説明

ディーゼルエンジンの制御装置

【課題】手動変速機73のシフトチェンジ後における、ディーゼルエンジン1の燃焼安定性の低下を回避する。
【解決手段】制御器(PCM10)は、アクセルの全閉を含む手動変速機73のシフトチェンジプロセスが行われるときには、当該シフトチェンジプロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、ディーゼルエンジン1の軸トルクが所定値以下となるような、微少の燃料を噴射しかつ当該微少燃料を燃焼させる微少噴射制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、ディーゼルエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、NOx吸蔵触媒を有するディーゼルエンジンにおいて、NOx発生量を抑制して排気エミッション性能を向上させるために、トルク発生のためのメイン噴射と、メイン噴射の前に予熱用のプレ噴射と、を少なくとも実行することが記載されている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、NOx吸蔵触媒を有するディーゼルエンジンにおいて、NOx吸蔵触媒の再生時には、パイロット噴射の噴射量を増やして、排気の空燃比を一時的にリッチ化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−293383号公報
【特許文献2】特開2005−240709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ディーゼルエンジンにおいて、NOx吸蔵触媒等のNOx処理用の触媒を省略しようとすれば、燃焼温度を低下させて、気筒内でのRawNOxの生成を抑制する必要がある。燃焼温度の低下のためには、比較的大量の排気ガスを還流させて筒内の酸素濃度を低下させた状態で、空気過剰率が1以上のリーンで運転することが有効である。つまり、EGR量を調整する排気ガス還流弁と、吸気量を調整するスロットル弁との制御により、筒内酸素濃度が目標の筒内酸素濃度となるように吸気制御を実行しつつ、所定の空気過剰率となるように気筒内に燃料を噴射して、それを燃焼させる。
【0006】
こうした吸気制御及び燃料噴射制御は、エンジン負荷とエンジン回転数とに基づいて行われるが、手動変速機のシフトチェンジ時は、アクセル開度が全閉でかつクラッチ機構が開放されることよりエンジンが一時的に無負荷状態になる。そのため、燃料噴射量がゼロに設定されると共に、EGR量がゼロでかつスロットル弁が全開に設定される。このことにより、シフトチェンジプロセス中は、燃焼を中止した状態で、比較的低い温度の新気のみが気筒内に導入されるようになるから、気筒内の温度が低下すると共に、筒内酸素濃度が大気側へと変更されてしまうことになる。
【0007】
そして、シフトチェンジの完了後に、アクセルペダルが再度、踏み込まれたときには、燃料噴射を再開すると共に、筒内酸素濃度が目標の筒内酸素濃度となるように排気ガス還流弁及びスロットル弁の開度をそれぞれ設定することになる。しかしながら、アクセルペダルの踏み込み時は、前述したように、気筒内の温度が低下してしまっているため、燃料の着火性が低下して燃焼安定性が低下する。また、EGR量や吸気量は制御応答性が悪いため、大気側へと一旦、変更された筒内の酸素濃度を再び下げようとしても、目標の筒内酸素濃度に到達するまでには時間がかかってしまい、その間、燃焼状態が悪化することになる。
【0008】
結果として、例えばエンジンが完全暖機前(半暖機状態)のときには、シフトチェンジプロセス後に、特に筒内温度の低下が原因で着火性及び燃焼安定性が低下し、HC及びCO、並びにスモークを増加させて、排気エミッション性能を悪化させる可能性がある。一方、エンジンの完全暖機後においては、シフトチェンジプロセス後に、特に筒内酸素濃度の目標に対する追従性悪化が原因でRawNOxが増えて、排気エミッション性能を悪化させる可能性がある。
【0009】
特に、燃費や排気エミッション性の向上を目的として、幾何学的圧縮比を比較的低く設定した低圧縮比ディーゼルエンジンは、圧縮端温度及び圧縮端圧力が低くなるため着火性には不利になる。そのため、シフトチェンジプロセス後にアクセルペダルを踏み込んだ際の低い筒内温度や筒内酸素濃度の追従性悪化により、排気エミッション性能の悪化が、より一層顕著になる虞がある。
【0010】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、手動変速機のシフトチェンジ後における、ディーゼルエンジンの燃焼状態の悪化を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここに開示するディーゼルエンジンの制御装置は、気筒内に供給した燃料を圧縮自着火させるよう構成されたディーゼルエンジンと、前記気筒内に臨んで配設されかつ、当該気筒内に燃料を直接噴射するよう構成された燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁による燃料噴射の制御を通じて前記ディーゼルエンジンの運転を制御するように構成された制御器と、を備える。
【0012】
そして、前記制御器は、アクセルの全閉を含む手動変速機のシフトチェンジプロセスが行われるときには、当該シフトチェンジプロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、前記ディーゼルエンジンの軸トルクが所定値以下となるような、微少の燃料を噴射しかつ当該微少燃料を燃焼させる微少噴射制御を実行する。
【0013】
ここで、「シフトチェンジプロセス」は、シフトアッププロセス、及び、シフトダウンプロセスの双方を含む。
【0014】
また、「微少の燃料」は、気筒内に噴射した燃料が着火して燃焼する量以上でかつ、軸トルクが所定値以下、言い換えるとエンジンの機械抵抗以下となって、軸トルクが実質的に発生しない量以下に設定することである。燃料の微少量は、燃料の噴射タイミングや、エンジンの温度状態等の様々な要因によって変更される。例えば燃料の噴射タイミングを圧縮上死点以降の遅いタイミングに設定したときには、燃料噴射量が比較的多くても、膨張行程での燃焼になるため、発生する軸トルクは小さくなる。従って、「微少量」を比較的多く設定することが可能である。尚、噴射タイミングが遅すぎるときには着火性が悪くなって、燃焼しなくなる。
【0015】
また、例えばエンジンが完全暖機した後であれば、筒内の温度が比較的高いため、燃料の噴射タイミングを遅くしても着火及び燃焼は可能である。しかしながら、エンジンが完全暖機する前の、例えば半暖機状態では、筒内の温度が比較的低いため、遅い噴射タイミングでは、燃料の着火及び燃焼を確保できなくなる。この場合は、噴射タイミングを遅くすることができないため、軸トルクを所定値以下にしようとすると、燃料噴射量を少なくしなければならない。つまり、「微少量」を比較的少なく設定することになる。尚、燃料噴射量を少なくしすぎると、着火及び燃焼が確保できなくなる。
【0016】
さらに、燃料を分割して噴射することによって燃料の着火性をコントロールすることが可能であるから、そのことによっても、噴射量が変更され得る。
【0017】
シフトチェンジプロセスの最中に噴射する燃料量や噴射タイミングは、HC及びCOの発生を抑制することや、燃費を考慮して設定することが好ましい。
【0018】
