説明

ディスプレイ用ガラス基板

【課題】大画面でも液晶ディスプレイの輝度ムラを抑えることが可能な液晶ディスプレイ用ガラス基板を提供することである。
【解決手段】本発明のディスプレイ用ガラス基板は、ガラス基板面と直交する光により測定したレタデーションをΔ(nm)、ガラス基板の辺方向に対する該レタデーションの方位角をθ(°)とした際、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる最大値が3.5×10−5以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ用ガラス基板、特に、液晶ディスプレイに用いられるガラス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、図1に示すように、液晶セル1を2枚のガラス基板、即ち、背面ガラス基板2(アレイ用ガラス基板)と前面ガラス基板3(カラーフィルター用ガラス基板)により挟み込まれた構造となっている。
【0003】
アレイ用ガラス基板2は、液晶セル1と接する側の基板表面に薄膜トランジスタ4(TFT)、透明な画素電極5及び配向膜6が形成されており、その反対側の表面には、偏光板7が貼られている。
【0004】
また、カラーフィルター用ガラス基板3は、液晶セル1と接する側の基板表面に透明な対向電極8、赤、青、緑のカラーフィルター9及び配向膜10が形成されており、その反対側の表面には、偏光板11が貼られている。尚、アレイ用ガラス基板2に貼られた偏光板7の偏光方向とカラーフィルター用ガラス基板3に貼られた偏光板11の偏光方向は互いに直交している。
【0005】
アレイ用ガラス基板2の背後にはバックライト12が設置されている。バックライト12は、ノートブックパソコン等に使用される液晶ディスプレイにおいては、例えば、数本の細い径の冷陰極管の光を拡散板(図示せず)に通して液晶セルに導く構造を有する。
【0006】
液晶ディスプレイの表示原理の概略は次のようなものである。薄膜トランジスタ4により制御された電圧を画素電極5と対向電極8の間に印加することにより、液晶セル1内の液晶分子13がまっすぐに並ぶことになり、アレイ用ガラス基板2に貼られた偏光板7で偏光されたバックライト12からの光の振動方向は、液晶セル1内で回転(旋光)しないため、カラーフィルター用ガラス基板3に貼られた偏光板11で光は遮断され、黒を表示する。逆に、電極間に電圧を印加しない場合は、液晶セル1内の液晶分子13はねじれた状態で維持されるため、アレイ用ガラス基板2に貼り付けた偏光板7で偏光されたバックライト12からの光の振動方向は、液晶セル1内で回転(旋光)し、カラーフィルター用ガラス基板3に貼り付けた偏光板11を透過し、赤、青または緑を表示する。このように、液晶セル内の液晶分子の配列を制御することで、バックライトからの光の振動方向を制御し、カラーフィルター用ガラス基板に貼られた偏光板で光を透過させたり、遮断させたりして画像を表示させている。
【0007】
ところで、ガラス基板としては、ガラス溶融炉で溶融したガラス融液を、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法等によって一定の厚さに成形し、所定寸法のサイズに切断したものが用いられている。通常、上記方法で製造されたガラス基板には歪が残存しており、ガラス基板にレタデーションが生じ、透過した光の偏光状態が変化する。そのため、歪が残存するガラス基板を液晶ディスプレイ用途に用いると、本来、光が遮断される箇所で光漏れが起こり、画面全体或いは一部に輝度ムラが発生するという問題が生じる。この問題を解決するために、所定寸法に切断したガラス基板にアニール処理を施して、ガラス基板に残存する歪の量を小さくすることが考えられるが、処理時間とコストがかかるという問題がある。
【0008】
そこで、光漏れを抑えて輝度ムラの発生を防止するために、特許文献1では、ガラス基板の厚みと光弾性定数の積を所定値以下に制限したガラス基板を用いることが提案されている。また、特許文献2では、ガラスの熱膨張係数、ヤング率及び光弾性定数の積を所定値以下に制限したガラス基板を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−255517号公報
【特許文献2】特開2001−172041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、ディスプレイの大型化が進んでおり、それに伴ってガラス基板のサイズも大きくなってきている。
【0011】
しかしながら、ガラス基板が大きくなる程、残留する歪の量も大きくなる傾向にあり、特許文献1及び2で開示されているガラス基板を用いても、光漏れが生じることがあり、画面全体に輝度ムラが発生することがあった。
