説明

テープカートリッジ

【課題】メッキ量が低減され且つ安価な金属プレートを用いて、金属プレートに錆が発生するのを低減する。
【解決手段】リール10を構成するハブ部材12の底板15に磁力吸引用の金属プレート20が一体化されている。ハブ部材12の円筒部13内には、テープカートリッジの不使用時にリールの回転を阻止するリールロック機構が収納されている。底板のリールロック機構側の面には、金属プレートの一部を露出させる開口19が形成されている。リールロック機構を構成する部材であって、リールの回転の許可及び阻止の切り替え動作に連動して底板に対して接離する方向に移動する部材30が、テープカートリッジの不使用時に開口を塞ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ記録用途に好ましく使用される単リール型のテープカートリッジに関する。特に、金属プレートがインサート成形されたハブ部材を備えたテープカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
単リール型のテープカートリッジは、主にコンピュータシステムのデータバックアップ用途として用いられている。
【0003】
この種のテープカートリッジにおいては、テープカートリッジをドライブ装置に装填したとき、ドライブ装置の駆動ギアとテープカートリッジのリールに形成したギアとを互いに確実に嵌合させるために、リールの中央の底板に固定された円環状の金属プレートをドライブ装置の駆動ギアに設けた磁石で吸着する。
【0004】
金属プレートは、その片面がリールの底板の、ドライブ装置の駆動ギア側の面に露出するように固定される(後述する図7A参照)。従って、金属プレートが酸素や水と接触し錆びる可能性がある。そこで、金属プレートとして、一般にSPCCなどの冷間圧延鋼板をプレス成形により所定形状に打ち抜いた後、防錆を目的としてその外表面全体にニッケルメッキなどのメッキ処理を施したものが用いられる。この金属プレートは、インサート成形によりリールの底板に一体化される。
【0005】
インサート成形時に金型内で金属プレートが位置ズレすると、金型が金属プレートを挟み込み、金型が破損してしまう。これを防止するため、金属プレートを金型内に固定する各種手法が提案されている。例えば、金属プレートに3つの貫通孔が形成されている場合には、当該貫通孔に挿入可能な突起を金型に設ける方法や、金属プレートの中央の円形の開口の端縁に係合する保持ピンを金型に設ける方法(特許文献1参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−4880号公報
【特許文献2】特開2007−52860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の金属プレートは、防錆を目的としてその全面にメッキを施すことが必須である。ところが、メッキ処理は、その過程で有害な物質が発生し環境に悪影響を及ぼすという問題を有している。
【0008】
また、打ち抜き加工の後に別工程でメッキ処理を施すことは、金属プレートの製造工程を複雑にし、コスト高となるという問題を有している。
【0009】
そこで、特許文献2には、防錆メッキされていないステンレス鋼を用いて金属プレートを作製することや、防錆メッキされていない金属プレートをリールの底板内に略非露出状態で埋設することが記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2の前者で用いられるステンレス鋼は、従来から一般的に用いられていたSPCCなどの冷間圧延鋼板に比べて高価であるので、金属プレートのコストが上昇する。一方、特許文献2の後者では、金属プレートは「略」非露出状態、即ち、不完全な非露出状態であるから、金属プレートの材料としてステンレス鋼以外の鋼板(例えばSPCC)を用いた場合には錆の発生を完全に防止することはできない。
【0011】
本発明は、上記の従来の問題を解決し、メッキ量が低減され且つ安価な金属プレートを用いながら、金属プレートに錆が発生するのを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のテープカートリッジは、筐体内に、データ記録テープが巻回されるリールが収納されたテープカートリッジである。前記リールは、円筒部と、前記円筒部の下側の開口を閉じる底板と、前記円筒部の外周面の下側から外向きに突出した下フランジとが一体的に成形されたハブ部材、及び、前記下フランジに対向するように前記円筒部に接合された上フランジを備える。磁力吸引用の金属プレートが前記ハブ部材の前記底板に一体化されている。前記円筒部内には、前記テープカートリッジの不使用時に前記リールの回転を阻止するリールロック機構が収納されている。前記底板の前記リールロック機構側の面には、前記金属プレートの一部を露出させる開口が形成されている。前記リールロック機構を構成する部材であって、前記リールの回転の許可及び阻止の切り替え動作に連動して前記底板に対して接離する方向に移動する部材が、前記テープカートリッジの不使用時に前記開口を塞ぐ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テープカートリッジの不使用時に、リールロック機構を構成する部材が、金属プレートの一部を露出させる開口を塞ぐので、テープカートリッジを多湿環境下で長期間保存した場合に、開口内に露出した金属プレートの部分から錆が発生するのを低減することができる。
【0014】
従って、金属プレートの外表面全体にメッキを施したり、金属プレートの材料としてステンレス鋼を用いたりする必要がない。これにより、メッキ量を少なくすることができる。また、金属プレートの製造工程を簡単化することができ、金属プレートを低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1Aは本発明の実施形態1にかかるテープカートリッジの上面図、図1Bはその側面図、図1Cはその下面図である。
【図2】図2は、図1Aの2−2線を含む面に沿った、不使用時の本発明の実施形態1にかかるテープカートリッジの断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態1にかかるテープカートリッジの主要構成部材を示した分解斜視図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態1にかかるテープカートリッジに使用されるロック解除部材の下方から見た斜視図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態1にかかるテープカートリッジに使用される金属プレートの断面図である。
【図6A】図6Aは、従来のハブ部材の製造方法において、金属プレートを固定側金型に固定する直前の状態を示した断面図である。
【図6B】図6Bは、従来のハブ部材の製造方法において、金属プレートを固定側金型にエア吸引により密着させる工程を示した断面図である。
【図6C】図6Cは、従来のハブ部材の製造方法において、固定側金型と可動側金型とを密着させて形成されたキャビティ内に樹脂を注入する工程を示した断面図である。
【図6D】図6Dは、従来のハブ部材の製造方法において、金型を開いた状態を示した断面図である。
【図6E】図6Eは、従来のハブ部材の製造方法において、成形したハブ部材を取り出す工程を示した断面図である。
【図7】図7Aは従来のハブ部材の下方から見た斜視図、図7Bはその上方から見た斜視図である。
【図8A】図8Aは、本発明の実施形態1にかかるハブ部材の製造方法において、金属プレートを可動側金型に固定する直前の状態を示した断面図である。
【図8B】図8Bは、本発明の実施形態1にかかるハブ部材の製造方法において、金属プレートを可動側金型に固定した状態を示した断面図である。
【図8C】図8Cは、本発明の実施形態1にかかるハブ部材の製造方法において、固定側金型と可動側金型とを密着させて形成されたキャビティ内に樹脂を注入する工程を示した断面図である。
【図8D】図8Dは、本発明の実施形態1にかかるハブ部材の製造方法において、金型を開いた状態を示した断面図である。
【図8E】図8Eは、本発明の実施形態1にかかるハブ部材の製造方法において、成形したハブ部材を取り出す工程を示した断面図である。
【図9】図9Aは、本発明の実施形態1にかかるハブ部材の製造方法において、金属プレートを可動側金型にエア吸引するための構成例を示した断面図である。図9Bは、本発明の実施形態1にかかるハブ部材の製造方法において、金属プレートを可動側金型にエア吸引するための別の構成例を示した断面図である。
【図10】図10Aは本発明の実施形態1にかかるハブ部材の下方から見た斜視図、図10Bはその上方から見た斜視図である。
【図11】図11は、本発明の実施形態1にかかるハブ部材の底板及びその周辺の拡大断面図である。
【図12】図12は、本発明の実施形態1にかかるテープカートリッジを示した図2の部分XIIの拡大断面図である。
【図13】図13は、本発明の実施形態2にかかるテープカートリッジに使用されるロック解除部材の下方から見た斜視図である。