また、軸トルクの「所定値」は、シフトアッププロセス時と、シフトダウンプロセス時とで同じ値に設定してもよいし、これを異ならせてもよい。例えば加速時等におけるシフトアッププロセスにおいては、そのシフトアッププロセスの最中にエンジンの軸トルクが多少発生することは許容され易いため、「所定値」を相対的に大きくしてもよい。逆に、シフトダウンプロセスの最中にエンジンの軸トルクが発生することは許容され難いため、「所定値」を相対的に小さくしてもよい。
【0019】
手動変速機のシフトチェンジプロセスにおいては、アクセルが全閉になるに伴いエンジンが無負荷状態になるから、通常であれば、気筒内への燃料噴射が停止することになる。これに対し、前記の構成では、軸トルクが実質的に発生しない限度において、シフトチェンジプロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、微少の燃料噴射を行う。この燃料噴射は、シフトチェンジプロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間の全期間において行ってもよいし、その内の一部の期間において行ってもよい。
【0020】
このようにシフトチェンジプロセスの最中に、気筒内に微少の燃料噴射を行い、それを着火、燃焼させることにより、気筒内の温度の低下が抑制されると共に、気筒内の酸素濃度が、シフトチェンジ前の状態から変化することも抑制される(このことを、以下においては単に「酸素濃度の変化が抑制される」という場合がある)。
【0021】
その結果、シフトチェンジプロセス後にアクセルペダルを踏み込んだ際に、筒内温度は比較的高い温度であるため、着火性の低下が回避される。それと共に、筒内酸素濃度もまた、シフトチェンジプロセスの開始直前の状態が、できるだけ維持されているから、シフトチェンジプロセス後にアクセルペダルを踏み込んだ際に、実筒内酸素濃度と目標筒内酸素濃度との差が小さくなり、筒内酸素濃度の追従性が良好になって燃焼状態の悪化が回避される。こうして、シフトチェンジプロセス後の排気エミッション性能の悪化が回避される。この構成は特に、燃料の着火性の点で不利な低圧縮比エンジンにおいて、シフトチェンジプロセス後の排気エミッション性能の悪化を回避する上で有効である。
【0022】
前記ディーゼルエンジンの制御装置は、前記エンジンの排気ガスを前記気筒への吸気に還流させるよう構成されたEGR手段をさらに備え、前記制御器は、前記シフトチェンジプロセスの開始後、前記アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、前記微少噴射制御と共に、前記EGR手段による排気ガスの還流を行う、としてもよい。
【0023】
ここで、EGR手段による排気ガスの還流を行うタイミングと、微少噴射制御を行うタイミングとは同じに設定してもよいし、異ならせても良い。無駄な燃料噴射は燃費の悪化を招くことから、例えばシフトチェンジプロセスの開始後、EGR手段による排気ガスの還流を開始する一方で、微少噴射制御は開始せずに待機し、シフトチェンジプロセスが所定の段階となったタイミングで、微少噴射制御を開始するようにしてもよい。
【0024】
手動変速機のシフトチェンジプロセスにおいてエンジンが無負荷状態になることに伴い、通常であれば、EGR手段による排気ガスの還流も停止される。これに対し、前記の構成では、シフトチェンジプロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、微少噴射制御と共に、EGR手段による排気ガスの還流を行う。このことにより、気筒内には、新気と共に、エンジンの排気ガスが導入される。前述の通り、微少噴射制御によって、シフトチェンジプロセスの最中も燃焼が行われていることから、比較的高温の排気ガスを気筒内に導入することは、気筒内の温度の低下を抑制して、筒内温度を高い状態に維持する上で有利になる。また、排気ガスを導入する分だけ新気の導入量が減少するから、筒内酸素濃度の変化を抑制する上でも有利になる。
【0025】
その結果、シフトチェンジプロセス後のアクセルペダルの踏み込み時において、燃料の着火性の低下及び燃焼状態の悪化が、より確実に回避されて、排気エミッション性能の悪化を、より一層確実に回避することが可能になる。
【0026】
前記エンジンの吸気通路上には、スロットル弁が配設され、前記制御器は、前記EGR手段による排気ガスの還流と共に、前記スロットル弁を閉じる、としてもよい。ここで、スロットル弁を閉じることには、スロットル弁を全閉にすること以外に、スロットル弁を閉じ側の所定開度に設定することを含む。
【0027】
シフトチェンジプロセスの最中に、前述したEGR手段による排気ガスの還流と、スロットル弁を閉じて新気の導入を制限することと、を組み合わせることは、筒内温度の低下抑制と、筒内酸素濃度の変化の抑制に、さらに有利になる。その結果、シフトチェンジプロセス後の排気エミッション性能の悪化が回避される。
【0028】
前記制御器はまた、前記シフトチェンジプロセスの開始後、前記アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、前記微少噴射制御と共に、前記スロットル弁の開度を所定の絞り状態に保持する、としてもよい。
【0029】
シフトチェンジプロセスの最中の微少噴射制御によって、微少の燃料を着火及び燃焼させる必要があることから、スロットル弁の開度は、燃料の着火及び燃焼が可能になる程度、言い換えると必要最低限の新気量が確保される程度に開けておくことが望ましい。その際に、スロットル弁の開度は、筒内をリッチにして燃焼温度を高める点、及び、筒内への新気の導入量を減らす点から、できるだけ絞ることが好ましい。尚、スロットル弁は、実質的に閉弁している状態であってもよい。
【0030】
前記制御器は、前記アクセルの全閉又はクラッチ機構の開放のいずれか早い方が実行されたタイミングで、前記燃料噴射弁を通じた前記気筒内への燃料の供給を停止すると共に、前記アクセルの全閉及び前記クラッチ機構の開放が共に実行されかつ、前記手動変速機がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行したタイミングで、前記微小の燃料噴射を開始する、としてもよい。
【0031】
すなわち、シフトチェンジプロセスの開始は、アクセルの全閉又はクラッチ機構の開放のいずれか早い方が実行されたタイミングと定義してもよい。アクセルの全閉又はクラッチ機構の開放により、エンジンは実質的に無負荷状態になるためである。
【0032】
一方、アクセルの全閉又はクラッチ機構の開放が行われたとして、それだけでは、シフトチェンジが行われるとは限らない。例えば単に車両を減速させる時にも、アクセルの全閉又はクラッチ機構の開放が行われる場合がある。
【0033】
アクセルの全閉及びクラッチ機構の開放が共に実行されかつ、手動変速機がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行した場合は、シフトチェンジプロセスが、ほぼ確実に行われると判断することが可能である。そこで、微少噴射制御は、手動変速機がニュートラルに移行するタイミングで開始することが好ましい。このことは、シフトチェンジプロセスでないときに、無駄な燃料噴射を行うことを回避する一方で、シフトチェンジプロセスであるときには、微少噴射制御を、できるだけ早期に開始して、筒内温度の低下や、筒内酸素濃度の変化の抑制に有利になる。
【0034】
前記制御器は、前記シフトチェンジプロセスの開始後、前記手動変速機がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行したタイミングで、前記微小の燃料噴射を開始すると共に、前記手動変速機が前記ニュートラルから次の変速段に移行したタイミングで、燃料噴射量を、前記軸トルクが前記所定値以下となる限度で増量する、としてもよい。
