説明

デュアルモードの冷却材ループを備えた熱管理システム

【課題】輸送機器において使用されるデュアルモード熱管理システムを提供する。
【解決手段】最低限、システムはバッテリシステムと熱交換を行う第1冷却材ループと、少なくとも1つのドライブ・トレイン・コンポーネント(例えば、電気モータ、電源電子回路装置、インバータ)と熱交換を行う第2冷却材ループと、2つの冷却材ループが並列に作動される第1モードと2つの冷却材ループが直列に作動される第2モードの間でモードの選択を行う手段を提供するデュアルモード・バルブ・システムとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広くは熱制御システムに関し、より詳しくは、外部条件およびコンポーネント動作特性に依存する熱およびパフォーマンスの最適化を可能にする輸送機器用熱管理構造に関する。
【背景技術】
【0002】
世の中の乗り物(vehicles)の大部分はガソリンを使用した内燃機関で動く。そのような乗り物の利用、より詳細には化石燃料、すなわちガソリンに依存する乗り物の利用は2つの問題を引き起こす。第1に、そのような燃料は有限であり、かつ限られた地域でしか入手できないことから、大きな価格変動があるとともにガソリン価格は全体として値上がり傾向にあるのが一般的で、両者は消費者レベルに甚大な影響を与える可能性がある。第2に、化石燃料の燃焼は、二酸化炭素、温室効果ガスの主たる発生源の1つであり、地球温暖化の主要な原因の1つである。したがって、個人および商用車で使用される代替的動力システムを見出すことに多大な努力が費やされている。
【0003】
電気輸送機器(electric vehicles)は、内燃ドライブトレインを利用する輸送機器にとっての最も有望な代替物の1つを提供する。「ユーザーフレンドリー」な乗り物でありながらも効率的な電気ドライブトレインを設計するときに発生する主な問題の1つは熱管理であり、これはバッテリセルに要求される動作条件と、乗客用キャビン内において要求に応じて暖房および冷房を提供しなければならないことに主に起因する。そのため多くの電気およびハイブリッド輸送機器で使用される熱管理システムの能力には限界があり、かつ/または、過度に複雑である。例えば、初期の電気輸送機器は、よくマルチ独立熱管理サブシステムを使用した。このようなアプローチは、各サブシステムがそれ独自のコンポーネント(例えば、ポンプ、バルブ、冷房システムなど)を必要とするため本質的に非効率的である。
【0004】
独立した熱サブシステムの使用に関連するいくつかの問題を克服するために、米国特許第6,360,835号明細書、および関連する米国特許第6,394,207号明細書には、同じ熱伝達媒体を共用するマルチ熱伝達回路を利用する熱管理システムが開示される。熱伝達回路は相互に流体的に連通されており、高温回路から低温回路へと高温の熱伝達媒体を流通させるとともに低温の熱伝達媒体を低温回路から高温回路へと流通させる。このシステムは、従来のシステムにおける限界のいくつかは克服するが、2つの熱伝達回路の干渉により依然やや複雑である。
【0005】
同時係属中の米国特許出願第11/786,108号明細書に開示される別の熱制御システムでは、マルチ冷却ループと単独の熱交換器を利用する効率的な冷却システムが開示されている。開示された少なくとも1つの実施形態の冷却ループには、バッテリシステムと協働する冷却ループ、HVACシステムと協働する冷却ループ、そして駆動システム(例えばモータ)と協働する冷却システムが含まれる。
【0006】
上記従来技術は、電動輸送機器のモータおよび/またはバッテリを冷却するための多数の技術を開示し、ある状況では、そのような冷却を輸送機器の乗客用コンパートメントのHVACシステムと連携させているが、システムの簡略化およびシステム効率の向上がさらに望まれる。本発明はそのような熱管理システムを提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、輸送機器(例えば電気輸送機器)において使用されるデュアルモード熱管理システムを提供する。最低限システムは、バッテリと熱交換を行う第1冷却材ループと、少なくとも1つのドライブ・トレイン・コンポーネント(例えば、電気モータ、電源電子回路装置、インバータ)と熱交換を行う第2冷却材ループと、2つの冷却材ループが並列に作動される第1モードと2つの冷却材ループが直列に作動される第2モードの間でモードの選択を行う手段を提供するデュアルモード・バルブ・システムとを備える。