説明

ダンパ検査装置及び方法

【課題】ダンパを分解せずにダンパの健全性を確実かつ容易に確認することのできるダンパ検査装置を提供する。
【解決手段】固定部であるシリンダ2内に充填された作動流体6中を可動部であるピストン3が移動する際に発生する抵抗を減衰力として用いるダンパ1を検査するダンパ検査装置であって、作動流体6の変化度合を計測する計測手段である超音波センサ11と、ダンパ1の特性データが記録されたデータ記録手段であるデータベース15と、超音波センサ11から得られた計測データとデータベース15に記録されたダンパ1の特性データとを比較し、ダンパ1の減衰特性が所定の範囲を逸脱したか否かを判定する判定部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、各種プラントにおける配管や機器構造物の耐震支持装置として用いられるダンパを検査するためのダンパ検査装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種プラントにおいては、配管や機器構造物の耐震支持装置としてオイルダンパやメカニカルスナッバが設置されている。上記のようなダンパは、定期的に取り外して分解点検され、作動油やシール材の交換、及び金属構造物のメンテナンスなどを行うことで、ダンパの健全性を維持している。
【0003】
原子力プラントにおけるダンパを検査するシステムにおいて、原子炉の運転期間中に健全性を確認する方法としては、例えば特許文献1に記載された技術がある。この特許文献1に記載された技術が検査対象としているのは、作動流体を使用しないメカニカルスナッバである。
【0004】
すなわち、この特許文献1に記載された技術は、運転期間中に接近困難な場所に設置されたメカニカルスナッバの健全性を確認する方法である。具体的には、特許文献1は、メカニカルスナッバに加速度計を設置し、この加速度計により配管の熱変形に伴ってメカニカルスナッバがストロークの移動時に生じる振動を検知することで、メカニカルスナッバの健全性を評価する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−4383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、オイルダンパに代表されるようなダンパは、シリンダ及びピストンを備え、上記シリンダに充填された作動流体中をピストンが往復運動する際に発生する抵抗を減衰力として利用するタイプのものがある。このタイプのダンパは、放射線環境下で使用される場合に内部の作動流体が劣化し、粘性が変化して、減衰特性が所定の設計値から逸脱する可能性がある。
【0007】
また、上記ダンパが熱変形を伴う機器構造物の耐震支持装置として使用される場合は、仮に作動流体の粘性が高くなれば、通常運転時の配管の熱膨張を拘束してしまい、設計の所定範囲を超えた拘束力が配管に加わる可能性がある。したがって、作動流体の劣化を防止するため、ダンパの周囲を鉛などの遮蔽材で覆う対策が採られている。
【0008】
しかしながら、上記遮蔽材を使用しても作動流体は徐々に劣化していくため、定期点検時の分解点検による確認作業に併せて、運転時にもダンパの作動流体の健全性を確認する必要がある。また、定期点検時には、分解点検の所定の周期に該当しないダンパについても、ダンパを分解せずに間接的に作動流体の劣化度合を確認する手段が設けられていれば、ダンパの健全性を確保し、ひいてはダンパにより耐震支持されている機器構造物の健全性を確保することに寄与することになる。
【0009】
本発明は上述した事情を考慮してなされたものであり、ダンパを分解せずにダンパの健全性を確実かつ容易に確認することのできるダンパ検査装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るダンパ検査装置の実施形態は、固定部内に充填された作動流体中を可動部が移動する際に発生する抵抗を減衰力として用いるダンパを検査するダンパ検査装置であって、前記作動流体の変化度合を計測する計測手段と、前記ダンパの特性データが記録されたデータ記録手段と、前記計測手段から得られた計測データと前記データ記録手段に記録されたダンパの特性データとを比較し、前記ダンパの減衰特性が所定の範囲を逸脱したか否かを判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るダンパ検査方法の実施形態は、固定部内に充填された作動流体中を可動部が移動する際に発生する抵抗を減衰力として用いるダンパを検査するダンパ検査方法であって、前記作動流体の変化度合を計測する計測ステップと、前記計測ステップで計測された計測データと予め記録されたダンパの特性データとを比較し、前記ダンパの減衰特性が所定の範囲を逸脱したか否かを判定する判定ステップと、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るダンパ検査方法の実施形態は、固定部内に充填された作動流体中を可動部が移動する際に発生する抵抗を減衰力として用いるダンパを検査するダンパ検査方法であって、前記固定部の外周面に、前記ダンパの内部に充填された作動流体と同じ作動流体が封入された複数のサンプル容器を収納しておき、点検時に前記サンプル容器の少なくとも一つを取り出し、そのサンプル容器の作動流体を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダンパを分解せずにダンパの健全性を確実かつ容易に確認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るダンパ検査装置の第1実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るダンパ検査装置の第2実施形態を示すブロック図である。
【図3】本発明に係るダンパ検査装置の第3実施形態を示すブロック図である。
【図4】本発明に係るダンパ検査装置の第4実施形態を示すブロック図である。
【図5】本発明に係るダンパ検査装置の第1実施形態の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るダンパ検査装置及び方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、ダンパが水平に設置された姿勢に基づいて説明する。
【0016】
(第1実施形態)
(構 成)
図1は本発明に係るダンパ検査装置の第1実施形態を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、ダンパ1は、固定部であるシリンダ2を有し、このシリンダ2内に可動部であるピストン3が往復運動可能に設置されている。このピストン3の一端面には、可動部であるピストンロッド4の一端が固着され、このピストンロッド4の他端には、図示しない機器構造物に取り付ける際に用いる連結部5が設けられている。ピストン3は、周端近傍にシリンダ2の軸方向に作動流体6を連通させるオリフィス3aが周方向に複数本形成されている。シリンダ2の内部には、例えばビンガム流体や油などの作動流体6が充填されている。
【0018】
シリンダ2は、軸方向両端近傍に作動流体6を封止するための封止板7,8が取り付けられている。一方の封止板7には、ピストンロッド4が挿通する開口部7aが形成されている。シリンダ2において連結部5の反対側には、図示しない固定壁に取り付ける際に用いる連結部9が設けられている。また、シリンダ2の周囲は、放射線に対して遮蔽機能を備える鉛などの遮蔽材10で覆われ、この遮蔽材10により放射線環境下で使用される場合に作動流体6の劣化を抑制するようにしている。
【0019】
このように構成されたダンパ1は、ピストン3が往復運動する際に発生する抵抗を減衰力として利用する型式のダンパである。なお、ピストン3が往復運動する際は、ピストン3の左右の作動流体6がオリフィス3aを通して流通する。
【0020】
遮蔽材10の内周においてシリンダ2と接する部位には、計測手段としての超音波センサ11が設置されている。この超音波センサ11は、ダンパ1の外部に設置された記録装置12に有線又は無線により送信可能とされ、超音波センサ11で計測された計測データは、記録装置12に送信される。この記録装置12は、データ処理装置13に電気的に接続されている。なお、計測データとしては、作動流体6の劣化に伴う特性変化によって決定され、特に劣化に伴う変化が著しいものを選定することが望ましい。例えば、作動流体6の劣化に伴う超音波の減衰率や音速の変化が著しい場合は、超音波信号の強度変化、受信タイミングの変化を計測データとして用いる。
【0021】
データ処理装置13は、判定部14及びデータ記録手段としてのデータベース15を備える。このデータベース15には、ダンパ1に取り付けられた超音波センサ11により計測された計測データと比較してダンパの健全性を判断するためのダンパの特性データが記録されている。
【0022】
ここで、データベース15に記録されるダンパ特性データの例を以下に示す。
【0023】
