説明

チャイルドシート構造

【課題】乗員の体重の軽重を検知し、エネルギー吸収量をその体重に応じて最適に調整して乗員傷害値の軽減を図ることができるチャイルドシート構造を提供する。
【解決手段】チャイルドシート本体1と、チャイルドシート本体を載置するためのチャイルドシート載置台5が固定台7に設けられた複数の体重検知用バネ6で支持されてなる体重検知ユニット2と、体重検知ユニットを摺動可能に載置するためのチャイルドシート本体スライドレール12が上面に設けられたチャイルドシート固定用ベース3と、チャイルドシート固定用ベース上に配置されたエネルギー吸収材4とからなり、チャイルドシート載置台の一端部にはチャイルドシート載置台と一体に形成されたエネルギー吸収材破壊刃11が設けられており、エネルギー吸収材破壊刃によりエネルギー吸収材を破壊して衝突時のエネルギー吸収を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両のシートに着脱自在に取り付けられるチャイルドシート構造に係り、特に乗員の体重差に応じて衝撃エネルギーを吸収し、乗員傷害値を軽減できるチャイルドシート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に6歳未満の幼児あるいは乳児を乗せる場合にはチャイルドシート(以下CRS:Child Restraint System)の使用が義務づけられている。一般的にCRSは車両のシートに着脱自在に取り付けられるようになっており、例えば1歳未満あるいは体重が10kg未満の乳幼児に対しては車両の進行方向に対して後向きに設置し、1歳を過ぎてからあるいは体重が10kgを超してからは進行方向と同じ前向きに設置することが行われている。
【0003】
車両のシートに後向きにCRSを取り付ける場合は、例えば図4に示すようにCRS本体41を車両42の後部シート43へ載置し、図示しない下部アンカへ固定するとともにトップテザー44により後部シート43の上部アンカへ強固に固定している。
【0004】
このように固定されたCRS本体に着座した乗員は、CRS本体に組み込まれているシートベルトにより拘束されるが、車両が衝突した場合乗員に生じる乗員傷害値はCRS本体と乗員の固定の状態に依存する。そして衝突時の車両Gが乗員へ直接伝わり乗員傷害値が悪化する。ここで乗員傷害値とは、車両の急激な減速により乗員の頭部や胸部へ伝わるG、即ち頭部減速Gと胸部減速Gのことをいう。
【0005】
このような衝突時の衝撃を吸収するために従来から種々の工夫がなされている。例えば、車両用シートの着座部や背もたれ部に衝撃吸収部を設け、車両用シートに装着されたCRS本体に衝突による衝撃が加わった場合、CRS本体が衝突時に動くことにより衝撃吸収部に加わる荷重で衝撃吸収部が潰れて衝撃を吸収し、CRS本体の着座乗員にかかる衝撃を減少させる衝撃吸収シート構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、CRS本体にエアバッグデフレクターを備え、車両が衝突した場合にエアバッグが展開してもエアバッグを幼児から逸らし、エアバッグエネルギー及びあらゆる衝撃エネルギーを吸収するようなチャイルドシートも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、車両のシートに対して車両の進行方向に背を向けて装着するようにし、チャイルドシートの背部を座部に対して揺動可能に連結するとともに、そのチャイルドシート側面における座部と背部との対向面に、チャイルドシートに対してそのチャイルドシートの前面側から後面側に向かう衝撃力が加わった時に衝撃力を緩和する衝撃吸収機構を設けたチャイルドシートも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−231422号公報
【特許文献2】特表2003−525164号公報
【特許文献3】特開2004−217038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、従来からCRS本体に着座した乗員はCRS本体に組み込まれたシートベルトにより拘束され、車両の衝突時に乗員に生じる乗員傷害値はCRS本体と乗員の固定状態に依存することが知られている。それに対して乗員にかかる衝撃を吸収する種々の提案がなされているが、従来のチャイルドシートにおいては乗員の体重に対する配慮がなされていなかった。従って、必ずしも最適な条件で固定がなされているとは言えず、場合によっては乗員傷害値の悪化につながる虞もあった。
