説明

トランスミッションの加熱方法および加熱装置

【課題】トランスミッションを検査する際にトランスミッションを迅速に検査温度に加熱し得るようにする。
【解決手段】
トランスミッションケース10aのドレン孔12からの排出流量よりも多い給油流量で検査温度よりも高い温度の作動油Lを、ドレン孔12よりも高い位置の給油孔11からトランスミッションケース10a内に供給するとともに、作動油Lがドレン孔12よりも高い液位となってドレン孔12を塞いだときに作動油Lをドレン孔12から強制的に排出する圧縮空気をトランスミッションケース10a内に供給する。ドレン孔12よりも高い液位への作動油Lの供給と圧縮空気による作動油Lの排出とを繰り返してトランスミッションを加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッションの組立完了後に油圧機能等の検査を行う際に検査温度までトランスミッションの温度を急速に加熱するようにしたトランスミッションの加熱技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン出力を駆動車輪に伝達させるために、変速機、終減速機等からなる動力伝達系つまりトランスミッションが自動車車体に搭載される。変速機には、運転者のシフトレバー操作により、変速操作が行われる手動変速機と、車両の走行状態に応じて変速操作が自動的に行われる自動変速機がある。自動変速機には複数の変速歯車列を有する有段変速機と、入力軸の回転を無段階に制御するようにしたベルト式やトロイダル式の無段変速機がある。変速機等の動力伝達系を構成する各種機器は、トランスミッションケース内に組み込まれる。
【0003】
無段変速機を備えたトランスミッションは、エンジン出力軸に連結されるトルクコンバータと、このトルクコンバータのタービン軸に連結される前後進切換機構とを有している。無段変速機は前後進切換機構の出力軸に連結されるプライマリ軸と、終減速機に連結されるセカンダリ軸とを備えており、プライマリ軸に設けられたプライマリプーリとセカンダリ軸に設けられたセカンダリプーリとの間には、チェーンベルト等の動力伝達部材が掛け渡されている。前後進切換機構は油圧クラッチ等の油圧係合要素を作動させることにより切換動作を行い、無段変速機はプライマリ油室とセカンダリ油室に供給される油圧を調整することにより変速操作を走行状況に応じて自動的に行う。
【0004】
有段変速機を備えたトランスミッションは、タービン軸に連結される変速機入力軸と変速機出力軸との間には、相互に歯車比が相違する複数対の歯車列が設けられている。変速機には油圧クラッチ等の油圧係合要素が設けられており、油圧係合要素を作動させて動力を伝達する歯車列を自動的に切り換えることにより走行状況に応じて変速比が切り換えられる。このように、トランスミッションケース内には、トランスミッションを構成する種々の油圧作動機器が組み込まれており、それぞれの油圧作動機器に対する油圧の供給は、エンジンや電動モータにより駆動される油圧ポンプにより行われる。油圧ポンプによって各油圧作動機器に対して供給される作動油はトランスミッションケース内に収容されている。
【0005】
トランスミッション組立体の製造が完了すると、特許文献1に記載されるように、変速機試験装置によりトランスミッションにおける油圧作動機器の機能等が検査される。特許文献2にはトランスミッションに作動油を供給する際に油圧作動装置の内部を洗浄するようにした作動油供給装置が記載されている。また、特許文献3にはディファレンシャルを洗浄する機能を兼ね備えた自動変速機の試験装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−326131号公報
【特許文献2】特許第2925621号公報
【特許文献3】実公平6−7348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トランスミッションにおける油圧作動機器の検査は、トランスミッション全体が車両走行時の温度つまり定常温度(約70〜80℃)となった状態のもとで行うことが理想である。一方で、作業者の安全を考慮すると、検査を行う作業者がトランスミッションに触れても安全に作業できる温度に設定する必要がある。そこで、トランスミッションの検査温度は車両の機能試験上相関がとれる温度範囲として40〜60℃に設定されており、油圧機能の検査を行うにはトランスミッションを定常温度に対応した検査温度に加熱する必要がある。