第1には、プラント運転中の環境温度変化にともなって変化するダンパ1の減衰特性と超音波センサ11の出力との関係を、作動流体6の劣化がほとんど認められないと考慮される期間内に取得した計測データである。すなわち、劣化がほとんどない状態の作動流体6の環境温度と粘度変化との関係をあらかじめ調べておくことで、ダンパ1の初期取付時の環境温度と超音波センサ11の出力から、実環境でのダンパ1の減衰特性と超音波センサ11の出力との関係が得られる。これをダンパ特性データとして用いることができる。この場合、ダンパ1に直接温度計を取り付けて記録装置12が温度も記録するようにしてもよい。
【0024】
第2には、劣化がほとんど認められないと考慮される期間内に起きる地震とダンパ1の減衰特性との関係から得られるダンパ特性データである。プラントは通常、別途に地震の発生日時や大きさ(エネルギ)を記録する設備を備えているので、作動流体6が劣化していない期間におけるダンパ1の地震応答(減衰特性)をダンパ特性データとしておけば、それ以降のダンパの地震応答とダンパ特性データを比較することで、作動流体6の劣化を検出することができる。なお、地震によってダンパ1に負荷されるエネルギを、振動解析モデルを用いて求め、この算出したエネルギと減衰特性をダンパ特性データとしてもよい。
【0025】
また、地震時のデータを取得することに代えて、ダンパ1を取り付けてから意図的に配管に振動を与えて得られたデータをダンパ特性データとすることもできる。
【0026】
第3には、別途ダンパ1と同じ構成のダンパを用いて実施された放射線照射試験及び力学試験によって得られた試験データに基づいて、超音波の反射特性とダンパ1の減衰特性との関係を求めたデータである。すなわち、実際に作動流体6を劣化させて、ダンパ1の減衰特性の変化と超音波センサ11の出力との関係を求めてダンパ特性データとするものである。
【0027】
第4には、ダンパ1を取り付けた初期状態で打撃試験を行って得られたデータをダンパ特性データとする。この場合、例えばその後のプラント定期検査(以下、定検ともいう。)時に同様の試験を行い、その結果とダンパ特性データとを比較して劣化の有無を判断する。また、予め作動流体6が劣化した状態の打撃試験結果を複数取得してダンパ特性データに含めておけば、劣化の程度を判断することも可能である。
【0028】
当然ながら、これらの特性データを複数併用しても構わない。
【0029】
(作 用)
以下、ダンパ1の検査方法について説明する。
【0030】
ダンパ1の作動流体6が放射線を照射されて劣化により作動流体6の粘性が高く(あるいは低く)なり、劣化の進行によって最終的にダンパ1の減衰特性が所定の設計値から逸脱する可能性がある。本実施形態では、作動流体6の粘性に着目し、粘度変化を検知することにより、作動流体6の劣化の程度を検知するようにしている。
【0031】
上記のように構成された本実施形態では、図示しない制御部(例えば、専用に準備したハードウェアや、プラントの中央制御室の制御装置と接続する)から計測開始信号を送信することで、超音波センサ11による検査を行う。
【0032】
具体的には、例えば作動流体6が劣化に応じて粘性が増加する場合、超音波が分散しやすくなるため、ピストンロッド4で反射して超音波センサ11に受信される超音波の強度が低下する。この反射波の信号強度と作動流体6の粘性との関係をダンパ特性データとしてデータベース15に記録しておく。
【0033】
超音波センサ11で得られた計測データは、記録装置12に送信されて記録される。この記録された計測データは、データ処理装置13に送られる。このデータ処理装置13の判定部14では、データベース15に記録されたダンパ特性データを参照して、現在のダンパ1の減衰特性が所定の設計範囲内にあるか否かを判定する。
【0034】
判定部14において、ダンパ1の減衰特性が所定の設計範囲内にある場合は、ダンパ1を継続して使用し、図示しないタイマーに従って定期的に超音波センサ11によりピストンロッド4に向けて超音波を発し、その反射波を観測する。
【0035】
一方、判定部14において、ダンパ1の減衰特性が所定の設計範囲から逸脱した場合は、ダンパ1を分解点検し、作動流体6の交換作業などを実施する。そして、ダンパ1の分解点検および作動流体6の交換作業が終了した後は、再び元の状態のように超音波センサ11により反射波を観測する。
【0036】
なお、当然ながら、判定部14における判定では、一定の裕度を設定して減衰特性が所定の設計範囲から逸脱する前に分解点検を行うよう設定することが望ましい。
【0037】
(効 果)
