説明

チューブ内側を表面処理する装置およびその方法

【課題】チューブ状高分子材料のチューブ内側を煩雑な操作をすることなく効率的に表面処理する装置およびその方法を提供する。
【解決手段】チューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理するための装置であって、表面処理剤を収容するタンクと、前記チューブ状高分子材料を収容するマイクロ波照射器具と、前記タンクから、前記マイクロ波照射器具内部に設けられたチューブ状高分子材料のチューブ内側に、表面処理剤を供給する送液手段と、を備えることを特徴とするチューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理するための装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ内側を表面処理する装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場においては、高分子材料、例えばポリオレフィン樹脂で作製されたチューブが血液や体液などの送液用チューブとして使用されている。しかし、医療デバイスとして利用した場合、時間とともにチューブ内側にタンパク質が吸着したり、チューブ内側で血液が凝固するなどして血栓が生じてしまうことがある。そこで、チューブ外側は、高分子材料の有する機械特性を保持しつつ、チューブ内側のみが表面処理、例えば親水性処理されることで、スムーズに送液できるような、新規なチューブの提供が求められている。
【0003】
チューブ内側のみが表面処理されたようなチューブを得る方法として、例えば、表面処理されていないポリオレフィン樹脂をチューブの外層に、表面処理されたポリオレフィンをチューブの内層に使用して、外層と内層を接着させる方法がある。しかし、かかる方法では、使用期間が長くなるにつれて、層間での剥離が生じる問題がある。
【0004】
また、チューブ内側のみが表面処理されたようなチューブを得る方法として、チューブ内側に固定された加水分解可能な疎水性基を加水分解する方法がある。例えば、特許文献1には、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなるチューブ内側のアセチル基の少なくとも一部を加水分解して水酸基に置換し、チューブ内側を親水性処理した医療用チューブが開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載された方法では、加水分解の際の処理時間が長く、また処理溶液の濃度も高い。さらに、処理時間や、処理溶液のpHを厳密に制御する必要があるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−6777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、チューブ状高分子材料のチューブ内側を煩雑な操作をすることなく効率的に表面処理する装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、チューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理する装置およびその方法の開発に成功し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に関する。
(1)チューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理するための装置であって、表面処理剤を収容するタンクと、前記チューブ状高分子材料を収容するマイクロ波照射器具と、前記タンクから、前記マイクロ波照射器具内部に設けられたチューブ状高分子材料のチューブ内側に、表面処理剤を供給する送液手段と、を備えることを特徴とするチューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理するための装置。
(2)前記チューブ状高分子材料が、ポリオレフィン基質の非晶質部分に、カルボン酸ビニルを構成単位とする重合体がナノメートルオーダーで分散した構造を有することを特徴とする、(1)に記載の装置。
(3)チューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理する方法であって、表面処理剤を収容するタンクから、前記チューブ状高分子材料のチューブ内側に表面処理剤を供給し、前記チューブ状高分子材料にマイクロ波を照射することによって、前記チューブ状高分子材料のチューブを表面処理する方法。
(4)前記チューブ状高分子材料が、ポリオレフィン基質の非晶質部分に、カルボン酸ビニルを構成単位とする重合体がナノメートルオーダーで分散した構造を有することを特徴とする、(3)に記載の方法。
(5)前記表面処理剤が水酸化カリウム溶液である、(3)又は(4)に記載の方法。
(6)前記カルボン酸ビニルが酢酸ビニルである、(3)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るチューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理する装置ならびに方法によれば、煩雑な操作をすることなく効率的にチューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理することができる。また、表面処理されたチューブ状高分子材料は、医療用デバイスの材料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、表面処理装置を示す図である。
【図2】図2は、ATR−IR吸収スペクトルを示す図である。
