説明

トルエン検出センサシステム及びトルエンの検出方法

【課題】トルエンが空気中に存在することを高感度かつ簡便に検出することができるトルエン測定システム及びトルエンの検出方法を提供する。
【解決手段】トルエン検出用センサシステムは、トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用い、一定濃度の前記酵素の基質を含む反応槽内で酵素反応を実施し、前記酵素反応の阻害活性を検出する手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルエン検出センサシステム及びトルエンの検出方法に関し、特には、高感度かつ簡便にトルエンを検出することができる、トルエン検出センサシステム及びトルエンの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トルエンは、従来よりインクを溶解するための溶媒として、また、床材として用いられるエポキシ系樹脂の溶剤として用いられてきた。最近、建築物から放散するトルエン等の揮発性物質がシックハウスやシックスクールの原因物質とされており、建築現場や、トルエンを用いる工場等ではトルエンの使用が問題視されるようになってきている。特に、近年における住宅の高気密化に伴い、住居内において、空気中に揮発性物質であるトルエンが長期にわたり存在する可能性もあり、問題となっている。
また、トルエンは農薬を溶解するための溶媒として用いられる場合もある。従って、トルエンを溶媒として用いた農薬が散布された野菜等にはトルエンが残留している可能性がある。
【0003】
更に、トルエンは、PRTR法の指定物質や厚生労働省指針値指定VOC(揮発性有機化合物)に含まれ、建築業者や、居住者、また野菜を食する人への健康上の配慮や、物質の使用量及び排出量を管理し、建築物における定期的な室内濃度測定管理をする必要がある。また、野菜を商店やスーパーで販売する場合にも、トルエンが残留していないかを調べる必要がある。
【0004】
しかしながら、低濃度のトルエンが空気中に存在することを高感度に検知することができる装置は存在せず、低濃度のトルエンを検出することのできる装置が望まれており、例えば、特許文献1には、揮発性有機化合物であるトルエン等を検出するガス検出装置が開示されている。しかしながら、更に感度の優れたトルエン検出システムが望まれている。
一方、本発明者らは、酵素を固定化した膜を用いることにより、特定の物質を測定することのできることのできるバイオセンサを開示している(例えば、特許文献2)。このようなバイオセンサによれば、特定の物質の測定をすることが可能であるが、トルエンの測定に用いることのできるものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2007−271636号公報
【特許文献2】特開2003−250516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、上記の事情に鑑みて、ppmの低濃度のレベルで存在するトルエンが空気中に存在することを高感度かつ簡便に検出することができるトルエン測定システム及びトルエンの検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用いることにより、上記目的を達成し得るという知見を得た。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用い、一定濃度の前記酵素の基質を含む反応槽内で酵素反応を実施し、前記酵素反応の阻害活性を検出する手段を有することを特徴とする、トルエン検出用センサシステムを提供するものである。
前記酵素としてはブチリルコリンエステラーゼが挙げられ、その場合の基質としてはブチリルコリンが挙げられる。
前記感応膜は、前記酵素の酵素反応の生成物であるコリンと酸素の存在下に反応する酵素を更に含むものであってもよい。
前記酵素反応の阻害活性を検出する手段としては、消費される酸素量の変化を検出する手段が挙げられる。
【0009】
また、本発明は、トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用い、一定濃度の前記酵素の基質を含む反応槽内で酵素反応を実施し、前記酵素反応の阻害活性を検出することを特徴とする、トルエンの検出方法を提供する。
前記酵素としてはブチリルコリンエステラーゼが挙げられ、その場合の基質としてはブチリルコリンが挙げられる。
前記感応膜は、前記酵素の酵素反応の生成物であるコリンと酸素の存在下に反応する酵素を更に含むものであってもよい。
