説明

タンパク質性物質の粒子の製造方法

タンパク質粒子は、8mg/ml以上の濃度で液体媒体中に分散されたタンパク質分子がゼロ長架橋剤の存在下で反応することを引き起こすか又は可能にして、互いに共有結合されている状態のタンパク質分子を含むタンパク質粒子を製造することにより製造される。タンパク質粒子は、ミクロン以下の範囲のサイズで、厳密に確定されたサイズとサイズ分布で製造される。粒子は多くの分野で用途を有するが、特に体内への治療薬又は他の物質(例えば造影剤)の送達のために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質性物質の粒子の製造方法と、確定されたサイズ範囲を有するタンパク質性物質の粒子とに関する。本発明はまた、例えば体内への物質の送達のためのタンパク質性物質の粒子の使用に関する。かかる物質は、治療薬又は医学的イメージング法で使用されるイメージング造影剤でもよい。例えば粒子は、医学的イメージング(例えば骨髄及びリンパスキャニング)で使用されるラジオアイソトープで標識される。タンパク質性物質自体が治療効果を有してもよく、この場合、本発明の粒子の形成は体内DNAタンパク質性物質の送達の向上又は滞留時間の延長を引き起こす。
【背景技術】
【0002】
リンパ系の機能を研究するためのコロイド物質の使用はよく知られている。放射活性ナノコロイドは、骨髄スキャニング、炎症イメージング、リンパ液ドレナージの研究(一部の癌の転移拡散の研究における「歩哨リンパ節」の同定を含む)のための核医学で使用される。現在市販品の数が限定されており、テクネチウム−99m(99mTc)コロイドアルブミン製剤[例えば、商品名NANOCOLL(ここで95%の粒子は直径が≦80nmである)、及びALBURES(ここで平均粒子サイズは500nmであると記載されている)で販売されているもの]、及び99mTcで標識された種々の硫黄コロイドがある。
【0003】
現在の製剤間の粒子サイズと粒子サイズ分布の差は、インビボで発現される差(例えば、摂取、生体分布、及びクリアランス)にとって重要であると考えられている。例えば粒子サイズは、粒子がリンパ節により飲み込まれる効率に影響を与える。すなわち、ミクロン以下のサイズ範囲を有する粒子(ナノ粒子)が、厳密に確定されたサイズとサイズ分布で製造されることが好ましい。
【0004】
従って本発明の目的は、厳密に確定されたサイズとサイズ分布を有するナノ粒子の製造のための改良された方法を提供することである。かかる粒子は、例えば核イメージング用途で使用される放射性薬剤に結合される時、特に体内への治療薬又は他の物質の送達に、又は体内でのタンパク質性物質の滞留時間を延長させるために、有用である。
【0005】
タンパク質粒子が、いわゆるゼロ長架橋剤(zero-length crosslinker)を使用して一緒に結合されることが公知である。そのような化学反応は、例えばUS−A−2005/0036946号に開示されており、これは固体様ゲルを生成するための化学修飾されたアルブミンの架橋を記載する。WO−A−00/67774号は、タンパク質の特定されていない混合物の架橋を記載する。架橋前にタンパク質は、酸性化、非水性溶媒の添加、及び高温への加熱により、不溶性にされ変性される。生成物は低速遠心分離により回収することができ、やや大きな粒子サイズで注入を可能にする(これは生成物が不溶性であることを示す)にはホモジナイズが必要である。同様にWO−A−97/36614号は、4mg/ml濃度でのプロテインAの架橋を開示する。同様に、Winkelhake et al., Physiol Chem & Phys 10 (1978), 305-322は、5mg/ml濃度でのウシ血清アルブミンの架橋を記載する。アルブミンの架橋はまたWO−A−01/45761号(生成物は封止剤として使用される)に記載されており、これは、生成物が肉眼で見える固体構造の形を有する必要があることを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、先行技術で開示されたものより高いタンパク質濃度のゼロ長架橋剤の使用はタンパク質ナノ粒子の形成を与えること、及び反応条件の適切な制御により、得られる粒子の平均粒子サイズとサイズ分布が厳密に制御できることを、初めて見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様において、タンパク質粒子の製造方法であって、8mg/ml以上の濃度で液体媒体中に分散されたタンパク質分子がゼロ長架橋剤の存在下で反応することを引き起こすか又は可能にして、互いに共有結合されている状態のタンパク質分子を含むタンパク質粒子を製造することを含んでなる方法が提供される。
【0008】
「粒子」とは、互いに共有結合した複数のタンパク質分子を含む結合体又は凝集体を意味する。粒子は適当な媒体中に分散される時、識別可能な不連続相として存在するか、又は媒体中のその存在は肉眼では見えず、この場合粒子は可溶性粒子と見なされる。従って粒子という用語は、固体様粒子と、古典的な溶液に似た形で存在する粒子との両方を包含する。
【0009】
「ゼロ長架橋剤」とは、これらの基の間にいかなる化学成分も「スペーサー」も挿入されない、タンパク質分子上の基の反応を促進する化合物を意味する。
【0010】
本発明の方法で一緒に共有結合されるタンパク質分子は、最も好ましくは単一のタンパク質分子である。あるいはタンパク質粒子は、2つまたはそれ以上の異なるタンパク質の混合物から生成される。
【0011】
本発明の方法は適当な媒体中で行われ、これは最も一般的には水性媒体である。好ましくは媒体は緩衝液であり、従ってこの方法は、タンパク質分子及びゼロ長架橋剤を緩衝液に分散させることを含む。
【0012】
生成物は一般に、タンパク質分子とゼロ長架橋剤との反応により精製される。精製は典型的には過剰の試薬の除去を含み、これは公知の方法(例えばカラムクロマトグラフィー)を使用して行われる。結合した架橋剤を加水分解するために熱処理工程も行われ、放出された分子種は次に、公知の方法(例えばカラムクロマトグラフィー)により除去される。
【0013】
本発明の方法は、タンパク質粒子の平均サイズが制御されるように反応条件を制御することができるため有利である。さらに粒子サイズ分布の幅は比較的狭く、粒子の性質における比較的高度の均一性が得られる。
【0014】
粒子サイズ測定のための1つの適当な方法は光散乱であり、本明細書において粒子サイズへの言及は、かかる方法により測定された粒子サイズを意味することを理解されたい。例えば粒子サイズは、Malvern Zetasizer Nano S(Malvern Instruments Ltd, Enigma Business Park, Grovewood Road, Malvern, Worcestershire WR141xZ, United Kingdomにより供給される)を使用して測定される。かかる装置により作成されたデータは、粒子サイズの関数として分散光の強度で表すことが最も便利である。平均粒子サイズと標準偏差は、製造業者により提供される専用のソフトウェアを使用して自動的に計算される。
【0015】
粒子サイズ分布の測定においてピークは{X(i),Y(i);i=i1..i2}として定義され、ここでY(i)はサイズクラスIの%強度であり、X(i)はサイズクラスである。曲線下の総面積、平均粒子サイズ(μ)、及び標準偏差(σ)は以下の通りである:
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
すなわち本発明の第2の態様において、タンパク質分子上の官能基間の共有結合により一緒に直接結合したタンパク質分子を含むタンパク質粒子が提供され、ここでタンパク質粒子は平均粒子サイズが200nm未満、さらに好ましくは150nm未満、又は100nm、80nm、50nm、40nm、30nm、又は20nm未満である。好ましくは粒子サイズ分布の標準偏差は、平均粒子サイズの100%未満、又は80%未満、又は60%未満である。粒子サイズの標準偏差は、平均粒子サイズの50%未満、又は40%未満である。
【0018】
本発明の粒子は、平均粒子サイズが5μmより大きく、又は10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、70μmより大きく、又は100μmより大きい。
【0019】
言及される具体的な平均粒子サイズは、(a)小さい粒子では、5nm〜50nm、又は10nm〜40nm、10nm〜30nm、又は10nm〜20nm;(b)中程度のサイズの粒子では、10nm〜100nm、又は20nm〜80nm、又は20nm〜50nm;及び(c)大きい粒子では、50nm〜200nm、又は50nm〜150nm、又は50nm〜130nmである。
【0020】
200nmより小さい粒子サイズのナノ粒子、特に130μm未満の平均粒子サイズを有するものは、0.2μmろ過により滅菌できる点で特に有用である。これは、材料の大幅な喪失無しで簡単な滅菌を可能にするため、製造及び処理において重要な利点である。
【0021】
本発明の粒子は、そこから粒子が形成されるタンパク質分子以外の物質、及び粒子が物理的もしくは化学的に結合した治療薬もしくは他の物質を、含まないか又は実質的に含まないことが特に好ましい。特に粒子は、タンパク質分子自体の上の官能基間の共有結合により一緒に直接結合したタンパク質分子の残基を含み、粒子は架橋剤などから得られる中間の結合基又はスペーサー基を含まない。
【0022】
さらに本発明の方法は簡便であり、溶媒も界面活性剤も必要無い単一相反応である。粒子の平均サイズは、少数の変数を調整することにより容易に変化させることができ、設定した反応条件下で平均サイズとサイズ分布を再現することができる。さらに方法の簡便さはスケールアップを容易にする。架橋剤のゼロ長性は、粒子が合成スペーサーを含まないことを意味するため、本発明の方法はさらに有利である。従って治療効果も機能効果も無く、有害となる可能性のある追加の成分又は追加の成分の残基の存在は、避けるべきである。
【0023】
特に本発明のタンパク質粒子は、イメージング造影剤に結合した時、医学的イメージング用途に特に有用である。
【0024】
すなわち本発明のさらなる態様において、医学的イメージングで使用される結合体が提供され、この結合体は、本発明の第1の態様の方法により生成されるタンパク質粒子を含むか、又はイメージング造影剤又はその前駆体に結合した本発明の第2の態様のタンパク質粒子を含む。
【0025】
「医学的イメージング」は、診断、研究、又は治療処理目的で、人体又は動物の体の内部領域を視覚化するのに使用される任意の方法を意味する。かかる方法には、主にX線イメージング、磁気共鳴イメージング(MRI)、核イメージング、及び陽電子放射断層撮影法(PET)、そして超音波法があるが、最後のものは本発明にはあまり重要ではない。そのような方法を増強するのに有用な物質は、体内の特定の位置、臓器、又は疾患部位の視覚化を可能にする物質、及び/又はイメージング法により作成される画像の品質をある程度改良する物質であり、これらの画像の改良されたか又は容易な解釈を与えるものである。このような物質は本明細書においてイメージング造影剤と呼ばれ、その使用は画像の異なる領域間の「コントラスト」を増強することにより、画像の異なる部分の区別を容易にする。従って用語「イメージング造影剤」は、そのような物質の非存在下(例えばMRIの場合のように)で作成される画像の品質を増強するのに使用される物質、ならびに画像(例えば、核イメージングのように)の作成に必須の物質を包含する。
【0026】
イメージング造影剤の「前駆体」は、それ自体イメージング造影剤として有効ではないが、使用前に何か別の分子種との反応又は混合により有効にすることができる成分を意味する。かかる前駆体の例は、イメージング造影剤として機能する金属キレートを生成するように金属イオンとの物理的結合を形成することができる金属キレート化成分である。
【0027】
本発明で使用されるMRI造影剤には、金属イオン、特にガドリニウムがある。このようなイオンは、タンパク質粒子に共有結合されるキレート成分を介してタンパク質粒子に結合される。
【0028】
同様に核イメージングに有用な金属(例えば、99mTc、201Ti、及び111In)はまた直接または間接に、例えばキレート成分を介して担体物質に結合される。過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)による標識は、骨髄スキャニング及び炎症スキャニング応用、特にリンパ系のスキャニングに有用である。
【0029】
同様に本発明のタンパク質粒子は、例えば治療薬のような他の物質を体内に送達するために使用される。
【0030】
すなわち本発明のさらに別の態様において、治療薬に結合した、本発明の第1の態様の方法により生成されるタンパク質粒子、又は本発明の第2の態様のタンパク質粒子、を含む結合体が提供される。
【0031】
本発明の粒子又は結合体は一般に、医薬的に許容し得る液体媒体を含む製剤として体に投与されるであろう。媒体は一般に水性媒体、最も一般的には適切な賦形剤を含有する水性媒体である。かかる賦形剤には、1つ又はそれ以上の張性調整剤、保存剤、界面活性剤、及び他の従来の医薬賦形剤がある。
【0032】
すなわち本発明の別の態様において、上記のタンパク質結合体を医薬的に許容し得る液体媒体との混合物で含む製剤が提供される。
【0033】
発明の詳細な説明
タンパク質の性質
本発明の方法で使用されるタンパク質は、球状タンパク質、及び繊維タンパク質又は構造タンパク質を含む。
【0034】
タンパク質は最も好ましくは、単一の完全な又は実質的に完全なタンパク質分子である。
【0035】
あるいはタンパク質分子は、完全なタンパク質分子の断片でもよく、これは、天然に存在するタンパク質分子中に存在するが長さが短いアミノ酸の配列に対応するアミノ酸の配列を含む分子を意味する。しかしかかる断片は、好ましくは天然に存在するタンパク質分子の20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%、最も好ましくは95%を超える長さを有し、天然に存在するタンパク質分子の対応する部分と80%、90%を超える、又は最も好ましくは95%を超える相同性の程度を有するアミノ酸の配列を含む。
【0036】
タンパク質分子はまた、天然に存在するタンパク質の誘導体又は変異体でもよい。
【0037】