デュアルモード・バルブ・システムは、例えば、1つのモードでバルブインレットAがバルブアウトレットAに連結されるとともにバルブインレットBがバルブアウトレットBに連結され、第2モードでバルブインレットAがバルブアウトレットBに連結されるとともにバルブインレットBがバルブアウトレットAに連結されるように構成された4方弁からなる。デュアルモード・バルブ・システムは、例えば、1つのモードで第1冷却材ループの第1部分が第1冷却材ループの第2部分に連結されるとともに、第2冷却材ループの第1部分が第2冷却材ループの第2部分に連結され、第2モードで第1冷却材ループの第1部分が第2冷却材ループの第2部分に連結されるとともに、第2冷却材ループの第1部分が第1冷却材ループの第2部分に連結されるように構成された4方弁からなる。デュアルモード・バルブ・システムは、例えば、デュアルモード・バルブ・システムが第1モードとされるとき、第1の3方弁が第1冷却材ループの第1部分を第1冷却材ループの第2部分に連結し;デュアルモード・バルブ・システムが第1モードとされるとき、第2の3方弁が第2冷却材ループの第1部分を第2冷却材ループの第2部分に連結し;デュアルモード・バルブ・システムが第2モードとされるとき、第1の3方弁が第1冷却材ループの第1部分を第2冷却材ループの第2部分に連結し;デュアルモード・バルブ・システムが第2モードとされるとき、第2の3方弁が第2冷却材ループの第1部分を第1冷却材ループの第2部分に連結するように構成された一対の3方弁からなる。システムは、例えば熱交換器を用いて第1冷却材ループと熱交換を行う冷房・冷凍サブシステムを備えてもよく、冷房・冷凍サブシステムには例えば冷媒、コンプレッサ、コンデンサ、感熱膨張弁が含まれる。システムは、第1冷却材ループと熱交換を行うヒータを備えてもよい。システムは、例えば第2冷却材ループと熱交換を行う充電器を備えてもよい。第2冷却材ループは、例えばバイパスバルブを用いて第2冷却材ループに連結されるラジエータを備え、バイパスバルブは、第2冷却材ループをラジエータに連結、あるいはラジエータから切り離すことを可能にする。システムはさらに、熱交換器を介して第1冷却材ループと熱交換可能とされた冷房・冷凍サブシステムを備えてもよく、キャビンHVACシステムは冷房・冷凍サブシステムに連結可能である。
【0008】
本発明の別の観点からは、電気輸送機器内の熱負荷管理方法が提供され、この方法は、ドライブトレイン冷却材ループとバッテリシステム冷却材ループを通して冷却材を循環させる第1モードおよび第2モードの間でモードを選択するステップを備え、第1モードでは冷却材がドライブトレイン冷却材ループおよびバッテリシステム冷却材ループを通して並列に循環され、第2モードでは冷却材が直列にドライブトレイン冷却材ループおよびバッテリシステム冷却材ループを通して循環される。第1モードにおいて、この方法は、例えばドライブトレイン冷却材ループの第1部分をドライブトレイン冷却材ループの第2部分に連結するステップと、バッテリ冷却材ループの第1部分をバッテリ冷却材ループの第2部分に連結するステップとを備え、第2モードにおいて、この方法はさらに、例えばドライブトレイン冷却材ループの第1部分をバッテリ冷却材ループの第2部分に連結するステップと、バッテリ冷却材ループの第1部分をドライブトレイン冷却材ループの第2部分に連結するステップとを備える。モード選択ステップは、例えば4方弁または一対の3方弁を用いる。この方法はさらに、充電器をドライブトレイン冷却材ループに熱結合させるステップを備えてもよい。この方法はさらに、バッテリの付加的な冷却が必要なときに冷房・冷凍サブシステムをバッテリ冷却材ループに熱結合させるステップを備えてもよい。この方法はさらに、バッテリの付加的な加熱が必要なときにヒータをバッテリ冷却材ループに熱結合させるステップを備えてもよい。この方法はさらに、ドライブトレインの付加的な冷却が必要なときに、例えばバイパスバルブを用いて、ドライブトレイン冷却材ループをラジエータに結合するステップを備えてもよい。
【0009】
本発明の本質および利点のさらなる理解は明細書の残りの部分と図面を参照することにより明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の熱管理システムで用いられる様々なサブシステムの上位概念図である。
【0011】
【図2】ドライブトレインおよびバッテリサブシステムが並列に作動するときの熱管理システムの構成の好ましい実施形態を示す。
【0012】
【図3】ドライブトレインおよびバッテリサブシステムが直列に作動するようにされた図2に示される実施形態を示す。
【0013】
【図4】運転モード間の切替えを行う単独の4方弁の代わりに2台の3方弁を使用するように変更された図2に示される実施形態を示す。
【0014】
【図5】運転モード間の切替えを行う単独の4方弁の代わりに2台の3方弁を使用するように変更された図3に示される実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の文章では、用語「バッテリ」、「セル」、および「バッテリセル」は、交換可能に使用され、化学的性質および構成上、様々な異なるセルタイプの何れであってもよく、リチウムイオン(例えば、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、他のリチウム金属酸化物(lithium metal oxidesなど)、リチウムイオンポリマー、ニッケル金属水素化物、ニッケルカドミウム、ニッケル水素、ニッケル亜鉛、銀亜鉛、または他のバッテリタイプ/構成が含まれるが、これに限定されるものではない。ここで使用される用語「バッテリパック」は、単独のピースまたは複数のピースからなるハウジング内に収められた多数の個別のバッテリのことであり、個々のバッテリは、特定のアプリケーションにおける所望の電圧および容量を得るために電気的に互いに接続される。用語「バッテリ」および「バッテリシステム」は、交換可能に使用され、ここでの使用においては、バッテリ、バッテリパック、キャパシタ、あるいはスーパーキャパシタなどの充電および放電可能な電気エネルギー貯蔵システムのことである。用語「冷房・冷凍(refrigeration)サブシステム」および「冷却(cooling)サブシステム」は、交換可能に使用され、他のシステムコンポーネントおよびサブシステムを冷却するのに使用され得る様々な異なる冷房・冷凍/冷却サブシステムの何れをも意味する。ここで使用される用語「電動輸送機器」は、EVとも呼ばれる全電動輸送機器、PHEVとも呼ばれるプラグインハイブリッド式輸送機器、あるいはハイブリッド輸送機器(HEV)の何れかのことであり、ハイブリッド輸送機器は、その1つが電気駆動システムである多数の推進源を利用している。なお、多くの図面で使用される同一の要素符号は、同一の構成要素、または等しい機能を有する構成要素について言及するものである。更に、添付する図は、本発明の範囲を例示することを単に意図したもので、限定を意図したものではなく、一定の縮尺で描くことを意図したものと考えるべきではない。
【0016】
図1は、一般的な電動輸送機器の熱管理システム100の下に置かれる基本的なサブシステムを例示する上位概念図である。通常、このような輸送機器の熱管理システムには、冷房・冷凍サブシステム101、乗客用キャビンサブシステム103、ドライブ・トレイン・サブシステム105、そしてバッテリサブシステム107が含まれる。熱管理システム100は、コントロールシステム109も含まれる。また、これら各々のサブシステムの詳細が以下に与えられ、その中のいくつかは、図2〜5に図示される典型的な実施形態に示されるであろう。
【0017】
冷房・冷凍サブシステム101は、システム100を構成する1以上の他の熱サブシステムに熱結合できるように設計され、熱結合されたサブシステムの温度を下げる必要がある、あるいは望ましいときに熱結合される。ここで冷却サブシステムとしても参照される冷房・冷凍サブシステム101は、冷媒(例えば、R134a)圧縮システム、熱電クーラーやその他の手段を利用してもよい。図2〜5に示される好ましい実施形態では、サブシステム101は、サブシステム内の低温の冷媒蒸気を高温蒸気へと圧縮するコンプレッサ201を備える。冷媒蒸気は、その後コンデンサ203を通過する際に取り込んだ熱の一部を散逸させ、それにより蒸気から液体への相変化がもたらされ、このとき液体は高温高圧に維持される。好ましくは、コンデンサ203の性能は送風機205を用いて高められる。液相の冷媒はその後レシーバドライヤ207を通り、凝縮された冷媒から水分が取り除かれる。好ましい実施形態では、図示されるように、冷媒ライン209は、感熱膨張弁213によりキャビン蒸発器211と連結されるとともに感熱膨張弁217により熱交換器215(ここではチラーとしても参照される)に連結される。感熱膨張弁213および217は、冷媒の蒸発器211およびチラー215への流入量をそれぞれ制御する。
【0018】