消費される酸素量の変化を検出することにより、酵素反応の阻害活性を検出することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高感度かつ簡便にトルエンを検出することができる、トルエン検出センサシステムが得られる。また、本発明のトルエンの検出方法は、高感度かつ簡便にトルエンを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のトルエン検出用センサシステムは、トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用い、一定濃度の前記酵素の基質を含む反応槽内で酵素反応を実施し、前記酵素反応の阻害活性を検出する手段を有する。
本発明において用いられる、トルエンによって活性が阻害される酵素とは、例えばブチリルコリンエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ等が挙げられるが、これらに限定されず、トルエンによって活性が阻害される酵素であればあらゆるものが使用可能である。
【0012】
本発明のトルエン検出用センサシステムにおいては、上記のトルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用いる。本発明のトルエン検出用センサシステムにおいて用いられる膜としては、通常は透析膜が用いられる。透析膜としては、通常に市販されているものが何ら制限なく用いられる。通常は膜厚が15μm程度のものが用いられるが、膜厚が15μm程度のものに限定されない。本発明において用いられる感応膜の製造方法としては特に制限はなくどのような方法を用いてもよい。例えば、光架橋性樹脂による包括法、架橋法、吸着法等が挙げられる。その中でも、光架橋性樹脂による包括法が一般的に用いられる。以下、光架橋製樹脂による包括法について説明する。本発明のトルエン検出用センサシステムにおいて用いられる感応膜を作成するのに用いられる光架橋性樹脂としては、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等が挙げられ、ポリビニルアルコールにSbQの光感応基を組み合わせた、PVA−SbQ、SPP−H−13(Bio)、東洋合成工業(株)製等を用いることができる。酵素及び光架橋性樹脂を適当な緩衝液(例えば例えば、リン酸緩衝液)に溶解した後、透析膜に塗布、含浸させ、上記光架橋性樹脂を架橋させることにより、酵素が固定化された担体、すなわち感応膜が得られる。
【0013】
感応膜の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明のトルエン検出センサシステムにおいて用いられる、感応膜の製造方法を概略的に示す図である。
まず、透析膜10に、光架橋性樹脂、酵素を含む混合溶液12を塗布する。混合溶液の作成のための溶媒としては、例えばリン酸緩衝液が用いられる。この混合溶液中の酵素及び光架橋性樹脂の濃度に特に制限はないが、通常は、酵素を、透析膜1cmあたり50ユニット程度、光架橋性樹脂を、透析膜1cmあたり1μL(濃度:10重量%)程度用いることが好ましい。次いで、混合溶液12を塗布した透析膜10を冷暗所(0〜10℃程度の温度)に静置して乾燥させる。乾燥時間は特に制限はないが、通常、30分〜2時間程度である。次いで、透析膜により、蛍光灯14により蛍光灯照射を行い、光架橋を行い、酵素が固定化された感応膜が得られる。蛍光灯照射の時間は、特に制限はないが、通常、15分〜1時間程度である。
【0014】
本発明のトルエン検出用センサシステムにおいては、上述した感応膜を用い、一定濃度の前記酵素の基質を含む反応槽内で酵素反応を実施する。ここで用いられる基質は、前述した、トルエンによって活性が阻害される酵素の基質となる化合物を意味するものであり、前記酵素がブチリルコリンエステラーゼの場合、基質はブチリルコリンである。本発明のトルエン検出用センサシステムにおいては、トルエンが存在する場合に前記酵素が阻害され、酵素反応生成物の生成量が減少することを検出するものである。従って、一定濃度の基質を含む環境下で酵素反応を実施する必要がある。一定濃度の基質を含む環境下であれば酵素反応によって生成される化合物の濃度は一定となり、阻害効果を検出しやすくなる。
【0015】
本発明のトルエン検出用センサシステムにおいては、前記酵素反応の阻害活性を検出する手段を有する。この酵素反応の阻害活性を検出する手段としては特に制限はなく、前記酵素反応の阻害活性を検出できる手段であればどのような手段であってよい。前記酵素反応の阻害活性を検出する手段としては、消費される酸素量の変化を検出する手段が挙げられる。
このような手段としては、例えば、トルエンによって活性が阻害される酵素としてブチリルコリンエステラーゼを用いる場合について説明する。
【0016】