【図3】図3は、PE/PVAcチューブを加水分解した後に、長さ方向における各位置(両端部および中央部)の断面を赤外顕微鏡により測定して得られた強度のマッピングデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の表面処理装置の実施形態(以下、本実施形態)を示す図である。図1に示すとおり、本実施形態の装置は、送液チューブ1、1’、送液ポンプ2、タンク3、マイクロ波照射器具4とを備えている。チューブ状高分子材料Aのチューブ内側に表面処理剤を注入することにより、チューブ状高分子材料Aのチューブ内側を表面処理することができる。
【0013】
以下では、本発明に係るチューブ状高分子材料の表面処理を実施するための装置とその使用方法を、図1に即して説明する。
【0014】
チューブ状高分子材料Aの末端A1に、送液チューブ1の末端11を、チューブ状高分子材料Aの外側に被せるようにして接続する。同様に、チューブ状高分子材料Aの末端A2に、送液チューブ1’の末端12’を、チューブ状高分子材料Aの外側に被せるようにして接続する。接続部分には、隙間がないよう、チューブ状高分子材料Aと送液チューブ1、1’の径が調整される。なお、チューブ状高分子材料Aと送液チューブ1、1’との接続には、チューブコネクター等を用いてもよい。
【0015】
送液チューブ1’は、送液ポンプ2を介し、送液チューブ1’の末端11’は、タンク3内部に備えられる。また、送液チューブ1の末端12もタンク3内部に備えられる。タンク3には、表面処理剤が注入される。
【0016】
チューブ状高分子材料Aは、送液チューブ1、1’に接続した状態で、マイクロ波照射器具4内部に収容される。
【0017】
送液ポンプ2を作動させると、表面処理剤がタンク3から送液チューブ1の末端12を通じて送液チューブ1内に供給される。そして、表面処理剤は、送液チューブ1の末端11からチューブ状高分子材料Aのチューブ内側に供給される。次に、チューブ状高分子材料Aの末端A2から送液チューブ1’内に供給される。表面処理剤は、送液チューブ1’の末端11’からタンク3へ供給される。
【0018】
チューブ状高分子材料Aのチューブ内側を表面処理剤が流れているのが確認できたら、マイクロ波照射器具4を作動させる。マイクロ波の照射時間は2〜5分、好ましくは3〜4分である。
【0019】
本実施形態で用いられる表面処理剤は、加水分解作用を有する溶液であることが好ましい。例えば、酸やアルカリを水やアルコールに添加したものが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどの親水性のアルコールが挙げられる。酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等の有機酸を用いることができる。また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基、ナトリウムメトキサイドなどの有機塩を用いることもできる。表面処理剤は、比較的高い沸点を有し薬剤が良好に溶解している点で、水酸化カリウムのイソプロピルアルコール溶液が最も好ましい。表面処理剤の溶液の濃度は、0.001〜0.2mol/lである。
【0020】
本実施形態で用いられる送液ポンプ2は、公知のものを使用することができ、液体を一定速度で流すことができるものであればよい。例えば、チューブポンプが使用できる。通常、チューブポンプは、送液チューブ1、1’と共に使用され、チューブポンプに備えられた圧搾部材(ローラ)が送液チューブ1、1’に沿って圧搾して移動することで、送液チューブ1、1’内に液体が流れる。
【0021】
チューブポンプのローラの回転速度によって、送液チューブ1、1’を流れる液体の流速をコントロールすることができる。本実施形態では、流速は1.2〜4.0mL/minが好ましく、1.8〜3.0mL/minがさらに好ましい。なお、送液チューブ1、1’は柔軟な弾性体からなっていれば、素材は特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、フッ素樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどが挙げられる。耐久性、安定性の面でシリコーン樹脂、フッ素樹脂が最も好ましい。また、送液チューブ1、1’の内径は、チューブ状高分子の外径よりわずかに大きく、送液チューブ1、1’とチューブ状高分子材料が密着できるように調整される。
【0022】
本実施形態で用いられるタンク3は、表面処理剤を入れて、変形等が起こらないものであればよく、通常の容器が使用できる。
【0023】
本実施形態で用いられるマイクロ波照射器具4は特に限定されないが、例えば、電子レンジである。マイクロ波とは、電波と呼ばれる帯域の中の特定範囲の呼称で、周波数が300MHzから30GHzの範囲がマイクロ波と呼ばれる。マイクロ波の発生源としては、マグネトロン、クライストロン、ジャイロトロンなどが挙げられるが、通常マグネトロンが使用される。本発明では、300MHzから5.8GHzが使用される。
【0024】
本実施形態において、チューブ状高分子材料Aとしては、ポリオレフィン基質の非晶質部分に、カルボン酸ビニルを構成単位とする重合体がナノメートルオーダーで分散した構造を有する高分子複合体が好ましい。本実施形態の装置を用いて、チューブ状高分子材料内側の表面近傍に存在する重合体のエステル基を加水分解することによって、チューブ状高分子材料内側の表面に水酸基を固定化することができる。なお、チューブ状とは、内部が中空の筒状のものをさす。
【0025】
高分子複合体は、通常条件下では熱力学的に混じり合わない2種類以上の高分子からなるコンポジットである。係る複合体は、特開2005−255964号公報およびWO2004/016659(国際公開公報)から公知である。より詳細には、このような複合体は、非晶性高分子が結晶性高分子の非晶層(球晶間、フィブリルのミクロボイド、及びラメラ構造間の全て)にナノメートルオーダーで分散して共連続相相互進入網目(IPN)を形成していることを特徴とするナノコンポジットである。ポリオレフィン基質の非晶質部分に分散させる重合体として、カルボン酸ビニルを構成単位とする重合体を用いることにより、ポリオレフィン基質の良好な機械的特性が維持されると共に、表面近傍にエステル基を有する高分子複合体を得ることができる。