【0012】
本発明の目的は、大画面でも液晶ディスプレイの光漏れを抑えて、輝度ムラの発生を抑制することが可能な液晶ディスプレイ用ガラス基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は種々検討した結果、レタデーションの大きさ及び/またはレタデーションの方位角を制御することで、液晶ディスプレイにした際に、光漏れを抑えて、輝度ムラの発生を抑制できることを見いだし、本発明を提案するに至った。
【0014】
即ち、本発明のディスプレイ用ガラス基板は、ガラス基板面と直交する光により測定したレタデーションをΔ(nm)、ガラス基板の辺方向に対する該レタデーションの方位角をθ(°)とした際、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる最大値が3.5×10−5以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガラス基板は、ガラス基板のレタデーションをΔ、ガラス基板の辺方向に対する該レタデーションの方位角をθとした際に、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる値を小さくしているため、液晶ディスプレイにした際に、光漏れを抑えることができ、輝度ムラの発生を抑制することができる。それ故、液晶ディスプレイに用いられるディスプレイ用ガラス基板として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ディスプレイの輝度ムラの発生は、ガラス基板のレタデーションの大きさだけでなく、該レタデーションのガラス基板の辺方向に対する方位角にも影響を受ける。
【0017】
そこで、本発明のディスプレイ用ガラス基板は、ガラス基板のレタデーションをΔ、ガラス基板の辺方向に対する該レタデーションの方位角をθとした際に、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる値を3.5×10−5以下と小さくなるようにしているため、液晶ディスプレイにした際に、光漏れを抑えて、輝度ムラの発生を抑制することができる。尚、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる値が3.5×10−5より大きくなると、液晶ディスプレイにした際、光漏れが生じやすくなり、画面全体に輝度ムラが発生しやすくなる。この値の好ましい範囲は3.0×10−5以下であり、より好ましくは2.0×10−5以下である。
【0018】
尚、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる値を小さくするには、ガラス基板のレタデーションΔや{sin(2θ)}の値を小さくすればよく、このようなガラス基板を得るには、例えば、ガラス溶融炉で溶融したガラス融液を成形炉(成形体)で板状のガラス(ガラスリボン)に成形する際に、ガラスリボンの端部の厚みがガラスリボンの中央部の厚みとほぼ同じ厚みとなるように成形したり、成形したガラスリボンを徐冷炉で徐冷(冷却)する際に、ガラスリボンの幅方向における温度分布をできるだけ小さくするように冷却すればよい。
【0019】
また、成形工程において、ガラスリボンの端部の厚みをガラスリボンの中央部の厚みとほぼ同じ厚みになるように成形する理由は、ガラスリボンの端部の厚みがガラスリボンの中央部の厚みと異なると、成形後の冷却工程において、ガラスリボンの端部と中央部とで冷却速度が異なり、その結果、ガラス基板面内のレタデーションの大きさやその方位角にばらつきが生じやすくなるためである。ガラスリボンの端部の厚みとガラスリボンの中央部の厚みが同じになるように成形するには、ガラス融液をガラスリボンに延伸成形するための成形ロール等の回転速度等を調整することで行うことができる。
【0020】
また、徐冷炉での冷却工程において、ガラスリボンの幅方向における温度分布をできるだけ小さくするには、次のようにすることで行える。
(1)ガラスリボンが均一に加熱されるように、ヒーターの数を多くする。
(2)ヒーターからの熱がガラスリボンに均一に伝わるように、ヒーターとガラスリボンの間に均熱板を設置する。
(3)ガラスリボンの中央部と端部の冷却速度の差が小さくなるように、ガラスリボンの端部に囲いを設置したり、その部分にヒーターを多く配置する。
(4)ガラスの板引き速度を低く(遅く)する。
【0021】