このように本実施形態によれば、超音波センサ11で得られた計測データとデータベース15に記録されたダンパ1の特性データとを比較して作動流体6が劣化したか否かを判定部14により判定することにより、ダンパ1を分解せずにダンパ1の健全性を確実かつ容易に確認することができる。これにより、分解点検メンテナンスの頻度を合理化することにも繋がるとともに、ダンパ1により耐震支持されている図示しない機器構造物の健全性を確保することも可能となる。
【0038】
また、本実施形態によれば、シリンダ2の外部に計測手段である超音波センサ11を設置すればよいことから、検査装置の構造を簡素化することができる。
【0039】
(第2実施形態)
図2は本発明に係るダンパ検査装置の第2実施形態を示すブロック図である。なお、前記第1実施形態と同一の構成には、同一の符号を付して重複する説明は省略する。また、図2では、データ処理装置13の内部構成を図示しないが、前記第1実施形態と同様の構成である。その他の実施形態も同様とする。さらに、以下の各実施形態では、ダンパの基本的な構成が前記第1実施形態と同様である。
【0040】
(構 成)
図2に示すように、本実施形態のダンパ1Aは、シリンダ2の周面にシリンダ2の内部と連通する取付孔16が設けられている。この取付孔16内には、計測手段としての振動式粘度計17又は圧力計18が挿し込まれる。したがって、振動式粘度計17又は圧力計18は、取付孔16内に挿し込まれて作動流体6の粘度を検知し、又は作動流体6の圧力を検知する。
【0041】
振動式粘度計17は、その振動子が作動流体6中に設置され、作動流体6の粘性が低い場合は上記振動子の振れ幅が大きくなるが、作動流体6の粘性が高くなると上記振動子の振れ幅が小さくなるという特性を用いて粘度を検知している。
【0042】
また、圧力計18は、シリンダ2の内周側に対向する上面に加わる作動流体6の圧力を検知し、作動流体6の粘性が低い場合は圧力が低いが、作動流体6の粘性が高くなると圧力も高くなるという特性を用いて粘度を検知している。この場合、作動流体6の圧力と粘度の関係をダンパ特性データとして用いる。このように本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、作動流体6の粘度変化を検知することにより、作動流体6の劣化の程度を検知することが可能となる。
【0043】
なお、振動式粘度計17又は圧力計18が挿し込まれる取付孔16には、図示しない開閉弁が設けられており、その開閉弁が通常時は閉じており、振動式粘度計17又は圧力計18を使用するときには、例えばタイマーなどから上記開閉弁を開閉動作させるための動作信号を得て上記開閉弁が開くような構造としてもよい。
【0044】
(作 用)
上記のように構成された本実施形態では、振動式粘度計17や圧力計18により、作動流体6の粘度や圧力を計測し、前記第1実施形態と同様に、その計測データが記録装置12に送信されて記録される。この記録された計測データは、データ処理装置13に送られる。このデータ処理装置13の判定部14(図1に示す)では、その計測データをデータベース15と参照して、現在のダンパ1の減衰特性が所定の設計範囲内にあるか否かを判定する。
【0045】
(効 果)
このように本実施形態によれば、振動式粘度計17は、シリンダ2の周面に設けた取付孔16に挿し込まれて取り付けられ、振動式粘度計17で作動流体6の粘度変化を検知することにより、プラント運転中に作動流体6の状態を、粘度変化に基づいて劣化度合を検知することができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、圧力計18は、シリンダ2の周面に設けた取付孔16に挿し込まれて取り付けられ、圧力計18で作動流体6の圧力変化を検知することにより、プラント運転中に作動流体6の状態を、圧力変化に基づいて劣化度合として検知することができる。
【0047】
(第3実施形態)
図3は本発明に係るダンパ検査装置の第3実施形態を示すブロック図である。
【0048】
(構 成)
図3に示すように、本実施形態のダンパ1Bは、固定壁19と制振対象である配管などの機器構造物20との間に設置される。すなわち、ダンパ1Bの連結部9は、連結金具21を介して固定壁19に連結される一方、連結部5は連結ロッド22を介して機器構造物20に連結されている。
【0049】
本実施形態は、ダンパ1Bのシリンダ2、遮蔽材10の外周面あるいは固定壁19に変位計測手段としての変位計23が設置されている。本実施形態では、変位計23が遮蔽材10の外周面に設置されている。この変位計23は、ダンパ1Bの固定部側であるシリンダ2と、可動部側であるピストンロッド4との相対変位δxを計測する。