【図14】図14は、不使用時の本発明の実施形態2にかかるテープカートリッジの、底板の開口及びその周辺の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の上記のテープカートリッジにおいて、前記リールロック機構は、上下動可能且つ回転不能に前記筐体に支持されたリール押さえ部材と、前記リール押さえ部材に対して前記底板に向かう向きの付勢力を印加するバネと、前記リール押さえ部材と前記底板との間に配置され、前記リール押さえ部材を前記バネの付勢力に反して上昇させるロック解除部材とを備えることが好ましい。この場合、前記リール押さえ部材及び前記底板の互いに対向する面には、互いに噛み合うことにより前記リールの回転を阻止するロック歯が形成されていることが好ましい。また、前記開口を塞ぐ前記部材は、前記ロック解除部材であることが好ましい。かかる好ましい構成によれば、本発明を「LTOカートリッジ」と呼ばれるテープカートリッジに大幅な設計変更を行うことなく適用することができ、その結果、上記の効果を得ることができる。
【0017】
前記金属プレートは環状形状を有していることが好ましい。この場合、前記開口は、前記金属プレートの内側面又は外側面の一部を露出させることが好ましい。かかる好ましい構成によれば、ハブ部材をインサート成形する際に、環状形状を有する金属プレートを、金型に設けた保持ピンを用いて金型内に容易に保持することができる。
【0018】
前記金属プレートの前記リールロック機構とは反対側の全面が、前記底板によって覆われていることが好ましい。かかる好ましい構成によれば、金属プレートの前記リールロック機構とは反対側の全面にメッキを施す必要がない。
【0019】
前記開口を塞ぐ前記部材は、前記開口に嵌入する突起を備えることが好ましい。かかる好ましい構成によれば、テープカートリッジの不使用時に開口の密閉性が向上するので、金属プレートに錆が発生するのを更に低減することができる。
【0020】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、以下の各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。以下に示す図において、同一の部材には同一の符号をしており、それらについての重複する説明を省略する。
【0021】
(実施形態1)
図1Aは本発明の実施形態1にかかるテープカートリッジ1の上面図、図1Bはその側面図、図1Cはその下面図である。テープカートリッジ1は、上ハーフ2aと下ハーフ2bとが上下方向に接合された箱状(中空の略直方体形状)の筐体2を備える。
【0022】
図2は、図1Aの2−2線を含む面に沿ったテープカートリッジ1の断面図である。図3は、テープカートリッジを構成する筐体2及びリールロック機構の分解斜視図である。以下の説明の便宜のために、上ハーフ2aの側を「上」、下ハーフ2bの側を「下」と呼ぶ。但し、この「上」、「下」はテープカートリッジ1の実際の使用状態での上下方向を意味するものではない。
【0023】
筐体2内にはリール10が内蔵されている。リール10は、中央が開口した円板状の上フランジ11と、ハブ部材12との2部品で構成される。ハブ部材12は、中空円筒形状を有する円筒部13と、円筒部13の外周面の下端から外向きに突出する円板状の下フランジ14と、円筒部13の下側の開口を閉じる底板15とを備え、これらが一体に成形されている。中央が開口した円形の金属プレート20が、インサート成形により、底板15内に埋め込まれて底板15に一体化されている(図2参照)。上フランジ11が、下フランジ14に対向するように円筒部13の上端に接合されてハブ部材12と一体化される。磁気テープ(図示せず)は、上フランジ11と下フランジ14との間に、円筒部13の外周面である円筒面上に巻回される。
【0024】
下ハーフ2bの中央には円形の貫通穴である駆動軸挿入穴2cが形成されている。この駆動軸挿入穴2c内にハブ部材12の底板15が露出している。底板15には、リール10と同心の円上に、3つの出退口(貫通孔)16が形成されている。底板15の上面には、リール10と同心の円弧に沿ってロック歯17が形成されている。底板15の下面には、ドライブ装置の駆動軸50に設けられた駆動歯51とかみ合う被駆動歯18が、リール10と同心の円弧に沿って設けられている(後述する図10A、図10Bを参照)。
【0025】
リールロック機構は、リール10の中央の円筒部13内に収納されており、下から上に向かって、ロック解除部材30、リール押さえ部材40、及びバネ45をこの順に備える。
【0026】
ロック解除部材30は、図4に示すように、中央の封止板31の外周端縁から120度間隔で放射状に延びた3本のアーム32を備える。各アーム32の先端は下向きに略90度折り曲げられて操作爪33が形成されている。
【0027】