【0008】
従来では油圧作動機器に供給される作動油を加温してミッションケース内に給油することにより、トランスミッションを加熱するようにしている。給油された作動油をミッションケースに形成されたドレン孔から自重で排出するようにしているので、給油流量はドレン孔の開口面積と作動油の自重により定まることになる。したがって、ドレン孔よりも油面が高くならないように給油流量を抑制する必要があり、トランスミッションを検査温度にまで加熱するには数分かかっている。加熱時間を短縮するために、給油流量を上げるとミッションケースの上部に形成されたブリーザ孔から作動油が吹き出すことになる。
【0009】
本発明の目的は、トランスミッションを検査する際にトランスミッションを迅速に検査温度に加熱し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のトランスミッションの加熱方法は、トランスミッションケース内にトランスミッション構成部材が組み込まれたトランスミッションの作動検査を行う際に前記トランスミッションの温度を検査温度に加熱するトランスミッションの加熱方法であって、前記トランスミッションケースに設けられたドレン孔からの排出流量よりも多い給油流量でありかつ前記検査温度よりも高い温度の作動油を、前記ドレン孔よりも高い位置に設けられた給油孔から前記トランスミッションケース内に供給し、前記トランスミッションケース内に圧縮空気を供給することにより、作動油が前記ドレン孔よりも高い液位となって前記ドレン孔を塞いだときに作動油を強制的に前記ドレン孔から排出し、前記トランスミッションケース内に組み込まれた回転部材を回転駆動した状態のもとで、作動油を前記ドレン孔よりも高い液位への上昇と圧縮空気による作動油の排出とを繰り返してトランスミッションを加熱することを特徴とする。
【0011】
本発明のトランスミッションの加熱方法は、前記トランスミッションケースの上部に設けられたブリーザ孔を介してトランスミッション内に前記圧縮空気を供給することを特徴とする。本発明のトランスミッションの加熱方法は、加熱開始時には前記トランスミッションケース内への作動油の供給を開始し圧縮空気の供給を開始してから回転開始遅延時間が経過した後に前記回転部材を回転駆動し、加熱終了時には作動油の供給を停止し圧縮空気の供給を停止してから回転停止遅延時間が経過した後に前記回転部材の回転を停止することを特徴とする。本発明のトランスミッションの加熱方法は、加熱終了時には作動油の供給を停止してから液位調整時間が経過した後に圧縮空気の供給を停止することを特徴とする。
【0012】
本発明のトランスミッションの加熱装置は、トランスミッションケース内にトランスミッション構成部材が組み込まれたトランスミッションの作動検査を行う際に前記トランスミッションの温度を検査温度に加熱するトランスミッションの加熱装置であって、前記トランスミッションケースに設けられたドレン孔からの排出流量よりも多い給油流量でありかつ前記検査温度よりも高い温度の作動油を、前記ドレン孔よりも高い位置に設けられた給油孔から前記トランスミッションケース内に供給する作動油供給手段と、作動油が前記ドレン孔よりも高い液位となって前記ドレン孔を塞いだときに作動油を前記ドレン孔から強制的に排出する圧縮空気を、前記トランスミッションケース内に供給する空気供給手段と、前記トランスミッションケース内に組み込まれた回転部材を回転駆動する回転手段とを有し、前記回転部材を回転させた状態のもとで作動油を前記ドレン孔よりも高い液位への供給と圧縮空気による作動油の排出とを繰り返してトランスミッションを加熱することを特徴とする。
【0013】
