、反応混合物に飽和重曹水(50mL)を加え酢酸エチル(40mL×3)で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、乾燥剤を濾別し溶媒を減圧留去し、赤色液体の1−(4−アミノピリジン−2−イル)ピペラジン(80mg,26.6%)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,ppm):δ 3.05(t,J=4.7Hz,4H),3.53(t,J=4.7Hz,4H),4.28(brs,2H),5.88−5.89(m,1H),6.04−6.08(m,1H),7.85−7.87(m,1H)。NHのプロトンは帰属できなかった。
【0066】
実施例および参考例に記載の方法に基づき製造可能な、ピペラジンおよび1,4−ジアゼパン誘導体と、該誘導体を固定化した不溶性担体(固定化ゲル)、ならびに該固定化ゲルのピペラジンおよび1,4−ジアゼパン誘導体固定化量と、該固定化ゲルによるタンパク質(ヒト免疫グロブリン)結合量をまとめた表を表1から6に示す。
【0067】
【化9】

【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Arは、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルチオ基、炭素数1から4のアルキルスルホニル基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基、シアノ基、トリ(炭素数1から3のアルキル)シリル基、フェニル基、炭素数1から5のアシル基、(炭素数1から4のアルコキシ)カルボニル基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいフェニル基;または炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいピリジル基を表し、Xは、単結合、カルボニル基、スルホニル基、または炭素数1もしくは2のアルキレン基を表す。nは1または2を表す。)で表される、ピペラジニル基または1,4−ジアゼパニル基を、カルボニル基を介して不溶性担体に固定化して得られる、タンパク質分離・精製用吸着剤。
【請求項2】
不溶性担体とカルボニル基導入剤と反応させ、次いで一般式(1a)
【化2】

(式中、Arは、ハロゲン原子、炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のハロアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルチオ基、炭素数1から4のアルキルスルホニル基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基、シアノ基、トリ(炭素数1から3のアルキル)シリル基、フェニル基、炭素数1から5のアシル基、(炭素数1から4のアルコキシ)カルボニル基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいフェニル基;または炭素数1から4のアルキル基、炭素数1から4のハロアルキル基、炭素数1から4のアルコキシ基、炭素数1から4のアルキルアミノ基、ジ(炭素数1から4のアルキル)アミノ基、アミノ基、水酸基およびニトロ基からなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよいピリジル基を表し、Xは、単結合、カルボニル基、スルホニル基、または炭素数1もしくは2のアルキレン基を表す。nは1または2を表す。)で表される、ピペラジンまたは1,4−ジアゼパン誘導体を反応させて得られる、請求項1に記載のタンパク質分離・精製用吸着剤。
【請求項3】
カルボニル基導入剤が1,1’−カルボニルジイミダゾールである請求項2に記載のタンパク質分離・精製用吸着剤。
【請求項4】
Arがアミノ基で置換されていてもよいフェニル基またはアミノ基もしくはメチル基で置換されていてもよいピリジル基であり、Xが単結合であり、nが1である、請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質分離・精製用吸着剤。
【請求項5】
Arが4−アミノフェニル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、4−メチルピリジン−2−イル基または5−アミノピリジン−2−イル基である、請求項4記載のタンパク質分離・精製用吸着剤。
【請求項6】
不溶性担体がアガロース、セルロースまたは水酸基を導入したポリメタクリレートである、請求項1から5のいずれかに記載のタンパク質分離・精製用吸着剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のタンパク質分離・精製用吸着剤を用いた、タンパク質の分離・精製法。
【請求項8】
タンパク質が、免疫グロブリン、またはその類縁体、フラグメントもしくは融合体である請求項7に記載の分離・精製法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−72716(P2013−72716A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211274(P2011−211274)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】