【0010】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、乗員の体重の軽重を検知し、エネルギー吸収量をその体重に応じて最適に調整して乗員傷害値の軽減を行うことが可能なチャイルドシート構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明によるチャイルドシート構造の第1の態様は、チャイルドシート本体と、チャイルドシート本体を載置するためのチャイルドシート載置台が固定台に設けられた複数の体重検知用バネで支持されてなる体重検知ユニットと、体重検知ユニットを摺動可能に載置するためのチャイルドシート本体スライドレールが上面に設けられたチャイルドシート固定用ベースと、チャイルドシート固定用ベース上に配置されたエネルギー吸収材とからなり、チャイルドシート載置台の一端部にはチャイルドシート載置台と一体に形成されたエネルギー吸収材破壊刃が設けられており、エネルギー吸収材破壊刃によりエネルギー吸収材を破壊して衝突時のエネルギー吸収を可能にしたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明によるチャイルドシート構造の第2の態様は、第1の態様において、エネルギー吸収材は逆階段状の形状であることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明によるチャイルドシート構造の第3の態様は、第1または第2の態様において、エネルギー吸収材破壊刃は幅方向に渡って複数の刃が間隔をおいて配置されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明によるチャイルドシート構造の第4の態様は、第3の態様において、エネルギー吸収材破壊刃の複数の刃のそれぞれは、エネルギー吸収材破壊刃のエネルギー吸収材に対向する側の角度が鋭角に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のチャイルドシート構造によれば、体重検知ユニットを用いることにより、体重の重い乗員はエネルギー吸収量を大きくでき、また体重の軽い乗員はエネルギー吸収量を小さくできるので、乗員の体重に応じて最適なエネルギー吸収量に調節できる。
【0016】
以上のように本発明は、従来の技術が有していた欠点を解消でき、乗員の体重に応じて最適なエネルギー吸収を実現し、乗員傷害値の軽減を図ることができるチャイルドシート構造を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のチャイルドシート構造の実施の形態を表した分解斜視図である。
【図2】本発明のチャイルドシート構造の作動状況を説明するための図である。
【図3】本発明のチャイルドシート構造におけるエネルギー吸収材破壊刃の形状の例を示す図である。
【図4】従来のチャイルドシートの車両への取り付け例を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明によるチャイルドシート構造の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明のチャイルドシート構造の分解斜視図である。図1において、本発明のチャイルドシート構造は、チャイルドシート(以下、CRS)本体1と、体重検知ユニット2と、CRS固定用ベース3と、CRS固定用ベース3上に配置されたエネルギー吸収材4とからなっている。
【0020】
体重検知ユニット2は、CRS本体1を載置するためのCRS載置台5と、このCRS載置台5を支持する複数の体重検知用バネ6と、体重検知用バネ6が取り付けられた固定台7とから構成されている。CRS載置台5の一端部には、このCRS載置台5と一体に形成されたエネルギー吸収材破壊刃11が設けられている。また、固定台7にはCRS本体1を矢印の如くCRS載置台5上に載置固定するための側板8が設けられており、側板8の長孔9にCRS本体1の支持棒10が嵌め込まれるようになっている。
【0021】
CRS固定用ベース3には上面にCRS本体スライドレール12が2本設けられており、これらのCRS本体スライドレール12上に矢印の如く固定台7が取り付けられることにより、この固定台7とともにCRS載置台5上に載置固定されたCRS本体1が前後方向に摺動可能となっている。また、CRS固定用ベース3には車両のISO・FIX規格に適合したバーへ締結可能な締結部材13が取り付けられている。