リール押さえ部材40は、上側が開口した有底円筒形状を有する。リール押さえ部材40の底板の下面には、リール10のロック歯17(図10B参照)とかみ合うロック歯41が円状に配置されている。また、リール押さえ部材40の底板の上面の中央には略十字形状の溝(十字溝、図示せず)が形成されている。上ハーフ2aの下面には、略十字形状の十字突起2dが立設されている。リール押さえ部材40の十字溝に上ハーフ2aの十字突起2dが嵌入することにより、リール押さえ部材40は、筐体2内において、上下方向には移動可能であるが、回転することはできない。
【0028】
バネ45は、リール押さえ部材40と上ハーフ2aとの間に配置されて、リール押さえ部材40に対して下向き(底板15に向かう方向)の付勢力を印加する。
【0029】
図2は、テープカートリッジ1の不使用時の状態を示している。この状態では、バネ45の下向きの付勢力によって、リール押さえ部材40は下方に変位し、リール押さえ部材40のロック歯41とリール10のロック歯17とがかみ合う。従って、リール10は回転することができない。また、リール押さえ部材40がロック解除部材30を下方に変位させて、ロック解除部材30の操作爪33がリール10の出退口16を貫通し、リール10の底板15よりも下側に突出する。
【0030】
テープカートリッジ1がドライブ装置に装填されると、ドライブ装置の駆動軸50が、下ハーフ2bの駆動軸挿入穴2c内に挿入される。駆動軸50の上面には磁石53が設けられており、磁石53が、リール10の底板15内に埋め込まれた金属プレート20を吸着する。これにより、駆動軸50の上面に形成された駆動歯51とリール10の被駆動歯18とが確実に噛み合う。これと同時に、駆動歯51が、リール10の底板15から突出したロック解除部材30の操作爪33に当接して、ロック解除部材30をバネ45の付勢力に反して上方に押し上げる。これにより、リール押さえ部材40のロック歯41とリール10のロック歯17とのかみ合いが解除される。従って、リール10は回転可能状態となり、駆動軸50により回転される。ロック解除部材30は、リール10とともに回転する。
【0031】
図5は、金属プレート20の断面図である。金属プレート20は、鋼板を打ち抜きプレス加工することにより製造される。使用する鋼板としては、メッキ処理が施されていない金属板(例えばSPCCなどの冷間圧延鋼板)や、片面又は両面にメッキ処理を施したメッキ鋼板(例えば亜鉛メッキ鋼板(SECC、SGCCなど)又はニッケルメッキ鋼板)を用いることができる。メッキは、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、錫のいずれか、もしくはそれらのいずれか主成分とする合金で構成されていることが好ましい。メッキ処理が施されていない金属板を用いた場合には、金属プレート20の全外表面に母材である金属が露出する。また、片面又は両面にメッキ処理が施されたメッキ鋼板を用いた場合には、金属プレート20の主面21,22の一方又は両方はメッキで覆われるが、内側面23及び外側面24には、メッキ処理が施されておらず、母材である金属が露出する。外表面の少なくとも一部に母材が露出した金属プレート20を用いることにより、金属プレートのメッキ量を少なく、または無くすことができる。これにより、メッキ処理による上述した従来の問題を低減または解消することができる。
【0032】
以下に、金属プレート20をインサート成形によりハブ部材12に一体的に形成する方法を説明する。
【0033】
最初に、比較のために、従来のハブ部材の製造方法を説明する。この従来のハブ部材では、上述したように、金属プレートがドライブ装置の駆動軸側の面に露出している。
【0034】
図6Aは、金属プレート120を固定側金型71に固定する直前の状態を示した断面図である。金属プレート120は、図5に示した本発明の金属プレート20と、外形形状は略同一であるが、その全外表面にメッキ処理が施されている点で異なる。金属プレート120の固定側金型71への固定は、本例では、固定側金型71の成形面から突出した保持ピン74を金属プレート120の中央の円形の開口を規定する内側面(図5の内側面23に相当する面)に密着させ係合させることにより行う。図6Aにおいて、72は可動側金型である。
【0035】
金属プレート120を固定側金型71に密着させるために、必要に応じて金属プレート120を真空吸着する。例えば、図6Bに示すように、固定側金型71に設けた吸引穴76を介してエア吸引することにより、金属プレート120を固定側金型71に密着させる。
【0036】
次に、図6Cに示すように、可動側金型72を移動させて固定側金型71に密着させて金型を閉じる。そして、両金型71,72によって形成されたキャビティ内に、固定側金型71に形成されたゲート73から樹脂を注入する。
【0037】
次に、図6Dに示すように、可動側金型72を移動させて固定側金型71と可動側金型72とを分離する。成形されたハブ部材112は、可動側金型72に付着している。
【0038】