【0035】
前述の通り、アクセルの全閉及びクラッチ機構の開放が共に実行されかつ、手動変速機がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行した場合は、シフトチェンジプロセスが、ほぼ確実に行われると判断することが可能であるが、その場合であっても、シフトチェンジプロセスが行われない場合もあり得る。
【0036】
そこで、手動変速機がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行したタイミングでは、微小の燃料噴射を開始するものの、その燃料噴射量は、相対的に少なくする。こうすることで、仮にシフトチェンジプロセスが行われなかったときには、無駄な燃料噴射が抑制されると共に、シフトチェンジプロセス中の排気エミッション性能の悪化が抑制される。
【0037】
そうして、手動変速機がニュートラルから次の変速段に移行したタイミングでは、シフトチェンジプロセスが行われる(又は、シフトチェンジプロセスが行われた)ことが確実であるから、燃料噴射量を相対的に増やす。このことは、筒内温度の低下及び筒内酸素濃度の変化の抑制に有利になる。
【0038】
前記制御器は、前記ディーゼルエンジンを空気過剰率が1以上のリーンで運転しているときのシフトチェンジプロセスにおいて、前記微少噴射制御を実行する、としてもよい。
【0039】
ディーゼルエンジンをリーンで運転することは、RawNOxの低減に有利であり、リーン運転時には、EGR手段により排気ガスを吸気に還流させることが好ましい。
【0040】
このようなリーン運転時においては、前述の通り、手動変速機のシフトチェンジプロセス後に、気筒内の温度が低下しかつ、筒内酸素濃度の変化が大きくなることで、RawNOxが生成されやすくなる。前述した微少噴射制御は、リーン運転時のシフトチェンジプロセス後において、排気エミッション性能の悪化を回避する上で、極めて有効である。
【発明の効果】
【0041】
以上説明したように、前記のディーゼルエンジンの制御装置によると、シフトチェンジプロセスの最中に微少の燃料噴射を行って、それの着火及び燃焼を行うから、気筒内の温度の低下を抑制すると共に、筒内酸素濃度の変化を抑制して、シフトチェンジプロセス後に、アクセルペダルが踏み込まれた際の燃焼状態を良好にして、排気エミッション性能の向上に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ディーゼルエンジンの構成を示す概略図である。
【図2】ディーゼルエンジンの制御に係るブロック図である。
【図3】シフトチェンジプロセス時のクリップ制御及び微少噴射制御に係るメインフローチャートである。
【図4】図3に示すメインフロー中の、シフトチェンジ判定ステップ処理に係るフローチャートである。
【図5】シフトチェンジプロセス時のクリップ制御及び微少噴射制御に係る、(a)アクセル開度信号、(b)アクセル開度変化率、(c)エンジン回転数、(d)燃料噴射量、(e)クラッチ操作信号、(f)ギヤ位置信号、(g)ニュートラル信号、(h)シフトチェンジ判定許可フラグ、(i)シフトチェンジ判定ステップ信号、(j)目標気筒内酸素濃度及び実気筒内酸素濃度、(k)スロットル弁開度、(l)排気ガス還流弁開度、及び、(m)クーラバイパス弁開度、のタイミングチャートである。
【図6】シフトチェンジプロセス時のクリップ制御及び微少噴射制御に係る、(i)シフトチェンジ判定ステップ信号、(j)目標気筒内酸素濃度及び実気筒内酸素濃度、(n)微少噴射信号、(o)RawNOx、(p)HC、CO、(q)排気温度、及び、(r)筒内温度、のタイミングチャートである。
【図7】微少噴射制御時における燃料噴射形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、実施形態に係るディーゼルエンジンを図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1,2は、実施形態に係るエンジン(エンジン本体)1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンである。このエンジン1が搭載される車両は、手動変速機73を備えたMT車であって、エンジン1の駆動に伴う出力トルクは、クランクシャフト15に対しクラッチ機構72を介して連結された手動変速機73を通じて駆動輪74に伝達されることになる。
【0044】
エンジン1は、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面にはリエントラント形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
【0045】
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
【0046】
これら吸排気弁21,22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられている。このVVM71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を1つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成されており、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。
【0047】
VVM71の通常モードと特殊モードとの切り替えは、エンジン駆動の油圧ポンプ(図示省略)から供給される油圧によって行われ、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。また、内部EGRの実行としては、排気の二度開きに限定されるものではなく、例えば吸気弁21を2回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを残留させる内部EGR制御を行ってもよい。尚、VVM71による内部EGR制御は、主に燃料の着火性が低いエンジン1の冷間時に行われる。
【0048】
前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に各気筒11a内の吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、基本的には圧縮行程上死点付近で、燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
【0049】
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、詳しくは後述するが、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
【0050】
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
【0051】
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、大型及び小型ターボ過給機61、62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
【0052】
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
【0053】