【0026】
本実施形態で用いられるチューブ状高分子材料Aにおいて、ポリオレフィンとしては、特に制限はなく、望まれる物性を有する公知の高分子であればよい。具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテンなどの単独重合体、プロピレン−エチレンコポリマー、プロピレン−ブテンコポリマー等の共重合体が挙げられる。
【0027】
カルボン酸ビニルを構成単位とする重合体としては、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリ2−メチルプロピオン酸ビニルなどの単独重合体の他、カルボン酸ビニルとカルボン酸ビニルと共重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有する単量体を構成単位とする共重合体も含まれる。カルボン酸ビニルと共重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有する単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどのα−オレフィン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、メタクリル酸メチル等のメタクリル系単量体、アクリル酸メチル等のアクリル系単量体、アリルアルコール、ビニルトリメチルシランなどをあげることができる。
【0028】
チューブ状高分子材料は、超臨界流体中で、ポリオレフィン基質に、カルボン酸ビニルを含浸させつつ、当該カルボン酸ビニルを重合させて高分子複合体を形成することにより製造できる。
【0029】
高分子複合体を形成する工程において、含浸の条件には特に制限はなく、使用する超臨界流体の中に十分なモノマー(カルボン酸ビニルを含む単量体)が含浸するまでの適当な時間、適当な温度で放置することで可能である。ここで、含浸温度は超臨界条件にも依存し、続いて行う重合反応に重合開始剤が含まれている場合、その重合開始温度より数十度程度低い温度が好ましい。具体的には超臨界状態若しくは亜臨界状態の二酸化炭素を使用する場合、含浸圧力は1〜40MPa、温度は−50〜150℃、時間は0.1〜96時間の範囲である。また含浸の程度は含浸後に基質を取り出し重量増加を測定することで容易に知ることができる。含浸条件により重量増加は数wt%〜数百wt%までの範囲で自由に設定可能である。
【0030】
この工程では、含浸後、含浸させたモノマーをそのまま重合反応させる(in−situ反応)。重合反応条件は、使用した超臨界流体、非晶性高分子モノマーの種類、重合反応の種類により適宜選択することができる。好ましくは特定の温度で開始できるラジカル重合反応である。ラジカル重合反応に使用するラジカル重合反応開始剤は、すでに説明した含浸で使用する温度より数十℃高い温度で開始するものが好ましい。具体的には、α、α’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)等が挙げられる。超臨界流体が二酸化炭素であり、モノマーが酢酸ビニル(VAc)の場合、重合開始剤は約80℃で使用できるAIBNが好ましい。重合反応時間についても特に制限はなく、適宜選択し、必要ならば重合停止剤の添加、反応系の冷却等で停止することができる。また反応装置から取り出した後、基質外での重合反応により生成したポリマーを除く必要があるが、適当な溶媒により洗浄することが好ましい。
【0031】
本実施形態では、チューブ状高分子材料のチューブ内側のみを表面処理することができる。そのため、チューブ外側は高分子材料の機械特性を保持しつつ、チューブ内側のみを親水性にすることができる。
【0032】
また、本実施形態の表面処理方法では、非常に短時間でチューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理することができる。煩雑な作業を必要とせずに、表面処理を行うことができる。
【0033】
従来、処理時間を長くするとチューブ内部まで加水分解され、チューブの透明性を阻害するといった問題があり、処理時間を厳密に制御する必要があった。本実施形態では、チューブ状高分子材料内側の表面近傍に存在する重合体のエステル基を加水分解することによって、チューブ状高分子材料内側の表面に水酸基を固定化することができ、処理時間を厳密に制御することがなく表面処理を行うことができる。
【0034】
さらに、本実施形態では、表面処理剤がチューブ状高分子材料内側を一定速度で流れているため、マイクロ波を照射することによって、表面処理剤が急激に加熱されることなく、温和に、かつ、材料に対して均一に表面処理を行うことができる。なお、本実施形態では、送液ポンプを用いて、表面処理剤をチューブ状高分子材料内側に一定速度で流しているが、チューブ状高分子材料内側に表面処理剤を供給するためには、送液ポンプを用いなくてもよい。送液ポンプを用いない場合には、チューブ状高分子材料内側に表面処理剤をスポイト等で供給した後、チューブの両末端に蓋をした状態で、マイクロ波を照射する。この場合、マイクロ波を1〜2分照射した後にチューブ内に表面処理剤を追加して、再度マイクロ波を照射するのが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0036】
なお、以下の実施例において、下記の略語を用いた。
【0037】
PE:ポリエチレン
ScCO:超臨界二酸化炭素
PVAc:ポリ酢酸ビニル
【0038】
(製造例1):PE/PVAc複合体チューブの調製