最後に、図6Eに示すように、イジェクタピン78を用いてハブ部材112を可動側金型72から分離する。かくして、ハブ部材112が得られる。
【0039】
図7Aは上記の製造方法によって得られた従来のハブ部材112の下方から見た斜視図、図7Bはその上方から見た斜視図である。これらの図において、本実施形態1のハブ部材12と対応する要素には同一の符号を付している。上記の製造方法から容易に理解できるように、従来のハブ部材112の下側に、金属プレート120の固定側金型71に密着していた面が露出する。底板15に保持ピン74に起因する開口119が形成され、当該開口119を介して、金属プレート120の内側面(図5の内側面23に相当する面)の一部も露出する。しかしながら、上述したように、従来の金属プレート120は、冷間圧延鋼板を円環形状に打ち抜いた後、その外表面全体にメッキ処理を施して製造されるので、金属プレート120の外表面の一部が外部に露出していても、当該露出した部分から錆が発生する可能性は低い。
【0040】
次に、本実施形態1のハブ部材12の製造方法を説明する。
【0041】
図8Aは、金属プレート20を金型に固定する直前の状態を示した断面図である。従来は金属プレート120を固定側金型71に固定した(図6A参照)のに対して、本実施形態1では金属プレート20を可動側金型72に固定する。金属プレート20を固定するために、可動側金型72の成形面から保持ピン84が突出している。図8Aに示した「A部拡大図」に示すように、保持ピン84は、可動側金型72の成形面から突出した台座部85と、台座部85から更に突出した係止部86とを備えた二段突起である。
【0042】
図8Bは、金属プレート20を可動側金型72に固定した状態を示した断面図である。金属プレート20の主面21,22(図5参照)の一方を台座部85に密着させ、内側面23(図5参照)に係止部86を密着させて係合する。
【0043】
金属プレート20を台座部85により確実に密着させるために、必要に応じて金属プレート20を真空吸着してもよい。例えば、図9Aに示すように台座部85の金属プレート20が当接する面に吸引穴88を形成し、当該吸引穴88を介してエア吸引することにより、金属プレート20を台座部85に密着させることができる。あるいは、図9Bに示すように、保持ピン85とは別に、金属プレート20が当接可能な位置に、台座部85と同一高さの第2台座部89を形成してもよい。第2台座部89の金属プレート20が当接する頂面に吸引穴88を形成する。当該吸引穴88を介してエア吸引することにより、金属プレート20を第2台座部89及び台座部85に密着させることができる。
【0044】
次に、図8Cに示すように、可動側金型72を移動させて固定側金型71に密着させて金型を閉じる。そして、両金型71,72によって形成されたキャビティ内に、固定側金型71に形成されたゲート73から樹脂を注入する。
【0045】
次に、図8Dに示すように、可動側金型72を移動させて固定側金型71と可動側金型72とを分離する。成形されたハブ部材12は、可動側金型72に付着している。
【0046】
最後に、図8Eに示すように、イジェクタピン78を用いてハブ部材12を可動側金型72から分離する。かくして、本実施形態1のハブ部材12が得られる。
【0047】
図10Aはハブ部材12の下方から見た斜視図、図10Bはその上方から見た斜視図である。図11はハブ部材11の底板15及びその周辺の拡大断面図である。
【0048】
上記の製造方法から容易に理解できるように、金型71,72によって形成されるキャビティ内において、金属プレート20は保持ピン84と当接する部分(図9Bの場合には、更に第2台座部89と当接する部分)を除いて、金型70,80の成形面と接触しない。従って、従来の金属プレート120(図7A,図7B参照)と異なり、金属プレート20は、底板15内に埋設され、その外表面の大半は樹脂で覆われる(図11参照)。また、金属プレート20は可動側金型72に固定されるので、底板15の下面(駆動軸50側の面)側に金属プレート20は露出されない(図10A、図11参照)。
【0049】
一方、金属プレート20の保持ピン84が当接した部分には樹脂は付着しない。従って、底板15の上面(ロック解除部材30側の面)に、保持ピン84に起因する開口19が形成される(図10B、図11参照)。開口19を介して、金属プレート20の外表面のうち、保持ピン85が当接していた部分が外部に露出する。具体的には、金属プレート20の内側面23(図5参照)の一部、及び、主面21又は22(図5参照)の一部が開口19を介して外部に露出する。上述したように、内側面23はメッキ処理が施されていない部分を含んでいる。また、主面21又は22にはメッキ処理が施されていない場合がある。従って、開口19は、金属プレート20のメッキ処理が施されていない母材を外部に露出させる。よって、本実施形態1のテープカートリッジ1を多湿環境下で長期間保存した場合には、当該露出した母材の部分から錆が発生することが懸念される。