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
【0054】
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO及びHOが生成する反応を促すものである。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。後述するように、このエンジン1は、低圧縮比化によりRawNOxの生成を大幅に低減乃至無くしており、NOx処理用の触媒を省略している。
【0055】
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための排気ガス還流通路50によって接続されている。この排気ガス還流通路50は、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52とが配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。このクーラバイパス通路53には、クーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのクーラバイパス弁53aが配設されている。
【0056】
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
【0057】
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。
【0058】
すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。
【0059】
小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
【0060】
吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする小型吸気バイパス通路63が接続されている。この小型吸気バイパス通路63には、該小型吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための小型吸気バイパス弁63aが配設されている。この小型吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(つまり、ノーマルクローズ)となるように構成されている。
【0061】
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ65aが配設されている。レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aは共に、無通電時には全開状態(つまり、ノーマルオープン)となるように構成されている。
【0062】
これら大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62は、それらが配設された吸気通路30及び排気通路40の部分も含めて、一体的にユニット化されて、過給機ユニット60を構成している。この過給機ユニット60がエンジン1に取り付けられている。
【0063】
このように構成されたディーゼルエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。PCM10には、図2に示すように、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、サージタンク33に取り付けられて、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサSW3、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW4、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW5、排気中の酸素濃度を検出するOセンサSW6、及び、車速を検出する車速センサSW7の検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、グロープラグ19,動弁系のVVM71、各種の弁36、51a、53aのアクチュエータへ制御信号を出力する。
【0064】
また、PCM10は、エンジンの運転状態において大型及び小型ターボ過給機61、62の動作を制御している。具体的には、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの各開度をエンジン1の運転状態に応じて設定した開度にそれぞれ制御する。詳しくは、PCM10は、エンジン1の温間時には、低負荷かつ低回転側の所定領域では、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開以外の開度とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態とすることによって、大型及び小型ターボ過給機61、62の両方を作動させる。一方、高負荷かつ高回転側の所定領域では、小型ターボ過給機62が排気抵抗になるため、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開状態とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態に近い開度にすることによって、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。尚、ウエストゲートバルブ65aは、大型ターボ過給機61の過回転を防止するために少し開き気味に設定している。
【0065】
そうして、このエンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上15以下(例えば14)とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによって排気エミッション性能の向上及び熱効率の向上を図るようにしている。
【0066】
(エンジンの燃焼制御の概要)
前記PCM10によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて目標トルク(言い換えると目標となる負荷)を決定し、これに対応する燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ18の作動制御によって実現するものである。目標トルクは、アクセル開度が大きくなるほど、またエンジン回転数が高くなるほど、大きくなるように設定され、目標トルクとエンジン回転数とに基づいて燃料の噴射量が設定される。噴射量は、目標トルクが高くなるほど、また、エンジン回転数が高くなるほど大きくなるように設定される。また、スロットル弁36、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度の制御(つまり、外部EGR制御)や、VVM71の制御(つまり、内部EGR制御)によって、気筒11a内への排気の還流割合を制御する。
【0067】
そして、このエンジン1では、少なくともエンジン1の低負荷かつ低回転側の特定運転領域では、前述したEGR通路51を通じて、比較的大量の外部EGRガスを気筒11a内に導入しつつ、空気過剰率λが1以上(好ましくは、λ≧2.4)のリーンで運転をするように構成されている。こうした運転は、燃焼温度を低下させてRawNOxの生成抑制に有利になる。具体的には、前述したように、目標トルクに応じて燃料噴射量が設定されて、それがインジェクタ18を通じて気筒11a内に噴射されると共に、エンジン1の負荷及び回転数に応じて目標となる筒内酸素濃度が設定され、当該目標筒内酸素濃度となるように、スロットル弁36、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度が設定されることになる。