ブチリルコリンエステラーゼがブチリルコリンを分解して生成するコリンを、例えばコリンオキシダーゼと反応させることにより、生成物であるコリンがベタインになる反応を感応膜上で同時に実施させる。この時、コリンは水及び酸素の存在下にコリンオキシダーゼによって酸化されてベタインが生成する。コリンオキシダーゼによる酸化反応に伴い、酸素が消費されるので、この酸素消費量を検出することによって、ブチリルコリンエステラーゼの反応が起こったことがわかる。すなわち、トルエンによってブチリンコリンエステラーゼの活性が阻害された場合、酸素消費量が減少するので、トルエンが存在しない場合の酸素消費量と比較することにより、空気中にトルエンが存在するか否かを検出することが可能となる。従って、前記感応膜には、前述したブチリルコリンエステラーゼに加え、コリンオキシダーゼを固定させておく必要がある。
【0017】
酸素の消費量を検出する方法としては、例えば、酸素電極(例えば、クラーク型酸素電極)を用いることにより実施することができる。従って、本発明のトルエン検出用センサシステムにおいては、感応膜を酸素電極の先端に密着させることが好ましい。すなわち、本発明のトルエン検出用センサシステムは、トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜が先端に密着されてなる酸素電極(クラーク型酸素電極)を用いることが好ましい。
【0018】
本発明のトルエン検出用センサシステムにおいて用いられる酸素電極について図1を参照しつつ説明する。本発明のトルエン検出用センサシステムにおいて用いられる酸素電極は、図1に示すように、クラーク型酸素電極22と、感応膜16と、網目ネット18と、止め輪20とから構成されている。網目ネット18は、感応膜16をクラーク型酸素電極22に密着させる作用を有する。また、止め輪20は感応膜を固定させる作用を有しており、このリング13の材質については特に制限はなく、酵素固定化膜12を光ファイバー11に固定できるものであればどのような材質のものを用いてもよい。リング13としては、例えばシリコン製のものを用いることができる。
【0019】
クラーク型酸素電極とは、電解液(塩化カリウム溶液等)を含む円筒の容器の中に作用電極(白金)と対極(銀)とが備えられ、円筒の一端がガス透過性膜(隔膜)にて外部と隔てられ、外部より流入する酸素分子を2電極での電気化学反応にて検出し、一定の電位(−600mV vs.Ag)を2電極間に印加して、電気化学反応に伴う電流値の変化として酸素を測定することができるものである。
【0020】
本発明のトルエン検出用センサシステムの原理について以下に説明する。本発明は、下記に示す2種類の酵素反応に基づく。式(1)は、ブチリルコリンエステラーゼの反応であり、ブチリルコリンエステラーゼがブチリルコリンをコリンと酪酸に分解する。式(2)は、式(1)における反応生成物コリンが、酸素の存在下、コリンオキシダーゼによりベタインに分解される反応である。ここで、式(1)の反応を触媒する酵素であるブチリルコリンエステラーゼはトルエンによって、その活性が阻害されるので、トルエンの存在下ではコリンの生成が減少又は消失する。コリンの生成量が減少又は消失することにより、式(2)の反応の基質であるコリンの量が減少又は消失するため、反応(2)において消費される酸素量が減少することから、コリンの生成量を測定することが可能となる。
ブチリルコリン → コリン + 酪酸 (1)
コリン + 2O + HO → ベタイン + 過酸化水素(2)
【0021】
従って、コントロール(飽和酸素状態)の測定値と比較し、酸素消費量が減少している場合には、ブチリルコリンエステラーゼが阻害されていることがわかり、従って、トルエンが存在していることがわかる。本発明のトルエン検出用センサシステムは、酸素の消費量を測定することが特徴であり、従って、飽和酸素状態で実施することが好ましい。また、基質(ブチリルコリン)濃度を一定濃度にする必要がある。このため、本発明のトルエン検出用センサシステムにおいては、一定濃度の基質を含み、酸素を飽和させた緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)を循環させながら測定を行うことが好ましい。
【0022】
次に、本発明のトルエンの検出方法について説明する。
本発明のトルエンの検出方法は、トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用い、一定濃度の前記酵素の基質を含む反応槽内で酵素反応を実施し、前記酵素反応の阻害活性を検出することを特徴とする。本発明のトルエンの検出方法は、上述した、本発明のトルエン検出用センサシステムを用いて実施することができる。
【0023】