本発明のトランスミッションの加熱装置は、前記トランスミッションケースの上部に設けられたブリーザ孔を介してトランスミッション内に前記圧縮空気を供給することを特徴とする。本発明のトランスミッションの加熱装置は、前記作動油供給手段は、収容した作動油を加熱するヒータが設けられた油収容タンクと、当該油収容タンク内の作動油を前記給油孔に案内する油供給管に設けられた油圧ポンプと、空気圧供給源からの圧縮空気を前記トランスミッションケース内に供給する空気供給管に設けられた流路開閉弁と、前記油圧ポンプおよび前記流路開閉弁の作動を制御する制御手段を有することを特徴とする。本発明のトランスミッションの加熱装置は、前記回転手段は電動モータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、トランスミッション内に注入される作動油を利用してこれを加熱してトランスミッションを加熱する。トランスミッション内には作動油と圧縮空気とを注入し、ドレン孔から作動油を圧縮空気により強制的に排出するようにしたので、トランスミッションケースのドレン孔から作動油を自重で排出させる場合よりも多量の作動油をトランスミッション内に給油することができる。これにより、トランスミッション内の油圧作動機器の機能を検査するために必要な検査温度に短時間でトランスミッションを加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は組立完了後のトランスミッションの外観を示す正面図であり、(B)は(A)の右側面図である。
【図2】図1に示したトランスミッションを加熱するための加熱装置の概略図である。
【図3】トランスミッションを加温しているときのトランスミッションケース内の作動油の液面変動を示す概略図である。
【図4】トランスミッションの加熱処理の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は組立ラインにおいて組立が完了した後のトランスミッション10を示す。トランスミッション10は、エンジン出力を駆動車輪に伝達させるための動力伝達機器を有しており、これらはトランスミッションケース10a内に組み込まれている。このトランスミッション10が車両に搭載されると、図1(A)においてトランスミッション10の左側にはエンジンが配置され、そのクランク軸がトランスミッション10に連結される。トランスミッション10が無段変速機を有する場合には、トランスミッションケース10a内にはエンジンの出力軸であるクランク軸に連結されるトルクコンバータと無段変速機との間に前後進切換機構が配置される。無段変速機は前後進切換機構の出力軸に連結される変速機入力軸としてのプライマリ軸と、変速機出力軸としてのセカンダリ軸とを有し、それぞれに設けられた溝幅可変のプーリにはチェーン式ベルトやスチールベルト等の動力伝達部材が掛け渡されている。
【0017】
前後進切換機構はトルクコンバータのタービン軸の回転方向を正転方向と逆転方向とに切り換えるために、油圧クラッチや油圧ブレーキ等の摩擦係合要素を有している。無段変速機はプライマリプーリの溝幅を変化させるためのピストンと、セカンダリプーリの溝幅を変化させるためのピストンとを有している。摩擦係合要素およびピストン等の油圧作動機器には、トルクコンバータのポンプ軸に連結される油圧ポンプから作動油が供給される。それぞれの油圧作動機器に対する作動油の供給を調整するために、トランスミッションケース10a内には流路切換弁や圧力調整弁が組み込まれている。
【0018】
トランスミッション10が有段変速機を有する場合には、変速機はトルクコンバータのタービン軸に連結される変速機入力軸と、終減速機に連結される変速機出力軸とを有している。これらの間には複数対の変速歯車対が設けられており、油圧クラッチや油圧ブレーキ等の摩擦係合要素によって動力を伝達する歯車対が切り換えられて変速比が設定される。油圧クラッチ等の油圧作動機器に対しては油圧ポンプから作動油が供給される。変速機を作動するための油圧作動機器に対して作動油が供給されるとともに、トランスミッション10を構成する歯車対や軸受等に対しても潤滑するために作動油が供給される。作動油はトランスミッション10を組み立てた後に内部に注入される。
【0019】
トランスミッションケース10aには、内部に作動油を供給するために、図1に示されるように給油孔11が形成されている。この給油孔11にはプラグがねじ止めされるようになっており、作動油を注入してトランスミッション10の組立が完了した後には給油孔11はプラグにより閉塞される。トランスミッションケース10aには、給油孔11よりも低い位置に排出孔つまりドレン孔12が形成されている。このドレン孔12はトランスミッション10内に給油される作動油の油量を調整するために設けられている。給油孔11から作動油を注入する際に、給油孔11から給油された作動油がドレン孔12から排出されたときに作動油の給油を停止すると、ドレン孔12の液位まで作動油が注入されることになる。これにより、トランスミッション10内への作動油の油量が設定される。ドレン孔12にはプラグがねじ止めされるようになっており、トランスミッション10内の作動油の液面を調整した後にはドレン孔12はプラグにより閉塞される。なお、トランスミッション10内の全ての作動油を排出するために、トランスミッションケース10aの底壁部には図示しない他のドレン孔が形成されており、そのドレン孔は作動油を排出するとき以外はプラグにより閉塞されるようになっている。