【0068】
(シフトチェンジプロセス時の微少噴射制御)
前述したように、ディーゼルエンジン1をリーンで運転しているときに、手動変速機73のシフトチェンジ操作(シフトアップ操作及びシフトダウン操作の双方を含む)が行われたときには、アクセルの全閉及びクラッチ機構72の開放によって、エンジン1が無負荷状態となる。これにより、一時的に燃料カット状態となると共に、エンジン1の負荷及び回転数に応じて設定される目標筒内酸素濃度が高くなって、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aがそれぞれ全閉となり、EGR量が一時的にゼロに設定される。
【0069】
そして、手動変速機73において、ニュートラル位置を介したシフトチェンジ操作がなされて、クラッチ機構72の締結及びアクセルペダルの踏み込みが行われることによりシフトチェンジプロセスが完了すれば、燃料噴射が再開されると共に、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aがそれぞれ、エンジン1の回転数及び負荷に応じた所定開度に変更される。
【0070】
従って、アクセルの全閉、クラッチ機構72の開放、シフト操作、クラッチ機構72の締結及びアクセルペダルの踏み込みを含むシフトチェンジプロセスの最中には、燃料カットによって燃焼が中止されると共に、EGR量がゼロでかつ、スロットル弁36が全開になって、比較的低温の新気のみが気筒11a内に導入される。これは、気筒11a内の温度を低下させると共に、気筒11a内の酸素濃度を、シフトチェンジプロセス直前の状態から、大気側へと大きく変化させることになる。
【0071】
また、シフトチェンジプロセスが完了して、アクセルペダルが踏み込まれたときには、
燃料噴射が再開されると共に、閉じていた排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aが開けられて気筒11a内の酸素濃度が、目標筒内酸素濃度となるように低下することになるが、排気ガス還流通路50を介したEGRガスの還流には、応答遅れが生じるから、シフトチェンジプロセス中に大きく変化してしまった筒内酸素濃度が、目標筒内酸素濃度に到達するまでに時間を要することになる。
【0072】
この気筒11a内の温度低下と、酸素濃度の追従性悪化とが組み合わさって、シフトチェンジプロセス後は、燃料の着火性が低下し燃焼安定性が低下してしまうと共に、燃焼状態が悪化してしまう(特に、燃焼温度が高くなってしまう)。
【0073】
このことは、例えばエンジン1の完全暖機前(半暖機状態)では、主に筒内温度の低下に起因して、シフトチェンジプロセス後の燃焼安定性が低下することにより、HCやCO、及びスモークの発生を招き、排気エミッション性能を悪化させる虞がある。
【0074】
一方、例えばエンジン1の完全暖機後は、主に筒内酸素濃度の追従性悪化に起因して、シフトチェンジプロセス後の燃焼温度が高くなることにより、RawNOxの生成を招き、排気エミッション性能を悪化させる虞がある。
【0075】
そこで、このエンジンシステムにおいて、PCM10は、シフトチェンジプロセス後の燃焼状態を良好に保つべく、シフトチェンジプロセスの最中には、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53a、並びにスロットル弁36の開度を、シフトチェンジプロセスの開始直前の開度で一定に保つクリップ制御を実行すると共に、エンジン1の軸トルクが発生しないような、微少の燃料噴射を行いかつ、それの着火、燃焼を行わせる微少噴射制御を実行する。
【0076】
図3は、PCM10が実行する、シフトチェンジプロセス時のクリップ制御及び微少噴射制御に係るメインフローを示している。スタート後のステップS41では、以降の制御に必要な各種信号を読み込み、ステップS42では、その読み込んだ信号に基づいて、シフトチェンジ判定のための処理演算を行う。ステップS43では、シフトチェンジ判定の許可範囲であるか否かを判定する。すなわち、ステップS43にて、エンジン回転数が所定の上下限回転数以内でかつ、車速が所定速度以上でかつ、ギア位置が所定ギア段以下でかつ、ブレーキ信号がオフであるときにはシフトチェンジ判定の許可範囲であると判定し、いずれか一つでも条件が成立しなかったときには、許可範囲でないと判定する。許可範囲でないとき(NOのとき)にはステップS46に移行し、エラーと判定して、シフトチェンジ判定を終了する。これに対し、ステップS43で、シフトチェンジ判定の許可範囲であるとき(YESのとき)には、シフトチェンジ判定許可フラグを立てた上で(図5(h)参照)、ステップS44に移行する。ステップS44では、図4に示すシフトチェンジ判定ステップ処理のフローを実行する。このシフトチェンジ判定ステップ処理は、シフトチェンジプロセスに含まれる、アクセルの全閉、クラッチ機構72の開放、シフト操作、クラッチ機構72の締結及びアクセルペダルの踏み込みそれぞれの実行を、順次、判断することにより、シフトチェンジプロセスが実行されているか否かを判断するロジックであり、この処理によって、シフトチェンジプロセスが実行されているときには、クリップ制御及び微少噴射制御を早期に開始することを可能にする。また、シフトチェンジプロセスでないと判断したときには、クリップ処理及び微少噴射制御を直ちに中止することも可能になる。ここで、図4のフローと、図5、6のタイミングチャートを参照しながら、シフトチェンジ判定ステップ処理について説明する。図5、6のタイミングチャートは、図5(f)に示すように、2速から3速へのシフトアッププロセス時における、各パラメータのタイミングチャートの一例である。尚、図5(i)(j)と図6(i)(j)とは同じである。また、説明は省略するが、シフトダウンプロセス時も、以下の説明と同様の制御になる。
【0077】
先ずステップS51では、シフトチェンジ判定ステップ1であるか否かを判定する。シフトチェンジ判定ステップ1は、アクセル開度の変化を検知したこと(図5(b)参照)、又は、クラッチ機構72の開放を検知したこと(図5(e)参照)、である。つまり、乗員がアクセルペダルを戻してアクセル開度の偏差量が所定量を超えかつアクセル開度が所定開度以下になったとき、又は、クラッチペダルを踏み込んでクラッチ機構72が開放されたときには、シフトチェンジプロセスのステップ1を判定したとして(図5(i)参照)、ステップS52に移行する。これに対し、それらの信号が、所定時間以上、検知されないときには、タイムアウトとして、後述するステップS516、つまり、通常の制御に移行する。
【0078】
ステップS52では、シフト判定エラーか否かを判断する。この判定は、シフトチェンジプロセスとは異なる動作が行われているか否かを判定するものである。例えばクラッチ機構72が、所定時間以上、継続して開放されたままであるときには、シフトチェンジプロセスではない(例えば車両の減速状態である)とエラー判定をして、ステップS516に移行する。一方、エラー判定でないとき(NOのとき)にはステップS53に移行する。
【0079】