本発明のトルエン検出用センサシステムを用いて、トルエンを検出する方法、すなわち、本発明のトルエンの検出方法について、図面を参照しつつ説明する。図2は、本発明のトルエン検出用センサシステムを用いてトルエンを検出する方法の概略図である。図2においては、トルエン検出用センサ30の先端が測定用試料室32に挿入されており、緩衝液貯蔵タンク36とポンプ34とが、測定用試料室32とが流路38によって連結されている。緩衝液貯蔵タンク36には、基質であるブチリルコリンが溶解したリン酸緩衝液が貯蔵されており、また、このリン酸緩衝液は飽和酸素状態で存在する。ポンプ34により、緩衝液貯蔵タンク36内の基質が溶解した緩衝液がくみ上げられ、基質が溶解した緩衝液は測定用試料室32内に入り、測定用試料室32内に挿入されているトルエン検出用センサシステム30の先端と接触するようになっている。
【0024】
トルエン検出用センサ30の先端には、ブチリルコリンエステラーゼ及びコリンオキシダーゼが固定化されており、この測定用資料室32内で、上述した反応(1)及び(2)が起こる。従って、トルエンが存在しない場合においては、緩衝液中の酸素が消費され、トルエンが存在する場合には、酸素の消費量が減少するので、この酸素消費量を、トルエン検出用センサ30を構成する酸素電極により測定し、測定用試料室32内で起こっている酵素反応を検出する。
図2においては、注射器40を用いて、試料皿39内にトルエンを滴下し、滴下したトルエン量による、酸素消費量の測定実験を行うようになっている。また、この場合の測定室内には、ファン42が備えられており、環境中のトルエン濃度が一定になるようになっている。
【0025】
図2においては、トルエン検出用センサ30には、ポテンシオスタット等の電流測定器44が接続されており、トルエン検出用センサ30を構成する酸素電極からの信号を受信する。次いで、電流測定器44に入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ46と、該A/Dコンバータ46からの信号にて酸素電極からの情報をコンピュータ48に送信し、かかるコンピュータ48によりデータを解析することができる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
実施例1
感応膜(酵素固定化膜)の製造
ブチリルコリンエステラーゼ(2.1units)、コリンオキシダーゼ(1.6units)及びPVA−SbQ(100mg)をリン酸緩衝液(0.1mL)に溶解し、透析膜(孔径:24オングストローム、膜厚:15μm、テクニコン社製)に塗布し、次いで、この透析膜を冷暗所にて1時間乾燥させた後、30分間蛍光灯を照射し、光架橋法により酵素を包括固定化し、感応膜(酵素固定化膜)を得た。
得られた感応膜を、酸素電極の先端部に密着させ、ナイロン製の網目ネットを接着させ、次いでシリコンチューブリングを用いて装着させ、本発明のトルエン検出用センサを得た。用いた酸素電極は、エイブル(株)製のBO型溶存酸素電極である。
【0027】
実施例2
ブチリルコリンの測定
図1に示す装置を用いて、種々の濃度のブチリルコリン溶液の滴下に伴う酸素消費を測定した。50mlビーカー中に満たした50mlのリン酸緩衝液にセンサ感応部を浸漬し、1分間の出力安定を確認した。その後最終濃度が50,100,250,500,750,1000,1250μMとなるようブチリルコリンを滴下し、6分後までのセンサ出力を測定した。結果を図3に示す。図3において、横軸は時間(分)を表わし、縦軸はセンサ出力を表わす。なお、センサ出力としては、酸素飽和状態のセンサ出力との差の絶対値で表わす。図3から明らかなように、ブチリルコリンの濃度に応じたセンサ出力が得られることが分かった。
【0028】
実施例3
次に、ブチリルコリン濃度が600μMの緩衝液を用い、同様に測定を行い、測定開始6分後に、トルエン・メタノール溶液を0.5mL滴下した。この時のビーカー中のトルエン濃度は500μMである。結果を図4に示す。図4において、横軸は時間(分)を表わし、縦軸はセンサ出力を表わす。図4から明らかなように、トルエンが存在することにより、酸素消費量が減少することがわかった。酸素消費量の減少は、コリンオキシダーゼの基質であるコリンの量が減少することの結果である。これは、ブチリルコリンエステラーゼによってブチリルコリンの分解量が減少すること、すなわち、ブチリルコリンエステラーゼの阻害が検出できることを意味する。これらより、本発明のトルエン検出用センサシステムは、ブチリルコリンエステラーゼの活性を阻害する物質、すなわちトルエンの検出に用いることができることがわかった。
【0029】