尚、ガラス融液を成形炉でガラスリボンに成形した後、垂直方向(下方向)に板引きしながら、徐冷炉で冷却(徐冷)した後、切断することでガラス基板を得るオーバーフローダウンドロー法やスリットダウンドロー法は、ガラス融液を水平方向に板引きし、徐冷、切断してガラス基板を得るフロート法と異なり、低温雰囲気である切断工程から高温雰囲気である徐冷炉及び成形炉の方向に、常にガラスリボンの表面に沿って低温の空気流が上昇し、上昇した低温の空気流は徐冷炉等の内部で加熱された後、その一部が周壁部の隙間を通して外部雰囲気に洩れ出すため、徐冷炉や成形炉の雰囲気温度が変動しやすくなっている。その結果、オーバーフローダウンドロー法やスリットダウンドロー法で成形されたガラス基板は、ガラス基板面内のレタデーションの大きさやその方位角にばらつきが生じやすくなっている。
【0022】
そのため、オーバーフローダウンドロー法やスリットダウンドロー法でガラス基板を成形する場合は、ガラスリボンの端部と中央部の厚みをほぼ同じ厚みにすること、温度分布を小さくすることに加えて、徐冷炉や成形炉における低温の空気流の上昇を抑える必要がある。
【0023】
尚、徐冷炉や成形炉における低温の空気流の上昇を抑えるには、徐冷炉内に対流防止板を設けたり、送風機等を用いて成形炉や徐冷炉の外部雰囲気の気圧が高くなるように調整する等して、成形炉や徐冷炉内の空気を外部雰囲気に洩れ出しにくくすればよい。
【0024】
また、上記の方法以外にも、ガラス中のSiOやAlやBの含有量を多くしてガラスの熱膨張係数を小さくしたり、アルカリ土類金属酸化物の含有量を多くしてガラスの光弾性定数を小さくしてもよい。
【0025】
また、本発明のディスプレイ用ガラス基板は、歪が残存しやすく、輝度ムラが顕著に現れやすい大型のガラス基板、具体的には、短辺の長さが1000mm以上であるガラス基板として特に好適である。
【0026】
また、本発明のディスプレイ用ガラス基板の具体的な組成は、耐薬品性、熱収縮性、溶融性、成形性、熱膨張係数等を考慮して、用途に応じて適宜決定すればよい。好適な組成範囲は、質量百分率で、SiO 40〜70%、Al 2〜25%、B 0〜20%、MgO 0〜10%、CaO 0〜15%、SrO 0〜10%、BaO 0〜15%、ZnO 0〜10%、RO(RはLi、Na、Kを表わす) 0〜25%、ZrO 0〜10%である。
【0027】
本発明においてガラスの組成を上記のように限定した理由は、次のとおりである。
【0028】
SiOは、ガラスのネットワークフォーマーとなる成分であり、ガラスの熱膨張係数を低下させて、ガラス基板のレタデーションΔの値を小さくしたり、ガラスの耐酸性を向上させたり、ガラスの歪点を上昇させてガラス基板の熱収縮を小さくする効果がある。その含有量は40〜70%である。SiOの含有量が多くなると、ガラスの高温粘度が高くなり、溶融性が悪化すると共にクリストバライトの失透ブツが析出しやすくなる傾向にある。一方、含有量が少なくなると、ガラスの熱膨張係数が大きくなりやすく、ガラス基板のレタデーションΔの値が大きくなる傾向にある。また、ガラスの耐酸性や歪点が低下する傾向にある。SiOのより好ましい範囲は50〜67%であり、さらに好ましい範囲は、57〜64%である。
【0029】
Alは、ガラスの熱膨張係数を低下させて、ガラス基板のレタデーションΔの値を小さくする成分である。また、ガラスの歪点を上昇させたり、クリストバライトの失透ブツの析出を抑える効果もある。その含有量は2〜25%である。Alの含有量が多くなると、ガラスの耐バッファードフッ酸性が悪化したり、液相温度が上昇して成形しにくくなる傾向にある。一方、含有量が少なくなると、ガラスの熱膨張係数が大きくなりやすく、ガラス基板のレタデーションΔの値が大きくなる傾向にある。また、ガラスの歪点が低下する傾向にある。Alのより好ましい範囲は10〜20%であり、さらに好ましい範囲は14〜17%である。
【0030】
は、融剤として作用し、ガラスの粘性を下げ、溶融性を改善する成分である。また、ガラスの熱膨張係数を低下させて、ガラス基板のレタデーションΔの値を小さくする成分でもある。その含有量は0〜20%である。Bの含有量が多くなると、ガラスの歪点が低下したり、耐酸性が悪化する傾向にある。一方、含有量が少なくなると、ガラスの熱膨張係数が大きくなりやすく、ガラス基板のレタデーションΔの値が大きくなる傾向にある。また、融剤として十分に作用せず溶融性が低下する傾向にある。Bのより好ましい範囲は5〜15%であり、さらに好ましい範囲は7.5〜12%である。
【0031】
MgOは、ガラスの歪点を低下させずに高温粘性のみを低下させて、ガラスの溶融性を改善する成分である。また、ガラスの光弾性定数を低くする成分でもある。その含有量は0〜10%である。MgOの含有量が多くなると、失透ブツが析出しやすくなる。また、耐バッファードフッ酸性が低下し、ガラス基板表面が侵食されて、反応生成物がガラス基板表面に付着し、ガラス基板が白濁し易くなる。MgOのより好ましい範囲は0〜5%であり、さらに好ましい範囲は0〜3.5%である。