球状タンパク質の例には、合成又は天然の血清タンパク質、ならびにその塩及び天然のもしくは合成誘導体(例えば、酵素的に、化学的に、又は別の方法で修飾された、切断された、短縮又は架橋された、酸化された、又は加水分解された誘導体又はサブユニット)がある。繊維タンパク質又は構造タンパク質の例には、合成又は天然のコラーゲン、エラスチン、ケラチン、フィブロイン、フィブリン、及びフィブロネクチン、及びこれらの天然のもしくは合成誘導体がある。血清タンパク質の例は、アルブミン、トランスチレチン、フィブリノゲン、トロンビン、及びトランスフェリンである。他のタンパク質では、アポリポタンパク質A−1、ラクトフェリン、及び抗体が言及される。タンパク質はまた、融合タンパク質、すなわち別のタンパク質もしくはポリペプチド(又はその断片もしくは変種)に融合した、第1のタンパク質(又はその断片もしくは変種)(例えばヒト血清アルブミン)を含む組換え産物でもよい。融合タンパク質は通常、組換え法により、第1のタンパク質及び別のタンパク質もしくはポリペプチドをコードする連続的DNAを使用して調製される。アルブミン融合タンパク質の例は、WO−A−90/13653号、WO−A−01/79271号、及びWO−A−060071号に開示されている(これらの教示は本明細書で援用される)。トランスフェリン融合タンパク質の例は、WO−A−2004/020454号、WO−A−2004/020405号、WO−A−2006/096515号に開示されている(これらの教示は本明細書で援用される)。
【0038】
本発明の方法で使用するのに特に好適なタンパク質は、後述する理由によりアルブミンである。
【0039】
結合体を人体に投与することが目的の場合、タンパク質は好ましくはヒト起源、すなわちヒトから実際に得られるか、又はヒト起源のタンパク質と構造が同一(又は実質的に同一)のものである。従って特に好適なタンパク質はヒト血清アルブミンである。ある応用では、非ヒトアルブミン、特に哺乳動物アルブミン(例えばウシ血清アルブミン、ウマ血清アルブミン、及びイヌ血清アルブミン)が使用される。
【0040】
ヒト血清アルブミンは血清由来、例えば献血された血液から得られる。しかし汚染物質の可能性(例えば、血液製剤に存在する可能性のあるウイルス又は他の有害な物質)の感染のリスク、又は献血された血液から単離される物質の供給が制限される可能性を排除又は低下させるために、タンパク質(例えばヒト血清アルブミン)は組換え製品であることが好ましい。かかる組換えタンパク質は、タンパク質を発現するように形質転換又はトランスフェクトされた微生物(細胞株を含む)又はトランスジェニック植物もしくは動物から得られる。
【0041】
従って本発明での使用に最も好適なタンパク質は、組換えヒト血清アルブミン(rHA)である。rHAの適切な型は、Novozymes Delta Ltd, Nottingham, United Kingdomから販売されているものから得られる。
【0042】
rHAの製造法は一般に当業者に公知であり、例えばWO96/37515号及びWO00/44772号に記載されている。
【0043】
rHAの好適な製造法においてrHA溶液は、発酵培地中でrHAをコードするヌクレオチド配列で形質転換された真菌を含有することにより得られる真菌培養物培地から得られる。真菌はrHAを発現し、これを培地中に分泌する。従って培養上清の適切な精製により、本発明の方法での使用に適した溶液が得られる。真菌は例えばアスペルギルス(Aspergillus)の種のような糸状菌でもよい。好ましくは真菌は酵母である。さらに好ましくは真菌はサッカロミセス(Saccharomyces)属(例えばエス・セレビッシェ(S. cerevisiae))、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属(例えばケー・ラクチス(K. lactis))、又はピキア(Pichia)属(例えばP.パストリス(P. pastoris))である。
【0044】
rHAは好ましくは、遊離SH(スルフヒドリル又はチオール)基を有する実質的比率の分子を含有する。これは、後述するようにrHA分子を治療薬又はイメージング造影剤に結合させる特に有用な手段を提供する。
【0045】
アルブミンは、以下の理由により本発明の方法でタンパク質粒子を製造するための好適なタンパク質である:
【0046】
a)アルブミンは水性媒体中で溶解度が高い;
b)アルブミン分子中に存在する遊離スルフヒドリル基は、治療薬又はイメージング造影剤への選択的結合のための手段を与える;
c)アルブミン分子中に存在するペンダントアミノ基(特にリジン残基)及びまた多くのカルボキシル基を有する多くのアミノ酸残基は、アミド結合の形成を介してアルブミン分子間の効率的な共有結合を与える;
d)ペンダントアミノ基及び比較的多くのカルボキシル基を有する多くのアミノ酸残基はまた、体内への送達のための物質の結合部位を与えるのに有用である。
【0047】
本発明で有用に使用される他のタンパク質は、腎臓を介する排泄により血流から速やかに除去されるものである。本発明のタンパク質粒子の生成は、かかるタンパク質のインビボ半減期を上昇させる。
【0048】
例えば天然に存在するアポリポタンパク質A−1(ApoA−1)(これは高密度リポタンパク質(HDL)(いわゆる「善玉コレステロール」)の主要なタンパク質成分である)は、そのようなタンパク質である。
【0049】
ApoA−1リポタンパク質の血漿レベルは、アテローム性動脈硬化症患者では低下している。アテローム性動脈硬化症患者をダイマー化ApoA−1で治療(その血液プール滞留を延長するために)すると、プラークのレベルが顕著に低下し、対応して心臓発作の比率が低下する。
【0050】
ApoA−1の静脈内投与が以前試みられたが、タンパク質が比較的小さいため血液プールから速やかに排除され、糸球体ろ過を介して腎臓から分泌され、注入後まもなく尿中に現れる。
【0051】
本発明の方法により、腎臓を介して血液から排泄されるには大きすぎる高分子量ナノ粒子を製造することが可能であり、従ってこの重要な血漿タンパク質の半減期が延長される。アルブミンと同様の理由により本発明で使用されるアポリポタンパク質ApoA−1は、好ましくは組換え産物である。
【0052】
本発明で有用な他のタンパク質はトランスフェリンである。トランスフェリンは無数に可能な結合部位を有するため、血液脳関門を通過する輸送を促進するため、及び組換え産物として製造されるため、トランスフェリンの使用はいくつかの用途で有効である(例えば、MacGillivray et al 2002, Molecular and Cellular Iron Transport中, Templeton (Ed), Marcel Dekker, Inc. p. 41、及びMason et al 1993, Biochemistry 32: 5472を参照)。アルブミンと同様にトランスフェリンは好ましくは組換えトランスフェリン(rTF)である。
【0053】
上記したように本発明で有用な他のタンパク質には、ラクトフェリンと抗体がある。これらもまた組換え産物でもよい。
【0054】
以下の種々のパラメータと反応条件の説明はアルブミンに適用されるが、具体的に上記したもの(すなわち、ApoA−1、トランスフェリン、ラクトフェリン、抗体)、及び他のものを含む他のタンパク質にも適用される。
【0055】
架橋の前にタンパク質分子は、液体媒体中に好ましくは少なくとも10mg/ml、又は少なくとも20mg/ml、又は少なくとも50mg/mlの濃度で分散される。タンパク質濃度の上限は、使用される具体的なタンパク質の溶解度により決定されるが、タンパク質濃度は500mg/ml以上であるか、又は最大400mg/ml、300mg/ml、又は200mg/mlである。タンパク質の濃度は最も一般的には、8mg/ml〜500mg/ml、さらには10mg/ml〜200mg/ml、又は20mg/ml〜200mg/ml、例えば50mg/ml〜150mg/mlの範囲である。