PEチューブ(イマムラ製)は内径300μm、外径600μmを用いた。このチューブを5mステンレススチールのボビンに巻き、24時間アセトンを用いてSoxhlet抽出により洗浄し、減圧乾燥したものを使用した。ボビンに巻いたPEチューブをモノマー溶液に接触しないように高圧セル内に設置した。酢酸ビニル、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を所定量高圧セルに仕込み、35℃、6.00MPaまでCOを加圧後、約25分で80℃まで昇温し、24時間重合を行った。重合後、Soxhlet抽出(溶媒:アセトン、24時間)し、シート外部に付着しているPVAcを除去した。除去後、恒量になるまで減圧乾燥し、PE/PVAc複合体チューブを得た。
【0039】
PE/PVAc複合体チューブの加熱還流による表面処理反応
(実施例1):マイクロ波照射による方法
PE/PVAc複合体チューブを電子レンジ(今西金属工業社製)の中央部、高さ5cmに固定し、マイクロチューブポンプ(東京理化器械社製)を用いて、チューブ内に0.01M KOH/IPA溶液を流速2.3mL/minで流した。マイクロ波を4分間照射した。次に、MeOH及び純水で洗浄、24時間減圧乾燥し、PE/PVAc−OHチューブを得た。
【0040】
(実施例2):マイクロ波照射による方法
PE/PVAc複合体チューブを電子レンジ(今西金属工業社製)の中央部、高さ5cmに固定し、チューブ内に0.01M KOH/IPA溶液を注入した。チューブの両末端を閉じた状態で、マイクロ波を1分間照射した。1分間照射後、チューブ内にKOH/IPA溶液を追加して、マイクロ波を1分間照射した。この作業を繰り返し、合計でマイクロ波を5分間照射した。次に、MeOH及び純水で洗浄、24時間減圧乾燥し、PE/PVAc−OHチューブを得た。
【0041】
(比較例1):加熱還流による方法
PE/PVAc複合体チューブ内に80℃に加熱した0.01M KOH/IPA溶液を流速2.3mL/minで30分間流した。次に、MeOH及び純水で洗浄、24時間減圧乾燥し、PE/PVAc−OHチューブを得た。
【0042】
上で作製したチューブについて、ATR−IR測定結果によって、加水分解反応の進行を評価した。図2に、それぞれのチューブのATR−IR測定結果を示す。なお、加水分解反応が進行すると、カルボニル基に由来するピーク(1750cm-1)が消失し、OH基に由来するピーク(3350cm-1)が出現する。図2より、実施例1のチューブでは、カルボニル基に由来するピークが完全に消失し、OH基に由来するピークが出現したのが確認できた。すなわち、実施例1では、加水分解が完全に進行したことが分かる。また、実施例2のチューブでも、カルボニル基に由来するピークが完全に消失した。しかし、比較例1のチューブは、30分間も加熱したのにもかかわらず、カルボニル基に由来するピークが完全には消失しなかった。
【0043】
次に、実施例1のチューブを、およそ100μmの厚みにカットし、その断面を顕微IRにより測定した。図3に、チューブ断面の赤外顕微鏡測定から得られた強度のマッピングデータを示す。図3より、水酸基がチューブ内側の表面近傍のみに確認された。加水分解されたのは表面から約25μmの深さまでであり、チューブ内部に存在するPVAcは加水分解されていないことが分かった。なお、加水分解処理前のPEチューブおよびPE/PVAcチューブの表面では水酸基は確認されていない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の方法によって得られたチューブ状高分子材料は、チューブ外側は良好な機械的特性を維持しつつ、チューブ内側のみが表面処理されていることから、種々の医療用デバイスのマテリアルとして使用することが可能である。
【0045】
また、本発明の方法によって得られたチューブ状高分子材料は、人工血管、カテーテル、透析チューブ等への適用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理する装置であって、
表面処理剤を収容するタンクと、
前記チューブ状高分子材料を収容するマイクロ波照射器具と、
前記タンクから、前記マイクロ波照射器具内部に設けられたチューブ状高分子材料のチューブ内側に、表面処理剤を供給する送液手段と、を備えることを特徴とするチューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理する装置。
【請求項2】
前記チューブ状高分子材料が、ポリオレフィン基質の非晶質部分に、カルボン酸ビニルを構成単位とする重合体がナノメートルオーダーで分散した構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
チューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理する方法であって、表面処理剤を収容するタンクから、前記チューブ状高分子材料のチューブ内側に表面処理剤を供給し、前記チューブ状高分子材料にマイクロ波を照射することによって、前記チューブ状高分子材料のチューブ内側を表面処理する方法。
【請求項4】
前記チューブ状高分子材料が、ポリオレフィン基質の非晶質部分に、カルボン酸ビニルを構成単位とする重合体がナノメートルオーダーで分散した構造を有することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記表面処理剤が水酸化カリウム溶液である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記カルボン酸ビニルが酢酸ビニルである、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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