【0032】
CaOは、ガラスの歪点を低下させずに高温粘性のみを低下させて、ガラスの溶融性を著しく改善する成分である。また、ガラスの光弾性定数を低くする成分でもある。その含有量は0〜15%である。CaOの含有量が多くなると、耐バッファードフッ酸性が悪化する傾向にある。CaOのより好ましい範囲は0〜12%であり、さらに好ましい範囲は3.5〜9%である。
【0033】
SrOは、ガラスの耐薬品性と耐失透性を向上させる成分である。また、ガラスの光弾性定数を低くする成分でもある。その含有量は0〜10%である。SrOの含有量が多くなると、ガラスの熱膨張係数が大きくなりやすく、ガラス基板のレタデーションΔの値が大きくなる傾向にある。SrOのより好ましい範囲は0〜8%であり、さらに好ましい範囲は0.5超〜8%である。
【0034】
BaOは、SrOと同様にガラスの耐薬品性と耐失透性を向上させる成分である。また、ガラスの光弾性定数を低くする成分でもある。その含有量は0〜15%である。BaOの含有量が多くなると、ガラスの密度や熱膨張係数が大きくなったり、溶融性が著しく悪化する傾向にある。BaOのより好ましい範囲は0〜10%であり、さらに好ましい範囲は0〜8%である。
【0035】
ZnOは、ガラスの耐バッファードフッ酸性や溶融性を改善する成分である。その含有量は0〜10%である。ZnOの含有量が多くなると、ガラスの耐失透性や歪点が低下する傾向にある。ZnOのより好ましい範囲は0〜5%であり、さらに好ましい範囲は0〜1%である。
【0036】
O(RはLi、Na、Kを表わす)は、ガラスの粘度を低下させて溶融性を改善する成分である。その含有量は0〜25%である。ROの含有量が多くなると、ガラスの歪点が低下する傾向にある。ROのより好ましい範囲は0〜20%である。
【0037】
尚、本発明のディスプレイ用ガラス基板を液晶ディスプレイ用途に使用する場合、使用するガラスは無アルカリガラスにすべきである。その理由は、ガラス中にアルカリ金属酸化物を含有すると、ガラス中のアルカリ成分が、ガラス基板上に形成された各種の膜やTFT素子の特性を劣化させる虞があるからである。尚、無アルカリとは、ROが0.1%以下を意味する。
【0038】
ZrOは、ガラスの歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%である。ZrOの含有量が多くなるとガラスの密度が著しく上昇したり、ZrOに起因する失透物が析出する傾向がある。ZrOのより好ましい範囲は0〜7%であり、さらに好ましい範囲は0〜5%である。
【0039】
また、本発明において、上記成分以外にも、例えば、液相温度を低下させて成形性を向上させるためにY、La、Nb、Pを各3%まで、清澄剤としてAs、Sb、SnO、SO、F、Cl等を合量で2%まで添加することが可能である。但し、As、Sbは、環境負荷物質であること、また、フロート法で成形する場合、As、Sbはフロートバス中で還元されて金属異物となるため、導入は避けるべきである。
【0040】
次に、本発明のディスプレイ用ガラス基板を製造する方法を説明する。
【0041】
まず、上記のガラス組成範囲となるようにガラス原料を調合する。続いて、調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して加熱溶融し、脱泡した後、ガラス融液を成形装置に供給し端部の厚みと中央部の厚みがほぼ同じ厚みとなるようにガラスリボンに成形したり、徐冷炉での冷却工程で、ガラスリボンの幅方向における温度分布をできるだけ小さくすることで、レタデーションΔや{sin(2θ)}の小さいガラス基板を得ることができる。
【0042】
尚、ガラス基板の成形方法としては、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法等の様々な成形方法があるが、ダウンドロー法、特に、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形することが好ましい。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、比較的容易に大型のガラス基板を得やすく、しかも、他の成形方法と異なり、ガラス基板の表面は、成形体と接することがないため、汚染部のないガラス表面を有するガラス基板を得ることができる。そのため、ガラス基板表面の研磨が不要となり、製造コストを抑えることができるためである。また、研磨による微小傷の発生をなくすこともできる。但し、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形する場合は、ガラスリボンの端部と中央部の厚みをほぼ同じ厚みにすること、温度分布を小さくすることに加えて、徐冷炉や成形炉における低温の空気流の上昇を抑える必要がある。