暖房、換気、冷房(HVAC)サブシステム103は、一般には複数のダクトおよび通気孔を通じて輸送機器の乗客用キャビンの温度制御を提供する。好ましくは、HVACサブシステム103は、空気が暖められているか、冷やされているか、あるいは単に乗り物外部からの新鮮な空気であるかに関わらず、要求に応じてキャビン全体に空気を循環させるのに利用される1台以上のファン219を備える。冷気を提供するには、蒸発器211を通して冷媒が循環される。通常の輸送機器の運転において暖気を提供するのに、HVACサブシステム103は、例えば蒸発器211内に一体化されたPTCヒータなどのヒータ221を利用するかもしれない。図示されないが、別の実施形態のHVACサブシステム103では、ドライブ・トレイン・サブシステム105やバッテリサブシステム109からHVACサブシステムへと熱エネルギーを移動するための熱交換器などの手段を備えてるかもしれない。
【0019】
サブシステム105は、輸送機器の主走行モータである駆動モータ225の冷却に用いられる連続ドライブトレイン冷却ループ223から構成される。単独の駆動モータが図示されるが、本発明が適用されるEVは1以上の駆動モータ、例えば車軸毎、車輪毎などに駆動モータを採用するように設計されてもよい。冷却ループ223は、輸送機器の他の電子的なコンポーネント、例えばモータ225の電源電子装置モジュールおよびインバータ227にも熱的に連結されていることが好ましい。システムが例えば外部電源を用いて2次電池を充電するための充電器229を備えるときには、充電器も冷却ループ223に連結されていることが好ましい。また、充電器229は、バッテリシステム冷却ループに連結されていてもよい。少なくとも1つの実施形態では、システムの電子装置(例えば電源電子装置227)は、電子装置から冷却ループ内の液体冷却材(すなわち、熱伝達媒体)へと熱を移動するのに使用される冷板に据え付けられる。冷却ループ223は、冷却ループを通して冷却材を循環させるポンプ231、周囲の空気に熱を排出するためのラジエータ233、そして冷却材リザーバ235Aを備える。システムはさらに、例えば輸送機器が動いていないときなど、必要なレベルの冷却を行うには不十分な空気しかラジエータを通らないときに、ラジエータ233に空気を強制的に通すファン237を備えることが好ましい。サブシステム105は、図示されるように、冷却材ループ223からのラジエータ233の切離しを可能にするバルブ239も備えることが好ましい。図2に示される典型的な実施形態では、バルブ239のポジションにより、ラジエータ233が冷却材ループ223に連結される。
【0020】
バッテリサブシステム107は、冷却材(すなわち、熱伝達媒体)が入れられた冷却材ループ243に連結される1以上のバッテリ241を備える。一般的な電動輸送機器では、バッテリ241は複数のバッテリから構成される。1以上の循環ポンプ245が、バッテリ241を通して冷却材を、通常は伝熱板、あるいはバッテリと熱交換を行う1以上の冷却材導管(図示せず)により送り出す。専用の冷却サブシステムがサブシステム107とともに使用されてもよいが、温度自動調節弁217がサブシステム101から冷媒を熱交換器215に通していると仮定して、ループ243内の冷却材は熱交換器215内の冷媒との熱伝達を通して冷却されるのが好ましい。さらに、本発明の好ましい実施形態では、冷却ループ243は、ヒータ247(例えばPTCヒータ)にも熱的に連結され、雰囲気温度に関わらずバッテリ241の温度をその推奨動作範囲(preferred operating range)内に維持できることを保証する。サブシステム107は、冷却材リザーバ235Bも備える。好ましくは、冷却材リザーバ235A、235Bは、図示されるように単一のデュアル・ループ・リザーバとして統合される。
【0021】
総じて言えば各々の熱管理サブシステムの動作を制御するために、より具体的には冷房・冷凍サブシステム101によって他のサブシステムに供給される冷却量を制御するために、コントロールシステム109で使用できる技術は多く存在する。通常コントロールシステム109は、輸送機器の様々なコンポーネント(例えばバッテリ241、モータ225、駆動電子装置227など)内、1以上の冷却材ループ(例えば冷却材ループ223など)内、そして乗客キャビン内の1箇所以上の場所における温度をモニタする複数の温度検知器(図示せず)を使用する。これら様々な場所でモニタされた温度は、コントロールシステム109によって個々別々の熱管理サブシステムの動作を特定するのに使用される。モニタされた温度と、キャビンおよび様々な輸送機器コンポーネントにおいて要求される温度範囲に応じて、各サブシステムで適用される加熱量および冷却量が、例えば、冷却材ループ内の流量弁(図示せず)、様々な循環ポンプ(例えばポンプ231、245)のポンプ速度、ヒータ(例えばヒータ221、247)の運転、そしてブロワファン(例えば、ファン205、219、237)の運転を通して調整される。コントロールシステム109は、プロセッサにより実行されるプログラムに基づいて自動的に作動してもよく、あるいはシステム109は手動制御されてもよく、あるいはシステム109は手動と自動制御の組合せを利用してもよい。