【0022】
このような構成により、CRS固定用ベース3上で固定台7がCRS本体スライドレール12を摺動する際に、エネルギー吸収材破壊刃11がエネルギー吸収材4を破壊することにより衝突時のエネルギーを吸収できるようになっている。
【0023】
エネルギー吸収材4はエネルギー吸収に適した材料ならば特に制限はないが、例えば硬質ウレタンなどを用いることができ、またエネルギー吸収材破壊刃11は例えばアルミニウムやスチールなどの金属を用いることができる。このような材料を用いることにより、エネルギー吸収材4をエネルギー吸収材破壊刃11により効率よく破壊することができる。また、固定台7及びCRS固定用ベース3には軽量化の目的からプラスチック樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
次に車両の衝突時における本発明のチャイルドシート構造の作動状況について図面を用いて説明する。なお、本説明における図面において図1と同一の箇所には同一の符号を付し、以下も同様とする。
【0025】
図2は本発明のチャイルドシート構造の作動状況を説明するための図である。図2(A)は本発明のチャイルドシート構造の非作動状態と作動状態の状況を説明するための図であり、図2(A)においては非作動状態を実線、作動状態を破線で示しており、乗員の図示は省略している。なお、本図においては、車両の進行方向は矢印のように図面上で左側へ向かっており、CRS本体は進行方向に対して後向きに設置している例を示しているが、CRS本体の向きについては特に制限されるものではなく、乗員の年齢や体重に応じて適宜選択できる。
【0026】
ここで、CRS本体1に乗員が着座すると、その体重の軽重に応じて固定台7に設けられた体重検知用バネ6が作用することによりCRS載置台5が上下し、その結果CRS載置台5に載置されたCRS本体1も上下することになる。即ち、乗員の体重が軽い場合にはCRS本体1の沈み込みが少なく、体重が重い場合には沈み込みが多くなる。
【0027】
そして、車両が通常走行している場合には、チャイルドシート構造には負荷がかからないため実線で示す非作動状態で推移する。もしこのような時に衝突事故が発生した場合、CRS本体1には車両の進行方向へ進もうとする力が加わる。このような場合、破線で示す作動状態のように、CRS固定用ベース3のCRS本体スライドレール(本図においては不図示)上を固定台7が車両進行方向へ摺動し、その結果固定台7上に載置されたCRS載置台5とCRS本体1もまた車両進行方向に摺動する。
【0028】
このような状態になると、CRS載置台5の一端部に一体的に設けられたエネルギー吸収材破壊刃11がCRS固定用ベース3に配置されたエネルギー吸収材4を破壊しながら進むことになるため、衝突により加わる車両Gの一部が吸収されることになる。なお、破線で示す作動状態の場合は、実線で示す非作動状態の場合よりも体重が重い例、即ちCRS本体1の沈み込みが多い例を示している。
【0029】
ここで、エネルギー吸収材4の形状としては、図に示すように逆階段状であることが好ましい。このような形状にすると、図2(B)に示すように、乗員の体重が軽い場合には体重検知用バネ6の作用によりCRS本体1の沈み込みが少ないので、エネルギー吸収材破壊刃11がエネルギー吸収材4の厚みの薄いaの部分を破壊してエネルギーを吸収し、乗員の体重がより重くなると、CRS本体1の沈み込みも多くなるので、エネルギー吸収材4のbの部分まで破壊してより大きくエネルギーを吸収する。さらに体重が重くなるとエネルギー吸収材4のcの部分までも破壊することになり、エネルギー吸収量を極めて大きくできる。このように、体重差に応じて最適な条件でエネルギーの吸収を行うことができる。
【0030】
なお、エネルギー吸収材4の形状については特に限定されるものではなく、本実施の形態のように逆階段状でもよく、また、図2(C)に示すように、単純に直方体とし、乗員の体重差に応じてエネルギー吸収材4を破壊してゆくようにしても差し支えない。
【0031】
また、エネルギー吸収材破壊刃11の形状としては、エネルギー吸収材破壊刃11の幅方向(図1に示すエネルギー吸収材破壊刃11のW方向)に複数の刃が間隔をおいて配置されているものが好ましい。
【0032】