【0050】
ここで、作動流体6が劣化すると、同一負荷による相対変位δxは減少する。つまり、作動流体6が劣化していくと、振動エネルギの吸収効果が低下することにより、同一負荷による相対変位δxが徐々に減少する。したがって、例えば微小な地震時の相対変位δxのデータを記録装置12に逐次記録してデータを蓄積する。
【0051】
また、本実施形態は、歪み計測手段としての歪みゲージ24がピストンロッド4に取り付けられている。この歪みゲージ24は、ピストンロッド4の軸方向の歪みεを計測する。例えば、作動流体6の粘性が高くなると、振動エネルギの吸収効果が低下することによりピストンロッド4の軸方向の歪みεが徐々に大きくなる。したがって、例えば微小な地震時におけるピストンロッド4の歪みεのデータを記録装置12に逐次記録してデータを蓄積する。
【0052】
ダンパ1への負荷と、負荷に応じた相対変位δx又は歪みεが分かれば、ダンパ1の減衰特性を求めることが可能である。したがって、ダンパ特性データとしては、ダンパ1への負荷と相対変位δx又は歪みεとの関係を用いる。
【0053】
相対変位δx又は歪みεは、負荷σに比例して大きくなる。作動流体6の粘性が高くなると、負荷σが一定のときの相対変位δx又は歪みεは小さくなり、ダンパ1が吸収するエネルギが小さくなる。このデータに基づき、データ処理装置13の判定部14(図1に示す)が減衰特性の設計範囲からの逸脱を判定する。
【0054】
なお、地震動によりダンパ1への負荷σを求めるには、例えば地震計測手段を別途に備え、例えば振動解析モデルを用いたシミュレーションにより解析的に求めることが可能である。あるいは、実際に作動流体6が劣化していない状態では、相対変位δx又は歪みεに基づいてダンパ1への負荷を求めることができるため、ダンパ1の初期取付時に経験した地震動の大きさと相対変位δx又は歪みεを計測して、地震動の大きさとダンパ1への負荷σとの関係をデータベース15に蓄積しておくことも可能である。
【0055】
あるいは、初期取付時の地震動によるデータに代えて、初期取付時に機器構造物20に意図的に振動を与えてデータを蓄積することも可能である。
【0056】
なお、本実施形態では、変位計測手段としての変位計23と、歪み計測手段としての歪みゲージ24の何れかのみを使用しても、双方を併用してもよい。
【0057】
(作 用)
上記のように構成された本実施形態では、変位計23や歪みゲージ24により、作動流体6が劣化の程度を計測し、前記第1実施形態と同様に、その計測データが記録装置12に送信されて記録される。この記録された計測データは、データ処理装置13に送られる。このデータ処理装置13の判定部14(図1に示す)では、その計測データをデータベース15と参照して、現在のダンパ1Bの減衰特性が所定の設計範囲内にあるか否かを判定する。
【0058】
この場合、可動部と固定部との相対変位δxや、ピストンロッド4の歪みεを個別に比較してもよいし、あるいは相対変位δxと歪みεとの関係から導かれる相対変位―荷重(歪み)履歴曲線で比較してもよい。
【0059】
例えば、地震が発生する度に変位計23や歪みゲージ24により計測された計測データを記録するようにすれば、時刻歴応答波形や伝達関数などのデータがデータベース15へ逐次蓄積されていく。ある地震が発生した時の計測データは、それ以前に発生した地震時の計測データと比較し、ダンパ1Bの応答が所定の設計範囲内にあるか否かを判定する。そして、ダンパ1の応答が所定の設計範囲から逸脱した場合は、ダンパ1Bを分解点検し、作動流体6の交換作業を実施することとなる。
【0060】
(効 果)
このように本実施形態によれば、変位計23でダンパ1Bの相対変位δxの変化を検知することにより、プラント運転中にダンパ1Bの劣化度合を検知することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、歪みゲージ24でピストンロッド4の軸方向の歪みεの変化を検知することにより、プラント運転中にダンパ1Bの劣化度合を検知することができる。
【0062】
さらに、本実施形態によれば、変位計23と歪みゲージ24を同時に用いた場合は、相対変位δxと歪みεとの関係から導かれる相対変位―荷重(歪み)履歴曲線によりダンパ1Bの減衰特性の変化を直接把握することができる。
【0063】
(第4実施形態)
図4は本発明に係るダンパ検査装置の第4実施形態を示すブロック図である。
【0064】
(構 成)