【0020】
トランスミッションケース10aの上部には息付き孔つまりブリーザ孔13が形成されている。このブリーザ孔13は車両走行時にトランスミッション10の温度変化によりトランスミッションケース10a内部の圧力が変化したときに、内部と外部との間で空気を移動させる。これにより、トランスミッションケース10a内の圧力を常に大気圧に維持することができる。
【0021】
図1はトランスミッション10が支持台14により支持された状態を示している。トランスミッション10はこれが車体に搭載されたときと同様に前端部が後端部よりも高くなるように傾斜した状態で支持台14に支持されている。図1にはトランスミッションケース10aに形成された給油孔11,ドレン孔12およびブリーザ孔13の位置が示されている。トランスミッション10が車両に搭載された状態のもとでは、図1に示されるように、給油孔11はドレン孔12よりも高い位置となり、ブリーザ孔13は車両走行時に車両が振動しても作動油が漏出しないようにトランスミッションケース10aの上部に設けられている。
【0022】
図1に示すように、トランスミッション10が組み立てられると、トランスミッション10の作動が検査される。その作動検査により、トランスミッション10内に組み込まれた油圧作動機器の検査が行われる。油圧作動機器としては、自動変速機を構成する油圧クラッチ等の摩擦係合要素および油圧ピストン等のように供給される油圧により作動する機器と、油圧回路を構成する流路切換弁や圧力調整弁等のように油圧を供給するための機器等がある。これらの油圧作動機器の検査つまり作動試験を行うには、供給される作動油の温度を検査温度T0にする必要がある。
【0023】
図2はトランスミッション10を検査温度にまで加熱するための加熱装置を示す概略図である。トランスミッション10を加熱するために、その中に供給される作動油Lを利用している。図2に示すように、加熱装置20は作動油Lを収容する主タンク21を有しており、主タンク21内には作動油Lを加熱温度T1にまで加熱するための加熱器22が設けられている。この加熱器22としては作動油Lを直接加熱する電熱線、あるいは加熱媒体が循環する熱交換器等が使用される。主タンク21内の作動油Lの加熱温度T1としては、検査温度T0よりも高い温度に設定される。例えば、油圧作動機器を検査する際のトランスミッション10の検査温度T0を40〜60℃とすると、主タンク21内における作動油Lの加熱温度T1は検査温度T0よりも高い温度である75〜85℃程度に設定される。
【0024】
主タンク21の流出口には作動油供給路23が接続されており、この作動油供給路23の先端部にはトランスミッションケース10aに形成された給油孔11に装着される図示しないアタッチメントが設けられている。トランスミッションケース10aのドレン孔12にはサブタンク24に設けられた作動油回収路25の先端部が装着されるようになっており、先端部にはドレン孔12に装着される図示しないアタッチメントが設けられている。サブタンク24と主タンク21との間には連通路26が接続されており、ドレン孔12からサブタンク24に戻された作動油Lは連通路26により主タンク21に戻されて加熱器22により加熱される。上述した作動油供給路23、作動油回収路25および連通路26は、ホースや配管等のように液体を案内する部材により形成されている。
【0025】
作動油供給路23には供給ポンプ27が設けられており、連通路26には戻しポンプ28が設けられている。したがって、主タンク21内で加熱器22により加熱温度T1にまで加熱された作動油Lは、供給ポンプ27によりトランスミッション10内に給油孔11から給油される。一方、ドレン孔12から排出される作動油Lはサブタンク24に供給された後、連通路26により主タンク21に戻される。なお、サブタンク24を用いることなく、ドレン孔12から流出した作動油Lを作動油回収路25から主タンク21に直接戻すようにしても良い。