【0022】
冷媒の流量制御、冷却材の流量制御、ヒータ、ファンなどの動作制御に加え、本発明は、熱管理システム全体の構成を迅速かつ簡単に置き換え、輸送機器のサブシステム間における熱エネルギーの制御と経路選択の異なる手段を提供する。その結果として、本発明の熱管理システムは、輸送機器コンポーネントの熱負荷や要求の変化に対しては無論のこと、環境条件(例えば空気温度、日射負荷(solar loading)の変化など)の変化に応じた緻密かつ柔軟な方法を提供する。ここで並列構成と呼ぶ図2に示される構成では、ドライブ・トレイン・サブシステム105は、バッテリサブシステム107とは独立して運転され、冷却材リザーバ235A/Bのチャンバ同士を連絡するとともにチャンバ間で冷却材の液位を常時維持する小さな冷却材通路251を通じた最小限の熱交換のみを行う。なお、本発明の少なくとも1つの実施形態では、ドライブ・トレイン・サブシステム105とバッテリサブシステム107は、別々の冷却材リザーバを用いてもよい。
【0023】
図3は、図2と同様に熱管理システム200を示し、ドライブ・トレイン・サブシステム105とバッテリサブシステム107の直列運転を可能にするため再設定がなされたものである。システム200では、この熱的構成の変更はバルブ249の向きを変えることで達成される。本発明のこの好ましい実施形態では、バルブ249は4方円筒状のバタフライバルブあるいはボールバルブである。
【0024】
直列構成では、冷却材は初め駆動モータ225と付属電子装置(例えば駆動電子装置227、充電器229)に熱連結される冷却材ライン223を通してポンプにより送り出される。図3に示されるように、ドライブ・トレイン・コンポーネントを通り過ぎた後、バルブ249は冷却材ライン223を冷却材ライン243に連結し、それにより流れている冷却材は、図示するようにドライブ・トレイン・コンポーネントにより暖められた後、バッテリ241を通過する。
【0025】
外部環境とともにコンポーネントの現在の動作特性にしたがって、バッテリとドライブ・トレイン・サブシステムを直列あるいは並列の何れかに設定できる機能は、輸送機器のサブシステムの熱的および性能上の最適化を可能にする。このような熱的および性能上の最適化により、効率は改善され、随伴する運転費用は節約される。
【0026】
好ましくは、コントロールシステム109は、その全てがシステム109によりモニタされる輸送機器コンポーネントの動作特性と環境条件に基づいてバルブ249を自動制御するように構成されることが好ましい。サブシステム105と107を直列あるいは並列に作動させるかの判断は、機内エネルギーの使い方、システムの熱的応答、および運転性能動作条件を最適化するように行われる。直列および並列運転のいくつかの代表的な条件が以下に示される。
【0027】
図3に示されるようなサブシステム105、107の直列的な運転は、いくつかの動作シナリオにおいてシステムの効率を向上する。例えば:
【0028】
・輸送機器が冷えているとき、例えば一晩あるいは長時間車庫に止められていた後など、直列運転は、冷却材がバッテリシステムを通過する前にドライブ・トレイン・コンポーネントにより暖められるようにする。多くのエネルギー源、例えば2次電池には、推奨動作温度(preferred operating temperature)における最低値が有り、この構成はドライブ・トレイン・コンポーネントにより発生する熱でバッテリを暖めることを可能にする。本発明を利用する輸送機器の少なくとも1つの実施形態では、この方式での運転がヒータ247の削除を可能にし、それによりシステムの複雑さ、初期費用、運用費用を低減する。本発明を利用する輸送機器の少なくとも1つの実施形態では、この方式での運転がヒータ247の寸法と出力の低減を可能にし、それにより初期費用および運用費用を低減する。なお、この運転モードは、環境温度が低くバッテリを暖める必要があるとき、あるいは輸送機器が駐車されバッテリを暖める必要があるときに運転される際に使用されるであろう。このモードでは、冷却材の温度、すなわちシステムの効率は、冷却材がバッテリシステムを流れる前に、ラジエータ233を通過するか否かを選択するバルブ239を用いて調整されるであろう。雰囲気温度がドライブトレインの出口温度を超えるのであれば、加熱を増進するために付加的な外部空気の流れを与えるためファン237を使用してもよい。
【0029】