ステップS53では、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度、並びに、スロットル弁36の開度をそれぞれ、シフトチェンジ判定ステップ1直前の、言い換えるとシフトチェンジプロセスの開始直前の開度のままで保持する。具体的に図例では、図5(j)に実線で示すように、目標筒内酸素濃度の値を、シフトチェンジプロセスの開始直前の値で保持し、それに伴い、図5(k)(l)(m)に実線で示すように、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度、並びに、スロットル弁36の開度をそれぞれ、シフトチェンジプロセスの開始直前の開度に保持する。これによって、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度はそれぞれ、開側の所定開度に維持され、スロットル弁36は、閉側の所定開度に維持される。但し、スロットル弁36は、後述するように、全閉でないことが好ましい。尚、この例では、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの双方の開度の制御を行うが、例えばEGRクーラ52が省略されたシステムにおいては、排気ガス還流弁51aのみの制御とすればよい。
【0080】
続くステップS54では、シフトチェンジ判定ステップ2であるか否かを判定する。シフトチェンジ判定ステップ2は、前述したシフトチェンジ判定ステップ1においてアクセル開度の変化を検知したときには、クラッチ機構72の開放を検知することであり、シフトチェンジ判定ステップ1においてクラッチ機構72の開放を検知したときには、アクセル開度の変化を検知することである。すなわち、シフトチェンジ判定ステップ1と、シフトチェンジ判定ステップ2との2つのステップにおいて、アクセルの全閉及びクラッチ機構72の開放の2つの操作を、その順番を問わずに検知する。ステップS54においてYESのときには、シフトチェンジプロセスのステップ2を判定したとして(図5(i)参照)、ステップS55に移行する。一方、アクセルの全閉又はクラッチ機構72の開放の後、次の動作が行われずにタイムアウトになったようなときには、シフトチェンジプロセスではないとして、ステップS54からステップS516に移行する。ここで、シフトチェンジ判定ステップ1やステップ2に関係するタイムアウトは、比較的短く設定されている。これは、アクセルの全閉やクラッチ機構72の開放は、シフトチェンジ操作に限らずに、車両の減速時にも行われる操作であるため、シフトチェンジ操作でない場合は、クリップ制御ではなく、通常の吸気制御に早期に戻るために、タイムアウトを比較的短い時間に設定している。
【0081】
ステップS55では、シフト判定エラーか否かを判断する。エラーでないとき(NOのとき)にはステップS56に移行をして、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度、並びに、スロットル弁36の開度をそれぞれ、そのまま保持する(図5の(k)(l)(m)の実線参照)。一方、ステップS55において、エラー判定のときにはステップS516に移行する。このステップでのエラー判定の例としては、燃料噴射量が所定量以上になった場合等を挙げることができる。
【0082】
ステップS57では、シフトチェンジ判定ステップ3であるか否かを判定する。シフトチェンジ判定ステップ3は、手動変速機73の変速段がニュートラルになったことである(図5の(g)参照)。つまり、手動変速機73のシフトチェンジ操作においては、シフトチェンジ前の変速段(図例では2速)から、シフトチェンジ後の変速段(図例では3速)へと移行する際に、一旦は、必ずニュートラルになるためである。ニュートラル信号を検知したときには、シフトチェンジプロセスのステップ3を判定したとして(図5(i)参照)、ステップS58に移行する。これに対し、ニュートラル信号を検知しないでタイムアウトになったときには、ステップS516に移行する。
【0083】
ステップS58では、シフト判定エラーか否かを判断する。例えば手動変速機73が、ニュートラルのままで所定時間が経過したとき等には、このままクリップ制御を継続するよりも、通常の吸気制御に復帰した方が好ましいとしてエラー判定をし、ステップS516に移行する。これに対し、ステップS58でNOと判定したときには、ステップS59に移行して、排気ガス還流弁51a、クーラバイパス弁53a及びスロットル弁36に関し、クリップ制御をそのまま継続する。
【0084】
そして、ステップS59では、クリップ制御と共に、インジェクタ18を通じて微少の燃料を気筒11a内に噴射し、これを着火及び燃焼させる微少噴射制御を実行する。この微少噴射制御は、エンジン1の軸トルクが実質的に発生しないように、言い換えると、エンジン1の軸トルクが所定値以下となるように、微少量の燃料を気筒11a内に噴射する(図6(n)参照)。尚、詳細は後述するように、このステップS59で噴射する燃料量は、相対的に少なく設定される。
【0085】
このとき、微少噴射制御によって噴射した燃料が着火及び燃焼するように、スロットル弁36の開度は、全閉以外の開度に設定することが好ましい。但し、スロットル弁36の開度は、着火性の確保及び筒内温度の低下を抑制する観点からは、できるだけ小さいことが望ましく、実質的に全閉としてもよい。スロットル弁36の開度を小さくしかつ、気筒11a内に導入される新気量を少なくすることは、微少の噴射量に対し気筒11a内をリッチにして燃焼温度を高めるから、筒内温度の低下を抑制する上で有利になる。
【0086】
図7は、シフトチェンジプロセスの最中において、微少噴射制御により実行される燃料噴射態様の一例を示している。この燃料噴射態様例では、圧縮上死点前のタイミングで、微少量の噴射(プレ噴射)を行うと共に、圧縮上死点後のタイミングで、複数回の燃料噴射(メイン噴射)を行っている。プレ噴射は、圧縮上死点前に行うことにより、燃料の着火性に有利である一方、メイン噴射は圧縮上死点後の膨張行程で行うことにより、トルクの発生を抑制する上で有利になる。メイン噴射は、プレ噴射による燃料が継続するようなタイミングで開始することが望ましく、これにより、圧縮上死点後の膨張行程で行うメイン噴射を、確実に着火、燃焼させることが可能になる。尚、メイン噴射を複数回に分割することは、燃焼を継続しながら燃焼期間をできるだけ遅いタイミングに設定することを可能にして、トルクの発生を抑制する上で有利になる。但し、メイン噴射を1回の噴射で行うようにしてもよい。また、プレ噴射は、図例で示すように、1回の噴射で行ってもよいし、複数回に分割してもよい。
【0087】
微少噴射制御において噴射する燃料量は、気筒11a内に噴射した燃料が着火して燃焼する量以上でかつ、軸トルクが所定値以下となる範囲で、適宜設定すればよい。尚、燃料の微少量は、燃料噴射形態(つまり、噴射タイミングや、一括噴射か分割噴射かの相違)や、エンジン1の温度状態等の様々な要因によって変更される。
【0088】
ステップS510では、シフトチェンジ判定ステップ4であるか否かを判定する。シフトチェンジ判定ステップ4は、手動変速機73がニュートラル以外になったことを検知したことである(図5の(g)参照)。つまり、ニュートラルを介して手動変速機73のシフトチェンジ操作が完了したときには、ステップS511に移行する。これに対し、ニュートラルのオフ信号を所定時間以上、検知せずにタイムアウトになったときには、ステップS510からステップS516に移行する。
【0089】