【実施例】
【0043】
以下、本発明のディスプレイ用ガラス基板を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0044】
表1は本発明の実施例(試料No.1、2)及び比較例(試料No.3)をそれぞれ示している。
【0045】
【表1】

【0046】
表中の各試料は、次のようにして作製した。
【0047】
まず、質量%で、SiO 59%、Al 15%、B 10%、CaO 6%、SrO 7%、BaO 2%、ZnO 1%の組成となるようにガラス原料を調合し、連続溶融炉で溶融する。
【0048】
続いて、図2に示すようなオーバーフローダウンドロー設備を用いて、溶融ガラスAを成形炉20内に設けられた成形体21の頂部に供給し、その溶融ガラスAを成形体21の頂部から溢れ出させると共にその下端部で融合させ、融合させた溶融ガラスAの両端部を成形体21の下端部付近に設けた一対の成形ロール22で挟持し板引きすることでガラスリボンBを成形した。
【0049】
次に、成形したガラスリボンBが表面張力等で幅方向に収縮しないように、徐冷炉23内に垂直方向に設置した複数対の引っ張りロール24でガラスリボンBを幅方向に引っ張り、ガラスリボンBの中央部の温度が700℃の時のガラスリボンBの中央部と端部における温度差、ガラスリボンBの中央部の温度が680℃の時のガラスリボンの幅方向における最高温度と最低温度の差及び板引き速度が表1に示す値となるように、冷却しながら下方に牽引することで、中央部と端部の肉厚が約0.7mmのガラスリボンBとした。
【0050】
次に、徐冷炉23下方に設けられた冷却室25に配置されている複数対の支持ロール26で固化したガラスリボンBを下方に牽引しながら室温まで冷却し、切断室27でガラスリボンBを切断することでガラス基板Cを得て、これを試料ガラスとした。
【0051】
尚、成形炉20や徐冷炉23における低温の空気流の上昇を抑えるために、成形室28に配置された送風機29を稼働させ、周壁部30に取り付けられたフィルター31を通してこの設備の外部から成形室28内に空気を導入することで成形炉20や徐冷炉23の外部雰囲気を加圧してガラス基板を作製した。また、徐冷装置とは、ヒーターや冷却器を備えた、ガラスの徐冷点〜歪点の範囲を含む範囲の温度を制御することができる装置を指し、表1中の板引き速度におけるL(cm)はこの徐冷装置の長さを示す。また、試料No.1及びNo.3については1000mm×1200mmのサイズに、試料No.2については1050mm×1250mmのサイズに切断することで試料ガラスとした。また、得られたガラスの熱膨張係数、光弾性定数、徐冷点及び歪点を測定したところ、各試料とも熱膨張係数は37×10−7/℃であり、光弾性定数は33(nm/cm)/MPaであり、また、徐冷点は705℃であり、歪点は650℃であった。
【0052】
このようして得られた各試料について、ガラス基板内におけるレタデーションΔ、ガラス基板の辺方向に対する該レタデーションの方位角θを測定し、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる最大値を求めた。また、作製したガラス基板を用いてディスプレイ装置を作製し、輝度ムラの発生状態を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0053】
表1から明らかなように、実施例である試料No.1は、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる最大値が1.8×10−5(レタデーションΔ:0.80nm、方位角θ:55.6°)であり、また、試料No.2は、2.2×10−5(レタデーションΔ:0.82nm、方位角θ:42.6°)と小さかった。また、ディスプレイ装置を作製し点灯させた際の輝度ムラの発生状態も全く認められない若しくは弱いものであった。
【0054】
これに対して、比較例である試料No.3は、ガラス基板内における{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる最大値が3.7×10−5(レタデーションΔ:1.07nm、方位角θ:−46.5°)と大きく、ディスプレイ装置を作製し点灯させた際の輝度ムラも強く発生していた。
【0055】
尚、ガラス基板中のレタデーションΔ及びガラス基板の辺方向に対する該レタデーションの方位角θは、ガラス基板上の50mm間隔における点についてユニオプト製の歪計を用いて光ヘテロダイン法により求めた。尚、図3〜5において、各円の中心は測定点、円の直径はレタデーションΔの大きさ、円の直径として描かれた線の方向はガラス基板の辺方向に対するレタデーションの方位角θを示している。