・ある状況では、バッテリシステムを効率的に充電するには冷た過ぎる可能性がある。サブシステムを直列に動作させることで、充電器229で発生する排熱はバッテリパックを通って流れ、それによりバッテリを暖め、ヒータ247による付加的な加熱が殆どなくとも、それらが効率的に充電されることを可能にする。このアプローチの付加的な利益は、運転中に充電器229を冷却する必要性を除去し、あるいは少なくとも最小にすることである。好ましくは、このモードでは、充電器とバッテリがヒートアップするにしたがって、(必要であれば)冷却材をラジエータ233に通すことでそれらを冷却することができる。付加的な冷却を行うためにファン237を使用してもよい。
【0030】
・雰囲気温度が比較的低い場合、サブシステムを直列的に運転することで、ドライブ・トレイン・コンポーネントとバッテリシステムの両者を、動作温度と輸送機器の速度に応じて、ファン237を作動させ、あるいは作動させずに、ラジエータ233のみを用いて冷却できる。その結果、バッテリ241は、冷却サブシステム101による冷却を必要としない。冷却サブシステムがこのときキャビンの冷房に必要でないと仮定すると、このモードの運転においてサブシステム101を作動させる必要性がなくなるので、さらに運転効率が向上する。なお、必要な場合には、熱交換器215を介して冷却サブシステム101により冷却材の冷却が増大されるであろう。
【0031】
・雰囲気温度が極めて高いとき、あるいはもし1以上の輸送機器コンポーネントがそれに要求される動作温度よりも高いとき、直列運転は熱交換器215を介してドライブトレイン冷却材ループ223を冷却サブシステム101へ連結する簡便な方法を提供する。図3に示されるように、この運転モードでは、ループ223内の冷却材は、冷房・冷凍サブシステム101によってラジエータ233のみで達成される温度よりも低温に冷却されてもよく、外部環境から冷却された冷却材に不要な熱が加えられることを防止するため、ラジエータ233はバルブ239を用いてバイパスされてもよい。付加的に、冷房・冷凍サブシステム101の運転なしでも、ドライブ・トレイン・コンポーネントは、主にバッテリ241を熱キャパシタとして利用し、ドライブトレインの余分な熱がバッテリ241に放出されるようにすることでこの構成においても役立つ。
【0032】
図2はサブシステム105と107を作動する並列的な構成を示す。少ない代表例としての運転シナリオには以下のものが含まれる:
【0033】
・並列的な構成は、ドライブトレインとバッテリサブシステムに亘る独立した温度制御を可能にし、各サブシステムがその許容温度範囲内で運転され、かつ輸送機器の最小消費で運転されることを可能にする。したがって、バッテリ241は、冷房・冷凍サブシステム101および熱交換器215の利用を通じて、あるいはヒータ247により暖められることで要求量に応じて冷却されるであろう。複数のドライブ・トレイン・コンポーネントに亘る制御は、ラジエータ233/ファン237、およびラジエータ・バイパス・バルブ239により達成される。
【0034】
・ある場合においては、ドライブトレインは未だ低温なのにバッテリは既に推奨動作温度にあるかもしれない。並列運転は、ドライブトレインがヒートアップをまだ行っている間にもバッテリ241がこの温度、あるいは望ましい温度範囲に維持されることを可能にする。なお、バルブ239を利用してラジエータ233をバイパスすることで、ドライブトレインのヒートアップが促進される。
【0035】
・雰囲気温度によっては、充電中のある場合において、充電器229を単独でラジエータ233により冷却しながら、バッテリ241を独立して温度制御することが望まれる。
【0036】
本発明の趣旨が、システムの効率を最大にし、および/または、様々な異なるシステムコンポーネント(例えば、モータ、充電器、インバータ、バッテリなど)の何れかの熱的要求、雰囲気温度、輸送機器速度などに応じてドライブトレイン熱サブシステムとバッテリ熱サブシステムを、直列的構成または並列的構成の何れかで運転することでシステムの熱的なパフォーマンスを向上する機能にあることが理解されるであろう。したがって、個々のコンポーネントおよびサブシステムのレイアウトは、本発明から外れることなく典型的な実施形態のそれらから変更できると理解されるべきで、例えば冷却/冷房・冷凍サブシステムの形式、キャビンのHVACサブシステムが他のサブシステムに連結される方法、熱交換器の数、循環ポンプ/ラジエータ/ファンの数などの全ては、発明の趣旨から外れることなくシステム200と異なってもよい。例えばシステム200の典型的な変更としては、ヒータ247が、冷却材ループ243の中でバッテリ241の直前となるように別の場所に配置される。