図3にエネルギー吸収材破壊刃の形状の例を示す。図3(A)は、エネルギー吸収材破壊刃11を図2(A)のX方向から見た図であり、複数の刃11aが一定間隔をおいて配置されている。このような形状が好ましい理由は、エネルギー吸収材破壊刃が幅方向に渡って1枚刃で形成されている場合においては、エネルギー吸収材に対する抵抗が大きく、その抵抗のために刃がエネルギー吸収材に深く入り込むことが困難であることから十分なエネルギー吸収を行うことができないのに対して、複数の刃を間隔をおいて配置した場合には、1枚刃の形状よりもエネルギー吸収材への入り込みが容易で、効率よくエネルギー吸収材を破壊することができ、その結果目的とする十分なエネルギーの吸収を行うことができるからである。
【0033】
また、エネルギー吸収材破壊刃11の個々の刃11aは、図3(B)に示すように、それぞれ刃の進行方向(矢印方向)の側、即ちエネルギー吸収材4に対向する側tの部分の角度θが鋭角に形成されていることが好ましい。個々の刃をこのような形状とすることにより、エネルギー吸収材へ刃が深く入り込みやすくなり、効率よくかつ十分にエネルギーの吸収を行うことが可能となる。
【0034】
このように本発明のチャイルドシート構造によれば、体重検知ユニットの体重検知用バネの作用により乗員の体重の軽重に応じてエネルギー吸収材破壊刃が上下し、車両の衝突時には体重が重い場合はエネルギー吸収量を大きくし、体重が軽い場合はエネルギー吸収量を小さくするようにエネルギー吸収材破壊刃がエネルギー吸収材を破壊するので、乗員の体重差による最適なエネルギー吸収を行うことができる。従って、乗員の体重の軽重を検知し、エネルギー吸収量をその体重に応じて最適に調整することができるので、車両の衝突時の乗員傷害値の軽減を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のチャイルドシート構造は、乗員の体重の軽重に応じて効率よく衝突時のエネルギーを吸収できる構造であるため、自動車などの車両ばかりではなく、本発明の目的と同一の目的を有する例えば航空機などに対しても特に制限することなく広汎に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1・・・・・・・・・・CRS本体
2・・・・・・・・・・体重検知ユニット
3・・・・・・・・・・CRS固定用ベース
4・・・・・・・・・・エネルギー吸収材
5・・・・・・・・・・CRS載置台
6・・・・・・・・・・体重検知用バネ
7・・・・・・・・・・固定台
8・・・・・・・・・・側板
9・・・・・・・・・・長孔
10・・・・・・・・・・支持棒
11・・・・・・・・・エネルギー吸収材破壊刃
11a・・・・・・・個々の刃
12・・・・・・・・・CRS本体スライドレール
13・・・・・・・・・締結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャイルドシート本体と、前記チャイルドシート本体を載置するためのチャイルドシート載置台が固定台に設けられた複数の体重検知用バネで支持されてなる体重検知ユニットと、前記体重検知ユニットを摺動可能に載置するためのチャイルドシート本体スライドレールが上面に設けられたチャイルドシート固定用ベースと、前記チャイルドシート固定用ベース上に配置されたエネルギー吸収材とからなり、前記チャイルドシート載置台の一端部には前記チャイルドシート載置台と一体に形成されたエネルギー吸収材破壊刃が設けられており、前記エネルギー吸収材破壊刃により前記エネルギー吸収材を破壊して衝突時のエネルギー吸収を可能にしたことを特徴とするチャイルドシート構造。
【請求項2】
前記エネルギー吸収材は逆階段状の形状であることを特徴とする請求項1記載のチャイルドシート構造。
【請求項3】
前記エネルギー吸収材破壊刃は幅方向に渡って複数の刃が間隔をおいて配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチャイルドシート構造。
【請求項4】
前記エネルギー吸収材破壊刃の複数の刃のそれぞれは、前記エネルギー吸収材破壊刃の前記エネルギー吸収材に対向する側の角度が鋭角に形成されていることを特徴とする請求項3記載のチャイルドシート構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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