【0056】
反応媒体の性質
本発明の方法は適切な媒体(これは最も一般的には、水性媒体、好ましくは緩衝液)中で行われる。1つの適した緩衝液は、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)である。他の従来の媒体もまた使用される。
【0057】
媒体のpHは、好ましくは10.0未満又は9.0もしくは8.0未満である。pHは3.0(又はそれ以下)と低くてもよいが、一般的には4.0又は5.0より高い。一般にpHは、3.0〜10.0、又は3.0〜9.0、又は3.0〜8.0の範囲である。多くの場合にpHは、3.0〜8.5、さらに好ましくは4.5〜8.5、又は5.5〜8.5、特に5.5〜7.5の範囲である。
【0058】
ゼロ長架橋剤の性質
ゼロ長架橋剤は、架橋産物中に他の成分を添加することなく(すなわち、粒子は合成スペーサーを含まないが、その代わりに直接結合されるタンパク質分子を含む)、タンパク質分子間の架橋を促進するために使用される。種々のゼロ長架橋剤化学物質又は試薬が使用され、以下のものが例として提供されるが、これらに限定されることを意図していない。
【0059】
Bioconjugate Techniques (Hermanson, G.T. (1996) Academic Press)では、2種類のゼロ長架橋剤化学がタンパク質に応用される:
a)1級又は2級アミンとアルデヒド基との還元アミノ化により作成される2級又は3級アミン結合;及び
b)1級アミンとカルボン酸との縮合により作成されるアミド結合。
【0060】
これらの第1は、cisジオール(これは酸化されてアルデヒド基を生成する)を含む炭水化物鎖を含む糖タンパク質に適用されるが、これはアルブミンを含まない。第2の架橋化学(アミド結合)はすべてのタンパク質に適用され、従って本発明において好適である。
【0061】
アミド結合の生成のために使用できる3種類の架橋試薬は以下の通りである:
a)カルボジイミド;
b)Woodward's試薬K(N−エチル−3−フェニルイソキサゾリウム−3’−スルホネート);及び
c)N,N−カルボニルジイミダゾール。
【0062】
本発明ではカルボジイミドの使用が好ましい。多くの可能なカルボジイミドがあり、例えばEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロトプロピル)カルボジイミド)、CMC(1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド)、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)、及びDIC(ジイソプロピルカルボジイミド)がある。しかしDCCとDICは水での溶解度が低いため、一般にタンパク質の架橋に適用されない。本発明での使用に最も好適なゼロ長架橋剤はEDCである。
【0063】
ゼロ長架橋剤の濃度は、好ましくは500mM未満、さらに好ましくは200mM未満であり、100mM未満でもよい。ゼロ長架橋剤の濃度は好ましくは、5mMより高く、さらに好ましくは10mMより高く、20mMより高くてもよい。ゼロ長架橋剤の濃度は好ましくは、5mM、10mM、又は20mM〜100mM、200mM、又は500mM、例えば5mM〜500mM、又はさらに好ましくは20mM〜200mMの範囲である。
【0064】
ゼロ長架橋剤がカルボジイミドである好適な実施態様において、より安定な活性化カルボキシル中間体を製造し、従って反応の収率を上昇させるために、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)又はスルホ−NHS(N−ヒドロキシスルホスクシンイミド)を添加してもよい。反応はより効率的であり、従ってより低濃度のゼロ長架橋剤が必要である。
【0065】
NHS又はスルホ−NHSが使用される本発明の実施態様において、ゼロ長架橋剤の濃度は好ましくは100mM未満、さらに好ましくは50mM未満である。ゼロ長架橋剤の濃度は好ましくは、2mMより高く、さらに好ましくは5mMより高い。従ってゼロ長架橋剤の濃度は、好ましくは2mM又は5mM〜50mM又は100mM、例えば2mM〜100mM、さらに好ましくは5mM〜50mMの範囲である。NHS又はスルホ−NHSの濃度は、好ましくは1mM又は2mMより高く、50mM又は20mMより低い。従ってNHS又はスルホ−NHSの濃度は好ましくは、1mM又は2mM〜20mM又は50mM、例えば1mM〜50mM、さらに好ましくは2mM〜20mMの範囲である。
【0066】
EDCは好適なゼロ長架橋剤であり、最も好ましくはEDCはNHSである。
【0067】
反応条件
反応温度と反応時間は両方とも、生じるタンパク質粒子のサイズに影響を与える変数である。
【0068】
実際、反応が行われる温度は、反応媒体が液体である必要性から下限(すなわち媒体の氷点)で、かつタンパク質の変性温度による上限により制限される。一方通常通り、媒体は水性であり、反応温度は10℃〜40℃であることが便利である。多くの場合反応は、周囲の室温又はこれに近い温度、すなわち典型的には15℃〜30℃、例えば20℃±5℃で行われる。
【0069】
反応時間は、極めて広い範囲で変化し得るが、典型的には1時間〜4、6、8、10、又は12時間、例えば2時間である。
【0070】
タンパク質分子とゼロ長架橋剤との反応後、生成物は精製される。精製は典型的には、過剰の試薬の除去を含み、これは公知の方法(例えばカラムクロマトグラフィー)を使用して行われる。適当なクロマトグラフィー媒体はセファデックスG50である。
【0071】
ゼロ長架橋剤がタンパク質分子中のカルボキシル基と反応後、活性化カルボキシルがチオール基(例えばアルブミン分子中に存在)と反応してチオエステルを生成することがわかっている。チオール基は、例えば治療薬又はイメージング造影剤とタンパク質とを反応させる手段として有用であるため、かかるチオエステルは加水分解されることが好ましい。これは熱処理により行われる。
【0072】
熱処理は、好ましくは20℃〜50℃の温度で、1、2、4、又は8時間、最大10、20、30、又は40時間行われる。
【0073】
一般に上記の反応条件とパラメータの任意の組合せが使用され、最も適切な又は最適な条件の選択は、使用される材料の正確な性質と製造されるナノ粒子の所望の性質により決定される。しかし多くの実施態様において反応は、水性媒体中で3.0〜8.5、例えば5.5〜8.5又は5.5〜7.5のpHで、タンパク質濃度が8mg/ml〜500mg/ml、例えば10mg/ml〜200mg/mlで、カルボジイミド架橋剤(例えばEDC)を5〜500mM、例えば20〜200mMで使用して行われる。NHS又はスルホ−NHSが使用される場合、架橋剤の濃度は低く、例えば2mM〜10mM、又は5mM〜50mMである。
【0074】
タンパク質粒子と造影剤又は治療薬との結合
タンパク質粒子の体内への送達のための物質の結合は、任意の多くの手段により行われ、特に物質の性質とタンパク質粒子の性質に依存する。しかし一般に結合は、タンパク質粒子と物質との共有結合、又はタンパク質粒子と結合成分(物質自体と化学的又は物理的結合を形成することができる)との共有結合の生成を含む。
【0075】
金属(例えばMRI又は核イメージングで使用される金属)の結合、又は放射線療法で使用される放射活性金属の結合に特に適した1つの好適な結合法は、タンパク質粒子と、金属に結合できるキレート剤との結合を含む。