【0037】
図4、5は、それぞれ図2、3に示されるシステムを僅かに変更したものに対応し、具体的には4方弁249を一対の3方弁401、403で置き換えたものである。システム200および400は同様の方法で作動され、同一の性能上および効率上の強みを発揮するが、信頼性を向上しつつも部品点数、コスト、システムの複雑さを低減するには、単独での4方弁の使用の方が、2個の3方弁よりも好ましい。なお図5では、ラジエータ・バイパス・バルブ239は、図4に示されるラジエータ起動ポジションとは反対のバイパスポジションにあるものとして示される。
【0038】
当業者によって理解されるように、本発明は、本発明の趣旨あるいは本質から外れることなく他の特定の形態により具体化されてもよい。したがって、ここでの開示内容と説明は例示的なものであり、以下の請求項に記載される本発明の範囲を限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリシステムと熱交換を行う第1冷却材ループと、
少なくとも1つのドライブ・トレイン・コンポーネントと熱交換を行う第2冷却材ループと、
デュアルモード・バルブ・システムとを備え、
前記第1冷却材ループが冷却材を前記第1冷却材ループ内で循環させる第1循環ポンプを備え、前記第1冷却材ループが第1冷却材リザーバをさらに備え、
前記第2冷却材ループが前記冷却材を前記第2冷却材ループ内で循環させる第2循環ポンプを備え、前記第2冷却材ループが第2冷却材リザーバをさらに備え、前記冷却材が前記第1および第2冷却材リザーバ間を流通可能であり、
前記第1冷却材ループは、前記バルブ・システムが第1モードとされるときに前記第2冷却材ループと並列にかつ独立して作動されるとともに、前記第1冷却材ループは、前記バルブ・システムが第2モードとされるときに前記第2冷却材ループと直列に連結される
ことを特徴とするデュアルモード輸送機器熱管理システム。
【請求項2】
前記デュアルモード・バルブ・システムが4方弁で構成され、前記第1モードにおける前記4方弁は第1バルブインレットを第1バルブアウトレットに連結するとともに第2バルブインレットを第2バルブアウトレットに連結し、前記第2モードにおける前記4方弁は前記第1バルブインレットを前記第2バルブアウトレットに連結するとともに前記第2バルブインレットを前記第1バルブアウトレットに連結することを特徴とする請求項1に記載のデュアルモード輸送機器熱管理システム。
【請求項3】
前記デュアルモード・バルブ・システムが4方弁で構成され、前記第1モードにおける前記4方弁は前記第1冷却材ループの第1部分を前記第1冷却材ループの第2部分に連結するとともに前記第2冷却材ループの第1部分を第2冷却材ループの第2部分に連結し、前記第2モードにおける前記4方弁は前記第1冷却材ループの前記第1部分を前記第2冷却材ループの前記第2部分に連結するとともに前記第2冷却材ループの第1部分を前記第1冷却材ループの前記第2部分に連結することを特徴とする請求項1に記載のデュアルモード輸送機器熱管理システム。
【請求項4】
前記デュアルモード・バルブ・システムが3方弁と第2の3方弁で構成され、前記デュアルモード・バルブ・システムが前記第1モードとされるとき前記第1の3方弁が前記第1冷却材ループの第1部分を前記第1冷却材ループの第2部分に連結し、前記デュアルモード・バルブ・システムが前記第1モードとされるとき前記第2の3方弁が前記第2冷却材ループの第1部分を前記第2冷却材ループの第2部分に連結し、前記デュアルモード・バルブ・システムが前記第2モードとされるとき前記第1の3方弁が前記第1冷却材ループの第1部分を前記第2冷却材ループの第2部分に連結し、前記デュアルモード・バルブ・システムが前記第2モードとされるとき前記第2の3方弁が前記第2冷却材ループの第1部分を前記第1冷却材ループの第2部分に連結することを特徴とする請求項1に記載のデュアルモード輸送機器熱管理システム。
【請求項5】
前記第1および第2冷却材リザーバが、単一の冷却材リザーバの第1の第1および第2チャンバであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のデュアルモード輸送機器熱管理システム。
【請求項6】
前記第1冷却材ループと熱交換器により熱交換する冷房・冷凍サブシステムを更に備えることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のデュアルモード輸送機器熱管理システム。
【請求項7】