図4に示すように、本実施形態のダンパ1Cは、シリンダ2の外周面であって、遮蔽材10の内周側に遮蔽材10の両側からその軸方向に沿って収納凹部25が複数形成されている。これらの収納凹部25は、遮蔽材10の軸方向位置において先端がシリンダ2を介して作動流体6が充填されている位置まで達するように延びている。
【0065】
各収納凹部25には、ダンパ1Cの内部に充填された作動流体6と同じ作動流体が封入されたサンプル容器26がそれぞれ着脱可能に収納される。このサンプル容器26は、収納凹部25内においてシリンダ2を介して作動流体6が充填されている位置に配置される。
【0066】
収納凹部25は、サンプル容器26が収納されると蓋体27により閉止される。この蓋体27は、遮蔽材10と同じ材質で作製されている。
【0067】
(作 用)
上記のように構成された本実施形態では、サンプル容器26がシリンダ2の外周面であって、収納凹部25内においてシリンダ2を介して作動流体6が充填されている位置に配置されているため、ダンパ1Cのシリンダ2内部に充填された作動流体6とほぼ同一の放射線環境、温度環境下に設置される。
【0068】
点検時には、蓋体27を収納凹部25から取り外し、サンプル容器26を少なくとも一つ回収する。次いで、サンプル容器26を開封して作動流体のサンプルを検査することで、ダンパ1Cの内部における作動流体の劣化度合を知ることができる。
【0069】
(効 果)
このように本実施形態によれば、シリンダ2の外周面に、ダンパ1Cの内部に充填された作動流体6と同じ作動流体が封入された複数のサンプル容器26を着脱可能に設置したことにより、ダンパ1C自体を分解点検することなく、簡単な構造により、ダンパ1C内部に充填された作動流体の状態を確認することができる。
【0070】
なお、本実施形態のダンパ1Cは、シリンダ2の外周面だけを遮蔽材10で覆うようにしたが、シリンダ2の両端面も併せて覆うようにしてもよい。これにより、ダンパ1Cのほぼ全面が遮蔽材10で覆われるため、複数のサンプル容器26内の作動流体がそれぞれ同時に劣化することになる。その結果、少なくとも一つのサンプル容器26を取り出すだけで、ダンパ1Cの内部における作動流体の劣化度合を知ることができる。
【0071】
また、本発明は上記各実施形態に限定されることなく、各実施形態を組み合せ、また種々の変更が可能である。上記各実施形態では、ダンパを水平方向に設置した場合について説明したが、勿論、あらゆる方向に設置することも可能である。
【0072】
また、上記各実施形態では、シリンダ2内に充填された作動流体6中をピストン3が往復運動する際に発生する抵抗を減衰力としたダンパを検査するようにしたが、要するに、固定部内に充填された作動流体6中を可動部が移動する際に発生する抵抗を減衰力としたダンパを検査すればよい。
【0073】
また、前記第1実施形態では、超音波の送受信を行う超音波センサ11を用いるものとして説明したが、例えば超音波送信部と超音波受信部を、作動流体6を挟んで略対向配置し、作動流体6を通過した透過波を用いるものとしてもよい。
【0074】
また、例えば、図5に示すように、データ処理装置13にダンパ1の予寿命算出部28を加えてもよい。このような構成では、予寿命算出部28が超音波センサ11、振動式粘度計17などの出力の変化量、経過時間、及びダンパ特性データを用い、ダンパ1の減衰特性が設計値から逸脱するまでの残り期間を算出する。
【0075】
ここで、予寿命の算出は、初期取付時とそれ以後のデータとの比較でも、過去の任意の時点のデータとそれ以後のデータとの比較でもよい。また、減衰特性の変化が直線的でない場合は、複数時点の計測データを用いた解析を行って算出してもよい。
【0076】
さらに、算出した予寿命は、単に表示するだけでもよいし、判定部14が粘度などに代えて、算出された予寿命に基づいて交換の要否を判定するものとしてもよい。この場合、例えばプラント定検時に予寿命算出部28により予寿命を算出し、判定部14で予寿命が次回のプラント定検まで無いと判定された場合(No)に分解点検を行うと判定するような構成とする。
【0077】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1…ダンパ
2…シリンダ(固定部)
3…ピストン(可動部)
3a…オリフィス
4…ピストンロッド(可動部)
5,9…連結部
6…作動流体
7…封止板
7a…開口部
8…封止板
10…遮蔽材
11…超音波センサ(計測手段)
12…記録装置
13…データ処理装置
14…判定部(判定手段)