このトルエン検出用センサを用い、図2に示すトルエン計測系を構築した。トルエン検出用センサ30を測定用試料室32に挿入し、緩衝液貯蔵タンク36には、ブチリルコリンが溶解したリン酸緩衝液が貯蔵されており、このリン酸緩衝液には酸素が飽和状態で溶解している。ポンプ34を稼働させることにより、緩衝液が流路38を流れ、緩衝液は測定用試料室32に入り、トルエン検出用センサ30の先端と接触する。ポンプ34により、緩衝液の流速を変えることができ、本実施例においては、1.0ml/分の速度で緩衝液を流す。トルエン濃度は、注射器40から試料皿39にトルエンを滴下する量を変えることによって調整することができる。トルエン検出用センサ30を構成する酸素電極により、測定用試料室32内を流れる緩衝液中の酸素濃度を測定し、その情報が電流測定器44に送られ、次いで、電流測定器44に入力されたアナログ信号が、A/Dコンバータ46によってデジタル信号に変換され、かかるデジタル信号がコンピュータ48に送られデータが解析される。
【0030】
実施例4
図2に示すトルエン計測系を用いてトルエンガスの計測を行なった。注射器40よりトルエンを、それぞれ、0.22、5.54、11.07μL、試料皿39へ滴下し、環境中のトルエン濃度を5、25及び50ppmとなるようにした。測定の結果を図5に示す。図5において、横軸は時間(分)を表わし、縦軸はセンサ出力を表わす。なお、センサ出力としては、酸素飽和状態でトルエンが存在しない場合のセンサ出力との差として表わす。図5から明らかなように、トルエン濃度が上昇すると、センサ出力は飽和酸素状態のセンサ出力との差が大きくなることがわかった。これは、酸素消費量が減少することを意味し、すなわち、トルエン濃度が上昇すると酸素消費量が減少することがわかった。このデータに従い、検量線を作成したのが図6のグラフである。図6において、横軸はトルエン濃度の対数、縦軸はセンサ出力であり、酸素飽和状態でトルエンが存在しない場合のセンサ出力との差で表わす。図6より、トルエン濃度が5〜100ppmの範囲ではセンサ出力が直線を示すことがわかった。
なお、図6に示す検量線は以下の式によって表され、相関係数は0.997であった。
センサ出力=−0.026+0.046log〔トルエン濃度(ppm)〕
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のトルエン検出センサシステムにおいて用いられる、感応膜の製造方法を概略的に示す図である。
【図2】本発明のトルエン検出用センサシステムを用いてトルエンを検出する方法の概略図である。
【図3】種々の濃度のブチリルコリンの測定を行った結果を示すグラフである。
【図4】トルエンの測定を行った結果を示すグラフである。
【図5】トルエンガスの測定を行った結果を示すグラフである。
【図6】検量線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
10 透析膜 12 混合溶液
14 蛍光灯 16 感応膜
18 網目ネット 20 止め輪
22 クラーク型酸素電極 30 トルエン検出用センサ
32 測定用試料室 34 ポンプ
36 緩衝液貯蔵タンク 38 流路
39 試料皿 40 注射器
42 ファン 44 電流測定器
46 A/Dコンバータ 48 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用い、一定濃度の前記酵素の基質を含む反応槽内で酵素反応を実施し、前記酵素反応の阻害活性を検出する手段を有することを特徴とする、トルエン検出用センサシステム。
【請求項2】
前記酵素がブチリルコリンエステラーゼであり、前記基質がブチリルコリンである、請求項1記載のトルエン検出用センサシステム。
【請求項3】
前記感応膜が、前記酵素の酵素反応の生成物であるコリンと酸素の存在下に反応する酵素を更に含んでなる、請求項2記載のトルエン検出用センサシステム。
【請求項4】
前記酵素反応の阻害活性を検出する手段が、消費される酸素量の変化を検出する手段である、請求項1〜3のいずれか1項記載のトルエン検出用センサシステム。
【請求項5】
トルエンによって活性が阻害される酵素が固定化された感応膜を用い、一定濃度の前記酵素の基質を含む反応槽内で酵素反応を実施し、前記酵素反応の阻害活性を検出することを特徴とする、トルエンの検出方法。
【請求項6】
前記酵素がブチリルコリンエステラーゼであり、前記基質がブチリルコリンである、請求項5記載のトルエンの検出方法。
【請求項7】
前記感応膜が、前記酵素の酵素反応の生成物であるコリンと酸素の存在下に反応する酵素を更に含んでなる、請求項6記載のトルエンの検出方法。
【請求項8】
消費される酸素量の変化を検出することにより、酵素反応の阻害活性を検出する、請求項6〜8のいずれか1項記載のトルエンの検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−273394(P2009−273394A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127030(P2008−127030)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】