【0076】
1つの特に好適な実施態様においてキレート剤は、タンパク質粒子中に存在するアミン基と反応してキレート剤をタンパク質粒子に結合させるアミド結合を生成するカルボキシル基又はその誘導体を含有する。次に金属の適当な塩の溶液が添加され、結合したキレート剤により金属がキレート結合される。
【0077】
使用されるキレート剤には、複数のアミン基を含む化合物の酢酸誘導体がある。例としては、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、及びその誘導体、例えばジエチレントリアミン五酢酸無水物がある。有用な他のクラスのキレート剤には、大環状キレート剤がある。大環状キレート剤の例は以下の通りである:
【0078】
1,4,7−トリアザシクロノナン−N,N’,N”−三酢酸(NOTA)
1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N”,N'''−四酢酸(DOTA)
1,4,8,11−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N”,N'''−四酢酸(TETA)
【0079】
キレート剤をタンパク質粒子に結合させるための他の方法は当業者に明らかであろう。適切な化学は最も一般的には、タンパク質粒子中のアミン基、チオール基、カルボニル基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基、及び/又はキレート剤を介する結合の生成を含む。
【0080】
物質が金属キレート剤の形でタンパク質粒子に結合される場合、キレート剤は製造プロセスの一部として生成されるか、又は金属は後に、例えば使用直前に添加される。特に金属が放射活性金属である場合、金属イオンは使用直前に製剤に添加されることが好ましい。
【0081】
同様にX線造影剤として使用されるヨード含有化合物のような有機物質は、有機物質とタンパク質粒子との共有結合の生成により、直接タンパク質粒子に結合される。再度、有機物質をタンパク質粒子に結合させる方法は当業者に公知であり、タンパク質粒子中のアミン基、チオール基、カルボニル基、カルボキシル基、又はヒドロキシル基、及び/又はキレート剤を介する結合の生成を含む。
【0082】
供給と投与
本発明の粒子又は結合体は、一般に医薬的に許容し得る媒体を含む製剤として体内に投与される。かかる製剤は、無菌の即時使用可能な溶液として医師に供給されるか、又は粒子もしくは結合体は凍結乾燥され、次に使用前に適当な溶液で復元される。例えば凍結乾燥タンパク質粒子は放射活性標識物の溶液と混合されて、使用前に液体媒体中の必要な結合体製剤が生成される。
【0083】
本発明の粒子及び製剤は種々の経路で投与される。製剤は例えば静脈内又は皮下投与により投与される。製剤はまた経口もしくは経鼻吸入により、例えば噴霧溶液として投与される。製剤は適宜カテーテルを介して直接疾患部位に送達される。他の応用では製剤は局所的に、例えば皮膚への塗布により投与される。このような場合に製剤は、クリーム剤又は軟膏剤として適用されるか、又はパッチ中に取り込まれてこれが皮膚に適用される。
【0084】
本発明のナノ粒子の適用の例には以下がある。
【0085】
粒子は膜(例えば肺、鼻、頬など)を介する薬剤の送達を増強するのに有用である。特に、例えばrHAのナノ粒子は、膜を介してトランスサイトーシスにより輸送することができる。特定の型のタンパク質は、単一の分子より容易に膜により摂取されるか、及び/又は膜を介して輸送される。またナノ粒子は、これらに結合(化学的に)している荷電した基又は親水性基を用いて調製されて、摂取を増強する。
【0086】
粒子はまた、遺伝子送達に使用される。例えばDNAを化学的手段により粒子に結合して、DNAが細胞膜及び核エンベロープを通過して移動することを可能にする。
【0087】
粒子はまた、ワクチン分子から作成される粒子により、又は例えばrHAから作成される粒子に抗原を結合させることにより、ワクチンへの応答を増強するために使用される。
【0088】
粒子の使用はまた、腫瘍への薬剤摂取を上昇させる。例えば腫瘍細胞はgp60/SPARKを過剰発現し、rHAナノ粒子の摂取増強を示すことが知られている。これはまた、多剤耐性を克服する機構を与える(腫瘍細胞から直接薬剤が追い出されることを止めることにより)。
【0089】
本発明の粒子はまた、薬剤又は他の有用な物質の創傷への送達に有用である。
【0090】
本発明の粒子の局所的送達は、皮膚の表面特に毛穴などに薬剤又は他の活性物質を保持する有効な作用を有する。再度、表面荷電を有する粒子の調製は、皮膚接着を増強することがある。
【0091】
粒子はまた経口薬剤送達のために使用され、粒子は消化管壁を通過して又は小腸パイエル板を通過して分子を送達するのに使用される。
【0092】
本発明の粒子はまた、非医薬的状況、例えばパーソナルケア製品でも応用される。他の工業的用途も企図され、例えば工業的プロセスにおける酵素の送達に使用される。
【0093】
本発明の実施例
以下の例と添付FMNを参照して、本発明の実施例を、例示のみを目的として詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、実施例1の生成物について得られたゲル透過HPLCの結果を示す。
【図2】図2は、実施例2の生成物について得られたゲル透過HPLCの結果を示す。
【図3】図3は、実施例3の生成物の未変性PAGEの結果を示す。
【図4】図4は、実施例5で詳述される架橋生成物の熱処理中の、遊離チオール基の増加を示す。
【図5】図5は、実施例6(a)の生成物の未変性PAGEの結果を示す。
【図6】図6は、実施例6(b)の生成物の未変性PAGEの結果を示す。
【図7】図7は、実施例6(c)の生成物の未変性PAGEの結果を示す。
【図8】図8は、実施例7の脱塩生成物の未変性PAGEの結果を示す。
【図9】図9は、実施例7の脱塩生成物の光散乱により測定された粒子サイズ分布を示す。
【図10】図10は、実施例8の生成物の脱塩クロマトグラムを示す。
【図11】図11は、実施例8の生成物の未変性PAGEの結果を示す。
【図12】図12は、実施例8の生成物のゲル透過HPLCの結果を示す。
【図13】図13は、実施例8の脱塩生成物の光散乱により測定された粒子サイズ分布を示す。
【0095】
一般的方法
タンパク質粒子を生成するためのrHAの架橋
調製されたrHA(約20%(w/v)rHA、32mMオクタン酸塩、145mM Na+、15mg/l ポリソルベート80、pH7.0)を、記載の緩衝液で記載のrHA濃度に希釈した。記載の濃度でEDC又はEDC+NHSを加え、試料を混合し、室温(約20℃)で記載の時間インキュベートした。
【0096】
脱塩
過剰の反応物を除去するために、架橋したrHAをセファデックスクロマトグラフィーにより脱塩した。特に明記しない場合は脱塩は、0.9%(w/v) NaCl、15mM Na2HPO4、5mM NaH2PO4で行った。
【0097】
熱処理
適宜架橋rHAを約45℃で記載の時間インキュベートして熱処理し、次に適宜、繰り返し脱塩工程により処理した。
【0098】
ゲル透過HPLC(GPHPLC)
GPHPLCはTSKgelG3000SWXL 0.78×30cm分析カラムとガードカラムをPBSで1ml/分で流し、溶出液を280nmで追跡した。試料をPBSで適切に希釈し、10〜25μlを注入した。
【0099】
未変性PAGE