【0026】
作動油供給路23の先端部と主タンク21との間にはバイパス路29が設けられており、作動油供給路23からトランスミッション10内に作動油を供給しない状態のもとで供給ポンプ27を作動させると、加熱された作動油Lによって作動油供給路23内を予熱することができる。作動油供給路23を予熱するのは、加熱装置20を立ち上げる際等のように、作動油供給路23の管路内が冷えた状態となっているときに行われる。バイパス路29には電磁式の流路開閉弁30が設けられており、この流路開閉弁30をオンさせると、バイパス路29が開放されて作動油供給路23に加熱された作動油Lを主タンク21にまで循環させることができる。
【0027】
この加熱装置20は、圧縮空気源31に接続された空気供給路32を有している。この空気供給路32の先端部はトランスミッションケース10aに形成されたブリーザ孔13に装着される図示しないアタッチメントが設けられている。この空気供給路32によりトランスミッションケース10a内には圧縮空気が供給される。トランスミッションケース10a内に圧縮空気を供給する状態と供給を停止する状態とに切り換えるために、空気供給路32には電磁式の流路開閉弁33が設けられている。
【0028】
トランスミッション10を支持する支持台14の近傍には、トランスミッション10内の入力軸を回転駆動するための電動モータ34が回転手段として配置されている。電動モータ34のスピンドルには入力軸をクランプするための締結具35が取り付けられており、電動モータ34により入力軸が回転されると、トランスミッション10内の動力伝達部材は車両走行時と同様に回転運動することになる。これにより、トランスミッション10内に供給された作動油Lは摺動面にまで供給されるとともに、内部に設けられたピストンや摩擦係合要素に作動油が供給される。
【0029】
トランスミッション10をその検査温度T0にまで加熱するために、トランスミッションケース10a内に給油孔11からは加熱された作動油Lが供給されるとともにブリーザ孔13からは圧縮空気が供給される。作動油Lの供給量を検出するために、作動油供給路23には流量センサつまり流量計36が設けられている。
【0030】
図2に示すように、加熱装置20はコントローラ37により自動的に制御される。コントローラ37からはそれぞれの流路開閉弁30,33のコイルに駆動信号が供給されるようになっており、コントローラ37からの信号により流路開閉弁30はバイパス路29を開閉し、流路開閉弁33は空気供給路32を開閉する。コントローラ37からは供給ポンプ27に駆動信号が送られるようになっており、コントローラ37からの信号により供給ポンプ27の駆動が制御される。コントローラ37からは電動モータ34に駆動信号が供給されるようになっており、コントローラ37からの信号により電動モータ34の駆動が制御される。流量計36からはコントローラ37に検出信号が送られるようになっており流量計36からの信号によりトランスミッションケース10a内に給油された作動油Lの量が演算される。作動油Lの給油量は、コントローラ37内に設けられたタイマー39により求められる給油時間と流量計36により検出される流速とにより演算される。
【0031】
戻しポンプ28もコントローラ37からの信号により駆動が制御されるようになっているが、サブタンク24内の作動油Lの液位に応じて自動的に戻しポンプ28をオンオフするようにしても良い。コントローラ37には操作盤38が接続されており、操作盤38に設けられたキーやスイッチにより加熱処理の開始指令等が入力される。
【0032】
図3はトランスミッションケース10a内に作動油Lと圧縮空気Aとを注入している状態を示す概略図である。トランスミッション10を加熱する時には、作動油供給路23により給油孔11から作動油Lを注入し、空気供給路32によりブリーザ孔13から圧縮空気Aを注入する。このときには、作動油Lはドレン孔12の通常排出流量Q0よりも多い給油流量Q1で給油する。通常排出流量Q0は、自重による排出流量であり、トランスミッションケース10a内が大気圧に設定された状態のもとでのドレン孔12の面積により設定される。例えば、通常排出流量Q0が1分当たり20リットルであるとすると、給油流量Q1を通常排出流量Q0の3倍程度の流量、つまり1分当たり60リットルに設定する。なお、ブリーザ孔13から供給される圧縮空気Aの圧力は、30kPa(0.03Mpa)程度に設定される。