【0050】
ところが、図2の部分XIIの拡大断面図である図12に示されているように、テープカートリッジ1の不使用時には、ロック解除部材30が下方に変位し、その封止板31(図3、図4参照)が底板15に当接して、開口19を塞ぐ。即ち、開口19内に露出した、金属プレート20のメッキが施されていない母材の部分は、テープカートリッジ1の不使用時にはロック解除部材30によって実質的に外部から遮断される。一般にテープカートリッジはドライブ装置内でデータを記録、再生する時間よりも、保存する時間の方が圧倒的に長いため、テープカートリッジの保存時に露出した母材の部分を外部から遮断することは、錆の発生防止には有効である。従って、本実施形態1によれば、テープカートリッジ1を多湿環境下で長期間保存した場合に、金属プレート20に錆が発生するのを低減することができる。
【0051】
本実施形態1では、可動側金型72に保持ピン84を形成する必要がある。但し、これを除けば、打ち抜き加工後に従来必要であったメッキ処理工程を行うことなく、金属プレート20を作製することができる。金属プレート20の材料として、高価なステンレス鋼を用いる必要もない。従って、メッキ量の低減と、金属プレート20の製造工程の簡単化及び低コスト化に有利である。
【0052】
図9Bに示した第2台座部89を可動側金型72に形成した場合には、第2台座89によって、底板15の上面(ロック解除部材30側の面)に、第2台座89に起因する第2開口が形成される(図示を省略)。従って、開口19と同様に、第2開口が、金属プレート20のメッキ処理が施されていない主面21又は22の一部を外部に露出させる場合があるかも知れない。このような場合であっても、上述した開口19と同様に、テープカートリッジ1の不使用時に当該第2開口をロック解除部材30で塞ぐことにより、第2開口内に露出した金属プレート20の部分から錆が発生するのを低減することができる。これから分かるように、第2台座部89は、それによって形成される第2開口がロック解除部材30で塞ぐことができるような位置に形成することが好ましい。
【0053】
(実施形態2)
本実施形態2のテープカートリッジは、ロック解除部材30の構成に関して実施形態1のテープカートリッジ1と異なる。以下、本実施形態2を、実施形態1と異なる点を中心に説明する。
【0054】
図13は、本実施形態2にかかるテープカートリッジに使用されるロック解除部材30の下方から見た斜視図である。本実施形態2のロック解除部材30は、封止板31の下側面(底板15に対向する側の面)に3つの突起35が形成されている。突起35は、ハブ部材12の底板15の上面に形成された3つの開口19(図10B参照)に対応する位置に形成されている。
【0055】
図14は、不使用時の本実施形態2にかかるテープカートリッジの、底板15の開口19及びその周辺を、図12と同様に示した拡大断面図である。本実施形態2では、テープカートリッジ1の不使用時には、ロック解除部材30が下方に変位し、ロック解除部材30の突起35が底板15の開口19内に嵌入する。従って、本実施形態2では、ロック解除部材30による開口19の密閉性が、実施形態1よりも向上する。その結果、金属プレート20に錆が発生する可能性を一層低減することができる。
【0056】
開口19の密閉性をより向上させるため、突起35の平面視形状は、開口19の平面視形状と略一致させることが好ましい。
【0057】
突起35が、保持ピン84と同様の二段突起であってもよい。この場合には、突起35が開口19に嵌入したときの、開口19内の残りの空間がより小さくなるので、密閉性が更に向上し、錆の発生の可能性を更に低減することができる。
【0058】
本実施形態2は、上記を除いて実施形態1と同じである。実施形態1の説明は、本実施形態2にも適用される。
【0059】
上記の実施形態1,2は例示に過ぎない。本発明は、実施形態1,2に限定されず、適宜変更することができる。
【0060】
例えば、上記の実施形態1,2では、保持ピン84が、金属プレート20の中央の開口の端縁を保持したが、金属プレート20の外周端縁を保持してもよい。この場合には、保持ピン84に起因する開口19を介して、金属プレート20の外側面24(図5参照)が外部に露出される。ロック解除部材30は、この開口を塞ぐことができるように設計される。
【0061】
保持ピン84の数(即ち、開口19の数)は、上記の実施形態1,2のように3つである必要はなく、これより多くても、少なくてもよい。保持ピン84の形状も、上記の実施形態1,2に限定されず、任意の形状に設定することができる。