15…データベース(データ記録手段)
16…取付孔
17…振動式粘度計(計測手段)
18…圧力計(計測手段)
19…固定壁
20…機器構造物
21…連結金具
22…連結ロッド
23…変位計
24…歪みゲージ
25…収納凹部
26…サンプル容器
27…蓋体
28…予寿命算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部内に充填された作動流体中を可動部が移動する際に発生する抵抗を減衰力として用いるダンパを検査するダンパ検査装置であって、
前記作動流体の変化度合を計測する計測手段と、
前記ダンパの特性データが記録されたデータ記録手段と、
前記計測手段から得られた計測データと前記データ記録手段に記録されたダンパの特性データとを比較し、前記ダンパの減衰特性が所定の範囲を逸脱したか否かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするダンパ検査装置。
【請求項2】
前記計測手段が前記作動流体に超音波を伝達する超音波送信部と、前記作動流体を通過した超音波を受信する超音波受信部とを有する超音波センサであり、
前記計測データは前記超音波センサによる超音波受信信号であることを特徴とする請求項1に記載のダンパ検査装置。
【請求項3】
前記計測手段が振動式粘度計であり、この振動式粘度計は、前記固定部の周面に設けた取付孔に挿し込まれて取り付けられ、前記振動式粘度計で前記作動流体の粘度変化を検知することを特徴とする請求項1に記載のダンパ検査装置。
【請求項4】
前記計測手段が圧力計であり、この圧力計は、前記固定部の周面に設けた取付孔に挿し込まれて取り付けられ、前記圧力計で前記作動流体の圧力変化を検知することを特徴とする請求項1に記載のダンパ検査装置。
【請求項5】
前記計測手段が歪み計測手段であり、この歪み計測手段は、前記可動部であるピストンロッドの軸方向における歪みの変化を検知し、この歪みの変化に基づいて前記作動流体の劣化を検知することを特徴とする請求項1に記載のダンパ検査装置。
【請求項6】
前記計測手段が変位計測手段であり、この変位計測手段は、前記固定部側であるシリンダと前記可動部側であるピストンロッドとの間の距離を計測し、定常状態における前記シリンダ側と前記ピストンロッド側との間の相対変位に基づいて前記作動流体の劣化を検知することを特徴とする請求項1又は5に記載のダンパ検査装置。
【請求項7】
データ記録手段に記録された特性データは、前記作動流体が劣化していない前記ダンパの初期取付時から経験した地震ごとに計測された計測値であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のダンパ検査装置。
【請求項8】
予寿命計測手段をさらに備え、
この予寿命計測手段は、任意の時点における前記計測手段による第1計測結果、前記第1計測結果よりも後の時点における前記計測手段による第2計測結果、前記第1計測結果の計測から前記第2計測結果の計測までに経過した時間、及び前記特性データを用いて、前記ダンパの減衰特性が所定の範囲を逸脱するまでの期間を予測することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のダンパ検査装置。
【請求項9】
固定部内に充填された作動流体中を可動部が移動する際に発生する抵抗を減衰力として用いるダンパを検査するダンパ検査方法であって、
前記作動流体の変化度合を計測する計測ステップと、
前記計測ステップで計測された計測データと予め記録されたダンパの特性データとを比較し、前記ダンパの減衰特性が所定の範囲を逸脱したか否かを判定する判定ステップと、
を備えることを特徴とするダンパ検査方法。
【請求項10】
固定部内に充填された作動流体中を可動部が移動する際に発生する抵抗を減衰力として用いるダンパを検査するダンパ検査方法であって、
前記固定部の外周面に、前記ダンパの内部に充填された作動流体と同じ作動流体が封入された複数のサンプル容器を収納しておき、点検時に前記サンプル容器の少なくとも一つを取り出し、そのサンプル容器の作動流体を検査することを特徴とするダンパ検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−61264(P2013−61264A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200336(P2011−200336)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】