前記第1冷却材ループがさらにヒータを備えることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のデュアルモード輸送機器熱管理システム。
【請求項8】
前記第2冷却材ループがバイパスバルブをさらに備え、第1ポジションにある前記バイパスバルブが前記第2冷却材ループをラジエータに連結し、第2ポジションにある前記バイパスバルブが前記ラジエータを前記第2冷却材ループから切り離すことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のデュアルモード輸送機器熱管理システム。
【請求項9】
ドライブトレイン冷却材ループとバッテリシステム冷却材ループを通して冷却材を循環させる第1モードおよび第2モードの間でモードを選択するステップを備え、
前記第1モードでは、前記ドライブトレイン冷却材ループが少なくとも1つのドライブ・トレイン・コンポーネントと熱交換を行うとともに前記ドライブトレイン冷却材ループを通して前記冷却材を循環するステップと、前記バッテリシステム冷却材ループがバッテリシステムと熱交換を行うとともに前記バッテリシステム冷却材ループを通して前記冷却材を循環するステップとを備え、前記バッテリシステム冷却材ループを通して前記冷却材を循環するステップが、前記ドライブトレイン冷却材ループを通して前記冷却材を循環するステップと並列に実行され、
前記第2モードでは、前記ドライブトレイン冷却材ループと前記バッテリシステム冷却材ループを通して前記冷却材を直列に循環するステップを備える
ことを特徴とする電動輸送機器内の熱負荷管理方法。
【請求項10】
前記第1モードでは、前記ドライブトレイン冷却材ループの第1部分を前記ドライブトレイン冷却材ループの第2部分に連結するステップと、前記バッテリシステム冷却材ループの第1部分を前記バッテリシステム冷却材ループの第2部分に連結するステップを備え、前記第2モードでは、前記ドライブトレイン冷却材ループの第1部分を前記バッテリシステム冷却材ループの第2部分に連結するステップと、前記バッテリシステム冷却材ループの第1部分を前記ドライブトレイン冷却材ループの第2部分に連結するステップとを備えることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記選択を行うステップが、4方弁を前記第1モードに対応する第1ポジションと前記第2モードに対応する第2ポジションの何れかに設定するステップをさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1モードでは、第1の3方弁を第1ポジションに設定するステップと、第2の3方弁を第1ポジションに設定するステップとを備え、前記第2モードでは、前記第1の3方弁を第2ポジションに設定するステップと、前記第2の3方弁を第2ポジションに設定するステップとを備えることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
熱交換器を介して前記バッテリシステム冷却材ループを冷房・冷凍サブシステムに熱連結するステップを備え、前記バッテリシステム冷却材ループを前記冷房・冷凍サブシステムに熱連結する前記ステップが、付加的なバッテリシステムの冷却が望まれるときに実行されることを特徴とする請求項9〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記バッテリシステム冷却材ループをヒータに熱連結するステップを備え、前記バッテリシステム冷却材ループを前記ヒータに熱連結する前記ステップが、付加的なバッテリシステムの加熱が望まれるときに実行されることを特徴とする請求項9〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
バイパスバルブを用いて前記ドライブトレイン冷却材ループをラジエータに連結するステップを備え、前記連結ステップが、付加的なドライブトレインの冷却が望まれるときに実行されることを特徴とする請求項9〜14の何れか一項に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−255879(P2011−255879A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−98075(P2011−98075)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(509316442)テスラ・モーターズ・インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】