Novex 4〜12%トリスグリシンゲル(Invitrogen Ltd, 3 Fountain Drive, Inchinnan Business park, Paisley PA4 9RF, United Kingdom)を製造業者の説明書に従って使用して、PBSで適切に希釈した試料を用いて未変性PAGEを行った。ゲルをGelCode Blue(Pierce Biotechnology, Inc. 3747 N Meridian Rd, PO Box 117, Rockford, IL 61105, USA)を用いて製造業者の説明書に従って染色した。
【0100】
遊離チオールアッセイ
ブランクと試料を0.1Mトリス塩酸、0.01M EDTA(pH8)で1mlにして、A412を測定した。0.05Mリン酸ナトリウム(pH7)中の50μlの0.01M 5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)を加え、室温で10分後A412を測定した。チオール含量は、ε412=13600M-1cm-1を使用して計算した。
【0101】
粒子サイズ分布
試料をPBSで1〜5mg/ml rHAに希釈し、0.2μmろ過した後、Malvern Zetasizer Nano Sを使用して低容量ディスポーザブルキュベットを用いて三重測定で分析した。分散光強度に基づく平均粒子サイズとサイズ分布の標準偏差とを、Malvern Dispersion Technology Software v4.10を使用して決定した。
【0102】
結合メソトレキセートアッセイ
試料を脱塩しPBSで適切に希釈後、タンパク質結合メソトレキセート(MTX)濃度を、既知濃度のMTX溶液との比較によりA373測定で決定した。
【実施例1】
【0103】
rHAの架橋とGPHPLCによる分析:架橋剤濃度の影響
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、0、15、30、及び45mM EDC、15mM EDC+5mM NHSを用いて2時間の反応時間で架橋を行った。生成物を図1に示すようにGPHPLCにより分析した。
【0104】
クロマトグラムは、モノマー性rHA出発物質の溶出(図1a)を示し、EDC濃度の上昇とNHSの添加により、より大きな分子種(タンパク質粒子)の量が徐々に上昇していることを示す。
【0105】
クロマトグラムcの最初に溶出している広いピークNBはカラムの空隙容積の前に存在し、従ってベースラインアーチファクトであり、試料とは関係無い。
【実施例2】
【0106】
rHAの架橋とGPHPLCによる分析:架橋後処理の影響
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、15mM EDC+5mM NHSを用いて2時間の反応時間で架橋を行った。架橋した生成物(タンパク質粒子を含む)を水で脱塩し、SnCl2、Na2HPO4、グルコース、及びPluronic F68を加えて調製し、凍結乾燥した。各段階の生成物をGPHPLCにより分析し、その結果を図2に示すが、これは、脱塩、調製、及び凍結乾燥がタンパク質粒子に大きな影響を与えないことを示す。
【実施例3】
【0107】
rHAの架橋と未変性PAGEによる分析
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、0、15、30、45、75、105、及び150mM EDC、15mM EDC+5mM NHSを用いて2時間の反応時間で架橋を行った。生成物を未変性PAGEにより分析し、結果を図3に示す。
【0108】
結果は、EDC濃度の上昇及びNHSの取り込みにより、運動性の低い分子種(タンパク質粒子)の量の増加を示す点で、上記GPHPLCの結果と一致する。
【実施例4】
【0109】
rHAの架橋と生成物の遊離チオール含量の測定
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、15mM EDC+5mM NHSを用いて2時間の反応時間で架橋を行った。架橋した生成物(水で脱塩した)は、出発rHAの0.64モル/モルと比較して、0.04モル/モルの遊離チオールレベルを示した。
【実施例5】
【0110】
rHAの架橋:生成物の遊離チオール含量の熱処理時間への依存性
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、15mM EDC+5mM NHSを用いて2時間の反応時間で架橋を行った。架橋した生成物を脱塩し、記載の時間熱処理し、遊離チオールアッセイのためにアリコートを取った。結果を図4に示す。明らかなように、熱処理時間16時間及びそれ以上で、遊離チオール含量は実質的にrHA出発物質の含量に戻った。
【実施例6】
【0111】
反応条件の変化の影響
a)[EDC]、[NHS]と時間
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、EDC濃度が、15、30、75、150、及び300mMで、それぞれ0、1、5、及び20mM NHSを用いて架橋を行った。ゲルを形成しなかったすべての試料を、2時間と22時間の反応時間で未変性PAGEにより分析した−図5を参照。これは、より長い反応時間でより多量のタンパク質粒子が生成したことを示す。
【0112】
b)[EDC]、[rHA]と時間
PBSで希釈した10、20、50、及び100mg/ml rHAで、それぞれEDC濃度が、15、30、75、150、及び300mMで架橋を行った。ゲルを形成しなかったすべての試料を、2時間と22時間の反応時間で未変性PAGEにより分析した−図6を参照。
【0113】
c)pH
0.9%(w/v) NaCl、20mM MES、又は0.9%(w/v) NaCl、20mM EPPSもしくはPBSで希釈して、100mg/ml rHAを調製した。MES試料のアリコートをほぼpH5.5とpH6.5に調整した。EPPS試料のアリコートをほぼpH7.5とpH8.5に調整した。75mM EDCと15mM EDC+5mM NHSを用いて2時間の反応時間で架橋する前に、実際の出発pHを測定した。ゲルを形成しなかったすべての試料を未変性PAGEにより分析した−図7を参照。結果は、架橋は7未満のpH値でより効率的であることを示す。
【実施例7】
【0114】
NHSプラスEDCとEDC単独を使用して得られた結果の比較
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、15mM EDC+5mM NHSと75mM EDCを用いて2時間の反応時間で架橋を行った。架橋した生成物を未変性PAGEと光散乱により、rHA出発物質と比較して分析した。未変性PAGEの結果を図8に示し、光散乱分析により測定した粒子サイズ分布を図9に示す。結果は、5mM NHSと15mM EDCのみの使用が、75mM EDC単独の使用と匹敵する結果を与えたことを示す。
【実施例8】
【0115】
NHSプラスEDCとEDC単独を使用して得られた結果のさらなる比較
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、15mM EDC+5mM NHSと75mM EDCを用いて2時間の反応時間で架橋を行った。架橋した生成物を脱塩し、熱処理し、再度脱塩した。遊離チオールレベルは熱処理で、EDC+NHSについて0.03から0.54モル/モルに上昇し、EDC生成物について0.02から0.50モル/モルに上昇した。熱処理前と後の脱塩した生成物を未変性PAGE、GPHPLC、及び光散乱により、rHA出発物質と比較して分析した。