【0062】
保持ピン84(即ち、開口19)の位置、数、形状等を変更する場合には、これに応じて、実施形態2に示したロック解除部材30の突起35の位置、数、形状等が変更される。
【0063】
ロック解除部材の構成は、上記の実施形態1,2で示したものに限定されない。上記の実施形態1,2では開口19をロック解除部材30の封止板31で塞いだが、ロック解除部材の形状や開口19の位置によっては、例えばアーム32で開口19を塞ぐこともできる。
【0064】
テープカートリッジの構成は、上記の実施形態1,2のものに限定されず、例えば公知のテープカートリッジに本発明を適用することができる。上記の実施形態1,2に示したリールロック機構は、一般に「LTOカートリッジ」と呼ばれるテープカートリッジに採用されている。しかしながら、リールの回転の許可及び阻止の切り替え動作に連動して、リールの中央の底板に対して接離する方向に移動する部材を備えるテープカートリッジであれば、本発明を適用することができる。具体的には、例えば、IBM3590、IBM3592、ORACLE T10000等のテープカートリッジにも、本発明を適用することができる。本発明を適用するにあたって、これらの従来から公知のテープカートリッジを大幅に設計変更する必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の利用分野は特に制限はなく、データ記録用の単リール型のテープカートリッジに好ましく利用することができる。特に、所望の防錆特性を有しながら低コストである単リール型のテープカートリッジとして好ましく利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 テープカートリッジ
2 筐体
10 リール
11 上フランジ
12 ハブ部材
13 円筒部
14 下フランジ
15 底板
17 ロック歯
19 底板の開口
20 金属プレート
23 金属プレートの内側面
24 金属プレートの外側面
30 ロック解除部材
35 ロック解除部材の突起
40 リール押さえ部材
41 リール押さえ部材のロック歯
45 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に、データ記録テープが巻回されるリールが収納されたテープカートリッジであって、
前記リールは、円筒部と、前記円筒部の下側の開口を閉じる底板と、前記円筒部の外周面の下側から外向きに突出した下フランジとが一体的に成形されたハブ部材、及び、前記下フランジに対向するように前記円筒部に接合された上フランジを備え、
磁力吸引用の金属プレートが前記ハブ部材の前記底板に一体化されており、
前記円筒部内には、前記テープカートリッジの不使用時に前記リールの回転を阻止するリールロック機構が収納されており、
前記底板の前記リールロック機構側の面には、前記金属プレートの一部を露出させる開口が形成されており、
前記リールロック機構を構成する部材であって、前記リールの回転の許可及び阻止の切り替え動作に連動して前記底板に対して接離する方向に移動する部材が、前記テープカートリッジの不使用時に前記開口を塞ぐことを特徴とするテープカートリッジ。
【請求項2】
前記リールロック機構は、
上下動可能且つ回転不能に前記筐体に支持されたリール押さえ部材と、
前記リール押さえ部材に対して前記底板に向かう向きの付勢力を印加するバネと、
前記リール押さえ部材と前記底板との間に配置され、前記リール押さえ部材を前記バネの付勢力に反して上昇させるロック解除部材とを備え、
前記リール押さえ部材及び前記底板の互いに対向する面には、互いに噛み合うことにより前記リールの回転を阻止するロック歯が形成されており、
前記開口を塞ぐ前記部材は、前記ロック解除部材である請求項1に記載のテープカートリッジ。
【請求項3】
前記金属プレートは環状形状を有しており、
前記開口は、前記金属プレートの内側面又は外側面の一部を露出させる請求項1又は2に記載のテープカートリッジ。
【請求項4】
前記金属プレートの前記リールロック機構とは反対側の全面が、前記底板によって覆われている請求項1〜3のいずれかに記載のテープカートリッジ。
【請求項5】
前記開口を塞ぐ前記部材は、前記開口に嵌入する突起を備える請求項1〜4のいずれかに記載のテープカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−54791(P2013−54791A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190902(P2011−190902)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)