ステップS511では、シフト判定エラーか否かを判断する。例えば手動変速機73のシフトチェンジ操作は完了したものの、クラッチ機構72の開放が所定時間以上、継続しているとき等には、エラー判定をして、ステップS511からステップS516に移行をする。ここで、シフトチェンジ判定ステップ4や後述の判定ステップ5に関係する所定時間(タイムアウト時間)は、前述したシフトチェンジ判定ステップ4やステップ5に関係するタイムアウト時間に比べて長く設定される。これは、シフトチェンジ判定ステップ4のように、手動変速機73が一旦ニュートラルになって、別の変速段に移行した場合は、その操作はシフトチェンジプロセスであることに、ほぼ間違いないため、クリップ制御や微少噴射制御を止めて通常制御に早期に戻るような要求が低いためである。
【0090】
ステップS511の判定がNOのときには、ステップS512に移行をして、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度、並びに、スロットル弁36の開度をそのまま維持する。つまり、クリップ制御を継続する。また、微少噴射制御も継続するものの、その微少噴射制御において気筒11a内に噴射する燃料量は、エンジン1の軸トルクが発生しない限度において、ステップS59において噴射する燃料量よりも増量する(図6(n)参照)。つまり、前述したように、アクセルの全閉及びクラッチ機構72の開放が共に実行されかつ、手動変速機73がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行した場合は、シフトチェンジプロセスが、ほぼ確実に行われると判断することが可能であるが、その場合であっても、シフトチェンジプロセスが行われないこともあり得る。そこで、手動変速機73がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行したタイミング(つまり、シフトチェンジ判定ステップ3が成立したタイミング)では、微小の燃料噴射を開始するものの、その燃料噴射量は、相対的に少なくしておく。こうすることで、仮にシフトチェンジプロセスが行われなかったときには、無駄な燃料噴射が抑制されると共に、シフトチェンジプロセス中の排気エミッション性能の悪化が抑制される。
【0091】
これに対し、手動変速機73がニュートラルから次の変速段に移行したタイミング(つまり、シフトチェンジ判定ステップ4が成立したタイミング)では、シフトチェンジプロセスが実質的に行われたことになるから、燃料噴射量を相対的に増やすことで、気筒11a内の温度の低下及び筒内酸素濃度の変化抑制に有利になる。
【0092】
ステップS513では、シフトチェンジ判定ステップ5であるか否かを判定する。シフトチェンジ判定ステップ5は、シフトチェンジ操作が完了して、乗員がアクセルペダルを踏み込み操作したことを判定する(図5(b)参照)。YESの判定のときには、ステップS514に移行する。これに対し、例えばアクセルペダルを踏み込み操作せずにタイムアウトしたときには、ステップS513からステップS516に移行する。ステップS514では、シフト判定エラーか否かを判断し、YES判定の時はステップS516に移行をし、NO判定の時はステップS515に移行をする。
【0093】
ステップS515では、シフトチェンジプロセスが完了しており、アクセルペダルが踏み込まれているため、微少噴射制御を終了し(図6(n)参照)、アクセル開度に応じた燃料噴射量で、燃料噴射を再開する(図5(d)参照)。それと共に、吸気に関するクリップ制御から通常の吸気制御にスムースにつなげるための徐変制御を行う。これは、例えばアクセル開度と燃料噴射量とに基づき、排気ガス還流弁51a、クーラバイパス弁53a及びスロットル弁36の開度を徐々に変更する(図5の(k)(l)(m))。そしてステップS516において、通常の制御に復帰をし、図3のフローのステップ45に戻って、シフトチェンジ判定を終了する。
【0094】
こうして図5(a)(b)(e)に示すように、手動変速機73のシフトチェンジプロセス時には、アクセルの全閉及びクラッチ機構72の開放により、エンジン1は無負荷状態となり、同図(c)に示すようにエンジン1の回転数は次第に低下すると共に、同図(d)に示すように燃料噴射量は実質的にゼロに設定される。これにより、通常の吸気制御においては、EGR量もゼロに設定される(同図(d)の「EGRCUT条件」参照)。すなわち、通常の吸気制御では、図5(j)に点線で示すように、気筒11a内の目標酸素濃度が高くなり、同図(l)(m)に点線で示すように、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aが閉じられかつ、同図(k)に点線で示すように、スロットル弁36が開けられる。その結果、通常の吸気制御においては、気筒11a内の実筒内酸素濃度が、同図(j)に破線で示すように、シフトチェンジプロセスの最中には大幅に高くなる。そして、シフトチェンジプロセス後には、エンジン負荷及びエンジン回転数に応じた、比較的低い目標筒内酸素濃度が設定されるが、設定された目標筒内酸素濃度と、実筒内酸素濃度との差が大きいため、実筒内酸素濃度が目標筒内酸素濃度に到達するまでには、比較的長い時間を要することになると共に、実筒内酸素濃度のオーバーシュートやアンダーシュートが発生して実筒内酸素濃度が安定し難くなる。
【0095】
また、シフトチェンジプロセスの最中は、燃料カットによって燃焼が行われていないと共に、比較的低温の新気のみが気筒11a内に導入されるから、図6(r)に点線で示すように、気筒11a内の温度も次第に低下することになる。それと共に、図6(q)に点線で示すように、排気温度も次第に低下することになる。
【0096】
これに対し、クリップ制御では、図5(j)に実線で示すように、シフトチェンジプロセスの最中に、気筒11a内の目標酸素濃度が、シフトチェンジプロセスの開始直前の値に保持され、同図(k)(l)(m)に実線で示すように、スロットル弁36、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度がそれぞれ、シフトチェンジプロセスの開始直前の開度に保持される。つまり、図例では、スロットル弁36が閉じ側の所定開度で一定にされ、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aが開き側の所定開度で一定にされている。その結果、クリップ制御においては、気筒11a内の実筒内酸素濃度が、同図(j)に一点鎖線で示すように、シフトチェンジプロセスの最中に高くなることが抑制される。
【0097】
また、シフトチェンジプロセス時に、微少噴射制御により燃焼を行うことによって、図6(j)に一点鎖線で示すように、微少噴射制御による燃焼を行わない場合(図6(j)の二点鎖線参照)と比較して、実筒内酸素濃度を、さらに低下させることが可能になる。
【0098】
こうして、シフトチェンジプロセスの最中における筒内酸素濃度の変化が抑制される結果、シフトチェンジプロセス後にアクセルペダルが踏み込まれ、それに応じた目標筒内酸素濃度が設定されたときには、その目標筒内酸素濃度と実筒内酸素濃度との差は小さくなり、実筒内酸素濃度が目標筒内酸素濃度に到達するまでの時間が短くなると共に、実筒内酸素濃度のオーバーシュートやアンダーシュートが回避されて、実筒内酸素濃度が安定化しやすくなる(図6(j)参照)。その結果、図6(o)に実線で示すように、RawNOxの生成が、同図に点線で示すクリップ制御及び微少噴射制御を共に行わない場合と比較して抑制されることになり、排気エミッション性能の悪化が回避される。これは特に、エンジン1が完全暖機の状態でシフトチェンジプロセスが行われた場合に、有効である。
【0099】