【0116】
図10は脱塩クロマトグラムを示す。脱塩を260nmで追跡した。図10の上のクロマトグラムは熱処理前に得られた。左のピークは、採取し次に熱処理した生成物に対応する;右のピークは遊離NHSに対応する。下のクロマトグラムは、熱処理後に遊離NHSがさらに生成していることを示す。これらの結果は、熱処理プロセスにより、採取された生成物からNHSが放出されたことを示す。EDC単独の反応でも同じ作用が証明された(データは示していない)。
【0117】
図11は未変性PAGEの結果を示し、図12はGPHPLCで得られた結果を示し、図13は光散乱で得られた粒子サイズデータを示す。データは、熱処理工程がタンパク質粒子に対して大きな影響が無いことを示すが、ただし平均粒子サイズが非常にわずかに低下し(図13)、運動性が上昇した(図11)。
【実施例9】
【0118】
一定の[NHS]で[rHA]と[EDC]を変化させる影響
PBSで希釈した20、50、及び100mg/ml rHAで、それぞれ10mM EDC+5mM NHS、15mM EDC+5mM NHS、25mM EDC+5mM NHS、及び50mM EDC+5mM NHSを用いて2時間の反応時間で架橋を行った。ゲルを形成しなかったすべての試料を脱塩し、熱処理し、再度脱塩した。生成物の粒子サイズ分布を光散乱により分析した。結果を表1に示す。
【表1】

【0119】
比較すると、rHA出発物質は平均直径が8.38nmで標準偏差が2.99nmであった。
【実施例10】
【0120】
一定の[rHA]で[EDC]と[NHS]を変化させる影響
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、それぞれ15、25、及び35mM EDCでそれぞれ2、5、10、及び20mM NHSを用いて、2時間の反応時間で架橋を行った。ゲルを形成しなかったすべての試料を脱塩し、熱処理し、再度脱塩した。生成物の粒子サイズ分布を光散乱により分析した。結果を表IIに示す。
【表2】

【0121】
比較すると、rHA出発物質は平均直径が8.39nmで標準偏差が2.96nmであった。
【実施例11】
【0122】
組換えトランスフェリンの架橋
rHAについて記載した方法を使用して、組換えトランスフェリン(rTF)を架橋した。架橋はPBSで希釈した100mg/ml rTFで、15、25、及び35mM EDCでそれぞれ5mM NHSを用いて、1、2、又は4時間の反応時間で行った。ゲルを形成しなかったすべての試料を脱塩し、光散乱により分析した。結果を表IIIに示す。
【表3】

【0123】
比較すると、rTF出発物質は平均直径が7.78nmで標準偏差が1.80nmであった。
【実施例12】
【0124】
アポリポタンパク質A−1の架橋
アポリポタンパク質A−1(ApoA−1)を、PBS中の50mg/ml ApoA−1で、25mM EDCと5mM NHSを用いて、1、2、及び4時間の反応時間で架橋した。すべての試料を脱塩し、光散乱により分析し、出発ApoA−1と比較した。結果を表IVに示す。
【表4】

【0125】
比較すると、ApoA−1出発物質は平均直径が12.5nmで標準偏差が5.72nmであった。
【実施例13】
【0126】
治療薬(メソトレキセート)を含有する架橋rHA粒子の調製
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、25mM EDC+5mM NHS、9.8mM MTX(6.5モル/モル rHA)を用いて、2時間の反応時間で、メソトレキセート(MTX)の存在下でのrHAの架橋を行った。架橋した生成物を脱塩し、タンパク質結合MTXについて分析し、光散乱により出発rHAと比較して分析した。生成物は2.3モル/モル rHAの濃度でMTXに結合し、平均直径が37.9nmで標準偏差が22.6nmであった。比較された、rHA出発物質は平均直径が8.24nmで標準偏差が2.44nmであった。
【実施例14】
【0127】
架橋rHA粒子への治療薬(メソトレキセート)の結合
PBSで希釈した100mg/ml rHAで、25mM EDC+5mM NHSを用いて2時間の反応時間で、rHAの架橋を行った。架橋した生成物を脱塩し、22時間熱処理し、再度脱塩し、限外ろ過により20mg/ml rHAに濃縮した。
【0128】
10mM MTXを、PBS中20mM NHS及び100mM EDCと室温で1時間反応させ、NaOHとHClを適宜添加してほぼpH7に維持して、NHS活性化MTXを調製した。最終NHS活性化MTX濃度は9.8mMであった。
【0129】
架橋rHAへのMTXの結合は、等量の20mg/ml架橋rHAと9.8mM NHS活性化MTX(33モル/モル rHA)を混合して行った。室温で1.5時間と3時間反応後、試料と取り、脱塩し、タンパク質結合MTXについて測定した。すべての架橋rHA試料を光散乱により、出発rHAと方向結果して分析した。結果を表Vに示す。
【表5】

【0130】
比較すると、rHA出発物質は平均直径が8.09nmで標準偏差が2.47nmであった。
【実施例15】
【0131】
架橋rHA粒子への造影剤(ガドミニウムキレート)の結合
6mlの20mg/ml架橋rHA(実施例14参照)に0.4g DTPA無水物を30分かけて絶えず攪拌しながら、5M NaOHの添加によりほぼpH8を維持することにより、架橋rHAへのジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)の結合を行った。最後の添加後30分間攪拌を続け、試料を3M HClでpH7に調整し、0.9%(w/v) NaClで脱塩した。
【0132】
タンパク質結合DTPA基を0.1M GdCl3を用いてキシレノールオレンジ指示薬の存在下で、1M NaOHの添加によりpH5.5〜6.0に維持することにより、力価測定した。結合したDTPAレベルは43モル/モル rHAであった。すべての架橋したrHA試料はまた光散乱により、出発rHAと比較して分析した。結果を表VIに示す。
【表6】

【0133】
比較すると、rHA出発物質は平均直径が7.77nmで標準偏差が2.15nmであった。
【実施例16】
【0134】
Woodward's試薬Kを使用するrHAの架橋
PBSで希釈した100mg/ml rHA、0.1M WRKを用いて30分の反応時間で、Woodward's試薬K(WRK)を使用する架橋を行った。架橋した生成物をPBSで希釈し、光散乱により、出発rHAと比較して分析した。生成物は平均直径が13.5nmで標準偏差が5.76nmであった。比較してrHA出発物質は平均直径が8.42nmで標準偏差が2.87nmであった。
【実施例17】
【0135】
N,N−カルボニルイミダゾール使用するrHAの架橋
PBSで希釈した100mg/ml rHA、0.5M CDIを用いて、N,N−カルボニルイミダゾール(CDI)を使用する架橋を行った。反応は完了するまで行った。架橋した生成物をPBSで希釈し、光散乱により、出発rHAと比較して分析した。生成物は平均直径が50.7nmで標準偏差が26.0nmであった。比較してrHA出発物質は平均直径が8.42nmで標準偏差が2.87nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質粒子の製造方法であって、8mg/ml以上の濃度で液体媒体中に分散されたタンパク質分子がゼロ長架橋剤の存在下で反応することを引き起こすか又は可能にして、互いに共有結合されている状態のタンパク質分子を含むタンパク質粒子を製造することを含んでなる方法。