【0056】
また、輝度ムラの発生状態については、ディスプレイ装置を点灯させた際の画面上の輝度ムラを目視で観察し、輝度ムラが全く認められないものを「◎」、輝度ムラが弱く発生しているものを「○」、輝度ムラが強く発生しているものを「×」とした。
【0057】
熱膨張係数については、白金坩堝を用いて各試料を1400℃でリメルトしてガラス塊を作製し、得られたガラス塊を直径5.0mm、長さ20mmの円柱状の試料に加工して、ディラトメーターで30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した。
【0058】
光弾性定数については、直径30mm×5mmの試料を作製し、円盤圧縮法により求めた。
【0059】
徐冷点及び歪点についは、ASTM C336−71の方法に基づいて測定した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のディスプレイ用ガラス基板は、液晶ディスプレイ用途に限られるものではなく、例えば、プラズマディスプレイ、電界放射型ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の用途のガラス基板として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】液晶ディスプレイの構造を示す概略図である。
【図2】オーバーフローダウンドロー法によるガラス基板の製造設備を示す概略正面図である。
【図3】試料No.1におけるガラス基板のレタデーションとその方位角を測定した結果を示す図である。
【図4】試料No.2におけるガラス基板のレタデーションとその方位角を測定した結果を示す図である。
【図5】試料No.3におけるガラス基板のレタデーションとその方位角を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 液晶セル
2 背面ガラス基板(アレイ用ガラス基板)
3 前面ガラス基板(カラーフィルター用ガラス基板)
4 薄膜トランジスタ(TFT)
5 画素電極
6 配向膜(背面用)
7 偏光板(背面用)
8 対向電極
9 カラーフィルター
10 配向膜(前面用)
11 偏光板(前面用)
12 バックライト
13 液晶分子
20 成形炉
20a 成形炉の炉壁
21 成形体
22 成形ロール
23 徐冷炉
23a 徐冷炉の炉壁
24 引っ張りロール
25 冷却室
26 支持ロール
27 切断室
28 成形室
29 送風機
30 周壁部
31 フィルター
A 溶融ガラス
B ガラスリボン
C ガラス基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板面と直交する光により測定したレタデーションをΔ(nm)、ガラス基板の辺方向に対する該レタデーションの方位角をθ(°)とした際、{sin(2θ)}×{sin(180°・Δ/550)}で求められる最大値が3.5×10−5以下であることを特徴とするディスプレイ用ガラス基板。
【請求項2】
ガラス基板の短辺の長さが1000mm以上であることを特徴とする請求項1記載のディスプレイ用ガラス基板。
【請求項3】
質量百分率で、SiO 40〜70%、Al 2〜25%、B 0〜20%、MgO 0〜10%、CaO 0〜15%、SrO 0〜10%、BaO 0〜15%、ZnO 0〜10%、RO(RはLi、Na、Kを表わす) 0〜25%、ZrO 0〜10%を含有するガラスからなることを特徴とする請求項1または2に記載のディスプレイ用ガラス基板。
【請求項4】
ダウンドロー成形法により成形されてなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のディスプレイ用ガラス基板。
【請求項5】
液晶ディスプレイのガラス基板として使用されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のディスプレイ用ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−83995(P2013−83995A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−264896(P2012−264896)
【出願日】平成24年12月4日(2012.12.4)
【分割の表示】特願2008−8603(P2008−8603)の分割
【原出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】