また、微少噴射制御により燃焼を行うことによって、図6(r)に実線で示すように、シフトチェンジプロセス中において、筒内温度の低下を抑制するにとどまらず、筒内温度を上昇させることが可能になる。また、同図(q)に実線で示すように、排気温度も高まる。高温の排気ガスは、排気ガス還流通路50を通じて吸気に還流されることで、筒内温度の上昇にさらに有利になる。その結果、図6(r)に実線で示すように、シフトチェンジプロセスの完了後、正確にはシフトチェンジ判定ステップ5の成立時において、微少噴射制御を行わないとき(同図の点線参照)よりも、筒内温度を高くすることが可能になる。このことは、アクセルペダルの踏み込み時に燃料の着火性を確保して、燃焼安定性を良好にするから、同図(p)に示すように、そうした微少噴射制御及びクリップ制御を行わないとき(点線参照)よりも、HC及びCOの排出を低下させることが可能になる(実線参照)。これは特に、燃料の着火性が低下するエンジン1の完全暖機前(例えば半暖機状態)において有効である。また、前述の通り、微少噴射制御は、排気温度の上昇にも有利であるから、特に排気浄化装置41が未活性のときには、その活性化にも有利である。このこともまた、排気エミッション性能の向上に有利になる。
【0100】
こうしてシフトチェンジプロセス後のアクセルペダルの踏み込み時に、排気エミッション性能が悪化することが回避される。
【0101】
尚、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度は、シフトアッププロセスの開始直前の値に保持する他にも、開始直前の値に対し開側に、又は、閉側に変更してもよい。また特に、微少噴射制御を開始した後には、その微少噴射制御を開始する前と比べて、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度を大きくし、EGR量を増大させることで、筒内温度の向上及び筒内酸素濃度の変化抑制をさらに促進するようにしてもよい。
【0102】
また、シフトチェンジプロセスの判定を、そのシフトチェンジプロセスに含まれる複数の操作に対応させた、複数のステップによって行うことによって、シフトチェンジの検知のためだけのセンサ等を用いずとも、既存のセンサを利用して、シフトチェンジプロセスを早期に検知することができ、クリップ制御及び微少噴射制御を速やかに開始することができる。これは、前述したシフトチェンジプロセス後の燃焼安定性を高めかつ、燃焼温度の低減に有利である。また、複数のステップによってシフトチェンジプロセスを判定することは、前述したように、吸気制御に係るクリップ制御の開始タイミングと、燃料噴射に係る微少噴射制御の開始タイミングとを異ならせることを可能にすると共に、微少噴射制御における燃料噴射量を、その制御途中で増量することも可能にする。これは、無駄な燃料消費を回避しつつ、シフトチェンジプロセス後の排気エミッション性能の悪化を回避する上で有効である。
【0103】
一方で、複数ステップによるシフトチェンジプロセスの判定は、シフトチェンジプロセスでないことも早期に検知でき、クリップ制御や微少噴射制御を開始していても、それらの制御を速やかに終了して、通常の制御に早期に復帰することが可能になる。このことは、排気エミッション性能の向上及び燃費の向上に有利になる。
【符号の説明】
【0104】
1 ディーゼルエンジン
10 PCM(制御器)
11a 気筒
18 インジェクタ(燃料噴射弁)
30 吸気通路
36 スロットル弁
40 排気通路
50 排気ガス還流通路(EGR手段)
51a 排気ガス還流弁(EGR手段)
53a クーラバイパス弁(EGR手段)
72 クラッチ機構
73 手動変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に供給した燃料を圧縮自着火させるよう構成されたディーゼルエンジンと、
前記気筒内に臨んで配設されかつ、当該気筒内に燃料を直接噴射するよう構成された燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁による燃料噴射の制御を通じて前記ディーゼルエンジンの運転を制御するように構成された制御器と、を備え、
前記制御器は、アクセルの全閉を含む手動変速機のシフトチェンジプロセスが行われるときには、当該シフトチェンジプロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、前記ディーゼルエンジンの軸トルクが所定値以下となるような、微少の燃料を噴射しかつ当該微少燃料を燃焼させる微少噴射制御を実行するディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のディーゼルエンジンの制御装置において、
前記エンジンの排気ガスを前記気筒への吸気に還流させるよう構成されたEGR手段をさらに備え、
前記制御器は、前記シフトチェンジプロセスの開始後、前記アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、前記微少噴射制御と共に、前記EGR手段による排気ガスの還流を行うディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のディーゼルエンジンの制御装置において、
前記エンジンの吸気通路上には、スロットル弁が配設され、
前記制御器は、前記EGR手段による排気ガスの還流と共に、前記スロットル弁を閉じるディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの制御装置において、
前記エンジンの吸気通路上には、スロットル弁が配設され、
前記制御器は、前記シフトチェンジプロセスの開始後、前記アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、前記微少噴射制御と共に、前記スロットル弁の開度を所定の絞り状態に保持するディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの制御装置において、
前記制御器は、前記アクセルの全閉又はクラッチ機構の開放のいずれか早い方が実行されたタイミングで、前記燃料噴射弁を通じた前記気筒内への燃料の供給を停止すると共に、前記アクセルの全閉及び前記クラッチ機構の開放が共に実行されかつ、前記手動変速機がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行したタイミングで、前記微小の燃料噴射を開始するディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のディーゼルエンジンの制御装置において、
前記制御器は、前記シフトチェンジプロセスの開始後、前記手動変速機がシフトチェンジ前の変速段からニュートラルに移行したタイミングで、前記微小の燃料噴射を開始すると共に、前記手動変速機が前記ニュートラルから次の変速段に移行したタイミングで、燃料噴射量を、前記軸トルクが前記所定値以下となる限度で増量するディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの制御装置において、
前記制御器は、前記ディーゼルエンジンを空気過剰率が1以上のリーンで運転しているときのシフトチェンジプロセスにおいて、前記微少噴射制御を実行するディーゼルエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104401(P2013−104401A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250556(P2011−250556)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】