【0033】
このように給油流量Q1を通常排出流量Q0よりも多い流量とすると、作動油Lはドレン孔12よりも上方に液位が上昇することになる。図3は作動油Lの液位がドレン孔12よりも高い位置となった状態を示している。このようにして、作動油Lがドレン孔12よりも高い液位となってドレン孔12が作動油Lにより塞がれると、ブリーザ孔13からトランスミッションケース10a内に供給された圧縮空気Aにより作動油Lの液面Sには、図3において矢印で示すように押し下げ力が加えられることになる。これにより、ドレン孔12からは通常排出流量Q0よりも多い流量で作動油Lが排出され、サブタンク24に案内される。
【0034】
圧縮空気により作動油Lが押し出されて液面Sがドレン孔12よりも下側に下がると、ドレン孔12から圧縮空気Aが排出されるので、トランスミッションケース10a内の圧力は大気圧にまで低下することになる。これにより、給油孔11から給油される作動油Lにより液面Sは再度上昇することになる。
【0035】
したがって、トランスミッションケース10a内にドレン孔12の通常排出流量Q0よりも多い量Q1で作動油Lを注入しても、作動油Lとともに注入される圧縮空気Aにより、ドレン孔12から作動油Lが外部に排出されるので、作動油Lはトランスミッションケース10a内でオーバーフローすることがない。しかも、作動油Lはドレン孔12の位置よりも高い位置となるまで供給されることになるので、多量の作動油Lがトランスミッション10に給油されることになる。さらに、作動油Lが給油した状態のもとで、トランスミッション10を構成する回転部材は電動モータ34により回転駆動されるので、作動油Lはトランスミッションケース10aの内部にまで確実にまわり込むことになる。これにより、トランスミッションケース10aは短時間で検査に必要となる検査温度T0まで加熱される。
【0036】
図4は上述した加熱装置20によるトランスミッション10の加熱処理の一例を示すタイムチャートである。トランスミッション10を加熱するには、図2に示すように、給油孔11に作動油供給路23を接続し、ブリーザ孔13に空気供給路32を接続し、次いで、ドレン孔12に作動油回収路25を接続する。さらに、トランスミッションの入力軸に電動モータ34の締結具35を締結する。主タンク21内の作動油Lの温度は、トランスミッション10の検査温度よりも高い温度である75〜85℃に設定される。
【0037】
この加熱装置20は、作動油回収路25の先端部をドレン孔12に装着すると、この先端部に設けられた図示しないセンサが装着完了を検知してコントローラ37に信号を送るようになっている。これにより、コントローラ37からは供給ポンプ27に対して駆動信号が出力され、トランスミッション10内に作動油Lが給油される。この初期給油は一定の初期給油時間P0に設定されており、この初期給油時間P0の間作動油Lを給油すると、トランスミッション10内に例えば0.5リットルの作動油Lが注入されることになる。なお、本発明の実施の形態では初期給油開始前にこの加熱装置とは別の装置によってトランスミッション10内に作動油がある程度給油されていることから初期給油量は0.5リットルとなっている。作動油Lが0.5リットル給油されたか否かは、流量計36からの信号に基づいて演算するようにしているが、タイマー39により給油時間を求めるようにしても良い。初期給油が完了したら、供給ポンプ27の作動が停止される。
【0038】
この状態のもとで、操作盤38に設けられたキーないしスイッチを作業者が操作して加熱処理が開始される。加熱処理が開始されると、図4に示すように、供給ポンプ27により作動油Lがトランスミッション10内に供給されるとともに流路開閉33がオンされて圧縮空気がトランスミッション10内に供給される。
【0039】
作業者が操作盤38を操作して加熱処理の開始を指令する前に、予め処理給油時間P0だけ作動油Lを給油するようにしているので、加熱装置20の準備が完了してから作業者が開始指令を操作するまでに時間がかかっても、加熱時間を短時間に設定することができる。したがって、作動油回収路25の装着完了から比較的早く加熱開始の操作が行われると、図4において破線で示した時間は省略される。
【0040】