【請求項2】
タンパク質分子はアルブミン分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質分子は、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、フィブロイン、フィブリン、フィブロネクチン、トランスチレチン、フィブリノゲン、トロンビン、トランスフェリン、アポリポタンパク質A−1、ラクトフェリン、抗体、及び融合タンパク質よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質分子はトランスフェリン分子である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質分子はアポリポタンパク質A−1分子である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質分子はラクトフェリン分子である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質分子は抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
タンパク質分子は融合タンパク質である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
融合タンパク質はヒト血清アルブミンと別のタンパク質又はポリペプチドとの融合タンパク質である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質分子は組換え産物である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
タンパク質分子は組換えヒト血清アルブミン分子である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
タンパク質の濃度、8mg/ml〜500mg/ml、さらに好ましくは10mg/ml〜200mg/ml、又は20mg/ml〜200mg/ml、最も好ましくは50mg/ml〜150mg/mlである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
架橋は、カルボジイミド、Woodward's試薬K、及びN,N−カルボニルイミダゾールよりなる群から選択される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ゼロ長架橋剤はカルボジイミドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
カルボジイミドは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
架橋剤の濃度は、5mM〜500mM、さらに好ましくは20mM〜200mMの範囲である、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
反応は、N−ヒドロキシスクシンイミド又はN−ヒドロキシスルホスクシンイミドの存在下で行われる、請求項14又は請求項15に記載の方法。
【請求項18】
架橋剤の濃度は、2mM〜100mM、さらに好ましくは5mM〜50mMである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
N−ヒドロキシスクシンイミド又はN−ヒドロキシスルホスクシンイミドの濃度は、1mM〜50mM、さらに好ましくは2mM〜20mMである、請求項17又は請求項18に記載の方法。
【請求項20】
液体媒体は水性である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
水性液体媒体は緩衝液である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
媒体のpHは3.0〜8.5、さらに好ましくは4.5〜8.5、又は5.5〜8.5、特に5.5〜7.5の範囲である、請求項20又は請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法により製造されるタンパク質粒子。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法により得られるタンパク質粒子。
【請求項25】
タンパク質分子上の官能基間の共有結合により一緒に直接結合したタンパク質分子の残基を含むタンパク質粒子であって、ここでタンパク質粒子は平均粒子サイズが200nm未満、さらに好ましくは150nm未満、又は130nm、100nm、80nm、50nm、40nm、30nm、又は20nm未満であるタンパク質粒子。
【請求項26】
粒子サイズ分布の標準偏差は、平均粒子サイズの100%未満、又は80%未満、又は60%未満、又は50%未満、又は40%未満である、請求項25のタンパク質粒子。
【請求項27】
粒子は、平均粒子サイズが5nm〜50nmを有する、請求項25又は請求項26のタンパク質粒子。
【請求項28】
粒子は、平均粒子サイズが10nm〜100nmを有する、請求項25又は請求項26のタンパク質粒子。
【請求項29】
粒子は、平均粒子サイズが50nm〜200nmを有する、請求項25又は請求項26のタンパク質粒子。
【請求項30】
医学的イメージングで使用される結合体であって、この結合体は、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法により生成されるタンパク質粒子を含むか、又はイメージング造影剤又はその前駆体に結合した請求項23〜29のいずれか1項に記載のタンパク質粒子を含む、上記結合体。
【請求項31】
治療薬に結合した、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法により生成されるタンパク質粒子、又は請求項23〜29のいずれか1項に記載のタンパク質粒子を含む結合体。
【請求項32】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法により生成されるタンパク質粒子、又は請求項23〜29のいずれか1項に記載のタンパク質粒子、又は医薬的に許容し得る媒体との混合物である請求項30もしくは請求項31の結合体を含む製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−542791(P2009−542791A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518976(P2009−518976)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050402
【国際公開番号】WO2008/007146
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(509010975)アッパートン リミティド (1)
【出願人】(507205416)ノボザイムス バイオファーマ ユーケー リミティド (3)
【Fターム(参考)】