作動油の供給と圧縮空気の供給が開始されてから回転開始遅延時間P1が経過したら電動モータ34によりトランスミッション10の入力軸をN1回転数で回転させる。N1回転数としては、例えば2000rpmが設定される。回転開始遅延時間P1は、作動油Lの給油量に基づいて設定される。例えば、トランスミッション10内の作動油Lの給油量が例えば約12リットルである場合には、その約3分の1の量である約4リットルの給油が終了するまで入力軸の回転を遅延させる。作動油Lが回転開始油量である4リットルとなったか否かは、流量計36からの信号に基づいて演算される。このように回転を遅延させると、トランスミッション10内のシール材や歯面間等に十分に作動油が供給された状態のもとで動力伝達機器を駆動させることができる。
【0041】
トランスミッション10内に作動油Lと圧縮空気Aとを供給すると、作動油Lの給油流量Q1を通常排出流量Q0よりも多い流量としても、トランスミッションケース10aから外部に作動油がオーバーフローするが防止される。つまり、上述のように、作動油Lの液位がドレン孔12よりも上方となると、圧縮空気Aにより急速にドレン孔12から排出されるので、作動油Lはドレン孔12の上方を上下に変位することになる。これにより、給油開始から30秒の加熱時間P2によりトランスミッション10を検査温度T0にまで加熱することができる。加熱時間P2が経過したら、入力軸の回転をN1回転からN2回転に低下させる。このN2回転数としては、700rpmに設定される。
【0042】
図4に示すように、作動油Lの供給を停止してから液位調整時間P3が経過したときに圧縮空気Aの供給を停止する。圧縮空気Aの供給停止を作動油Lの給油停止よりも液位調整時間P3だけ遅延させると、作動油Lの給油を停止させたときにドレン孔12よりも作動油Lの液位が高くなっていたとしても、作動油Lの給油量はドレン孔12の位置に設定されることになる。これにより、トランスミッション10は作動油Lが適正液位まで注入された状態となって製品化されて車両に搭載することができる。このように、トランスミッション10の組立を行う際に注入される作動油Lを利用してトランスミッション10を加熱することができ、検査温度まで加熱した状態のもとで所定の液位まで作動油Lが給油される。この状態のもとで、トランスミッション10の油圧作動機器の試験を行うことができる。
【0043】
図2に示す加熱装置20は、圧縮空気を利用してドレン孔12からの作動油Lの流出流量つまり流出速度を自重によることなく、圧縮空気を利用してドレン孔12から強制的に排出するようにしたので、多量の作動油Lをトランスミッション10内に供給することができ、短時間で多量の熱容量をトランスミッション10に伝達することができる。これにより、短時間でトランスミッション10を加熱することができ、トランスミッションの10を検査するまでの時間を大幅に短縮することができる。例えば、5〜10℃の温度となって保管されているトランスミッション10を、検査温度として検査状態の温度である40〜60℃にまで加熱するには、従来では2〜3分必要であったが、加熱装置20を使用すると、30秒で検査温度T0まで加熱することができた。このように従来に比して迅速にトランスミッション10を加熱することができると、検査効率を高めることができる。
【0044】
加熱装置20を用いた加熱処理方式としては、図4に示す加熱方式に代えて、トランスミッションケース10a内に注入された作動油Lの液面Sがブリーザ孔13に近い位置となったときにブリーザ孔13から圧縮空気Aを供給するようにしても良い。いずれの供給方式としても、自重による作動油の排出方式と相違して圧縮空気を利用して迅速に排出するようにしたので、加熱された作動油Lを多量にトランスミッション10内に循環供給することが可能となり、迅速にトランスミッション10を加熱することができる。
【0045】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、検査することができるトランスミッションとしては、内部に油圧作動機器が組み込まれるものであれば、自動変速機を有するタイプに限定されることはない。
【符号の説明】
【0046】
10 トランスミッション
10a トランスミッションケース
11 給油孔
12 ドレン孔
13 ブリーザ孔
20 加熱装置
21 主タンク
22 加熱器
23 作動油供給路
25 作動油回収路
27 供給ポンプ
31 圧縮空気源
32 空気供給路
33 流路開閉弁
34 電動モータ
37 コントローラ(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッションケース内にトランスミッション構成部材が組み込まれたトランスミッションの作動検査を行う際に前記トランスミッションの温度を検査温度に加熱するトランスミッションの加熱方法であって、
前記トランスミッションケースに設けられたドレン孔からの排出流量よりも多い給油流量でありかつ前記検査温度よりも高い温度の作動油を、前記ドレン孔よりも高い位置に設けられた給油孔から前記トランスミッションケース内に供給し、
前記トランスミッションケース内に圧縮空気を供給することにより、作動油が前記ドレン孔よりも高い液位となって前記ドレン孔を塞いだときに作動油を強制的に前記ドレン孔から排出し、
前記トランスミッションケース内に組み込まれた回転部材を回転駆動した状態のもとで、作動油を前記ドレン孔よりも高い液位への上昇と圧縮空気による作動油の排出とを繰り返してトランスミッションを加熱することを特徴とするトランスミッションの加熱方法。
【請求項2】
請求項1記載のトランスミッションの加熱方法において、前記トランスミッションケースの上部に設けられたブリーザ孔を介してトランスミッション内に前記圧縮空気を供給することを特徴とするトランスミッションの加熱方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のトランスミッションの加熱方法において、加熱開始時には前記トランスミッションケース内への作動油の供給を開始し圧縮空気の供給を開始してから回転開始遅延時間が経過した後に前記回転部材を回転駆動し、加熱終了時には作動油の供給を停止し圧縮空気の供給を停止してから回転停止遅延時間が経過した後に前記回転部材の回転を停止することを特徴とするトランスミッションの加熱方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスミッションの加熱方法において、加熱終了時には作動油の供給を停止してから液位調整時間が経過した後に圧縮空気の供給を停止することを特徴とするトランスミッションの加熱方法。
【請求項5】
トランスミッションケース内にトランスミッション構成部材が組み込まれたトランスミッションの作動検査を行う際に前記トランスミッションの温度を検査温度に加熱するトランスミッションの加熱装置であって、
前記トランスミッションケースに設けられたドレン孔からの排出流量よりも多い給油流量でありかつ前記検査温度よりも高い温度の作動油を、前記ドレン孔よりも高い位置に設けられた給油孔から前記トランスミッションケース内に供給する作動油供給手段と、
作動油が前記ドレン孔よりも高い液位となって前記ドレン孔を塞いだときに作動油を前記ドレン孔から強制的に排出する圧縮空気を、前記トランスミッションケース内に供給する空気供給手段と、
前記トランスミッションケース内に組み込まれた回転部材を回転駆動する回転手段とを有し、
前記回転部材を回転させた状態のもとで作動油を前記ドレン孔よりも高い液位への供給と圧縮空気による作動油の排出とを繰り返してトランスミッションを加熱することを特徴とするトランスミッションの加熱装置。
【請求項6】
請求項5記載のトランスミッションの加熱装置において、前記トランスミッションケースの上部に設けられたブリーザ孔を介してトランスミッション内に前記圧縮空気を供給することを特徴とするトランスミッションの加熱装置。
【請求項7】
請求項5または6記載のトランスミッションの加熱装置において、前記作動油供給手段は、収容した作動油を加熱するヒータが設けられた油収容タンクと、当該油収容タンク内の作動油を前記給油孔に案内する油供給管に設けられた油圧ポンプと、空気圧供給源からの圧縮空気を前記トランスミッションケース内に供給する空気供給管に設けられた流路開閉弁と、前記油圧ポンプおよび前記流路開閉弁の作動を制御する制御手段を有することを特徴とするトランスミッションの加熱装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載のトランスミッションの加熱装置において、前記回転手段は電動モータであることを特徴とするトランスミッションの加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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